(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04044 20160101AFI20221213BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221213BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20221213BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20221213BHJP
H01M 8/04225 20160101ALI20221213BHJP
H01M 8/04302 20160101ALI20221213BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20221213BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20221213BHJP
B60L 50/70 20190101ALN20221213BHJP
B60L 58/31 20190101ALN20221213BHJP
B60L 58/33 20190101ALN20221213BHJP
【FI】
H01M8/04044
H01M8/10 101
H01M8/12 101
H01M8/04 J
H01M8/04225
H01M8/04302
H01M8/04537
H01M8/00 Z
B60L50/70
B60L58/31
B60L58/33
(21)【出願番号】P 2019131753
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山上 慶大
(72)【発明者】
【氏名】岡本 陽平
(72)【発明者】
【氏名】今西 啓之
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-130476(JP,A)
【文献】特開2003-123813(JP,A)
【文献】特開2010-192141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04044
H01M 8/10
H01M 8/12
H01M 8/04
H01M 8/04225
H01M 8/04302
H01M 8/04537
H01M 8/00
B60L 50/70
B60L 58/31
B60L 58/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池を冷却する冷媒が流れ
、ラジエータが設けられた第1冷媒回路と、
前記第1冷媒回路に設けられて、前記第1冷媒回路を流れる前記冷媒中のイオンを除去するイオン交換器と、
前記第1冷媒回路に接続可能であり、前記第1冷媒回路に比べて、冷媒の流れの停止中における冷媒中の平均イオン濃度が低い第2冷媒回路と、
前記第2冷媒回路を経由した前記冷媒が前記第1冷媒回路に流入する流通状態と、前記第2冷媒回路から前記第1冷媒回路への前記冷媒の流入が、前記流通状態よりも抑制された流通抑制状態と、を切り替える切替弁と、
前記流通状態のときに、前記第2冷媒回路内の前記冷媒を前記第1冷媒回路に流入させるポンプと、
前記燃料電池システムが停止してから前記燃料電池システムの始動の指示が入力されるまでの間の停止期間が、予め定めた基準期間を超えているときには、前記始動の指示の入力の後に、前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動する制御部と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記第1冷媒回路の冷媒を含む絶縁経路によってグラウンドから絶縁された前記燃料電池の絶縁抵抗を検出する絶縁抵抗検出部を備え、
前記制御部は、前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動した後に、前記絶縁抵抗検出部が検出した前記絶縁抵抗が、予め定めた第1基準値を上回ったときに、前記切替弁を前記流通抑制状態に切り替える
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動して、前記第2冷媒回路から前記第1冷媒回路への前記冷媒の流入が開始された後に、前記第2冷媒回路を流れた前記冷媒の流量の積算値を導出する流量導出部を備え、
前記制御部は、前記流量導出部が導出した前記冷媒の流量の積算値が、予め定めた第2基準値を上回ったときに、前記切替弁を前記流通抑制状態に切り替える
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記第1冷媒回路内の冷媒の導電率を測定する導電率センサ、または、前記第1冷媒回路内の冷媒のイオン濃度を測定するイオン濃度センサを備え、
前記制御部は、前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動した後に、前記導電率センサが測定した前記導電率、または、前記イオン濃度センサが測定した前記イオン濃度が、前記導電率および前記イオン濃度の各々に応じて予め定めた第3基準値を下回ったときに、前記切替弁を前記流通抑制状態に切り替える
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記停止期間が前記基準期間以下のときには、前記始動の指示の入力の後に、前記切替弁を前記流通抑制状態に設定する
燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記第2冷媒回路は、該第2冷媒回路内の前記冷媒の熱を用いて暖房を行なう空調回路である
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムとして、燃料電池の内部に冷却水流路を設け、燃料電池とラジエータとの間で冷却液を循環させることにより燃料電池を冷却するシステムが知られている。このような燃料電池システムでは、ラジエータや冷却液配管からイオンが溶出することにより、冷却液の導電率が上昇する可能性がある。そのため、従来は、例えば特許文献1に記載されているように、冷却液配管にイオン交換器を設けて冷却液中に存在するイオンを除去することにより、冷却液中の導電率が低下させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、冷却液配管に設けたイオン交換器を用いて冷却液中のイオンを除去するためには、冷却液配管内で冷却液を循環させる必要がある。そのため、燃料電池システムの停止中であって、冷却液配管内を冷却液が循環しないときには、ラジエータや冷却液配管から溶出したイオンをイオン交換器によって除去することができず、冷却液の導電率が望ましくない程度に上昇する可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の第1の形態の燃料電池システムは、燃料電池と、前記燃料電池を冷却する冷媒が流れ、ラジエータが設けられた第1冷媒回路と、前記第1冷媒回路に設けられて、前記第1冷媒回路を流れる前記冷媒中のイオンを除去するイオン交換器と、前記第1冷媒回路に接続可能であり、前記第1冷媒回路に比べて、冷媒の流れの停止中における冷媒中の平均イオン濃度が低い第2冷媒回路と、前記第2冷媒回路を経由した前記冷媒が前記第1冷媒回路に流入する流通状態と、前記第2冷媒回路から前記第1冷媒回路への前記冷媒の流入が、前記流通状態よりも抑制された流通抑制状態と、を切り替える切替弁と、前記流通状態のときに、前記第2冷媒回路内の前記冷媒を前記第1冷媒回路に流入させるポンプと、前記燃料電池システムが停止してから前記燃料電池システムの始動の指示が入力されるまでの間の停止期間が、予め定めた基準期間を超えているときには、前記始動の指示の入力の後に、前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動する制御部と、を備える。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。燃料電池システムは、燃料電池と、前記燃料電池を冷却する冷媒が流れる第1冷媒回路と、前記第1冷媒回路に設けられて、前記第1冷媒回路を流れる前記冷媒中のイオンを除去するイオン交換器と、前記第1冷媒回路に接続可能であり、前記第1冷媒回路に比べて、冷媒の流れの停止中における冷媒中の平均イオン濃度が低い第2冷媒回路と、前記第2冷媒回路を経由した前記冷媒が前記第1冷媒回路に流入する流通状態と、前記第2冷媒回路から前記第1冷媒回路への前記冷媒の流入が、前記流通状態よりも抑制された流通抑制状態と、を切り替える切替弁と、前記流通状態のときに、前記第2冷媒回路内の前記冷媒を前記第1冷媒回路に流入させるポンプと、前記燃料電池システムが停止してから前記燃料電池システムの始動の指示が入力されるまでの間の停止期間が、予め定めた基準期間を超えているときには、前記始動の指示の入力の後に、前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動する制御部と、を備える。この形態の燃料電池システムによれば、燃料電池システムの停止期間が基準期間を超えるときには、燃料電池システムの始動の指示入力の後に、第2冷媒回路内の冷媒が第1冷媒回路に流入される。そのため、燃料電池システムの停止期間が基準期間よりも長いことにより、第1冷媒回路内の冷媒にイオンが溶出して冷媒のイオン濃度が高まる場合であっても、燃料電池システムの始動時に、第1冷媒回路内の冷媒のイオン濃度を、より速やかに低下させることができる。その結果、第1冷媒回路の冷媒の導電率を低下させることができる。
(2)上記形態の燃料電池システムは、さらに、前記第1冷媒回路の冷媒を含む絶縁経路によってグラウンドから絶縁された前記燃料電池の絶縁抵抗を検出する絶縁抵抗検出部を備え、前記制御部は、前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動した後に、前記絶縁抵抗検出部が検出した前記絶縁抵抗が、予め定めた第1基準値を上回ったときに、前記切替弁を前記流通抑制状態に切り替えることとしてもよい。この形態の燃料電池システムによれば、第1冷媒回路の冷媒を含む絶縁経路によってグラウンドから絶縁された燃料電池の絶縁抵抗は、主として第1冷媒回路の冷媒の導電率によって変化するため、第1冷媒回路の冷媒の導電率が第1基準値に対応する値に低下するまで「流通状態」が維持される。その結果、第1冷媒回路における導電率が、絶縁抵抗に係る第1基準値に対応する値以上となっている状態で燃料電池が発電することを抑えることができる。
(3)上記形態の燃料電池システムは、さらに、前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動して、前記第2冷媒回路から前記第1冷媒回路への前記冷媒の流入が開始された後に、前記第2冷媒回路を流れた前記冷媒の流量の積算値を導出する流量導出部を備え、前記制御部は、前記流量導出部が導出した前記冷媒の流量の積算値が、予め定めた第2基準値を上回ったときに、前記切替弁を前記流通抑制状態に切り替えることとしてもよい。この形態の燃料電池システムによれば、切替弁を流通抑制状態に切り替えた後には、第2冷媒回路内の冷媒は第1冷媒回路に流入してイオン交換器を通過することがなく、イオン交換器内を流れ得る冷媒の量が削減される。すなわち、イオン交換器によるイオン濃度低減の対象となる冷媒量が削減される。その結果、第1冷媒回路内の冷媒の導電率を、イオン交換器を用いて、より速やかに低下させることができる。
(4)上記形態の燃料電池システムは、さらに、前記第1冷媒回路内の冷媒の導電率を測定する導電率センサ、または、前記第1冷媒回路内の冷媒のイオン濃度を測定するイオン濃度センサを備え、前記制御部は、前記切替弁が前記流通状態に切り替えられた状態で前記ポンプを駆動した後に、前記導電率センサが測定した前記導電率、または、前記イオン濃度センサが測定した前記イオン濃度が、前記導電率および前記イオン濃度の各々に応じて予め定めた第3基準値を下回ったときに、前記切替弁を前記流通抑制状態に切り替えることとしてもよい。この形態の燃料電池システムによれば、第1冷媒回路内の冷媒の導電率またはイオン濃度が第3基準値に低下するまで「流通状態」を維持することにより、第1冷媒回路における導電率が高い状態で燃料電池が発電することを抑えることができる。
(5)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記停止期間が前記基準期間以下のときには、前記始動の指示の入力の後に、前記切替弁を前記流通抑制状態に設定することとしてもよい。この形態の燃料電池システムによれば、停止期間が基準期間以下のときには、始動の指示の入力の後に、第1冷媒回路に影響されることなく第2冷媒回路を用いることができる。
(6)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記第2冷媒回路は、該第2冷媒回路内の前記冷媒の熱を用いて暖房を行なう空調回路であることとしてもよい。このような構成とすれば、空調回路の冷媒を用いて、燃料電池システムの始動時に、燃料電池を冷却するための冷媒の導電率を低下させることができる。
本発明は、上記以外の種々の形態で実現することも可能であり、例えば、燃料電池システムの制御方法、燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】燃料電池システムの概略構成を模式的に示す説明図である。
【
図2】燃料電池システムの絶縁抵抗検出部を表わす説明図である。
【
図3】始動時制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【
図4】始動時制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【
図5】第1冷媒回路内の冷媒の導電率が低下する様子を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
(A-1)燃料電池車両の全体構成:
図1は、本発明の第1の実施形態としての燃料電池システム15の概略構成を模式的に示す説明図である。燃料電池システム15は、燃料電池600と、燃料ガス供給系200と、酸化ガス供給系300と、排ガス系400と、冷却系500と、空調系700と、絶縁抵抗検出部91と、制御部900と、を備える。本実施形態の燃料電池システム15は、車両に搭載されて、車両の駆動用電源として用いられる。
【0009】
燃料電池600は、単セルが複数積層されたスタック構成を有しており、水素を含有する燃料ガスと、酸素を含有する酸化ガスの供給を受けて発電する。本実施形態の燃料電池600は、固体高分子形燃料電池である。燃料電池600を構成する各単セルでは、電解質膜を間に介して、アノード側に燃料ガスが流れる流路(アノード側流路)が形成され、カソード側に酸化ガスが流れる流路(カソード側流路)が形成されている。また、燃料電池600の内部には、燃料電池600を冷却するための冷媒が流れる冷媒流路が形成されている。なお、燃料電池600としては、固体高分子形燃料電池に限らず、固体酸化物形燃料電池等、他種の燃料電池を採用してもよい。
【0010】
燃料ガス供給系200は、燃料ガスタンク210と、燃料ガス供給管220と、燃料ガス還流管230と、水素ポンプ290と、を備える。燃料ガスタンク210は、燃料ガスとしての水素ガスが貯蔵される貯蔵装置であり、燃料ガス供給管220を介して燃料電池600に接続されている。なお、燃料ガスタンク210から燃料電池600へ供給される燃料ガスの流量は、燃料ガス供給管220に設けられた図示しない制御弁によって調節される。
【0011】
燃料ガス還流管230は、燃料電池600と燃料ガス供給管220とに接続され、燃料電池600から排出されたアノード排ガスを燃料ガス供給管220に循環させる。燃料ガス還流管230には、流路内で燃料ガスを循環させるための駆動力を発生して燃料ガスの流量を調節するために、既述した水素ポンプ290が設けられている。
【0012】
燃料ガス還流管230は、後述するパージ弁440を介して後述する燃料ガス排出管430に接続されている。アノード排ガスには、発電で消費されなかった水素と共に、窒素や水蒸気等の不純物が含まれる。パージ弁が開弁されることにより、上記不純物を含むアノード排ガスが、燃料ガス還流管230から燃料ガス排出管430へと排出される。
【0013】
酸化ガス供給系300は、エアコンプレッサ320と、酸化ガス供給管330と、を備える。本実施形態の燃料電池600は、酸化ガスとして、空気を用いる。エアコンプレッサ320は、燃料電池システム15の外部から取り込んだ空気を圧縮し、酸化ガス供給管330を介して、燃料電池600のカソード側流路に空気を供給する。
【0014】
排ガス系400は、排ガス管410と、燃料ガス排出管430と、パージ弁440と、を備える。排ガス管410は、燃料電池600からカソード排ガスが排出される流路である。燃料ガス排出管430は、既述したように、一端がパージ弁440を介して燃料ガス還流管230に接続されており、他端が排ガス管410に接続されている。これにより、パージ弁440を介して燃料ガス還流管230から排出されるアノード排ガス中の水素は、大気放出に先立ってカソード排ガスにより希釈される。
【0015】
冷却系500は、冷媒供給管510と、冷媒排出管515と、冷媒バイパス管550と、冷媒ポンプ525と、ラジエータ530と、イオン交換器540と、分流弁565と、を備える。冷媒供給管510は、燃料電池600に冷媒を供給するための管であり、冷媒供給管510には冷媒ポンプ525が配置されている。冷媒排出管515は、燃料電池600から冷媒を排出するための管である。冷媒排出管515の下流部と冷媒供給管510の上流部の間には、冷媒を冷却するためのラジエータ530が設けられている。ラジエータ530には、ラジエータ530からの放熱を促進するラジエータファン535が設けられている。上記冷媒ポンプ525は、冷媒供給管510と、冷媒排出管515と、燃料電池600内の冷媒流路と、を循環する冷媒の流量を調節する。冷却系500が備える冷媒の配管、すなわち、燃料電池600とラジエータ530との間で冷媒を循環させる配管を含む冷媒供給管510、冷媒排出管515、および冷媒バイパス管550によって構成される流路は、「第1冷媒回路505」とも呼ぶ。
【0016】
ラジエータ530は、冷媒中にイオン(例えば、カリウムイオンやフッ素イオン)を溶出させる。この原因としては例えば以下が挙げられる。すなわち、ラジエータ530の製造過程において、ラジエータ530の構成部材から酸化被膜を除去するための除去工程が行われる。酸化被膜を除去するために用いられる材料であるフラックスの成分が、ラジエータ530の表面に残留して、イオンとして冷媒中に溶出する。またこのような酸化被膜の除去工程を行わない場合にも、他の種類のイオンがラジエータ530から冷媒中に溶出する場合がある。
【0017】
冷媒バイパス管550は、冷媒供給管510と冷媒排出管515とを接続する流路である。冷媒バイパス管550には、イオン交換器540が設けられている。イオン交換器540は、内部にイオン交換樹脂を備えており、冷媒中に存在するイオンを、イオン交換樹脂に吸着させることによって除去する。
【0018】
冷媒排出管515と冷媒バイパス管550との接続部には、分流弁565が設けられている。分流弁565は、ラジエータ530を経由して流れる冷媒と、ラジエータ530をバイパスして流れる冷媒との割合を変更可能な弁であり、本実施形態ではロータリーバルブによって構成されている。分流弁565の開度が全開(開度が100%)の場合は、分流弁565に流入した冷媒の全量が冷媒バイパス管550へ流入する。一方で分流弁の開度が全閉(開度が0%)の場合は、分流弁565に流入した全量がラジエータ530へ流入する。分流弁565は、開度を0%~100%の間で変更できる。
【0019】
冷却系500に含まれる冷媒流路には、アース接続されたアース接続部570が設けられている。アース接続部570は、上記冷媒流路の一部に設けられた金属配管によって構成されており、本実施形態では、アース接続部570は、冷媒排出管515に設けられている。すなわち、本実施形態では、冷媒排出管515に設けられた金属配管が、ボディアースに電気的に接続されている。
【0020】
冷却系500が備える冷媒としては、例えば、エチレングリコールなどの不凍液や水を用いることができる。
【0021】
空調系700は、燃料電池車両の暖房に用いられ、分岐管745と、切替弁740と、温水供給管710と、空調ポンプ725と、電気ヒータ730と、ヒータコア720と、温水排出管715と、温水還流管735と、を備える。分岐管745と温水排出管715とは、冷却系500が備える既述した冷媒排出管515に接続されており、分岐管745、温水供給管710、および温水排出管715は、この順で接続されている。空調系700が備える冷媒の配管、すなわち、分岐管745、温水排出管715、および温水還流管735によって構成される流路は、冷却系500が備える既述した第1冷媒回路505の一部を迂回して冷媒が流れる冷媒流路である。このような空調系700が備える冷媒流路を、「第2冷媒回路705」とも呼ぶ。第2冷媒回路705は、冷却系500が備える第1冷媒回路505とは異なり、冷媒へのイオンの溶出量が特に多いラジエータ530等の構造を有しておらず、第1冷媒回路505に比べて、流路を流れる冷媒へのイオンの溶出量が少ない。そのため、第2冷媒回路705は、第1冷媒回路505に比べて、冷媒の流れの停止中における冷媒中の平均イオン濃度が低くなる。すなわち、第1冷媒回路505および第2冷媒回路705を、冷媒の循環を停止した状態で放置して、各々の冷媒流路内の冷媒中にイオンを溶出させると、第1冷媒回路505よりも第2冷媒回路705の方が、冷媒流路内の平均イオン濃度が低くなる。また、空調系700が備える第2冷媒回路705は、当該冷媒流路内の冷媒の熱を用いて燃料電池車両の暖房を行なう「空調回路」である。
【0022】
空調系700において、分岐管745と温水供給管710との接続部には、切替弁740が設けられている。また、温水還流管735は、温水排出管715と切替弁740との間を接続している。切替弁740は、三方弁として構成されている。この切替弁740は、空調系700が備える第2冷媒回路705を経由した冷媒が、冷却系500が備える第1冷媒回路505に流入する「流通状態」と、第2冷媒回路705から第1冷媒回路505への冷媒の流入が、上記「流通状態」よりも抑制された「流通抑制状態」と、を切り替える。本実施形態では、上記「流通抑制状態」においては、第1冷媒回路505と第2冷媒回路705との間の冷媒の流通が遮断されるが、少量の冷媒の流通を許容することとしてもよい。
【0023】
温水供給管710には、空調系700の配管内を冷媒が流れるための駆動力を発生する空調ポンプ725と、温水供給管710を流れる冷媒を加熱するための電気ヒータ730とが設けられている。温水供給管710と温水排出管715との接続部には、空調系700を流れる冷媒の熱を用いて空気を暖めるためのヒータコア720が設けられている。ヒータコア720で暖められた空気は、燃料電池車両の車内に送られて車内の暖房に用いられる。温水還流管735は、ヒータコア720から排出された冷媒を、温水供給管710に戻す。なお、空調ポンプ725は、冷媒流路の状態が既述した「流通状態」となるように切替弁740が切り替えられたときには、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させるポンプとして機能する。
【0024】
制御部900は、マイクロコンピュータによって構成されており、CPUと、ROMと、RAMと、入出力ポートと、を有する。制御部900は、燃料電池システム15の発電制御を行なうと共に、燃料電池車両全体の制御を行なう。制御部900は、燃料電池車両の各部に設けられたセンサ(燃料電池システム15の各部に設けたセンサ、アクセル開度センサ、ブレーキペダルセンサ、シフトポジションセンサ、および車速センサを含む)からの出力信号を取得する。そして、制御部900は、燃料電池車両における発電や走行等に係る各部に駆動信号を出力する。具体的には、制御部900は、例えば、エアコンプレッサ320や、水素ポンプ290、冷媒ポンプ525、および空調ポンプ725等のポンプ類や、既述した各種バルブ等に駆動信号を出力する。なお、上記した機能を果たす制御部900は、単一の制御部として構成される必要はない。例えば、燃料電池システム15の動作に係る制御部や、燃料電池車両の走行に係る制御部や、走行に関わらない車両補機の制御を行なう制御部など、複数の制御部によって構成し、これら複数の制御部間で、必要な情報をやり取りすることとしても良い。
【0025】
図2は、燃料電池システム15が備える絶縁抵抗検出部91について説明するための図である。絶縁抵抗検出部91は、第1冷媒回路505の冷媒を含む絶縁経路によってグラウンドから絶縁された燃料電池600の絶縁抵抗を検出する。具体的には、本実施形態の絶縁抵抗検出部91は、第1冷媒回路505の冷媒を含む絶縁経路によってグラウンドから絶縁された燃料電池600の絶縁抵抗を表わす値として、燃料電池システム15全体の波高値Vkを検出する。検出された波高値Vkは制御部900に送信される。以下では、絶縁抵抗検出部91について、さらに詳しく説明する。
【0026】
図2に示す回路系90は、燃料電池システム15を構成する電気抵抗を有する要素を回路として示した図である。回路系90の各抵抗R1,R2・・・Rxは、燃料電池システム15の要素(例えば、
図1に示すエアコンプレッサ320や、ラジエータファン535のモータや、第1冷媒回路505)の抵抗である。
【0027】
絶縁抵抗検出部91は、交流電源94と、抵抗93と、コンデンサ92と、バンドパスフィルタ95と、ピークホールド回路96と、を含む。
【0028】
交流電源94および抵抗93は、ノードN1と接地ノードGND(車両のシャシ又はボディー)との間に直列に接続される。コンデンサ92は、ノードN1と回路系90との間に接続される。
【0029】
交流電源94は、低周波数の交流信号を出力する。交流信号は、絶縁抵抗検出用の信号である。本実施形態における交流信号の周波数は、2.5Hzである。本実施形態における交流信号の電圧は、5Vである。交流信号は、コンデンサ92を介して、回路系90に入力される。従って、直流電源回路を構成している回路系90は、絶縁抵抗検出部91に対して直流的には分離されている。このため、回路系90は、グラウンドに対して絶縁されている。
【0030】
バンドパスフィルタ95は、ノードN1上の交流信号の入力を受ける。バンドパスフィルタ95は、入力された交流信号から2.5Hzの成分を抽出してピークホールド回路96へ入力する。ピークホールド回路96は、バンドパスフィルタ95から入力された2.5Hzの交流信号のピークをホールドし、そのホールドした波高値Vkを制御部900へ送信する。
【0031】
波高値Vkは、絶縁抵抗の値が小さくなると小さくなり、絶縁抵抗の値が大きくなると大きくなる値である。既述したように、波高値Vkは、第1冷媒回路505の冷媒を含む絶縁経路によってグラウンドから絶縁された燃料電池600の絶縁抵抗を示す値である。ここで、回路系90の各抵抗R1,R2・・・Rxのうち、特に変動量が大きいのは、イオン溶出により冷媒導電率が上昇する第1冷媒回路505の冷媒の抵抗である。そのため、本実施形態では、波高値Vkの値を、燃料電池600からアース接続部570までの間の第1冷媒回路505の冷媒の絶縁抵抗を表わす値として用いている。
【0032】
(A-2)システム始動時の動作:
図3は、制御部900のCPUにおいて実行される始動時制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池システム15の始動の指示が入力されたとき、例えば、運転者によって燃料電池車両の図示しないスタートスイッチが押されたときに、起動されて実行される。
【0033】
本ルーチンが起動されると、制御部900のCPUは、燃料電池システム15が停止してから燃料電池システム15の始動の指示が入力されるまでの停止期間が、予め定めた基準期間t0を超えているか否かを判定する(ステップS100)。停止期間は、具体的には、燃料電池車両のスタートスイッチがオフにされた後にオンにされるまでの期間であり、制御部900のタイマーによって計測される。基準期間t0は、ラジエータ530等から冷媒中に溶出するイオンによって、第1冷媒回路505内の冷媒における平均イオン濃度が上昇して、第1冷媒回路505内の冷媒の導電率が、許容できない程度に高くなる可能性のある停止期間の下限値として予め設定されて、制御部900のメモリ内に記憶されている。基準期間t0は、例えば、1週間(168時間)から2週間(336時間)までの範囲のいずれかの期間に設定することができる。
【0034】
ステップS100において、停止期間が基準期間t0を超えている場合には(ステップS100:YES)、制御部900は、切替弁740を駆動して、第2冷媒回路705内の冷媒が第1冷媒回路505に流入する「流通状態」となるように、切替弁740を切り替える(ステップS110)。なお、燃料電池システム15の停止中において「流通状態」となっている場合には、ステップS110では、当該流通状態が維持される。
【0035】
その後、制御部900のCPUは、空調ポンプ725に対して駆動信号を出力して、空調ポンプ725を、最大回転数で動作させる(ステップS120)。最大回転数とは、例えば、空調ポンプ725のモータのカタログにおいて最大回転数として記載された値とすればよい。空調ポンプ725を最大回転数で動作させることで、空調ポンプ725による吐出流量は最大となる。ステップS110で切替弁740が切り替えられ、ステップS120で空調ポンプ725が駆動される結果、第2冷媒回路705内の冷媒が第1冷媒回路505に流入する。また、第1冷媒回路505内の冷媒が第2冷媒回路705に流入する。
【0036】
本実施形態では、始動時制御処理ルーチンが実行される際には、燃料電池600において暖機運転が開始され、冷媒ポンプ525の駆動も開始される。これにより、第1冷媒回路505内で冷媒が循環する。また、このとき、分流弁565が調節されて、第1冷媒回路505を流れる冷媒が、ラジエータ530と冷媒バイパス管550との双方を通過するように流れる。上記のように冷媒がラジエータ530を経由することにより、ラジエータ530内で滞留していた比較的イオン濃度が高い冷媒が第1冷媒回路505内を循環する。このようにラジエータ530内で滞留していた冷媒を含むことにより、第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度が高まる。そして、イオン濃度が比較的高い状態の第1冷媒回路505内の冷媒は、第2冷媒回路705から流入する冷媒によって希釈される。また、冷媒が冷媒バイパス管550を経由することにより、イオン交換器540によって冷媒中のイオンが除去されて、第1冷媒回路505を流れる冷媒のイオン濃度が低減される。なお、第1冷媒回路505を流れる冷媒をラジエータ530に流す動作と、冷媒バイパス管550に流す動作は、同時に開始する必要はない。例えば、分流弁565を調節してラジエータ530に冷媒を流し、ラジエータ530内に滞留するイオンを第1冷媒回路505内に拡散させる動作を先に行なってもよい。
【0037】
その後、制御部900のCPUは、絶縁抵抗検出部91が検出した波高値Vkが、予め定めた第1基準値を超えているか否かを判定する(ステップS130)。波高値Vkは、既述したように、第1冷媒回路505における絶縁抵抗を表わす値である。ステップS130の判断で用いる第1基準値は、燃料電池600が定常状態となって発電する際の第1冷媒回路505における絶縁抵抗として許容できる値として、予め定められて、制御部900のメモリ内に記憶されている。燃料電池600の定常状態とは、例えば、燃料電池600が十分に昇温して最大出力で発電可能な状態とすることができる。燃料電池600が定常状態であるときに、第1冷媒回路505における絶縁抵抗として許容できる値は、例えば、燃料電池システムや車両に係る法規による規定等を勘案して定めることができる。
【0038】
なお、燃料電池600が定常状態になっているときには、燃料電池システム15の始動時に比べて一般に冷媒温度は上昇しており、冷媒温度が高いほど、冷媒中のイオン濃度が同じであっても冷媒の導電率は上昇する。そして、第1冷媒回路505内の冷媒の導電率が上昇するほど、第1冷媒回路505における絶縁抵抗は小さくなる。そのため、上記第1基準値は、燃料電池600が定常状態であるときに許容される絶縁抵抗に対して、冷媒の温度上昇分を考慮して、より大きな値に設定してもよい。
【0039】
ステップS130において波高値Vkが第1基準値以下であると判定すると(ステップS130:NO)、制御部900は、波高値Vkが第1基準値を超えるまで、ステップS130の判断を繰り返す。
【0040】
ステップS130において波高値Vkが第1基準値を上回ったと判定すると(ステップS130:YES)、制御部900のCPUは、空調ポンプ725の制御を、通常制御に変更する(ステップS140)。そして、制御部900のCPUは、第2冷媒回路705から第1冷媒回路505への冷媒の流入が「流通状態」よりも抑制された「流通抑制状態」となるように切替弁740を切り替えて(ステップS150)、本ルーチンを終了する。これにより、第1冷媒回路505と第2冷媒回路705とが遮断される。上記ステップS130で採用される空調ポンプ725に係る通常制御とは、燃料電池車両における暖房の状態に応じて空調ポンプ725を駆動する制御であり、例えば暖房を行なわない場合には、空調ポンプ725は停止すればよい。ステップS130の動作とステップS140の動作とは、同時に行なってもよく、上記とは逆の順序で行なってもよい。
【0041】
ステップS100において、停止期間が基準期間t0以下の場合には(ステップS100:NO)、制御部900は、本ルーチンを終了する。本ルーチンを終了した後には、制御部900は、例えば、燃料電池600の暖機運転のための制御を開始する。このとき、例えば、燃料電池システム15の停止中において「流通抑制状態」となっている場合には、制御部900は上記「流通抑制状態」を維持すればよく、燃料電池システム15の停止中において「流通状態」となっている場合には、制御部900は切替弁740を「流通抑制状態」に切り替えることとすればよい。あるいは、燃料電池システム15は、停止期間が基準期間t0以下の場合にも、切替弁740を「流通状態」に設定して、燃料電池600で昇温した冷媒を第2冷媒回路705に流入させる運転モードを有していてもよい。このような運転モードは、空調ポンプ725を駆動してもよく、空調ポンプ725を駆動しなくてもよい。
【0042】
以上のように構成された本実施形態の燃料電池システム15によれば、燃料電池システム15の停止期間が基準期間t0を超えるときには、燃料電池システム15を始動する指示入力の後に、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させる。そのため、燃料電池システム15の停止期間が基準期間t0よりも長いことにより、ラジエータ530等からイオンが溶出して第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度が高まる場合であっても、燃料電池システム15の始動時に、第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度を、より速やかに低下させることができる。その結果、第1冷媒回路505における絶縁抵抗を高めることができる。第1冷媒回路505内の冷媒は、高電圧機器である燃料電池600と直接接触している。そのため、第1冷媒回路505における絶縁抵抗を、より高めることにより、燃料電池600における漏電等の不具合の発生を、より十分に抑えることが可能になる。
【0043】
燃料電池システム15の始動時に、本実施形態とは異なり、第2冷媒回路707内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させない場合であっても、イオン交換器540を用いることで、第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度を次第に低減させることは可能である。本実施形態によれば、第2冷媒回路707内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させることで、第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度を、より速やかに低減させることができる。そのため、例えば燃料電池システム15の始動時に直ちに燃料電池600を発電させる場合であっても、第1冷媒回路505の冷媒の導電率を容易に抑えることが可能になる。
【0044】
また、燃料電池システム15において、第1冷媒回路505を構成する配管やラジエータ530を、イオン溶出量の極めて少ない材料を用いて構成し、燃料電池システム15の停止時における冷媒へのイオンの溶出量を抑える構成も考えられる。しかしながら、このような場合には、第1冷媒回路505を構成する各部の製造条件が制約を受け、また、製造コストの上昇を引き起こし得る。あるいは、第1冷媒回路505を構成する上記各部の表面を、イオン溶出を妨げる樹脂等によりコーティングする構成も考えられる。しかしながら、このような場合には、製造工程が複雑化すると共に、製造コストの上昇を招き、上記コーティングが劣化したときには、冷媒へのイオンの溶出量が増加する。本実施形態によれば、これらの不都合を伴うことなく、燃料電池システム15の始動時において、第1冷媒回路505の冷媒の導電率を容易に抑えることが可能になる。
【0045】
さらに、本実施形態の燃料電池システム15によれば、第1冷媒回路505の冷媒を含む絶縁経路によってグラウンドから絶縁された燃料電池600の絶縁抵抗が第1基準値に上昇したときには、「流通抑制状態」となるように切替弁740を切り替えている。このように、上記絶縁抵抗が第1基準値に上昇するまで「流通状態」を維持することにより、上記絶縁抵抗が第1基準値以下の状態で燃料電池600が発電することを抑えることができる。
【0046】
B.第2実施形態:
図4は、本発明の第2実施形態としての燃料電池システム15の制御部900において実行される始動時制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。第2実施形態の燃料電池システム15は、第1実施形態と同様の構成を有するため、詳しい説明は省略する。
【0047】
図4の始動時制御処理ルーチンは、第1実施形態と同様に、燃料電池システム15の始動の指示が入力たときに、起動されて実行される。
図4において、
図3と共通する工程には同じステップ番号を付して、詳しい説明は省略する。
【0048】
本実施形態では、第2冷媒回路705から第1冷媒回路505に冷媒を流入させる「流通状態」から、切替弁740を切り替えて「流通抑制状態」にするタイミングの判断の基準が、第1実施形態とは異なっている。第2実施形態では、第1実施形態のステップS130の代わりに、ステップS230およびステップS235が実行される。
【0049】
第2実施形態では、制御部900のCPUは、ステップS120において空調ポンプ725を最大回転数で駆動した後、空調系700の冷媒流量、すなわち、第2冷媒回路705内を流れた冷媒の流量の積算値を取得する(ステップS230)。第2冷媒回路705における冷媒流量の積算値は、空調ポンプ725の駆動を開始してからの空調ポンプ725の動作時間と、空調ポンプ725の回転数(本実施形態では最大回転数)とを用いて算出される。このように、制御部900は、切替弁740が流通状態に切り替えられた状態で空調ポンプ725を駆動して、第2冷媒回路705から第1冷媒回路505への冷媒の流入が開始された後に、第2冷媒回路705を流れた冷媒の流量の積算値を導出する「流量導出部」として機能する。
【0050】
その後、制御部900のCPUは、ステップS230で取得した冷媒流量の積算値と、空調系700の冷媒量、すなわち、第2冷媒回路705内の冷媒量とを比較する(ステップS235)。第2冷媒回路705内の冷媒量とは、第2冷媒回路705を構成する冷媒配管の容積であり、予め制御部900のメモリ内に記憶されている。ステップS235において、第2冷媒回路705内の冷媒流量の積算値が、第2冷媒回路705内の冷媒量以下であると判定すると(ステップS235:NO)、制御部900は、上記積算値が第2冷媒回路705内の冷媒量を超えるまで、ステップS235の判断を繰り返す。
【0051】
ステップS235において、第2冷媒回路705内の冷媒流量の積算値が、第2冷媒回路705内の冷媒量を超えると判定すると(ステップS235:YES)、制御部900のCPUは、既述したステップS140およびステップS150を実行して、本ルーチンを終了する。なお、ステップS235において、上記冷媒流量の積算値が第2冷媒回路705内の冷媒量を超えたと判定されるときとは、第2冷媒回路705内に存在していた比較的イオン濃度が低い冷媒の全てが、第1冷媒回路505に流入して、第2冷媒回路705内の冷媒が入れ替わったときである。
【0052】
このような構成とすれば、第1実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、燃料電池システム15の停止期間が長いことに起因して第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度が高まる場合であっても、燃料電池システム15の始動時に、第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度を、より速やかに低下させることができる。
【0053】
また、第2実施形態では、燃料電池システム15の始動時に第2冷媒回路705内に存在していた比較的イオン濃度が低い冷媒の全てが、第1冷媒回路505に流入したときに、「流通抑制状態」となるように切替弁740を切り替えている。「流通抑制状態」となるように切替弁740を切り替えた後には、第2冷媒回路705内の冷媒は、第1冷媒回路505に流入してイオン交換器540を通過することがない。そのため、イオン交換器540を用いて冷媒中のイオン濃度を低減する動作を行なう際に、「流通抑制状態」となった後には、イオン交換器540によってイオン濃度低減処理が必要となる冷媒の総量は、第2冷媒回路705の冷媒容量分だけ少なくなる。その結果、第1冷媒回路505内の冷媒の導電率を、より速やかに低下させることができる。
【0054】
図5は、イオン交換器540を用いて第1冷媒回路505内の冷媒中のイオンを除去する動作を行なった時の、第1冷媒回路505内の冷媒における導電率が低下する様子を概念的に示す説明図である。グラフαは、ステップS150で切替弁740を「流通抑制状態」に切り替えたタイミングを時間0として、その後の第1冷媒回路505内の冷媒の導電率の低下の様子を示す。グラフβは、上記グラフαの時間0のタイミングにおいて、切替弁740を切り替えずに「流通状態」を継続したときの、その後の第1冷媒回路505内の冷媒の導電率の低下の様子を示す。切替弁740を「流通抑制状態」に切り替えた後は、第2冷媒回路705内の冷媒は第1冷媒回路505に流入しないので、イオン交換器540によるイオン濃度低減の対象となる冷媒量は、第2冷媒回路705の冷媒容量分だけ少なくなる。そのため、このような切り替えを行なうグラフαの場合には、切り替えを行なわないグラフβの場合に比べて、より速やかに、第1冷媒回路505内の冷媒の導電率が低下する。
【0055】
図5では、燃料電池600が定常状態に達した後の、第1冷媒回路505内における冷媒の導電率の目標上限値を、導電率C
0として示している。燃料電池600が定常状態であるときには、第1冷媒回路505内の冷媒の導電率が上記目標上限値を超えないように、すなわち、第1冷媒回路505における絶縁抵抗が上記導電率の目標上限値に対応する絶縁抵抗を下回らないように、冷媒の流通に係る制御が行なわれる。このような導電率の目標上限値は、例えば、燃料電池システムや車両に係る法規による規定等を勘案して定めることができる。第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度と第2冷媒回路705内の冷媒のイオン濃度との差が小さくなると、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させることにより第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度を低下させる効果が小さくなる。そのため、
図5に示すように、適切なタイミングで切替弁740を「流通抑制状態」に切り替えることにより、第1冷媒回路505内の冷媒の導電率を、より速やかに、定常状態における目標上限値である導電率C
0以下にすることが可能になる。
【0056】
第2実施形態のステップS235では、第2冷媒回路705の冷媒流量の積算値と、第2冷媒回路705内の冷媒量とを比較したが、異なる構成としてもよい。すなわち、ステップS235において第2冷媒回路705の冷媒流量の積算値と比較する第2基準値としては、第2冷媒回路705内の冷媒量以外の値を用いてもよい。例えば、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させて、冷媒のイオン濃度を低減する効果が望ましい程度に得られるならば、第2基準値を、第2冷媒回路705内の冷媒量よりも小さい値としてもよい。この場合であっても、その後のイオン交換器540による第1冷媒回路505内の冷媒中のイオン濃度低減の速度を、速めることができる。
【0057】
C.他の実施形態:
(C1)上記各実施形態では、燃料電池システム15の始動時に第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させる際に、第1冷媒回路505においては、ラジエータ530とイオン交換器540の双方に冷媒を流すと共に、燃料電池600の暖機運転を開始したが、異なる構成としてもよい。
【0058】
例えば、始動時に第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させる際には、分流弁565の切り替えにより、ラジエータ530とイオン交換器540の一方のみに冷媒を流してもよい。上記各実施形態のように、ラジエータ530において冷媒へのイオンの溶出量が特に多い場合には、例えば、まずラジエータ530のみに冷媒を流して、第1冷媒回路505全体のイオン濃度を上昇させることで、その後にイオン交換器540に冷媒を流したときのイオン除去効率を高めることができる。あるいは、上記各実施形態とは異なり、ラジエータ530の材質等に起因してラジエータ530において冷媒へのイオンの溶出量が特に少ない場合には、燃料電池システム15の始動時には、燃料電池600の暖機が完了するまで、ラジエータ530に冷媒を流さないこととしてもよい。このようにすれば、ラジエータ530以外の冷媒のイオン濃度が高い箇所において、効率良く冷媒のイオン濃度を低減させることができると共に、燃料電池600の暖機運転の効率を高めることができる。
【0059】
また、例えば、燃料電池システム15の始動時の環境温度が氷点下の場合には、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させるのに先立って、燃料電池600の暖機運転を行なってもよい。この場合には、暖機運転により第1冷媒回路505内の冷媒温度を0℃以上に昇温させた後に、切替弁740を「流通状態」に切り替えて、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させればよい。あるいは、氷点下始動時において、燃料電池600の暖機運転と、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させる動作とを同時に行なう場合には、分流弁565を調節して、ラジエータ530を迂回して冷媒を流すこととすればよい。
【0060】
(C2)第1実施形態では、
図2に示した絶縁抵抗検出部91を用いて、波高値を絶縁抵抗として検出しているが、第1冷媒回路505の冷媒を含む絶縁経路によってグラウンドから絶縁された燃料電池600の絶縁抵抗を検出するために、異なる手段を用いてもよい。あるいは、絶縁抵抗検出部91に代えて、第1冷媒回路505内の冷媒の導電率を測定する導電率センサや、第1冷媒回路505内の冷媒のイオン濃度を測定するイオン濃度センサを設け、第1冷媒回路505を流れる冷媒の導電率やイオン濃度を測定してもよい。そして、ステップS130において、上記測定した導電率やイオン濃度が、導電率およびイオン濃度の各々に応じて予め定めた第3基準値を下回ったと判断された時に、切替弁740を流通抑制状態に切り替えることとしてもよい。
【0061】
(C3)燃料電池システム15の始動時に、停止期間が基準期間を超えており、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させたときに、このような流入の動作を停止して「流通抑制状態」に切り替えるタイミングは、第1実施形態および第2実施形態とは異なるタイミングとしてもよい。異なるタイミングに「流通抑制状態」に切り替えても、これに先立って「流通状態」にすることで、第1冷媒回路505内における冷媒のイオン濃度を低減する同様の効果が得られる。
【0062】
(C4)上記各実施形態では、燃料電池システム15の始動時に、停止期間が基準期間を超えているときに、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させる動作を行なう判断をしているが、冷媒へのイオン溶出量に影響を与えるさらに他の要因を考慮して判断してもよい。例えば、停止期間に加えて、さらに停止期間中の温度を考慮してもよい。一般に、温度が高いほど冷媒へのイオンの溶出量は多くなるためである。そのため、例えば、停止中の環境温度が高いほど、基準期間として、より小さい値を設定することとしてもよい。
【0063】
(C5)上記各実施形態では、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させるポンプとして空調ポンプ725を用いたが、異なる構成としてもよい。例えば、「流通状態」で冷媒ポンプ525のみを駆動することにより、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させることが可能であれば、第2冷媒回路705内の冷媒を第1冷媒回路505に流入させるポンプとして冷媒ポンプ525を用いてもよい。この場合には、ステップS120では、空調ポンプ725を駆動することなく冷媒ポンプ525のみを駆動すればよい。
【0064】
(C6)上記各実施形態では、燃料電池システム15を車両の駆動用電源として用いたが、異なる構成としても良い。例えば、車両以外の移動体の駆動用電源としてもよく、また、燃料電池システム15を、定置型電源として用いても良い。燃料電池を冷却する冷媒が流れる第1冷媒回路と、第1冷媒回路に接続可能な冷媒流路であって、第1冷媒回路に比べて、冷媒の流れの停止中における冷媒中の平均イオン濃度が低い第2冷媒回路と、を備える燃料電池システムであれば、各実施形態と同様の制御を行なうことで、燃料電池システムの始動時に、より速やかに、第1冷媒回路内の冷媒の導電率を低下させることができる。
【0065】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
15…燃料電池システム、90…回路系、91…絶縁抵抗検出部、92…コンデンサ、93…抵抗、94…交流電源、95…バンドパスフィルタ、96…ピークホールド回路、200…燃料ガス供給系、210…燃料ガスタンク、220…燃料ガス供給管、230…燃料ガス還流管、290…水素ポンプ、300…酸化ガス供給系、320…エアコンプレッサ、330…酸化ガス供給管、400…排ガス系、410…排ガス管、430…燃料ガス排出管、440…パージ弁、500…冷却系、505…第1冷媒回路、510…冷媒供給管、515…冷媒排出管、525…冷媒ポンプ、530…ラジエータ、535…ラジエータファン、540…イオン交換器、550…冷媒バイパス管、565…分流弁、570…アース接続部、600…燃料電池、700…空調系、705…第2冷媒回路、710…温水供給管、715…温水排出管、720…ヒータコア、725…空調ポンプ、730…電気ヒータ、735…温水還流管、740…切替弁、745…分岐管、900…制御部