(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電池監視装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20221213BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
H02J7/00 P
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2019136970
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】宮内 駿
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌明
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-294322(JP,A)
【文献】特開2012-060836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H01M 10/48
G01R 31/36
G01R 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1蓄電池(44a)を含む第1電力系統(41)と、第2蓄電池(44b)を含む第2電力系統(42)とを備える電源システム(10)に適用され、前記第1蓄電池と前記第2蓄電池とのうち、監視対象となる
前記第1蓄電池の状態を監視する電池監視装置(50)において、
前記第1蓄電池の電極間を接続する第1電気経路(R1)に流れる第1電流により、前記第2蓄電池の電極間を接続する第2電気経路(R2)に、前記第2蓄電池に電力を蓄える向きの第2電流を出力させる電力伝達部(50b)と、
前記第1蓄電池に、当該第1蓄電池を電源として、所定の交流信号としての前記第1電
流を出力させる交流出力部(56)と、
前記交流信号に対する
前記第1蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部(52)と、
前記応答信号に基づいて
前記第1蓄電池の複素インピーダンスを算出する演算部(53)と、を備え
、
前記電力伝達部、前記交流出力部、前記応答信号入力部、及び前記演算部は、前記第1電力系統を電力出力側の出力側電力系統とし、前記第2電力系統を電力入力側の入力側電力系統とする電池監視部(70a)を構成しており、
前記第2電力系統は、複数の蓄電池の直列接続体であり、
前記第2電力系統における前記各蓄電池を前記電池監視部に接続し、前記第2電力系統における前記各蓄電池と前記電池監視部との間を開閉する入力側スイッチ部(65)と、
前記第2電力系統における前記各蓄電池のうち、前記電池監視部に接続する前記蓄電池である前記第2蓄電池を選択する選択部(53)と、を備える電池監視装置。
【請求項2】
前記第1電力系統と前記第2電力系統とは並列接続されており、
前記第1電力系統の高圧側と前記第2電力系統の高圧側とを接続する高圧側接続線と前記第2電力系統の高圧側との間に設けられる高圧側スイッチ(SMH)と、
前記第1電力系統の低圧側と前記第2電力系統の低圧側とを接続する低圧側接続線と前記第2電力系統の低圧側との間に設けられる低圧側スイッチ(SML)と、
前記高圧側スイッチと前記低圧側スイッチとの状態を制御する状態制御部(53)と、
前記低圧側スイッチに並列接続される低圧側抵抗器(RL)と、を備え、
前記電力伝達部は、非絶縁型の電力伝達部であり、
前記状態制御部は、前記各蓄電池を前記電力伝達部に接続する場合に、前記高圧側スイッチと前記低圧側スイッチとをオフ状態に制御する請求項
1に記載の電池監視装置。
【請求項3】
前記第2電力系統における前記各蓄電池の電荷量又はその相関値のいずれかである電荷量パラメータを取得する電荷量取得部(53)を備え、
前記選択部は、前記第2電力系統における前記各蓄電池のうち、前記電荷量が最も少ない前記蓄電池を前記第2蓄電池として選択する請求項
1又は
2に記載の電池監視装置。
【請求項4】
第1蓄電池(44a)を含む第1電力系統(41)と、第2蓄電池(44b)を含む第2電力系統(42)とを備える電源システム(10)に適用され、前記第1蓄電池と前記第2蓄電池とのうち、監視対象となる
前記第2蓄電池の状態を監視する電池監視装置(50)において、
前記第1蓄電池の電極間を接続する第1電気経路(R1)に流れる第1電流により、前記第2蓄電池の電極間を接続する第2電気経路(R2)に、前記第2蓄電池に電力を蓄える向きの第2電流を出力させる電力伝達部(50b)と、
前記第2蓄電池に、監視対象とは異なる前記第1蓄電池を電源として、所定の交流信号として
の前記第2電流を出力させる交流出力部(56)と、
前記交流信号に対する
前記第2蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部(52)と、
前記応答信号に基づいて
前記第2蓄電池の複素インピーダンスを算出する演算部(53)と、を備え
、
前記電力伝達部、前記交流出力部、前記応答信号入力部、及び前記演算部は、前記第1電力系統を電力出力側の出力側電力系統とし、前記第2電力系統を電力入力側の入力側電力系統とする電池監視部(70a)を構成しており、
前記第1電力系統は、複数の蓄電池の直列接続体であり、
前記第1電力系統における前記各蓄電池を前記電池監視部に接続し、前記第1電力系統における前記各蓄電池と前記電池監視部との間を開閉する出力側スイッチ部(64)と、
前記第1電力系統における前記各蓄電池のうち、前記電池監視部に接続する前記蓄電池である前記第1蓄電池を選択する選択部(53)と、を備える電池監視装置。
【請求項5】
前記第1電力系統と前記第2電力系統とは並列接続されており、
前記第1電力系統の高圧側と前記第2電力系統の高圧側とを接続する高圧側接続線と前記第1電力系統の高圧側との間に設けられる高圧側スイッチ(SMH)と、
前記第1電力系統の低圧側と前記第2電力系統の低圧側とを接続する低圧側接続線と前記第1電力系統の低圧側との間に設けられる低圧側スイッチ(SML)と、
前記高圧側スイッチと前記低圧側スイッチとの状態を制御する状態制御部(53)と、
前記低圧側スイッチに並列接続される低圧側抵抗器(RL)と、を備え、
前記電力伝達部は、非絶縁型の電力伝達部であり、
前記状態制御部は、前記各蓄電池を前記電力伝達部に接続する場合に、前記高圧側スイッチと前記低圧側スイッチとをオフ状態に制御する請求項
4に記載の電池監視装置。
【請求項6】
前記第1電力系統における前記各蓄電池の電荷量又はその相関値のいずれかである電荷量パラメータを取得する電荷量取得部(53)を備え、
前記選択部は、前記第1電力系統における前記各蓄電池のうち、前記電荷量が最も多い前記蓄電池を前記第1蓄電池として選択する請求項
4又は
5に記載の電池監視装置。
【請求項7】
前記電力伝達部、前記交流出力部、前記応答信号入力部、及び前記演算部は、前記第1電力系統を電力出力側の出力側電力系統とし、前記第2電力系統を電力入力側の入力側電力系統とする第1電池監視部(70a)を構成しており、
さらに、前記第2電力系統を電力出力側の出力側電力系統とし、前記第1電力系統を電力入力側の入力側電力系統とする第2電池監視部(70b)を備える請求項1から請求項
6までのいずれか一項に記載の電池監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電池の状態を監視するため、蓄電池の交流インピーダンスを測定することが行われていた(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の発明では、ポテンショスタットにより、蓄電池に対して正弦波を印加して、この正弦波に基づいて蓄電池から流れる電流の交流成分を検出し、この交流成分に基づいて交流インピーダンス特性を算出していた。そして、この交流インピーダンス特性を基に、蓄電池の劣化状態などを判別していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この測定法では、監視対象である蓄電池から流れる電流に基づいて交流インピーダンス特性を算出していたため、監視時に電流として蓄電池から電力が引き出されるとともに、その引き出された電力は熱として無駄に消費されるという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、監視時に蓄電池から引き出された電力を有効活用することができる電池監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する手段は、第1蓄電池を含む第1電力系統と、第2蓄電池を含む第2電力系統とを備える電源システムに適用され、前記第1蓄電池と前記第2蓄電池とのうち、監視対象となる対象蓄電池の状態を監視する電池監視装置において、前記第1蓄電池の電極間を接続する第1電気経路に流れる第1電流により、前記第2蓄電池の電極間を接続する第2電気経路に、前記第2蓄電池に電力を蓄える向きの第2電流を出力させる電力伝達部と、前記対象蓄電池に所定の交流信号としての前記第1電流又は前記第2電流を出力させる交流出力部と、前記交流信号に対する前記対象蓄電池の応答信号を入力する応答信号入力部と、前記応答信号に基づいて前記対象蓄電池の複素インピーダンスを算出する演算部と、を備える。
【0007】
電源システムでは、電力供給の冗長性を確保するため、複数の電力系統を備えることがある。この手段では、複数の電力系統を備える電源システムにおいて、監視時に蓄電池から引き出された電力を有効活用する。つまり、第1電力系統に含まれる第1蓄電池と、第2電力系統に含まれる第2蓄電池とにおいて、第1蓄電池の電極間を接続する第1電気経路に流れる第1電流により、第2蓄電池の電極間を接続する第2電気経路に第2電流を出力させる電力伝達部が設けられている。これにより、対象蓄電池が、第1蓄電池と第2蓄電池とのいずれであっても、第1電気経路に第1電流を流すことで、対象蓄電池に電流を流すことができる。そのため、この電流により対象蓄電池に交流信号を出力させることができ、この交流信号に対する対象蓄電池の応答信号を用いて、対象蓄電池の状態を監視することができる。
【0008】
この際、電力伝達部は、第2蓄電池に電力を蓄える向きの第2電流を出力させる。つまり、応答信号のために第1電気経路に流れる第1電流を用いて第2蓄電池に電力を蓄えることができる。これにより、監視時に第1蓄電池から引き出された電力を有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】第1実施形態の複素インピーダンス算出処理のフローチャート。
【
図6】第3実施形態の複素インピーダンス算出処理のフローチャート。
【
図7】第3実施形態の複素インピーダンス算出処理のフローチャート。
【
図13】別例の複素インピーダンス算出処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、「電池監視装置」を車両(例えば、ハイブリッド車や電気自動車)の電源システムに適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示すように、電源システム10は、回転電機としてのモータ20と、モータ20に対して3相電流を流す電力変換器としてのインバータ30と、充放電可能な組電池40と、組電池40の状態を監視する電池監視装置50と、モータ20などを制御するECU60と、を備えている。
【0012】
モータ20は、車載主機であり、図示しない駆動輪と動力伝達可能とされている。本実施形態では、モータ20として、3相の永久磁石同期モータを用いている。
【0013】
インバータ30は、相巻線の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、各相巻線において通電電流が調整される。
【0014】
インバータ30には、図示しないインバータ制御装置が設けられており、インバータ制御装置は、モータ20における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ30における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。これにより、インバータ制御装置は、組電池40からインバータ30を介してモータ20に電力を供給し、モータ20を力行駆動させる。また、インバータ制御装置は、駆動輪からの動力に基づいてモータ20を発電させ、インバータ30を介して、発電電力を変換して組電池40に供給し、組電池40を充電させる。
【0015】
組電池40は、インバータ30を介して、モータ20に電気的に接続されている。組電池40は、直列接続体としての第1電力系統41と第2電力系統42とが並列接続されて構成されている。各電力系統41,42は、例えば百V以上となる端子間電圧を有し、複数の電池モジュール43が直列接続されて構成されている。各電池モジュール43は、複数の電池セル44が直列接続されて構成されている。電池セル44として、例えば、リチウムイオン蓄電池や、ニッケル水素蓄電池を用いることができる。各電池セル44は、電解質と複数の電極とを有する蓄電池である。
【0016】
各電力系統41,42の正極側電源端子に接続される高圧側接続線としての正極側電源経路L1には、インバータ30等の電気負荷の正極側端子が接続されている。同様に、各電力系統41,42の負極側電源端子に接続される低圧側接続線としての負極側電源経路L2には、インバータ30等の電気負荷の負極側端子が接続されている。
【0017】
正極側電源経路L1と各電力系統41,42の正極側電源端子の間、及び負極側電源経路L2と各電力系統41,42の負極側電源端子の間には、それぞれリレースイッチ(システムメインリレースイッチ)が設けられており、リレースイッチにより、通電及び通電遮断が切り替え可能に構成されている。以下、正極側電源経路L1と各電力系統41,42の正極側電源端子の間に設けられたリレースイッチを、高圧側スイッチSMHと呼び、負極側電源経路L2と各電力系統41,42の負極側電源端子の間に設けられたリレースイッチを、低圧側スイッチSMLと呼ぶ。なお、本実施形態では、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLは、必須の構成ではない。
【0018】
電池監視装置50は、各電池セル44の蓄電状態(SOC)及び劣化状態(SOH)などを監視する装置である。第1実施形態において電池監視装置50は、各電力系統41,42の電池セル44毎に設けられている。なお、
図1では、第2電力系統42の各電池セル44を監視する電池監視装置50の記載が省略されている。電池監視装置50は、ECU60に接続されており、各電池セル44の状態などを出力する。電池監視装置50の構成については、後述する。
【0019】
ECU60は、各種情報に基づいて、インバータ制御装置に対して力行駆動及び発電の要求を行う。各種情報には、例えば、アクセル及びブレーキの操作情報、車速、組電池40の状態などが含まれる。
【0020】
次に、電池監視装置50について詳しく説明する。
図2に示すように、第1実施形態では、電池セル44毎に電池監視装置50が設けられている。
図2には、第1電力系統41に含まれる第1蓄電池としての第1電池セル44a、第1電池セル44aを監視する電池監視装置50、及び第2電力系統42に含まれる第2蓄電池としての第2電池セル44bが示されている。
【0021】
電池監視装置50は、制御部50aを備えている。制御部50aは、ASIC部51と、フィルタ部55と、電流モジュレーション回路56と、を備えている。ASIC部51は、第1電池セル44aから供給された電力に基づいて駆動しており、入出力部52と、演算部としてのマイコン部53と、通信部54と、を備えている。
【0022】
入出力部52は、監視対象(対象蓄電池)とする第1電池セル44aに対して接続されている。具体的に説明すると、入出力部52は、第1電池セル44aから直流電圧を入力(測定)可能な直流電圧入力端子57を有する。第1電池セル44aと直流電圧入力端子57との間には、フィルタ部55が設けられている。すなわち、直流電圧入力端子57の正極側端子57aと、負極側端子57bとの間には、フィルタ回路としてのLCフィルタ55a、ローパスフィルタ55c、及び保護素子としてのツェナーダイオード55bが設けられている。つまり、電池セル44に対して、LCフィルタ55a、ツェナーダイオード55b及びローパスフィルタ55cが並列に接続されている。
【0023】
また、入出力部52は、第1電池セル44aの端子間において、第1電池セル44aの内部複素インピーダンス情報を反映した応答信号(電圧変動)を入力するための応答信号入力端子58を有する。このため、入出力部52は、応答信号入力部として機能する。
【0024】
また、入出力部52は、交流出力部としての電流モジュレーション回路56に接続されており、電流モジュレーション回路56に対して、第1電池セル44aから出力させる交流信号(正弦波信号)を指示する指示信号を出力する指示信号出力端子59aを有する。また、入出力部52は、フィードバック信号入力端子59bを有する。フィードバック信号入力端子59bは、電流モジュレーション回路56を介して、第1電池セル44aから実際に出力される(流れる)電流信号を、フィードバック信号として入力する。
【0025】
また、入出力部52は、マイコン部53に接続されており、直流電圧入力端子57が入力した直流電圧や、応答信号入力端子58が入力した応答信号、フィードバック信号入力端子59bが入力したフィードバック信号などをマイコン部53に対して出力するように構成されている。なお、入出力部52は、内部にAD変換器を有しており、入力したアナログ信号をデジタル信号に変換してマイコン部53に出力するように構成されている。
【0026】
また、入出力部52は、マイコン部53から指示信号を入力するように構成されており、指示信号出力端子59aから、電流モジュレーション回路56に対して指示信号を出力するように構成されている。なお、入出力部52は、内部にDA変換器を有しており、マイコン部53から入力したデジタル信号をアナログ信号に変換して、電流モジュレーション回路56に対して指示信号を出力するように構成されている。また、電流モジュレーション回路56に指示信号により指示される交流信号(正弦波信号)は、直流バイアスがかけられており、交流信号が負の電流(第1電池セル44aに対して逆流)とならないようになっている。
【0027】
電流モジュレーション回路56は、監視対象である第1電池セル44aを電源として、所定の交流信号(正弦波信号)を出力させる回路である。具体的に説明すると、電流モジュレーション回路56は、半導体スイッチ素子56a(例えば、MOSFET)と、半導体スイッチ素子56aに直列に接続された抵抗56bとを有する。半導体スイッチ素子56aのドレイン端子は、第1電池セル44aの正極端子に接続され、半導体スイッチ素子56aのソース端子は、抵抗56bの一端に直列に接続されている。また、抵抗56bの他端は、第1電池セル44aの負極端子に接続されている。半導体スイッチ素子56aは、ドレイン端子とソース端子との間において通電量を調整可能に構成されている。
【0028】
なお、第1電池セル44aの正極端子及び負極端子は、それぞれ電極(正極又は負極)に繋がっている。そして、応答信号入力端子58は、正極端子及び負極端子の接続可能な部分のうち、最も電極に近い箇所に接続されることが望ましい。また、直流電圧入力端子57の接続箇所も同様に、最も電極に近い箇所、又は応答信号入力端子58の接続箇所の次に近い箇所であることが望ましい。これにより、主電流又は均等化電流による電圧低下の影響を最低限にすることができる。
【0029】
また、電流モジュレーション回路56には、抵抗56bの両端に接続された電流検出部としての電流検出アンプ56cが設けられている。電流検出アンプ56cは、抵抗56bに流れる信号(電流信号)を検出し、検出信号をフィードバック信号として、入出力部52のフィードバック信号入力端子59bに出力するように構成されている。
【0030】
また、電流モジュレーション回路56には、フィードバック回路56dが設けられている。フィードバック回路56dは、入出力部52の指示信号出力端子59aから指示信号を入力するとともに、電流検出アンプ56cからフィードバック信号を入力するように構成されている。そして、指示信号とフィードバック信号とを比較し、その結果を半導体スイッチ素子56aのゲート端子に出力するように構成されている。
【0031】
半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dからの信号に基づいて、指示信号により指示された交流信号(正弦波信号)を第1電池セル44aから出力させるように、ゲート・ソース間に印加する電圧を調整して、ドレイン・ソース間の電流量を調整する。なお、指示信号により指示される波形と、実際に抵抗56bに流れる波形との間に誤差が生じている場合、半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dからの信号に基づいて、その誤差が補正されるように、電流量を調整する。これにより、抵抗56bに流れる交流信号が安定化する。
【0032】
ところで、電池監視装置50は、監視対象である第1電池セル44aを電源として、所定の交流信号(正弦波信号)を出力させるため、監視時に電流として第1電池セル44aから引き出された電力は熱として無駄に消費される。そのため、この電力を有効活用できる技術が望まれる。
【0033】
本実施形態の電源システム10では、電力供給の冗長性を確保するため、組電池40では、第1電力系統41と第2電力系統42とを備えている。電池監視装置50では、この第1電力系統41と第2電力系統42とを利用して、監視時に第1電池セル44aから引き出された電力を有効活用する。
【0034】
具体的には、電池監視装置50は、電力伝達部としてのコンバータ50bを備える。本実施形態では、コンバータ50bは、絶縁型トランス(以下、単にトランス)50bである。トランス50bは、1次側コイル61と2次側コイル62とを含む。1次側コイル61は、第1電池セル44aの電極間を接続する第1電気経路R1に設けられている。電流モジュレーション回路56のうち、半導体スイッチ素子56aと抵抗56bとは、第1電気経路R1に設けられている。そのため、第1電気経路R1には、交流信号(正弦波信号)としての第1電流I1が流れる。
【0035】
2次側コイル62は、第2電池セル44bの電極間を接続する第2電気経路R2に設けられている。トランス50bでは、第1電気経路R1に流れる第1電流I1が1次側コイル61に流れることで、1次側コイル61に出力する電気エネルギにより2次側コイル62に起電力が生じ、この起電力により第2電気経路R2に第2電流I2を流す。この際、トランス50bは、第2電池セル44bに電力を蓄える向きに第2電流I2を流す。
【0036】
つまり、電池監視装置50では、監視対象である第1電池セル44aから交流信号(正弦波信号)としての第1電流I1を第1電気経路R1に出力させると、トランス50bによる電力伝達により、第2電気経路R2に第2電流I2が流れる。トランス50bは、この第2電流I2が、第2電池セル44bに電力を蓄える向きに流れるように接続されているため、この第2電流I2を用いて第2電池セル44bに電力を蓄えることができる。そのため、監視時に第1電池セル44aから引き出された電力を有効活用することができる。
【0037】
次に、電池セル44の複素インピーダンスの算出方法について説明する。電池監視装置50は、所定周期ごとに、
図3に示す複素インピーダンス算出処理を実行する。
【0038】
複素インピーダンス算出処理において、マイコン部53は、最初に複素インピーダンスの測定周波数を設定する(ステップS101)。測定周波数は、予め決められた測定範囲内の周波数の中から設定される。
【0039】
次にマイコン部53は、測定周波数に基づいて、交流信号(正弦波信号)の周波数を決定し、入出力部52に対して、当該交流信号の出力を指示する指示信号を出力する(ステップS102)。
【0040】
入出力部52は、指示信号を入力すると、DA変換器により、アナログ信号に変換し、電流モジュレーション回路56に出力する。電流モジュレーション回路56は、指示信号に基づいて、電池セル44を電源として交流信号(正弦波信号)を出力させる。具体的には、半導体スイッチ素子56aは、フィードバック回路56dを介して入力された信号に基づき、指示信号により指示された交流信号を電池セル44から出力させるように、交流信号としての第1電流I1を調整する。これにより、電池セル44から交流信号が出力される。
【0041】
電池セル44から交流信号(正弦波信号)を出力させると、すなわち、電池セル44に外乱を与えると、電池セル44の端子間に電池セル44の内部複素インピーダンス情報を反映した電圧変動が生じる。入出力部52は、応答信号入力端子58を介して、その電圧変動を入力し、応答信号としてマイコン部53に出力する。その際、AD変換器により、デジタル信号に変換して出力する。
【0042】
また、電池セル44から交流信号(正弦波信号)を出力させると、すなわち、第1電気経路R1に第1電流I1を流すと、第2電気経路R2に第2電流I2が流れる。つまり、応答信号のために第1電気経路R1に流れる第1電流I1により第2電気経路R2に第2電流I2が流れ、これにより、第2電池セル44bに電力を蓄えることができる。
【0043】
ステップS102の実行後、マイコン部53は、入出力部52から応答信号を入力する(ステップS103)。また、マイコン部53は、電流モジュレーション回路56の抵抗56bに流れる信号(つまり、電池セル44から出力される信号)を電流信号として取得する(ステップS104)。具体的には、マイコン部53は、電流検出アンプ56cから出力されたフィードバック信号(検出信号)を、入出力部52を介して、電流信号として入力する。なお、フィードバック信号の代わりに、電流モジュレーション回路56に指示した指示信号に比例した値を電流信号としてもよい。
【0044】
次に、マイコン部53は、応答信号及び電流信号に基づいて、複素インピーダンスを算出する(ステップS105)。つまり、マイコン部53は、応答信号の振幅、電流信号との位相差等に基づいて複素インピーダンスの実部、虚部、絶対値、位相のすべて若しくはいずれかを算出する。マイコン部53は、通信部54を介して、算出結果をECU60に出力する(ステップS106)。そして、算出処理を終了する。
【0045】
この算出処理は、測定範囲内の複数の周波数についての複素インピーダンスが算出されるまで繰り返し実行される。ECU60は、算出結果に基づいて、例えば、複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)を作成し、電極及び電解質などの特性を把握する。例えば、蓄電状態(SOC)や劣化状態(SOH)を把握する。
【0046】
なお、コールコールプロット全体を必ずしも作成する必要はなく、その一部に着目してもよい。例えば、走行時、一定の時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOC、SOH及び電池温度等の走行時における変化を把握してもよい。または、1日毎、1周ごと、若しくは1年ごとといった時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOH等の変化を把握してもよい。
【0047】
第1実施形態の電池監視装置50は、以下の効果を有する。
【0048】
本実施形態では、第1電気経路R1に流れる第1電流I1により、第2電気経路R2に第2電流I2を出力させるトランス50bが設けられている。これにより、監視対象である第1電池セル44aから交流信号(正弦波信号)としての第1電流I1を第1電気経路R1に出力させると、第2電気経路R2に第2電流I2が出力する。
【0049】
この際、トランス50bは、第2電池セル44bに電力を蓄える向きの第2電流I2を出力させる。つまり、応答信号のために第2電気経路R2に流れる第2電流I2を用いて、第2電池セル44bに電力を蓄えることができる。これにより、監視時に第1電池セル44aから引き出された電力を有効活用することができる。
【0050】
電池監視装置50では、一般に、応答信号の振幅は、第1電池セル44aの電圧に比較して微弱な信号であり、応答信号を入力するために電流モジュレーション回路56に印加する必要がある電圧は、第1電池セル44aの電圧よりも低い。本実施形態では、この点に注目し、トランス50bを設けることで、電流モジュレーション回路56に印加される電圧を下げつつ、余った電圧を用いて第2電池セル44bに電力を蓄える。これにより、電流モジュレーション回路56による通電量の調整において、無駄に消費されていた電力を有効活用することができる。
【0051】
本実施形態では、電流モジュレーション回路56は、監視対象とする第1電池セル44aを電源として、交流信号(正弦波信号)を出力させる。このため、交流信号を第1電池セル44aに入力するための外部電源が必要なくなり、電池監視装置50の部品点数削減、小型化、低コスト化を実現することが可能となる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電池監視装置50について、第1実施形態の電池監視装置50との相違点を中心に
図4を参照しつつ説明する。本実施形態では、監視対象とする電池セル44が第2電池セル44bであり、監視対象とする第2電池セル44bと異なる第1電池セル44aを電源として、交流信号(正弦波信号)を出力させる点で、第1実施形態の電池監視装置50と異なる。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0053】
図4には、第2電池セル44bを監視する電池監視装置50が示されている。本実施形態の電池監視装置50では、入出力部52は、監視対象とする第2電池セル44bに対して接続されている。また、入出力部52は、第1電気経路R1に設けられた半導体スイッチ素子63に対して、第1電流I1を流すか否かを切り替える切替信号を出力する切替信号出力端子59cを有する。本実施形態では、マイコン部53は、複素インピーダンス算出処理において、交流信号(正弦波信号)の出力を指示する指示信号を出力する場合に、第1電流I1を流すように切り替える切替信号を出力する(
図3 ステップS102)。
【0054】
電流モジュレーション回路56は、第1電気経路R1に第1電流I1が流れると、トランス50bによる電力伝達により、交流信号(正弦波信号)としての第2電流I2を第2電気経路R2に出力させる。つまり、電流モジュレーション回路56は、監視対象とは異なる第1電池セル44aを電源として、交流信号を出力させる。
【0055】
第2実施形態の電池監視装置50は、以下の効果を有する。
【0056】
本実施形態では、第1電気経路R1に流れる第1電流I1により、第2電気経路R2に第2電流I2を出力させるトランス50bが設けられている。そのため、第1電気経路R1に第1電流I1を流すことで、第2電気経路R2に交流信号(正弦波信号)としての第2電流I2が出力する。
【0057】
この際、第2電池セル44bでは、交流信号により複素インピーダンスが算出されるとともに、この交流信号により第2電池セル44bが充電される。一般に、組電池40では、電荷量が少ない電池セル44ほど劣化しているため、複素インピーダンスの算出をする必要がある。しかし、複素インピーダンスの算出にこの電池セル44の電力が用いられると、この電池セル44の電荷量がさらに減少し、電池セル44の劣化がさらに進んでしまう。本実施形態では、複素インピーダンスの算出と充電とを同時に実行するため、第2電池セル44bの電荷量が少ない場合でも、その劣化を抑制しつつ、複素インピーダンスを算出することができる。
【0058】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電池監視装置50について、第1実施形態及び第2実施形態の電池監視装置50との相違点を中心に
図5~7を参照しつつ説明する。本実施形態では、各電力系統41,42に含まれる複数の電池セル44ごとに、電池監視装置50が設けられている点で、第1実施形態及び第2実施形態の電池監視装置50と異なる。本実施形態において、制御部50aとコンバータ50bとは電池監視部70aを構成している。電池監視部70aは、第1実施形態及び第2実施形態に記載の電池監視装置50に相当する。そのため、電池監視部70aは、第1電力系統41を電力出力側の出力側電力系統とし、第2電力系統42を電力入力側の入力側電力系統とする。
【0059】
また、コンバータ50bが、非絶縁型のコンバータである点で、第1実施形態の電池監視装置50と異なる。さらに、電池監視装置50は、電池監視部70aの他に、高圧側スイッチSMHや低圧側スイッチSMLを必須の構成として備える点で、第1実施形態の電池監視装置50と異なる。
【0060】
具体的には、
図5に示すように、電池監視装置50は、電池監視部70aの他に、出力側スイッチ部64と、入力側スイッチ部65と、高圧側スイッチSMHと、低圧側スイッチSMLと、低圧側抵抗器RLと、を備えている。
【0061】
出力側スイッチ部64は、第1電力系統41に含まれる各電池セル44の正極端子及び負極端子に接続される出力ラインLn上に個別に設けられた複数の出力側スイッチSAnを備える。出力側スイッチSAnは、第1電力系統41に含まれる各電池セル44と電池監視部70aとの接続状態を切り替える。つまり、出力側スイッチSAnは、第1電力系統41に含まれる各電池セル44を電池監視部70aに接続し、各電池セル44と電池監視部70aとの間を開閉する。なお、出力側スイッチSAnとしては、例えば、フォトモスリレー等の高耐圧のスイッチング素子を用いることができる。
【0062】
上記のように接続されることにより、第1電力系統41のうち、電池監視部70aに接続される電池セル44が切り替わる。そのため、監視対象とする電池セル44が第1電池セル44a、つまり第1電力系統41に含まれる電池セル44である場合には、この出力側スイッチ部64を用いて、監視する電池セル44を切り替える。また、監視対象とする電池セル44が第2電池セル44b、つまり第2電力系統42に含まれる電池セル44である場合には、この出力側スイッチ部64を用いて、電力を出力する電池セル44を切り替える。
【0063】
入力側スイッチ部65は、第2電力系統42に含まれる各電池セル44の正極端子及び負極端子に接続される入力ラインMn上に個別に設けられた複数の入力側スイッチSBnを備える。入力側スイッチSBnは、第2電力系統42に含まれる各電池セル44と電池監視部70aとの接続状態を切り替える。つまり、入力側スイッチSBnは、第2電力系統42に含まれる各電池セル44を電池監視部70aに接続し、各電池セル44と電池監視部70aとの間を開閉する。なお、入力側スイッチSBnとしては、例えば、フォトモスリレー等の高耐圧のスイッチング素子を用いることができる。
【0064】
上記のように接続されることにより、第2電力系統42のうち、電池監視部70aに接続される電池セル44が切り替わる。そのため、監視対象とする電池セル44が第1電池セル44a、つまり第1電力系統41に含まれる電池セル44である場合には、この入力側スイッチ部65を用いて、電力を入力する電池セル44を切り替える。また、監視対象とする電池セル44が第2電池セル44b、つまり第2電力系統42に含まれる電池セル44である場合には、この入力側スイッチ部65を用いて、監視する電池セル44を切り替える。
【0065】
高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLは、制御部50aのマイコン部53によりオン/オフ状態が制御される。このため、マイコン部53は、状態制御部として機能する。
【0066】
低圧側抵抗器RLは、負極側電源経路L2と各電力系統41,42の負極側電源端子の間に設けられており、各低圧側スイッチSMLに並列接続されている。低圧側抵抗器RLは、MΩオーダの抵抗値を有しており、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLがオフ状態に切り替えられた場合に、各電力系統41,42の負極側電源端子における電圧の過度な変動を抑制する。
【0067】
次に、第3実施形態における複素インピーダンス算出処理について
図6,7に基づいて説明する。複素インピーダンス算出処理は、電池監視装置50により所定周期ごとに実行される。
【0068】
図6は、監視対象とする電池セル44が第1電池セル44aである場合の複素インピーダンス算出処理である。
図6に示す複素インピーダンス算出処理において、マイコン部53は、最初に測定対象とする電池セル44である第1電池セル44aを選択する(ステップS201)。第1電池セル44aは、例えば予め定められた順番で選択される。
【0069】
次にマイコン部53は、第2電力系統42に含まれる各電池セル44の電荷量を取得する(ステップS202)。マイコン部53は、各電池セル44の電荷量を、例えば電荷量の相関値としての各電池セル44の直流電圧から取得する。このため、マイコン部53は、電荷量取得部として機能し、直流電圧は、電荷量パラメータとして機能する。
【0070】
ステップS202の実行後、マイコン部53は、各電池セル44の電荷量に基づいて、電力を入力する電池セル44である第2電池セル44bを選択する(ステップS203)。具体的には、マイコン部53は、電荷量が最も少ない電池セル44を、第2電池セル44bとして選択する。このため、マイコン部53は、選択部として機能する。
【0071】
次に、マイコン部53は、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLをオフ状態に制御する(ステップS204)。ステップS202の実行後、マイコン部53は、出力側スイッチ部64及び入力側スイッチ部65を用いて、選択された第1電池セル44a及び第2電池セル44bを電池監視部70aに接続する(ステップS205)。
【0072】
次に、マイコン部53は、ステップS206~S211の処理を実行する。なお、ステップS206~S211の処理は、
図3におけるステップS101~S106の処理と同一であるため、重複した説明を省略する。
【0073】
次に、マイコン部53は、出力側スイッチ部64及び入力側スイッチ部65を用いて、選択された第1電池セル44a及び第2電池セル44bと電池監視部70aとの間の接続を解除する(ステップS212)。ステップS212の実行後、マイコン部53は、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLをオン状態に制御する(ステップS213)。そして、算出処理を終了する。
【0074】
一方、
図7は、監視対象とする電池セル44が第2電池セル44bである場合の複素インピーダンス算出処理である。
図7に示す複素インピーダンス算出処理において、マイコン部53は、最初に測定対象とする電池セル44である第2電池セル44bを選択する(ステップS301)。第2電池セル44bは、例えば予め定められた順番で選択される。
【0075】
次にマイコン部53は、第1電力系統41に含まれる各電池セル44の電荷量を取得する(ステップS302)。マイコン部53は、各電池セル44の電荷量を、例えば各電池セル44の直流電圧から取得する。
【0076】
ステップS302の実行後、マイコン部53は、各電池セル44の電荷量に基づいて、電力を出力する電池セル44である第1電池セル44aを選択する(ステップS303)。具体的には、マイコン部53は、電荷量が最も多い電池セル44を、第2電池セル44bとして選択する。
【0077】
次に、マイコン部53は、ステップS304~S313の処理を実行する。なお、ステップSS304~S313の処理は、
図3におけるステップSS204~S213の処理と同一であるため、重複した説明を省略する。
【0078】
これらの算出処理は、測定範囲内の複数の周波数についての複素インピーダンスが算出されるまで繰り返し実行される。ECU60は、算出結果に基づいて、例えば、複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)を作成し、電極及び電解質などの特性を把握する。例えば、蓄電状態(SOC)や劣化状態(SOH)を把握する。
【0079】
なお、コールコールプロット全体を必ずしも作成する必要はなく、その一部に着目してもよい。例えば、走行時、一定の時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOC、SOH及び電池温度等の走行時における変化を把握してもよい。または、1日毎、1周ごと、若しくは1年ごとといった時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOH等の変化を把握してもよい。
【0080】
第3実施形態の電池監視装置50は、以下の効果を有する。
【0081】
本実施形態では、出力側スイッチ部64により、第1電力系統41に含まれる各電池セル44を電池監視部70aに接続する。これにより、監視対象とする電池セル44が第1電池セル44aの場合には、共通の電池監視部70aを用いて第1電池セル44aを監視することができ、電池監視装置50の部品点数削減、小型化、低コスト化を実現することが可能となる。
【0082】
また、監視対象とする電池セル44が第2電池セル44bの場合には、第2電池セル44bに対して、第1電力系統41に含まれる各電池セル44から電力を出力することができる。この際に、電荷量が最も多い電池セル44から電力を出力するように、第1電力系統41に含まれる各電池セル44を電池監視部70aに接続することで、各電池セル44の電荷量を放電により均等化することができる。
【0083】
本実施形態では、入力側スイッチ部65により、第2電力系統42に含まれる各電池セル44を電池監視部70aに接続する。これにより、監視対象とする電池セル44が第2電池セル44bの場合には、共通の電池監視部70aを用いて第2電池セル44bを監視することができ、電池監視装置50の部品点数削減、小型化、低コスト化を実現することが可能となる。
【0084】
また、監視対象とする電池セル44が第1電池セル44aの場合には、第1電池セル44aから、第2電力系統42に含まれる各電池セル44に対して電力を入力することができる。この際に、電荷量が最も少ない電池セル44に電力を入力するように、第2電力系統42に含まれる各電池セル44を電池監視部70aに接続することで、各電池セル44の電荷量を充電により均等化することができる。
【0085】
出力側スイッチ部64及び入力側スイッチ部65により、第1,第2電力系統41,42に含まれる各電池セル44を切り替えて電池監視部70aに接続する場合に、電池監視部70aに接続された電池セル44の正極端子(負極端子)の電圧に大きな電圧差が生じていることがある。この場合に、電池監視部70aを構成するコンバータ50bが非絶縁型であると、この大きな電圧差により電池セル44間に過大な電流が流れ、電池セル44が損傷することがある。
【0086】
本実施形態では、この損傷を抑制するために、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLが設けられており、各電池セル44を切り替えて電池監視部70aに接続する際に、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLをオフ状態に切り替える。高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLをオフ状態に切り替えることで、電池監視部70aに接続された電池セル44の正極端子(負極端子)の電圧に電圧差が生じることを抑制することができる。
【0087】
さらに、本実施形態では、低圧側スイッチSMLに並列接続された低圧側抵抗器RLが設けられている。そのため、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLがオフ状態に切り替えられた場合に、各電力系統41,42における負極側電源端子の電圧の過度な変動が抑制される。そのため、この電圧の過度な変動により、電池セル44間に過大な電流が流れることを抑制することができる。
【0088】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の電池監視装置50について、第3実施形態の電池監視装置50との相違点を中心に
図8を参照しつつ説明する。本実施形態では、第1電力系統41を電力出力側の出力側電力系統とし、第2電力系統42を電力入力側の入力側電力系統とする電池監視部70aとともに、第2電力系統42を電力出力側の出力側電力系統とし、第1電力系統41を電力入力側の入力側電力系統とする電池監視部70bを備える点で、第3実施形態の電池監視装置50と異なる。以下では、区別のために、電池監視部70aを第1電池監視部70aと呼び、電池監視部70bを第2電池監視部70bと呼ぶ。
【0089】
具体的には、
図8に示すように、電池監視装置50は、第2電池監視部70bの他に、出力側スイッチ部66と、入力側スイッチ部67と、を備えている。以下では、区別のために、出力側スイッチ部64を第1出力側スイッチ部64と呼び、出力側スイッチ部66を第2出力側スイッチ部66と呼ぶ。また、入力側スイッチ部65を第1入力側スイッチ部65と呼び、入力側スイッチ部67を第2入力側スイッチ部67と呼ぶ。
【0090】
第2出力側スイッチ部66は、第2電力系統42に含まれる各電池セル44の正極端子及び負極端子に接続される出力ラインPn上に個別に設けられた複数の出力側スイッチSCnを備える。出力側スイッチSCnは、第2電力系統42に含まれる各電池セル44と第2電池監視部70bとの接続状態を切り替える。つまり、出力側スイッチSCnは、第2電力系統42に含まれる各電池セル44を第2電池監視部70bに接続し、各電池セル44と第2電池監視部70bとの間を開閉する。なお、出力側スイッチSCnとしては、例えば、フォトモスリレー等の高耐圧のスイッチング素子を用いることができる。
【0091】
上記のように接続されることにより、第2電力系統42のうち、第2電池監視部70bに接続される電池セル44が切り替わる。そのため、監視対象とする電池セル44が第2電池監視部70b、つまり第2電力系統42に含まれる電池セル44である場合には、この第2出力側スイッチ部66を用いて、監視する電池セル44を切り替える。また、監視対象とする電池セル44が第1電池セル44a、つまり第1電力系統41に含まれる電池セル44である場合には、この第2出力側スイッチ部66を用いて、電力を出力する電池セル44を切り替える。
【0092】
第2入力側スイッチ部67は、第1電力系統41に含まれる各電池セル44の正極端子及び負極端子に接続される入力ラインQn上に個別に設けられた複数の入力側スイッチSDnを備える。入力側スイッチSDnは、第1電力系統41に含まれる各電池セル44と第2電池監視部70bとの接続状態を切り替える。つまり、入力側スイッチSDnは、第1電力系統41に含まれる各電池セル44を第2電池監視部70bに接続し、各電池セル44と第2電池監視部70bとの間を開閉する。なお、入力側スイッチSDnとしては、例えば、フォトモスリレー等の高耐圧のスイッチング素子を用いることができる。
【0093】
上記のように接続されることにより、第1電力系統41のうち、第2電池監視部70bに接続される電池セル44が切り替わる。そのため、監視対象とする電池セル44が第2電池セル44b、つまり第2電力系統42に含まれる電池セル44である場合には、この第2入力側スイッチ部67を用いて、電力を入力する電池セル44を切り替える。また、監視対象とする電池セル44が第1電池セル44a、つまり第1電力系統41に含まれる電池セル44である場合には、この第2入力側スイッチ部67を用いて、監視する電池セル44を切り替える。
【0094】
第4実施形態の電池監視装置50は、以下の効果を有する。
【0095】
本実施形態では、第1電池監視部70aとともに第2電池監視部70bを備える。そのため、第1電池監視部70aにより第2電池セル44bを充電することができるとともに、第2電池監視部70bにより第1電池セル44aを充電することができる。そのため、第1電池セル44aと第2電池セル44bとのいずれの電荷量が少ない場合でも、その劣化を抑制しつつ、複素インピーダンスを算出することができる。
【0096】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態の電池監視装置50について、第3実施形態の電池監視装置50との相違点を中心に
図9を参照しつつ説明する。本実施形態では、コンバータ50bが、絶縁型のトランス50bである点で、第3実施形態の電池監視装置50と異なる。
【0097】
コンバータ50bがトランス50bである場合、出力側スイッチ部64及び入力側スイッチ部65により、第1,第2電力系統41,42に含まれる各電池セル44を切り替えて電池監視部70aに接続する場合に、電池監視部70aに接続された電池セル44の正極端子(負極端子)の電圧差により電池セル44間に過大な電流が流れることがない。そのため、本実施形態では、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLは必須の構成ではない。また、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLをオフ状態に切り替える必要もないため、低圧側抵抗器RLが設けられていない。
【0098】
本実施形態では、マイコン部53は、複素インピーダンス算出処理において、選択された第1電池セル44a及び第2電池セル44bを電池監視部70aに接続する前に(
図6 ステップS205,
図7 ステップS305)、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLをオフ状態に制御する必要がない(
図6 ステップS204,
図7 ステップS304)。また、マイコン部53は、選択された第1電池セル44a及び第2電池セル44bと電池監視部70aとの間の接続を解除した後に(
図6 ステップS212,
図7 ステップS312)、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLをオン状態に制御する必要がない(
図6 ステップS213,
図7 ステップS313)。
【0099】
第5実施形態の電池監視装置50は、以下の効果を有する。
【0100】
本実施形態では、出力側スイッチ部64により、第1電力系統41に含まれる各電池セル44を電池監視部70aに接続し、入力側スイッチ部65により、第2電力系統42に含まれる各電池セル44を電池監視部70aに接続する。これにより、共通の電池監視部70aを用いて各電池セル44を監視することができ、電池監視装置50の部品点数削減、小型化、低コスト化を実現することが可能となる。
【0101】
さらに、本実施形態では、コンバータ50bが、絶縁型のトランス50bであるため、高圧側スイッチSMH及び低圧側スイッチSMLが必須の構成ではなく、低圧側抵抗器RLが不要となる。そのため、電池監視装置50の部品点数削減、小型化、低コスト化を好適に実現することが可能となる。
【0102】
(他の実施形態)
・上記実施形態では、電力伝達部としてコンバータ50bを設けたが、コンバータ50bの代わりにフィルタ部50cを設けてもよい。その際、フィルタ部50cの一部を第1電気経路R1及び第2電気経路R2に設けてもよい。
【0103】
例えば、
図10に示すように、フィルタ部50cは、フィルタ回路としてのLCフィルタ71及び半導体スイッチ素子72を有する。LCフィルタ71は、コイル71aとコンデンサ71bとを有している。コイル71aは、第1電気経路R1に設けられており、コンデンサ71bは、第2電気経路R2に設けられている。LCフィルタ71は、第1電池セル44aの電圧が第2電池セル44bよりも大きい場合に、第1電池セル44aから第2電池セル44bに電力を伝達する。
【0104】
半導体スイッチ素子72は、第1電気経路R1と第2電気経路R2とを接続する中間電気経路R3に設けられている。半導体スイッチ素子72は、例えばIGBTである。制御部50aのASIC部51における入出力部52は、半導体スイッチ素子72のゲート端子に接続されており、半導体スイッチ素子72に対して、指示信号を出力する指示信号出力端子59dを有する。つまり、入出力部52は、電流モジュレーション回路56と半導体スイッチ素子72とに対して同一の指示信号を出力する。
【0105】
そのため、第1電気経路R1に交流信号(正弦波信号)としての第1電流I1が流れる場合に、半導体スイッチ素子72を介して、第1電気経路R1から第2電気経路R2に電流が流れ、第2電気経路R2に第2電流I2が流れる。この際、第2電気経路R2には、第2電池セル44bに電力を蓄える向きの第2電流I2が流れる。つまり、応答信号のために第1電気経路R1に流れる第1電流I1により、第2電気経路R2に、第2電池セル44bに電力を蓄える向きの第2電流I2が流れる。
【0106】
また、例えば、
図11に示すように、半導体スイッチ素子72が、例えばMOSFETであってもよい。これにより、IGBTである場合に比べて、電池監視装置50の低コスト化を実現することが可能となる。一方、MOSFETには、ボディダイオード73が並列に接続されている。そのため、このボディダイオード73を介して、第2電池セル44bから第1電池セル44aに意図せずに電力が漏れ出るおそれがある。
【0107】
そのため、本実施形態では、中間電気経路R3における半導体スイッチ素子72の第1電気経路R1側にダイオード74が設けられている。ダイオード74は、半導体スイッチ素子72のボディダイオード73に対して、電流を流す向きが逆となるように設けられている。そのため、第2電池セル44bから第1電池セル44aに意図せずに電力が漏れ出ることを抑制することができる。
【0108】
・上記実施形態において、各電池セル44の蓄電状態や電圧を均等化する均等化処理を電池監視装置50に実施させてもよい。均等化処理とは、各電池セル44の蓄電状態を揃えるように、他の電池セル44に比較して蓄電状態が高い一部の電池セル44を放電させる処理である。これにより、各電池セル44の蓄電状態を揃え、電池セル44のうち一部が過充電となることを抑制することができる。そして、電池監視装置50が、均等化処理を実施する場合、電流モジュレーション回路56を利用して、第1電池セル44aを放電させて、第2電池セル44bを充電させてもよい。
【0109】
具体的に説明すると、第3実施形態において、マイコン部53は、第1電力系統41の各電池セル44の蓄電状態に基づいてECU60等から放電指示を受けた場合、若しくは、電池セル44の蓄電状態又は電圧が所定値以上となった場合、電流モジュレーション回路56に指示信号を出力し、電池セル44から正弦波信号や矩形波といった周期関数若しくは直流信号を出力させる。そして、マイコン部53は、放電指示が終了するまで、若しくは電池セル44の蓄電状態又は電圧が所定値よりも小さくなるまで、信号の出力を継続させる。これにより、第1電力系統41の均等化処理が実施される。
【0110】
そして、第1電力系統41の均等化処理のために、第1電池セル44aを放電させる際、第2電池セル44bを充電させて、同時に第2電力系統42の均等化処理を実施してもよい。これにより、消費電力を抑制することができる。
【0111】
・上記実施形態において、組電池40が2つの電力系統により構成される例を示したが、3つ以上の電力系統により構成されてもよい。例えば、組電池40が、第1電力系統、第2電力系統、及び第3電力系統により構成されている場合を想定する。この場合、第1電力系統を電力出力側の出力側電力系統とし、第2電力系統を電力入力側の入力側電力系統とする電池監視部と、第2電力系統を電力出力側の出力側電力系統とし、第3電力系統を電力入力側の入力側電力系統とする電池監視部と、第3電力系統を電力出力側の出力側電力系統とし、第1電力系統を電力入力側の入力側電力系統とする電池監視部とが設けられてもよい。これにより、何れの電力系統に含まれる電池セル44の電荷量が少ない場合でも、その劣化を抑制しつつ、複素インピーダンスを算出することができる。
【0112】
また、これに代えて、またはこれに加えて、第1電力系統を電力入力側の入力側電力系統とし、第2電力系統を電力出力側の出力側電力系統とする電池監視部と、第2電力系統を電力入力側の入力側電力系統とし、第3電力系統を電力出力側の出力側電力系統とする電池監視部と、第3電力系統を電力入力側の入力側電力系統とし、第1電力系統を電力出力側の出力側電力系統とする電池監視部と、が設けられてもよい。
【0113】
・上記実施形態において、電池セル44の電荷量の相関値として、各電池セル44の直流電圧を例示したが、これに限られず、各電池セル44のSOC、SOH及び電池温度等であってもよい。
【0114】
・上記実施形態において、フィルタ部55は、素子のみにより構成されていなくてもよい。例えば、配線、コネクタ接触部、プリント基板のパターン配線やベタパターン間により、又はこれらの構成と素子とが混在する構成であってもよい。
【0115】
・上記実施形態において、電流モジュレーション回路56と、入出力部52との間に、フィルタ回路を設けてもよい。これにより、指示信号をアナログ信号に変換する際の誤差を抑制することができる。
【0116】
・上記実施形態において、フィードバック回路56d及び電流検出アンプ56cの一方又は両方は、ソフトウェアにより実現してもよい。
【0117】
・上記実施形態において、フィードバック回路56dがなくてもよい。また、電流検出アンプ56cにより抵抗56bに流れる電流を検出しなくてもよい。
【0118】
・上記実施形態において、直流電圧を検出したが、検出しなくてもよい。
【0119】
・上記実施形態の電池監視装置50を、車両として、HEV,EV,PHV,補機電池、電動飛行機、電動バイク、電動船舶に採用してもよい。
【0120】
・上記実施形態において、電池セル44から出力させる電流信号は、正弦波信号に限らない。例えば、交流信号であれば、矩形波や三角波等の信号であっても構わない。
【0121】
・上記実施形態において、ECU60は、複数のECUにより構成されていてもよい。例えば、機能ごとに複数のECUを設けてもよく、また、制御対象ごとに複数のECUを設けてもよい。例えば、電池用ECUと、インバータ制御用ECUとに分けてもよい。
【0122】
・上記実施形態において、複素インピーダンスを、いわゆる2位相ロックイン検出を実施してもよい。以下、監視対象とする電池セル44が第1電池セル44aである場合について、詳しく説明する。
【0123】
図12に示すように、制御部50aのASIC部51には、第1電池セル44aの端子間における直流電圧を測定する差動アンプ151が設けられている。差動アンプ151は、直流電圧入力端子57に接続されており、直流電圧を測定し、出力するように構成されている。
【0124】
また、制御部50aのASIC部51には、正弦波信号の出力時における第1電池セル44aの電圧変動を、応答信号入力端子58を介して入力する増幅器としてのプリアンプ152が設けられている。プリアンプ152は、応答信号入力端子58を介して入力した電圧変動を増幅し、応答信号として出力する。すなわち、応答信号の振幅は、第1電池セル44aの電圧に比較して微弱な信号であることから、応答信号の検出精度を向上させるため、プリアンプ152が設けられている。なお、本実施形態では、プリアンプ152は、1段であったが、多段にしてもよい。
【0125】
また、
図12に示すように、第1電池セル44aの正極端子と正極側の応答信号入力端子58(プリアンプ152の正極側端子側)との間には、直流成分をカットするためのコンデンサC1が設けられている。これにより、第1電池セル44aの電圧変動のうち、直流成分(内部複素インピーダンス情報に関係ない部分)を除くことができ、応答信号の検出精度を向上させることができる。
【0126】
また、ASIC部51には、差動アンプ151から出力される直流電圧と、プリアンプ152から出力される応答信号とを切り替える信号切替部153が設けられている。信号切替部153には、AD変換器154が接続されており、切り替えられた信号(アナログ信号)が、デジタル信号に変換されて出力されるように構成されている。
【0127】
AD変換器154は、演算部としてのシグナルプロセッシング部155に接続されており、直流電圧を入力するように構成されている。また、AD変換器154は、第1乗算器156及び第2乗算器157に接続されており、応答信号をそれぞれ入力するように構成されている。
【0128】
第1乗算器156には、後述する発振回路158が接続されており、第1の参照信号が入力されるようになっている。第1乗算器156は、第1の参照信号と、応答信号を乗算して、応答信号の実部に比例した値を算出し、ローパスフィルタ159を介して、応答信号の実部に比例した値をシグナルプロセッシング部155に出力するようになっている。なお、
図12では、応答信号の実部をRe|Vr|と示す。
【0129】
第2乗算器157には、位相シフト回路160を介して、発振回路158に接続されており、第2の参照信号が入力される。第2の参照信号は、第1の参照信号の位相を90度(π/2)進ませた信号である。位相シフト回路160は、発振回路158から入力した正弦波信号(第1の参照信号)の位相を進ませ、第2の参照信号として出力する。
【0130】
第2乗算器157は、第2の参照信号と、応答信号を乗算して、応答信号の虚部に比例した値を算出し、ローパスフィルタ161を介して、応答信号の虚部に比例した値をシグナルプロセッシング部155に出力するようになっている。なお、
図12では、応答信号の虚部をIm|Vr|と示す。
【0131】
発振回路158は、設定された正弦波信号を出力する回路であり、波形指示部として機能する。発振回路158は、前述したように、第1乗算器156及び位相シフト回路160に対して、正弦波信号を第1の参照信号として出力する。また、発振回路158は、DA変換器162を介して、指示信号出力端子59aに接続されており、正弦波信号を指示信号として出力する。
【0132】
フィードバック信号入力端子59bは、AD変換器163を介して、シグナルプロセッシング部155に接続されている。シグナルプロセッシング部155は、AD変換器163を介して、フィードバック信号入力端子59bからフィードバック信号(検出信号)を入力する。
【0133】
シグナルプロセッシング部155は、応答信号の実部に比例した値及び応答信号の虚部に比例した値を入力し、それらの値に基づいて、複素インピーダンスの実部及び虚部を算出する。その際、シグナルプロセッシング部155は、入力したフィードバック信号を用いて、実際に流れる信号の振幅と、参照信号との位相ずれを加味して、複素インピーダンスの実部及び虚部を算出(補正)する。
【0134】
また、シグナルプロセッシング部155は、複素インピーダンスの絶対値と位相を算出する。詳しく説明すると、2位相ロックイン検出により、応答信号の実部と虚部がわかるため、応答信号の位相をθvとすると、複素平面の極座標表示では|Vr|e^jθvのように示すことができる。同様に、電流は、|I|e^jθiに示すように表すことができる。これから複素インピーダンスの極座標表示を|Z|e^jθzとすると、V=ZIから数式(1)のように表すことができる。また、「j」は、j^2=-1を満たす虚数単位である。
【0135】
【数1】
よって、複素インピーダンスの絶対値は|Z|=|Vr|/|I|、位相はθv-θiから求めることができる。そして、シグナルプロセッシング部155は、通信部54を介して、ECU60に算出結果を出力する。なお、
図12では、複素インピーダンスの絶対値を|Z|と示し、その位相をarg(Z)と示す。
【0136】
次に、2位相ロックイン検出における複素インピーダンス算出処理について
図13に基づいて説明する。複素インピーダンス算出処理は、電池監視装置50により所定周期ごとに実行される。
【0137】
複素インピーダンス算出処理において、発振回路158は、最初に複素インピーダンスの測定周波数を設定する(ステップS401)。測定周波数は、予め決められた測定範囲内の周波数の中から設定される。本実施形態において、測定周波数は、例えば、シグナルプロセッシング部155により決定される。
【0138】
次に、信号切替部153は、プリアンプ152からの応答信号が出力されるように切替を行う(ステップS402)。切り替えの指示は、例えば、シグナルプロセッシング部155により行われる。
【0139】
次に発振回路158は、測定周波数に基づいて、正弦波信号(所定の交流信号)の周波数を決定し、DA変換器162を介して、指示信号出力端子59aから電流モジュレーション回路56に対して、当該正弦波信号の出力を指示する指示信号を出力する(ステップS403)。なお、指示信号の出力指示は、例えば、シグナルプロセッシング部155により行われる。DA変換器162によりアナログ信号に変換される際、第1電池セル44aの電圧を考慮して、適切なオフセット値(直流バイアス)が設定されて、変換される。オフセット値(直流バイアス)の設定は、例えば、シグナルプロセッシング部155により行われる。オフセット値(直流バイアス)の設定は、第1電池セル44aの直流電圧に基づき、行われることが望ましい。なお、第1電池セル44aの直流電圧は、差動アンプ151により測定すればよい。
【0140】
電流モジュレーション回路56は、指示信号に基づいて、第1電池セル44aを電源として正弦波信号を出力させる(ステップS404)。これにより、第1電池セル44aから正弦波信号が出力されるとともに、第2電池セル44bに電力が蓄えられる。
【0141】
第1電池セル44aから正弦波信号を出力させると、第1電池セル44aの端子間に第1電池セル44aの内部複素インピーダンス情報を反映した電圧変動が生じる。プリアンプ152は、応答信号入力端子58を介して、その電圧変動を入力し、応答信号として出力する(ステップS405)。
【0142】
なお、応答信号入力端子58に入力される際、電圧変動の直流成分はコンデンサC1によりカットされ、電圧変動の特徴部分だけ取り出される。また、プリアンプ152は、直流成分がカットされた微弱な電圧変動を増幅させて、応答信号として出力する。その際、AD変換器154は、信号切替部153を介して入力された応答信号を、デジタル信号に変換し、出力する。コンデンサC1によりカットされる直流成分の大きさは、第1電池セル44aの直流電圧に基づき、調整されることが望ましい。同様に、電圧変動をどれだけ増幅させるかは、第1電池セル44aの直流電圧に基づき、調整されることが望ましい。
【0143】
第1乗算器156は、発振回路158から入力した正弦波信号を第1の参照信号とし、AD変換器154から入力した応答信号を乗算して、応答信号の実部に比例した値を算出する(ステップS406)。同様に、第2乗算器157は、位相シフト回路160から入力した第2の参照信号と、応答信号を乗算して、応答信号の虚部に比例した値を算出する。
【0144】
これらの値は、ローパスフィルタ159及びローパスフィルタ161を介して、シグナルプロセッシング部155に入力される。なお、ローパスフィルタ159及びローパスフィルタ161を通過する際、直流成分(DC成分)以外の信号は減衰し、除去される。
【0145】
シグナルプロセッシング部155は、フィードバック信号入力端子59bからフィードバック信号(検出信号)を入力する(ステップS407)。フィードバック信号は、シグナルプロセッシング部155に入力される際、AD変換器163により、デジタル信号に変換される。
【0146】
シグナルプロセッシング部155は、フィードバック信号、及びローパスフィルタ159,161から入力された信号(実部及び虚部の比例値)に基づいて、複素インピーダンスの実部、虚部、絶対値、及び位相のうちすべて若しくはいずれかを算出する(ステップS408)。フィードバック信号は、実際に第1電池セル44aから流れる電流(つまり、フィードバック信号)と参照信号に比例する値との振幅又は位相のずれを補正するために利用される。
【0147】
その後、シグナルプロセッシング部155は、通信部54を介して、算出結果をECU60に出力する(ステップS409)。そして、算出処理を終了する。
【0148】
この算出処理は、測定範囲内の複数の周波数についての複素インピーダンスが算出されるまで繰り返し実行される。ECU60は、算出結果に基づいて、複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)を作成し、電極及び電解質などの特性を把握する。例えば、蓄電状態(SOC)や劣化状態(SOH)を把握する。
【0149】
なお、コールコールプロット全体を必ずしも作成する必要はなく、その一部に着目してもよい。例えば、走行時、一定の時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOC、SOH及び電池温度等の走行時における変化を把握してもよい。または、1日毎、1周ごと、若しくは1年ごとといった時間間隔で特定周波数の複素インピーダンスを測定し、当該特定周波数の複素インピーダンスの時間変化に基づいて、SOH等の変化を把握してもよい。
【符号の説明】
【0150】
10…電源システム、41…第1電力系統、42…第2電力系統、44a…第1電池セル、44b…第2電池セル、50…電池監視装置、50b…トランス、52…入出力部、53…マイコン部、56…電流モジュレーション回路、R1…第1電気経路、R2…第2電気経路。