(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】冠水検知装置、冠水検知システム、及び冠水検知プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
G08G1/00 J
(21)【出願番号】P 2019148408
(22)【出願日】2019-08-13
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】服部 潤
(72)【発明者】
【氏名】山部 尚孝
(72)【発明者】
【氏名】上田 健揮
(72)【発明者】
【氏名】橋本 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】戸敷 創
(72)【発明者】
【氏名】石原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】落合 勇太
(72)【発明者】
【氏名】河合 英紀
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024460(JP,A)
【文献】特開2002-127773(JP,A)
【文献】特開2007-139090(JP,A)
【文献】特開2002-225590(JP,A)
【文献】特開2000-110925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
B60W 10/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行に関する複数種類の走行状態データを取得する取得部と、
車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗とで構成された、車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルと、前記取得部が取得した現在の前記複数種類の走行状態データとに基づいて予測した前記物理量と、前記取得部が取得した現在の前記走行状態データから得られる前記物理量とを用いて、車両が走行する道路の冠水を検知する検知部と、
を含
み、
前記車両挙動モデルは、重回帰式を学習モデルとして用いて導出する冠水検知装置。
【請求項2】
複数の車両から走行に関する複数種類の走行状態データを取得する取得部と、
車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗とで構成された、車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルを、複数の車両から予め取得した前記複数種類の走行状態データと、予め定めた学習モデルとを用いて導出する導出部と、
前記導出部が導出した前記車両挙動モデルと、予め定めた注目車両から前記取得部が取得した現在の前記複数種類の走行状態データとを用いて予測した前記物理量と、前記注目車両から前記取得部が取得した前記走行状態データから得られる前記物理量とを用いて、前記注目車両が走行する道路の冠水を検知する検知部と、
を含む冠水検知装置。
【請求項3】
前記車両挙動モデルは、重回帰式を学習モデルとして用いて導出する請求項2に記載の冠水検知装置。
【請求項4】
前記走行抵抗は、車両に作用する加速抵抗を更に含む請求項1
~3の何れか1項に記載の冠水検知装置。
【請求項5】
前記検知部は、予測した前記物理量と前記走行状態データから得られる前記物理量との差が予め定めた閾値以上の場合に、冠水と判定して冠水を検知する請求項1~
3の何れか1項に記載の冠水検知装置。
【請求項6】
前記車両挙動モデルは、車両の速度、加速度、または、加速度の変化率を前記物理量として、運動方程式を用いて導出する請求項1~5の何れか1項に記載の冠水検知装置。
【請求項7】
車両の走行に関する複数種類の走行状態データを検出する検出部と、
前記検出部が検出した前記複数種類の走行状態データを複数の車両から取得する取得部と、
車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗と、で構成された、車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルを、前記取得部が複数の車両から予め取得した前記複数種類の走行状態データと、予め定めた学習モデルとを用いて導出する導出部と、
前記導出部が導出した前記車両挙動モデルと、予め定めた注目車両から前記取得部が取得した現在の前記複数種類の走行状態データとを用いて予測した前記物理量と、前記注目車両から前記取得部が取得した現在の前記走行状態データから得られる前記物理量とを用いて、前記注目車両が走行する道路の冠水を検知する検知部と、
を含む冠水検知システム。
【請求項8】
複数の車両に対する前記検知部の検知結果を収集する結果収集部と、
前記結果収集部が収集した前記検知結果に基づいて、冠水エリアを推定する推定部と、
を更に含む請求項7に記載の冠水検知システム。
【請求項9】
前記推定部の推定結果を配信する配信部を更に含む請求項8に記載の冠水検知システム。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1~6のいずれか1項に記載の冠水検知装置の各部として機能させるための冠水検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠水検知装置、冠水検知システム、及び冠水検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大量の降雨や他の場所に降った雨水などが流入することにより、道路が冠水することがある。このような道路の冠水を検知する技術としては、例えば、特許文献1、2の技術が提案されている。
【0003】
特許文献1では、車両に液状有体物の存在を検知可能に構成された冠水センサを備えて道路の冠水を検知し、センタサーバに検知結果を送信し、他の車両に通過不能な冠水を通らないルートを設定して迂回ルートの案内を行うことが提案されている。
【0004】
特許文献2では、車両のワイパの拭き取り速度と動作時間とに基づいて、車両が走行している位置の降雨量を予測し、他車からの予測降雨量を基に、走行ルートに冠水が発生するか否かを予測することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-341795号公報
【文献】特開2012-216103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、冠水センサが必要であり、より簡易に冠水を判定するためには改善の余地がある。
【0007】
また、特許文献2の技術では、降雨量が同じでも全ての運転者が同じワイパ速度で作動させるとは限らず、冠水を正確に判定するためには改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、車両の走行状態データを用いて簡易かつ高精度に道路の冠水を検知可能な冠水検知装置、冠水検知システム、及び冠水検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の冠水検知装置は、車両の走行に関する複数種類の走行状態データを取得する取得部と、車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗とで構成された、車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルと、前記取得部が取得した現在の前記複数種類の走行状態データとに基づいて予測した前記物理量と、前記取得部が取得した現在の前記走行状態データから得られる前記物理量とを用いて、車両が走行する道路の冠水を検知する検知部と、を含み、前記車両挙動モデルは、重回帰式を学習モデルとして用いて導出する。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、取得部では、車両の走行に関する複数種類の走行状態データが取得される。例えば、冠水検知装置は車両に搭載する場合と、車両以外に設ける場合などがあり、車両に搭載される場合には、取得部は、自車両の走行状態データを取得する。また、冠水検知装置が車両以外に設けられる場合には、取得部は、予め定めた注目車両の走行状態データを取得する。
【0011】
そして、検知部では、重回帰式を学習モデルとして用いて導出する車両挙動モデルであって車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルと、取得部が取得した現在の複数種類の走行状態データとに基づいて予測した物理量と、取得部が取得した現在の走行状態データから得られる物理量とを用いて、車両が走行する道路の冠水が検知される。これにより、冠水検知センサを用いることなく、冠水を検知することができる。また、車両挙動モデルとして、車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗とで構成された車両挙動モデルを用いることで、車両の走行状態データを用いて簡易かつ高精度に道路の冠水を検知することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の冠水検知装置は、複数の車両から走行に関する複数種類の走行状態データを取得する取得部と、車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗とで構成された、車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルを、複数の車両から予め取得した前記複数種類の走行状態データと、予め定めた学習モデルとを用いて導出する導出部と、前記導出部が導出した前記車両挙動モデルと、予め定めた注目車両から前記取得部が取得した現在の前記複数種類の走行状態データとを用いて予測した前記物理量と、前記注目車両から前記取得部が取得した前記走行状態データから得られる前記物理量とを用いて、前記注目車両が走行する道路の冠水を検知する検知部と、を含む。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、取得部では、複数の車両から走行に関する複数種類の走行状態データが取得される。
【0014】
導出部では、車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルが、複数の車両から予め取得した複数種類の走行状態データと、予め定めた学習モデルとを用いて導出される。
【0015】
そして、検知部では、車両挙動モデルと、予め定めた注目車両から取得部が取得した現在の複数種類の走行状態データとを用いて予測した物理量と注目車両から取得部が取得した走行状態データから得られる物理量とを用いて、注目車両が走行する道路の冠水が検知される。これにより、冠水検知センサを用いることなく、冠水を検知することができる。また、車両挙動モデルとして、車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗とで構成された車両挙動モデルを用いることで、車両の走行状態データを用いて簡易かつ高精度に道路の冠水を検知することが可能となる。
【0016】
なお、走行抵抗は、請求項4に記載の発明のように、車両に作用する加速抵抗を更に含んでもよい。これにより、冠水の検知精度を更に向上することが可能となる。
【0017】
また、検知部は、請求項5に記載の発明のように、予測した物理量と走行状態データから得られる物理量との差が予め定めた閾値以上の場合に、冠水と判定して道路の冠水を検知してもよい。これにより、冠水検知センサを用いることなく、冠水を検知することが可能となる。
【0018】
また、車両挙動モデルは、請求項3に記載の発明のように、重回帰式を学習モデルとして用いて導出してもよい。
【0019】
また、車両挙動モデルは、請求項6に記載の発明のように、車両の速度、加速度、または、加速度の変化率を物理量として、運動方程式を用いて導出してもよい。
【0020】
一方、請求項7に記載の冠水検知システムは、車両の走行に関する複数種類の走行状態データを検出する検出部と、前記検出部が検出した前記複数種類の走行状態データを複数の車両から取得する取得部と、車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗と、で構成された、車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルを、前記取得部が複数の車両から予め取得した前記複数種類の走行状態データと、予め定めた学習モデルとを用いて導出する導出部と、前記導出部が導出した前記車両挙動モデルと、予め定めた注目車両から前記取得部が取得した現在の前記複数種類の走行状態データとを用いて予測した前記物理量と、前記注目車両から前記取得部が取得した現在の前記走行状態データから得られる前記物理量とを用いて、前記注目車両が走行する道路の冠水を検知する検知部と、を含む。
【0021】
請求項7に記載の発明は、検出部では、車両の走行に関する複数種類の走行状態データが検出される。
【0022】
取得部では、検出部が検出した複数種類の走行状態データが複数の車両から取得される。
【0023】
導出部では、車両が走行することにより変化する物理量を求める車両挙動モデルが、取得部が複数の車両から予め取得した複数種類の走行状態データと、予め定めた学習モデルとを用いて導出される。
【0024】
そして、検知部では、導出部が導出した車両挙動モデルと、予め定めた注目車両から取得部が取得した現在の複数種類の走行状態データとを用いて予測した物理量と、注目車両から取得部が取得した走行状態データから得られる物理量とを用いて、注目車両が走行する道路の冠水が検知される。これにより、冠水検知センサを用いることなく、冠水を検知することができる。また、車両挙動モデルとして、車両の駆動力と、車両に作用する空気抵抗、車両に作用する勾配抵抗、及び車両に作用する転がり抵抗を含む走行抵抗とで構成された車両挙動モデルを用いることで、車両の走行状態データを用いて簡易かつ高精度に道路の冠水を検知することが可能となる。
【0025】
なお、コンピュータを、請求項1~6のいずれか1項に記載の冠水検知装置の各部として機能させるための冠水検知プログラムとしてもよい。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明によれば、車両の走行状態データを用いて簡易かつ高精度に道路の冠水を判定可能な冠水検知装置を提供できる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施形態に係る冠水検知システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】車速の予測値と実測値と用いたエラー(冠水)判定の一例を説明するための図である。
【
図3】車種とモデルの係数とを対応づけたテーブルの一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る冠水検知システムの冠水エリア推定センタにおいて、車両挙動モデルを機械学習によって導出する際に中央処理部で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】本実施形態に係る冠水検知システムの冠水エリア推定センタにおいて、冠水を判定する際に中央処理部で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態に係る冠水検知システムにおいて、冠水エリア推定センタにおいて中央処理部が冠水エリアを推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】冠水判定を各車両に搭載された情報提供装置側で行う場合の冠水検知システムの構成例を示すブロック図である。
【
図8】車両挙動モデルの他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る冠水検知システムの概略構成を示すブロック図である。
【0029】
本実施形態に係る冠水検知システム10は、複数の車両12に搭載された情報提供装置14と、冠水エリア推定センタ36とが通信ネットワーク34を介して接続されている。冠水エリア推定センタ36は、複数の車両12に搭載された情報提供装置14から車両12の走行状態データをCAN(Controller Area Network)データとして収集する。そして、収集したCANデータを用いて各車両12が走行している道路の冠水を判定する処理を行う。また、冠水エリア推定センタ36は、各車両12が走行している道路の冠水判定の結果を用いて、冠水エリアを推定する処理を行う。
【0030】
各車両12に搭載された情報提供装置14は、演算部16、GPS受信部18、加速度センサ20、表示部22、車速センサ24、通信部26、勾配センサ28、アクセルペダルセンサ30、及びブレーキペダルセンサ32を備えている。なお、加速度センサ20、車速センサ24、勾配センサ28、アクセルペダルセンサ30、及びブレーキペダルセンサ32は、検出部に対応する。
【0031】
演算部16は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等を含む一般的なマイクロコンピュータで構成されている。
【0032】
GPS受信部18は、GPS(Global Positioning System)衛生からの信号を受信して受信したGPS信号を演算部16に出力する。これにより、演算部16は、複数のGPS衛生からのGPS信号に基づいて、自車両12の位置を測位する。
【0033】
加速度センサ20は、自車両12に加わる加速度を走行状態データとして検出し、検出結果を演算部16に出力する。加速度は、車両12の前後方向、幅方向、及び上下方向の各々の方向を検出してもよいが、車両12の前後方向の加速度のみを検出してもよい。
【0034】
表示部22は、冠水エリア推定センタ36によって推定された冠水エリアの情報(例えば、地図情報等)や、各種情報を表示する。
【0035】
車速センサ24は、自車両12の走行速度を走行状態データとして検出し、検出結果を演算部16に出力する。
【0036】
通信部26は、通信ネットワーク34と無線通信を行うことにより、冠水エリア推定センタ36や、他の車両12に搭載された情報提供装置14と通信する。通信ネットワーク34としては、例えば、携帯電話回線網等の無線通信回線網を含む。
【0037】
勾配センサ28は、車両12の傾きを検出することにより、車両12が走行している勾配を走行状態データとして検出し、検出結果を演算部16に出力する。勾配は、車両12の前後方向の勾配のみを検出してもよいし、車幅方向の勾配も加えて検出してもよい。
【0038】
アクセルペダルセンサ30は、アクセルペダルの踏み込み量を走行状態データとして検出し、検出結果を演算部16に出力する。
【0039】
ブレーキペダルセンサ32は、ブレーキペダルの操作状態を走行状態データとして検出し、検出結果を演算部16に出力する。
【0040】
本実施形態では、走行状態データとして、加速度センサ20、車速センサ24、勾配センサ28、アクセルペダルセンサ30、及びブレーキペダルセンサ32の検出結果を一例として検出する例を説明するが、これらに限るものではない。
【0041】
演算部16は、各センサから取得した複数種類の走行状態データ及び車種を識別する車種IDを、通信部26及び通信ネットワーク34を介して冠水エリア推定センタ36に送信する。
【0042】
一方、冠水エリア推定センタ36は、中央処理部38、中央通信部48、モデル記憶部50、及びCANデータベース52を備えている。
【0043】
中央通信部48は、通信ネットワーク34と無線通信を行うことにより、各車両12に搭載された情報提供装置14と通信する。
【0044】
モデル記憶部50は、車両12が走行することにより変化する物理量(詳細は後述)を求める車両挙動モデルと、車種毎に設定された係数テーブルを記憶する。
【0045】
CANデータベース52は、各車両12に搭載された情報提供装置14から取得した走行状態データをCANデータとして記憶する。
【0046】
中央処理部38は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等を含む一般的なコンピュータで構成されている。中央処理部38は、予測部40、判定部42、冠水エリア推定部44、及びモデル更新部46の機能を有する。各機能は、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。なお、中央処理部38の各機能は、取得部、導出部、検知部、結果収集部、及び推定部に相当し、詳細は後述する処理に対応する。
【0047】
予測部40は、モデル記憶部50に予め記憶した車両挙動モデルを読み出し、車種IDから車種を特定して、車種に対応する係数を選択して車両挙動モデルに適用することで車種毎の車両挙動モデルを導出する。そして、導出した車両挙動モデルにCANデータを代入することにより、物理量の予測値を算出する。本実施形態では、予測する物理量として車速を適用し、車速を求めるために予め導出した車両挙動モデルに、車種に対応する予め求めた係数を適用して、車速の予測値を算出する。なお、車速を求める車両挙動モデルの詳細については後述する。
【0048】
判定部42は、予測部40によって予測した車速と、情報提供装置14から取得した実際の車速とを比較して、道路の冠水の有無を判定する。具体的には、予測値と実測値との差が予め定めた閾値以上の場合に冠水と判定することにより道路の冠水を検知する。例えば、
図2に示すように、時間経過に対して、実測値と予測値が変化した場合には、実測値と予測値との差が予め定めた閾値以上の状態が所定時間(例えば、5秒以上)継続した区間で、判定部42は、エラー(冠水)と判定する。
【0049】
冠水エリア推定部44は、判定部42の判定結果を用いて、道路が冠水している冠水エリアを推定する。例えば、地図を四方100m区画に分割してエリアを定義し、個車の判定部42の判定結果を収集し、あるエリアにおいて、所定時間内に所定数以上が冠水と判定された場合、そのエリアを冠水エリアとして推定する。
【0050】
モデル更新部46は、CANデータベース52に記憶されたCANデータを用いて車両挙動モデルの係数を機械学習によって導出し、モデル記憶部50に記憶すると共に、随時モデルの係数テーブルを更新する。
【0051】
続いて、上述の車速を求める車両挙動モデルの一例について詳細に説明する。本実施形態では、運動方程式を用いて物理量として車速を求める車両挙動モデルを導出する。
【0052】
まず、運動方程式は、以下の(1)式で表せる。
【0053】
M×(dv/dt)=F ・・・(1)
【0054】
なお、Mは車両重量、dv/dtは加速度、Fは車両12が前に進む力である。
【0055】
ここで、dv/dtは近似的に以下の(2)式で表せる。
【0056】
dv/dt=(v(t+Δt)-(v(t))/Δt ・・・(2)
【0057】
なお、v(t+Δt)はΔt秒後の車速(予測した車速)、tは時間、v(t)は現在の時刻の車速である。
【0058】
(2)式を(1)式に代入すると、以下の(3)式が得られる。
【0059】
M×(v(t+Δt)-v(t))/Δt=F ・・・(3)
【0060】
v(t+Δt)について整理すると、以下の(4)式となる。
【0061】
v(t+Δt)=v(t)+(F/M)×Δt ・・・(4)
【0062】
ここで、Fの項は、F=F1(車両12の駆動力)-F2(車両12が受ける抵抗)であるが、CANデータを用いると、
【0063】
F1=C1×R ・・・(5)
【0064】
なお、C1は係数、Rはアクセル踏込み量であり、CANデータから得られる。
【0065】
F2=空気抵抗+勾配抵抗+転がり抵抗+加速抵抗 ・・・(6)
【0066】
空気抵抗=C21×v(t)2
【0067】
勾配抵抗=C22×sinθ
【0068】
転がり抵抗=C23×v(t)
【0069】
加速抵抗=C24×a(t)
【0070】
なお、C21、C22、C23、C24は係数、θは路面勾配、v(t)は車速、a(t)は加速度であり、CANデータから得られる。
【0071】
(5)式及び(6)式を(4)式に代入して、下記の重回帰式を車両挙動モデルとして得ることができる。
【0072】
v(t+Δt)=v(t)+{C1×R-(C21×v(t)2+C22×sinθ+C23×v(t)+C24×a(t))}×(Δt/M) ・・・(7)
【0073】
各係数は、複数の車両12から収集してCANデータベースに記憶された大量のCANデータを用いて、重回帰分析の学習モデルにより求めて係数テーブルとしてモデル記憶部50に記憶する。また、CANデータを新たに取得する毎に、モデル記憶部50に記憶された係数を更新する。また、車種毎に係数が異なるため、車種毎に係数を求めて更新する。例えば、モデル記憶部50に記憶する係数は、
図3に示すように、車種とモデルの係数とを対応づけてテーブルとして記憶する。
【0074】
続いて、上述のように構成された本実施形態に係る冠水検知システム10において、冠水エリア推定センタ36において中央処理部38が車両挙動モデルを導出する際の処理について説明する。
図4は、本実施形態に係る冠水検知システム10の冠水エリア推定センタ36において、車両挙動モデルを機械学習によって導出する際に中央処理部38で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、
図4の処理は、車両挙動モデルの初期の係数を導出する際に行われると共に、CANデータベース52にCANデータが収集される毎に行われる。
【0075】
ステップ100では、モデル更新部46が、中央通信部48を介してCANデータベース52に収集した走行状態データとしてのCANデータを取得してステップ102へ移行する。なお、ステップ100は取得部に相当する。
【0076】
ステップ102では、モデル更新部46が、取得したCANデータの前処理を行ってステップ104へ移行する。前処理としては、例えば、日時及び車種毎にCANデータをソートし、時間毎及び車種毎に分類する。また、CANデータ毎に、時間を統一してデータの欠損に対して補間等の処理を行ってもよい。
【0077】
ステップ104では、モデル更新部46が、モデル式を決定し、モデル記憶部50に記憶して一連の処理を終了する。すなわち、CANデータを用いて上述の車両挙動モデルとしての重回帰式の各係数を機械学習により導出してモデル記憶部50に記憶する。既に各係数が記憶されている場合には、各係数を更新する。なお、ステップ104は導出部に相当する。
【0078】
次に、冠水エリア推定センタ36において中央処理部38が各車両12からのCANデータに基づいて冠水を判定する際に行われる処理について説明する。
図5は、本実施形態に係る冠水検知システム10の冠水エリア推定センタ36において、冠水を判定する際に中央処理部38で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、
図5の処理は、例えば、各車両12の情報提供装置14からCANデータを取得する毎、或いは、予め定めた量のCANデータを取得する毎に開始する。
【0079】
ステップ200では、中央処理部38が、中央通信部48及び通信ネットワーク34を介して情報提供装置14からCANデータを取得してステップ202へ移行する。なお、ステップ200は取得部に相当し、以降のステップ202~210の処理が検知部に相当する。
【0080】
ステップ202では、予測部40が、取得したCANデータと車両挙動モデルとを用いて車速の予測値を算出してステップ204へ移行する。すなわち、モデル記憶部50に記憶した車両挙動モデルを読み出して、車種IDから車種を特定して車種に対応する係数を選択して車両挙動モデルに適用する。そして、取得したCANデータを車両挙動モデルに代入することで、車速の予測値を算出する。
【0081】
ステップ204では、判定部42が、車速の予測値と、情報提供装置14から取得した実際のCANデータの車速の実測値とを比較してステップ206へ移行する。
【0082】
ステップ206では、判定部42が、予測値と実測値との差が予め定めた閾値以上であるか否かを判定する。該判定が否定された場合にはステップ208へ移行し、肯定された場合にはステップ210へ移行する。
【0083】
ステップ208では、判定部42が、CANデータを取得した車両12が走行する道路が冠水していない非冠水であると判定して一連の処理を終了する。
【0084】
一方、ステップ210では、判定部42が、CANデータを取得した車両12が走行する道路が冠水していると判定して一連の処理を終了する。
【0085】
続いて、本実施形態に係る本実施形態に係る冠水検知システム10において、冠水エリア推定センタ36において中央処理部38が冠水エリアを推定する処理について説明する。
図6は、本実施形態に係る冠水検知システム10において、冠水エリア推定センタ36において中央処理部38が冠水エリアを推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0086】
ステップ300では、冠水エリア推定部44が、冠水判定情報を収集してステップ302へ移行する。すなわち、
図5の冠水判定の結果を収集する。なお、ステップ300は結果収集部に相当する。
【0087】
ステップ302では、冠水エリア推定部44が、冠水エリアを推定してステップ304へ移行する。冠水エリアの推定は、上述したように、判定部42の判定結果を用いて、道路が冠水している冠水エリアを推定する。例えば、地図を四方100m区画に分割してエリアを定義し、個車の判定部42の判定結果を収集し、あるエリアにおいて、所定時間内に所定数以上が冠水と判定された場合、そのエリアを冠水エリアとして推定する。なお、ステップ302は推定部に相当する。
【0088】
ステップ304では、冠水エリア推定部44が、冠水エリア情報を配信して一連の処理を終了する。例えば、中央通信部48を介して通信ネットワーク34に接続されている情報提供装置14に対して冠水エリア情報を配信することにより、各情報提供装置14を搭載した車両12では、冠水エリアが分かるので、冠水エリアを通行しないルートを選択することが可能となる。例えば、ナビゲーション装置により、冠水エリアを通るルート案内が行われている場合に、冠水エリアを避けるルートをリルートすることが可能となる。或いは、冠水エリア情報を必要としている天気予報会社等に配信して対価を得るようにしてもよい。
【0089】
なお、上記の実施形態では、冠水エリア推定センタ36側で冠水判定を行う例を説明したが、これに限るものではない。例えば、冠水判定は、各車両12に搭載された情報提供装置14側で行うようにしてもよい。
図7は、冠水判定を各車両12に搭載された情報提供装置14側で行う場合の冠水検知システムの構成例を示すブロック図である。この場合には、
図7に示すように、予測部40、判定部42、及びモデル記憶部50の機能を情報提供装置14に持たせる。すなわち、モデル記憶部50には、情報提供装置14を搭載する車両12の車種に応じた車両挙動モデルを予め導出して記憶しておく。或いは、車種毎の複数の車両挙動モデルを予め導出して記憶しておき、使用する際に自車両に対応する車両挙動モデルを選択する構成とする。そして、
図5の処理を情報提供装置14の演算部16が実行することにより、予測部40によって予測値を算出して判定部42による冠水判定を上記実施形態と同様に行うことが可能となる。また、冠水エリアを推定する際には、冠水エリア推定センタ36の中央処理部38が各車両12から冠水の判定結果を収集して
図6の処理を行うことで、冠水エリア推定センタ36が冠水エリアを推定することができる。なお、冠水判定を各車両12に搭載された情報提供装置14側で行う場合は、
図5の処理を演算部16が行う処理に適宜変換して行うものとする。また、この場合の演算部16が実行するステップ200の処理は取得部に相当し、ステップ202~210の処理は検知部に相当する。
【0090】
また、上記の実施形態では、車両挙動モデルとして重回帰式を用いた例を説明したが、車両挙動モデルは、重回帰式による機械学習に限定されるものではない。例えば、車両挙動モデルは、
図8に示すように、CANデータ(アクセル踏み込み量R、車速v(t)、路面勾配θ、加速度dv/dt等)を予測式の説明変数の各項に用いてΔt秒後の予測値v(t+Δt)を求める種々の予測モデルを適用できる。重回帰分析以外の予測モデルの一例としては、ニューラルネットワークや、サポートベクター回帰(SVR:Support Vector Regression)等の各種機械学習モデルを適用してもよい。
【0091】
また、上記の実施形態では、物理量として車速を求める車両挙動モデルを用いたが、物理量はこれに限るものではなく、例えば、加速度や、加速度の変化率など他の物理量を求める車両挙動モデルを用いてもよい。
【0092】
また、上記の実施形態では、空気抵抗、勾配抵抗、転がり抵抗、及び加速抵抗を車両が受ける抵抗F2として、車両挙動モデルを導出したが、車両が受ける抵抗F2はこれに限定されるものではない。例えば、転がり抵抗及び加速抵抗は他の抵抗に比べて小さいので、少なくとも一方の抵抗を省略してもよい。
【0093】
また、上記の各実施形態における冠水検知システム10の各部で行われる処理は、プログラムを実行することにより行われるソフトウエア処理として説明したが、これに限るものではない。例えば、ハードウエアで行う処理としてもよい。或いは、ソフトウエア及びハードウエアの双方を組み合わせた処理としてもよい。また、ソフトウエアの処理とした場合には、プログラムを各種記憶媒体に記憶して流通させるようにしてもよい。
【0094】
さらに、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0095】
10 冠水検知システム
12 車両
14 情報提供装置
16 演算部
36 冠水エリア推定センタ
38 中央処理部
40 予測部
42 判定部
44 冠水エリア推定部
46 モデル更新部
48 中央通信部
50 モデル記憶部
52 CANデータベース