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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】蛇行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/68 20060101AFI20221213BHJP
   B21B 37/58 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B21B37/68 Z
B21B37/58 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019155007
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021030282
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 聡
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-074207(JP,A)
【文献】特開2003-245708(JP,A)
【文献】特開昭63-063515(JP,A)
【文献】特開平11-244921(JP,A)
【文献】特開2017-148834(JP,A)
【文献】特開平10-043807(JP,A)
【文献】米国特許第04794773(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧下レベリング装置を有し、圧延材を連続圧延するN基の圧延スタンド(N≧2)と、
前記N基の圧延スタンドの第i-1圧延スタンド(2≦i≦N)と第i圧延スタンドとの間に設置され、通過する前記圧延材の蛇行量を検出する第i蛇行量検出装置と、を有する圧延システムのための蛇行制御装置であって、
前記圧延材の尾端が前記第i-1圧延スタンドを通過した直後に、前記第i蛇行量検出装置により検出された前記圧延材の蛇行量から、前記第i蛇行量検出装置よりも上流に位置する前記圧延材の尾端部に定めた制御点の制御点蛇行量を推定する尾端部蛇行量推定部と、
前記制御点蛇行量を小さくするように前記第i圧延スタンドのレベリング操作量を変更する圧下レベリング制御部と、
を備え
前記制御点蛇行量は、前記第i圧延スタンドから前記制御点までの距離L CPi を前記第i圧延スタンドから前記第i蛇行量検出装置までの距離L Di で除算した値に、前記第i蛇行量検出装置により検出された蛇行量Yc Di を乗算して算出されることを特徴とする蛇行制御装置。
【請求項2】
前記圧下レベリング制御部は、前記制御点蛇行量が大きいほど、前記レベリング操作量を大きく変更すること、
を特徴とする請求項1記載の蛇行制御装置
【請求項3】
圧下レベリング装置を有し、圧延材を連続圧延するN基の圧延スタンド(N≧2)と、
前記N基の圧延スタンドの第i-1圧延スタンド(2≦i≦N-1)と第i圧延スタンドとの間に設置され、通過する前記圧延材の蛇行量を検出する第i蛇行量検出装置と、を有する圧延システムのための蛇行制御装置であって、
前記圧延材の尾端が前記第i-1圧延スタンドを通過した直後に、前記第i蛇行量検出装置により検出された前記圧延材の蛇行量から、前記第i蛇行量検出装置よりも上流に位置する前記圧延材の尾端部に定めた制御点の制御点蛇行量を推定する尾端部蛇行量推定部と、
前記制御点蛇行量を小さくするように前記第i圧延スタンドのレベリング操作量を変更する圧下レベリング制御部と、
を備え、
前記圧延スタンドの台数Nは少なくとも3以上であり、
前記圧延システムは、前記第i圧延スタンドと前記第i+1圧延スタンドとの間に第i+1蛇行量検出装置を備え、
前記尾端部蛇行量推定部は、前記圧延材の尾端が前記第i-1圧延スタンドを通過した直後に前記第i蛇行量検出装置により検出された上流側蛇行量と、前記第i+1蛇行量検出装置により検出された下流側蛇行量との差から、前記制御点蛇行量を推定すること、
を特徴とする蛇行制御装置。
【請求項4】
前記制御点蛇行量は、前記第i圧延スタンドから前記制御点までの距離LCPiを前記第i圧延スタンドから前記第i蛇行量検出装置までの距離LDiで除算した値に、前記第i蛇行量検出装置により検出された上流側蛇行量YcDiと前記第i+1蛇行量検出装置により検出された下流側蛇行量YcDi+1との差を乗算した値に、前記下流側蛇行量YcDi+1を加算して算出されること、
を特徴とする請求項記載の蛇行制御装置。
【請求項5】
前記圧延システムは、前記第i-1圧延スタンドと前記第i圧延スタンドとの間にサイドガイドを備え、
前記圧下レベリング制御部は、前記圧延材の板幅と前記制御点蛇行量とから前記圧延材の尾端部の幅端部位置を推定し、前記幅端部位置が前記サイドガイドに接触しない位置に達するまで、前記制御点蛇行量を小さくするようにレベリング操作量を変更すること、
を特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の蛇行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延材を連続圧延する圧延システムのための蛇行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間薄板仕上げ圧延機など、複数の圧延スタンドから構成される圧延装置で圧延材を圧延するに際して、圧延材が圧延装置の幅方向中心位置からずれ、圧延ロール幅方向の左右何れかの方向に移動する現象を蛇行という。
【0003】
蛇行現象の多くは、圧延材の尾端付近で発生する。これは、圧延材が当該圧延スタンドの一つ上流側の圧延スタンドを抜け、後方張力による拘束が無くなることで、圧延中に生じた左右(ドライブサイドとワークサイド)の伸びの差が当該圧延スタンド入側での圧延材の曲がりとなって現れるためである。これを圧延することで急激に蛇行が進行することが知られている。
【0004】
また、蛇行量が大きい場合は、圧延スタンド入側に備えられたサイドガイドに衝突し、部分的に折れ曲がった状態の圧延材が圧延されることがある。これを絞り込みと呼ぶ。絞り込みが発生すると、圧延ロールに傷が生じ、圧延ロールの交換作業などが行われるため生産性が低下する。
【0005】
熱間薄板仕上げ圧延機で生じる蛇行を抑制するためには、一般的に各圧延スタンドの圧下レベリングを調整する措置がとられる。しかし、オペレータが蛇行発生を確認し、迅速かつ適切に圧下レベリングを操作するには熟練したスキルが求められる。圧下レベリングとは、圧延機のドライブサイドとワークサイドのロールギャップの差(圧下レベリング量)を制御するアクチュエータである。
【0006】
近年、スタンド間に蛇行検出用のカメラを設置し、検出した蛇行量に基づいて圧下レベリングを自動調整することで、蛇行を防止する制御技術が実用化されている。特許文献1では、圧延スタンド入側で検出した蛇行量に基づいて、下流側所定位置における圧延材の蛇行量を推定し、推定した蛇行量に基づいて、圧下レベリングを操作する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-74207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、圧延スタンド間は障害物(トップガイドやスプレー配管などの付帯設備)が多く、広範囲の撮像が難しい。実際には、圧延スタンド間中央付近の極限られた範囲での撮像に制限される場合が多い。したがって、上流側の圧延スタンドを抜けた直後の圧延スタンド間の圧延材の全体形状を把握することはできず、尾端付近の蛇行量を検知するのが遅れる。
【0009】
さらに、蛇行の発生しやすい、薄物の圧延あるいは後段圧延スタンドにおいては、圧延材の進行速度が速く、短時間で圧延スタンド間を通過する。そのため、圧延材尾端部のサイドガイドへの衝突を回避するためには、圧延材が上流側の圧延スタンドを抜けた直後、早期に蛇行の発生を検出し、一早く圧下レベリングを適切に操作することが必要になる。
【0010】
しかし、従来提案されている方法は、いずれも、圧延スタンド直下における蛇行量を低減するように圧下レベリングを操作している。そのため、圧下レベリングの操作は徐々に行われるが、圧延スタンド上流側の圧延材の曲がりが大きい場合は、尾端付近の蛇行量が十分に修正される前に、圧延スタンド入側のサイドガイドへ衝突することになる。
【0011】
この発明は、上述の課題を解決するためになされた。この発明の目的は、圧延材が上流側の圧延スタンドを抜けた直後の尾端部の蛇行量を推定し、尾端部の蛇行量を早期に低減するように圧下レベリングを操作できる蛇行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の一態様に係る蛇行制御装置は、圧延システムに適用される。圧延システムは、圧下レベリング装置を有し、圧延材を連続圧延するN基の圧延スタンド(N≧2)と、前記N基の圧延スタンドの第i-1圧延スタンド(2≦i≦N)と第i圧延スタンドとの間に設置され、通過する前記圧延材の蛇行量を検出する第i蛇行量検出装置と、を有する。蛇行制御装置は、尾端部蛇行量推定部と圧下レベリング制御部とを備える。尾端部蛇行量推定部は、前記圧延材の尾端が前記第i-1圧延スタンドを通過した直後に、前記第i蛇行量検出装置により検出された前記圧延材の蛇行量から、前記第i蛇行量検出装置よりも上流に位置する前記圧延材の尾端部に定めた制御点の制御点蛇行量を推定する。圧下レベリング制御部は、前記制御点蛇行量を小さくするように前記第i圧延スタンドのレベリング操作量を変更する。好ましくは、圧下レベリング制御部は、前記制御点蛇行量が大きいほど、前記レベリング操作量を大きく変更する。前記制御点蛇行量は、前記第i圧延スタンドから前記制御点までの距離L CPi を前記第i圧延スタンドから前記第i蛇行量検出装置までの距離L Di で除算した値に、前記第i蛇行量検出装置により検出された蛇行量Yc Di を乗算して算出される。
【0013】
この発明の他態様に係る蛇行制御装置は、圧延システムに適用される。圧延システムは、圧下レベリング装置を有し、圧延材を連続圧延するN基の圧延スタンド(N≧2)と、前記N基の圧延スタンドの第i-1圧延スタンド(2≦i≦N-1)と第i圧延スタンドとの間に設置され、通過する前記圧延材の蛇行量を検出する第i蛇行量検出装置と、を有する。蛇行制御装置は、尾端部蛇行量推定部と圧下レベリング制御部とを備える。尾端部蛇行量推定部は、前記圧延材の尾端が前記第i-1圧延スタンドを通過した直後に、前記第i蛇行量検出装置により検出された前記圧延材の蛇行量から、前記第i蛇行量検出装置よりも上流に位置する前記圧延材の尾端部に定めた制御点の制御点蛇行量を推定する。圧下レベリング制御部は、前記制御点蛇行量を小さくするように前記第i圧延スタンドのレベリング操作量を変更する。好ましくは、圧下レベリング制御部は、前記制御点蛇行量が大きいほど、前記レベリング操作量を大きく変更する。前記圧延スタンドの台数Nは少なくとも3以上である。前記圧延システムは、前記第i圧延スタンドと前記第i+1圧延スタンドとの間に第i+1蛇行量検出装置を備える。前記尾端部蛇行量推定部は、前記圧延材の尾端が前記第i-1圧延スタンドを通過した直後に前記第i蛇行量検出装置により検出された上流側蛇行量と、前記第i+1蛇行量検出装置により検出された下流側蛇行量との差から、前記制御点蛇行量を推定する。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、圧延材が上流側の圧延スタンドを抜けた直後の尾端部の蛇行量(尾端部キャンパー形状)を推定し、尾端部の蛇行量を早期に低減するように圧下レベリングを操作できる。その結果、圧延材が圧延スタンドを抜けた直後に急速に発達する蛇行を一早く修正し、圧延材の尾端がサイドガイドへ衝突したり、絞り込みが発生したりするトラブルを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態1における蛇行制御装置を適用する圧延システムの構成を説明するための図である。
図2】この発明の実施の形態1における蛇行制御装置について説明するためのブロック図である。
図3】この発明の実施の形態1における制御点の位置および制御点の蛇行量を推定する方法について説明するための図である。
図4】この発明の実施の形態2における蛇行制御装置について説明するためのブロック図である。
図5】この発明の実施の形態2における制御点の蛇行量を推定する方法について説明するための図である。
図6】この発明の実施の形態3におけるレベリング操作量を決める方法について説明するための図である。
図7】この発明におけるレベリング操作量および圧延材尾端の蛇行量の経時変化を示すグラフである。
図8】蛇行制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略される。
【0017】
実施の形態1.
(圧延システム)
図1は、この発明の実施の形態1における蛇行制御装置を適用する圧延システムの構成を説明するための図である。
【0018】
圧延システムは、N基の圧延スタンドF,F,・・・,Fを有するタンデム圧延装置を備える。Nは2以上の自然数である。圧延材1は、所定の板厚まで各圧延スタンドに連続圧延される。タンデム圧延装置は、例えば熱間薄板仕上げ圧延機である。
【0019】
各圧延スタンドF(1≦i≦N)は、荷重検出装置M、ロール回転速度検出装置R、および圧下レベリング装置Vを備える。
【0020】
また、蛇行量検出装置D,D,・・・,Dはそれぞれ、圧延スタンドF,F,・・・,Fの各スタンド間に設置される。第i蛇行量検出装置D(2≦i≦N)は、第i圧延スタンドFの上流側に距離LDi離れて設置され、この位置を通過する圧延材1の蛇行量を検出する。第i蛇行量検出装置Dは、圧延材1の幅方向のエッジ位置を検出して蛇行量を算出する。例えば、圧延ロールの幅方向中央からの蛇行量が算出される。
【0021】
セットアップ装置10は、圧延材1の母材寸法、目標寸法、目標温度などの圧延条件に基づいて、圧延装置に関する各種セットアップ値を計算する。各圧延スタンドの後進率などの蛇行制御に必要なセットアップ値は、各蛇行制御装置へ出力される。例えば、セットアップ値は圧延材につき1回出力される。
【0022】
蛇行制御装置S,S,・・・,Sは、セットアップ装置10から取得したセットアップ値、蛇行量検出装置から取得した蛇行量、ロール回転速度検出装置から取得したロール回転速度、荷重検出装置から取得した荷重に基づいて、圧下レベリングの操作量を計算し、圧下レベリング装置へ出力する。
【0023】
(蛇行制御装置)
図2は、この発明の実施の形態1における蛇行制御装置について説明するためのブロック図である。以下の説明において、第i-1圧延スタンドFi-1は、第i圧延スタンドFの1つ上流側の圧延スタンドである。第i+1圧延スタンドFi+1は、第i圧延スタンドFの1つ下流側の圧延スタンドである。
【0024】
ここでは、第i圧延スタンドFに適用する第i蛇行制御装置Sを例に、蛇行制御装置が備える機能を説明する。第i蛇行制御装置Sは、尾端部蛇行量推定部20、圧下レベリング制御部30を備える。
【0025】
尾端部蛇行量推定部20は、圧延材1の尾端が第i-1圧延スタンドFi-1を通過した直後に、第i蛇行量検出装置Dにより検出された圧延材1の蛇行量から、第i蛇行量検出装置Dよりも上流に位置する圧延材1の尾端部に定めた制御点の制御点蛇行量を推定する。制御点および制御点蛇行量については、後述する図3の説明で併せて説明する。以下、尾端部蛇行量推定部20について詳細に説明する。
【0026】
尾端部蛇行量推定部20は、第i圧延スタンドFより1つ上流側の第i-1圧延スタンドFi-1の第i-1荷重検出装置Mi-1から取得した検出荷重に基づいて、圧延材1の尾端が第i-1圧延スタンドFi-1を抜けたタイミングを検知する。尾端部蛇行量推定部20は、圧延材1の尾端が第i-1圧延スタンドFi-1を抜けたタイミングから所定の制御周期T経過毎に以下の処理を実施する。
【0027】
まず、尾端部蛇行量推定部20は、セットアップ装置10から取得した圧延スタンドの後進率、およびロール回転速度検出装置Rから取得したロール回転速度に基づいて、第i圧延スタンドFから制御点までの距離LCPi(以下、制御点の位置とも記す)を推定する。
【0028】
さらに、尾端部蛇行量推定部20は、第i蛇行量検出装置Dから取得した検出蛇行量に基づいて、第i蛇行量検出装置Dよりも上流に位置する圧延材尾端部に定めた制御点の蛇行量(制御点蛇行量)を推定する。
【0029】
図3を参照して、この発明の実施の形態1に係る尾端部蛇行量推定部20における、制御点の位置および制御点蛇行量を推定する方法を説明する。
【0030】
制御点は、圧延材の尾端が第i-1圧延スタンドFi-1を抜けた直後の圧延材尾端と第i蛇行量検出装置Dとの間の任意の位置に設定される。好ましくは、制御点は、最も蛇行量が大きくなる圧延材尾端付近に設定される。また、圧延材1の幅方向に関して、制御点は任意の位置に設定される。例えば、制御点は圧延材1の幅方向中央に設定される。制御点の幅方向の位置は、蛇行量検出装置により検出される圧延材1の幅方向のエッジ位置と、セットアップ装置10から取得する各スタンド間における圧延材1の板幅とに基づいて算出できる。
【0031】
制御点の位置LCPiは、第i圧延スタンドFから制御点までの距離を意味する。制御点の位置LCPiは、式(1)に示すように圧延材1が第i-1圧延スタンドFi-1を抜けてからの時間経過tと、第i圧延スタンドF入側の圧延材速度vを用いて算出される。ここで、第i圧延スタンドF入側の圧延材速度vは、式(2)に示すように、第i圧延スタンドFのロール回転速度Vと、セットアップ装置から取得した後進率bから算出される。
【0032】
【数1】
【0033】
【数2】
【0034】
CPi:制御点の位置(第i圧延スタンドFから制御点までの距離)
STDi:スタンド間距離
:第i圧延スタンドF入側の圧延材速度
:第i-1圧延スタンドFi-1を抜けてからの経過時間
:第i圧延スタンドFのロール回転速度
:後進率[-]
【0035】
制御点蛇行量YcTPは、式(3)に示すように、第i圧延スタンドFから制御点までの距離LCPiを第i圧延スタンドFから第i蛇行量検出装置Dまでの距離LDiで除算した値に、第i蛇行量検出装置により検出された蛇行量YcDiを乗算して算出される。圧延材1が第i-1圧延スタンドFi-1を抜けた後、一般的に第i圧延スタンドF直下の蛇行量は小さく、圧延材尾端付近の蛇行量が最も大きくなる。このとき、第i圧延スタンドF直下から圧延材尾端にかけての蛇行量の変化は近似的に直線的に変化すると考えて差し支えない。そのため、制御点蛇行量は、式(3)のように求めることができる。
【0036】
【数3】
【0037】
YcTP:制御点蛇行量(制御点における推定蛇行量)
YcDi:第i蛇行量検出装置Dの検出蛇行量
CPi:制御点の位置
Di:第i蛇行量検出装置Dの設置位置
【0038】
圧下レベリング制御部30は、制御周期T経過毎に、尾端部蛇行量推定部20から制御点における推定蛇行量(制御点蛇行量)を取得し、この制御点蛇行量に基づいて、レベリング操作量を計算する。
【0039】
圧下レベリング制御部30は、制御点蛇行量を小さくするように第i圧延スタンドFのレベリング操作量を変更する。例えば、図3の上方をワークサイド、下方をドライブサイドとした場合、図3の圧延材1はワークサイド側に蛇行しているため、圧下レベリング制御部30は、ワークサイドのロールギャップがドライブサイドのロールギャップに比して狭くなる方向にレベリング操作量を変更する。
【0040】
レベリング操作量は、制御点蛇行量と蛇行目標値の偏差を小さくするように、PI制御器やレギュレータ等で演算され、圧下レベリング装置へ出力される。例えば、蛇行目標値は、圧延材の制御点を圧延ロールの幅方向中央に戻すことを目的に“0”に設定される。
【0041】
好ましくは、圧下レベリング制御部30は、制御点蛇行量が大きいほど、レベリング操作量を大きく変更する。蛇行量検出装置の上流側で生じる大きな制御点蛇行量に対して、制御点蛇行量が大きいほどレベリング操作量を大きく変更することで、圧延材1の尾端部をライン中心位置(蛇行目標値)へ早期に近づけることができる。
【0042】
図7は、本発明と比較対象との圧延材尾端における蛇行制御効果の差異を示す比較図である。本発明では、第i蛇行量検出装置Dの上流に位置する圧延材尾端部に定めた制御点の推定蛇行量(制御点蛇行量)を制御対象としているのに対し、比較対象では、第i蛇行量検出装置Dの下流に位置する第i圧延スタンドF直下における推定蛇行量を制御対象としている。いずれの蛇行制御においても第i圧延スタンドFの圧下レベリング装置を操作する。
【0043】
比較対象では、第i圧延スタンドF直下における蛇行量を制御対象としているため、上流の第i-1圧延スタンドFi-1抜け後の、第i圧延スタンドFにおける圧下レベリング操作は緩やかに行われ、圧延材尾端の蛇行量も緩やかに矯正される。すなわち、圧延材尾端部の蛇行量に比して第i圧延スタンドF直下の蛇行量は小さいため、レベリング操作量の変更も小さい。そのため、第i圧延スタンドF上流側の圧延材1の曲がりが大きい場合は、尾端付近の蛇行量が十分に修正される前に、第i圧延スタンドF入側のサイドガイドへ衝突することになる。
【0044】
一方、本発明では、第i蛇行量検出装置Dの上流に位置する圧延材尾端部に定めた制御点の推定蛇行量(制御点蛇行量)を制御対象としており、第i-1圧延スタンドFi-1抜け直後に圧下レベリング装置が大きく操作され、圧延材尾端の蛇行量も迅速に修正することができる。
【0045】
(効果)
以上説明したように、本実施形態における蛇行制御装置によれば、圧延材1が圧延スタンドを抜けた直後の尾端部の蛇行量を推定し、尾端部の蛇行量を早期に蛇行量を低減するように圧下レベリングを操作できる。その結果、圧延材1が圧延スタンドを抜けた直後に急速に発達する蛇行を一早く修正し、圧延材1の尾端がサイドガイドへ衝突したり、絞り込みが発生したりするトラブルを回避できる。
【0046】
(変形例)
ところで、上述した実施の形態1のシステムにおいては、複数の圧延スタンドのそれぞれに蛇行制御装置を備えるものとしているが、圧延スタンドFより下流のいずれか1つの圧延スタンドに蛇行制御装置を備えるものであってもよい。なお、この点は以下の実施の形態でも同様である。
【0047】
実施の形態2.
次に、図4および図5を参照して本発明の実施の形態2について説明する。
図4は、この発明の実施の形態2における蛇行制御装置について説明するためのブロック図である。
【0048】
実施の形態2における圧延システムは少なくとも3基以上の圧延スタンドを備える。また、圧延システムは、第i圧延スタンドFとその1つ下流の前記第i+1圧延スタンドFi+1との間に第i+1蛇行量検出装置Di+1を備える。
【0049】
(蛇行制御装置)
実施の形態2における尾端部蛇行量推定部20は、第i圧延スタンドFの上流に備える第i蛇行量検出装置Dによる検出蛇行量に加えて、第i圧延スタンドFの下流に備える第i+1蛇行量検出装置Di+1による検出蛇行量も取得する。
【0050】
尾端部蛇行量推定部20は、圧延材1の尾端が第i-1圧延スタンドFi-1を通過した直後に第i蛇行量検出装置Dにより検出された上流側蛇行量と、第i+1蛇行量検出装置Di+1により検出された下流側蛇行量との差から、制御点蛇行量を推定する。
【0051】
図5を参照して、本発明の実施の形態2に係る尾端部蛇行量推定部20における、制御点蛇行量を推定する方法を説明する。
【0052】
上流側の第i蛇行量検出装置Diによる検出蛇行量には、第i圧延スタンドFにおけるオフセンター量と第i圧延スタンドF入側の圧延材の曲がり量の両方が含まれる。
【0053】
一方、第i圧延スタンドFと下流側の第i+1圧延スタンドFi+1間の圧延材には大きな曲がりは発生しないため、下流側の第i+1蛇行量検出装置Di+1による検出蛇行量はオフセンター量である。
【0054】
そのため、上流側の第i蛇行量検出装置Dの検出蛇行量と下流側の第i+1蛇行量検出装置Di+1の検出蛇行量との差が、第i蛇行量検出装置Dの位置における圧延材1の実質の曲がり量と考えられる。このようにオフセンター量と実質曲がり量とを分離することで、圧延材尾端付近の制御点蛇行量をより正確に推定することができる。
【0055】
具体的には、制御点蛇行量は、式(4)に示すように、第i圧延スタンドFから制御点までの距離LCPを第i圧延スタンドFから第i蛇行量検出装置Dまでの距離Lで除算した値に、第i蛇行量検出装置Dにより検出された上流側蛇行量YcDiと第i+1蛇行量検出装置Di+1により検出された下流側蛇行量YcDi+1との差を乗算した値に、下流側蛇行量YcDi+1を加算して算出される。
【0056】
【数4】
【0057】
YcTP:制御点における推定蛇行量
YcDi:上流側の第i蛇行量検出装置Dの検出蛇行量
Di+1:下流側の第i+1蛇行量検出装置Di+1の検出蛇行量(オフセンター量)
CPi:制御点の位置
:第i蛇行量検出装置Dの設置位置
【0058】
(効果)
以上説明したように、実施の形態2における蛇行制御装置によれば、圧延スタンドの入側および出側に備えた蛇行量検出装置で検出した蛇行量の差に基づいて、実質の曲がり量を正確に検出できる。すなわち、第i蛇行量検出装置Dによる検出蛇行量からオフセンター量を除いた圧延材1の実質の曲がり量を、正確に検出することができる。実施の形態2の蛇行制御装置によれば、この実質の曲がり量から算出される制御点蛇行量を用いてレベリング操作量を変更するため、圧延材の直線部に影響するような必要以上の蛇行量補正制御を回避できる。
【0059】
実施の形態3.
次に、図6を参照してこの発明の実施の形態3について説明する。
上述した実施の形態1における蛇行制御装置によれば、蛇行した圧延材を圧延ロール幅方向中央まで戻すことができる。しかしながら、圧延材の尾端をサイドガイドに衝突させないためには、必ずしも圧延ロール幅方向中央まで戻す必要はない。そこで、実施の形態3では、蛇行した圧延材の尾端がサイドガイドに衝突しない程度にレベリング操作量を変更することとした。
【0060】
本実施形態における圧延システムは、第i-1圧延スタンドFi-1と第i圧延スタンドFとの間にサイドガイド60を備える。サイドガイド60は、圧延材1の幅方向端部に搬送方向に沿って列設したプレートである。
【0061】
(蛇行制御装置)
本実施形態における圧下レベリング制御部30は、セットアップ装置から取得した圧延材の板幅と、推定された制御点蛇行量とから、制御点における圧延材の幅端部位置を推定する。
【0062】
さらに、圧下レベリング制御部30は、幅端部位置がサイドガイド60に接触しない位置に達するまで、制御点蛇行量を小さくするようにレベリング操作量を変更する。すなわち、レベリング操作量は、図6に示す推定幅端部位置とサイドガイドの内側に設定した目標位置との偏差を小さくするように、PI制御器やレギュレータ等で演算され、圧下レベリング装置へ出力される。
【0063】
(効果)
以上説明したように、実施の形態3における蛇行制御装置によれば、制御点における圧延材の幅端部位置をサイドガイドに衝突しない位置まで制御できる。その結果、圧延材尾端のサイドガイドへの衝突を防ぎつつ、圧延材の直進性が過度に損なわれることを抑制できる。
【0064】
ところで、上述した実施の形態3のシステムは、実施の形態2の構成と組み合わせてもよい。
【0065】
(ハードウェア構成例)
図8は、上述した蛇行制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。図2の蛇行制御装置内の各部は機能の一部を示し、各機能は処理回路により実現される。一態様として、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ91と少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0066】
処理回路がプロセッサ91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0067】
処理回路が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。各機能は処理回路で実現される。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 圧延材
10 セットアップ装置
20 尾端部蛇行量推定部
30 圧下レベリング制御部
60 サイドガイド
91 プロセッサ
92 メモリ
93 ハードウェア
,D,D,Di+1,D 蛇行量検出装置
,F,F,Fi-1,F,Fi+1,F 圧延スタンド
CPi 制御点の位置
Di 第i蛇行量検出装置Dの設置位置
STDi 圧延スタンド間距離
,M,M,Mi-1,M,Mi+1,M 荷重検出装置
,R,R,Ri-1,R,Ri+1,R ロール回転速度検出装置
,S,S,S 蛇行制御装置
圧下レベリング装置
YcDi 上流側蛇行量
YcDi+1 下流側蛇行量
YcTP 制御点蛇行量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8