(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電波透過カバー
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20221213BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20221213BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20221213BHJP
H01Q 15/14 20060101ALI20221213BHJP
G01S 7/40 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G01S7/03 246
G01S13/931
H01Q1/42
H01Q15/14 B
G01S7/40 143
(21)【出願番号】P 2019159340
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】道家 真一
(72)【発明者】
【氏名】小島 英司
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0058746(US,A1)
【文献】特開2014-158073(JP,A)
【文献】特開2018-019136(JP,A)
【文献】特開2005-244043(JP,A)
【文献】特開2016-158042(JP,A)
【文献】特開2016-145777(JP,A)
【文献】米国特許第05140338(US,A)
【文献】特開2003-152418(JP,A)
【文献】Zhang, Chenggang et al.,Adaptive Frequency Selective Surface with ring slot units,2007 International Symposium on Electromagnetic Compatibility,米国,IEEE,2008年01月02日,p.536-538
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95,
H01Q 1/42,15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信及び受信する電波レーダ装置の前記電波の経路内に配置され、かつ前記電波の透過性を有する樹脂製の基材と、前記経路内に配置され、かつ通電により発熱する導電性薄膜とを備え、前記導電性薄膜は、正方形状の単位薄膜部を規則的に並べることにより構成され、各単位薄膜部が、円環状の孔からなるホール領域と、前記ホール領域よりも外周側の導電領域と、前記ホール領域により囲まれて絶縁されたパッチ領域とにより構成される電波透過カバーであり、
前記基材は、前記電波の送信方向における前記電波レーダ装置の前方に配置された後基材と、前記送信方向における前記後基材の前方に配置された透明な前基材とを備え、
前記後基材及び前記前基材の間には意匠層が形成され、
前記導電性薄膜は、透明な材料により形成され、かつ前記送信方向における前記前基材よりも前側に配置され、
前記パッチ領域の半径r、前記ホール領域の径方向における前記導電領域の最小寸法c、前記ホール領域の幅w、前記電波の反射性能Krが最小となる周波数frmin、前記周波数frminを含む帯域の両端の周波数f1,f2、及び前記反射性能Krと周波数の帯域とに関する指標値Qの
各々を変数とし、前記変数を無単位とした場合に成立する以下の(式1)~(式3)に基づいて、前記周波数frminが7
0~8
0となり、かつ前記指標値Qが-15~-5となるように、前記半径r、前記最小寸法c及び前記幅wが設定されている
、
【数1】
ただし、前記(式1)及び前記(式3)における前記半径r、前記最小寸法c及び前記幅wは、いずれも単位をmmとした場合の数値であり、前記(式1)における前記周波数frminと、前記(式2)における前記周波数f1,f2とは、いずれも単位をGHzとした場合の数値である、電波透過カバー。
【請求項2】
前記半径r、前記幅w、前記最小寸法c、前記単位薄膜部の素材表面の抵抗値Rs、表面抵抗値Rs′、前記単位薄膜部におけるワット密度H及び係数Y
の各々を変数とし、前記(式1)~(式3)と、前記変数を無単位とした場合に成立する以下の(式4)~(式6)
とに基づいて、前記ワット密度Hが1
0以上となるように、前記半径r、前記最小寸法c及び前記幅wが設定されている
、
【数2】
ただし、前記(式5)における前記ワット密度Hは、単位をW/m
2
とした場合の値である、請求項1に記載の電波透過カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波レーダ装置の電波の経路内に配置される電波透過カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波レーダ装置等の電波レーダ装置が搭載された車両では、その電波レーダ装置からミリ波等の電波が車外へ向けて送信される。先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された電波は、上記電波レーダ装置によって受信される。送信及び受信された電波により、上記物体が認識されたり、車両と物体との距離や相対速度が検出されたりする。
【0003】
上記車両では、電波の送信方向における電波レーダ装置の前方に電波透過カバーが配置される。電波透過カバーは、車両を装飾するとともに、電波レーダ装置により送信及び受信される電波の透過性を有する。
【0004】
上記電波レーダ装置は、従来、電波透過カバーに雪が付着すると、検出を一時的に停止する処置を採っている。しかし、電波レーダ装置の普及に伴い、降雪時でも検出を行なうことが要望されている。
【0005】
そこで、電波透過カバーに融雪機能を付加することが考えられている。例えば、特許文献1には、細く延びた導電体を配置した電波透過カバーが記載されている。この電波透過カバーに氷雪が付着した場合、導電体への通電に伴い同導電体が発熱されることにより、氷雪が融解される。この融解により、氷雪の付着を原因とする電波の減衰に伴い生ずる、電波レーダ装置の検出性能低下が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のように融雪機能が付加された電波透過カバーにおいては、通電される導電体によって電波が遮られるおそれがある。そのため、上記特許文献1に記載された電波透過カバーでは、上記導電体を、往復して延びるように配置している。導電体において、往復して延びることによって平行となる部分同士の間に、所定の間隔をおくことにより、上記平行となる部分同士の隙間を電波が透過できるようにしている。しかし、上記のように配置された導電体が、電波透過カバーにおける電波の透過性能に対し、どの程度の影響を及ぼすかについては不明である。このため、電波透過カバーに必要とされる電波透過性能が得られない可能性がある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、融雪機能を発揮しつつ、電波透過性能を確保することのできる電波透過カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する電波透過カバーは、電波を送信及び受信する電波レーダ装置の前記電波の経路内に配置され、かつ前記電波の透過性を有する樹脂製の基材と、前記経路内に配置され、かつ通電により発熱する導電性薄膜とを備え、前記導電性薄膜は、正方形状の単位薄膜部を規則的に並べることにより構成され、各単位薄膜部が、円環状の孔からなるホール領域と、前記ホール領域よりも外周側の導電領域と、前記ホール領域により囲まれて絶縁されたパッチ領域とにより構成される電波透過カバーであり、前記パッチ領域の半径r、前記ホール領域の径方向における前記導電領域の最小寸法c、前記ホール領域の幅w、前記電波の反射性能Krが最小となる周波数frmin、前記周波数frminを含む帯域の両端の周波数f1,f2、及び前記反射性能Krと周波数の帯域とに関する指標値Qの間に成立する以下の(式1)~(式3)に基づいて、前記周波数frminが70GHz~80GHzとなり、かつ前記指標値Qが-15~-5となるように、前記半径r、前記最小寸法c及び前記幅wが設定されている。
【0010】
【数1】
上記の構成によれば、導電性薄膜に通電されると、その通電に伴い、各単位薄膜部における導電領域が発熱する。そのため、電波透過カバーに氷雪が付着しても、上記導電領域の発熱により氷雪を融解することが可能である。
【0011】
また、(式1)~(式3)に基づいて、周波数frminが70GHz~80GHzとなり、指標値Qが-15~-5となるように、半径r、最小寸法c及び幅wが設定された導電性薄膜の正方形状の単位薄膜部に対し、電波レーダ装置から送信された電波が入射されると、その電波と同等の波長を有する電波が上記単位薄膜部から出力する。この出力により、電波透過カバーは、電波が上記単位薄膜部を介して透過するのと同様の状態となり、必要とされる電波透過性能が得られる。
【0012】
上記電波透過カバーにおいて、前記(式1)~(式3)に加え、前記半径r、前記幅w、前記最小寸法c、前記単位薄膜部の素材表面の抵抗値Rs、表面抵抗値Rs′前記単位薄膜部におけるワット密度H及び係数Yの間に成立する以下の(式4)~(式6)に基づいて、前記ワット密度Hが10W/m2以上となるように、前記半径r、前記最小寸法c及び前記幅wが設定されていることが好ましい。
【0013】
【数2】
上記の構成によれば、上記(式1)~(式3)に加え、(式4)~(式6)に基づいて、各単位薄膜部におけるワット密度Hが10W/m
2以上となるように、半径r、最小寸法c及び幅wが設定された導電性薄膜に対し通電されると、その通電に伴い、各単位薄膜部における導電領域が、融雪に必要な発熱を行なう。そのため、電波透過カバーに氷雪が付着しても、上記発熱により氷雪をより適切に融解することが可能となる。その結果、電波透過カバーにおける発熱性能の不足抑制と、必要とされる電波透過性能の確保との両立が可能となる。
【0014】
上記電波透過カバーにおいて、前記基材は、前記電波の送信方向における前記電波レーダ装置の前方に配置され、前記導電性薄膜は、透明な材料により形成され、かつ前記送信方向における前記基材よりも前側に配置されていることが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、導電性薄膜が、電波の送信方向における基材の前側に配置されていることから、後側に配置された場合よりも、通電により導電性薄膜において発生された熱が、上記送信方向における電波透過カバーの前面に伝達しやすい。そのため、電波透過カバーの上記前面に氷雪が付着しても、その氷雪は効率よく融解される。
【0016】
また、上記導電性薄膜が透明であることから、基材に対し装飾が施された場合、上記送信方向における電波透過カバーの前方からは、導電性薄膜を通じて装飾が見える。
【発明の効果】
【0017】
上記電波透過カバーによれば、融雪機能を発揮しつつ、電波透過性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態における電波透過カバーの断面構造を電波レーダ装置とともに示す部分縦断面図。
【
図2】第1実施形態における導電性薄膜の部分正面図。
【
図3】
図2の単位薄膜部における各部の寸法関係を説明する部分正面図。
【
図4】第1実施形態において、電波の周波数と反射性能との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、電波透過カバーの第1実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両10には、ミリ波レーダ装置等の電波レーダ装置11が搭載されている。電波レーダ装置11は、ミリ波等の電波を車外(
図1では左側)に向けて送信する一方、車外の物体に当たって反射された上記電波を受信し、そうした電波の送信及び受信を通じて車外の物体を検知する。電波としてミリ波を送信及び受信する車両用の電波レーダ装置11の場合、例えば、76.5GHzの周波数を中央値として、1GHz程度の幅をもって、すなわち、76GHz~77GHzの周波数の帯域で電波を変化させながら送信する。ちなみに、周波数が76.5GHzのときの電波の波長は、約3.92mmである。
【0020】
電波の送信方向における電波レーダ装置11の前方には、電波透過カバー12が配置されている。電波透過カバー12は、電波レーダ装置11によって送信及び受信される電波の経路上に位置し、車両に取付けられている。
【0021】
電波透過カバー12の骨格部分は、誘電体からなる基材13によって構成されている。上記送信方向における基材13の後部は、後基材14によって構成され、前部は前基材17によって構成されている。後基材14は、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合)樹脂によって形成されている。上記送信方向における後基材14の前側の面には突部15が形成されている。上記送信方向における突部15の前端面には、金属皮膜からなり、かつ金属光沢を有する意匠層16が形成されている。ここで、仮に、金属皮膜が一面にわたって連続した状態で形成されると、電波が遮断又は大きく減衰される。そのため、金属皮膜は、例えば、インジウム(In)等の金属材料がスパッタリング又は蒸着されることにより、島構造をなすように形成されている。島構造は、金属皮膜が一面に連続しておらず、多数の微細な金属皮膜が島状に互いに僅かに離間し又は一部接触した状態で敷き詰められてなる構造である。この構造を採用することにより、金属皮膜は不連続構造となり、電気抵抗が高くなり、電波透過性を有する。そして、上記意匠層16により、突部15に対し装飾が施されている。
【0022】
前基材17は、透明なポリカーボネート樹脂によって形成されている。前基材17は、後基材14の上記突部15等を上記送信方向における前側から覆っている。
上記送信方向における基材13の前面には、通電によって発熱してヒータとして機能する導電性薄膜18が積層されている。この導電性薄膜18は、第1実施形態では、銀(Ag)膜等の導電膜によって透明に形成されている。さらに、導電性薄膜18は、ポリカーボネート樹脂等の透明な樹脂材料を用いて形成された保護層19によって覆われている。
【0023】
次に、上記導電性薄膜18について説明する。
図2は、上記送信方向における前方から見た導電性薄膜18の一部を示している、導電性薄膜18は、ヒータとしての機能を有するほか、周波数の特定の帯域の電波を通過させてその帯域以外の他の周波数の電波の通過を抑制する、いわゆるバンドパスフィルタに類する機能を有する。第1実施形態の導電性薄膜18は、電波レーダ装置11によって送信及び受信される電波の周波数帯域、例えば、76GHz~77GHzが通過帯域となるように構成されている。
【0024】
導電性薄膜18は、正方形状をなし、かつ縦方向(
図2の上下方向)に列をなし、かつ横方向(
図2の左右方向)に列をなすように規則的に配列された複数の単位薄膜部21を備えている。個々の単位薄膜部21は、それぞれ物理的に分離されているわけではなく、互いに連続している。
【0025】
各単位薄膜部21は、円環状の孔22からなるホール領域23と、ホール領域23よりも外周側の部分であり、かつ通電により発熱する導電領域24と、ホール領域23により囲まれて絶縁されていて電気が流れない円形のパッチ領域25とによって構成されている。ホール領域23は、例えば、導電性薄膜18の一部にレーザ光を照射して除去することや、導電性薄膜18の一部を薬品で溶かしたりすること(エッチング)等によって形成されている。
【0026】
隣り合う単位薄膜部21におけるホール領域23は、互いに一定間隔をおいて離れている。この間隔としては、いわゆるグレーティングローブが発生しない間隔が設定されることが望ましい。
【0027】
上記パッチ領域25の大きさは、同パッチ領域25に電波レーダ装置11から送信された電波が入射されたとき、その電波と同等の波長を有する電波を出力する大きさに設定されている。より具体的には、ホール領域23の周長が、電波レーダ装置11から送信される電波の波長(この場合、約3.92mm)と同程度の長さとなるように設定されている。また、規則的に並んだ上記ホール領域23同士の間隔又はパッチ領域25同士の間隔は、導電性薄膜18に要求される発熱性能、言い換えれば電波透過カバー12に付着した氷雪を融解し得る発熱性能を満たす間隔に設定されている。
【0028】
ここで、
図3及び
図4に示すように、各単位薄膜部21におけるパッチ領域25の半径を「r」とし、ホール領域23の径方向における導電領域24の最小寸法を「c」とし、同径方向におけるホール領域23の幅を「w」とする。また、電波の反射性能を「Kr」とし、その反射性能Krが最小となる周波数を「frmin」とし、周波数frminを含む帯域の両端の周波数を「f1」,「f2」とする。上記反射性能Krと周波数の帯域とに関する指標値を「Q」とする。
【0029】
正方形状をなす単位薄膜部21の一辺の長さは、2(r+w+c)となる。
上記半径r、最小寸法c、幅w、周波数frmin、周波数f1,f2、反射性能Kr及び指標値Qの間には、以下の(式1)~(式3)が成立する。
【0030】
【数3】
上記(式1)~(式3)は、以下のようにして規定されたものである。まず、
図1における導電性薄膜18が設けられる前の状態の電波透過カバーが対象とされる。以下、このヒータ機能を有しない電波透過カバーを、導電性薄膜18が設けられてヒータ機能を有する電波透過カバー12と区別するために、中間体26というものとする。この中間体26として、電波レーダ装置11から送信された電波の反射が、取り得る範囲の最小となるように設計されたものが用いられている。そして、上記(式1)~(式3)は、上記中間体26に対し導電性薄膜18を積層する場合に、その導電性薄膜18による電波の反射が最小となるホール領域23及びパッチ領域25の最適な形状を設計する際の指針となるように、解析により決定されている。
【0031】
上記(式1)は、
図4において特性線L1で示すように、電波の反射性能Krが最小になる特定の周波数frminでの半径r、最小寸法c及び幅wを設計する際の指針となる。ただし、上記(式1)では、反射性能Krが最小となる周波数が特定されるのみである。電波の反射性能Krそのものや、
図4において特性線L1~L4で示すように、周波数frminを中央値として含む周波数の帯域での電波の反射の度合い、すなわち反射性能Krについては、考慮されていない。
【0032】
そこで、(式2)において、反射性能Krと周波数の帯域とに関する指標値Qを求めるようにしている。2つの周波数f1,f2は、上記周波数frminを含む帯域を特定するためのものである。一方の周波数f1は、上記帯域の例えば低い方の端の値(下限値)であり、他方の周波数f2は上記帯域の例えば高い方の端の値(上限値)である。(式2)の分母は、両周波数f1,f2の差分の絶対値を取ることで、帯域の大きさを特定している。(式2)の分子の反射性能Krは、反射の程度を示すものであり、入射された電波がどれだけ反射したか、すなわち、反射量を「dB」で表したものである。反射性能Krが0dBに近くなるほど電波が反射され、0dBからマイナス側に値が大きくなるほど(
図4の下側ほど)電波が反射されにくくなる。例えば、反射性能Krが-15dBの場合、電波はほとんど反射されず透過するとされている。
【0033】
また、ホール領域23及びパッチ領域25の形状、大きさ等を規定する上記半径r、最小寸法c、幅w等を変化させると、それに伴い、上記周波数と反射性能Krとの関係が、目標とする関係からずれること、例えば、
図4において実線で示されている特性線L1が、同
図4の左右方向にずれることが判っている。
【0034】
また、(式3)は、上記指標値Qと、半径r、最小寸法c及び幅wとの関係を規定したものである。
そして、第1実施形態では、上記(式1)~(式3)に基づいて、周波数frminが70GHz~80GHzとなり、指標値Qが-15~-5となるように、上記半径r、最小寸法c及び幅wが設定されている。
【0035】
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
図2に示す導電性薄膜18に通電されると、その通電に伴い、各単位薄膜部21における導電領域24が発熱する。この熱の一部は、
図1に示すように、導電性薄膜18よりも上記送信方向における前側に位置する保護層19を介して、同方向における電波透過カバー12の前面に伝達される。そのため、電波透過カバー12に氷雪が付着しても、上記熱により氷雪が溶かされる。氷雪による電波の減衰を抑制し、氷雪の付着が原因で電波レーダ装置11の検出性能が低下するのを抑制することができる。
【0036】
また、電波レーダ装置11から送信された電波は、基材13を透過した後に、導電性薄膜18に入射される。
ここで、第1実施形態では、上述したように(式1)~(式3)に基づいて、各単位薄膜部21におけるホール領域23、パッチ領域25等の導電性薄膜18の形状等に関する半径r、最小寸法c及び幅wが設定されている。電波レーダ装置11から送信された周波数の特定の帯域の電波が、単位薄膜部21毎のパッチ領域25に対し入射されると、その電波と同等の波長を有する電波をパッチ領域25から出力させることが可能となる。この出力により、電波透過カバー12は、電波がパッチ領域25を介して透過するのと同様の状態となり、必要とされる電波透過性能を得ることが可能となる。すなわち、送信された電波の周波数の所望の帯域での反射性能Krを最小値(例えば、-15dB)にすることが可能となり、上記帯域での電波の反射を効果的に抑えることが可能となる。電波レーダ装置11によって受信される電波が小さくなって検出が困難になるのを抑制することができる。
【0037】
第1実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・ヒータとして導電性薄膜18を用いている。そのため、ヒータ線を用いた場合に比べ、電波透過カバー12の表面の凹凸を少なくすることができる。また、導電性薄膜18が面状に発熱するため、ヒータ線を用いた場合に比べ均一な発熱が可能である。
【0038】
・導電性薄膜18が透明であるため、その導電性薄膜18自体が見えにくく、電波透過カバー12の見栄えがよくなる。
また、上記送信方向における前方から電波透過カバー12を見た場合、基材13に対し施された意匠層16が、それぞれ透明な保護層19、導電性薄膜18及び前基材17を通じて見える。意匠層16は、電波透過カバー12を装飾する機能を発揮する。従って、意匠層16によって電波透過カバー12ひいては、車両における電波透過カバー12の周りの部分の見栄えをよくすることができる。
【0039】
・電波透過カバー12が、それよりも上記送信方向における後側に配置されている電波レーダ装置11を覆い隠す機能を発揮する。そのため、上記送信方向における電波透過カバー12の前方から電波レーダ装置11が見えるのを抑制することができる。
【0040】
・ホール領域23が円環状に形成されているため、矩形の環状等、角部分を有するものに比べ、電波の入射角度の影響を受けにくい。
・パッチ領域25が円形状をなし、ホール領域23が円環状をなしている。そのため、パッチ領域25及びホール領域23の設計に際し、それらを導電性薄膜18に対し規則的に配列しやすい。
【0041】
・通電により発熱する導電性薄膜18が、上記送信方向における基材13よりも前側に配置されている。導電性薄膜18が上記方向における基材13よりも後側に配置されている場合に比べ、導電性薄膜18の熱が、保護層19に伝達しやすい。そのため、保護層19に付着した氷雪を効率よく溶かすことができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、電波透過カバーの第2実施形態について説明する。
第2実施形態では、上記(式1)~(式3)に加え、上記半径r、幅w、最小寸法c、単位薄膜部21の素材表面の抵抗値Rs、表面抵抗値Rs′、単位薄膜部21におけるワット密度H及び係数Yの間に成立する以下の(式4)~(式6)に基づいて、ワット密度Hが10W/m2以上となるように、半径r、最小寸法c及び幅wが設定されている。
【0043】
【数4】
上記(式4)中の分数の分母は、単位薄膜部21毎の面積を表し、分子は、単位薄膜部21からホール領域23及びパッチ領域25を差し引いた部分、すなわち、導電領域24の面積を表している。
【0044】
上記のように、半径r、最小寸法c及び幅wの設定が、第1実施形態よりも多くの指標に基づいてなされている。
そのため、第2実施形態によると、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。そのほかにも、導電性薄膜18に対し通電されると、その通電に伴い、各単位薄膜部21における導電領域24が、融雪に必要な発熱を行なう。従って、電波透過カバー12に氷雪が付着しても、上記発熱により氷雪をより適切に融解することが可能となる。
【0045】
その結果、第2実施形態によると、電波透過カバー12における発熱性能の不足抑制と、必要とされる電波透過性能の確保とを両立させることができる。
なお、上記特許文献1において、電波透過カバーにおける電波透過性能を高めようとして、往復するように細く延びる上記導電体における平行となる部分同士の隙間を大きくすると、導電体の量が少なくなる。電波透過カバーに付着した氷雪を融解するための導電体の発熱性能が不足するおそれがある。そのため、上記第2実施形態のような効果は得られにくい。
【0046】
上述した各実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0047】
・導電性薄膜18は、上記送信方向における基材13の前側とは異なる箇所に設けられてもよく、例えば、同方向における基材13の中間部分や後側に設けられてもよい。
・導電性薄膜18としては、上記Ag膜等の金属膜以外にも、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)等の金属酸化膜、導電性微粒子を含む樹脂膜等が用いられてもよい。また、導電性薄膜18として、複数種類の膜を積層したものが用いられてもよい。
【0048】
・電波レーダ装置11によって送信及び受信される電波は、ミリ波以外の電波であってもよい。
・後基材14は、上記ASA樹脂とは異なる樹脂、例えばAES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合)樹脂等によって形成されていてもよい。
【0049】
・前基材17及び保護層19の少なくとも一方は、ポリカーボネート樹脂とは異なる透明な樹脂材料、例えばアクリル樹脂等によって形成されてもよい。
・電波透過カバー12における保護層19は適宜省略可能である。
【0050】
・上記電波透過カバー12は、電波の送信方向における電波レーダ装置11の前方に配置されるものであれば、電波レーダ装置11の種類に拘わらず適用可能である。
また、電波レーダ装置11は、車両の前方監視用として用いられることが一般的であるが、後方監視用、前側方監視用、又は後側方監視用の電波レーダ装置であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
11…電波レーダ装置、12…電波透過カバー、13…基材、18…導電性薄膜、21…単位薄膜部、22…孔、23…ホール領域、24…導電領域、25…パッチ領域、r…半径、c…最小寸法、w…幅、frmin,f1,f2…周波数、H…ワット密度、Kr…反射性能、Q…指標値、Rs…単位薄膜部の素材表面の抵抗値、Rs′…表面抵抗値、Y…係数。