(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】排ガスの処理方法及び処理設備
(51)【国際特許分類】
B01D 53/64 20060101AFI20221213BHJP
B09B 3/80 20220101ALI20221213BHJP
【FI】
B01D53/64 100
B01D53/64 ZAB
B09B3/80
(21)【出願番号】P 2019165721
(22)【出願日】2019-09-11
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】村井亮太
(72)【発明者】
【氏名】奥山悟郎
(72)【発明者】
【氏名】大浦峻典
(72)【発明者】
【氏名】藤村怜央
(72)【発明者】
【氏名】中村知道
(72)【発明者】
【氏名】末嶋晋一
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-194546(JP,A)
【文献】特開2009-184902(JP,A)
【文献】特表2005-512791(JP,A)
【文献】特開2014-136169(JP,A)
【文献】特開平08-308817(JP,A)
【文献】特開平10-230137(JP,A)
【文献】特開2004-008872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/00-53/96
B09B 3/00-3/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属蒸気態の水銀を含む排ガスを
平均冷却速度4.5~18.0℃/秒で急速冷却し、排ガス中の水銀を金属蒸気態から金属液体状に凝集させることにより、排ガスから水銀を分離除去する
排ガスの処理方法であって、
前記排ガスは、金属蒸気態の水銀とともにダストを含み、
前記排ガスの前記急速冷却では、前記排ガスに上方から冷却水を散水し、前記排ガス中の水銀を金属蒸気態から金属液体状に凝集させるとともに、前記排ガス中のダストを冷却水に捕集させることにより、凝集した金属液体状の水銀と捕集されたダストを含む冷却水のスラリーを生成させ、
前記スラリーを回収して固液分離し、金属液体状の水銀とダストを含む固形分を分離回収することを特徴とする排ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属蒸気態の水銀を含む排ガスから水銀を分離除去するための排ガスの処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却炉で焼却される物質や各種熱処理炉で処理される物質には、微量の水銀が含まれる場合がある。水銀はその沸点が357℃であるため、微量の水銀を含む物質が焼却炉で焼却されたり、熱処理炉で熱処理されたりすると、水銀は容易に金属蒸気となり排ガス中に同伴される。この金属蒸気態の水銀を含む排ガスから水銀を分離除去することは、環境保全上重要なことである。
【0003】
従来、排ガスに含まれる水銀を除去する方法について幾つかの提案がなされており、例えば、特許文献1には、水銀を含む排ガス中に活性炭を吹込み、水銀を吸着除去する方法が示されている。また、特許文献2には、塩化水銀が水に溶けやすいことを利用して、水銀を含む排ガスに塩化水素に代表される水銀塩素化剤を吹込み、塩化水銀を液相に移行させて分離回収する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-308817号公報
【文献】特開平10-230137号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】占部、外1名、「ごみ燃焼ガス中の水銀の形態に関する熱力学的考察」、廃棄物学会論文誌、1990年、Vol.1、No.1、pp.10-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法は、確かに排ガスから水銀を分離除去することができるが、吸着剤として活性炭を使用するため処理コストが高いという問題がある。また、特許文献2の方法は、排ガスからの水銀の除去という目的は達成可能であるが、後段で水処理装置による水処理が必要であり、そのための設備が必要であることから経済性に問題がある。また、一般に塩素化剤は腐食性の物質であることから排ガス管への影響が避けられず、排ガス管のメンテナンスや交換の回数が増加するため、この面からも経済性に問題がある。
【0007】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、排ガスに含まれる水銀を効率的かつ安価に分離除去し、これを回収することができる排ガスの処理方法及び処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、金属蒸気態の水銀を含む排ガスを散水などにより急速冷却し、排ガスに含まれる水銀を金属蒸気態から金属液体状に凝集させることにより、吸着剤を用いることなく排ガスに含まれる水銀を効率的に分離除去し、これを回収できることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0009】
[1]金属蒸気態の水銀を含む排ガスを急速冷却し、排ガス中の水銀を金属蒸気態から金属液体状に凝集させることにより、排ガスから水銀を分離除去することを特徴とする排ガスの処理方法。
[2]上記[1]の処理方法において、金属蒸気態の水銀を含む排ガスの急速冷却では、平均冷却速度を4.5~18.0℃/秒とすることを特徴とする排ガスの処理方法。
[3]上記[1]又は[2]の処理方法において、金属蒸気態の水銀を含む排ガスに散水することにより、排ガスを急速冷却することを特徴とする排ガスの処理方法。
[4]上記[3]の処理方法において、排ガスに散水した水を回収して固液分離し、固形分の少なくとも一部として、金属液体状に凝集した水銀を回収することを特徴とする排ガスの処理方法。
【0010】
[5]金属蒸気態の水銀を含む排ガスを急速冷却し、排ガス中の水銀を金属蒸気態から金属液体状に凝集させる排ガス冷却装置を備えることを特徴とする排ガスの処理設備。
[6]上記[5]の処理設備において、排ガス冷却装置が、金属蒸気態の水銀を含む排ガスに散水することにより、排ガスを急速冷却する散水式冷却装置であることを特徴とする排ガスの処理設備。
[7]上記[6]の処理設備において、さらに、散水式冷却装置で散水された後、回収された水を固液分離し、固形分の少なくとも一部として、金属液体状に凝集した水銀を回収する固液分離装置を備えることを特徴とする排ガスの処理設備。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸着剤を用いることなく、金属蒸気態の水銀を含む排ガスから水銀を効率的かつ安価に分離除去し、これを回収することができる。しかも、水銀が金属水銀の液体として排ガスから分離されるので、比較的簡易な手段で水銀を回収することができ、この点からも経済的な処理方法であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】排ガスの冷却速度と脱水銀率との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の排ガスの処理方法は、金属蒸気態の水銀を含む排ガスを急速冷却し、排ガス中の水銀を金属蒸気態から金属液体状に凝集させることにより、排ガスから水銀を分離除去するものである。
排ガスを急速冷却する方法に特別な制限はないが、排ガスに散水する方法が簡便かつ経済的であるので、以下、散水で急速冷却する場合を例に説明する。
本発明では、排ガスを散水で急速冷却することにより、水銀を冷却水に移行させることなく(すなわち、塩化水銀として冷却水に溶解させることなく)金属液体状に凝集させることができ、このように金属液体状に凝集した金属水銀粒子は、同時に冷却水に捕集された排ガス中のダストに付着するなどして冷却水に分散した状態となる(スラリー状となる)ので、適当な分離装置により容易に分離回収することができる。
【0014】
排ガス中の水銀の反応についてはいくつかの研究報告があるが、例えば、非特許文献1にあるように、高温では金属水銀が安定であり、低温では塩素等が存在すると塩化水銀が安定であるとの知見がある。
水銀と塩素(塩化水素)との反応は、下記(1)式で表される。
Hg+HCl+1/2O2 ⇔ HgCl2+H2O …(1)
一般に水銀に比較して塩素は潤沢に存在し、低温では容易に反応して塩化水銀になるものと推定されるが、特許文献2に示す方法では、水銀の回収率を向上させるために、或いは、特に高濃度の水銀を含む排ガスの処理において水銀を積極的に水溶性の塩化水銀態に変換するために、塩化剤を添加するものと推定される。
【0015】
ところで、非特許文献1にあるように、高温では上記(1)式の反応中の順方向の反応は起こりにくい。したがって、高温の排ガス(水銀は金属蒸気態で存在)を水で急速冷却することにより低温の排ガス(水銀は金属液体状で存在)にすれば、同時に水に捕集された排ガス中のダストと液体の水銀が分散したいわゆるスラリー状で回収することが可能である。金属水銀の液体は水に溶けないため、スラリー中にのみ水銀を存在させることができる。常温の水銀は液体であるが、水に捕集されたダストに付着するか若しくは単独粒子状でも固体に近い挙動を示すため、水銀が濃化したダストスラリーは、適当な分離装置を用いることで水と水銀が濃化したダストに容易に分離することができる。
【0016】
本発明者らは、金属蒸気態の水銀を冷却する際に、塩化水銀を生成させることなく金属水銀の液体として回収するために必要な冷却条件について検討を行った。一般に高温の排ガスを冷却するためには散水式の冷却装置が用いられる。散水式冷却装置における排ガスの冷却速度を種々変更して排ガス中の水銀形態や水溶性の水銀の分析を実施したところ、排ガス中の水銀を金属水銀の液体として回収するには急速冷却することが有効であることが判った。また、急速冷却の冷却速度(平均冷却速度)としては4.5~18.0℃/秒が好ましく、この冷却速度で排ガスを冷却することにより排ガス中の水銀を金属水銀の液体として確実に分離除去でき、しかも経済的に実施できる(散水式冷却装置を運転できる)ことが判った。
【0017】
図1は、排ガスを散水式冷却装置で冷却し、排ガスの平均冷却速度と脱水銀率との関係を調べた結果を示したものである。
ここで、排ガスの平均冷却速度は、散水式冷却装置入側と出側の排ガス温度差を散水式冷却装置内での排ガスの滞留時間(装置容積(m
3)を排ガス流量(m
3/秒)で除した値)で除した値であり、例えば、排ガス流量が50m
3/秒で散水式冷却装置(装置容積1000m
3)の入側・出側間の排ガス温度差が200℃の場合、平均冷却速度10℃/秒と計算される。
【0018】
また、脱水銀率は排ガス中に含まれる全水銀量と散水式冷却装置でスラリーに移行した水銀量をそれぞれ測定し、下記(2)式で算出した。
脱水銀率=100×Hg-dust/Hg-gas …(2)
Hg-gas:排ガス中に含まれる全水銀量(g/hr)
Hg-dust:散水式冷却装置でスラリーに移行した水銀量(g/hr)
排ガス中に含まれる全水銀量は、例えば、排ガス発生源に近くガス温度が水銀の沸点を超える数百℃以上の温度域で排ガスをサンプリングし、その排ガスの水銀含有量を分析した結果から算出してもよいし、散水式冷却装置でスラリーに移行した水銀量と、散水式冷却装置の下流側でサンプリングされた排ガス中に残留する水銀量をそれぞれ分析により求め、それらを足し合わせた値を用いてもよい。後述する実施例では前者の方法で算出した。
【0019】
排ガス中の水銀量(g/hr)は、排ガス中の水銀濃度をJIS K0222の湿式吸収-還元気化原子吸光分光法により定量(g/m3)し、排ガス流量(m3/hr)との積から算出する。また、散水式冷却装置でスラリーに移行した水銀量(g/hr)は、スラリー中の水銀濃度を環水大水発第120725002号「底質調査方法」に準拠して定量(g/kg-固形分)し、固形分の発生量(kg/hr)との積から算出する。
【0020】
排ガス中の水銀を金属水銀の液体にして除去することを考慮すると、
図1の脱水銀率は100mass%になることが望ましい。ここで、平均冷却速度が小さいうちは脱水銀率は小さい値を示す。これはガスの冷却効果が小さく、上記(1)式によるところの水溶性の塩化水銀が生成され、冷却水(スラリーを構成する水)に水銀が移行(水溶)したためである。平均冷却速度が小さい領域では平均冷却速度(水量比)の増大とともに脱水銀率も上昇する傾向にあり、冷却速度4.5℃/秒でほぼ脱水銀率100mass%となり、以降もほぼ脱水銀率100mass%で推移している。これは、平均冷却速度4.5℃/秒以上で排ガスの冷却が十分に行われた結果、塩化水銀の生成が抑制され、金属水銀の液体が生成されたものと推定される。実際、本発明者らにより、スラリー中の固形分に排ガスの水銀がほぼ移行し、スラリーの液体成分に水銀がほとんど存在しないことを分析で確認できている。ただし、冷却速度をさらに増大させるには、送水管の大径化やポンプ動力の増加が必要になり、経済性が低下するので、平均冷却速度の上限は実用上18.0℃/秒程度となる。このため本発明では、排ガスの平均冷却速度は4.5~18.0℃/秒とすることが好ましい。
【0021】
排ガスを急速冷却するための散水式冷却装置の形式に特に制約はないが、通常、排ガスが通過する装置内の空間に上方から冷却水をシャワー状に散水する1つ以上の散水ノズルを備えた装置が用いられる。また、この散水式冷却装置では、通常、排ガス中のダストも冷却水に捕集されて排ガスから除去される。
本発明法により処理される金属蒸気態の水銀を含む排ガスの種類は特に限定されるものではなく、例えば、都市ごみや産業廃棄物などの焼却炉から排出される排ガスや、各種熱処理炉やボイラなどの高温プロセスから発生する排ガス一般(例えば、鉱物の熱処理時に発生する排ガス、ボイラ排ガスなど)を対象とすることができる。
【0022】
図2は、本発明法の一実施形態を模式的に示すものであり、本発明をストーカー式の都市ごみ焼却炉で発生した焼却炉排ガスの処理に適用した場合を示している。
図において、1はストーカー式の都市ごみ焼却炉、2は都市ごみ焼却炉1から排出された高温の排ガス8(金属蒸気態の水銀を含有する排ガス)から熱回収を行うボイラ、3はこのボイラ2を経た排ガス8を急速冷却して排ガス中の水銀を金属液体状の水銀に凝集させ、排ガスから分離する排ガス冷却装置であり、本実施形態では散水式冷却装置で構成されている。また、4はこの排ガス冷却装置3(散水式冷却装置)で生じたスラリー(散水された冷却水+金属液体状に凝集した水銀+捕集されたダスト)を固液分離する固液分離装置である。
【0023】
前記都市ごみ焼却炉1は、乾燥用の火格子5aと燃焼用の火格子5bからなる2連式の火格子を備え、火格子5aにはその下方から乾燥用空気6aが、火格子5bにはその下方から燃焼用空気6bがそれぞれ供給される。一般に火格子は複数設けられ、ごみを十分に乾燥・燃焼させるために3連式以上とする場合もある。都市ごみ焼却炉1内には供給装置7から都市ごみ(市中から収集されたごみ)が投入され、この投入された都市ごみは火格子5a上で乾燥された後、火格子5b上で燃焼する。燃焼後の灰分16は必要に応じて都市ごみ焼却炉1から取り出され、埋立処分等される。
【0024】
前記排ガス冷却装置3は、排ガスが通過する装置内の空間の上方に散水ノズル9a,9bを有している。この散水ノズル9の設置数は任意であり、1基又は2基以上設置される。
都市ごみ焼却炉1で発生した高温の排ガス8(金属蒸気態の水銀を含む排ガス)は、ボイラ2で熱回収された後、水銀を金属蒸気態で含んだまま排ガス冷却装置3に導入され、散水ノズル9a,9bからの散水により急速冷却(平均冷却速度4.5~18.0℃/秒)される。この急速冷却により、排ガス8中の水銀が金属蒸気態から金属液体状に凝集して排ガス8から分離されるとともに、排ガス8中に含まれるダスト(固体粒子)も冷却水に捕集されて排ガスから分離される。
【0025】
金属液体状に凝集して排ガス8から分離された金属水銀粒子は、同じく排ガスから分離されたダストに付着するなどして装置内に溜まった冷却水に分散した状態となり、スラリー状のもの(スラリー10)が生成する。このスラリー10は排ガス冷却装置3から排出され、固液分離装置4で分離水11と固形分12(金属液体状の水銀を含む)に分離される。
本発明を適用して排ガス冷却装置3での冷却条件を適切に制御して急速冷却を行うことにより、分離水11への水銀の移行(塩化水銀の溶解)はほぼ無くなり、ほぼすべての水銀を金属液体状の水銀として固形分12に移行させることができる。
【0026】
固液分離装置4から回収された分離水11は、循環させて散水ノズル9a,9bで再利用可能である。また、金属液体状の水銀を含む固形分12は環境に影響を及ぼさないように適切に処理される。
排ガス冷却装置3で清浄化されて水銀フリーとなった排ガス8は、清浄装置13及び排気ガス吸引用のブロア14を経て煙突15から大気中に放出される。
なお、以上述べた実施形態は、本発明をストーカー式の都市ごみ焼却炉で発生した焼却炉排ガスの処理に適用したものであるが、さきに述べたように、本発明は種々の高温プロセス(例えば、各種熱処理炉やボイラなどの高温プロセス)から発生する排ガスの処理に適用できる。
【0027】
以上は、排ガスに散水して急速冷却する場合について説明したが、本発明では、散水以外の方法で排ガスを急速冷却してもよい。散水以外の排ガス急冷方法としては、例えば以下のようなものが挙げられるが、これらに限定されない。
(i)水槽中に排ガス管端を浸漬して、バブリングする方法
(ii)排ガス管を複数の細管に分岐させることで、排ガス管の比表面積を大きくした上で、空気や水等の冷媒に接触させる方法
(iii)排ガス管内に空気や水を冷媒とした冷却装置を設置する方法
ここで、上記(i)の方法では、排ガス圧力を水圧分だけ高くする必要があるため、ガスの昇圧が必要となる場合がある。また、上記(ii)の方法では、集塵のためのサイクロンやフィルター等が必要となり、それらの設備コストが高くなるものの、熱交換のメリットが生じるため、冷媒を昇温する必要のある場合には有効な方法となる。また、上記(iii)の方法では、配管壁や冷却装置表面に水銀や他の付着性を有する成分が付着するので、必要に応じて掻きとり装置やダストの抜出機構を設置する必要がある。
【実施例】
【0028】
図2に示すような設備を用いて本発明法による排ガス処理を行なった(発明例1~5)。本実施例では、排ガスの平均冷却速度と脱水銀率を、さきに述べた
図1の試験と同様の方法で算出した。
・発明例1
都市ごみ処理量19.9t/日で排ガス量が3800m
3/hrである都市ごみ焼却設備において、容積55m
3の散水式冷却装置(排ガス冷却装置)により排ガスを急速冷却する処理を実施した。散水式冷却装置入側の排ガス温度は都市ごみのカロリーにより異なるが、本発明例では453℃であり、散水式冷却装置における排ガスの平均冷却速度は7.5℃/秒と計算された。水銀含有量の分析結果から脱水銀率は98.5%であると算出された。本発明例では、特段の設備増強(配管増設)工事の必要なしに高い脱水銀率を得ることができた。
【0029】
・発明例2
都市ごみ処理量35.9t/日で排ガス量が6850m3/hrである都市ごみ焼却設備において、容積55m3の散水式冷却装置(排ガス冷却装置)により排ガスを急速冷却する処理を実施した。散水式冷却装置入側の排ガス温度は都市ごみのカロリーにより異なるが、本発明例では388℃であり、散水式冷却装置における排ガスの平均冷却速度は11.3℃/秒と計算された。水銀含有量の分析結果から脱水銀率は99.0%であると算出された。本発明例では特段の設備増強(配管増設)工事の必要なしに高い脱水銀率を得ることができた。
【0030】
・発明例3
都市ごみ処理量43.2t/日で排ガス量が8250m3/hrである都市ごみ焼却設備において、容積55m3の散水式冷却装置(排ガス冷却装置)により排ガスを急速冷却する処理を実施した。散水式冷却装置入側の排ガス温度は都市ごみのカロリーにより異なるが、本発明例では430℃であり、散水式冷却装置における排ガスの平均冷却速度は15.3℃/秒と計算された。水銀含有量の分析結果から脱水銀率は99.1%であると算出された。本発明例では特段の設備増強(配管増設)工事の必要なしに高い脱水銀率を得ることができた。
【0031】
・発明例4
都市ごみ処理量13.6t/日で排ガス量が2600m3/hrである都市ごみ焼却設備において、容積55m3の散水式冷却装置(排ガス冷却装置)により排ガスを急速冷却する処理を実施した。散水式冷却装置入側の排ガス温度は都市ごみのカロリーにより異なるが、本発明例では389℃であり、散水式冷却装置における排ガスの平均冷却速度は4.3℃/秒と計算された。水銀含有量の分析結果から脱水銀率は90.8%であると算出された。本発明例では特段の設備増強(配管増設)工事の必要なしに高い脱水銀率を得ることができた。
【0032】
・発明例5
都市ごみ処理量48.7t/日で排ガス量が9300m3/hrである都市ごみ焼却設備において、容積55m3の散水式冷却装置(排ガス冷却装置)により排ガスを急速冷却する処理を実施した。散水式冷却装置入側の排ガス温度は都市ごみのカロリーにより異なるが、本発明例では455℃であり、散水式冷却装置における排ガスの平均冷却速度は18.5℃/秒と計算された。水銀含有量の分析結果から脱水銀率は99.2%であると算出された。本発明例では、18.0℃/秒を超える平均冷却速度を達成するために散水量を増大させる必要があり、現状の配管では冷却水を供給しきれないため設備増強(配管増設)工事の必要が生じ、高い脱水銀率を得ることができた一方で、排ガス処理に必要なコストは増大した。
【0033】
・比較例1
都市ごみ処理量46.8t/日で排ガス量が8930m3/hrである都市ごみ焼却設備において、散水式冷却装置(排ガス冷却装置)を用いることなく(すなわち排気ガスを散水冷却することなく)操業を行った。この場合は排ガスに同伴されるダスト分を排ガスから分離するために、サイクロン式の除塵機を設置した。このサイクロン式の除塵機によりダスト分が効率よく除去され、煤塵濃度としては煙突から排出可能なレベルになったが、水銀を除去するための活性炭吸着装置の設置が必要であった。この比較例においては、除塵機および活性炭吸着装置の設置に関わる設備コストの増大に加え、吸着能を失った活性炭の再生工場や、劣化した活性炭の入れ替えのための新規活性炭の購入コストがかかるなど、発明例に比較して設備費および運転費用が甚大となった。
【0034】
以上述べた発明例及び比較例の結果を、処理条件とともに表1に示す。
【表1】
【符号の説明】
【0035】
1 都市ごみ焼却炉
2 ボイラ
3 排ガス冷却装置
4 固液分離装置
5a,5b 火格子
6a 乾燥用空気
6b 燃焼用空気
7 供給装置
8 排ガス
9a,9b 散水ノズル
10 スラリー
11 分離水
12 固形分
13 清浄装置
14 ブロア
15 煙突
16 灰分