(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】薬剤散布機
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20221213BHJP
B05B 17/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
A01M7/00 J
A01M7/00 D
B05B17/00 101
(21)【出願番号】P 2019175360
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【氏名又は名称】松田 正道
(74)【代理人】
【識別番号】110000899
【氏名又は名称】特許業務法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 康史
(72)【発明者】
【氏名】長谷 喜八郎
(72)【発明者】
【氏名】上島 徳弘
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184695(JP,A)
【文献】特開2018-042499(JP,A)
【文献】特許第6514594(JP,B2)
【文献】特開2009-179094(JP,A)
【文献】特開2010-228632(JP,A)
【文献】特開2007-162387(JP,A)
【文献】特開2003-261959(JP,A)
【文献】実開昭56-010309(JP,U)
【文献】特開2000-309953(JP,A)
【文献】特開2015-149975(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0211597(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 63/00 - 63/12
A01M 7/00
B05B 17/00
B60G 1/00 - 99/00
E02F 9/20 - 9/22
F15B 11/00 - 11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(A)と、
前記走行車体(A)の操縦室であるキャビン(K)と、
薬液を散布する散布ブーム(b1)と、
前記散布ブーム(b1)と前記走行車体(A)との間に取り付けられ前記散布ブーム(b1)を昇降する昇降シリンダ(b21)と、
前記昇降シリンダ(b21)の伸長または短縮によって回動する昇降リンク(b20)と、
前記昇降リンク(b20)の前端と連結された取付フレーム(b22)と、
前記取付フレーム(b22)に設けられたローリング軸(Y)と、
前記ローリング軸(Y)にローリング可能に連結され、前記昇降リンク(b20)の回動によって上下動する昇降フレーム(b23)と、
前記昇降フレーム(b23)のローリングの制御をするロール用シリンダ(b25)と、
前記昇降シリンダ(b21)に連結する蓄圧器(U)と、
前記ロール用シリンダ(b25)に連結する別蓄圧器(U2)
と、
前記蓄圧器(U)への通路を開閉する開閉弁(u1)
とを備え、
前記散布ブーム
(b1)の上昇操作に対応して前記開閉弁(u1)が閉じ、
前記開閉弁(u1)を閉じてから第1所定時間後に前記開閉弁(u1)が開き、
前記開閉弁(u1)を開くときは第2所定時間をかけて開動作を完了する制御を行い、
前記蓄圧器(U)は前記キャビン(K)の前方で、前記昇降フレーム(b23)の左右略中央に配設され、前記走行車体(A)の車幅方向における略中央線上に位置
し、
エンジン停止中における電源オン又はエンジン作動開始に連動して自動的に、前記開閉弁(u1)を開いておく制御を行い、
前記キャビン(K)内には、前記走行車体(A)を操作するための操作盤(a6)と、前記蓄圧器(U)の制振機能を選択できるスイッチ(SW)とを備え、
前記スイッチ(SW)は、前記操作盤(a6)の上方に備えられることを特徴とする薬剤散布機。
【請求項2】
前記ロール用シリンダ(b25)を、前記昇降フレーム(b23)の左右一端側に配設し、左右他端側に、ダンパ(b26)を配設して、前記ロール用シリンダ(b25)の伸長または短縮によって、前記昇降フレーム(b23)をローリング制御することを特徴とする、請求項1記載の薬剤散布機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を散布する薬剤散布機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の薬剤散布機では、蓄圧器(アキュムレータ)を備えたものが知られている(特許文献1等)。そのような薬剤散布機では、散布ブームの上昇操作に対応して蓄圧器への通路を開閉する開閉弁を閉じた状態で、散布ブームの上昇操作がなされることで、素早く上昇を開始させ、その所定時間後に開閉弁を開くことで、散布ブームの振動抑制をしている。これによって、素早く散布ブームを上昇させるとともに、散布ブームの振動抑制を狙っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、その開閉弁を開く際、閉状態から一気に開状態へ開くと、場合によっては散布ブームが急に動いてしまう問題があった。
【0005】
本発明は、上述された従来の課題を考慮し、散布ブームが急に動いてしまわない薬剤散布機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明は、
走行車体(A)と、
前記走行車体(A)の操縦室であるキャビン(K)と、
薬液を散布する散布ブーム(b1)と、
前記散布ブーム(b1)と前記走行車体(A)との間に取り付けられ前記散布ブーム(b1)を昇降する昇降シリンダ(b21)と、
前記昇降シリンダ(b21)の伸長または短縮によって回動する昇降リンク(b20)と、
前記昇降リンク(b20)の前端と連結された取付フレーム(b22)と、
前記取付フレーム(b22)に設けられたローリング軸(Y)と、
前記ローリング軸(Y)にローリング可能に連結され、前記昇降リンク(b20)の回動によって上下動する昇降フレーム(b23)と、
前記昇降フレーム(b23)のローリングの制御をするロール用シリンダ(b25)と、
前記昇降シリンダ(b21)に連結する蓄圧器(U)と、
前記ロール用シリンダ(b25)に連結する別蓄圧器(U2)と、
前記蓄圧器(U)への通路を開閉する開閉弁(u1)とを備え、
前記散布ブーム(b1)の上昇操作に対応して前記開閉弁(u1)が閉じ、
前記開閉弁(u1)を閉じてから第1所定時間後に前記開閉弁(u1)が開き、
前記開閉弁(u1)を開くときは第2所定時間をかけて開動作を完了する制御を行い、
前記蓄圧器(U)は前記キャビン(K)の前方で、前記昇降フレーム(b23)の左右略中央に配設され、前記走行車体(A)の車幅方向における略中央線上に位置し、
エンジン停止中における電源オン又はエンジン作動開始に連動して自動的に、前記開閉弁(u1)を開いておく制御を行い、
前記キャビン(K)内には、前記走行車体(A)を操作するための操作盤(a6)と、前記蓄圧器(U)の制振機能を選択できるスイッチ(SW)とを備え、
前記スイッチ(SW)は、前記操作盤(a6)の上方に備えられることを特徴とする薬剤散布機である。
第2の本発明は、
前記ロール用シリンダ(b25)を、前記昇降フレーム(b23)の左右一端側に配設し、左右他端側に、ダンパ(b26)を配設して、前記ロール用シリンダ(b25)の伸長または短縮によって、前記昇降フレーム(b23)をローリング制御することを特徴とする、第1の本発明の薬剤散布機である。
本発明に関連する第1の発明は、
走行車体と、
薬液を散布する散布ブームと、
前記散布ブームと前記走行車体との間に取り付けられ前記散布ブームを昇降する昇降シリンダと、
前記昇降シリンダに連結する蓄圧器と、
前記蓄圧器への通路を開閉する開閉弁とを備え、
前記散布ブームの上昇操作に対応して前記開閉弁が閉じ、
前記開閉弁を閉じてから第1所定時間後に前記開閉弁が開き、
前記開閉弁を開くときは第2所定時間をかけて開動作を完了する、ことを特徴とする薬剤散布機である。
【0007】
本発明に関連する第2の発明は、
走行車体と、
薬液を散布する散布ブームと、
前記散布ブームと前記走行車体との間に取り付けられ前記散布ブームを昇降する昇降シリンダと、
前記昇降シリンダに連結する蓄圧器と、
前記蓄圧器への通路を開閉する開閉弁と、
前記蓄圧器側と前記昇降シリンダ側に設けられた各圧力センサとを備え、
前記散布ブームの上昇操作に対応して前記開閉弁が閉じ、
前記開閉弁を閉じてから第1所定時間後に前記開閉弁が開き、
前記開閉弁が閉じている状態で前記蓄圧器の圧力値と前記昇降シリンダの圧力値に第1所定値以上の差がある場合は、その圧力差が許容範囲内になった後、前記開閉弁が開かれる、ことを特徴とする薬剤散布機である。
【0008】
本発明に関連する第3の発明は、
前記蓄圧器側の圧力を調整する調整バルブが設けられている、本発明に関連する第2の発明の薬剤散布機である。
【0009】
本発明に関連する第4の発明は、
エンジン停止中における電源オン又はエンジン作動開始に連動して自動的に、前記開閉弁を開いておく、本発明に関連する第1から3の発明の何れかの薬剤散布機である。
【発明の効果】
【0010】
第1の本発明によって、開閉弁を閉の状態から開く際に、蓄圧器側と昇降シリンダ側に圧力差があったとしても散布ブームの急な動きを防止出来る。さらに、これにより、走行車体Aの略中央に配設されたアキュムレータUがセンタマーカとなり、作業者は、自走式薬剤散布機1の直進操作が容易となる。また、アキュムレータUの故障の視認が容易となり、メンテナンス性も向上する。また、スイッチ(SW)が通常の操作範囲から大きく外れていることで、誤操作を防止出来、視界の邪魔にもならない。
第2の本発明によって、左右他端側に配設されたダンパb26により単動式ロール用シリンダb25の戻し動作を行うことにより、圧縮スプリング等の弾性体を用いる場合に比べ、昇降フレームのローリング方向の揺れ振動が抑制でき、安定したロール制御が可能となる。
本発明に関連する第1の発明により、開閉弁を閉の状態から開く際に、蓄圧器側と昇降シリンダ側に圧力差があったとしても散布ブームの急な動きを防止出来る。
【0011】
本発明に関連する第2の発明により、開閉弁を閉の状態から開く際に、蓄圧器側と昇降シリンダ側に圧力差があったとしても、その圧力差に基づいて開閉弁を開くので、散布ブームの急な動きを防止出来る。
本発明に関連する第3の発明により、調整バルブのみの追加により問題の圧力差を小さく出来るので、構造が単純となる。
【0012】
本発明に関連する第4の発明により、自動で開閉弁が開くので、開閉弁作動スイッチが要らなくなり、また、開閉弁の作動を忘れることがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明における実施の形態の薬剤散布機の斜視図
【
図7】同薬剤散布機のアキュムレータUとシリンダブロックの側面図
【
図8】同薬剤散布機のアキュムレータUとシリンダブロックの更なる側面図
【
図9】同薬剤散布機のアキュムレータUとシリンダブロックの更なる側面図
【
図10】同薬剤散布機のコントローラCによる制御の手順を示すフローチャート
【
図11】
図10の散布ブーム昇降処理(ステップS104)のコントローラCによる手順を示すフローチャート
【
図12】
図5のアキュムレータUの作動を示すタイムチャート
【
図14】本発明にかかる薬剤散布機の別の実施形態に係る自走式薬剤散布機の油圧回路
【
図15】本発明にかかる薬剤散布機の実施の形態におけるキャビンの内部の操作盤付近を示す斜視図
【
図16】本発明にかかる薬剤散布機の実施の形態におけるキャビンの内部のエアコン付近を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態につき詳細に説明する。なお、実施例の説明においては、機体の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後というが、本発明の構成を限定するものではない。
【0015】
(全体構成)
自走式薬剤散布機1の全体構成例を具体的に説明する。
【0016】
自走式薬剤散布機1は、
図1に斜視図、
図2に左側面図、
図3に平面図、
図4に正面図をそれぞれ示すように、自走式の走行車体Aと、該走行車体A上に設けられたキャビン Kと、薬剤を貯留する薬剤タンクMと、該薬剤タンクMから供給された薬剤を圃場に散布する散布ブームb1を有する薬剤散布装置Bと、を備えて構成されている。
【0017】
走行車体Aは、メインフレームa1と運転座席a2とステアリングハンドルa3と、前輪a4と後輪a5とを含む構成である。メインフレームa1は、走行車体Aの前後に延長して形成されている。運転座席a2は、オペレータが薬剤散布機1の運転操作をする際に着座するための座席である。運転座席a2の周囲の適切な位置には、散布ブームb1の開閉や薬剤の散布等の動作を制御するための操作スイッチやキースイッチ等を配した操作盤a6が配置されている。
【0018】
運転座席a2の前に立設するステアリングハンドルa3は、オペレータによる回動操作によって、少なくとも左右の前輪a4,a4を操舵することで、自走式薬剤散布機1の進行方向を変更する。すなわち、前輪a4,a4は、少なくともステアリングハンドルa3の回動操作により操舵される操舵輪である。
【0019】
前輪a4と後輪a5は、ボンネットa7内のエンジンの動力がトランスミッションケース内(図示せず)で適宜変速され、変速された動力が伝達されて回転駆動する。
【0020】
キャビンKは、運転座席a2およびその周辺の機器類、ステアリングハンドル等を囲むことで乗員室を形成するものである。キャビンKは、薬剤タンクMと散布ブームb1との間に配置されている。キャビンKは、キャビンフレームk1、キャビンルーフk2、左右の開閉扉k3L、k3Rなどから構成されている。
【0021】
薬剤タンクMは、薬剤を貯留する容器である。薬剤タンクMは、左側面視で
図2に示すように、キャビンKの後側に配置されており、運転座席a2の左右両側および後側を囲むようにコの字状に形成されて、メインフレームa1上に着脱可能に搭載されている。なお、薬剤タンクMに貯留される薬剤は、肥料、農薬等を溶媒(例えば、水)に溶解させた液体、および、肥料、農薬等の固形分を含む液体(例えば、水)等の液状物である。
【0022】
(薬剤散布装置)
薬剤散布装置Bは、圃場に散布する散布ブームb1と、該散布ブームb1を走行車体Aに支架する支架装置b2と、を備えて構成されている。
【0023】
散布ブームb1は、走行車体2の前方に位置するセンターブームb1Fと、両側方に位置するサイドブームb1L,b1Rとから構成されている。
【0024】
センターブームb1Fは、走行車体2の車幅方向に水平に延在されている。また、センターブームb1Fには、薬剤を霧状に噴射するノズルbnが間隔をおいて複数配設されている。
【0025】
サイドブームb1L,b1Rは、センターブームb1Fの左右両側に回動可能に配設される。サイドブームb1L,b1Rには、薬剤を霧状に散布するノズルbnが間隔をおいて複数配設されている。
【0026】
サイドブームb1L,b1Rの回動により、散布ブームb1は、走行車体Aの車幅方向(左右方向)に延びるように略一直線状となる散布姿勢と、サイドブームb1が走行車体2の左右両側に沿う収納姿勢とに切り替え可能となっている。このように構成された散布ブームb1は、散布姿勢においては、自走式薬剤散布機1の前側の左右に幅広く薬剤を散布することができる。
【0027】
支架装置b2は、
図2及び
図3に示されるように、走行車体Aに散布ブームb1を昇降可能に支持する装置であり、昇降シリンダb21の伸長または短縮によって回動する昇降リンクb20と、昇降リンクb20の前端と連結された取付フレームb2と、取付フレームb22に取り付けられて昇降リンクb20の回動によって上下動する昇降フレームb23と、両側方のサイドブームb1L,b1Rを略水平に回動して開閉する開閉シリンダb24,b24と、を備えて構成されている。取付フレームb22は、
図4に示されるように、正面視で矩形の枠形状をなし、下部に設けられたローリング軸Yによって、昇降フレームb23を、ローリング軸Yを中心として、回動自在に枢支するよう構成されている。
【0028】
昇降フレームb23の前部には、センターブームb1(b1F)が取り付けられ、昇降フレームb23の左右両側には、それぞれ、サイドブームb1L,b1Rが車幅方向に展開できるよう回動可能に取り付けられている。このような構成によって、昇降フレームb23が昇降すると、散布ブームb1も昇降するよう構成されている。
【0029】
開閉シリンダb24,b24は、伸長または短縮によって、走行車体Aの車幅方向に延びる散布姿勢と、走行車体Aの左右両側に沿う収納姿勢とに切り替え可能とするものであり、昇降フレームb23及びサイドブームb1L,b1Rと連結され、開閉シリンダb24,b24が伸長または短縮すると、両側方のサイドブームb1L,b1Rが回動するよう構成されている。また、開閉シリンダb24,b24の伸長または短縮は、後述するコントローラCにより、制御される。
【0030】
(散布ブーム制振装置)
図4に示されるように、昇降フレームb23上には、昇降シリンダb24内の圧力変動を吸収する蓄圧器(以後アキュムレータUという)が取り付けられている。
【0031】
図5は、自走式薬剤散布機1の油圧回路の一部を示す回路図である。
【0032】
図5に示されるように、散布ブームb1の制振機構は、アキュムレータUと、昇降シリンダb21とアキュムレータUとを連通する作動油の給排通路に設けられた開閉弁u1と、開閉弁u1の開閉を制御可能なコントローラCを備えて構成される。
【0033】
油圧ポンプである第1~2ポンプP1,P2は、エンジンの動力によって駆動される定容量型のギヤポンプによって構成されている。第1~2ポンプP1,P2から吐出される作動油を流通させる吐出油路100は、一定流量を分流する第1定分流バルブu2と接続されている。第1定分流バルブu2は、第1油路101によって、第2定分流バルブu3と接続されている。第2定分流バルブu3は、第2油路102によって、上下動切換弁u4と接続されている。
【0034】
上下動切換弁u4は、電磁切換弁であって、昇降シリンダb21を伸長させる作動位置としての伸長位置u41と、昇降シリンダb21を収縮させる作動位置としての収縮位置u42と、昇降シリンダb24を停止させる停止位置u43と、に切換え可能となっている。
【0035】
上下動切換弁u4は、第2油路102の他、左右の昇降シリンダb21,b21及び開閉弁u1と連通する第3油路103と、作動油タンクTに作動油を戻す排出油路104と連結されている。第2油路102と排出油路104との間には、リリーフバルブu5が設けられており、第2油路102の油圧が設定値を超えた場合に開弁し、排出油路104に油圧を逃がすようになっている。
【0036】
上下動切換弁u4が伸長位置u41に切換えられると、第2油路102及び第3油路103が連通し、これにより、第1~2ポンプP1,P2から吐出される作動油は、吐出油路100、第1油路101、第2油路102及び第3油路103を通じて、昇降シリンダb21,b21のピストン側室b211,b211に流入する。これにより、昇降シリンダb21,b21が伸長するため、これに応じて昇降リンクb20が上方に回動され昇降フレームb23が上方に移動し、散布ブームb1は昇降フレームとともに走行車体2に対して上昇する。
【0037】
上下動切換弁u4が収縮位置u42に切換えられると、排出油路104と第3油路103とが連通される。これにより、昇降シリンダb21,b21のピストン側室b211,b211の作動油が第3油路103と排出油路104とを通じて作動油タンクTに戻される。これにより、昇降シリンダb21が収縮するため、昇降リンクb20が下方に回動され昇降フレームb23が下方に移動し、散布ブームb1は昇降フレームb23とともに走行車体Aに対して下降する。
【0038】
上下動切換弁u4が停止位置u43に切換えられると、第3油路103が閉塞される。これにより、第3油路103を通じてピストン側室b211,b211に出入りする作動油が遮断され、走行車体Aに対する散布ブームb1の高さが保持される。
【0039】
開閉弁u1は、電磁切換弁であって、昇降シリンダb21のピストン側室b211と、アキュムレータUとを連通する連通位置u11と、連通を遮断する遮断位置u12を切換え可能となっている。
【0040】
開閉弁u1が、連通位置u11に切換えられると(開閉弁u1の開制御)、第3油路103とアキュムレータUが連通し、これにより、昇降シリンダb21のピストン側室b211と、アキュムレータUが連通する。これにより、作動油が両者を行き来することにより、アキュムレータUが昇降シリンダb21内の圧力変動を吸収し、バネ作用を発揮するため、散布ブームb1の振動が抑えられて制振機能が発揮される。
【0041】
開閉弁u1が、遮断位置u12に切換えられると(開閉弁u1の閉制御)、第3油路103とアキュムレータUの連通が遮断され、これにより、昇降シリンダb21のピストン側室b211と、アキュムレータUとの連通が遮断される。これにより、アキュムレータUによる制振機能を停止し、散布ブームb1を昇降させる際の応答性を向上できる。なお、応答性とは、詳細には、ブーム上昇スイッチまたはブーム下降スイッチが操作されてから、散布ブームb1の昇降動作が開始されるまでの迅速性のことをいう。
【0042】
コントローラCは、上下動切換弁u4及び開閉弁u1を制御可能な制御装置であり、CPU、ROM、RAM等を含んで構成され、所定の制御用プログラムが記憶されている。また、上下動切換弁u4及び開閉弁u1は、コントローラCと電気的に接続され、コントローラCに制御されてポジションが切換可能となっている。なお、コントローラCは、CPU、ROM、RAM等を用いず、タイマ、リレー等を用いて上下動切換弁u4及び開閉弁u1のポジションを制御可能な構成としてもよい。
【0043】
コントローラCは、操作盤a6と電気的に接続されており、操作盤a6に設けられた各種操作スイッチの操作を信号として取得可能となっている。すなわち、作業者による操作盤a6の操作情報を取得可能となっている。操作盤a6には、少なくとも、走行車体Aに対して散布ブームb1を上昇させる際に操作される図示しないブーム上昇スイッチ及び走行車体Aに対して散布ブームb1を下降させる際に操作されるブーム下降スイッチ、自走式薬剤散布機1に電源を入れる際に操作されるキースイッチが設けられる。なお、キースイッチは、オンとオフが切換え可能な操作スイッチであり、キースイッチがオン状態であることが、自走式薬剤散布機1のエンジン作動の条件となっている。したがって、作業者は、キースイッチをオン操作した後、所定の操作をすることで、自走式薬剤散布機1のエンジンを作動させることができる。コントローラCは、操作盤a6からの信号に基づいて後述の制御を実行し、上下動切換弁u4及び開閉弁u1のポジションを切換える。また、コントローラCには、計時手段としてタイマーc1と、キースイッチの操作を検知して回路中の接点切替を行うリレーc2が接続されている(
図12参照)。
【0044】
図6は、自走式薬剤散布機1の正面要部拡大図である。
【0045】
アキュムレータUは、
図6に示されるように、キャビンKの前方の、昇降フレームb23の左右略中央に配設され、走行車体2の車幅方向における略中央線上に位置している。これにより、走行車体Aの略中央に配設されたアキュムレータUがセンタマーカとなり、作業者は、自走式薬剤散布機1の直進操作が容易となる。また、アキュムレータUの故障の視認が容易となり、メンテナンス性も向上する。
【0046】
また、開閉弁u1は、
図6に示されるアキュムレータUの下部に配設された筐体(シリンダブロック)X1に収容されており、上下動切換弁u4は筐体X1の側方に近接して配設された筐体X2に収容されている。その筐体X2にはバルブやタイマーが内装されているので、バルブやタイマーがカバーで覆われることとなり、水や泥から保護される。
図6に示されように、筐体X1及び筐体X2は、昇降フレームb23上に近接して取り付けられて固定されており、開閉弁u1及び上下動切換弁u4は、近接して配置されている。このように、開閉弁u1及び上下動切換弁u4を一体的に直装する構成によれば、組立性も良好であり、組立工数を削減できるとともに、配設スペースをコンパクトにすることができる。すなわち、アキュムレータUが筐体1のシリンダブロックX1に直付けされているため、配管がスマートになり、メンテナンス性が向上し、ホースが不要となりコストダウンが実現できる。また、アキュムレータUや電磁弁が、シリンダブロックX1内のシリンダの近くに配置されるので、配索が短くなり、メンテナンス性が向上し、コストダウンが実現される。
【0047】
図7,
図8,
図9はアキュムレータUとシリンダブロックX1の前後左右からの拡大図面である。
【0048】
(開閉弁の開閉制御)
図10は、コントローラCによる制御の手順を示すフローチャートである。
コントローラCは、
図10のフローチャートに示される手順に従って、開閉弁u1及び上下動切換弁u4を制御する。なお、初期条件として、キースイッチはオフ操作されており、開閉弁u1は、遮断位置u12に切換えられている。
【0049】
コントローラCは、キースイッチがオン操作された信号を取得すると(ステップS101)、開閉弁u1を連通位置u11に切換えるよう制御する(ステップS102)。これにより、アキュムレータUによる制振機能が発揮され、散布ブームb1の振動が抑えられる。このように、作業者によるキースイッチのオン操作と連動して開閉弁u1を開く構成によれば、電源のみオンでエンジン停止中の状態またはエンジン作動中の状態、あるいは作業時において、確実に開閉弁u1が開状態となる。これにより、従来のように、作業者が手動操作により開閉弁u1を開く手間が省略されるため、利便性が向上する。また、作業時に作業者が手動操作により開閉弁u1を開く操作を失念することもない。
【0050】
次に、コントローラCは、ブーム昇降スイッチがオン操作またはブーム下降スイッチがオン操作された信号を取得すると(ステップS103)、後述する散布ブームb1の昇降処理を実行する(ステップS104)。
【0051】
また、コントローラCは、ステップS102において、開閉弁u1を連通位置u11に切換えるよう制御した後、キースイッチがオフ操作された信号を取得すると(ステップS105)、開閉弁u1を遮断位置u12に切換えるよう制御する(ステップS106)。これにより、キースイッチがオフ操作と連動して、アキュムレータUによる制振機能が停止される。このようにして、非作業時においては、アキュムレータUによる制振機能を自動でオフにすることで、走行車体Aに対して散布ブームb1を固定する構成によれば、例えば、自走式薬剤散布機1を輸送するときなどの非作業時に、散布ブームb1が上下に揺動して外部の障害物に接触するおそれを防止できる。
【0052】
なお、本実施の形態ではこのように、キースイッチがオン操作されると自動的に開閉弁u1を開くようにしているが、凹凸のほとんどない圃場などの場合はアキュムレータUによる制振機能を発揮する必要がそもそもない場合がある。
【0053】
そのような場合でも自動的に制振機能を発揮させると、アキュムレータUへのエネルギーの浪費となってしまう。
【0054】
そこで、作業者が任意にそのアキュムレータUの制振機能を選択できる任意スイッチSWを別途設けることが望ましい(
図5参照)。その任意スイッチSWの取り付け構造などについては後述する。
【0055】
図11は、
図10の散布ブーム昇降処理(ステップS104)のコントローラCによる手順を示すフローチャートである。コントローラCは、ステップS103において、ブーム昇降スイッチがオン操作またはブーム下降スイッチがオン操作された信号を取得すると、ブーム上昇スイッチがオン操作された信号を取得した場合は、上下動切換弁u4を伸長位置u41に切換え、ブーム下方スイッチがオン操作された信号を取得した場合は、上下動切換弁u4を収縮位置u42に切換え、散布ブームb1を下降させる(ステップS201)。
【0056】
同時に、開閉弁u1を遮断位置u12に即座に切換える(ステップS202)。これにより、続く散布ブームb1の昇降の応答性を向上させることができる。
【0057】
ここで、コントローラCは、散布ブームb1の昇降開始と同時に、タイマc1を起動し、設定時間tをカウントする(ステップS203)。この設定時間tは、所定の短時間が予め設定されており、例えば、1秒程度である。
【0058】
次に、コントローラCは、設定時間tが経過すると、開閉弁u1を連通位置u11に切換える(ステップS204)。すなわち、コントローラCは、散布ブームb1の昇降動作の開始直後の短時間のみ開閉弁u1を遮断位置u12に即座に切換え、昇降開始後の散布ブームb1の昇降動作中においては、開閉弁u1を連通位置u11に切換える。これにより、散布ブームb1の昇降操作時に迅速な応答性を確保でき、さらに、続く昇降開始後の散布ブームb1の昇降動作中においては、アキュムレータUによる制振機能を発揮して散布ブームb1の振動を低減できる。その結果、散布ブームb1の動作が安定し、安全性を向上できる。
【0059】
すなわち、従来のように、散布ブームb1の昇降動作が完了した後、開閉弁u1を開制御する構成によれば、開閉弁u1を開いたときに昇降シリンダb21とアキュムレータUとの作動油の圧力差によって、昇降シリンダb21からアキュムレータU側に急速に作動油が流れ込み、その結果、昇降シリンダb21が伸長または短縮して、散布ブームb1が停止位置よりも下降して動作が不安定となるおそれがあったが、散布ブームb1の昇降動作中に開閉弁u1を開制御することにより、昇降シリンダb21とアキュムレータUとの作動油の圧力差を解消して、散布ブームb1の安定した動作を実現できる。ここで、設定時間tは、0.5秒~3秒以内に設定されることが望ましく、0.5秒~1秒以内に設定されることがさらに望ましい。
【0060】
なお、本実施の形態では散布ブームb1の安定した動作を実現するために、所定の短時間であるt時間後に開閉弁u1を開にすることとしているが、更により一層安定動作を確実にするため、次のようにすることもできる。
【0061】
すなわち、t時間後に開閉弁u1を一気に開状態にするのではなく、ゆっくり開状態にすることでそれは実現できる。そのやり方の一例としては、t時間経過後から、数秒間は、開閉弁u1を開きっぱなしにせず、その開閉を素早く切り替えするやり方がある。更に望ましくは徐々にその切り替えタイミングを、開放する時間の方を長くしていき、最終的に開放状態に落ち着かせる。
【0062】
あるいは、ゆっくり開くことが出来る弁構造を採用し、数秒かけて開き切ることもできる。以上の場合、ゆっくり開く時間は、上記閉鎖t時間より長い時間が望ましい。
【0063】
このようにすることで、油が急に流れることを防止でき、散布ブームb1の急な動作を防ぐことが出来る。
【0064】
なお、圧力センサs1、s2と調整弁TVを設けることによって、散布ブームb1の急な動作を防ぐこともできる。即ち、
図5において、s1はアキュムレータU側の圧力p1を測定する圧力センサ、s2は左右の昇降シリンダb21の圧力p2を測定する圧力センサである。また、アキュムレータU側と第2油路103との間を油路で連結し、その間に調整弁TVを介在させる。
【0065】
そして、開閉弁u1が閉鎖された状態での各圧力p1、p2について、p1>p2のときは、調整バルブTVのVp1をオンにし、アキュムレータU側の圧力を逃がし、p1<p2のときは、調整バルブTVのVp2をオンにして、アキュムレータU側の圧力を高くする。このようにして圧力差を無くす。
【0066】
これによって、油が急に流れることを防止でき、散布ブームb1の急な動作を防ぐことが出来る。
【0067】
続いて、コントローラCは、ブーム昇降スイッチまたはブーム下降スイッチがオフ操作された信号を取得すると(ステップS205)、上下動切換バルブu4を停止位置u43に切換えるよう制御する(ステップS206)。これにより、散布ブームb1の昇降が停止し、
図10における散布ブームb1昇降処理(ステップS104)が完了する。
【0068】
図12は、
図5のアキュムレータUの作動を示すタイムチャートである。
なお、
図12において、アキュムレータUのオン時、開閉弁u1は、連通位置u11にあり、アキュムレータUのオフ時、遮断位置u12にある。
図12に示されるように、キースイッチオンのとき、通常、アキュムレータUはオンとなるが、ブーム昇降スイッチがオン操作またはブーム下降スイッチがオン操作された直後から設定時間tの間、アキュムレータUはオフとなるよう構成される。なお、設定時間tは、上述の通り、予め短時間(例えば、1秒程度)が設定されているが、散布ブームb1の重量や作業者のニーズに合わせた散布ブームb1の昇降の応答性を実現するため、操作盤a6の操作により、所定範囲(例えば、0.5秒~3秒程度)で調整可能となっている。
【0069】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0070】
例えば、前記実施形態においては、
図4に示されるように、取付フレームb22の下部に設けられたローリング軸Yによって、昇降フレームb23を、ローリング軸Yを中心として、回動自在に枢支するよう構成したが、
図13に示されるように、単動式ロール用シリンダb25を、昇降フレームb23の左右一端側に配設し、左右他端側に、ダンパb26を配設して、単動式ロール用シリンダb25の伸長または短縮によって、昇降フレームb23をローリング制御する構成としてもよい。このとき、左右他端側に配設されたダンパb26により単動式ロール用シリンダb25の戻し動作を行うことにより、圧縮スプリング等の弾性体を用いる場合に比べ、昇降フレームのローリング方向の揺れ振動が抑制でき、安定したロール制御が可能となる。
【0071】
図14は、別の実施形態に係る自走式薬剤散布機1の油圧回路の一部を示す回路図である。別の実施形態に係る自走式薬剤散布機1の油圧回路は、
図5で示した油圧回路の構成に加え、第1定分流バルブu2に第4油路105を接続し、さらに、第4油路105に、単動式ロール用シリンダb25を、伸長させる作動位置としての伸長位置u51と、収縮させる作動位置としての収縮位置u52と、停止させる停止位置u53と、に切換え可能な電磁切換弁である単動式ロール用シリンダ切換弁u5を接続する。
【0072】
図14に示されるように、単動式ロール用シリンダ切換弁u5は、第5油路106と接続され、第5油路106は、単動式ロール用シリンダb25のピストン側室b251と、ロール用アキュムレータU2とを連通する連通位置u71と、連通を遮断する遮断位置u72とを切換え可能な第2開閉弁u7と接続される。なお、単動式ロール用シリンダ切換弁u5は、作動油タンクTに作動油を戻す第2排出油路107と接続され、第4油路105及び第2排出油路107との間には、リリーフバルブu6が設けられている。また、図示されていないが、単動式ロール用シリンダ切換弁u5及び第2開閉弁u7は、コントローラCと接続され、コントローラCによってポジションが制御可能となっている。なお、単動式ロール用シリンダ切換弁u5及び第2開閉弁u7は、
図13で示される筐体X3内に収容される。なお、
図14においては、圧力センサ、調整弁などは省略している。
【0073】
次に、上述した任意スイッチSWの配置の仕方について説明する。
【0074】
図15はキャビンK内の運転座席a2から前方を見た、操作盤a6などを示す斜視図である。ハンドルは図示省略している。その操作盤a6の少し上あたりに、つまり、操縦者の正面の位置に、任意スイッチSWを取り付けてある。なお、ロールダンパ操作スイッチは左右に操作するようにしている。
【0075】
図16は別の変形例であって、任意スイッチSWは操作盤a6の相当上方の位置に取り付けている。ガラス面に吸盤固定している。これによって、通常の操作範囲から大きく外れていることで、誤操作を防止出来る。視界の邪魔にもならない。ここに20はエアコンの操作パネル、21はエアコンの吹き出し口(前)、22はエアコンの吹き出し口(上)である。その結果、任意スイッチSWは、エアコンからの送風を受け冷却効果を受ける。なお、その取り付け位置は、正面でもよいし、右の方でも、左の方でも片側に寄せてあっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明における薬剤散布機は、散布ブームを迅速に上昇させるために閉ざされた開閉弁を開く際に、散布ブームの急な動きを防止出来るので、薬剤散布機に有用である。
【符号の説明】
【0077】
A 走行車体
al メインフレーム
a2 運転座席
a3 ステアリングハンドル
a4 前輪
a5 後輪
a6 操作盤
a7 ボンネット
B 薬剤散布装置
bn ノズル
bl 散布ブーム
b2 支架装置
b2O 昇降リンク
b21 昇降シリンダ
b22 取付フレーム
b23 昇降フレーム
b24 開閉シリンダ
b25 単動式ロール用シリンダ
K キャビン
kl キャビンフレーム
k2 キャビンルーフ
k3L,k3R 開閉扉
T 作動油タンク
∪ アキュムレータ
∪2 口-ル用アキュムレ一タ
P1 第1ポンプ
P2 第2ポンプ′
ul 開閉弁
u2 第1定分流パルプ
u3 第2定分流バルブ
u4 上下動切換弁
u5 単動式ロール用シリンダ切換弁
u6 リリーフバルブ
u7 第2開閉弁
Y ローリング軸
TV 調整弁
SW任意スイッチ