(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】リニアイオントラップ及びその操作方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20221213BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20221213BHJP
【FI】
H01J49/42
G01N27/62 E
(21)【出願番号】P 2019182973
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 慶
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-514297(JP,A)
【文献】豊田健二,占部伸二,冷却イオンの量子状態制御,光学,2002年,32巻4号,pp.245-252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を挟んで対向配置された、それぞれが開口を有する2本の第1ロッド状電極と、
前記中心軸を挟んで、前記2本の第1ロッド状電極が対向する方向とは別の方向に対向配置された2本の第2ロッド状電極と、
前記2本の第1ロッド状電極及び前記2本の第2ロッド状電極の両端面の外側にそれぞれ配置された、一対の端部電極と、
前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれにイオン捕捉用の高周波電圧を印加する高周波電圧印加部と、
前記2本の第1ロッド状電極に共鳴励起用電圧を印加する励起用電圧印加部と、
前記高周波電圧印加部及び前記励起
用電圧印加部を制御する制御部と
を有するリニアイオントラップ。
【請求項2】
前記制御部は、
前記2本の第1ロッド状電極と、前記2本の第2ロッド状電極と、前記一対の端部電極とで囲まれた空間に所定の質量電荷比を有するイオンを捕捉するときは、そのイオンの質量電荷比に応じた周波数を有する高周波電圧が前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれに印加されるように前記高周波電圧印加部を制御し、
前記空間に捕捉されているイオンを排出するときは、前記高周波電圧印加部による前記2本の第2ロッド状電極に対する高周波電圧の印加動作を継続しつつ、共鳴励起用電圧が前記2本の第1ロッド状電極に印加されるように前記励起用電圧印加部を制御する、請求項1に記載の
リニアイオントラップ。
【請求項3】
前記
イオン捕捉用の高周波電圧が矩形波電圧であり、
前記共鳴励起用電圧が、前記
イオン捕捉用の高周波電圧を所定の分周比で分周した該高周波電圧よりも低電圧である矩形波電圧である、請求項1又は2に記載の
リニアイオントラップ。
【請求項4】
前記高周波電圧印加部が、直流電圧を発生する第1電圧源と、該第1電圧源とは異なる直流電圧を発生する第2電圧源と、前記第1電圧源から出力される直流電圧をオン・オフする第1スイッチング部と、前記第2電圧源から出力される直流電圧をオン・オフする第2スイッチング部とを含み、前記第1スイッチング部及び前記第2スイッチング部を交互にオン・オフすることによって矩形波電圧を生成するものである、請求項3に記載のリニアイオントラップ。
【請求項5】
中心軸を挟んで対向配置された、それぞれが開口を有する2本の第1ロッド状電極と、前記中心軸を挟んで、前記2本の第1ロッド状電極が対向する方向とは別の方向に対向配置された2本の第2ロッド状電極と、前記2本の第1ロッド状電極及び前記2本の第2ロッド状電極の両端面の外側にそれぞれ配置された、一対の端部電極とを有するリニアイオントラップを操作する方法であって、
前記
リニアイオントラップの内部空間にイオンを捕捉するときは、前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれに、捕捉対象のイオンの質量電荷比に対応する所定の周波数の高周波電圧を印加し、
前記
リニアイオントラップの内部空間に捕捉されたイオンを排出するときは、前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれに前記高周波電圧を印加しつつ、前記2本の第1ロッド状電極に共鳴励起用電圧を印加する、リニアイオントラップの操作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアイオントラップ及びその操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置の一つとして、電場の作用によりイオンを保持するイオントラップを利用した質量分析装置が知られている。質量分析装置に用いられるイオントラップには大別して、三次元四重極型イオントラップとリニアイオントラップがある。イオントラップは、いずれもイオンが捕捉される空間を包囲する複数の電極を有している。一般的にリニアイオントラップは三次元四重極型イオントラップに比べてイオンが捕捉される空間を大きくすることができる。
【0003】
リニアイオントラップは、イオンが捕捉される空間を取り囲むように互いに略平行に配置された四本のロッド状電極と、それらロッド状電極の両端面の外側にそれぞれ配置された一対の端部電極(エンドキャップ電極)と、を含む(特許文献1、2参照)。通常、四本のロッド状電極のうちの二本は、捕捉空間の中心軸を挟んで所定の方向(X軸方向)に対向配置され、残り二本のロッド状電極は中心軸を挟んで前記X軸方向と直交する方向(Y軸方向)に対向配置される。二組のうちの一方の組のロッド状電極にイオン排出口が形成され、一対の端部電極の一方又は両方にイオン導入口が形成されている。
【0004】
リニアイオントラップにおいてその内部空間にイオンを捕捉する場合、一対の端部電極にはイオンと同極性の直流電圧が印加され、X軸方向及びY軸方向に対向配置された二組のロッド状電極には、それぞれ180度位相がずれた高周波電圧が印加される。一方又は両方の端部電極に形成されているイオン導入口を通して四本のロッド状電極で囲まれる空間に導入されたイオンは、これら電圧の作用により該空間内に捕捉される。
【0005】
内部空間に捕捉されているイオンを質量電荷比に応じて分離しつつ検出する際には、二組のロッド状電極に印加されている高周波電圧の周波数又は振幅を制御すると共に一方の組のロッド状電極に印加される高周波電圧に励起用電圧を重畳させ、特定の質量電荷比を有するイオンを共鳴励起させる。共鳴励起されたイオンは、リニアイオントラップの中心軸に略直交する両方向に大きく励振し、ロッド状電極に形成されているイオン排出口を通して外部へと排出される。イオン排出口の外側にはイオン検出器が配置されており、該イオン検出器は到達したイオンの数に応じた検出信号を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6797950号明細書
【文献】特開2012-184975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来のリニアイオントラップでは、イオンを捕捉するために、位相が180°ずれた高周波電圧を二組のロッド状電極に印加し、イオンを励振させるために、二組のロッド状電極の一方に印加される高周波電圧に共鳴励起用の電圧を重畳させており、複雑な電源回路が必要であった。
【0008】
本発明の目的は、リニアイオントラップの電源回路を簡略化することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様は、
中心軸を挟んで対向配置された、それぞれが開口を有する2本の第1ロッド状電極と、
前記中心軸を挟んで、前記2本の第1ロッド状電極が対向する方向とは別の方向に対向配置された2本の第2ロッド状電極と、
前記2本の第1ロッド状電極及び前記2本の第2ロッド状電極の両端面の外側にそれぞれ配置された、一対の端部電極と、
前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれにイオン捕捉用の高周波電圧を印加する高周波電圧印加部と、
前記2本の第1ロッド状電極に共鳴励起用電圧を印加する励起用電圧印加部と、
前記高周波電圧印加部及び前記励起用電圧印加部を制御する制御部と
を有するリニアイオントラップである。
【0010】
本発明の第2態様は、中心軸を挟んで対向配置された、それぞれが開口を有する2本の第1ロッド状電極と、前記中心軸を挟んで、前記2本の第1ロッド状電極が対向する方向とは別の方向に対向配置された2本の第2ロッド状電極と、前記2本の第1ロッド状電極及び前記2本の第2ロッド状電極の両端面の外側にそれぞれ配置された、一対の端部電極とを有するリニアイオントラップを操作する方法であって、
前記リニアイオントラップの内部空間にイオンを捕捉するときは、前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれに、捕捉対象のイオンの質量電荷比に対応する所定の周波数の高周波電圧を印加し、
前記リニアイオントラップの内部空間に捕捉されたイオンを排出するときは、前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれに前記高周波電圧を印加しつつ、前記2本の第1ロッド状電極に共鳴励起用電圧を印加する、リニアイオントラップの操作方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1態様のリニアイオントラップは、2本の第1ロッド状電極のそれぞれに開口が形成されており、これら2個の開口のうちの一方がイオンの導入口となり、一方又は両方が排出口となる。一対の端部電極にはイオンを導入するための開口が形成されていない。
【0012】
リニアイオントラップの内部空間にイオンを捕捉する際は、高周波電圧印加部により2本の第2ロッド状電極にイオン捕捉用の高周波電圧が印加される。また、内部空間に捕捉されたイオンを排出する際は、高周波電圧印加部により2本の第2ロッド状電極にイオン捕捉用の高周波電圧を印加しつつ、励起用電圧印加部により2本の第1ロッド状電極に共鳴励起用電圧を印加する。これにより、高周波電圧の周波数に対応する質量電荷比を有するイオンが中心軸と直交する方向に励振され、2本の第1ロッド状電極の一方又は両方の開口から排出される。このように、第1態様のリニアイオントラップでは、イオン捕捉用の高周波電圧が印加されるロッド状電極と共鳴励起用電圧が印加されるロッド状電極を異ならせたため、電源回路を簡単な構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態であるリニアイオントラップ型質量分析装置の概略構成図。
【
図2】
図1中のリニアイオントラップの概略構成図。
【
図4A】イオン導入時及びイオン捕捉時に各電極に印加される電圧を示す図。
【
図4B】イオン排出時に各電極に印加される電圧を示す図。
【
図4C】イオン導入時及びイオン捕捉時に各電極に印加される電圧の他の例を示す図。
【
図5】変形例のリニアイオントラップ型質量分析装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態のリニアイオントラップを備えたイオントラップ
型質量分析装置について図面を参照して説明する。
図1は本実施形態のイオントラップ型質量分析装置の概略的の構成図、
図2は
図1中のリニアイオントラップの概略的な構成図である。本実施形態のイオントラップ型質量分析装置は、目的試料をイオン化するイオン化部1と、イオンを質量電荷比m/zに応じて分離するリニアイオントラップ2と、イオン検出部3と、主電源部4と、補助電源部5と、タイミング信号発生部6と、制御部7と、データ処理部8と、を備える。
【0015】
イオン化部1はマトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)を用いたものであり、パルス状のレーザ光を出射するレーザ照射部11と、目的試料成分を含むサンプルSが付着されたサンプルプレート12と、レーザ光の照射によってサンプルSから放出されたイオンを引き出すとともに、所定の方向に案内するイオン輸送系13、等を含む。以下、イオン輸送系13がイオンを案内する方向をX軸方向と呼び、X軸方向と直交する方向をそれぞれY軸方向、Z軸方向(Z軸方向は
図1において紙面に直交する方向)と呼ぶこととする。なお、イオン輸送系13には、例えばアインツェルンレンズを用いることができるが、これ以外の構成でも構わない。また、MALDI以外のイオン化法でも構わない。
【0016】
リニアイオントラップ2は、Z軸方向に延伸する中心軸Cの周りに互いに平行に配置された、内面が断面双曲線状である4本のロッド状電極21、22、23、24を含む。4本のロッド状電極21、22、23、24のうち2本のロッド状電極21、22は中心軸Cを挟んでX軸方向に対向し、2本のロッド状電極23、24は中心軸Cを挟んでY軸方向に対向する。
図1ではリニアイオントラップ2を、ロッド状電極21、22、23、24を中心軸Cに直交する平面(X-Y平面)で切断した断面図で示している。
【0017】
2本のロッド状電極21、22には、それぞれZ軸方向に延伸する細長い開口から成る導入口21a及び排出口22aが形成されている。従って、ロッド状電極21、22が本発明の第1ロッド状電極に相当し、ロッド状電極23、24が第2ロッド状電極に相当する。また、ロッド状電極21、22、23、24の両方の端部外側には、それらロッド状電極21、22、23、24を両側から挟み込むように略円形状の端部電極25、26が配置されている。これらの端部電極25、26には開口が形成されていない。
【0018】
イオン検出部3は、イオンを電子に変換するコンバージョンダイノード31と、コンバージョンダイノード31から到来する電子を増倍して検出する二次電子増倍管32とから成り、入射したイオンの量に応じた検出信号をデータ処理部8に送る。データ処理部8は、リニアイオントラップ2において出量分離されつつ順次排出されるイオンに対してイオン検出部3で得られた検出信号に基づいて、マススペクトルを作成する機能を有する。
【0019】
主電源部4は本発明の高周波電圧印加部に相当し、リニアイオントラップ2のロッド状電極23、24にイオン捕捉用の矩形波高電圧を印加する。
図3に示すように、主電源部4は第1電圧V
Hを発生する第1電圧源41と、第2電圧V
L(V
L<V
H)を発生する第2電圧源42と、第1電圧源41の出力端と第2電圧源42の出力端の間に直列に接続された第1スイッチング素子43及び第2スイッチング素子44とを含む。
【0020】
タイミング信号発生部6は、第1スイッチング素子43及び第2スイッチング素子44のオン・オフを制御するための駆動パルスを生成して主電源部4に与える。これにより、第1スイッチング素子43及び第2スイッチング素子44は交互にオンするように駆動される。第1スイッチング素子43がオンするときは第1電圧VHが出力され、第2スイッチング素子44がオンするときは第2電圧VLが出力されるため、出力電圧Voutは理想的にはハイレベルがVH、ローレベルがVLである所定周波数f(周期f)の矩形波電圧となる。通常、VHとVLは絶対値が同じで極性が逆の高電圧であり、例えばその絶対値は数百V~1kV程度である。また周波数fは通常数十kHz~数MHz程度の範囲である。タイミング信号発生部6によりスイッチング素子43、44を駆動するパルスの周波数が変更されると、振幅(電圧レベル)が一定に維持されたまま矩形波電圧の周波数が変化する。
【0021】
また、タイミング信号発生部6は、主電源部4に供給する駆動パルスを適宜の比で分周したパルス信号を補助電源部5に与える。補助電源部5は、タイミング信号発生部6から与えられる信号に基づき、周波数がf/n(分周比を1/nとする)であって、ローレベルが0V、ハイレベルが+V1、パルス幅がdである矩形波低電圧と、これと逆極性の矩形波低電圧とが生成される。生成された矩形波低電圧はリニアイオントラップ2のロッド状電極21、23に印加される。通常、矩形波低電圧の電圧値V1は矩形波高電圧の電圧値VH、VLに比べると非常に低い値であり、例えば数V程度である。補助電源部5は本発明の励起用電圧印加部に相当し、該補助電源部5で生成された矩形波低電圧は共鳴励振用電圧に相当する。
【0022】
制御部7はパーソナルコンピュータを中心に構成され、該パーソナルコンピュータに予めインストールされた制御/処理プログラムを実行することにより、その機能が達成される。
【0023】
次に、
図4A~4Cを参照しつつ、本実施形態の質量分析装置における質量分析動作を説明する。
イオン化部1において、レーザ照射部11からレーザ光が出射され、サンプルSに照射される。レーザ光の照射によりサンプルSのマトリックスは急速に加熱され、目的成分を伴って気化し、イオン化される。発生したイオンはイオン輸送系13に含まれるイオンレンズにより形成される静電場によって集束され、導入口21aを経てロッド状電極21、22、23、24で囲まれる内部空間に導入される。このとき、ロッド状電極21及びロッド状電極22には互いに逆極性の直流電圧が印加され、ロッド状電極23、24には電圧が印加されていない。また、端部電極25、26は接地電位に維持されている(
図4A参照)。
【0024】
リニアイオントラップ2内にイオンが導入されて所定時間(t1)が経過すると、タイミング信号発生部6は制御部7からの指示に従って所定周波数の駆動パルスをスイッチング素子43、44に供給する。すると、これに応じた周波数の矩形波高電圧が主電源部4で生成されてロッド状電極23、24に印加される。これにより、内部空間には高周波電場が形成され、該高周波電場の作用により所定の質量電荷比範囲のイオンがリニアイオントラップ2内に捕捉される。また、イオン導入に先立って内部空間に導入しておいたクーリングガスにイオンを接触させることでクーリングを行う。
【0025】
さらに、リニアイオントラップ2内へのイオン導入が開始されてから所定時間(t2)が経過すると、制御部7からの指示に従って補助電源部5からのロッド状電極21、22に対する直流電圧の印加が停止され、リニアイオントラップ2内にイオンが安定的に捕捉される。
【0026】
イオンのクーリングを実施した後、リニアイオントラップ2内に捕捉されているイオンを検出する際は、
図4Bに示すように、タイミング発生回路6からスイッチング素子
43、44に供給する駆動パルスの周波数を連続的に変化させる。これにより、主電源部4からロッド状電極23、24に印加される矩形波高電圧の周波数が走査される(
図4Bの時点t3以降)。また、補助電源部5からロッド状電極21、22に共鳴励起用の矩形波低電圧を印加する。このときの周波数は、
図4Bに示すようにロッド状電極23、24に印加される矩形波高電圧の周波数の周波数に応じて走査される。また、ロッド状電極22には、ロッド状電極21に印加される矩形波低電圧と180°位相がずれた矩形波低電圧が印加される。
【0027】
この結果、共鳴励起により特定の質量電荷比を有するイオンが選択的に振動し、排出口22aを通して排出され、検出部3によって検出される。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜の変形が可能である。
例えば、上記の実施形態では、
リニアイオントラップ2内にイオンが導入されて所定時間t1が経過した時点で、所定周波数の矩形波高電圧をロッド状電極23、24に印加したが、
図4Cに示すように、予め所定周波数の矩形波高電圧をロッド状電極23、24に印加しておき、時間t1が経過した時点で、ロッド状電極23、24に印加する矩形波高電圧の電圧値を低下させても良い。このようにすることで、
リニアイオントラップ2の内部空間にイオンが導入されやすくなる。
【0029】
また、例えば、
図5に示すように、第1ロッド状電極21のイオン化部1側の面にFAE電極27を配置してもよい。FAE電極27には、図示しない電圧印加部により、イオンの捕捉を開始するタイミングで、イオンを内部空間に引き込むような電圧が印加され、イオンを排出するタイミングでは、該内部空間からイオンを押し出すような電圧が印加される。
【0030】
本発明のリニアイオントラップは、一対の端部電極に開口が形成されていないが、これはイオン導入口としての開口、或いはイオン排出口としての開口が形成されていないことを意味し、例えば、複数のリニアイオントラップが中心軸方向に並べて配置されている構成において、隣接するリニアイオントラップの内部空間同士を連結するために端部電極に開口が形成されることを排除するものではない。
【0031】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0032】
(第1項)第1項のリニアイオントラップは、
中心軸を挟んで対向配置された、それぞれが開口を有する2本の第1ロッド状電極と、
前記中心軸を挟んで、前記2本の第1ロッド状電極が対向する方向とは別の方向に対向配置された2本の第2ロッド状電極と、
前記2本の第1ロッド状電極及び前記2本の第2ロッド状電極の両端面の外側にそれぞれ配置された、一対の端部電極と、
前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれにイオン捕捉用の高周波電圧を印加する高周波電圧印加部と、
前記2本の第1ロッド状電極に共鳴励起用電圧を印加する励起用電圧印加部と、
前記高周波電圧印加部及び前記励起用電圧印加部を制御する制御部と
を有する。
【0033】
第1項のリニアイオントラップでは、イオンを捕捉するために、位相を180°ずらした高周波電圧を電極に印加する必要がない。また、イオン捕捉用の高周波電圧が印加されるロッド状電極と共鳴励起用電圧が印加されるロッド状電極が異なり、従来のリニアイオントラップのように、共鳴励起用電圧をイオン捕捉用の高周波電圧に重畳させる必要がない。従って、簡単な構成の電源回路でリニアイオントラップを動作させることができる。
【0034】
(第2項)第1項に記載のリニアイオントラップにおいて、
前記制御部は、
前記2本の第1ロッド状電極と、前記2本の第2ロッド状電極と、前記一対の端部電極とで囲まれた空間に所定の質量電荷比を有するイオンを捕捉するときは、そのイオンの質量電荷比に応じた周波数を有する高周波電圧が前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれに印加されるように前記高周波電圧印加部を制御し、
前記空間に捕捉されているイオンを排出するときは、前記高周波電圧印加部による前記2本の第2ロッド状電極に対する高周波電圧の印加動作を継続しつつ、共鳴励起用電圧が前記2本の第1ロッド状電極に印加されるように前記励起用電圧印加部を制御する。
【0035】
第2項のリニアイオントラップでは、2本の第1ロッド状電極の一方の開口から内部空間にイオンが導入された後、高周波電圧印加部により2本の第2ロッド状電極にイオン捕捉用の高周波電圧が印加される。これにより、内部空間にイオンを捕捉することができる。この状態で高周波電圧印加部により2本の第2ロッド状電極にイオン捕捉用の高周波電圧を印加しつつ、励起用電圧印加部により2本の第1ロッド状電極に共鳴励起用電圧を印加する。これにより、高周波電圧の周波数に対応する質量電荷比を有するイオンが中心軸と直交する方向に励振され、2本の第1ロッド状電極の一方又は両方の開口からイオンを排出することができる。
【0036】
(第3項)第1項又は第2項に記載のリニアイオントラップにおいて、
前記イオン捕捉用の高周波電圧が矩形波電圧であり、
前記共鳴励起用電圧が、前記イオン捕捉用の高周波電圧を所定の分周比で分周した該高周波電圧よりも低電圧である矩形波電圧である。
【0037】
第3項のリニアイオントラップでは、デジタル駆動方式で各電極を動作させるため、第1ロッド状電極や第2ロッド状電極に印加する矩形波電圧の周波数やデューティ比を容易に変更することができる。
【0038】
(第4項)第3項に記載のリニアイオントラップにおいて、
前記高周波電圧印加部が、直流電圧を発生する第1電圧源と、該第1電圧源とは異なる直流電圧を発生する第2電圧源と、前記第1電圧源から出力される直流電圧をオン・オフする第1スイッチング部と、前記第2電圧源から出力される直流電圧をオン・オフする第2スイッチング部とを含み、前記第1スイッチング部及び前記第2スイッチング部を交互にオン・オフすることによって矩形波電圧を生成するものである。
【0039】
第4項のリニアイオントラップでは、スイッチング素子のオン・オフの切り替え周波数を変更することで、イオン捕捉要の高周波電圧の周波数を容易に切り替えることができ、スイッチング素子の切り替え周波数を一定にしたまま切り替えるタイミングを変更することでデューティ比も容易に切り替えることができる。
【0040】
(第5項)第5項のリニアイオントラップの操作方法は、
中心軸を挟んで対向配置された、それぞれが開口を有する2本の第1ロッド状電極と、前記中心軸を挟んで、前記2本の第1ロッド状電極が対向する方向とは別の方向に対向配置された2本の第2ロッド状電極と、前記2本の第1ロッド状電極及び前記2本の第2ロッド状電極の両端面の外側にそれぞれ配置された、一対の端部電極とを有するリニアイオントラップを操作する方法であって、
前記リニアイオントラップの内部空間にイオンを捕捉するときは、前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれに、捕捉対象のイオンの質量電荷比に対応する所定の周波数の高周波電圧を印加し、
前記リニアイオントラップの内部空間に捕捉されたイオンを排出するときは、前記2本の第2ロッド状電極のそれぞれに前記高周波電圧を印加しつつ、前記2本の第1ロッド状電極に共鳴励起用電圧を印加する。
【符号の説明】
【0041】
1…イオン化部
11…レーザ照射部
12…サンプルプレート
13…イオン輸送系
2…リニアイオントラップ
21…ロッド状電極
21a…導入口
22…ロッド状電極
22a…排出口
23…ロッド状電極
24…ロッド状電極
25…端部電極
3…イオン検出部
31…コンバージョンダイノード
32…二次電子増倍管
4…主電源部
41…第1電圧源
42…第2電圧源
43…第1スイッチング素子
44…第2スイッチング素子
5…補助電源部
6…タイミング信号発生部
7…制御部
8…データ処理部