(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電子部品の製造方法及び電子部品製造装置
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221213BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20221213BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20221213BHJP
B65H 23/16 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01G4/30 517
H01G13/00 391B
H01G13/00 391J
H01G13/00 391Z
H01F41/04 C
H01G4/30 311Z
B65H23/16
(21)【出願番号】P 2019188073
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】入江 常雅
(72)【発明者】
【氏名】浅井 良太
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-274219(JP,A)
【文献】特開2016-132522(JP,A)
【文献】特開2017-141088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 13/00
H01F 41/04
B65H 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸フィルム上に配置されたセラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層が印刷され、張力が加わった状態での第1の熱処理を経た電子部品シートの熱応力を緩和する応力緩和工程を備えた電子部品の製造方法であって、
前記応力緩和工程では、
前記延伸フィルムの張力を、前記第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力
に調整しながら、前記延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg
-10)より高い温度で前記電子部品シートを加熱することを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記応力緩和工程において、前記延伸フィルム
の張力
を、0N以上、20N未満
に調整する請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
延伸フィルム上にセラミックグリーンシートが配置された電子部品用グリーンシートの前記セラミックグリーンシート上に、電極層又は誘電体層となるペーストを印刷し、前記延伸フィルムに張力を加えながら前記電子部品用グリーンシートに第1の熱処理を施して前記電子部品シートを得る第1印刷工程をさらに備える請求項1又は2に記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記第1印刷工程において、前記延伸フィルムに加える張力が、20N以上、50N以下である請求項3に記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記第1の熱処理における温度が、20℃以上、180℃以下である請求項3又は4に記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記応力緩和工程を経た前記電子部品シートの前記セラミックグリーンシート上の前記電極層又は前記誘電体層が印刷されていない領域に、前記電極層及び前記誘電体層のうち前記セラミックグリーンシート上に印刷されていない層となるペーストを印刷する第2印刷工程をさらに備える請求項1~5のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記第1の熱処理を経た前記電子部品シートが巻き取られた巻回体から前記電子部品シートを巻き出す巻出工程をさらに備え、
前記巻出工程によって巻出された前記電子部品シートに対して前記応力緩和工程を行う請求項1~6のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記応力緩和工程では、前記電子部品シートを、加熱炉で加熱する請求項1~7のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記応力緩和工程では、前記電子部品シートを、加熱した搬送ロールによって加熱する請求項1~7のいずれかに記載の電子部品の製造方法。
【請求項10】
延伸フィルム上に配置されたセラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層が印刷され、張力が加わった状態での第1の熱処理を経た電子部品シートの熱応力を緩和する応力緩和機構を備えた電子部品製造装置であって、
前記応力緩和機構は、
前記延伸フィルムの張力を、前記第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力
に調整する張力調整手段と、前記張力調整手段によって前記延伸フィルム
の張力が調整された状態で、前記延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg
-10)よりも高い温度で前記電子部品シートを加熱する加熱手段と、を備えることを特徴とする電子部品製造装置。
【請求項11】
前記張力調整手段が前記延伸フィルム
の張力
を、0N以上、20N未満
に調整する請求項10に記載の電子部品製造装置。
【請求項12】
延伸フィルム上にセラミックグリーンシートが配置された電子部品用グリーンシートの前記セラミックグリーンシート上に、電極層又は誘電体層となるペーストを印刷する第1印刷手段と、前記延伸フィルムに張力を加えながら前記電子部品用グリーンシートに第1の熱処理を施して前記電子部品シートを得る熱処理手段と、からなる第1印刷機構をさらに備える請求項10又は11に記載の電子部品製造装置。
【請求項13】
前記第1の熱処理を施す際に前記延伸フィルムに加える張力が、20N以上、50N以下である請求項12に記載の電子部品製造装置。
【請求項14】
前記熱処理手段は、前記電子部品用グリーンシートを20℃以上、180℃以下で加熱する手段である請求項12又は13に記載の電子部品製造装置。
【請求項15】
前記電子部品シートの巻回体から前記電子部品シートを巻き出し、前記応力緩和機構まで搬送する巻出機構をさらに備える請求項10又は11に記載の電子部品製造装置。
【請求項16】
前記応力緩和機構から搬出された前記電子部品シートの前記セラミックグリーンシート上の前記電極層又は前記誘電体層が印刷されていない領域に、前記電極層及び前記誘電体層のうち前記セラミックグリーンシート上に印刷されていない層となるペーストを印刷する第2印刷機構をさらに備える請求項10~15のいずれかに記載の電子部品製造装置。
【請求項17】
前記加熱手段は、前記電子部品シートを加熱する加熱炉である請求項10~16のいずれかに記載の電子部品製造装置。
【請求項18】
前記加熱手段は、前記電子部品シートと接触する搬送ロールを加熱した加熱ロールである請求項10~16のいずれかに記載の電子部品製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造方法及び電子部品製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等の積層電子部品を製造する方法として、セラミックグリーンシートに導電性ペーストを印刷して電極パターンを形成し、これを積層する方法が知られている。
【0003】
セラミックグリーンシートに導電性ペーストを印刷する方法としては、キャリアフィルム上にグリーンシートを保持した状態で搬送し、スクリーン印刷やグラビア印刷等によって導電性ペーストを印刷する方法が挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、キャリアフィルム上に保持された長尺上シートに掛かるテンションを、テンション調整機構によって調整することによって、巻取り体における図形の巻取り方向の間隔(ピッチ)のばらつきを抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セラミックグリーンシート上に2回以上印刷を施す場合、2回目以降の印刷パターンが本来の印刷位置からずれてしまい、印刷形状精度が低下するという問題があった。これは、印刷した導電性ペーストを乾燥させる乾燥炉からキャリアフィルムを搬出する際に、キャリアフィルムが急冷されることによって発生する残留応力(熱応力)によると推測される。
【0007】
見当ずれを回避するためには印刷マージンをとる必要がある。しかしながら、電子部品のサイズが小さくなるほど印刷マージンの占める割合が大きくなるため、緻密な印刷パターンが形成できないという問題があった。
【0008】
本発明は、印刷形状精度の低下を抑制し、緻密な印刷パターンを有する電子部品を製造することのできる電子部品の製造方法及び電子部品製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子部品の製造方法は、延伸フィルム上に配置されたセラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層が印刷され、張力が加わった状態での第1の熱処理を経た電子部品シートの熱応力を緩和する応力緩和工程を備えた電子部品の製造方法であって、上記応力緩和工程では、上記第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力を上記延伸フィルムに加えながら、上記延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg-10)より高い温度で上記電子部品シートを加熱することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の電子部品製造装置は、延伸フィルム上に配置されたセラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層が印刷され、張力が加わった状態での第1の熱処理を経た電子部品シートの熱応力を緩和する応力緩和機構を備えた電子部品製造装置であって、上記応力緩和機構は、上記第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力を上記延伸フィルムに加える張力調整手段と、上記張力調整手段によって上記延伸フィルムに加える張力が調整された状態で、上記延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg-10)よりも高い温度で上記電子部品シートを加熱する加熱手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印刷形状精度の低下を抑制し、緻密な印刷パターンを有する電子部品を製造することのできる電子部品の製造方法及び電子部品製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の電子部品の製造方法の一例を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、電子部品用グリーンシートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、張力が加わった状態での第1の熱処理を経た電子部品シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、熱応力が緩和された電子部品シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の電子部品の製造方法の別の一例を模式的に示す側面図である。
【
図6】
図6は、電極層及び誘電体層の両方が印刷された電子部品シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、応力緩和工程の別の一例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の電子部品の製造方法及び電子部品製造装置について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の各実施形態の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0014】
[電子部品の製造方法]
本発明の電子部品の製造方法は、電子部品シートの熱応力を緩和する応力緩和工程を備える。
【0015】
電子部品シートは、キャリアフィルムである延伸フィルムと、延伸フィルム上に配置されたセラミックグリーンシートと、セラミックグリーンシート上に印刷された電極層又は誘電体層からなる。
【0016】
延伸フィルムは、高分子を溶融状態で延伸して成形したフィルムである。
延伸フィルムは、一軸延伸フィルムであってもよく、二軸延伸フィルムであってもよい。
【0017】
延伸フィルムの厚さは、1μm以上、200μm以下であることが好ましい。
【0018】
延伸フィルムを構成する高分子としては、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン、PET(ポリエチレンテレフタレート)及びPEN(ポリエチレンナフタレート)等のポリエステル等が挙げられる。
【0019】
延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)は、30℃以上、180℃以下であることが好ましい。
延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)装置によって測定される。ガラス転移温度(Tg)の測定は、JIS K 7121-1987に準じる。
【0020】
延伸フィルムにはフィラーが含まれていてもよい。
フィラーとしては、SiやCa等の酸化物、水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。
【0021】
延伸フィルムとセラミックグリーンシートとの間には、延伸フィルムの剥離を容易にするために離型層が設けられていてもよい。
【0022】
電子部品シートは、張力が加わった状態での第1の熱処理を経ている。
第1の熱処理は、セラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層を印刷した後に行われる処理である。
例えば、延伸フィルムと延伸フィルム上に配置されたセラミックグリーンシートからなる電子部品用グリーンシートのセラミックグリーンシート上に、電極層又は誘電体層となるペーストを印刷した後、該ペーストを乾燥させるために第1の熱処理が行われる。
第1の熱処理が終了した延伸フィルムは速やかに冷却されるため、延伸フィルムを構成する高分子は張力が加わった状態で固定されてしまう。
従って、第1の熱処理を経た電子部品シートでは、延伸フィルムが熱応力を有する。
【0023】
電極層となるペーストは、Ni、Cu、Ag、Pd、Ag及びAuからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。
【0024】
誘電体層となるペーストは、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム又はジルコン酸カルシウム等の誘電体材料を含むことが好ましい。
【0025】
セラミックグリーンシートは、誘電体層となるペーストに含まれる誘電体材料と同じ材料を含むことが好ましい。
【0026】
本発明の電子部品の製造方法の一例を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の電子部品の製造方法の一例を模式的に示す側面図である。
【0027】
図1に示す電子部品の製造方法は、第1印刷工程A及び応力緩和工程B
1を備える。第1印刷工程Aにより電子部品シート3が得られる。電子部品シート3に対して応力緩和工程B
1を行うことにより、熱応力が緩和された電子部品シート1が得られる。
延伸フィルム及び延伸フィルム上に配置されるセラミックグリーンシート等の各種材料は、矢印の方向に沿って左側から右側に搬送される。
【0028】
図1に示す電子部品の製造方法は、本発明の電子部品製造装置の一例である電子部品製造装置100を用いて行われる。
電子部品製造装置100は、第1印刷機構10と、応力緩和機構20aとを備える。
第1印刷機構10は、第1印刷手段11と熱処理手段である加熱炉13とを備える。
応力緩和機構20aは、加熱手段である加熱炉21と張力調整手段であるダンサーロール23とを備える。
【0029】
まず、第1印刷工程について説明する。
第1印刷工程Aでは、まず、第1印刷手段11を用いて、延伸フィルムと延伸フィルム上に配置されたセラミックグリーンシートからなる電子部品用グリーンシート5のセラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層となるペーストを印刷する。続いて、熱処理手段である加熱炉13により第1の熱処理を施して、該ペーストを乾燥させることにより、セラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層が印刷された電子部品シート3を得る。
【0030】
第1印刷工程において、延伸フィルムに加える張力は、20N以上、50N以下であることが好ましい。
また、第1の熱処理を施す際に延伸フィルムに加える張力は、20N以上、50N以下であることが好ましい。
【0031】
第1の熱処理における温度は、20℃以上、180℃以下であることが好ましい。
すなわち、熱処理手段は、電子部品用グリーンシートを20℃以上、180℃以下で加熱する手段であることが好ましい。
なお、第1の熱処理における上記温度とは、加熱手段の設定温度を意味する。
【0032】
第1印刷手段としては、グラビア印刷機が好ましい。
グラビア印刷は印刷速度が速いため、印刷したペーストを乾燥させる第1の熱処理における経路長(例えば加熱炉の全長)が長くなりやすい。そのため、印刷時及び第1の熱処理時に、延伸フィルムに加える張力を大きくする必要があり、延伸フィルムに熱応力が発生しやすい。
これに対して、本発明の電子部品の製造方法では、延伸フィルムの熱応力を緩和する応力緩和工程を備えるため、第1印刷手段としてグラビア印刷機を用いた場合であっても、熱応力が緩和された延伸フィルムを得ることができ、見当ずれが発生しにくい。
なお、グラビア印刷機が乾燥機能(熱処理手段)を備えている場合、グラビア印刷機が第1印刷手段及び熱処理手段の両方を備えた第1印刷機構となるため、別途の熱処理手段は不要である。
【0033】
第1印刷工程における延伸フィルムの搬送速度は、0.5m/s以上、200m/s以下であることが好ましい。
【0034】
続いて、応力緩和工程について説明する。
応力緩和工程B1では、張力が加わった状態での第1の熱処理を経た電子部品シート3に、第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力を加えながら、電子部品シート3を加熱する。電子部品シート3の加熱は、加熱手段である加熱炉21により行われる。電子部品シート3は搬送ロール50により搬送され、張力調整手段であるダンサーロール23によって延伸フィルムに加わる張力が調整される。応力緩和工程B1において延伸フィルムに加える張力は、テンションメータ60で確認する。電子部品シート3は、応力緩和工程B1により、熱応力が緩和された電子部品シート1となり、巻回体70として巻き取られる。
【0035】
応力緩和工程B1においては、延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg-10)より高い温度で電子部品シート3を加熱する。
延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg-10)より高い温度で電子部品シート3を加熱することによって、延伸フィルムを構成する高分子の再配列が起こる。従って、第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力を加えた状態で上記加熱を行って高分子の再配列を行うことで、第1の熱処理によって延伸フィルムに発生した熱応力を緩和することができる。
【0036】
図1に示す応力緩和工程B
1では、張力調整手段としてダンサーロール23を用いている。
ダンサーロール23は2本の固定ロール55に挟まれて配置されており、ダンサーロール23の鉛直方向の位置、及び、ダンサーロール23に加える荷重を調整することによって延伸フィルムに加える張力を調整する。
【0037】
応力緩和工程B1において延伸フィルムに加える張力は、第1印刷工程Aにおいて延伸フィルムに加える張力よりも小さくなっている。
【0038】
応力緩和工程において、延伸フィルムに加える張力は、第1の熱処理の際に延伸フィルムに加える張力よりも小さければよいが、0N以上、20N未満であることが好ましい。
【0039】
応力緩和工程における加熱温度は、延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg-10)より高い温度であればよいが、延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より5℃低い温度(Tg-5)より高い温度であることが好ましく、延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より3℃低い温度(Tg-3)より高い温度であることがより好ましく、延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より高い温度であることがさらに好ましい。
応力緩和工程における加熱温度は、第1の熱処理における加熱温度と同じ温度であってもよい。
【0040】
図2は、電子部品用グリーンシートの一例を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、電子部品用セラミックグリーンシート5は、延伸フィルム110と延伸フィルム110上に配置されたセラミックグリーンシート120からなる。
【0041】
図3は、張力が加わった状態での第1の熱処理を経た電子部品シートの一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、張力が加わった状態での第1の熱処理を経ることにより熱応力を有する電子部品シート3は、延伸フィルム110と、延伸フィルム110上に配置されたセラミックグリーンシート120と、セラミックグリーンシート120上に印刷された電極層130からなる。
なお、電極層の代わりに誘電体層を印刷したものも、電子部品シートである。
【0042】
図4は、熱応力が緩和された電子部品シートの一例を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、電子部品シート1は、延伸フィルム110と、延伸フィルム110上に配置されたセラミックグリーンシート120と、セラミックグリーンシート120上に印刷された電極層130からなる。
図3に示す電子部品シート3とは異なり、延伸フィルム110が有する熱応力が緩和されている。
【0043】
本発明の電子部品の製造方法の別の一例を、
図5を参照しながら説明する。
図5は、本発明の電子部品の製造方法の別の一例を模式的に示す側面図である。
【0044】
図5に示す電子部品の製造方法は、巻出工程C、応力緩和工程B
2及び第2印刷工程Dを備える。
延伸フィルムが搬送される方向は、
図1と同様である。
【0045】
図5に示す電子部品の製造方法は、本発明の電子部品製造装置の一例である電子部品製造装置200を用いて行われる。
電子部品製造装置200は、巻出機構30と、応力緩和機構20bと、第2印刷機構40とを備える。
応力緩和機構20bは、加熱手段である加熱炉21と張力調整手段であるダンサーロール23とを備える。
第2印刷機構40は、第2印刷手段41と加熱手段である加熱炉43とを備える。
【0046】
巻出工程Cでは、巻出機構30によって電子部品シートの巻回体35から電子部品シート3を巻き出す。
電子部品シートの巻回体35は、例えば、
図1に示す第1印刷工程Aの後に得られる電子部品シート3を巻き取ることにより得ることができる。
【0047】
応力緩和工程B2では、第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力を延伸フィルムに加えた状態で、延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg-10)より高い温度で電子部品シート3を加熱する。
電子部品シート3の加熱は、加熱手段である加熱炉21により行われる。電子部品シート3を加熱炉21で加熱する際、延伸フィルムに加わる張力は、張力調整手段であるダンサーロール23によって調整される。
応力緩和工程B2により、熱応力が緩和された電子部品シート1が得られる。
【0048】
第2印刷工程Dでは、応力緩和工程B2を経て熱応力が緩和された電子部品シート1のセラミックグリーンシート上の電極層又は誘電体層が印刷されていない領域に、電極層及び誘電体層のうちセラミックグリーンシート上に印刷されていない層となるペーストを印刷して、電極層及び誘電体層が印刷された電子部品シート1’を得る。
【0049】
熱応力が緩和された電子部品シート1のセラミックグリーンシート上に電極層が印刷されている場合、第2印刷工程Dでは、セラミックグリーンシート上の電極層が印刷されていない領域に誘電体層となるペーストを印刷する。一方、熱応力が緩和された電子部品シート1のセラミックグリーンシート上に誘電体層が印刷されている場合、第2印刷工程Dでは、セラミックグリーンシート上の誘電体層が印刷されていない領域に電極層となるペーストを印刷する。
【0050】
第2印刷手段としては、グラビア印刷機が好ましい。
グラビア印刷は印刷速度が速いが、印刷時に電子部品シートを固定しないため、延伸フィルムが熱応力を有していると、見当ずれが発生しやすくなる。
これに対して、本発明の電子部品の製造方法では、第2印刷工程の前に応力緩和工程を行うため、延伸フィルムが有する熱応力が緩和されており、見当ずれが発生しにくい。
なお、グラビア印刷機が乾燥機能(加熱手段)を備えている場合、グラビア印刷機が第2印刷手段及び加熱手段の両方を備えた第2印刷機構となるため、別途の加熱手段は不要である。
【0051】
第2印刷工程における延伸フィルムの搬送速度は、0.5m/s以上、200m/s以下であることが好ましい。
【0052】
図6は、電極層及び誘電体層の両方が印刷された電子部品シートの一例を模式的に示す断面図である。
図6に示すように、第2印刷工程Dを経て得られる電子部品シート1’は、延伸フィルム110と、延伸フィルム110上に配置されたセラミックグリーンシート120と、電極層130と誘電体層140からなる。
【0053】
応力緩和工程で用いられる熱処理手段は特に限定されないが、加熱炉、又は、加熱した搬送ロールであることが好ましい。
すなわち、加熱手段は、電子部品シートを加熱する加熱炉、又は、電子部品シートと接触する搬送ロールを加熱した搬送ロールであることが好ましい。
【0054】
図7は、応力緩和工程の別の一例を模式的に示す側面図である。
図7に示す応力緩和工程B
3では、加熱手段として加熱した搬送ロール25が用いられている。
また、
図1に示した応力緩和工程B
1、
図5に示した応力緩和工程B
2と同様に、応力緩和工程B3では、第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力を延伸フィルムに加えた状態で、電子部品シート3を加熱する。延伸フィルムが搬送される方向も、
図1及び
図5と同様である。
図7では、加熱した搬送ロール25を1つだけ用いているが、加熱した搬送ロールを複数個用いてもよい。
【0055】
加熱した搬送ロールの表面温度は、30℃以上、180℃以下であることが好ましい。
複数個の加熱した搬送ロールの温度は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0056】
加熱した搬送ロールによる電子部品シートの搬送速度は、0.5m/s以上、200m/s以下であることが好ましい。
【0057】
加熱した搬送ロールと電子部品シートとの接触時間は、10ms以上、10s以下であることが好ましい。
【0058】
以上の工程により、セラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層が印刷された電子部品シートを得る。
セラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層のいずれか一方のみが印刷されている場合には、上述した第2印刷工程を行って、セラミックグリーンシート上に電極層及び誘電体層の両方を印刷する。
【0059】
続いて、電子部品シートから延伸フィルムを除去し、セラミックグリーンシート上に印刷された電極層及び誘電体層並びにセラミックグリーンシートを複数枚積層して積層シートを作製する。
積層シートを静水圧プレス等の手段により積層方向にプレスし、積層ブロックを作製する。
【0060】
積層ブロックを所定のサイズにカットし、積層チップを切り出す。このとき、バレル研磨等により積層チップの角部及び稜線部に丸みをつけてもよい。
積層チップを焼成し積層体を作製する。
【0061】
続いて、積層体の表面のうち電極層が露出している表面に外部電極を形成する。
外部電極は、ガラスフリットを含有する焼付層と焼付層上に形成された金属めっき層からなる構成であることが好ましい。
上記工程を経て、電子部品を製造することができる。
【0062】
[電子部品製造装置]
本発明の電子部品製造装置は、延伸フィルム上に配置されたセラミックグリーンシート上に電極層又は誘電体層が印刷され、張力が加わった状態での第1の熱処理を経た電子部品シートの熱応力を緩和する応力緩和機構を備えた電子部品製造装置であって、上記応力緩和機構は、上記第1の熱処理の際に加えた張力未満の張力を上記延伸フィルムに加える張力調整手段と、上記張力調整手段によって上記延伸フィルムに加える張力が調整された状態で、上記延伸フィルムを構成する高分子のガラス転移温度(Tg)より10℃低い温度(Tg-10)よりも高い温度で上記電子部品シートを加熱する加熱手段と、を備えることを特徴とする。
【0063】
本発明の電子部品製造装置は、延伸フィルムが有する熱応力を緩和する応力緩和機構を備えている。そのため、電子部品シートを構成する延伸フィルムが熱応力を有している場合であっても、延伸フィルムが有する熱応力を緩和することができる。そのため、電子部品シートのセラミックグリーンシート上にさらに電極層又は誘電体層を印刷する場合に、見当ずれが発生しにくい。従って、印刷マージンを小さくして、緻密な印刷パターンを有する電子部品を製造することができる。
【0064】
本発明の電子部品製造装置は、本発明の電子部品の製造方法を容易に実施できる電子部品製造装置である。従って、本発明の電子部品製造装置の好ましい条件は、既に説明した本発明の電子部品の製造方法における好ましい条件と同様である。
【符号の説明】
【0065】
1 熱応力が緩和された電子部品シート
1’ 電極層及び誘電体層が印刷された電子部品シート
3 電子部品シート
5 電子部品用グリーンシート
10 第1印刷機構
11 第1印刷手段
13 加熱炉(熱処理手段)
20a、20b、20c 応力緩和機構
21 加熱炉(加熱手段)
23 ダンサーロール(張力調整手段)
25 加熱した搬送ロール(加熱手段)
30 巻出機構
35 電子部品シートの巻回体
40 第2印刷機構
41 第2印刷手段
43 加熱炉(熱処理手段)
50 搬送ロール
55 固定ロール
60 テンションメータ
70 熱応力が緩和された電子部品シートの巻回体
100、200 電子部品製造装置
110 延伸フィルム
120 セラミックグリーンシート
130 電極層
140 誘電体層
A 第1印刷工程
B1、B2、B3 応力緩和工程
C 巻出工程
D 第2印刷工程