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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/18 20060101AFI20221213BHJP
   H01B 7/29 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01B7/18 H
H01B7/29
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019549867
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029450
(87)【国際公開番号】W WO2019087505
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2017211177
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】松村 友多佳
(72)【発明者】
【氏名】田中 成幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小堀 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅之
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056278(WO,A1)
【文献】特開2012-241129(JP,A)
【文献】特開2016-201220(JP,A)
【文献】特開2014-065809(JP,A)
【文献】特開2012-149163(JP,A)
【文献】特開2016-050272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
H01B 7/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体及びこの導体を被覆する絶縁被覆層を有する1又は複数のコア材と、上記1又は複数のコア材を被覆するシース層とを備えるケーブルであって、
上記シース層が内側シース層と、この内側シース層を被覆する外側シース層とを備え、
上記内側シース層が架橋を施された超低密度ポリエチレンを含有し、
上記外側シース層の主成分がポリウレタンであり、
上記内側シース層の樹脂成分100質量部における上記超低密度ポリエチレンの含有量が、50質量部以上80質量部以下であり、
上記内側シース層の25℃における貯蔵弾性率が5MPa以上30MPa以下であり、上記内側シース層の150℃における貯蔵弾性率が0.1MPa以上0.8MPa以下であるケーブル。
【請求項2】
上記超低密度ポリエチレンの比重が0.90以下である請求項に記載のケーブル。
【請求項3】
上記架橋がシラン架橋であり、上記超低密度ポリエチレンにおけるケイ素原子の含有量が0.05質量%以上10質量%以下である請求項1又は請求項2に記載のケーブル。
【請求項4】
上記内側シース層におけるケイ素原子の含有量が0.01質量%以上10質量%以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項5】
上記内側シース層が非架橋樹脂をさらに含む請求項1から請求項のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項6】
上記非架橋樹脂がエステル結合を含有するビニルモノマーとエチレンとの共重合体である請求項に記載のケーブル。
【請求項7】
上記外側シース層のポリウレタンがアロファネート架橋したポリウレタンである請求項1から請求項のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項8】
電動パーキングブレーキ用である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項9】
上記内側シース層の平均外径が3mm以上12mm以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項10】
上記外側シース層の平均肉厚が0.2mm以上0.7mm以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項11】
上記外側シース層の樹脂成分100質量部におけるポリウレタンの含有量が50質量部以上100質量部以下である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項12】
上記内側シース層と上記外側シース層との90°剥離試験による接着強度が2.5N/cm以上である請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電動パーキングブレーキケーブルや車輪速センサケーブル等のケーブルには、導体の周りをポリエチレンやポリ塩化ビニル等の絶縁被覆層で被覆した複数の電線を束ね、その外周をシース層で被覆したケーブルが用いられている。このようなケーブルは、エンジンやブレーキディスク等からの放熱に曝されるため、強靱性及び柔軟性に加え、耐熱性が要求される。
【0003】
この耐熱性の要求に対し、ポリウレタンエラストマーと、ポリジフェニルエーテル以外のハロゲン系難燃剤と、カルボジイミド化合物とを含む耐熱難燃性ポリウレタンエラストマー組成物で電線を被覆し、上記耐熱難燃性ポリウレタンエラストマー組成物に電子線を照射することで、シース層を形成したケーブルが提案されている(特開平6-212073号公報参照)。上記従来のケーブルでは、この電子線照射によりシース層のポリウレタンを電子線架橋することで耐熱性を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-212073号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係るケーブルは、導体及びこの導体を被覆する絶縁被覆層を有する1又は複数のコア材と、上記1又は複数のコア材を被覆するシース層とを備えるケーブルであって、上記シース層が内側シース層と、この内側シース層を被覆する外側シース層とを備え、上記内側シース層が架橋を施された超低密度ポリエチレンを含有し、上記外側シース層の主成分がポリウレタンであり、上記内側シース層の樹脂成分100質量部における上記超低密度ポリエチレンの含有量が、20質量部以上100質量部以下であり、上記内側シース層の25℃における弾性率が5MPa以上30MPa以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の一実施形態のケーブルの模式的断面図である。
図2図1のケーブルとは異なる実施形態に係るケーブルの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
電動パーキングブレーキや車輪速センサ等に用いる電線は径が大きいため、この電線を束ねてシース層で被覆したケーブルの外径も大きくなる。ケーブルの外径が大きい場合、ケーブルを曲げた際の応力が大きくなるため、ケーブルの外周に位置するシース層に必要な強度が大きくなる。そのため、上記公報に記載のケーブルは、シース層の強度を高めるためシース層の肉厚を大きくすることを要する。しかしながら、シース層の肉厚を大きくすると、ケーブルの屈曲性が低下しやすい。つまり、上記公報に記載の従来のケーブルでは、シース層の強度の向上とケーブルの屈曲性はトレードオフの関係にある。
【0008】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、十分な強靱性、柔軟性及び耐熱性を有するケーブルの提供を目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示のケーブルは、十分な強靱性、柔軟性及び耐熱性を有する。従って、本開示のケーブルは、自動車の電動パーキングブレーキや車輪速センサ等の電気配線に使用されるケーブルとして好適に用いることができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の一態様に係るケーブルは、導体及びこの導体を被覆する絶縁被覆層を有する1又は複数のコア材と、上記1又は複数のコア材を被覆するシース層とを備えるケーブルであって、上記シース層が内側シース層と、この内側シース層を被覆する外側シース層とを備え、上記内側シース層が架橋を施された超低密度ポリエチレンを含有し、上記外側シース層の主成分がポリウレタンであり、上記内側シース層の樹脂成分100質量部における上記超低密度ポリエチレンの含有量が、20質量部以上100質量部以下であり、上記内側シース層の25℃における弾性率が5MPa以上30MPa以下である。
【0011】
当該ケーブルは、内側シース層が架橋を施された超低密度ポリエチレンを含有しているので耐熱性が高い。また、当該ケーブルは、上記内側シース層の樹脂成分100質量部における上記超低密度ポリエチレンの含有量が上記範囲内であるので柔軟性が高い。また、当該ケーブルは、外側シース層の主成分がポリウレタンである。ポリウレタンと超低密度ポリエチレンとは接着しやすく、内側シース層と外側シース層との接着強度を確保しやすいので、当該ケーブルは、内側シース層と外側シース層とが剥離し難い。さらに、ポリウレタンを主成分とすることで機械的強度が増すので、当該ケーブルは十分な強靱性を有する。加えて、当該ケーブルは、その内側シース層の25℃における弾性率が上記範囲内であることにより、十分な柔軟性及び耐熱性を備えることができる。
【0012】
上記内側シース層の150℃における弾性率としては0.1MPa以上0.8MPa以下が好ましい。このように、上記内側シース層の150℃における弾性率が上記範囲内であることによって、当該ケーブルの耐熱性を高めることができる。
【0013】
上記超低密度ポリエチレンの比重としては0.90以下が好ましい。このように、上記超低密度ポリエチレンの比重が上記上限以下であることによって、当該ケーブルの柔軟性を高めることができる。
【0014】
上記架橋が化学架橋、特にシラン架橋であることが好ましい。上記超低密度ポリエチレンにおけるケイ素原子の含有量としては0.05質量%以上10質量%以下が好ましい。このように、上記架橋がシラン架橋であり、上記超低密度ポリエチレンにおけるケイ素原子の含有量が上記範囲内であることによって、上記超低密度ポリエチレンは、シラン架橋基が水分と接触することで架橋反応した網目状高分子構造を有する。上記内側シース層はこのシラン架橋した高分子構造により耐熱性が向上するので、当該ケーブルは少なくとも内側シース層を電子線架橋する必要がない。このため、当該ケーブルは、製造時に電子線設備を必要としないか、又は外側シース層の電子線架橋ができる程度の低出力な電子線設備しか必要としないので、電子線照射にかかるコストを低く抑えることができる。従って、当該ケーブルはシース層の肉厚が大きい場合であっても製造コストが比較的低い。また、シラン架橋を構成するケイ素原子の含有量が上記上限以下であるので、内側シース層のシラン架橋基による硬質化が抑止され、当該ケーブルは十分な柔軟性を有する。
【0015】
上記内側シース層におけるケイ素原子の含有量としては0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。このように、上記内側シース層におけるケイ素原子の含有量が上記範囲内であることによって、耐熱性及び柔軟性を高めることができる。
【0016】
上記内側シース層が非架橋樹脂をさらに含むとよい。上記内側シース層に比較的安価な非架橋樹脂をさらに含ませることで、当該ケーブルの製造コストをさらに低減できる。
【0017】
上記非架橋樹脂がエステル結合を含有するビニルモノマーと、エチレンとの共重合体であるとよい。上記共重合体は比較的安価であり、かつ外側シース層の主成分であるポリウレタンとの接着性が高い。従って、上記非架橋樹脂を上記共重合体とすることで、当該ケーブルの製造コストをさらに低減できると共に内側シース層と外側シース層とをさらに剥離し難くできる。
【0018】
外側シース層のポリウレタンがアロファネート架橋したポリウレタンであるとよい。このように外側シース層のポリウレタンをアロファネート架橋したポリウレタンとすることで、外側シース層の強度をさらに高められ、当該ケーブルの強靱性を高められる。また、外側シース層に対して電子線架橋を行う必要がないため、電子線設備を不要とでき、当該ケーブルの製造コストをさらに低減できる。
【0019】
当該ケーブルは電動パーキングブレーキ用であるとよい。当該ケーブルは、十分な強靱性、柔軟性及び耐熱性を有するので、自動車の電動パーキングブレーキ用に適している。
【0020】
上記内側シース層の平均外径が3mm以上12mm以下であるのが好ましい。このように、内側シース層の平均外径が上記範囲内であることにより、当該ケーブルの柔軟性を確保し、耐熱性を高めることができる。
【0021】
上記外側シース層の平均肉厚が0.2mm以上0.7mm以下であるのが好ましい。このように、外側シース層の平均肉厚が上記範囲内であることにより、当該ケーブルの強度及び柔軟性をともに確保することができる。
【0022】
上記外側シース層の樹脂成分100質量部におけるポリウレタンの含有量が50質量部以上100質量部以下であるのが好ましい。このように、外側シース層のポリウレタンの含有量を上記範囲内とすることにより、上記内側シース層と外側シース層との接着強度を確保することができる。
【0023】
上記内側シース層と上記外側シース層との90°剥離試験による接着強度が2.5N/cm以上であるのが好ましい。このように、内側シース層と外側シース層との接着強度を上記下限以上とすることにより、上記ケーブル使用時の、内側シース層と外側シース層との剥離を防止することができる。
【0024】
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、例えば含有量が50質量%以上、好ましくは90%以上の成分をいう。「弾性率」とは、動的粘弾性測定法により測定される貯蔵弾性率の値である。「ケイ素原子の含有量」とは、加速電圧15kV、分析エリア0.1×0.1mmのEDX分析により測定される値をいう。「比重」とは、同体積での4℃の水に対する質量比をいう。「90°剥離試験による接着強度」とは、JIS-K-6854(1999)に記載の90°剥離試験に準拠して測定される値である。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施形態に係るケーブルについて詳説する。
【0026】
[第一実施形態]
図1に示すケーブル1は、2本のコア材2と、上記2本のコア材2を被覆するシース層3とを備える。当該ケーブル1は、自動車の電気配線に使用される電動パーキングブレーキ用、車輪速センサ用等に好適に用いることができる。
【0027】
<コア材>
2本のコア材2は、それぞれ電気信号を伝達する電線であり、導体2a及びこの導体2aを被覆する絶縁被覆層2bを有する。
【0028】
2本のコア材2は、長さ方向に沿って外周が接するように配設されている。また、2本のコア材2は並列して配設されてもよいが、撚り合わされて配設されていることが好ましい。このように2本のコア材2を撚り合わせることで、当該ケーブル1の柔軟性を高めることができる。
【0029】
上記コア材2の導体2aは、単線又は撚線として構成される。また、上記導体2aの素線としては、通電できる限り特に限定されないが、銅線、錫メッキ軟銅線等の軟銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線などが挙げられる。
【0030】
上記導体2aの平均外径はコア材2に要求される抵抗値等により適宜決定されるが、上記導体2aの平均外径の下限としては、0.5mmが好ましく、0.7mmがより好ましい。一方、上記導体2aの平均外径の上限としては、3mmが好ましく、2.6mmがより好ましい。上記導体2aの平均外径が上記下限未満であると、コア材2の抵抗値が高くなり過ぎ、電気信号が十分に伝達できないおそれがある。逆に、上記導体2aの平均外径が上記上限を超えると、コア材2が不要に太くなるため、当該ケーブル1の柔軟性が低下するおそれがある。なお、導体の「平均外径」とは、導体の断面と同等の面積を有する円の直径を長さ方向に平均した値を意味する。
【0031】
上記コア材2の絶縁被覆層2bの主成分としては、絶縁性が確保される限り特に限定されないが、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂を用いることができる。また、上記樹脂は、電子線の照射により架橋処理されているとよい。上記樹脂が架橋処理されていることで、上記コア材2の耐熱性が向上する。
【0032】
上記絶縁被覆層2bの平均肉厚の下限としては、0.15mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。一方、上記絶縁被覆層2bの平均肉厚の上限としては、0.8mmが好ましく、0.7mmがより好ましい。上記絶縁被覆層2bの平均肉厚が上記下限未満であると、コア材2の絶縁性が不足し、隣接するコア材2と短絡するおそれがある。逆に、上記絶縁被覆層2bの平均肉厚が上記上限を超えると、コア材2が不要に太くなるため、当該ケーブル1の柔軟性が低下するおそれがある。
【0033】
上記絶縁被覆層2bには、必要に応じて耐熱老化防止剤や難燃剤等の添加剤を適宜含有してもよい。上記耐熱老化防止剤としては、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-第三ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤や、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、N-フェニル-N’-1,3-ジメチルブチル-p-フェニレンジアミン等のアミン系酸化防止剤などを挙げることができる。また、上記難燃剤としては、臭素系有機化合物、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。
【0034】
上記コア材2の平均外径の下限としては、1mmが好ましく、1.3mmがより好ましい。一方、上記コア材2の平均外径の上限としては、4mmが好ましく、3.8mmがより好ましい。上記コア材2の平均外径が上記下限未満であると、導体2aの平均外径又は絶縁被覆層2bの平均肉厚が不足し、コア材2の導電性が不足したり、絶縁性が不足したりするおそれがある。逆に、上記コア材2の平均外径が上記上限を超えると、コア材2が不要に太くなるため、当該ケーブル1の柔軟性が低下するおそれがある。
【0035】
<シース層>
シース層3は、上記2本のコア材2を被覆する内側シース層3aと、この内側シース層3aを被覆する外側シース層3bとを備える。
【0036】
(内側シース層)
内側シース層3aは、架橋を施された超低密度ポリエチレン(VLDPE;Very Low Density Polyethylene)を含有する。上記架橋としては、化学架橋、電子線架橋等の放射線架橋、熱架橋のいずれであってもよいが、簡便さからは化学架橋が好ましく、シラン架橋が特に好ましい。また、電離放射線設備を利用できる場合は、電離放射線による架橋も好適に用いることができる。なお、上記架橋が電子線架橋である場合、電子線の放射線照射量としては、例えば60kGy以上480kGy以下とすることができる。
【0037】
内側シース層3aの樹脂成分100質量部における上記VLDPEの含有量の下限としては、20質量部であり、40質量部がより好ましく、50質量部がさらに好ましい。上記VLDPEの含有量が上記下限未満であると、当該ケーブル1の柔軟性が不十分となるおそれがある。一方、上記VLDPEの含有量の上限は、特に限定されず、100質量部であるが、後述する非架橋樹脂を含有させるためには、90質量部がより好ましい。
【0038】
上記VLDPEの比重の上限としては、0.90が好ましく、0.87がより好ましい。上記VLDPEの比重の上限が上記上限を超えると、内側シース層3aの柔軟性が不足して、当該ケーブル1の柔軟性が不十分となるおそれがある。なお、上記VLDPEの比重の下限としては、十分な機械的強度を確保する点から、例えば0.82とすることができる。
【0039】
上記架橋がシラン架橋である場合、上記内側シース層3aの上記VLDPEにおけるケイ素原子の含有量の下限としては、0.05質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましい。一方、上記ケイ素原子の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましく、0.5質量%が特に好ましい。上記ケイ素原子の含有量が上記下限未満であると、当該ケーブル1のシラン架橋による耐熱性向上効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記ケイ素原子の含有量が上記上限を超えると、シラン架橋基による硬質化に起因して内側シース層3aの柔軟性が低下するおそれがある。これに対し、上記架橋がシラン架橋であり、上記VLDPEにおけるケイ素原子の含有量が上記範囲内であることによって、上記VLDPEは、シラン架橋基が水分と接触することで架橋反応した網目状高分子構造を有する。上記内側シース層3aはこのシラン架橋した高分子構造により耐熱性が向上するので、当該ケーブル1は少なくとも内側シース層3aを電子線架橋する必要がない。このため、当該ケーブル1は、製造時に電子線設備を必要としないか、又は外側シース層3bの電子線架橋ができる程度の低出力な電子線設備しか必要としないので、電子線照射にかかるコストを低く抑えることができる。従って、当該ケーブル1はシース層3の肉厚が大きい場合であっても製造コストが比較的低い。
【0040】
上記内側シース層3aにおけるケイ素原子の含有量の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.05質量%がより好ましい。一方、上記内側シース層3aにおけるケイ素原子の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましく、0.5質量%が特に好ましい。上記含有量が上記下限未満であると、シラン架橋が不十分となり、当該ケーブル1の耐熱性を十分に向上することができないおそれがある。逆に、上記含有量が上記上限を超えると、シラン架橋基による硬質化に起因して内側シース層3aの柔軟性が低下するおそれがある。
【0041】
上記内側シース層3aの25℃における弾性率の上限としては、30MPaであり、25MPaが好ましい。上記弾性率が上記上限を超えると、内側シース層3aの柔軟性が不十分となり、当該ケーブル1の柔軟性が不足するおそれがある。一方、上記弾性率の下限としては、5MPaであり、10MPaが好ましい。上記弾性率が上記下限に満たないと、耐熱性が不十分となるおそれがある。
【0042】
上記内側シース層3aの150℃における弾性率の下限としては、0.1MPaが好ましく、0.2MPaがより好ましい。上記弾性率が上記下限未満であると、内側シース層3aの耐熱性が不十分となり、当該ケーブルの耐熱性が不足するおそれがある。一方、上記弾性率の上限としては、特に限定されないが、柔軟性の観点から例えば0.8MPaとできる。
【0043】
上記内側シース層3aは非架橋樹脂を含むとよい。上記内側シース層3aに比較的安価な非架橋樹脂を含ませることで、当該ケーブル1の製造コストをさらに低減できる。上記非架橋樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)や、エチレンとエステル結合を含有するビニルモノマーとの共重合体等を挙げることができる。これらの非架橋樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ここで、「非架橋樹脂」とは、架橋していない樹脂を指す。
【0044】
中でも上記非架橋樹脂がエステル結合を含有するビニルモノマーと、エチレンとの共重合体であるとよい。上記共重合体は比較的安価であり、かつ外側シース層3bの主成分であるポリウレタンとの接着性が高い。従って、上記非架橋樹脂を上記共重合体とすることで、当該ケーブル1の製造コストをさらに低減できると共に内側シース層3aと外側シース層3bとをさらに剥離し難くできる。このような共重合体としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸ブチル共重合体等を挙げることができる。
【0045】
上記内側シース層3aが非架橋樹脂を含む場合、上記内側シース層3aの樹脂成分100質量部における上記非架橋樹脂の含有量の下限としては、10質量部が好ましく、20質量部がより好ましい。一方、上記非架橋樹脂の含有量の上限としては、80質量部が好ましく、60質量部がより好ましい。上記非架橋樹脂の含有量が上記下限未満であると、非架橋樹脂を用いることによる当該ケーブル1の製造コスト低減効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記非架橋樹脂の含有量が上記上限を超えると、相対的にシラン架橋したVLDPEが不足し、当該ケーブル1のシラン架橋による耐熱性向上効果が不十分となるおそれがある。
【0046】
上記内側シース層3aの平均外径は、2本のコア材2を被覆できるように適宜決定されるが、上記内側シース層3aの平均外径の下限としては、3mmが好ましく、3.4mmがより好ましい。一方、上記内側シース層3aの平均外径の上限としては、12mmが好ましく、11mmがより好ましい。上記内側シース層3aの平均外径が上記下限未満であると、当該ケーブル1のシラン架橋による耐熱性向上効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記内側シース層3aの平均外径が上記上限を超えると、当該ケーブル1が不要に太くなるため、当該ケーブル1の柔軟性が低下するおそれがある。
【0047】
上記内側シース層3aは、互いに接する2本のコア材2を被覆するため、肉厚が通常不均一となる。上記内側シース層3aの平均最小肉厚の下限としては、0.3mmが好ましく、0.45mmがより好ましい。一方、上記内側シース層3aの平均最小肉厚の上限としては、3mmが好ましく、2.5mmがより好ましい。上記内側シース層3aの平均最小肉厚が上記下限未満であると、当該ケーブル1のシラン架橋による耐熱性向上効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記内側シース層3aの平均最小肉厚が上記上限を超えると、当該ケーブル1が不要に太くなるため、当該ケーブル1の柔軟性が低下するおそれがある。なお、内側シース層の「平均最小肉厚」とは、内側シース層の外周の任意の点とコア材の外周の任意の点との間の距離の最小値を長さ方向に平均した値を指す。
【0048】
上記内側シース層3aには、架橋を促進するための触媒を含有させることが好ましい。このような触媒としては、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト、バリウム、カルシウム等の金属カルボン酸塩や、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸などが挙げられる。内側シース層3aの樹脂100質量部に対する上記触媒の含有量の下限としては、0.01質量部が好ましく、0.03質量部がより好ましい。一方、上記触媒の含有量の上限としては、0.15質量部が好ましく、0.12質量部がより好ましい。上記触媒の含有量が上記下限未満であると、内側シース層3aのVLDPEの架橋が十分に進行しないおそれがある。逆に、上記触媒の含有量が上記上限を超えると、架橋が施されたVLDPEが相対的に不足し、当該ケーブル1の耐熱性向上効果が不十分となるおそれがある。
【0049】
上記内側シース層3aには、必要に応じて耐熱老化防止剤や難燃剤等の添加剤を適宜含有してもよい。上記耐熱老化防止剤及び難燃剤としては、絶縁被覆層2bと同様のものを用いることができる。内側シース層3aにおける上記添加剤の含有量は、架橋が施されたVLDPEの耐熱性向上効果を維持しつつ、添加剤の効果が発現するように決められるが、樹脂100質量部に対して0.1質量部以上15質量部以下とできる。
【0050】
(外側シース層)
外側シース層3bの主成分は、ポリウレタン(PU)である。中でも柔軟性に優れる熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
【0051】
また、上記ポリウレタンは、電子線架橋したポリウレタンとすることもできるが、アロファネート架橋したポリウレタンであるとよい。このように外側シース層3bのポリウレタンをアロファネート架橋したポリウレタンとすることで、外側シース層3bの強度をさらに高められ、当該ケーブル1の強靱性を高められる。また、外側シース層3bに対して電子線架橋を行う必要がなくなるため、内側シース層3aがシラン架橋したVLDPEである場合、シース層3を架橋するための電子線設備を不要とできる。このため、当該ケーブル1の製造コストがさらに低減される。
【0052】
なお、アロファネート架橋させたポリウレタンは、例えばジフェニルメタンジイソシアナート、ジシクロヘキサンジイソシアナート等の多価イソシアナート化合物をポリウレタンのベース樹脂に添加したコンパウンドや、ポリウレタンのベース樹脂にイソシアナート基を含有させたアロファネート架橋性ポリマー等の外側シース層用樹脂組成物を用いて製造することができる。このとき、多価イソシアナート化合物の含有量の下限としては、外側シース層3bを構成する樹脂成分100質量部に対して2質量部が好ましく、4質量部がより好ましい。一方、上記多価イソシアナート化合物の含有量の上限としては、15質量部が好ましく、12質量部がより好ましい。
【0053】
外側シース層3bの樹脂成分100質量部におけるポリウレタンの含有量の下限としては、50質量部が好ましく、80質量部がより好ましく、90質量部がさらに好ましい。上記ポリウレタンの含有量が上記下限未満であると、内側シース層3aと外側シース層3bとの接着強度が不足するおそれがある。一方、上記ポリウレタンの含有量の上限は、特に限定されず、100質量部とできる。
【0054】
上記外側シース層3bの平均肉厚の下限としては、0.2mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。一方、上記外側シース層3bの平均肉厚の上限としては、0.7mmが好ましく、0.6mmがより好ましい。上記外側シース層3bの平均肉厚が上記下限未満であると、当該ケーブル1の強度が不足するおそれがある。逆に、上記外側シース層3bの平均肉厚が上記上限を超えると、当該ケーブル1が不要に太くなるため、当該ケーブル1の柔軟性が低下するおそれがある。また、上記外側シース層3bを電子線架橋したポリウレタンとする場合、外側シース層3bを電子線架橋するために高出力な電子線設備が必要となり、当該ケーブル1の製造コスト低減効果が不足するおそれがある。
【0055】
上記外側シース層3bには、必要に応じて耐熱老化防止剤や難燃剤等の添加剤を適宜含有してもよい。上記耐熱老化防止剤及び難燃剤としては、絶縁被覆層2bと同様のものを用いることができる。
【0056】
当該ケーブル1の平均外径の下限としては、3.5mmが好ましく、4mmがより好ましい。一方、当該ケーブル1の平均外径の上限としては、13mmが好ましく、12mmがより好ましい。当該ケーブル1の平均外径が上記下限未満である場合、シース層3の厚さが不足し、当該ケーブル1の絶縁性が不足するおそれがある。逆に、当該ケーブル1の平均外径が上記上限を超える場合、当該ケーブル1が不要に太くなるため、当該ケーブル1の柔軟性が低下するおそれがある。
【0057】
当該ケーブル1の内側シース層3aと外側シース層3bとの90°剥離試験による接着強度の下限としては、2.5N/cmが好ましく、3.5N/cmがより好ましい。上記接着強度が上記下限未満である場合、当該ケーブル1の使用時に内側シース層3aと外側シース層3bとが剥離するおそれがある。一方、上記接着強度の上限は、特に限定されないが、通常15N/cm程度である。前述のとおり、「90°剥離試験による接着強度」は、JIS-K-6854(1999)に記載の90°剥離試験に準拠して測定される値である。
【0058】
<ケーブルの製造方法>
当該ケーブル1は、例えばシース層3を形成するための樹脂組成物を準備する工程と、上記樹脂組成物を用いた押出成形をする工程とを備える製造方法により製造することができる。
【0059】
(樹脂組成物準備工程)
樹脂組成物準備工程では、内側シース層3aを形成するための内側シース層用樹脂組成物と、外側シース層3bを形成するための外側シース層用樹脂組成物とを準備する。
【0060】
内側シース層3aにシラン架橋が施される場合、内側シース層用樹脂組成物としては、例えばVLDPEのベース樹脂にシラン化合物を添加したコンパウンドや、VLDPEのベース樹脂に活性シラン基を含有させたシラン架橋性ポリマー等を用いることができる。また、架橋反応を促進するための触媒や、耐熱老化防止剤等の添加剤を加えてもよい。なお、内側シース層3aに非架橋樹脂を含ませる場合は、内側シース層用樹脂組成物に非架橋樹脂をさらに加える。内側シース層用樹脂組成物は、例えばオープンロールミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、二軸押出機等により溶融混練され、例えばペレット状に成形される。
【0061】
上記シラン化合物としては、アルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0062】
また、上記シラン架橋性ポリマーは、例えばVLDPEのベース樹脂にシラン化合物を添加してスーパーミキサー等で室温で撹拌した後に、VLDPEの融点以上に加熱しつつ、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、又は二軸若しくは単軸押出機で混練を行う方法で製造することができる。これによりベース樹脂にシラン化合物がグラフトされ、シラン架橋性ポリマーが得られる。
【0063】
上記シラン化合物のグラフトを促進するため、シラン化合物と共にラジカル発生剤を添加するとよい。このラジカル発生剤としては、例えばジクミルペルオキシド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
【0064】
ベース樹脂100質量部に対するラジカル発生剤の含有量の下限としては、0.02質量部が好ましく、0.05質量部がより好ましい。一方、上記ラジカル発生剤の含有量の上限としては、0.15質量部が好ましく、0.12質量部がより好ましい。上記ラジカル発生剤の含有量が上記下限未満であると、シラン化合物のグラフトが不十分となるおそれがある。逆に、上記ラジカル発生剤の含有量が上記上限を超えると、内側シース層3aの加工性が低下するおそれや、局部的なグラフトが発生し、内側シース層3aを成形した際の外観が悪化するおそれがある。
【0065】
一方、内側シース層3aに電子線架橋が施される場合、内側シース層用樹脂組成物としては、例えばVLDPEのベース樹脂とし、必要に応じて耐熱老化防止剤等の添加剤や、非架橋樹脂を添加された組成物が用いられる。
【0066】
また、外側シース層用樹脂組成物としては、例えばポリウレタンを含む組成物を用いることができる。また、上記組成物に耐熱老化防止剤等の添加剤を含めてもよい。
【0067】
なお、外側シース層3bをアロファネート架橋させる場合は、例えばジフェニルメタンジイソシアナート、ジシクロヘキサンジイソシアナート等の多価イソシアナート化合物をポリウレタンのベース樹脂に添加したコンパウンドや、ポリウレタンのベース樹脂にイソシアナート基を含有させたアロファネート架橋性ポリマー等を外側シース層用樹脂組成物として用いることができる。また、架橋反応を促進するための触媒を加えてもよい。なお、アロファネート架橋性ポリマーは、ポリウレタンのベース樹脂及び多価イソシアナート化合物を用いて、上記シラン架橋性ポリマーと同様の方法で製造することができる。
【0068】
(押出成形工程)
押出成形工程では、例えば撚り合わせた2本のコア材2の周りに上記内側シース層用樹脂組成物及び外側シース層用樹脂組成物を、外側シース層用樹脂組成物が外側となるように押し出す。
【0069】
押出成形は、公知の溶融押出成形機を用いることができる。また、押出は、上記内側シース層用樹脂組成物をコア材2の周りに押し出した後に、さらにその外周に外側シース層用樹脂組成物を押し出してもよく、上記内側シース層用樹脂組成物及び外側シース層用樹脂組成物を、外側シース層用樹脂組成物が外側となるように同時に押し出ししてもよい。
【0070】
押出後にシース層3の架橋処理を行う。なお、内側シース層3aにシラン架橋が施される場合、この架橋処理は上記シース層3を室温で放置することにより行うこともできるが、工程の短時間化のためには、上記架橋処理として水や水蒸気等による水架橋を用いることができる。この水架橋は、例えば温度50℃以上100℃以下、相対湿度85%以上95%以下の高湿恒温槽で24時間以上の条件で行われる。
【0071】
また、内側シース層3aにシラン架橋が施される場合、上記シース層3には、電子線照射を行わないことが好ましい。当該ケーブル1は、電子線照射を行わなくともシラン架橋させたVLDPEにより耐熱性が向上する。このため、電子線照射を行わないことで、シース層3を架橋するための電子線設備を不要とでき、当該ケーブル1の製造コストをさらに低減できる。
【0072】
<利点>
当該ケーブル1は、内側シース層3aが架橋を施された超低密度ポリエチレンを含有しているので耐熱性が高い。また、当該ケーブル1は、上記内側シース層3aの樹脂成分100質量部における上記超低密度ポリエチレンの含有量が上記範囲内であるので柔軟性が高い。また、当該ケーブル1は、外側シース層3bの主成分がポリウレタンである。ポリウレタンと超低密度ポリエチレンとは接着しやすく、内側シース層3aと外側シース層3bとの接着強度を確保しやすいので、当該ケーブル1は、内側シース層3aと外側シース層3bとが剥離し難い。さらに、ポリウレタンを主成分とすることで機械的強度が増すので、当該ケーブル1は十分な強靱性を有する。加えて、当該ケーブル1は、その内側シース層3aの25℃における弾性率が前述した範囲内であることにより、十分な柔軟性及び耐熱性を備えることができる。
【0073】
当該ケーブル1は、上述のように十分な強靱性、柔軟性及び耐熱性を有するので、自動車の電動パーキングブレーキ用に適している。
【0074】
[第二実施形態]
図2に示すケーブル11は、第1導体12a及びこの第1導体12aを被覆する第1絶縁被覆層12bを有する2本の第1コア材12と、第2導体13a及びこの第2導体13aを被覆する第2絶縁被覆層13bを有する2本の第2コア材13と、2本の第1コア材12及び2本の第2コア材13を被覆するシース層14とを備える。2本の第1コア材12は同径に形成され、2本の第2コア材13は同径に形成される。また、第1コア材12の径は第2コア材13の径よりも大きい。2本の第1コア材12及び2本の第2コア材13は並列して配設されてもよいが、撚り合わされて配設されていることが好ましい。当該ケーブル11は、例えば2本の第1コア材12と、2本の第2コア材13を対撚りした1本の撚コア電線とが撚り合わせて配設されることが好ましい。第1コア材12は、図1のコア材2と同様に構成することができる。第2コア材13は、第2導体13aの平均外径及び第2絶縁被覆層13bの平均肉厚が異なる以外、図1のコア材2と同様の構成とすることができる。当該ケーブル11は、電動パーキングブレーキ用途に加え、ABS(Anti-lock Brake System)動作を制御する電気信号を送信する用途にも好適に用いられる。当該ケーブル11が電動パーキングブレーキ及びABSの信号ケーブルとして用いられる場合、第2コア材13を撚り合わせた撚コア電線がABS用の信号を送信する。
【0075】
シース層14は、内側シース層14aと、内側シース層14aを被覆する外側シース層14bとを備える。シース層14は図1のシース層3と同様の構成とすることができる。つまり、当該ケーブル11は、2本の第2コア材13を備える以外、図1のケーブル1と同様の構成とすることができる。
【0076】
<利点>
当該ケーブル11は、車両に搭載される電動パーキングブレーキ用の電気信号だけでなく、ABS用の電気信号も送信することができる。
【0077】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0078】
上記実施形態では、コア材が2本の場合を説明したが、コア材は1本又は3本以上であってもよい。
【0079】
また、当該ケーブルは、コア材とシース層との間や、シース層の外周に他の層を備えてもよい。コア材とシース層との間に配設される他の層としては、例えば当該ケーブルからコア材を取り出し易くするための紙テープ層が挙げられる。また、シース層の外周に配設される他の層としては、例えばシールド層が挙げられる。
【0080】
上記実施形態では、当該ケーブルの製造方法として、押出成形を行ってから架橋処理を行う場合について説明したが、樹脂組成物に架橋処理を行った後に押出成形を行ってもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、非架橋樹脂を加え溶融混練された内側シース層用樹脂組成物を押出成型機に投入する場合を説明したが、非架橋樹脂は押出成形時に混ぜ合わせてもよい。具体的には、内側シース層用樹脂組成物及び非架橋樹脂それぞれをペレット状に成形して準備し、これらのペレットを押出成型機に投入することで、非架橋樹脂を混ぜ合わせながら押し出してもよい。
【0082】
また、当該ケーブルは、自動車の電気配線に使用されるケーブルに限定されるものではなく、例えば自動車の給電用のケーブルや耐熱性の要求される電子機器用のケーブル等として使用してもよい。
【実施例
【0083】
以下、実施例によって本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
[No.1]
まず、ベース樹脂としての比重0.870のVLDPE(ダウ社の「エンゲージ8100」)、及びシラン化合物としてのアルコキシシラン(信越シリコーン社の「KBM1003」)をVLDPEにおけるケイ素原子の含有量(Si含有量)が0.2質量%となるように混合した。なお、ケイ素原子の含有量は、島津製作所製の「EDX-HSシリーズ」を用い、加速電圧15kV、分析エリア0.1×0.1mmのEDX分析により測定した。この混合物100質量部、及びラジカル発生剤としてのジクミルペルオキシド(日本油脂株式会社の「パークミルD」)1質量部をスーパーミキサーに投入して、室温にて60rpmでローターを回転させて撹拌した。次に、混合容量3Lの加圧ニーダーに投入して、ローターを30rpmで回転させて、開始温度100℃、練り上がり温度200℃で溶融混練し、シラン架橋基含有VLDPEを得た。
【0085】
内側シース層用樹脂組成物として、上記シラン架橋基含有VLDPE、非架橋のEVA(三井デュポンポリケミカル株式会社の「エバフレックスEV360」)、酸化防止剤(BASF社のイルガノックス1010)、及び触媒(ジオクチル錫)を混合したものを表1に示す組成で準備した。
【0086】
外側シース層用樹脂組成物として、エーテル系のポリウレタン(BASF社の「ET385-50」)を準備した。なお、上記ポリウレタンはアロファネート架橋基を含有していないポリウレタンである。
【0087】
撚り合わせた2本のコア材(導体径2.4mm、絶縁被覆層肉厚0.3mm)の周りに、上記内側シース層用樹脂組成物及び外側シース層用樹脂組成物を、外側シース層用樹脂組成物が外側となるように同時に押出成形を行った。なお、上記押出成形には、ケーブルの平均外径が8.3mm、外側シース層の平均肉厚が0.5mmとなるような金型を用いた。上記押出成形後、温度60℃、相対湿度90%の高湿高温槽で24時間の架橋処理を行い、No.1のケーブルを得た。
【0088】
[No.2~No.4、No.8]
No.1の内側シース層用樹脂組成物において、シラン架橋基含有VLDPE及び非架橋のEVAを表1に示す組成とした以外は、No.1と同様にして、No.2~No.4及びNo.8のケーブルを得た。
【0089】
[No.5]
外側シース層用樹脂組成物として、No.2のポリウレタン100質量部に対して、多価イソシアナート化合物含有ポリウレタン(大日精化工業株式会社の「クロスネートEM-30」、多価イソシアナート化合物の含有量30質量%以上40質量%以下のポリウレタン)20質量部を混合して、アロファネート架橋基を含有するポリウレタンを準備した。なお、上記混合後の多価イソシアナート化合物の含有量は、外側シース層を構成する樹脂成分100質量部に対して5質量部以上6.6質量部以下である。この外側シース層用樹脂組成物を用いた以外は、No.2と同様にして、No.5のケーブルを得た。
【0090】
[No.6]
ベース樹脂としての比重0.870のVLDPE(ダウ社の「エンゲージ8100」)、及びシラン化合物としてのアルコキシシラン(信越シリコーン社の「KBM1003」)をVLDPEにおけるケイ素原子の含有量(Si含有量)が0.7質量%となるように混合した。この混合物を用いた以外は、No.2と同様にして、No.6のケーブルを得た。
【0091】
[No.7]
内側シース層用樹脂組成物として、非架橋のEVA(三井デュポンポリケミカル株式会社の「エバフレックスEV360」)、及び酸化防止剤(BASF社のイルガノックス1010)を混合したものを表1に示す組成で準備した。
【0092】
上記内側シース層用樹脂組成物を用いた以外は、No.1と同様にして押出成形を行った。上記押出成形後、180kGyの電子線照射により架橋処理を行い、No.7のケーブルを得た。
【0093】
[No.9、No.10]
シラン架橋基含有VLDPEにおいて、ベース樹脂としてのVLDPE及びシラン化合物としてのアルコキシシランを表1に示すSi含有量となるように混合した以外は、No.1と同様にして、No.9、No.10のケーブルを得た。
【0094】
[No.11]
ベース樹脂としての比重0.929の低密度ポリエチレン(LDPE、Low Density Polyethylene;日本ポリエチレン株式会社の「ノバテックLF280H」)、及びシラン化合物としてのアルコキシシラン(信越シリコーン社の「KBM1003」)をSi含有量が0.2質量%となるように混合した。この混合物を用いて、No.2と同様の条件で溶融混練し、シラン架橋基含有LDPEを得た。なお、「低密度ポリエチレン」とは、比重が0.9超0.93以下のポリエチレンを指す。
【0095】
上記シラン架橋基含有LDPEを用いた以外は、No.2と同様にして、No.11のケーブルを得た。
【0096】
[No.12]
No.11の内側シース層用樹脂組成物において、シラン架橋基含有LDPE及び非架橋のEVAを表1に示す組成とした以外は、No.11と同様にして、No.12のケーブルを得た。
【0097】
[No.13]
ベース樹脂としての比重0.936のEVA(旭化成株式会社の「サンテックEF1531」)、及びシラン化合物としてのアルコキシシラン(信越シリコーン社の「KBM1003」)をSi含有量が0.2質量%となるように混合した。この混合物を用いて、No.2と同様の条件で溶融混練し、シラン架橋基含有EVAを得た。
【0098】
上記シラン架橋基含有EVAを用いた以外は、No.2と同様にして、No.13のケーブルを得た。
【0099】
[No.14]
No.13の内側シース層用樹脂組成物において、シラン架橋基含有EVA及び非架橋のEVAを表1に示す組成とした以外は、No.13と同様にして、No.14のケーブルを得た。
【0100】
[No.15~No.22]
ベース樹脂としての比重0.870のVLDPE(ダウ社の「エンゲージ8100」)、及びシラン化合物としてのアルコキシシラン(信越シリコーン社の「KBM1003」)をVLDPEにおけるケイ素原子の含有量(Si含有量)が表2のとおりとなるように混合した。この混合物を用い、VLDPE及び非架橋EVAを表2に示す組成とした以外は、No.1と同様にして、No.15~No.22のケーブルを得た。
【0101】
[No.23~No.26]
内側シース層用樹脂組成物として、ベース樹脂としての比重0.870のVLDPE(ダウ社の「エンゲージ8100」)に非架橋のEVA(三井デュポンポリケミカル株式会社の「エバフレックスEV360」)及び酸化防止剤(BASF社のイルガノックス1010)を混合したものを表2に示す組成で準備した。この混合物を用いた以外、No.1と同様にして押出成形を行った。上記押出成形後、表2の放射線照射量で電子線照射により架橋処理を行い、No.23~No.26のケーブルを得た。
【0102】
[評価方法]
No.1~No.26のケーブルについて、内側シース層と外側シース層との接着強度と、25℃及び150℃における内側シース層の弾性率を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0103】
(接着強度)
接着強度は、JIS-K-6854(1999)に記載の90°剥離試験に準拠して測定した。なお、接着強度が2.5N/cm以上である場合、内側シース層と外側シース層との接着強度が高いと判断した。
【0104】
(弾性率)
25℃及び150℃における弾性率は、動的粘弾性測定法(引張法)により25℃及び150℃における貯蔵弾性率を測定した。上記測定における測定周波数は10Hz、歪みは0.08%とした。なお、25℃における弾性率が30MPa以下である場合、ケーブルの柔軟性が優れると判断した。また、150℃における弾性率が0.1MPa以上である場合、ケーブルが熱変形し難く、耐熱性が優れると判断した。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
表1及び表2において、材料の欄の「-」は含有していないことを示す。また、電子線照射の欄の「-」は、電子線照射を行っていないことを示す。また、150℃における弾性率の欄の「-」は、ケーブルを150℃とすることでケーブルの軟化が進み過ぎ、弾性率が測定できなかったことを意味する。
【0108】
表1及び表2から、No.1~No.6、No.15~No.26のケーブルは、接着強度が高く、柔軟性及び耐熱性に優れる。
【0109】
これに対し、No.7のケーブルは、内側シース層におけるVLDPEの含有量が不十分であるため、内側シース層の25℃及び150℃における弾性率が高くなっている。また、No.8のケーブルは、内側シース層のシラン架橋したVLDPEの含有量が小さいため、耐熱性に劣る。さらに、No.9のケーブルは、内側シース層のケイ素原子の含有量が比較的大きいため、No.1~No.6に比べると柔軟性が低い。No.10のケーブルは、内側シース層のケイ素原子の含有量が小さいため、No.1~No.6に比べると耐熱性に劣る。また、No.11~No.14のケーブルは、内側シース層が架橋を施されたVLDPEを含有しないため、接着強度及び柔軟性に劣る。
【0110】
さらに、VLDPEにおけるケイ素原子の含有量のみが異なるNo.2とNo.6とを比較すると、No.2は、No.6に対して耐熱性及び接着強度が同等であり、柔軟性に優れる。このことから、VLDPEにおけるケイ素原子の含有量を0.1質量%以上0.5質量%以下とすることで、柔軟性を向上しやすいことが分かる。
【符号の説明】
【0111】
1,11 ケーブル
2 コア材
2a 導体
2b 絶縁被覆層
3,14 シース層
3a,14a 内側シース層
3b,14b 外側シース層
12 第1コア材
12a 第1導体
12b 第1絶縁被覆層
13 第2コア材
13a 第2導体
13b 第2絶縁被覆層
図1
図2