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特許7192821作動油制御弁及びバルブタイミング調整装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】作動油制御弁及びバルブタイミング調整装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20221213BHJP
   F16K 27/04 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
F01L1/356 E
F16K27/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020050495
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021148092
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智師
(72)【発明者】
【氏名】川村 太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 欽弥
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115739(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029476(WO,A1)
【文献】特開2003-074728(JP,A)
【文献】特開2020-041581(JP,A)
【文献】特開2011-117520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
F16K 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(300)に設けられたバルブ(330、340)の開閉タイミングを調整する装置(100)に供給する作動油の油圧を制御する作動油制御弁(10)であって、
一端に開口を有し他端にバネ座(42z)が形成された円筒形状のスリーブ(40)と、
前記スリーブ内を進退し、前記スリーブとの位置関係により、前記作動油の供給先を調整するスプール(50)と、
前記スプールに当接し、前記スプールを前記バネ座方向に駆動するアクチュエータ(160)と、
前記スリーブのバネ座に配置され、前記スプールに前記アクチュエータ方向への予荷重を付与するバネであって、前記バネ座側において着座可能な外径及び内径を有する第1端部(60a)と、前記第1端部とは自由長だけ隔った第2端部(60b)とを備えるバネ(60)と、
を備え、
前記スリーブは、前記バネ座の外周に、前記バネ座を取り囲み、前記スプールの前記バネ座側への移動を規制するスプール接触面(49s)を有する段差部(49)を備え、前記バネ座の中央に、前記開口方向に隆起した隆起部(42r)であって、最大径が、前記バネの前記第1端部の内径より小さく、前記バネ座側から前記開口側に向けて外径が漸減する傾斜面(42rc)を有する隆起部を備え、
前記隆起部は、前記バネが前記スリーブの前記バネ座側にあって前記第1端部が前記バネ座に配置されていない状態では、前記第1端部が前記隆起部に当接する形状とされている、
作動油制御弁。
【請求項2】
請求項1に記載の作動油制御弁であって、
前記隆起部は、前記バネの前記第1端部(60a1)が前記段差部に当接し、かつ前記第2端部(60b2)が前記スリーブの内周面に当接する状態となる前に、前記バネの前記第1端部であって、前記第1端部が前記段差部と当接する当接部位以外の前記第1端部(60a2)が、前記隆起部に接触する形状とされている、作動油制御弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の作動油制御弁であって、
前記バネの外径をDspo、
前記バネの自由長をLsp、
前記スリーブの内径をDsl、
前記バネ座から前記段差部における前記スプールが接触するスプール接触面(49s)までの高さをLsl、
記第1端部が、前記段差部及び前記隆起部に接触しているときの鉛直方向に対する前記バネの中心軸の傾きをα、
とすると、
前記隆起部は、
Lsl>Dspo・sin(α)
Dsl>Dspo・cos(α)+Lsp・sin(α)
の両式を満たす形状である、
作動油制御弁。
【請求項4】
請求項3に記載の作動油制御弁であって、
前記バネ座に対する前記傾斜面の為す角βは、前記バネの傾きαよりも大きい、
作動油制御弁。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の作動油制御弁であって、
前記バネ座から前記隆起部の頂部までの高さ(H42r)は、前記バネ座から前記スプール接触面までの高さ(Lsl)未満である、
作動油制御弁。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の作動油制御弁であって、
前記バネ座から前記隆起部の頂部までの高さ(H42r)は、前記バネ座から前記スプール接触面までの高さ(Lsl)以上である、
作動油制御弁。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の作動油制御弁であって、
前記隆起部の形状は、円錐、円錐台、角錐、角錐台のいずれかの形状である、作動油制御弁。
【請求項8】
請求項7に記載の作動油制御弁であって、
前記隆起部は、頂部側、または前記バネ座側の少なくとも一方において、前記バネ座との為す角が垂直である垂直面、を有する、作動油制御弁。
【請求項9】
請求項7または8に記載の作動油制御弁であって、
前記隆起部は、前記傾斜面の前記スリーブの中心軸を含む断面で切った断面形状について、頂部から前記バネ座にかけて、凸形状、凹状、直線状の少なくとも一つを含む連続形状を有している、作動油制御弁。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の作動油制御弁を備えるバルブタイミング調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作動油制御弁及びバルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の吸気バルブや排気バルブのバルブタイミングを調整可能な、油圧式のバルブタイミング調整装置が知られている。特許文献1に記載のバルブタイミング調整装置は、スリーブの内側であって、突起を有するスリーブの底とスプールとの間にスプールに予荷重を与えるスプリングを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第102016202855号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたバルブタイミング調整装置を製造する際、スリーブの開口が鉛直上方になるようにスリーブを直立させ、開口からスプリングを落下させて挿入する。このとき、スプリングが傾いて落下すると、スプリングを正しい位置に設置できない場合があった。かかる場合、スプリングをスリーブから一旦抜き、その後再挿入するため、生産性が低下する。また、スリーブの中にスプリングよりもわずかに大きな開口を有する円筒形の治具を挿入し、治具の中にスプリングを真っ直ぐ落下させ、その後、治具を引き抜く方法も考えられるが、治具の挿入、引き抜き、という行程が増えるため、生産性が低下する。また、スプリングを治具で把持して挿入して設置する方法では、生産設備が複雑になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、内燃機関(300)に設けられたバルブ(330、340)の開閉タイミングを調整する装置(100)に供給する作動油の油圧を制御する作動油制御弁(10)が提供される。この作動油制御弁は、一端に開口を有し他端にバネ座(42z)が形成された円筒形状のスリーブ(40)と、前記スリーブ内を進退し、前記スリーブとの位置関係により、前記作動油の供給先を調整するスプール(50)と、前記スプールに当接し、前記スプールを、前記バネ座方向に駆動するアクチュエータ(160)と、前記スリーブのバネ座に配置され、前記スプールに前記アクチュエータ方向への予荷重を付与するバネであって、前記バネ座側において着座可能な外径及び内径を有する第1端部と、前記第1端部とは自由長だけ隔った第2端部とを備えるバネ(60)と、を備え、前記スリーブは、前記バネ座の外周に、前記バネ座を取り囲み、前記スプールの前記バネ座側への移動を規制するスプール接触面(49s)を有する段差部(49)を備え、前記バネ座の中央に、前記バネの前記第1端部の内径より小さな最大径を有し、前記開口方向に隆起した隆起部(42r)であって前記開口方向が狭くなる傾斜面(42rc)を有する隆起部を備え、前記隆起部は、前記バネが前記スリーブの前記バネ座側にあって前記第1端部が前記バネ座に配置されていない状態では、前記第1端部が前記隆起部に当接する形状とされている。
【0007】
この形態によれば、スリーブの底部に設けられた隆起部が、バネがスリーブのバネ座側にあって第1端部がバネ座に配置されていない状態では、第1端部が隆起部に当接する形状とされているので、バネの隆起部に当接した第1端部を傾斜面に沿って隆起部からバネ座に向けて落下させることで、バネをバネ座に正しく配置させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】作動油制御弁を備えるバルブタイミング調整装置の概略構成を示す断面図である。
図2図1のII-II線に沿った断面を示す断面図である。
図3】作動油制御弁の詳細構成を示す断面図である。
図4】作動油制御弁の詳細構成を分解して示す分解斜視図である。
図5】スプールの詳細構成を示す断面図である。
図6】スプールがストッパに当接した状態を示す断面図である。
図7】スプールが摺動範囲の略中央に位置する状態を示す断面図である。
図8】バネが傾かずにインナースリーブ内に挿入された例を示す説明図である。
図9】バネが傾いてインナースリーブ内に挿入された状態を示す説明図である。
図10】インナースリーブの隆起部の形状・寸法について説明する説明図である。
図11】バネ座に対する隆起部の傾斜面の為す角と、バネの傾きであるバネ傾斜角との関係を示す説明図である。
図12】第2実施形態の隆起部を示す説明図である。
図13】隆起部の形状の他の例を示す説明図である。
図14】隆起部の形状の他の例を示す説明図である。
図15】隆起部の形状の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A-1.装置構成:
図示しない車両が備える内燃機関300は、クランク軸310から動力が伝達されるカム軸320により、バルブとしての吸気弁330と排気弁340を開閉駆動する。図1に示すバルブタイミング調整装置100は、クランク軸310からカム軸320までの動力伝達経路に設けられており、クランク軸310に対するカム軸320の位相を変えることで、バルブ330、340を開閉するバルブの開閉タイミングを調整する。より具体的には、バルブタイミング調整装置100は、カム軸320の回転軸AXに沿った方向において、カム軸320の端部321に固定配置されている。バルブタイミング調整装置100の回転軸AXは、カム軸320の回転軸AXと一致している。本実施形態のバルブタイミング調整装置100は、バルブとしての吸気弁330と排気弁340とのうち、吸気弁330の開閉タイミングを調整する。
【0010】
バルブタイミング調整装置100は、ハウジング120と、ハウジング120内に設けられたベーンロータ130と、作動油制御弁10とを備える。作動油制御弁10は、アウタースリーブ30と、アウタースリーブの内側に配置されたインナースリーブ40と、インナースリーブ40内をアウタースリーブ30の回転軸AXに沿って進退するスプール50と、を有する。アウタースリーブ30とインナースリーブ40は、組み合わされて複数のポート27、28を形成している。作動油制御弁10は、インナースリーブ40内におけるスプール50の位置関係に応じて、複数のポート27、28のうち少なくとも1つを供給先として用いてハウジング120とベーンロータ130との間の隙間に作動油を供給し、ハウジング120と、ベーンロータ130と間の位相を変え、バルブタイミングを調整する。
【0011】
カム軸320の端部321の中心には、軸穴部322が形成され、側面には、供給穴部326が形成されている。軸穴部322は、回転軸AXに沿って形成されている。軸穴部322の内周面には、後述する作動油制御弁10を固定するための軸固定部323が形成されている。軸固定部323には、雌ねじ部324が形成されている。雌ねじ部324は、作動油制御弁10の固定部32に形成された雄ねじ部33と螺合する。供給穴部326は、カム軸320の径方向に形成され、カム軸320の外周面325と軸穴部322を連通させている。外周面325には、図示を省略したが、オイル溜まりが形成されており、作動油供給源350から供給された作動油は、このオイル溜まりから供給穴部326を介して軸穴部322、ひいては、後述する作動油制御弁10に供給される。作動油供給源350は、オイルポンプ351とオイルパン352とを有する。オイルポンプ351は、オイルパン352に貯留されている作動油を汲み上げる。
【0012】
ハウジング120は、スプロケット121と、ケース122とを有する。スプロケット121は、カム軸320の端部321に、回転可能に嵌合されている。スプロケット121には、後述するロックピン150と対応する位置に嵌入凹部128が形成されている。スプロケット121には、クランク軸310のスプロケット311とともに、環状のタイミングチェーン360が掛け渡されている。スプロケット121は、複数のボルト129によってケース122と固定されている。このため、ハウジング120は、クランク軸310と連動して回転する。ケース122は、有底筒状の外観形状を有し、スプロケット121により開口端が塞がれている。なお、ケース122のスプロケット121と反対側の底部の中央部には、開口部124が形成されている。
【0013】
図2に示すように、ケース122は、径方向内側に向かって周方向に互いに並んで形成された複数の隔壁部123を有する。なお、図2では、作動油制御弁10の図示を省略している。周方向において互いに隣り合う各隔壁部123間は、それぞれ油圧室140として機能する。
【0014】
ベーンロータ130は、ハウジング120の内部に収容され、後述する作動油制御弁10から遅角油路137とまたは進角油路138を供給される作動油の油圧に応じて、ハウジング120に対して遅角方向または進角方向へ相対回転する。このため、ベーンロータ130は、駆動軸に従動する従動軸の位相を変更する位相変更部として機能する。ベーンロータ130は、複数のベーン131と、ボス135とを有する。
【0015】
ボス135は、筒状の外観形状を有し、カム軸320の端部321に固定されている。したがってボス135が形成されているベーンロータ130は、カム軸320の端部321に固定されて、カム軸320と一体に回転する。ボス135の中央部には、回転軸AXに沿った方向に貫通する貫通孔136が形成されている。貫通孔136には、作動油制御弁10が配置される。ボス135には、複数の遅角油路137と複数の進角油路138とが、径方向に貫通して形成されている。各遅角油路137と各進角油路138とは、回転軸AXに沿った方向において互いに並んで形成されている。各遅角油路137は、後述する作動油制御弁10の遅角ポート27と遅角室141を連通させている。各進角油路138は、後述する作動油制御弁10の進角ポート28と進角室142を連通させている。貫通孔136において、各遅角油路137と各進角油路138との間は、後述する作動油制御弁10のアウタースリーブ30によってシールされている。
【0016】
複数のベーン131は、ベーンロータ130の中央部に位置するボス135から径方向外側に向かってそれぞれ突出し、周方向に互いに並んで形成されている。各ベーン131は、各油圧室140にそれぞれ収容され、各油圧室140を周方向において遅角室141と進角室142とに区画している。遅角室141は、ベーン131に対して周方向の一方に位置する。進角室142は、ベーン131に対して周方向の他方に位置する。
【0017】
複数のベーン131のうちの1つには、軸方向に収容穴部132が形成されている。収容穴部132は、ベーン131に形成された遅角室側ピン制御油路133を介して遅角室141と連通し、進角室側ピン制御油路134を介して進角室142と連通している。収容穴部132には、方向ADと方向AUに往復動可能なロックピン150が配置されている。ここで、方向ADは、回転軸AXに沿って、カム軸320に近づく方向であり、方向AUDは、回転軸AXに沿って、カム軸320から遠ざかる方向である。ロックピン150は、ハウジング120に対するベーンロータ130の相対回転を規制し、油圧が不十分な状態においてハウジング120とベーンロータ130とが周方向に衝突することを抑制する。ロックピン150は、スプリング151により、スプロケット121に形成された嵌入凹部128側に付勢されている。
【0018】
本実施形態において、ハウジング120およびベーンロータ130は、アルミニウム合金により形成されているが、アルミニウム合金に限らず、鉄やステンレス鋼等の任意の金属材料や樹脂材料等により形成されていてもよい。
【0019】
図1に示すように、作動油制御弁10は、バルブタイミング調整装置100の回転軸AXに配置されて用いられ、作動油供給源350から供給される作動油の流動を制御する。作動油制御弁10の動作は、内燃機関300の全体動作を制御する図示しないECUからの指示により制御される。作動油制御弁10は、回転軸AXに沿ってカム軸320側とは反対側に配置されたソレノイド160により駆動される。ソレノイド160は、電磁部162とシャフト164とを有する。ソレノイド160は、上述のECUの指示による電磁部162への通電によって、方向ADにシャフト164を変位させることにより、後述する作動油制御弁10のスプール50を、バネ60の予荷重に抗してカム軸320側へと押圧する。作動油制御弁10は、後述するように、ソレノイド160による押圧と、バネ60の予荷重とのバランスによってスプール50を方向ADあるいは方向AUに摺動させ、遅角室141に連通する油路と進角室142に連通する油路とを切り替えることができる。
【0020】
図3および図4に示すように、作動油制御弁10は、スリーブ20と、スプール50と、バネ60と、固定部材70と、チェック弁90とを備える。なお、図3では、回転軸AXに沿った断面を示している。
【0021】
スリーブ20は、アウタースリーブ30と、インナースリーブ40とを有する。アウタースリーブ30とインナースリーブ40とは、いずれも略筒状の外観形状を有する。スリーブ20は、アウタースリーブ30に形成された軸孔34にインナースリーブ40が挿入された概略構成を有する。
【0022】
アウタースリーブ30は、作動油制御弁10の外郭を構成し、インナースリーブ40の径方向外側に配置されている。アウタースリーブ30は、本体部31と、固定部32と、突出部35と、拡径部36と、移動規制部80と、工具係合部38とを有する。本体部31と固定部32とには、回転軸AXに沿った軸孔34が形成されている。軸孔34は、アウタースリーブ30を回転軸AXに沿って貫通して形成されている。
【0023】
本体部31は、筒状の外観形状を有し、ベーン131の貫通孔136に挿入され、配置されている。本体部31には、複数のアウター遅角ポート21と複数のアウター進角ポート22とが形成されている。複数のアウター遅角ポート21は、周方向に互いに並んで形成され、それぞれ本体部31の外周面と軸孔34を連通させている。複数のアウター進角ポート22は、回転軸AXに沿った方向においてアウター遅角ポート21よりもソレノイド160側にそれぞれ形成されている。複数のアウター進角ポート22は、周方向に互いに並んで形成され、それぞれ本体部31の外周面と軸孔34を連通させている。
【0024】
固定部32は、筒状の外観形状を有し、回転軸AXに沿った方向において本体部31と連なって形成されている。固定部32は、本体部31と略同じ径に形成され、カム軸320の軸固定部323に挿入されている。固定部32には、雄ねじ部33が形成されている。雄ねじ部33は、軸固定部323に形成された雌ねじ部324と螺合する。アウタースリーブ30は、雄ねじ部33と雌ねじ部324との締結により、カム軸320側へと向かう方向ADの軸力が加えられてカム軸320の端部321に固定される。軸力が加えられることにより、吸気弁330を押すことによるカム軸320の偏心力によって作動油制御弁10とカム軸320の端部321とがずれることを抑制でき、作動油が漏れることを抑制できる。
【0025】
突出部35は、本体部31から径方向外側に突出して形成されている。突出部35は、ベーンロータ130をカム軸320の端部321との間で回転軸AXに沿って挟み込む。これにより、アウタースリーブ30と、ベーンロータ130と、カム軸320とは、同位相で回転する。
【0026】
本体部31のうちソレノイド160側の端部には、拡径部36が形成されている。拡径部36は、本体部31の他部分に比べて内径が拡大して形成されている。拡径部36には、後述するインナースリーブ40の鍔部46が配置される。
【0027】
移動規制部80は、アウタースリーブ30の内周面において拡径部36によって形成される径方向の段差として構成されている。移動規制部80は、固定部材70との間において、後述するインナースリーブ40の鍔部46を回転軸AXに沿って挟み込む。これにより、移動規制部80は、回転軸AXに沿ったソレノイド160の電磁部162から遠ざかる方向ADへのインナースリーブ40の移動を規制する。
【0028】
工具係合部38は、アウタースリーブ30の突出部35よりもソレノイド160側、すなわち方向AU側に形成されている。工具係合部38は、六角ソケット等の工具(不図示)と係合可能に構成され、アウタースリーブ30を含む作動油制御弁10をカム軸320の端部321に締結固定するために用いられる。
【0029】
インナースリーブ40は、筒部41と、底部42と、複数の遅角側突出壁43と、複数の進角側突出壁44と、封止壁45と、鍔部46と、段差部49とを有する。
【0030】
筒部41は、略筒状の外観形状を有し、アウタースリーブ30の本体部31と固定部32とに亘ってアウタースリーブ30の径方向内側に位置している。筒部41には、遅角側供給ポートSP1と、進角側供給ポートSP2と、リサイクルポート47とがそれぞれ形成されている。
【0031】
遅角側供給ポートSP1は、遅角側突出壁43よりも方向AD側に形成され、筒部41の外周面と内周面を連通させている。本実施形態において、遅角側供給ポートSP1は、周方向の半周に亘って複数並んで形成されているが、全周に亘って形成されていてもよく、単数であってもよい。進角側供給ポートSP2は、進角側突出壁44よりも方向AU側に形成され、筒部41の外周面と内周面を連通させている。本実施形態において、進角側供給ポートSP2は、周方向の半周に亘って複数並んで形成されているが、全周に亘って形成されていてもよく、単数であってもよい。遅角側供給ポートSP1は、カム軸320の軸穴部322と連通している。また、進角側供給ポートSP2は、2つの遅角側突出壁43の間に形成された隙間と、2つの進角側突出壁44の間に形成された隙間を介して遅角側供給ポートSP1と連通している。したがって、進角側供給ポートSP2は、最終的に、カム軸320の軸穴部322と連通している。
【0032】
リサイクルポート47は、遅角側突出壁43と進角側突出壁44との間に形成され、筒部41の外周面と内周面を連通させている。リサイクルポート47は、遅角側供給ポートSP1および進角側供給ポートSP2とそれぞれ連通している。具体的には、リサイクルポート47は、アウタースリーブ30の本体部31の内周面とインナースリーブ40の筒部41の外周面との間の空間であって、周方向に互いに隣り合う遅角側突出壁43の間および周方向に互いに隣り合う進角側突出壁44の間の空間により、各供給ポートSP1、SP2と連通している。このため、リサイクルポート47は、遅角室141および進角室142から排出された作動油を供給側へと戻すリサイクル機構として機能する。本実施形態において、リサイクルポート47は、周方向に複数並んで形成されているが、単数であってもよい。なお、スプール50の摺動による油路の切り替え動作を含めたバルブタイミング調整装置100の動作については、後述する。
【0033】
底部42は、筒部41と一体に形成され、筒部41の方向AD側(以下、説明の便宜上「カム軸320側」とも呼ぶ)の端部を塞いでいる。底部42には、バネ60の一端が当接している。
【0034】
複数の遅角側突出壁43は、筒部41から径方向外側に突出するように、周方向に互いに並んで形成されている。周方向に互いに隣り合う遅角側突出壁43の間は、カム軸320の軸穴部322と連通しており、作動油供給源350から供給される作動油が流通する。各遅角側突出壁43には、それぞれインナー遅角ポート23が形成されている。各インナー遅角ポート23は、それぞれ遅角側突出壁43の外周面と内周面を連通させている。各インナー遅角ポート23は、それぞれアウタースリーブ30に形成された各アウター遅角ポート21と連通する。インナー遅角ポート23の軸線は、アウター遅角ポート21の軸線と回転軸AXに沿った方向においてずれている。
【0035】
複数の進角側突出壁44は、遅角側突出壁43よりも方向AU側に形成されている。複数の進角側突出壁44は、筒部41から径方向外側に突出するように、周方向に互いに並んで形成されている。周方向に互いに隣り合う進角側突出壁44の間は、軸穴部322と連通しており、作動油供給源350から供給される作動油が流通する。各進角側突出壁44には、それぞれインナー進角ポート24が形成されている。各インナー進角ポート24は、それぞれ進角側突出壁44の外周面と内周面を連通させている。各インナー進角ポート24は、それぞれアウタースリーブ30に形成された各アウター進角ポート22と連通する。インナー進角ポート24の軸線は、アウター進角ポート22の軸線と回転軸AXに沿った方向においてずれている。
【0036】
封止壁45は、進角側供給ポートSP2よりも方向AU側において、筒部41の全周に亘って径方向外側に向かって突出して形成されている。封止壁45は、アウタースリーブ30の本体部31の内周面とインナースリーブ40の筒部41の外周面とをシールすることにより、後述する作動油供給油路25を流通する作動油がソレノイド160側へと漏れることを抑制する。封止壁45の外径は、遅角側突出壁43および進角側突出壁44の外径と略同じに形成されている。
【0037】
鍔部46は、インナースリーブ40のソレノイド160側の端部において、筒部41の全周に亘って径方向外側に向かって突出して形成されている。鍔部46は、アウタースリーブ30の拡径部36に配置されている。鍔部46には、複数の嵌合部48が形成されている。複数の嵌合部48は、鍔部46の外縁部において周方向に互いに並んで形成されている。本実施形態において、各嵌合部48は、鍔部46の外縁部が直線状に切り落とされて形成されているが、直線状に限らず曲線状に形成されていてもよい。各嵌合部48は、後述する固定部材70の各嵌合突起部73とそれぞれ嵌合する。
【0038】
段差部49は、インナースリーブ40の方向AD側の端部であってカム軸320側の端部に形成されている。段差部49は、筒部41の他部分に比べて内径が縮小して形成されることにより、スプール50のカム軸320側の端部が当接可能に構成されている。段差部49は、ソレノイド160の電磁部162から遠ざかる方向へのスプール50の摺動限界を規定する。
【0039】
アウタースリーブ30に形成された軸孔34と、インナースリーブ40との間の空間は、作動油供給油路25として機能する。作動油供給油路25は、カム軸320の軸穴部322と連通しており、作動油供給源350から供給される作動油を遅角側供給ポートSP1および進角側供給ポートSP2へと導く。アウター遅角ポート21とインナー遅角ポート23とは、遅角ポート27を構成し、遅角油路137を介して遅角室141と連通する。アウター進角ポート22とインナー進角ポート24とは、進角ポート28を構成し、進角油路138を介して進角室142と連通する。
【0040】
アウタースリーブ30とインナースリーブ40とは、作動油の漏れを抑制するために、回転軸AXに沿った方向の少なくとも一部においてシールされている。より具体的には、遅角側突出壁43によって、遅角側供給ポートSP1およびリサイクルポート47と遅角ポート27との間がシールされ、進角側突出壁44によって、進角側供給ポートSP2およびリサイクルポート47と進角ポート28との間がシールされている。また、封止壁45によって、作動油供給油路25と作動油制御弁10の外部とがシールされている。すなわち、回転軸AXに沿った方向において遅角側突出壁43から封止壁45までの範囲が、シール範囲SAとして設定されている。また、本実施形態において、アウタースリーブ30の本体部31の内径は、シール範囲SAにおいて略一定に構成されている。
【0041】
スプール50は、インナースリーブ40の径方向内側に配置されている。スプール50は、自身の一端に当接して配置されるソレノイド160により駆動され、ソレノイド160の押圧とバネ60の予荷重とのバランスにより、方向ADあるいは方向AUに摺動し、インナースリーブ40内を進退する。
【0042】
図3および図5に示すように、スプール50は、スプール筒部51と、スプール底部52と、バネ受け部56と、を有する。また、スプール50には、ドレン油路53の少なくとも一部と、ドレン流入部54と、ドレン流出部55とが形成されている。なお、図5では、スプール50を図3に対して周方向において90°回転させた断面を示している。
【0043】
図3から図6に示すように、スプール筒部51は、略筒状の外観形状を有する。スプール筒部51の外周面には、遅角側シール部57と、進角側シール部58と、係止部59とが、回転軸AXに沿った方向においてカム軸320側からこの順に並んで、それぞれ径方向外側に向かって突出して全周に亘って形成されている。図3に示すようにスプール50が最もソレノイド160の電磁部162に近付いた状態において、遅角側シール部57は、リサイクルポート47と遅角ポート27との連通を断ち、進角側シール部58は、進角側供給ポートSP2と進角ポート28との連通を断つ。図6に示すようにスプール50が最も電磁部162から遠ざかった状態において、遅角側シール部57は、遅角側供給ポートSP1と遅角ポート27との連通を断ち、進角側シール部58は、リサイクルポート47と進角ポート28との連通を断つ。図3に示すように、係止部59は、固定部材70と当接することにより、ソレノイド160の電磁部162に近付く方向へのスプール50の摺動限界を規定する。
【0044】
スプール底部52は、スプール筒部51と一体に形成され、スプール筒部51のソレノイド160側の端部を塞いでいる。スプール底部52は、スリーブ20よりも方向AU側に突出可能に構成されている。スプール底部52は、スプール50の基端部として機能する。
【0045】
スプール筒部51とスプール底部52とインナースリーブ40の筒部41と底部42とにより囲まれた空間は、ドレン油路53として機能する。このため、スプール50の内部は、ドレン油路53の少なくとも一部として機能する。ドレン油路53には、遅角室141と進角室142とから排出される作動油が流通する。
【0046】
ドレン流入部54は、スプール筒部51のうち回転軸AXに沿った方向において遅角側シール部57と進角側シール部58との間に形成されている。ドレン流入部54は、スプール筒部51の外周面と内周面を連通させている。ドレン流入部54は、遅角室141と進角室142とから排出される作動油をドレン油路53へと導く。また、ドレン流入部54は、リサイクルポート47を介して各供給ポートSP1、SP2と連通している。
【0047】
ドレン流出部55は、スプール50の一端であるスプール底部52において、径方向外側に開口するように形成されている。ドレン流出部55は、ドレン油路53の作動油を作動油制御弁10の外部へと排出する。ドレン流出部55から排出された作動油は、オイルパン352へと回収される。
【0048】
バネ受け部56は、スプール筒部51のカム軸320側の端部において、スプール筒部51の他部分に比べて内径が拡大されて形成されている。バネ受け部56には、バネ60の他端が当接される。
【0049】
本実施形態において、アウタースリーブ30とスプール50とは、それぞれ鉄により形成され、インナースリーブ40は、アルミニウムにより形成されている。なお、これらの材料に限らず、任意の金属材料や樹脂材料等によりそれぞれ形成されていてもよい。
【0050】
バネ60は、圧縮コイルバネにより構成され、自身の端部がインナースリーブ40の底部42とスプール50のバネ受け部56とにそれぞれ当接して配置されている。バネ60は、スプール50を方向AU側に予荷重を付与している。
【0051】
固定部材70は、アウタースリーブ30のソレノイド160側の端部に固定されている。固定部材70は、平板部71と、複数の嵌合突起部73とを有する。
【0052】
平板部71は、径方向に沿った平板状に形成されている。平板部71は、径方向に限らず、回転軸AXと交差する方向に沿って形成されていてもよい。平板部71の略中央には、開口72が形成されている。開口72には、スプール50の一端であるスプール底部52が挿入される。
【0053】
複数の嵌合突起部73は、平板部71から方向ADに向かって突起し、周方向に互いに並んで形成されている。嵌合突起部73は、方向ADに限らず、径方向と交差する任意の方向に突出して形成されていてもよい。各嵌合突起部73は、インナースリーブ40の各嵌合部48とそれぞれ嵌合する。
【0054】
固定部材70は、インナースリーブ40の内部にスプール50が挿入されて、嵌合突起部73と嵌合部48とが嵌合するように組み付けられた後に、アウタースリーブ30にかしめ固定される。固定部材70のソレノイド160側の端面の外縁部は、アウタースリーブ30にかしめ固定される被かしめ部として機能する。これにより、アウタースリーブ30とインナースリーブ40とが固定される。この際、インナースリーブ40は、アウタースリーブ30に対して回転軸AX周りの角度を決めて取り付けられる。この点については、後述する。
【0055】
嵌合突起部73と嵌合部48とが嵌合した状態において固定部材70がアウタースリーブ30に固定されることにより、インナースリーブ40がアウタースリーブ30に対して周方向に回転することが規制される。また、固定部材70がアウタースリーブ30に固定されることにより、インナースリーブ40とスプール50とが、アウタースリーブ30から方向AU側に抜けることがそれぞれ規制される。
【0056】
チェック弁90は、作動油の逆流を抑制する。チェック弁90は、2つの供給チェック弁91と、リサイクルチェック弁92とを含んで構成されている。各供給チェック弁91とリサイクルチェック弁92とは、それぞれ帯状の薄板を環状に巻いて形成されることにより、径方向に弾性変形する。各供給チェック弁91は、遅角側供給ポートSP1および進角側供給ポートSP2と対応する位置において、それぞれ筒部41の内周面と当接して配置されている。各供給チェック弁91は、径方向外側から作動油の圧力を受けることによって、帯状の薄板の重なり部分が大きくなり、径方向に縮小する。リサイクルチェック弁92は、リサイクルポート47と対応する位置において、筒部41の外周面と当接して配置されている。リサイクルチェック弁92は、径方向内側から作動油の圧力を受けることによって、帯状の薄板の重なり部分が小さくなり、径方向に拡大する。
【0057】
本実施形態において、クランク軸310は、本開示における駆動軸の下位概念に相当し、カム軸320は、本開示における従動軸の下位概念に相当し、吸気弁330は、本開示におけるバルブの下位概念に相当する。また、ソレノイド160は、本開示におけるアクチュエータの下位概念に相当する。
【0058】
A-2.バルブタイミング調整装置の動作:
図1に示すように、作動油供給源350から供給穴部326へと供給された作動油は、軸穴部322を通って作動油供給油路25へと流通する。図3に示す状態のように、ソレノイド160に通電が行われずスプール50が最もソレノイド160の電磁部162に近付いた状態において、遅角ポート27は、遅角側供給ポートSP1と連通する。これにより、作動油供給油路25の作動油が遅角室141へと供給されて、ベーンロータ130がハウジング120に対して遅角方向へ相対回転し、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が遅角側へと変化する。また、この状態において、進角ポート28は、進角側供給ポートSP2と連通せず、リサイクルポート47と連通する。これにより、進角室142から排出された作動油は、リサイクルポート47を介して遅角側供給ポートSP1へと戻されて再循環する。また、進角室142から排出された作動油の一部は、ドレン流入部54を介してドレン油路53に流入し、ドレン流出部55を通ってオイルパン352へと戻される。
【0059】
図6に示すように、ソレノイド160に通電が行われてスプール50が最もソレノイド160の電磁部162から遠ざかった状態、すなわち、スプール50が段差部49方向に最も近づいた状態において、進角ポート28は、進角側供給ポートSP2と連通する。これにより、作動油供給油路25の作動油が進角室142へと供給されて、ベーンロータ130がハウジング120に対して進角方向へ相対回転し、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が進角側へと変化する。また、この状態において、遅角ポート27は、遅角側供給ポートSP1と連通せず、リサイクルポート47と連通する。これにより、遅角室141から排出された作動油は、リサイクルポート47を介して進角側供給ポートSP2へと戻されて再循環する。また、遅角室141から排出された作動油の一部は、ドレン流入部54を介してドレン油路53に流入し、ドレン流出部55を通ってオイルパン352へと戻される。
【0060】
また、図7に示すように、ソレノイド160に通電が行われてスプール50が摺動範囲の略中央に位置する状態では、遅角ポート27と遅角側供給ポートSP1とが連通し、進角ポート28と進角側供給ポートSP2とが連通する。これにより、作動油供給油路25の作動油が遅角室141と進角室142との両方へと供給されて、ベーンロータ130のハウジング120に対する相対回転が抑制され、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が保持される。
【0061】
遅角室141または進角室142へと供給される作動油は、遅角室側ピン制御油路133または進角室側ピン制御油路134を介して収容穴部132へと流入する。このため、遅角室141または進角室142に十分な油圧がかけられて、収容穴部132へと流入した作動油によってロックピン150がスプリング151の付勢力に抗して嵌入凹部128から抜け出すと、ハウジング120に対するベーンロータ130の相対回転が許容された状態となる。
【0062】
バルブタイミング調整装置100は、カム軸320の相対回転位相が目標値よりも進角側である場合、ソレノイド160への通電量を比較的小さくすることによって、ベーンロータ130をハウジング120に対して遅角方向へ相対回転させる。これにより、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が遅角側へと変化し、バルブタイミングが遅角する。また、バルブタイミング調整装置100は、カム軸320の相対回転位相が目標値よりも遅角側である場合、ソレノイド160への通電量を比較的大きくすることによって、ベーンロータ130をハウジング120に対して進角方向へ相対回転させる。これにより、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が進角側へと変化し、バルブタイミングが進角する。また、バルブタイミング調整装置100は、カム軸320の相対回転位相が目標値と一致する場合、ソレノイド160への通電量を中程度とすることによって、ベーンロータ130のハウジング120に対する相対回転を抑制する。これにより、クランク軸310に対するカム軸320の相対回転位相が保持され、バルブタイミングが保持される。
【0063】
A-3.インナースリーブとバネについて:
バネ60をインナースリーブ40内に挿入する場合、インナースリーブ40の底部42が鉛直下方、開口が鉛直上方になるようにインナースリーブ40を配置し、インナースリーブ40の開口からバネ60を挿入し、自然落下させる。
【0064】
図8は、バネ60が傾かずにインナースリーブ40内に挿入された例、すなわち、バネ60が正しく挿入された状態を示す。インナースリーブ40は、一方の端部に開口を有する円筒形状を有しており、インナースリーブ40の底部42の中央には、インナースリーブ40の開口側(図8では上方)に向けて隆起する隆起部42rが形成されている。第1実施形態では、隆起部42rは、先端側が狭い円錐台形状を有しており、隆起部42rは、インナースリーブ40の開口方向に向けて狭くなる傾斜面42rcを有する。すなわち、隆起部42rは、最大径が、バネの第1端部60aの内径より小さく、バネ座42z側からインナースリーブ40開口側に向けて外径が漸減する傾斜面42rcを有する。隆起部42rの高さH42rは、後述する段差部49の高さLslよりも低い。隆起部42rのバネ座42z側における外径D42rlは、隆起部42rの最大径であり、バネ60の第1端部60aにおける内径Dspiよりも小さい。バネ60の第1端部60aは、隆起部42rの外方に形成されたバネ座42zに接触して着座している。バネ座42zの外径D49iは、バネ60の第1端部60aにおける外径Dspoよりも大きい。すなわち、バネ60の外径Dspo、内径Dspiは、バネ60がバネ座42zに着座可能な大きさである。
【0065】
インナースリーブ40は、バネ座42zの端部の外周に、バネ座42zを取り囲み、スプール50のバネ座42z側への移動を規制する段差部49を備える。段差部49は、スプール50が接触するスプール接触面49sを有している。インナースリーブ40の内径は、Dslである。段差部49のバネ座42zからスプール50が接触するスプール接触面49sまでの高さは、Lslである。
【0066】
バネ60の自由長、すなわち、バネ60に力を与えていないときの第1端部60aから、第2端部60bまでの長さは、Lspであり、バネ60の第2端部60bは、いずれもインナースリーブ40の内周面40isに接触していない。
【0067】
図9は、バネ60が傾いてインナースリーブ40内に挿入された状態を示す。図9に示す例では、バネ60の第1端部60aがバネ座42zに着座せず、バネ60の一方の第1端部60a1が、段差部49のスプール接触面49sに接触し、他方の第1端部60a2は、隆起部42rの円錐台の側面、すなわち傾斜面42rcに当接している。ここで、傾斜面42rcに接する第1端部60a2は、第1端部60a1よりもバネ座42zに近い位置にある。第1実施形態では、隆起部42rは、バネ60がインナースリーブ40のバネ座42z側にあってバネ60の第1端部60aがバネ座42zに配置されていない状態では、第1端部60a2が隆起部42rに当接する形状とされている。このような場合、バネ60の第1端部60a2を、隆起部42rの傾斜面42rcに沿って下方、すなわち、バネ座42zに向けて落下させれば、バネ60の第1端部60a1も段差部49から落下させ、バネ60の第1端部60aをバネ座42zに着座させることができる。
【0068】
以上、第1実施形態によれば、隆起部42rは、バネ60がインナースリーブ40のバネ座42z側にあってバネ60の第1端部60がバネ座42zに配置されていない状態では、第1端部60a2が隆起部42rに当接する形状とされているので、バネ60の第1端部60a2を、隆起部42rの傾斜面42rcに沿って落下させることができ、バネ60の第1端部60a1を段差部49から落下させることができるので、バネ60の第1端部60aがバネ座42zに正しく配置されている図8の状態にすることができる。
【0069】
隆起部42rは、バネ60の第1端部60a1が段差部49に当接し、第2端部60b2がインナースリーブ40の内周面40isに当接する状態となる前に、バネ60の第1端部60a2が隆起部42rに接触する形状とされていてもよい。この場合、バネ60の第1端部60a2を、隆起部42rの傾斜面42rcに沿って落下させることができ、バネ60の第1端部60a1を段差部49から落下させることができるので、バネ60の第1端部60aがバネ座42zに正しく配置されている図8の状態にすることができる。なお、バネ60の第1端部60a2は、バネ60の第1端部60a1が段差部49と当接する当接部位以外の第1端部である。
【0070】
図10を用いて、インナースリーブ40の隆起部42rの形状・寸法について説明する。バネ傾斜角をαとする。バネ傾斜角とは、鉛直方向に対するバネ60の中心軸60cの傾きであり、バネ60の両第1端部60a1、60a2を結ぶ線と、バネ座42zとの為す角と等しい。また、バネ60の外径に沿って底部42方向に伸ばした線が、段差部49及び隆起部42rに当たる点をそれぞれ点S1、S2とする。また、バネ60の第2端部のうち、インナースリーブ40の内周面40isに最も近い第2端部60b2から底部42方向に伸ばした線が段差部49と接触する点を点S3とする。点S1、S2間の鉛直方向の距離は、Dspo・sin(α)であり、点S1、S2間の水平方向の距離は、Dspo・cos(α)である。点S2、S3間の水平方向の距離は、Lsp・sin(α)である。本実施形態では、段差部49の高さLslは、点S1、S2間の鉛直方向の距離Dspo・sin(α)よりも大きい。また、インナースリーブ40の内径Lslは、点S1、S2間の水平距離と、点S2、S3間の水平距離との和よりも大きい。すなわち、
Lsl>Dspo・sin(α)
Dsl>Dspo・cos(α)+Lsp・sin(α)
の両式を満たす。
【0071】
インナースリーブ40の隆起部42r、段差部49の形状・寸法が、インナースリーブ40の内径とバネ60の形状・寸法との関係において、上記式を満たす形状・寸法であれば、バネ60の第1端部60a2を、隆起部42rの傾斜面42rcに沿って落下させることができ、バネ60の第1端部60a1を段差部49から落下させることができるので、バネ60の第1端部60aがバネ座42zに正しく配置されている図8の状態にすることができる。
【0072】
図11に示すように、バネ座42zに対する隆起部42rの傾斜面42rcの為す角βは、バネ60の傾きであるバネ傾斜角αよりも大きくしてもよい。バネ座42zに対する隆起部42rの傾斜面42rcの為す角βを、バネ傾斜角αよりも大きくすれば、バネ60の第1端部60a2は、隆起部42rの傾斜面42rcに沿ってバネ座42zに落下させやすい。
【0073】
B.第2実施形態:
第1実施形態では、バネ座42zから隆起部42rの高さH42rがバネ座42zから段差部49のスプール接触面49sまでの高さLsl未満であるが、図12に示す第2実施形態は、バネ座42zから隆起部42rの高さH42rがバネ座42zから段差部49のスプール接触面49sまでの高さLsl以上である。この場合、バネ60をインナースリーブ40内に落下させると、隆起部42rに接触するバネ60の第1端部60a2の位置がスプール接触面49sに接触するバネ60の第1端部60a1の位置よりも低い場合と、隆起部42rに接触するバネ60の第1端部60a2の位置がスプール接触面49sに接触するバネ60の第1端部60a1の位置よりも高い場合とが生じ得る。
【0074】
隆起部42rに接触するバネ60の第1端部60a2の位置が、スプール接触面49sに接触するバネ60の第1端部60a1の位置よりも低い場合には、図9、10を用いて説明した第1実施形態と同様に、バネ60の第1端部60a2を、隆起部42rの傾斜面42rcに沿って落下させることができ、バネ60の第1端部60a1を段差部49から落下させることができるので、バネ60の第1端部60aがバネ座42zに正しく配置されている図8の状態にすることができる。
【0075】
また、隆起部42rに接触するバネ60の第1端部60a2の位置が、スプール接触面49sに接触するバネ60の第1端部60a1の位置よりも高い場合には、図12に示すように、バネ60の第1端部60a1の位置は、インナースリーブ40の内周面40isから離れる。すなわち、バネ60の第1端部60a1がスプール接触面49sから落下しやすい位置にある。この状態で、バネ60の第1端部60a1がスプール接触面49sから落下すると、バネ60の第1端部60a2も隆起部42rの傾斜面42rcに沿って落下し、バネ60の第1端部60aは、バネ座42zに正しく配置される。
【0076】
したがって、隆起部42rに接触するバネ60の第1端部60a2の位置がスプール接触面49sに接触するバネ60の第1端部60a1の位置よりも低い場合と、隆起部42rに接触するバネ60の第1端部60a2の位置がスプール接触面49sに接触するバネ60の第1端部60a1の位置よりも高い場合のいずれであっても、バネ60をバネ座42zに正しく配置できる。
【0077】
C.隆起部42rの形状:
隆起部42rの形状は、図13に示すように、円錐台、多角錐台、円錐、多角錐であってもよい。
【0078】
隆起部42rの形状は、図14に示すように、円錐台の上と下の少なくとも一方に円柱を備える形状であってもよい。すまた、円錐の下に円柱を備える形状であってもよい。なわち、隆起部42rは、隆起部42rの頂部側、またはバネ座42z側の少なくとも一方において、バネ座42zとの為す角が垂直である垂直面を有していてもよい。円柱の底面の形状は、円錐台の上に配置される場合は、円錐台の上面の形状と同じであり、円錐台の下あるいは円錐の下に配置される場合は、円錐台あるいは円錐の下面の形状と同じである。図14では、円錐台の上と下の少なくとも一方に円柱を備える形状、あるいは、円錐の下に円柱を備える形状を例にとって説明したが、角錐台の上と下の少なくとも一方に角柱を備える形状、あるいは、角錐の下に角柱を備える形状であってもよい。
【0079】
隆起部42rは、円錐台の傾斜面42rcの形状について、図15に示すように、凸面形状、凹面形状、上部が凸面形状、下部が凹面形状、上部が凹面形状、下部が凸面形状であってもよい。さらに、隆起部42rは、頂部からバネ座42zにかけて、凸面形状、凹面形状、平面形状を含むなめらかな形状を有していてもよい。なお、図15において、隆起部42rは、円錐台の他、円錐、角錐台、角錐であってもよい。
【0080】
上記各実施形態では、スリーブ20は、アウタースリーブ30とインナースリーブ40とを有し、インナースリーブ40にバネ60を配置する場合を例に取って説明したが、アウタースリーブ30とインナースリーブ40の2つのスリーブを備えるのではなく、1つのスリーブを備え、該スリーブにバネを挿入する場合についても同様である。
【0081】
本開示は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
10…作動油制御弁、40…インナースリーブ、42…底部、42r…隆起部、42rc…傾斜面、42z…バネ座、49…段差部、49s…スプール接触面、60…バネ、60a…第1端部、60a1…第1端部、60a2…第1端部、60b…第2端部、60b1…第2端部、60b2…第2端部、100…バルブタイミング調整装置、300…内燃機関、330…吸気弁、340…排気弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15