(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】操舵角推定装置、操舵装置及び、操舵角推定方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20221213BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20221213BHJP
B62D 1/16 20060101ALI20221213BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D1/16
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2020050990
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 輝彦
【審査官】川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-083537(JP,A)
【文献】特開2019-043398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、
ステアリング軸に連結されており、前記操舵装置に操舵力を付与可能なモータの電気角を検出するモータ回転角センサと、
前記操舵装置の実操舵角を推定する実操舵角推定部と、を備え、
前記実操舵角推定部は、前記モータ回転角センサにより検出される前記電気角を
、前記モータの磁極数と前記モータの電気角分解能とで除算することで操舵絶対角に換算した角度換算値と、前記操舵角センサにより検出される前記操舵角との差分が所定値よりも小さい場合に、該角度換算値を前記実操舵角として推定する
ことを特徴とする操舵角推定装置。
【請求項2】
前記所定値が、前記操舵角センサの機械的な誤差を基準に設定されている
請求項1に記載の操舵角推定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の操舵角推定装置を備える操舵装置であって、
前記実操舵角推定部により推定される実操舵角と、所定の目標操舵角とに基づいて、前記モータの作動を制御する自動操舵制御部を備える
ことを特徴とする操舵装置。
【請求項4】
操舵装置の操舵角を検出し、
ステアリング軸に連結されたモータ回転角センサによって前記操舵装置に操舵力を付与可能なモータの電気角を検出し、検出した前記電気角を
、前記モータの磁極数と前記モータの電気角分解能とで除算することで操舵絶対角に換算した角度換算値と、検出した前記操舵角との差分が所定値よりも小さい場合に、該角度換算値を前記操舵装置の実操舵角として推定する
ことを特徴とする操舵角推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、操舵角推定装置、操舵装置及び、操舵角推定方法に関し、特に、自動操舵に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される操舵装置として、操舵角センサのセンサ値に基づいてアクチュエータの作動を制御する自動操舵装置が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサも種々提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-352120号公報
【文献】特開2013-44557号公報
【文献】特開2007-132685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような操舵角センサは、ステアリング軸やコラムユニット等に対して、機械的な組み付け誤差(いわゆるガタ)がある状態で取り付けられるのが一般的である。このため、操舵角センサのセンサ値と、実際の操舵角との間には、機械的な誤差に伴う乖離が生じる場合がある。その結果、操舵角センサのセンサ値に基づいて自動操舵制御を行うと、制御性の低下を招き、安定した自動操舵制御を行えなくなるといった課題がある。
【0005】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、操舵装置の実際の操舵角を高精度に推定取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の推定装置は、操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、前記操舵装置に操舵力を付与可能なモータの電気角を検出するモータ回転角センサと、前記操舵装置の実操舵角を推定する実操舵角推定部と、を備え、前記実操舵角推定部は、前記モータ回転角センサにより検出される前記電気角を操舵絶対角に換算した角度換算値と、前記操舵角センサにより検出される前記操舵角との差分が所定値よりも小さい場合に、該角度換算値を前記実操舵角として推定することを特徴とする。
【0007】
また、前記所定値が、前記操舵角センサの機械的な誤差を基準に設定されていることが好ましい。
【0008】
本開示の操舵装置は、前記実操舵角推定部により推定される実操舵角と、所定の目標操舵角とに基づいて、前記モータの作動を制御する自動操舵制御部を備えることを特徴とする。
【0009】
本開示の推定方法は、操舵装置の操舵角を検出し、前記操舵装置に操舵力を付与可能なモータの電気角を検出し、検出した前記電気角を操舵絶対角に換算した角度換算値と、検出した前記操舵角との差分が所定値よりも小さい場合に、該角度換算値を前記操舵装置の実操舵角として推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、操舵装置の実際の操舵角を高精度に推定取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る操舵装置を示す模式的な全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係る制御装置及び、関連する周辺構成を示す模式的な機能ブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る操舵角センサとモータ回転角センサとのセンサ値の比較を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る操舵角推定装置、操舵装置及び、操舵角推定方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0013】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る操舵装置1を示す模式的な全体構成図である。
【0014】
操舵装置1は、例えば、車両用の自動操舵装置あって、主として、操作部10と、転舵部20と、アクチュエータとしての操舵モータ30と、前方カメラ40と、制御装置100とを備えている。
【0015】
操作部10は、運転者により操作される操作部材としてのステアリングホイール11と、ステアリングホイール11の略中心部に配されたコラムユニット11Aと、ステアリング軸12とを有する。コラムユニット11Aには、方向指示器等の操作レバーが設けられている。ステアリング軸12の一端部は、コラムユニット11Aに一体回転可能に固定されている。
【0016】
ステアリング軸12には、ステアリングホイール11の操舵角(ステアリング軸12の回転角)を検出する操舵角センサ13が設けられている。この操舵角センサ13は、本体部にピン等で嵌合された不図示のコイルユニットを備えており、該コイルユニットをコラムユニット11Aに対してピン等で嵌合することにより取り付けられている。操作角センサ13により検出される操舵角センサ値θ_Sは、電気的に接続された制御装置100に送信される。
【0017】
転舵部20は、例えば、ラックピニオン式の転舵装置であって、ステアリング軸12にユニバーサルジョイント14を介して連結されたピニオン軸21と、ピニオン軸21のピニオン21Aと噛合するラック22Aが形成されたラック軸22とを有する。すなわち、ステアリング軸12からピニオン軸21に回転力が伝達されると、その回転運動が直線運動に変換されて、ラック軸22が軸方向に移動するようになっている。ラック軸22は、車幅方向に延びており、その両端には、タイロッド23L,23Rを介して左右の操舵輪24L,24Rが回動可能に設けられている。
【0018】
操舵モータ30は、例えば、3相(U,V,W)の駆動電力に基づいて回転する3相ブラシレスモータであって、ピニオン軸21(又は、ステアリング軸12)に回転力(操舵トルク)を付与するように設けられている。なお、操舵モータ30は、ラック軸22に操舵トルクを伝達できるように設けられてもよい。
【0019】
操舵モータ30には、例えば、レゾルバ等の磁極位置検出エンコーダで構成されたモータ回転角センサ31が設けられている。モータ回転角センサ31は、操舵モータ30のロータとステータとのリアクタンス変化により発生する電気信号等に基づいてモータ回転角(以下、電気角値θ_Eという)を検出する。モータ回転角センサ31により検出される電気角値θ_Eは、電気的に接続された制御装置100に送信される。
【0020】
前方カメラ40は、車両の前方や走行路面を撮像し、これらの画像データを生成する。前方カメラ40により生成される画像データは、電気的に接続された制御装置100に送信される。
【0021】
[制御装置]
図2は、本実施形態に係る制御装置100及び、関連する周辺構成を示す模式的な機能ブロック図である。
【0022】
制御装置100は、例えば、コンピュータ等の演算を行う装置であり、互いにバス等で接続されたCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート等を備え、プログラムを実行する。
【0023】
また、制御装置100は、プログラムの実行により、自動操舵制御部110と、制御用操舵角設定部120(本開示の実操舵角推定部)とを備える装置として機能する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアである制御装置100に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0024】
自動操舵制御部110は、前方カメラ40から送信される画像データ等に基づいて、車両が走行車線を逸脱することなく走行するのに必要な目標操舵角θ_Tagを算出すると共に、算出した目標操舵角θ_Tagに応じて操舵モータ30の作動を制御する自動操舵制御を実施する。具体的な一例として、自動操舵制御部110は、算出した目標操舵角θ_Tagと、後述する制御用操舵角設定部120により設定される制御用操舵角値θ_Corrとの偏差Δθ(=θ_Tag-θ_Corr)に基づいて、操舵モータ30の作動をフィードバック制御することにより、自動操舵制御を実行する。
【0025】
制御用操舵角設定部120は、操舵角センサ13から送信される操舵角センサ値θ_Sと、モータ回転角センサ31から送信される電気角値θ_Eとに基づいて、前述の自動操舵制御に用いる制御用操舵角値θ_Corrを設定する。
【0026】
ここで、
図1に示すモータ回転角センサ31は、ステアリング軸12に対して、機械的な組み付け誤差(ガタ)が略ない状態で連結されるため、モータ回転角センサ31により検出される電気角値θ
_Eは非常に精度が高い。しかしながら、電気角値θ
_Eは、操舵モータ30の磁極数に合わせた電気角に分割されており、且つ、ステアリング軸12は多回転(1回転以上)するため、電気角値θ
_Eを実際のステアリング軸12の回転角(以下、実ステアリング角θ
_Actという)として自動操舵制御にそのまま使用することはできない。
【0027】
一方、
図1に示す操舵角センサ13は、コラムユニット11A等に対して機械的な組み付け誤差(ガタ)がある状態で取り付けられているため、操舵角センサ13により検出される操舵角センサ値θ
_Sと実ステアリング角θ
_Actとの間には所定の乖離(例えば、±4~5度)が生じる場合がある。このため、操舵角センサ値θ
_Sをそのまま自動操舵制御に用いると、制御性の低下を招く要因となる。
【0028】
そこで、本実施形態では、精度の高い電気角値θ_Eを、実ステアリング角θ_Actの学習補正に用いることで、制御用操舵角値θ_Corrの設定精度を向上し、これにより、安定した自動操舵制御の実現を可能とする。なお、実ステアリング角θ_Actと電気角値θ_Eとの位置合わせ(絶対角合わせ)による補正値は、予め工場出荷前の車両製造時等に取得して制御装置100のメモリに格納しておくものとする。
【0029】
図3は、例えば、操舵モータ30の磁極数Mnが「4」、電気角分解能Erが「1023」の構成において、実ステアリング角θ
_Actが45度となり、これに伴い電気角値θ
_Eが「512」となった状態で、(A)は操舵角センサ値θ
_Sに乖離が無い場合、(B)は操舵角センサ値θ
_Sに組み付け誤差を起因とした+5度の乖離がある場合、(C)は操舵角センサ値θ
_Sに組み付け誤差を起因とした-5度の乖離がある場合をそれぞれ示している。
【0030】
図3(A)に示すように、操舵角センサ値θ
_Sに乖離が無い場合、電気角値θ
_Eの「512」を操舵角(絶対角)に換算した操舵角換算値θ
_Calは約45となり、操舵角センサ値θ
_Sの値45と略等しくなる。ここで、操舵角換算値θ
_Calは、以下の数式(1)で求められる。
【0031】
θ
_Cal=(360×θ
_E)/(Er×Mn)・・・・(1)
但し、θ
_E=電気角値
Er=電気角分解能
Mn=磁極数
一方、
図3(B)に示すように、操舵角センサ値θ
_Sに機械的な誤差に伴う+5度の乖離がある場合、操舵角換算値θ
_Calの約45に対して、操舵角センサ値θ
_Sは-5の40となる。また、
図3(C)に示すように、操舵角センサ値θ
_Sに機械的な誤差に伴う-5度の乖離がある場合、操舵角換算値θ
_Calの約45に対して、操舵角センサ値θ
_Sは+5の50となる。
【0032】
すなわち、機械的な誤差のない電気角値θ_Eを絶対角に換算した操舵角換算値θ_Calに対して、操舵角センサ値θ_Sが操舵角センサ13の機械的な誤差に起因する乖離の範囲内(例えば、±4~5度)にあれば、操舵角換算値θ_Calを実ステアリング角θ_Actとして見做すことができる。言い換えれば、電気角値θ_Eから換算した操舵角換算値θ_Calと、操舵角センサ値θ_Sとの差分が、操舵角センサ13の機械的な誤差よりも小さければ、当該操舵角換算値θ_Calを自動操舵制御に用いる制御用操舵角値θ_Corrに設定できることとなる。
【0033】
制御用操舵角設定部120は、まず、エンジン始動時等の車両走行開始時に、操舵角換算値θ_Calが以下の数式(2),(3)に示す条件を満たすか否かを判定する。なお、数式(2),(3)において、Aは、操舵角センサ13の機械的な誤差に起因する乖離角度値(例えば、±5度)である。この乖離角度値Aは、予め実験等により取得して、制御装置100のメモリに格納しておくものとする。
【0034】
θ_Cal+(360/Mn)×n>θ_S-A ・・・・(2)
θ_Cal+(360/Mn)×n<θ_S+A ・・・・(3)
数式(2),(3)において、nは以下の数式(4)で示される。数式(4)において、Nsはステアリング回転数(小数点切り上げ)である。
【0035】
n=((Mn×Ns)-1)×(-1)~((Mn×Ns)-1)・・・(4)
制御用操舵角設定部120は、上記数式(2),(3)の条件が満たされる場合には、以下の数式(5)から求めた制御用操舵角値θ_Corrを自動操舵制御の操舵角として設定する。
【0036】
θ_Corr=θ_Cal+360/(Mn×n) ・・・・(5)
以降、制御用操舵角設定部120は、数式(5)から求めた制御用操舵角値θ_Corrを設定した後は、該設定値を基準に、モータ回転角センサ31からリアルタイムに送信される電気角値θ_Eからカウントとした値を自動操舵制御用の操舵角として逐次設定し、自動操舵制御部110にリアルタイムに送信する。
【0037】
以上要するに、本実施形態によれば、精度は高いがステアリング軸12の多回転には対応できないモータ回転角センサ31の電気角値θ_Eと、組み付け誤差の影響はあるが、ステアリング軸12の多回転に対応した絶対角を検出可能な操舵角センサ13の操舵角センサ値θ_Sとの相関関係に基づいて、自動操舵制御に用いる制御用操舵角値θ_Corrを高精度に設定できるように構成されている。これにより、自動操舵制御の制御性が向上し、安定した自動操舵制御を実現することが可能となる。
【0038】
[その他]
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変形して実施することが可能である。
【0039】
例えば、上記実施形態において、電気角値θ_Eから換算した操舵角換算値θ_Calと、操舵角センサ値θ_Sとの差分が、操舵角センサ13の機械的な誤差よりも大きい場合には、自動操舵制御を禁止すると共に、運転者に対して操舵装置1の異常を通知する診断機能を付加してもよい。
【0040】
また、操舵装置1は、自動操舵装置として説明したが、操舵モータ30により運転者の操舵操作をアシストする電動アシスト操舵装置等にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 操舵装置
10 操作部
11 ステアリングホイール
11A コラムユニット
12 ステアリング軸
13 操舵角センサ
20 転舵部
30 操舵モータ
31 モータ回転角センサ
100 制御装置
110 自動操舵制御部
120 制御用操舵角設定部(実操舵角推定部)