(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】アンテナモジュールおよび通信装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 23/00 20060101AFI20221213BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20221213BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20221213BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01Q23/00
H01Q13/08
H01Q21/24
H01Q21/06
(21)【出願番号】P 2021031195
(22)【出願日】2021-02-26
(62)【分割の表示】P 2019541938の分割
【原出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017176596
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】尾仲 健吾
(72)【発明者】
【氏名】山田 良樹
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 圭一
(72)【発明者】
【氏名】森 弘嗣
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-213835(JP,A)
【文献】特開2001-028511(JP,A)
【文献】特開平05-145331(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063759(WO,A1)
【文献】特開2004-040597(JP,A)
【文献】特開2005-117139(JP,A)
【文献】特開2001-094336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに背向する第1主面および第2主面を有する多層基板と、
前記多層基板の前記第1主面側に形成され、放射電極とグランド電極とから構成されるパッチアンテナと、
第1フィルタと、
前記第1フィルタと異なる第2フィルタと、を備え、
前記パッチアンテナは、前記放射電極における異なる位置に設けられた第1給電点および第2給電点を有し、
前記第1給電点は、前記第1フィルタと電気的に接続され、
前記第2給電点は、前記第2フィルタと電気的に接続され、
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタは、前記多層基板内に形成され、
前記多層基板の平面視において、前記パッチアンテナと前記第1フィルタとは、少なくとも一部が重複しており、前記パッチアンテナと前記第2フィルタとは、少なくとも一部が重複して
おり、
前記第1フィルタは、前記第1給電点から延びるように形成され、
前記第2フィルタは、前記第2給電点から延びるように形成され、
前記第1フィルタの延びる方向と前記第2フィルタの延びる方向とは、互いに異なる、
アンテナモジュール。
【請求項2】
前記第1給電点によって形成される偏波の方向および前記第2給電点によって形成される偏波の方向は、互いに異なる、
請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項3】
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタの通過帯域は、少なくとも一部が重複しており、
前記第1給電点および前記第2給電点には、それぞれ周波数帯域が同じ高周波信号が給電される、
請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項4】
前記多層基板の断面視において、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタは、前記パッチアンテナと前記第2主面との間に形成される、
請求項1~3のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項5】
前記多層基板の平面視において、前記放射電極の中心または当該中心を通過する線に対して略対称な2つの領域のうちの一方の領域に前記第1フィルタが形成され、他方の領域に前記第2フィルタが形成される、
請求項1~4のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項6】
前記第1フィルタと前記第2フィルタとの間にグランド導体が形成される、
請求項1~5のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項7】
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタは、LCフィルタである、
請求項1~6のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項8】
前記アンテナモジュールは、前記パッチアンテナ、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタの組を複数備え、
前記複数のパッチアンテナは、前記多層基板にマトリクス状に配置される、
請求項1~7のいずれか1項に記載のアンテナモジュール。
【請求項9】
前記多層基板内において、前記第1フィルタと前記第2フィルタとは同層に形成される、
請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項10】
アンテナモジュールであって、
互いに背向する第1主面および第2主面を有する多層基板と、
前記多層基板の前記第1主面側に形成され、放射電極とグランド電極とから構成されるパッチアンテナと、
第1フィルタと、
前記第1フィルタと異なる第2フィルタと、を備え、
前記パッチアンテナは、前記放射電極における異なる位置に設けられた第1給電点および第2給電点を有し、
前記第1給電点は、前記第1フィルタと電気的に接続され、
前記第2給電点は、前記第2フィルタと電気的に接続され、
前記第1フィルタおよび前記第2フィルタは、前記多層基板内に形成され、
前記アンテナモジュールは、前記多層基板を平面視したときに異なる位置に設けられた、第1電極群および第2電極群を備え、
前記第1電極群は、前記放射電極、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタを有し、
前記第2電極群は、前記第1電極群が有する前記放射電極、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタとは異なる前記放射電極、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタを有し、
前記第1電極群が有する前記第1フィルタは、前記第1電極群が有する前記放射電極と一部が対向し別の一部が対向せず、前記第2電極群が有する前記放射電極と対向せず、
前記第1電極群が有する前記第2フィルタは、前記第1電極群が有する前記放射電極と一部が対向し別の一部が対向せず、前記第2電極群が有する前記放射電極と対向しない、
アンテナモジュール。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載のアンテナモジュールと、
BBIC(ベースバンドIC)と、を備え、
前記アンテナモジュールは、前記BBICから入力された信号をアップコンバートして
前記パッチアンテナに出力する送信系の信号処理、及び、前記パッチアンテナから入力された高周波信号をダウンコンバートして前記BBICに出力する受信系の信号処理、の少なくとも一方を行うRFICを備える、
通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナモジュールおよび通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、Massive MIMOシステムで用いられるアンテナモジュールでは、多くのパッチアンテナが用いられるため、1つのパッチアンテナが1つの給電点を有し、1つのパッチアンテナが1つの偏波のみに対応する構成では、大型化してしまう。そこで、1つのパッチアンテナが2つの給電点を有する構成が開示されている(例えば、特許文献1)。これにより、1つのパッチアンテナで互いに方向の異なる2つの偏波に対応することができ、アンテナモジュールの小型化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アンテナモジュールで利用される高周波信号の高調波等がパッチアンテナから出力されるという問題や、パッチアンテナが受信した妨害波がLNA(ローノイズアンプ)に入力されてLNAが飽和してしまうといった問題がある。これに対して、パッチアンテナと高周波回路素子(例えばRFIC)との間に高調波や妨害波等の不要波を減衰させるフィルタを設けることが考えられる。しかし、当該フィルタは、1つのパッチアンテナが有する2つの給電点のそれぞれに対応して必要となる。したがって、アンテナモジュールにおける2つの当該フィルタの配置のされ方によっては、アンテナモジュールが大型化してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、2つの給電点を有するパッチアンテナを備えるアンテナモジュール等について、小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るアンテナモジュールは、互いに背向する第1主面および第2主面を有する多層基板と、前記多層基板の前記第1主面側に形成され、放射電極とグランド電極とから構成されるパッチアンテナと、第1フィルタと、前記第1フィルタと異なる第2フィルタと、を備え、前記パッチアンテナは、前記放射電極における異なる位置に設けられた第1給電点および第2給電点を有し、前記第1給電点は、前記第1フィルタと電気的に接続され、前記第2給電点は、前記第2フィルタと電気的に接続され、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタは、前記多層基板内に形成され、前記多層基板の平面視において、前記パッチアンテナと前記第1フィルタとは、少なくとも一部が重複しており、前記パッチアンテナと前記第2フィルタとは、少なくとも一部が重複している。
【0007】
これによれば、第1フィルタおよび第2フィルタの2つのフィルタが多層基板と別体に設けられず、多層基板内に形成されるため、2つの給電点を有するパッチアンテナを備えるアンテナモジュールについて、2つの給電点のそれぞれに対応するフィルタを有しつつも、小型化が図られる。また、第1主面側に形成されたパッチアンテナと電気的に接続される第1フィルタおよび第2フィルタが多層基板内に形成されるため、多層基板の表面において配線を引き延ばす必要がなく当該経路の配線長を短くでき、配線ロスを抑制できる。また、多層基板の平面視において、パッチアンテナと第1フィルタとは、少なくとも一部が重複しており、パッチアンテナと第2フィルタとは、少なくとも一部が重複しているため、多層基板の平面視におけるアンテナモジュールのサイズをより小型化できる。また、パッチアンテナから第1フィルタへと真下に配線を設けることができ、また、パッチアンテナから第2フィルタへと真下に配線を設けることができるため、配線ロスをより抑制できる。
【0008】
また、前記第1給電点によって形成される偏波の方向および前記第2給電点によって形成される偏波の方向は、互いに異なっていてもよい。
【0009】
これによれば、1つのパッチアンテナで互いに方向の異なる2つの偏波に対応することができ、偏波ごとにパッチアンテナを設ける必要がないため、アンテナモジュールの小型化が可能となる。
【0010】
また、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタの通過帯域は、少なくとも一部が重複しており、前記第1給電点および前記第2給電点には、それぞれ周波数帯域が同じ高周波信号が給電されてもよい。
【0011】
これによれば、第1フィルタと第2フィルタとは略同じフィルタ特性を有しており、2つの給電点のそれぞれについて、周波数帯域が同じ高周波信号を通過させることができ、また、送受信され得る不要波を同じように減衰させることができる。よって、当該アンテナモジュールを、複数の信号経路を通過する信号を同じように信号処理するシステムであるMIMOシステムに適用することができる。
【0012】
また、前記多層基板の断面視において、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタは、前記パッチアンテナと前記第2主面との間に形成されてもよい。
【0013】
グランド電極は、放射電極の接地導体として機能するため、放射電極と当該グランド電極との間に他の導体等が設けられないことが好ましい。これに対して、当該断面視において、パッチアンテナを構成する放射電極およびグランド電極、第1フィルタおよび第2フィルタの順序で第1主面から第2主面に向けてこれらが配置される。つまり、上記他の導体等として第1フィルタおよび第2フィルタが、パッチアンテナを構成する放射電極とグランド電極との間に設けられないため、アンテナ特性の劣化を抑制できる。
【0014】
また、前記多層基板の平面視において、前記放射電極の中心または当該中心を通過する線に対して略対称な2つの領域のうちの一方の領域に前記第1フィルタが形成され、他方の領域に前記第2フィルタが形成されてもよい。
【0015】
例えば、多層基板には、第1フィルタおよび第2フィルタの他にもIF(中間周波数)信号のためのフィルタ等も設けられるため、1つのパッチアンテナに対して2つのフィルタが設けられると、多層基板内において部品(回路)および配線が密集してしまうため、多層基板の設計が難しくなる。これに対して、第1フィルタおよび第2フィルタが略対称な2つの領域のうちの一方と他方とに形成されることで、多層基板内において部品(回路)および配線が当該一方の領域と当該他方の領域とに分散させることができ密集しないため、多層基板の設計が容易になる。
【0016】
また、前記第1フィルタと前記第2フィルタとの間にグランド導体が形成されてもよい。
【0017】
これによれば、第1フィルタに接続された第1給電点と第2フィルタに接続された第2給電点との間のアイソレーション特性を改善できる。
【0018】
また、前記第1フィルタと前記第2フィルタとは電磁界結合していてもよい。
【0019】
これによれば、第1フィルタと第2フィルタとの結合パスに第1給電点と第2給電点との間で漏れる不要信号と逆位相の信号が流れるようにすることで、当該不要信号を相殺することができる。
【0020】
また、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタは、LCフィルタであってもよい。
【0021】
これによれば、第1フィルタおよび第2フィルタを多層基板内に形成しやすくなる。また、第1フィルタおよび第2フィルタを小型化できる。
【0022】
また、前記アンテナモジュールは、前記パッチアンテナ、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタの組を複数備え、前記複数のパッチアンテナは、前記多層基板にマトリクス状に配置されてもよい。
【0023】
これによれば、当該アンテナモジュールをMassive MIMOシステムに適用することができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係る通信装置は、上記のアンテナモジュールと、BBIC(ベースバンドIC)と、を備え、前記アンテナモジュールは、前記BBICから入力された信号をアップコンバートして前記パッチアンテナに出力する送信系の信号処理、及び、前記パッチアンテナから入力された高周波信号をダウンコンバートして前記BBICに出力する受信系の信号処理、の少なくとも一方を行うRFICを備える。
【0025】
これによれば、2つの給電点を有するパッチアンテナを備える通信装置について、小型化が図られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るアンテナモジュール等によれば、2つの給電点を有するパッチアンテナを備えるアンテナモジュール等について、小型化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係るアンテナモジュールの外観透視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係るアンテナモジュールの側面透視図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係る第1フィルタの他の例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態2に係るアンテナモジュールの外観透視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態2に係るアンテナモジュールの側面透視図である。
【
図6】
図6は、実施の形態3に係るアンテナモジュールの外観透視図である。
【
図7】
図7は、実施の形態3に係るアンテナモジュールの上面透視図である。
【
図8】
図8は、実施の形態4に係るアンテナモジュールの外観透視図である。
【
図9】
図9は、実施の形態5に係る通信装置の一例を示す構成図である。
【
図10】
図10は、その他の実施の形態に係るアンテナモジュールの外観透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさ、又は大きさの比は、必ずしも厳密ではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する場合がある。
【0029】
(実施の形態1)
[1.アンテナモジュールの構成]
図1は、実施の形態に係るアンテナモジュール1の外観透視図である。
【0030】
以降、アンテナモジュール1の厚さ方向をZ軸方向、Z軸方向に垂直かつ互いに直交する方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向として説明し、Z軸プラス側をアンテナモジュール1の上面側として説明する。しかし、実際の使用態様においては、アンテナモジュール1の厚さ方向が上下方向とはならない場合もあるため、アンテナモジュール1の上面側は上方向に限らない。後述する実施の形態2~4、その他の実施の形態に係るアンテナモジュールについても同様である。
【0031】
図1に示すアンテナモジュール1は、送信時及び受信時のいずれにおいても2種類の偏波に対応することができ、例えば全二重通信に用いられる。本実施の形態では、アンテナモジュール1は、当該2種類の偏波として、X軸方向の偏波及びY軸方向の偏波に対応する。つまり、本実施の形態に係るアンテナモジュール1は、直交する2つの偏波に対応する。なお、アンテナモジュール1は、これに限らず、直交とは異なる角度(例えば、75°または60°等)をなす2つの偏波に対応してもかまわない。
【0032】
アンテナモジュール1は、多層基板40、多層基板40に形成されたパッチアンテナ10、第1フィルタ31、第2フィルタ32および高周波回路素子(RFIC)20を備える。
【0033】
多層基板40は、互いに背向する第1主面および第2主面を有する。第1主面は、多層基板40のZ軸プラス側の主面であり、第2主面とは、多層基板40のZ軸マイナス側の主面である。多層基板40は、第1主面と第2主面との間に誘電体材料が充填された構造を有する。
図1では、当該誘電体材料を透明にし、多層基板40の内部を可視化し、多層基板40の外形を破線で示している。多層基板40としては、低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)基板、または、プリント基板等が用いられる。また、多層基板40に形成される各種導体としては、Al、Cu、Au、Ag、または、これらの合金を主成分とする金属が用いられる。
【0034】
パッチアンテナ10は、多層基板40の第1主面側に形成され、多層基板40の主面と平行に設けられた薄膜のパターン導体からなる放射電極13とグランド電極14とから構成される。例えば、第1主面に放射電極13が設けられ、放射電極13よりも第2主面側にグランド電極14が形成されている。放射電極13は、多層基板40の平面視において、例えば矩形形状を有するが、円形または多角形形状等であってもよい。グランド電極14は、グランド電位に設定され、放射電極13の接地導体としての機能を果たす。また、放射電極13は、酸化等の防止のために多層基板40の内層に形成されていてもよいし、放射電極13上に保護膜が形成されてもよい。また、放射電極13は、給電導体、及び、当該給電導体より上方に配置された無給電導体で構成されていてもかまわない。
【0035】
RFIC20は、多層基板40の第2主面側に形成され、パッチアンテナ10によって送信される送信信号または受信される受信信号を信号処理するRF信号処理回路を構成する。RFIC20は、パッチアンテナ10と接続される給電端子21および22を有する。また、多層基板40の第2主面側には、グランド導体24が形成されており、例えば、RFIC20のグランド端子(図示せず)がグランド導体24に接続される。なお、本実施の形態では、RFIC20は、多層基板40の第2主面に設けられているが、多層基板40に内蔵されていても構わない。
【0036】
パッチアンテナ10は、RFIC20との間で高周波信号が伝達される第1給電点11および第2給電点12を有する。第1給電点11および第2給電点12は、放射電極13における異なる位置に設けられる。第1給電点11によって形成される偏波の方向および第2給電点12によって形成される偏波の方向は、互いに異なり、上述したように、例えば、第1給電点11によってY軸方向の偏波が形成され、第2給電点12によってX軸方向の偏波が形成される。これにより、1つのパッチアンテナによって、2つの偏波に対応することが可能となる。つまり、偏波ごとにパッチアンテナを設ける必要がないため、アンテナモジュールの小型化が可能となる。
【0037】
第1給電点11は、第1フィルタ31を経由してRFIC20と電気的に接続され、第2給電点12は、第2フィルタ32を経由してRFIC20と電気的に接続される。具体的には、第1給電点11は、ビア導体41a、第1フィルタ31およびビア導体41bを介してRFIC20が有する給電端子21に接続され、第2給電点12は、ビア導体42a、第2フィルタ32およびビア導体42bを介してRFIC20が有する給電端子22に接続される。
【0038】
グランド電極14は、多層基板40を積層方向に見た場合(多層基板40を平面視した場合)に、例えば、ビア導体41aおよび42aが設けられた部分を除き、多層基板40の略全体に亘って設けられている。グランド電極14は、ビア導体41aおよび42aが内部を通過する開口14xを有する。また、グランド導体24は、多層基板40を積層方向に見た場合に、例えば、ビア導体41bおよび42bが設けられた部分を除き、多層基板40の略全体に亘って設けられている。グランド導体24は、ビア導体41bおよび42bが内部を通過する開口24xを有する。
【0039】
第1フィルタ31および第2フィルタ32は、例えば、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタまたはローパスフィルタ等のフィルタであり、特定の周波数帯の信号を減衰する機能を有する。第1フィルタ31と第2フィルタ32とは、一体に形成されず、別体に形成された異なるフィルタである。第1フィルタ31および第2フィルタ32の通過帯域は、少なくとも一部が重複している。例えば、第1フィルタと第2フィルタとは、互いに略同じフィルタ特性を有している。具体的には、第1フィルタ31および第2フィルタ32の通過帯域は、互いに略同じとなっており、第1フィルタ31および第2フィルタ32の減衰帯域は、互いに略同じとなっている。例えば、第1給電点11および第2給電点12には、それぞれ周波数帯域が同じ高周波信号が給電されるため、それぞれの高周波信号に同じフィルタリング処理がなされる。
【0040】
パッチアンテナ10とRFIC20との間に設けられた第1フィルタ31および第2フィルタ32は、パッチアンテナ10で利用される周波数帯域の高周波信号を通過させ、他の周波数帯域の高周波信号(不要波)を減衰させる機能を有する。したがって、当該不要波として高調波がパッチアンテナ10から出力されないように、当該高調波を減衰させることができる。また、当該不要波としてパッチアンテナ10が受信した妨害波が、RFIC20が有するLNAに入力されてLNAが飽和してしまわないように、当該妨害波を減衰させることができる。このように、2つの給電点のそれぞれについて、送受信され得る不要波を同じように減衰させることができる。よって、アンテナモジュール1を、複数の信号経路を通過する信号を同じように信号処理するシステムであるMIMOシステムに適用することができる。第1フィルタ31および第2フィルタ32は、
図1に示すように、例えば、分布定数線路によって実現され、具体的にはスタブによって実現される。
【0041】
[2.多層基板内の第1フィルタおよび第2フィルタの配置]
第1フィルタ31及び第2フィルタ32は、多層基板40内に形成されるが、多層基板40内の第1フィルタ31および第2フィルタ32の配置について
図2を用いて説明する。
【0042】
図2は、実施の形態1に係るアンテナモジュール1の側面透視図である。
図2では、誘電体材料を透明にし、多層基板40の内部を可視化し、多層基板40の外形を破線で示している。なお、
図2において、ビア導体41a、41b、42aおよび42bにはハッチングを付しているが、断面を表すものではない。
【0043】
図1および
図2に示すように、多層基板40の平面視において、パッチアンテナ10と第1フィルタ31とは、少なくとも一部が重複しており、パッチアンテナ10と第2フィルタ32とは、少なくとも一部が重複している。さらに、パッチアンテナ10と第1フィルタ31とRFIC20とは、少なくとも一部が重複しており、パッチアンテナ10と第2フィルタ32とRFIC20とは、少なくとも一部が重複している。当該平面視において、ビア導体41aは、パッチアンテナ10と第1フィルタ31とが重複している領域に形成され、ビア導体41bは、第1フィルタ31とRFIC20とが重複している領域に形成される。また、当該平面視において、ビア導体42aは、パッチアンテナ10と第2フィルタ32とが重複している領域に形成され、ビア導体42bは、第2フィルタ32とRFIC20とが重複している領域に形成される。このように、パッチアンテナ10と第1フィルタ31および第2フィルタ32とは、少なくとも一部が重複しているため、当該重複している領域において、ビア導体41aおよび42aをパッチアンテナ10から第1フィルタ31および第2フィルタ32へ向けて真下へ延ばすことができる。また、第1フィルタ31および第2フィルタ32とRFIC20とは、少なくとも一部が重複しているため、当該重複している領域において、ビア導体41bおよびビア導体42bを、第1フィルタ31および第2フィルタ32からRFIC20へ向けて真下へ延ばすことができる。
【0044】
また、多層基板40の断面視において、第1フィルタ31および第2フィルタ32は、パッチアンテナ10とRFIC20との間に形成される。上述したように、パッチアンテナ10には、放射電極13およびグランド電極14が含まれ、放射電極13とグランド電極14との間に充填された誘電体材料も含めてパッチアンテナ10と呼んでいる。つまり、第1フィルタ31および第2フィルタ32がパッチアンテナ10とRFIC20との間に形成されるとは、放射電極13とグランド電極14との間には第1フィルタ31および第2フィルタ32が形成されないことを意味する。
【0045】
なお、第1フィルタ31および第2フィルタ32は、
図2に示すように、多層基板40における同一の層に形成されているが、多層基板40における異なる層に形成されてもよい。第1フィルタ31および第2フィルタ32が多層基板40における異なる層に形成される場合に、多層基板40の平面視において、第1フィルタ31と第2フィルタ32とは、少なくとも一部が重複するように形成されていてもよい。つまり、当該平面視において、パッチアンテナ10と、第1フィルタ31と、第2フィルタ32と、RFIC20とは、少なくとも一部が重複していてもよい。
【0046】
[3.第1フィルタおよび第2フィルタの実現例]
なお、第1フィルタ31および第2フィルタ32は、
図1および
図2に示すように、分布定数線路によって実現されたが、LCフィルタであってもよい。以下では、LCフィルタである第1フィルタ31について、
図3を用いて説明する。
【0047】
図3は、実施の形態1に係る第1フィルタ31の他の例を示す断面図である。
図3は、多層基板40における第1フィルタ31が形成された部分の断面を模式的に示している。なお、
図3では、簡明のため、厳密には別断面にある構成要素を同一図面内に示して説明している場合がある。
【0048】
図3に示すように、第1フィルタ31は、多層基板40内に形成されたインダクタLおよびキャパシタCによって実現されてもよい。インダクタLは、多層基板40を構成する層毎に形成されたコイル状のパターン導体の端部がビア導体によって接続されることで構成されている。なお、層毎のコイル状のパターン導体を接続するビア導体は、別断面に形成される。また、キャパシタCは、対向する一対のパターン導体によって構成されている。
図3では、第1フィルタ31の一例として、ビア導体41aとビア導体41bとの間にインダクタLが接続され、ビア導体41aとインダクタLとの間のノードとグランド(グランド電極14)との間にキャパシタCが接続された、ローパスフィルタを示している。なお、第2フィルタ32についても、第1フィルタ31と同じように構成することができるため、説明を省略する。
【0049】
[4.効果]
以上説明したように、第1フィルタ31および第2フィルタ32の2つのフィルタが、多層基板40と別体に設けられず、多層基板40内に形成されるため、2つの給電点を有するパッチアンテナ10を備えるアンテナモジュール1について、第1給電点11および第2給電点12のそれぞれに対応する第1フィルタ31および第2フィルタ32を有しつつも、小型化が図られる。また、第2主面側に形成されたRFIC20と第1主面側に形成されたパッチアンテナ10とを結ぶ経路に設けられる第1フィルタ31および第2フィルタ32が多層基板40内に形成されるため、多層基板40の表面において配線を引き延ばす必要がなく当該経路の配線長を短くでき、配線ロスを抑制できる。
【0050】
また、多層基板40の平面視において、パッチアンテナ10と第1フィルタ31とは、少なくとも一部が重複しており、パッチアンテナ10と第2フィルタ32とは、少なくとも一部が重複しているため、アンテナモジュール1の当該平面視におけるサイズをより小型化できる。具体的には、X軸方向およびY軸方向のサイズを小型化できる。また、パッチアンテナ10から第1フィルタ31へと真下に配線(ビア導体41a)を設けることができ、パッチアンテナ10から第2フィルタ32へと真下に配線(ビア導体42a)を設けることができるため、配線ロスをより抑制できる。
【0051】
また、多層基板40の平面視において、さらに、RFIC20の少なくとも一部も、パッチアンテナ10、第1フィルタ31および第2フィルタ32と重複しているため、アンテナモジュール1の当該平面視におけるサイズをより小型化できる。また、パッチアンテナ10から第1フィルタ31へ、第1フィルタ31からRFIC20へと真下に配線(ビア導体41aおよび41b)を設けることができ、パッチアンテナ10から第2フィルタ32へ、第2フィルタ32からRFIC20へと真下に配線(ビア導体42aおよび42b)を設けることができるため、配線ロスをより抑制できる。
【0052】
また、パッチアンテナ10を構成する放射電極13とグランド電極14との間に他の導体等が設けられた場合には、アンテナ特性が劣化し得るが、放射電極13とグランド電極14との間に第1フィルタ31および第2フィルタ32が設けられないため、アンテナ特性の劣化を抑制できる。
【0053】
(実施の形態2)
実施の形態2に係るアンテナモジュール2は、多層基板40にグランドビア導体43が形成されている点が実施の形態1に係るアンテナモジュール1と異なる。その他の点は、実施の形態1におけるアンテナモジュール1と同じであるため説明を省略する。
【0054】
図4は、実施の形態2に係るアンテナモジュール2の外観透視図である。
図5は、実施の形態2に係るアンテナモジュール2の側面透視図である。
図4及び
図5では、誘電体材料を透明にし、多層基板40の内部を可視化し、多層基板40の外形を破線で示している。なお、
図5において、ビア導体41a、41b、42aおよび42b、並びに、グランドビア導体43にはハッチングを付しているが、断面を表すものではない。
【0055】
図4および
図5に示すように、グランドビア導体43は、グランド電極14とグランド導体24とを接続するように形成されている。また、グランドビア導体43は、第1フィルタ31および第2フィルタ32を囲み、第1フィルタ31および第2フィルタ32に沿って形成されている。このように、第1フィルタ31および第2フィルタ32は、グランド導体24、グランド電極14およびグランドビア導体43によって周囲が囲まれるため、高周波信号を低損失で伝搬することが可能となる。
【0056】
(実施の形態3)
実施の形態3に係るアンテナモジュール3は、多層基板40にグランド導体としてグランドビア導体44が形成されている点が実施の形態2に係るアンテナモジュール2と異なる。その他の点は、実施の形態2におけるアンテナモジュール2と同じであるため説明を省略する。
【0057】
図6は、実施の形態3に係るアンテナモジュール3の外観透視図である。
図7は、実施の形態3に係るアンテナモジュール3の上面透視図である。
図6及び
図7では、誘電体材料を透明にし、多層基板40の内部を可視化し、多層基板40の外形を破線で示している。
【0058】
図6及び
図7に示すように、グランドビア導体44は、第1フィルタ31と第2フィルタ32との間に形成される。具体的には、グランドビア導体44は、多層基板40の平面視において、第1フィルタ31と第2フィルタ32との間に形成される。例えば、グランドビア導体44は、
図7に示す一点鎖線で囲まれた4つのグランドビア導体である。第1フィルタ31および第2フィルタ32は、1つのパッチアンテナにおける第1給電点11および第2給電点12に接続されるため、互いに接近して形成され得る。つまり、第1フィルタ31と第2フィルタ32との間で不要な電磁界結合が発生して、第1フィルタ31に接続された第1給電点11と第2フィルタ32に接続された第2給電点12との間のアイソレーション特性が劣化し得る。これに対して、第1フィルタ31と第2フィルタ32との間にグランドビア導体44が形成されることで、グランドビア導体44が障壁となり当該不要な電磁界結合の発生を抑制できる。これにより、第1給電点11と第2給電点12との間のアイソレーション特性を改善できる。
【0059】
なお、第1フィルタ31と第2フィルタ32との間に形成されるグランド導体は、ビア状のグランドビア導体44に限らず、壁状のグランド導体であってもよい。また、多層基板40の平面視において、第1フィルタ31と第2フィルタ32との少なくとも一部が重複している場合、多層基板40の断面視において、第1フィルタ31と第2フィルタ32との間に多層基板40の主面と平行なグランド導体が形成されていてもよい。
【0060】
(実施の形態4)
実施の形態4に係るアンテナモジュール4は、実施の形態1~3で説明したパッチアンテナ10、第1フィルタ31および第2フィルタ32の組を複数備え、複数のパッチアンテナが多層基板にマトリクス状に配置される点が、実施の形態1に係るアンテナモジュール1と異なる。
【0061】
図8は、実施の形態4に係るアンテナモジュール4の外観透視図である。
図8では、誘電体材料を透明にし、多層基板400の内部を可視化し、多層基板400の外形を破線で示している。実施の形態4におけるパッチアンテナ101~104、第1フィルタ311、313、315および317、第2フィルタ312、314、316および318、多層基板400、並びに、RFIC200は、実施の形態1~3におけるパッチアンテナ10、第1フィルタ31、第2フィルタ32、多層基板40およびRFIC20に対応している。なお、
図8は、多層基板400の一部分を示しており、実際には、アンテナモジュール4は、4つのパッチアンテナ101~104以外にも多くのパッチアンテナを備え、Massive MIMOシステムに適用可能となっている。
【0062】
多層基板400において、放射電極131とグランド電極140とでパッチアンテナ101が構成され、放射電極132とグランド電極140とでパッチアンテナ102が構成され、放射電極133とグランド電極140とでパッチアンテナ103が構成され、放射電極134とグランド電極140とでパッチアンテナ104が構成されている。なお、多層基板400には、1つのグランド電極140が形成されているが、各放射電極に対応してグランド電極が個別に形成されていてもよい。
【0063】
複数のパッチアンテナ101~104は、周期的にマトリクス状に配列され、アレイアンテナを構成している。当該アレイアンテナは、X軸方向及びY軸方向に沿って2次元状に直交配置(すなわち行列状に配置)された2行2列の4個のパッチアンテナ101~104からなる。なお、アレイアンテナを構成するパッチアンテナの個数は、2個以上であればよい。また、複数のパッチアンテナの配置態様も上記に限らない。例えば、アレイアンテナは、1次元状に配置されたパッチアンテナによって構成されてもかまわないし、千鳥状に配置されたパッチアンテナによって構成されてもかまわない。
【0064】
また、
図8に示すように、多層基板400の平面視において、放射電極131~134の中心または当該中心を通過する線に対して略対称な2つの領域のうちの一方の領域401、403、405および407に第1フィルタ311、313、315および317が形成され、他方の領域402、404、406および408に第2フィルタ312、314、316および318が形成される。なお、
図8において、領域401~408を示す一点鎖線は、仮想線であり、多層基板400において実際にこのような線が設けられているわけではない。当該2つの領域の形状は、例えば、領域401および402のように略三角形であってもよいし、領域403および404のように略四角形であってもよいし、領域405および406、ならびに、領域407および408のように対向する辺が階段状になっていてもよい。なお、2つの略対称な領域の形状は、これらに限定されず、その他の形状であってもよい。また、対称とは、領域401および402のように放射電極131の中心を中心点とした点対称であってもよいし、領域403および404のように放射電極132の中心を通過する線を中心線とした線対称であってもよい。
【0065】
多層基板400には、第1フィルタおよび第2フィルタの他にもIF(中間周波数)信号のためのフィルタ等も設けられる。このため、1つのパッチアンテナに対して2つのフィルタが設けられると、多層基板400内において部品(回路)および配線が密集してしまい、多層基板400の設計が難しくなる。これに対して、第1フィルタおよび第2フィルタが略対称な2つの領域のうちの一方と他方とに形成されることで、多層基板400内において部品(回路)および配線が当該一方の領域と当該他方の領域とに分散させることができ密集しないため、多層基板400の設計が容易になる。
【0066】
また、各放射電極における第1給電点および第2給電点の位置は、
図8に示す位置に限らない。
図8では、第1給電点および第2給電点の符号の図示を省略しており、各放射電極におけるY軸マイナス側に位置する給電点が第1給電点であり、X軸マイナス側に位置する給電点が第2給電点である。例えば、実施の形態1~3では、第1給電点11の位置は、第2給電点12よりもY軸マイナス側に位置していたが、放射電極132における第1給電点の位置が放射電極132における第2給電点よりもY軸プラス側に位置し、放射電極131における第1給電点および第2給電点の位置と、放射電極132における第1給電点および第2給電点の位置とが線対称となっていてもよい。同じように、放射電極134における第1給電点の位置が放射電極134における第2給電点よりもY軸プラス側に位置し、放射電極133における第1給電点および第2給電点の位置と、放射電極134における第1給電点および第2給電点の位置とが線対称となっていてもよい。さらに、実施の形態1~3では、第2給電点12の位置は、第1給電点11よりもX軸マイナス側に位置していたが、例えば、放射電極133における第2給電点の位置が放射電極133における第1給電点よりもX軸プラス側に位置し、放射電極131における第1給電点および第2給電点の位置と、放射電極133における第1給電点および第2給電点の位置とが線対称となっていてもよい。同じように、さらに、放射電極134における第2給電点の位置が放射電極134における第1給電点よりもX軸プラス側に位置し、上記放射電極132における第1給電点および第2給電点の位置と、放射電極134における第1給電点および第2給電点の位置とが線対称となっていてもよい。
【0067】
このように、隣り合うパッチアンテナにおける給電点の位置関係を線対称にすることで、多層基板400の厚み方向の不要偏波によるXPD(Cross Polarization Discrimination:交差偏波識別度)の劣化を抑制できる。
【0068】
(実施の形態5)
以上説明したアンテナモジュールは、通信装置に適用できる。以下、実施の形態4に係るアンテナモジュール4を適用した通信装置60について説明する。
【0069】
図9は、実施の形態5に係る通信装置60の一例を示す構成図である。なお、
図9では、簡明のため、アンテナモジュール4が備える複数のパッチアンテナのうち、4つのパッチアンテナ101~104に対応する構成のみ示され、同様に構成される他のパッチアンテナに対応する構成については省略されている。また、
図9では、4つのパッチアンテナに対して2つのストリームが対応している4アンテナ/2ストリームの構成を示している。
【0070】
通信装置60は、アンテナモジュール4と、ベースバンド信号処理回路を構成するBBIC(ベースバンドIC)50と、を備える。アンテナモジュール4が備えるRFIC200は、BBIC50から入力された信号をアップコンバートしてパッチアンテナに出力する送信系の信号処理、及び、パッチアンテナから入力された高周波信号をダウンコンバートしてBBIC50に出力する受信系の信号処理、の少なくとも一方を行う。本実施の形態では、RFIC200は、送信系の信号処理および受信系の信号処理の両方を行う。
【0071】
RFIC200は、スイッチ21A~21H、23A~23H、27Aおよび27Bと、パワーアンプ22AT~22HTと、ローノイズアンプ22AR~22HRと、減衰器24A~24Hと、移相器25A~25Hと、信号合成/分波器26Aおよび26Bと、ミキサ28Aおよび28Bと、増幅回路29Aおよび29Bとを備える。
【0072】
各ストリームについて、BBIC50から伝達された信号は、増幅回路29Aおよび29Bで増幅され、ミキサ28Aおよび28Bでアップコンバートされる。アップコンバートされた高周波信号である送信信号は、信号合成/分波器26Aおよび26Bによって8分波され、8つの信号経路を通過して、パッチアンテナ101~104に給電される。このとき、各信号経路に配置された移相器25A~25Hの移相度が個別に調整されることにより、パッチアンテナ101~104からなるアレイアンテナの指向性を調整することが可能となる。
【0073】
また、パッチアンテナ101~104で受信された高周波信号である受信信号は、それぞれ、異なる8つの信号経路を経由し、信号合成/分波器26Aおよび26Bで合波され、ミキサ28Aおよび28Bでダウンコンバートされ、増幅回路29Aおよび29Bで増幅されてBBIC50へ伝達される。
【0074】
RFIC200は、例えば、上記回路構成を含む1チップの集積回路部品として形成される。
【0075】
スイッチ21A~21H、23A~23H、27Aおよび27Bは、BBIC50等の制御部から入力される制御信号にしたがって送信側の信号経路と受信側の信号経路とを切り替える。このように構成された
図9に示す通信装置60は、送信信号及び受信信号を互いに異なるタイミングで送信または受信するTDD方式に対応する。
【0076】
なお、アンテナモジュール4及び通信装置60が対応する通信方式はこれに限らない。例えば、アンテナモジュール4及び通信装置60は、PDD方式あるいはFDD方式等の送信及び受信を同時に行う方式に対応してもかまわない。つまり、複数のパッチアンテナは、送信信号及び受信信号を同時に送信及び受信してもかまわない。特に、アンテナモジュール4は、送信時及び受信時のいずれにおいても2種類の偏波に対応することができるため、デュアル偏波対応の全二重通信に用いられる通信品質の高いアンテナモジュールとして有用である。
【0077】
なお、上述した、スイッチ21A~21H、23A~23H、27Aおよび27B、パワーアンプ22AT~22HT、ローノイズアンプ22AR~22HR、減衰器24A~24H、移相器25A~25H、信号合成/分波器26Aおよび26B、ミキサ28Aおよび28B、並びに、増幅回路29Aおよび29Bのいずれかは、RFIC200が備えていなくてもよい。また、RFIC200は、送信経路および受信経路のいずれかのみを有していてもよい。また、通信装置60は、単一の周波数帯域(バンド)の高周波信号を送受信するだけでなく、複数の周波数帯域(マルチバンド)の高周波信号を送受信するシステムにも適用可能である。
【0078】
上記構成を有する通信装置60において、アンテナモジュール1~4のいずれかが適用されることにより、小型化が図られる。
【0079】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態に係るアンテナモジュールについて、上記実施の形態を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、上記実施の形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0080】
例えば、上記実施の形態では、パッチアンテナ10は、1つの偏波を形成するために、1つの給電点を有していたが、これに限らない。例えば、パッチアンテナ10は、1つの偏波を形成するために、2つの給電点を有していてもよい。これについて、
図10を用いて説明する。
【0081】
図10は、その他の実施の形態に係るアンテナモジュール1aの外観透視図である。
【0082】
その他の実施の形態に係るアンテナモジュール1aは、パッチアンテナ10が、X軸方向の偏波を形成するための2つの給電点を有し、また、Y軸方向の偏波を形成するための2つの給電点を有する点が実施の形態1に係るアンテナモジュール1と異なる。その他の点は、実施の形態1におけるアンテナモジュール1と同じであるため説明を省略する。
【0083】
パッチアンテナ10は、RFIC20との間で高周波信号が伝達される第1給電点11、第2給電点12、第3給電点11a及び第4給電点12aを有する。これらの給電点は、放射電極13における異なる位置に設けられる。第1給電点11及び第3給電点11aは互いに接続されており、これらによってY軸方向の偏波が形成され、第2給電点12及び第4給電点12aは互いに接続されており、これらによってX軸方向の偏波が形成される。なお、
図10では、第1給電点11及び第3給電点11a間の接続、及び、第2給電点12及び第4給電点12a間の接続の図示を省略している。
【0084】
例えば、多層基板40の内層において第1給電点11及び第3給電点11aを接続する第1パターン導体が設けられる。例えば、第1給電点11に接続されたビア導体41a及び第3給電点11aに接続されたビア導体43aが第1パターン導体によって接続されることで、第1給電点11及び第3給電点11aは接続される。第1パターン導体は、第1フィルタ31からビア導体41aに至る経路から分岐してビア導体43aへ至る経路である。第1パターン導体は、例えば、多層基板40において後述する第2パターン導体と異なる層に設けられる。第1パターン導体のパターン長が調整されることで、第3給電点11aでは第1給電点11と180度の位相差を付けて給電される。
【0085】
また、例えば、多層基板40の内層において第2給電点12及び第4給電点12aを接続する第2パターン導体が設けられる。例えば、第2給電点12に接続されたビア導体42a及び第4給電点12aに接続されたビア導体44aが第2パターン導体によって接続されることで、第2給電点12及び第4給電点12aは接続される。第2パターン導体は、第2フィルタ32からビア導体42aに至る経路から分岐してビア導体44aへ至る経路である。第2パターン導体のパターン長が調整されることで、第4給電点12aでは第2給電点12と180度の位相差を付けて給電される。
【0086】
このように、180度の位相差を付けて給電される第1給電点11及び第3給電点11aによってY軸方向の偏波が形成され、180度の位相差を付けて給電される第2給電点12及び第4給電点12aによってX軸方向の偏波が形成される。つまり、偏波ごとに180度の位相差を付けて給電されるため、多層基板40の厚み方向の不要偏波によるXPDの劣化を抑制できる。
【0087】
また、第3給電点11aは、第1フィルタ31に接続された第1給電点11に接続され、第4給電点12aは、第2フィルタ32に接続された第2給電点12に接続される。つまり、第3給電点11a及び第4給電点12aに対してフィルタを新たに設けなくてもよく、偏波ごとに1つのフィルタを設ければよいため、複数の給電点によって1つの偏波が形成される場合であっても、アンテナモジュール1aの小型化が可能となっている。
【0088】
なお、アンテナモジュール2~4についても、アンテナモジュール1aのように、パッチアンテナが偏波ごとに2つの給電点を有していてもよい。
【0089】
また、例えば、第1フィルタ31と第2フィルタ32との間にグランド導体が形成されることで、第1給電点11と第2給電点12との間のアイソレーション特性の改善が行われたが、第1フィルタ31と第2フィルタ32とを部分的により接近するように形成することで、積極的に電磁界結合させてもよい。例えば、
図6および
図7に示す複数のグランドビア導体44のうちの一部を形成しないようにして、グランドビア導体44を形成しなかった領域において、第1フィルタ31と第2フィルタ32とが接近するように第1フィルタ31および第2フィルタ32を形成する。このとき、第1フィルタ31と第2フィルタ32との結合パスに第1給電点11と第2給電点12との間で漏れる不要信号と逆位相の信号が流れるように、第1フィルタ31と第2フィルタ32とを電磁界結合させる。これにより、当該不要信号を相殺することができる。
【0090】
また、例えば、多層基板40の断面視において、第1フィルタ31および第2フィルタ32は、パッチアンテナ10とRFIC20の間に形成されたが、パッチアンテナ10を構成する放射電極13とグランド電極14との間に形成されてもよい。
【0091】
また、例えば、多層基板40の平面視において、パッチアンテナ10と第1フィルタ31とRFIC20とは、少なくとも一部が重複しており、パッチアンテナ10と第2フィルタ32とRFIC20とは、少なくとも一部が重複していたが、重複していなくてもよい。
【0092】
また、例えば、上記実施の形態に係るアンテナモジュールは、Massive MIMOシステムに適用できる。5G(第5世代移動通信システム)で有望な無線伝送技術の1つは、ファントムセルとMassive MIMOシステムとの組み合わせである。ファントムセルは、低い周波数帯域のマクロセルと高い周波数帯域のスモールセルとの間で通信の安定性を確保するための制御信号と、高速データ通信の対象であるデータ信号とを分離するネットワーク構成である。各ファントムセルにMassive MIMOのアンテナ装置が設けられる。Massive MIMOシステムは、ミリ波帯等において伝送品質を向上させるための技術であり、各パッチアンテナから送信される信号を制御することで、アンテナの指向性を制御する。また、Massive MIMOシステムは、多数のパッチアンテナを用いるため、鋭い指向性のビームを生成することができる。ビームの指向性を高めることで高い周波数帯でも電波をある程度遠くまで飛ばすことができるとともに、セル間の干渉を減らして周波数利用効率を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、小型化を図ることができるアンテナモジュールとして、Massive MIMOシステムなどの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1、1a、2、3、4 アンテナモジュール
10、101~104 パッチアンテナ
11 第1給電点
12 第2給電点
11a 第3給電点
12a 第4給電点
13、131~134 放射電極
14、140 グランド電極
14x、24x 開口
20、200 高周波回路素子(RFIC)
21A~21H、23A~23H、27A、27B スイッチ
22AR~22HR ローノイズアンプ
22AT~22HT パワーアンプ
24A~24H 減衰器
25A~25H 移相器
26A、26B 信号合成/分波器
28A、28B ミキサ
29A、29B 増幅回路
21、22、211~218 給電端子
24、240 グランド導体
31、311、313、315、317 第1フィルタ
32、312、314、316、318 第2フィルタ
40、400 多層基板
41a、41b、42a、42b、43a、44a ビア導体
43、44 グランドビア導体
50 ベースバンドIC(BBIC)
60 通信装置
401~408 領域
C キャパシタ
L インダクタ