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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】耐熱部材
(51)【国際特許分類】
   C30B 23/06 20060101AFI20221213BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20221213BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C30B23/06
C04B41/87 U
C04B35/52
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021038865
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022138783
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 大輔
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-011866(JP,A)
【文献】特開平10-236892(JP,A)
【文献】特開平06-017236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 23/00-23/08
C30B 25/12
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
C04B 35/52-35/536
C04B 41/87
C04B 41/89
B32B 9/00-9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた耐熱部材。
(1)前記耐熱部材は、
等方性黒鉛からなる基材と、
前記基材の表面の一部を被覆する単層の緻密・低放射率層と、
前記基材の表面の残りの全部又は一部を被覆する単層又は多層の緻密・高放射率層と
を備えている。
(2)前記緻密・低放射率層は、最表面の放射率がεAであり、相対密度が97%以上である層からなる。
(3)前記緻密・高放射率層は、最表面の放射率がεB(>εA)であり、前記最表面から前記基材との界面までの間のいずれかの部位に相対密度が97%以上である高密度領域を含む層からなる。
【請求項2】
化合物半導体単結晶を成長させる際に用いられる請求項1に記載の耐熱部材。
【請求項3】
εB-εA≧0.1である請求項1又は2に記載の耐熱部材。
【請求項4】
前記緻密・高放射率層は、
前記基材側に形成された相対密度が97%以上である第1層と、
前記最表面側に形成された放射率がεBである第2層と
を備えている請求項1から3までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項5】
前記緻密・低放射率層は、TaC、WC、又は、TaCとWCの混合物からなる請求項1から4までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項6】
前記緻密・高放射率層は、TaC、WC、又は、TaCとWCの混合物からなる請求項1から5までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項7】
前記耐熱部材は、昇華法を用いて化合物半導体単結晶を製造する際に用いられる昇華用原料を保持するための坩堝であり、
前記坩堝は、
前記等方性黒鉛からなる坩堝本体と、
前記坩堝本体の外壁面の全部又は一部に形成された前記緻密・低放射率層と、
前記坩堝本体の内壁面の全部又は一部に形成された前記緻密・高放射率層と
を備えている請求項1から6までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項8】
前記耐熱部材は、化合物半導体単結晶の成長用の種結晶を保持するための台座であり、
前記台座は、
前記等方性黒鉛からなる台座本体と、
前記台座本体の昇華用原料側の面の内、前記種結晶の接合面以外の面の全部又は一部に形成された前記緻密・低放射率層と、
前記台座本体の前記昇華用原料側の面とは反対側の面の全部又は一部に形成された前記緻密・高放射率層と
を備えている請求項1から6までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項9】
前記耐熱部材は、昇華法を用いて化合物半導体単結晶を製造する際に用いられる昇華用原料を保持するための坩堝と、前記化合物半導体単結晶の成長用の種結晶を保持するための台座との間に配置された遮熱板であり、
前記遮熱板は、
前記等方性黒鉛からなる遮熱板本体と、
前記遮熱板本体の前記台座側の面の全部又は一部に形成された前記緻密・低放射率層と、
前記遮熱板本体の前記台座側の面とは反対側の面の全部又は一部に形成された前記緻密・高放射率層と
を備えている請求項1から6までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱部材に関し、さらに詳しくは、高温の腐食性ガスに対する高い耐食性を備え、かつ、部位によって放射率が異なる耐熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCやIII族窒化物半導体のバルク単結晶成長やエピタキシャル成膜などの半導体プロセスは、プロセス条件が過酷である。これらのプロセスに用いられるルツボやサセプタなどの部材(以下、これらを総称して「耐熱部材」ともいう)は、プロセス中に、高温、かつ、腐食性の強い雰囲気に曝される。従来、このような耐熱部材にはSiCコート黒鉛材やpBNコート黒鉛材が用いられていた。しかし、これらの材料は、現状の半導体プロセス環境下における寿命が短いという問題がある。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、等方性黒鉛からなる黒鉛基材と、黒鉛基材の表面を被覆する無配向粒状組織からなるTaC被膜とを備えた高温耐熱部材が開示されている。
同文献には、
(A)TaC被膜は、無配向粒状組織を呈しているためにクラックが伝搬しにくい点、
(B)その結果として、高温耐熱部材を高温雰囲気下で長時間使用した場合であっても黒鉛基材が保護される点、及び、
(C)このような高温耐熱部材は、III族窒化物のMOCVDエピタキシャル成長のためのサセプタ部材などに用いることができる点
が記載されている。
【0004】
特許文献2には、角部に面取りが施された黒鉛基材と、黒鉛基材の表面を被覆するTaC被膜とを備えた高温耐熱部材が開示されている。
同文献には、
(A)黒鉛基材の表面に角部があると、成膜時又は使用中にTaC被膜の局所的な割れ、浮き、剥離等が生じやすい点、及び、
(B)黒鉛基材の角部に面取りを施すと、成膜時又は使用中におけるTaC被膜の割れ、浮き、剥離等を抑制することができる点
が記載されている。
【0005】
特許文献3には、
(a)黒鉛基材の表面にTaC粒子を含むスラリーを塗布して塗膜を形成し、
(b)塗膜を乾燥させて成形膜とし、
(c)成形膜の表面を研磨して成形膜の表面粗さ又は表面うねりを小さくし、
(d)成形膜を加熱してTaC粒子を焼結させ、焼結膜を得る
耐熱黒鉛部材の製造方法が開示されている。
同文献には、
(A)焼結膜に対して研磨、研削等の加工を行うと、焼結膜に微小クラックが発生するおそれがある点、及び、
(B)焼結膜に代えて、成形膜に対して研磨を行うと、研磨が容易となる点
が記載されている。
【0006】
特許文献4には、黒鉛基材の表面にTaC膜が形成されており、黒鉛基材の熱膨張係数(CTE)が5.8~6.4×10-6/Kであり、嵩密度が1.83~2.0g/cm3である耐熱黒鉛部材が開示されている。
同文献には、黒鉛基材の表面にTaC被膜を形成する場合において、黒鉛基材のCTE及び嵩密度を最適化すると、耐久性及び耐熱性が向上する点が記載されている。
【0007】
特許文献5には、等方性黒鉛からなる基材の表面がTaC被膜で被覆され、TaC被膜の鉄含有量が20~1000mass ppmである高耐熱部材が開示されている。
同文献には、TaCの鉄量を最適化すると、TaC膜中のクラックの発生が抑制され、TaC被膜の耐熱性が向上する点が記載されている。
【0008】
特許文献6には、炭素系材料からなる基材と、前記基材の表面に形成された、TaC又はSiCからなる保護層と、前記保護層の表面に形成された、W、Mo、Ru、及び/又は、Irからなる寄生反応防止層とを備えた結晶成長部材が開示されている。
同文献には、基材の表面に保護層及び寄生反応防止層を形成すると、保護機能と寄生反応抑制機能とを兼ね備えた結晶成長部材が得られる点が記載されている。
【0009】
特許文献7には、グラファイトの表面に、グラファイトよりも輻射率が小さいコーティング層が形成された補助加熱部材が開示されている。
同文献には、
(A)坩堝の外周側から誘導加熱により坩堝の周壁部を加熱するだけでは、坩堝の中央軸に近い領域の温度が低くなり、坩堝の中央軸に近い領域に位置する原料粉末の昇華が十分に進行せず、単結晶の成長速度が小さくなる点、及び
(B)坩堝の底壁部に対向するように補助加熱部材を配置すると、補助加熱部材からの輻射熱により坩堝の低壁部が加熱され、坩堝の中央軸に近い領域の温度が上昇するために、坩堝の中央軸に近い領域に位置する原料粉末の昇華が十分に進行する点
が記載されている。
【0010】
非特許文献1には、湿式セラミックス法で作製されたTaCコートグラファイト坩堝が開示されている。
同文献には、
(A)昇華法によりSiC単結晶を成長させる場合において、グラファイト坩堝に代えてTaCコートグラファイト坩堝を用いると、成長速度を長時間に渡って増加させることができる点、及び、
(B)これによって結晶サイズを約1.2倍に増大させることができる点
が記載されている。
【0011】
さらに、非特許文献2には、粉末成形及び焼結法を用いて作製されたTaCコートグラファイト部材が開示されている。
同文献には、
(A)TaCとの熱膨張係数差Δαが約2×10-6であるグラファイトの表面にTaC層を形成すると、TaC層にクラックが形成される点、及び、
(B)TaCとの熱膨張係数差Δαが約0.02×10-6であるグラファイトの表面にTaC層を形成すると、部材の反りが最も小さくなる点
が記載されている。
【0012】
特許文献1~7及び非特許文献1~2に記載されているように、黒鉛の表面をTaCで被覆すると、化学的安定性が向上し、部材の長寿命化が期待できる。しかしながら、TaCは、黒鉛に比べて放射率が小さいため、黒鉛部材をTaCコート黒鉛部材で置き換えることが困難な場合がある。さらに、耐熱部材は、部位によって最適な放射率が異なる場合がある。しかしながら、実際の使用環境に耐えうる高い耐久性を有し、かつ、部位によって放射率が異なる耐熱部材が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2013-075814号公報
【文献】特開2013-193943号公報
【文献】特開2015-044719号公報
【文献】特開2017-075075号公報
【文献】特開2018-145022号公報
【文献】特開2020-063175号公報
【文献】特開2016-037441号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】D. Nakamura: Appl. Phys. Express 9 (2016) 055507
【文献】D. Nakamura and K. Shigetoh: Jpn. J. Appl. Phys. 56 (2017) 085504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、高温の腐食性ガスに対する高い耐食性を備え、かつ、部位によって放射率が異なる新規な耐熱部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係る耐熱部材は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記耐熱部材は、
等方性黒鉛からなる基材と、
前記基材の表面の一部を被覆する単層の緻密・低放射率層と、
前記基材の表面の残りの全部又は一部を被覆する単層又は多層の緻密・高放射率層と
を備えている。
(2)前記緻密・低放射率層は、最表面の放射率がεAであり、相対密度が97%以上である層からなる。
(3)前記緻密・高放射率層は、最表面の放射率がεB(>εA)であり、前記最表面から前記基材との界面までの間のいずれかの部位に相対密度が97%以上である高密度領域を含む層からなる。
【発明の効果】
【0017】
基材の表面を緻密層(緻密・低放射率層と緻密・高放射率層)でコーティングすると、高温の腐食性ガスに対する耐食性が向上する。さらに、基材の表面を放射率の異なる層で選択的にコーティングすると、耐熱部材内での熱の流れを制御することができる。そのため、本発明に係る耐熱部材を、化合物半導体単結晶を成長させる際に使用される各種部材に適用すると、単結晶成長環境の温度分布を従来より適切に制御することができる。
【0018】
例えば、本発明に係る耐熱部材を、昇華法を用いて化合物半導体単結晶を成長させる際に使用される昇華用原料を保持するための坩堝に用いた場合、昇華用原料の昇華効率が向上する。また、本発明に係る耐熱部材を、種結晶を保持するための台座に用いた場合、種結晶の冷却効率が向上する。さらに、本発明に係る耐熱部材を、昇華用原料と台座の間に配置される遮熱板に用いた場合、成長結晶内部の熱応力が低減され、高品質化を実現でき、高速成長、及び結晶の大型化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る化合物半導体単結晶成長装置の模式図である。
図2】本発明に係る坩堝の断面模式図である。
図3】本発明に係る台座の断面模式図である。
図4】本発明に係る遮熱板の断面模式図である。
図5】比較例1の化合物半導体単結晶成長装置の模式図である。
図6】比較例2の化合物半導体単結晶成長装置の模式図である。
図7】遮熱板の温度計算のための1次元配置図である。
図8】遮熱板温度の放射率差依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 耐熱部材]
本発明に係る耐熱部材は、以下の構成を備えている。
(1)前記耐熱部材は、
等方性黒鉛からなる基材と、
前記基材の表面の一部を被覆する単層の緻密・低放射率層と、
前記基材の表面の残りの全部又は一部を被覆する単層又は多層の緻密・高放射率層と
を備えている。
(2)前記緻密・低放射率層は、最表面の放射率がεAであり、相対密度が97%以上である層からなる。
(3)前記緻密・高放射率層は、最表面の放射率がεB(>εA)であり、前記最表面から前記基材との界面までの間のいずれかの部位に相対密度が97%以上である高密度領域を含む層からなる。
【0021】
[1.1. 基材]
[1.1.1. 材料]
基材は、等方性黒鉛からなる。「等方性黒鉛」とは、冷間静水圧成型(Cold Isostatic Press(CIP)法)により作製された多結晶黒鉛材料をいう。黒鉛は、六方晶系に属するため、特性に異方性がある。一方、等方性黒鉛は、各結晶粒の結晶方位が無配向であるため、切り出し方向の違いによる特性差が無いという特徴がある。
本発明において、基材の形状、大きさ等は特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。基材の形状の具体例については、後述する。
【0022】
[1.1.2. 平均熱膨張係数]
「平均熱膨張係数」とは、室温から500℃までの温度範囲における熱膨張係数の平均値をいう。
基材の平均熱膨張係数は、基材の表面に形成される緻密・低放射率層及び緻密・高放射率層の耐久性に影響を与える。一般に、基材とこれらの被膜との間の熱膨張係数差が大きくなるほど、基材の反り、被膜の剥離などが生じやすくなる。
等方性黒鉛の平均熱膨張係数は、その製法や組成に応じて、通常、3.8~7.0×10-6/K程度の値を持つ。そのため、種々の等方性黒鉛の中から、適切な平均熱膨張係数を持つものを基材の材料として選択するのが好ましい。
【0023】
[1.2. 緻密・低放射率層]
[1.2.1. 放射率εA
本発明において、「緻密・低放射率層」とは、最表面の放射率がεAであり、相対密度が97%以上である層をいう。
緻密・低放射率層は、
(a)耐熱部材から外部への熱の輻射を抑制し、緻密・低放射率層の近傍にある部材の温度上昇を抑制するための層、又は、
(b)外部から来る熱の反射を促進し、耐熱部材の温度上昇を抑制するための層
である。
緻密・低放射率層の放射率εAの値は、少なくとも緻密・高放射率層の放射率εBより小さい値である限りにおいて、特に限定されない。
放射率は、主として、材料の組成と相対密度に依存する。そのため、εB>εAとなるように、緻密・低放射率層の材料の組成及び/又は相対密度を選択するのが好ましい。
【0024】
εBとεAの差(=εB-εA)が小さくなるほど、緻密・低放射率層からの熱の輻射量(又は反射量)が緻密・高放射率層からの熱の輻射量(又は、反射量)に近くなる。その結果、耐熱部材の表面に放射率の異なる層を形成することにより得られる効果が小さくなる。従って、εB-εAは、0.1以上が好ましい。εB-εAは、好ましくは、0.2以上、さらに好ましくは、0.3以上である。
【0025】
[1.2.2. 相対密度]
本発明において、「相対密度」とは、真密度に対する見かけ密度の割合をいう。
緻密・低放射率層は、熱の輻射又は反射を制御するための層であると同時に、基材を腐食性の雰囲気から保護するための層でもある。そのためには、緻密・低放射率層の相対密度は、高いほど良い。長期間に渡って基材の腐食を抑制するためには、緻密・低放射率層の相対密度は、97%以上である必要がある。緻密・低放射率層の相対密度は、好ましくは、98%以上、さらに好ましくは、99%以上である。
【0026】
[1.2.3. 層数]
緻密・低放射率層は、放射率εA及び相対密度が上述した条件を満たす限りにおいて、単層からなるものでも良く、あるいは、多層からなるものでも良い。しかしながら、緻密・低放射率層を多層にしても、実益がなく、むしろ高コスト化を招く。従って、緻密・低放射率層は、単層が好ましい。
【0027】
ここで、「単層」とは、組成及び相対密度がほぼ均一であると見なせる層をいう。
換言すれば、「単層」とは、製造方法及び製造条件が同一である単一の製造プロセスにより製造された層をいう。単一の製造プロセスにより製造された層内には、製造プロセスに由来する組成や相対密度の揺らぎが生じる場合がある。あるいは、基材と緻密・低放射率層の界面に、反応層が形成される場合もある。本発明においては、このような場合であっても、「単層」とみなす。
「多層」とは、組成及び/又は相対密度が異なる複数の層の積層体をいう。
【0028】
[1.2.4. 材料]
緻密・低放射率層の材料は、上述の条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。緻密・低放射率層の材料としては、例えば、TaC、WC、TaCとWCの混合物、ZrC、Mo2C、HfCなどがある。
【0029】
[1.2.5. 形成位置、面積割合、厚さ]
緻密・低放射率層の形成位置は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な位置を選択することができる。緻密・低放射率層は、熱の輻射を抑制したい箇所及び/又は熱の反射を促進させたい箇所に形成するのが好ましい。
緻密・低放射率層は、基材の表面の一部を被覆している。基材の総表面積に占める緻密・低放射率層の面積の割合は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な面積割合を選択することができる。
さらに、緻密・低放射率層の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。緻密・低放射率層の厚さは、通常、20μm~100μmである。
【0030】
[1.3. 緻密・高放射率層]
[1.3.1. 放射率εB
本発明において、「緻密・高放射率層」とは、最表面の放射率がεB(>εA)であり、前記最表面から前記基材との界面までの間のいずれかの部位に相対密度が97%以上である高密度領域を含む層をいう。
緻密・高放射率層は、
(a)耐熱部材から外部への熱の輻射を促進し、緻密・高放射率層の近傍にある部材の温度上昇を促進するための層、あるいは、
(b)外部から来る熱の吸収を促進し、耐熱部材の温度上昇を促すための層
である。
緻密・高放射率層からの熱の輻射量は、最表面に位置する材料の放射率で決まる。緻密・高放射率層は、少なくとも最表面の放射率がεB(>εA)であれば良い。
放射率εBに関するその他の点は、放射率εAと同様であるので、説明を省略する。
【0031】
[1.3.2. 相対密度]
緻密・高放射率層は、緻密・低放射率層と同様に、熱の輻射又は反射を制御するための層であると同時に、基材を腐食性の雰囲気から保護するための層でもある。そのためには、緻密・高放射率層の相対密度は、高いほど良い。
但し、緻密・高放射率層が多層である場合、すべての層が高密度である必要は無く、少なくとも1つの層が高密度層であれば、基材を腐食性の雰囲気から保護することができる。換言すれば、緻密・高放射率層は、最表面から基材との界面までの間のいずれかの部位に相対密度が97%以上である高密度領域を含む層であれば良い。高密度領域は、基材側にのみ存在していても良く、あるいは、表面側にのみ存在していても良い。
相対密度に関するその他の点については、緻密・低放射率層と同様であるので、説明を省略する。
【0032】
[1.3.3. 層数]
緻密・高放射率層は、放射率εB及び相対密度が上述した条件を満たす限りにおいて、単層からなるものでも良く、あるいは、多層からなるものでも良い。また、緻密・高放射率層が多層からなる場合、その層数は特に限定されない。
但し、層数を必要以上に多くしても効果に差がなく、実益がない。従って、層数は、目的に応じて最適な数を選択するのが好ましい。
【0033】
例えば、緻密・高放射率層は、
基材側に形成された相対密度が97%以上である第1層と、
最表面側に形成された放射率がεBである第2層と
を備えているものでも良い。
【0034】
第1層と第2層との間、あるいは、基材と第1層との間に、1又は2以上の他の層が形成されていても良い。この場合、他の層の放射率及び相対密度は、特に限定されない。
また、第1層は、少なくとも相対密度が97%以上(緻密層)であれば良く、その放射率は特に限定されない。すなわち、第1層は、放射率がεAである層(低放射率層)であっても良く、あるいは、放射率がεBである層(高放射率層)であっても良い。
同様に、第2層は、少なくとも放射率がεB(高放射率層)であれば良く、その相対密度は特に限定されない。すなわち、第2層は、相対密度が97%以上である層(緻密層)であっても良く、あるいは、相対密度が97%未満である層(多孔層)であっても良い。
【0035】
特に、緻密・高放射率層は、第1層が高密度かつ低放射率である層からなり、第2層が低密度かつ高放射率である層からなるものが好ましい。第1層及び第2層が同一材料からなる場合であっても、第2層の相対密度を小さくするだけで、第2層の放射率を大きくすることができる。また、基材の全面に高密度かつ低放射率である層を形成した後、部分的に低密度かつ高放射率である層を形成すると、基材の全面を高密度層で覆いながら、基材の表面に高放射率層を容易に形成することができる。
【0036】
[1.3.4. 材料]
高密度・低放射率層の材料は、上述の条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。高密度・低放射率層の材料としては、例えば、TaC、WC、TaCとWCの混合物、ZrC、Mo2C、HfCなどがある。
【0037】
[1.3.5. 形成位置、面積割合、厚さ]
緻密・高放射率層の形成位置は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な位置を選択することができる。形成位置の具体例については、後述する。
緻密・高放射率層は、基材の表面の内、緻密・低放射率層で被覆されている面以外の面を被覆している。基材の総表面積に占める緻密・高放射率層の面積の割合は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な面積割合を選択することができる。
さらに、緻密・高放射率層の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。緻密・高放射率層の厚さは、通常、20μm~100μmである。
【0038】
[1.4. 用途]
本発明に係る耐熱部材は、化合物半導体単結晶を成長させる際に使用される各種部材に用いるのが好ましい。このような部材としては、例えば、昇華用原料を保持するための坩堝、種結晶保持するための台座、昇華用原料と台座の間に配置される遮熱板、ヒーター、多重ヒートシールドなどがある。
本発明が適用される化合物半導体としては、例えば、炭化珪素、GaN、AlNなどがある。
【0039】
[2. 具体例]
図1に、本発明に係る化合物半導体単結晶成長装置の断面模式図を示す。なお、図1においては、見やすくするために、部分的に各部の寸法を実際の寸法より拡大又は縮小して描いてある。この点は、後述する図2図7も同様である。
図1において、化合物単結晶成長装置10aは、昇華法を用いて化合物半導体単結晶(例えば、炭化珪素単結晶)を成長させるための装置であって、坩堝20aと、台座30aと、遮熱板40aと、スペーサ50aとを備えている。
【0040】
坩堝20aは、昇華用原料(例えば、炭化珪素粉末)62を保持するためのものである。坩堝20aには、本発明に係る耐熱部材が用いられる。
坩堝20aの上端にはスペーサ50aが載置され、スペーサ50aの上端には、さらに台座30aが載置される。スペーサ50aは、昇華用原料62と台座30aとの間の間隔を調整するためのものである。
【0041】
台座30aは、昇華用原料62側の表面に種結晶64を保持するためのものである。台座30aには、本発明に係る耐熱部材が用いられる。
さらに、昇華用原料62と台座30aとの間には、遮熱板40aが配置される。遮熱板40aは、支持棒66により支持されている。遮熱板40aは、昇華用原料62からの輻射熱を遮断し、種結晶64の温度又はその表面に形成される成長結晶の温度の過度の上昇を抑制するためのものである。遮熱板40aには、本発明に係る耐熱部材が用いられる。
【0042】
[2.1. 坩堝]
図2に、本発明に係る坩堝の断面模式図を示す。図2において、坩堝20aは、昇華法を用いて化合物半導体単結晶(例えば、炭化珪素単結晶)を製造する際に、昇華用原料62を保持するためのものである。坩堝20aは、坩堝本体22と、緻密・低放射率層24と、緻密・高放射率層26とを備えている。
【0043】
坩堝本体22は、等方性黒鉛からなる。坩堝本体22の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。
坩堝本体22の外壁面には、単層の緻密・低放射率層24が形成されている。坩堝本体22の外壁面に形成された緻密・低放射率層24は、坩堝20aの外壁面からの熱の輻射を抑制し、坩堝20aの温度低下を抑制するためのものである。緻密・低放射率層24は、坩堝本体22の外壁面(外側面、外底面、及び頂面)の全部に形成されていても良く、あるいは、一部に形成されていても良い。図2に示す例において、緻密・低放射率層24は、坩堝本体22の外壁面の全部に加えて、坩堝本体22の内壁面の全部にも形成されている。
【0044】
坩堝本体22の内壁面には、緻密・高放射率層26が形成されている。図2に示す例において、緻密・高放射率層26は、坩堝本体22の内壁面に形成された緻密層(緻密・低放射率層24)と、その表面に形成された高放射率層28の2層構造を備えている。緻密・高放射率層26は、坩堝20a内部の昇華用原料62に向かって熱を輻射し、昇華用原料62の昇華を促進するためのものである。緻密・高放射率層26は、坩堝本体22の内壁面(内側面、及び内底面)の全部に形成されていても良く、あるいは、一部に形成されていても良い。図2に示す例において、緻密・高放射率層26は、坩堝本体22の内壁面の全部に形成されている。
【0045】
緻密・低放射率層24及び高放射率層28の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な材料を選択することができる。
緻密・低放射率層24と高放射率層28の材料の組み合わせとしては、例えば、
(a)緻密TaC(εA=約0.3)と、相対密度が50%~80%である多孔TaC(εB=約0.5)との組み合わせ、
(b)緻密TaC(εA=約0.3)と、緻密WC(εB=約0.6)との組み合わせ、
(c)緻密WC(εA=約0.6)と、相対密度が50%~80%である多孔WC(εB=約0.7)との組み合わせ、
などがある。
【0046】
[2.2. 台座]
図3に、本発明に係る台座の断面模式図を示す。図3において、台座30aは、昇華法を用いて化合物半導体単結晶(例えば、炭化珪素単結晶)を製造する際に、種結晶64を保持するためのものである。台座30aは、台座本体32と、緻密・低放射率層34と、緻密・高放射率層36とを備えている。
【0047】
台座本体32は、等方性黒鉛からなる。台座本体32の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。
台座本体32の昇華用原料側の面の内、種結晶64の接合面以外の面には、単層の緻密・低放射率層34が形成されている。台座本体32の昇華用原料の面に形成された緻密・低放射率層34は、台座30aの昇華用原料側の面からの熱を反射し、昇華用原料側の面の温度上昇を抑制するためのものである。緻密・低放射率層34は、昇華用原料側の面の内、種結晶64の接合面以外の面の全部に形成されていても良く、あるいは、一部に形成されていても良い。図3に示す例において、緻密・低放射率層34は、昇華用原料側の面の内、種結晶64の接合面以外の面の全部に加えて、台座本体32の側面及び昇華用原料側の面とは反対側の面(以下、「背面」ともいう)の全部にも形成されている。
【0048】
台座本体32の背面には、緻密・高放射率層36が形成されている。図3に示す例において、緻密・高放射率層36は、台座本体32の背面に形成された緻密層(緻密・低放射率層34)と、その表面に形成された高放射率層38の2層構造を備えている。緻密・高放射率層36は、台座30aの背面からの熱の輻射を促進し、種結晶64の冷却効率を促進するためのものである。緻密・高放射率層36は、台座本体32の背面の全部に形成されていても良く、あるいは、一部に形成されていても良い。図3に示す例において、緻密・高放射率層36は、台座本体32の背面の全部に加えて、側面にも形成されている。
【0049】
緻密・低放射率層34及び高放射率層38の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な材料を選択することができる。これらの材料の組み合わせの詳細については、坩堝20aと同様であるので、説明を省略する。
【0050】
[2.3. 遮熱板]
図4に、本発明に係る遮熱板の断面模式図を示す。図4において、遮熱板40aは、昇華法を用いて化合物半導体単結晶(例えば、炭化珪素単結晶)を製造する際に、坩堝20aと台座30aとの間に配置するためのものである。遮熱板40aは、遮熱板本体42と、緻密・低放射率層44と、緻密・高放射率層46とを備えている。
【0051】
遮熱板本体42は、等方性黒鉛からなる。遮熱板本体42の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。
遮熱板本体42の台座30a側の面には、単層の緻密・低放射率層44が形成されている。遮熱板本体42の台座30a側の面に形成された緻密・低放射率層44は、遮熱板40aの台座30a側の面からの熱の輻射を抑制し、種結晶64の過度の温度上昇を抑制するためのものである。緻密・低放射率層44は、遮熱板本体42の台座30a側の面の全部に形成されていても良く、あるいは、一部に形成されていても良い。図4に示す例において、緻密・低放射率層44は、台座30a側の面の全部に加えて、遮熱板本体42の側面及び台座30a側の面とは反対側の面(以下、「背面」ともいう)の全部にも形成されている。
【0052】
遮熱板本体42の背面には、緻密・高放射率層46が形成されている。図4に示す例において、緻密・高放射率層46は、遮熱板本体42の背面に形成された緻密層(緻密・低放射率層44)と、その表面に形成された高放射率層48の2層構造を備えている。緻密・高放射率層46は、坩堝20a内部の昇華用原料62に向かって熱を輻射し、昇華用原料の昇華を促進するためのものである。緻密・高放射率層46は、遮熱板本体42の背面の全部に形成されていても良く、あるいは、一部に形成されていても良い。図4に示す例において、緻密・高放射率層46は、遮熱本体42の背面の全部に形成されている。
【0053】
緻密・低放射率層44及び高放射率層48の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な材料を選択することができる。これらの材料の組み合わせの詳細については、坩堝20aと同様であるので、説明を省略する。
【0054】
[3. 耐熱部材の製造方法]
本発明に係る耐熱部材は、種々の方法により製造することができる。これらの中でも焼結法は、空隙率の調節が容易であるので、耐熱部材の製造方法として好適である。
ここで、「焼結法」とは、
(a)等方性黒鉛からなる基材の表面の全部又は一部に、緻密・低放射率層を形成するための原料を含む第1スラリーを塗布し、乾燥させることにより、基材の表面に第1成形膜を形成し、
(b)基材の表面の一部に、緻密・高放射率層を形成するための原料を含む第2スラリーを塗布し、乾燥させることにより、基材の表面の一部に第2成形膜を形成し、
(c)第1成形膜及び第2成形膜が形成された基材を不活性雰囲気下で加熱し、第1成形膜及び第2成形膜を焼結させる
方法をいう。
【0055】
[3.1. 第1工程]
まず、等方性黒鉛からなる基材の表面の全部又は一部に、緻密・低放射率層を形成するための原料を含む第1スラリーを塗布し、乾燥させる(第1工程)。これにより、基材の表面に第1成形膜を形成することができる。
【0056】
第1スラリーは、緻密・低放射率層を形成するための原料である。また、第1成形膜は、焼結後に緻密・低放射率層となる層である。緻密・低放射率層を形成するための原料が難焼結性である場合、第1スラリーには、適量の焼結助剤が添加される。例えば、緻密・低放射率層の原料として、TaCやWCを用いる場合、焼結助剤としてCoを用いるのが好ましい。第1スラリーは、必要に応じて、有機バインダ、分散剤などがさらに含まれていても良い。
【0057】
原料粉末の平均粒径、焼結助剤の種類及び量、第1スラリーの組成等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。例えば、緻密化を容易化するためには、TaC又はWCの平均粒径は、1~3μmが好ましい。
一般に、第1スラリー中に添加される焼結助剤の量が少なすぎると、緻密化が十分に進行せず、空隙率が大きくなる。一方、焼結助剤の添加量が過剰になると、緻密・低放射率層に焼結助剤が残留し、残留した焼結助剤が使用中に漏出し、汚染源になる場合がある。好適な焼結助剤の添加量は、焼結助剤の種類により異なる。例えば、焼結助剤がCoである場合、焼結助剤の添加量は、0.1~5mass%が好ましい。
【0058】
[3.2. 第2工程]
次に、基材の表面の一部に、緻密・高放射率層を形成するための原料を含む第2スラリーを塗布し、乾燥させる(第2工程)。これにより、基材の表面の一部に第2成形膜を形成することができる。
【0059】
第2スラリーは、それ単独で単層の緻密・高放射率層を形成することが可能なものであっても良い。この場合、基材の表面の一部に第1スラリーを塗布し、第1成形膜を形成した後、基材の残りの表面の全部又は一部に、単層の緻密・高放射率を形成可能な第2スラリーを塗布し、第2成形膜を形成すれば良い。
【0060】
また、第2スラリーは、他の層(例えば、緻密・低放射率層)と組み合わせることにより緻密・高放射率層となる層(例えば、多孔・高放射率層)を形成することが可能なものでも良い。この場合、第2スラリーの塗布及び第2成形膜の形成は1回だけ行っても良く、あるいは、2回以上繰り返しても良い。
例えば、緻密・高放射率層が緻密・低放射率層と多孔・高放射率層との積層体からなる場合、まず、基材の表面の全部又は一部に第1スラリーを塗布し、第1成形膜を形成する。次いで、第1成形膜の表面の一部に、多孔・高放射率層を形成することが可能な第2スラリーを塗布し、第2成形膜を形成する。この方法は、放射率を材料の組成と相対密度の双方で制御できるので、材料選択の自由度が大きいという利点がある。
【0061】
第2スラリーの組成は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。例えば、第2スラリーが多孔層を形成するためのものであり、かつ、多孔層の原料として、TaCやWCなどの難焼結性材料を用いる場合、第2スラリーは、焼結助剤を含んでいる必要はない。むしろ、焼結助剤を含まない第2スラリーを用いた方が、多孔層を容易に形成することができる。第2スラリーに関するその他の点については、第1スラリーと同様であるので、説明を省略する。
【0062】
[3.3. 第3工程]
次に、第1成形膜及び第2成形膜が形成された基材を不活性雰囲気下で加熱し、第1成形膜及び第2成形膜を焼結させる(第3工程)。これにより、本発明に係る耐熱部材が得られる。
焼結条件は、第1成形膜及び第2成形膜の組成に応じて最適な条件を選択する。最適な焼結条件は、原料粉末の性状やスラリーの組成などにより異なる。例えば、原料粉末がTaCやWCである場合、2000℃~2300℃で、0.5時間~1.0時間程度加熱するのが好ましい。
【0063】
[4. 作用]
基材の表面を緻密層(緻密・低放射率層と緻密・高放射率層)でコーティングすると、高温の腐食性ガスに対する耐食性が向上する。さらに、基材の表面を放射率の異なる層で選択的にコーティングすると、耐熱部材内での熱の流れを制御することができる。そのため、本発明に係る耐熱部材を化合物半導体単結晶を成長させる際に使用される各種部材に適用すると、単結晶成長環境の温度分布を従来より適切に制御することができる。
【0064】
例えば、本発明に係る耐熱部材を、昇華法を用いて化合物半導体単結晶を成長させる際に使用される昇華用原料を保持するための坩堝に用いた場合、昇華用原料の昇華効率が向上する。また、本発明に係る耐熱部材を、種結晶を保持するための台座に用いた場合、種結晶の冷却効率が向上する。さらに、本発明に係る耐熱部材を、昇華用原料と台座の間に配置される遮熱板に用いた場合、成長結晶内部の熱応力が低減され、高品質化を実現でき、高速成長、及び結晶の大型化を実現することができる。
【実施例
【0065】
(実施例1、比較例1~2)
[1. 化合物半導体単結晶成長装置の作製]
[1.1. 実施例1]
図1図4に示す化合物半導体単結晶成長装置10aを作製した。
まず、等方性黒鉛からなる坩堝本体22、台座本体32、遮熱板本体42、及びスペーサ50aを準備した。これらの内、スペーサ50aは、そのまま試験に供した。一方、坩堝本体22、台座本体32、及び遮熱板本体42の表面には、以下の手順に従い、緻密・低放射率層と緻密・高放射率層を形成した。
【0066】
平均粒径が1~3μmのTaC、焼結助剤としてのCo粉末(1.0mass%相当)、及びバインダーを有機溶媒に加えて混合し、第1スラリーを得た。
また、平均粒径が1~3μmのTaC及びバインダーを有機溶媒に加えて混合し、第2スラリーを得た。
【0067】
坩堝本体22及び遮熱板本体42の表面の全面に第1スラリーをスプレー塗布し、第1成形膜を形成した。また、台座本体32の種結晶接合面以外の面の全面に第1スラリーをスプレー塗布し、第1成形膜を形成した。第1成形膜の厚さは、緻密化後の膜厚が50~100μmとなるような厚さとした。第1成形膜付き基材に含まれる有機溶媒を揮発させるために、これを150℃×30分間、ホットプレート上で加熱した。
次に、坩堝本体22、台座本体32及び遮熱板本体42の表面の一部に第2スラリーをスプレー塗布し、第2成形膜を形成した。第2成形膜の厚さは、10~30μmとした。
さらに、第1成形膜及び第2成形膜付き基材を、Ar雰囲気下、2000℃において1時間保持することで焼結させた。
【0068】
[1.2. 比較例1]
図5に示す化合物半導体成長装置10bを作製した。図5において、化合物半導体単結晶成長装置10bは、昇華用原料62を保持するための坩堝20bと、種結晶64を保持するための台座30bと、坩堝20bと台座30bとの間の間隔を調整するためのスペーサ50bとを備えている。坩堝20b、及び台座30bは、等方性黒鉛のみからなる。また、化合物半導体単結晶成長装置10bは、遮熱板を備えていない。これらの点が実施例1とは異なる。化合物半導体単結晶成長装置10bに関するその他の点については、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0069】
[1.3. 比較例2]
図6示す化合物半導体単結晶成長装置を作製した。図6において、化合物半導体単結晶成長装置10cは、昇華用原料62を保持するための坩堝20cと、種結晶64を保持するための台座30cと、坩堝20cと台座30cとの間の間隔を調整するためのスペーサ50cとを備えている。坩堝20cは、等方性黒鉛からなる坩堝本体22cと、坩堝本体22cの表面に形成された緻密・低放射率層24cとを備えている。台座30cは、等方性黒鉛のみからなる。さらに、化合物半導体単結晶成長装置10cは、遮熱板を備えていない。これらの点が実施例1とは異なる。化合物半導体単結晶成長装置10cに関するその他の点については、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0070】
[2. 試験方法]
台座に種結晶を接合し、昇華用原料が充填された坩堝の上部に配置した。種結晶には、直径が150mmである炭化珪素単結晶を用いた。昇華用原料には、炭化珪素粉末を用いた。化合物単結晶成長装置を容器に収容し、容器内を排気した後、容器内にArガスを導入した。Ar圧力は、200Paとした。次いで、台座を2200℃、坩堝を2400℃に加熱し、この状態で72h保持することにより、種結晶表面に炭化珪素単結晶を成長させた。成長結晶の高さから成長速度を算出した。また、成長前後の坩堝の重量差から、坩堝重量の減少速度を算出した。
【0071】
[3. 結果]
次の表1に、結果を示す。表1より、以下のことが分かる。
(a)実施例1は、比較例1に比べて、成長速度が速く、かつ、坩堝重量の減少速度が遅い。実施例1の成長速度が比較例1より速いのは、坩堝の内壁面に高放射率層が形成され、かつ、坩堝の外壁面に低放射率層が形成されているためと考えられる。また、実施例1の坩堝重量の減少速度が比較例1より遅いのは、坩堝の全面が緻密層で被覆されているためと考えられる。
(b)比較例2の坩堝重量の減少速度は、実施例1とほぼ同等であった。しかし、比較例2の成長速度は、実施例1より遅い。これは、坩堝の内壁面が低放射率層であるため及び遮熱板がないために、炭化珪素粉末の昇華効率が低下したためと考えられる。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例2)
[1. 試験方法]
図7に、遮熱板の温度計算のための1次元配置図を示す。図7に示すように、種結晶64、遮熱板40a、及び昇華用原料62が所定の間隔を隔てて1次元に配列していると仮定した。また、遮熱板40aの種結晶64側の表面には、放射率がεAである低放射率層が形成されており、昇華用原料62側の表面には、放射率がεBである高放射率層が形成されていると仮定した。
さらに、種結晶64の表面の温度T1は2500Kであり、種結晶64の表面の放射率ε1は0.8と仮定した。また、昇華用原料62の表面の温度T3は2700Kであり、昇華用原料62の表面の放射率ε3は0.8と仮定した。
【0074】
このような条件下において、遮熱板40aの温度T2に及ぼす放射率差(εB-εA)の影響をシミュレーションにより求めた。温度T2は、次の式(1)から求めた。
【0075】
【数1】
【0076】
[2. 結果]
図8に、遮熱板温度の放射率差依存性を示す。また、表2に、種結晶面側材質と原料面側材質の組み合わせを示す。図8及び表2より、以下のことが分かる。
(1)放射率差が大きくなるほど、遮熱板の温度T2が上昇する。これは、原料からの輻射をより受けやすくなるとともに、種結晶側への輻射が減少するためと考えられる。
(2)放射率差を0.1以上にすると、T2は、放射率差がゼロである場合(εA及びεBがともに0.3である場合)に比べて10℃以上上昇する。
【0077】
【表2】
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る耐熱部材は、化合物半導体からなる結晶又は薄膜を成長させるためのルツボ、サセプタ、ヒータ材、蒸着ボート、リフレクタ材などに用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
10a~10c 化合物半導体単結晶成長装置
20a~20c 坩堝
30a~30c 台座
40a 遮熱板
62 昇華用原料
64 種結晶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8