(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電子制御式機械時計および電子制御式機械時計の制御方法
(51)【国際特許分類】
G04G 3/02 20060101AFI20221213BHJP
G04G 19/00 20060101ALI20221213BHJP
G04C 10/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G04G3/02 D
G04G19/00 Y
G04C10/00 C
(21)【出願番号】P 2021151815
(22)【出願日】2021-09-17
(62)【分割の表示】P 2019008520の分割
【原出願日】2019-01-22
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018106871
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 豊
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-346962(JP,A)
【文献】特開昭58-7584(JP,A)
【文献】特開2014-178180(JP,A)
【文献】特開2017-182183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
G04C 1/00 - 99/00
G04G 3/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的エネルギー源と、
前記機械的エネルギー源によって駆動されるローターを備える発電機と、
前記機械的エネルギー源のトルクを前記ローターに伝達するエネルギー伝達装置と、
前記エネルギー伝達装置に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置と、
前記ローターの回転を制御する回転制御装置と、
水晶振動子と、
前記発電機で発電された電気エネルギーを蓄積する電源回路と、を備え、
前記回転制御装置は、
前記水晶振動子を発振させる発振回路と、
前記発振回路から出力される発振信号を分周して基準信号を出力する分周回路と、
温度を測定する温度測定部を備え、前記温度測定部で測定した温度に基づいて、前記基準信号の周波数を補正する温度補償機能部と、
前記ローターの回転周波数を測定する回転検出回路と、
前記ローターの回転周波数と、前記温度補償機能部によって補正された前記基準信号の周波数との差に応じて前記ローターの制動を制御する制動制御回路と、を有
し、
前記温度補償機能部は、
前記発振回路を制御する周波数調整制御回路と、
前記分周回路を制御する論理緩急回路と、
演算回路と、
を備え、
前記演算回路は、前記測定した温度に基づいて歩度の補正量を演算し、前記演算した補正量に応じて前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路とにそれぞれ補正量を入力し、
前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路とは、前記演算回路で演算された補正量に応じて作動することで、前記基準信号の温度による変動を補正し、
前記周波数調整制御回路の補正量は、前記論理緩急回路の補正量よりも小さい
ことを特徴とする電子制御式機械時計。
【請求項2】
機械的エネルギー源と、
前記機械的エネルギー源によって駆動されるローターを備える発電機と、
前記機械的エネルギー源のトルクを前記ローターに伝達するエネルギー伝達装置と、
前記エネルギー伝達装置に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置と、
前記ローターの回転を制御する回転制御装置と、
水晶振動子と、
前記発電機で発電された電気エネルギーを蓄積する電源回路と、を備え、
前記回転制御装置は、
前記水晶振動子を発振させる発振回路と、
前記発振回路から出力される発振信号を分周して基準信号を出力する分周回路と、
温度を測定する温度測定部を備え、前記温度測定部で測定した温度に基づいて、前記基準信号の周波数を補正する温度補償機能部と、
前記ローターの回転周波数を測定する回転検出回路と、
前記ローターの回転周波数と、前記温度補償機能部によって補正された前記基準信号の周波数との差に応じて前記ローターの制動を制御する制動制御回路と、
定電圧回路と、を有し、
前記温度補償機能部は、
前記発振回路を制御する周波数調整制御回路と、
前記分周回路を制御する論理緩急回路と、
演算回路と、
を備え、
前記演算回路は、前記測定した温度に基づいて歩度の補正量を演算し、
前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路と
は、前記演算回路で演算された補正量に応じて作動することで、前記基準信号の温度による変動を補正
し、
前記発振回路、前記分周回路、前記制動制御回路、前記温度測定部、前記演算回路、前記論理緩急回路、前記周波数調整制御回路は、前記定電圧回路から出力される定電圧で駆動される
ことを特徴とする電子制御式機械時計。
【請求項3】
請求項
1または請求項2に記載の電子制御式機械時計において、
前記温度測定部が温度を測定する周期は、前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路
とが作動する周期と同じである
ことを特徴とする電子制御式機械時計。
【請求項4】
請求項
1または請求項2に記載の電子制御式機械時計において、
前記温度測定部が温度を測定する周期は、前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路とが作動する周期よりも長い
ことを特徴とする電子制御式機械時計。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の電子制御式機械時計において、
前記温度測定部は
、CR発振回路
と、前記CR発振回路に定電流を供給する定電流回路とを備えて構成されている
ことを特徴とする電子制御式機械時計。
【請求項6】
機械的エネルギー源と、
前記機械的エネルギー源によって駆動されるローターを備える発電機と、
前記機械的エネルギー源のトルクを前記ローターに伝達するエネルギー伝達装置と、
前記エネルギー伝達装置に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置と、
前記ローターの回転を制御する回転制御装置と、
水晶振動子と、
を備える電子制御式機械時計の制御方法であって、
前記回転制御装置は、
前記水晶振動子を発振させる発振回路と、
前記発振回路から出力される発振信号を分周して基準信号を出力する分周回路と、
温度を測定する温度測定部を備え、前記温度測定部で測定した温度に基づいて、前記基準信号の周波数を補正する温度補償機能部と、
前記ローターの回転周波数を測定する回転検出回路と、
前記ローターの回転周波数と、前記温度補償機能部によって補正された前記基準信号の周波数との差に応じて前記ローターの制動を制御する制動制御回路と、を有し、
前記温度補償機能部は、
前記発振回路を制御する周波数調整制御回路と、
前記分周回路を制御する論理緩急回路と、
を備え、
前記水晶振動子を発振させ、前記発振させた信号に基づく基準信号を出力するステップと、
定期的に温度を測定するステップと、
測定した温度に基づいて
歩度の補正量を演算し、前記演算した補正量に応じて前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路とにそれぞれ補正量を入力し、前記入力した補正量に応じて前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路とを作動させて前記基準信号の周波数を補正するステップと、
前記ローターの回転周波数を測定するステップと、
前記測定された前記回転周波数と、前記補正された基準信号の周波数との差に応じて前記ローターの制動を制御するステップと、を実行
し、
前記周波数調整制御回路の補正量は、前記論理緩急回路の補正量よりも小さい
ことを特徴とする電子制御式機械時計の制御方法。
【請求項7】
機械的エネルギー源と、
前記機械的エネルギー源によって駆動されるローターを備える発電機と、
前記機械的エネルギー源のトルクを前記ローターに伝達するエネルギー伝達装置と、
前記エネルギー伝達装置に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置と、
前記ローターの回転を制御する回転制御装置と、
水晶振動子と、
前記発電機で発電された電気エネルギーを蓄積する電源回路と、
を備える電子制御式機械時計の制御方法であって、
前記回転制御装置は、
前記水晶振動子を発振させる発振回路と、
前記発振回路から出力される発振信号を分周して基準信号を出力する分周回路と、
温度を測定する温度測定部を備え、前記温度測定部で測定した温度に基づいて、前記基準信号の周波数を補正する温度補償機能部と、
前記ローターの回転周波数を測定する回転検出回路と、
前記ローターの回転周波数と、前記温度補償機能部によって補正された前記基準信号の周波数との差に応じて前記ローターの制動を制御する制動制御回路と、
定電圧回路と、を有し、
前記温度補償機能部は、
前記発振回路を制御する周波数調整制御回路と、
前記分周回路を制御する論理緩急回路と、を備え、
前記発振回路、前記分周回路、前記制動制御回路、前記温度測定部、前記周波数調整制御回路、前記論理緩急回路は、前記定電圧回路から出力される定電圧で駆動し、
前記水晶振動子を発振させ、前記発振させた信号に基づく基準信号を出力するステップと、
定期的に温度を測定するステップと、
測定した温度に基づいて歩度の補正量を演算し、前記演算した補正量に応じて前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路とにそれぞれ補正量を入力し、前記入力した補正量に応じて前記周波数調整制御回路と前記論理緩急回路とを作動させて前記基準信号の周波数を補正するステップと、
前記ローターの回転周波数を測定するステップと、
前記測定された前記回転周波数と、前記補正された基準信号の周波数との差に応じて前記ローターの制動を制御するステップと、を実行する
ことを特徴とする電子制御式機械時計の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御式機械時計、電子制御式機械時計の制御方法および電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
ぜんまいが開放する時の機械的エネルギーによって発電機を駆動して発生させた電気的エネルギーを電源回路に充電し、当該電気的エネルギーにより制動制御回路を作動して発電機のローターの回転を制御することにより、輪列に固定される指針を正確に駆動して正確に時刻を表示する電子制御式機械時計が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
電子制御式機械時計では、ぜんまいによって発電機に加えられるトルク(機械的エネルギー)は、指針を基準スピードよりも速く回転させるように設定されており、その回転スピードを制動制御装置で発電機にブレーキをかけることで調速している。
具体的には、水晶振動子から出力される発振信号に基づく基準信号と、発電機のローターの回転周期に対応した回転検出信号とを比較して、発電機のブレーキ量を設定して発電機を調速している。したがって、電子制御式機械時計は、基準信号の精度に応じた時刻精度を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水晶振動子は温度特性があるため、電子制御式機械時計の使用環境が温度特性の基準温度である常温(25℃)に比べて大きく異なる場合は、水晶振動子の発振周波数が変化し、基準信号の周波数も変動するため、電子制御式機械時計の時刻精度も低下する。
【0006】
本発明の目的は、温度補償機能部を有する電子制御式機械時計および電子制御式機械時計の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子制御式機械時計は、機械的エネルギー源と、前記機械的エネルギー源によって駆動されるローターを備える発電機と、前記機械的エネルギー源のトルクを前記ローターに伝達するエネルギー伝達装置と、前記エネルギー伝達装置に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置と、前記ローターの回転を制御する回転制御装置と、水晶振動子と、前記発電機で発電された電気エネルギーを蓄積する電源回路と、を備え、前記回転制御装置は、前記水晶振動子を発振させる発振回路と、前記発振回路から出力される発振信号を分周して基準信号を出力する分周回路と、前記基準信号の温度による変動を補正する温度補償機能部と、前記ローターの回転周波数を測定する回転検出回路と、前記ローターの回転周波数と、前記基準信号の周波数との差に応じて前記ローターの制動を制御する制動制御回路と、を有し、前記温度補償機能部は、前記発振回路を制御する周波数調整制御回路と、前記分周回路を制御する論理緩急回路と、温度測定を行う温度測定部と、演算回路と、電子制御式機械時計で共通の温度補正データが記憶される温度補正テーブル記憶部と、電子制御式機械時計の個体差補正データが記憶される個体差補正データ記憶部と、前記温度補正テーブル記憶部および前記電源回路の接続および非接続を制御する第1スイッチと、前記個体差補正データ記憶部および前記電源回路の接続および非接続を制御する第2スイッチと、を備え、前記演算回路は、前記温度測定部で測定された測定温度と、前記温度補正データと、前記個体差補正データとに基づいて補正量を演算し、前記周波数調整制御回路および前記論理緩急回路に出力し、前記第1スイッチは、少なくとも前記温度補正テーブル記憶部から前記温度補正データを読み出す温度補正データ読み出し期間を含む第1電源接続期間は接続状態とされ、前記第1電源接続期間以外は非接続状態に制御され、前記第2スイッチは、少なくとも前記個体差補正データ記憶部から前記個体差補正データを読み出す個体差補正データ読み出し期間を含む第2電源接続期間は接続状態とされ、前記第2電源接続期間以外は非接続状態に制御されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ぜんまい等の機械的エネルギー源で駆動される発電機を有し、発電機のローターの回転速度を調速することで、時刻表示装置の指針を正確に駆動する電子制御式機械時計において、温度測定部で測定された温度に基づいて補正量を算出する演算回路と、前記補正量に基づいて発振回路の付加容量などを制御して発振信号の周波数を調整する周波数調整制御回路と、前記補正量に基づいて分周回路を制御して分周回路から出力される基準信号の信号変化タイミングを調整する論理緩急回路とを備える。このため、電子制御式機械時計を使用する環境に応じて温度が変化しても、論理緩急回路によって粗調整を行え、周波数調整制御回路によって微調整を行えるので、水晶振動子等の温度特性の影響を補償でき、基準信号の周波数精度を向上でき、時刻精度も向上できる。
また、電子制御式機械時計で共通化できるデータを記憶する温度補正テーブル記憶部と、各電子制御式機械時計の個体差の補正データを記憶する個体差補正データ記憶部とを備えるため、補正データを効率的に記録でき、IC面積を削減できる。すなわち、温度補正テーブル記憶部は書き換え不要のため、回路規模を小さくできるマスクROM等で構成でき、個体差補正データのみを書き換え可能な不揮発性メモリーで構成できるので、IC内の面積を小さくできる。個体差補正データ記憶部を小さくする事に伴い、動作電流や非動作時のリーク電流も低減できる。
さらに、温度補正テーブル記憶部および個体差補正データ記憶部と、電源回路との間に第1スイッチおよび第2スイッチを配置したので、温度補正テーブル記憶部および個体差補正データ記憶部は、補正データを読み出す期間のみ電源回路に接続し、それ以外の期間は電源回路から切り離すことができ、非動作時のリーク電流を削減できる。特に、電子制御式機械時計の内部が高温になった時は、リーク電流が増加するため、電源回路から各記憶部を切り離すことによるリーク電流の削減効果を大きくすることができる。電子制御式機械時計は、発電された電気エネルギーをコンデンサーなどの電源回路に充電し、電源回路の電圧によりICを駆動するため、ICの消費電流が大きくなると電源回路からの放電量が大きくなり、電源回路の電圧が小さくなる。この電圧がIC動作の停止電圧を下回るとICが停止して調速制御ができなくなる。したがって、ICの消費電流が小さければ、ぜんまいから与えられる機械的エネルギーが小さい領域でも、ICを駆動できる電圧が得られるようになり、電子制御式機械時計の持続時間を延ばすことができる。
また、論理緩急回路および周波数調整制御回路を組み合わせることで、低消費電流で細かな周波数制御が可能な温度補償機能を実現することができる。すなわち、論理緩急回路は、消費電流の増加は抑制できるが、基準信号の細かい調整を行うことが難しい。また、周波数調整制御回路は、基準信号の微調整も可能であるが、調整範囲を広くするためには付加容量を大きくする必要があり、付加容量の充放電が増加するため消費電流が増大する。本発明では、このような特性を有する論理緩急回路および周波数調整制御回路を組み合わせることで、基準信号の細かい調整を行うことができ、かつ、消費電流も低減できる。
【0009】
本発明の電子制御式機械時計において、前記回転制御装置は、定電圧回路を備え、前記発振回路、前記分周回路、前記制動制御回路、前記温度補償機能部、前記周波数調整制御回路、前記演算回路、前記温度測定部は、前記定電圧回路から出力される定電圧で駆動され、前記温度補正テーブル記憶部と前記個体差補正データ記憶部とは、前記定電圧回路と異なる電源で駆動されることが好ましい。
【0010】
定電圧回路は、発電機によって充電される電源回路の電圧(発電電圧)が変動しても、一定の電圧を出力できるため、発振回路や温度測定部等を定電圧で駆動すれば、発電電圧が大きくなっても消費電流の増加を防止できる。また、発振回路や温度測定部等を一定の電圧で駆動することで、出力信号の電圧による変動を小さくできる。このため、低消費電流化が必要な電子制御式機械時計において低消費電流化と高精度化を実現できる。
また、温度補正テーブル記憶部や個体差補正データ記憶部に、不揮発性メモリー等が使用された場合、動作時の消費電流が大きいため、定電圧回路で駆動すると、定電圧回路の出力電圧が変動することがある。定電圧回路の電圧変動は、発振回路の出力信号の周波数の変動や、発振回路の動作停止の原因となる。そこで、温度補正テーブル記憶部と個体差補正データ記憶部は、発振回路や温度測定部等を駆動する定電圧回路とは異なる電源、例えば、電源回路(コンデンサー等)の両端に発生する電圧で駆動している。これにより、温度補正テーブル記憶部と個体差補正データ記憶部の動作時の消費電流により、電源回路の電圧が降下したとしても、定電圧回路の出力に与える影響は小さくなり、発振回路や温度測定部の出力信号の周波数の変動や、発振回路の動作停止を防止できる。
さらに、定電圧回路の出力電圧値の設定を、発振回路や温度測定部等の動作停止電圧を下回らない範囲で、低く設定できるため、ICを低消費電流で駆動することができる。よって、ぜんまいから与えられる機械的エネルギーが小さい領域でも、ICが駆動できるだけの発電電圧が得られるようになり、持続時間を延ばすことができる。
【0011】
本発明の電子制御式機械時計において、前記温度測定部を動作させる温度測定期間と、前記温度補正データ読み出し期間と、前記個体差補正データ読み出し期間とは、異なるタイミングに設定されていることが好ましい。
【0012】
電子制御式機械時計は、発電された電気エネルギーが比較的小さいため、電源回路としては二次電池に比べて内部抵抗の小さなコンデンサーを用いることが好ましい。コンデンサーは、二次電池に比べて容量が小さいため、電流負荷による電圧降下が大きくなる。そのため、電子制御式機械時計に用いられる回路において、動作電流が比較的大きな温度測定部と、温度補正テーブル記憶部と、個体差補正データ記憶部の各動作期間が重なり、電流負荷が大きくなると、電源回路(コンデンサー)の電圧が降下し、ICの動作停止電圧を下回る可能性がある。ICの動作が停止すると、時計の運針を制御できなくなり、正確な時刻を表示できない。
そこで、温度測定部を動作させる温度測定期間と、温度補正データ読み出し期間と、個体差補正データ読み出し期間とを異なるタイミングに設定し、各期間が重ならないように制御することで、電流負荷を分散でき、ICの動作停止電圧を下回る電源回路の電圧降下を防止できる。すると、ぜんまいから与えられる機械的エネルギーが小さく、電源回路の両端に発生する発電電圧が小さくなる領域においても、発電電圧がICの動作停止を下回ることがなくなり、正確に調速できて持続時間を長くすることができる。
【0013】
本発明の電子制御式機械時計において、前記回転制御装置は、SOIプロセスで製造されたICで構成され、前記個体差補正データ記憶部は、FAMOSで構成されていることが好ましい。
【0014】
個体差補正データ記憶部のデータは、発振回路や温度測定部等の特性の個体差を理想特性に補正するためのデータであり、このデータは電子制御式機械時計の量産工程の中で書き込む必要がある。このため、個体差補正データ記憶部は、書き込んだデータが電源回路の電圧が無くなっても消えることがない不揮発性メモリーで構成される。不揮発性メモリーには、通常、EEPROMのような複数回書き込み可能な不揮発性メモリーが使用される。しかし、EEPROMのような不揮発性メモリーは書き込みに大きな電圧が必要となる。一方、SOI(Silicon On Insulator)プロセスで製造されたICは耐圧が低いという特性があるため、書き込みに大きな電圧が必要な不揮発性メモリーを搭載することができない。
そこで、個体差補正データ記憶部を構成する不揮発性メモリーとしてFAMOS(Floating gate Avalanche injection Metal Oxide Semiconductor)を使用している。FAMOSへの書き込みは低電圧で行えるため、耐圧が低いSOIプロセスで製造されたICでも、その耐圧を超えて破壊してしまうことを防止できる。このため、SOIプロセスにより、低リーク電流、低電圧駆動が可能な、温度補償機能を持った回転制御装置(IC)を構成でき、ぜんまいから得られる機械的エネルギーが小さくなる領域においても、回転制御装置を駆動でき、持続時間を長くすることができる。
【0015】
本発明の電子制御式機械時計において、前記温度測定部は、定電流によって駆動されるCR発振回路で構成されていることが好ましい。
【0016】
温度測定部として、定電流で駆動するCR発振回路を使用すると、環境温度により定電流や抵抗の値が変動し、環境温度に応じた周波数の信号がCR発振回路から出力され、その周波数により温度を検出することができる。また、温度測定部の駆動電流は、定電流で決まるため、設計により電流値をコントロールし易く、容易に低消費電流化できる。
消費電流が小さくなれば、ぜんまいから与えられる機械的エネルギーが小さい領域でも、ICが駆動できるだけの発電電圧が得られるようになり、持続時間を延ばすことができる。
【0017】
本発明の電子制御式機械時計の制御方法は、機械的エネルギー源と、前記機械的エネルギー源によって駆動されるローターを備える発電機と、前記機械的エネルギー源のトルクを前記ローターに伝達するエネルギー伝達装置と、前記エネルギー伝達装置に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置と、前記ローターの回転を制御する回転制御装置と、水晶振動子と、前記発電機で発電された電気エネルギーを蓄積する電源回路と、を備える電子制御式機械時計の制御方法であって、前記回転制御装置は、前記水晶振動子を発振させる発振回路と、前記発振回路から出力される発振信号を分周して基準信号を出力する分周回路と、前記基準信号の温度による変動を補正する温度補償機能部と、前記ローターの回転周波数を測定する回転検出回路と、前記ローターの回転周波数と、前記基準信号の周波数との差に応じて前記ローターの制動を制御する制動制御回路と、を有し、前記温度補償機能部は、温度測定を行う温度測定部と、電子制御式機械時計で共通の温度補正データが記憶される温度補正テーブル記憶部と、電子制御式機械時計の個体差補正データが記憶される個体差補正データ記憶部と、前記温度補正テーブル記憶部および前記電源回路の接続および非接続を制御する第1スイッチと、前記個体差補正データ記憶部および前記電源回路の接続および非接続を制御する第2スイッチと、を備え、前記温度測定部を作動して温度を測定するステップと、前記第1スイッチを接続して前記温度補正テーブル記憶部から前記温度補正データを読み出し、前記第1スイッチを切断するステップと、前記第2スイッチを接続して前記個体差補正データ記憶部から前記個体差補正データを読み出し、前記第2スイッチを切断するステップと、測定された測定温度と、前記温度補正データと、前記個体差補正データとに基づいて補正量を演算するステップと、前記補正量に応じて前記発振回路を制御するステップと、前記補正量に応じて前記分周回路を制御するステップと、を実行することを特徴とする。
本発明の制御方法によれば、前記電子制御式機械時計と同様の作用効果を奏することができる。
【0018】
本発明の電子時計は、時刻表示を行う時刻表示装置と、水晶振動子と、電源回路と、前記水晶振動子を発振させる発振回路と、前記発振回路から出力される発振信号を分周して基準信号を出力する分周回路と、前記基準信号の温度による変動を補正する温度補償機能部と、を備え前記温度補償機能部は、前記発振回路を制御する周波数調整制御回路と、前記分周回路を制御する論理緩急回路と、温度測定を行う温度測定部と、演算回路と、電子時計で共通の温度補正データが記憶される温度補正テーブル記憶部と、電子時計の個体差補正データが記憶される個体差補正データ記憶部と、前記温度補正テーブル記憶部および前記電源回路の接続および非接続を制御する第1スイッチと、前記個体差補正データ記憶部および前記電源回路の接続および非接続を制御する第2スイッチと、を備え、前記演算回路は、前記温度測定部で測定された測定温度と、前記温度補正データと、前記個体差補正データとに基づいて補正量を演算し、前記周波数調整制御回路および前記論理緩急回路に出力し、前記第1スイッチは、少なくとも前記温度補正テーブル記憶部から前記温度補正データを読み出す温度補正データ読み出し期間を含む第1電源接続期間は接続状態とされ、前記第1電源接続期間以外は非接続状態に制御され、前記第2スイッチは、少なくとも前記個体差補正データ記憶部から前記個体差補正データを読み出す個体差補正データ読み出し期間を含む第2電源接続期間は接続状態とされ、前記第2電源接続期間以外は非接続状態に制御されることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、温度測定部で測定された温度に基づいて補正量を算出する演算回路と、前記補正量に基づいて発振回路の付加容量などを制御して発振信号の周波数を調整する周波数調整制御回路と、前記補正量に基づいて分周回路を制御して分周回路から出力される基準信号の信号変化タイミングを調整する論理緩急回路とを備える。このため、電子時計を使用する環境に応じて温度が変化しても、論理緩急回路によって粗調整を行え、周波数調整制御回路によって微調整を行えるので、水晶振動子等の温度特性の影響を補償でき、基準信号の周波数精度を向上でき、時刻精度も向上できる。
また、電子時計で共通化できるデータを記憶する温度補正テーブル記憶部と、各電子時計の個体差の補正データを記憶する個体差補正データ記憶部とを備えるため、補正データを効率的に記録でき、IC面積を削減できる。すなわち、温度補正テーブル記憶部は書き換え不要のため、回路規模を小さくできるマスクROM等で構成でき、個体差補正データのみを書き換え可能な不揮発性メモリーで構成できるので、IC内の面積を小さくできる。個体差補正データ記憶部を小さくする事に伴い、動作電流や非動作時のリーク電流も低減できる。
さらに、温度補正テーブル記憶部および個体差補正データ記憶部と、電源回路との間に第1スイッチおよび第2スイッチを配置したので、温度補正テーブル記憶部および個体差補正データ記憶部は、補正データを読み出す期間のみ電源回路に接続し、それ以外の期間は電源回路から切り離すことができ、非動作時のリーク電流を削減できる。特に、電子時計の内部が高温になった時は、リーク電流が増加するため、電源回路から各記憶部を切り離すことによるリーク電流の削減効果を大きくすることができる。電子時計は、電源の電圧によりICを駆動するため、ICの消費電流が大きくなると電源回路からの放電量が大きくなり、ICの消費電流が小さい時と比較して電源回路の電圧低下が早まる。この電圧がIC動作の停止電圧を下回るとICが停止して正確な時刻表示ができなくなる。つまり、電子時計の持続時間が短くなってしまう事になる。したがって、ICの消費電流が小さければ、電源回路からの放電量も小さくなるため、電源回路の電圧低下も遅くなるので、ICを駆動できる電圧が長期間得られるようになり、電子時計の持続時間を延ばすことができる。
また、論理緩急回路および周波数調整制御回路を組み合わせることで、低消費電流で細かな周波数制御が可能な温度補償機能を実現することができる。すなわち、論理緩急回路は、消費電流の増加は抑制できるが、基準信号の細かい調整を行うことが難しい。また、周波数調整制御回路は、基準信号の微調整も可能であるが、調整範囲を広くするためには付加容量を大きくする必要があり、付加容量の充放電が増加するため消費電流が増大する。本発明では、このような特性を有する論理緩急回路および周波数調整制御回路を組み合わせることで、基準信号の細かい調整を行うことができ、かつ、消費電流も低減できる。
【0020】
本発明の電子時計において、少なくとも前記発振回路を定電圧で駆動する定電圧回路を備え、前記温度補正テーブル記憶部と前記個体差補正データ記憶部とは、前記定電圧回路と異なる電源で駆動されることが好ましい。
【0021】
定電圧回路は、一次電池や二次電池などで構成される電源回路の電圧が変動しても、一定の電圧を出力できるため、少なくとも発振回路を定電圧で駆動すれば、電源回路の電圧が大きくなっても消費電流の増加を防止できる。また、発振回路を一定の電圧で駆動することで、出力信号の電圧による変動を小さくできる。このため、電子時計において低消費電流化と高精度化を実現できる。
また、温度補正テーブル記憶部や個体差補正データ記憶部に、不揮発性メモリー等が使用された場合、動作時の消費電流が大きいため、定電圧回路で駆動すると、定電圧回路の出力電圧が変動することがある。定電圧回路の電圧変動は、発振回路の出力信号の周波数の変動や、発振回路の動作停止の原因となる。そこで、温度補正テーブル記憶部と個体差補正データ記憶部は、発振回路を駆動する定電圧回路とは異なる電源、例えば、電源回路(一次電池や二次電池)の両端に発生する電圧で駆動している。これにより、温度補正テーブル記憶部と個体差補正データ記憶部の動作時の消費電流により、電源回路の電圧が降下したとしても、定電圧回路の出力に与える影響は小さくなり、発振回路の出力信号の周波数の変動や、発振回路の動作停止を防止できる。
さらに、定電圧回路の出力電圧値の設定を、発振回路の動作停止電圧を下回らない範囲で、低く設定できるため、ICを低消費電流で駆動することができる。よって、一次電池や二次電池などの電源から供給される電圧をICが駆動できる最小限のレベルに設定でき、持続時間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態における電子制御式機械時計の要部の構成を示すブロック図。
【
図2】電子制御式機械時計の要部の構成を示す回路図。
【
図3】電子制御式機械時計の発振回路の構成を示す回路図。
【
図4】電子制御式機械時計の温度センサーの構成を示す回路図。
【
図5】温度補正テーブル記憶部および第1スイッチを示す図。
【
図6】個体差補正データ記憶部および第2スイッチを示す図。
【
図7】比較例の個体差補正データ読み出し時の発電電圧、定電圧回路出力の変化を示すグラフ。
【
図8】本実施形態の個体差補正データ読み出し時の発電電圧、定電圧回路出力の変化を示すグラフ。
【
図9】本実施形態の歩度調整時の各処理の実行タイミングを示すタイミングチャート。
【
図10】第1スイッチおよび第2スイッチのスイッチ制御の有無による消費電流の変化を示すグラフ。
【
図11】発電機に一定の機械的エネルギーが与えられた時の消費電流と発電電圧との相関を示すグラフ。
【
図14】水晶振動子の発振周波数の温度特性と、論理緩急および周波数調整による補正量とを示すグラフ。
【
図15】本発明の第2実施形態における電子時計の要部の構成を示すブロック図。
【
図16】本発明の第3実施形態における電子時計の要部の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[電子制御式機械時計の構成]
図1は、本発明の第1実施形態の電子制御式機械時計1を示すブロック図である。
電子制御式機械時計1は、機械的エネルギー源としてのぜんまい2と、ぜんまい2のトルクを伝達するエネルギー伝達装置としての増速輪列3と、増速輪列3に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置4と、前記増速輪列3を介して伝達されるトルクで駆動される発電機5と、整流回路6と、電源回路7と、水晶振動子8と、回転制御装置10とを備えている。
回転制御装置10は、SOI(Silicon on Insulator)プロセスによって製造されたICによって構成され、発振回路11、分周回路12、回転検出回路13、制動制御回路14、定電圧回路15および温度補償機能部20を備えて構成されている。
【0024】
時刻表示装置4は、図示を省略するが、秒針、分針、時針の各指針を備えている。
発電機5は、
図2に示すように、ローター5Aと、ローター5Aの回転に伴い誘起電力を発生するコイル5Bとを備え、電気的エネルギーを供給する。ローター5Aは、増速輪列3を介してぜんまい1によって駆動される。ローター5Aは、2極に着磁されたローターなどであり、ローター5Aの一部が磁石で構成されている。発電機5は、ローター5Aが回転することで磁束が変化し、コイル5Bに誘起電力を発生させて発電する。
発電機5のコイル5Bの第1の出力端子MG1、第2の出力端子MG2には、制動制御回路14で制御されるブレーキ回路50と、整流回路6とが接続されている。このため、発電機5から供給された電気エネルギーは、整流回路6を介して、電源回路7の電源コンデンサー71に充電される。そして、電源コンデンサー71の両端に発生する電圧(発電電圧)で回転制御装置10を駆動する。
【0025】
[ブレーキ回路]
ブレーキ回路50は、発電機5を調速機として機能させるために、ローター5Aの回転にブレーキを掛けるものである。ブレーキ回路50は、発電機5で発電された交流信号(交流電流)が出力される第1の出力端子MG1に接続された第1のチョッピングトランジスター51と、前記交流信号が出力される第2の出力端子MG2に接続された第2のチョッピングトランジスター52とを有する。そして、各チョッピングトランジスター51、52をオンすることにより、第1の出力端子MG1と第2の出力端子MG2とを短絡させて閉ループ状態にし、発電機5にショートブレーキを掛けるようになっている。
これらの各チョッピングトランジスター51、52は、電源回路7の入力端子側(VDD側)に接続されている。
【0026】
各チョッピングトランジスター51、52は、Pチャネル型(Pch)の電界効果型トランジスター(FET)で構成されている。これらの各チョッピングトランジスター51、52のゲートには、制動制御回路14から制動制御信号が入力される。このため、各チョッピングトランジスター51、52は、制動制御信号がLレベルとなっている間はオン状態に維持される。一方、制動制御信号がHレベルとなっている間は、各チョッピングトランジスター51、52はオフ状態に維持され、発電機5にはブレーキが加わらない。すなわち、制動制御信号のレベルによって、各チョッピングトランジスター51、52のオン、オフが制御され、発電機5をチョッピング制御することができる。
【0027】
ここで、制動制御信号は、たとえば128Hzの信号であり、デューティー比を変えることで、発電機5のブレーキ力を調整する。すなわち、制動制御信号の1周期においてLレベルの期間が長くなると、各チョッピングトランジスター51、52がオン状態に維持されてショートブレーキが加えられる期間も長くなり、ブレーキ力が増加する。一方、制動制御信号の1周期においてLレベルの期間が短くなると、ブレーキ力が低下する。したがって、制動制御信号のデューティー比によって、ブレーキ力を調整できる。
【0028】
[整流回路]
整流回路6は、昇圧整流、全波整流、半波整流、トランジスター整流等からなり、発電機5からの交流出力を昇圧、整流して、電源回路7に充電供給するものである。
図2に示すように、本実施形態の整流回路6は、第1の整流用スイッチ61と、第2の整流用スイッチ62と、ダイオード65と、ダイオード66と、昇圧用コンデンサー67とを備えている。
第1の整流用スイッチ61は、ブレーキ回路50の第1のチョッピングトランジスター51と並列に接続され、かつ、第2の出力端子MG2にゲートが接続された第1の整流用トランジスターで構成されている。
同様に、第2の整流用スイッチ62は、第2のチョッピングトランジスター52と並列に接続され、かつ、第1の出力端子MG1にゲートが接続された第2の整流用トランジスターで構成されている。これらの各整流用トランジスターも、Pchの電界効果型トランジスター(FET)で構成されている。
ダイオード65、66は、一方向に電流を流す一方向性素子であればよく、その種類は問わない。特に、電子制御式機械時計1では、発電機5の起電圧が小さいため、ダイオード65、66としては降下電圧や逆リーク電流が小さいショットキーバリアダイオードやシリコンダイオードを用いることが好ましい。
【0029】
なお、本実施形態では、
図2に示すように、第1のチョッピングトランジスター51、第2のチョッピングトランジスター52、第1の整流用スイッチ61、第2の整流用スイッチ62、ダイオード65、ダイオード66は、回転制御装置10と同様にIC内に構成され、発電機5のローター5Aおよびコイル5Bと、昇圧用コンデンサー67と、電源コンデンサー71はICの外部に設けられている。このように、整流回路6の一部をIC内に構成することで、電子制御式機械時計1の回路基板に実装する素子を少なくでき、コストを低減できる効果がある。また、リーク電流の小さなIC製造プロセスにより製造されたICを使用する事で、リーク電流も小さくできる。
なお、各チョッピングトランジスター51、52の能力、つまりサイズは、発電機5におけるチョッピング時の電流に基づいて設定すればよい。
【0030】
このような整流回路6は、昇圧用コンデンサー67を備えているため、充電の過程で昇圧用コンデンサー67に充電された電荷も利用して、電源コンデンサー71を充電する。このため、回転制御装置10を構成するICに印加できる電圧も大きくなり、ICの安定的な動作が実現できる。なお、
図2の整流回路6は、2段昇圧整流回路であるが、ダイオード、コンデンサーを使用し、3段昇圧、4段昇圧など、昇圧段数を増やし、電源コンデンサー71の電圧を高くすることもできる。
【0031】
[回転制御装置の構成]
次に、
図1を参照して、発電機5のローター5Aの回転を制御する回転制御装置10の構成について説明する。
発振回路11は、電源コンデンサー71の電圧が高くなると駆動し、発振信号発生源である水晶振動子8を発振させる。そして、水晶振動子8の発振信号(32768Hz)をフリップフロップからなる分周回路12に出力する。
図3に周波数調整用の付加容量を備えた発振回路11の一例の回路図を示す。発振回路11は、水晶振動子8を発振させるための一般的な回路であり、発振インバーター111と、帰還抵抗112と、発振インバーター111のゲート111Gに接続されたゲートコンデンサー113と、発振インバーター111のドレイン111Dに接続されたドレインコンデンサー114と、周波数調整部120とを備えている。
周波数調整部120は、トランスミッションゲート121と、トランスミッションゲート121に直列に接続された調整用容量(コンデンサー)125とで構成されている。トランスミッションゲート121は、調整用容量125を発振インバーター111のドレイン111Dに接続する状態と、切り離した状態とに切り替えるスイッチである。このスイッチ用のトランスミッションゲート121のゲートおよびサブストレイト(サブストレート)に印加される信号はすべて定電圧化された信号になっている。
【0032】
トランスミッションゲート121は、並列に接続されたスイッチ用の2つの電界効果型トランジスター122、123で構成される。Pchの電界効果型トランジスター122のサブストレイトには、高電位の定電圧VDDと、定電圧回路15が出力する低電位の定電圧VREGのうち、高電位の定電圧VDDが接続(供給)される。電界効果型トランジスター122のゲートにはレベルシフター130で定電圧化された第1制御信号XAが入力される。
また、Nチャネル型(Nch)の電界効果型トランジスター123のサブストレイトには、低電位の定電圧VREGが接続され、ゲートにはレベルシフター130で定電圧化された第2制御信号Aが入力される。
レベルシフター130は、後述する周波数調整制御回路37から出力された制御信号を定電圧化して周波数調整部120に入力する回路である。また、第1制御信号XAは、第2制御信号Aを反転した信号である。
周波数調整制御回路37から出力される制御信号は、所定時間内(例えば10秒間)で、調整用容量(コンデンサー)125をドレイン111Dに接続する時間と接続しない時間の割合を変化させるように制御する。これにより、周波数調整部120は、発振回路11から出力される発振信号の所定時間内における平均周波数を細かく調整できる。また、調整用容量(コンデンサー)125を複数配置するスペースがなくても、1つの調整用容量(コンデンサー)125で周波数の調整が可能である。
なお、発振回路11は、
図3に示す回路に限らない。例えば、複数の周波数調整部120を設け、ドレイン111Dに接続する調整用容量(コンデンサー)125の個数を変化させることで、発振信号の周波数を細かく調整してもよい。
【0033】
分周回路12は、前記発振信号を分周して、複数の周波数(たとえば、2kHz~8Hz)のクロック信号を作成し、制動制御回路14や温度補償機能部20に必要なクロック信号を出力する。ここで、分周回路12から制動制御回路14に出力されるクロック信号は、後述するように、ローター5Aの回転制御の基準となる基準信号fs1である。
回転検出回路13は、発電機5に接続された図示しない波形整形回路とモノマルチバイブレーターとで構成され、発電機5のローター5Aの回転周波数を表す回転検出信号FG1を出力する。
【0034】
制動制御回路14は、回転検出回路13から出力される回転検出信号FG1と、分周回路12から出力される基準信号fs1とを比較し、発電機5の調速を行うための制動制御信号をブレーキ回路50に出力する。なお、基準信号fs1は、通常運針時のローター5Aの基準回転速度(例えば8Hz)に合わせた信号である。したがって、制動制御回路14は、ローター5Aの回転速度(回転検出信号FG1)と基準信号fs1との差に応じて制動制御信号のデューティー比を変更し、ブレーキ回路50のチョッピングトランジスター51、52のオン時間を制御してブレーキ力を調整し、ローター5Aの動きを制御する。
【0035】
定電圧回路15は、電源回路7から供給される外部電圧を一定電圧(定電圧)に変換して供給する回路である。定電圧回路15で駆動される回路については、後述する。
【0036】
[温度補償機能部]
温度補償機能部20は、水晶振動子8等の温度特性を補償して発振周波数の変動を抑制するものであり、温度補償機能制御回路21と、温度補償回路30とを備える。
温度補償機能制御回路21は、所定のタイミングになると、温度補償回路30を動作させる。
温度補償回路30は、温度測定部である温度センサー31と、温度補正テーブル記憶部32と、個体差補正データ記憶部33と、演算回路35と、論理緩急回路36と、周波数調整制御回路37とを備える。
【0037】
回転制御装置10において、定電圧回路15で駆動される回路は、
図1に示すように、外部とのインターフェイス(回転検出回路13)と、温度補正テーブル記憶部32と、個体差補正データ記憶部33とを除く各回路である。
すなわち、定電圧回路15は、発振回路11、分周回路12、制動制御回路14、温度補償機能制御回路21、温度センサー31、演算回路35、論理緩急回路36、周波数調整制御回路37を定電圧で駆動する。一方、温度補正テーブル記憶部32および個体差補正データ記憶部33は、定電圧回路15ではなく、電源回路7によって駆動される。
【0038】
温度センサー31は、電子制御式機械時計1が使用されている環境の温度に応じた出力を演算回路35に入力する。温度センサー31としては、ダイオードを使用したものや、CR発振回路を使用したものが利用でき、ダイオードやCR発振回路の温度特性を利用して変化する出力信号で現在の温度を検出している。本実施形態では、出力信号を波形整形すれば、すぐにデジタル信号処理が可能なCR発振回路を、温度センサー31として使用している。すなわち、環境温度により、CR発振回路から出力される信号の周波数が変化し、その周波数により温度を検出している。また、CR発振回路を定電流で駆動するように構成すると、温度センサー31の駆動電流は定電流値で決まるため、設計により電流値をコントロール可能となり、低消費電流化し易くなる。定電流駆動型のCR発振回路は低電圧駆動、低消費電流化が可能なため、電子制御式機械時計1に温度補償機能を付ける場合の温度センサー31として適している。
【0039】
CR発振回路を用いた温度センサー31の一例を
図4に示す。温度センサー31は、定電流回路310と、CR発振回路320と、出力バッファー370とを備えている。
定電流回路310は、カレントミラー回路311と、定電流源315とを備える。カレントミラー回路311は、第1および第2のPchの電界効果型トランジスター312、313を備えて構成された一般的な回路である。定電流源315は、デプレッショントランジスターを用いて構成された一般的な定電流源である。このため、定電流回路310は、CR発振回路320に定電流を供給する。
CR発振回路320は、コンデンサー(C)および抵抗(R)により構成される回路であり、予め設定された周波数の発振信号を出力する。本実施形態のCR発振回路320は、3段のインバーターを備える一般的なCR発振回路である。各段のインバーターは、Pchの電界効果型トランジスター321~323およびNchの電界効果型トランジスター331~333で構成される。各インバーターには、抵抗341~343と、コンデンサー351~353が直列に接続されている。
出力バッファー370は、Pchの電界効果型トランジスター371およびNchの電界効果型トランジスター372を備えたインバーターである。
出力バッファー370からの出力は、CR発振回路320で発振された発振信号の出力であり、温度センサー31の出力として演算回路35に入力される。
【0040】
CR発振回路320の発振信号の周波数は、各コンデンサー351~353に充電される電荷の充放電速度により決定する。よって、抵抗(放電抵抗)341~343と、コンデンサー351~353の値と、定電流回路310から供給される定電流によって発振周波数が決定する。CR発振回路320を構成する抵抗341~343やコンデンサー351~353等の素子は温度特性を有しているため、CR発振回路320から出力される発振信号の周波数は、温度によって変化する。この温度特性を利用することで、CR発振回路320を備えた温度センサー31を構成できる。
【0041】
温度補正テーブル記憶部32は、理想的な水晶振動子8、および、理想的な温度センサー31の場合に、ある温度でどれだけ歩度を補正すればよいかが設定された温度補正テーブルを記憶している。
しかし、水晶振動子8や温度センサー31には製造による個体差が生じるため、あらかじめ製造や検査の工程で測定した、水晶振動子8の特性や、温度センサー31の特性を基に、どれだけ個体差を補正すれば良いかを設定した個体差補正データが個体差補正データ記憶部33に書き込まれている。
温度補正テーブル記憶部32は、マスクROMを利用している。マスクROMを利用するのは、半導体メモリーの中で最も単純なため、集積度を高くし、面積を小さくできるためである。
個体差補正データ記憶部33は、不揮発性メモリーで構成され、特にFAMOSを使用している。FAMOSは、書込み後の電流値(リーク電流)が低い事や、不揮発性メモリーの中で比較的低い電圧でデータ書き込みが可能なためである。
通常、個体差補正データ記憶部33用の不揮発性メモリーにはEEPROMのような複数回書き込み可能な不揮発性メモリーが使われる。しかし、EEPROMのような不揮発性メモリーは書き込みに大きな電圧が必要になる。SOIプロセスで製造された回転制御装置(IC)10の場合、耐圧が低いという特徴があるため、データ書き込みに大きな電圧を使用すると、書き込み時にICの破壊が発生する場合がある。
そこで、SOIプロセスで製造された回転制御装置10の場合、個体差補正データを記憶する不揮発性メモリーにはFAMOSを使用する必要がある。FAMOSへの書き込みは低電圧で行えるため、耐圧が低いSOIプロセスでも耐圧を超えて破壊してしまうことを防止でき、SOIプロセスで製造したICへの搭載が可能となる。また、SOIプロセスの特徴である、低電圧、低リークでの駆動も可能となる。
【0042】
図5および
図6に示すように、温度補正テーブル記憶部32および個体差補正データ記憶部33は、第1スイッチ38および第2スイッチ39を介して電源回路7に接続されている。第1スイッチ38および第2スイッチ39は、電界効果型トランジスターで構成されている。
第1スイッチ38、第2スイッチ39は、温度補償機能制御回路21から出力される電源接続制御信号によってオン、オフが制御される。したがって、第1スイッチ38、第2スイッチ39は、前記電源接続制御信号により、電源回路7との接続、非接続を簡単に制御でき、オフリーク電流も小さくできる。
温度補正テーブル記憶部32および個体差補正データ記憶部33を、定電圧回路15ではなく、電源回路7で駆動するのは、以下の理由のためである。
例えば、個体差補正データ記憶部33を定電圧回路15で駆動した場合、
図7に示すように、個体差補正データを読み出す期間は、定電圧出力が降下し、発振回路11の動作停止電圧を下回る可能性がある。したがって、定電圧回路15の定電圧出力を、電圧降下が発生しても、発振回路停止電圧より高い電圧が確保できるように設定する必要があり、定電圧出力を高く設定する分だけ消費電流が増加する。
一方、個体差補正データ記憶部33を定電圧回路15とは別の電源である電源回路7で駆動した場合、
図8に示すように、個体差補正データ読み出し処理のための電流負荷により、電源回路7の発電電圧が電圧降下するが、定電圧回路15の出力には影響を与えていない。そのため、定電圧回路15の定電圧出力の設定は、発振回路11や温度センサー31等が駆動する範囲で小さくすることが可能となり、消費電流を小さくすることができる。
【0043】
ここで、
図9のタイミングチャートに示すように、第2スイッチ39が接続(オン)される第2電源接続期間は、個体差補正データ記憶部33が正常に動作するまでの立上り期間と、演算回路35が個体差補正データを読み出す個体差補正データ読み出し期間とを含んで設定されている。
同様に、第1スイッチ38が接続される第1電源接続期間も、温度補正テーブル記憶部32が正常に動作するまでの立ち上がり期間と、温度補正データを読み出す温度補正データ読み出し期間とを含んで設定されている。
【0044】
図10は、第1スイッチ38、第2スイッチ39によるスイッチ制御の有無による消費電流の変化を示すグラフである。温度補正テーブル記憶部32、個体差補正データ記憶部33を、スイッチ制御を行わずに電源回路7に接続している場合に比べて、スイッチ制御を行った場合は、温度補正テーブル記憶部32、個体差補正データ記憶部33の非動作時のリーク電流を低減することができ、ICの消費電流を小さくすることができる。また、特に温度が高くなると、リーク電流は指数関数的に増加するため、消費電流に与える影響は非常に大きくなり、スイッチ制御を行った場合はスイッチ制御無しの場合に比べて消費電流を大幅に低減できる。
図11は、発電機5にある一定の機械的エネルギーが与えられた時の消費電流と発電電圧との相関を示している。消費電流が大きくなると発電電圧は小さくなり、消費電流が小さくなると発電電圧は大きくなる。したがって、消費電流が小さければ、機械的エネルギーが小さい領域でも、ICを駆動できるだけの発電電圧が得られるようになり、持続時間を延ばすことができる。
【0045】
演算回路35は、温度センサー31の出力(温度)と、温度補正テーブル記憶部32に記憶された温度補正テーブルと、個体差補正データ記憶部33に記憶された個体差補正データとを利用して、歩度の補正量を計算し、その結果を、論理緩急回路36および周波数調整制御回路37に出力する。
本実施形態では、論理緩急回路36および周波数調整制御回路37の2つの方法で歩度の調整を行っている。
【0046】
論理緩急回路36は、分周回路12の各分周段に所定のタイミングでセットもしくはリセット信号を入力することで、デジタル的にクロック信号の周期を長くしたり、短くしたりする回路である。例えば、10秒に1回、約30.5μsec(1/32768Hz)だけクロック信号の周期を短くすると、1日では8640回クロックの周期を短くすることになるので、8640回×30.5μsec=0.264secだけ信号の変化が速くなる。つまり、1日で0.264sec/dayだけ時刻は進むことになる。なお、sec/day(s/d)は歩度であり、一日の時刻のずれを表す。
例えば、
図12に示すように、論理緩急回路36が分周回路12の分周段において、緩急前のクロック信号Aの立ち下がりのタイミングでセット信号を入力すれば、緩急後のクロック信号Bは半周期分だけ早く変化し、時刻を半周期分進めることができる。
【0047】
周波数調整制御回路37は、前述のとおり、発振回路11の付加容量を調整することにより、発振回路11の発振周波数そのものを調整する回路である。発振回路11は付加容量を大きくすると、発振周波数が小さくなるため、時刻を遅らすことができる。逆に、付加容量を小さくすると、発振周波数が大きくなるため、時刻を進ませることができる。例えば、
図13に示すように、調整前の発振信号A1に対し、付加容量を小さくした場合の発振信号B1は、発振周波数が大きくなり、周期が短くなるため、時刻を進ませることができる。そして、予め設定された所定時間(例えば10秒間)で付加容量を追加するもしくは追加しない時間の割合を調整することで、論理緩急に比べても歩度の調整を細かく行うことができる。
例えば、
図3の構成を有する発振回路11において、論理緩急の補正タイミング間隔(10秒間)の内、9.9秒間は周波数調整用の付加容量がドレイン111Dに接続されるように制御され、その時の歩度が0.1sec/dayであり、0.1秒間は周波数調整用の付加容量がドレイン111Dから切断されるように制御され、その時の歩度が1sec/dayであったとすると、10秒間の歩度の平均は0.109sec/dayとなる。したがって、0.109sec/day-0.1sec/day=0.009sec/dayだけ調整することができ、調整量が0.264sec/dayである論理緩急に比べて細かい調整が可能である。
【0048】
なお、論理緩急回路36は、論理緩急タイミングの周期を長くすることで、歩度の調整を細かく行うことができる。例えば、10秒に1回の調整を20秒に1回のタイミングにすれば、1日に実行される論理緩急の回数が半分になり、修正量も半分になる。ただし、販売店などで利用されている歩度の測定器のゲートタイムは、通常、10秒間であり、10秒より長い論理緩急周期だと正確に測定できず、アフターサービス上課題となる。
また、周波数調整制御回路37により、大きく歩度を調整しようとすると、非常に大きな追加付加容量が必要となる。大きな付加容量が付くと、発振回路11を駆動するための消費電流が増大し、低消費電流化を実現できない。
したがって、本実施形態では、粗い調整は論理緩急回路36を使用し、細かな調整は発振回路11の付加容量を調整する容量緩急を使用することで、低消費電流化や、アフターサービスの課題を解決している。
【0049】
次に、本実施形態の電子制御式機械時計1における歩度調整の実行方法に関して説明する。
前述したように、電子制御式機械時計1は、工場出荷前に、予め水晶振動子8の周波数-温度特性(歩度の温度特性)を測定し、水晶振動子8や温度センサー31の個体差補正データを求め、個体差補正データ記憶部33に記憶しておく。なお、温度補正テーブル記憶部32は、理想的な水晶振動子8、温度センサー31の場合の歩度の温度特性であるため、電子制御式機械時計1に共通する温度補正データが記憶されている。
【0050】
次に、電子制御式機械時計1の歩度調整について説明する。
電子制御式機械時計1が動作している際、温度補償機能制御回路21は、分周回路12から出力されるクロック信号をカウントして、定期的な温度測定タイミングを計測し、温度測定タイミングになると、温度を測定するステップを実行し、温度センサー31を作動し、温度センサー31で測定された温度を演算回路35に出力する。
演算回路35は、温度補正テーブル記憶部32、個体差補正データ記憶部33のデータを読み出し、読み出したデータを利用して温度センサー31の出力値の補正を行う。このデータ読み出し期間と、温度測定期間とは、重ならないように設定されている。すなわち、
図9に示すように、温度を測定するステップが実行されると、演算回路35は、第2スイッチ39を接続状態とし、個体差補正データ記憶部33から個体差補正データを読み出す。演算回路35は、個体差補正データの読み出し期間が終了したら、第2スイッチ39を非接続状態とし、温度センサー31による温度測定を実行する。
演算回路35は、温度測定期間が終了したら、第1スイッチ38を接続状態とし、温度補正テーブル記憶部32から温度補正データを読み出す。演算回路35は、温度補正データの読み出し期間が終了したら、第1スイッチ38を非接続状態とする。
なお、温度測定タイミングは、論理緩急回路36や周波数調整制御回路37による歩度調整タイミングと同じ周期でもよいが、温度変化はそれほど短時間で発生しないので、歩度調整タイミングよりも長い周期で実行しても良い。温度測定を頻繁に行うと、電流負荷により発電電圧の電圧が降下するため、歩度調整タイミングよりも長い周期(例えば160秒周期)での実行が好ましい。
【0051】
演算回路35は、温度補償用の補正量を演算するステップを実行し、温度測定タイミング(160秒)毎に測定された温度と、温度補正テーブル記憶部32、個体差補正データ記憶部33に記憶されたデータとに基づいて歩度の補正量を計算する。
例えば、水晶振動子8の発振周波数の温度特性が、
図14に示すように、25℃の場合に歩度が0(s/d)であり、25℃よりも低い低温や25℃よりも高い高温の場合に、温度に応じて歩度が0~-3(s/d)であるとする。この場合、演算回路35は測定温度に応じて、歩度を0(s/d)にするための補正量を算出する。さらに、演算回路35は、歩度の補正タイミング(例えば、10秒毎)になると、算出した補正量に応じて、論理緩急回路36および周波数調整制御回路37にそれぞれ補正量を入力し、発振回路11を制御するステップと、分周回路12を制御するステップを実行する。
例えば、測定温度が25℃近辺の場合には、周波数調整制御回路37のみで調整できる場合があり、この場合、演算回路35は、論理緩急回路36には補正量0(補正不要)を入力し、周波数調整制御回路37に歩度の補正量を入力する。また、測定温度が-10℃や+40℃など、25℃から離れている場合は、論理緩急回路36で粗い調整を行い、周波数調整制御回路37で細かい調整を行うため、それぞれの回路に補正量を入力する。
例えば、
図14において、周波数調整制御回路37によって調整できる補正量をΔY1とし、論理緩急回路36によって調整できる補正量をΔY2とすると、温度t[℃]の時には、論理緩急による粗調整1ステップ(ΔY2×1)と周波数調整による微調整3ステップ(ΔY1×3)を行う事により歩度の調整を行う。水晶振動子8(32kHz)を源振とする発振回路11の場合、デジタル的にクロック信号の周期を調整できる最小幅は約30μ秒となる。10秒に一回論理緩急を行うと、1日では8640回行うことになり、1日では約0.264秒だけ調整できる。これを何ステップ行うかを演算回路35が算出して制御する。
また、周波数調整は、論理緩急の補正タイミング間隔(10秒間)で、付加容量を追加する、もしくは、追加しない時間の割合を調整することで、歩度を微調整することができる。
【0052】
ここで、
図9に示すように、温度補正データ読み出し期間と、個体差補正データ読み出し期間と、温度測定部の動作期間には、データの読み出し動作や温度測定動作のために、電源回路7の電圧が低下する。このため、各期間が重ならないように制御することで、電流負荷を分散でき、電源回路7における発電電圧の電圧降下を少なくできる。
【0053】
論理緩急回路36は、演算回路35から入力された補正量に応じた論理緩急信号を分周回路12に出力し、論理緩急の補正タイミング毎(例えば10秒毎)に分周回路12のクロックのタイミングを変更することで歩度を調整する。
周波数調整制御回路37は、演算回路35から入力された補正量に応じて、発振回路11の付加容量を調整し、発振周波数を調整する。例えば、論理緩急の補正タイミング間隔(10秒間隔)の間で、付加容量を追加する、もしくは、追加しない時間の割合を調整し、論理緩急に比べて歩度を細かく調整できる。
このように、電子制御式機械時計1は、温度測定タイミング(160秒)毎に測定された温度に基づいて歩度の補正量を設定し、この補正量に応じて論理緩急回路36、周波数調整制御回路37を作動させることで、分周回路12から出力される基準信号fs1の精度を向上できる。制動制御回路14は、回転検出回路13で検出した回転検出信号FG1の周波数(周期)が、分周回路12から出力される基準信号fs1と一致するようにブレーキ制御する。このため、分周回路12から出力される基準信号fs1の精度が高ければ、ローター5Aの回転速度も同様に精度が高くなる。ローター5Aは、増速輪列3に連結されており、ローター5Aの回転速度の精度が向上すれば、増速輪列3に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置4の各指針も正確な時刻を指示することができる。
したがって、ぜんまい2を駆動源とする電子制御式機械時計1でありながら、いわゆる年差時計と呼ばれる時間精度の高い電子制御式機械時計1を提供できる。
【0054】
[第1実施形態の効果]
本実施形態によれば、水晶振動子8の温度特性を補償する温度補償機能部20を備えているので、電子制御式機械時計1を使用している環境の温度が基準温度(25℃)から離れていても、分周回路12から出力される基準信号fs1の精度を向上でき、これにより、制動制御回路14によるローター5Aの回転速度の精度も向上できて時刻表示装置4で指示する時刻精度も向上できる。したがって、電子制御式機械時計1を年差時計と呼ばれる高精度の時計とすることができる。
温度補正テーブル記憶部32は書き換え不要のため、マスクROM等で構成でき、個体差補正データ記憶部33のみを書き換え可能な不揮発性メモリーで構成できるので、補正データを効率的に記憶でき、IC内の面積を削減できる。個体差補正データ記憶部33を小さくする事に伴い、動作電流や非動作時のリーク電流も低減できる。
温度補正テーブル記憶部32および個体差補正データ記憶部33は、電源回路7との間に配置された第1スイッチ38および第2スイッチ39によって、補正データを読み出す期間のみ電源回路7に接続し、それ以外の期間は電源回路7から切り離すことができ、非動作時のリーク電流を削減できる。これにより、回転制御装置10の消費電流を小さくでき、ぜんまいから与えられる機械的エネルギーが小さい領域でも、ICを駆動できる電圧が得られるようになり、電子制御式機械時計1の持続時間を延ばすことができる。
【0055】
また、温度補償機能部20は、論理緩急回路36および周波数調整制御回路37を備えているので、低消費電流で細かな周波数制御が可能な温度補償機能を実現でき、信号精度を向上できて消費電力を低減できる。すなわち、論理緩急回路36のみで調整する場合には、歩度調整用の一般的な測定器のゲートタイムを考慮すると、細かい調整を行うことができない。また、周波数調整制御回路37のみで調整する場合は、付加容量を大きくすることで細かい調整は可能であるが、発振回路11を駆動するための消費電流が増大してしまう。さらに、温度補償機能としては、2本の水晶振動子を用いたツインクオーツや、高発振周波数水晶振動子等を使用する方法もあるが、歩留まりが悪化したり、低パワー化が困難であるため、電子制御式機械時計1に組み込むことができない。
これに対し、本実施形態では、論理緩急回路36および周波数調整制御回路37を併用し、粗い調整は論理緩急回路36で行い、細かい調整を周波数調整制御回路37で行うため、基準信号fs1の精度を向上でき、かつ、消費電流を抑制でき、電子制御式機械時計1用の温度補償機能部20として最適な構成とすることができる。
【0056】
回転制御装置10内に定電圧回路15を設けたので、回転制御装置10内の各回路を電圧変化が小さい定電圧で駆動することができ、消費電流を低減できる。よって、ぜんまいから与えられる機械的エネルギーが小さい領域でも、回転制御装置10が駆動できるだけの発電電圧が得られるようになり、電子制御式機械時計1の持続時間を延ばすことができる。
また、温度センサー31や発振回路11を定電圧で駆動することで、それらの出力信号における電圧変動による変動を小さくでき、電圧変動による精度の低下を防止できる。
さらに、温度補正テーブル記憶部32と個体差補正データ記憶部33は、温度センサー31や発振回路11を駆動する定電圧回路15で駆動しないため、温度補正テーブル記憶部32と個体差補正データ記憶部33の動作時の電流負荷による定電圧の変動が無くなるため、定電圧を低く設定でき、消費電流を削減できる。このため、電子制御式機械時計1で高精度を実現する上で、最適な構成にできる。
【0057】
温度センサー31を動作させる温度測定期間と、温度補正テーブル記憶部32からデータを読み出す温度補正データ読み出し期間と、個体差補正データ記憶部33からデータを読み出す個体差補正データ読み出し期間とを異なるタイミングに設定し、各期間が重ならないように制御しているので、電流負荷を分散でき、ICの動作停止電圧を下回る電源回路7の電圧降下を防止できる。よって、ぜんまいから与えられる機械的エネルギーが小さく、電源回路7の両端に発生する発電電圧が小さくなる領域においても、発電電圧がICの動作停止を下回ることがなくなり、正確に調速できて、電子制御式機械時計1の持続時間を長くすることができる。
【0058】
回転制御装置10は、SOIプロセスのICで構成されているので、ICに搭載される回路を低電圧で駆動でき、消費電流を低減できる。また、個体差補正データ記憶部33をFAMOSで構成したので、耐圧が低いSOIプロセスのICに個体差補正データ記憶部33を設けた場合に、FAMOSへの書き込みを低電圧で行え、ICに耐圧を超える電圧が加わることを防止できる。したがって、SOIプロセスにより、低リーク電流、低電圧駆動が可能な、温度補償機能を持った回転制御装置10を構成でき、ぜんまいから得られる機械的エネルギーが小さくなる領域においても、回転制御装置10を駆動でき、電子制御式機械時計1の持続時間を長くすることができる。
【0059】
温度補正テーブルをマスクROMで構成される温度補正テーブル記憶部32に記憶し、個体差補正データを電圧印加等で書き換え可能な不揮発性メモリーで構成される個体差補正データ記憶部33に記憶したので、IC内での記憶部の面積を小さくできる。すなわち、マスクROMは、半導体メモリーの中で最も単純な構成であるため、集積度を高くでき、温度補正テーブル記憶部32を電圧印加等で書き換え可能な不揮発性メモリーで構成する場合に比べて面積を小さくできる。
【0060】
温度センサー31として、定電流で駆動するCR発振回路320を使用したので、環境温度に応じた周波数の信号がCR発振回路320から出力され、その周波数により温度を検出することができる。また、温度センサー31の駆動電流は、定電流で決まるため、設計により電流値をコントロールし易く、容易に低消費電流化できる。
消費電流が小さくなれば、ぜんまいから与えられる機械的エネルギーが小さい領域でも、ICが駆動できるだけの発電電圧が得られるようになり、電子制御式機械時計1の持続時間を延ばすことができる。
【0061】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の電子時計1Bについて、
図15を参照して説明する。なお、電子時計1Bにおいて、第1実施形態の電子制御式機械時計1と同一の構成に関しては同一符号を付し、説明を簡略する。
電子時計1Bは、時計用のIC10Bと、IC10Bを駆動する電源40と、水晶振動子8と、モーター42と、モーター42によって駆動される減速輪列43と、減速輪列43に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置4とを備えた一般的なアナログクオーツ時計である。なお、電源40は、一次電池や二次電池で構成され、電源40を二次電池で構成した場合は、別途、ソーラーセルや回転錘を用いた発電機等の二次電池を充電する充電装置を備えることが好ましい。
【0062】
IC10Bは、第1実施形態の回転制御装置10と同様に、SOI(Silicon on Insulator)プロセスによって製造されたICであり、発振回路11、分周回路12、モーター制御回路41および温度補償機能部20を備えて構成されている。
水晶振動子8、発振回路11、分周回路12は、第1実施形態と同じ構成である。分周回路12は、前記発振信号を分周して所定周波数のクロック信号を作成し、モーター制御回路41に出力する。モーター制御回路41は、入力されたクロック信号に基づいて、モーター42を駆動する。
【0063】
温度補償機能部20は、第1実施形態と同一の構成であり、温度補償機能制御回路21と、温度補償回路30とを備える。
温度補償機能制御回路21は、第1実施形態と同じく、所定のタイミングになると、温度補償回路30を動作させる。
温度補償回路30は、温度測定部である温度センサー31と、温度補正テーブル記憶部32と、個体差補正データ記憶部33と、演算回路35と、論理緩急回路36と、周波数調整制御回路37とを備え、第1実施形態と同一の構成であるため、説明を省略する。
【0064】
なお、第1実施形態では、回転制御装置10において、外部とのインターフェイス(回転検出回路13)と、温度補正テーブル記憶部32と、個体差補正データ記憶部33とを除く各回路を定電圧回路15で駆動していたが、第2実施形態の電子時計1Bでは、定電圧回路を設けずに、IC10Bは電源40によって駆動されている。
【0065】
[第2実施形態の効果]
本実施形態においても、前記第1実施形態と同じ温度補償機能部20を備えているので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。例えば、電子時計1Bを使用している環境の温度が基準温度(25℃)から乖離しても、分周回路12から出力されるクロック信号の精度を向上でき、これにより、モーター制御回路41によるモーター42の駆動精度も向上できて時刻表示装置4で指示する時刻精度も向上できる。したがって、電子時計1Bを年差時計と呼ばれる高精度の時計とすることができる。
温度補正テーブル記憶部32および個体差補正データ記憶部33は、第1実施形態と同じく、電源40との間に配置された図示略の第1スイッチおよび第2スイッチによって、補正データを読み出す期間のみ電源40に接続し、それ以外の期間は電源40から切り離すことができ、非動作時のリーク電流を削減できる。これにより、IC10Bの消費電流を小さくでき、一次電池や二次電池の消耗を抑えることができるため、電子時計1Bの持続時間を延ばすことができる。
【0066】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の電子時計1Cについて、
図16を参照して説明する。電子時計1Cは、電子時計用のIC10Cに定電圧回路45を設けた点が、第2実施形態の電子時計1Bと相違し、その他の構成は電子時計1Bと同一である。このため、電子時計1Bと相違する構成のみ説明する。
定電圧回路45は、第1実施形態の定電圧回路15と同様に、電源40から供給される外部電圧を一定電圧(定電圧)に変換して供給する回路である。電子時計1Cの定電圧回路45は、発振回路11および分周回路12を駆動している。
【0067】
[第3実施形態の効果]
第3実施形態の電子時計1Cにおいても、電子制御式機械時計1や電子時計1Bと同様の温度補償機能部20を備えているので、第1、2実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
発振回路11および分周回路12を駆動する定電圧回路45を設けたので、発振回路11および分周回路12を電圧変化が小さい定電圧で駆動することができ、消費電流を低減できる。
また、発振回路11を定電圧で駆動することで、電源40の出力電圧が変動しても、発振回路11の出力信号の変動を抑制でき、電圧変動による精度の低下を防止できる。
さらに、温度補正テーブル記憶部32と個体差補正データ記憶部33は、発振回路11を駆動する定電圧回路45で駆動しないため、温度補正テーブル記憶部32と個体差補正データ記憶部33の動作時の電流負荷による定電圧の変動を無くすことができる。このため、定電圧を低く設定でき、消費電流を削減でき、電子時計1Cで高精度を実現する上で、最適な構成にできる。
【0068】
[変形例]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
温度補償機能部20は、温度センサー31と、論理緩急回路36と、周波数調整制御回路37と、演算回路35とを備えていればよく、演算回路35が温度センサー31の測定値に基づいて補正量を算出する方法は、温度補正テーブル記憶部32、個体差補正データ記憶部33に記憶された温度補正テーブルや個体差補正データを用いるものに限定されない。例えば、各電子制御式機械時計1で共通する温度補正テーブルを用いずに、個体差の補正データを反映した温度補正テーブルを作成し、不揮発性メモリーに記憶してもよい。また、温度補正テーブルを用いずに、温度と周波数との関係を示す関係式を用いて補正量を算出してもよい。
【0069】
前記各実施形態では、温度センサー31を動作させる温度測定期間と、温度補正データ読み出し期間と、個体差補正データ読み出し期間とを異なるタイミングに設定していたが、一部が重なるタイミングに設定してもよい。例えば、電源回路7の電圧が比較的高い場合は、温度測定期間と、温度補正データ読み出し期間または個体差補正データ読み出し期間とが重なるように設定してもよい。
また、温度センサー31は、CR発振回路320を用いたものに限定されず、電子制御式機械時計1に組み込み可能なものであればよい。
【0070】
定電圧回路15で駆動される対象は前記第1、3実施形態の例に限定されず、実施にあたって適宜設定すれば良い。
温度補償機能部20は、SOIプロセスで製造されたICに限定されず、実施にあたって適宜設定すれば良い。
温度補正テーブル記憶部32は、マスクROMで構成されたものに限定されない。また、個体差補正データ記憶部33は、FAMOSで構成されたものに限定されない。これらも実施にあたって適宜設定すれば良い。
温度補正テーブル記憶部32や、個体差補正データ記憶部33は、電源回路7での駆動に限定されない。定電圧回路15とは別の定電圧回路を設けても良い。
【0071】
電子時計としては、アナログクオーツ時計に限定されず、デジタルクオーツ時計や、アナログクオーツ時計とデジタルクオーツ時計の表示機能を有するコンビネーションクオーツ時計にも適用できる。
【符号の説明】
【0072】
1…電子制御式機械時計、1B、1C…電子時計、2…機械的エネルギー源であるぜんまい、3…エネルギー電圧装置である増速輪列、4…時刻表示装置、5…発電機、5A…ローター、5B…コイル、6…整流回路、7…電源回路、8…水晶振動子、10…回転制御装置、10B、10C…IC、11…発振回路、12…分周回路、13…回転検出回路、14…制動制御回路、15…定電圧回路、20…温度補償機能部、21…温度補償機能制御回路、30…温度補償回路、31…温度測定部である温度センサー、32…温度補正テーブル記憶部、33…個体差補正データ記憶部、35…演算回路、36…論理緩急回路、37…周波数調整制御回路、38…第1スイッチ、39…第2スイッチ、41…モーター制御回路、42…モーター、43…減速輪列、50…ブレーキ回路、71…電源コンデンサー、120…周波数調整部、130…レベルシフター、310…定電流回路、320…CR発振回路、370…出力バッファー。