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特許7192952モータ冷却システム及びモータ冷却監視方法
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  • 特許-モータ冷却システム及びモータ冷却監視方法 図1
  • 特許-モータ冷却システム及びモータ冷却監視方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】モータ冷却システム及びモータ冷却監視方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/24 20060101AFI20221213BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20221213BHJP
   H02P 29/032 20160101ALI20221213BHJP
【FI】
H02K9/24 B
H02K9/19 Z
H02P29/032
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021192662
(22)【出願日】2021-11-29
【審査請求日】2022-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】上村 清
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-69166(JP,A)
【文献】特開2019-210969(JP,A)
【文献】特開昭57-145546(JP,A)
【文献】実開昭54-89412(JP,U)
【文献】実開昭54-89411(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/24
H02K 9/19
H02P 29/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの冷却油を循環させるオイルポンプと、
予め設定された閾値に対し、前記オイルポンプの駆動電流の複数サンプリング点に対する標準偏差が大きいときに前記冷却油の減少を検知する判定部と、
を有することを特徴とするモータ冷却システム。
【請求項2】
前記モータを駆動するインバータをさらに有し、
前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると、前記駆動電流の標準偏差に応じたトルクリミット値を出力し、
前記インバータの制御部は、前記モータの上位系から受信したトルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないリミット処理した後のトルク指令値に基づき当該インバータの主回路のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を出力すること
を特徴とする請求項1に記載のモータ冷却システム。
【請求項3】
モータの冷却油を循環させるオイルポンプと、
予め設定された標準駆動電流に対し、複数サンプリングした駆動電流の移動平均値が一定量過少な状態が所定時間継続すると前記冷却油の減少を検知する判定部と、
を有することを特徴とするモータ冷却システム。
【請求項4】
前記モータを駆動するインバータをさらに有し、
前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると、前記駆動電流の移動平均値に応じたトルクリミット値を出力し、
前記インバータの制御部は、前記モータの上位系から受信したトルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないリミット処理した後のトルク指令値に基づき当該インバータの主回路のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を出力すること
を特徴とする請求項3に記載のモータ冷却システム。
【請求項5】
モータの冷却油を循環させるオイルポンプと、
予め設定された閾値に対し、前記オイルポンプの回転速度の複数サンプリング点に対する標準偏差が大きいときに前記冷却油の減少を検知する判定部と、
を有することを特徴とするモータ冷却システム。
【請求項6】
前記モータを駆動するインバータをさらに有し、
前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると、前記回転速度の標準偏差に応じたトルクリミット値を出力し、
前記インバータの制御部は、前記モータの上位系から受信したトルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないリミット処理した後のトルク指令値に基づき当該インバータの主回路のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を出力すること
を特徴とする請求項5に記載のモータ冷却システム。
【請求項7】
モータの冷却油を循環させるオイルポンプと、
予め設定された標準回転速度に対し、複数サンプリングした回転速度の移動平均値が一定量過少な状態が所定時間継続すると前記冷却油の減少を検知する判定部と、
を有することを特徴とするモータ冷却システム。
【請求項8】
前記モータを駆動するインバータをさらに有し、
前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると、前記回転速度の移動平均値に応じたトルクリミット値を出力し、
前記インバータの制御部は、前記モータの上位系から受信したトルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないリミット処理した後のトルク指令値に基づき当該インバータの主回路のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を出力することを特徴とする請求項7に記載のモータ冷却システム。
【請求項9】
前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると警報信号を外部に出力することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のモータ冷却システム。
【請求項10】
予め設定された閾値に対し、モータの冷却油を循環させるオイルポンプの駆動電流若しくは回転速度の複数サンプリング点に対する標準偏差が大きいときに当該モータの冷却油の減少を検知することを特徴とするモータ冷却監視方法。
【請求項11】
モータの冷却油を循環させるオイルポンプを有するモータ冷却システムにおけるモータ冷却監視方法であって、
予め設定された標準駆動電流若しくは標準回転速度に対し、複数サンプリングした駆動電流若しくは回転速度の移動平均値が一定量過少な状態が所定時間継続すると前記冷却油の減少を検知することを特徴とするモータ冷却監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油冷式モータの冷却技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用などのモータの冷却方法としては、モータの筐体内部のオイルパンに溜めた冷却油を電動式オイルポンプで循環させることで、ステータコイル等の部位の冷却が行われる(特許文献1)。前記冷却に供された冷却油はオイルクーラを介した冷却水により冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-152944号公報
【文献】特開2013-243876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記モータの冷却油量が当該モータの筐体の亀裂やシール部の経年劣化により減少し、オイルパンの冷却油吸い込み口以下まで油面が低下すると、冷却油と共にエアも吸い込まれる。これによりステータコイル等の被冷却部へ噴射される冷却油の比重が低下し冷却が不十分となる。この状態で使用を続けるとモータが過熱し寿命の短命化を招き、最悪時は故障を招く。
【0005】
本発明は、以上の事情を鑑み、モータの筐体の亀裂やシール部の経年劣化による冷却油の減少を検知してモータの過熱及び破損を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の一態様は、モータの冷却油を循環させるオイルポンプと、予め設定された閾値に対し、前記オイルポンプの駆動電流の複数サンプリング点に対する標準偏差が大きいときに前記冷却油の減少を検知する判定部と、を有するモータ冷却システムである。
【0007】
本発明の一態様は、前記モータ冷却システムにおいて、前記モータを駆動するインバータをさらに有し、前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると、前記駆動電流の標準偏差に応じたトルクリミット値を出力し、前記インバータの制御部は、前記モータの上位系から受信したトルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないリミット処理した後のトルク指令値に基づき当該インバータの主回路のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を出力する。
【0008】
本発明の一態様は、モータの冷却油を循環させるオイルポンプと、予め設定された標準駆動電流に対し、複数サンプリングした駆動電流の移動平均値が一定量過少な状態が所定時間継続すると前記冷却油の減少を検知する判定部と、を有するモータ冷却システムである。
【0009】
本発明の一態様は、前記モータ冷却システムにおいて、前記モータを駆動するインバータをさらに有し、前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると、前記駆動電流の移動平均値に応じたトルクリミット値を出力し、前記インバータの制御部は、前記モータの上位系から受信したトルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないリミット処理した後のトルク指令値に基づき当該インバータの主回路のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を出力する。
【0010】
本発明の一態様は、モータの冷却油を循環させるオイルポンプと、予め設定された閾値に対し、前記オイルポンプの回転速度の複数サンプリング点に対する標準偏差が大きいときに前記冷却油の減少を検知する判定部と、を有するモータ冷却システムである。
【0011】
本発明の一態様は、前記モータ冷却システムにおいて、前記モータを駆動するインバータをさらに有し、前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると、前記回転速度の標準偏差に応じたトルクリミット値を出力し、前記インバータの制御部は、前記モータの上位系から受信したトルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないリミット処理した後のトルク指令値に基づき当該インバータの主回路のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を出力する。
【0012】
本発明の一態様は、モータの冷却油を循環させるオイルポンプと、予め設定された標準回転速度に対し、複数サンプリングした回転速度の移動平均値が一定量過少な状態が所定時間継続すると前記冷却油の減少を検知する判定部と、を有するモータ冷却システムである。
【0013】
本発明の一態様は、前記モータ冷却システムにおいて、前記モータを駆動するインバータをさらに有し、前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると、前記回転速度の移動平均値に応じたトルクリミット値を出力し、前記インバータの制御部は、前記モータの上位系から受信したトルク指令値に対して前記トルクリミット値を超えないリミット処理した後のトルク指令値に基づき当該インバータの主回路のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を出力する。
【0014】
本発明の一態様は、前記モータ冷却システムにおいて、前記判定部は、前記冷却油の減少を検知すると警報信号を外部に出力する。
【0015】
本発明の一態様は、予め設定された閾値に対し、モータの冷却油を循環させるオイルポンプの駆動電流若しくは回転速度の複数サンプリング点に対する標準偏差が大きいときに当該モータの冷却油の減少を検知するモータ冷却監視方法である。
【0016】
本発明の一態様は、モータの冷却油を循環させるオイルポンプを有するモータ冷却システムにおけるモータ冷却監視方法であって、予め設定された標準駆動電流若しくは標準回転速度に対し、複数サンプリングした駆動電流若しくは回転速度の移動平均値が一定量過少な状態が所定時間継続すると前記冷却油の減少を検知する。
【発明の効果】
【0017】
以上の本発明によれば、モータの筐体の亀裂やシール部の経年劣化による冷却油の減少を検知してモータの過熱及び破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一態様であるモータ冷却システムの概略構成図。
図2】本発明の一態様であるモータ冷却システムの概略構成図。
図3】本発明の一態様であるモータ冷却システムが適用されるモータの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0020】
図1,2に示された本発明の一態様である実施形態1のモータ冷却システム1は、図3に例示した油冷式のモータ2に適用される。
【0021】
モータ冷却システム1は、モータ2のロータ21と同軸に配されたステータコイル22に冷却油を循環供給することによりステータコイル22を冷却する。前記冷却油は、モータ2に設けられたオイルポンプ23により供給され、モータ2の筐体20に形成された油路25を介して筐体20内のステータコイル22に噴射される。前記冷却油の流量はオイルポンプ23の回転速度により制御される。回転速度は、オイルポンプ23に具備された図示省略の専用モータより制御される。前記冷却に供された冷却油は、筐体20に形成されたオイルパン24に移行する。オイルパン24に貯留した冷却油は、オイルポンプ23により油路25に供給されると共に、モータ2のオイルクーラ26を介した冷却水により冷却される。
【0022】
以下、モータ冷却システム1の具体的な態様例について説明する。
【0023】
[実施形態1]
図1に示された実施形態1のモータ冷却システム1は、オイルポンプ23の駆動電流Ipを周期的に監視し、駆動電流Ipの複数サンプリング点に対する標準偏差に基づき冷却油の減少を検知する判定部33を備える。
【0024】
判定部33は、例えば、インバータ3またはインバータ3と独立して備えられる。尚、インバータ3は、モータ2を駆動する主回路31と、モータ2のモータ電流Iに基づくゲート信号を主回路31に出力する制御部32と、を備える。
【0025】
モータ2の筐体20の亀裂やシール部の経年劣化に因り、冷却油が減少してオイルパン24の油面が低下し、エアが混入するとオイルポンプ23への負荷が変動してオイルポンプ23の駆動電流Ipが不規則に変化する。
【0026】
判定部33は前記負荷の変動に因る駆動電流Ipの変化の現象を利用して冷却油の減少を検知する。すなわち、判定部33は、オイルポンプ23の駆動電流Ipの周期的なサンプリングを行い、この複数サンプリング点に対する駆動電流Ipの標準偏差が閾値よりも大きいと判断すると冷却油の減少を検知する。前記閾値は、冷却油が減少した状態でのモータ2の運転試験により得られたオイルポンプ23の駆動電流Ipの測定値とその時の標準偏差計算値に基づき予め設定される。
【0027】
以上のモータ冷却システム1によれば、オイルポンプ23の駆動電流Ipの変動を監視することでモータ2の筐体20の亀裂やシール部の経年劣化に因る冷却油の減少を検知できる。よって、前記亀裂や経年劣化に因るモータ2の冷却油の減少及び不十分な循環を防止できるので、モータ2の過熱や破損を予防でき、モータ2の寿命低下や故障を未然に防止できる。
【0028】
[実施形態2]
実施形態2の判定部33は、実施形態1の駆動電流Ipの代わりにオイルポンプ23の回転速度Npを周期的に監視し、回転速度Npの複数サンプリング点に対する標準偏差に基づき冷却油の減少を検知する。
【0029】
モータ2の筐体20の亀裂やシール部の経年劣化に因り、冷却油が減少してオイルパン24の油面が低下し、エアが混入するとオイルポンプ23への負荷が変動しオイルポンプ23の回転速度Npが不規則に変化する。
【0030】
判定部33は前記負荷の変動に因る回転速度Npの変化の現象を利用して冷却油の減少を検知する。すなわち、判定部33は、オイルポンプ23の回転速度Npの周期的なサンプリングを行い、この複数サンプリング点に対する回転速度Npの標準偏差が閾値よりも大きいと判断すると冷却油の減少を検知する。前記閾値は、実施形態1と同様に、冷却油が減少した状態でのモータ2の運転試験により得られたオイルポンプ23の回転速度Npの測定値とその時の標準偏差計算値に基づき予め設定される。
【0031】
以上のモータ冷却システム1によれば、オイルポンプ23の回転速度Npの変動を監視することでモータ2の筐体20の亀裂やシール部の経年劣化に因る冷却油の減少を検知できる。よって、実施形態1と同様に、モータ2の過熱や破損を予防でき、モータ2の寿命低下や故障を未然に防止できる。
【0032】
[実施形態3]
実施形態3の判定部33は、冷却油温度とオイルポンプ23の駆動制御電圧との関係に基づく標準駆動電流に対し、数点サンプリングしたオイルポンプ23の駆動電流Ipの移動平均値に基づき冷却油の減少を検知する。
【0033】
モータ2の筐体20の亀裂やシール部の経年劣化に因り、冷却油が減少してオイルパン24の油面が低下し、エアが混入するとオイルポンプ23の負荷が軽くなるので、オイルポンプ23の駆動電流Ipが不規則な変化をしながら低下する。
【0034】
判定部33は、前記標準駆動電流に対し、複数サンプリングした駆動電流Ipの移動平均値が一定量過少な状態が所定時間継続すると判断すると冷却油の減少を検知する。前記標準駆動電流は、前記冷却油が減少した状態で前記モータを運転する事前試験時での前記オイルポンプ23の駆動電流測定値に基づき予め設定される。また、移動平均値演算の周期は、実施形態1での「オイルポンプ23の駆動電流Ipが不規則に変化する周期」よりも長く設定される。
【0035】
以上のモータ冷却システム1によれば、オイルポンプ23の駆動電流Ipの移動平均値を監視することでモータ2の筐体20の亀裂やシール部の経年劣化に因る冷却油の減少を検知できる。よって、実施形態1,2と同様に、モータ2の過熱や破損を予防でき、モータ2の寿命低下や故障を未然に防止できる。
【0036】
[実施形態4]
実施形態4の判定部33は、実施形態3の標準駆動電流の代わりに適用されたオイルポンプ23の標準回転速度に対し、数点サンプリングしたオイルポンプ23の回転速度Npの移動平均値に基づき冷却油の減少を検知する。
【0037】
モータ2の筐体20の亀裂やシール部の経年劣化に因り、冷却油が減少してオイルパン24の油面が低下し、エアが混入するとオイルポンプ23の負荷が軽くなるので、オイルポンプ23の回転速度Npが不規則な変化をしながら低下する。
【0038】
判定部33は、前記標準回転速度に対し、複数サンプリングした回転速度Npの移動平均値が一定量過少な状態が所定時間継続すると判断すると冷却油の減少を検知する。前記標準回転速度は、前記冷却油が減少した状態で前記モータを運転する事前試験時での前記オイルポンプ23の回転速度測定値に基づき予め設定される。また、移動平均値演算の周期は、実施形態3と同様に実施形態2での「オイルポンプ23の回転速度Npが不規則に変化する周期」よりも長く設定される。
【0039】
以上のモータ冷却システム1によれば、オイルポンプ23の駆動電流Ipの移動平均値を監視することでモータ2の筐体20の亀裂やシール部の経年劣化に因る冷却油の減少を検知できる。よって、実施形態1~3と同様に、モータ2の過熱や破損を予防でき、モータ2の寿命低下や故障を未然に防止できる。
【0040】
[実施形態5]
実施形態5の判定部33は、実施形態1~4において、前記冷却油の減少を検知すると、当該減少を示す警報信号をインバータ3の外部へ出力してユーザに警告を行う。したがって、本実施形態によれば、モータ2の筐体の亀裂やシール部の経年劣化による冷却油の減少を知ることができる。
【0041】
尚、実施形態5は、異常判定時(冷却油の減少の判定時)にインバータ3に対して特別な制御を行わないので、判定部33をインバータ3内に設ける必要はないことから、インバータ3を有しないモータ2を駆動するシステムにおいても、適用できる。
【0042】
[実施形態6]
図2に示された実施形態6のインバータ3は、実施形態1~5のいずれかの方法により冷却油の減少を検知した際に、モータ2のトルク抑制を行うことで、モータ2に供される電流を低減し、モータ2の異常加熱による寿命の低下、故障を未然に防ぐ。
【0043】
判定部33は、モータ2のモータ電流I、オイルポンプ23の駆動電流Ip若しくは回転速度Npを検知し、実施形態1~4のいずれかの方法により冷却油の減少を判定する。そして、冷却油の減少を検知すると、判定部33はトルクリミット値Tlmtを制御部32に出力する。尚、トルクリミット値Tlmtは、オイルポンプ23の駆動電流Ip若しくは回転速度Npの標準偏差や移動平均値に応じた適正値を事前試験に基づき予め設定され、さらにデータテーブル化され、判定部33内のメモリに格納される。
【0044】
次いで、制御部32は、モータ2の上位系から受信したトルク指令値Trefに対して、トルクリミット値Tlmtを超えないリミット処理を行い、このリミット処理した後のトルク指令値に基づき主回路31のスイッチング素子をオンオフさせるゲート信号を生成する。この制御部32の処理においては特許文献2のトルク制御技術を適用すればよい。
【0045】
そして、主回路31は、制御部32から出力された前記ゲート信号に基づき各スイッチング素子をオンオフ制御することで、所望のモータ電流Iを通流する。
【0046】
以上の動作により、モータ2のトルクと電流を低減(つまり、モータ2が発生する銅損を低減)できるため、実施形態1~5の効果に加え、モータ2のコイルの温度上昇を抑制でき、モータ2の寿命の低下及び故障を防止できる。尚、本実施形態においては、トルクリミット値Tlmtの代わりに、制御部32で演算する電流指令値のリミット値Ilmtを設定して出力する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…モータ冷却システム
2…モータ、20…筐体、21…ロータ、22…ステータコイル、23…オイルポンプ、24…オイルパン、25…油路、26…オイルクーラ
3…インバータ、31…主回路、32…制御部、33…判定部
【要約】
【課題】モータの筐体の亀裂やシール部の経年劣化による冷却油の減少を検知してモータの過熱及び破損を防止すること。
【解決手段】モータ冷却システム1において、判定部33は、オイルポンプ23の駆動電流Ip若しくは回転速度Npの周期的なサンプリングを行い、この複数サンプリング点に対する駆動電流Ip若しくは回転速度Npの標準偏差が予め設定された閾値よりも大きいと判断するとモータ2の冷却油の減少を検知する。前記閾値は、冷却油が減少した状態でのモータ2の運転試験により得られたオイルポンプ23の駆動電流Ip若しくは回転速度Npの測定値に基づき設定される。
【選択図】図1
図1
図2
図3