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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】測距装置及び測距方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/10 20200101AFI20221213BHJP
【FI】
G01S17/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021501420
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007235
(87)【国際公開番号】W WO2020174567
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】野口 栄実
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148634(JP,A)
【文献】特開2013-088313(JP,A)
【文献】特開2010-145346(JP,A)
【文献】特開2002-139565(JP,A)
【文献】特開2012-052920(JP,A)
【文献】特開2008-249541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S7/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号の強度がパルス状に変化した複数の送信パルスであって、前記送信パルスの2つの領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスの2つの領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成する生成手段と、
生成された前記送信パルスを繰り返し送信する送信手段と、
前記送信パルスが測距対象物で反射した反射パルスを受信する受信手段と、
受信された前記反射パルスの2つの領域それぞれにおける位相の差である位相差を検出する検出手段と、
受信された前記反射パルスの受信タイミングと、当該反射パルスから検出された前記位相差に対応する前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する距離算出手段と
を有する測距装置。
【請求項2】
前記生成手段は、基準周波数の光信号を、前記基準周波数に対してオフセットした周波数の変調信号の2つの領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るようにして変調することで、前記送信パルスを生成する
請求項に記載の測距装置。
【請求項3】
前記生成手段は、前記送信パルスの送信順序と位相差とを対応付ける位相差テーブルを用いて前記複数の送信パルスを生成し、
前記距離算出手段は、前記反射パルスの受信タイミングと、前記位相差テーブルを用いて前記反射パルスと対応付けられた前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する
請求項1又は2に記載の測距装置。
【請求項4】
光信号の強度がパルス状に変化した複数の送信パルスであって、前記送信パルスの2つの領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスの2つの領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成し、
生成された前記送信パルスを繰り返し送信し、
前記送信パルスが測距対象物で反射した反射パルスを受信し、
受信された前記反射パルスの2つの領域それぞれにおける位相の差である位相差を検出し、
受信された前記反射パルスの受信タイミングと、当該反射パルスから検出された前記位相差に対応する前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する
測距方法。
【請求項5】
基準周波数の光信号を、前記基準周波数に対してオフセットした周波数の変調信号の2つの領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るようにして変調することで、前記送信パルスを生成する
請求項に記載の測距方法。
【請求項6】
前記送信パルスの送信順序と位相差とを対応付ける位相差テーブルを用いて前記複数の送信パルスを生成し、
前記反射パルスの受信タイミングと、前記位相差テーブルを用いて前記反射パルスと対応付けられた前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する
請求項4又は5に記載の測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置及び測距方法に関し、特に、パルスを送信しその反射を受信することで測距を行う測距装置及び測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測距の対象である測距対象物までの距離を計測する方法として、タイム・オブ・フライト(Time of Flight;ToF)方式がある。ToF方式では、測距の対象である測距対象物に向けて変調された光パルスが放射され、その測距対象物からの変調光パルスの反射を受信することで、測距対象物までの距離を算出する。ここで、光パルスは、周期的に繰り返し送信され得る。
【0003】
この技術に関連し、特許文献1は、タイム・オブ・フライトセンサ又はタイム・オブ・フライトカメラを用いてシーンの距離情報を提供する方法を開示する。特許文献1にかかる方法は、ある摂動周波数と摂動周期をもつ周期的摂動によって拡散された基準周波数を有するクロックタイミングに基づく変調信号に従って、シーンに向けて周期的光信号を放射することと、シーンからの周期的光信号の反射を受信することと、周期的光信号の受信した反射に対し、複数の測定継続時間からなるセットに亘ってタイム・オブ・フライト情報を変調信号に従って評価することと、受信した反射に対するタイム・オブ・フライト情報から距離情報を導き出すことと、を含む。ここで、セットの中の各測定継続時間は、摂動周期の整数倍又は半整数倍であり、かつ測定継続時間のセットの全体に亘って基準周波数の平均が一定に保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-522979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測距対象物までの距離が長い場合又は繰り返し送信される送信パルスの送信周期が短い場合、光パルスが送信されてから光パルスの反射光を受信するまでの時間の方が、送信パルスの送信周期よりも長いことがある。このような場合、受信された光が、どのタイミングで送信された送信パルスの反射光であるのかが特定できなくなるおそれがある。言い換えると、受信された反射光と送信パルスとが対応付けられないおそれがある。このような場合、適切に測距を行うことができないおそれがある。ここで、特許文献1にかかる技術では、放射された光信号と反射光とが対応付けられていない。したがって、特許文献1にかかる技術では、適切に測距を行うことができないおそれがある。
【0006】
本開示の目的は、このような課題を解決するためになされたものであり、測距対象物までの距離又は送信パルスの送信周期によらないで、適切に測距を行うことが可能な測距装置及び測距方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかる測距装置は、光信号の強度がパルス状に変化した複数の送信パルスであって、前記送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成する生成手段と、生成された前記送信パルスを繰り返し送信する送信手段と、前記送信パルスが測距対象物で反射した反射パルスを受信する受信手段と、受信された前記反射パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差を検出する検出手段と、受信された前記反射パルスの受信タイミングと、当該反射パルスから検出された前記位相差に対応する前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する距離算出手段とを有する。
【0008】
また、本開示にかかる測距方法は、光信号の強度がパルス状に変化した複数の送信パルスであって、前記送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成し、生成された前記送信パルスを繰り返し送信し、前記送信パルスが測距対象物で反射した反射パルスを受信し、受信された前記反射パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差を検出し、受信された前記反射パルスの受信タイミングと、当該反射パルスから検出された前記位相差に対応する前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、測距対象物までの距離又は送信パルスの送信周期によらないで、適切に測距を行うことが可能な測距装置及び測距方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態にかかる測距装置の概要を示す図である。
図2】本開示の実施の形態にかかる測距装置によって実行される測距方法の概要を示す図である。
図3】パルスを用いて測距対象物までの距離を算出する方法の概要を説明するための図である。
図4】実施の形態1にかかる測距装置の構成を示す図である。
図5】実施の形態1にかかる光変調器の動作を説明するための図である。
図6】実施の形態1にかかる位相差テーブルを例示する図である。
図7】実施の形態1にかかる測距装置によって実行される測距方法を示すフローチャートである。
図8】比較例にかかる送信パルスと反射パルスとの関係を示すタイミングチャートである。
図9】比較例にかかる送信パルスと反射パルスとの関係を示すタイミングチャートである。
図10】実施の形態1にかかる送信パルスと反射パルスとの関係を示すタイミングチャートである。
図11】実施の形態2にかかる光変調器の動作を説明するための図である。
図12】実施の形態2にかかる位相差テーブルを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示にかかる実施の形態の概要)
本開示の実施形態の説明に先立って、本開示にかかる実施の形態の概要について説明する。図1は、本開示の実施の形態にかかる測距装置1の概要を示す図である。また、図2は、本開示の実施の形態にかかる測距装置1によって実行される測距方法の概要を示す図である。
【0012】
測距装置1は、生成手段として機能する生成部2と、送信手段として機能する送信部4と、受信手段として機能する受信部6と、検出手段として機能する検出部8と、距離算出手段として機能する距離算出部10とを有する。生成部2は、光信号の強度がパルス状に変化した複数の送信パルスを生成する。このとき、生成部2は、送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差が送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成する。つまり、生成部2は、送信パルスごとに位相差が異なる複数の送信パルスを生成する(ステップS12)。
【0013】
送信部4は、生成された送信パルスを繰り返し送信する(ステップS14)。受信部6は、送信パルスが測距対象物90で反射した反射パルスを受信する(ステップS16)。検出部8は、受信された反射パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差を検出する(ステップS18)。距離算出部10は、受信された反射パルスの受信タイミングと、当該反射パルスから検出された位相差に対応する送信パルスの送信タイミングとに基づいて、測距対象物90までの距離を算出する(ステップS20)。
【0014】
図3は、パルスを用いて測距対象物90までの距離を算出する方法の概要を説明するための図である。図3は、ToF方式の動作原理を示している。送信部4によって、送信周期(パルス周期)Tpで、送信パルスPlstA及びPlstBが送信される。ここで、各送信パルスの幅であるパルス幅を、Twとする。そして、送信パルスPlstAが測距対象物90で反射すると、受信部6によって、その反射光である反射パルスPlsrAが受信される。また、送信パルスPlstBが測距対象物90で反射すると、受信部6によって、その反射光である反射パルスPlsrBが受信される。なお、送信周期(パルス周期)Tpは、一定でなくてもよい。
【0015】
また、送信パルスPlstAが送信された時間と反射パルスPlsrAが受信された時間との時間差、つまり光(パルス)の飛行時間をTdとする。また、光速をcとする。この場合、測距対象物90までの距離Rは、以下の式1で表される。
(式1)R=c×Td/2
これにより、距離算出部10によって、距離Rが算出される。
【0016】
図3に示した例では、2つの送信パルスPlstA及び送信パルスPlstBがパルス周期Tpで送信され、それぞれの反射光である反射パルスPlsrA及び反射パルスPlsrBが受信される。ここで、仮に、測距対象物90までの距離が長い場合、時間差Tdがパルス周期Tpよりも長くなることがある。また、パルス周期Tpが短い場合でも、時間差Tdがパルス周期Tpよりも長くなることがある。つまり、測距対象物90までの距離又はパルス周期によっては、Td>Tpとなることがある。このようなケースでは、反射パルスPlsrAが受信される前に、次の送信パルスPlstBが送信されてしまう。このとき、受信された反射パルスPlsrAが、送信パルスPlstAの反射光であるのか送信パルスPlstBの反射光であるのかが特定できないと、適切に測距できないおそれがある。すなわち、送信パルスPlstBの送信時間と反射パルスPlsrAの受信時間との時間差から測距を行うと、実際の測距対象物90までの距離よりも短い距離が算出されてしまう。
【0017】
これに対し、本実施の形態にかかる測距装置1は、送信パルスの複数の領域についての位相差が送信パルスの送信順序に応じて異なるように、送信パルスを生成するように構成されている。例えば、本実施の形態にかかる測距装置1は、位相差Δφ1を有する送信パルスPlst1を生成し、位相差Δφ2を有する送信パルスPlst2を生成する。そして、本実施の形態にかかる測距装置1は、受信された反射パルスPlsr1の位相差を検出して、送信パルスPlst1と反射パルスPlsr1とを互いに対応付けるように構成されている。したがって、本実施の形態にかかる測距装置1及び測距方法は、測距対象物までの距離又は送信パルスの送信周期によらないで、適切に測距を行うことが可能となる。
【0018】
(実施の形態1)
次に、実施の形態1について説明する。
図4は、実施の形態1にかかる測距装置100の構成を示す図である。実施の形態1にかかる測距装置100は、送信系モジュールとして、位相差テーブル格納部102と、変調信号生成部104と、光変調器106と、光源108と、光送信部120とを有する。位相差テーブル格納部102、変調信号生成部104、光変調器106及び光源108によって、送信順序に応じて異なる位相差を有する送信パルスを生成するパルス生成部110が構成される。このパルス生成部110は、図1に示した生成部2に対応する。また、光送信部120は、図1に示した送信部4に対応する。
【0019】
また、実施の形態1にかかる測距装置100は、受信系モジュールとして、光受信部122と、光源124と、光干渉系ユニット130と、光電変換部132と、ADコンバータ134とを有する。光受信部122は、図1に示した受信部6に対応する。また、実施の形態1にかかる測距装置100は、位相差検出部152と、反射パルス特定部154と、距離算出部160とを有する。位相差検出部152は、図1に示した検出部8に対応する。また、距離算出部160は、図1に示した距離算出部10に対応する。
【0020】
ここで、実施の形態1においては、送信パルスが前半と後半の2つの領域に分かれているとする。そして、送信パルスの前半と後半の2つの領域において、光信号の位相が互いに異なり得るとする。言い換えると、送信パルスの前半の位相と後半の位相とが、互いに異なり得るとする。そして、これらの位相の差である位相差が、送信パルスの送信順序に応じて異なるとする。なお、以下、送信パルス(変調信号及び反射パルス)における前半の領域を領域#1、後半の領域を領域#2と称することがある。ここで、「送信パルスの前半の位相と後半の位相とが、互いに異なり得る」とは、前半の位相と後半の位相とが同じ場合もあるということである。この場合、位相差は0度となる。
【0021】
なお、上述した各構成要素は、何らかのデバイス又は演算回路等の回路等によって実現し得る。演算回路は、例えば、FPGA(field-programmable gate array)等である。このことは、他の実施の形態においても同様である。
【0022】
位相差テーブル格納部102は、位相差テーブルを格納する。位相差テーブルは、送信パルスの送信順序と、送信パルスにおける位相差とを対応付けたルックアップテーブルである。例えば、位相差テーブルは、1番目の送信パルスにおける位相差をΔφ1、2番目の送信パルスにおける位相差をΔφ2といったような対応付けを行っていてもよい。また、位相差テーブルは、後述する図6に示すように、送信パルスの順序と、各領域における位相とを対応付けてもよい。これにより、位相差テーブルは、送信パルスの送信順序と、送信パルスにおける位相差とを対応付けることとなる。
【0023】
変調信号生成部104は、位相差テーブル格納部102に格納された位相差テーブルを用いて、送信パルスを生成するための変調信号を生成する。ここで、後述する図5に示すように、変調信号は、周波数オフセットf1に対応し、位相差テーブルに応じた位相(位相差)で形成された波形を有する電気信号である。変調信号生成部104は、生成された変調信号を、光変調器106に対して出力する。
【0024】
さらに、変調信号生成部104は、周波数オフセットf1に対応する送信パルスが送信されるタイミングで、測定スタートトリガTrgtを距離算出部160に対して出力する。ここで、測定スタートトリガTrgtは、各順序の送信パルス(Plst1、Plst2、・・・)それぞれの送信タイミングを示す。実施の形態1では、変調信号生成部104は、位相差Δφ1に対応する変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt1を距離算出部160に対して出力する。また、変調信号生成部104は、位相差Δφ2に対応する変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt2を距離算出部160に対して出力する。以下同様にして、変調信号生成部104は、Δφnに対応する変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgtnを距離算出部160に対して出力する。
【0025】
光源108は、後述する図5に示すような、基準周波数f0の光信号を発生させる。光信号は、光変調器106に入力される。光変調器106は、変調信号生成部104から入力された変調信号及び光源108から入力された光信号(変調器入力信号)を用いて、互いに異なる位相差Δφ1、Δφ2、・・・、Δφnを有する複数の送信パルスを生成する。光変調器106は、生成された送信パルスを含む光信号を、光送信部120に対して出力する。
【0026】
例えば、光変調器106は、2つのマッハツェンダー変調器を組み合わせたI/Q(In Phase / Quadrature Phase)光変調器を用いて実現することができる。光変調器106は、I/Q信号それぞれで位相が90度異なる2つの変調信号(I信号及びQ信号)を用いて、光信号(変調器入力信号)を変調する。これにより、光変調器106は、変調信号の周波数および位相状態にもとづいて、各パルス毎に異なる位相差を有する複数の送信パルスを生成する。
【0027】
図5は、実施の形態1にかかる光変調器106の動作を説明するための図である。また、図6は、実施の形態1にかかる位相差テーブルを例示する図である。図5には、3つの送信パルスが例示されている。図5に示すように、光変調器106に入力される光信号(変調器入力信号)は、一定の周波数f0の光信号である。また、変調信号となるI信号およびQ信号は、周波数f1のパルス状の波形を有し、Q信号はI信号に対して90度位相が遅れた信号であるとする。なお、パルス状の波形以外では、変調信号の振幅は0Vである。また、変調信号の周波数f1のパルス状の波形において、送信パルスそれぞれについて、領域#1と領域#2とで(前半と後半とで)、位相が異なり得る。そして、この領域#1の位相と領域#2の位相との間の位相差が、送信パルスごとに異なっている。なお、本来、光の周波数は、例えば波長1.55μmのときに約193THzと非常に高く、正確に波として図示するのが困難であるため、図5においては、光の周波数をイメージできるよう、便宜的に遅い周期の正弦波として模式的に光信号を表している。したがって、図5において、変調器入力信号、変調信号及び変調器出力信号の波形は、それぞれの信号の周波数に対応しているとは限らない。このことは、後述する図11においても同様である。
【0028】
このとき、光変調器106は、変調信号のパルス状の波形に応じて、光信号を変調して、変調された光信号(変調器出力信号)を出力する。この変調器出力信号が、送信パルスに対応する。ここで、図6に例示するように、実施の形態1では、各送信パルスの領域#1の位相はφ0(φ0=0deg)である。また、1番目のパルスPlst1の領域#2の位相はφ1(φ1=0deg)である。また、2番目のパルスPlst2の領域#2の位相はφ2(φ2=90deg)である。また、3番目のパルスPlst3の領域#2の位相はφ3(φ3=180deg)である。また、4番目のパルスPlst4の領域#2の位相はφ4(φ4=270deg)である。つまり、実施の形態1では、各送信パルスの領域#2の位相が互いに異なる。これにより、各送信パルスで互いに異なる位相差が設けられるようになる。
【0029】
図5及び図6に例示するように、1番目のパルスPlst1では、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相φ1が0度である。したがって、変調信号生成部104は、I信号として、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相φ1が0度である変調信号を生成し、Q信号として、前記I信号より90度遅れた変調信号を生成する。光変調器106は、これらのI信号及びQ信号を受信した場合には、周波数f0の光信号をf1シフトし、領域#1と領域#2とで位相が同じ0度となるように変調して、周波数f0+f1のパルスを出力する。これにより、領域#1の位相が0度(Phase1=0)であり、領域#2の位相が0度((Phase2=0)である、送信パルスPlst1が生成される。このとき、送信パルスPlst1における位相差Δφ1(=φ1-φ0)は、0度である。
【0030】
また、図5及び図6に例示するように、2番目のパルスPlst2では、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相φ2が90度である。したがって、変調信号生成部104は、I信号として、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相φ2が90度である変調信号を生成し、Q信号として、前記I信号より90度遅れた変調信号を生成する。光変調器106は、これらのI信号及びQ信号を受信した場合には、周波数f0の光信号をf1シフトし、領域#1の位相が0度、領域#2の位相が90度となるように変調して、周波数f0+f1のパルスを出力する。これにより、領域#1の位相が0度(Phase1=0)であり、領域#2の位相が90度(Phase2=90)である、送信パルスPlst2が生成される。このとき、送信パルスPlst2における位相差Δφ2(=φ2-φ0)は、90度である。
【0031】
また、図5及び図6に例示するように、3番目のパルスPlst3では、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相φ3が180度である。したがって、変調信号生成部104は、I信号として、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相φ3が180度である変調信号を生成し、Q信号として、前記I信号より90度遅れた変調信号を生成する。光変調器106は、これらのI信号及びQ信号を受信した場合には、周波数f0の光信号をf1シフトし、領域#1の位相が0度、領域#2の位相が180度となるように変調して、周波数f0+f1のパルスを出力する。これにより、領域#1の位相が0度(Phase1=0)であり、領域#2の位相が180度(Phase2=180)となる、送信パルスPlst3が生成される。このとき、送信パルスPlst3における位相差Δφ3(=φ3-φ0)は、180度である。なお、図5には示されていないが、上記と同様にして、位相差Δφ4(=φ4-φ0)が270度である送信パルスPlst4が生成される。
【0032】
このように、送信パルスとは、光強度がパルス状に変化する信号を示す。また、送信パルスPlst1,Plst2,Plst3,Plst4は、それぞれ、互いに異なる位相差Δφ1,Δφ2,Δφ3,Δφ4を有することになる。なお、変調器出力信号における破線は光強度(包絡線)を示す。
【0033】
なお、変調信号生成部104は、位相差Δφ1のパルス状の波形の変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt1を、距離算出部160に対して出力してもよい。変調信号生成部104は、位相差Δφ2のパルス状の波形の変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt2を、距離算出部160に対して出力してもよい。変調信号生成部104は、位相差Δφ3のパルス状の波形の変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt3を、距離算出部160に対して出力してもよい。変調信号生成部104は、位相差Δφ4のパルス状の波形の変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt4を、距離算出部160に対して出力してもよい。
【0034】
光送信部120は、測距対象物90に対して、複数の送信パルス(Plst1,Plst2,Plst3,Plst4)を含む光信号を送信(照射)する。送信パルスは、測距対象物90で、測距装置100に向かって反射する。光受信部122は、測距対象物90で反射した複数の反射パルスを含む光信号を受信する。ここで、受信された複数の反射パルスの周波数は、f0+f1である。なお、複数の送信パルスが同じ測距対象物90に照射される必要はない。したがって、送信パルスPlst1の往復の飛行時間と送信パルスPlst2の往復の飛行時間とは、互いに異なり得る。
【0035】
また、複数の送信パルスそれぞれについて異なる位相差を有しているので、受信された複数の反射パルスは、それぞれ、反射パルスごとに、複数の領域の位相差が異なるように形成されている。なお、送信側の光源108および受信側の光源124の位相ノイズや、光信号の往復の行程における位相ノイズが重畳され得るので、受信された反射パルスの各領域における位相は、送信パルスの各領域における位相とは異なり得る。しかしながら、これらの位相ノイズの時間変動は1つのパルス幅時間よりも十分に長く、1つのパルスで重畳されるノイズは一定であるとみなされるので、ある反射パルスにおける位相差は、対応する送信パルスの位相差Δφと実質的に同じであり得る。言い換えれば、位相ノイズが重畳しても、反射パルスの複数の領域の位相差情報は維持される。
【0036】
光干渉系ユニット130は、光源124からの周波数f0の光信号を参照光として用いて、反射パルス(受信光)の周波数オフセットを検出する。具体的には、光干渉系ユニット130は、光源124からの参照光と受信光とを干渉させて、ビート周波数を検出することにより、ヘテロダイン受信を行う。これにより、光源124の周波数は送信側の光源108と同じf0であるため、光干渉系ユニット130は、反射パルスの周波数オフセットを検出して、送信側での変調信号を復元することができる。例えば、光干渉系ユニット130は、光カプラを用いたミキサであってもよい。光干渉系ユニット130は、周波数オフセットに対応する周波数f1の光信号を、光電変換部132に出力する。また、受信側の参照光は、光源124の代わりに送信側の光源108を分岐したものを用いてもよい。光源108を分岐した参照光を用いることにより、送受信での周波数精度が維持されて、高精度な変調信号の復元が可能となる。
【0037】
光電変換部132は、光干渉系ユニット130からの光信号を電気信号に変換する。光電変換部132は、例えば、フォトディテクタを用いた光電変換器であってもよいし、フォトディテクタを2つ用いたバランスド光受信器であってもよい。ADコンバータ134は、光電変換部132によって変換されたアナログ信号である電気信号を、デジタル信号に変換する。ADコンバータ134によってデジタル信号に変換された周波数f1を示す電気信号は、位相差検出部152及び反射パルス特定部154に出力される。
【0038】
位相差検出部152は、反射パルスに対応する、周波数f1を示す電気信号における位相差を検出する。具体的には、位相差検出部152は、周波数f1を示す電気信号における、送信パルスにおいて位相が異なり得る各領域に対応する領域それぞれについて、位相を算出する。実施の形態1では、送信パルスは領域#1(前半)と領域#2(後半)とにおいて位相が異なり得るので、位相差検出部152は、反射パルスに対応する電気信号の前半の領域(領域#1)と後半の領域(領域#2)それぞれについて、位相を算出する。そして、位相差検出部152は、領域#1の位相と領域#2の位相との差分を算出することで、対応する反射パルスの位相差Δφを検出する。位相差検出部152は、検出された位相差Δφを、反射パルス特定部154に対して出力する。なお、位相差検出部152は、位相検出器又は位相比較器等によって構成され得るが、これに限られない。
【0039】
反射パルス特定部154は、位相差テーブル格納部102に格納された位相差テーブルを用いて、反射パルスから検出された位相差Δφに対応する送信パルスPlstを特定する。これにより、反射パルス特定部154は、反射パルスPlsrと送信パルスPlstとを対応付ける。また、反射パルス特定部154は、検出された位相差Δφを有する反射パルスの受信タイミングを抽出する。反射パルス特定部154は、特定された送信パルスPlstに対応する測定ストップトリガTrgrを、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。
【0040】
例えば、位相差Δφ1が特定された場合、位相差検出部152は、この位相差Δφ1に対応する反射パルスが、送信パルスPlst1と対応すると判定する。そして、位相差検出部152は、送信パルスPlst1に対応する測定ストップトリガTrgr1を、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。位相差Δφ2が特定された場合についても同様にして、位相差検出部152は、送信パルスPlst2に対応する測定ストップトリガTrgr2を、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。位相差Δφ3が特定された場合についても同様にして、位相差検出部152は、送信パルスPlst3に対応する測定ストップトリガTrgr3を、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。位相差Δφ4が特定された場合についても同様にして、位相差検出部152は、送信パルスPlst4に対応する測定ストップトリガTrgr4を、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。
【0041】
距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt(第1のトリガ信号)の出力タイミングと測定ストップトリガTrgr(第2のトリガ信号)の出力タイミングとの時間差から、式1を用いて、測距対象物90までの距離Rを算出する。ここで、距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt1の出力タイミングと測定ストップトリガTrgr1の出力タイミングとの時間差から、位相差Δφ1を有する送信パルスPlst1に関する距離Rを算出する。距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt2の出力タイミングと測定ストップトリガTrgr2の出力タイミングとの時間差から、位相差Δφ2を有する送信パルスPlst2に関する距離Rを算出する。以下同様にして、距離算出部160は、n番目の送信パルスに対応する測定スタートトリガTrgtnの出力タイミングと測定ストップトリガTrgrnの出力タイミングとの時間差から、位相差Δφnを有する送信パルスに関する距離Rを算出する。
【0042】
なお、送信パルスの各領域に対応する位相は、これらの位相差が位相差検出部152によって検出され得るように、適宜、設定され得る。なお、送信側の光源108および受信側の参照光の光源124の位相ノイズや、送信パルスの往復の行程で重畳される位相ノイズを考慮して、領域間の位相差はできるだけ大きいことが好ましい。例えば、位相差の下限を、45度としてもよい。
【0043】
図7は、実施の形態1にかかる測距装置100によって実行される測距方法を示すフローチャートである。パルス生成部110は、上述したように、送信順序に応じて異なる位相差Δφを有する送信パルスを生成する(ステップS102)。光送信部120は、S102の処理で生成された送信パルスを含む光信号を測距対象物90に対して送信(照射)する(ステップS104)。具体的には、パルス生成部110の光変調器106は、変調信号生成部104によって生成された変調信号を用いて、光信号(変調器入力信号)を変調する。これにより、光変調器106は、互いに異なる位相差を有する複数の送信パルスを生成する。また、この処理により、各送信パルスに、互いに異なる位相差が印加されたこととなる。なお、S104のタイミングで、各送信パルスに対応する測定スタートトリガTrgtが、距離算出部160に対して出力され得る。
【0044】
光受信部122は、反射パルスを含む光信号を受信する(ステップS106)。光干渉系ユニット130は、上述したように、参照光を用いて、各反射パルスの周波数オフセットを検出する(ステップS108)。位相差検出部152は、上述したように、受信された反射パルスにおける位相差を検出する(ステップS110)。反射パルス特定部154は、上述したように、反射パルスから検出された位相差に対応する送信パルスを特定し、反射パルスの受信タイミングで、特定された送信パルスPlstに対応する測定ストップトリガTrgrを出力する(ステップS112)。距離算出部160は、上述したように、測定スタートトリガTrgtと測定ストップトリガTrgrとを用いて、測距対象物90までの距離Rを算出する(ステップS114)。
【0045】
(比較例との比較)
次に、実施の形態1と比較例とを、タイミングチャートを用いて説明する。
図8及び図9は、比較例にかかる送信パルスと反射パルスとの関係を示すタイミングチャートである。図8及び図9に示す例では、送信パルスPlstA,PlstB,PlstCが、パルス周期Tpで送信されるとする。また、送信パルスPlstA,PlstB,PlstCの周波数及び位相は同じであるとする。さらに、図8に示す例では、送信パルスが測距対象物90に反射して戻ってくるまでの飛行時間が、パルス周期Tpよりも長いとする。
【0046】
まず、送信パルスPlstAが送信される。その後、送信パルスPlstBが送信された後で、送信パルスPlstAが測距対象物90で反射して返ってきた反射パルスPlsrAが受信される。このとき、図8に示す比較例においては、送信パルスPlstBの送信タイミングと反射パルスPlsrAの受信タイミングとの時間差Tdiff1’を用いて、測距を行ってしまうおそれがある。このように、時間差Tdiff1’を用いて測距を行うと、誤って距離を算出してしまう。
【0047】
一方、図9に示す例では、送信パルスが測距対象物90に反射して戻ってくるまでの飛行時間が、パルス周期Tpよりも短いとする。さらに、送信パルスPlstAが反射しなかったので、送信パルスPlstAの反射パルスPlsrAは受信されなかったとする。また、送信パルスPlstBは測距対象物に反射して、反射パルスPlsrBが受信されたとする。この場合、送信パルスPlstBの送信タイミングと反射パルスPlsrBの受信タイミングとの時間差Tdiff2を用いて、測距を行う。この測距処理は正しい処理であるが、図8に示した処理との区別がつかない。
【0048】
図8及び図9に示すような問題に対処するため、測距対象物までの距離が長いと想定される場合に、パルス周期を長くすることが考えられる。これにより、図8に示したような測距誤りを抑制できる。しかしながら、パルス周期を長くすると、測距を行ってから次の測距を行うまでの時間が長くなってしまうので、測距スピードが低下するおそれがある。したがって、所望のスピードで測距を行えないので、適切に測距を行うことができない。これに対し、実施の形態1にかかる測距装置100は、パルス周期を長くすることなく、測距を行うことができる。
【0049】
図10は、実施の形態1にかかる送信パルスと反射パルスとの関係を示すタイミングチャートである。図10に示す例では、送信パルスPlst1,Plst2,Plst3が、パルス周期Tpで送信されるとする。さらに、図10に示す例では、送信パルスが測距対象物90に反射して戻ってくるまでの飛行時間が、パルス周期Tpよりも長いとする。
【0050】
まず、位相差Δφ1(=φ1-φ0)を有する送信パルスPlst1が送信される。この送信タイミングで、測定スタートトリガTrgt1が距離算出部160に出力される。次に、位相差Δφ2(=φ2-φ0)を有する送信パルスPlst2が送信される。この送信タイミングで、測定スタートトリガTrgt2が距離算出部160に出力される。次に、位相差Δφ3(=φ3-φ0)を有する送信パルスPlst3が送信される。この送信タイミングで、測定スタートトリガTrgt3が距離算出部160に出力される。
【0051】
また、測距装置100は、送信パルスPlst3を送信した後、さらに異なる位相差Δφ4を有する送信パルスPlst4を送信してもよい。あるいは、測距装置100は、送信パルスPlst3を送信した後、再度、送信パルスPlst1を送信してもよい。なお、再度、送信パルスPlst1を送信するのは、光信号の往復の飛行時間が経過したと予想される後であり得る。このことは、他の実施の形態においても同様である。
【0052】
一方、送信パルスPlst2が送信された後で、反射パルスPlsr1が受信される。この受信タイミングで、周波数オフセットf1が検出され、受信タイミングが抽出され、測定ストップトリガTrgr1が距離算出部160に出力される。なお、送信された光信号は、測距対象物90における反射及び光信号の飛行行程において減衰する。これにより、反射パルスPlsr1の包絡線波形は、送信パルスPlst1の包絡線波形と比較して鈍化する。したがって、反射パルス特定部154は、反射パルスPlsr1の光強度が予め定められた閾値を超えるタイミングで、測定ストップトリガTrgr1を出力する。このことは、他の反射パルスPlsr2等においても同様である。
【0053】
ここで、反射パルスPlsr1の領域#1の位相はφ0+φx1であり、領域#2の位相はφ1+φx1である。ここで、φx1は、反射パルスPlsr1に重畳した位相ノイズである。このように、信号に重畳する位相ノイズの時間変動はパルス幅に対して十分長く、領域#1及び領域#2に同じ位相ノイズφx1が重畳し得るので、反射パルスPlsr1の位相差は、φ1-φ0(=Δφ1)と検出される。したがって、反射パルス特定部154は、反射パルスPlsr1が、位相差Δφ1に対応する1番目の送信パルスPlst1に対応すると判定する。したがって、反射パルス特定部154は、測定スタートトリガTrgt1に対応する測定ストップトリガTrgr1を、反射パルスPlsr1の受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。このとき、距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt1と測定ストップトリガTrgr1との時間差Tdiff1から、測距対象物90までの距離を算出する。
【0054】
また、送信パルスPlst3が送信された後で、反射パルスPlsr2が受信される。この受信タイミングで、周波数オフセットf1が検出され、受信タイミングが抽出され、測定ストップトリガTrgr2が距離算出部160に出力される。ここで、反射パルスPlsr2の領域#1の位相はφ0+φx2であり、領域#2の位相はφ2+φx2である。ここで、φx2は、反射パルスPlsr2に重畳した位相ノイズである。このように、信号に重畳する位相ノイズの時間変動はパルス幅に対して十分長く、領域#1及び領域#2に同じ位相ノイズφx2が重畳し得るので、反射パルスPlsr2の位相差は、φ2-φ0(=Δφ2)と検出される。したがって、反射パルス特定部154は、反射パルスPlsr2が、位相差Δφ2に対応する2番目の送信パルスPlst2に対応すると判定する。したがって、反射パルス特定部154は、測定スタートトリガTrgt2に対応する測定ストップトリガTrgr2を、反射パルスPlsr2の受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。このとき、距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt2と測定ストップトリガTrgr2との時間差Tdiff2から、測距対象物90までの距離を算出する。
【0055】
また、送信パルスPlst4(図示せず)が送信された後で、反射パルスPlsr3が受信される。この受信タイミングで、周波数オフセットf1が検出され、受信タイミングが抽出され、測定ストップトリガTrgr3が距離算出部160に出力される。ここで、反射パルスPlsr3の領域#1の位相はφ0+φx3であり、領域#2の位相はφ3+φx3である。ここで、φx3は、反射パルスPlsr3に重畳した位相ノイズである。このように、信号に重畳する位相ノイズの時間変動はパルス幅に対して十分長く、領域#1及び領域#2に同じ位相ノイズφx3が重畳し得るので、反射パルスPlsr3の位相差は、φ3-φ0(=Δφ3)と検出される。したがって、反射パルス特定部154は、反射パルスPlsr3が、位相差Δφ3に対応する3番目の送信パルスPlst3に対応すると判定する。したがって、反射パルス特定部154は、測定スタートトリガTrgt3に対応する測定ストップトリガTrgr3を、反射パルスPlsr3の受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。このとき、距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt3と測定ストップトリガTrgr3との時間差Tdiff3から、測距対象物90までの距離を算出する。
【0056】
このように、実施の形態1にかかる測距装置100は、ある位相差を有する送信パルスに関する測定スタートトリガ信号と、この位相差を有する反射パルスに関する測定ストップトリガ信号とを対応付けて、距離Rを算出している。言い換えると、測距装置100において、互いに対応する位相差を有する送信パルスと反射パルスとが対応付けられている。これにより、実施の形態1にかかる測距装置100は、送信パルスと、その送信パルスが測距対象物90で反射した反射光である反射パルスとを、適切に対応付けることができる。したがって、測距対象物までの距離又は送信パルスの送信周期によらないで、適切に測距を行うことが可能となる。さらに、送信パルスの各領域の位相を変えるだけで、送受信器(送信系モジュール及び受信系モジュール)の構造を複雑にすることなく、送信パルスを区別できるようになる。また、f0+f1のみの光周波数を用いて光信号を送受信するので、帯域が狭くても送信パルスの区別ができるようになる。
【0057】
つまり、実施の形態1にかかる測距装置100は、反射パルスにおける位相差を検出することで、受信した反射パルスが何番目の送信パルスに対応するのかを特定できる。これにより、測距対象物90までの距離が長距離である場合であっても、測距を行う周期を長くする必要がない。また、かなり短い周期で送信パルスを連続して測距対象物90に照射しても、受信系モジュールにおいて反射パルスを区別できるので、適切に、測距対象物90までの距離を算出することができる。さらに、かなり短い周期で送信パルスを連続して測距対象物90に照射することができるので、単位時間における測距回数を増加させることができる。
【0058】
また、実施の形態1にかかる測距装置100は、送信パルスの2つの領域#1,領域#2それぞれについて、互いに異なり得る位相となるように、送信パルスを生成する。そして、実施の形態1にかかる測距装置100は、反射パルスにおける領域#1の位相と領域#2の位相との間の位相差を検出することで、反射パルスに対応する送信パルスを判定している。これに対し、単に、各送信パルスの位相が単一であり、その位相が各送信パルスで異なるように構成すると、送信側の光源108および光源124の位相ノイズなどに起因する、反射パルスに重畳した位相ノイズにより、反射パルスで検出された位相がどの送信パルスに対応するのか、判定できないおそれがある。したがって、このように、反射パルスの「位相差」を検出するようにすることで、反射パルスに位相ノイズが重畳した場合であっても、確実に、反射パルスに対応する送信パルスを判定することができる。
【0059】
また、図5に示すように、実施の形態1にかかる測距装置100は、光源の周波数f0を、周波数f0からオフセットした周波数オフセットf1の変調信号の複数の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るようにして変調することで、送信パルスを生成する。これにより、簡単な構成で、1つの送信パルスで位相が異なる領域を有することを実現することが可能となる。なお、原理的には、周波数オフセットf1をかけないで、光周波数f0を有する光源の位相だけを位相変調し、同じく光周波数f0を有する参照光と干渉させてホモダイン受信することも可能である。しかしながら、様々な光の干渉成分が直流成分近傍にダウンコンバートされて混合されるため、対象となる測距信号だけを抽出するのが困難となることから、周波数オフセットf1を重畳して、ヘテロダイン受信するのが好ましい。
【0060】
また、実施の形態1にかかる測距装置100は、位相差テーブルを用いて位相差が送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された複数の送信パルスを生成し、位相差テーブルを用いて反射パルスと送信パルスとを対応付けるように構成されている。これにより、反射パルスに対応する送信パルスを、即座に判定することが可能となる。
【0061】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2においては、送信パルスの3つの領域それぞれにおける位相が互いに異なり得る点で、実施の形態1と異なる。なお、実施の形態2にかかる構成要素は、図4に示した実施の形態1における構成要素と実質的に同じであるので、適宜、説明を省略する。
【0062】
実施の形態2においては、送信パルスが前、中及び後の3つの領域に分かれているとする。ここで、前の領域を領域#1、中の領域を領域#2、後の領域を領域#3とする。そして、送信パルスの領域#1、領域#2、領域#3の3つの領域において、光信号の位相が互いに異なり得るとする。そして、これらの位相の差である位相差が、送信パルスの送信順序に応じて異なるとする。したがって、送信パルスの領域#1の位相と領域#2の位相との間の位相差Δφaと、領域#1の位相と領域#3の位相との間の位相差Δφbとの組が、送信パルスの送信順序に応じて異なることとなる。
【0063】
実施の形態2において、位相差テーブル格納部102に格納される位相差テーブルは、後述する図12に示すように、送信パルスの順序と、3つの領域それぞれにおける位相とを対応付けてもよい。また、実施の形態2において、位相差テーブルは、送信パルスの送信順序と、送信パルスにおける位相差の組とを対応付けてもよい。例えば、位相差テーブルは、1番目の送信パルスにおける位相差の組を(Δφa1,Δφb1)、2番目の送信パルスにおける位相差の組を(Δφa2,Δφb2)といったような対応付けを行っていてもよい。
【0064】
実施の形態1と同様に、実施の形態2にかかる変調信号生成部104は、位相差テーブル格納部102に格納された位相差テーブルを用いて、送信パルスを生成するための変調信号を生成する。変調信号生成部104は、周波数オフセットf1に対応する送信パルスが送信されるタイミングで、測定スタートトリガTrgtを距離算出部160に対して出力する。
【0065】
光源108は、後述する図11に示すような、基準周波数f0の光信号を発生させる。光信号は、光変調器106に入力される。光変調器106は、変調信号生成部104から入力された変調信号及び光源108から入力された光信号(変調器入力信号)を用いて、互いに異なる位相差の組を有する複数の送信パルスを生成する。光変調器106は、生成された送信パルスを含む光信号を、光送信部120に対して出力する。
【0066】
図11は、実施の形態2にかかる光変調器106の動作を説明するための図である。また、図12は、実施の形態2にかかる位相差テーブルを例示する図である。図11には、図5と同様に、3つの送信パルスが例示されている。図11に示すように、光変調器106に入力される光信号(変調器入力信号)は、一定の周波数f0の光信号である。また、変調信号となるI信号およびQ信号は、周波数f1のパルス状の波形を有し、Q信号はI信号に対して90度位相が遅れた信号であるとする。なお、パルス状の波形以外では、変調信号の振幅は0Vである。また、2つの変調信号の周波数f1のパルス状の波形において、送信パルスそれぞれについて、領域#1、領域#2、及び領域#3で(つまり送信パルスの前、中、後で)、位相が異なり得る。そして、領域#1の位相と領域#2の位相との間の位相差Δφaと、領域#1と領域#3との間の位相差Δφbとの組(Δφa,Δφb)が、送信パルスごとに異なっている。
【0067】
このとき、光変調器106は、変調信号のパルス状の波形に応じて、光信号を変調して、変調された光信号(変調器出力信号)を出力する。この変調器出力信号が、送信パルスに対応する。ここで、図12に例示するように、実施の形態2では、各送信パルスの領域#1の位相はφ0(φ0=0deg)である。また、1番目のパルスPlst1の領域#2の位相はφ1(φ1=0deg)であり、領域#3の位相はφ1(φ1=0deg)である。また、2番目のパルスPlst2の領域#2の位相はφ1であり、領域#3の位相はφ2(φ2=180deg)である。また、3番目のパルスPlst3の領域#2の位相はφ2であり、領域#3の位相はφ1である。また、4番目のパルスPlst4の領域#2の位相はφ2(φ2=180deg)であり、領域#3の位相はφ2(φ2=180deg)である。
【0068】
つまり、実施の形態2では、各送信パルスの領域#2の位相と領域#3の位相との組が互いに異なる。これにより、各送信パルスで互いに異なる位相差の組が設けられるようになる。なお、実施の形態1では、4つの送信パルスを区別するために、各送信パルスの領域#2の位相が互いに異なっているので、領域#2の位相として4種類の位相(φ1、φ2、φ3及びφ4)が必要となる。これに対し、実施の形態2では、4つの送信パルスを区別するために、位相差の組が異なればよいので、領域#2及び領域#3で使用される位相は、2種類(φ1及びφ2)でよい。
【0069】
図11及び図12に例示するように、1番目のパルスPlst1では、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相が0度であり、領域#3の位相が0度である。したがって、変調信号生成部104は、I信号として、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相がφ1=0度であり、領域#3の位相がφ1=0度である変調信号を生成し、Q信号として、前記I信号より90度遅れた変調信号を生成する。光変調器106は、これらのI信号及びQ信号を受信した場合には、周波数f0の光信号をf1シフトし、領域#1、領域#2及び領域#3で位相が同じ0度となるように変調して、周波数f0+f1のパルスを出力する。これにより、領域#1の位相が0度(Phase1=0)であり、領域#2の位相が0度(Phase2=0)であり、領域#3の位相が0度(Phase3=0)となる、送信パルスPlst1が生成される。このとき、送信パルスPlst1における、領域#1の位相と領域#2の位相との間の位相差Δφa1(=φ1-φ0)と、領域#1と領域#3との間の位相差Δφb1(=φ1-φ0)との組(Δφa1,Δφb1)は、(0,0)である。
【0070】
また、図11及び図12に例示するように、2番目のパルスPlst2では、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相がφ1=0度であり、領域#3の位相がφ2=180度である。したがって、変調信号生成部104は、I信号として、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相が0度であり、領域#3の位相が180度である変調信号を生成し、Q信号として、前記I信号より90度遅れた変調信号を生成する。光変調器106は、これらのI信号及びQ信号を受信した場合には、周波数f0の光信号をf1シフトし、領域#1の位相が0度、領域#2の位相が0度、領域#3の位相が180度となるように変調して、周波数f0+f1のパルスを出力する。これにより、領域#1の位相が0度(Phase1=0)であり、領域#2の位相が0度(Phase2=0)であり、領域#3の位相が180度(Phase3=180)となる、送信パルスPlst2が生成される。このとき、送信パルスPlst2における位相差Δφa2(=φ1-φ0)と位相差Δφb2(=φ2-φ0)との組(Δφa2,Δφb2)は、(0,180)である。
【0071】
図11及び図12に例示するように、3番目のパルスPlst3では、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相がφ2=180度であり、領域#3の位相がφ1=0度である。したがって、変調信号生成部104は、I信号として、領域#1の位相が0度であり、領域#2の位相が180度であり、領域#3の位相が0度である変調信号を生成し、Q信号として、前記I信号より90度遅れた変調信号を生成する。光変調器106は、これらのI信号及びQ信号を受信した場合には、周波数f0の光信号をf1シフトし、領域#1の位相が0度、領域#2の位相が180度、領域#3の位相が0度となるように変調して、周波数f0+f1のパルスを出力する。これにより、領域#1の位相が0度(Phase1=0)であり、領域#2の位相が180度(Phase2=180)であり、領域#3の位相が0度(Phase3=0)となる、送信パルスPlst3が生成される。このとき、送信パルスPlst3における位相差Δφa3(=φ2-φ0)と位相差Δφb3(=φ1-φ0)との組(Δφa3,Δφb3)は、(180,0)である。
【0072】
なお、図11には示されていないが、上記と同様にして、送信パルスPlst4における位相差Δφa4(=φ2-φ0)と位相差Δφb4(=φ2-φ0)との組(Δφa4,Δφb4)は、(180,180)である。このように、送信パルスPlst1,Plst2,Plst3,Plst4は、それぞれ、互いに異なる位相差の組を有することになる。
【0073】
なお、変調信号生成部104は、位相差の組が(Δφa1,Δφb1)となるパルス状の波形の変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt1を、距離算出部160に対して出力してもよい。変調信号生成部104は、位相差の組が(Δφa2,Δφb2)となるパルス状の波形の変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt2を、距離算出部160に対して出力してもよい。変調信号生成部104は、位相差の組が(Δφa3,Δφb3)となるパルス状の波形の変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt3を、距離算出部160に対して出力してもよい。変調信号生成部104は、位相差の組が(Δφa42,Δφb4)となるパルス状の波形の変調信号を出力するタイミングで、測定スタートトリガTrgt4を、距離算出部160に対して出力してもよい。
【0074】
実施の形態1と同様に、光送信部120は、測距対象物90に対して、複数の送信パルス(Plst1,Plst2,Plst3,Plst4)を含む光信号を送信(照射)する。送信パルスは、測距対象物90で、測距装置100に向かって反射する。光受信部122は、測距対象物90で反射した複数の反射パルスを含む光信号を受信する。ここで、受信された複数の反射パルスの周波数は、f0+f1である。
【0075】
また、複数の送信パルスそれぞれについて異なる位相差の組を有しているので、受信された複数の反射パルスは、それぞれ、反射パルスごとに複数の領域の位相差の組が異なるように形成されている。なお、送信側の光源108および受信側の光源124の位相ノイズや、光信号の往復の行程における位相ノイズが重畳され得るので、受信された反射パルスの各領域における位相は、送信パルスの対応する各領域における位相とは異なり得る。しかしながら、これらの位相ノイズの時間変動は1つのパルス幅時間よりも十分に長く、1つのパルスで重畳されるノイズは一定であるとみなされるので、ある反射パルスにおける位相差は、対応する送信パルスの位相差と実質的に同じであり得る。したがって、ある反射パルスにおける位相差の組は、対応する送信パルスの位相差の組(Δφa,Δφb)と実質的に同じであり得る。言い換えれば、位相ノイズが重畳しても、反射パルスの複数の領域の位相差情報は維持される。
【0076】
光干渉系ユニット130、光電変換部132及びADコンバータ134の動作は、実施の形態1と実質的に同様であるので、説明を省略する。位相差検出部152は、実施の形態1と同様に、反射パルスに対応する、周波数f1を示す電気信号における位相差を検出する。
【0077】
具体的には、位相差検出部152は、周波数f1を示す電気信号における、送信パルスにおいて位相が異なり得る各領域に対応する領域それぞれについて、位相を算出する。ここで、実施の形態2では、送信パルスは領域#1(前)と領域#2(中)領域#3(後)とにおいて位相が異なり得る。したがって、実施の形態2にかかる位相差検出部152は、反射パルスに対応する電気信号の領域#1(前)、領域#2(中)及び領域#3(後)それぞれについて、位相を算出する。そして、位相差検出部152は、領域#1の位相と領域#2の位相との差分を算出することで、対応する反射パルスの1つの位相差Δφaを検出する。同様に、位相差検出部152は、領域#1の位相と領域#3の位相との差分を算出することで、対応する反射パルスのもう1つの位相差Δφbを検出する。位相差検出部152は、検出された位相差Δφaと位相差Δφbとの組(Δφa,Δφb)を、反射パルス特定部154に対して出力する。
【0078】
反射パルス特定部154は、位相差テーブル格納部102に格納された位相差テーブルを用いて、反射パルスから検出された位相差の組(Δφa,Δφb)に対応する送信パルスPlstを特定する。これにより、反射パルス特定部154は、反射パルスPlsrと送信パルスPlstとを対応付ける。また、反射パルス特定部154は、検出された位相差の組(Δφa,Δφb)を有する反射パルスの受信タイミングを抽出する。反射パルス特定部154は、特定された送信パルスPlstに対応する測定ストップトリガTrgrを、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。
【0079】
例えば、位相差の組(Δφa1,Δφb1)が特定された場合、位相差検出部152は、この位相差の組(Δφa1,Δφb1)に対応する反射パルスが、送信パルスPlst1に対応すると判定する。そして、位相差検出部152は、送信パルスPlst1に対応する測定ストップトリガTrgr1を、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。位相差の組(Δφa2,Δφb2)が特定された場合についても同様にして、位相差検出部152は、送信パルスPlst2に対応する測定ストップトリガTrgr2を、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。位相差の組(Δφa3,Δφb3)が特定された場合についても同様にして、位相差検出部152は、送信パルスPlst3に対応する測定ストップトリガTrgr3を、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。位相差の組(Δφa4,Δφb4)が特定された場合についても同様にして、位相差検出部152は、送信パルスPlst4に対応する測定ストップトリガTrgr4を、反射パルスの受信タイミングで、距離算出部160に対して出力する。
【0080】
距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt(第1のトリガ信号)の出力タイミングと測定ストップトリガTrgr(第2のトリガ信号)の出力タイミングとの時間差から、式1を用いて、測距対象物90までの距離Rを算出する。ここで、距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt1の出力タイミングと測定ストップトリガTrgr1の出力タイミングとの時間差から、位相差の組(Δφa1,Δφb1)を有する送信パルスPlst1に関する距離Rを算出する。距離算出部160は、測定スタートトリガTrgt2の出力タイミングと測定ストップトリガTrgr2の出力タイミングとの時間差から、位相差の組(Δφa2,Δφb2)を有する送信パルスPlst2に関する距離Rを算出する。以下、距離算出部160は、n番目の送信パルスに対応する測定スタートトリガTrgtnの出力タイミングと測定ストップトリガTrgrnの出力タイミングとの時間差から、位相差の組(Δφan,Δφbn)を有する送信パルスに関する距離Rを算出する。
【0081】
このように、実施の形態2にかかる測距装置100は、ある位相差の組を有する送信パルスに関する測定スタートトリガ信号と、この位相差の組を有する反射パルスに関する測定ストップトリガ信号とを対応付けて、距離Rを算出している。言い換えると、測距装置100において、互いに対応する位相差の組を有する送信パルスと反射パルスとが対応付けられている。これにより、実施の形態1と同様に、実施の形態2にかかる測距装置100は、送信パルスと、その送信パルスが測距対象物90で反射した反射光である反射パルスとを、適切に対応付けることができる。したがって、実施の形態2においても、測距対象物までの距離又は送信パルスの送信周期によらないで、適切に測距を行うことが可能となる。
【0082】
また、実施の形態1と異なり、実施の形態2にかかる測距装置100は、1つの送信パルスの3つの領域それぞれについて互いに異なり得る位相となるように、送信パルスを生成する。そして、実施の形態2にかかる測距装置100は、反射パルスにおける領域#1の位相と領域#2の位相との間の位相差と領域#1の位相と領域#3の位相との間の位相差との組を検出することで、反射パルスに対応する送信パルスを判定している。ここで、実施の形態1では、4つの送信パルス(反射パルス)を特定するために、4つの位相(0度、90度、180度、270度)を用いる必要がある。これに対し、実施の形態2では、2つの位相(0度、180度)を用いるだけで、4つの送信パルス(反射パルス)を特定することができる。
【0083】
実施の形態1では、1つの送信パルスにおける領域間の位相差の最小値(0度を除く)は、90度である。これに対し、実施の形態2では、1つの送信パルスにおける領域間の位相差の最小値(0度を除く)は、180度である。このように、実施の形態2では、1つの送信パルスにおける領域間の位相差の最小値を、実施の形態1の場合と比較して大きくすることができる。測距装置100(位相差検出部152)の位相の検出の精度が低い場合、90度の位相差を検出できないおそれがある。この場合では、実施の形態1の方法では、1つの反射パルスにおける領域間の位相差を適切に検出できないおそれがあるので、測距を適切に行うことができないおそれがある。これに対し、実施の形態2の方法では、90度の位相差を検出できない場合であっても、1つの反射パルスにおける領域間の位相差を適切に検出できる。したがって、実施の形態2にかかる測距装置100は、位相の検出の精度が低い場合であっても、反射パルスと送信パルスとを対応付けることができるので、適切に測距を行うことが可能となる。
【0084】
さらに、実施の形態2において、90度の位相差を検出できる場合に、3つの領域において0度、90度、180度、270度の位相のいずれかとなるようにすると、位相差の異なる16個の送信パルスを実現できる。したがって、実施の形態2にかかる測距装置100は、実施の形態1と比較して、多くの異なる送信パルスを生成することが可能となる。
【0085】
一方、実施の形態1では、1つの送信パルスにおける領域が2つのみなので、パルスの波形が、実施の形態2の波形と比較して複雑ではない。したがって、実施の形態1にかかる測距装置100は、実施の形態2と比較して、簡単に送信パルスを生成することができる。また、実施の形態2にかかる位相差検出部152が、1つの反射パルスについて2つの位相差を検出する必要があるのに対し、実施の形態1にかかる位相差検出部152は、1つの反射パルスについて1つの位相差を検出すればよい。したがって、実施の形態1にかかる測距装置100は、実施の形態2と比較して、簡単な処理で位相差の検出を行うことができる。
【0086】
(変形例)
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述した実施の形態では、送信パルスの最初の領域(領域#1)の位相が0度であるとしたが、これに限られない。領域#1の位相は、任意の位相であってもよい。さらに、各送信パルスで、領域#1の位相は同じである必要はない。例えば、送信パルスPlst1の領域#1の位相を0度とし、送信パルスPlst2の領域#1の位相を180度としてもよい。つまり、各送信パルスで位相差が異なるようにすれば、どの領域の位相を基準とするか、及び基準とする位相を何度にするかは、任意である。このことは、実施の形態2においても同様である。
【0087】
また、上述した実施の形態2では、送信パルスの領域#1の位相と領域#2の位相との位相差Δφaと、領域#1の位相と領域#3の位相との位相差Δφbとの組が、送信パルスごとに異なるとした。しかしながら、ここでいう位相差は、領域#1の位相と他の領域の位相との差とする必要はない。例えば、送信パルスの領域#2の位相と領域#1の位相との位相差Δφaと、領域#2の位相と領域#3の位相との位相差Δφbとの組が、送信パルスごとに異なるとしてもよい。
【0088】
また、上述した実施の形態2では、送信パルスの3つの領域の位相が異なり得るとしたが、このような構成に限られない。1つの送信パルスにおける領域の数は、4つ以上でもよい。つまり、送信パルスは、N個(Nは3以上の整数)領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、N個の領域それぞれにおける位相の差である位相差が送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成されてもよい。送信パルスの領域の数を増やすことで、用いる位相の種類を増加させることなく、反射パルスと送信パルスとの対応付けを行うことができる。
【0089】
また、距離算出部160は、測定スタートトリガの出力タイミングに、光変調器106等における処理時間を考慮してもよい。言い換えると、距離算出部160は、測定スタートトリガを受け付けてから、実際に測定スタートトリガに対応する送信パルスが送信されるまでの間の処理時間を考慮してもよい。この場合、距離算出部160は、測定スタートトリガの出力タイミングに光変調器106等における処理時間を加えたタイミングを、測距の開始タイミングとしてもよい。なお、光変調器106等における処理時間は、略一定であるとする。
【0090】
同様に、距離算出部160は、測定ストップトリガに、測定ストップトリガが出力される前の光干渉系ユニット130等の処理時間を考慮してもよい。言い換えると、距離算出部160は、光受信部122によって反射パルスが受信されてから反射パルス特定部154によって測定ストップトリガが出力されるまでの間の処理時間を考慮してもよい。この場合、距離算出部160は、測定ストップトリガの出力タイミングに光干渉系ユニット130等の処理時間を引いたタイミングを、測距の終了タイミングとしてもよい。なお、光干渉系ユニット130等における処理時間は、略一定であるとする。
【0091】
あるいは、変調信号生成部104は、後段の光送信部120によって送信パルスが送信されるまでの処理時間を考慮して、送信パルスが送信される時刻を示すような測定スタートトリガを出力してもよい。つまり、変調信号が生成された時刻をt1とし、光変調器106等における処理時間をΔt1とすると、変調信号生成部104は、時刻(t1+Δt1)を示す測定スタートトリガを出力してもよい。同様に、反射パルス特定部154は、前段の光干渉系ユニット130等における処理時間を考慮して、反射パルスが受信された時刻を示す測定ストップトリガを出力してもよい。つまり、反射パルス特定部154が信号を受信した時刻をt2とし、光干渉系ユニット130等における処理時間をΔt2とすると、反射パルス特定部154は、時刻(t2-Δt2)を示す測定ストップトリガを出力してもよい。この場合、距離算出部160は、Td=(t2-Δt2)-(t1+Δt1)として、式1を用いて距離Rを算出してもよい。
【0092】
上記に記した各処理部の処理時間を考慮した距離Rを算出するいずれの方式においても、各処理部の処理時間の影響は、距離Rのオフセットとして生じる。したがって、事前に既知の距離を測定した際の時間差をもとにキャリブレーションを行うことにより、各処理部の総処理時間を考慮した高精度な距離Rを算出してもよい。
【0093】
また、上述の実施の形態では、本実施の形態をハードウェアの構成として説明したが、本実施の形態は、これに限定されるものではない。本実施の形態は、測距装置内の各回路の少なくとも1つの処理を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0094】
上述の例において、プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0095】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0096】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
光信号の強度がパルス状に変化した複数の送信パルスであって、前記送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成する生成手段と、
生成された前記送信パルスを繰り返し送信する送信手段と、
前記送信パルスが測距対象物で反射した反射パルスを受信する受信手段と、
受信された前記反射パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差を検出する検出手段と、
受信された前記反射パルスの受信タイミングと、当該反射パルスから検出された前記位相差に対応する前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する距離算出手段と
を有する測距装置。
(付記2)
前記生成手段は、前記送信パルスの2つの領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスの2つの領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成する
付記1に記載の測距装置。
(付記3)
前記生成手段は、前記送信パルスの3以上のN個の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスのN個の領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成する
付記1に記載の測距装置。
(付記4)
前記生成手段は、基準周波数の光信号を、前記基準周波数に対してオフセットした周波数の変調信号の複数の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るようにして変調することで、前記送信パルスを生成する
付記1~3のいずれか1項に記載の測距装置。
(付記5)
前記生成手段は、前記送信パルスの送信順序と位相差とを対応付ける位相差テーブルを用いて前記複数の送信パルスを生成し、
前記距離算出手段は、前記反射パルスの受信タイミングと、前記位相差テーブルを用いて前記反射パルスと対応付けられた前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する
付記1~4のいずれか1項に記載の測距装置。
(付記6)
光信号の強度がパルス状に変化した複数の送信パルスであって、前記送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成し、
生成された前記送信パルスを繰り返し送信し、
前記送信パルスが測距対象物で反射した反射パルスを受信し、
受信された前記反射パルスの複数の領域それぞれにおける位相の差である位相差を検出し、
受信された前記反射パルスの受信タイミングと、当該反射パルスから検出された前記位相差に対応する前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する
測距方法。
(付記7)
前記送信パルスの2つの領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスの2つの領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成する
付記6に記載の測距方法。
(付記8)
前記送信パルスの3以上のN個の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るように構成され、前記送信パルスのN個の領域それぞれにおける位相の差である位相差が前記送信パルスの送信順序に応じて異なるように構成された、複数の送信パルスを生成する
付記6に記載の測距方法。
(付記9)
基準周波数の光信号を、前記基準周波数に対してオフセットした周波数の変調信号の複数の領域それぞれにおける位相が互いに異なり得るようにして変調することで、前記送信パルスを生成する
付記6~8のいずれか1項に記載の測距方法。
(付記10)
前記送信パルスの送信順序と位相差とを対応付ける位相差テーブルを用いて前記複数の送信パルスを生成し、
前記反射パルスの受信タイミングと、前記位相差テーブルを用いて前記反射パルスと対応付けられた前記送信パルスの送信タイミングとに基づいて、前記測距対象物までの距離を算出する
付記6~9のいずれか1項に記載の測距方法。
【符号の説明】
【0097】
1 測距装置
2 生成部
4 送信部
6 受信部
8 検出部
10 距離算出部
100 測距装置
102 位相差テーブル格納部
104 変調信号生成部
106 光変調器
108 光源
110 パルス生成部
120 光送信部
122 光受信部
124 光源
130 光干渉系ユニット
132 光電変換部
134 ADコンバータ
152 位相差検出部
154 反射パルス特定部
160 距離算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12