(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】イオンクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
G01N30/02 E
(21)【出願番号】P 2021508555
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013388
(87)【国際公開番号】W WO2020194608
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】藤原 理悟
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝正
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-535618(JP,A)
【文献】特開平04-301562(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021352(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0332387(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶離液に含まれる測定対象の試料をイオン種成分ごとに分離する分離カラムと、
入力ポート、第1の出力ポートおよび第2の出力ポートを有し、前記入力ポートに導入される電極液を分岐して前記第1の出力ポートおよび前記第2の出力ポートからそれぞれ排出する三交弁と、
前記分離カラムからの溶離液が通過する溶離液流路、前記第1の出力ポートからの電極液が通過する陽極側流路および前記第2の出力ポートからの電極液が通過する陰極側流路を含み、前記溶離液流路を通過する溶離液と、前記陽極側流路および前記陰極側流路を通過する電極液との間で電気分解によりイオン交換を行うイオンサプレッサと、
前記溶離液流路を通して前記分離カラムにより分離された試料を検出する検出器と、
前記陰極側流路における電極液の逆流を抑制する逆流抑制機構とを備える、イオンクロマトグラフ。
【請求項2】
前記逆流抑制機構は、
前記第1の出力ポートと前記陽極側流路の上流部とを接続する第1の配管と、
前記第2の出力ポートと前記陰極側流路の上流部とを接続する第2の配管とを含み、
前記第2の配管の流路抵抗は前記第1の配管の流路抵抗よりも小さい、請求項1記載のイオンクロマトグラフ。
【請求項3】
前記第2の配管の内径は前記第1の配管の内径よりも大きい、請求項2記載のイオンクロマトグラフ。
【請求項4】
前記第2の配管の内径は、前記第1の配管の内径の1.2倍以上6倍以下である、請求項3記載のイオンクロマトグラフ。
【請求項5】
前記第1の配管は前記第2の配管よりも長い、請求項2~4のいずれか一項に記載のイオンクロマトグラフ。
【請求項6】
前記第1の配管の長さは、前記第2の配管の長さの2倍以上1000倍以下である、請求項5記載のイオンクロマトグラフ。
【請求項7】
前記逆流抑制機構は、
前記第2の出力ポートと前記陰極側流路の上流部とを接続する配管と、
前記配管に介挿された逆流防止弁とを含む、請求項1記載のイオンクロマトグラフ。
【請求項8】
前記陰極側流路において前記陽極側流路よりも気泡が多く発生し、
前記イオンクロマトグラフは、前記第2の配管の流路抵抗が前記第1の配管の流路抵抗よりも小さいことにより、前記陰極側流路における気泡および電極液の逆流を抑制し、前記第2の配管に供給される電極液の流量と前記第1の配管に供給される電極液の流量とを、前記第2の配管の流路抵抗が前記第1の配管の流路抵抗と同じ場合と比較して、均等に近づかせる、請求項2記載のイオンクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンクロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフにおいては、分析対象の試料が溶離液とともに分離カラムに導入される。試料は、分離カラムを通過することによりイオン種成分ごとに分離され、溶離液とともに検出器のフローセルに導入される。フローセルに導入された試料の電気伝導度が順次検出されることによりクロマトグラムが生成される。分離カラムと検出器との間には、イオンサプレッサが配置されることがある。
【0003】
特許文献1に記載されたサプレッサにおいては、一対のガスケット間にサンプル流ガスケットが配置される。分離カラムを通過したクロマトグラフィ流出溶液は、サンプル流ガスケットのサンプル流スクリーンに導入される。検出器から流出された検出器流出溶液は、三交弁により分岐され、一対のガスケットのイオン交換スクリーンにそれぞれ導入される。検出器流出溶液とクロマトグラフィ流出溶液との間で電気透析によるイオン交換が行われることにより、クロマトグラフィ流出溶液の導電率が抑制される。
【文献】特許第4750279号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオンサプレッサの透析効率が低い場合には、溶離液の電気伝導度がそれほど低くならない。そのため、クロマトグラムのバックグラウンドが増加することにより、試料の分析精度が低下する。したがって、イオンサプレッサの透析効率を向上させることが望まれる。
【0005】
本発明の目的は、イオンサプレッサの透析効率が向上されたイオンクロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に従う態様は、溶離液に含まれる測定対象の試料をイオン種成分ごとに分離する分離カラムと、入力ポート、第1の出力ポートおよび第2の出力ポートを有し、前記入力ポートに導入される電極液を分岐して前記第1の出力ポートおよび前記第2の出力ポートからそれぞれ排出する三交弁と、前記分離カラムからの溶離液が通過する溶離液流路、前記第1の出力ポートからの電極液が通過する陽極側流路および前記第2の出力ポートからの電極液が通過する陰極側流路を含み、前記溶離液流路を通過する溶離液と、前記陽極側流路および前記陰極側流路を通過する電極液との間で電気分解によりイオン交換を行うイオンサプレッサと、前記溶離液流路を通して前記分離カラムにより分離された試料を検出する検出器と、前記陰極側流路における電極液の逆流を抑制する逆流抑制機構とを備える、イオンクロマトグラフに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、イオンサプレッサの透析効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の一実施の形態に係るイオンクロマトグラフの構成を示す図である。
【
図2】
図2は
図1のイオンサプレッサの構成を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は
図2のイオンサプレッサの動作を説明するための図である。
【
図4】
図4は第1の変形例に係るイオンクロマトグラフの構成を示す図である。
【
図5】
図5は第2の変形例に係るイオンクロマトグラフの構成を示す図である。
【
図6】
図6は実施例および比較例におけるクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)イオンクロマトグラフの構成
以下、本発明の実施の形態に係るイオンクロマトグラフについて図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るイオンクロマトグラフの構成を示す図である。
図1に示すように、イオンクロマトグラフ200は、イオンサプレッサ100、溶離液供給部110、試料供給部120、分離カラム130、検出器140、処理部150および三交弁160を備える。
【0010】
溶離液供給部110は、例えば薬液ボトル、送液ポンプおよび脱気装置を含み、水溶液等の溶離液を移動相として供給する。試料供給部120は、例えばインジェクタであり、分析対象の試料を溶離液供給部110により供給された溶離液とともに分離カラム130に導入する。分離カラム130は、図示しないカラム恒温槽の内部に収容され、所定の一定温度に調整される。分離カラム130は、導入された試料をイオン種成分ごとに分離する。
【0011】
検出器140は、電気伝導度検出器であり、イオンサプレッサ100を通過した分離カラム130からの試料および溶離液の電気伝導度を順次検出する。処理部150は、検出器140による検出結果を処理することにより、各イオン種成分の保持時間と電気伝導度との関係を示すクロマトグラムを生成する。
【0012】
三交弁160は、入力ポート161および出力ポート162,163を有する。出力ポート162,163がそれぞれ第1および第2の出力ポートの例である。入力ポート161は、配管201により検出器140と接続される。検出器140を通過した溶離液は、配管201を通して入力ポート161から三交弁160に電極液として導入される。三交弁160は、入力ポート161から導入された電極液を分岐し、出力ポート162,163からそれぞれ排出する。
【0013】
イオンサプレッサ100は、溶離液流路1、陽極側流路2および陰極側流路3を有し、分離カラム130と検出器140との間に配置される。陽極側流路2の上流部は、配管202により三交弁160の出力ポート162と接続される。陰極側流路3の上流部は、配管203により三交弁160の出力ポート163と接続される。配管202,203がそれぞれ第1および第2の配管の例である。
【0014】
分離カラム130を通過した試料および溶離液は、溶離液流路1を流れた後、検出器140に導かれる。三交弁160の出力ポート162から排出される電極液は、配管202を通して陽極側流路2の上流部に導入され、陽極側流路2を流れた後、陽極側流路2の下流部から排出される。三交弁160の出力ポート163から排出される電極液は、配管203を通して陰極側流路3の上流部に導入され、陰極側流路3を流れた後、陰極側流路3の下流部から排出される。
【0015】
イオンサプレッサ100においては、溶離液流路1を流れる溶離液と、陽極側流路2を流れる電極液および陰極側流路3を流れる電極液との間で電気透析によるイオン交換が行われることにより、溶離液流路1を通過した溶離液の電気伝導度が低減される。イオンサプレッサ100の詳細は後述する。
【0016】
本実施の形態においては、配管203は、配管202よりも小さい流路抵抗を有する。具体的には、配管203は、配管202よりも大きい内径を有する。配管202,203により電極液の逆流を抑制するための逆流抑制機構210が構成される。逆流抑制機構210の詳細については後述する。なお、配管202と配管203とは同程度の長さを有するが、実施の形態はこれに限定されない。配管202の長さと配管203の長さとは異なってもよい。具体的には、配管203は配管202よりも短くてもよいし、配管203は配管202よりもわずかに長くてもよい。
【0017】
(2)イオンサプレッサの構成
図2は、
図1のイオンサプレッサ100の構成を示す分解斜視図である。
図2に示すように、イオンサプレッサ100は、溶離液シール部材10、一対のイオン交換膜20,30、一対の電極液シール部材40,50、一対の電極60,70および一対の支持部材80,90を含む。溶離液シール部材10、イオン交換膜20,30、電極液シール部材40,50、電極60,70および支持部材80,90の各々は、一方向(以下、流路方向と呼ぶ。)に延びる長尺形状を有する。
【0018】
溶離液シール部材10は、貫通孔11,12および開口部13を有する。貫通孔11,12は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。開口部13は、流路方向に延びるように貫通孔11と貫通孔12との間に配置される。開口部13内の空間が溶離液流路1となる。本実施の形態においては、溶離液流路1にメッシュ部材14が設けられる。
【0019】
イオン交換膜20,30は、測定対象イオンが陰イオンである場合には陽イオン交換膜であり、測定対象イオンが陽イオンである場合には陰イオン交換膜である。イオン交換膜20は、貫通孔21~24を有する。貫通孔21,23は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔22,24は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。イオン交換膜30は、貫通孔31,32を有する。貫通孔31,32は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。
【0020】
電極液シール部材40は、貫通孔41~44および開口部45を有する。貫通孔41,43は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔42,44は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。開口部45は、流路方向に延びるように貫通孔43と貫通孔44との間に配置される。開口部45内の空間が陽極側流路2となる。本実施の形態においては、陽極側流路2にメッシュ部材46が設けられる。
【0021】
電極液シール部材50は、貫通孔51,52および開口部53を有する。貫通孔51,52は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。開口部53は、流路方向に延びるように貫通孔51と貫通孔52との間に配置される。開口部53内の空間が陰極側流路3となる。本実施の形態においては、陰極側流路3にメッシュ部材54が設けられる。
【0022】
電極60は、例えば陽極であり、貫通孔61~66を有する。貫通孔61,63,65は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔62,64,66は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0023】
電極70は、例えば陰極であり、貫通孔71~74を有する。貫通孔71,73は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔72,74は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0024】
支持部材80は、例えば樹脂材料により形成され、貫通孔81~86を有する。貫通孔81,83,85は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔82,84,86は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。支持部材90は、支持部材80と同様の材料により形成され、貫通孔91~94を有する。貫通孔91,93は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔92,94は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0025】
上方から下方に向かって、支持部材80、電極60、電極液シール部材40、イオン交換膜20、溶離液シール部材10、イオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90がこの順で上下方向に積層される。この場合、イオンサプレッサ100の一端部において、貫通孔81,61,41,21,11,31,51,71,91が重なる。イオンサプレッサ100の他端部において、貫通孔82,62,42,22,12,32,52,72,92が重なる。
【0026】
また、溶離液流路1と陽極側流路2とがイオン交換膜20を挟んで対向し、溶離液流路1と陰極側流路3とがイオン交換膜30を挟んで対向する。貫通孔83,63,43,23および溶離液流路1の一端部が重なり、貫通孔84,64,44,24および溶離液流路1の他端部が重なる。貫通孔85,65および陽極側流路2の一端部が重なり、貫通孔86,66および陽極側流路2の他端部が重なる。貫通孔93,73および陰極側流路3の一端部が重なり、貫通孔94,74および陰極側流路3の他端部が重なる。
【0027】
ここで、上方から下方にねじ部材101が貫通孔81,61,41,21,11,31,51,71,91に挿通され、上方から下方にねじ部材102が貫通孔82,62,42,22,12,32,52,72,92に挿通される。ねじ部材101,102の下端部には、ナット103,104がそれぞれ取り付けられる。これにより、溶離液シール部材10、イオン交換膜20,30、電極液シール部材40,50および電極60,70が支持部材80,90により一体的に支持された状態でイオンサプレッサ100が組み立てられる。
【0028】
(3)イオンサプレッサの動作
図3は、
図2のイオンサプレッサ100の動作を説明するための図である。
図1の分離カラム130を通過した試料を含む溶離液は、
図3のイオンサプレッサ100の一端部から貫通孔83,63,43,23を通して溶離液流路1に導かれた後、他端部に向かって溶離液流路1を流れる。その後、溶離液は、イオンサプレッサ100の他端部から貫通孔24,44,64,84を通して
図1の検出器140に導かれる。上記のように、検出器140においては、試料および溶離液の電気伝導度が順次検出される。
【0029】
検出器140を通過した溶離液は、配管201(
図1)を通して入力ポート161(
図1)から三交弁160(
図1)に電極液として導入される。三交弁160に導入された電極液の一部は、配管202(
図1)を通してイオンサプレッサ100の他端部における貫通孔86,66から陽極側流路2に導かれる。当該電極液は、イオンサプレッサ100の一端部に向かって陽極側流路2を流れた後、イオンサプレッサ100の一端部における貫通孔65,85を通して外部に排出される。
【0030】
三交弁160に導入された電極液の他の一部は、配管203(
図1)を通してイオンサプレッサ100の他端部における貫通孔94,74から陰極側流路3に導かれる。当該電極液は、イオンサプレッサ100の一端部に向かって陰極側流路3を流れた後、イオンサプレッサ100の一端部における貫通孔73,93を通して外部に排出される。
【0031】
電極60に正の電圧が印加され、電極70に負の電圧が印加される。この場合、水の電気分解により、陽極側流路2において水素イオンおよび酸素分子が生成され、陰極側流路3において水酸化物イオンおよび水素分子が生成される。陽極側流路2で生成された水素イオンは、イオン交換膜20を透過して溶離液流路1に移動し、溶離液流路1において溶離液中のナトリウムイオンまたはカリウムイオン等の陽イオンと置換される。水素イオンと置換された陽イオンは、イオン交換膜30を透過して陰極側流路3に移動し、陰極側流路3において水酸化物イオンと結合した後、電極液とともに排出される。
【0032】
ここで、陰極側流路3における水素分子の生成量は、陽極側流路2における酸素分子の生成量の2倍である。すなわち、陰極側流路3においては、陽極側流路2よりも多量のガス(気泡)が発生する。本発明者らは、種々の実験および考察を行った結果、このような多量の気泡が陰極側流路3において電極液を逆流させることにより、透析効率が低下する恐れがあるという知見を得た。
【0033】
そこで、本実施の形態においては、陰極側流路3に接続される配管203の内径が、陽極側流路2に接続される配管202の内径よりも大きくされる。この場合、電気透析が行われない状態では、配管203に供給される電極液の流量は配管202に供給される電極液の流量よりも大きい。電気透析が行われる状態では、配管203に供給される電極液の流量は配管202に供給される電極液の流量よりも大きく、かつ、配管202の内径が小さいことから配管202の送液抵抗が大きいので、陰極側流路3で気泡が多く発生しても、気泡および電極液の逆流を抑制し、気泡および電極液を正常な流れ方向へと押し流すことができる。その結果、配管203に供給される電極液の流量と、配管202に供給される電極液の流量とは均等に近づく。このように、配管202と、配管202よりも大きい内径を有する配管203とにより逆流抑制機構210が構成される。
【0034】
配管203の内径は、配管202の内径の例えば1.2倍以上6倍以下である。本実施の形態においては、三交弁160からの総流量が1mL/分程度であるときに、配管202の内径(直径)は例えば0.2mm~0.5mmに設定され、配管203の内径(直径)は例えば0.8mm~1.2mmに設定されるが、実施の形態はこれに限定されない。電気透析が行われない状態において、配管202に供給される電極液の流量と配管203に供給される電極液の流量との比が所定の値(例えば7:3)となるように、配管202,203の内径が設定されてもよい。
【0035】
上記の構成によれば、陰極側流路3において多量の気泡が発生した場合でも、電極液が逆流することが抑制され、電極液は陰極側流路3を適切に移動する。したがって、溶離液流路1を移動する溶離液と、陽極側流路2および陰極側流路3を移動する電極液との間でイオン交換が行われることにより、溶離液流路1を通過した溶離液の電気伝導度が低減される。これにより、
図1の処理部150により生成されるクロマトグラムのバックグラウンドが減少する。その結果、試料の分析精度を向上させることができる。
【0036】
(4)効果
本実施の形態に係るイオンクロマトグラフ200においては、溶離液に含まれる測定対象の試料が分離カラム130によりイオン種成分ごとに分離される。三交弁160により、入力ポート161に導入される電極液が分岐され、出力ポート162,163からそれぞれ排出される。分離カラム130からの溶離液が、イオンサプレッサ100の溶離液流路1を通過する。出力ポート162,163からの電極液が、イオンサプレッサ100の陽極側流路2および陰極側流路3をそれぞれ通過する。溶離液流路1を通過する溶離液と、陽極側流路2および陰極側流路3を通過する電極液との間で電気分解によりイオン交換が行われ、溶離液流路1を通して分離カラム130により分離された試料が検出器140により検出される。陰極側流路3における電極液の逆流が、逆流抑制機構210により抑制される。
【0037】
上記の構成によれば、陰極側流路3において多量の気泡が発生した場合でも、電極液が逆流することが抑制され、電極液は陰極側流路3を適切に移動する。この場合、溶離液流路1を移動する溶離液と、陽極側流路2および陰極側流路3を移動する電極液との間で効率よくイオン交換が行われる。これにより、イオンサプレッサ100の透析効率を向上させることができる。
【0038】
(5)変形例
本実施の形態において、配管203の内径が配管202の内径よりも大きく設定されるが、実施の形態はこれに限定されない。
図4は、第1の変形例に係るイオンクロマトグラフ200の構成を示す図である。
図4に示すように、第1の変形例においては、逆流抑制機構210として、配管203と、配管203よりも長い配管202とが設けられる。配管202の長さは、配管203の長さの例えば2倍以上1000倍以下である。また、配管203の内径は配管202の内径と同程度であってもよい。
【0039】
第1の変形例においては、配管203の流路抵抗が配管202の流路抵抗よりも小さくなる。この場合、電気透析が行われない状態では、配管203に供給される電極液の流量は配管202に供給される電極液の流量よりも大きい。電気透析が行われる状態では、配管203に供給される電極液の流量は配管202に供給される電極液の流量よりも大きいので、陰極側流路3で気泡が多く発生しても、気泡および電極液の逆流を抑制し、気泡および電極液を正常な流れ方向へと押し流すことができる。その結果、配管203に供給される電極液の流量と、配管202に供給される電極液の流量とは均等に近づく。このように、陰極側流路3において多量の気泡が発生した場合でも、電極液が逆流することが抑制され、電極液は陰極側流路3を適切に移動する。
【0040】
図5は、第2の変形例に係るイオンクロマトグラフ200の構成を示す図である。
図5に示すように、第2の変形例においては、逆流抑制機構210として、配管203と、配管203に介挿された逆流防止弁204とが設けられる。この場合、配管203が配管の例である。配管203の内径は配管202の内径と同程度であってもよい。また、配管203の長さは配管202の長さと同程度であってもよい。
【0041】
第2の変形例においては、配管203における電極液の逆流が逆流防止弁204により防止される。したがって、陰極側流路3において多量の気泡が発生した場合でも、電極液が逆流することが防止され、電極液は陰極側流路3を適切に移動する。そのため、溶離液流路1を移動する溶離液と、陽極側流路2および陰極側流路3を移動する電極液との間でより効率よくイオン交換が行われる。これにより、イオンサプレッサの透析効率をより向上させることができる。
【0042】
(6)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、溶離液流路1にメッシュ部材14が設けられるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液流路1にメッシュ部材14が設けられなくてもよい。同様に、上記実施の形態においては、陽極側流路2および陰極側流路3にメッシュ部材46,54がそれぞれ設けられるが、実施の形態はこれに限定されない。陽極側流路2にメッシュ部材46が設けられなくてもよいし、陰極側流路3にメッシュ部材54が設けられなくてもよい。
【0043】
(b)上記実施の形態において、溶離液流路1に溶離液を導入するための貫通孔24,44,64,84がイオン交換膜20、電極液シール部材40、電極60および支持部材80にそれぞれ形成されるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液流路1に溶離液を導入するための複数の貫通孔がイオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90にそれぞれ形成されてもよい。
【0044】
同様に、上記実施の形態において、溶離液流路1から溶離液を排出するための貫通孔23,43,63,83がイオン交換膜20、電極液シール部材40、電極60および支持部材80にそれぞれ形成されるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液流路1から溶離液を排出するための複数の貫通孔がイオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90にそれぞれ形成されてもよい。
【0045】
(c)上記実施の形態において、検出器140から排出される溶離液が電極液として陽極側流路2および陰極側流路3に供給されるが、実施の形態はこれに限定されない。三交弁160が用いられる限り、別途準備された溶離液が電極液として陽極側流路2および陰極側流路3に供給されてもよい。
【0046】
(d)上記実施の形態において、2つのねじ部材101,102によりイオンサプレッサ100の一端部および他端部が固定されるが、実施の形態はこれに限定されない。例えば4つのねじ部材によりイオンサプレッサ100の四隅の近傍が固定されてもよい。また、支持部材90の貫通孔91,92がねじ孔である場合には、ねじ部材101,102にナット103,104が取り付けられなくてもよい。
【0047】
(7)実施例および比較例
実施例および比較例では、イオンクロマトグラフを用いて溶離液のクロマトグラムを測定した。実施例に係るイオンクロマトグラフとしては、
図1のイオンクロマトグラフ200が用いられた。比較例に係るイオンクロマトグラフは、逆流抑制機構を有さない点を除き、実施例に係るイオンクロマトグラフと同様である。
【0048】
図6は、実施例および比較例におけるクロマトグラムを示す図である。
図6の横軸は試料の保持時間を示し、縦軸は電圧値に換算された試料の電気伝導度を示す。
図6に太い線で示すように、比較例においてはバックグラウンドが短期的に変動しているのに対し、実施例においてはバックグラウンドが安定している。具体的には、実施例におけるバックグラウンドの変動量は、比較例におけるバックグラウンドの変動量の2分の1程度である。これらの結果、実施例においては、透析効率が向上され、高精度な試料の分析が可能になることが確認された。
【0049】
(8)態様
本発明者らは、特許文献1のサプレッサにおいて、透析効率が向上しない原因を特定するために、種々の実験および考察を繰り返した結果、以下の知見を得た。特許文献1のサプレッサのサンプル流ガスケットは、検出器から流出された検出器流出溶液は、三交弁により分岐され、一対のガスケットのイオン交換スクリーンにそれぞれ導入される。検出器流出溶液の電気分解により、一方のイオン交換スクリーンにおいて酸素分子が生成され、他方のイオン交換スクリーンにおいて水素分子が生成される。
【0050】
ここで、陰極側のイオン交換スクリーンにおける水素分子の生成量は、陽極側のイオン交換スクリーンにおける酸素分子の生成量の2倍である。すなわち、陰極側のイオン交換スクリーンにおいては、陽極側のイオン交換スクリーンよりも多量のガス(気泡)が発生する。このような多量の気泡が陰極側のイオン交換スクリーンにおいて電極液を逆流させる可能性がある。この場合、透析効率が低下する。本発明者らは、この知見に基づいて、以下の構成に想到した。
【0051】
(第1項)一態様に係るイオンクロマトグラフは、
溶離液に含まれる測定対象の試料をイオン種成分ごとに分離する分離カラムと、
入力ポート、第1の出力ポートおよび第2の出力ポートを有し、前記入力ポートに導入される電極液を分岐して前記第1の出力ポートおよび前記第2の出力ポートからそれぞれ排出する三交弁と、
前記分離カラムからの溶離液が通過する溶離液流路、前記第1の出力ポートからの電極液が通過する陽極側流路および前記第2の出力ポートからの電極液が通過する陰極側流路を含み、前記溶離液流路を通過する溶離液と、前記陽極側流路および前記陰極側流路を通過する電極液との間で電気分解によりイオン交換を行うイオンサプレッサと、
前記溶離液流路を通して前記分離カラムにより分離された試料を検出する検出器と、
前記陰極側流路における電極液の逆流を抑制する逆流抑制機構とを備えてもよい。
【0052】
このイオンクロマトグラフにおいては、溶離液に含まれる測定対象の試料が分離カラムによりイオン種成分ごとに分離される。三交弁により、入力ポートに導入される電極液が分岐され、第1の出力ポートおよび第2の出力ポートからそれぞれ排出される。分離カラムからの溶離液が、イオンサプレッサの溶離液流路を通過する。第1および第2の出力ポートからの電極液が、イオンサプレッサの陽極側流路および陰極側流路をそれぞれ通過する。溶離液流路を通過する溶離液と、陽極側流路および陰極側流路を通過する電極液との間で電気分解によりイオン交換が行われ、溶離液流路を通して分離カラムにより分離された試料が検出器により検出される。陰極側流路における電極液の逆流が、逆流抑制機構により抑制される。
【0053】
上記の構成によれば、陰極側流路において多量の気泡が発生した場合でも、電極液が逆流することが抑制され、電極液は陰極側流路を適切に移動する。この場合、溶離液流路を移動する溶離液と、陽極側流路および陰極側流路を移動する電極液との間で効率よくイオン交換が行われる。これにより、イオンサプレッサの透析効率を向上させることができる。
【0054】
(第2項)第1項に記載のイオンクロマトグラフにおいて、
前記逆流抑制機構は、
前記第1の出力ポートと前記陽極側流路の上流部とを接続する第1の配管と、
前記第2の出力ポートと前記陰極側流路の上流部とを接続する第2の配管とを含み、
前記第2の配管の流路抵抗は前記第1の配管の流路抵抗よりも小さくてもよい。
【0055】
この場合、簡単な構成で陰極側流路における電極液の逆流を抑制することができる。
【0056】
(第3項)第2項に記載のイオンクロマトグラフにおいて、
前記第2の配管の内径は前記第1の配管の内径よりも大きくてもよい。
【0057】
この場合、簡単な構成でかつ容易に第2の配管の流路抵抗を第1の配管の流路抵抗よりも小さくすることができる。
【0058】
(第4項)第3項に記載のイオンクロマトグラフにおいて、
前記第2の配管の内径は、前記第1の配管の内径の1.2倍以上6倍以下であってもよい。
【0059】
この場合、第1の配管に供給される電極液の流量と、第2の配管に供給される電極液の流量とが均等に近づく。そのため、溶離液流路を移動する溶離液と、陽極側流路および陰極側流路を移動する電極液との間でより効率よくイオン交換が行われる。これにより、イオンサプレッサの透析効率をより向上させることができる。
【0060】
(第5項)第2~4のいずれか一項に記載のイオンクロマトグラフにおいて、
前記第1の配管は前記第2の配管よりも長くてもよい。
【0061】
この場合でも、容易に第2の配管の流路抵抗を第1の配管の流路抵抗よりも小さくすることができる。
【0062】
(第6項)第5項に記載のイオンクロマトグラフにおいて、
前記第1の配管の長さは、前記第2の配管の長さの2倍以上1000倍以下であってもよい。
【0063】
この場合、第1の配管に供給される電極液の流量と、第2の配管に供給される電極液の流量とが均等に近づく。そのため、溶離液流路を移動する溶離液と、陽極側流路および陰極側流路を移動する電極液との間でより効率よくイオン交換が行われる。これにより、イオンサプレッサの透析効率をより向上させることができる。
【0064】
(第7項)第1項に記載のイオンクロマトグラフにおいて、
前記逆流抑制機構は、
前記第2の出力ポートと前記陰極側流路の上流部とを接続する配管と、
前記配管に介挿された逆流防止弁とを含んでもよい。
【0065】
この場合、陰極側流路における電極液の逆流を防止することができる。そのため、溶離液流路を移動する溶離液と、陽極側流路および陰極側流路を移動する電極液との間でより効率よくイオン交換が行われる。これにより、イオンサプレッサの透析効率をより向上させることができる。
(第8項)第2項に記載のイオンクロマトグラフにおいて、
前記陰極側流路において前記陽極側流路よりも気泡が多く発生し、
前記イオンクロマトグラフは、前記第2の配管の流路抵抗が前記第1の配管の流路抵抗よりも小さいことにより、前記陰極側流路における気泡および電極液の逆流を抑制し、前記第2の配管に供給される電極液の流量と前記第1の配管に供給される電極液の流量とを、前記第2の配管の流路抵抗が前記第1の配管の流路抵抗と同じ場合と比較して、均等に近づかせてもよい。