(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御方法およびハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20221213BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20221213BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20221213BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20221213BHJP
F02D 41/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/46 ZHV
B60W20/00 900
F02D29/06 H
F02D41/02
(21)【出願番号】P 2021514686
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2019016314
(87)【国際公開番号】W WO2020213056
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 秀勝
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-098217(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
F02D 29/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンと、
前記内燃エンジンにより駆動可能に構成された発電機と、
前記発電機の発電電力を充電可能に構成されたバッテリと、
前記内燃エンジンの排気の一部を筒内に還流させるEGR装置と、
を駆動系に備える、ハイブリッド車両の制御方法であって、
前記発電機の目標発電電力を設定し、
前記目標発電電力に応じた前記内燃エンジンの目標出力である目標エンジン出力を算出し、
当該車両が走行する環境での空気密度を検出し、
前記空気密度の低下に対し、検出された空気密度に基づき、前記目標エンジン出力を補正して、前記発電機の発電電力を、前記目標発電電力に追従させる、前記目標エンジン出力の空気密度補正を実施し、
前記空気密度補正の実施を、前記駆動系の運転状態に応じて許容しまたは停止し、
前記バッテリの充電状態を検出し、
前記バッテリが低充電状態にあるときは、前記空気密度補正を実施し、
前記バッテリが高充電状態にあるときは、前記空気密度補正の実施を停止する、
ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
内燃エンジンと、
前記内燃エンジンにより駆動可能に構成された発電機と、
前記発電機の発電電力を充電可能に構成されたバッテリと、
前記内燃エンジンの排気の一部を筒内に還流させるEGR装置と、
を駆動系に備える、ハイブリッド車両の制御方法であって、
前記発電機の目標発電電力を設定し、
前記目標発電電力に応じた前記内燃エンジンの目標出力である目標エンジン出力を算出し、
当該車両が走行する環境での空気密度を検出し、
前記空気密度の低下に対し、検出された空気密度に基づき、前記目標エンジン出力を補正して、前記発電機の発電電力を、前記目標発電電力に追従させる、前記目標エンジン出力の空気密度補正を実施し、
前記空気密度補正の実施を、前記駆動系の運転状態に応じて許容しまたは停止し、
前記駆動系が、車両の駆動輪に対して動力伝達可能に接続され、前記発電機および前記バッテリから同時または選択的に給電可能に構成された電動機をさらに備え、
前記駆動系に対する要求出力の発生に際し、前記内燃エンジンの始動と停止とを繰り返す間欠燃焼運転時では、前記空気密度補正を実施し、
前記要求出力の発生に際し、前記内燃エンジンが燃焼を継続する連続燃焼運転時では、前記空気密度補正の実施を停止する、
ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
内燃エンジンと、
前記内燃エンジンにより駆動可能に構成された発電機と、
前記発電機の発電電力を充電可能に構成されたバッテリと、
前記内燃エンジンの排気の一部を筒内に還流させるEGR装置と、
を駆動系に備える、ハイブリッド車両の制御方法であって、
前記発電機の目標発電電力を設定し、
前記目標発電電力に応じた前記内燃エンジンの目標出力である目標エンジン出力を算出し、
当該車両が走行する環境での空気密度を検出し、
前記空気密度の低下に対し、検出された空気密度に基づき、前記目標エンジン出力を補正して、前記発電機の発電電力を、前記目標発電電力に追従させる、前記目標エンジン出力の空気密度補正を実施し、
前記空気密度補正の実施を、前記駆動系の運転状態に応じて許容しまたは停止し、
前記目標エンジン出力として、前記バッテリの充電状態に応じた第1目標エンジン出力と、前記内燃エンジンに対する前記第1目標エンジン出力以外の動力要求に応じた第2目標エンジン出力と、を算出し、
前記第1および第2目標エンジン出力のうち大きい方の出力に基づき、最終的な目標エンジン出力を設定し、
前記第2目標エンジン出力に基づく場合は、前記駆動系の運転状態に拘らず、前記空気密度補正を実施する、
ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
前記駆動系が、車両の駆動輪に対して動力伝達可能に接続され、前記発電機および前記バッテリから同時または選択的に給電可能に構成された電動機をさらに備える、請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御方法であって、
車速を検出し、
検出された車速が所定車速よりも低い場合は、前記空気密度補正を実施し、
検出された車速が前記所定車速よりも高い場合は、前記空気密度補正の実施を停止する、
ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載のハイブリッド車両の制御方法であって、
前記所定車速として、前記所定車速を下限とする高車速域への到達前は、比較的高い第1所定車速を設定し、前記高車速域への到達後は、当該高車速域を逸脱するまでの間、前記第1所定車速よりも低い第2所定車速を設定する、
ハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
内燃エンジンと、
前記内燃エンジンにより駆動可能に構成された発電機と、
前記発電機の発電電力を充電可能に構成されたバッテリと、
前記内燃エンジンの排気の一部を筒内に還流させるEGR装置と、
を駆動系に備え、
前記内燃エンジンの出力を制御するエンジンコントローラをさらに備える、ハイブリッド車両の制御装置であって、
前記エンジンコントローラは、
前記発電機の目標発電電力に応じた前記内燃エンジンの目標エンジン出力を算出する目標エンジン出力算出部と、
当該車両が走行する環境での空気密度を検出する空気密度検出部と、
前記空気密度の低下に対し、検出された空気密度に基づき、前記目標エンジン出力を補正して、前記発電機の発電電力を、前記目標発電電力に追従させる、前記目標エンジン出力の空気密度補正を実施する目標エンジン出力補正部と、
前記目標エンジン出力補正部に対し、前記空気密度補正の実施を、前記駆動系の運転状態に応じて許容しまたは停止する補正実施切換部と、
を備え、
前記エンジンコントローラは、
前記バッテリの充電状態を検出し、
前記バッテリが低充電状態にあるときは、前記空気密度補正を実施し、
前記バッテリが高充電状態にあるときは、前記空気密度補正の実施を停止する、
ハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンにより駆動される発電機を備えたハイブリッド車両の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジンとこの内燃エンジンにより駆動可能に配設された発電機とを駆動系に備えるハイブリッド車両が既に知られており、そのようなハイブリッド車両の制御に関し、発電機の目標発電電力に応じた内燃エンジンの目標出力を、車両が実際に置かれた環境に応じて補正する技術が存在する。
【0003】
JP2007-216841Aには、内燃エンジンの目標出力の設定に吸入空気の密度を反映させることが開示されている。
【0004】
具体的には、吸入空気の温度および圧力に応じた補正係数を設定し、これらの補正係数を内燃エンジンに対する要求出力に乗じて、目標出力を設定する。そして、吸入空気の温度が高いかまたは圧力が低いときほど、補正係数を増大させることで、目標出力を見かけ上増大させ、空気密度が低い条件のもとでも発電機により所望の発電電力を発生可能とするものである(段落0031)。
【発明の概要】
【0005】
しかし、JP2007-216841Aの技術によると、空気密度の低下に対して増大補正された目標出力を実現するため、筒内により多量の空気を取り込むべく、内燃エンジンのスロットル開度を増大させることになる。ここで、スロットル開度を増大させた結果、燃費を悪化させる場合のあることが問題となる。内燃エンジンの排気の一部を筒内に還流させるEGR装置を備えるものでは、スロットル開度を増大させることで、吸気管内の圧力が上昇することから(換言すれば、吸気負圧が低下する)、EGR率が低下し、燃費を悪化させるのである。
【0006】
本発明は、以上の問題を考慮したハイブリッド車両の制御方法および制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
一態様では、内燃エンジンと、内燃エンジンにより駆動可能に構成された発電機と、発電機の発電電力を充電可能に構成されたバッテリと、を駆動系に備える、ハイブリッド車両の制御方法が提供される。本態様では、発電機の目標発電電力を設定し、目標発電電力に応じた内燃エンジンの目標出力である目標エンジン出力を算出する。当該車両が走行する環境での空気密度を検出し、空気密度の低下に対し、検出された空気密度に基づき、目標エンジン出力を補正して、発電機の発電電力を、目標発電電力に追従させる、(目標エンジン出力の空気密度補正)。そして、空気密度補正の実施を、駆動系の運転状態に応じて許容しまたは停止する。
【0008】
他の態様では、ハイブリッド車両の制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の駆動系の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、同上実施形態に係る空気密度補正の、燃料消費率に対する影響を示す説明図である。
【
図3】
図3は、同上実施形態に係る空気密度補正のキャンセル操作(補正キャンセル)を示す説明図である。
【
図4】
図4は、同上実施形態に係る補正キャンセルの実施領域(キャンセル領域)を示す説明図である。
【
図5】
図5は、同上実施形態に係る空気密度補正および補正キャンセルが燃料消費率に及ぼす影響を示す説明図である。
【
図6】
図6は、同上実施形態に係る内燃エンジンの、平坦路走行時における運転スケジュールを示す説明図である。
【
図7】
図7は、同上実施形態に係る目標エンジントルク演算ルーチンのフローチャートである。
【
図8】
図8は、同上実施形態に係る補正キャンセル実施判定ルーチン(キャンセル判定ルーチン)のフローチャートである。
【
図9】
図9は、同上実施形態に係るキャンセル判定ルーチン(
図8)のA部で実行される処理の内容を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、同上実施形態に係るエンジン制御ルーチンのフローチャートである。
【
図11】
図11は、充電状態が回復する場合のキャンセル判定を示す説明図である。
【
図12】
図12は、充電状態が悪化する場合のキャンセル判定を示す説明図である。
【
図13】
図13は、空気密度が一定である場合の車速の増減に応じたキャンセル判定を示す説明図である。
【
図14】
図14は、空気密度に変動がある場合の車速の増減に応じたキャンセル判定を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(駆動系の全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の駆動系Sの全体的な構成を示している。
【0012】
本実施形態に係る駆動系(以下、単に「駆動系」という)Sは、ハイブリッド車両に搭載されて、当該車両の推進装置を構成する。駆動系Sは、内燃エンジン1と、発電用の電気モータ(以下「発電モータ」という)2と、走行用の電気モータ(以下「走行モータ」という)3と、を備える。ここで、「ハイブリッド車両」とは、車両の駆動に関わる動力源として、内燃エンジン1以外に電気モータを備える車両をいうものとし、本実施形態では、内燃エンジン1により発電モータ2を駆動して生じさせた電力を、バッテリ4を介するかまたは直接的に走行モータ3に供給する、シリーズ型のハイブリッド車両を対象とする。
【0013】
内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という)1は、その出力軸ないしクランク軸11が、ギア列Gaを介して発電モータ2の回転軸21に接続されている。エンジン1のトルクがこのギア列Gaを通じて所定のギア比で発電モータ2に伝達され、発電モータ2が作動する。
【0014】
発電モータ2は、バッテリ4に接続されるとともに、走行モータ3に対して電気的に接続されており、エンジン1から動力の供給を受けて生じさせた電力を、走行モータ3またはバッテリ4に供給する。発電モータ2から走行モータ3への電力の供給およびバッテリ4から走行モータ3への電力の供給は、車両の運転状態およびバッテリ4の充電状態等に応じてモータコントローラ301により制御される。
図1は、発電モータ2、走行モータ3およびバッテリ4の間の電気的な接続を、二点鎖線により模式的に示す。
【0015】
走行モータ3は、その回転軸31が、ギア列Gbを介してディファレンシャル5のリングギアに接続されている。走行モータ3のトルクがこのギア列Gbを通じて所定のギア比でディファレンシャル5に伝達され、さらに、ディファレンシャル5を介して左右の駆動軸6、6に分配されて、駆動輪7を回転させ、車両を推進させる。
【0016】
本実施形態において、走行モータ3は、電動機としてだけでなく、発電機としても動作可能なモータジェネレータにより構成され、車両を推進させるほか、駆動輪7からギア列Gbを介して動力の供給を受け、発電することも可能である。走行モータ3が生じさせた電力をバッテリ4に供給し、バッテリ4の充電に充てることが可能である。
【0017】
(制御系の基本構成および動作)
エンジン1、発電モータ2および走行モータ3の動作は、車両コントローラ101により統合的に制御される。これに限定されるものではないが、車両コントローラ101および後に述べるエンジンコントローラ201は、電子制御ユニットとして、中央演算ユニット(CPU)、ROMおよびRAM等の各種記憶ユニット、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータにより構成される。
【0018】
車両コントローラ101へは、車両の運転状態を示す各種パラメータの情報が入力される。本実施形態では、車両コントローラ101に対し、運転者によるアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)APOを示す信号、車両の走行速度(以下「車速」という)VSPを示す信号、エンジン1の回転速度Nengを示す信号、発電モータ2の回転速度Nmg1を示す信号、走行モータ3の回転速度Nmg2を示す信号が入力されるほか、車両が走行する環境条件に関する情報として、車両外部の空気温度Tatmを示す信号が入力される。そして、各種パラメータの検出のため、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ111、車速VSPを検出する車速センサ112、エンジン1の回転速度Nengを単位時間当たりの回転数(以下「エンジン回転数」という)として検出するエンジン回転数センサ113、発電モータ2の回転速度Nmg1を発電モータ回転数として検出する発電モータ回転数センサ114、走行モータ3の回転速度Nmg2を走行モータ回転数として検出する走行モータ回転数センサ115、空気温度Tatmを検出する空気温度センサ116が設けられる。
【0019】
車両コントローラ101は、入力した各種信号に基づき、所定の演算を実行して、エンジンコントローラ201およびモータコントローラ301に対する指令信号を出力する。エンジンコントローラ201は、車両コントローラ101からの指令信号に基づき、スロットル弁および燃料噴射弁等のエンジン制御デバイスを介してエンジン1の動作を制御する。他方で、モータコントローラ301は、車両コントローラ101からの指令信号に基づき、発電モータ2およびバッテリ4から走行モータ3への電力の供給を制御し、走行モータ3の動作を制御する。図には明示していないが、発電モータ2およびバッテリ4の動作を制御するコントローラが夫々設けられている。
【0020】
ここで、車両コントローラ101は、エンジン1の制御に関し、発電モータ2の目標発電電力を設定するとともに、目標発電電力に応じたエンジン1の目標出力である目標エンジン出力を算出する。そして、車両コントローラ101は、エンジンコントローラ201に対して目標エンジン出力での運転を指示する。具体的には、車両コントローラ101は、目標エンジン出力を実現可能なエンジン回転数およびエンジントルクとして、当該エンジン1に関して最も燃料消費率[g/kWh]が低い運転点(以下「最良燃費点」という)を定める回転数およびトルク(以下、夫々「最良燃費回転数」、「最良燃費トルク」という場合がある)を算出し、目標エンジン出力に応じた最良燃費点での運転を指示する。エンジンコントローラ201は、基本的には、最良燃費回転数および最良燃費トルクを目標エンジン回転数、目標エンジントルクに設定し、目標エンジントルクおよび目標エンジン回転数を実現するように、エンジン1の実際のトルクおよび回転数を制御する。以下の説明で「燃費」というときは、燃料消費率[g/kWh]をいうものとする。
【0021】
(空気密度補正の概要)
本実施形態では、エンジンコントローラ201によるエンジントルクの制御に、空気密度に基づく補正(以下「空気密度補正」という)を導入する。空気密度補正は、概して、車両が走行する環境での空気密度の低下に対し、発電モータ2の実際の発電電力が空気密度によらず目標発電電力に追従可能なように、目標エンジン出力を増大させる補正として具現される。空気密度の低下は、高地を走行する場合に限らず、気温が高い地域を走行したり、同じ地域であっても気温が上昇したりする場合に生じる。
【0022】
しかし、空気密度補正によると、空気密度の低下に対して増大させた目標エンジン出力を実現するため、エンジン1の筒内により多量の空気を取り込むべく、エンジン1のスロットル開度を増大させることとなる。これにより、本実施形態では、吸気管内の圧力が上昇し、吸気負圧が低下することから、EGR率が低下し、燃費を悪化させる懸念がある。
【0023】
図2は、空気密度補正の燃費に対する影響を、空気温度Tairの上昇に対する燃費の変動との観点から示している。
【0024】
図2中、Aで示す値にある目標エンジントルクtTRQを、空気温度Tairの上昇に伴う空気密度の低下に対し、空気密度補正により増大させる。補正後の目標エンジントルクtTRQに基づくエンジン制御により、スロットル開度TVOが増大されると、吸気負圧の低下により、吸入ガス全体に占める還流排気の割合、つまり、EGR率Regrが低下する。これにより
、エンジン1の燃料消費率が増大し(増大後の値をBにより示す)、エンジン1の運転効率が悪化するのである。
【0025】
そこで、本実施形態では、空気密度補正に加え、実際のエンジントルクTRQの低下を可能な範囲で許容しながら、空気密度補正の実施を停止することにより、運転効率の悪化を抑制する操作を導入する。
【0026】
(空気密度補正および補正キャンセルの基本動作)
図3は、空気密度補正の実施を停止する、本実施形態に係る操作(以下「補正キャンセル」という場合がある)を概念的に示している。比較のため、
図3中上段には、基本設定による場合を、中段には、空気密度補正を実施する場合を、下段には、補正キャンセルにより空気密度補正の実施を停止する場合を、夫々示している。
【0027】
基本設定による場合は、車両コントローラ101により、発電モータ2の目標発電電力に応じた目標エンジントルク(VCM指示トルク)tTRQが算出され、これがエンジンコントローラ201に出力される。そして、エンジンコントローラ201により、目標エンジントルクにフリクリョン相当分のトルクが加算され、加算後の目標エンジントルク(ECM目標トルク)が最終的な目標エンジントルクに設定される。エンジンコントローラ201は、燃料噴射弁等のエンジン制御デバイスに対し、最終目標エンジントルクに基づく指令信号を出力する。エンジン1は、基本的には、車両コントローラ101により指示された目標エンジントルク(VCM指示トルク)tTRQに相当するトルクを出力する。
【0028】
これに対し、空気密度補正を実施する場合は、車両コントローラ101により指示された目標エンジントルクtTRQに対し、フリクション相当分のトルクと、空気密度補正分のトルクと、が加算され、加算後の目標エンジントルクが最終目標エンジントルクに設定される。空気密度補正分のトルクとは、空気密度の低下による不足分を補償するトルクであり、目標エンジントルクに空気密度補正分のトルクを加算する操作により、「空気密度補正」が実現される。エンジン1は、最終目標エンジントルクに基づく指示の結果、車両コントローラ101により指示された目標エンジントルクtTRQに相当するトルクを出力する。
【0029】
さらに、空気密度補正の実施を停止した場合は、車両コントローラ101により、発電モータ2の目標発電電力に応じた目標エンジントルクtTRQに対し、空気密度補正分に相当する補正キャンセル分のトルクを減算する操作が実施され、減算後の目標エンジントルク(VCM指示トルク)がエンジンコントローラ201に出力される。エンジンコントローラ201により、目標エンジントルクにフリクリョン相当分のトルクと空気密度補正分のトルクとが加算され、加算後の目標エンジントルクが最終目標エンジントルクに設定される。よって、空気密度補正の実施を停止した場合は、空気密度補正を実施した場合と比べ、補正キャンセル分のトルクだけ、最終目標エンジントルクが低減されることとなる。そして、エンジン1により出力されるトルクも、最終目標エンジントルクが補正キャンセル分のトルクだけ低いことに起因して、目標発電電力に応じた目標エンジントルクtTRQよりも低くなる。
【0030】
本実施形態では、目標発電電力に応じた目標エンジントルクtTRQから補正キャンセル分のトルクを予め減算する操作により、空気密度補正の実施を停止するが、空気密度補正の実施を停止する操作は、これに限定されるものではない。例えば、空気密度補正分のトルクを加算する操作自体を停止したり、空気密度補正分のトルクを加算するものの、加算後の目標エンジントルクから補正キャンセル分のトルクを減算したりする操作として実現することも可能である。
【0031】
図4は、補正キャンセルの実施領域(以下「キャンセル領域」という場合がある)を示している。先に述べたように、補正キャンセルは、実際のエンジントルクの低下を可能な範囲で許容しながら、換言すれば、エンジントルクに目標エンジントルクtTRQに対する不足分があってもバッテリ4の充電状態の管理に実質的な影響が及ばない範囲で行う。キャンセル領域は、そのような領域を明らかにするものであり、
図4中、キャンセル領域を、斜線を付すことにより示している。
【0032】
本実施形態では、キャンセル領域は、車速VSPおよびバッテリ4の充電状態SOCとの関係のもとに定められる。そして、空気密度Dairの低下に対し、空気密度補正を実施するのを基本としながら、空気密度Dairが所定密度Dthrを越えて低下した場合に、空気密度補正の実施を停止させる領域、つまり、キャンセル領域を設定する。空気密度Dairが低下するほど、出力確保のために空気密度補正を強く効かせ、スロットル開度を大きく開かせる必要があり、その分、燃料消費率の悪化も顕著となるからである。
【0033】
具体的には、空気密度Dairが比較的高い第1所定密度Dthrh未満の場合に、キャンセル領域を設定する。そして、空気密度Dairが第1所定密度Dthrhよりも低い第2所定密度Dthrl未満では、車速VSPの全域に亘ってキャンセル領域を設定する一方、第2所定密度Dthrlから第1所定密度Dthrhの間では、車速VSPが高車速域にある場合に対し、キャンセル領域を設定する。本実施形態では、車速VSPが高車速域外の低車速域から高車速域に到達したとの判定(以下「高車速判定」という)を下す場合と、高車速域から低車速域に復帰したとの判定(以下「高車速判定の解除」という)を下す場合とで、判定用の閾値(Vthr)に差、つまり、ヒステリシスを付与する。具体的には、高車速判定を下す場合は、比較的高い第1所定車速Vthrhを閾値とし、高車速判定を解除する場合は、第1所定車速Vthrhよりも低い第2所定車速Vthrlを閾値とする。
【0034】
さらに、本実施形態では、バッテリ4が高充電状態にある場合に、補正キャンセルを行うこととし、キャンセル領域を設定する範囲を、バッテリ4の充電状態SOCが所定充電状態SOC1以上の場合に制限する。そして、バッテリ4の充電状態SOCについても判定用の閾値(SOC1)を設定し、これにヒステリシスを付与する。具体的には、充電状態SOCが上昇する場合(充電時)は、比較的高い第1所定充電状態SOC1a以上の場合に、高充電状態にあると判定し、充電状態SOCが低下する場合(放電時)は、第1所定充電状態SOC1aよりも低い第2所定充電状態SOC1b未満の場合に、低充電状態にあると判定する。
図4は、簡単のため、充電状態SOCに関するヒステリシスの表示を略している。
【0035】
図5は、空気密度補正および補正キャンセルの燃費に対する影響を、異なる2つの運転点A、Bについて示している。運転点Aは、低車速域に対して設定される運転点(エンジン回転数Nengl)であり、運転点Bは、高車速域に対して設定される運転点(エンジン回転数Nengh)である。本実施形態において、運転点A、Bは、いずれもエンジン1の最良燃費点である。
図5中、Dstdは、標準気圧(=1atm)での空気密度(以下「基準密度」という)を示す。
【0036】
運転点A、Bのいずれによる場合も、空気密度Dairの低下に対し、空気密度補正の実施により燃費が増大する。点線は、低回転側の運転点Aによる場合の燃費を、二点鎖線は、高回転側の運転点Bによる場合の燃費を、夫々示している。ここで、所定密度Dthr(例えば、低密度側の所定密度Dthrl)を境界として空気密度補正の実施を停止することで、太い実線で示すように、燃費を減少させ、基準密度Dstdにおけると同程度の燃費(つまり、最良燃費)に収束させることが可能である。
【0037】
(運転スケジュールの一例)
図6は、エンジン1の車速VSPに応じた運転スケジュールを、平坦路走行時について示している。
図6中、実線Lstrは、エンジン1の始動線を、バッテリ4の異なる充電状態SOCについて示し、二点鎖線Lstpは、エンジン1の運転停止線を、始動線に対応させて、充電状態SOC毎に示している。始動線Lstrh、Lstrm、Lstrlは、この順に充電状態SOCが高い場合に相当し、運転停止線Lstph、Lstpm、Lstplも、同様にこの順に充電状態SOCが高い場合に相当する。点線は、エンジン1の最良燃費点での出力(発電モータ2の発電電力であり、以下「定点出力」という)Poutを示し、
図6に示す例では、低出力側の出力Pout1が
図5に示す運転点Aに、高出力側の出力Pout2が同じく運転点Bに、夫々対応する。本実施形態では、運転点A、Bを切り換える際の車速に、運転点Bに出力を増大させる場合と、運転点Bから運転点Aへ出力を復帰させる場合と、の間でヒステリシスを付与する。
【0038】
エンジン1の運転スケジュールは、駆動系Sに対する要求出力と、車速VSPと、バッテリ4の充電状態SOCと、に応じて決定される。
図6に示す運転スケジュールにおいて、エンジン1は、実際の充電状態SOCのもと、要求出力が増大し、対応する始動線Lstrに達した時点で始動する。エンジン1の始動により、発電モータ2が発電を開始し、バッテリ4の充電が開始されることから、運転停止線Lstpが高充電状態側のものに順次切り換えられていく。エンジン1は、始動後、充電状態SOCに応じた運転停止線Lstpに達すると停止する。
【0039】
このような動作原理のもと、
図6を参照すると、要求出力が所定車速Vthr(例えば、第1所定車速Vthrh)で始動線Lstrmに達することにより、エンジン1が始動する。その後、高充電状態が維持されるならば、運転停止線Lstphが要求出力よりも低いことから、エンジン1が停止することはなく、燃焼が継続される(連続燃焼領域)。ここで、要求出力が定点出力Pout(=Pout2)を上回る範囲では、バッテリ4の消耗がエンジン1による動力供給を上回ることから、充電状態SOCが低めに保持されることとなり、運転停止線Lstpが低充電状態側のもの(例えば、Lstpm)に切り換えられ、燃焼が継続される。
【0040】
これに対し、所定車速Vthr(=Vthrh)よりも低車速側の領域では、要求出力が始動線Lstr(例えば、始動線Lstrlまたはより低充電状態側の始動線)に達した後、充電状態SOCの上昇により運転停止線Lstpを過ぎる動作を繰り返すことにより、エンジン1の始動と停止とが繰り返される(間欠燃焼領域)。つまり、所定車速Vthrに達するまでは、エンジン1により発電モータ2を駆動し、バッテリ4を充電しながら走行するシリーズハイブリッド走行モードと、エンジン1を停止した状態で、走行モータ3により走行するEV走行モードと、が繰り返されることとなる。これにより、バッテリ4の充電状態SOCが増減し、エンジン1が始動と停止とを繰り返すのである。ただし、低車速側の領域にあっても車速が比較的高い範囲では、充電状態SOCが高めに保持されることで、エンジン1を停止する頻度が低下する。
【0041】
このように、キャンセル領域の画定は、車速VSPによるばかりでなく、エンジン1の燃焼状態により行うことも可能である。例えば、連続燃焼によるか間欠燃焼によるかの判断を、定点出力Poutと要求出力との関係から行うことができ、要求出力が定点出力Poutを上回る範囲(
図6中、符号Aで示す)を連続燃焼領域とし、それ以外の範囲(符号Bで示す)を間欠燃焼領域として定めることも可能である。この場合は、要求出力が定点出力Poutに一致する車速Vthraが、「所定車速」となる。先に述べた例示的な運転スケジュールでは、車速Vthrh(<Vthra)を連続燃焼領域と間欠燃焼領域との境界としたが、連続燃焼領域を範囲Aからどれだけ低車速側に拡大させられるか、換言すれば、連続燃料領域Aと間欠燃焼領域Bとの境界を図示の状態からどれだけ低車速側に押し下げられるかは、バッテリ4の充電管理等にも関わりがある。
【0042】
(フローチャートによる説明)
車両コントローラ101およびエンジンコントローラ201の動作を、
図7~10に示すフローチャートにより説明する。
図7~9は、車両コントローラ101の動作を示し、
図10は、エンジンコントローラ201の動作を示している。車両コントローラ101およびエンジンコントローラ201は、
図7~9および
図10に示す制御を、所定の周期で実行するようにプログラムされている。
【0043】
図7は、目標エンジントルク演算ルーチンのフローチャートである。
【0044】
S101では、アクセル開度APOおよび車速VSPを含む、車両の運転状態を読み込む。
【0045】
S102では、車両の運転状態をもとに、発電モータ2の目標発電電力を算出する。
【0046】
S103では、目標発電電力をもとに、エンジン1の目標出力である目標エンジン出力を算出する。
【0047】
S104では、目標エンジン出力をもとに、目標エンジン回転数を算出する。目標エンジン回転数の算出は、目標エンジン出力に対応する最適燃費点の検索による。具体的には、エンジン1について、等出力線上の最適燃費点を出力毎に結んだ最適燃費線(以下「α線」という)が予め定められ、これがデータ化され、車両コントローラ101に記憶されている。車両コントローラ101は、目標エンジン出力に対応する最適燃費点を、このα線上に特定し、最適燃費点の回転数を、目標エンジン回転数として算出する。
【0048】
S105では、目標エンジントルクを算出する。具体的には、最適燃費点のトルクを、目標エンジントルクとして算出する。
【0049】
S106では、補正キャンセルを実施すべき領域にあるか否かを判定する。この判定は、
図4に示すマップデータの参照によるものであり、具体的には、次に
図8を参照して説明する。キャンセル領域にある場合は、S107へ進み、キャンセル領域にない場合は、今回のルーチンによる制御を終了する。
【0050】
S107では、補正キャンセルを実施し、エンジンコントローラ201による空気密度補正の実施を、実質的に停止する。補正キャンセルの具体的な内容は、
図3を参照して既に説明したところである。
【0051】
図8は、補正キャンセル実施判定ルーチン(以下「キャンセル判定ルーチン」という)のフローチャートである。本実施形態では、キャンセル判定ルーチンは、
図7に示すフローチャートのS106で呼び出される処理として実行される。
【0052】
S201では、車両の運転状態を読み込む。具体的には、車速VSPおよび空気密度Dairを読み込む。空気密度Dairは、別途設定される空気密度演算ルーチンにより、空気温度Tatmに基づき、算出することが可能である。
【0053】
S202では、バッテリ4の充電状態SOCを読み込む。充電状態SOCは、別途設定される充電状態演算ルーチンにより、バッテリ4の開放端電圧および充放電電流をもとに、算出することが可能である。バッテリ4の開放端電圧は、電圧センサ117により、充放電電流は、電流センサ118により、夫々検出することができる。
【0054】
S203では、充電状態SOCが所定充電状態SOC1以上であるか否か、つまり、バッテリ4が高充電状態にあるか否かを判定する。先に述べたように、所定充電状態SOC1には、バッテリ4の充電時と放電時とでヒステリシスが設定されている。高充電状態にある場合は、S204へ進む。他方で、高充電状態になく、低充電状態にある場合は、補正キャンセルを実施すべき領域(キャンセル領域)にないとして、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106の判定が否定されることで、空気密度補正の実施が許容される。
【0055】
S204では、高車速判定フラグFvspが0であるか否かを判定する。高車速判定フラグFvspは、車両が低車速域にある場合に、0に設定され(つまり、システムSの起動に際して設定される初期値が0である)、車速VSPが低車速域から第1所定車速Vthrhに到達し、車両が第1所定車速Vthrh以上の車速を経験した場合に、1に切り換えられる。そして、車速VSPが第2所定車速Vthrlにまで低下し、高車速域を逸脱した場合に、再度0に設定される。このように、本実施形態では、高車速判定フラグFvspが0の場合と1の場合とで、低車速域と高車速域との境界を定める車速(Vthrh、Vthrl)を切り換える。高車速判定フラグFvspが0である場合は、S205へ進み、1である場合は、
図9に示すフローチャートのS301へ進む。
【0056】
S205では、車速VSPが第1所定車速Vthrh未満であるか否かを判定する。第1所定車速Vthrh未満である場合は、S206へ進み、第1所定車速Vthrh以上である場合は、S208へ進む。
【0057】
S206では、空気密度Dairが第2所定密度Dthrl未満であるか否かを判定する。第2所定密度Dthrl未満である場合は、S207へ進む。他方で、第2所定密度Dthrl以上である場合は、キャンセル領域にないとして、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106の判定が否定されることで、空気密度補正の実施が許容される。
【0058】
S207では、キャンセル領域にあると判定したうえで、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106からS107へ処理が進み、補正キャンセルが実施される。
【0059】
S208では、空気密度Dairが第1所定密度Dthrh未満であるか否かを判定する。第1所定密度Dthrh未満である場合は、S209へ進む。他方で、第1所定密度Dthrh以上である場合は、キャンセル領域にないとして、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106の判定が否定されることで、空気密度補正の実施が許容される。
【0060】
S209では、キャンセル領域にあると判定したうえで、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106からS107へ処理が進み、補正キャンセルが実施される。
【0061】
図9は、
図8に示すキャンセル判定ルーチンのA部で実行される処理の内容を示すフローチャートである。
【0062】
S301では、車速VSPが第2所定車速Vthrl以上であるか否かを判定する。第2所定車速Vthrh以上である場合は、S302へ進み、第2所定車速Vthrl未満である場合は、S304へ進む。
【0063】
S302では、空気密度Dairが第1所定密度Dthrh未満であるか否かを判定する。第1所定密度Dthrh未満である場合は、S303へ進む。他方で、第1所定密度Dthrh以上である場合は、キャンセル領域にないとして、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106の判定が否定されることで、空気密度補正の実施が許容される。
【0064】
S303では、キャンセル領域にあると判定したうえで、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106からS107へ処理が進み、補正キャンセルが実施される。
【0065】
S304では、空気密度Dairが第2所定密度Dthrl未満であるか否かを判定する。第2所定密度Dthrl未満である場合は、S305へ進む。他方で、第2所定密度Dthrl以上である場合は、キャンセル領域にないとして、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106の判定が否定されることで、空気密度補正の実施が許容される。
【0066】
S305では、キャンセル領域にあると判定したうえで、
図7に示すフローチャートに戻る。この場合は、S106からS107へ処理が進み、補正キャンセルが実施される。
【0067】
図10は、エンジン制御ルーチンのフローチャートである。
【0068】
S401では、目標エンジントルクを読み込む。
【0069】
S402では、目標エンジントルクに対し、空気密度Dairの低下による不足分を補償する空気密度補正を実施する。具体的には、目標エンジントルクに、空気密度低下分に相当するトルクを加算する。
【0070】
S403では、加算後のトルクを、最終目標エンジントルクに設定する。
【0071】
S404では、最終目標エンジントルクに基づき、各種のエンジン制御デバイスに対する指令信号を出力する。
【0072】
本実施形態では、車両コントローラ101およびエンジンコントローラ201により、「エンジンコントローラ」が構成される。そして、車両コントローラ101が行う処理のうち、S103~105での処理により「目標エンジン出力算出部」の機能が、S201での処理により「空気密度検出部」の機能が、S402での「目標エンジン出力補正部」の機能が、S106、S107、S203~209およびS301~305での処理により「補正実施切換部」の機能が、夫々達成される。「エンジンコントローラ」に備わるべき機能は、車両コントローラ101とエンジンコントローラ201とに分けて分担させるばかりでなく、単一のコントローラに備えさせることも可能である。
【0073】
(タイムチャートによる説明)
キャンセル判定に関する駆動系Sの挙動について、その幾つかの例をタイムチャートにより説明する。
【0074】
図11は、バッテリ4の充電状態SOCが回復する場合の例を示している。バッテリ4が低充電状態にある場合は、空気密度Dairが低いにも拘らず、キャンセル領域にないとの判定により、空気密度補正が実施される(キャンセル実施フラグオフ)。充電状態SOCが上昇し、所定充電状態SOC1に達すると(時刻t11)、キャンセル領域にあるとの判定に切り換わり(キャンセル実施フラグオン)、補正キャンセルが実施される。これにより、空気密度補正の実施が停止されることから、エンジントルクが低下するものの、燃費が削減されることにより、運転の効率化が促進される。ここで、燃費(燃料消費率)およびエンジン出力の変化が勾配を有するのは、急変の防止を目的とした制御上のなましによるものである。
【0075】
図12は、バッテリ4の充電状態SOCが悪化する場合の例を示している。バッテリ4が高充電状態にある場合は、空気密度Dairが低い環境にあることを前提に、キャンセル領域にあるとの判定により、空気密度補正の実施が停止される(キャンセル実施フラグオン)。充電状態SOCが低下し、所定充電状態SOC1に達すると(時刻t21)、キャンセル領域にないとの判定に切り換わり(キャンセル実施フラグオフ)、補正キャンセルの実施が停止される。これにより、空気密度補正が実施されることとなり、エンジントルクが増大する。
【0076】
図13および14は、充電状態SOCを一定として、車速VSPが増減する場合の例を示している。
図13は、空気密度Dairに変動がない場合を、
図14は、空気密度Dairに変動がみられる場合を、夫々示す。
【0077】
図13において、車両が増速を開始した後、車速VSPが高車速側の第1所定車速Vthrhに達するまでは、空気密度Dairが第2所定密度Dthrlよりも高いことにより、キャンセル領域にないとの判定がなされる。車速VSPが第1所定車速Vthrhに達すると(時刻t31)、空気密度Dairが第1所定密度Dthrh未満であることにより、キャンセル領域にあるとの判定がなされ(キャンセル実施フラグオン)、補正キャンセルが実施される。その後、車両が減速に転じ、車速VSPが低車速側の第2所定車速Vthrlに達するまでは、空気密度Dairが第1所定密度Dthrh未満の状態が続き、補正キャンセルが継続される。車速VSPが第2所定車速Vthrlに達すると(時刻t33)、空気密度Dairが第2所定密度Dthrlを上回ることから、キャンセル領域にないとの判定がなされ(キャンセル実施フラグオフ)、補正キャンセルの実施が停止される。
【0078】
図14において、車両が低車速域から増速を開始した後、車速VSPが高車速側の第1所定車速Vthrhに達するまでの期間において、空気密度Dairが低下し、第2所定密度Dthrlを下回ることにより(時刻t41)、キャンセル領域にあるとの判定がなされ、補正キャンセルが実施される。車速VSPが第1所定車速Vthrhに達すると(時刻t42)、空気密度Dairが第1所定密度Dthrh未満の状態を維持することにより、キャンセル領域にあるとの判定が維持される。その後、車両が減速に転じ、車速VSPが低車速側の第2所定車速Vthrlに達するまでは、空気密度Dairが第1所定密度Dthrh未満の状態が維持され、第2所定車速Vthrlに達した時点で(時刻t43)、空気密度Dairが第2所定密度Dthrlを上回ることにより、キャンセル領域にないとの判定がなされ(キャンセル実施フラグオフ)、補正キャンセルの実施が停止される。
【0079】
(作用効果の説明)
本実施形態に係るハイブリッド車両の駆動系Sは、以上のように構成され、本実施形態により得られる効果について、以下に説明する。
【0080】
第1に、空気密度の低下に対し、検出された空気密度Dair(つまり、実際の空気密度)に基づく補正により、エンジン1の実際の出力に生じる不足を解消し、発電モータ2の発電電力を目標発電電力に近付けることが可能となる。そして、補正キャンセルの操作を導入し、このような空気密度補正の実施を、駆動系Sの運転状態に応じて許容しまたは停止可能な構成としたことで、仮に空気密度補正を行うとすれば生じたであろう燃費の悪化を回避し、全体として効率的な駆動系Sの構築を図ることが可能となる。
【0081】
第2に、補正キャンセルの可否をバッテリ4の充電状態SOCにより判定することとし、バッテリ4が低充電状態にあるときは、空気密度補正を実施することで、実際の空気密度によらず、充分なエンジン出力を確保して、バッテリ4の充電を促すことが可能となる。他方で、高充電状態にあるときは、補正キャンセルを行い、空気密度補正の実施を停止することで、充電状態の保持に必要なエンジン出力を確保しながら、空気密度補正による燃費の悪化を回避することが可能となる。
【0082】
第3に、補正キャンセルの可否を車速VSPにより判定することとし、所定車速Vthrよりも低い低車速域での走行では、駆動系Sの出力形成に対するエンジン1の貢献度が比較的低いことから、空気密度補正を実施することで、燃費の悪化を可能な範囲で許容しながら、必要なエンジン出力を確保することが可能となる。他方で、エンジンの貢献度が比較的高い高車速域での走行では、空気密度補正の実施を停止することで、出力形成に対する要求を充足しながら、エンジン1の燃費削減による効率化を促進することが可能となる。
【0083】
そして、高車速判定時と高車速判定の解除時とで、所定車速Vthr(Vthrh、Vthrl)にヒステリシスを付与することで、所定密度Dthrl、Dthrhとの比較による補正キャンセルの実施およびその停止の頻繁な切換えにより、動作が煩雑となるのを回避することが可能となる。
【0084】
ここで、車速VSPに代えてエンジン1の燃焼状態を採用し、間欠燃焼運転時に空気密度補正を実施し、連続燃焼運転時に空気密度補正の実施を停止することで、間欠燃焼運転時では、充分なエンジン出力を確保して、バッテリ4の充填を促し、エンジン1を停止させる走行モード(EV走行モード)による頻度を確保する一方、連続燃焼運転時では、エンジン1の燃費を低減させることによる効率化を促進することが可能となる。
【0085】
以上の説明では、エンジン1をその最良燃費点で運転させることとし、目標エンジン出力に応じた目標エンジントルクおよび目標エンジン回転数を、エンジン1に関して予め定められた最良燃費点のなかから選択することとした。しかし、目標エンジントルク等の設定は、これに限定されるものではなく、駆動系Sに対する動力性能上の要求や、音振制御上の要求等を考慮して設定することも可能である。
【0086】
例えば、エンジントルクおよびエンジン回転数に対し、バッテリ4の充電状態SOCに応じた要求以外の動力要求(以下「動力性能要求」という)が存在する場合に、エンジン1に対し、動力性能要求を充足させるための出力の形成を優先するのである。動力性能要求として、運転者によるアクセルペダルの踏込みに対し、所要の加速度を実現するため、バッテリ4に加えて発電モータ2からも電力を供給する場合を例示することができる。そして、この場合は、補正キャンセルを行わず、空気密度補正を実施することで、充分なエンジン出力の形成を可能とするのが好適である。
【0087】
さらに、駆動系S、特にエンジン1から生じる振動および騒音を抑制する必要がある場合に、エンジントルクおよびエンジン回転数に対し、音振制御用の上限値を設定し、目標エンジントルク等をこの上限値以下に制限するのである。例えば、目標発電電力に応じた目標エンジン回転数が上限回転数を上回る場合は、上限回転数により目標エンジン回転数を更新する。
【0088】
さらに、補正キャンセルは、目標エンジントルクの低減によるばかりでなく、目標エンジン出力自体を低減させたり、目標エンジン回転数を低下させたりすることで、実現することも可能である。
【0089】
既に述べたように、空気密度の低下は、高地を走行したり、気温が高い地域を走行したり、同じ地域であっても気温が上昇したりする場合に生じる。よって、走行している地域の外気温度、気圧および高度は、空気密度に代替可能なパラメータである。
【0090】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を、上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上記実施形態に対し、請求の範囲に記載した事項の範囲内で様々な変更および修正が可能である。