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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/18 20170101AFI20221213BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C01B32/18
G01N27/12 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021526098
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2020022713
(87)【国際公開番号】W WO2020250894
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019109409
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】小坂 眞由美
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-130050(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03235559(EP,A1)
【文献】国際公開第2018/146810(WO,A1)
【文献】特開2003-261312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
G01N 27/00
JSTPlus/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔体と、前記多孔体の表面および内部に保持されている繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体を含む炭素混合物と、を有する複合部材。
【請求項2】
前記多孔体の孔径が1μm以上20μm以下である、請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
厚さ方向下部よりも厚さ方向上部に前記繊維状カーボンナノホーン集合体が多く存在する、請求項1または2に記載の複合部材。
【請求項4】
厚さ方向上部よりも厚さ方向下部に前記球状カーボンナノホーン集合体が多く存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合部材。
【請求項5】
前記繊維状カーボンナノホーン集合体に対して3質量%以下の量で触媒を含む、または触媒を含まない、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合部材。
【請求項6】
前記繊維状カーボンナノホーン集合体が開孔を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合部材。
【請求項7】
前記多孔体が、織布、不織布、または多孔質膜である、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合部材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の複合部材を含むガスセンサー素子。
【請求項9】
触媒を含有した炭素をターゲットとして、容器内でターゲットを回転させながら、窒素雰囲気、不活性雰囲気、水素、二酸化炭素、または、混合雰囲気下で、レーザーアブレーションによりターゲットを蒸発させて、繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体を含む炭素混合物を作製する工程と、
状カーボンナノホーン集合体および繊維状カーボンナノホーン集合体を含む炭素混合物の分散液を多孔体でろ過する工程を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材、ガスセンサー素子、および複合部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気中に浮遊する揮発性有機化合物(ガス)の種類は数十万種類あり、その中の特定のガスを検知したいという要求がある。複合材料として、これらのガスを吸着し易く、且つ導電性の良いナノカーボンが注目され、カーボンナノチューブや繊維状カーボンナノホーン集合体にガスを吸着させるガスセンサーが開発されている。例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブを主成分とする感応層を備えるガス検知素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-38692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、カーボンナノチューブは凝集し易く、均一に分散しないため、均一な薄膜を作製することが困難である。このため、例えば特許文献1に記載されるガス検知素子を作製すると、全体的に厚みが不均一な薄膜が形成され、カーボンナノチューブの含有量も不均一だった。このように厚みが不均一な薄膜は、外部からの力によって容易に基板から剥離してしまい、基板上に安定に存在することが難しいという課題があった。一方、繊維状カーボンナノホーン集合体は分散性が良く、均一な薄膜を作製し易い。繊維状カーボンナノホーン集合体は、球状カーボンナノホーン集合体とともに生成するため、球状カーボンナノホーン集合体との混合物の状態で使用される。これを薄膜とすると、表面に繊維状カーボンナノホーン集合体とともに球状カーボンナノホーン集合体も多く存在することとなる。球状カーボンナノホーン集合体は、繊維状カーボンナノホーン集合体に比べて導電パスを形成せず、抵抗変化を検出しにくい。このため、繊維状カーボンナノホーン集合体を用いたガスセンサー素子は、感度が低いという問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、上述した課題を鑑み、ガスセンサー素子の感度を改善する複合部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の第1の複合部材は、多孔体と、前記多孔体の表面および内部に保持されている繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体を含む炭素混合物と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ガスセンサー素子の感度を改善する複合部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ポリイミドフィルム上に形成したカーボンナノホーン集合体キャスト膜の表面SEM像である。
図2】カーボンナノホーン集合体を表面および内部に含む複合部材の断面の模式図である。
図3】ガスセンサー素子の断面の模式図である。
図4】カーボンナノホーン集合体分散液をろ過したフィルター(孔径5μm)の表面SEM像である。
図5】カーボンナノホーン集合体分散液をろ過したフィルター(孔径0.2μm)の表面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下に実施の形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
【0010】
「CNB」は、繊維状カーボンナノホーン集合体を意味する。「CNHs」は、球状カーボンナノホーン集合体を意味する。「カーボンナノホーン集合体」は、繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体の両方の意味を有する。
【0011】
<炭素混合物>
炭素混合物は、繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体を含む。繊維状カーボンナノホーン集合体はカーボンナノブラシ(CNB)とも呼ばれ、単層カーボンナノホーンが放射状に集合し、且つ、繊維状に繋がった構造を有する。単層カーボンナノホーンはグラフェンシートが巻かれた構造の先端が先端角約20°の角(ホーン)状に尖った、円錐型の形状の炭素構造体である。繊維状カーボンナノホーン集合体は、直径が30nm~200nmであり、長さが1μm~100μm、例えば2μm~30μmである繊維状の炭素構造体である。繊維状カーボンナノホーン集合体の表面には、直径1nm~5nm、長さが30nm~100nmの単層カーボンナノホーンの突起を有している。導電性が高い単層カーボンナノホーンが繊維状に繋がり、長い導電性パスを持つ構造を特徴とするため、繊維状カーボンナノホーン集合体は高い導電性を有する。更に、繊維状カーボンナノホーン集合体は、高い分散性を併せ持っており、材料としての導電性付与の効果が高い。
【0012】
繊維状カーボンナノホーン集合体は、種型、つぼみ型、ダリア型、ペタルダリア型、ペタル型(グラフェンシート構造)のカーボンナノホーン集合体が繋がって形成されている。すなわち、繊維状構造中に1種類または複数のこれらカーボンナノホーン集合体が含まれている。種型は集合体の表面に角状の突起がほとんどみられない、あるいは全くみられない形状、つぼみ型は集合体の表面に角状の突起が多少みられる形状、ダリア型は集合体の表面に角状の突起が多数みられる形状、ペタル型は集合体の表面に花びら状の突起がみられる形状である。ペタル構造は、幅は50nm~200nm、厚さは0.34nm~10nm、2枚~30枚のグラフェンシート構造である。ペタル-ダリア型はダリア型とペタル型の中間的な構造である。生成するカーボンナノホーン集合体は、ガスの種類や流量によってその形態および粒径が変わる。
【0013】
繊維状カーボンナノホーン集合体は、国際公開第2016/147909号にも詳細に記載されている。国際公開第2016/147909号の図1および図2には繊維状カーボンナノホーン集合体の透過型顕微鏡写真が開示されている。この透過型顕微鏡写真で示される繊維状カーボンナノホーン集合体では、放射状に集合している単層カーボンナノホーン(カーボンナノホーン集合体)が、繊維状に繋がっている。国際公開第2016/147909号の開示の全てを引用によって本明細書に取り込む。
【0014】
球状カーボンナノホーン集合体(CNHs)は、単層カーボンナノホーンが放射状に集合した球状の炭素構造体である。球状カーボンナノホーン集合体は、直径が30nm~200nm程度でほぼ均一なサイズである。
【0015】
また、得られる繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体は、その炭素骨格の一部が触媒金属元素、窒素原子等で置換されていてもよい。
【0016】
本実施形態に係る炭素混合物の作製方法では、触媒を含有した炭素をターゲット(触媒含有炭素ターゲットという)として、容器内でターゲットを回転させながら、窒素雰囲気、不活性雰囲気、水素、二酸化炭素、または、混合雰囲気下で、レーザーアブレーションにより加熱し、蒸発させる。蒸発した炭素と触媒が冷える過程で、繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体が得られる。また、上記レーザーアブレーション法以外にアーク放電法や抵抗加熱法を用いることができる。しかしながら、レーザーアブレーション法は、室温、大気圧中で連続生成できる観点からより好ましい。
【0017】
本発明で適用するレーザーアブレーション法は、レーザーをターゲットにパルス状または連続して照射して、照射強度が閾値以上になると、ターゲットがエネルギーを変換し、その結果、プルームが生成され、生成物をターゲットの下流に設けた基板上に堆積させる、或いは装置内の空間に生成させ、回収室で回収する方法である。
【0018】
レーザーアブレーションには、COレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー等が使用可能で、高出力化が容易なCOレーザーが最も適当である。COレーザーは、1kW/cm~1000kW/cmの出力が使用可能であり、連続照射およびパルス照射で行うことができる。繊維状カーボンナノホーン集合体の生成には連続照射の方が望ましい。レーザー光をZnSeレンズ等により集光させ、照射させる。また、ターゲットを回転させることで連続的に合成することが出来る。ターゲット回転速度は任意に設定できるが、0.1rpm~6rpmが特に好ましい、0.1rpm以上であればグラファイト化を抑制でき、また、6rpm以下であればアモルファスカーボンの増加を抑制できる。この時、レーザー出力は15kW/cm以上が好ましく、30kW/cm~300kW/cmが最も効果的である。レーザー出力が15kW/cm以上であれば、ターゲットが適度に蒸発し、繊維状カーボンナノホーン集合体の生成が容易となる。また300kW/cmであれば、アモルファスカーボンの増加を抑制できる。容器(チャンバー)内の圧力は、13332.2hPa(10000Torr)以下で使用することができるが、圧力が真空に近くなるほど、カーボンナノチューブが生成しやすくなり、繊維状カーボンナノホーン集合体が得られなくなる。好ましくは666.61hPa(500Torr)~1266.56hPa(950Torr)で、より好ましくは常圧(1013hPa(1atm≒760Torr))付近で使用することが大量合成や低コスト化のためにも適当である。また照射面積もレーザー出力とレンズでの集光の度合いにより制御でき、0.005cm~1cmが使用できる。
【0019】
触媒は、Fe、Ni、Coを単体で、または混合して使用することができる。触媒の濃度は適宜選択できるが、炭素に対して、0.1質量%~10質量%が好ましく、0.5質量%~5質量%がより好ましい。0.1質量%以上であると、繊維状カーボンナノホーン集合体の生成が確実となる。また、10質量%以下の場合は、ターゲットコストの増加を抑制できる。
【0020】
容器内は任意の温度で使用でき、好ましくは、0℃~100℃であり、より好ましくは室温で使用することが大量合成や低コスト化のためにも適当である。
【0021】
容器内には、窒素ガスや、不活性ガス、水素ガス、COガス等を単独でまたは混合して導入することで上記の雰囲気とする。コストの面からは、窒素ガス、Arガスが好ましい。これらのガスは反応容器内を流通し、生成する物質をこのガスの流れによって回収することができる。ガス流量は、任意の量を使用できるが、好ましくは0.5L/min~100L/minの範囲が適当である。ターゲットが蒸発する過程ではガス流量を一定に制御する。
【0022】
カーボンナノホーン集合体に微細な孔を開ける(開孔)場合は、酸化処理によって行うことができる。この酸化処理により、開孔部に酸素を含んだ表面官能基が形成される。また酸化処理は、気相プロセスと液相プロセスを使用できる。気相プロセスの場合は、空気、酸素、二酸化炭素等の酸素を含む雰囲気ガス中で熱処理して行う。中でも、コストの観点から空気が適している。また、温度は、300℃~650℃の範囲が使用でき、400℃~550℃がより適している。300℃以上で確実に開孔を形成できる。また、650℃以下ではカーボンナノホーン集合体の全体が燃焼することを抑制できる。液相プロセスの場合、硝酸、硫酸、過酸化水素等の酸化性物質を含む液体中で行う。硝酸の場合は、室温~120℃の温度範囲で使用できる。120℃以下であれば、必要以上に酸化されることがない。過酸化水素の場合、室温~100℃の温度範囲で使用でき、40℃以上がより好ましい。40℃~100℃の温度範囲では酸化力が効率的に作用し、効率よく開孔を形成できる。また液相プロセスのとき、光照射を併用するとより効果的である。
【0023】
カーボンナノホーン集合体に含まれる触媒は、必要に応じて除去することができる。触媒として使用される金属は硝酸、硫酸、塩酸中で溶解するため除去できる。使いやすさの観点から、塩酸が適している。触媒を溶解する温度は適宜選択できるが、触媒を十分に除去する場合は、70℃以上に加熱して行うことが望ましい。また、硝酸、硫酸を用いる場合、触媒除去と開孔の形成とを同時にあるいは連続して行うことができる。また、触媒がカーボンナノホーン集合体の生成時に炭素被膜で覆われる場合があるため、炭素被膜を除去するために前処理を行うことが望ましい。前処理は空気中、250℃~450℃程度で加熱することが望ましい。300℃以上では上記のように一部開孔が形成されることがある。
【0024】
本発明の一実施形態では、炭素混合物における触媒の量が低減されていてよく、または炭素混合物が触媒を含まなくてよい。存在する場合、触媒の量は、繊維状カーボンナノホーン集合体に対して、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。存在する場合、触媒の下限量は特に制限されないが、例えば繊維状カーボンナノホーン集合体に対して、好ましくは0.01質量%以上である。
【0025】
本発明の一実施形態では、炭素混合物における触媒の量は低減されていなくてもよい。触媒の量は、例えば、繊維状カーボンナノホーン集合体に対して、500質量%以下であり、または繊維状カーボンナノホーン集合体に対して、50質量%以上である。
【0026】
本発明の一実施形態では、炭素混合物におけるグラファイトの量が低減されていてよく、または炭素混合物がグラファイトを含まなくてよい。グラファイトは、カーボンナノホーン集合体と密度が異なり、沈降分離により分離できる。グラファイトは直径数μmの球状で比表面積が少なく、ガスの吸着効率が悪いため、グラファイトの量を低減することで、ガスに対する感度の高い複合部材を作製できる。存在する場合、グラファイトの量は、繊維状カーボンナノホーン集合体に対して、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。存在する場合、グラファイトの下限量は特に制限されないが、例えば繊維状カーボンナノホーン集合体に対して、好ましくは0.01質量%以上である。
【0027】
カーボンナノホーン集合体は、不活性ガス、水素、真空中等の非酸化性雰囲気で熱処理することで結晶性を向上させることができる。熱処理温度は、800℃~2000℃が使用できるが、好ましくは1000℃~1500℃である。また、開孔処理後では、開孔部に酸素を含んだ表面官能基が形成されるが、熱処理により除去することもできる。その熱処理温度は、150℃~2000℃が使用できる。表面官能基であるカルボキシル基、水酸基等を除去するには150℃~600℃が望ましい。表面官能基であるカルボニル基等は、600℃以上が望ましい。また、表面官能基は、気体または液体雰囲気下で還元することによって除去することができる。気体雰囲気下での還元には、水素が使用でき、上記の結晶性の向上と兼用することができる。液体雰囲気下では、ヒドラジン等が利用できる。
【0028】
<多孔体>
多孔体は、通気性および/または通液性を有する。多孔体としては、例えば、ろ紙、不織布、織布、多孔質膜等が挙げられ、より具体的には、フッ素樹脂等の合成樹脂メンブレンフィルター、セルロースメンブレンフィルター、ガラス繊維フィルターが挙げられる。
【0029】
多孔体の孔径は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下である。このような孔径範囲とすることで、カーボンナノホーン集合体を多孔体内に堆積させることができる。多孔体の孔径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、特に好ましくは3μm以上である。このような孔径範囲とすることで、カーボンナノホーン集合体、特には球状カーボンナノホーン集合体が多孔体の内部に入り込むことができる。孔径は、例えば水銀圧入法により測定することができる。本実施形態の一態様においては、多孔体の孔径は、好ましくは、0.1μm以上であってもよい。
【0030】
多孔体の形状は特には限定されないが、好ましくはシート状である。多孔体の厚さは、特に限定されないが、例えば、10μm~500μm、より具体的には50μm~300μmである。
【0031】
<複合部材>
本実施形態に係る複合部材は、多孔体と、繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体を含む炭素混合物と、を有する。炭素混合物は、多孔体の表面および内部に保持されている。複合部材は、炭素混合物分散液を多孔体でろ過する工程、および必要に応じて多孔体に残留した溶媒を乾燥させる工程により製造できる。この製造方法において、炭素混合物分散液は、多孔体によりろ過され、残渣として繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体を含む炭素混合物が多孔体の表面および内部に残留する。ろ過は、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過等公知の方法を用いることができる。この製造方法は、低コストであり、さらに量産性に優れている。炭素混合物を分散する溶媒は、特に限定されないが、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等の有機溶媒が好ましい。
【0032】
多孔体または複合部材の厚さ方向で繊維状カーボンナノホーン集合体の含有量に差があってよい。本明細書では、他に記載がなければ、「上」および「下」は、厚さ方向における上および下を表し、繊維状カーボンナノホーン集合体がより多く存在する方向を上とする。本明細書では、「上部」は、厚さ方向における上側の部分であり、深さを100としたときに、好ましくは0~50、より好ましくは0~30の深さである。本明細書では、「下部」は、厚さ方向における下側の部分であり、深さを100としたときに、好ましくは50~100、より好ましくは70~100の深さである。
【0033】
繊維状カーボンナノホーン集合体は、主には上部にて多孔体に絡みついている。繊維状カーボンナノホーン集合体は、好ましくは多孔体の下部よりも上部に多く存在する。これにより、複合部材をガスセンサーに用いたときにガスセンサーの感度を向上させることができる。繊維状カーボンナノホーン集合体は多孔体の下部には存在しなくてもよい。繊維状カーボンナノホーン集合体は、多孔体の表面に露出してよく、好ましくは多孔体の上表面のみに露出する。
【0034】
球状カーボンナノホーン集合体も多孔体の上部に存在してよいが、多孔体の下部にも存在してよい。球状カーボンナノホーン集合体は、好ましくは多孔体の上部よりも下部に多く存在する。球状カーボンナノホーン集合体は、多孔体の表面に露出してよく、好ましくは多孔体の上表面のみに露出する。本発明の一実施形態においては、球状カーボンナノホーン集合体は、多孔体内部にて凝集してよく、凝集体は、多孔体の孔径以上の粒子径であってよい。
【0035】
図2に本実施形態に係る複合部材の断面図を模式的に示す。図2の複合部材では、多孔体として繊維から成るフィルターを使用している。繊維状カーボンナノホーン集合体はフィルターの上部に絡みついて引っ掛かっている。また、球状カーボンナノホーン集合体はフィルターの上部を通過するが、下部で凝集して、フィルターを通過できなくなっている。フィルターの上部は繊維状カーボンナノホーン集合体が多く、フィルターの下部では球状カーボンナノホーン集合体が多くなる。従って、フィルター内部に繊維状カーボンナノホーン集合体を高濃度で含む層と球状カーボンナノホーン集合体を高濃度で含む層が存在することとなる。
【0036】
繊維状カーボンナノホーン集合体の量は、多孔体に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。繊維状カーボンナノホーン集合体の量は、多孔体に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0037】
繊維状カーボンナノホーン集合体は、多孔体の上部に集中して存在し得る。多孔体の上部に存在する繊維状カーボンナノホーン集合体の量は、好ましくは、複合部材に含まれる繊維状カーボンナノホーン集合体全体の50質量%超、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。複合部材の主な導電パスは繊維状カーボンナノホーン集合体で形成されており、上部の繊維状カーボンナノホーン集合体の量を増加させると、ガスセンサーの感度を向上させることができる。
【0038】
球状カーボンナノホーン集合体の量は、多孔体に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。球状カーボンナノホーン集合体の量は、多孔体に対して、例えば0.1質量%以上であってよい。球状カーボンナノホーン集合体の量は、必要とする繊維状カーボンナノホーン集合体の量と、炭素混合物中の球状カーボンナノホーン集合体の濃度に応じて決定され得る。一実施形態においては、例えば、多孔体に対して、10質量%以上、例えば10質量%~500質量%であってもよい。
【0039】
球状カーボンナノホーン集合体は、多孔体の下部に集中して存在し得る。多孔体の下部に存在する球状カーボンナノホーン集合体の量は、好ましくは、複合部材に含まれる球状カーボンナノホーン集合体全体の50質量%超、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。球状カーボンナノホーン集合体に吸着したガスは抵抗値の変化に寄与しにくい。このため、上部の球状カーボンナノホーン集合体の量を低減させる(即ち、下部の球状カーボンナノホーン集合体の量を増加させる)と、ガスセンサーの感度を向上させることができる。
【0040】
多孔体の上部における球状カーボンナノホーン集合体に対する繊維状カーボンナノホーン集合体の質量比率(CNB/CNHs)は、好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは5以上である。
【0041】
<ガスセンサー素子>
本実施形態に係る複合部材をガスセンサー素子のガス吸着部として用いることができる。図3は、ガスセンサー素子の構成を示す断面図である。ガスセンサー素子は、基板11と、基板11上に設けられる複合部材12と、複合部材12の例えば両端に設けられる電気測定用の電極13および電極14とを含む。繊維状カーボンナノホーン集合体の含有量が少ない、複合部材12の下側(下表面)が、基板と対向している。繊維状カーボンナノホーン集合体の含有量が多い、複合部材12の上側(上表面)が、電極13および電極14と対向している。
【0042】
基板11の材料は、絶縁性を有するものであれば特に限定されない。基板11の材料としては、例えば、シリコン、ガラス、石英、絶縁性ポリマー、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0043】
繊維状カーボンナノホーン集合体は多孔体に絡みつき、三次元網目構造を形成するため、ガスセンサー素子は内部に存在する繊維状カーボンナノホーン集合体の抵抗変化も検出できる。これによりガスセンサーの感度が向上する。また、多孔体が繊維状カーボンナノホーン集合体の支持体となっているため、安定した三次元網目構造が構築され、ガスセンサーが検出する抵抗値も安定し易い。
【0044】
電極13と電極14の材料は導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、タングステン、カーボンまたはそれらの合金が挙げられる。電極13と電極14は、これらの材料を複合部材12上に蒸着あるいは導電性ペーストを塗布する等の方法で形成できる。電極13と電極14の幅や距離はガス成分を検出可能な範囲であれば特に限定されないが、フィルター上に導電体を形成するため、幅は0.5mm以上が好ましく、距離は0.5mm~20mmであることが好ましい。
【0045】
ガスセンサー素子を測定部に接続し、ガスセンサーとすることができる。電極13と電極14間に一定電流(電圧)が印加された状態で、検知対象ガスがガスセンサー素子に供給されると、複合部材12(特には繊維状カーボンナノホーン集合体)が検知対象ガスを吸着し、複合部材12の抵抗値が変化する。検知対象ガスの供給が停止すると、複合部材12から検知対象ガスが脱離し、複合部材12の抵抗値が元の状態に戻る。検知対象ガスの吸着脱離による複合部材12の導電性変化を二端子測定法で測定し、検知対象ガスを検出することができる。
【0046】
本実施形態のガスセンサー素子の検知対象ガスは、例えば、窒素酸(NO)、炭素酸化物(CO)、硫黄酸化物(SO)、オゾン、アンモニア、酸素、水素、ハロゲン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、アルデヒド類、エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ニトロ化合物、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、ジクロロエタン等の有機ハロゲン化合物等が挙げられる。
【実施例
【0047】
<炭素混合物分散液>
窒素雰囲気下のチャンバー内で、鉄を含有した炭素ターゲットをCOレーザーアブレーションすることで繊維状カーボンナノホーン集合体および球状カーボンナノホーン集合体を含む炭素混合物を作製した。詳細には、鉄を1質量%含有するグラファイトターゲットを、2rpmで回転させて、これにCOレーザーを連続的に照射した。COレーザーのエネルギー密度は、50kW/cmであった。チャンバー内の温度は室温とし、チャンバー内に供給する窒素の流量を10L/minになるように調整した。チャンバー内の圧力は933.254hPa~1266.559hPa(700Torr~950Torr)に制御した。
【0048】
炭素混合物をSEM観察すると、繊維状の物質(繊維状カーボンナノホーン集合体)と球状の物質(球状カーボンナノホーン集合体)とグラファイトが観察された。繊維状カーボンナノホーン集合体は、直径が30nm~100nm程度で、長さが数μm~数10μmであった。球状カーボンナノホーン集合体は、直径が30~200nm程度の範囲でほぼ均一なサイズのものが多くを占めていた。グラファイトは、大きさが1μm~数10μmであった。
【0049】
熱重量分析、および動的光散乱法による粒度分布測定から、炭素混合物は、繊維状カーボンナノホーン集合体4質量%、球状カーボンナノホーン集合体62質量%、グラファイト21質量%、酸化鉄13質量%を含んでいることが確認された。
【0050】
得られた炭素混合物100mgをエタノール100mLに分散させ、12時間以上静置した。静置した液全体の50%の量の上澄みを回収して、グラファイトを除去した炭素混合物分散液を作製した。
【0051】
<実施例1>
得られた炭素混合物分散液10mLを直径47mm、膜厚78μm、孔径5μmのフィルター(MILLIPORE社製オムニポアメンブレンフィルター)に投入し(フィルター部分の分散液量は約1mL/cm)、減圧ろ過した。透明なエタノールのみフィルターを通り抜け、繊維状カーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体はフィルターに留まった。通り抜けたエタノールを分析すると、球状カーボンナノホーン集合体も繊維状カーボンナノホーン集合体も含まれておらず、フィルターの下表面にも両者は観察されなかった。図4はこのフィルターの上表面を観察したSEM像である。フィルター上部では繊維状カーボンナノホーン集合体がフィルターに絡みついて三次元網目構造を形成し、繊維状カーボンナノホーン集合体間には大きな隙間が空いており、球状カーボンナノホーン集合体は内部奥に入り込んでいる。これを乾燥させ、中央部分を1.5×2cmの大きさに切断した。このフィルターの下表面をポリイミド製基板の上に貼りつけ、フィルターの上表面の両端に電極間距離が1cmになるように金電極を蒸着で作製した。
【0052】
上記のように作製したガスセンサー素子に、バブリング方式でトルエンガスを供給した。ここでは、温度20℃、常圧下で窒素ガスをトルエン(関東化学社製 純度99.7%以上)中にバブリングしてトルエンを気化させた。トルエンガスと窒素ガスをマスフローコントローラー(堀場エステック社製 SEC-4500M、SEC-E40)を用いて所定の流量比で混合することにより、ガスセンサー素子に供給するトルエンガス濃度を制御した。また、供給するガスの流量は1.0L/minになるように調整した。
【0053】
ガスセンサー素子をガス封入チャンバーに格納し、金電極にリード線を介して、半導体パラメータアナライザ(Agilent Technologies社製Agilent 4155C)を接続し、2つの電極間に50μAのバイアス電流を印加した状態で電圧を測定した。まず、窒素ガスのみが供給された状態でガスセンサー素子の抵抗値を測定し、これを基準値Rとした。次に、トルエンガスを30秒間のみ供給し、30秒後のガスセンサー素子の抵抗値Rを測定した。その後、窒素ガスのみを供給し、ガスセンサーの抵抗値がRに戻ったことを確認後、トルエンガスの濃度を変更して同様の測定を行った。
【0054】
<比較例1>
上記の通り調製した炭素混合物分散液を実施例1と単位面積あたり同量、1.5×2cmの大きさのポリイミドフィルム上に投入して乾燥を繰り返し、キャスト膜を作製した。キャスト膜の表面を観察したSEM像を図1に示す。図1では、繊維状カーボンナノホーン集合体の隙間をびっしりと球状カーボンナノホーン集合体が埋めている様子が観察されている。ガス吸着部に実施例1のフィルターの代わりにこのキャスト膜を用いた以外は実施例1と同様にガスセンサー素子の作製、評価を行った。
【0055】
<実施例2>
上記の通り調製した炭素混合物分散液を実施例1と同量、直径47mm、膜厚68μm、孔径0.2μmのフィルター(MILLIPORE社製オムニポアメンブレンフィルター)に投入し(フィルター部分の分散液量は約1mL/cm)、減圧ろ過した。透明なエタノールのみフィルターを通り抜け、繊維状カーボンナノホーン集合体と球状カーボンナノホーン集合体はフィルターに留まった。図5はこのフィルターの上表面を観察したSEM像である。フィルター上で繊維状カーボンナノホーン集合体の隙間を球状カーボンナノホーン集合体が埋めている様子が観察された。ガス吸着部に実施例1のフィルターの代わりにこのフィルターを用いた以外は実施例1と同様にガスセンサー素子の作製、評価を行った。
【0056】
実施例1と2および比較例1の測定結果を表1に示す。いずれの例でも、ガスセンサー素子は、トルエンガスを検出したが、ガスセンサーの感度を示す△R/Rは、いずれの濃度においても、実施例1と2は比較例1よりも高かった。△Rは抵抗値Rの変化量であり、R-Rを表す。
【0057】
【表1】
【0058】
この出願は、2019年6月12日に出願された日本出願特願2019-109409を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0059】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0060】
11 基板
12 複合部材
13 電極
14 電極
図1
図2
図3
図4
図5