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特許71929931液型硬化性シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲル硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】1液型硬化性シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲル硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20221213BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20221213BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/524
C08K3/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021533924
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2020026634
(87)【国際公開番号】W WO2021014970
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019136760
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正
(72)【発明者】
【氏名】原 寛保
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084520(WO,A1)
【文献】特開2004-204225(JP,A)
【文献】特表2018-503709(JP,A)
【文献】特開2009-220384(JP,A)
【文献】国際公開第2019/025001(WO,A1)
【文献】特開2016-086086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
C08L 83/05
C08K 5/524
C08K 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)
αVi βγδ (1)
M:R1 3SiO(1/2)
Vi:R1 2RSiO(1/2)
D:R1 2SiO(2/2)
T:R1SiO(3/2)
(式中、M、MVi、D、Tはそれぞれ上記に示す単位であり、Rは独立にアルケニル基であり、R1は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基である。αは0.01~3.6の正数であり、βは0.01~3.6の正数であり、かつ、(α+β)=0.5~5であり、(α/β)=0.1~5である。γは10~1,600の正数であり、δは0.5~3の正数であり、((α+β)/δ)は0.8~1.7である。)
で表される分岐鎖状オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記一般式(2)
【化1】
(式中、R1は上記のとおりであり、zは1~500の整数である。)
で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 0.1~50質量部、
(C)白金系触媒: 有効量、
(D)下記一般式(3)
【化2】
(式中、R2メチル基、エチル基又はプロピル基であり、Xは水素原子又はメチル基である。)
で表される亜リン酸化合物: (C)成分中の白金1原子に対し、一般式(3)で示される亜リン酸化合物が3分子を超え、15分子以下である量
を含有する1液型硬化性シリコーンゲル組成物。
【請求項2】
硬化してJIS K2220で規定される針入度が10~110であるシリコーンゲル硬化物を与えるものである請求項1に記載の1液型硬化性シリコーンゲル組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の1液型硬化性シリコーンゲル組成物を硬化してなるシリコーンゲル硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性に優れた1液型のシリコーンゲル硬化物に関し、特に50℃を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定した1液型硬化性シリコーンゲル組成物及び該組成物を硬化してなるシリコーンゲル硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲル組成物は、ケイ素原子に結合した水素原子(すなわち、SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ケイ素原子に結合したビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン及び白金系触媒を含有し、前記ケイ素原子に結合した水素原子のアルケニル基への付加反応により硬化物を得る付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物として調製される。このシリコーンゲル組成物を加熱することにより硬化したシリコーンゲル硬化物は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、電気絶縁性等に優れ、低弾性率かつ低応力であることにより、車載電子部品、民生用電子部品等の電子部品の保護に用いられている。シリコーンゲル硬化物の特徴である低弾性率かつ低応力であることは、他のエラストマー製品には見られない。
【0003】
上記のようにシリコーンゲル組成物は、加熱することでシリコーンゲル硬化物を得るため、1液型の場合では高温条件に晒された場合、増粘やゲル化などの性状変化や硬化後に得られるシリコーンゲル硬化物の物性値が変化してしまうなどの不具合が生じる。そのため、このような問題を回避するために、2液型もしくはそれ以上に成分を分け、使用直前に混合するという混合型のシリコーンゲル組成物にする方法や、1液型シリコーンゲル組成物を冷蔵もしくは冷凍して輸送するという手段がとられている。前者においては、配合ブレや混合ブレにより得られるシリコーンゲル硬化物の物性値が変化する懸念があり、非常に高度な配合技術・混合技術が必要となるため、万人が使用できるという材料ではない。また、後者においては、保管時から使用するまでの間、冷蔵もしくは冷凍条件が必要となるため、輸送や保管費用が非常に大きくなり、商業的に不利となる材料であった。このような背景の中、近年では常温において長期間保管しても性状や性能が変わらない1液型シリコーンゲル組成物の要求が高まっている。
【0004】
そのような背景の中、特許第2849027号公報(特許文献1)においては、エチレンジアミン骨格のアミン化合物を添加する方法が提案されている。また、特許第4530147号公報(特許文献2)においては、特定の亜リン酸エステル化合物を白金触媒と加熱熟成させた触媒を使用する方法が提案されている。上記2公報で提案されたシリコーンゲル組成物は、確かに従来の1液型のシリコーンゲル組成物と比較すると保存安定性に優れているが、これらの方法においても、50℃を超える温度に長時間晒されると、増粘やゲル化が起こってしまうため、性能安定性のために保管や輸送においては低温条件が必須となっている。
【0005】
また海外においては、欧州特許出願公開第2050768A1号公報、米国特許第6706840号公報(特許文献3、4)において、白金-亜リン酸錯体を使用する方法が提案されている。また、米国特許第4256616号公報(特許文献5)においては、白金-亜リン酸錯体及びスズ塩を使用する方法が提案されている。さらに米国特許第4329275号公報(特許文献6)には、白金触媒とリン化合物、及びヒドロペルオキシド基を含まない有機過酸化物を使用する方法が提案されている。上記の公報にて提案された組成物においても、50℃を超える温度に長時間晒されると、増粘やゲル化が起こってしまうため、性能安定性のために保管や輸送においては低温条件が必須となっている。
【0006】
また近年、独国特許出願公表第60316102T2号公報(特許文献7)には、白金触媒、亜リン酸トリエステル、及び有機過酸化物から作られた1液型オルガノポリシロキサンゲル組成物が記載されている。この亜リン酸トリエステルとしては、亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)について述べられており、存在する有機過酸化物の量は、亜リン酸トリエステルを基準として少なくとも2当量であるという方法が提案されている。また、特表2018-503709号公報(特許文献8)においては、亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)を使用する方法が提案されている。しかし、これらの方法においても、50℃を超える温度に長時間晒されると、増粘やゲル化が起こってしまうため、性能安定性のために保管や輸送においては低温条件が必須となっており、低温保管不要で、かつ50℃を超える温度に長期間晒された場合においても性状や物性が安定したシリコーンゲル組成物が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2849027号公報
【文献】特許第4530147号公報
【文献】欧州特許出願公開第2050768A1号公報
【文献】米国特許第6706840号公報
【文献】米国特許第4256616号公報
【文献】米国特許第4329275号公報
【文献】独国特許出願公表第60316102T2号公報
【文献】特表2018-503709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、50℃を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定した1液型硬化性シリコーンゲル組成物及び該組成物を硬化してなるシリコーンゲル硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ヒドロシリル化付加反応によって硬化する付加硬化型の1液型硬化性シリコーンゲル組成物において、主剤(ベースポリマー)として特定構造を有する分岐鎖状のオルガノポリシロキサンと架橋剤(硬化剤)としてケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖中の両末端にのみ有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン)の組合せを選択的に採用するとともに、ヒドロシリル化付加反応に従来から常用されている通常の白金触媒、及び該白金触媒中の白金1原子に対して、下記一般式(3)で示される特定の亜リン酸トリエステル化合物を、3分子を超え、15分子以下の量で添加配合してシリコーンゲル組成物を構成することで、50℃を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定した1液型の硬化性シリコーンゲル組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【化1】
(式中、R2は炭素原子数1~10の1価脂肪族炭化水素基であり、Xは水素原子又はメチル基である。)
【0010】
従って、本発明は、下記の1液型硬化性シリコーンゲル組成物及び該組成物を硬化してなるシリコーンゲル硬化物を提供する。
[1]
(A)下記平均組成式(1)
αVi βγδ (1)
M:R1 3SiO(1/2)
Vi:R1 2RSiO(1/2)
D:R1 2SiO(2/2)
T:R1SiO(3/2)
(式中、M、MVi、D、Tはそれぞれ上記に示す単位であり、Rは独立にアルケニル基であり、R1は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基である。αは0.01~3.6の正数であり、βは0.01~3.6の正数であり、かつ、(α+β)=0.5~5であり、(α/β)=0.1~5である。γは10~1,600の正数であり、δは0.5~3の正数であり、((α+β)/δ)は0.8~1.7である。)
で表される分岐鎖状オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記一般式(2)
【化2】
(式中、R1は上記のとおりであり、zは1~500の整数である。)
で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 0.1~50質量部、
(C)白金系触媒: 有効量、
(D)下記一般式(3)
【化3】
(式中、R2メチル基、エチル基又はプロピル基であり、Xは水素原子又はメチル基である。)
で表される亜リン酸化合物: (C)成分中の白金1原子に対し、一般式(3)で示される亜リン酸化合物が3分子を超え、15分子以下である量
を含有する1液型硬化性シリコーンゲル組成物。

硬化してJIS K2220で規定される針入度が10~110であるシリコーンゲル硬化物を与えるものである[1]に記載の1液型硬化性シリコーンゲル組成物。

[1]又は2]に記載の1液型硬化性シリコーンゲル組成物を硬化してなるシリコーンゲル硬化物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物は、50℃を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定した1液型の硬化性シリコーンゲル組成物を与えるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物は、下記の(A)~(D)成分を必須成分として含有してなるものである。なお、本発明において、シリコーンゲル硬化物とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする架橋密度の低い硬化物であって、JIS K2220(1/4コーン)による針入度が10~110のものを意味する。これは、JIS K6253によるゴム硬度測定では測定値(ゴム硬度値)が0となり、有効なゴム硬度値を示さない程低硬度(すなわち、軟らか)でかつ、低応力性であるものに相当し、この点において、いわゆるシリコーンゴム硬化物(ゴム状弾性体)とは別異のものである。
【0013】
以下、各成分について詳細に説明する。なお、本明細書において、粘度は23℃における値である。
【0014】
〔(A)オルガノポリシロキサン〕
本発明に用いられる(A)成分は、1液型硬化性シリコーンゲル組成物の主剤(ベースポリマー)である。該(A)成分は、下記平均組成式(1)で表され、一分子中に分岐構造となるT単位構造(下記組成式(1)のTで示されるオルガノシルセスキオキサン単位)を特定の比率で有していると共に、分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基(下記組成式(1)のMViで示されるトリオルガノシロキシ単位(R1 2RSiO(1/2)単位)中のR、本明細書中において「ケイ素原子結合アルケニル基」という)を有する分岐鎖状のオルガノポリシロキサンである。
【0015】
αVi βγδ (1)
M:R1 3SiO(1/2)
Vi:R1 2RSiO(1/2)
D:R1 2SiO(2/2)
T:R1SiO(3/2)
(式中、M、MVi、D、Tはそれぞれ上記に示す単位であり、Rは独立にアルケニル基であり、R1は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基である。αは0.01~3.6の正数であり、βは0.01~3.6の正数であり、かつ、(α+β)=0.5~5であり、(α/β)=0.1~5である。γは10~1,600の正数であり、δは0.5~3の正数であり、((α+β)/δ)は0.8~1.7である。)
【0016】
上記式(1)中、Rは独立にアルケニル基であり、通常、炭素原子数2~6、好ましくは炭素原子数2~4、より好ましくは炭素原子数2~3のアルケニル基である。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。
1は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1~10、好ましくは1~6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換したクロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも合成が容易であることから、メチル基、フェニル基又は3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0017】
また、上記式(1)中、αは0.01~3.6の正数、好ましくは0.3~2.5の正数、より好ましくは0.5~2の正数であり、βは0.01~3.6の正数、好ましくは0.3~2.5の正数、より好ましくは0.5~2の正数であり、かつ、(α+β)=0.5~5、好ましくは0.6~4、より好ましくは0.8~3であり、(α/β)=0.1~5、好ましくは0.2~4、より好ましくは0.5~2である。
また、γは10~1,600の正数、好ましくは30~1,200の正数、より好ましくは50~1,000の正数であり、δは0.5~3の正数、好ましくは1~2.5の正数、より好ましくは1.2~2.1の正数であり、((α+β)/δ)は0.8~1.7、好ましくは0.85~1.5、より好ましくは0.9~1.2である。
【0018】
ここで、分子中の分岐構造(T単位)の比率を示すδが大きすぎると(T単位が3を超える場合)、ベースポリマー中の分岐構造(架橋点)が多すぎてしまい、未硬化状態のシリコーンゲル組成物が経時で増粘・ゲル化を起こす不具合が起こりやすくなる。また、逆に分岐構造(T単位)の比率を示すδが小さすぎると(T単位が0.5未満である場合)、分岐構造(架橋点)が少なすぎるため、加熱後に十分な硬度を有するシリコーンゲル硬化物が得られなかったり、未硬化となる場合がある。
また、((α+β)/δ)は0.8~1.2の範囲内であることが必須である。これは、(α+β)すなわち無反応性の分子鎖末端(M単位)と反応性の分子鎖末端(MVi単位)の合計がすでにベースポリマー中で架橋点(分岐構造)を形成しているT単位の量と一定の比率とすることで、未硬化状態のシリコーンゲル組成物に十分な保存安定性と開封加熱時に十分な硬化性とを付与させることができるからである。((α+β)/δ)が0.8未満である場合、すなわちT単位の比率が大きくなりすぎると、未硬化状態のシリコーンゲル組成物は高温保管時に経時で増粘・ゲル化を起こす不具合が起こりやすくなる。また、((α+β)/δ)が1.7を超える場合、すなわちT単位の比率が小さくなりすぎると、ベースポリマー中の架橋点(分岐構造)が少なすぎるため、加熱後に十分な硬度を有するシリコーンゲル硬化物が得られなかったり、未硬化となる場合がある。
上記のγの値は10~1,600の正数であり、(A)成分の分岐鎖状オルガノポリシロキサンの粘度に反映されるため、使用用途によりγの数値の異なるベースポリマーを使用することが有利であるが、広域に使用される(A)成分の粘度を考慮すると、好ましくは30~1,200の正数、その中でも50~1,000の正数が特に好ましい。
【0019】
(A)成分の粘度は、10~50,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは100~10,000mPa・sである。(A)成分の粘度が低すぎると得られる1液型硬化性シリコーンゲル組成物の粘度も低くなり、作業性が悪くなるほか、得られるシリコーンゲル硬化物が硬くなりすぎる場合があり、(A)成分の粘度が高すぎると、結果として得られる1液型硬化性シリコーンゲル組成物の粘度も高くなり、作業性に悪影響を与える場合がある。
【0020】
なお、本発明において、粘度は、通常、回転粘度計(BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定することができる(以下、同じ)。
また、本発明において、重合度(例えば、上記平均組成式(1)におけるα+β+γ+δの合計値や、後述する(B)成分の平均式(2)におけるzの値等)又は分子量は、通常、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる(以下、同じ)。
【0021】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、上記式(1)の範囲であれば、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
〔(B)ケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖両末端にのみ有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン〕
本発明に用いられる(B)成分は、(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が上記(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基とヒドロシリル化付加反応し、架橋構造を形成する硬化剤(架橋剤)として作用するものである。該(B)成分は、下記一般式(2)
【化4】
(式中、R1は上記のとおりであり、zは1~500の整数である。)
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖両末端にのみ有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(すなわち、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン)である。
【0023】
上記式(2)中、R1は上記のとおりであり、上記式(1)のR1で例示したものと同様のものが例示できる。中でもメチル基、フェニル基又は3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。
また、分子中の2官能性ジオルガノシロキサン単位(Si(R122/2)の繰り返し数(又は重合度)を示すzは1~500の整数であることが必要であり、好ましくは5~300の整数である。zが1未満であると、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度が低くなり、作業性が悪くなるほか、得られるシリコーンゲル硬化物が硬すぎたりするおそれがある。またzが500を超える数値であると、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える。
【0024】
(B)成分の粘度は、0.1~1,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは1~500mPa・sである。(B)成分の粘度が低すぎると、得られる1液型硬化性シリコーンゲル組成物の粘度も低くなり、作業性が悪くなるほか、得られるシリコーンゲル硬化物が硬くなりすぎる場合があり、(B)成分の粘度が高すぎると、結果として得られる1液型硬化性シリコーンゲル組成物の粘度も高くなり、作業性に悪影響を与える場合がある。
【0025】
ここで、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いてもよいし、zの数値が全く異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(B)成分の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.1~50質量部であり、その中でも3~30質量部の範囲がより好ましい。0.1質量部未満であると、得られるシリコーンゲル硬化物がやわらかすぎたり、最悪の場合は硬化物が得られないおそれがある。また、50質量部を超えると、期待する耐寒性能を得ることができなかったり、得られるシリコーンゲル硬化物が硬くなるおそれがある。
【0027】
〔(C)白金系触媒〕
本発明に用いられる(C)成分は、前記(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基と前記(B)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)とのヒドロシリル化付加反応を促進させるための触媒として従来から通常使用されるものである。また、この(C)成分は、室温(23℃±15℃)における本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物の保存中において、後述する(D)成分の亜リン酸化合物と混合すると、容易にかつ定量的に白金-亜リン酸化合物錯体を形成するものであり、該白金-亜リン酸化合物錯体を形成することで、50℃を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定した1液型の硬化性シリコーンゲル組成物を得ることが可能となる。
【0028】
該(C)成分は白金系触媒(白金又は白金系化合物)であり、公知のものを使用することができる。その具体例としては、白金ブラック、塩化白金酸、塩化白金酸等のアルコール変性物;塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体などが例示される。
【0029】
(C)成分の配合量は有効量でよく、所望の硬化速度により適宜増減することができるが、通常、(A)成分及び(B)成分の合計量に対して、白金原子の質量換算で、通常0.1~1,000ppm、好ましくは1~300ppmの範囲である。この配合量が多すぎると得られる硬化物の耐熱性が低下する場合がある。
【0030】
〔(D)亜リン酸化合物〕
(D)成分の亜リン酸化合物は、室温(23℃±15℃)における本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物の保存中において、前記(C)成分の白金触媒との間で、白金-亜リン酸化合物錯体を形成させることで、50℃を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定した1液型の硬化性シリコーンゲル組成物を得られるようにするものであり、そのための必須成分である。さらに亜リン酸化合物としては、下記一般式(3)の構造を有することが必須である。
【化5】
(式中、R2は炭素原子数1~10の1価の脂肪族炭化水素基であり、Xは水素原子又はメチル基である。)
【0031】
上記式(3)中、R2は炭素原子数1~10、好ましくは1~6の1価の脂肪族炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等のアルケニル基などが挙げられ、脂肪族不飽和結合を有さない1価炭化水素基が望ましく、その中でもアルキル基が好ましく、特にメチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。ここで、R2は、同一もしくは異種であっても構わない。
また、Xは水素原子、又はメチル基であることが必須であり、その中でも特に水素原子が好ましい。
【0032】
上記式(3)の構造を有する亜リン酸化合物の具体例としては、亜リン酸トリイソプロピル、亜リン酸トリ(tert-ブチル)、亜リン酸トリ(sec-ブチル)、亜リン酸トリス(1-エチルプロピル)エステル、亜リン酸トリス(1-エチルブチル)エステル、亜リン酸トリス(1-プロピルブチル)エステルなどが例示される。
【0033】
上記で表される亜リン酸化合物の配合量は、前述する(C)成分中の白金1原子に対し、一般式(3)で示される亜リン酸化合物が3分子を超え、15分子以下の範囲内である量を添加することが必須である。これは、白金1原子に対し、一般式(3)で示される亜リン酸化合物が3分子以下の場合、白金触媒の活性を十分に低下させることができないため、高温条件下において長期間晒されると、シリコーンゲル組成物が増粘したり、ゲル化したりする。また、白金1原子に対し、一般式(3)で示される亜リン酸化合物が15分子を超えてしまうと、亜リン酸化合物の添加量が多すぎてしまい、硬化させるために加熱しても、十分に硬化しなかったり、硬化に長時間かかったり、最悪の場合は硬化物を得ることができなくなる。その中でも、上記亜リン酸化合物の好ましい配合量は、(C)成分中の白金1原子に対し、亜リン酸化合物を3.5分子から12分子の範囲内、より好ましくは、(C)成分中の白金1原子に対し、亜リン酸化合物を4分子から10分子の範囲内である。
【0034】
また、(D)成分は予め(C)成分と混合したのち添加しても、単独で添加してもよい。
【0035】
〔その他の任意成分〕
本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物には、上記(A)~(D)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、反応抑制剤、無機質充填剤、反応促進剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0036】
反応抑制剤は、上記シリコーンゲル組成物の反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、アセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。
【0037】
無機質充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤;これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で表面疎水化処理した充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0038】
また、より低温で硬化させたい場合は、反応促進剤として有機過酸化物を微量添加することができる。有機過酸化物の具体例としては、ジ-tert-ブチルペルオキシドやジ-tert-ヘキシルペルオキシドなどが挙げられる。その際、高温条件における性状安定性も低下することから、酸化防止剤を微量併用することが好ましい。用いられる酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエンやブチルヒドロキシアニソールなどが挙げられる。
【0039】
〔組成物の硬化〕
本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物は、本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物を用途に応じた温度条件下で硬化させることによりシリコーンゲル硬化物が得られる。加熱温度としては100~180℃の範囲内、より最適な温度は100~160℃の範囲内が好ましい。また、加熱時間としては、10分~5時間程度、特には20分~2時間程度が好ましい。
【0040】
本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物は、電気・電子部品の封止もしくは充填に用いることが好適である。
【0041】
本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度が10~110であることが好ましく、より好ましくは10~100、さらに好ましくは15~90である。針入度が10未満になると、シリコーンゲル組成物が硬化する際の応力に耐えきれず、電子回路の一部が破断したり、シリコーンゲル硬化物内部にクラックが生成したりする場合がある。また、針入度が110を超えると、振動によりシリコーンゲル硬化物が脱落したり、落下したりする場合がある。
以上の本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物によれば、50℃を超える温度に長時間晒された状態においても、性状や物性が安定した1液型の硬化性シリコーンゲル組成物となる。すなわち、本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物を70℃で30日間保管しても該組成物がゲル化することなくその性状として液体の状態が保たれ、その粘度も初期値の2倍以内、好ましくは1.1倍以内に保たれ、さらにはその硬化性(特に深部硬化性)も初期状態から変わらず保たれる。また、本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物を70℃で30日間保管しても、その硬化物(シリコーンゲル硬化物)の物性が初期状態とほとんど変わらず保たれ、具体的には70℃30日保管後の本発明の1液型硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物の針入度(JIS K2220で規定される1/4コーン)が10~110であって、製造初期の針入度から±5ポイント以内、好ましくは±2ポイント以内に保たれる。
【実施例
【0042】
以下、合成例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表し、「Vi」は「ビニル基」を表す。また、針入度は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度であり、離合社製自動針入度計RPM-101を用いて測定した。また、粘度は回転粘度計による23℃における測定値であり、重合度はトルエンを展開溶媒としたGPC分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度である。
【0043】
[実施例1]
(A)成分である下記平均組成式(4)
1.21Vi 0.8897.72.0 (4)
M:(CH33SiO(1/2)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
T:(CH3)SiO(3/2)
(δ=2.0、α=1.21、β=0.88、γ=97.7、(α+β)=2.09、(α/β)=1.375、((α+β)/δ)=1.045)
で示される23℃での粘度が800mPa・sのオルガノポリシロキサン100部、
(B)成分である下記一般式(5)
【化6】
で示され、23℃での粘度が18mPa・sの両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン9.0部を添加し、均一攪拌したのち、
(C)成分である白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.20部、
(D)成分である下記一般式(6)
【化7】
で示される亜リン酸トリエステル化合物(品名;亜リン酸トリイソプロピル(東京化成工業株式会社製))を0.00534部(上記(C)成分白金1原子に対して5.0分子となる量)、任意成分であるエチニルシクロヘキサノールを0.04部添加し、均一に混合した組成物1を得た。得られた組成物1を150℃で30分間加熱硬化したところ、針入度45の硬化物を得た。
【0044】
[実施例2]
(A)成分である下記平均組成式(7)
0.83Vi 0.8498.2φ 2.21.5 (7)
M:(CH33SiO(1/2)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
φ:(C652SiO(2/2)
T:(CH3)SiO(3/2)
(δ=1.5、α=0.83、β=0.84、γ=100.4、(α+β)=1.67、(α/β)=0.988、((α+β)/δ)=1.11)
で示される23℃での粘度が1,000mPa・sのオルガノポリシロキサン100部、
(B)成分である下記一般式(5)
【化8】
で示され、23℃での粘度が18mPa・sの両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン8.70部を添加し、均一攪拌したのち、
(C)成分である白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.20部、
(D)成分である下記一般式(6)
【化9】
で示される亜リン酸トリエステル化合物(品名;亜リン酸トリイソプロピル(東京化成工業株式会社製))を0.00855部(上記(C)成分白金1原子に対して8.0分子となる量)、任意成分であるエチニルシクロヘキサノールを0.04部添加し、均一に混合した組成物2を得た。得られた組成物2を150℃で30分間加熱硬化したところ、針入度48の硬化物を得た。
【0045】
[実施例3]
(A)成分である下記平均組成式(4)
1.21Vi 0.8897.72.0 (4)
M:(CH33SiO(1/2)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
T:(CH3)SiO(3/2)
(δ=2.0、α=1.21、β=0.88、γ=97.7、(α+β)=2.09、(α/β)=1.375、((α+β)/δ)=1.045)
で示される23℃での粘度が800mPa・sのオルガノポリシロキサン100部、
(B)成分である下記一般式(8)
【化10】
で示され、23℃での粘度が36mPa・sの両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン17.0部を添加し、均一攪拌したのち、
(C)成分である白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.20部、
(D)成分である下記一般式(6)
【化11】
で示される亜リン酸トリエステル化合物(品名;亜リン酸トリイソプロピル(東京化成工業株式会社製))を0.00534部(上記(C)成分白金1原子に対して5.0分子となる量)、任意成分であるエチニルシクロヘキサノールを0.04部添加し、均一に混合した組成物3を得た。得られた組成物3を150℃で30分間加熱硬化したところ、針入度47の硬化物を得た。
【0046】
[実施例4]
(A)成分である下記平均組成式(4)
1.21Vi 0.8897.72.0 (4)
M:(CH33SiO(1/2)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
T:(CH3)SiO(3/2)
(δ=2.0、α=1.21、β=0.88、γ=97.7、(α+β)=2.09、(α/β)=1.375、((α+β)/δ)=1.045)
で示される23℃での粘度が800mPa・sのオルガノポリシロキサン100部、
(B)成分である下記一般式(5)
【化12】
で示され、23℃での粘度が18mPa・sの両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン9.0部を添加し、均一攪拌したのち、
(C)成分である白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.20部、
(D)成分である下記一般式(9)
【化13】
で示される亜リン酸トリエステル化合物を0.00641部(上記(C)成分白金1原子に対して5.0分子となる量)、任意成分であるエチニルシクロヘキサノールを0.04部添加し、均一に混合した組成物4を得た。得られた組成物4を150℃で30分間加熱硬化したところ、針入度45の硬化物を得た。
【0047】
[実施例5]
(A)成分である下記平均組成式(4)
1.21Vi 0.8897.72.0 (4)
M:(CH33SiO(1/2)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
T:(CH3)SiO(3/2)
(δ=2.0、α=1.21、β=0.88、γ=97.7、(α+β)=2.09、(α/β)=1.375、((α+β)/δ)=1.045)
で示される23℃での粘度が800mPa・sのオルガノポリシロキサン100部、
(B)成分である下記一般式(5)
【化14】
で示され、23℃での粘度が18mPa・sの両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン9.0部を添加し、均一攪拌したのち、
(C)成分である白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.20部、
(D)成分である下記一般式(6)
【化15】
で示される亜リン酸トリエステル化合物(品名;亜リン酸トリイソプロピル(東京化成工業株式会社製))を0.0107部(上記(C)成分白金1原子に対して10.0分子となる量)、任意成分であるエチニルシクロヘキサノールを0.04部添加し、均一に混合した組成物5を得た。得られた組成物5を150℃で30分間加熱硬化したところ、針入度46の硬化物を得た。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、(A)成分である平均組成式(4)にT構造を含まないベースポリマー(すなわち、下記平均組成式(10)
1.21Vi 0.8897.7 (10)
M:(CH33SiO(1/2)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
(α=1.21、β=0.88、γ=97.7、δ=0、(α+β)=2.09、(α/β)=1.375)
で示される23℃での粘度が600mPa・sのオルガノポリシロキサン)を100部用いた以外は同様にして、組成物6を得た。この組成物6を150℃で30分間加熱硬化したところ、増粘は確認されたが未硬化であった。
【0049】
[比較例2]
実施例1において、(A)成分である平均組成式(4)のT構造が4.0であるベースポリマー(すなわち、下記平均組成式(11)
1.21Vi 0.8897.74.0 (11)
M:(CH33SiO(1/2)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
T:(CH3)SiO(3/2)
(α=1.21、β=0.88、γ=97.7、δ=4.0、(α+β)=2.09、(α/β)=1.375、((α+β)/δ)=0.52となり本発明の規定外)
で示される23℃での粘度が800mPa・sのオルガノポリシロキサン)を100部用いた以外は同様にして、組成物7を得た。この組成物7を150℃で30分間加熱硬化したところ、針入度20の硬化物を得た。
【0050】
[比較例3]
実施例1において、(A)成分である平均組成式(4)のT構造が0.3であるベースポリマー(すなわち、下記平均組成式(12)
1.21Vi 0.8897.70.3 (12)
M:(CH33SiO(1/2)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
T:(CH3)SiO(3/2)
(α=1.21、β=0.88、γ=97.7、δ=0.3、(α+β)=2.09、(α/β)=1.375、((α+β)/δ)=6.97となり本発明の規定外)
で示される23℃での粘度が550mPa・sのオルガノポリシロキサン)を100部用いた以外は同様にして、組成物8を得た。この組成物8を150℃で30分間加熱硬化したところ、得られたシリコーンゲル硬化物が柔らかすぎてしまい、針入度を測定することができなかった。
【0051】
[比較例4]
実施例1において、(A)成分である平均組成式(4)のαが0であるベースポリマー(すなわち、下記平均組成式(13)
Vi 0.8897.72.0 (13)
Vi:(CH32(CH2=CH)SiO(1/2)
D:(CH32SiO(2/2)
T:(CH3)SiO(3/2)
(α=0、β=0.88、γ=97.7、δ=2.0、(α+β)=0.88、(α/β)=0、((α+β)/δ)=0.44となり本発明の規定外)
で示される23℃での粘度が700mPa・sのオルガノポリシロキサン)を100部用いた以外は同様にして、組成物9を得た。この組成物9を150℃で30分間加熱硬化したところ、得られたシリコーンゲル硬化物が硬すぎてしまい、針入度が2を示した。
【0052】
[比較例5]
実施例1において、(B)成分である一般式(5)で示され、23℃での粘度が18mPa・sの両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを用いる代わりに、下記一般式(14)
【化16】
で示され、23℃での粘度が100mPa・sの両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体を2.1部用いた以外は同様にして、組成物10を得た。この組成物10を150℃で30分間加熱硬化したところ、針入度42の硬化物を得た。
【0053】
[比較例6]
実施例1において、(D)成分である亜リン酸トリイソプロピルを用いる代わりに、亜リン酸トリス(2,4-tert-ブチルフェニル)を0.01658部(白金1原子に対して5.0分子となる量)用いた以外は同様にして、組成物11を得た。この組成物11を150℃で30分間加熱硬化したところ、表面のみ硬化し、深部は未硬化であった。なお、針入度は60を示した。
【0054】
[比較例7]
実施例1において、(D)成分である亜リン酸トリイソプロピルを0.00213部(白金1原子に対して2.0分子となる量)用いた以外は同様にして、組成物12を得た。この組成物12を150℃で30分間加熱硬化したところ、針入度45の硬化物を得た。
【0055】
[比較例8]
実施例1において、(D)成分である亜リン酸トリイソプロピルを0.02136部(白金1原子に対して20.0分子となる量)用いた以外は同様にして、組成物13を得た。この組成物13を150℃で30分間加熱硬化したところ、表面のみ硬化し、深部は未硬化であった。なお、針入度は55を示した。
【0056】
[試験]
上記実施例1~5及び比較例1~8で得られた組成物を用いて、以下の試験を実施した。これらの結果を表1、2に示す。
【0057】
○初期物性の評価:
針入度
上記実施例及び比較例で得られた硬化物の硬さは、針入度を測定することで評価した。なお、針入度は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度であり、離合社製自動針入度計RPM-101を用いて測定した。
【0058】
粘度
上記実施例及び比較例で得られた粘度は、回転粘度計を用いて23℃の温度条件にて行った。
【0059】
深部硬化性
上記実施例及び比較例で得られた組成物を、容器(寸法30mmφ×15mm)に入れて150℃にて30分間硬化させたのち、硬化したシリコーンゲル硬化物を掻き出して深部まで硬化しているかを評価した。15mmの深さ(つまり底部)まで硬化しているものを合格、深部が液状であるものを不合格と判定した。
【0060】
○高温保存性の確認;
70℃保存性
容量120mlのガラス製容器に組成物を100g入れ、空隙を窒素にて置換したのち密閉した。その後、充填した容器を70℃の乾燥機に入れ、30日間保管した。この時の空間に占める酸素濃度は計算上50ppm以下になるように窒素で置換した。その後、目視にて性状を確認し、液状を保てたものを合格とした。
【0061】
70℃×30日後針入度
上記70℃保存性の試験において、70℃にて30日間放置後に性状が液状である組成物を、150℃で30分間加熱硬化して硬化物を作製し、上記と同様に針入度を測定した。その際、製造初期の針入度から±5ポイント以内のものを合格、-5ポイントを下回るもの、+5ポイントを超えるものあるいは測定不可能であったものを不合格と判定した。
【0062】
70℃×30日後粘度
また、上記70℃保存性の試験において、70℃にて30日間放置後に性状が液状である組成物を、回転粘度計を用いて23℃の温度条件にて粘度測定を行い、初期値と比較した。その際、粘度が初期値の2倍以内であるものを合格、粘度が初期値の2倍を超えるものを保存性不合格と判定した。
【0063】
70℃×30日後深部硬化性
上記70℃保存性の試験において、70℃にて30日間放置後に性状が液状である組成物の深部硬化性を、上記と同様にして測定し、評価した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
[評価]
実施例1~5の組成物は、本発明の要件を満たすものであり、製造初期の物性と性状が70℃にて30日間の保管サンプルにおいても保持されており、非常に保存安定性が良好な組成物であることが分かる。
これに対し、比較例1の組成物は、(A)成分であるオルガノポリシロキサンの構造中にT単位を含まないことから架橋点が形成されないため、150℃にて硬化したが増粘したのみで未硬化であった。比較例2、3においては、(A)成分であるオルガノポリシロキサンの構造中のT単位数が、本発明の規定値を逸脱している。そのため、比較例2ではT単位数が多すぎるため、70℃にて保管中にゲル化してしまった。その逆に、比較例3においては、T単位数が少なすぎるため、硬化はするものの針入度を測定できるほどの硬さを有するシリコーンゲル硬化物を得ることが不可能であった。比較例4においては、(A)成分であるオルガノポリシロキサンの構造中のαを含まない、すなわち分子鎖末端を構成する単官能性シロキシ単位が付加硬化性を有するMVi単位のみからなるベースオイルとなるため、架橋点が多すぎて初期針入度が5以下、すなわち測定精度が疑問視される針入度となってしまう。その上、70℃保管にて18日ほどでゲル化してしまった。比較例5においては、(B)成分であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造が異なり、側鎖のみにSiH基を有するオルガノハイドロジェンシロキサンを使用した例であるが、この場合も同様に70℃保管にて15日ほどでゲル化してしまった。比較例6は、本発明の(D)成分とは構造が異なる亜リン酸化合物を使用した例であるが、このような亜リン酸化合物を使用した場合では、150℃で30分間の硬化条件では容器(寸法30mmφ×15mm)の底部まで組成物が硬化していないことが分かる。その上、70℃保管にて8日ほどでゲル化してしまう。比較例7,8においては、(D)成分である亜リン酸化合物の添加量が本発明の規定値を外れている。比較例7においては、亜リン酸エステルの添加量が白金1原子に対して2.0分子となる量と少ないため、70℃保管にて1日ほどでゲル化してしまった。また、その逆である比較例8においては亜リン酸エステルの添加量が白金1原子に対して20.0分子となる量と多すぎるため、深部硬化性が悪い結果となっている。
上記の結果から、本発明の有効性が確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の保存性良好な1液型硬化性シリコーンゲル組成物は、1液型のため混合不要であり、輸送・保管における環境変化に対するロバスト性が非常に高い材料であるため、使用するユーザーや長期間の輸送・保管に対して非常に有利な加熱硬化性の材料となる。また、長期間物性変化がない材料となるため、使用者にとっても有利な材料となる。よって、冷蔵・輸送コスト、保管の手間が省略できる材料であるといえる。