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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】リン吸着材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/08 20060101AFI20221213BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20221213BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20221213BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20221213BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B01J20/08 C
B01J20/10 C
B01J20/30
B01J20/28 Z
C04B18/10 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017020932
(22)【出願日】2017-02-08
(65)【公開番号】P2018126683
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】511025433
【氏名又は名称】株式会社大協組
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002402
【氏名又は名称】特許業務法人テクノテラス
(72)【発明者】
【氏名】山本 定博
(72)【発明者】
【氏名】小山 典久
(72)【発明者】
【氏名】松本 明
(72)【発明者】
【氏名】山浦 康正
(72)【発明者】
【氏名】水石 友也
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-020315(JP,A)
【文献】特開昭57-004227(JP,A)
【文献】特開2015-145337(JP,A)
【文献】特開2013-123691(JP,A)
【文献】特開2002-114556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28、20/30-20/34
C04B 2/00-32/02、40/00-40/06、
41/80-41/91
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料として、アルミニウムを含有している焼却灰100質量%に対し、カルシウムを含有しているセメントが5以上25質量%以下加えられて生成された発泡水熱固化体からなり、
前記発泡水熱固化体は、針状結晶の集合体からなるケイ酸カルシウム水和物を含有しており、
前記発泡水熱固化体は、表面気泡率が5以上30%以下で、かつBET比表面積が30以上130m/g以下であり、
前記発泡水熱固化体は、前記発泡水熱固化体100質量%に対して、カルシウムを30質量%以上50質量%以下、アルミニウムを0.4質量%以上9.5質量%以下含み、
前記発泡水熱固化体は、形成塊物から破形成されて、平均粒径が、0.5mm以上2mm以下であり、かつ、吸水率が少なくとも40%で、かつ、1軸圧縮強度が少なくとも5N/mmであり、
前記発泡水熱固化体は、0.05M硫酸で80%以上の脱着率を得られ、吸着リンに対する水溶性リンの割合は4.9%以下である
ことを特徴とするリン吸着材。
【請求項2】
前記発泡水熱固化体は、さらに鉄を含有していることを特徴とする請求項1に記載のリン吸着材。
【請求項3】
針状結晶の集合体からなるケイ酸カルシウム水和物を含有する発泡水熱固化体からなるリン吸着材の製造方法であって、
前記発泡水熱固化体の表面気泡率は5以上30%以下で、かつBET比表面積は30以上130m/g以下であり、
前記発泡水熱固化体は、前記発泡水熱固化体100質量%に対して、カルシウムを30質量%以上50質量%以下、アルミニウムを0.4質量%以上9.5質量%以下含み、
前記発泡水熱固化体は、形成塊物から破形成されて、平均粒径が、0.5mm以上2mm以下であり、かつ、吸水率が少なくとも40%で、かつ、1軸圧縮強度が少なくとも5N/mmであり、
前記発泡水熱固化体は、0.05M硫酸で80%以上の脱着率を得られ、吸着リンに対する水溶性リンの割合は4.9以下であり、
以下の工程(a)~(d)を含むことを特徴とするリン吸着材の製造方法。
(a)アルミニウムを含有する焼却灰100質量%にカルシウムを含有するセメントを5以上25質量%以下加えて混合する混合工程、
(b)前記混合工程の後、前記焼却灰及びセメントの混合物に混練水を投入して混練することで、前記焼却灰及びセメントに含まれる生石灰を水和させてファニキュラー状態の混練物を得る混練工程、
(c)前記混練工程の後、前記焼却灰及びセメントの混合物と混練水との混練物を成形型枠に移すと共に所定の圧縮力を加えながら水熱固化させて水熱固化体を得る養生工程、
(d)前記混練工程の後、養生を終了した固化体は成形枠体の大きさの成形塊物になっているので、これを所定の粒径に破砕する破砕工程。
【請求項4】
前記焼却灰は、都市ごみ、木材チップ・タイヤチップ、製紙スラッジ、下水汚泥、バイオマスのいずれか少なくとも1つを含む廃棄物焼却灰、或いは、石炭、ゴミ固形化燃料、紙・プラスチック固形化燃料のいずれか少なくとも1つを含む焼却灰のいずれか又はこれらをミックスしたものであることを特徴とする請求項3記載のリン吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン吸着材及びその製造方法に係り、さらに詳しくは焼却灰を主原料にして生成したリン吸着材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、製紙スラッジや石炭灰を原料に生成したリン吸着材(なお、リン回収材ともいう。)及びその製造方法などは、既に公知である。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、製紙スラッジ由来のリン吸着材及びその生成方法などが記載されている。この特許文献1に記載のリン吸着材は、アルカリ物質成分と炭素成分を含んでなる製紙スラッジ由来のリン吸着材であって、この吸着材の骨格成分は多孔質にした炭化物からなり、その表面及び孔面にアルカリ質成分が配位したものである。
【0004】
このリン吸着材は、有害物質成分を含まず、アルカリ質成分と炭素成分とを含む製紙スラッジを間接加熱によって熱分解処理して、アルカリ質成分と炭素成分を含有する多孔質化した吸着材を得るものであって、リン吸着材生成施設によって生成されている。
【0005】
このリン吸着材生成施設は、原料の製紙スラッジを乾燥処理する乾燥炉と、この乾燥炉で乾燥処理した原料を解砕する解砕手段と、乾燥炉で乾燥処理した原料を熱分解処理し多孔質性の炭化物を得る熱分解炉と、この熱分解炉で得た炭化物を粉砕し回収する粉砕移送手段と、乾燥炉で発生した水蒸気及び熱分解炉で発生した熱分解ガスを一定の雰囲気及び滞留時間のもとで(例えば、約850℃の雰囲気で2秒以上の滞留時間)燃焼し、無害化処理するガス燃焼炉と、及びこれらの付帯設備など、で構成されている。
【0006】
このリン吸着材生成施設によれば、製紙スラッジを外部からの間接加熱で且つ還元性雰囲気にて乾燥し且つ熱分解処理しているので、製紙スラッジが有害な塩素、硫黄を含む場合であっても、これらの成分を効果的に除去でき、乾燥物、炭化物中に残存することなく、安全且つ安心な資源として再利用できる。また、吸着材を加熱加工する際に分解析出して発生する有害物質と接触反応して無害な物質に置換生成する薬剤としてアルカリ物質を添加混合することで、熱分解処理工程において、このアルカリ物質が吸着材に取り込まれるので、一層、アルカリ成分のリッチな吸着材となり、リンの吸着回収効果の向上が期待できる。
【0007】
ところで、セメント系のリン吸着材はリン(リン酸)と反応してリン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)を生成してリンを吸着することが知られている。しかし、水酸化カルシウムは強アルカリであり水に溶解すると湖沼などの水質のpHを大幅に上昇させ、アルカリ性が高くなって、特に淡水中または静水中ではpH値が大きくなり、環境を悪化させてしまう課題がある。
【0008】
この課題を解決するリン回収材が下記特許文献2に提案されている。このリン回収材は、石炭灰と、石膏と、水酸化ナトリウム水溶液とを含む混合物で構成されている。このリン回収材によれば、リンを含む溶液のアルカリ性が高くなることを抑制できて、リン回収性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-14003号公報
【文献】特許第5879171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載のリン吸着材は、製紙スラッジ由来の多孔質化した炭化物からなり、この炭化物の表面及び孔内壁にはアルカリ質成分が露出して存在するので、リンを含んだ溶液中のリンと接触反応しリン成分を効率よく回収できる。
【0011】
しかし、この多孔質化した炭化物は、製紙スラッジを乾燥処理する乾燥炉、この乾燥炉で乾燥処理した原料を熱分解処理し多孔質性の炭化物を得る熱分解炉、また乾燥炉で発生した水蒸気及び熱分解炉で発生した熱分解ガスを燃焼し無害化処理するガス燃焼炉、及びこれらの付帯設備などからなる特殊なリン吸着材生成施設で生成しなければならない。このため、この生成施設は各種の炉、すなわち乾燥炉、熱分解炉及びガス燃焼炉などの炉、並びにこれに付帯した粉砕及び移送手段などの付帯設備などを必要とするため、このリン吸着材生成施設、すなわちこれを構成する設備・装置などは特殊で複雑・高価なものとなって、そのために高額な設備投資を要し、その一方でまた、この施設を構成する装置を稼働する際には各種の炉へ大量の石油燃料を供給し、燃焼させなければならない。その結果、設備投資に掛かるイニシャルコスト及び稼働時のランニングコストが高騰し、これらのコストが製品、すなわちリン吸着材に転嫁されて高価なものとなり、商業的な採算性に課題がある。
【0012】
また、このリン吸着材は、リンを吸着する成分量を多くできず、しかも炭化物は粒形状に生成されるので任意形状に形成できず、さらにそれらは岩石状になるので、これを砕いた粒体の比表面積が小さい。その結果、リンを吸着する成分量を多くできないので、リン吸着量が少なく、また形状が限定さるので使用形態が制限され、さらにリンを吸着する面積が小さいのでリン吸着量も少なく、さらにまた、吸着・回収されたリンを直接肥料にして使用することにも課題がある。
【0013】
また、上記特許文献2に記載のリン回収材は、リンを吸着する成分量を多くできず、吸着・回収されたリンを直接肥料にするができない。また、リンを含む溶液のアルカリ性が高くなることを抑制するために、石膏と水酸化ナトリウム水溶液を混合しなければならないなどの課題がある。
【0014】
本発明者らは、従来技術は多くの課題を抱えていることから、これらの課題を解決する方法乃至手段として、生成するリン吸着材を炭化物に代えて発泡水熱固化体で構成すれば、高価なリン吸着材生成設備を用いずに、設備投資に伴うイニシャルコストや稼働時のランニングコストを大幅に低減でき、その結果、価格を大幅に低減でき、しかも発泡水熱固化体を生成する際にリン吸着に寄与する成分を増量できて吸着量が多くなり、さらに吸着・回収したリンを直接肥料としても使用が可能になり、さらにまた、新たに別の溶液を混合せずとも、pH値が大きくなるのを抑制できることなどに想到して、本発明を完成させるに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明の目的は、従来技術の炭化物からなるリン吸着材に比べて、リン吸着に寄与する成分の増量、比表面積の拡大及び易粒径調整の相乗作用によって、よりリン吸着能力がアップし、安価にして商業的に採算性がとれたリン吸着材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、pHを基準値の範囲に安定させ、降雨によるリン溶脱が少なく、しかも植物が利用可能な形態で保持しているリン吸着材を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、吸着・回収したリンをそのまま肥料としても使用できる一方でまた、希薄な酸溶液で脱着できるリン吸着材を提供することにある。
【0016】
さらにまた、本発明の他の目的は、従来技術の炭化物からなるリン吸着材生成設備に比べて、高額な生成設備を不要にすると共に該生成設備を稼働するランニングコストの低減ができて、安価で且つリン吸着能力が高いリン吸着材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様のリン吸着材は、主原料として、アルミニウムを含有している焼却灰100質量%に対し、カルシウムを含有しているセメントが5以上25質量%以下加えられて生成された発泡水熱固化体からなり、前記発泡水熱固化体は、針状結晶の集合体からなるケイ酸カルシウム水和物を含有しており、前記発泡水熱固化体は、表面気泡率が5以上30%以下で、かつBET比表面積が30以上130m/g以下であり、前記発泡水熱固化体は、前記発泡水熱固化体100質量%に対して、カルシウムを30質量%以上50質量%以下、アルミニウムを0.4質量%以上9.5質量%以下含み、前記発泡水熱固化体は、形成塊物から破形成されて、平均粒径が、0.5mm以上2mm以下であり、かつ、吸水率が少なくとも40%で、かつ、1軸圧縮強度が少なくとも5N/mmであり、前記発泡水熱固化体は、0.05M硫酸で80%以上の脱着率を得られ、吸着リンに対する水溶性リンの割合は4.9%以下であることを特徴とする。
【0018】
第2の態様のリン吸着材は、第1の態様のリン吸着材において、前記発泡水熱固化体は、さらに鉄を含有していることを特徴とする。
【0023】
本発明の第3の態様のリン吸着材の製造方法は、針状結晶の集合体からなるケイ酸カルシウム水和物を含有する発泡水熱固化体からなるリン吸着材の製造方法であって、前記発泡水熱固化体の表面気泡率は5以上30%以下で、かつBET比表面積は30以上130m/g以下であり、前記発泡水熱固化体は、前記発泡水熱固化体100質量%に対して、カルシウムを30質量%以上50質量%以下、アルミニウムを0.4質量%以上9.5質量%以下含み、前記発泡水熱固化体は、形成塊物から破形成されて、平均粒径が、0.5mm以上2mm以下であり、かつ、吸水率が少なくとも40%で、かつ、1軸圧縮強度が少なくとも5N/mmであり、前記発泡水熱固化体は、0.05M硫酸で80%以上の脱着率を得られ、吸着リンに対する水溶性リンの割合は4.9%以下であり、以下の工程(a)~(d)を含むことを特徴とする。
(a)アルミニウムを含有する焼却灰100質量%にカルシウムを含有するセメントを5以上25質量%以下加えて混合する混合工程、
(b)前記混合工程の後、前記焼却灰及びセメントの混合物に混練水を投入して混練することで、前記焼却灰及びセメントに含まれる生石灰を水和させてファニキュラー状態の混練物を得る混練工程、
(c)前記混練工程の後、前記焼却灰及びセメントの混合物と混練水との混練物を成形型枠に移すと共に所定の圧縮力を加えながら水熱固化させて水熱固化体を得る養生工程、
(d)前記混練工程の後、養生を終了した固化体は成形枠体の大きさの成形塊物になっているので、これを所定の粒径に破砕する破砕工程。
【0024】
第4の態様のリン吸着材の製造方法は、第3の態様のリン吸着材の製造方法において、
前記焼却灰は、都市ごみ、木材チップ・タイヤチップ、製紙スラッジ、下水汚泥、バイオ
マスなどの廃棄物焼却灰、或いは、石炭、ゴミ固形化燃料、紙・プラスチック固形化燃料
等の焼却灰のいずれか又はこれらをミックスしたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の第1の態様のリン吸着材は、焼却灰を主原料として生成した発泡水熱固化体からなり、この発泡水熱固化体は少なくともカルシウム及びアルミニウムを含有している。
これにより、従来技術の炭化物からなるリン吸着材に比べて、リン吸着に寄与するカルシウムの増量、比表面積の拡大及び易粒径調整( すなわち、任意の粒径のものを簡単に調整して形成できる。)の相乗作用によって、よりリン吸着能力がアップし、炭化物を生成する製造装置に比べて、安価な装置でしかも簡単に生成できるのでリン吸着材が安価になり商業的に採算性がとれたものになる。さらにリンを吸着・回収した吸着剤は、植物が利用可能な形態でリンが保持され、そのまま肥料としても使用でき、また、吸着されたリンは希薄な酸溶液で脱着できる。
また、発泡水熱固化体は、表面発泡率は5以上30%以下で、かつ比表面積率は30以上130m/g以下であるので、炭化物からなるリン吸着材に比べて、それらの量が多くなり、多量のリンを吸着できる。
また、30以上50質量%以下、前記アルミニウムの含有量は0.4以上9.5質量%以下であるので、炭化物からなるリン吸着材に比べて、それらの量が多くなり、リン吸着に寄与する。
また、発泡水熱固化体の平均粒径が、0.5mm以上2mm以下であるので、pHを基準値の範囲に安定させることができ、一方でまた、リン吸着の際は、この粒径の吸着材(固化体を粉砕したもの)を、例えば袋詰めなどして使用するので、この袋内の吸着材間が目詰まりを起こし、透水性が低下するのを防止できる。しかも、この粒径によれば吸着・回収したリンをそのまま肥料として使用できる。
【0028】
第2の態様のリン吸着材は、発泡水熱固化体はさらに鉄を含有しているので、さらにリン吸着量を増大できる。
【0033】
本発明の第の態様のリン吸着材の製造方法によれば、第1の態様のリン吸着材と同様の効果を奏するリン吸着材を製造することができる。また、従来技術の炭化物からなるリン吸着材生成設備に比べて、高額な生成設備が不要になると共に該生成設備を稼働するランニングコストの低減ができて、安価で且つリン吸着能力が高いリン吸着材の製造方法を提供できる。
【0034】
の態様のリン吸着材の製造方法によれば、殆ど全ての焼却灰を再利用可能にしてリン吸着材等に再生できる。特に、製紙スラッジを含んだ焼却灰を原料にすると、焼却灰が保有する細孔性、多孔性を損なうことなく、所定の強度で重金属類の有害成分の溶出を抑制し、吸湿性や保水性を有するものとして製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態に係るリン吸着材の粉末X線回析図である。
図2】本発明の実施形態に係るリン吸着材の微細結晶構造を示す電子顕微鏡写真である。
図3図3はリン吸着量の測定試験法を示し、図3Aはバッチ試験の概略図、図3Bはカラム試験の概略図である。
図4】溶液pHとリン除去量の関係を示したグラフである。
図5図5はカラム試験におけるリン吸着能の比較を示し、図5Aは従来技術の石炭灰からなる吸着材を用いた場合、図5Bは本発明の実施形態に係るリン吸着材を用いた場合を示す。
図6】カラム試験における通水後の溶液pHを示した図である。
図7】吸着したリンの溶液中への脱着状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図表を参照して、本発明の実施形態に係るリン吸着材及びその製造方法を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのリン吸着材及びその製造方法などを例示するものであって、本発明をこれに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適応し得るものである。
【0039】
[リン吸着材]
図1図2及び表1を参照して、本発明の実施形態に係るリン吸着材を説明する。なお、図1は本発明の実施形態に係るリン吸着材の粉末X線回析図であり、図2はリン吸着材の微細結晶構造を示す電子顕微鏡写真であり、また、表1は実施形態に係るリン吸着材の元素組成表である。
【0040】
本発明の実施形態に係るリン吸着材は、焼却灰を主原料として生成した発泡水熱固化体からなり、この水熱固化体には、リン成分(以下、単に「リン」と言うことがある。)と結合する少なくともカルシウム(Ca)及びアルミニウム(Al)元素が含有されている。これらのカルシウム及びアルミニウムは、発泡水熱固化体を生成する際に必須の元素成分である。本発明の実施形態に係るリン吸着材の生成は、所定量の焼却灰と、セメント(生石灰)と、水とを混合・混錬し、水熱固化反応を利用して製造される。セメントには所定量、例えば40質量%(表1参照)のカルシウム元素が含まれている。また、アルミニウム元素は製紙スラッジを燃焼させた灰にも含まれている。
【0041】
図1の横軸2θと強度(縦軸)との関係で、三角印が付与されたピーク位置は、セメント(生石灰)の水和反応によって生成されたケイ酸カルシウム水和物を示している。このケイ酸カルシウム水和物は、実施形態のリン吸着材の方が主原料の焼却灰よりも多く含まれている。すなわち、図1には主原料の焼却灰の粉末X線回析図も図示されており、同図から明らかなように、実施形態のリン吸着材と主原料の焼却灰とは、ピーク位置は類似しているが、ピーク高さは実施形態のリン吸着材の方が主原料の焼却灰よりも高くなっている。このことは、実施形態のリン吸着材においては、発泡水熱固化体を生成(以下、製造と表現することがある。)する工程でケイ酸カルシウム水和物が新たに生成されていると云える。
【0042】
また、このケイ酸カルシウム水和物は、図2に示したように、長短及び太さが異なる針状結晶の集合体からなり、従来技術の炭化物からなるリン吸着材と形態が異なっているものと推察される。この針状結晶の集合体は、粗密(微細乃至多孔)になっているので溶液と反応する面積が大きくなっている。これにより、針状結晶の集合体はリンを含む溶液により多く接触し、溶液中のリンと反応して、効率よくリンを吸着できる。その一方でまた、主にケイ酸カルシウム水和物中のカルシウムがリン吸着に寄与しているが、植物が容易に利用可能な形態でリンが吸着確保されていると推察される。なお、ケイ酸カルシウム水和物に吸着されたリンは、希薄な酸溶液で容易に脱着できる。
【0043】
このリン吸着材は、焼却灰及びセメントを主原料にした発泡水熱固化体で形成されており、表1に示したように、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)以外に、鉄(Fe)、珪素(Si)、硫黄(S)、亜鉛(Zn)、塩素(Cl)、炭素(C)…なども含まれている。なお、以下の説明では、元素記号を使用することがある。
【0044】
【表1】
なお、この表は、各元素の含有割合と粒径との関係をも示しているが、各元素の含有割合は粒径によらず略同じとなっている。
【0045】
また、表1の元素組成のうち、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)及び鉄(Fe)がリンと結合、すなわちリン吸着に寄与する成分となっている。この実施形態に係るリン吸着材は、表1に示したように、Caを約40質量%、Alを約9質量%、Feを約15質量%含有しており、これらがリンと結合、すなわちリンを吸着する。
【0046】
また、表1の元素組成に示した各成分量は、主原料の焼却灰及びセメント(生石灰)の種類乃至量などによって変化する。特に、Caはセメント(生石灰)の量によって変化し、発泡水熱固化体からなるリン吸着材を生成するための量として、Caは水熱固化体100質量%に対して、30以上50質量%以下、Alは0.4以上9.5質量%以下の範囲にするのが好ましい。
【0047】
上記範囲のCa及びAl量により、本実施形態の吸着材の吸着量は、従来技術の石炭灰からなる吸着材に比べて、格段に大量、例えば10倍以上のリンを吸着(回収)できる。なお、この点は、後記する試験で検証した。
【0048】
また、本実施形態のリン吸着材においては、表面気泡率が5以上30%以下の範囲であって、かつ、BET比表面積が30以上130m/g以下の範囲にあるのが好ましい。この比表面積は、石炭灰の一般的な比表面積値が0.53m/gであるので、格段に広い範囲となっている。これにより、従来技術の石炭灰からなる吸着材に比べて、表面気泡率及び比表面積が大きくなり、その分リン吸着面が拡大されると共に吸水率が高く(例えば40%以上)なるので、溶液中のリンとの接触頻度が多くなり、より大量のリンを吸着することが可能になる。
【0049】
なお、この発泡水熱固化体は、表面気泡率を5以上30%以下かつ比表面積を30~130m/gに制御することで、吸水率40%以上と1軸圧縮強度5N/mm以上が共に達成され、また、放湿性をも兼ね備えた固化体となるので、その用途はリン吸着材だけのものでなく、透水性と強度の両立が要求される各種資材、例えば土木資材として使用することが可能となる。
【0050】
なお、表面気泡率とは、固化体の任意の断面における目視可能な気泡(空隙)の面積が占め割合を意味し、対象となる固化体の任意の断面(10mm×10mmの正方形)において、目視可能な大きさの気泡の面積をプラニメータで計測して表面気泡面積(mm)とし、下記の計算式によって算定されたものとする。
表面気泡率(%)=(表面気泡面積(mm)/100(mm))×100
【0051】
また、吸水率とは、表面乾燥飽水状態の固化体に含まれている全水量の、絶対乾燥状態の固化体に対する百分率を意味し、絶対乾燥状態の質量(絶乾質量)と、表面乾燥飽水状態の質量(飽水質量)とを測定して、下記の計算式によって算定されたものとする。
吸水率(%)=((飽水質量-絶乾質量)/絶乾質量)×100
【0052】
さらに、この固化体、表面気泡率が0%であっても、気泡が目視できない程度の大きさで、実際には多孔質構造を有しているため、気泡同士が連結することにより透水性を備えたものとなる。しかしながら、気泡の大きさが小さ過ぎると、気泡同士の連結が減少するなどにより、吸水性及び透水性が低下するため、比表面積は130m/g以下とすることが好ましい。比表面積が130m/g以下であれば、表面気泡率が0%であっても、吸水率40%以上を達成することが可能になる。
【0053】
本実施形態のリン吸着材は、その平均粒径が0.5mmを超えたものにするが、好ましくは、1mm以上2mm以下の範囲がよい。これにより、pHを高くせずにリン吸着量の増大が可能になる。この点は、後記する試験で検証した。
【0054】
この粒径の調整は、極めて簡単にできる。すなわち、発泡水熱固化体は任意の大きさで比較的弱い強度の成形塊物で生成されることから、単に破砕するだけで、任意の大きさに調整した粒径に形成できる。なお、従来技術の炭化物は粒状に生成された造粒物となるので、単に破砕するだけでは任意の大きさに調整した粒径に形成するのが困難になっている。
【0055】
以上の説明から、本実施形態のリン吸着材は、まず、従来技術の炭化物からなるリン吸着材に比べて、リン吸着に寄与するカルシウムの増量、比表面積の拡大及び易粒径調整により、よりリン吸着能力が高く、しかも安価なものになる。また、pHを基準値の範囲に安定させ、降雨によるリン溶脱が少なく、しかもリンを植物が利用可能な形態で保持でき、さらに、リンを吸着・回収した本実施形態のリン吸着材をそのまま肥料として使用できる一方でまた、吸着・回収されたリンは希薄な酸溶液で脱着もできる。
【0056】
さらに、本実施形態のリン吸着材は、従来技術の炭化物からなるリン吸着材生成設備に比べて、高額な生成設備を不要にすると共に該生成設備を稼働するランニングコストの低減ができて、安価で製造できる。
【0057】
[リン吸着材の製造方法]
次に、この実施形態に係るリン吸着材の製造方法を説明する。
このリン吸着材の製造方法は、以下の工程を含んでいる。
(a)両性金属を含有する焼却灰100質量%にセメントを5以上25質量%以下加えて混合する混合工程、
(b)混合工程の後、焼却灰及びセメントの混合物に混練水を投入して混練することで、焼却灰及びセメントに含まれる石灰分を水和させてファニキュラー状態の混練物を得る混練工程、
(c)混練工程の後、焼却灰及びセメントの混合物と混練水との混練物を成形型枠に移すと共に所定の圧縮力を加えながら水熱固化させて水熱固化体を得る養生工程、
(d)養生を終了した固化体は成形枠体の大きさの成形塊物になっているので、これを所定の粒径に破砕する工程。
【0058】
上記(a)の混合工程において、焼却灰は、リン吸着材の主原料になるものであって、以下のものを単独乃至配合して使用する。
都市ごみ、木材チップ・タイヤチップ、製紙スラッジ、下水汚泥、バイオマスなどの廃棄物焼却灰、或いは、石炭、ゴミ固形化燃料、紙・プラスチック固形化燃料等の焼却灰のいずれか又はこれらをミックスしたもの。なお、別表現では、ばいじん[製紙工場のバイオマスボイラーから生成した灰(石炭灰、廃タイヤ、木チップ、製紙スラッジなど)、流動砂]、燃えがら(バイオマスボイラーの燃焼灰、やしがらなどの木灰、シュレダ-ダスト灰)、無機汚泥(セラミック汚泥、金属加工、トンネル掘削汚泥、建設汚泥、土砂など)。
【0059】
これらの配合は、ばいじん、もえがら及び無機汚泥を所定の割合、例えばばいじんを70~90質量%、もえがらを10~20質量%、無機汚泥を0~10質量%にする。なお、これらは有害物を含んでいない。この焼却灰によって、殆ど全ての焼却灰を再利用可能にしてリン吸着材等に再生できる。特に、製紙スラッジを含んだ焼却灰を原料にすると、焼却灰が保有する細孔性、多孔性を損なうことなく、所定の強度で重金属類の有害成分の溶出を抑制し、吸湿性や保水性を有するものとして製造できる。
【0060】
上記(a)の混合工程において、焼却灰中の金属アルミ二ウム等の両性金属の含有量が少なすぎると、発泡に充分なだけの水素ガスが生じないことがあるが、一方でまた、両性金属自体は水熱固化反応とは無関係であるため、焼却灰中の両性金属の含有量は、0.5以上10質量%以下の範囲とすることが好ましい。この範囲により、発泡水熱固化体からなるリン吸着材には、0.4以上~9.5質量%以下のアルミニウム量が含まれる。
【0061】
また、上記(a)の混合工程において、混合物に対して石灰を添加混合すると、焼却灰中の生石灰(CaO)成分の含有量が極端に少ない場合においても、生石灰を追加混入することによって、消化反応の熱の発生をより活発化することができる。その場合、石灰の添加割合が高過ぎると、発泡水熱固化体のアルカリ性が強くなるため、石灰の添加割合は、カルシウムが全混合物の30以上50質量%以下の範囲になるように添加するのが好ましい。
【0062】
さらに、上記(a)の混合工程において、混合物の10質量%程度であれば、混合物に対してさらに無機汚泥を含有していても良い。
【0063】
上記(a)の混合工程において、一定量の水を混合用水として混合物に対して添加すると、混合時の粉塵発生低減と、早めに生石灰の消化反応を開始し、多少湿らせることにより次の混練工程における混練がスムーズになるため好ましい。
【0064】
その場合の添加量としては、粉塵の発生を充分抑制するためには、混合物100質量%に対して15質量%以上とすることが好ましい。また、混合用水が多過ぎると粒状化する可能性があり、セメントとの混合に悪影響が生じることがあるため、加える混合用水の量は25質量%程度を上限とすることが好ましい。
【0065】
上記(a)の混合工程における混合用水及び上記(b)の混練工程における混練水として加水される水分の総量については、少な過ぎると混練物の粘度が大きくなりすぎて混練し難くなる、加水量が増えるほど混練物の粘度が小さくなるので混練し易くなるが、多過ぎると、過剰な水分を蒸発させるために時間を要することになる。したがって、混合用水及び混練水として添加される水分の総量は、固形成分100質量%に対して35以上55質量%以下の範囲にすることが好ましい。なお、加水する水の温度には特に制限はなく、98℃程度の温水であっても問題ない。
【0066】
また、混練物が水熱固化する際に、焼却灰に含まれる金属アルミ二ウム等の両性金属にアルカリ水が反応してガスが発生して発泡・膨張する。仮に、成形型枠が存在しない状態で混練物を固化させると大きく膨張してしまい、得られる発泡水熱固化体は、表面気泡率が30%を超え、1軸圧縮強度が2N/mmを下回るものとなる。そのため、表面気泡率を30%以下に抑えて固化体の強度を確保するため、混練物は圧縮力を加えて膨張を一定の範囲に収められるように成形型枠の中において固化させる必要がある。
【0067】
なお、膨張を一定の範囲に収めるために加える圧縮力としては、50kg/cm程度が目安となるが、表面気泡率が30%以下となるように適宜調整すれば良い。また、成形型枠としては、混練物の固化の際の膨張方向の力に抗する程度の強度を有するものであれば制限はない。例えば、地面に掘った竪穴や、地表面から所定の高さに積み上げた土又は石壁等を型枠として利用することができる。
【0068】
地面に掘った竪穴を成形型枠として利用した場合、地面を掘るだけの作業で型枠が得られるため、コストが掛らず、その結果、製品のコスト低減に貢献でき、また、任意の大きさ及び形状の型枠が容易に得られる。
【0069】
また、上記(c)の養生工程において、石灰成分の水和熱によって成形型枠中の混練物の温度が上昇して水熱固化反応が進み、約3時間~8時間で固化が完了する。なお、この水和熱は混練物の量に依存する一方、混練物からの排熱は表面積に比例するため、成形型枠中の混練物の温度を一定以上に保つ観点からは大きな型枠を利用することにメリットが生じる。小さい型枠の場合、排熱を押さえるため型枠の保温性などについて考慮する必要が出てくる虞がある。養生が終わった固化体は、成形枠体の大きさの成形塊物になっている。
【0070】
上記(d)の破砕工程において、養生工程で成形枠体の大きさの成形塊物を所定粒径のものに破砕する。その平均粒径が0.5mmを超える大きさにする。この粒径は1mm以上2mm以下の範囲が好ましい。これにより、pHを高くせずにリン吸着量の増大が可能になる。
【0071】
この粒径の調整は、極めて簡単にできる。すなわち、任意大きさの比較的弱い強度の成形塊物で生成されることから、単に粉砕乃至破砕でき、しかも任意の大きさに調整した粒径に形成できる。なお、炭化物は粒状に生成された造粒物となるので、単に破砕するだけでは任意の大きさに調整した粒径に形成するのが困難になっている。
【0072】
この製造方法によれば、カルシウムの含有量が発泡水熱固化体100質量%に対して、30以上50質量%以下、アルミニウムの含有量が0.4以上9.5質量%以下、また、表面気泡率は、5以上30%以下で、かつ、BET比表面積が30以上130m/g以下、さらに、平均粒径が0.5mmを超えるリン吸着材を特殊な製造設備を使用せずに、低コストで容易に製造できる。
【0073】
次に、本発明の実施形態に係るリン吸着材について、以下の特性等の試験を行い検証した。
【0074】
<リン吸着性>
リン吸着性の試験法は、バッチ試験及びカラム試験を採用した。バッチ試験は、図3Aに示したように、添加したリン溶液の濃度と反応後の上澄みの濃度差からリン吸着量を算出する方法、また、カラム試験は、図3Bに示したように、通水前のリン溶液の濃度と通水後のリン溶液の濃度差からリン吸着量を算出する方法である。溶液中リン濃度の定量には、モリブデンブルー法を用いた。
【0075】
バッチ試験により、本実施形態に係るリン吸着材は、1.0以上594.5(mgP/g)以下の範囲で吸着できた。この範囲は、異なるリン濃度に適用して試験した値であって最大吸着量は従来技術の石炭灰からなるリン吸着材と比べて多くなった。この結果、本実施形態のリン吸着材は従来技術の石炭灰からなるリン吸着材と比べて同等もしくはそれ以上の吸着能があることが分かった。
【0076】
また、カラム試験により、リン吸着能を測った。リン回収率が20%になる時間を計測した結果、従来技術の石炭灰からなるリン吸着材は10時間(図5A参照)であったのに対し、本実施形態のン吸着材は100時間(図5B参照)であった。この結果、カラム通水で、本実施形態のリン吸着材は従来技術の石炭灰からなるリン吸着材10倍以上のリン溶液を処理できることが分かった。
【0077】
<pH特性>
リン溶液のpHを調整した際のバッチ試験では、図4の結果を得た。この結果、リン吸着量が溶液pHに左右され難いことが判明した。また、通水時間とpHとの関係を試験した。その結果、図6に示したように通水後の溶液pH値は、終始、基準値以内に安定していた。
【0078】
<粒径>
粒径が異なる2種類のリン吸着材を用意し、1~1000mgP/Lの濃度のリン溶液を固液比1:100(0.3g:30mL)で1時間振とうさせ、表2の結果を得た。
【表2】
【0079】
この結果から、粒径が細かいと、リン吸着量は多くなるが、pHが高くなる。また、粒径が荒いと、pHは高くならないが、リン吸着量が多くなる。そこで、細かすぎず、粗すぎない粒径としては、0.5mmを超え、また1mm以上2mm以下が好ましい。
【0080】
<吸着したリンの形態>
肥料等試験法により、吸着したリンを肥料成分として評価した。その結果、吸着したリンに対する各形態リンの占める割合は、表3に示す結果となった。
【表3】
【0081】
この結果、植物の利用可能性が高い形態(ク溶性)でリンが回収され、かつ水溶性は殆どないことが分かった。その結果、降雨による溶脱は少なく、水圏への溶脱による環境汚染を防止するとともに、回収したリンを植物が無駄なく利用できるようになる。なお、この特性を活かすと、リン吸着をさせていないリン吸着材と一般的な水溶性のリン肥料を同時に使用することで、リン肥料成分の降雨による溶脱を防ぎ、植物によるリン肥料の利用効率を向上させるといった利用方法も可能である。
【0082】
<リン脱着>
吸着したリン溶液中への脱着では、図7に示した結果を得た。この結果から、吸着したリンを希薄な酸で脱着できることが分かった。特に、0.05M硫酸で80%以上の高い脱着率を得られた。その結果、リン吸着材として再利用可能性がさらに拡大できる。
【0083】
以上説示したように、本発明のリン吸着材は、従来技術の炭化物からなるリン吸着材に比べて、リン吸着に寄与するカルシウムが増量され、比表面積が拡大され、さらには粒径調整などの相乗作用により、リン吸着能力が高く、安価で商業的な採算性がとれたものとなる。
【0084】
また、pHを基準値の範囲に安定させ、降雨によるリン溶脱が少なく、しかも植物が利用可能な形態で保持され、さらに、リンを吸着・回収した吸着剤をそのまま肥料として使用できる。さらに、吸着・回収したリンは、希薄な酸溶液で脱着もできる。
【0085】
さらに、本発明のリン吸着材の製造方法は、従来技術の炭化物からなるリン吸着材生成設備に比べて、高額な生成設備を不要にすると共に該生成設備を稼働するランニングコストの低減ができて、安価で製造できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7