IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社松井三郎環境設計事務所の特許一覧 ▶ 株式会社SKY・ライフの特許一覧

特許7193075ぬか床材料およびその製造方法ならびにぬか床
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ぬか床材料およびその製造方法ならびにぬか床
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/10 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
A23B7/10 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018112473
(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2019213487
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】518171650
【氏名又は名称】株式会社松井三郎環境設計事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】518171661
【氏名又は名称】株式会社SKY・ライフ
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】松井 三郎
(72)【発明者】
【氏名】汐見修一
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-080556(JP,A)
【文献】特開2001-095477(JP,A)
【文献】登録実用新案第3117167(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米ぬかを主原料とし、2℃~15℃の温度条件下で使用されるぬか床のためのぬか床材料の製造方法であって、
米ぬかに対して、所定量のラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)である乾燥状態の乳酸菌を添加し、
これを室温下で所定時間発酵させ、
次いで、高温加熱温度68~82℃の温度下で、10~35分加熱処理し、
この加熱処理後、急速冷却し、
米ぬか1グラムについて、
生きている乳酸菌を、0.4×10~1.0×10 2 個、および
活性酵素を
含有し、
酵母および一般細菌を実質的に含有しない
ぬか床材料を製造する
ことを特徴とするぬか床材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1のぬか床材料の製造方法を用いて製造されたたぬか床材料を用いてぬか床を製造するぬか床の製造方法。
【請求項3】
塩分が無添加の、請求項のぬか床の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ぬか床材料およびその製造方法並びにぬか床に関し、更に詳細には、米ぬかを主原料とし、漬ける野菜・果物に塩分が無添加であることが実行で来る、2℃~15℃の温度条件下で使用されるぬか床のためのぬか床材料、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的な野菜の漬物は、米糠、酒粕、麹等の醗酵物を漬物床として漬込む場合が多い。
【0003】
これらの漬物床のうち、酒粕、麹は、高価なために利用され難くいので、米糠が最も多く原料として使用されている。しかし、米糠を醗酵させた漬物床である「糠床」は、カビが発生し、水分が浮き易いので毎日掻き混ぜる必要がある。このように従来のぬか床は、手入れが煩瑣であり、それを怠ると腐敗して耐え難い異臭を発生する。従って、近年の様に気密性が高い家屋内に於いてはなかなか利用し難いものであり、限られた野菜(ナス、キュウリ、白菜、大根、その他)しか利用できない。
【0004】
近年、米糠や“ふすま”の代わりに、豆腐、豆乳等の製造に際して副次的に大量に生産される“おから”を用いた漬物床が提案されている。また、豆類、穀類又はイモ類の利用残渣に、乳酸菌(ラクトバチルス プランタルムLactobacillus plantarum)を添加し、低温で醗酵させた漬物床が提案されている。しかし、公知の乳酸菌により熟成させる漬物床は、生菌体によるCOやエチレンガスの発生による弊害をもたらすガスが発生するので、市場性が極めて限られている。
【0005】
更に、公知の漬物床からは、乳酸菌が生成する乳酸と塩分が加わり、漬物床の原料の有する栄養分、蛋白質の所望の旨みが得られない。
【0006】
加えて、公知の漬物床は、熱処理していないので一般細菌、特に最悪の場合はクロストリジウム属(Clostridium)、大腸菌(Escherichia Coli, colon bacillus)が発生することがあり、それらのコロニー形成が見られる。
【0007】
以上に鑑みて、特開2003-47398号公報では、従来のものの問題点を解消した漬物床が提案されている。この出願で提案された漬物床の製造法は、純粋培養でなく、“おから”に乳酸菌(ラクトバチルス ファーメンタムLactobacillus fermentum)を天然塩、昆布及び唐辛子と共に混合して培養する混合培養により乳酸醗酵して熟成させ、該熟成混合物を所要温度で所要時間煮沸して滅菌(増殖性を持つあらゆる微生物を完全に殺菌又は除去する状態を実現するための作用・操作)し、該滅菌混合物を自然冷却させ、予め粉体乳酸菌を内蔵する小袋を入れた所要外袋内に、該滅菌混合物を有する該内袋を入れてシールする乳酸菌により熟成させる漬物床の製造法である。この漬物床の製造法によれば、上記した従来の漬物床の製造法の問題点を解消することができる。
【0008】
しかしながら、この公報で開示された漬物床の製造法においては、熟成混合物を所要温度(実施例では85℃)で、所要時間煮沸して滅菌しているので、再び乳酸菌を添加する形をとっており、作業に時間が掛かるとともに、乳酸菌再添加という追加のコストが掛かるという問題が生ずる。さらには、従来と同様に、あまり時間を経ずに乳酸菌が過多になるため、早期に酸っぱくなり、漬物床が使い物にならなくなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特開2003-47398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、長期間酸っぱくならずに漬物を付けることができ、しかも追加の乳酸菌が必要ない新規ぬか床材料およびその製造方法ならびにぬか床を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、下記(1)~(3)の構成のぬか床材料の製造方法およびぬか床の製造方法により達成される。
(1)
米ぬかを主原料とし、2℃~15℃の温度条件下で使用されるぬか床のためのぬか床材料の製造方法であって、
米ぬかに対して、所定量のラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)である乾燥状態の乳酸菌を添加し、
これを室温下で所定時間発酵させ、
次いで、高温加熱温度68~82℃の温度下で、10~35分加熱処理し、
この加熱処理後、急速冷却し、
米ぬか1グラムについて、
生きている乳酸菌を、0.4×10~1.0×10 2 個、および
活性酵素を
含有し、
酵母および一般細菌を実質的に含有しない
ぬか床材料を製造する
ことを特徴とするぬか床材料の製造方法。
(2)
前記(1)のぬか床材料の製造方法を用いて製造されたたぬか床材料を用いてぬか床を製造するぬか床の製造方法。
(3)
塩分が無添加の、前記(2)のぬか床の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のぬか床材料においては、その含有する乳酸菌の数が低く制限されており、しかも当該乳酸菌を用いたぬか床は、冷蔵庫等で実現できる低温下使用されることを前提としているので、漬物が酸っぱくならずに長期間(通常の家庭で約2ヶ月間)使用できる。一方、変性による失活が無い酵素が多量に存在しているので、これにより、風味のある漬物が可能である。また、熱処理により、有害な一般細菌(雑菌)を含んでいないので、塩分を一切使用しないでも、一般細菌(雑菌)が繁殖せず安全で風味の良い漬物ができる。なお、塩分を好む場合には、ぬか床に多少の塩を加えたり、漬け込む前に野菜等を塩揉みしてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の実施の形態によるぬか床材料の製造方法について説明する。
このぬか床材料の製造にあたっては、まず、次の配合の原料を準備する。
煎り米ぬか:50~70重量%、ソヤフイット(大豆微粉末):10~30重量%、乳酸菌(乾燥状態):1~4重量%、精製食塩:4~8重量%、その他(イヌリン、トレハロース等)。
【0014】
前記乳酸菌としては、従来から醗酵乳或いは漬物等に使用されているラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペジオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属等の微生物を用いることができ、ラクトバチルス属としては、ラクトバチルスカゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス アラビノサス(Lactobacillus arabinosus)、ラクトバチルス ラ・フランス 等があげられるが、本発明で使用される乳酸菌としては、ヘテロ型乳酸菌であるラクトバチルス ファーメンタムが特に好ましい。
【0015】
上記のように配合した原料100重量部に対して、水を600~700重量部加え、室温下で約5~10時間程度熟成させる。このとき、乳酸菌の数は2.0×10個~1.2×1010個程度に増殖し、これに伴って、乳酸菌が酵素を産出する。
【0016】
この後、上記熟成したぬか床材料を下記条件で加熱処理して、減菌する。
温度:68~82℃
時間:10~35分
上記熱処理後、急速冷却することにより、ぬか床材料を完成させる。この時袋に入って製造されていることから、梱包・ラベル貼りして製品となる。
【0017】
以上により、
米ぬか1グラムについて、
生きている乳酸菌を、好ましくは0.2×10~1×10個、特に好ましくは、1×10~1×10個および活性酵素を、4000力価係数~5000力価係数を含有するぬか床材料が製造される。
このぬか床材料は、前記熱処理により、酵母および一般細菌(有害な雑菌)が減菌され、それらを実質的に含有しない。
【実施例
【0018】
まず、米ぬか1kgに乳酸菌(乾燥状態)を6g添加し、これに水691kgを添加して、8時間熟成させ、原料を準備した。このとき、原料1gにつき、乳酸菌が5.8×10個、酵母菌が500個以下、一般細菌が5.4×10個であった。
【0019】
上記原料を、下記のように温度と、処理時間を変えて熱処理をして、実施例と比較例のぬか床材料サンプルを作成した。熱処理後、乳酸菌数、酵母数、一般細菌数を測定した。結果を下記の表に示した。
【0020】
上記実施例と比較例のぬか床材料へ、下記の種類の添加物を、下記の配合割合で添加してぬか床サンプルを作成した。
米ぬか 1kgに対して
(1)イヌリン(菊芋微粉末) 7%
(2)トレハロース(発酵資材) 3%

【0021】
上記ぬか床サンプルとしては、「できたて(1日)」、および「できてから30日」のものに、実際キュウリを塩揉みせずに100本ずつそれぞれ10時間漬け込み、100名の男女にモニターとなって貰い味見テスト(官能テスト)を行った。
その評価結果を前記表に、◎、○、△、×ので示した。「できたて(1日)」のものを評価1に、および「できてから30日」のものを評価2に示した。
◎、○、△、×の意味は、それぞれ「大変に美味しい」、「美味しい」、「変化なし」、「酸ぱい」とした。その表示は、100名のモニターの中で、評価する人が一番多いものをその評価とした。
例えば、◎が40名、○が30名、△が20名、×が10名の場合には、一番人数の多い◎とした。
【0022】
なお、モニターの人数構成は下記の通りとした。
小学生:男女10名ずつ
中学生:男女10名ずつ
高校生:男女10名ずつ
30代:男女10名ずつ
60代::男女10名ずつ
【0023】
比較例4のできて直ぐのぬか床サンプルで浅漬けたものは、ぬか臭いというモニターが多数いた。一方、比較例1のできてから30日のものは、酸っぱすぎるというモニターが多数いた。
以上から、本発明の効果が明らかである。
なお、前記熱処理の条件を、70℃で35分とした場合は、実施例3とほぼ同様の結果が得られ、一方、70℃で5分とした場合は、乳酸菌の数が多くなりすぎあまり良い結果が得られなかった。