(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】多段基礎形成型枠の段積み用パネル及び多段基礎形成型枠
(51)【国際特許分類】
E02D 27/01 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
E02D27/01 Z
(21)【出願番号】P 2018184120
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000128038
【氏名又は名称】株式会社エヌ・エス・ピー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】浦川 崇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 欣也
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-199527(JP,A)
【文献】特開2000-160574(JP,A)
【文献】実開昭64-037547(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0202307(US,A1)
【文献】特開平07-300862(JP,A)
【文献】特開平04-155013(JP,A)
【文献】特開2003-247242(JP,A)
【文献】特開平07-113321(JP,A)
【文献】特開平11-071898(JP,A)
【文献】特開平11-315634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00-27/52
E04G 9/00-19/00
E04G 25/00-25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基礎と、該第一基礎よりも幅の狭い第二基礎とが積層してなる多段基礎を形成するための型枠
である、前記第一基礎用の第一型枠と、前記第一型枠から平面的に離れた位置にある前記第二基礎用の第二型枠と、を繋ぐための段積み用パネルであって、
前記第一型枠の上端に固定されて前記第二型枠の下端まで延設する上方水平片と、
前記上方水平片の端部が屈曲して鉛直下方に延設する鉛直片と、
前記鉛直片の端部が屈曲して前記第一型枠に延設する下方水平片と、
前記下方水平片の端部が鉛直方向に屈曲して形成されるリップと、を有し、
断面形状が略コの字状を呈して
おり、
前記リップが前記第一型枠に当接されるようになっていることを特徴とする、多段基礎形成型枠の段積み用パネル。
【請求項2】
前記上方水平片と、前記鉛直片と、前記下方水平片と、前記リップとが、一枚の金属プレートの折り曲げ加工により形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の多段基礎形成型枠の段積み用パネル。
【請求項3】
前記上方水平片に巾止め金具設置用開口が開設されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多段基礎形成型枠の段積み用パネル。
【請求項4】
前記下方水平片において、空気抜き用で、かつセメント系材料充填確認用の多目的孔が開設されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多段基礎形成型枠の段積み用パネル。
【請求項5】
第一基礎と、該第一基礎よりも幅の狭い第二基礎とが積層してなる多段基礎を形成するための型枠であって、
前記第一基礎用の第一型枠と、
前記第一型枠から平面的に離れた位置にある前記第二基礎用の第二型枠と、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の段積み用パネルと、を有することを特徴とする、多段基礎形成型枠。
【請求項6】
一対の前記第一型枠の内側の上方位置に一対の前記第二型枠が配設され、
対応する前記第一型枠と前記第二型枠を、巾止め金具設置用開口を有する前記段積み用パネルが繋ぎ、
一対の前記段積み用パネルの有する前記巾止め金具設置用開口に巾止め金具が係合されていることを特徴とする、請求項5に記載の多段基礎形成型枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段基礎形成型枠の段積み用パネル及び多段基礎形成型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばビルドインガレージの開口部の基礎など、地中梁と基礎の立ち上り部のコンクリートを一体で打設する場合に、立ち上り部の型枠(以下、立ち上り部用型枠とも言う)を浮かせて設置する必要がある。ここで、
図1(a)にビルドインガレージの基礎の平面図を示し、
図1(b)、(c)にそれぞれ、
図1(a)のb-b矢視図である縦断面図、
図1(a)のc-c矢視図である縦断面図を示す。
【0003】
図1(a)に示すビルドインガレージは平面視矩形の線形を有し、一つの辺の中央に車両が出入りするための開口部を有している。基礎の一般部は、
図1(b)に示すようにフーチング(ベース)と立ち上り部とにより構成される布基礎であるが、開口部は布基礎の立ち上り部による連続性が遮断されるとともに車両の重量に抗する必要があることから、
図1(c)に示すようにフーチングと地中梁を一体とした構造が一般に適用される。尚、地中梁の天端の10乃至20cm程度上に地盤レベル(G.L.)が設定される。
【0004】
ここで、
図2及び
図3を参照して、従来のビルドインガレージの開口部の基礎を形成する型枠について説明する。
図1(c)に示すように、ビルドインガレージの開口部の端部近傍の基礎は、フーチング、地中梁、及び立ち上り部の順に幅が狭くなる多段基礎(二段の基礎)である。尚、本明細書において、
図1(b)に示す一般的な布基礎(フーチングと立ち上り部の幅が異なる一段の基礎)も多段基礎に含めるものとする。ビルドインガレージの開口部の端部近傍の基礎が例えば二段の多段基礎であることから、上記するように地中梁と立ち上り部のコンクリートを一体で打設する場合に、立ち上り部用型枠を浮かせて設置する必要がある。
【0005】
図2に示す第1従来例に係る多段基礎形成型枠は、立ち上り部用型枠を固定するための型枠支持金具を地中梁用鉄筋の天端位置に設置し、型枠支持金具の一部を地中梁用鉄筋に固定して控えを取る形態の型枠である。さらに、この形態の型枠では、立ち上り部用型枠の下端がフレッシュコンクリートの側圧により側方に開かないように、対向する立ち上り部用型枠同士を繋ぐ巾止め金具を立ち上り部を貫通するようにして地中梁の天端位置に設置する。尚、地中梁用型枠も、フーチング用型枠に対して浮かせて設置する必要があるが、ここには、一般に市販されている低背の型枠支持スペーサーが捨コン等の基盤上に設置され、この型枠支持金具に地中梁用型枠が支持されることになる。
【0006】
一方、
図3に示す第2従来例に係る多段基礎形成型枠は、立ち上り部用型枠を支持しながら、さらにその下端がフレッシュコンクリートの側圧により側方に開くことを防止するための高背の型枠支持スペーサーを捨コン等の基盤上に設置し、この高背の型枠支持スペーサーに立ち上り部用型枠を固定する形態の型枠である。
【0007】
また、上記する第1従来例に係る多段基礎形成型枠に適用される巾止め金具に相当する部材を用いて、布基礎の立ち上り部の変化に対応可能とした型枠パネルの支持構造も提案されている。布基礎や地中梁等の構造部材を形成する型枠パネルの支持構造に関し、構造部材の下部形状に合わせて屈曲成型された屈曲パネルと、屈曲パネルの上端に順次積層される単数もしくは複数の平板パネルと、屈曲パネルと平板パネルの間及び平板パネル同士の間に設けられてパネル同士を連結する連結具とを有する。屈曲パネル及び平板パネルにおいて連結具が取り付けられる位置に、連結具を係合させる係合部が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、第1従来例に係る多段基礎形成型枠では、立ち上り部用型枠を固定するための型枠支持金具を地中梁用鉄筋に固定して控えを取っているが、地中梁用鉄筋の位置精度は一般に高いとは言い難いことから、地中梁用鉄筋の位置精度の低さが立ち上り部用型枠の位置精度に影響を及ぼすことになる。
【0010】
さらに、第1従来例に係る多段基礎形成型枠では、立ち上り部用型枠同士を繋ぐ巾止め金具を立ち上り部を貫通するようにして地中梁の天端位置に設置しているが、施工されたコンクリートとこのコンクリートに埋設されている巾止め金具の間の隙間に水道が形成され易くなる。
【0011】
上記するように、地中梁の天端上に地盤レベルが存在することから、形成された水道を介して地下水がビルドインガレージ内に浸入することが懸念される。そして、特許文献1に記載の型枠パネルの支持構造においても、第1従来例に係る多段基礎形成型枠に適用される巾止め金具に相当する連結具を用いてパネル同士を連結することから、同様に水道を介した地下水の浸入の可能性を内包する。
【0012】
一方、第2従来例に係る多段基礎形成型枠では、高背の型枠支持スペーサーを用いて立ち上り部用型枠を固定することから、規模の大きな型枠支持スペーサーの製作費用は自ずと高くなり、このことが基礎施工費用の増加に繋がり得る。
【0013】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、多段基礎の最上段に位置する立ち上り部の型枠を高い位置精度の下で支持することができ、多段基礎の段差箇所に水道が形成されることを解消でき、型枠の製作費用が高価になることを解消できる多段基礎形成型枠の段積み用パネルと、この段積み用パネルが適用された多段基礎形成型枠を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成すべく、本発明による多段基礎形成型枠の段積み用パネルの一態様は、
第一基礎と、該第一基礎よりも幅の狭い第二基礎とが積層してなる多段基礎を形成するための型枠に適用される段積み用パネルであって、
前記第一基礎用の第一型枠と、前記第一型枠から平面的に離れた位置にある前記第二基礎用の第二型枠があり、
前記段積み用パネルは、
前記第一型枠の上端に固定されて前記第二型枠の下端まで延設する上方水平片と、
前記上方水平片の端部が屈曲して鉛直下方に延設する鉛直片と、
前記鉛直片の端部が屈曲して前記第一型枠に延設する下方水平片と、を有し、
断面形状が略コの字状を呈していることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、第一基礎用の第一型枠の上端と、第一型枠から平面的に離れた位置にある第二基礎用の第二型枠の下端が段積み用パネルの上方水平片により繋がれ、段積み用パネルの下方水平片が第一型枠まで延設してここに支持されることにより、第二型枠を基礎用の鉄筋に固定して控えを取ることを不要とし、高背の型枠支持スペーサーを不要としながら、精度よく、安価に多段基礎を形成することができる。ここで、第一型枠は、例えば上記するビルドインガレージの開口部の基礎における地中梁用型枠であり、第二型枠は、例えば地中梁用型枠の上に配設される立ち上り部用型枠である。尚、本態様の段積み用パネルが適用される多段基礎形成型枠は、一般の布基礎を形成する型枠であってもよく、この場合は、第一型枠はフーチング用型枠であり、第二型枠はフーチング用型枠の上に配設される立ち上り部用型枠である。既述するように、「多段基礎」は、ビルドインガレージの開口部の基礎等の二段基礎の他、三段以上の基礎を含み、一般の布基礎に代表される一段基礎も含む。
【0016】
第一基礎を形成するべく、対向する二つの第一型枠が配設され、これら二つの第一型枠の内側において、第二基礎を形成するべく、対向する二つの第二型枠が配設される。従って、対応する第一型枠と第二型枠からなる一組の型枠に対して、本態様の段積み用パネルが適用される。
【0017】
本態様の段積み用パネルの断面形状が略コの字状を呈し、その上方水平片が第一型枠の上端に固定され、その下方水平片の先端が第一型枠の側面に当接していることにより、第一型枠と段積み用パネルによって矩形枠状の四面の閉合構造を形成することができる。この閉合構造により、第二型枠を安定的に支持することが可能になる。
【0018】
また、本態様の段積み用パネルは、打設されたコンクリート等のセメント系材料の内部に埋設されるものでなく、第一型枠や第二型枠と同様にセメント系材料の硬化後に脱型される部材であることから、例えば地中梁の天端位置において水道が形成されるといった課題は生じない。さらに、脱型後の段積み用パネルは他の基礎形成用の段積み用パネルとして転用することができる。
【0019】
また、本発明による多段基礎形成型枠の段積み用パネルの他の態様は、前記下方水平片の端部が鉛直方向に屈曲してリップを有し、該リップが第一型枠に当接されるようになっていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、リップが第一型枠に当接して面接触することにより、第二型枠の上方から鉛直荷重が作用した場合に、上方水平片と第一型枠の上端の固定箇所を支点として段積み用パネルに作用する曲げモーメントに対して、下方水平片(の先端のリップ)を第一型枠の側面にて安定的に支持させることができる。このように鉛直荷重が作用する状況は、例えば、セメント系材料打設時に作業員が第二型枠の上端に載ってセメント系材料の打設を行う等の際に生じ得る。
【0021】
また、本発明による多段基礎形成型枠の段積み用パネルの他の態様は、前記上方水平片に巾止め金具設置用開口が開設されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、対向する二つの段積み用パネルの双方に開設されている巾止め金具設置用開口に対して巾止め金具を設置することにより、セメント系材料打設時において第二型枠を支持する段積み用パネルが側方に位置ずれすることを抑制でき、寸法精度の良好な多段基礎を施工することができる。
【0023】
また、本発明による多段基礎形成型枠の段積み用パネルの他の態様は、前記下方水平片において、空気抜き用で、かつセメント系材料充填確認用の多目的孔が開設されていることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、下方水平片が空気抜き用でかつセメント系材料充填確認用の多目的孔を有していることにより、コンクリートやモルタルといったセメント系材料の打設に応じて適宜空気が抜かれることにより、下方水平片の下面まで十分にセメント系材料を打設することができ、さらに、このことを作業員が確認することができる。また、下方水平片の下面に密着するようにしてセメント系材料が打設されることから、段積み用パネルを脱型すると同時に段部のセメント系材料の表面は平滑に仕上がっており、左官等による段部の表面仕上げは必要なくなる。
【0025】
また、本発明による多段基礎形成型枠の一態様は、
第一基礎と、該第一基礎よりも幅の狭い第二基礎とが積層してなる多段基礎を形成するための型枠であって、
前記第一基礎用の第一型枠と、
前記第一型枠から平面的に離れた位置にある前記第二基礎用の第二型枠と、
前記段積み用パネルと、を有することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、本発明による段積み用パネルを有することにより、多段基礎の最上段に位置する立ち上り部の型枠を高い位置精度の下で支持でき、製作費用が高価にならない多段基礎形成型枠を提供することができる。
【0027】
また、本発明による多段基礎形成型枠の他の態様は、一対の前記第一型枠の内側の上方位置に一対の前記第二型枠が配設され、
対応する前記第一型枠と前記第二型枠を、巾止め金具設置用開口を有する前記段積み用パネルが繋ぎ、
一対の前記段積み用パネルの有する前記巾止め金具設置用開口に巾止め金具が係合されていることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、対向する二つの段積み用パネルの双方に開設されている巾止め金具設置用開口に対して巾止め金具が設置されることにより、セメント系材料打設時において第二型枠を支持する段積み用パネルが側方に位置ずれすることを抑制でき、寸法精度の良好な多段基礎を施工することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明の多段基礎形成型枠の段積み用パネルと、この段積み用パネルが適用された多段基礎形成型枠によれば、多段基礎の最上段に位置する立ち上り部の型枠を高い位置精度の下で支持することができ、多段基礎の段差箇所に水道が形成されることを解消でき、型枠の製作費用が高価になることを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】ビルドインガレージの基礎を説明する図であって、
図1(a)は、平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のb―b矢視図であり、
図1(c)は、
図1(a)のc-c矢視図である。
【
図2】第1従来例に係る多段基礎形成型枠の縦断面図である。
【
図3】第2従来例に係る多段基礎形成型枠の縦断面図である。
【
図4】実施形態に係る多段基礎形成型枠の一例の縦断面図である。
【
図5】実施形態に係る段積み用パネルの一例の斜視図である。
【
図6】対向する一組の段積み用パネルに対して巾止め金具が取り付けられることを説明する斜視図である。
【
図7】多段基礎形成型枠に鉛直荷重が作用した際の段積み用パネルの機能を説明する縦断面図である。
【
図8】実施形態に係る多段基礎形成型枠が脱型されて施工された多段基礎の一例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る多段基礎形成型枠と当該型枠に適用される実施形態に係る段積み用パネルについて、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0032】
[実施形態に係る多段基礎形成型枠と段積み用パネル]
図1、
図4乃至
図7を参照して、実施形態に係る多段基礎形成型枠と段積み用パネルについて説明する。ここで、
図4は、実施形態に係る多段基礎形成型枠の一例の縦断面図であり、
図5は、実施形態に係る段積み用パネルの一例の斜視図である。また、
図6は、対向する一組の段積み用パネルに対して巾止め金具が取り付けられることを説明する斜視図である。尚、
図4において、地中梁用鉄筋や立ち上り部用鉄筋等の図示を省略している。
【0033】
多段基礎形成型枠100は、
図1(a)及び
図1(c)に示すビルドインガレージの開口部の端部の基礎を形成するための型枠である。多段基礎形成型枠100は、捨コン等の基盤K上に載置されるフーチング(第三基礎の一例)形成用の第三型枠30と、フーチングよりも幅の狭い地中梁(第一基礎の一例)形成用の第一型枠10と、地中梁よりも幅の狭い立ち上り部(第二基礎の一例)形成用の第二型枠20とを有する。尚、図示する多段基礎形成型枠100は、
図1(a)に示すビルドインガレージの平面視においてその軸線に直交する型枠断面を示しており、例えば開口部の端部(シャッター側)には端部用の閉塞型枠が別途適用される(図示せず)。
【0034】
図1(c)に示す左右対称の多段基礎(図示例は二段基礎)を形成するべく、第一型枠10、第二型枠20、及び第三型枠30はいずれも鋼製で対向する一対の平板状の型枠により構成される。尚、第一型枠10、第二型枠20、及び第三型枠30がいずれも木製の型枠であってもよいし、いずれか一つもしくは二つの型枠(例えば、第一型枠10と第三型枠30)が鋼製であり、残りの型枠(例えば、第二型枠20)が木製の形態であってもよい。第三型枠30は基盤Kに固定され、第三型枠30の内側には、樹脂製もしくは鋼製の低背の型枠支持スペーサー40が同様に基盤Kに固定され、型枠支持スペーサー40の上に第一型枠10が載置され、固定されている。尚、図示例は二段の多段基礎形成型枠であるが、例えば、フーチング形成用の第三型枠30と、立ち上り部形成用の第二型枠20と、により形成される一般の布基礎(一段の基礎)を形成する型枠も本実施形態に係る多段基礎形成型枠に含まれる。さらに、図示例のように左右が多段状である形態の他、右側と左側のいずれか一方のみが多段状であり、他方が段無しである形態の型枠も本実施形態に係る多段基礎形成型枠に含まれる。
【0035】
第一型枠10の上端には、その長手方向に直交する断面形状が略コの字状を呈している段積み用パネル50が固定されている。段積み用パネル50は、一枚の金属プレートが折り曲げ加工されて形成されており、上方水平片51と、上方水平片51の端部が屈曲して鉛直下方に延設する鉛直片52と、鉛直片52の端部が屈曲して水平に延設する下方水平片53と、下方水平片53の端部が屈曲して鉛直方向に延設するリップ54とを有している。
【0036】
図5に示すように、上方水平片51には、その長手方向に間隔を置いて複数(図示例は三つ)の平面視矩形の巾止め金具設置用開口55が開設されている。また、下方水平片53には、単数もしくは複数(図では一つのみ図示)の多目的孔56が開設されている。この多目的孔56は、セメント系材料が下方水平片53に密着するまで十分に充填されていることを、多目的孔56を介してセメント系材料が上方に吐出されることもって確認するための孔である。多目的孔56はさらに、セメント系材料の充填に応じて下方水平片53の下方空間に存在する空気を抜くための孔でもあり、このように複数の目的を有している。
【0037】
図4に戻り、上方水平片51の端部が第一型枠10の上端に載置され、ビスやボルト等の固定手段70により固定される。上方水平片51の端部が第一型枠10の上端に固定された状態において、リップ54は第一型枠10の内壁面に当接し、リップ54の側面と第一型枠10の内壁面が面接触する。左右一対の第一型枠10の上端にそれぞれ対応する第一型枠10が固定された後、
図6に示すように、それぞれの対応する巾止め金具設置用開口55に対して巾止め金具60がX1方向に取り付けられる。
【0038】
巾止め金具60は、その両端部において、巾止め金具設置用開口55の有する幅t1と同幅の差し込み片61と、上方水平片51において巾止め金具設置用開口55から内側の端辺までの幅t2と同幅の係止溝62とを有している。巾止め金具設置用開口55に対して巾止め金具60をX1方向に落とし込んだ際に、巾止め金具設置用開口55に差し込み片61が差し込まれると同時に、係止溝62が上方水平片51の一部に係止されることにより、左右の段積み用パネル50の有する対応する一対の巾止め金具設置用開口55に対して巾止め金具60が取り付けられる。そして、図示例では、左右の三対の巾止め金具設置用開口55に対してそれぞれ巾止め金具60が取り付けられる。
【0039】
図4に戻り、左右の段積み用パネル50が複数の巾止め金具60により固定された後、左右の段積み用パネル50の鉛直片52に沿うようにして第二型枠20をそれぞれの上方水平片51に載置して固定することにより、多段基礎形成型枠100が構成される。巾止め金具60によって相互に接続された左右の段積み用パネル50に対して左右一対の第二型枠20が固定されることにより、セメント系材料の充填の際に第二型枠20に作用する側圧によって第二型枠20の特に脚部が側方に開くことが解消される。
【0040】
図4より明らかなように、多段基礎形成型枠100によれば、
図3に示す第2従来例のように高背の型枠支持スペーサーを必要としないことから、第2従来例のように型枠の製作費用が高価になる恐れはない。
【0041】
また、段積み用パネル50を介して第二型枠20を第一型枠10に固定することにより、
図2に示す第1従来例のように地中梁用鉄筋等に立ち上り部用型枠を固定する場合に比べて、多段基礎形成型枠100の最上段に位置する第二型枠20を第一型枠10により高い位置精度の下で支持することができる。
【0042】
さらに、
図4に示すように、多段基礎形成型枠100を用いて多段基礎を施工した際に、左右の段積み用パネル50を構成する下方水平片53の下面レベルが地中梁の天端レベルとなり、充填されるセメント系材料内に残置される巾止め金具60は地中梁の天端レベルよりも上方に位置する。そのため、
図2に示す第1従来例のように、巾止め金具が地中梁の天端位置において水道を形成する恐れはない。尚、鉛直片52の高さを調整することにより、形成される多段基礎における巾止め金具60の埋設箇所が周辺の地盤(埋め戻し土)レベルよりも上方にくるように設定するのが好ましい。
【0043】
次に、
図7を参照して、多段基礎形成型枠100に鉛直荷重が作用した際の段積み用パネル50の機能について説明する。
【0044】
多段基礎形成型枠100が組み立てられた後、型枠内にコンクリート等のセメント系材料の充填が行われる。このセメント系材料の充填に際して、例えばポンプ車から延出するホースの先端を持った作業員が第二型枠20の上端に載り、この載った状態でセメント系材料の充填を行う場合に鉛直荷重Pが多段基礎形成型枠100に作用する。また、バイブレータを持った他の作業員が第二型枠20の上端に載ってセメント系材料に振動を付与し、セメント系材料の流動性を促進させる場合に鉛直荷重Pが作用する。
【0045】
このように第二型枠20に鉛直荷重Pが作用すると、第二型枠20を下方から支持する段積み用パネル50には、第一型枠10と上方水平片51の固定手段70による固定部を支点とする曲げモーメントMが作用することになる。
図7に示すように、第一型枠10と断面形状が略コの字状の段積み用パネル50とにより剛性のある矩形枠状の四面の閉合構造が形成されている。従って、この作用する曲げモーメントMに対して、この閉合構造にて対抗することにより、鉛直荷重Pに起因する曲げモーメントMが作用した場合でも段積み用パネル50及び多段基礎形成型枠100の形状保持を図ることができる。
【0046】
さらに、リップ54が第一型枠10に当接して面接触していることにより、曲げモーメントMが作用した際に、第一型枠10に面接触しているリップ54には第一型枠10から反力qが作用し、このことによっても曲げモーメントMに対する安定した段積み用パネル5の形状保持が図られる。
【0047】
多段基礎形成型枠100内にコンクリート等のセメント系材料が充填され、硬化した後、第一型枠10、第二型枠20、及び第三型枠30が脱型され、さらに段積み用パネル50が脱型されることにより、
図8に示すように、フーチング200と地中梁300と立ち上り部400が一体とされた多段基礎500が施工される。尚、巾止め金具60の中央側はセメント系材料内に埋設され、巾止め金具設置用開口55に差し込まれている端部側は埋設されていないが、
図6に示すように係止溝62の領域は水平片のみしか存在せず、上下の鉛直片が存在しないことから他の領域に比べて切断し易くなっている。そのため、段積み用パネル50の脱型に伴い、巾止め金具60の当該端部側は係止溝62の領域を中心に切断されることにより、中央のセメント系材料内に埋設される領域から縁切りされる。
【0048】
段積み用パネル50の有する下方水平片53の下面に密着するようにしてセメント系材料が打設されることから、段積み用パネル50を脱型すると同時に段部310の表面は平滑に仕上がっている。そのため、セメント系材料打設後に左官等による段部の表面仕上げの必要はない。
【0049】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0050】
10:第一型枠(地中梁用型枠)、20:第二型枠(立ち上り部用型枠)、30:第三型枠(フーチング用型枠)、40:低背の型枠支持スペーサー(型枠支持スペーサー)、50:段積み用パネル、51:上方水平片、52:鉛直片、53:下方水平片、54:リップ、55:巾止め金具設置用開口、56:多目的孔、60:巾止め金具、70:固定手段、100:多段基礎形成型枠、200:フーチング(第三基礎)、300:地中梁(第一基礎)、310:地中梁表面、400:立ち上り部(第二基礎)、500:多段基礎