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特許7193098エンジントルク推定装置、エンジントルク推定方法及びエンジン制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】エンジントルク推定装置、エンジントルク推定方法及びエンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
F02D45/00 364A
F02D45/00 362
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021501399
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2019007097
(87)【国際公開番号】W WO2020174542
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】391008559
【氏名又は名称】株式会社トランストロン
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】小川 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】曾根田 弘光
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-013904(JP,A)
【文献】特開2017-082662(JP,A)
【文献】特開2005-061371(JP,A)
【文献】特開平09-126041(JP,A)
【文献】特開2005-201163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有するエンジンのクランク角度センサの出力から抽出されたクランク角度に基づいて、推定図示トルクの時系列データを算出するトルク推定部と、
気筒別の前記推定図示トルクの時系列データから、前記推定図示トルクの時系列データにおけるクランクシャフトの回転の半周期内の最大値と最小値の差分の推定図示トルクの振幅である気筒別の推定図示トルクの関連値をそれぞれ抽出する推定図示トルク関連値抽出部と、
前記推定図示トルクの関連値を、前記推定図示トルクの関連値に対応して前記エンジンの気筒内状態から算出した平均図示トルクの正解値に、前記気筒別に変換する、平均図示トルクの正解値取得手段と、を有する、エンジントルク推定装置。
【請求項2】
前記平均図示トルクの正解値取得手段は、前記推定図示トルクの関連値を、前記推定図示トルクの関連値に対応して前記エンジンの気筒内状態から算出した平均図示トルクの正解値に、前記気筒別に加えてエンジン回転数別に変換する、請求項1に記載のエンジントルク推定装置。
【請求項3】
前記平均図示トルクの正解値取得手段は、
前記推定図示トルクの関連値に対応して前記平均図示トルクの正解値を有する前記気筒別の変換マップを参照して、前記推定図示トルクの関連値を前記平均図示トルクの正解値に、前記気筒別に、変換する、請求項に記載のエンジントルク推定装置。
【請求項4】
前記平均図示トルクの正解値取得手段は、
前記推定図示トルクの関連値を入力し前記平均図示トルクの正解値を出力する前記気筒別の変換式に基づいて、前記推定図示トルクの関連値を、前記平均図示トルクの正解値に、前記気筒別に、変換する、請求項に記載のエンジントルク推定装置。
【請求項5】
前記変換マップ、前記気筒別に加えてエンジン回転数別の変換マップであり
前記平均図示トルクの正解値取得手段は、前記気筒別に加えてエンジン回転数別に、前記変換する、請求項に記載のエンジントルク推定装置。
【請求項6】
前記変換式は、前記気筒別に加えてエンジン回転数別の変換式であり、
前記平均図示トルクの正解値取得手段は、前記気筒別に加えてエンジン回転数別に、前記変換する、請求項4に記載のエンジントルク推定装置。
【請求項7】
前記トルク推定部は、前記クランク角度の時系列データからクランク角速度の時系列データを算出し、前記クランク角速度の時系列データと前記エンジンの慣性モーメント情報に基づいて、前記推定図示トルクの時系列データを算出する、請求項1に記載のエンジントルク推定装置。
【請求項8】
前記トルク推定部は、前記クランク角度の時系列データと前記クランク角度の時系列データから算出されるクランク角速度の時系列データを観測値とし、前記クランク角度の時系列データと前記クランク角速度の時系列データと前記推定図示トルクとを状態推定値とする非線形カルマンフィルタに基づいて、時系列のタイミング毎に、前記状態推定値を推定する、請求項1に記載のエンジントルク推定装置。
【請求項9】
複数の気筒を有するエンジンのクランク角度センサの出力から抽出されたクランク角度に基づいて、推定図示トルクの時系列データを算出し、
気筒別の前記推定図示トルクの時系列データから、前記推定図示トルクの時系列データにおけるクランクシャフトの回転の半周期内の最大値と最小値の差分の推定図示トルクの振幅である気筒別の推定図示トルクの関連値をそれぞれ抽出し、
前記推定図示トルクの関連値を、前記推定図示トルクの関連値に対応して前記エンジンの気筒内状態から算出した平均図示トルクの正解値に、前記気筒別に変換する、エンジントルク推定方法。
【請求項10】
複数の気筒を有するエンジンのクランク角度センサの出力から抽出されたクランク角度に基づいて、平均図示トルクの正解値を、気筒別に算出するエンジントルク推定装置と、
前記気筒別の平均図示トルクの正解値が、要求トルクに一致するよう前記気筒別の燃料噴射量を決定する噴射量決定部とを有し、
前記エンジントルク推定装置は、
前記クランク角度センサの出力から抽出されたクランク角度に基づいて、推定図示トルクの時系列データを算出するトルク推定部と、
気筒別の前記推定図示トルクの時系列データから、前記推定図示トルクの時系列データにおけるクランクシャフトの回転の半周期内の最大値と最小値の差分の推定図示トルクの振幅である気筒別の推定図示トルクの関連値をそれぞれ抽出する推定図示トルク関連値抽出部と、
前記推定図示トルクの関連値を、前記推定図示トルクの関連値に対応して前記エンジンの気筒内状態から算出した平均図示トルクの正解値に、前記気筒別に変換する、平均図示トルクの正解値取得手段と、を有する、エンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジントルク推定装置、エンジントルク推定方法及びエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のガソリンエンジンやディーゼルエンジンの制御装置は、エンジンをトルクで制御するトルクベース制御を行う。トルクベース制御では,ドライバのアクセル操作やクルーズコントロールなどから要求トルクを設定し,その要求トルクを満たす図示トルクを計算し、図示トルクを再現できるようインジェクタの噴射量を制御する。かかるエンジン制御は、フィードフォワード制御である。
【0003】
フィードフォワード制御では、多気筒エンジンの複数の気筒(シリンダ)のインジェクタの噴射量を同じように制御する。但し、複数の気筒それぞれのインジェクタの個体差により複数の気筒の図示トルクにばらつきが生じ、排ガス性能や燃費性能の悪化を招く要因となる。
【0004】
一方、エンジンの各気筒の図示トルクをクランク角度センサのセンサ値(観測値、出力値)に基づいて推定し、各気筒の推定図示トルクが要求トルクに一致するよう各気筒のインジェクタの噴射量を別々に制御するフィードバック制御が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-127219号公報
【文献】特開2017-82662号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】カルマンフィルタの基礎、足立修一、丸田一郎著、東京電機大学出版局、ISBN 978-4-501-32891-0 C3055
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、クランク角度センサのクランク角度抽出による測定分解能の限界、クランク角度センサの電圧出力のサンプリング周期の限界、高回転領域におけるエンジン内の振動などの外乱等に起因して、クランク角度センサのセンサ値には各気筒の燃焼サイクルで異なるノイズが含まれる。そのため、クランク角度センサのセンサ値に基づいて各気筒の図示トルクを正確に推定することは困難である。このような理由から、各気筒の推定図示トルクに基づくフィードバック制御を適切に行うことができない。
【0008】
そこで,本実施の形態の第1の側面の目的は、各気筒の図示トルクを高精度に推定するエンジントルク推定装置、エンジントルク推定方法及びエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施の形態の第1の側面は、複数の気筒を有するエンジンのクランク角度センサの出力から抽出されたクランク角度に基づいて、推定図示トルクの時系列データを算出するトルク推定部と、気筒別の前記推定図示トルクの時系列データから気筒別の推定図示トルクの関連値をそれぞれ抽出する推定図示トルク関連値抽出部と、前記推定図示トルクの関連値を、前記推定図示トルクの関連値に対応して前記エンジンの気筒内状態から算出した平均図示トルクの正解値に、前記気筒別に変換する、平均図示トルクの正解値取得手段と、を有する、エンジントルク推定装置である。
【発明の効果】
【0010】
第1の側面によれば、各気筒の図示トルクを高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】エンジンとエンジントルク推定装置及びエンジン制御装置の概略構成を示す図である。
図2】本実施の形態におけるエンジントルク推定装置及びエンジン制御装置の構成を示す図である。
図3】エンジントルク推定装置及びエンジン制御装置の処理内容を示すフローチャートの図である。
図4】クランク角度の時系列データとクランク角速度の時系列データと推定図示トルク及び図示トルクの正解値の一例を示す図である。
図5】4気筒エンジンの概略構成を示す図である。
図6】変換マップまたは変換式を取得するためのエンジンの実験を示す図である。
図7】推定図示トルクの振幅を示す図である。
図8】変換マップまたは変換式の例を示す図である。
図9】推定図示トルクの関連値の他の例である積分値を示す図である。
図10】本実施の形態における非線形カルマンフィルタの演算処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、エンジンとエンジントルク推定装置及びエンジン制御装置の概略構成を示す図である。エンジンENGは、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンであり、エンジンのみを駆動源とする車や、エンジンと電気モータを駆動源とするハイブリッド車などに搭載される。エンジンENGには、クランクシャフトの回転角を検出するクランク角度センサCAが設けられる。エンジントルク推定装置及びエンジン制御装置10は、例えば、マイクロコンピュータにより構成される。マイクロコンピュータは、具体的に、演算処理部CPUと、メインメモリM_MEMと、不揮発性メモリ等の補助記憶装置12と、外部とのインターフェースIFと、それらを接続するバス11とを有する。
【0013】
クランク角度センサCAは、例えば、クランクシャフトの基準位置と回転角を検出するセンサである。クランク角度センサにより検出されるセンサ値は、電子燃料噴射システムにおいて、燃料噴射制御、点火時期制御のベース信号となる。 例えば、電磁式のクランク角度センサは、クランクシャフトに取り付けられた突起(歯)のあるロータの回転によりクランク角度センサが受ける磁束が変化する。この磁束の変化を、短形波のパルス信号に変換して出力する。ロータにはクランク角ピッチに対応して複数の突起が設けられ、上死点検出用に欠歯を有する。別の例では、光学式のクランク角度センサは、ロータの突起間を貫通する光を検出し、矩形波のパルス信号に変換して出力する。
【0014】
マイクロコンピュータ10で構成されるエンジントルク推定装置は、クランク角度センサCAの出力パルスから抽出されるクランク角度を入力し、演算処理部CPUが補助記憶装置12内のエンジントルク推定プログラムを実行して、各気筒の推定トルク、例えば推定図示トルク、を算出する。
【0015】
また、同様にマイクロコンピュータ10で構成されるエンジン制御装置は、演算処理部CPUが補助記憶装置12内のエンジン制御プログラムを実行して、エンジンENGの回転数などのエンジン内部状態や、上記の推定トルクなどに基づいて、要求トルクを実現するためのエンジンのインジェクタ噴射量を算出し、インジェクタを駆動制御する。
【0016】
図2は、本実施の形態におけるエンジントルク推定装置及びエンジン制御装置の構成を示す図である。図1で説明したとおり、エンジントルク推定装置20は、マイクロコンピュータがエンジントルク推定プログラムを実行することで、図2に示される各計算部、推定部、抽出部、取得部などが実現される。また、エンジン制御装置30は、エンジントルク推定装置20を含み、マイクロコンピュータがエンジン制御プログラムを実行することで、図2に示されるトルクフィードバック制御部31,トルクフィードフォワード制御部34、インジェクタ指示噴射量決定部32、トルク目標値設定部33などが実現される。
【0017】
図3は、エンジントルク推定装置及びエンジン制御装置の処理内容を示すフローチャートの図である。図2に示したエンジントルク推定装置及びエンジン制御装置の各計算部等の処理の内容が図3に示される。
【0018】
エンジントルク推定装置20は、クランク角度センサCAの電圧出力20Aを入力し、電圧出力からクランク角度の時系列データ(time series data)を抽出する。時系列のクランク角速度計算部21は、クランク角度センサCAが出力するパルス状の電圧出力20Aをモニタリングし、クランク角度の時系列データ(time series data)を計算する。具体的には、時系列のクランク角速度計算部21は、クランク角度センサが出力する電圧値が上昇するときと下降するときに0ボルトをクロスすると、クランク角度θ(k)が所定の微小角度Δθ(k)だけ進角したことを検出する。そして、時系列のクランク角速度計算部21は、0クロスした回数をkとすると、時刻情報t(k)と、以下のクランク角度θ(k)を記憶する。
【0019】
【数1】
【0020】
さらに、時系列のクランク角速度計算部21は、クランク角度の時系列データθ(k)を時間で微分して、クランク角速度の時系列データ21Aを以下の式により計算する(S21)。
【0021】
【数2】
【0022】
次に、時系列のトルク推定部22は、クランク角度の時系列データとクランク角速度の時系列データに基づいて、図示トルクの時系列データを推定し、推定図示トルクの時系列データ22Aを出力する(S22)。この推定方法のうち、第1の推定方法では、クランク角速度の時系列データと慣性モーメントJとから以下の式により推定図示トルクを算出する。
【0023】
【数3】
【0024】
第2の推定方法では、クランク角度の時系列データとクランク角速度の時系列データに基づいて、非線形カルマンフィルタ、特にアンセンテッドカルマンフィルタを用いて、推定図示トルクを算出する。第2の推定方法の非線形カルマンフィルタによる推定処理については、後で詳述する。
【0025】
図4は、クランク角度の時系列データとクランク角速度の時系列データと推定図示トルク及び図示トルクの正解値の一例を示す図である。図5は、4気筒エンジンの概略構成を示す図である。図5に示されるとおり、4気筒エンジンは、4つの気筒(シリンダ)CL0-CL3と、各気筒内のピストンPS0-PS3とそれぞれ接続されたクランクシャフト50とを有する。クランクシャフト50にはロータRTとクランク角度センサCAとが設けられる。ロータRTの周囲の歯は省略されている。
【0026】
4気筒エンジンは、空気と燃料の混合気を燃焼室へ取り込み燃焼し燃焼ガスを排気するまでの一連の動作(サイクル)が、ピストンの上昇と下降が2回ずつ、合わせて4回の行程で行われる。エンジンの1サイクルの間で、ピストンが気筒(シリンダ)内を2往復してクランクシャフトが2回転(720度)する。クランクシャフト50が2回転(720度)する1サイクルを4等分した180度ずつずれて、各シリンダCL0-CL3は、吸入、圧縮、発火(燃焼)、排気の各工程を行う。
【0027】
クランク角度センサCAの電圧出力から抽出したクランク角度の時系列データは、時間軸(横軸)の時間経過に伴い、クランク角度CAが0度から720度に増加する。一方、クランク角度を微分して求められるクランク角速度AVの時系列データは、各シリンダの発火(燃焼)工程に同期して、クランク角速度の増大と減少が4回発生する。例えば、図5の例で、気筒CL0の発火、気筒CL2の発火、気筒CL3の発火、気筒CL1の発火が180度ずつずれてこの順番に発生し、発火のたびに、クランク角速度が最大速度になる。
【0028】
クランク角度の時系列データと、クランク角速度の時系列データは、各気筒の個体差に応じて、それぞれの気筒の発火工程で異なる時系列データとなる。その結果、時系列のトルク推定部22が算出する推定図示トルクの時系列データは、各気筒の発火工程で、それぞれの異なる推定図示トルクの時系列データとなる。
【0029】
図4に示された図示トルクは、クランク角度の時系列データとクランク角速度の時系列データから、前述の時系列のトルク推定部22が算出した図示トルクの推定値(破線)と、予め実際のエンジンを動作させて行った実験で、各気筒内に設けた筒内圧センサの筒内圧力から算出した図示トルクの正解値(実線)である。本実施の形態では、予め行われるエンジンの実験で、各気筒の、図示トルクの推定値と図示トルクの正解値の変換マップまたは変換式を取得する。図5に示されるとおり、変換マップまたは変換式は、各気筒毎に取得され、さらに後述するとおり、エンジンの回転領域別にも取得される。
【0030】
図6は、変換マップまたは変換式を取得するためのエンジンの実験を示す図である。実験用の実エンジンENGは、図5に示したエンジンである。すなわち、クランクシャフト50にクランク角度センサCAが設けられ、エンジンを回転すると、クランク角度センサCAの電圧出力からクランク角度の時系列データCA0-CA3が抽出される。実験用のエンジンENGは、実際に車両に搭載されるエンジンと異なり、各気筒CL0-CL3に、気筒内の物理状態、例えば筒内圧力を検出する筒内圧センサCP0-CP3が設けられる。車両に搭載されるエンジンには、高級なエンジンを除いて、筒内圧センサは設けられない。コストアップであると共に筒内圧センサの経年劣化が問題になるからである。
【0031】
実験用のエンジンを回転させて、4つの気筒の筒内圧センサCP0-CP3それぞれから各気筒内の圧力P0-P3の時系列データを取得する。これら筒内圧力P0-P3それぞれから、4つの気筒にそれぞれ発生する4つの図示トルクの正解値が算出される。この図示トルクの正解値が図4に実線で示されている。
【0032】
気筒の発火(燃焼)工程での筒内圧力が高いほど、図示トルクが高くなる関係にあり、エンジンの気筒に対応して、筒内圧力から図示トルクを正確に算出することができる。
【0033】
そして、4つの図示トルクの正解値から、それぞれの気筒の平均図示トルクの正解値R_TRK0-R_TRK3が算出される。平均図示トルクは、例えば、図示トルクの時系列データを発火工程の期間で積分し、発火工程の時間で除算することで算出される。
【0034】
一方、エンジンENGに設けたクランク角度センサの出力から、クランク角度の時系列データCA0-CA3を抽出し、カルマンフィルタCA_FLTに入力する。クランク角度の時系列データは、1つのクランク角度センサの出力から抽出されるが、4気筒のクランク角度は、それぞれ180度ずつずれているので、180度のずれを考慮して、クランク角度センサの出力を4分割することで、4つのクランク角度の時系列データCA0-CA3が得られる。
【0035】
カルマンフィルタCA_FLTは、後述するとおり、クランク角度の時系列データを入力しながら、エンジンの状態値である推定トルク(推定図示トルク)E_TRKを算出する。この推定トルクは、図4に破線で示される。推定トルクは、4気筒が順番に発火(燃焼)することで生成されるので、クランク角度720度の間に算出される推定図示トルクE_TRKを、4気筒による4回の発火工程別に分割することで、4気筒それぞれの推定図示トルクE_TRK0~E_TRK3が抽出される。
【0036】
クランク角度の時系列データ及びそれから算出されるクランク角速度の時系列データには、クランク角度抽出による測定分解能の限界、クランク角度センサの出力のサンプリング周期の限界、高回転領域におけるエンジン内の振動などの外乱等に起因して、ノイズが含まれる。特に、高回転では、エンジン内の振動やサンプリング周期の限界が顕著になり、エンジンの異なる回転数領域に応じてサンプリング周期の限界の度合いが異なる。4気筒の個体差によってもそれらの影響度が異なる。また、また、クランク角度の時系列データとクランク角速度の時系列データから推定される各気筒の推定図示トルクは、複数の気筒の個体差(インジェクタの個体差など)に基づき、異なるノイズが含まれる。
【0037】
そこで、本実施の形態では、図6に示されるとおり、上記のエンジンの実験を予め実施し、4気筒それぞれの推定図示トルクの振幅E_TRK_A0~E_TRK_A3や推定図示トルクの積分値などの推定図示トルクの関連値と、平均図示トルクの正解値R_TRK0~R_TRK3のそれぞれの対応を有する変換マップまたは変換式MAP0~MAP3を取得しておく。この変換マップまたは変換式は、4気筒別々に取得する。また、後述するとおり、変換マップまたは変換式は、気筒毎に、エンジンの回転領域別にそれぞれ取得しておく。
【0038】
特に、本実施の形態では、推定図示トルクの関連値として、推定図示トルクの振幅を採用することで、クランク角度センサのセンサ値に含まれるノイズの影響を抑える。
【0039】
図7は、推定図示トルクの振幅を示す図である。図7には、ある気筒の推定図示トルクE_TRK#(#は気筒番号0-3)が示される。図4に示した破線の推定図示トルクの一つの発火サイクルが抜粋して図7に示されている。クランク角度センサでは、ロータの複数の歯の中に設けられる欠歯の前後でセンサ値にノイズが発生する。推定図示トルクの積分値を算出した場合、欠歯によるノイズを補間処理などで除去する必要があり、かかる処理を行っても発生したノイズを適切に除去できない場合がある。
【0040】
それに対して、本実施の形態では、図2の気筒別トルク関連値(振幅)の抽出部23が、推定図示トルクE_TRK#の最大値MAXと最小値MINの差分に基づき推定図示トルクの振幅E_TRK_A#(23A)を抽出する(S23)。推定図示トルクの振幅E_TRK_A#(23A)を抽出することで、推定図示トルクE_TRK#に含まれる欠歯により発生したノイズの影響を大幅に抑制することができる。推定図示トルク振幅E_TRK_A#は、4気筒それぞれについて抽出する。
【0041】
次に、図2の気筒別トルク関連値(振幅)に基づく気筒別平均図示トルクの取得部24は、気筒別の推定図示トルク振幅E_TRK_A#それぞれに対する、気筒別の平均図示トルクの正解値R_TRK#(S24A)を取得する。具体的には、取得部24は、変換マップまたは変換マップから算出した変換式に基づいて、推定図示トルク振幅E_TRK_A#(推定図示トルクの関連値)に対応する平均図示トルクの正解値R_TRK#を取得する。前述のとおり、推定図示トルクの振幅E_TRK_A#を抽出することで、クランク角度センサの欠歯によるノイズを適切に抑制できる。従って、変換マップまたは変換式に基づいて取得する推定図示トルクの振幅E_TRK_A#に対応する平均図示トルクの正解値R_TRK#の精度を高くできる。
【0042】
図8は、変換マップまたは変換式の例を示す図である。前述のとおり、本実施の形態では、予め行われるエンジンを回転させる実験で、推定図示トルクの関連値(振幅)E_TRK_A#と平均図示トルクの正解値R_TRK#の対応を有する変換マップまたは変換式MAP0-MAP3が、4気筒それぞれについて取得される。さらに、各気筒の変換マップまたは変換式は、エンジンの回転数領域別に取得される。具体的には、実験でエンジンの回転数領域を変更して、それぞれ変換マップまたは変換式MAP0-MAP3を取得する。
【0043】
図8の横軸は、推定図示トルクの関連値、特に振幅に対応し、縦軸は、平均図示トルクの正解値に対応する。平均図示トルクの正解値は、例えば、筒内圧センサから算出した図示トルクの正解値を、各気筒の発火(燃焼)工程での積分値を算出し、積分値を発火(燃焼)工程の時間で除算することで算出される。
【0044】
図8の変換マップまたは変換式の例に示されるとおり、推定図示トルクの振幅と平均図示トルクの正解値との間に線形性の関係があるので、この変換マップまたは変換式により、推定図示トルクの振幅に対して平均図示トルクの正解値を一義的に取得することができる。
【0045】
図8の変換マップまたは変換式の例に示されるとおり、エンジンの回転数の領域1000rpm、1200rpm,1400rpm,1600rpm,1800rpm、2000rpm、2400rpmそれぞれの変換マップまたは変換式を取得することで、エンジン回転数が高くなると推定図示トルクに発生するノイズが大きくなることによる、変換精度の低下を抑制することができる。エンジンの回転数の領域1000rpmは、例えば、1000rpm以上1200rpm未満の領域である。他の回転数の領域も同様の領域である。
【0046】
図8の例から分かるとおり、変換マップまたは変換式は、ほぼ線形一次関数である。変換マップは、推定図示トルクの関連値(振幅)の複数値と平均図示トルクの正解値の複数値との対応を有する。一方、変換式は、推定図示トルクの関連値(振幅)を変数Xとし、平均図示トルクの正解値を変数Yとする、線形一次関数の式である。
【0047】
図9は、推定図示トルクの関連値の他の例である積分値を示す図である。図9には、図7と同様に、ある気筒の推定図示トルクE_TRK#(#は気筒番号0-3)が示される。図4に示された破線の推定図示トルクの一つのサイクルを抜粋して図9に示される。推定図示トルクの積分値E_TRK_INT#は、推定図示トルクE_TRK#の発火(燃焼)工程中の積分値である。この積分値を発火工程の時間で除算することで、推定平均図示トルクを算出できる。推定図示トルクの積分値E_TRK_INT#と、積分値を時間で除算した推定平均図示トルクは、時間で除算したか否かだけの違いであり、変換マップ内では同じ意味を持つデータである。
【0048】
本実施の形態では、図8の変換マップまたは変換式の横軸を、図7の推定図示トルクの振幅に代えて、図9の推定図示トルクの積分値を使用する。このような変換マップまたは変換式を使用しても、取得部24は、平均図示トルクの正解値を高い精度で取得することができる。
【0049】
図2に戻り、トルクフィードバック(FB)制御部31は、気筒別の平均図示トルクの正解値24Aが、トルク目標値設定部33が出力するトルク目標値33Aに一致するように、各気筒の燃料噴射量31Aを算出する(S31)。具体的には、トルクFB制御部31は、トルク目標値33Aと平均図示トルクの正解値24Aの差分に基づいて、各気筒の燃料噴射量31Aを算出する。この燃料噴射量31Aは、フィードバック制御によるものである。ここで、トルク目標値設定部33は、例えば、ドライバによるアクセルの操作量に基づくドライバ要求トルクや、クルーズコントロール等から出力される要求トルクに基づいてトルク目標値を設定する。
【0050】
一方、トルクフィードフォワード(FF)制御部34は、エンジンENGからの回転数等のエンジン内部状態値41Aと、トルク目標値設定部33が出力するトルク目標値33Aに基づいて、全気筒の燃料噴射量34Aを算出する(S34)。具体的には、エンジンの回転数とトルク目標値の組み合わせに対応してフィードフォワードの燃料噴射量を有するマップを参照して、算出する。算出するフィードフォワードの燃料噴射量は、全気筒に共通の噴射量である。
【0051】
次に、インジェクタ指示噴射量決定部32は、フィードフォワードの燃料噴射量34Aと、フィードバックの気筒別の燃料噴射量31Aとを入力し、例えば、PID(Proportional Integral Differential)制御により、気筒別のインジェクタへの指示噴射量(噴射量指示値)31Aを決定する。そして、インジェクタ駆動制御部40は、各気筒の噴射量指示値32Aに基づいて各気筒のインジェクタを駆動する駆動信号40Aを生成する(S40)。エンジン内の各気筒のインジェクタは、各気筒の駆動信号40Aにより駆動される(S40)。
【0052】
[カルマンフィルタ]
本実施の形態では、図2の時系列のトルク推定部22は、非線形カルマンフィルタとして、アンセンテッドカルマンフィルタを用いて時系列の図示トルクの推定値を算出する。以下、その非線形カルマンフィルタについて具体的に説明する。
【0053】
時系列のトルク推定部22は、クランク角度センサCAにより取得されたクランク角度の実測値θ(k)と、後述する非線形カルマンフィルタによって計算されたクランク角度の事前推定値θ^(k)との間の誤差を、以下の式(4)に従って計算する。
【0054】
【数4】
【0055】
なお、kは更新回数の周期を表す。また、時系列のトルク推定部22は、クランク角速度の計算値θ(k)と後述する非線形カルマンフィルタによって計算されたクランク角速度の事前推定値θ(k)との間の誤差を、以下の式(5)に従って計算する。
【0056】
【数5】
【0057】
本実施の形態の状態推定値x(k)は、以下の式(6)に示されるように、クランク角度θ(k)、クランク角速度θ(k)、及び図示トルクτ(k)を含む。
【0058】
【数6】
【0059】
また、本実施の形態の非線形カルマンフィルタでは、上記式(6)に示される状態ベクトルが与えられたときに、以下の式(7)、(8)に従って、非線形関数fと非線形関数hとによってクランク角度の時系列データとクランク角速度の時系列データが計算される。
【0060】
【数7】
【0061】
なお、v(k)はシステム雑音であり、ω(k)は観測雑音であり、y(k)は観測値(出力値)である。非線形関数fと非線形関数hは、任意の係数関数を含む関数であり、本実施の形態では、以下の式(9-1)~(9-4)に示す非線形方程式によって表現される。
【0062】
【数8】
【0063】
上記の式(9-1)~(9-4)に示す非線形の状態方程式では、式(6)に示した状態推定値x(k)の、現時刻の周期kのクランク角度の実測値θ(k)、現時刻の周期kのクランク角速度の計算値θ(k)、及び現時刻の周期kのトルクの値τ(k)が入力される。そして、次時刻の周期k+1のクランク角度θ(k+1)、次時刻の周期k+1のクランク角速度θ(k+1)、及び次時刻の周期k+1のトルクτ(k+1)が予測される。
【0064】
なお、ainer(θ)はエンジンにおけるピストンクランク機構の慣性に関する項であり、agra(θ)はピストンクランク機構の重力に関する項である。また、avel(θ)はピストンクランク機構の角速度に関する項であり、afri(θ)はピストンクランク機構の摩擦に関する項である。ainer(θ)、agra(θ)、avel(θ)、及びafri(θ)は、係数関数である。
【0065】
なお、4サイクル直列4気筒では、例えば,No.1気筒とNo.4気筒とが同じピストン配置で同じ位相となり、また、No.2気筒とNo.3気筒とが同じピストン配置で同じ位相となる。従って、慣性に関する項、重力に関する項、角速度に関する項、及び摩擦に関する項は、4サイクル直列4気筒を考慮し、以下の式(9-5)に示されるように、180度ずつ位相をずらして重ね合わせて表現される。
【0066】
【数9】
【0067】
iner_s(θ)は単気筒における慣性に関する項の係数関数であり、agra_s(θ)は単気筒における重力に関する項の係数関数であり、avel_s(θ)は単気筒における角速度に関する項の係数関数であり、afri_s(θ)は単気筒における摩擦に関する項の係数関数である。
【0068】
なお、本実施の形態では、上記の係数関数の数式演算部分を、その係数関数の出力値とθ値の関係を表現するテーブルに置き換えて計算する。具体的には、慣性に関する項ainer(θ)からの出力値、重力に関する項agra(θ)からの出力値、角速度に関する項avel(θ)からの出力値、及び摩擦に関する項afri(θ)からの出力値と、クランク角度θとの関係を表すテーブルが予め設定される。
【0069】
図10は、本実施の形態における非線形カルマンフィルタの演算処理のフローチャートを示す図である。以下、フローチャートにしたがい、非線形カルマンフィルタの演算処理について説明する。
【0070】
[状態推定値の初期値設定(S10)]
時系列のトルク推定部22は、以下の式(10)に示されるように、状態推定値x^(k)の初期値x^(0)を設定する。
【0071】
【数10】
【0072】
次に、時系列のトルク推定部22は、以下の式(11)に示されるように、事後誤差共分散行列Pの初期値P(0)を設定する。また、システム雑音の分散Qと観測雑音の分散Rとが設定される。
【0073】
【数11】
【0074】
[時間更新(S11)]
次に、そして、時系列のトルク推定部22は、所定の周期毎に以下の処理を繰り返し実行する。ここで、例えば、kは1から2,3,...,Nまで更新処理を繰り返す(S11)。
【0075】
[シグマポイントの計算(S12)]
まず、時系列のトルク推定部22は、1周期前の状態推定値x^(k-1)と共分散行列P(k-1)とから、平均値と標準偏差とに対応するサンプル点として、2n+1個のシグマポイントσ,σを以下の式(12)(平均値に対応するサンプル点)、(13)(14)(標準偏差に対応するサンプル点)により計算する(S12)。
【0076】
【数12】
【0077】
ここで、(√P)は、共分散行列Pの平方根行列のi番目の列を表す。また、各シグマポイントに対する重みw,wが、以下の式(15)、(16)に従って計算される。
【0078】
【数13】
【0079】
なお、κはスケーリングパラメータである。式(19)や式(20)で計算される事前状態推定値x^-(k)や事前誤差共分散行列P-(k)は、それぞれ、1次モーメントと2次モーメントの推定値と称される。その1次モーメントと2次モーメントの推定値は、任意の非線形関数についてf(x(k),v(k))のテイラー級数展開の2次の項までの精度がある。3次以上のモーメントの推定値については誤差が加わるため、κは、その誤差の影響を調整するためのパラメータである。κは0以上となるように選択すると半正定値性が保証される。なお、通常、κは0に設定されることが多い。
【0080】
[予測ステップ(S13)]
次に、時系列のトルク推定部22は、以下の式(18)に従って、非線形関数fによりシグマポイントσを更新する。
【0081】
【数14】
【0082】
次に、時系列のトルク推定部22は、シグマポイントσ -(k)と重みwとにより、以下の式(19)に従って、事前状態推定値x^-(k)を計算する。
【0083】
【数15】
【0084】
次に、時系列のトルク推定部22は、シグマポイントσ -(k)と事前状態推定値x^-(k)とから、以下の式(20)に従って、事前誤差共分散行列P-(k)を計算する。なお、以下の式(20)のbはシステムノイズの係数行列である。
【0085】
【数16】
【0086】
次に、時系列のトルク推定部22は、事前状態推定値x^-(k)と事前誤差共分散行列P-(k)とから、以下の式(21)、(22)、及び(23)に従って、2n+1個のシグマポイントを再計算する。
【0087】
【数17】
【0088】
次に、時系列のトルク推定部22は、シグマポイントσ -(k)と非線形関数fとから、以下の式(24)に従って、出力のシグマポイントΨ -(k)を計算する。
【0089】
【数18】
【0090】
次に、時系列のトルク推定部22は、出力のシグマポイントΨ -(k)から、以下の式(25)に従って、事前出力推定値y^-(k)を計算する。
【0091】
【数19】
【0092】
次に、時系列のトルク推定部22は、出力のシグマポイントΨ -(k)と事前出力推定値y^-(k)とから、以下の式(26)に従って、事前出力誤差共分散行列Pyy -(k)を計算する。
【0093】
【数20】
【0094】
次に、時系列のトルク推定部22は、事前状態推定値x^-(k)、事前誤差共分散行列P-(k)、出力のシグマポイントΨ -(k)、及び事前出力推定値y^-(k)から、以下の式(27)に従って、事前状態・出力誤差共分散行列Pxy -(k)を計算する。
【0095】
【数21】
【0096】
次に、時系列のトルク推定部22は、事前状態・出力誤差共分散行列Pxy -(k)、事前出力誤差共分散行列Pyy -(k)、及び観測雑音の分散Rから、以下の式(28)に従って、カルマンゲインg(k)を計算する。
【0097】
【数22】
【0098】
[フィルタリングステップ(S14)]
次に、時系列のトルク推定部22は、カルマンゲインg(k)と、クランク角度に関する誤差Δθ(k)と、クランク角速度に関する誤差Δθ(k)とを用いて、以下の式(29)に従って、事前状態推定値x^-(k)から状態推定値x^(k)を推定する。
【0099】
【数23】
【0100】
次に、時系列のトルク推定部22は、事前誤差共分散行列P-(k)、事前状態・出力誤差共分散行列Pxy -(k)、及びカルマンゲインg(k)を用いて、以下の式(30)に従って、次回の更新時に利用する事後誤差共分散行列P(k)を計算する。
【0101】
【数24】
【0102】
そして、時系列のトルク推定部22は、状態推定値x^(k)のうちの図示トルクτ(k)の時系列データに基づいて、各気筒で発生するトルクを推定する。各気筒で発生する推定図示トルクの時系列データについては、図4の破線で示した推定値に示すとおりである。前述したとおり、時系列のトルク推定部22は、式(12)乃至式(30)の計算を、所定の周期k=1,2,3,...,Nまで繰り返す。以上、非線形カルマンフィルタを用いた図示トルクの推定値の算出処理の説明である。
【0103】
以上のとおり、本実施の形態によれば、エンジントルク推定装置が、クランク角度センサにより検出されるクランク角度に基づいて、推定図示トルクの時系列データを算出し、気筒別の推定図示トルクの時系列データから気筒別の推定図示トルクの関連値をそれぞれ抽出し、推定図示トルクの関連値を、変換マップまたは変換式に基づいて、推定図示トルクの関連値に対応してエンジンの気筒内状態から算出した平均図示トルクの正解値に、気筒別に変換する。したがって、クランク角度センサにより検出されるクランク角度にノイズが含まれていても、平均図示トルクの正解値を高精度に算出することができる。
【符号の説明】
【0104】
CA:クランク角度センサ
ENG:エンジン
10:エンジントルク推定装置及びエンジン制御装置
20:エンジントルク推定装置
22:時系列のトルク推定部
23:気筒別トルク関連値(振幅)の抽出部
24:気筒別トルク関連値(振幅)に基づく気筒別平均図示トルクの取得部
30:エンジン制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10