(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】湧水地の油圧推進工法及び油圧推進機
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
E21D9/06 311C
(21)【出願番号】P 2018162590
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】518312622
【氏名又は名称】株式会社ワタナベ
(74)【復代理人】
【識別番号】100194869
【氏名又は名称】榎本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 啓
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3195592(JP,U)
【文献】特開平03-191198(JP,A)
【文献】特開平08-199975(JP,A)
【文献】特開昭63-165699(JP,A)
【文献】特開2009-138483(JP,A)
【文献】登録実用新案第3175512(JP,U)
【文献】特開2002-129878(JP,A)
【文献】特開2012-172417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00- 9/14
E02D 19/00-25/00
F16L 1/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒材推進のスタート地点と、到達地点に縦穴を掘る工程と、
前記縦穴からウェルポイント工法で地下水を汲み上げる揚水工程と、
前記棒材を粗粒土中に推進させる
航空機用途の高圧なシリンダを備える油圧推進機を前記スタート地点の縦穴の底部に設置する工程と、
前記油圧推進機に油圧ポンプから油圧を与え駆動させて前記棒材を繋ぎながら前記到達地点の縦穴まで
土中を推進させる工程と、
前記油圧推進機の反推進側に、H鋼を打ち込み前記油圧推進機の駆動時の後退を防ぐ工程と、
からなることを特徴とする湧水地の油圧推進工法。
【請求項2】
油圧で前後するピストンを内包した
航空機用途の高圧なシリンダと、
前記ピストンに連設するロッドと、
前記ロッドの先端に取り付けられ前記
油圧で土中を推進させられる棒材の末端に当接する押部と、
前記シリンダを載置する底面、前記底面より起立した左右側壁を備えるフレームと、
前記左右側壁に渡され前記シリンダを締結するバンドと、
前記フレームの末端部に直交して固定されたH鋼と、
前記左右側壁と前記H鋼とに固定した火打ちと、
からなることを特徴とする油圧推進機。
【請求項3】
底面及び前記底面より起立した左右側壁を有し前記フレームの先端に連設されるガイドと、前記ガイドの底面上に設置され前記棒材を載置するローラを備えることを特徴とする請求項
2に記載の油圧推進機。
【請求項4】
前記油圧推進機が、請求項
2又は請求項
3に記載の油圧推進機であることを特徴とする請求項
1に記載湧水地の油圧推進工法。
【請求項5】
前記棒材が、鋼管であることを特徴とする請求項
4に記載の湧水地の油圧推進工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湧水地においても管或いは金属棒(これらをまとめて以下「棒材」ともいう)を油圧推進させる方法、油圧推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
棒材の油圧推進工法では、手動油圧推進機、特許文献1などの油圧推進機を用いて行っていた。
【0003】
特許文献1の考案は、既設本管から目的地内の管路の間を推進工事によって引き込み配管する際に、作業用立坑の開削範囲を狭くし、施工期間の短縮や施工費用を抑えると共に、装置を軽量かつ小型化した油圧推進機であって、推進体受け部50を持つ可動部5を油圧シリンダ4上方の案内部32に前後進運動可能に装着し、かつ推進棒を有する推進体6の推し進め方向側の可動部前部に油圧シリンダのピストンロッド41を連係させると共に、ピストンロッドのストローク毎に1個の推進ブロックを推進体の後端部にセットし、複数個の推進ブロックを介して推進体を推し進めた後、推進ブロックを外して次の推進棒を油圧シリンダ上方で連結可能するものである。
【0004】
従来の油圧推進機は、鉄管(先端が尖っている)もしくは、鋼管(管内部は空洞)などの棒材を油圧で推し進め、棒材どうしを繋ぎ合わせていくものである。関東ロームなどの火山灰質粘性土、有機質土、粘性土などの細粒土において鉄管はスムーズに進み、鋼管では空洞内に土が圧入される。
【0005】
他方、湧水地では、砂質土、礫質土の粗粒土で、湧水が発生し、特許文献1などの従来の油圧推進機では、鋼管の油圧推進は設置できず、採用していなかった。また、無理に、手動油圧推進機で推し進めても、砂は管内に入らずに逃げてしまい、結果、油圧推進機が逆に押し戻されたり、油圧推進機本体が浮いてしまったりした。
【0006】
したがって、湧水地における鋼管の敷設は、敷設部分の全面掘削工法を採用していた。しかしながら、全面掘削工法では、工期が長く、施工、交通整理などに多くの作業者が必要で、工費も高かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、湧水地においても管或いは金属棒を油圧推進させる方法、油圧推進機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明は、上記の課題を解決するために、
(1)
棒材推進のスタート地点と、到達地点に縦穴を掘る工程と、
前記縦穴からウェルポイント工法で地下水を汲み上げる揚水工程と、
前記棒材を粗粒土中に推進させる油圧推進機を前記スタート地点の縦穴の底部に設置する工程と、
前記油圧推進機に油圧ポンプから油圧を与え駆動させて前記棒材を繋ぎながら前記到達地点の縦穴まで土中を推進させる工程と、
前記油圧推進機の反推進側に、H鋼を打ち込み前記油圧推進機の駆動時の後退を防ぐ工程と、
からなることを特徴とする湧水地の油圧推進工法。
(2)
油圧で前後するピストンを内包した航空機用途の高圧なシリンダと、
前記ピストンに連設するロッドと、
前記ロッドの先端に取り付けられ前記油圧で土中を推進させられる棒材の末端に当接する押部と、
前記シリンダを載置する底面、前記底面より起立した左右側壁を備えるフレームと、
前記左右側壁に渡され前記シリンダを締結するバンドと、
前記フレームの末端部に直交して固定されたH鋼と、
前記左右側壁と前記H鋼とに固定した火打ちと、
からなることを特徴とする油圧推進機。
(3)
底面及び前記底面より起立した左右側壁を有し前記フレームの先端に連設されるガイドと、前記ガイドの底面上に設置され前記棒材を載置するローラを備えることを特徴とする(2)に記載の油圧推進機。
(4)
前記油圧推進機が、(2)又は(3)に記載の油圧推進機であることを特徴とする(1)に記載湧水地の油圧推進工法。
(5)
前記棒材が、鋼管であることを特徴とする(4)に記載の湧水地の油圧推進工法。
構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以上の構成であるので、以下の効果を奏する。すなわち、粗粒土の湧水地においても、油圧推進工法が採用できる。その結果、従来の全面掘削工法にくらべ、格段に工期が短く、施工費用を安く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明である油圧推進機を用いた、湧水地での鋼管の推進工法の概念図である。
【
図3】本発明である油圧推進機を用いた、湧水地での鋼管の推進工法の実証実験の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づき本発明について詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
図1に示すように、砂質土2では、地下水を多量に含み、地下水位2bより深く穴を掘ると湧水がでてくる。本発明の棒材の敷設方法であれば、地上2aが道路でも道幅20m程度であれば、全面掘削する必要がなく効率的な工法である。また広範囲の湧水の汲み上げの必要もない。
【0014】
本発明の湧水地の油圧推進工法1は、先ず、推進させる鋼管8のスタート地点の縦穴3と到達地点に縦穴4を掘る工程と、縦穴3、4からウェルポイント工法で地下水5を汲み上げる揚水工程と、鋼管8を砂質土2中に推進させる油圧推進機6をスタート地点の縦穴3の底部に設置する工程と、油圧推進機6に油圧ポンプ9から油圧9aを与え駆動して鋼管8を繋ぎながら到達地点の縦穴4まで推進させる工程とからなる。
【0015】
必要に応じて、油圧推進機6の反推進側に、縦穴4の壁面に接触する位置で、H鋼7を打ち込み、油圧推進機6の端部を当接させ、油圧推進機6の後退を防ぐ。
【0016】
油圧推進機6は、
図2に示すように、油液が出し入れされる口から与えられる油圧9aで前後するピストン(図視省略)を内包したシリンダ6a(ここでは複動型を使用)と、ピストンに連設するロッド6bと、ロッド6bの先端に取り付けられ、鋼管8の末端に当接する押部6cと、シリンダ6aを載置する底面、底面より起立した左右側壁を備えるフレーム6dと、左右側壁に渡されシリンダ6aを締結するバンド6eと、フレーム6dの末端部に直交して固定されたH鋼6gと、左右側壁とH鋼6gとに固定した火打ち6hとからなる。
【0017】
ここで使用したシリンダ6aの性能は次の通りである。
ボア径5インチ(Φ127mm)、
ロッド6b径2.5インチ(Φ63.5mm)、
定格圧力3000psi(約21Mpa)、
縮長32.25インチ(ピン中心間819.15mm)、
伸長52.25インチ(ピン中心間1327.15mm)、
重量50kg(シリンダ6aのみの重さ)、全体で70kg
【0018】
16GPMポンプと組み合わせた時の理論ストローク時間は、伸び6.4秒、縮5.4秒となる。ロッド6bが太いので戻りは伸びよりも1秒程度早くなる。28GPMポンプを使うと約6.7秒で往復する計算になる。
【0019】
シリンダ6aとフレーム6dとの間に、隙間がある場合には、スペーサ6fでシリンダ6aがブレないように位置決めするとよい。スペーサ6fの形状、数は、シリンダ6aとフレーム6dの形状、隙間幅に合わせて適宜最適化する。シリンダ6aがブレると鋼管8の直進性が低下する。
【0020】
H鋼6gは、縦穴3の側壁に押し当て、或いは打ち込んだH鋼7に当接して、シリンダ6aの左右へのブレを防ぐ。火打ち6hは、歪み補強、シリンダ6aの左右のブレ防止である。ここでは、一般に流通するH鋼を二段重ねて、溶接し連結して用い、重量、強度を高め、油圧推進機6の稼働時の安定性を高め、鋼管8の直進性を高めている。
【0021】
図3に示すように、油圧推進機6は、必要に応じて、底面及び底面より起立した左右壁を有するフレーム6dの先端に連設されるガイド6iと、ガイド6iの底面上に設置され鋼管8を載置し、推進をアシストするローラ6kを備える。
【0022】
また、
図3に示すように、ウェルポイント工法のライザーパイプ5aが打ち込まれ、縦穴3の地下水5を簡易ウェルポンプ(図視省略)二台で汲み上げ、地下水位2bを下げているため、縦穴3に湧水は発生していない。なお、地下水5の揚水前は、底部に湧水が確認されていた。
【0023】
油圧推進機6に負荷する油圧9aは、ここでは、油圧推進機6とバックホー9bを油圧チューブ9cで連絡して、バックホー9bの油圧を利用した。バックホー9bで縦穴3を掘削した後、バックホー9bから油圧推進機6に油圧9aを与えることで、別途、油圧ポンプを携帯しなくてよいので、効率的である。
【0024】
このような油圧推進機6であれば、第一に、3000psi(20.7Mpa)の高圧なシリンダ6a(現在ほとんどの航空機用途で使われている圧力)であり、砂質土2でもスムーズに鋼管8を推進することができる。押し出す力も強力なので、従来のように油圧推進機6が浮くこともない。反推進側にも同じく高い力が加わるが、十分な補強がされ、掘削面に土留工(鋼矢板等)を設置すれば、ずれることなく施工が可能である。
【0025】
油圧ユニットとして(バックホー9b、油圧配管仕様、バケット容量0.1m3クラス。最大流量50L/min,バルブ設定圧20.5Mpa)を使用することで、約82800Nの力で推進が可能となる。鋼管8を高圧力で推進すると、スムーズに直線状の配管が可能になる。なお、鋼管8内に押し入る砂は、13.5mで鋼管8の一本半程度(1.5m)、20mで二本程度(2m)である。到達地点の縦穴4に到達してから、さらに鋼管8を二本、推進することで、鋼管8内は空洞となり、給水管等を挿入することが可能となる。
【0026】
第二に、湧水地における給水配管工事は、開削工法が基本であった。しかし、高圧推進機を使用すると、出発地点と到達地点のみ、地下水を汲み上げれば(ウェルポイント工法)、推進(20m)が可能となる。
【0027】
以上の結果から、道路内の地下埋設物を慎重に調査さえすれば、土質、地下水の有無、関係なしに、20m以上の推進が可能であることがわかった。なお、給水管20mmの場合には鋼管Φ40mmを使用し、給水管25mmの場合には鋼管Φ50mm使用すればよい。なお、今回の実証実験ではすべて鋼管Φ40mmを使用した。
【0028】
湧水地にて、縦穴3を掘削し、地下水5を汲み上げたうえで設置すると、本発明の油圧推進機6は大重量(70kg)、シリンダ6aも固定されていることから、水平安定性がよい。また、後ろ側にかかる荷重を、補強されたH鋼6gにより受けとめ、推進方向の中心線もずれることなく、鋼管8が直線的に推進していく。
【0029】
鋼管8は、地下水を含む砂質土2の中を推進していくが、油圧推進機6のストロークのスピードが速いため、鋼管8の自重で沈むことなく、到達地点の縦穴4に到達することが可能である。
【0030】
上記性能、設定の油圧推進機6の推進で、鋼管8は、60cm進むのに1分30秒、20m推進するのに50分ほどであった。他の金属製の棒材であっても同様である。
【符号の説明】
【0031】
1 湧水地の油圧推進工法
2 砂質土
2a 地上
2b 地下水位
3 縦穴
4 縦穴
5 地下水
5a ライザーパイプ
6 油圧推進機
6a シリンダ
6b ロッド
6c 押部
6d フレーム
6e バンド
6f スペーサ
6g H鋼
6h 火打ち
6i ガイド
6k ローラ
7 H鋼
8 鋼管
9 油圧ポンプ
9a 油圧
9b バックホー
9c 油圧チューブ