(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】建築部材の接合構造及び接合金具
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20221213BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
E04B1/58 600E
E04B1/26 E
(21)【出願番号】P 2018218102
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】507397766
【氏名又は名称】株式会社スクリムテックジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】河野 泰之
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-070437(JP,A)
【文献】特開2017-020211(JP,A)
【文献】特開2014-227800(JP,A)
【文献】特開2007-077611(JP,A)
【文献】特開2017-089160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04B 1/00-1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料からなる第1建築部材の接合面側に定着され、突出端側に
オスネジで構成された第1固定ネジ部が形成された第1定着部材と、
第2建築部材の接合面側に定着され、突出端側に第2固定ネジ部が形成された第2定着部材と、
前記第1建築部材の接合面と前記第2建築部材の接合面を接合するための接合金具と、
を備え、
前記接合金具は、
メスネジが形成されており、前記第1定着部材の前記第1固定ネジ部
のオスネジが前記メスネジに螺合することによって前記第1建築部材の接合面側に接合された矩形の第1金具接合部と、
前記第1金具接合部に対向し、前記第2定着部材を挿通させるための挿通穴が形成され、前記第2定着部材の前記第2固定ネジ部に螺合した固定ナットの締め付けによって前記第2建築部材の接合面側に接合された矩形の第2金具接合部と、
前記第1金具接合部の対向面と前記第2金具接合部の対向面と間に連結するように形成され、前記第1金具接合部の周方向に沿って間隔を置いて配置された複数の金具連結部とを有し、
前記周方向に隣接する少なくとも2対の前記金具連結部の間に、前記固定ナットを締め付ける工具を挿入するための挿入口がそれぞれ形成されていることを特徴とする建築部材の接合構造。
【請求項2】
前記第1定着部材は、その基端側に接着剤の接着作用によって前記第1建築部材の接合面側に形成された接合穴に定着された定着部を有し、かつ前記定着部よりも突出端側に長手方向の靱性を確保した靱性部を有していることを特徴とする請求項1に記載の建築部材の接合構造。
【請求項3】
前記第1定着部材は、
螺合作用によって前記第1建築部材の接合面側に形成された接合穴に定着された定着部としての中空のラグスクリューと、
前記ラグスクリューの内側に挿通して配置されたインナーボルトを有し、
前記インナーボルトの突出端側に前記第1固定ネジ部が形成され、前記インナーボルトは、その中間側に長手方向の靱性を確保した靱性部を有していることを特徴とする請求項1に記載の建築部材の接合構造。
【請求項4】
前記第1定着部材は、前記第1建築部材の接合面側に形成された段部の段差面側に定着され、
前記接合構造の前記第1金具接合部は、前記第1建築部材の前記段部の段差面側に接合されていることを特徴とする請求項1から請求項3のちのいずれか1項に記載の建築部材の接合構造。
【請求項5】
前記第1金具接合部は、長方形な平板状に形成されており、前記第1固定ネジ部の中心軸は、前記第1金具接合部の厚さ方向に延びており、
前記第2金具接合部は、長方形な平板状に形成されており、前記第1金具接合部の厚さ方向と前記第2金具接合部の
厚さ方向とは互いが一致しており、
前記第2金具接合部は、前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の厚さ方向で、前記
第1金具接合部から離れており、
前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の厚さ方向で前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部を見ると、前記
第1金具接合部の全体と前記第2金具接合部の全体とが互いに重なっており、前記金具連結部は、前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の4つの角部のところに設けられており、
前記金具連結部を、前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の厚さ方向で見ると、1つの角部が直角になっている四角形に形成されており、前記直角な1つの角部の隣の2つの角部のそれぞれの角度が鈍角になっており、
前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の厚さ方向で見ると、4つの前記金具連結部の直角になっている1つの角部のそれぞれが、前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の4つの角部のそれぞれに重なっており、
前記金具連結部の、前記接合金具の中心側に向かう2つの平面が鋭角をなしていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の建築部材の接合構造。
【請求項6】
木質材料からなる第1建築部材の接合面と、第2建築部材の接合面を接合するために用いられ、
前記第1建築部材の接合面側に定着された第1定着部材の
、オスネジで構成された第1固定ネジ部の螺合作用によって、前記第1建築部材の接合面側に接合される矩形の第1金具接合部と、
前記第1金具接合部に対向し、前記第2建築部材の接合面側に定着された第2定着部材を挿通させるための挿通穴が形成され、前記第2定着部材の第2固定ネジ部に螺合した固定ナットの締め付けによって前記第2建築部材の接合面側に接合される矩形の第2金具接合部と、
前記第1金具接合部の対向面と前記第2金具接合部の対向面と間に連結するように形成され、前記第1金具接合部の周方向に沿って間隔を置いて配置された複数の金具連結部と、を備え、
前記周方向に隣接する各対の金具連結部の間に、固定ナットを締め付ける工具を挿入するための挿入口が形成されて
おり、
前記第1金具接合部にはメスネジが形成されており、
前記第1金具接合部は、前記第1定着部材の前記第1固定ネジ部のオスネジが前記メスネジに螺合することによって前記第1建築部材の接合面側に接合されることを特徴とする接合金具。
【請求項7】
前記第1金具接合部は、長方形な平板状に形成されており、前記第1固定ネジ部の中心軸は、前記第1金具接合部の厚さ方向に延びており、
前記第2金具接合部は、長方形な平板状に形成されており、前記第1金具接合部の厚さ方向と前記第2金具接合部の
厚さ方向とは互いが一致しており、
前記第2金具接合部は、前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の厚さ方向で、前記
第1金具接合部から離れており、
前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の厚さ方向で前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部を見ると、前記
第1金具接合部の全体と前記第2金具接合部の全体とが互いに重なっており、前記金具連結部は、前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の4つの角部のところに設けられており、
前記金具連結部を、前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の厚さ方向で見ると、1つの角部が直角になっている四角形に形成されており、前記直角な1つの角部の隣の2つの角部のそれぞれの角度が鈍角になっており、
前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の厚さ方向で見ると、4つの前記金具連結部の直角になっている1つの角部のそれぞれが、前記
第1金具接合部および前記第2金具接合部の4つの角部のそれぞれに重なっており、
前記金具連結部の、前記接合金具の中心側に向かう2つの平面が鋭角をなしていることを特徴とする請求項6に記載の接合金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料からなる第1建築部材の接合面と、木質材料,コンクリート,石材,又は鋼材等からなる第2建築部材の接合面とを接合するための建築部材の接合構造及び接合金具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木造建築の分野においては、中大規模の木造建築物が建設されるようになり、中大規模の木造建築物に用いられる建築部材の接合構造には、高い初期剛性、十分な靱性(伸び)性能、及び安定した破壊強度が求められるようになった。そして、その要求に応えるために、グルードインロッド(GIR)構法やラグスクリューボルト(LSB)構法によって靱性性能を持った建築部材の接合構造が開発されてきた。また、靱性性能を持った建築部材の接合構造では、通常、柱脚金物等の接合金物を介して、第1建築部材としての例えば柱部材の接合面と第2建築部材としての例えば床部材の接合面を接合している。
【0003】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、木造建築物の柱部材の断面サイズは設計によって決定され、中大規模の木造建築物には、例えば120mm×450mmや240mm×900mm等の様々な断面サイズの柱部材が用いられる。そのため、中大規模の木造建築物における柱部材の断面サイズが変わる毎に、建築部材の接合構造の一部である柱脚金物を柱部材の断面サイズに合わせて設計し直す必要がある。その結果、建築部材の接合構造の設計及び施工に多くの時間を要すると共に、建築部材の接合構造の施工コストが増大するという問題がある。
【0006】
なお、前述の問題は、第1建築部材としての第1梁部材の接合面と第2建築部材としての第2梁部材の接合面する場合、及び第1建築部材としての第1桁部材の接合面と第2建築部材としての第2桁部材の接合面する場合等においても、同様に生じる。
【0007】
そこで、本発明は、前述の問題を解決するために、第1建築部材の断面サイズが変わる毎に、接合金具を設計し直す必要がない建築部材の接合構造等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1実施態様に係る建築部材の接合構造は、木質材料からなる第1建築部材の接合面側に定着(固着)され、突出端側に第1固定ネジ部が形成された第1定着部材(第1固着部材)と、第2建築部材の接合面側に定着(固着)され、突出端側に第2固定ネジ部が形成された第2定着部材(第2固着部材)と、前記第1建築部材の接合面と前記第2建築部材の接合面を接合するための接合金具と、を備えている。前記接合金具は、前記第1定着部材の前記第1固定ネジ部の螺合作用によって前記第1建築部材の接合面側に接合された矩形の第1金具接合部と、前記第1金具接合部に対向し、前記第2定着部材を挿通させるための挿通穴が形成され、前記第2定着部材の前記第2固定ネジ部に螺合した固定ナットの締め付けによって前記第2建築部材の接合面側に接合された矩形の第2金具接合部と、前記第1金具接合部の対向面と前記第2金具接合部の対向面と間に連結するように形成され、前記第1金具接合部の周方向に沿って間隔を置いて配置された複数の金具連結部とを有している。前記周方向に隣接する少なくとも2対の前記金具連結部の間に、前記固定ナットを締め付ける工具を挿入するための挿入口がそれぞれ形成されている。
【0009】
本発明の第1実施態様では、前記第1定着部材は、その基端側に接着剤の接着作用によって前記第1建築部材の接合面側に形成された接合穴に定着された定着部を有し、かつ前記定着部よりも突出端側に長手方向(前記第1定着部材の長手方向)の靱性を確保した靱性部を有してもよい。また、前記第1定着部材は、螺合作用によって前記第1建築部材の接合面側に形成された接合穴に定着された定着部としての中空のラグスクリューと、前記ラグスクリューの内側に挿通して配置されたインナーボルトを有してもよい。この場合に、前記インナーボルトの突出端側に前記第1固定ネジ部が形成され、前記インナーボルトは、その中間側に長手方向(前記インナーボルトの長手方向)の靱性を確保した靱性部を有している。
【0010】
本発明の第1実施態様では、前記第1定着部材は、前記第1建築部材の接合面側に形成された段部の段差面側に定着され、前記接合構造の前記第1金具接合部は、前記第1建築部材の前記段部の段差面側に接合されてもよい。また、各金具連結部は、前記接合金具の中心側に向かう2つの平面を有し、各金具連結部の2つの平面が鋭角をなしてもよい。
【0011】
本発明の第1実施態様によると、前述のように、複数の前記金具連結部が前記第1金具接合部の周方向に沿って間隔を置いて配置されている。前記周方向に隣接する少なくとも2対の前記金具連結部の間には、前記固定ナットを締め付ける工具を挿入するための前記挿入口がそれぞれ形成されている。換言すれば、前記接合金具を前記第1建築部材の接合面側と前記第2建築部材の接合面側との間に配設する前の状態において、前記周方向に隣接する各対の前記金具連結部の間には前記挿入口が形成されている。そのため、複数の前記接合金具を組み合わせたり、前記接合金具の向きを変えたりした場合でも、前記第2定着部材の固定ネジ部に螺合した前記固定ナットを工具によって容易かつ確実に締め付けることができる。
【0012】
つまり、前記第1建築部材の断面サイズに応じて、複数の前記接合金具を組み合わせたり、前記接合金具の向きを変えたりすることにより、前記建築部材の接合構造を施工することができる。換言すれば、前記第1建築部材の断面サイズが変わる毎に、前記接合金具を設計し直す必要がなくなる。
【0013】
本発明の第2実施態様に係る接合金具は、木質材料からなる第1建築部材の接合面と、第2建築部材の接合面を接合するために用いられ、前記第1建築部材の接合面側に定着された第1定着部材の固定ネジ部の螺合作用によって、前記第1建築部材の接合面側に接合される矩形の第1金具接合部と、前記第1金具接合部に対向し、前記第2建築部材の接合面側に定着された第2定着部材を挿通させるための挿通穴が形成され、前記第2定着部材の固定ネジ部に螺合した固定ナットの締め付けによって前記第2建築部材の接合面側に接合される矩形の第2金具接合部と、前記第1金具接合部の対向面と前記第2金具接合部の対向面と間に連結するように形成され、前記第1金具接合部(前記第2金具接合部)の周方向に沿って間隔を置いて配置された複数の金具連結部と、を備えている。前記周方向に隣接する各対の金具連結部の間に、前記固定ナットを締め付ける工具を挿入するための挿入口が形成されている。
【0014】
本発明の第2実施態様では、各金具連結部は、前記接合金具の中心側に向かう2つの平面を有し、各金具連結部の2つの平面が鋭角をなしてもよい。
【0015】
本発明の第2実施態様によると、前記周方向に隣接する各対の金具連結部の間に、前記固定ナットを締め付ける工具を挿入するための前記挿入口が形成されている。そのため、複数の前記接合金具を組み合わせたり、前記接合金具の向きを変えたりした場合でも、前記第2定着部材の固定ネジ部に螺合した前記固定ナットを工具によって容易かつ確実に締め付けることができる。
【0016】
つまり、前記第1建築部材の断面サイズに応じて、複数の前記接合金具を組み合わせたり、前記接合金具の向きを変えたりすることにより、前記建築部材の接合構造を施工することができる。換言すれば、前記第1建築部材の断面サイズが変わる毎に、前記接合金具を設計し直す必要がなくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、建築部材の接合構造の設計及び施工に要する時間を短縮すると共に、建築部材の接合構造の施工コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る建築部材の接合構造を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の実施形態に係る接合金具を示す正面図(長辺部側の図)である。
図3(b)は、本発明の実施形態に係る接合金具を示す側面図(短辺部側の図)である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の実施形態に係る接合金具を示す平面図である。
図4(b)は、
図3におけるIV-IV線に沿った断面図である。
【
図5】
図5(a)(b)は、接合金具の挿入口に挿入した工具を回転操作する様子を示す図であり、
図4(b)に対応する図である。
【
図6】
図6(a)(b)は、本発明の実施形態に係る接合金具の変形例を示す断面図であり、
図4(b)に対応する図である。
【
図7】
図7(a)は、各段部内に1つの接合金具を配設した断面サイズ120mm×450mmの柱部材を示す正面図であり、一部を断面図で示している。
図7(b)は、その柱部材を示す側面図であり、一部を断面図で示している。
【
図8】
図8(a)は、各段部内に1つの接合金具を配設した断面サイズ150mm×450mmの柱部材を示す正面図であり、一部を断面図で示している。
図8(b)は、その柱部材を示す側面図であり、一部を断面図で示している。
【
図9】
図9(a)は、各段部内に2つの接合金具を配設した断面サイズ240mm×450mmの柱部材を示す正面図であり、一部を断面図で示している。
図9(b)は、その柱部材を示す側面図であり、一部を断面図で示している。
【
図10】
図10(a)は、各段部内に2つの接合金具を配設した断面サイズ300mm×450mmの柱部材を示す正面図であり、一部を断面図で示している。
図10(b)は、その柱部材を示す側面図であり、一部を断面図で示している。
【
図11】
図11(a)は、各段部内に2つの接合金具を配設した断面サイズ120mm×900mmの柱部材を示す正面図であり、一部を断面図で示している。
図11(b)はその柱部材を示す側面図であり、一部を断面図で示している。
【
図12】
図12(a)は、各段部内に4つの接合金具を配設した断面サイズ300mm×900mmの柱部材を示す正面図であり、一部を断面図で示している。
図12(b)は、その柱部材を示す側面図であり、一部を断面図で示している。
【
図13】
図13(a)(b)は、アンカーボルトの中心が接合金具の中心に対してずれている場合において、接合金具の挿入口に挿入した工具を回転操作する様子を示す図であり、
図4(b)に対応する図である。
【
図14】
図14(a)(b)は、アンカーボルトの中心が接合金具の中心に対してずれている場合において、接合金具の挿入口に挿入した工具を回転操作する様子を示す図であり、
図4(b)に対応する図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態の変形例に係る建築部材の接合構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態(変形例を含む)について図面を参照して説明する。なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「第1建築部材」とは、柱部材、第1梁部材、及び第1桁部材を含む意である。「第2建築部材」とは、床部材、第2梁部材、及び第2桁部材を含む意である。「長辺部」とは、隣り合った2辺部のうち長い方の辺部のことをいい、隣り合った2辺部の長さが同じ場合には、いずれか一方の辺部のことをいう。「短辺部」とは、隣り合った2辺部のうち短い方の辺部のことをいい、隣り合った2辺部の長さが同じ場合には、いずれか他方の辺部のことをいう。
【0020】
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係る建築部材の接合構造10は、中大規模の木造建築物に用いられ、第1建築部材としての柱部材12の接合面12fと第2建築部材としての床部材14の接合面14fとを接合するための構造である。柱部材12は、木質材料からなり、床部材14は、木質材料,コンクリート,石材,又は鋼材等からなる。また、建築部材の接合構造10は、グルードインロッド構法によって靱性性能を持っている。そして、本発明の実施形態に係る建築部材の接合構造10の具体的な内容は、以下の通りである。
【0021】
柱部材12における接合面12f側の2つの角部には、段部16がそれぞれ形成されている。柱部材12の各段部16の段差面(段面)16f側には、1対(2つ)又は2対(4つ)の接合穴18が形成されている。なお、柱部材12の段部16の段差面16f側は、柱部材12の接合面12f側の一部である。柱部材12の各段部16の段差面16f側に形成する接合穴18の数は、1対又は2対に限るものでなく、少なくとも1つ以上あればよい。
【0022】
建築部材の接合構造10は、柱部材12の各段部16の各接合穴18側に定着(固着)されたネジタイプの棒状の第1定着部材(第1固着部材)20を備えており、各第1定着部材20は、鋼材からなる。各第1定着部材20の基端側から中間側にかけて、定着ネジ部22が形成されており、各定着ネジ部22は、エポキシ樹脂を主成分とした硬化接着剤Bの接着作用によって柱部材12の各段部16の各接合穴18に定着されている。換言すれば、各第1定着部材20は、その基端側から中間側にかけて、柱部材12の各段部16の各接合穴18に定着された定着部としての定着ネジ部22を有している。また、各第1定着部材20の突出端側(先端側)には、第1固定ネジ部24が形成されている。
【0023】
各第1定着部材20は、定着ネジ部22よりも突出端側に、第1定着部材20の長手方向の靱性(伸び)を確保した靱性部26を有しており、各靱性部26の外径は、定着ネジ部22の外径よりも小径又は同径である。各靱性部26に対する硬化接着剤Bの付着力は、定着ネジ部22に対する硬化接着剤Bの付着力よりも十分に小さく設定されている。そして、各第1定着部材20は、定着ネジ部22及び第1固定ネジ部24が破断する前に、靱性部26が伸びて破断するように構成されている。
【0024】
なお、建築部材の接合構造10は、ネジタイプの中空棒状の第1定着部材20に代えて、異形鉄筋タイプの棒状の第1定着部材(図示省略)を用いてもよい。
【0025】
建築部材の接合構造10は、床部材14の接合面14f側に定着された複数の棒状の第2定着部材としての複数のアンカーボルト28を備えており、各アンカーボルト28は、鋼材からなる。また、各アンカーボルト28の基端側から突出端側(先端側)にかけて、第2固定ネジ部30が形成されている。
【0026】
建築部材の接合構造10は、柱部材12の各段部16内に配設された1つ又は複数の箱形の接合金具32を備えており、各接合金具32は、柱部材12の接合面12fと床部材14の接合面14fとを接合するための金具である。各接合金具32は、鋼材からなる。そして、各接合金具32の具体的な構成は、次の通りである。
【0027】
図2から
図4(a)(b)に示すように、各接合金具32は、矩形の第1金具接合部34を有している。各第1金具接合部34の長辺寸法は、例えば150mmに設定されており、各第1金具接合部34の短辺寸法は、例えば120mmに設定されている。また、各第1金具接合部34の中央部には、第1定着部材20の第1固定ネジ部24に螺合させるための1対(2つ)のネジ穴36が形成されている。換言すれば、各第1金具接合部34は、第1定着部材20の第1固定ネジ部24とネジ穴36の螺合作用によって柱部材12の段部16の段差面16f側に接合されている。
【0028】
各接合金具32は、第1金具接合部34に第1定着部材20の長手方向に平行な方向に対向した矩形の第2金具接合部40を有している。各第2金具接合部40の長辺寸法は、例えば150mmに設定されており、各第2金具接合部40の短辺寸法は、例えば120mmに設定されている。また、各第2金具接合部40の中央部には、アンカーボルト28を挿通させるための挿通穴42が形成されている。そして、各第2金具接合部40は、アンカーボルト28を挿通穴42に挿通させた状態で、アンカーボルト28の第2固定ネジ部30に螺合した固定ナット44の締め付けによって床部材14の接合面14f側に接合されている。
【0029】
各接合金具32は、第1金具接合部34の対向面34fと第2金具接合部40の対向面40fと間に連結するように形成された4つの金具連結部46を有しており、4つの金具連結部46は、第1金具接合部34(第2金具接合部40)の周方向に間隔を置いて配置されている。 各金具連結部46は、第1定着部材20の長手方向に平行な方向に延びている。各金具連結部46の一端部は、第1金具接合部34の対向面34fの角部(コーナ部)に固定されており、各金具連結部46の他端部は、第2金具接合部40の対向面40fの角部に固定されている。また、各金具連結部46は、接合金具32の中心32c側に向かう2つの平面46f,46sを有しており、各金具連結部46の2つの平面46f,46sは、鋭角をなしている。換言すれば、各金具連結部46は、接合金具32の中心32c側に向かって先細り形状に形成されている。
【0030】
図3(a)(b)から
図5(a)(b)に示すように、第1金具接合部34(第2金具接合部40)の周方向に隣接する少なくとも2対の金具連結部46の間には、固定ナット44を締め付けるメガネレンチ等の工具Tを挿入するための挿入口(挿入空間)48がそれぞれ形成されている。また、各接合金具32を柱部材12の段部16内に配設する前の状態、換言すれば、各接合金具32を柱部材12の接合面12f側と床部材14の接合面14f側の間に配設する前の状態において、第1金具接合部34の周方向に隣接する各対の金具連結部46の間には、挿入口48が形成されている。
【0031】
なお、各金具連結部46の一端部を第1金具接合部34の対向面34fの角部分に固定する代わりに、第1金具接合部34の対向面34fの辺部分の中間に固定してもよい。この場合には、
図6(a)に示すように、各金具連結部46の他端部を第2金具接合部40の対向面40fの角部分の固定する代わりに、第2金具接合部40の対向面40fの辺部分の中間に固定する。また、各金具連結部46の2つの平面46f,46sのなす角を鋭角にする代わりに、
図6(b)に示すように、各金具連結部46の横断面を矩形状にして、各金具連結部46の2つの平面46f,46sのなす角を90度にしてもよい。各金具連結部46の横断面を円形状又は三角形状にしてもよい。各接合金具32における金具連結部46の数を4つから3つに変更してもよい。
【0032】
続いて、柱部材12の断面サイズに対応した接合金具32の配設状態について
図7(a)(b)から
図12(a)(b)を参照して説明する。
【0033】
図7(a)(b)に示すように、柱部材12の断面サイズが120mm×450mmの場合には、接合金具32の長辺部が柱部材12の正面(見付)側を向くように、柱部材12の各段部16内に1つの接合金具32が配設される。
図8(a)(b)に示すように、柱部材12の断面サイズが150mm×450mmの場合には、接合金具32の短辺部が柱部材12の正面側を向くように、柱部材12の各段部16内に1つの接合金具32が配設される。
図9(a)(b)に示すように、柱部材12の断面サイズが240mm×450mmの場合には、接合金具32の長辺部が柱部材12の正面側を向くように、柱部材12の各段部16内に2つの接合金具32が組み合わせた状態で配設される。
【0034】
図10(a)(b)に示すように、柱部材12の断面サイズが300mm×450mmの場合には、接合金具32の短辺部が柱部材12の正面側を向くように、柱部材12の各段部16内に2つの接合金具32が組み合わせた状態で配設される。
図11(a)(b)に示すように、柱部材12の断面サイズが120mm×900mmの場合には、接合金具32の長辺部が柱部材12の正面側を向くように、柱部材12の各段部16内に2つの接合金具32が組み合わせた状態で配設される。
図12(a)(b)に示すように、柱部材12の断面サイズが300mm×900mmの場合には、接合金具32の短辺部が柱部材12の正面側を向くように、柱部材12の各段部16内に4つの接合金具32が組み合わせた状態で配設される。
【0035】
続いて、本発明の実施形態の作用効果について説明する。
【0036】
(第1の作用効果)
前述のように、各第1定着部材の定着ネジ部22は、硬化接着剤Bの接着作用によって柱部材12の各段部16の各接合穴18に定着されている。各接合金具32の第1金具接合部34は、柱部材12の段部16の段差面16f側に接合されている。また、第2定着部材としての各アンカーボルト28は、床部材14の接合面14f側に定着されている。各接合金具32の第2金具接合部40は、床部材14の接合面14f側に接合されている。これにより、建築部材の接合構造10は高い初期剛性を持つことができる。
【0037】
また、前述のように、第1定着部材20は、定着ネジ部22よりも突出端側に、第1定着部材20の長手方向の靱性を確保した靱性部26を有している。そして、各第1定着部材20は、定着ネジ部22及び第1固定ネジ部24が破断する前に、靱性部26が伸びて破断するように構成されている。これにより、建築部材の接合構造10は十分な靱性性能及び安定した破壊強度を持つことができる。
【0038】
(第2の作用効果)
前述のように、複数の金具連結部46が第1金具接合部34(第2金具接合部40)の周方向に沿って間隔を置いて配置されている。第1金具接合部34の周方向に隣接する少なくとも2対の金具連結部46の間には、固定ナット44を締め付ける工具Tを挿入するための挿入口48がそれぞれ形成されている。換言すれば、接合金具32を柱部材12の接合面12f側と床部材14の接合面14f側との間に配設する前の状態において、第1金具接合部34の周方向に隣接する各対の金具連結部46の間には挿入口48が形成されている。そのため、複数の接合金具32を組み合わせたり、接合金具32の向きを変えたりした場合でも、アンカーボルト28の第2固定ネジ部30に螺合した固定ナット44を容易かつ確実に締め付けることができる。
【0039】
特に、各金具連結部46の2つの平面46f,46sが鋭角をなしている。そのため、
図13(a)(b)及び
図14(a)(b)に示すように、アンカーボルト28の中心28cが接合金具32の中心32cに対してずれていても、工具Tの回転操作の範囲を十分に確保して、アンカーボルト28の第2固定ネジ部30に螺合した固定ナット44を確実に締め付けることができる。
【0040】
つまり、柱部材12の断面サイズに応じて、複数の接合金具32を組み合わせたり、接合金具32の向きを変えたりすることにより、建築部材の接合構造10を施工することができる。換言すれば、柱部材12の断面サイズが変わる毎に、接合金具32を設計し直す必要がなくなる。
【0041】
従って、本発明の実施形態によれば、接合金具32の汎用性を高めることにより、建築部材の接合構造10の設計及び施工に要する時間を大幅に短縮すると共に、建築部材の接合構造10の施工コストを大幅に低減することができる。
【0042】
(本発明の実施形態の変形例)
図15及び
図16に示すように、本発明の実施形態の変形例に係る建築部材の接合構造50は、建築部材の接合構造10(
図1参照)と同様に、第1建築部材としての柱部材12の接合面12fと第2建築部材としての床部材14の接合面14fとを接合するための構造である。また、建築部材の接合構造50は、建築部材の接合構造10と異なり、グルードインロッド構法ではなく、ラグスクリューボルト構法によって靱性性能を持っている。それに対応して、建築部材の接合構造50は、中空棒状の第1定着部材20(
図1参照)に代わりに、柱部材12の各段部16の各接合穴18に定着された棒状の第1定着部材52を備えている。そして、建築部材の接合構造50の構成のうち、第1定着部材52の構成等、建築部材の接合構造10と異なる点についてのみ説明する。なお、建築部材の接合構造50における複数の構成要素のうち、建築部材の接合構造10における構成要素と対応するものについては、図面中に同一符号を付してある。
【0043】
各第1定着部材52は、鋼材からなる中空のラグスクリュー54を有しており、各ラグスクリュー54は、その螺合作用によって柱部材12の各段部16の各接合穴18に定着された定着部である。各第1定着部材52は、ラグスクリュー54の内側に挿通して配置されかつ鋼材からなるインナーボルト56を有している。また、各インナーボルト56の基端側には、連結ネジ部58が形成されており、各インナーボルト56の連結ネジ部58は、ラグスクリュー54の基端に固定した連結ナット60に螺合している。換言すれば、各インナーボルト56の連結ネジ部58は、連結ナット60を介してラグスクリュー54の基端側に連結されている。各インナーボルト56の突出端側(先端側)には、第1固定ネジ部62が形成されている。
【0044】
各インナーボルト56は、その中間側(基端側と突出端側の中間側)に、インナーボルト56の長手方向の靱性(伸び)を確保した靱性部64を有している。そして、各第1定着部材52は、定着部であるラグスクリュー54が破断する前に、靱性部64が伸びて破断するように構成されている。
【0045】
各第1金具接合部34の中央部には、1対のネジ穴36(
図1参照)に代わりに、インナーボルト56の第1固定ネジ部62を挿通させるための1つの挿通穴66が形成されている。各1金具接合部40は、インナーボルト56の第1固定ネジ部62を挿通穴66に挿通させた状態で、インナーボルト56の第1固定ネジ部62と固定ナット68の螺合作用によって柱部材12の段部16の段差面16f側に接合されている。
【0046】
続いて、本発明の実施形態の変形例の作用効果について説明する。
【0047】
前述のように、各ラグスクリュー54は、その螺合作用によって柱部材12の各段部16の各接合穴18に定着されている。各接合金具32の第1金具接合部34は、柱部材12の段部16の段差面16f側に接合されている。また、第2定着部材としての各アンカーボルト28は、床部材14の接合面14f側に定着されている。各接合金具32の第2金具接合部40は、床部材14の接合面14f側に接合されている。これにより、建築部材の接合構造50は高い初期剛性を持つことができる。
【0048】
また、前述のように、各インナーボルト56は、その中間側に、インナーボルト56の長手方向の靱性を確保した靱性部64を有している。そして、各第1定着部材52は、定着部であるラグスクリュー54が破断する前に、靱性部64が伸びて破断するように構成されている。これにより、建築部材の接合構造50は十分な靱性性能及び安定した破壊強度を持つことができる。
【0049】
そして、本発明の実施形態の変形例においても、本発明の実施形態の第2の作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0050】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものでなく、次のように、種々の態様で実施可能である。
【0051】
例えば、柱部材12における接合面12f側の2つの角部に段部16を形成しなくてもよい。また、各第1定着部材20がその長手方向の靱性を確保した靱性部26を有しているが、各第1定着部材20が靱性部26(靱性性能)を有しなくてもよい。同様に、各インナーボルト56がその中間側にインナーボルト56の長手方向の靱性を確保した靱性部64を有しているが、各インナーボルト56が靱性部64(靱性性能)を有しなくてもよい。
【0052】
例えば、建築部材の接合構造10(50)に適用した技術的思想を、木質材料からなる第1梁部材の接合面と木質材料からなる第2梁部材の接合面を接合するための建築部材の接合構造に適用してもよい。同様に、建築部材の接合構造10(50)に適用した技術的思想を、木質材料からなる第1桁部材の接合面と木質材料からなる第2桁部材の接合面を接合するための建築部材の接合構造に適用してもよい。また、建築部材の接合構造10(50)に適用した技術的思想を、小規模の木造建築物に用いられる建築部材の接合構造に適用してもよい。
【0053】
そして、本発明に包含される権利範囲は、前述の実施形態に限定されないものである。
【符号の説明】
【0054】
10 建築部材の接合構造
12 柱部材(第1建築部材)
12f 接合面
14 床部材(第2建築部材)
14f 接合面
16 段部
16f 段差面(段面)
18 接合穴
20 第1定着部材
22 定着ネジ部(定着部)
24 第1固定ネジ部
26 靱性部
B 硬化接着剤
28 アンカーボルト(第2定着部材)
30 第2固定ネジ部
32 接合金具
32c 接合金具の中心
34 第1金具接合部
34f 対向面
36 ネジ穴
40 第2金具接合部
40f 対向面
42 挿通穴
44 固定ナット
46 金具連結部
46f 平面
46s 平面
48 挿入口
T メガネレンチ(工具)
50 建築部材の接合構造
52 第1定着部材
54 ラグスクリュー
56 インナーボルト
58 連結ネジ部
60 連結ナット
62 第1固定ネジ部
64 靱性部
66 挿通穴
68 固定ナット