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特許7193145哺乳動物において鉄摂取を増加させるための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】哺乳動物において鉄摂取を増加させるための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/26 20060101AFI20221213BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20221213BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20221213BHJP
   A61K 9/64 20060101ALI20221213BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20221213BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
A61K33/26
A61K47/42
A61K47/22
A61K47/12
A61K47/04
A61K9/16
A61K9/64
A61P7/06
C07K14/47
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019500009
(86)(22)【出願日】2017-03-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2017056134
(87)【国際公開番号】W WO2017158030
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-10
(31)【優先権主張番号】16160539.9
(32)【優先日】2016-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518330073
【氏名又は名称】ソルボトリン セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ギルマー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ガボール,ラディクス
(72)【発明者】
【氏名】ウィラハン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】オフリン,パット
(72)【発明者】
【氏名】レッドウィッジ,マーク
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/044246(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/041988(WO,A1)
【文献】Dairy Science & Technology,2012年,92(2),p.133-149
【文献】Food Hydrocolloids,2010年,24,pp.364-373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 33/00-33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄と、緩衝剤と、変性タンパク質を含む担体と、を含む組成物であって、
前記組成物は、pH1.6の模擬胃液中で1時間に亘って第一鉄としての鉄の総負荷量の少なくとも71%を放出し、
前記組成物は、pH1.6の模擬胃液に入れると30分後にpHを少なくとも2まで緩衝し、
前記組成物は、pH6.6の模擬腸液に入れると30分後に液を最高でpH5.5まで緩衝し、
前記組成物は、ヒトに経口投与すると、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも120%になり、
前記組成物は、2.5重量%~50重量%の総鉄含有量を有し、
前記変性タンパク質は、変性乳清タンパク質、変性乳清タンパク質単離物、変性βラクトグロブリン、又はその組み合わせを含み、前記変性タンパク質は、5重量%~80重量%の量で存在し、
前記緩衝剤は、6重量%~20重量%の量で存在し、酢酸塩と酢酸を含み、
前記組成物は、マイクロビーズの形態であり、
前記組成物の含水量は10重量%未満であり、
前記変性タンパク質は、二価金属イオン除去プロセスが施されたものである、
組成物。
【請求項2】
コアとスキンとを含む組成物であって、
前記スキンは、変性凝集タンパク質を含み、前記コアは、変性凝集タンパク質、鉄塩、および緩衝剤を含み、
前記組成物は、胃の条件下で鉄の総負荷量の少なくとも71%を放出し、緩衝剤の少なくとも50%を放出し、
前記組成物は、ヒトに経口投与すると、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも120%になり、
前記組成物は、2.5重量%~50重量%の総鉄含有量を有し、
前記変性凝集タンパク質は、変性乳清タンパク質、変性乳清タンパク質単離物、変性βラクトグロブリン、又はその組み合わせを含み、前記変性凝集タンパク質は、5重量%~80重量%の量で存在し、
前記緩衝剤は、6重量%~20重量%の量で存在し、酢酸塩と酢酸を含み、
前記組成物は、マイクロビーズの形態であり、
前記組成物の含水量は10重量%未満であり、
前記変性凝集タンパク質は、二価金属イオン除去プロセスが施されたものである、
組成物。
【請求項3】
緩衝剤の少なくとも50%をpH1.6の模擬胃液中で30分に亘って放出する、請求項1または2に記載の本発明の組成物。
【請求項4】
鉄:タンパク質の重量比は1:50~5:1である;および/または
緩衝剤:タンパク質の重量比は1:50~5:1である;および/または
緩衝剤:鉄の重量比は1:10~10:1である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
実質的に非晶質である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
変性タンパク質は少なくとも50%、80%又は90%変性である;および/または
変性タンパク質は少なくとも50%、80%又は90%変性のβラクトグロブリンを含むことができる、
請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
変性タンパク質は、鉄を除いてタンパク質100g当たり500mg未満の二価金属イオンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ヒトに経口投与すると、血清鉄のトラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも130%、140%、150%、160%又は175%になる;および/または
ヒトに経口投与すると、血清鉄のトラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも130%、140%又は150%になり得る;および/または
pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の70wt%超を放出することができ、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の75wt%超を放出することができ、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の80wt%超を放出することができ、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の85wt%超を放出することができ、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の90wt%超を放出することができ、pH6.6の模擬腸液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って総鉄含有量の10wt%、20wt%、30wt%、40%wt、50%wt又は60%wt%超を放出することができ、及び/又は、pH6.6の模擬腸液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って総鉄含有量の80wt%超を放出することができる、
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カルシウム、パルミチン酸アスコルビル(パルミトイルL-アスコルビン酸)、エリソルビン酸(D-イソアスコルビン酸)及びエリソルビン酸ナトリウム(D-イソアスコルビン酸ナトリウム)又はこれらの組み合わせからなる群より選択される安定剤を更に含む;および/または
鉄:タンパク質比は1:20~1:3である;および/または
平均粒径が2000ミクロン以下、1000ミクロン以下、600ミクロン以下、500ミクロン以下、又は300ミクロン以下、又は100ミクロン以下、又は80ミクロン以下、又は60ミクロン以下、又は40ミクロン以下、又は20ミクロン以下の粒子で構成される;および/または
組成物中の鉄は少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、98%又は99%の第一鉄を含む;および/または
加速貯蔵条件下(40℃、相対湿度75%)で密封容器内に保存した場合、少なくとも6ヶ月間は第一鉄含有量及び微生物学的負荷に関して安定である;および/または
周囲条件下で密封容器内に保存した場合、少なくとも24ヶ月間は第一鉄含有量に関して安定である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
緩衝剤は、約7%超の重量で存在する、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
変性タンパク質と、緩衝剤と、鉄とを含む液状組成物から作製され、変性タンパク質は組成物の総重量に対して20重量%~60重量%の量で存在する;および/または
緩衝剤は組成物の総重量に対して6重量%~15重量%の量で存在する;および/または
そのような液状組成物において、鉄は組成物の総重量に対して5重量%~50重量%の量で存在する;および/または
変性タンパク質は総タンパク量100g当たり500mg未満のカルシウムを含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
血清鉄の上昇を必要とする哺乳動物において血清鉄を上昇させる方法において使用するための組成物であって、鉄と、緩衝剤と、変性タンパク質を含む担体と、を含み、
前記変性タンパク質は、二価金属イオン除去プロセスが施されたものであり、
前記組成物は、2.5重量%~50重量%の総鉄含有量を有し、
前記変性タンパク質は、変性乳清タンパク質、変性乳清タンパク質単離物、変性βラクトグロブリン、又はその組み合わせを含み、
前記変性タンパク質は、5重量%~80重量%の量で存在し、
前記緩衝剤は、6重量%~20重量%の量で存在し、酢酸塩と酢酸を含み、
前記組成物は、マイクロビーズの形態であり、
前記組成物の含水量は10重量%未満であり、
鉄:タンパク質の重量比は1:50~1:3であり、
組成物をヒトに経口投与すると、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも150%である、
組成物。
【請求項13】
前記変性タンパク質は、鉄を除いてタンパク質100g当たり500mg未満の二価金属イオンを含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
鉄と変性タンパク質と緩衝剤とを含む組成物であって、pH1.6の模擬胃液中で30分に亘って第一鉄としての鉄の総負荷量の少なくとも70%を放出し、pH1.6の模擬胃液に入れるとpHを少なくとも2まで緩衝し、pH6.6の模擬腸液に入れると液を最高でpH5.5まで緩衝し、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも120%になり、
前記組成物は、2.5重量%~50重量%の総鉄含有量を有し、
前記変性タンパク質は、変性乳清タンパク質、変性乳清タンパク質単離物、変性βラクトグロブリン、又はその組み合わせを含み、前記変性タンパク質は、5重量%~80重量%の量で存在し、
前記変性タンパク質は、二価金属イオン除去プロセスが施されたものであり、
前記緩衝剤は、6重量%~20重量%の量で存在し、酢酸塩と酢酸を含み、
前記組成物は、マイクロビーズの形態であり、
前記組成物の含水量は10重量%未満である、
組成物。
【請求項15】
鉄と、緩衝剤と、変性タンパク質を含む担体と、を含む組成物であって、
前記組成物は、2.5重量%~50重量%の総鉄含有量を有し、
前記変性タンパク質は、変性乳清タンパク質、変性乳清タンパク質単離物、変性βラクトグロブリン、又はその組み合わせを含み、前記変性タンパク質は、5重量%~80重量%の量で存在し、
前記変性タンパク質は、二価金属イオン除去プロセスが施されたものであり、
前記緩衝剤は、前記組成物の6重量%~20重量%の量で存在し、酢酸塩と酢酸を含み、
前記組成物は、マイクロビーズの形態であり、
前記組成物の含水量は10重量%未満である、
組成物。
【請求項16】
鉄送達用乾燥材料を製造するためのプロセスであって、
変性タンパク質を二価金属イオン除去プロセスに供する段階と、
前記変性タンパク質と、鉄と、酢酸塩および酢酸を含む緩衝剤と、を含む液体からゲルを形成する段階であって、前記変性タンパク質は、変性乳清タンパク質、変性乳清タンパク質単離物、変性βラクトグロブリン、又はその組み合わせを含む、段階と、
ゲルに剪断を施して液体内でゲル粒子を形成する段階と、
ゲル粒子を含む液体に乾燥を施して乾燥粒子を形成する段階と、
を含むプロセス。
【請求項17】
前記乾燥粒子の平均粒径は5~15ミクロン、又は15~30ミクロン、又は30~50ミクロン、又は50~75ミクロンである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
ゲル粒子を含む液体に乾燥を施すことは、乾燥粒子を形成する噴霧乾燥を含み、前記緩衝剤は、pHを2.5~6.5、又は3.0~6.0、又は3.3~4.0に維持する、請求項16又は請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
液体製剤に剪断操作を最大で1分間、又は3分間、又は5分間、又は7分間施す;および/または
剪断操作で形成されるゲル粒子を10~120分間放置する;および/または
乾燥は<300分で行う;および/または
乾燥する材料を40~100℃の高温に曝露する;および/または
平均径が10~75ミクロンの範囲の粒子を形成する;および/または
ゲルはヒドロゲルである、
請求項16~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物に鉄を送達するのに適した組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
経口鉄は哺乳動物では吸収されにくくて忍容性が低いことが多く、世界保健機関(WHO)によると、鉄欠乏症は先進国と発展途上国で20億人を超える人々に影響を及ぼしている。これは、認知機能、酸素輸送、代謝及び免疫機能に悪影響を及ぼすことになり得る。
【0003】
鉄は第一鉄(Fe2+)として主に経口補給され、二価の金属輸送体1(DMT-1)を介して身体の必要に応じて積極的に吸収されるが、経口生物学的利用能と忍容性が低い。第二鉄(Fe3+)は通常、胃腸の観点からは忍容性がより良好であるが、第一鉄よりも生物学的利用能が低い傾向がある。第一鉄は経口鉄吸収の国際的な至適基準であり続けており、WHO必須医薬品一覧に記載されている唯一の塩は第一鉄塩である。硫酸第一鉄は最も良く吸収される経口鉄である。しかし、その吸収は依然として不十分である。不十分な経口鉄吸収に対する薬学的アプローチは用量を増加させることである。しかし、これは胃腸にかなりの苦痛をもたらす。鉄含有及び非含有の遅延放出製剤及び/又は胃保護製剤(例えば、腸溶性製剤)が市販されているが、生物学的利用能が低いことが当業者には長く認識されているため、推奨されていない。例えば、Walker S.ら、「Bioavailability of iron in oral ferrous sulfate preparations in healthy volunteers」、Canadian Medical Association Journal 1989;(141):543-547を参照のこと。現在、補給に使用される経口鉄の形態にはかなりの制約があり、これは、発展途上国及び先進国で見られる唯一の栄養欠乏症である鉄欠乏症の発生率が高いことを説明するのに役立つ。我々は、驚くべきことに、鉄を変性タンパク質(例えば、変性乳清タンパク質)中に捕捉させた胃保護的で口当たりの良い製剤(例えば、マイクロカプセル化製剤)を硫酸第一鉄よりも生物学的利用能を向上させて生成できることを示した。このような製剤は、有効鉄が嗜好性や安定性の問題を引き起こすような経口摂取用の製品(例えば、食品又は栄養補助食品)の調製に特に適している。しかし、適切な製剤の場合、高いタンパク質/鉄比が必要となる傾向があり、嵩高くなりやすく、製造するのに比較的費用がかかり、カプセル又は錠剤等の経口剤形の栄養補助食品を調製するのは容易ではない。
【0004】
従って、対処すべき1つの課題は、良好な鉄吸収をもたらす経口送達用製剤(例えば、錠剤又はカプセル)を低価格で嵩高くない製品として提供することである。このような製剤は拡張性のある方法で製造する必要がある。このような製剤は鉄を効果的に送達させて体内で有効鉄を効果的に増加させる必要がある。このような製剤は総投与量が少なくてもそのような効果をもたらすことが望ましい。このような製剤は胃忍容性が良好であることが望ましい。このような製剤は下部消化管への鉄の通過を抑制することが望ましい。このような製剤は他の鉄製剤と比べて悪影響が少ないことを示すのが適切である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、鉄と、緩衝剤と、変性タンパク質を含む担体とを含む組成物であって、pH1.6の模擬胃液中で30分に亘って第一鉄としての鉄の総負荷量の少なくとも71%、例えば、少なくとも75%、例えば、少なくとも80%を放出し、pH1.6の模擬胃液に入れると(30分後に)pHを少なくとも2まで緩衝し、pH6.6の模擬腸液に入れると(30分後に)液を最高でpH5.5、例えば、pH5.0まで緩衝し、ヒトに経口投与すると、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも120%になる組成物を提供する。
【0006】
本発明の組成物はヒトを含む哺乳動物に投与するのに適している。
【0007】
本発明の組成物はその緩衝剤の少なくとも50%、例えば、少なくとも71%、例えば、少なくとも75%、例えば、少なくとも80%をpH1.6の模擬胃液中で30分に亘って放出する。
【0008】
本発明の組成物では、鉄の放出と緩衝剤の放出がモル比、例えば、1:1の比で生じることが望ましい。従って、例えば、モル比が1:1の場合、放出される緩衝剤の重量は放出される鉄の重量と実質的に一致し得る。
【0009】
本発明は、鉄と、変性タンパク質コアと、鉄塩と、pH調整剤とを含む組成物であって、胃の条件下で鉄ペイロードの少なくとも71%、例えば、少なくとも75%、例えば、少なくとも80%を放出し、pH調整剤の少なくとも50%、例えば、少なくとも71%、例えば、少なくとも75%、例えば、少なくとも80%を1時間に亘って放出し、ヒトに経口投与すると、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の(即時放出性)硫酸第一鉄の酸性水溶液を経口投与した場合の少なくとも120%になる組成物を提供する。
【0010】
本発明の組成物は主に即時放出性製剤の特性を有する。驚くべきことに、即時放出特性を有していながら、良好な忍容性を示し、多量の鉄を放出する組成物で予想される種類の有害な副作用を誘発しない。低速放出性の他の製剤の場合、用量が経時的にゆっくりと放出されて耐性が高まるため、忍容性が良好であると教示されている。このような製剤には吸収されにくいという不都合がある。本発明の組成物は胃保護特性を有する。
【0011】
本発明の組成物はその緩衝剤の少なくとも50%、例えば、少なくとも71%、例えば、少なくとも75%、例えば、少なくとも80%をpH1.6の模擬胃液中で30分に亘って放出することができる。
【0012】
組成物は鉄:タンパク質の重量比を1:50~5:1、例えば、1:40~1:3とすることができる。
【0013】
本発明の組成物は総鉄含有量を2.5重量%~50重量%、例えば、5%~10%とすることができる。
【0014】
組成物は緩衝剤/pH調整剤(例えば、酢酸塩/酢酸):タンパク質の重量比を1:50~5:1、例えば、1:40~1:3とすることができる。
【0015】
組成物は緩衝剤/pH調整剤(例えば、酢酸塩/酢酸等の酸):鉄の重量比を1:10~10:1、例えば、1:3~3:1、例えば、1:1.25~2:1とすることができる。
【0016】
組成物は(実質的に)非晶質とすることができる。これはXRDによって確認されている。
【0017】
変性タンパク質は少なくとも50%、80%又は90%変性とすることができる。
【0018】
変性タンパク質は少なくとも50%、80%又は90%変性のβラクトグロブリンを含むことができる。
【0019】
変性タンパク質は二価金属鉄除去プロセスを施したものとすることができる。
【0020】
組成物の含水量は30重量%未満、20重量%未満、例えば、15重量%未満又は約10重量%未満とすることができる。
【0021】
本発明の組成物はコアを有することができ、コアは変性凝集タンパク質マトリックスを含む。
【0022】
担体はコアとスキンを有することができ、スキンは変性凝集タンパク質を含む。必要に応じて、スキンはゲル化剤を更に含むことができる。
【0023】
コアは変性凝集タンパク質マトリックスを含むことができる。必要に応じて、変性タンパク質は、タンパク質100g当たり500mg未満の(鉄を除く)二価金属イオン、例えば、タンパク質100g当たり300mg未満の二価金属イオン、例えば、タンパク質100g当たり100mgの二価金属イオンを含む。
【0024】
組成物をヒトに経口投与すると、血清鉄のトラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%又は175%になり得る。
【0025】
組成物を対象に投与し、空腹の対象において血清鉄を測定する。空腹とは8時間の空腹を意味する。
【0026】
組成物をヒトに経口投与すると、血清鉄のトラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、少なくとも160%、少なくとも175%になり得る。
【0027】
組成物は、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の70wt%超、例えば、71wt%超を放出することができ、組成物は、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の75wt%超を放出することができ、組成物は、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の80wt%超を放出することができ、組成物は、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の85wt%超を放出することができ、組成物は、pH1.6の模擬胃液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って第一鉄としての総鉄含有量の90wt%超を放出することができ、組成物は、pH6.6の模擬腸液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って総鉄含有量の10wt%、20wt%、30wt%、40%wt、50%wt又は60%wt%超を放出することができ、及び/又は、組成物は、pH6.6の模擬腸液中で15分、又は30分、又は45分、又は60分に亘って総鉄含有量の80wt%超を放出することができる。
【0028】
組成物はアスコルビン酸やアスコルビン酸塩等の安定剤を更に含むことができ、例えば、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カルシウム、パルミチン酸アスコルビル(パルミトイルL-アスコルビン酸)、エリソルビン酸(D-イソアスコルビン酸)及びエリソルビン酸ナトリウム(D-イソアスコルビン酸ナトリウム)又はこれらの組み合わせから選択することができる。
【0029】
鉄:タンパク質比は1:20~1:3、例えば、1:40~1:3、例えば、1:15~約1~4、例えば、約1:6~約1:12とすることができる。
【0030】
組成物は、平均粒径が2000ミクロン以下、1000ミクロン以下、600ミクロン以下、500ミクロン以下、又は300ミクロン以下、又は100ミクロン以下、又は80ミクロン以下、又は60ミクロン以下、又は40ミクロン以下、又は20ミクロン以下の粒子で構成することができる。
【0031】
一実施形態では、組成物中の鉄は少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、98%又は99%の第一鉄を含む。
【0032】
組成物は、加速貯蔵条件下(40℃、相対湿度75%)で密封容器内に保存した場合、少なくとも6ヶ月間は第一鉄含有量及び微生物学的負荷に関して安定であることが望ましい。
【0033】
一実施形態では、組成物は、周囲条件下で密封容器内に保存した場合、少なくとも24ヶ月間は第一鉄含有量に関して安定である。
【0034】
一実施形態では、変性タンパク質は変性乳清タンパク質、変性乳清タンパク質単離物、変性βラクトグロブリン又はその組み合わせを含む。
【0035】
本発明の一実施形態では、組成物は塩を含む。例えば、短鎖脂肪酸(例えば、C~C脂肪酸)の塩である。本発明の組成物に含まれる塩は、例えば、溶液中で緩衝作用を有することができる。例えば、本発明の組成物が溶液中にある場合には、本発明の組成物に含まれる塩はpH調整剤とすることができる。
【0036】
本発明の組成物は緩衝剤(例えば、pH緩衝作用を有する塩)を含むことが望ましい。例えば、本発明の組成物を液状組成物を用いて製造した固形粒子の形態で提供する場合、緩衝剤(例えば、塩)は粒子の製造源である液状組成物中で緩衝剤として作用することが望ましい。
【0037】
適切な緩衝剤としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、リン酸塩及びクエン酸塩等の適切な塩が挙げられる。適切な塩としては、ナトリウム塩等の一価金属イオンの塩が挙げられる。適切な塩としては、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムが挙げられる。適切な塩の1つは酢酸ナトリウムである。このような材料が水素イオン(プロトン)源の存在下で緩衝剤として作用し得ることは理解されるであろう。
【0038】
本発明の組成物に存在する緩衝剤/pH調整剤の量(重量)は、約3%超、例えば、約4%超、例えば、約5%超、例えば、約6%超、例えば、約7%超とすることができる。約8%超、例えば、約10%超、例えば、約12%超、例えば、約15%超、例えば、約17%としてもよい。
【0039】
本発明の組成物は変性タンパク質、塩等の緩衝剤、及び鉄から形成することができる。このような組成物では、変性タンパク質は組成物の総重量に対して5重量%~80重量%、例えば、20重量%~60重量%、例えば、30~50重量%の量で存在することが望ましい。この組成物は適切な担体液体で保持することができる。
【0040】
このような組成物では、緩衝剤は組成物の総重量に対して5重量%~50重量%、例えば、6重量%~20重量%、例えば、6重量%~15重量%の量で存在することが望ましい。この組成物は適切な担体液体に保持することができる。
【0041】
このような組成物では、鉄は組成物の総重量に対して5重量%~50重量%、例えば、5重量%~20重量%、例えば、5重量%~10重量%の量で存在することが望ましい。
【0042】
変性タンパク質は、乳清タンパク質、変性乳清タンパク質単離物、変性βラクトグロブリン、βラクトグロブリンを含む牛乳タンパク質組成物、又はβラクトグロブリンを含むタンパク質、又はエンドウタンパク質、又はこれらの組み合わせから選択されるタンパク質であることが望ましい。適切なタンパク質の1つは変性乳清タンパク質である。
【0043】
鉄は第一鉄、例えば、本明細書に記載の第一鉄材料の形態で存在することが望ましい。
【0044】
変性タンパク質は総タンパク量100g当たり500mg未満のカルシウム、総タンパク量100g当たり300mgのカルシウム、例えば、総タンパク量100g当たり200mg未満のカルシウム、例えば、総タンパク量100g当たり100mg未満のカルシウムを含むことが望ましい。
【0045】
本発明の組成物の適切な形態の1つは乾燥形態である。乾燥形態は上述の液状組成物から形成することが望ましい。
【0046】
本発明の組成物の乾燥形態は変性タンパク質、塩等の緩衝剤、及び鉄を含む。
【0047】
組成物の乾燥形態は液体からどの材料も分離せずに液状組成物から形成することが望ましい。液体と液体で保持されている材料とを一緒に乾燥することが望ましい。従って、濾過や遠心分離等の分離は行わない。従って、例えば、乾燥前に緩衝剤の除去は行わない。従って、組成物が保持されている母液があっても、乾燥前にその母液からの分離は行わず、例えば、ゲル及び/又は緩衝剤の分離は行わない。
【0048】
驚くべきことに、液体形態中の緩衝剤の量を液体形態から形成した乾燥材料中で保持することによって、他の形態(例えば、硫酸第一鉄)よりも効果的で忍容性が高い乾燥材料が得られることが見出された。緩衝剤の量は枯渇しない(又は実質的に枯渇しない)ため、緩衝剤は液体形態中で緩衝作用を有するだけでなく、乾燥材料中に存在する鉄の安定性及び生物学的利用能にも影響を及ぼし得ると考えられる。例えば、緩衝剤は第一鉄を酸化から保護することができる。典型的には、乾燥材料は緩衝剤(例えば、酢酸ナトリウム等の塩)の濃度が高い。
【0049】
乾燥材料には(ゲルにも)洗浄を施さないことが望ましい。従って、洗浄段階を必要としないプロセスを用いることが有用である。乾燥材料を洗浄することによって緩衝剤(例えば、酢酸ナトリウム等の塩)が除去され得ると考えられる。この結果、組成物からの鉄の放出プロファイルに影響を及ぼし得る。従って、ゲルを母液から分離した後に乾燥を行うこともできる。
【0050】
本発明は、
鉄と、
変性乳清タンパク質を含む担体とを含む組成物であって、
鉄:タンパク質の重量比は1:50~5:1であり、
変性タンパク質は、タンパク質100g当たり500mg未満の(鉄を除く)二価金属イオン、例えば、タンパク質100g当たり300mg未満の二価金属イオン、例えば、タンパク質100g当たり100mg未満の二価金属イオンを含み、
組成物の含水量は30重量%、15重量%又は10重量%未満であり、
担体は変性凝集タンパク質マトリックスコアを含み、
鉄の少なくとも50、60又は70wt%は第一鉄であり、
組成物は酢酸ナトリウム等のpH調整剤を含み、
組成物をヒトに経口投与すると、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも150%になる組成物に関する。
【0051】
本発明の組成物は無水鉄のコアとタンパク質ヒドロゲルを含むことができる。
【0052】
本発明は、血清鉄の上昇を必要とする哺乳動物において血清鉄を上昇させる方法であって、
鉄と
変性乳清タンパク質を含む担体とを含む組成物を投与する段階を含む方法において、
鉄:タンパク質の重量比は1:50~1:3であり、
組成物をヒトに経口投与すると、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の(即時放出性)硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも150%であり、
必要に応じて、変性タンパク質は、タンパク質100g当たり500mg未満の(鉄を除く)二価金属イオン、例えば、タンパク質100g当たり300mg未満の二価金属イオン、例えば、タンパク質100g当たり100mg未満の二価金属イオンを含む方法に関する。
【0053】
ヒト等の哺乳動物に投与することによって、胃における胃内pHが上昇し、(十二指腸における)腸内pHが低下するように調整されると考えられる。
【0054】
本発明は、鉄と緩衝剤を含む組成物であって、pH1.6の模擬胃液中で30分に亘って第一鉄としての鉄の総負荷量の少なくとも70%、例えば、少なくとも71%を放出し、pH1.6の模擬胃液に入れるとpHを少なくとも2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0まで緩衝し、pH6.6の模擬腸液に入れると液を最高でpH5.5、5.4、5.3、5.2、5.1、5.0、4.9、4.8、4.7、4.6、4.5、4.4、4.3、4.2、4.1、4.0まで緩衝し、ヒトに経口投与すると、血清鉄の相対トラフ/ピーク比が2時間に亘り、等モル用量の即時放出性硫酸第一鉄組成物を経口投与した場合の少なくとも120%になる組成物を提供する。
【0055】
このような組成物は、必要に応じて上述の変性タンパク質等のタンパク質を含むことができる。本明細書に記載の本発明の態様の全てはこのような組成物にも適用される。
【0056】
本発明は、鉄、緩衝剤及び担体を含む組成物であって、存在する緩衝剤の重量は組成物の約3重量%超、例えば、約4重量%超、例えば、約5重量%超、例えば、約6重量%超、例えば、約7重量%超、例えば、約8重量%超、例えば、約10重量%超、例えば、約12重量%超、例えば、約15重量%超、例えば、約17重量%である組成物を提供する。
【0057】
このような組成物は、必要に応じて担体(例えば、上述の変性タンパク質等のタンパク質)を含むことができる。本明細書に記載の本発明の態様の全てはこのような組成物に適用される。
【0058】
本発明は、鉄送達用乾燥材料を製造するためのプロセスであって、
変性タンパク質と鉄を含み、必要に応じて緩衝剤を含む液体からゲルを形成する段階と、
ゲルに剪断を施して液体内でゲル粒子を形成する段階と、
ゲル粒子を含む液体に乾燥を施して乾燥粒子等の乾燥材料を形成する段階とを含むプロセスを提供する。
【0059】
必ずしも必要ではないかもしれないが、本発明の組成物は、適切なゲルを形成又はその形成を助けるゲル化剤を含むことができる。
【0060】
ゲル粒子を含む液体に乾燥、例えば、噴霧乾燥を施すことによって液体とゲル粒子の両方を一緒に乾燥する。これは、液体(例えば、母液)を最初に除去した後、残りの材料を処理する(例えば、粒子を形成する)プロセスとは対照的である。
【0061】
本発明のプロセスを用いることは、通常であれば液体の除去によって除去される材料が最終的に乾燥材料になり得ることを意味する。これによって乾燥材料で好都合な組成変化が得られる。
【0062】
例えば、乾燥材料中に存在する緩衝剤(例えば、酢酸ナトリウム等の塩)の量が多い場合には、胃のpHを上昇させて胃保護を得ることができる。これは鉄を2+状態に保持するのにも役立つ(上述参照)。また、十二指腸のpHを低下させることもでき、鉄の吸収を助長することができる。
【0063】
本発明のプロセスで乾燥粒子を形成する場合、乾燥粒子の平均粒径は5~15ミクロン、又は15~30ミクロン、又は30~50ミクロン、又は50~75ミクロンとなり得る。
【0064】
ゲル粒子を含む液体に乾燥を施すことは、乾燥粒子を形成する噴霧乾燥を含むことが望ましい。最高80℃、又は85℃、又は90℃、又は95℃、又は100℃まで制御してトレイ乾燥、真空乾燥、ドラム乾燥、UV乾燥等の他の乾燥技法を用いることが可能である。
【0065】
緩衝剤が存在し、pHを2.5~6.5、又は3.0~6.0、又は3.3~4.0に維持することが望ましい。組成物が液体形態であるとpHは維持される。
【0066】
適切な緩衝剤は塩/酸緩衝系、例えば、酢酸ナトリウム/酸緩衝系である。
【0067】
乾燥粒子は組成物の総重量に対して平均で3重量%~30重量%、例えば、4重量%~10重量%の鉄を含む。
【0068】
乾燥粒子は平均で20重量%~96重量%の変性タンパク質を含む。
【0069】
変性タンパク質は乳清タンパク質又はβラクトグロブリン含有量が多い他のタンパク質、例えば、エンドウタンパク質とすることができる。
【0070】
変性タンパク質は必要に応じて二価金属イオン除去プロセスを施したタンパク質とすることができる。
【0071】
鉄は主に第一鉄として液体内に存在することができる。
【0072】
剪断操作は比較的短時間で行うことが望ましい。例えば、液体製剤に剪断操作を最大で1分間、又は3分間、又は5分間、又は7分間施すことができる。
【0073】
剪断操作で形成されたゲル粒子に乾燥を施す前に粘度を上昇させ、より緻密にすることが望ましい。例えば、ゲル粒子を含む液状組成物を最小時間、例えば、10~120分間、例えば、20~40分間、例えば、約30分間放置することができる。放置後、ゲル粒子を含む液状組成物に乾燥を施す。この場合にも、硫酸第一鉄よりも生物学的利用能が高い乾燥材料が得られる。
【0074】
剪断は乾燥材料の形成後ではなく乾燥前に湿潤相に適用されることが理解されよう。
【0075】
乾燥プロセスは短時間、例えば、<300分、又は<120分、又は<60分、又は<30分、又は<5分、又は<1分で行うことが望ましい。乾燥する材料を40℃~100℃の高温、例えば、50℃~90℃、例えば、60℃~80℃に曝露するように乾燥プロセスを行うことが望ましい。
【0076】
本発明のプロセスで平均径が10~75ミクロンの範囲の粒子を形成することが望ましい。
【0077】
ゲルはヒドロゲルとすることができる。
【0078】
プロセスの特徴である洗浄段階がないことは、組成物の緩衝能を高めることにもなるが、更に、拡張性や収率を向上させ、商品の価格を下げ、乾燥(例えば、噴霧乾燥)が迅速にできる組成物が得られる。
【0079】
本発明の組成物では、鉄の用量レベルが3倍を超える製剤と少なくとも同程度の生物学的利用能が得られる。
【0080】
少ない用量で良好な生物学的利用能が得られれば、製品がより即時放出性であっても忍容性が高くなる。
【0081】
例えば、図10に示すように、鉄用量が25mgの本発明の組成物は、硫酸第一鉄の鉄用量が80mgでTardyferon(商標)という商品名で販売されている製剤よりも優れていた。
【0082】
本発明では酢酸ナトリウムが特に有用である。酢酸ナトリウムは酢酸や他の有機酸(例えば、酪酸、アスコルビン酸)由来のプロトン、又は胃液若しくは腸液に存在するプロトンに曝露されて緩衝剤を形成することが想定される。これは酢酸ナトリウムと酢酸との平衡に起因する。pHが3.7~5.6の範囲で胃内で緩衝剤を形成し得ると考えられる。この緩衝作用は鉄の生物学的利用能に寄与し得ると考えられる。また、乾燥材料の形成源である液状組成物に酢酸が存在することがあっても、その多くは乾燥中に蒸発し得ることが想定される。胃の低pH環境下でこの材料がプロトンに曝露されると、pHが上昇して胃保護が得られる。この局所的なpH緩衝作用は腸内に広がり、そこでは腸内pHが硫酸第一鉄単独の場合よりも低いレベルで維持され、DMT-1での取り込み用に鉄IIが保存される。
【0083】
また、酢酸ナトリウム(実際には酢酸)は食品グレードの成分である。
【0084】
鉄、緩衝剤及び変性タンパク質を含み、対象内で血清鉄を上昇させることができる組成物を調製した。例えば、胃保護作用をもたらし、鉄をより有効なFe2+の形態で保存し、鉄を対象に送達するための既知の媒体と比べてヒトにおける鉄の生物学的利用能を向上させる緩衝組成物中の非結合鉄とタンパク質マトリックス内に捕捉された鉄を含む噴霧乾燥マイクロビーズを調製した。これは、例えば、80ミクロン未満の小さい粒径で得られる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1】ゲル形成及び剪断粒径縮小化を用いて製造した本発明のゲルマイクロビーズの粒径分布を示す。硬化溶液(500mMの硫酸第一鉄、500mM~5Mの酢酸ナトリウム)をIKA LR-1000に投入し、40℃まで加熱した。約500mlの変性乳清タンパク質溶液(10.5%)を30秒に亘って添加した。乳清タンパク質溶液の添加及びゲル形成後、Turrax回転撹拌機を用いて硬化溶液を15,000rpmで2分間撹拌し、溶液を低撹拌速度(撹拌機100RPM)で60分間硬化させ、高粘性のゲル懸濁液を得た。再度形成された湿潤粒子は非常に小さく(Malvernによる粒径結果を示す)、D50が33ミクロンでD90が121ミクロンの二峰性パターンを示した。本例における乾燥では、試料を80℃まで加熱し、この溶液を真空下で濾過して母液を除去した。残った試料を80℃のオーブンで一晩トレイ乾燥させた。
図2】本発明の実施形態の態様に従って用いた装置の設定を示す。先ず、タンパク質溶液を後述のように調製し、硬化溶液と後述のように混合してゲルを形成する。剪断力(例えば、ロータ、ステータ又はブレード)を用いてゲルの粒径を縮小し、所望の粒径のゲル粒子を得る。次に、ゲル懸濁液を少なくとも30分間優しく撹拌した後、噴霧乾燥機の二流体ノズルに送り込む。[1]では、懸濁液を140℃~160℃に加熱する。[2]次に、Buchi B-290内の二流体ノズルを用いて液滴を形成する。[3]乾燥用ガスと試料液滴との間で伝導熱交換が生じる。これによって母液から余剰の流体が除去され、ゲルビーズ内の流体も除去される。[4]サイクロン技術を用いて粒子を採取する。[5]出口フィルタには最微粒子が採取されている。[6]吸引装置で乾燥用ガスを送る。
図3】噴霧乾燥によって調製した組成物のマイクロビーズの画像を示す低倍率SEM。走査電子顕微鏡法(SEM)画像はGemini(登録商標)カラムを有するZeiss Ultra Plus Field Emission SEM(Zeiss)に記録した。乾燥試料ビーズを導電性カーボンテープに載せ、それ以上の調製や試料コーティングは行わなかった。2~3kVの加速電圧を用いて広範囲の放電効果を克服した。
図4】ゲル形成、剪断力粒径縮小化及び噴霧乾燥を用いて製造された、主として即時放出性組成物であるST1501マイクロビーズのペプシン(pH1.6溶液)の存在下、pH1.6での相対的な鉄II溶解プロファイルの例を示す(実施例1)。詳細な方法については後述する。このプロファイルによって、胃を模倣した実験条件(低pH、消化酵素)で組成物が鉄IIを多く(>71%)放出することが分かる。
図5】ペプシン(pH1.6溶液)及びパンクレアチン(pH6.6溶液)の存在下、30分後のpH1.6及びpH6.6での組成物であるマイクロビーズからの溶解におけるpHプロファイルの例を示す。硫酸第一鉄における等モル用量の鉄での比較を示す。詳細な方法については後述する。このプロファイルによって、本発明の組成物は胃を模倣した実験条件(低pH、消化酵素)で緩衝剤を含まない硫酸第一鉄又は組成物よりも高いpHで胃内pHを緩衝することが分かる。これによって、鉄に結合及び/又はその取り込みを阻止し得る他の緩衝剤とは違って胃保護がもたらされ得る。また、このプロファイルによって、本発明の組成物は腸を模倣した実験条件(より高いpH、消化酵素及び胆汁塩)で硫酸第一鉄よりも低いpHで腸内pHを緩衝することも分かる。pHが低いと、鉄IIの酸化を遅延させ、DMT-1での鉄吸収を促進することができる。
図6】2時間に亘り空腹対象で測定した、等モル鉄用量の本発明のST1501マイクロビーズと硫酸第一鉄の血清鉄の相対トラフ/ピーク比の例を示す(n=3)。
図7A】変性乳清タンパク質と比較して、1560~1410cm-1の領域で組成物に特徴的な酢酸ナトリウムピークが特徴的に存在することを示すFTIRを示す。赤外測定はPerkinElmer Spectrum 100 FT-IR分光計により4000~650cm-1で減衰全反射(ATR)サンプリングを用いて行った。
図6B】酢酸ナトリウム組成物の減少(<3%w/w)、酢酸塩:鉄比の減少及び酢酸塩:タンパク質比の減少を反映する、1560~1410cm-1の領域での組成物中の酢酸ナトリウムピークの減少を示すFTIRを示す。
図8】噴霧乾燥のみを行った後(A)及び噴霧乾燥と更に80℃で乾燥を行った後の本発明のマイクロビーズの乾燥減量の熱重量分析(TGA)を示す。秤量した粉末試料(10~15mg)をオープンセラミックパンで分析した。TGA測定は、TA-Instruments社の熱重量分析器TGA-Q50機器を用い次の温度プログラムで行った。試料を120℃まで加熱(10℃/分)し、120℃で45分間等温保持。
図9a】本発明の組成物が主として非晶質性であることを示す粉末XRDを示す。結晶性硫酸鉄(II)に付随する典型的なPXRDピークは存在しない。PXRD測定は、リガクMiniflex IIデスクトップX線回折装置(リガク社、東京、日本)を用い、低バックグラウンドシリコン試料ホルダに置かれた試料に対して行った。PXRDパターンは0.05°/sのステップで2θスケールの5°~80°で記録した。Cuアノード(λCuKα01.54Å)から成るX線管を30kVの電圧及び15mAの電流下で操作した。しかし、広いベースラインピークはタンパク質構造において秩序の度合いが低いことを反映する。
図9b】硫酸第一鉄七水和物と物理的に混合された変性乳清タンパク質のX線回折プロファイルを示し、結晶性の証拠を示す。
図10】元素鉄用量が105mgのFerrograd Cの摂取後にST1501とクロスオーバーさせた空腹対象(n=3)における血清鉄濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0086】
本明細書で使用される「カルシウム枯渇」又は「脱石灰化」又は「二価金属イオン除去を少なくとも一部施す」という用語は、二価金属イオン除去プロセス(例えば、カルシウムの除去が挙げられるが、これに限定されない)を施したタンパク質原料を意味する。脱石灰化タンパク質は、タンパク質100g当たり500mg未満のカルシウム、タンパク質100g当たり200mg未満のカルシウム、タンパク質100g当たり100mg未満のカルシウム、タンパク質100g当たり50mg未満のカルシウム、又は極微量のカルシウムを含むことが好ましい。或いは、脱石灰化タンパク質は(鉄を除く)1%未満の二価金属イオン(w/w)、0.5%未満の二価金属イオン(w/w)、0.1%未満の二価金属イオン(w/w)、又は極微量の二価金属イオンを含むことができる。当業者には明らかなように、タンパク質の脱石灰化の標準的な方法が存在し、その例としては、(a)透析及び/又は限外濾過及び/又は透析濾過による酸性化、及び/又は(b)カルシウムキレート剤/金属イオン封鎖剤の使用、及び/又は(c)陽イオン交換法の使用が挙げられる。
【0087】
本明細書で使用される「タンパク質ベース担体」という用語は、鉄の形態と組み合わせて組成物とするタンパク質ベース源に少なくとも一部由来する物質という意味として受け取るべきである。担体を用いて組成物をその本来の目的に適したものにすることができる。その目的は哺乳動物対象への鉄の効果的な送達とすることができる。タンパク質担体は組成物に利益をもたらすことができる。そのような利益の例としては、組成物に好都合な改変鉄放出プロファイルをもたらすこと、組成物に更なる抗酸化作用をもたらすこと、組成物の投与に起因する胃腸不快感のレベルを下げること、及び鉄取り込みのレベルを向上させることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
本明細書で使用される「変性タンパク質」という用語は、少なくとも一部が変性、即ち、少なくとも5%が変性したタンパク質を意味する。
【0089】
本明細書で使用される「カプセル化」又は「捕捉」とは、予め選択された材料をマトリックス(通常はビーズ又は球体又はマイクロビーズと称する)又はコア-シェルカプセル(通常はカプセルと称する)内に完全に封入(捕捉)し、粒径が数百ナノメートルから数センチメートルまでの範囲の粒子を得るプロセスを意味する。
【0090】
本明細書で使用される「結合鉄」とは容易に洗い流せない鉄を意味し、「非結合鉄」とは容易に洗い流せる鉄を意味する。これらの用語は共有結合又はイオン結合を意味することを意図しない。
【0091】
本明細書で使用される「主として非晶質」という用語は、結晶性に関連するXRDにおける短距離秩序の証拠がないことを意味する。換言すれば、低結晶性を意味する。例えば、図9参照のこと。
【0092】
本明細書で使用される「非晶質」物質は主として非晶質な物質を包含する。
【0093】
カプセルは(カプセル化された材料で構成された)明確で特徴的なコアとシェル部分で構成されており、これらは互いに分離している。好ましい実施形態では、マイクロビーズは、(カプセル化された)材料が構造全体に亘って分布している球体構造(即ち、マトリックス)である。マイクロビーズは、内部と同一の組成物を有するが、内部とは構造及び化学的特性が異なる表面層(「スキン」)を有することができる。スキンの厚さと構造はマイクロビーズの特性と挙動、例えば、膨潤、柔軟性及びペイロード拡散に影響を及ぼし得る。
【0094】
本発明の好ましい形態では、硫酸第一鉄とは異なり胃内pHを調節して胃内での悪影響を抑制する(図5)。これによって、医薬品の悪影響を経験することなく鉄摂取を維持する方法が得られる。また、他の悪影響(例えば、鉄摂取に伴う口当たりの悪さ)をなくして栄養補助食品による鉄摂取をより効果的に維持する方法が得られる。
【0095】
従って、一実施形態では、本発明は、鉄と変性タンパク質を含む個別のマイクロビーズを含むマイクロビーズ調製物を提供する。一実施形態では、変性タンパク質マトリックスコア中に鉄を捕捉する。必要に応じて、ビーズはゲル化剤、例えば、複合炭水化物、例えば、アルギン酸塩、又はタンパク質、例えば、ゼラチンを含むこともできる。
【0096】
必要に応じて、ビーズは処理に役立つ流動促進剤を含むことができる。適切な流動促進剤としては、ロイシン、ステアリン酸マグネシウム、コロイド状二酸化ケイ素、デンプン及びタルク、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0097】
微小液滴の表面に負電荷を印加した後に鉄溶液中で硬化を行うか、又は硬化温度又はタンパク質変性のレベルを変えるか、又は鉄をキレートすることが知られているビタミンC(アスコルビン酸)等の物質を配合することによって更なる鉄負荷を得ることができる。
【0098】
一実施形態では、タンパク質マトリックス中のタンパク質にカルシウム枯渇をもたらす二価金属イオン除去プロセスが施されている。
【0099】
タンパク質マトリックス中のタンパク質は、乳清タンパク質、βラクトグロブリンを含む他の牛乳タンパク質組成物、又はエンドウタンパク質を含むことが適切である。タンパク質は変性乳清タンパク質又はカルシウム枯渇変性乳清タンパク質であることが好ましい。
【0100】
一実施形態では、マイクロビーズは2.5~50%の鉄を含む。他の実施形態では、組成物は乾燥重量に対して鉄分を最高20%w/w、5%w/w超、又は5~10%w/w含む。
【0101】
鉄の割合は、マイクロビーズの消化後に機器による方法又は比色法によって推定することができる。カルシウム枯渇マイクロビーズ中の鉄を反映する総残存無機含有量は、高温熱重量分析によって推定することができる。或いは、マイクロビーズの鉄:タンパク質比は約1:50~約1:1、約1:40~約1:1、約1:30~約1:2、約1:20~約1:3又は1:5、約1:10~約1:3、又は約1.2:100~約1:2の範囲、又はこれらの比の内の他の範囲であることが好ましい。
【0102】
典型的には、マイクロビーズ中の鉄は、例えば、硫酸第一鉄、フマル酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、ビスグリシン酸第一鉄、タウリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、アスコルビン酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、乳酸第一鉄、酢酸第一鉄、炭酸第一鉄/菱鉄鉱、酸化第一鉄又は鉄アミノ酸又は鉄炭水化物キレート又は錯体に由来し得る第一鉄(II)を含む。本発明の組成物は第二鉄(III)又は鉄IIと鉄IIIの混合物を含むこともできる。組成物の鉄分は少なくとも10、25、50、75、90、95、98又は99wt%の第一鉄を含むことが好ましい。
【0103】
マイクロビーズは、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩又はアスコルビン酸塩の対イオンを含むことが好ましい。好ましい実施形態では、これらのイオンは第一鉄の酸化を抑制して安定性を向上させ、及び/又は放出特性を向上させる。
【0104】
本発明は、哺乳動物において生物学的に利用可能な鉄を増加させる(例えば、鉄欠乏症を治療又は予防する)方法であって、哺乳動物に本発明に係る組成物(好ましくはマイクロビーズ)を投与する段階を含む方法も提供する。
【0105】
本発明に係る組成物は当技術分野で既知のどの送達媒体によっても投与することができる。好ましい実施形態は食用製剤、例えば、粉末(例えば、調製粉乳)、妊婦用ビタミン製剤、マルチビタミン製剤、栄養補助食品、チュアブル栄養補助食品、グミ、食品(例えば、チョコレート又は脂肪/油)、飲料、動物飼料、錠剤、カプセル又は懸濁液である。嗜好性の低い実施形態はカプセル又は被覆錠剤の形態であることが好ましい。
【0106】
本発明の組成物は有効量を送達するのに十分な用量で投与することが好ましい。当業者であれば、特定の対象の要求を確認し、本発明の組成物の生物学的利用能を考慮に入れて適切な投与計画を決めることができる。
【0107】
一実施形態では、ビーズの調製は、変性タンパク質と鉄を含む担体を用意し、担体を微小液滴とし、微小液滴を硬化させてビーズとし、ビーズの含水量が10重量%未満、7重量%未満、5重量%未満又は3重量%未満となるまでビーズを乾燥させて行う。
【0108】
他の実施形態では、ビーズの調製は、変性タンパク質と必要に応じて鉄を含む担体を用意し、担体を微小液滴とし、鉄を含む硬化溶液中で微小液滴を硬化させてビーズとし、ビーズの含水量が10重量%未満、7重量%未満、5重量%未満又は3重量%未満となるまでビーズを乾燥させて行う。
【0109】
ビーズは変性凝集タンパク質スキンを有することが好ましい。
【0110】
鉄を含む硬化溶液中に微小液滴を滴下して硬化させる場合、硬化溶液には鉄に加えて一価のイオン(例えば、ナトリウム)を100~1000mMの範囲で含有させることができる。適切なナトリウム塩としては、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム及び硫酸ナトリウムが挙げられる。硬化溶液は界面活性剤、例えば、ツイーンを含むこともできる。硬化溶液のpHの調整は、タンパク質の凝集(マイクロビーズの硬化)を促進するためにHCl又は酢酸又はアスコルビン酸を導入して行うことができる。マイクロビーズへの更なる鉄の取り込みと形状の改善は、微小液滴の表面に負電荷を印加した後に、例えば、静電帯電装置を用いて硬化させることによって行うことができる。
【0111】
硬化溶液は有機酸(例えば、酢酸)を含むことが好ましく、有機酸はpHを調整し、対イオンをタンパク質側鎖に導入することによって凝集及び硬化(タンパク質の凝集)に影響を及ぼす。酢酸塩又は相当する対イオンの存在は、得られたマイクロビーズ中で赤外線分光法等の技法によって検出することができる。
【0112】
硬化したビーズを洗浄して非結合鉄又は弱く結合した鉄を除去した後に乾燥させてもよいが、ビーズを洗浄しないことが望ましい。洗浄する場合には、例えば、脱イオン水を用いるか、又は酢酸塩緩衝剤、クエン酸塩又はアスコルビン酸ナトリウム等の水溶液を用いて行うことができる。更に洗浄を行うと通常、組成物中の鉄及び/又は緩衝剤の量が低減する。
【0113】
乾燥は40~100℃、好ましくは約80℃のオーブンで行うことができる。或いは、真空下でより低い温度、例えば、室温で乾燥を行うことができる。窒素又はアルゴンの雰囲気下で乾燥を行うことが好ましい。
【0114】
他の実施形態では、15℃~90℃、25℃~60℃又は室温で乾燥が生じる。ある実施形態では、乾燥段階を大気圧下で行うことができる。ある実施形態の他の態様では、少なくとも一部真空中で乾燥段階を行うことができる。
【0115】
ある実施形態の態様では、乾燥段階によって組成物の総重量の40%~90%、又は組成物の総重量の70~80%が減少する。
【0116】
真空下、回転式ドラム乾燥機中で乾燥を行って大気中酸素への曝露を低減させながら、粒子を常に動かして乾燥粒子同士の付着を防止することができる。乾燥に用いる他の技法としては、振動流動床乾燥機又は回転蒸発装置を用いて粒子を動かしながら制御可能な大気条件下で乾燥させること、又は粒子を迅速に乾燥させる噴霧乾燥が挙げられる。マイクロビーズに一定の空気流又は窒素流を供給して乾燥を行うこともできる。
【0117】
一実施形態では、本発明は、変性カルシウム枯渇タンパク質から形成された重合マトリックスを含み、マトリックス内に鉄がマイクロカプセル化及び/又は捕捉されたマイクロビーズ調製物に関する。
【0118】
典型的には、マイクロビーズはほぼ球状である。ある実施形態では、平均径は2000ミクロン以下、1000ミクロン以下、600ミクロン以下、500ミクロン以下、又は300ミクロン、又は80ミクロン未満である。ある実施形態では、粒径分布は狭い。
【0119】
ある実施形態では、粒子の平均径は0.2~4000ミクロンである。粒子は、粒径が0.2~4000ミクロン、50~2000ミクロン、150~1000ミクロン、又は300~600ミクロンのビーズの形態とすることができる。ある実施形態では、粒子の平均径は0.2~75ミクロン、1~60ミクロン、5~50ミクロン、又は10~50ミクロンである。ある実施形態では、一定の径を超えるビーズを好ましいものとすることができるが、その理由として、このようなビーズは良好な流動特性を示し、取扱い中の凝集の可能性が低くなり、凝固阻止剤等を使用する必要性が抑えられることである。或いは、粒子は径が0.2ミクロン未満のナノ粒子とすることができる。
【0120】
組成物は粒子自体を含んでもよく、或いは、組成物はそのような粒子に1つ以上の更なる処理段階を施した最終品を含んでもよい。これは、使用時にタンパク質がビーズの外周に保護被膜を形成し得るので好都合となり得る。これによって段階的放出プロファイルをもたらすことができる。
【0121】
本発明のマイクロビーズは、高温真空下又は窒素雰囲気中で迅速に乾燥させることが好ましい。(乾燥後の)得られたマイクロビーズは、熱重量分析で示される含水量が<10%であることが好ましい(例えば、図8参照)。
【0122】
他の実施形態では、第一鉄含有溶液を調製し、それとは別にカルシウム枯渇変性乳清タンパク質懸濁液を調製する。
【0123】
本発明の一実施形態は、鉄と、緩衝剤と、変性タンパク質を含む担体とを含む組成物である。組成物中の鉄は、少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、98%又は99%の第一鉄を含むことが好ましい。変性タンパク質は、乳清タンパク質、乳清タンパク質単離物、βラクトグロブリン、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。変性タンパク質は少なくとも5%変性であることが好ましい。一実施形態では、変性タンパク質は少なくとも5%変性のβラクトグロブリンを含む。鉄:タンパク質の重量比は約1:50~1:3であることが好ましい。
【0124】
組成物をヒトに経口投与すると、生物学的利用能が等用量の硫酸第一鉄の酸性水溶液を経口投与した場合に比べて少なくとも20%、30%、40%又は50%高くなるか、又は相対生物学的利用能が等モル用量の硫酸第一鉄の酸性水溶液を経口投与した場合の少なくとも120%、130%、140%又は150%になることが好ましい。生物学的利用能は、血清鉄AUC測定用の本明細書に記載の試験方法に基づく。
【0125】
組成物の含水量は10重量%未満、7重量%未満、約3~10%、約3~7%又は約5~7%であることが好ましい。
【0126】
一実施形態では、組成物は安定剤、例えば、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩(アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸の脂肪酸エステル)トコフェロール(α-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール)、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシル、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、第三ブチルヒドロキノン、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、又はこれらの組み合わせを含む。
【0127】
好ましい実施形態では、組成物は市販の鉄製剤(例えば、酸性水中硫酸第一鉄)よりも口当たりが良い。
【0128】
好ましい実施形態では、組成物は、周囲条件下で密封容器内に保存した場合、少なくとも6ヶ月間、好ましくは、少なくとも2年間は鉄II放出に関して、pH1.6及びpH6.6での溶解プロファイルの変化が20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、又は溶解プロファイルが実質的に変化しない点で安定である。好ましい実施形態では、組成物は、周囲条件下で密封容器内に保存した場合、少なくとも6ヶ月間、好ましくは、少なくとも2年間は微生物学的負荷に関して安定である。微生物学的負荷に関する安定性とは、FDAの21CFR211.165で解釈されるように組成物に「好ましくない微生物が存在しない」ことを意味する。これは、生菌総数の最大許容量が10cfu/1000mg、酵母及びカビ総数の最大許容量が10cfu/1000mg、及び大腸菌の非存在を包含することが好ましい。
【0129】
好ましい実施形態では、組成物は経口投与用マイクロビーズの形態である。経口投与後、ブリストル便性状スケール(本明細書に記載)を用いて評価する便秘の発生率が少なくとも50%低下する、及び/又は、修正胃腸症状評価スコア(本明細書に記載)を用いて評価する吐き気の発生率が少なくとも50%低下することが好ましい。
【0130】
組成物に適用される「カルシウム枯渇」という用語は、組成物がタンパク質100g当たり500mg未満の二価金属イオン(カルシウム等)、例えば、タンパク質100g当たり300mg未満の二価金属イオン、例えば、タンパク質100g当たり100mg未満の二価金属イオンを含むことを意味するものとして理解されるべきである。ある実施形態では、標準的な方法で測定された組成物に含まれる二価イオン/カルシウムの量は0.1%未満又は極微量である。
【0131】
ある実施形態では、本発明のマイクロビーズは(乾燥重量%として)75~95%又は85~95%の変性(必要に応じてカルシウム枯渇)乳清タンパク質又は乳清タンパク質単離物と2.5~10.0%の鉄を含む。
【0132】
変性乳清タンパク質は、例えば、変性乳清タンパク質濃縮物又は変性乳清タンパク質単離物とすることができる。乳清タンパク質を変性させるための方法は当業者には知られており、熱変性及び圧力誘発変性が挙げられる。本発明の一実施形態では、乳清タンパク質を70℃~140℃、好ましくは約80℃の温度で熱変性させる。乳清タンパク質を70℃超の温度で15分を超える時間加熱する。通常、変性中に乳清タンパク質を撹拌する。アンフォールディング/変性と可溶性オリゴマーの形成をモニターするための幾つかの方法が知られている。これらの方法としては、動的光散乱及びサイズ排除技法が挙げられる。曝露チオールと反応して着色付加物を生成するDTNB又は5,5’-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)を用いて乳清タンパク質溶液中のチオール曝露の程度をモニターすることが有用である。好ましい実施形態では、タンパク質又はβラクトグロブリンの変性の程度は80%超又は90%超であり、これはDTNBを用いて測定することができる。
【0133】
ある実施形態では、本発明のプロセスで用いるタンパク質は(水分、炭水化物及び脂肪を含まない基準で)タンパク質含有量が少なくとも90%、94%又は98%である。
【0134】
少なくとも一部変性タンパク質の溶液/懸濁液の濃度は4~30%であることが適切であり、7~30%であることが好ましく、9~16%(w/v)であることが理想的である。典型的には、タンパク質は乳清タンパク質であり、理想的には、懸濁液を細孔径が徐々に小さくなる一連のフィルターを通過させる。
【0135】
鉄塩の例としては、硫酸第一鉄、フマル酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、ビスグリシン酸第一鉄、タウリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、アスコルビン酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、乳酸第一鉄、酢酸第一鉄、炭酸第一鉄/菱鉄鉱、酸化第一鉄が挙げられる。これらの塩の第二鉄形態、更には二リン酸第二鉄ナトリウム、クエン酸第二鉄アンモニウム及び塩化第二鉄が挙げられる。
【0136】
他の実施形態では、組成物は、例えば、硫酸塩、リン酸塩、葉酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、ヘキサン酸塩、オクタン酸塩、デカン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ビスグリシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩を含む無水又は含水状態の第二鉄及び/又は第一鉄イオン錯体又は塩を含んでもよく、又はそれを用いて調製してもよい。使用されるこれらの鉄錯体及び塩は異なる鉄酸化物、鉄酸化物-水酸化物又は鉄水酸化物であってもよい。組成物は混合酸化状態の鉄塩、及びその水和物で調製してもよい。
【0137】
一実施形態では、第一鉄溶液はpHが5未満又は4.5未満である。
【0138】
ゲル化溶液は典型的にはカルシウムイオンを含まない。ゲル化溶液はナトリウム濃度が0.1~1M、又は典型的には0.2~0.5Mである。溶液は有機酸濃度が0.1~0.6Mであることが適切であり、典型的には0.15~0.25M、理想的に約0.2Mである。溶液は典型的にはpHが3~4.5であり、4未満が適切である。溶液は一般に温度が20~65℃であり、典型的には約45℃である。典型的には、酸性ゲル化溶液は形成されるマイクロビーズの凝集を防止又は阻害するために界面活性剤を含む。界面活性剤はポリソルベート界面活性剤であることが適切であり、理想的にはツイーン20である。ゲル化溶液はロイシン又はステアリン酸マグネシウム等の流動促進剤を含むことができる。変性タンパク質溶液と酸性化/ゲル化溶液を混合すると、即座にヒドロゲルネットワークが形成される。これを高剪断混合によって崩壊させてヒドロゲル微粒子を形成し、これを酸性環境下で更に硬化させる。
【0139】
形成されたマイクロビーズにゲル化溶液中で長時間の硬化を施すことが適切であり、(ゲル化後)少なくとも15分間行い、好ましくは少なくとも20分間行う。本発明の好ましい実施形態では、形成されたマイクロビーズを20~180分間、20~120分間又は20~60分間硬化させる。理想的には、硬化プロセス中に硬化溶液を撹拌する。
【0140】
本発明のマイクロビーズは、典型的には哺乳動物の胃を通過中に無傷で残存することができ、胃から離れた消化管(例えば、小腸)で第一鉄を放出することができる。「胃内で無傷で残存する」という表現は、マイクロビーズが消化管通過中に哺乳動物の胃内で胃分解又は消化分解に耐えることを意味する。
【0141】
微小液滴を生成する好ましい方法は振動技法による造粒であり、この場合、変性カルシウム枯渇タンパク質と鉄塩を別々に調製し、ノズルから押し出す直前又は押し出し中に混合し、所定の開口径を有するノズルに所定の振幅の正弦波周波数を印加して押し出された層流噴流の層状崩壊を誘発する。振動ノズル機の例としては、ENCAPSULATOR(BUCHI Labortechnik AG、スイス、フラウィル)、Nisco Engineering AG製の機械、又は相当するスケールアップ型、例えば、BRACE GmbH製の機械等が挙げられる。
【0142】
ノズルは開口が典型的には60~2000ミクロンであり、100~500ミクロンが好ましく、140~300ミクロンが適切であり、理想的には約150ミクロンである。
【0143】
振動ノズルの操作周波数は100~20,000Hzであることが適切である。必要に応じて静電電位を液滴に印加し、ノズルと硬化溶液との間の静電電位は典型的には0.15~0.3Vである。振幅は4.7kV~7kVであることが適切である。(ノズルから酸性化槽までの)落下距離は典型的には50cm未満であり、40cm未満が好ましく、20~40cmが適切であり、25~35cmが好ましく、理想的には約30cmである。(ノズルを通過する)懸濁液の流量は典型的には3.0~20ml/分であり、理想的な流量はプロセスで用いるノズル径によって決まる。
【0144】
一実施形態では、プロセスは生成初期のマイクロビーズの径が適切であることをモニターする段階を含む。
【0145】
適切な組成物としては、食品や飲料等の食用製品、あらゆる形態の栄養補助食品、例えば、単位用量製品、粉末等が挙げられる。典型的には、食品としては、健康飲料、ヨーグルト、ヨーグルト飲料、健康バー等が挙げられる。組成物は食用及び経口で有効な製剤(例えば、調製粉乳、妊婦用ビタミン、マルチビタミン、栄養補助食品、チュアブル栄養補助食品、グミ、食品、飲料、動物飼料、錠剤、カプセル又は懸濁液)の成分とすることができる。
【0146】
本発明のマイクロビーズ調製物は乾燥形態、例えば、噴霧乾燥形態、ドラム乾燥形態、脱水形態又は凍結乾燥形態で提供することができ、或いは、適切な溶媒(例えば、水)の懸濁液として提供することができる。
【0147】
変性カルシウム枯渇乳清タンパク質単離物(WPI)は本発明のマイクロビーズを生成するのに好ましい。乳清タンパク質濃縮物(WPC)もカプセル化材料としての可能性がある。
【0148】
本技術の一態様では、変性カルシウム枯渇乳清タンパク質単離物/濃縮物を使用する。ある実施形態では、タンパク質原料の二価金属含有量を低減させて処理中のタンパク質溶液の自然ゲル化を抑制し、その鉄結合特性を向上させ、哺乳動物に投与後のカルシウム放出を抑制して鉄の取り込みを向上させる。カルシウムはDMT-1による鉄の取り込みを阻害する。
【0149】
鉄のマイクロカプセル化に最適な組成物に乾燥カルシウム枯渇WPIを溶解することが適切である。カルシウム枯渇乳清タンパク質単離物(WPI)を最初に適切な環境条件(pH、塩、固体濃度)で変性させて、酢酸ナトリウムと硫酸第一鉄の存在下で押し出し及びカプセル化に適したタンパク質凝集体の可溶性分散液を生成することができる。このプロセスを用いて乳清タンパク質微小球体のマトリックスネットワーク内で第一鉄化合物を安定化させることができる。このプロセスは、乳清タンパク質ヒドロゲル溶液が電解質濃度、pH、撹拌及び温度に関して最適条件になると即座に生じる。硬化溶液中の第一鉄イオンと硫酸イオンは硬化を助長し、拡散及び捕捉によってビーズへの鉄の取り込みを可能にする。
【0150】
第一鉄カプセル化材料を形成するためのカルシウム枯渇乳清タンパク質(例えば、WPI)の調製は典型的には以下の段階を含む。
1.カルシウム枯渇WPIを4~30%(w/w)、7~30%(w/w)又は9~16%(w/w)の範囲の濃度で水に分散させる。これは、例えば、0.01~0.1%(w/w)の範囲(好ましくは0.04~0.09%w/wの範囲)でpH範囲を5.0~9.0(好ましくはpH範囲を6.0~7.0)としてブレードミキサー又はUltra-Turraxで高剪断撹拌を用いて行うことができる。
2.濾過を施して200ミクロン未満の濾過細孔径で変性材料を除去する。
3.熱処理を施してタンパク質の変性(アンフォールディング)を誘発する。タンパク質の変性は60~140℃で行うのが適切であり、好ましくは70~121℃で行い、pHの範囲は5.0~8.5(好ましくは6.0~8.2の範囲)とする。
【0151】
カルシウム枯渇変性タンパク質懸濁液を硫酸第一鉄溶液と共に同心ノズルから、酢酸/酢酸ナトリウム(0.1~5M)緩衝系(pH3~4.5)と界面活性剤を含む硬化溶液に高流量で押し出し、連続的に撹拌を行って癒着/凝集を抑制する。変性タンパク質溶液のpHをその等電点(「PI」)に近づけると反発クーロン力の低下によって凝集が促進されることは理解されよう。
【0152】
多くの技法を用いて本発明のマイクロビーズを得ることができる。便宜上、方法を機械的プロセス、化学的プロセス又は物理化学的プロセスに分類することができ、その例としては、化学的方法、その場重合及び界面重合方法、生理化学的方法、複合コアセルベーション及び機械的方法、噴霧乾燥及び押し出しをベースとした方法等の技法が挙げられる。
【0153】
機械的技法は、ノズル(オリフィス)から押し出されたポリマーから又は液体噴流の崩壊から液滴を生成する原理に基づく。このような技法は機械的手段(即ち、切断又は振動力)で作動してオリフィスで通常の滴下プロセスを高めるか、又はポリマーがノズルを通過する際に押し出される液体流を崩壊させる。液滴は生成後すぐに物理的手段(例えば、冷却又は加熱)又は化学的手段(例えば、ゲル化)によって固化されて球体/カプセルとなる。幾つかの異なる機械ベースの技法を用い、鉄と他の材料を乳清タンパク質マトリックス内にカプセル化して最終的な所望の特性を有する粒子を生成する。単純な滴下は粒子を生成する最も古い技術である。乳清タンパク質溶液をオリフィス(ノズル)から低速度で押し出すと、押し出された液体は重力が表面張力を超えるほどに大きくなるまでノズルの縁に付着し、その結果、液滴が放出される。速度をわずかに上昇させると形成される液滴の数が増加し、更に上昇させると液滴形成が更に増強する。液滴を形成後すぐに硬化させるが、得られる粒子の径は主にオリフィス直径に依存する。通常、生成したビーズは径が2mmを超える。
【0154】
噴霧乾燥は、液体ポリマーを先ず圧縮空気流で微粒化し、次に乾燥室内で別の高温ガス流で乾燥させて粒子を形成する単位操作である。空気が外部流路を通過し、内部流路を通過する液体流を微粒化する二流体ノズルを使用する。液体流はカルシウム枯渇変性乳清タンパク質の微粒子、緩衝剤及び鉄溶液から成るゲル分散液で構成されており、ノズルで微粒子にされるとすぐにフラッシュ蒸発によって乾燥されて、緩衝剤と鉄を捕捉した乳清タンパク質ビーズとなる。生成した粒子をサイクロン技術によって採取する。この技法によって10~50ミクロンの乳清タンパク質鉄粒子が生成する。必要に応じて、乾燥粒子を新たな硬化溶液中で更に処理することができる。
【0155】
当業者に知られている他の2種類の技法は、微小流体装置及び噴霧乾燥機と共に用いる三流体ノズル技法である。
【0156】
本発明の実施形態の一態様は、タンパク質ベース担体付き非晶質鉄塩調製物を含む組成物を含む。組成物中の鉄は第二鉄(Fe3+)を一部含むことができる。これは、第二鉄が消化管に送達されると第一鉄に比べて胃腸不快感のレベルの低下を引き起こすので好都合となり得る。第二鉄は腸内でDMT1活性の基質である第一鉄へ還元されることができる。しかし、タンパク質ベース担体付き非晶質鉄塩調製物は、典型的には少なくとも50%の第一鉄(Fe2+)を有し、これによって腸細胞DMT-1が媒介する吸収を介して適切な生物学的利用能が促進される。更に、胃を保護し、吐き気、嘔吐及び心窩部痛を抑えるために、低pH及び胃液の成分(例えば、ペプシン)の存在下での本発明の組成物からの第一鉄の放出は制限される。
【0157】
本発明の実施形態の一態様では、組成物の形成は、鉄含有組成物をタンパク質ベース組成物と混合し、得られた混合物を乾燥させて行うことができる。他の態様では、混合物が第一鉄を含む場合、乾燥段階によって、混合物中の少なくとも一部の第一鉄がタンパク質ベース担体付きの第二鉄形態の非晶質鉄塩調製物へと転換され得る。乾燥プロセスでは、更なる材料(例えば、二酸化ケイ素)を使用して乾燥中の組成物の「凝固」を防止することができる。
【0158】
この乾燥組成物は、保存時に(特に酸化に対して)変化しやすく及び/又は不安定であり、製造に関して一貫性がなく、処方、スケールアップ及び用量最適化への課題をまとめて提示する非乾燥組成物(ゲル調製物を含む)よりも有利となり得る。加熱/乾燥を施していないビーズは、その嵩高さに起因する更なる処方上の課題を提示する。更に、非乾燥鉄組成物は、鉄を複合活性サプリメント(例えば、マルチビタミン及び/又はマルチミネラルサプリメント)に配合することが望ましい場合には、適合性の観点から技術及びコストに関する課題を提示する。
【0159】
ある実施形態では、組成物を生成する際の第一鉄(2+)の第二鉄(3+)鉄への転換は乾燥時にもたらされ得る。他の実施形態では、第一鉄(2+)の第二鉄(3+)鉄への転換は、乳清タンパク質の抗酸化作用、迅速な乾燥(例えば、噴霧乾燥)、不活性(例えば、窒素)雰囲気中での乾燥、及び/又は抗酸化作用を有する安定剤の配合によって乾燥時に制限され得る。このような安定剤としては、次の全体又は一部、即ち、β-カロテン及びカロテノイド、ビタミンc、ビタミンe、亜鉛、セレン、銅、マンガン、アスタキサンチン、黒コショウ抽出物、補酵素Q10、リコピン、リジンベースの抗酸化剤、メチルコバラミン、ブドウ種子抽出物、ルテイン、朝鮮人参、柑橘類ビオフラボノイド、橙皮抽出物、緑茶抽出物、イチョウ、スプルリン、カモジグサ、オオムギ、アルファルファ、亜麻仁、バナナ葉抽出物を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0160】
本発明の一実施形態は、組成物を製造するための方法であって、緩衝鉄含有組成物を調製する段階と、タンパク質ベース組成物(好ましくは、変性カルシウム枯渇乳清タンパク質/β-ラクトグロブリン)を調製する段階と、前記第一鉄含有組成物を前記タンパク質ベース組成物と混合する段階と、混合物の鉄分の少なくとも一部をタンパク質ベース担体付き非晶質鉄塩調製物に転換する段階とを含む方法である。鉄含有組成物は第一鉄を含むことができる。混合物の鉄分の少なくとも一部をタンパク質ベース担体付きの主として非晶質の第二鉄製剤に転換することができる。
【0161】
他の実施形態では、この方法を更に次のように特定することができる。即ち、第一鉄含有組成物は溶液であり、タンパク質ベース組成物はタンパク質ベース材料の懸濁液であり、混合段階は懸濁液が微小液滴として押し出されるように懸濁液を振動ノズルから押し出すことを含み、ビーズが生成されるように微小液滴を溶液を含む槽へ押し出し、組成物は前記ビーズを含む。
【0162】
ある実施形態では、組成物の乾燥中に転換がなされる。乾燥プロセスを大気中又は酸素の存在下で行う場合、この乾燥プロセスは鉄分の少なくとも一部を酸化する作用を有しており、主に第一鉄(2+)状態からタンパク質ベース担体付き非晶質鉄塩調製物に変化し、鉄の一部は第二鉄(3+)状態になると考えられる。
【0163】
他の実施形態では、本明細書に記載の組成物中で鉄の代わりに二価金属イオンを用いる。このような金属イオンとしては、亜鉛、マンガン、銅、クロム、セレン、モリブデン、これらの組み合わせ、又はこれらと鉄の組み合わせが挙げられる。ある実施形態では、得られたビーズは嗜好性が改良されている(例えば、硫酸鉄、硫酸亜鉛)。
【0164】
実験
マイクロビーズの生成
(a)乳清タンパク質の脱石灰化
WPIをイオン交換樹脂で処理し、二価(例えば、カルシウム)の陽イオンを一価の陽イオンで置換した。
【0165】
(b1)第一鉄のカプセル化-実施例1(ST1501)
(100g当たり)1gを超える元素鉄と最大95グラムのタンパク質を含むカルシウム枯渇WPIを用いて第一鉄カプセル化系を調製した。界面活性剤を0.01~0.1%(w/w)の範囲で存在させ、pH範囲を6.0~7.0としてブレードミキサー又はUltra-Turraxで乳清タンパク質溶液(WPS)の原液を調製した。溶液を150ミクロンのフィルターで濾過する。次に、適切な環境条件下(pH7.0、>78℃、4~11%w/wのタンパク質含有量)で乳清タンパク質単離物(WPI)を熱変性させた。熱処理は70~140℃、pH範囲5.0~8.5で行った。熱処理を撹拌下(150~200rpm)で行ってタンパク質凝集物の可溶性懸濁液の生成を可能にした。熱変性を30~90分間行って疎水性部位を変性及び露出させた。
【0166】
タンパク質の活性化(即ち、熱変性)後、凝集物の溶液を迅速に室温まで冷却した。必要に応じて、撹拌させながら4℃で一晩保存することができる。500gのタンパク質溶液を用いて組成物のマイクロビーズを生成した。
【0167】
生成直前に硬化溶液を以下のように調製した。即ち、2種類の溶液(250gの5M酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.8、酢酸含有)及び250gの1M硫酸鉄溶液)を調製した後に混合し、タンパク質溶液の押し出しを行う。一旦両方の溶液を混合して500gの硬化溶液を得たら、ツイーン20とL-アスコルビン酸を硬化溶液に添加し、次にこの溶液を用いて500gの変性乳清タンパク質をゲル化して沈殿させた後、回転撹拌機を10,000RPMで1分間使用して粒径縮小化を行った。5M酢酸ナトリウム緩衝液の調製は14.3gの無水酢酸ナトリウム(MWt 82.03g/mol)を178.3gの超純水に溶解しておこなった。塩が完全に溶解した後、撹拌させながら57gの氷酢酸をゆっくりと添加した。緩衝液を少なくとも10分間撹拌し、放置させた場合には再撹拌した。1MFeSO4溶液の調製は69.5gの硫酸鉄(II)七水和物を180.5gの超純水に溶解して行った。両方の溶液を混合(各々250g)して500mlの「硬化溶液」を得た。溶液をLR-1000中で密封して蒸発を防ぎ、40℃まで加熱した。溶液のpHは3.4であった。全部で0.22gのツイーン20を硬化溶液に添加し、少なくとも5分間混合した。この後、8.80gのL-アスコルビン酸を添加し、再度溶液を5分間混合した。
【0168】
ゲル形成はIKA LR-1000内で硬化溶液を攪拌し、硬化溶液に変性WPS(上で調製)を添加して行い、攪拌が適切に行われて形成中のゲルが崩壊することが確認された。また、乳清タンパク質硬化溶液の温度を40℃に維持する。メスシリンダーを用いてWPSをゆっくりと1~2分に亘って添加する。乳清タンパク質硬化溶液がかなり泡立つ場合には撹拌速度を低下させる。過剰な泡立ちによって溶液の噴霧が非常に難しくなる。溶液に消泡剤を添加して泡立ちを抑えることもできる。WPSを全て添加した後、撹拌(混合)を続けてゲルを硬化溶液中に30分間存在させる。ゲル粒子のD90は80ミクロン未満とする必要がある。これで二流体ノズルによる粒子の送り込みが容易になり、詰まりを防ぐことができる。
【0169】
ゲル懸濁液を30分間硬化させた後、BUCHI B-290小型噴霧乾燥機(実験室規模)に供給した。ゲル粒子のD90は80ミクロン未満とする必要がある。これで二流体ノズルによる粒子の送り込みが容易になり、詰まりを防ぐことができる。噴霧乾燥機は標準的なオープンモードで使用し、除湿機を配置させて流入する乾燥空気を処理した。高性能サイクロンを使用して製品をできるだけ多く回収できるようにした。以下のパラメータを出発点として用いて溶液を噴霧した。
・出口温度を80℃に維持する。
・ロータメーター(噴霧ガス流量)をゲージ上40mmの高さに設定し、473L/hrの流量に変換した。
・水道水を熱交換器を通してノズル周辺に送って噴霧プロセス中にノズルを冷却し続けた。
【0170】
このプロセス中、入口温度を191℃まで上昇させた。
【0171】
得られた球状粒子には結合鉄と非結合鉄が含まれており、実質的に即時放出プロファイルを示し(図4)、D90は<15μm(ビーズのSEMを図3に示す)で、非晶質であり(図9a)、初期の乾燥減量は15%(図8a)で80℃での更なる乾燥で<8%に低下した(図8b)。これらの粒子は鉄が10.8%w/wであった。これらの粒子は酢酸塩が8%w/wであった。FTIRトレースでは図7aの1560~1410cm-1に特徴的な酢酸ナトリウムのピークの存在を示す。
【0172】
(b2)第一鉄のカプセル化-実施例2(ST1502)
上述のように、(100g当たり)1gを超える元素鉄と最大95グラムのタンパク質を含むカルシウム枯渇WPIを用いて第一鉄カプセル化系を調製した。界面活性剤を0.01~0.1%(w/w)の範囲で存在させ、pH範囲を6.0~7.0としてブレードミキサー又はUltra-Turraxで乳清タンパク質溶液(WPS)の原液を調製した。溶液を150ミクロンのフィルターで濾過する。次に、適切な環境条件下(pH7.0、>78℃、4~11%w/wのタンパク質含有量)で乳清タンパク質単離物(WPI)を熱変性させた。熱処理は70~140℃、pH範囲5.0~8.5で行った。熱処理を撹拌下(150~200rpm)で行ってタンパク質凝集物の可溶性懸濁液の生成を可能にした。熱変性を30~90分間行って疎水性部位を変性及び露出させた。
【0173】
次に、組成物のマイクロビーズの生成を、硬化溶液(上述の500mMの硫酸第一鉄と500mMの酢酸ナトリウム)をIKA LR-1000に投入し、40℃まで加熱して行った。約500mlの変性乳清タンパク質溶液(10.5%)を30秒に亘って添加した。乳清タンパク質溶液の添加及びゲル形成後、Turrax回転撹拌機を用いて硬化溶液を15,000rpmで2分間撹拌し、溶液を低撹拌速度(撹拌機100RPM)で60分間硬化させた。再度形成された湿潤粒子は非常に小さく(Malvernによる粒径結果を示す)、トレイ乾燥前はD50が33ミクロンの二峰性パターンを示し、80℃で更に径が減少した。
【0174】
マイクロビーズの特性化
X線回折
粉末X線分析は、Ni濾過CuKα放射線(λ=1.54Å)を用いMiniflex IIリガク回折装置によって行った。用いた管電圧と管電流はそれぞれ30kVと15mAであった。各試料のスキャンはステップサイズを0.05°/sとし、2θスケール範囲5~80°で行った。図9から分かるように、粉末XRDトレースによって粉末ビーズ構造は本質的に非晶質であることが示される(Y軸は強度、X軸は2θ散乱角である)。
【0175】
熱重量分析
噴霧乾燥のみを行った後(A)及び噴霧乾燥と更に80℃で乾燥を行った後の本発明のマイクロビーズの乾燥減量の熱重量分析(TGA)。秤量した粉末試料(10~15mg)をオープンセラミックパンで分析した。TGA測定は、TA-Instruments社の熱重量分析器TGA-Q50機器を用い次の温度プログラムで行った。試料を120℃まで加熱(10℃/分)し、120℃で45分間等温保持(図8)。
【0176】
フーリエ変換赤外分析
赤外測定はPerkinElmer Spectrum 100 FT-IR分光計により4000~650cm-1で減衰全反射(ATR)サンプリングを用いて行った(図7)。
【0177】
走査電子顕微鏡法
走査電子顕微鏡法(SEM)画像はGemini(登録商標)カラムを有するZeiss Ultra Plus Field Emission SEM(Zeiss)に記録した。乾燥試料ビーズを導電性カーボンテープに載せ、それ以上の調製や試料コーティングは行わなかった。2~3kVの加速電圧を用いて広範囲の放電効果を克服した。
【0178】
インビトロ溶解
鉄IIの測定
硫酸鉄(II)の水(10mM)溶液をpH1.8のKCl緩衝液を用いて連続的に希釈した。希釈溶液のアリコート(100μl)を100μlの1,10-フェナントロリン(5mM)を含む96ウェルプレートに添加した。マルチウェルプレートリーダーを用いて490nmでプレートを読み取り、検量線を構築した。溶解試料を典型的にはpH1.6でフェナントロリン(5mM)に10倍希釈し、試料をNブランケット下で迅速に読み取った。
【0179】
鉄IIIの測定
50mgのビーズを10M HCl(10ml)を含むバイアルに移し、室温で一晩放置した。得られた溶液を振盪した後、100μlのアリコートを900μlの10M HClに移した。希釈液の100μlアリコートを1Mチオシアン酸ナトリウム(100μl)を含む96ウェルプレートに添加した。吸光度をマルチウェルプレートリーダーを用いて450nmで測定した。鉄IIIの濃度は一連の鉄III標準溶液を参照して推定した。
【0180】
模擬腸内溶解方法
15mlのpH6.6の緩衝液(0.1M重炭酸ナトリウム、10mg/mlの胆汁酸抽出物、1.85mg/mlのパンクレアチンを含む、1M HClでpH6.6に調整)が投入された三つ口容器に正確に秤量したマイクロビーズ試料(約50mg)を37℃で投入した。通常は1分、15分、30分、45分、60分の時点、時には90分、120分の時点で試料を採取し、鉄(II)と鉄(III)の測定を行った。鉄IIの測定では、100μlの溶解上清を900μlのpH1.8の緩衝液に希釈した。鉄IIIの測定では、溶解上清の100μlアリコートを10M HClで900μlに希釈し、室温で一晩放置した。最終時点の後、全ての緩衝液を取り出し、10mlの10M HClをフラスコに添加して一晩放置した。ビーズを一晩完全に溶解させ、100μlの溶液を900μlの10M HClに添加して鉄IIIの総濃度を測定した。
【0181】
模擬胃酸溶解方法
NaCl(34.2mM)、タウロコール酸ナトリウム(80μM)、0.1mg/mlのペプシンを含み、1M HClでpH1.6に調整した15mlのpH1.6の緩衝液へ正確に秤量したマイクロビーズ試料(約50mg)を37℃で投入した。試料を典型的には1分、15分、30分、45分、60分、90分、120分で採取し、鉄(II)と鉄(III)の測定を行った。鉄IIの測定では、100μlの溶液を取り出し、900μlのpH1.8の緩衝液に希釈した。鉄IIIの測定では、100μlの溶液を10M HClで900μlに希釈し、室温で一晩放置した。2時間の時点の後、全ての緩衝液を取り出し、10mlの10M HClをフラスコに添加して一晩放置した。マイクロビーズを一晩後に完全に溶解させた。100μlのアリコートを900μlの10M HClに添加して総鉄量を測定し、120分間の溶解後の残留鉄量を推定した。
【0182】
鉄II及び鉄IIIの溶解方法は正確さと精密さに関して有効であった。
【0183】
マイクロビーズ中の鉄IIの測定
マイクロビーズ試料を乳鉢と乳棒で破砕又はボールミルで粉砕した。1gの試料を磁気撹拌機を備えたガラスバイアルに移し、そこに窒素スパージして酸素を除去した10mLの希水性HCl(0.1M)を添加した。得られた懸濁液を50℃まで加熱した後、破砕ビーズが溶解するまで超音波処理を施した。0.1mLのアリコートを窒素下で取り出して迅速に移し、上述のフェナントロリン法を用いて鉄IIの測定を行った。
【0184】
pH測定
試料(230mg、約25mgの鉄を含む)を10mlのpH1.6の緩衝液(NaCl(34.2mM)、タウロコール酸ナトリウム(80μM)、0.1mg/mlのペプシンを含む)に添加した。溶液のpH値は30分以内で2倍になった。
【0185】
試料(230mg、約25mgの鉄を含む)を10mlのpH6.6の緩衝液(0.1Mの重炭酸ナトリウム、10mg/mlの胆汁酸抽出物、1.85mg/mlのパンクレアチンを含む)に添加した。溶液のpH値は30分以内で2倍になった。
【0186】
等モル量の硫酸第一鉄も同じ溶液中、同じ手順で評価した。結果を図5に示す。
【0187】
インビボ有効性データ
血清フェリチンが>15μg/Lで健康状態が良好の成人女性を対象とした。対象は書面によるインフォームド・コンセントを提出し、妊娠はしていなかった。各対象は元素鉄の1日用量が25mgの2種類の経口投与グループの内の1種類、即ち、硫酸第一鉄の元素鉄25mg又はST1501の元素鉄25mgの単回投与を受け、クロスオーバー評価を行った。別の分析では、症例報告の一部として製品をTardyferonの元素鉄80mgと比較した。研究且つ試験用投与から2時間後の空腹時(>8時間)血清鉄のトラフ/ピーク比を終点とした。
【0188】
空腹時血液試料(8ml)をスクリーニング訪問時に採取し、全血球数(FBC)、血清鉄及びフェリチンを評価した。介入期間にも血液の採取をベースライン(8ml)、2時間(4ml)及び4時間(4ml)で行った。全血球数、血清鉄、フェリチン及び鉄結合能をベースラインで測定し、血清鉄を2時間及び4時間で評価し、フェリチン及び鉄結合能も測定した。全ての試料は認可された分析用契約研究所に送られた。研究を通して全部で24mlの血液を採取した。
【0189】
実施例3:最適な混合手段の決定
本発明の一実施形態では、9%乳清タンパク質単離物との混合に関して最大の予混合鉄負荷は10~15mMの硫酸第一鉄であった。ある実施形態では、タンパク質ベース材料の前処理、溶液pH及び使用する鉄の形態が製品に影響を及ぼした。例えば、ある実施形態では、タンパク質ベース材料の適切な水和が必要とされ、乾燥硫酸第一鉄よりも硫酸第一鉄七水和物の方が水溶性と純度が高くて好ましいことが分かった。
【0190】
実施例4:タンパク質ベース溶液の調製
本発明の一実施形態では、乳清タンパク単離物(WPI)を250mLの滅菌水に分散させ(10.5%w/v)、わずかに撹拌しながら(180rpm)4℃で2~16時間放置して水和させた。分散液のpHをHClを用いて7に調整した。pHを調整した分散液を必要に応じて連続フィルターで濾過した後、必要に応じて最終的にはDurapore(登録商標)0.45μm HVLPで濾過した。次にタンパク質分散液を撹拌下(95rpm)、80(75~90)℃まで45~60分間加熱した。次に分散液を氷上で冷却し4℃で16時間保存した。
【0191】
実施例5:硬化溶液の調製
本発明のある実施形態では、鉄塩含有硬化溶液(一価金属イオンと0.1~5.0Mの範囲の緩衝剤を含む)のpHを3.2~6.5に調整した。理想的には、硬化溶液のpHを3.5~4.0とする。硫酸第一鉄(0.1~1.0M)を硬化溶液に添加してpHを更に調整した。次に溶液を40℃まで加熱した。必要に応じて、低濃度の界面活性剤を添加した。次に溶液を40℃に維持した。
【0192】
実施例6:タンパク質付き乾燥非晶質鉄調製物の生成
ゲルビーズを25℃で16時間、又は最高80℃で2~16時間乾燥させて、タンパク質ビーズ付き乾燥非晶質鉄調製物を形成する。熱重量分析を用いて非晶質鉄の含水量を求める。ビーズをサンプリング(既知重量)し、10M HClに溶解後、チオシアン酸ナトリウム法を用いて各バッチの乾燥ビーズ当たりの鉄含有量(w/w)を確認した。乾燥非晶質鉄-タンパク質ビーズを気密容器内に密封する。
【0193】
実施例7:ビーズ分析
標準的なチオシアン酸ナトリウム法を用いてタンパク質ビーズの総鉄含有量を測定し、%w/wビーズで表した。総鉄量の測定は、約100mgのビーズを100mlの10M HClを用いて60℃で2時間処理し、ビーズを完全に溶解させて行った。次に溶液を10M HClで10倍に希釈した。100μlの希釈溶液を100μlの1Mチオシアン酸ナトリウムと反応させた。鉄IIIイオン濃度の測定は、得られた錯体の吸光度を495nmで求め、検量線と比較することによって行った。光学顕微鏡法に加え、マイクロカプセル形態評価のためにライカTCS SP5共焦点レーザー走査顕微鏡(CSLM)を用いて更なる画像分析を行った。1バッチ当たり50個のビーズを用いて平均径分布及びD(v、0.9)(累積体積が総体積の90%となる径)を評価したが、これは明視野光学顕微鏡を用いて最大倍率×40で分析した。
【0194】
ビーズの溶解プロファイルは、ビーズをpH1.6、pH6.6及びpH8.4の緩衝液中、37℃でインキュベートして検討した。鉄IIと鉄IIIの濃度は0分、15分、30分、45分、60分、90分、120分の時点で測定した。鉄II濃度は各時点で100μlの溶液を900μlの水に投入して測定し、鉄IIイオンの測定は、5mMの1,10フェナントロリンを用いた標準的な錯滴定によって、錯体の吸光度を450nmで測定し、標準曲線と比較して行った。鉄II測定は、窒素雰囲気下で分析を行い鉄IIIへの人為的酸化を適切に抑制して行った。鉄III測定では、100μlの溶液を10M HClで900μlに希釈し、室温で一晩放置して完全に酸化物とした。鉄III含有量は上述の標準的なチオシアン酸ナトリウム法を用いて測定した。
【0195】
上限である約9%βラクトグロブリン(BLG)(11%の変性WPIが9%BLGに相当)を用いてBLG/WPIの自然ゲル化を防いだ。ビーズ生成は、最大250~1000mMの酢酸ナトリウムと最大250~1000mMの硫酸第一鉄を含む硬化溶液を用い、30分間硬化させて行った。生成したゲルビーズには0.5~2%w/wの鉄が含まれており、乾燥を15℃、16時間~70℃、2時間の条件で行うと、組成物の鉄含有量はそれぞれ2.5%w/w~10%w/wとなった。
【0196】
生成した乾燥非晶質鉄-タンパク質マイクロビーズは耐久性があって安定である。周囲条件下及び加速安定性貯蔵条件下で数ヶ月間放置された乾燥非晶質鉄-タンパク質マイクロビーズは元のビーズと同様の固体特性を示し、更にpH6.6での鉄II放出に関しては新たに生成した試料と同様に振る舞うことが示された。
【0197】
乾燥非晶質鉄-タンパク質ビーズを水に溶解させると、15分以内に水を吸収し、乾燥ビーズの周囲にゲル拡散層が形成されるが、これは鉄放出プロファイルの修正に関与する。
【0198】
粉砕した凍結乾燥ビーズはインビボでの有効性がかなり低い。また、粉砕した形成不十分の乾燥ゲルビーズをインビトロで溶解させると、より高い即時放出性プロファイルが迅速にもたらされる。
【0199】
実施例8:組成物のインビトロ溶解
約2~4mgの元素鉄を含むビーズの既知量を10mLの緩衝溶液に溶解させてpH1.6での硫酸第一鉄の鉄に関するシンク条件を確実にし、温度制御槽で37℃に維持した。溶液を覆って蒸発を防いだ。ベースライン及び15分、30分、45分、60分、90分、120分の時点で、溶液の100μLアリコートを2個取り出して鉄の分析を行った。一方のアリコートをすぐに水で900μlに希釈し、1,10フェナントロリンを用いた標準的な錯滴定によって溶液中の鉄II含有量を測定した。もう一方のアリコートは鉄IIIの測定用に保存した。即ち、100μlの溶液を10M HClで900μlに希釈し、室温で一晩放置して完全に酸化物とした。標準的な実験室イソチオシアネート法を用いて鉄III含有量を測定した。実験は3回行った。
【0200】
結果
粉末X線分析は、Ni濾過CuKα放射線(λ=1.54Å)を用いMiniflex IIリガク回折装置によって行った。用いた管電圧と管電流はそれぞれ30kVと15mAであった。各試料のスキャンはステップサイズを0.05°/sとし、2θスケール範囲5~80°で行った。図9から分かるように、ST1501の組成物(乾燥Fe2+放出ビーズ)と同様の割合で乳清タンパク質とFeSO4.7H2Oを物理的に混合したもののXRDトレースでは、ST1501には存在しない散乱角2θ(°)=12.9、16.3、19.9、22.5、26.3及び30.1でピークの存在が示されており、これによって硫酸第一鉄組成物が主として非晶質な物理状態であることが確認される。
【0201】
実施例9:安定性試験
中間体ゲルビーズが酸化に関して安定ではなく、これが溶解媒体中での第一鉄(II)放出の低下に反映されることに留意することが重要である。これに応じて、24時間超で調製されたゲルビーズは変化しやすくて臨床的に性能が低く、拡張性がないか又は商業的に受け入れられない。更に、このようなゲル中間体は微生物の増殖を起こしやすい。本発明のST1501マイクロビーズは、周囲条件下で密閉容器に保存した場合、少なくとも6ヶ月間はpH1.6とpH6.6での溶解プロファイルが鉄II放出に関して実質的に変化しないという点で安定であることが分かった。例えば、本発明の一実施形態では、[1]周囲条件下でヒドロキシルプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセルにブリスター包装した場合、及び[2]室温にて密閉室内で窒素下、HPMCカプセルにブリスター包装してアルミニウムで更に密閉した場合には、長期間保存した後、pH6.6で行った溶解実験の際に1時間に亘り、組成物はベースラインで放出される鉄II量(100%に設定)の98.2%±2.5%及び97.3%±2.3%を放出した。更に、両方の組成物には好ましくない微生物が存在しなかった(例えば、生菌総数の最大許容量が10cfu/1000mg、酵母及びカビ総数の最大許容量が10cfu/1000mg、及び大腸菌の非存在)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10