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特許7193165核磁気共鳴装置、磁気共鳴イメージング装置、核磁気共鳴方法、磁気共鳴イメージング方法、測定条件を決定する方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】核磁気共鳴装置、磁気共鳴イメージング装置、核磁気共鳴方法、磁気共鳴イメージング方法、測定条件を決定する方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20221213BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20221213BHJP
   G01R 33/46 20060101ALI20221213BHJP
   G01R 33/54 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
A61B5/055 312
A61B5/055 370
G01N24/08 510D
G01N24/08 510P
G01R33/46
G01R33/54
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020503666
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2019008240
(87)【国際公開番号】W WO2019168188
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018036934
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 進
【審査官】最首 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-233515(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094582(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0139222(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/08
G01R 33/46
G01R 33/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場を形成する静磁場形成部と、
前記静磁場内に対象を保持する対象保持部と、
前記静磁場内の前記対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加し、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加するパルス印加部と、
前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出する検出部と、
を備え、
前記静磁場内の第1の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第1の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度、
前記静磁場内の第2の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第2の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度としたとき、
前記第1の要素及び前記第2の要素を識別し且つ前記第1の要素及び前記第2の要素の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを前記所定回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となるように、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となるように、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、又は、(iv)前記第2の要素が複数の異なる要素から構成される場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の要素の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、前記所定時間及び前記所定回数は定められている、
核磁気共鳴装置。
【請求項2】
前記パルス印加部は、前記所定時間を5μs以上1s以下の範囲内において変化させることが可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の核磁気共鳴装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の核磁気共鳴装置と、
前記検出部が検出した前記信号強度に基づいて画像を生成する画像生成部と、
を備える、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
静磁場内の対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加し、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加するステップと、
前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出するステップと、
を備え、
前記静磁場内の第1の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第1の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度、
前記静磁場内の第2の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第2の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度としたとき、
前記第1の要素及び前記第2の要素を識別し且つ前記第1の要素及び前記第2の要素の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを前記所定回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となるように、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となるように、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、又は、(iv)前記第2の要素が複数の異なる要素から構成される場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の要素の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、前記所定時間及び前記所定回数は定められている、
核磁気共鳴方法。
【請求項5】
請求項4に記載の核磁気共鳴方法で検出した前記信号強度に基づいて前記対象の画像を生成するステップ、
を備える、磁気共鳴イメージング方法。
【請求項6】
コンピュータを、
パルス印加部に、静磁場内の対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加させ、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加させるパルス印加手段、及び、
検出部に、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出させる検出手段、
として機能させる、プログラムであって、
前記静磁場内の第1の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第1の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度、
前記静磁場内の第2の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第2の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度としたとき、
前記第1の要素及び前記第2の要素を識別し且つ前記第1の要素及び前記第2の要素の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを前記所定回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となるように、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となるように、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、又は、(iv)前記第2の要素が複数の異なる要素から構成される場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の要素の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、前記所定時間及び前記所定回数は定められている、プログラム。
【請求項7】
コンピュータを、さらに、前記信号強度に基づいて前記対象の画像を生成する画像生成手段として機能させる、請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
静磁場内の対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加し、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加し、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出する、核磁気共鳴法における、前記所定時間及び/又は前記所定回数を含む測定条件を決定する方法であって、
前記所定時間の候補である1つ以上の時間を候補時間、
前記所定回数の候補である1つ以上の回数を候補回数としたとき、
前記候補時間毎に、前記静磁場内の第1の基準対象に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、該候補時間の半分が経過した時点を初回として、該候補時間の間隔で少なくとも前記候補回数の最大値だけ印加する第1のパルス印加工程と、
前記候補回数毎に、前記第1のパルス印加工程で該候補回数目の前記πパルスの印加により前記第1の基準対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度として検出する第1の信号検出工程と、
前記候補時間毎に、前記静磁場内の第2の基準対象に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、該候補時間の半分が経過した時点を初回として、該候補時間の間隔で少なくとも前記候補回数の前記最大値だけ印加する第2のパルス印加工程と、
前記候補回数毎に、前記第2のパルス印加工程で該候補回数目の前記πパルスの印加により前記第2の基準対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度として検出する第2の信号検出工程と、
前記候補時間及び前記候補回数毎に、該候補時間の間隔で行った前記第1のパルス印加工程の該候補回数目の前記πパルスの印加に対応する前記第1の信号強度と、該候補時間の間隔で行った前記第2のパルス印加工程の該候補回数目の前記πパルスの印加に対応する前記第2の信号強度とについて、前記第1の基準対象及び前記第2の基準対象を識別し且つ前記第1の基準対象及び前記第2の基準対象の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを該候補回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となる場合に、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となる場合に、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となる場合に、又は、(iv)前記第2の基準対象が複数の異なる基準対象から構成され、前記第2のパルス印加工程及び前記第2の信号検出工程は、前記基準対象毎に行われる、又は、前記第1のパルス印加工程及び前記第1の信号検出工程とあわせて同時に行われる場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の基準対象の前記第2の信号強度の平均の比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となる場合に、該候補時間を前記所定時間の1つとして決定し、及び/又は、該候補回数を前記所定回数の1つとして決定する、条件決定工程と、
を備える、測定条件を決定する方法。
【請求項9】
パルス印加部により、静磁場内の対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加し、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加し、検出部により、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出する、核磁気共鳴法における、前記所定時間及び/又は前記所定回数を含む測定条件を決定するプログラムであって、
前記所定時間の候補である1つ以上の時間を候補時間、
前記所定回数の候補である1つ以上の回数を候補回数としたとき、
コンピュータを、
前記パルス印加部に、前記候補時間毎に、前記静磁場内の第1の基準対象に、前記π/2パルスを印加させ、その後、前記πパルスを、該候補時間の半分が経過した時点を初回として、該候補時間の間隔で少なくとも前記候補回数の最大値だけ印加させる第1のパルス印加手段、
前記検出部に、前記候補回数毎に、前記第1のパルス印加手段で該候補回数目の前記πパルスの印加により前記第1の基準対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度として検出させる第1の信号検出手段、
前記パルス印加部に、前記候補時間毎に、前記静磁場内の第2の基準対象に、前記π/2パルスを印加させ、その後、前記πパルスを、該候補時間の半分が経過した時点を初回として、該候補時間の間隔で少なくとも前記候補回数の前記最大値だけ印加させる第2のパルス印加手段、
前記検出部に、前記候補回数毎に、前記第2のパルス印加手段で該候補回数目の前記πパルスの印加により前記第2の基準対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度として検出させる第2の信号検出手段、及び、
前記候補時間及び前記候補回数毎に、該候補時間の間隔で行った前記第1のパルス印加手段の該候補回数目の前記πパルスの印加に対応する前記第1の信号強度と、該候補時間の間隔で行った前記第2のパルス印加手段の該候補回数目の前記πパルスの印加に対応する前記第2の信号強度とについて、前記第1の基準対象及び前記第2の基準対象を識別し且つ前記第1の基準対象及び前記第2の基準対象の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを該候補回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となる場合に、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となる場合に、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となる場合に、又は、(iv)前記第2の基準対象が複数の異なる基準対象から構成される場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の基準対象の前記第2の信号強度の平均の比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となる場合に、該候補時間を前記所定時間の1つとして決定し、及び/又は、該候補回数を前記所定回数の1つとして決定する、条件決定手段、
として機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴装置、磁気共鳴イメージング装置、核磁気共鳴方法、磁気共鳴イメージング方法、測定条件を決定する方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置は、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)現象を利用して試料内部の情報を画像化するものとして知られている。
【0003】
核磁気共鳴は、静磁場方向を軸として歳差運動をしている核スピンに対して、当該歳差運動の周波数(ラーモア周波数)と同じ周波数のパルスを印加した場合に発生する。こうしたパルスを試料に印加して得られる、当該パルスに対する試料中に含まれる当該核の核スピンからの応答信号に基づいて生成した試料の画像を、MRI画像と呼ぶ。例えば、共鳴によって状態が変化した核スピンが元の状態に戻る緩和現象の特性は、当該核スピンの置かれた状況により異なる。そこで、このような緩和現象に基づく核磁化分布をMRI装置により画像化することでMRI画像を得ることができる。
【0004】
緩和現象は、核スピンの静磁場方向(Z方向)の成分に係る縦緩和と、回転方向(XY方向)の成分に係る横緩和とに分けられる。縦緩和及び横緩和は、それぞれの関数の時定数によりT1緩和、T2緩和とも呼ばれる。
【0005】
従来のMRI装置として、図10に示すパルス列のように、励起パルスとしてのπ/2パルス(90°パルス)と、反転パルスとしてのπパルス(180°パルス)とを一定時間τだけ空けて印加し、さらにτ経過後に観測されるハーンエコー(スピンエコー)に基づいて、縦緩和によってコントラストが付いた核磁化分布を画像化したT1強調画像や、横緩和によってコントラストが付いた核磁化分布を画像化したT2強調画像を得るものがある(例えば、特許文献1)。ただし、主に撮像時間を実用的なものにする要請からT1強調による画像取得は一般的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-277006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図10に示すパルス列による従来のスピンエコー法は、試料を構成する要素の種別によっては、明瞭なMRI画像を得ることができないという問題がある。例えば、試料が腎臓である場合、従来のスピンエコー法では、腎臓の主構成要素である腎臓組織、尿管、血液のそれぞれの時定数T2(後述するハーンエコー法で得られる)が同様な振る舞いを示してしまうため、明瞭なコントラストが付されたMRI画像が得られなかった。
【0008】
図11に、試料を腎臓に模した場合の従来法によるスピンエコー強度特性を示す。同図において、「ゲル」、「尿」、及び「食塩水」は、それぞれ、腎臓の構成要素のうち、腎臓組織、尿管、及び血液(血管)に相当する。同図から分かるように、従来のハーンエコー法では、構成要素間のスピンエコーの信号強度の差が顕著とはならない(TE1でもTE2でも3つの対象がほぼ同じ強度となる)ため、結果として、明瞭なMRI画像が得られないことを示している。
【0009】
組織試料からのNMR信号を検出する従来のNMR装置でも、同様に、上述のような試料を構成する要素を明瞭に識別することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、核磁気共鳴信号間でコントラストが得られる、核磁気共鳴装置、磁気共鳴イメージング装置、核磁気共鳴方法、磁気共鳴イメージング方法、測定条件を決定する方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る核磁気共鳴装置は、
静磁場を形成する静磁場形成部と、
前記静磁場内に対象を保持する対象保持部と、
前記静磁場内の前記対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加し、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加するパルス印加部と、
前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出する検出部と、
を備え、
前記静磁場内の第1の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第1の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度、
前記静磁場内の第2の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第2の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度としたとき、
前記第1の要素及び前記第2の要素を識別し且つ前記第1の要素及び前記第2の要素の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを前記所定回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となるように、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となるように、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、又は、(iv)前記第2の要素が複数の異なる要素から構成される場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の要素の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、前記所定時間及び前記所定回数は定められている。
【0013】
前記パルス印加部は、前記所定時間を5μs以上1s以下の範囲内において変化させることが可能である、ものでもよい。
【0014】
本発明の第2の観点に係る磁気共鳴イメージング装置は、
本発明の第1の観点に係る核磁気共鳴装置と、
前記検出部が検出した前記信号強度に基づいて画像を生成する画像生成部と、
を備える。
【0015】
本発明の第3の観点に係る核磁気共鳴方法は、
静磁場内の対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加し、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加するステップと、
前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出するステップと、
を備え、
前記静磁場内の第1の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第1の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度、
前記静磁場内の第2の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第2の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度としたとき、
前記第1の要素及び前記第2の要素を識別し且つ前記第1の要素及び前記第2の要素の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを前記所定回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となるように、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となるように、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、又は、(iv)前記第2の要素が複数の異なる要素から構成される場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の要素の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、前記所定時間及び前記所定回数は定められている。
【0016】
本発明の第4の観点に係る磁気共鳴イメージング方法は、
本発明の第3の観点に係る核磁気共鳴方法で検出した前記信号強度に基づいて前記対象の画像を生成するステップ、
を備える。
【0017】
本発明の第5の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
パルス印加部に、静磁場内の対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加させ、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加させるパルス印加手段、及び、
検出部に、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出させる検出手段、
として機能させる、プログラムであって、
前記静磁場内の第1の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第1の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度、
前記静磁場内の第2の要素に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、前記π/2パルスの印加後に前記所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも前記所定回数だけ印加して、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記第2の要素から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度としたとき、
前記第1の要素及び前記第2の要素を識別し且つ前記第1の要素及び前記第2の要素の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを前記所定回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となるように、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となるように、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、又は、(iv)前記第2の要素が複数の異なる要素から構成される場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の要素の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、前記所定時間及び前記所定回数は定められている。
【0018】
コンピュータを、さらに、前記信号強度に基づいて前記対象の画像を生成する画像生成手段として機能させる、ものでもよい。
【0019】
本発明の第6の観点に係る測定条件を決定する方法は、
静磁場内の対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加し、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加し、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出する、核磁気共鳴法における、前記所定時間及び/又は前記所定回数を含む測定条件を決定する方法であって、
前記所定時間の候補である1つ以上の時間を候補時間、
前記所定回数の候補である1つ以上の回数を候補回数としたとき、
前記候補時間毎に、前記静磁場内の第1の基準対象に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、該候補時間の半分が経過した時点を初回として、該候補時間の間隔で少なくとも前記候補回数の最大値だけ印加する第1のパルス印加工程と、
前記候補回数毎に、前記第1のパルス印加工程で該候補回数目の前記πパルスの印加により前記第1の基準対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度として検出する第1の信号検出工程と、
前記候補時間毎に、前記静磁場内の第2の基準対象に、前記π/2パルスを印加し、その後、前記πパルスを、該候補時間の半分が経過した時点を初回として、該候補時間の間隔で少なくとも前記候補回数の前記最大値だけ印加する第2のパルス印加工程と、
前記候補回数毎に、前記第2のパルス印加工程で該候補回数目の前記πパルスの印加により前記第2の基準対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度として検出する第2の信号検出工程と、
前記候補時間及び前記候補回数毎に、該候補時間の間隔で行った前記第1のパルス印加工程の該候補回数目の前記πパルスの印加に対応する前記第1の信号強度と、該候補時間の間隔で行った前記第2のパルス印加工程の該候補回数目の前記πパルスの印加に対応する前記第2の信号強度とについて、前記第1の基準対象及び前記第2の基準対象を識別し且つ前記第1の基準対象及び前記第2の基準対象の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを該候補回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となる場合に、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となる場合に、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となる場合に、又は、(iv)前記第2の基準対象が複数の異なる基準対象から構成され、前記第2のパルス印加工程及び前記第2の信号検出工程は、前記基準対象毎に行われる、又は、前記第1のパルス印加工程及び前記第1の信号検出工程とあわせて同時に行われる場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の基準対象の前記第2の信号強度の平均の比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となる場合に、該候補時間を前記所定時間の1つとして決定し、及び/又は、該候補回数を前記所定回数の1つとして決定する、条件決定工程と、
を備える。
【0020】
本発明の第7の観点に係るプログラムは、
パルス印加部により、静磁場内の対象に、測定対象の原子のラーモア周波数のπ/2パルスを印加し、その後、前記ラーモア周波数のπパルスを、前記π/2パルスの印加後に所定時間の半分が経過した時点を初回として、前記所定時間の間隔で少なくとも所定回数(但し、2回以上)だけ印加し、検出部により、前記所定回数目の前記πパルスの印加により前記対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を検出する、核磁気共鳴法における、前記所定時間及び/又は前記所定回数を含む測定条件を決定するプログラムであって、
前記所定時間の候補である1つ以上の時間を候補時間、
前記所定回数の候補である1つ以上の回数を候補回数としたとき、
コンピュータを、
前記パルス印加部に、前記候補時間毎に、前記静磁場内の第1の基準対象に、前記π/2パルスを印加させ、その後、前記πパルスを、該候補時間の半分が経過した時点を初回として、該候補時間の間隔で少なくとも前記候補回数の最大値だけ印加させる第1のパルス印加手段、
前記検出部に、前記候補回数毎に、前記第1のパルス印加手段で該候補回数目の前記πパルスの印加により前記第1の基準対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を第1の信号強度として検出させる第1の信号検出手段、
前記パルス印加部に、前記候補時間毎に、前記静磁場内の第2の基準対象に、前記π/2パルスを印加させ、その後、前記πパルスを、該候補時間の半分が経過した時点を初回として、該候補時間の間隔で少なくとも前記候補回数の前記最大値だけ印加させる第2のパルス印加手段、
前記検出部に、前記候補回数毎に、前記第2のパルス印加手段で該候補回数目の前記πパルスの印加により前記第2の基準対象から発生するスピンエコー信号の信号強度を第2の信号強度として検出させる第2の信号検出手段、及び、
前記候補時間及び前記候補回数毎に、該候補時間の間隔で行った前記第1のパルス印加手段の該候補回数目の前記πパルスの印加に対応する前記第1の信号強度と、該候補時間の間隔で行った前記第2のパルス印加手段の該候補回数目の前記πパルスの印加に対応する前記第2の信号強度とについて、前記第1の基準対象及び前記第2の基準対象を識別し且つ前記第1の基準対象及び前記第2の基準対象の差異を検出することができるよう、前記π/2パルスの印加から前記πパルスを該候補回数印加するまでに、(i)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)所定倍以上となる場合に、(ii)複数の前記第1の信号強度の平均と複数の前記第2の信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が所定倍以上となる場合に、(iii)1つの前記第1の信号強度と1つの前記第2の信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となる場合に、又は、(iv)前記第2の基準対象が複数の異なる基準対象から構成される場合、1つの前記第1の信号強度と複数の異なる前記第2の基準対象の前記第2の信号強度の平均の比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となる場合に、該候補時間を前記所定時間の1つとして決定し、及び/又は、該候補回数を前記所定回数の1つとして決定する、条件決定手段、
として機能させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、核磁気共鳴信号間でコントラストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るMRI装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る特定パルス列を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る画像生成処理のフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係る焦点条件決定処理のフローチャートである。
図5】実施例で用いたNMR装置の構成を示すブロック図である。
図623Naを測定対象原子として、食塩水、ゲル、及び尿に特定パルス列を印加したときのスピンエコー強度を示すグラフの図である。
図723Naを測定対象原子として、食塩水、ゲル、及び尿に特定パルス列を印加したときのスピンエコー強度を示す別のグラフの図である。
図823Naを測定対象原子として、食塩水及びゲルに特定パルス列を印加したときのスピンエコー強度を示すグラフの図である。
図9Hを測定対象原子として、ゲルに特定パルス列を印加したときのスピンエコー強度を示すグラフの図である。
図10】従来例に係るパルス列を示す図である。
図11】従来例に係るパルス列でのパルスの印加時間とスピンエコーの信号強度とを示すグラフの図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
(MRI装置100の構成)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るMRI装置100は、静磁場コイル10と、勾配磁場発生部20と、パルス印加部30と、受信部40と、制御装置50と、表示部60と、操作部70と、を備える。
【0025】
静磁場コイル10と、勾配磁場発生部20が有する勾配磁場コイル21と、パルス印加部30が有するRF(Radio Frequency)コイル31とは、例えば、同軸(Z軸)を中心に配置されるとともに、図示しない筐体内に設けられている。撮影対象となる試料1は、載置台2に載せられ、図示しない搬送手段により、撮影部位に応じて筐体に形成されたボア3(検査空間)内を移動する。
【0026】
静磁場コイル10は、ボア3内に均一な静磁場を形成する。形成される静磁場は、概ねZ方向に平行な水平磁場である。静磁場コイル10は、例えば、超電導コイルや常電導コイルから構成され、図示しない静磁場コイル駆動部を介して、制御装置50の制御の下で駆動される。なお、静磁場コイル10は、制御装置50と独立した制御系統によって駆動制御されてもよい。また、当該静磁場を発生させる構成としては、超電導コイルや常電導コイルに限られず、例えば、永久磁石を用いてもよい。
【0027】
勾配磁場発生部20は、ボア3内に画像化に必要な勾配磁場を発生させるものであり、勾配磁場コイル21と、勾配磁場コイル21を駆動する勾配磁場コイル駆動部22と、を有する。
【0028】
勾配磁場コイル21は、互いに直交する3軸方向において、静磁場コイル10によって形成された静磁場強度に勾配を持たせる勾配磁場を発生させる。互いに直交する3軸方向の勾配磁場は、スライス軸方向のスライス勾配磁場Gs、位相軸方向の位相エンコード勾配磁場Gp、周波数軸方向の周波数エンコード勾配磁場Grとして、それぞれ使用される。なお、スライス勾配磁場Gsは、スライス選択用の勾配磁場である。位相エンコード勾配磁場Gp及び周波数エンコード勾配磁場Grは、共鳴元素の空間分布を測定するための勾配磁場である。このような勾配磁場を発生させるために、勾配磁場コイル21は、3系統のコイルを有する。
【0029】
勾配磁場コイル駆動部22は、制御装置50の制御の下で、勾配磁場コイル21に駆動信号を供給して勾配磁場を発生させる。勾配磁場コイル駆動部22は、勾配磁場コイル21が有する3系統のコイルに対応して、図示しない3系統の駆動回路を有する。
【0030】
なお、静磁場空間における互いに直交するX、Y、Z軸のうち、いずれの軸もスライス軸とすることができる。本実施形態においては、図1における紙面法線方向であるZ軸方向をスライス軸とし、残りの軸のうち一方を位相軸、他方を周波数軸とする。なお、スライス軸、位相軸、及び周波数軸は、互いに直交性を保ったまま、任意の傾きを持たせることもできる。
【0031】
パルス印加部30は、核磁気共鳴を発生させるためのRFパルスを試料1に印加するためのものであり、RFコイル31と、RFコイル31を駆動するRFコイル駆動部32と、を有する。
【0032】
RFコイル31は、静磁場空間に試料1の核スピンを励起するための高周波磁場を形成する。このように高周波磁場を形成することをRFパルスの印加又は送信とも言う。RFコイル31は、RFパルスを送信する機能とともに、励起された核スピンによって生じる電磁波である磁気共鳴(MR:Magnetic Resonance)信号を受信する機能も有する。MR信号には、スピンエコー信号が含まれる。なお、RFパルス送信用コイルと、MR信号受信用のコイルとを別に構成することもできる。
【0033】
RFコイル駆動部32は、制御装置50の制御の下で、RFコイル31に駆動信号を供給してRFコイル31を駆動する。具体的には、RFコイル駆動部32は、測定対象の原子の種類及び磁場強度で定まるラーモア周波数に対応するRFパルスをRFコイル31に発生させる。このように構成されるパルス印加部30は、特に、後述の「特定パルス列」を試料1に印加する。
【0034】
受信部40は、RFコイル31に接続され、RFコイル31が受信したMR信号を検出する。受信部40は、検出したMR信号をデジタル変換して制御装置50へと送信する。
【0035】
制御装置50は、MRI装置100の全体動作を制御するコンピュータや、RFコイル駆動部32や勾配磁場コイル駆動部22を所定のパルス列(パルスシーケンス)で駆動するシーケンサーから構成され、制御部51と、記憶部52と、を備える。
【0036】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等から構成され、記憶部52に格納されている動作プログラムを実行して、MRI装置100の各部の動作を制御する。
【0037】
記憶部52は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等から構成され、各種の動作プログラム(後述の画像生成処理を実行するためのプログラムPG1及び後述の焦点条件決定処理を実行するためのプログラムPG2を含む)のデータ、後述のテーブルデータなどが予め記憶されている。記憶部52のRAMは、各種演算結果を示すデータや、判別結果を示すデータなどを一時的に記憶する。
【0038】
制御部51は、機能部として、パルス制御部51aと、画像生成部51bとを備える。
【0039】
パルス制御部51aは、後述の特定パルス列を含むRFパルス、スライス勾配磁場Gs、位相エンコード勾配磁場Gp、及び周波数エンコード勾配磁場Grのパルス列を示すパルス列データに基づいて、勾配磁場発生部20及びパルス印加部30の駆動制御を行う。パルス列データは、予め記憶部52に記憶されていてもよいし、後述の操作部70を介してのユーザ操作により入力や再設定が可能であってもよい。
【0040】
特に、この実施形態では、パルス制御部51aは、パルス印加部30を駆動制御し、以下の特定パルス列(例えば、図2に示すパルス列)を試料1に印加させる。具体的には、π/2パルス(90°パルス、励起パルス)を印加した後、時間τ経過後にπパルス(180°パルス、反転パルス)を印加する。そして、πパルスを一度印加した後は、時間2τおきにπパルスを連続して印加する。このように、π/2パルスの印加後に、2τおきにπパルスを複数回印加するパルス列を「特定パルス列」と呼ぶ。
【0041】
上述のπ/2パルスとπパルスとは、測定対象の原子の種類及び磁場強度で定まるラーモア周波数に対応するRFパルスである。RFパルスは、ラーモア周波数のラジオ波をパルス変調によりパルス状に切り出したものであり、適切な静磁場中で、対象の原子核を回転させるが、π/2パルス(90°パルス)は回転角が90°のRFパルスであり、πパルス(180°パルス)は回転角が180°のRFパルスである。π/2パルスとπパルスのラーモア周波数は同じである。
【0042】
特定パルス列によれば、πパルスの印加毎に、当該印加から2τの間に、MR信号としてのスピンエコーが発生する。なお、時間τと、π/2パルスを試料1に印加してから最初のスピンエコー(1回目のπパルスの印加により発生したスピンエコー)が検出されるまでのエコー時間TEとの間には、τ=TE/2という関係が成り立つ。
【0043】
このように特徴的な特定パルス列を、試料1に印加する理由を説明する。
上述の課題で説明したように、従来のスピンエコー法では、試料を構成する要素の種別によっては、明瞭なMRI画像を得ることができないという問題があった。
【0044】
例えば、この問題を試料を腎臓に模した場合で説明する。図11に示すように、腎臓の構成要素のモデルとして、腎臓組織に相当する「ゲル」と、尿管に相当する「尿」と、血液に相当する「食塩水」とを用いて、各構成要素について、23Naを測定対象に、ハーンエコー法により、反転パルスの印加により発生したスピンエコー信号の強度を、励起パルス印加から当該スピンエコー信号の取得までの時間に対してプロットすると、構成要素は、いずれも、同様のスピンエコーの信号強度(以下、スピンエコー強度とも言う)の減衰曲線を示す。そして、上述の模擬組織間のスピンエコー強度に顕著な差がない。
【0045】
本願発明者は、鋭意研究の結果、特定パルス列を試料に印加した際に、各πパルスの印加により発生する複数のスピンエコーの信号強度は、減衰振動を示すこと、そして、この減衰振動が、(a)試料の構成要素の種類と、(b)特定パルス列でのパルス印加間隔2τとにより異なるパターンを示し、特に、(c)異なる構成要素由来のスピンエコー強度の減衰振動パターンは、特定パルス列でのパルス印加間隔2τを変えたときに、必ずしも連動的に変動するのではなく、構成要素毎に異なった変動を示す傾向があることを発見した。そして、この特性を利用すれば、特定パルス列でのパルス印加間隔2τをさまざまに変えることで、試料中の特定の構成要素を他の構成要素からスピンエコー強度に基づいて識別できるような、試料の構成要素の減衰振動パターンの組み合わせを得られることを見出した。
【0046】
この特性の具体例を、図6を参照して説明する。図6は、腎臓の構成要素のモデルとして、腎臓組織に相当する「ゲル」と、血液に相当する「食塩水」と、尿管に相当する「尿」とを用いて、各構成要素に、図2に示す特定パルス列を印加した際のスピンエコー強度特性のグラフである。当該グラフの横軸は、π/2パルスを開始してからの経過時間を示し、縦軸は、各πパルスの印加により発生するスピンエコーの信号強度を示す。
【0047】
図6を参照すると、まず、どの構成要素のスピンエコー強度も減衰振動していることがわかる。また、「食塩水」と「ゲル」とのスピンエコー強度の減衰振動パターンは類似しているが、これらの減衰振動パターンと「尿」のスピンエコー強度の減衰振動パターンとは異なっている。このため、図6から明らかなように、適切な経過時間で比較すれば、「尿」と、「食塩水」及び「ゲル」とを、スピンエコー強度に基づいて、識別できる。例えば、図6で「Ps」で示した期間(7回目のπパルスの印加による1つのスピンエコーに対応)で比較すると、「尿」のスピンエコー強度が「食塩水」及び「ゲル」のスピンエコー強度の数倍以上になる現象が生じていることが分かる。つまり、当該現象が顕著に生じる、特定パルス列のパルス印加間隔とスピンエコー取得期間の組み合わせ(以下、焦点条件ともいう)を経験的に求めれば、従来のスピンエコー法(図11参照)を用いては不可能であった、明瞭なコントラストを有するMRI画像を生成できることが分かる。
【0048】
例えば、MRI装置100で、「尿」、「食塩水」、及び「ゲル」の試料にさまざまなパルス印加間隔で特定パルス列を印加して、「尿」のスピンエコー強度が「食塩水」及び「ゲル」のスピンエコー強度に対して所定倍(当該所定倍をα倍とすれば、αは大きければ大きい程好ましいが、少なくともα≧2であればよい。)以上となる、特定パルス列のパルス印加間隔(以下、特定間隔Ts)と1回のスピンエコーの信号にまたがるスピンエコー取得期間(以下、特定期間Ps)とを予め経験的に求めておき、その後、MRI装置100で、パルス印加間隔2τをこの特定間隔Tsとした特定パルス列を「食塩水」、「ゲル」、「尿」が混在する模擬腎臓に印加して、特定期間Psで検出されるスピンエコーの強度に基づいて画像を生成すれば、「食塩水」及び「ゲル」に対してスピンエコー強度が高い「尿」のコントラストが強調された、ポジ・コントラストのMRI画像(模擬腎臓の尿管組織が強調された画像)を得ることができる。
【0049】
なお、ポジ・コントラストのMRI画像に限らず、ネガ・コントラストの画像を得ることもできる。例えば、MRI装置100で、「尿」、「食塩水」、及び「ゲル」の試料にさまざまなパルス印加間隔で特定パルス列を印加して、「尿」及び「ゲル」のスピンエコー強度が、「食塩水」のスピンエコー強度に対して、所定倍(当該所定倍をα倍とすれば、αは大きければ大きい程好ましいが、少なくともα≧2であればよい。)以上となる特定間隔Tsと特定期間Psとを予め経験的に求めておき、その後、MRI装置100で、パルス印加間隔2τをこの特定間隔Tsとした特定パルス列を「食塩水」、「ゲル」、「尿」が混在する模擬腎臓に印加して、特定期間Psで検出されるスピンエコーの強度に基づいて画像を生成すれば、「尿」及び「ゲル」に対してスピンエコー強度が低い「食塩水」のコントラストが強調された(「食塩水」のスピンエコー強度が他の要素の1/α倍以下になる)、ネガ・コントラストのMRI画像(模擬腎臓の血液ないしは血管が強調された画像)を得ることができる。
【0050】
図1に戻って、パルス制御部51aは、特定パルス列のπパルス間隔2τを可変制御し、予め経験的に求めた特定間隔Tsの特定パルス列を、パルス印加部30に印加させる。具体的には、記憶部50のROM内に、試料1に含まれることが予期される強調対象の要素と、その要素を他の要素からスピンエコー信号に基づいて識別できる(その要素がMRI画像において強調される)予め経験的に求めた特定間隔Ts及び特定期間Psとが対応付けられたテーブルデータを格納しておき、パルス制御部51aは、当該テーブルデータを参照して、ユーザからの入力などにより決定された強調したい要素に応じた特定間隔Tsおきにπパルスが所定印加時間にわたって(例えば、少なくとも特定期間Psが経過するまで)印加されるように特定パルス列の制御を行う。
【0051】
また、パルス制御部51aは、特定パルス列のπパルス間隔2τを、強調したい要素に応じた特定間隔Tsに制御できるように、構成されている。パルス制御部51aは、πパルス間隔2τを、例えば、5μs以上1s以下の範囲内において、例えば、0.1~1μs刻み(好ましくは、0.1μs刻み)で可変制御できるように構成されてもよい。
【0052】
なお、パルス制御部51aは、パルス印加部30に特定パルス列を送信させる際、同じ極性のπパルスを連続して送信させてもよいが(CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)と呼ばれるパルス列)、図2に示すように、交互に反対極性のπパルスを送信させる(APCP(Alternating Polarity Carr Purcell)と呼称される。S.Watanabe and S.Sasaki.J.Jpn.Appl.Phys.Express Lett.(2003))ことが好ましい。同じ極性のπパルスを連続して送信すると、時間軸上でπパルス間に検出されるスピンエコーが、隣のπパルス間に検出されるスピンエコーと重なり、検出精度が低下する可能性があるためである。
【0053】
画像生成部51bは、受信部40が収集したMR信号のデータを記憶部52に記憶する。画像生成部51bが取得するMR信号は、フーリエ空間の信号となる。画像生成部51bは、位相エンコード勾配磁場Gp及び周波数エンコード勾配磁場Grの勾配により、MR信号のエンコードを2軸で行う。したがって、MR信号は、2次元フーリエ空間(kスペース)における信号として得られる。位相エンコード勾配磁場Gp及び周波数エンコード勾配磁場Grは、kスペースにおける信号のサンプリング位置を決定する。画像生成部51bは、kスペースのデータに対して、二次元フーリエ変換を行うことで各位置の信号に分解することで、各位置の核磁化に比例した濃淡を付したMRI画像を生成する。
【0054】
特に、この実施形態では、画像生成部51bは、受信部40からスピンエコー信号を取得し、スピンエコー強度を検出する。また、画像生成部51bは、前述したようにROM内に予め用意されたテーブルデータを参照し、ユーザからの入力などにより決定された強調したい要素に対応する特定期間Psを取得する。また、画像生成部51bは、特定パルス列の印加開始から特定期間Psとなったか否かを判別し、特定期間Psとなった場合には、特定期間Psの間に試料1から得られたスピンエコー強度を記憶部52に記憶させる。そして、画像生成部51bは、MRI画像を生成し、生成したMRI画像を表示部60に表示させる。こうして得られたMRI画像では、特定要素と他の要素との間に、両者を明瞭に識別できるコントラストが生じる。
【0055】
具体的に、例えば、試料1として「食塩水」、「ゲル」、「尿」が混在する模擬腎臓を測定し、強調したい要素を「尿」とした場合には、パルス制御部51aの制御により、特定パルス列の印加間隔2τを尿の観測に適した特定間隔Tsで制御して、図2に示すような特定パルス列を試料1に照射する。そして、画像生成部51bは、尿の観測に適した期間として予め定めた特定期間Psにおけるスピンエコー強度を検出する。この特定期間Psに検出されるスピンエコー強度では、「尿」由来のスピンエコー強度は、「食塩水」及び「ゲル」由来のスピンエコー強度から、識別可能な程度に大きい。制御部51は、パルス制御部51aにより勾配磁場をパルス的に大きさを可変して印加しつつ、画像生成部51bにより特定期間Psにおいて取得したMR信号を高速フーリエ変換することで座標空間毎のスピンエコー強度に応じたMRI画像を生成する。これにより、「尿」が他の要素に比べて数倍の強度で表されたポジ・コントラストのMRI画像を得ることができる。
【0056】
なお、画像生成部51bで取得したスピンエコー強度は、基準となるスピンエコー強度に対して規格化されていてもよい。例えば、試料1から得られた各ピクセルに対応するスピンエコー強度を、それらのスピンエコー強度の最大値で規格化してもよいし、試料1とともに測定した、所定濃度の測定対象原子を含む基準試料から得られたスピンエコー強度で規格化してもよい。
【0057】
また、画像生成部51bで取得したスピンエコー強度は他の方法で規格化されていてもよい。例えば、特定期間Psのみではなく、パルスを印加する期間のうち所定の期間Ps’(例えば、パルスを印加する期間全体)にわたってスピンエコー信号を取得して、特定期間Psで取得したあるピクセルのスピンエコー強度を、当該ピクセルにおいて前述の所定の期間Ps’に渡って取得した複数のスピンエコー強度に減衰振動関数をフィッティングし、この関数が時刻ゼロで示す値に対して規格化してもよい。このように規格化することで、試料1由来の画像においてどのピクセルがどの構成要素(例えば、模擬腎臓では、「食塩水」、「ゲル」、「尿」)のいずれに属するかを、各構成要素の減衰振動パターンに基づいて、より明瞭に区別できる。
【0058】
表示部60は、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイ(OELD:Organic ElectroLuminescent Display)等から構成され、画像生成部51bが生成したMRI画像を表示する。
【0059】
操作部70は、ユーザによる操作を受け付け、受け付けた操作に応じた操作信号を制御装置50に供給する。操作部70は、例えば、ポインティングデバイスを備えたキーボードや、表示部60と一体のタッチパネル等で構成される。例えば、MRI装置100は、ユーザが、操作部70からの操作によって、試料1内の観察対象である特定要素の決定や、パルス列データの入力などを行うことができるように構成される。
【0060】
以上の構成では、特定期間Psは、1つのスピンエコー信号を取得するために設定されているが、2つ以上のスピンエコー信号を取得するよう設定されてもよい。この場合、S/N比を稼ぐために、パルス制御部51aにより、特定期間Ps内に発生する複数のスピンエコーに対して位相エンコードパルスを印加して、積算信号の信号強度をMRI画像の生成に用いてもよい。
【0061】
以上の構成では、スピンエコーを取得するタイミングを、特定期間Psにより特定しているが、πパルスの印加回数により特定することもできる。例えば、特定間隔Tsでπパルスを特定回数n(nは2以上の自然数)だけ印加すると、そのn回目のπパルスの印加により特定期間Ps内でスピンエコーが発生する場合、記憶部50のROM内に、強調対象の要素と、その要素を他の要素からスピンエコー強度に基づいて識別できる特定間隔Ts及び特定回数nとが対応付けられたテーブルデータを格納しておき、パルス制御部51aは、当該テーブルデータを参照して、強調したい要素に応じた特定間隔Tsおきにπパルスが少なくとも特定回数nだけ印加されるように特定パルス列の制御を行い、且つ、n回目のπパルス印加により発生したスピンエコーに位相エンコードパルスを印加する。ある要素に対応する特定間隔Tsで特定パルス列を印加したときに、n回目より後でn+m回目(mは1以上の自然数)までのπパルスの印加によっても、その要素を他の要素からスピンエコー信号強度に基づいて識別できる場合、S/N比を稼ぐために、πパルスの印加を少なくともn+m回行い、n回目からn+m回目のπパルスの印加により発生する複数のスピンエコーに対して位相エンコードパルスを印加して、積算信号の信号強度をMRI画像の生成に用いてもよい。
【0062】
なお、経験的に求める特定間隔Ts及び特定期間Ps(又は特定回数n)は、強調したい要素と他の要素とをスピンエコー信号強度に基づいて識別できる組み合わせであれば任意である。例えば、特定間隔Ts及び特定期間Ps(又は特定回数n)は、強調したい要素のスピンエコーの信号強度と他の要素のスピンエコーの信号強度との差が顕著に開くと見做せる組み合わせであればよい。例えば、特定間隔Ts及び特定期間Ps(又は特定回数n)は、特定パルス列の印加開始から所定印加時間内に、(i)強調したい要素のスピンエコーの信号強度と、複数の他の要素の少なくともいずれかのスピンエコーの信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるように、又は(ii)強調したい要素のスピンエコーの信号強度と、複数の他の要素のスピンエコーの信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が最大となるような組み合わせであってもよい。また、特定間隔Ts及び特定期間Ps(又は特定回数n)は、特定パルス列の印加開始から所定印加時間内に、強調したい要素のスピンエコーの信号強度と、他の要素のスピンエコーの信号強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が、所定倍(例えば、少なくとも2倍)以上となるような組み合わせであってもよい。また、特定間隔Ts及び特定期間Ps(又は特定回数n)は、特定パルス列の印加開始から所定印加時間内に、強調したい要素の複数種のスピンエコーの信号強度の平均と、他の要素の複数種のスピンエコーの信号強度の平均との比(大きい方を小さい方で除した値)が、所定倍(例えば、少なくとも2倍)以上となるような組み合わせであってもよい。また、以上では、強調する要素が1種類の場合について説明したが、強調する要素が複数であってもよい。この場合も、同様に、特定間隔Ts及び特定期間Ps(又は特定回数n)を、強調する複数の要素と他の要素とをスピンエコー信号強度に基づいて識別できる組み合わせとなるよう求めればよい。例えば、コントラスト比(信号強度の大きい方を小さい方で割った値)を求めるときに、強調する複数の要素の信号強度の平均値と、その他の複数の要素の信号強度の平均値とをコントラスト比の算出に用いてもよいし、強調する複数の要素のスピンエコー強度の最小値がその他の複数の要素のスピンエコー強度の最大値よりも大きい場合に、当該最小値と当該最大値とをコントラスト比の算出に用いてもよいし、強調する複数の要素のスピンエコー強度の最大値がその他の複数の要素のスピンエコー強度の最小値よりも大きい場合に、当該最大値と当該最小値とをコントラスト比の算出に用いてもよい。
【0063】
(画像生成処理)
次に、特定パルス列を試料1に印加することでMRI画像を生成する画像生成処理の一例を説明する。画像生成処理は、例えば、ユーザによる操作部70から開始操作に応じて、制御部51によって実行される。なお、画像生成処理の開始前には、載置台2に載せられた試料1は、ボア3内にセッティングされているものとする。
【0064】
画像生成処理を開始すると、まず、制御部51は、図示しない静磁場コイル駆動部を介して、静磁場コイル10を駆動し、ボア3内に均一な静磁場を形成する(ステップS11)。なお、画像生成処理の前に予めボア3内に静磁場を形成しておいてもよい。
【0065】
続いて、制御部51は、特定パルス列を印加する際のπパルス間隔2τを設定する(ステップS12)。ここでは、まず、制御部51は、ユーザによる強調したい要素を選択する操作を操作部70から受け付ける。強調したい要素は、試料1を構成する要素であって、今回の強調対象となる任意の要素である。そして、制御部51は、予め記憶部52に用意された、強調対象の要素と特定間隔Ts及び特定期間Psとが対応付けられたテーブルデータを参照し、今回選択された要素に対応する特定間隔Tsをπパルス間隔2τとして設定する。また、制御部51は、今回選択された要素に対応する特定期間Psを取得する。例えば、図6に示すように、選択された要素が「尿」である場合には、制御部51は、テーブルデータを参照して、「尿」に対応した特定間隔Ts及び特定期間Psを取得する。また、制御部51は、例えば、予め操作部70を介してユーザにより入力され、記憶部52に記憶されたパルス列データに基づいて、下記のように勾配磁場発生部20やパルス印加部30を駆動制御する。
【0066】
続いて、制御部51は、図2に示す特定パルス列を含むRFパルスを試料1に印加する(ステップS13)。具体的には、ステップS12で設定したπパルス間隔2τとしての特定間隔Tsを読み出し、まずπ/2パルスを印加し、時間τ(つまり、Ts/2)経過後に、πパルスを印加する。そして、πパルスを一度印加した後は、時間2τ(つまり、特定間隔Ts)おきにπパルスを連続して印加する。
【0067】
続いて、制御部51は、RFコイル31及び受信部40を介して、各πパルスの印加により発生するスピンエコー強度を検出する(ステップS14)。例えば、スピンエコー強度は、π/2パルスの印加開始から2τおきに印加される周波数エンコード勾配磁場Grによって、RFコイル31及び受信部40を介して読み出される。
【0068】
続いて、制御部51は、ステップS14で検出したスピンエコー強度から、ステップS12で取得した特定期間Psにおけるスピンエコー強度を収集し(ステップS15)、記憶部52に記憶する。
【0069】
続いて、制御部51は、ステップS15で記憶した特定期間Psにおけるスピンエコー強度から、MRI画像を生成し(ステップS16)、生成したMRI画像を表示部60に表示させる。こうして得られたMRI画像では、強調したい要素と他の要素との間に、両者を明瞭に識別できるコントラストが生じる。
【0070】
当該画像生成処理により、例えば、試料1が模擬腎臓であり、「尿」を強調する場合(ステップS12で選択した要素が「尿」の場合)には、制御部51は、ステップS15において、「尿」の観測に適した期間として予め定められた特定期間Psにおけるスピンエコー強度を記憶部52に記憶することになる。そして、ステップS16で、制御部51の画像生成部51bは、この特定期間Psにおいて取得したMR信号を勾配磁場下で位相エンコードを行い高速フーリエ変換することで座標空間毎のスピンエコー強度に応じたMRI画像を生成する。この特定期間Psに検出されるスピンエコー強度では、図6に示すように、「尿」由来のスピンエコー強度が、「食塩水」及び「ゲル」由来のスピンエコー強度に比べて大きくなる。これにより、「尿」が他の要素に比べて大きい強度で表されたポジ・コントラストのMRI画像を得ることができる。このようにして、図6に示す特定期間Psにおける各要素のスピンエコー強度に応じた濃淡のMRI画像(食塩水及びゲルに対して尿が明瞭に表された、高コントラストのMRI画像)を得ることができる。つまり、腎臓組織や血管組織に対して尿管組織が明瞭に表された模擬腎臓のMRI画像を得ることができる。また、同様に、模擬腎臓において、「食塩水」又は「ゲル」が強調された、ポジ又はネガのコントラストのMRI画像を得ることもできる。
【0071】
なお、特定期間Psの代わりにπパルスの印加回数を用いる場合、ステップS12では、制御部51は、予め記憶部52に用意された、特定要素と特定間隔Ts及び特定回数nとが対応付けられたテーブルデータを参照し、今回選択された特定要素に対応する特定間隔Tsをπパルス間隔2τとして設定し、また、制御部51は、今回選択された特定要素に対応する特定回数nを取得し、ステップS13では、πパルスを少なくとも特定回数nだけ印加し、ステップS15では、ステップS12で取得した特定回数nの回数目のπパルスの印加により発生したスピンエコー強度を収集し、記憶部52に記憶し、その他の点は上述の画像生成処理と同様に行えばよい。
【0072】
なお、上述の画像生成処理では、ステップS14で、特定パルス列の各πパルスの印加により発生するスピンエコー強度を取得しているが、特定期間Psのπパルスの印加により発生するスピンエコー強度のみを取得することとしてもよい。この場合、ステップS13で、パルス制御部51aは、位相エンコードパルスを、特定期間Ps内で発生するスピンエコーのみに印加し、特定期間Psに至るまで及び特定期間Psの経過以降に発生するスピンエコーには、位相エンコードパルスを印加しないこととしてもよい。
【0073】
(焦点条件決定処理)
以下では、特定間隔Ts及び特定期間Ps又は特定回数nを含む焦点条件を経験的に求める焦点条件決定処理の一例について説明する。焦点条件決定処理は、上述したMRI装置100を用いて行う。焦点条件決定処理は、例えば、ユーザによる操作部70から開始操作に応じて、制御部51によって実行される。なお、焦点条件決定処理の開始前には、試料1の代わりに、第1から第p(pは2以上の自然数)の基準試料が、載置台2に載せられて、ボア3内にセッティングされているものとする。
【0074】
焦点条件決定処理を開始すると、まず、制御部51は、図示しない静磁場コイル駆動部を介して、静磁場コイル10を駆動し、ボア3内に均一な静磁場を形成する(ステップS21)。なお、本処理の前に予めボア3内に静磁場を形成しておいてもよい。
【0075】
続いて、制御部51は、特定パルス列を印加する際のπパルス間隔2τを初期値に設定する(ステップS22)。
【0076】
例えば、ステップS22では、制御部51は、予め記憶部52に用意された最小パルス間隔(例えば、5マイクロ秒)、最大パルス間隔(例えば、1秒)、パルス間隔増加幅(例えば、0.1マイクロ秒)を取得し、最小パルス間隔の値をπパルス間隔2τの値に設定する。
【0077】
続いて、制御部51は、図2に示す特定パルス列を含むRFパルスを第1から第pの基準試料に少なくとも所定回数q(qは2以上の自然数)回だけ印加する(ステップS23)。具体的には、ステップS22で設定したπパルス間隔2τを用いて、まずπ/2パルスを印加し、時間τ経過後に、πパルスを印加する。そして、πパルスを一度印加した後は、時間2τおきにπパルスを連続して印加する。
【0078】
続いて、制御部51は、RFコイル31及び受信部40を介して、1回目からq回目までのπパルスの印加により第1から第pの基準試料のそれぞれから発生するスピンエコー強度を検出する(ステップS24)。例えば、スピンエコー強度は、RFコイル31及び受信部40を介して読み出される。
【0079】
続いて、制御部51は、ステップS23及びS24のループ処理を終了するか否かを判定する(ステップS25)。そして、ループ処理を継続する場合は、ステップS26に進み、ループ処理を終了する場合は、ステップS27に進む。
【0080】
例えば、ステップS25では、πパルス間隔2τの値をパルス間隔増加幅分だけ増やした値が、最大パルス間隔を超える場合に、ループ処理を終了する。
【0081】
続いて、πパルス間隔2τを次の候補に設定する(ステップS26)。その後は、ステップS23に進む。
【0082】
例えば、ステップS26では、πパルス間隔2τを現在のπパルス間隔2τにパルス間隔増加幅を足した値に設定する。
【0083】
続いて、制御部51は、特定期間Ps又は特定回数nの1つ以上の候補のそれぞれについて、当該候補に対応するパルス取得タイミングで取得された第1~第pの基準試料のスピンエコー強度同士を比較して、第1~第pの基準試料のうち1つの基準試料が他の基準試料からスピンエコー強度に基づいて識別できるか否かを判定し、識別できる場合、当該1つの基準試料を示す情報と、特定期間Ps又は特定回数nの現在の候補と、πパルス間隔2τの現在の値とを、テーブルとして、記憶部52に記憶する(ステップS27)。
【0084】
例えば、ステップS27では、制御部51は、予め記憶部52に用意された特定期間Psの候補のリストを取得し、候補のそれぞれについて、当該候補の期間内に取得された第1~第pの基準試料のスピンエコー強度を比較してもよい。
【0085】
また、ステップS27では、制御部51は、予め記憶部52に用意された特定回数nの候補のリストを取得し、候補のそれぞれについて、当該候補の回数目のπパルスの印加により発生した第1~第pの基準試料のスピンエコー強度を比較してもよい。例えば、特定回数nの候補は、1からqまでの全ての自然数でもよい。
【0086】
第1~第pの基準試料のうち1つの基準試料が他の基準試料からスピンエコー強度に基づいて識別できるか否かの判定は、例えば、以下の手順で行うことができる。
p≧3の場合、第1から第pの基準試料のスピンエコー強度を、強度が大きいものから順番に、第1から第pのスピンエコー強度と割り振ったときに、第1のスピンエコー強度を第2のスピンエコー強度で割った値が第1の所定値(例えば、2)以上であり、且つ、第2のスピンエコー強度を第pのスピンエコー強度で割った値が第2の所定値(例えば、1.2)未満である場合に、第1のスピンエコー強度を与える基準試料がその他の基準試料から識別できる(ポジ・コントラストが得られる)と判定し、第q-1のスピンエコー強度を第qのスピンエコー強度で割った値が第1の所定値以上であり、且つ、第1のスピンエコー強度を第q-1のスピンエコー強度で割った値が第2の所定値未満である場合に、第qのスピンエコー強度を与える基準試料がその他の基準試料から識別できる(ネガ・コントラストが得られる)と判定する。
p=2の場合、第1の基準試料のスピンエコー強度を、第2の基準試料のスピンエコー強度で割った値が、所定値(例えば、2)以上となる場合に、第1の基準試料を第2の基準試料から識別できると判定し、その後、ポジ・コントラスト条件として、第1の基準試料の情報と、特定期間Ps又は特定回数nの現在の候補と、πパルス間隔2τの現在の値とを前述のテーブルに保存し、ネガ・コントラスト条件として、第2の基準試料の情報と、特定期間Ps又は特定回数nの現在の候補と、πパルス間隔2τの現在の値とを前述のテーブルに保存する。さらに、第2の基準試料のスピンエコー強度を、第1の基準試料のスピンエコー強度で割った値が、所定値(例えば、2)以上となる場合に、第2の基準試料を第1の基準試料から識別できると判定し、その後、ポジ・コントラスト条件として、第2の基準試料の情報と、特定期間Ps又は特定回数nの現在の候補と、πパルス間隔2τの現在の値とを前述のテーブルに保存し、ネガ・コントラスト条件として、第1の基準試料の情報と、特定期間Ps又は特定回数nの現在の候補と、πパルス間隔2τの現在の値とを前述のテーブルに保存する。
【0087】
以上の焦点条件決定処理では、ステップS22~S26のループ処理で第1から第pの基準試料について同時に測定を行っているが、個別に測定を行い、これらのデータをまとめてステップS27に掛けることとしてもよい。
【0088】
以上の焦点条件決定処理では、パルス間隔2τを1つ以上の候補から選択する方法は任意である。
【0089】
例えば、ステップS22で、最小パルス間隔の代わりに最大パルス間隔をパルス間隔2τの初期値に設定し、ステップS25で、πパルス間隔2τの値をパルス間隔増加幅分だけ減らした値が、最小パルス間隔未満となる場合に、ループ処理を終了することとし、ステップS26で、πパルス間隔2τを現在のπパルス間隔2τからパルス間隔増加幅を引いた値に設定することとしてもよい。
【0090】
また、例えば、ステップS22で、制御部51は、予め記憶部52に用意された特定間隔Tsの候補のリストを取得し、その中の1つをπパルス間隔2τの初期値に設定し、ステップS25で、制御部51は、特定間隔Tsの候補のリストの全ての候補を使用したのであればループ処理を終了し、ステップS26で、制御部51は、特定間隔Tsの候補のリストの中から未使用の候補をπパルス間隔2τに設定することとしてもよい。
【0091】
上述したように、MRI装置100で試料1を測定する際に、スピンエコー強度を、フィッティングした減衰振動関数の時刻ゼロの値で規格化する場合、ステップS27でスピンエコー強度を同様に規格化してから比較する。
【0092】
ステップS27での、第1~第pの基準試料のうち1つの基準試料が他の基準試料からスピンエコー強度に基づいて識別できるか否かの判定は、特定間隔Ts及び特定間隔Ps又は特定回数nを特定できるのであれば任意である。
【0093】
また、ステップS27において、制御部は、特定期間Ps又は特定回数nの1つ以上の候補のそれぞれについて、当該候補に対応するパルス取得タイミングで取得された第1~第pの基準試料のスピンエコー強度同士を比較して、第1~第pの基準試料のうち複数の基準試料が他の基準試料からスピンエコー強度に基づいて識別できるか否かを判定し、識別できる場合、当該複数の基準試料を示す情報と、特定期間Ps又は特定回数nの現在の候補と、πパルス間隔2τの現在の値とを、テーブルとして、記憶部52に記憶することとしてもよい。この場合、例えば、第1~第pの基準試料のうち複数の基準試料が他の基準試料からスピンエコー強度に基づいて識別できるか否かの判定は、第1から第pの基準試料のスピンエコー強度を、強度が大きいものから順番に、順位づけして、大きい方からスピンエコー強度が同じ程度のものを1つのグループとして第1から第r(rは2以上の自然数)のグループ振り分け、第1から第4のグループの間でコントラスト比を求めることで、判定することができる。例えば、こうしたグループ分けは、あるグループに含まれるスピンエコー強度の最大値を最小値で割った値が所定の閾値(例えば、1.2)未満となるように行うことができる。また、グループの間のコントラスト比の比較は、グループ内のスピンエコー強度の平均値に基づいて行ってもよいし、第x(xは自然数)のグループの最小値と第y(yはxより大きい自然数)のグループの最大値とに基づいて行ってもよい。
【0094】
ステップS27では、焦点条件を全ての基準試料について網羅的に調べているが、予め強調したい要素が決まっているのであれば、それに対応する基準試料のスピンエコー強度が他の基準試料からスピンエコー強度に基づいて識別できるか否かを判定すればよい。また、ステップS27では、ネガ・コントラスト及びポジ・コントラストの両方について焦点条件を求めているが、一方のコントラストのみについて焦点条件を求めることとしてもよい。例えば、第1及び第2の基準試料のうち第1の基準試料が強調したい要素であり、第1の基準試料が第2の基準試料に対してポジ・コントラストを示す焦点条件のみを求めればよいのであれば、ステップS27において、第1の基準試料のスピンエコー強度を第2の基準試料のスピンエコー強度で割った値が所定値(例えば、2)以上となる場合に、第1の基準試料を第2の基準試料から識別できると判定し、その後、ポジ・コントラスト条件として、第1の基準試料の情報と、特定期間Ps又は特定回数nの現在の候補と、πパルス間隔2τの現在の値とを前述のテーブルに保存すればよい。
【0095】
(MRI装置の効果)
以上に説明した特定パルス列を利用したMRI装置100によれば、従来の手法では明瞭なコントラストが創出されないMRI画像しか得られなかったところ、所望の部位を強調して、明瞭なポジまたはネガのコントラストを有したMRI画像を得ることができる。MRI装置100による画像生成手法は、既存のMRI装置に、画像生成処理を実行するためのプログラムPG1を導入することで実現化が見込めるので、社会的及び経済的要請に応えることができる。また、MRI装置100による画像生成手法は、被写体である試料1に対して非破壊の検査を提供できることも優れた点である。また、MRI装置100は、造影剤を用いずに、組織内での所望部位に焦点をあてて選択的に明瞭なコントラストを創出できる点で優れている。
【0096】
ここで、試料1が被験者の腎臓である場合を例にする。現在、国内で成人8人に1人が慢性腎臓病疾患であり、約32万人が人工透析を受けているという現実もある。しかしながら、腎臓病の診断方法として広く用いられている腎生検は、その侵襲性により患者に大きな負担を強いてしまっていた。この点、以上に説明したMRI装置100による画像生成手法によれば、患者負担を低減しつつも、高精度の検査が可能である。
【0097】
本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。
【0098】
撮像対象の試料1は任意であり、例えば、腎臓以外の臓器であってもよいし、人体又は動物の臓器以外の部位であってもよいし、植物であってもよい。また、試料1は、人又は動物の全身であってもよい。さらには、試料1は、体液(血液、血清、リンパ液、脳髄液、汗、尿など)、培養細胞、微生物、生体を模した模擬臓器又は模擬体液、その他、任意の液体又は固体であってもよい。試料1の選択や、試料1を構成する要素をどのように区分するかは、試料1を構成する複数の要素のうち、特定要素のスピンエコーの信号強度と、他の要素のスピンエコーの信号強度との差が顕著になるπパルスの特定間隔Tsと、特定期間Psとを経験的に求めることができれば、任意である。
【0099】
また、試料1に静磁場と、勾配磁場と、RF磁場とを印加することができれば、MRI装置100の構成も任意であり、種々の構成を採用することができる。
【0100】
また、以上の画像生成処理では、特定間隔Tsだけでなく特定期間Psも経験的に求めたが、πパルスの印加間隔である特定間隔Tsのみ経験的に求めておいてもよい。こうした場合、例えば、制御部51は、時系列で試料1の各構成要素のスピンエコー強度を検出していき、特定要素のスピンエコー強度と他の要素のスピンエコー強度との比(大きい方を小さい方で除した値)が、予め定めた閾値以上となった場合のスピンエコー強度に基づいてMRI画像を生成すればよい。
【0101】
また、現状では、なぜ、特定パルス列におけるπパルスの印加間隔を変えると試料1を構成する要素に応じてスピンエコー強度特性が異なるのかは、理論上では明らかになっていない。今後、当該特性を解明する理論が構築された場合は、特定間隔Tsや特定期間Psを理論に基づいて導出してもよい。
【0102】
また、MR信号を周波数分析する手法は、二次元フーリエ変換に限られず、他の公知の周波数分析法を用いてもよい。なお、フーリエ変換を行う場合は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を実行することが好ましい。
【0103】
また、前述の特定パルス列を試料1に印加することができ、各πパルスの印加により発生するスピンエコーを検出できれば、画像生成処理を構成する処理の組み替え、変更、又は追加は、任意である。
【0104】
以上に説明した各処理を実行するプログラムPG1及びPG2は、記憶部52に予め記憶されているものとしたが、着脱自在の記録媒体により配布・提供されてもよい。また、プログラムPG1及びPG2は、MRI装置100と接続された他の機器からダウンロードされるものであってもよい。また、MRI装置100は、他の機器と電気通信ネットワークなどを介して各種データの交換を行うことによりプログラムPG1及びPG2に従う各処理を実行してもよい。
【0105】
また、以上では、特定パルス列の印加により得られたパルスエコー信号をMRI画像の形成のために用いるMRI装置100について述べたが、特定パルス列の印加により得られたパルスエコー信号を用いて特定の要素と他の要素とを識別して検出するNMR装置を構成することもできる。例えば、こうしたNMR装置は、一般的なNMR装置において、上述の特定パルス列を試料に印加できるように構成した装置、例えば、図5に示す装置などが挙げられる。こうした装置でも、検出の選択肢となる複数の要素のそれぞれについて、当該要素が他の要素のスピンエコー強度に基づいて識別できる特定間隔Ts及び特定期間Ps又は特定回数nを予め経験的に求めておけば、ある試料が特定の要素であるか否かを、当該特定の要素に対応した特定間隔Tsで特定パルス列をその試料に印加して、特定期間Ps又は特定回数nに対応するタイミングで取得したスピンエコー強度に基づいて推定できる。
【0106】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【0107】
(実施例)
(実施例1)
23Naを検出するNMR装置を用いて、さまざまなパルス間隔τについて、図2に示すAPCPパルス列に従い1回のπ/2パルス(励起パルス)と複数回のπパルス(反転パルス)を、静磁場内の試験管に入れた試料に印加し、試料から得られる複数のスピンエコー信号を測定した。
【0108】
前述のNMR装置は、図5のブロック図に示すように構成でき、主に、NMRマグネット及びプローブ(Oxford室温ボア高分解能NMR超伝導マグネット、Oxford300/89、英国製)、RF信号発生器(HP8656B、米国製)、DCパルス発生機(DCパルスプログラマー、サムウェイN210-1026S、日本製)、RF減衰器(プログラマブル減衰器、多摩川電子TPA-410、日本製)、RF電力増幅器(DotyDSI1000B、米国製)、RF前置増幅器(Doty2LSeries、米国製)などで構成されている。
【0109】
試料としては、食塩水、尿、及びゲルの三種類を用いた。食塩水は、飽和食塩水溶液を用いた。尿は、人間由来であり、Naを4~14g/dl含むものを用いた。ゲルは、飽和量のゼラチン粉末(「クックゼラチン」、森永製菓)と2~3重量%の食塩とを市水に添加して固化して作成した。各試料について約5mlを測定に用いた。
【0110】
さまざまなパルス間隔τについて行った測定の結果の一部を図6~8に示す。図6では、π/2パルスのパルス幅を16マイクロ秒、πパルスのパルス幅を24マイクロ秒、パルス間隔4τを0.86ミリ秒として、図2に示すAPCPパルス列を食塩水、尿、及びゲルに印加したときに、各πパルスの印加により食塩水、尿、及びゲルから発生したスピンエコー信号の信号強度(但し、図2で上向きで示されるπパルス(180x)の印加によるもののみ)を、π/2パルス照射から当該スピンエコー信号の取得までの時間に対してプロットしている。なお、図中、それぞれの試料について、スピンエコー信号の信号強度を、時刻ゼロへの外挿値に対して規格化した値で示す。従って、どの試料でも時刻ゼロでの信号強度は1となる。同様に、図7は、π/2パルスのパルス幅を16マイクロ秒、πパルスのパルス幅を24マイクロ秒、パルス間隔4τを、ゲルに対しては1.67ミリ秒、食塩水及び尿に対しては0.835ミリ秒としたときの結果を示し、図8は、飽和食塩水及びゲルのみを用い、π/2パルスのパルス幅を16マイクロ秒、πパルスのパルス幅を26マイクロ秒、パルス間隔τを2.2ミリ秒としたときの結果を示す。
【0111】
(実施例2)
実施例1に記載のNMR装置を用いて、23Naの代わりにHを測定対象原子として、さまざまなパルス間隔τについて、図2に示すAPCPパルス列に従い1回のπ/2パルス(励起パルス)と複数回のπパルス(反転パルス)を、静磁場内の試料に印加し、試料から得られる複数のスピンエコー信号を測定した。π/2パルスのパルス幅は20マイクロ秒、πパルスのパルス幅は50マイクロ秒とした。パルス間隔τは、1、1.5、2、3、4、又は5ミリ秒とした。
【0112】
試料としては、飽和量のゼラチン粉末と2重量%の食塩とを市水に添加して固化して作成したゲルを用いた。このゲルを約5mlだけ試験管に入れ、この試験管をNMR装置の静磁場内に配置して、測定に用いた。
【0113】
測定結果を図9に示す。図9では、前述の各パルス間隔τで、図2に示すAPCPパルス列をゲルに印加したときに、各πパルスの印加によりゲルから発生したスピンエコー信号の信号強度を、π/2パルス照射から当該スピンエコー信号の取得までの時間に対してプロットしている。信号強度の規格化については実施例1と同様である。
【0114】
(比較例1)
実施例1に記載のNMR装置を用いて、23Naを測定対象原子として、ハーンエコー法により食塩水、尿、及びゲルから得られたスピンエコー信号を測定した。ハーンエコー法では、図10に示すように、π/2パルス(励起パルス)を印加してからτ時間後に、πパルス(反転パルス)を1回だけ印加して、それからτ時間後に得られるスピンエコー信号の信号強度(エコー強度)を、パルス間隔2τの関数として得るので、実験的にはτを経時的に変化させつつ対応するエコー強度を逐次取得することになる。π/2パルスのパルス幅は16マイクロ秒、πパルスのパルス幅は24マイクロ秒とした。
【0115】
ハーンエコー法による測定の結果を図11に示す。図11では、πパルスの印加により食塩水、尿、又はゲルから発生したスピンエコー信号の信号強度を、π/2パルス照射から当該スピンエコー信号の取得までの時間に対してプロットしている。
【0116】
(まとめ)
まず、実施例1に示す図6~8の結果から、図2に示す特定パルス列を食塩水、ゲル、尿に印加すると、各πパルスの印加により発生する複数のスピンエコーの信号強度は、減衰振動を示すことがわかる。また、図6~8を比べると、各試料の減衰振動パターンが、(a)試料の構成要素の種類と、(b)特定パルス列でのパルス印加間隔とにより異なるパターンを示すことがわかる。特に、(c)異なる試料の減衰振動パターンは、特定パルス列でのパルス印加間隔を変えたときに、必ずしも連動的に変動するのではなく、試料の種類毎に異なった変動を示すことがわかる。
【0117】
特定パルス列により生じるこの減衰振動の特性を利用すれば、特定パルス列でのパルス印加間隔をさまざまに変えることで、異なる試料同士をスピンエコー強度に基づいて識別できるような、それらの試料の減衰振動パターンの組み合わせを得られはずである。
【0118】
この特性は、カメラに例えれば、可動焦点を得たことに相当する。図11に示した従来のスピンエコー法では、エコー時間TE1、TE2のいずれにおいても、検査対象の構成要素間のスピンエコーの信号強度の差が顕著にならないため、特定の要素を観察する際に、他の要素に対して特定の要素のコントラストを明確に得ることができない、固定焦点による撮像に相当する。
【0119】
一方で、上述の特性を利用すれば、πパルスの印加間隔を可変することで、検査対象を構成する要素間でのスピンエコー特性を変化させることができるため、パルス印加間隔を試料が含む特定の要素に合わせて可変制御することは、焦点を任意の対象に合わせることができる可動焦点による撮像に相当する。従って、この特性を利用すれば、検査対象を構成する複数の要素のうち、特定の要素のスピンエコーの信号強度と、他の要素のスピンエコーの信号強度との差が顕著になるπパルスの特定の印加間隔と、スピンエコー取得タイミングとを予め経験的に求めておき、検査対象に特定パルス列を印加する際に、特定パルス列のパルス印加間隔を前述の特定の印加間隔に制御することで、カメラにおける焦点の可動制御に相当する制御を行い、特定要素に焦点を合わせたMRI画像を生成する。
【0120】
また、実施例2に示されるように、23NaのみならずHを測定対象としても、特定パルス列に印加によりスピンエコー強度の減衰振動パターンが得られることがわかる。従って、上述の特定パルス列による焦点制御技術は、23Naのみならずさまざまな他の原子にも適用できると考えられる。
【0121】
なお、本実施形態に記載のプログラムは、非一時的なコンピュータ読取可能な情報記録媒体に記録して配布、販売することができる。また、コンピュータ通信網等の一時的な伝送媒体を介して配布、販売することができる。
【0122】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0123】
なお、本願については、2018年3月1日に出願された日本国特許出願2018-036934号を基礎とする優先権を主張し、本明細書中に日本国特許出願2018-036934号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【符号の説明】
【0124】
100…MRI装置
1…試料
2…載置台
3…ボア
10…静磁場コイル
20…勾配磁場発生部、21…勾配磁場コイル、22…勾配磁場コイル駆動部
30…パルス印加部、31…RFコイル、32…RFコイル駆動部
40…受信部
50…制御装置
51…制御部、51a…パルス制御部、51b…画像生成部
52…記憶部、PG1、PG2…プログラム
60…表示部
70…操作部
図1
図2
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図9
図10
図11