(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】多血小板血漿の保存方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/19 20150101AFI20221213BHJP
A61K 35/16 20150101ALI20221213BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221213BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221213BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20221213BHJP
A61M 5/28 20060101ALI20221213BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20221213BHJP
A61K 9/10 20060101ALN20221213BHJP
A61L 26/00 20060101ALN20221213BHJP
A61K 9/19 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
A61K35/19 Z
A61K35/16 A
A61P17/02
A61P43/00 107
A01N1/02
A61M5/28
A61J1/05
A61K9/10
A61L26/00
A61K9/19
(21)【出願番号】P 2021003144
(22)【出願日】2021-01-13
(62)【分割の表示】P 2016036427の分割
【原出願日】2016-02-26
【審査請求日】2021-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2015036103
(32)【優先日】2015-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513066111
【氏名又は名称】株式会社細胞応用技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】井上 肇
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-504755(JP,A)
【文献】特表2008-516980(JP,A)
【文献】特表2002-535373(JP,A)
【文献】特表2002-512968(JP,A)
【文献】特表2003-500364(JP,A)
【文献】特表平07-500597(JP,A)
【文献】国際公開第2014/147092(WO,A1)
【文献】特表2013-522186(JP,A)
【文献】特表2003-524590(JP,A)
【文献】特開平10-067667(JP,A)
【文献】特表2013-508066(JP,A)
【文献】特開2006-232834(JP,A)
【文献】特開2004-123576(JP,A)
【文献】特開2012-161437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 9/00-9/72
A61M 5/00-5/52
A01N 1/00-1/02
A01J 1/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多血小板血漿を適用する患者からクエン酸ナトリウム入りのシリンジに採血した血液を、スピッツを用いて2回遠心分離し(ただし、血漿成分と血球成分を分離するための細胞分離ゲルを用いる態様を
除く)、2回目の遠心分離に用いたスピッツ内で分離した多血小板血漿を、採血に用いたシリンジと異なるシリンジで抜き取ったそのシリンジのままシリンジの先端を密封して冷凍保存することを特徴とする、解凍して患者に適用するための冷凍された多血小板血漿充填シリンジ製剤の製造方法。
【請求項2】
多血小板血漿を適用する患者からクエン酸ナトリウム入りのシリンジに採血した血液を、スピッツを用いて2回遠心分離し(ただし、血漿成分と血球成分を分離するための細胞分離ゲルを用いる態様を
除く)、2回目の遠心分離に用いたスピッツ内で分離した多血小板血漿を、採血に用いたシリンジと異なるシリンジで抜き取ったそのシリンジのままシリンジの先端を密封して冷凍保存することで製造されてなることを特徴とする、解凍して患者に適用するための冷凍された多血小板血漿充填シリンジ製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多血小板血漿の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多血小板血漿(Platelet Rich Plasma:以下「PRP」と略称する)は、血液中に含まれる3種類の血球(赤血球、白血球、血小板)のうちの血小板のみを高濃度に濃縮させたものであり、細胞の再生を促す種々の成分が含まれていることから、骨、血管、皮膚などの再生促進機能を有することが知られており、難治性皮膚潰瘍などの治療に用いられている。PRPの調製は、例えば、PRPを適用する患者から採血した血液を、採血に用いたシリンジのままやシリンジからスピッツに移し替えて遠心分離することで行われ、PRPを調製する時とPRPを患者に適用する時が同じ場合、シリンジ内やスピッツ内で分離したPRPをシリンジで抜き取って患者に適用する。しかしながら、PRPを調製する時とPRPを患者に適用する時が異なる場合、PRPを調製する時からPRPを患者に適用する時まで、PRPをいかに保存するかという問題への対処が必要となる。現在のところ、PRPの保存は、シリンジ内やスピッツ内からシリンジで抜き取ったPRPをバイアル瓶に移し替え、冷凍保存することで行われており(例えば非特許文献1)、PRPを患者に適用する際には、バイアル瓶内のPRPを例えば自然解凍した後にシリンジで抜き取ることが行われているが、こうした操作は手間がかかるものであり、また、操作が適切に行われなかった場合には雑菌によってPRPが汚染されるリスクを伴うものである。さらに、PRPをシリンジで抜き取った後のバイアル瓶内に少なからず残ってしまったPRPは、患者に適用されずに廃棄されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Giovanni Crovetti et al.,Transfusion and Apheresis Science,30(2004),145-151
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、PRPを適用する患者の血液から調製したPRPを、手間をかけず、また、雑菌による汚染のリスクを回避し、かつ、患者に適用する際に無駄にすることなく、保存する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の点に鑑みてなされた本発明の、解凍して患者に適用するための冷凍されたPRP充填シリンジ製剤の製造方法は、請求項1記載の通り、PRPを適用する患者からクエン酸ナトリウム入りのシリンジに採血した血液を、スピッツを用いて2回遠心分離し(ただし、血漿成分と血球成分を分離するための細胞分離ゲルを用いる態様を除く)、2回目の遠心分離に用いたスピッツ内で分離したPRPを、採血に用いたシリンジと異なるシリンジで抜き取ったそのシリンジのままシリンジの先端を密封して冷凍保存することを特徴とする。
また、本発明の、解凍して患者に適用するための冷凍されたPRP充填シリンジ製剤は、請求項2記載の通り、PRPを適用する患者からクエン酸ナトリウム入りのシリンジに採血した血液を、スピッツを用いて2回遠心分離し(ただし、血漿成分と血球成分を分離するための細胞分離ゲルを用いる態様を除く)、2回目の遠心分離に用いたスピッツ内で分離したPRPを、採血に用いたシリンジと異なるシリンジで抜き取ったそのシリンジのままシリンジの先端を密封して冷凍保存することで製造されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、PRPを適用する患者の血液から調製したPRPを、手間をかけず、また、雑菌による汚染のリスクを回避し、かつ、患者に適用する際に無駄にすることなく、保存する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のPRPの保存方法は、PRPを適用する患者から採血した血液を遠心分離し、遠心分離機にかけた容器内で分離したPRPをシリンジで抜き取ったそのシリンジのまま冷凍保存または凍結乾燥保存することを特徴とするものである。
【0008】
本発明において、PRPを適用する患者から採血した血液を遠心分離する方法や、遠心分離機にかけた容器内で分離したPRPをシリンジで抜き取る方法は、自体公知の方法であってよく、例えば、PRPを適用する患者から採血した血液を、採血に用いたシリンジのままやシリンジからスピッツに移し替えて遠心分離し、シリンジ内やスピッツ内で分離したPRPをシリンジで抜き取ればよい。
【0009】
本発明の特徴は、遠心分離機にかけた容器内で分離したPRPをシリンジで抜き取ったそのシリンジのまま冷凍保存または凍結乾燥保存することにある。こうすることで、これまで行われていたPRPのバイアル瓶への移し替えやバイアル瓶からの抜き取りといった操作の手間を省くことができるとともに、こうした操作が適切に行われなかった場合の雑菌によるPRPの汚染のリスクを回避することができ、かつ、PRPを無駄なく患者に適用することができる。
【0010】
PRPを充填したシリンジの冷凍保存は、シリンジの先端をルアーキャップなどで密封し、-18℃~-196℃で行えばよい。なお、PRPを充填したシリンジは、シリンジの先端をルアーキャップなどで密封した後、真空パックに封入してから冷凍保存してもよい。こうして冷凍保存したPRP充填シリンジは、PRPが安定に保存されたものであり、PRPを患者に適用する時に例えば自然解凍し、シリンジからPRPを患者に適用することができる。
【0011】
シリンジに充填したPRPの凍結乾燥は、シリンジの先端に濾過滅菌フィルタを取り付けた後、PRPに対してできるだけ温和な条件、例えば-4~-20℃でPRPを3~24時間予備凍結させてから、シリンジを凍結乾燥機の処理室に収容し、例えば60mTorr以下の圧力に5分以内に到達させて10~24時間凍結乾燥処理することで行うことが望ましい(PRPが雑菌によって汚染されることもない)。なお、-4~-20℃といった高温の氷点下でPRPを予備凍結させてから凍結乾燥処理すると、シリンジの内部はPRPに含まれる水分が昇華するためのPRPの表面積が非常に小さいため、凍結乾燥機の処理室環境に暴露される表面から離れた深部のPRPが途中で溶けてしまったりすることで、PRPの全体を均一に凍結乾燥処理できないといった事態が想定される。従って、このような事態を防ぐため、凍結乾燥装置の処理室に収容したシリンジの周囲に例えば-30~-70℃で凍結させた氷を配置し、凍結したPRPを冷却しながら凍結乾燥処理することが望ましい。PRPの凍結乾燥は、先端に濾過滅菌フィルタを取り付けたPRPを充填したシリンジをガス透過性の滅菌バックに封入してから行ってもよい。こうして充填されたPRPが凍結乾燥されたシリンジは、先端に取り付けた濾過滅菌フィルタをルアーキャップなどに交換して先端を密封することで、室温にて保存することができ、注射用蒸留水などの溶媒をシリンジの内部に吸引させてPRPを懸濁すれば、シリンジからPRPを患者に適用することができる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0013】
実施例1:
抗凝固剤として、4mlのクエン酸ナトリウム液(扶桑薬品工業株式会社)を50mlのシリンジ(テルモ株式会社)に分取し、難治性皮膚潰瘍患者から56mlの採血を行った後、クリーンルーム内のクリーンベンチでスピッツを用いて2回遠心分離法を実施した(1回目:1000Gで10分間、2回目:700Gで8分間)。2回目の遠心分離に用いたスピッツ内で分離した6mlのPRPを、4本の2.5mlのシリンジ(テルモ株式会社)に1.5mlずつ抜き取り、それぞれのシリンジの先端をルアーキャップ(テルモ株式会社)で密封した。それぞれのPRPを充填封入したシリンジを、20×13cmの真空パック(株式会社シー・シー・ピー)に封入してから、市販の超低温冷凍庫にて-80℃で冷凍保存し、PRP充填シリンジ製剤を得た。こうして得られた4本のPRP充填シリンジ製剤は、患者の治療スケジュールに合わせて、7~10日間毎に合計4回、治療前に自然解凍し、シリンジからPRPを余すことなく患者に適用(創傷部に塗布)した。
【0014】
実施例2:
抗凝固剤として、4mlのクエン酸ナトリウム液(扶桑薬品工業株式会社)を50mlのシリンジ(テルモ株式会社)に分取し、難治性皮膚潰瘍患者から56mlの採血を行った後、クリーンルーム内のクリーンベンチでスピッツを用いて2回遠心分離法を実施した(1回目:1000Gで10分間、2回目:700Gで8分間)。2回目の遠心分離に用いたスピッツ内で分離した6mlのPRPを、4本の2.5mlのシリンジ(テルモ株式会社)に1.5mlずつ抜き取り、それぞれのシリンジの先端に孔径が0.22μmの濾過滅菌フィルタ(倉敷紡績株式会社)を取り付けた後、滅菌したガス透過性滅菌バック(株式会社ホギメディカル)にシリンジを封入してから、市販のフードフリーザを用いて-10℃でPRPを4時間予備凍結させた。次に、こうして充填されたPRPを予備凍結させたシリンジを、凍結乾燥機(ヤマト科学株式会社)の処理室に収容し、50mTorr以下の圧力に3分以内に到達させて16時間凍結乾燥処理した。この際、シリンジの周囲に約-50℃で凍結させた氷塊を配置し、凍結したPRPを冷却した。こうして充填されたPRPが凍結乾燥されたシリンジは、滅菌バックから取り出した後、先端に取り付けた濾過滅菌フィルタをルアーキャップ(テルモ株式会社)に交換して先端を密封し、室温で保存した。こうして得られた4本のPRP充填シリンジ製剤は、患者の治療スケジュールに合わせて、7~10日間毎に合計4回、治療前に注射用蒸留水(株式会社大塚製薬工場)をシリンジの内部に吸引させてPRPを懸濁し、シリンジからPRPを余すことなく患者に適用(創傷部に塗布)した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、PRPを適用する患者の血液から調製したPRPを、手間をかけず、また、雑菌による汚染のリスクを回避し、かつ、患者に適用する際に無駄にすることなく、保存する方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。