(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブとその製造方法、及びカーボンナノチューブ分散体
(51)【国際特許分類】
C01B 32/152 20170101AFI20221213BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20221213BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221213BHJP
H01M 8/0606 20160101ALN20221213BHJP
【FI】
C01B32/152
B82Y30/00 ZNM
B82Y40/00
H01M8/0606
(21)【出願番号】P 2016100014
(22)【出願日】2016-05-18
【審査請求日】2019-05-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小田 亙
(72)【発明者】
【氏名】河合 一誠
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 俊介
(72)【発明者】
【氏名】片山 美和
(72)【発明者】
【氏名】本田 知広
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 精二
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】河本 充雄
【審判官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-6708(JP,A)
【文献】特開2009-242117(JP,A)
【文献】特表2015-529157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00-32/991
B82Y30/00
B82Y40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲を有する繊維状であり、BET比表面積が100m
2/g超500m
2/g未満であり、且つフタル酸ジブチル(DBP)吸収量が150ml/100g以上400ml/100g以下であり、且つ相対圧P/P
0=0.3での水蒸気吸着量が0.5mg/g以上であり、結晶不連続部を有する
カーボンナノチューブであって、前記カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブのウォールに平行部分と平行部分のチューブ外径に対して90%以下のチューブ外径であるくびれ部分とを有し、該カーボンナノチューブの0.1%分散液を作製し、その分散液を試料台にのせて乾燥させ、透過型電子顕微鏡で2万倍にて撮影した画像を100nm四方の区画に区切り、100nm四方の区画にカーボンナノチューブの占める面積が10%~80%である区画を300区画選択した際に、1区画中にくびれ部分が少なくとも1箇所存在する区画が300区画中に40%以上存在することを特徴とするカーボンナノチューブ。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの(002)面の結晶子サイズLc(002)が30Å以上60Å以下である請求項
1に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項3】
励起波長532nmのグリーンレーザーで測定したラマンスペクトルにおいて、炭素のDバンドのピーク強度P
Dに対するGバンドのピーク強度P
Gの比P
G/P
Dが0.8~2.0である請求項1
又は2に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブのチューブ外径の幾何平均径(M
D)が、5nm~30nmである請求項1~
3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブのチューブ外径の分布の幾何標準偏差(σ
D)が、1.20~1.70である請求項1~
4のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項6】
蛍光X線分析で得られるカーボン含有量が98%以上である請求項1~
5のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項7】
飽和炭化水素を含む原料ガスと、粉末状の触媒とを接触させて化学気相成長反応によりカーボンナノチューブを生成する工程を有し、該カーボンナノチューブを生成する工程において、触媒粉末がカーボンナノチューブを生成しながら流動することができる方式を用い、該触媒の周辺雰囲気が原料ガスで置換された後に原料ガスが熱分解する温度に到達するよう昇温することを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
飽和炭化水素を含む原料ガスと、粉末状の触媒とを接触させて化学気相成長反応によりカーボンナノチューブを生成する工程と、空気中で該カーボンナノチューブを300℃~600℃での熱処理を行う工程とを含む、請求項
7に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
飽和炭化水素を含む原料ガスと、粉末状の触媒とを接触させて化学気相成長反応によりカーボンナノチューブを生成する工程と、該カーボンナノチューブを非酸化雰囲気で300℃~1800℃での熱処理を行う工程と、該カーボンナノチューブを空気中で300℃~600℃での熱処理を行う工程とを含む請求項
7又は8に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブを生成する工程において、原料における飽和炭化水素ガスが75体積%以上である請求項
7~9のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項11】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブとその製造方法及びカーボンナノチューブ分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブが持つ電気・熱伝導性などの特性を活かすため、様々な材料への添加が試みられている。しかし、一般にカーボンナノチューブはそのチューブ径の細さゆえにファンデルワールス力によって束(バンドル)や凝集体を形成し易く、これを個々のカーボンナノチューブ単繊維に分散させるために各種検討がなされている。
【0003】
特許文献1ではカーボンナノチューブを分散させるための分散剤の検討がなされているが、分散剤によって、カーボンナノチューブの特性が阻害される恐れがある。
【0004】
特許文献2では、樹脂に対する分散性を高めるために、表面に無定形炭素層を有する親油性カーボンナノファイバーの検討がなされている。しかし、親油性だと用途が限られてしまうため、親水性も併せ持つ繊維状炭素が望まれる。
【0005】
特許文献3では、カーボンナノチューブを硫酸やオゾンで強く酸化することによって、カーボンナノチューブの表面に細孔を形成すると同時に官能基修飾を行い、親水性を高める検討がなされている。しかし、細孔や官能基修飾によってカーボンナノチューブのグラファイト網面に欠損が発生し、カーボンナノチューブの特性が阻害される恐れがある。
【0006】
カーボンナノチューブの形状の制御によって分散性を改善する検討もなされている。カーボンナノチューブの分散が困難である原因のひとつはチューブの長さが長いことである。よって、カーボンナノチューブの切断により、カーボンナノチューブの短尺化が起こることで、カーボンナノチューブの凝集体が解砕され、分散を進行させることができる。
【0007】
そこで、カーボンナノチューブの中途に結晶不連続部を設け、その接合部で切断しやすいカーボンナノチューブが開発されている。従来、カーボンナノチューブの形状としては、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン、カップ積層型)、トランプ状(プレートレット)等が開発されている。魚骨状やトランプ状のカーボンナノチューブは結晶不連続部を多く持つが、グラファイト網面のC軸が繊維軸方向に対し、傾斜あるいは直交して積層した構造であるため、単独の繊維における繊維軸長軸方向の電気伝導性は低下する。また、円筒チューブ形状において、所謂釣鐘状構造単位を形成し、それら単位が数十個積み重なった炭素繊維が開発されているが(特許文献4)、グラファイト網面が閉じた頭頂部と下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して層状に積み重なった集合体であり、連結部では頭頂部が別の構造単位の開放端にはまり込んでいる状態となっており、易切断性に欠け、分散性はまだ満足されるものではない。
【0008】
一方で、カーボンナノチューブ中に含まれる触媒由来の金属成分は、用途によっては悪影響を及ぼす。そのため、特許文献5では、多層カーボンナノチューブを酸処理することによって触媒由来の不純物を除去することが検討されている。しかし、酸によってカーボンナノチューブの最外層がアモルファスになるまで荒らされてしまうため、カーボンナノチューブ本来の特性が阻害される恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO11/004864
【文献】特開2006-152490
【文献】WO2015/045418
【文献】特開2014-181140
【文献】WO2013/161317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、水系の溶媒に分散し易い親水性のカーボンナノチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、BET比表面積が100m2/g超500m2/g未満であり、且つフタル酸ジブチル(DBP)吸収量が150ml/100g以上400ml/100g以下であり、且つ相対圧P/P0=0.3での水蒸気吸着量が0.5mg/g以上であることを特徴とするカーボンナノチューブである(本発明1)。
【0012】
また、本発明は、本発明1記載のカーボンナノチューブであって、カーボンナノチューブのウォールに平行部分と平行部分のチューブ外径に対して90%以下のチューブ外径であるくびれ部分とを有し、該カーボンナノチューブの0.1%分散液を作製し、その分散液を試料台にのせて乾燥させ、透過型電子顕微鏡で2万倍にて撮影した画像を100nm四方の区画に区切り、100nm四方の区画にカーボンナノチューブの占める面積が10%~80%である区画を300区画選択した際に、1区画中にくびれ部分が少なくとも1箇所存在する区画が300区画中に40%以上存在するカーボンナノチューブである(本発明2)。
【0013】
また、本発明は、本発明1および2に記載のカーボンナノチューブであって、(002)面の結晶子サイズLc(002)が30Å以上60Å以下であるカーボンナノチューブである(本発明3)。
【0014】
また、本発明は、本発明1~3のいずれかに記載のカーボンナノチューブであって、励起波長532nmのグリーンレーザーで測定したラマンスペクトルにおいて、炭素のDバンドのピーク強度PDに対するGバンドのピーク強度PGの比PG/PDが0.8~2.0であるカーボンナノチューブである(本発明4)。
【0015】
また、本発明は、本発明1~4のいずれかに記載のカーボンナノチューブであって、チューブ外径の幾何平均径(MD)が、5nm~30nmであるカーボンナノチューブである(本発明5)。
【0016】
また、本発明は、本発明1~5のいずれかに記載のカーボンナノチューブであって、チューブ外径の分布の幾何標準偏差(σD)が、1.20~1.70であるカーボンナノチューブである(本発明6)。
【0017】
また、本発明は、本発明1~6のいずれかに記載のカーボンナノチューブであって、蛍光X線分析で得られるカーボン含有量が98重量%以上であるカーボンナノチューブである(本発明7)。
【0018】
また、本発明は、飽和炭化水素を含む原料ガスと、粉末状の触媒とを接触させて化学気相成長反応によりカーボンナノチューブを生成する工程を有し、該カーボンナノチューブを生成する工程において、該触媒の周辺雰囲気が原料ガスで置換された後に原料ガスが熱分解する温度に到達するよう昇温することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法である(本発明8)。
【0019】
また、本発明は、飽和炭化水素ガスを含む原料ガスと、粉末状の触媒とを接触させて化学気相成長反応によりカーボンナノチューブを生成する工程と、空気中で該カーボンナノチューブを300℃~600℃での熱処理を行う工程とを含む、本発明8に記載のカーボンナノチューブの製造方法である(本発明9)。
【0020】
また、本発明は、飽和炭化水素ガスを含む原料ガスと、粉末状の触媒とを接触させて化学気相成長反応によりカーボンナノチューブを生成する工程と、該カーボンナノチューブを非酸化雰囲気で300℃~1800℃での熱処理を行う工程と、該カーボンナノチューブを空気中で300℃~600℃での熱処理を行う工程とを含む、本発明8又は9に記載のカーボンナノチューブの製造方法である(本発明10)。
【0021】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブを生成する工程において、原料ガスにおける飽和炭化水素ガスが75体積%以上である本発明8~10のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法である(本発明11)。
【0022】
また、本発明は、本発明1~7のいずれかに記載のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ分散体である(本発明12)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るカーボンナノチューブによれば、親水性が高いために、水系溶媒に簡便かつ短時間で分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】実施例14で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡の写真
【
図3】比較例5で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡の写真
【
図4】比較例7で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡の写真
【
図5】(A)実施例12および(B)比較例5で得られたカーボンナノチューブの塗膜の光学顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0026】
まず、本発明に係るカーボンナノチューブについて述べる。
【0027】
カーボンナノチューブとはチューブ状でチューブ内径およびチューブ外径がナノサイズを有している炭素繊維材料である。カーボンナノチューブには1層のグラフェンシートが丸まったチューブ形状の単層カーボンナノチューブや、2層以上のチューブが同心円状に重なっている多層カーボンナノチューブがあるが、導電性が必要とされる用途においては、カーボンナノチューブの最表層に欠陥が生じても内側のチューブによって伝導性が確保され易いため、多層カーボンナノチューブがより好ましい。
【0028】
本発明に係るカーボンナノチューブは、屈曲を有する繊維状であることが好ましい。カーボンナノチューブが屈曲を有することにより、カーボンナノチューブの短繊維どうしが平行にならず、カーボンナノチューブが一方向に配向して凝集することがない。直線性が高く一方向に配向したカーボンナノチューブフォレストなどは、カーボンナノチューブの直線性が高くてバンドルを形成し易く、単繊維への分散が難しいので好ましくない。カーボンナノチューブの単繊維どうしが平行でない状態であれば、凝集体の形状は問わないが、カーボンナノチューブの単繊維が緩く毛玉状にまとまった状態が好ましい。前記毛玉状のカーボンナノチューブは、例えば微粒子の触媒を流動させて原料ガスに接触させるCVD法などによって得られる。前記形状は走査型電子顕微鏡(SEM)などで確認することができる。
【0029】
本発明に係るカーボンナノチューブはBET法によって求められる比表面積が100m2/g超500m2/g未満であるものが好ましい。比表面積が100m2/g以下のカーボンナノチューブはチューブ外径が太く、また柔軟性に乏しいので、例えば樹脂などに添加した場合に伝導性を付与しにくいため好ましくない。また、比表面積が500m2/g以上のカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ間でバンドルが形成され易く、分散し難くなるので好ましくない。より好ましい範囲は110m2/g超400m2/g未満であり、さらに好ましい範囲は120m2/g超300m2/g未満である。
【0030】
本発明に係るカーボンナノチューブは、JIS K6217-4に準拠して測定されるフタル酸ジブチル(DBP)吸収量が150ml/100g以上400ml/100g以下であるものが好ましい。DBP吸収量はカーボンブラックにおける数珠状の連なり(ストラクチャ)を反映するパラメーターであり、この値が高いほど樹脂などに添加した場合にストラクチャが広範囲に広がり易く、伝導性を付与しやすいとされている。よって、絡まっているカーボンナノチューブの解しやすさの指標としてDBP吸収量を採用した。DBP吸収量が150ml/100g未満のカーボンナノチューブはチューブ長さが短く、伝導性を付与しにくいため好ましくない。DBP吸収量が400ml/100gを超えるカーボンナノチューブはチューブ同士の絡まりが強く、分散させることが難しいので好ましくない。より好ましい範囲は175ml/100g以上380ml/100g以下であり、さらに好ましい範囲は200ml/100g以上370ml/100g以下である。
【0031】
本発明に係るカーボンナノチューブは、飽和蒸気圧P0に対する相対圧の条件P/P0=0.3での水蒸気吸着量が0.5mg/g以上であるものが好ましい。水蒸気吸着量が0.5mg/g未満である場合、親水性が低く、水などの水系溶媒に馴染みにくいので好ましくない。水蒸気吸着量はカーボンナノチューブを合成した後に残る、触媒や触媒用担体に由来する金属酸化物にも影響を受ける。水蒸気吸着量のより好ましい範囲は0.55mg/g以上であり、さらに好ましい範囲は0.6mg/g以上である。
【0032】
本発明に係るカーボンナノチューブは、DBP吸収量をBET比表面積で除した値が0.5~2.4であるものが好ましい。上述の通り、DBP吸収量はカーボンナノチューブの解しやすさの指標であるが、このパラメーターはカーボンナノチューブの比表面積に影響されるため、DBP吸収量をBET比表面積で除した値の方が、よりカーボンナノチューブの易分散性を比較しやすい。DBP吸収量をBET比表面積で除した値が0.5より小さいカーボンナノチューブは工業的に得ることが難しい。DBP吸収量をBET比表面積で除した値が2.4より大きいカーボンナノチューブは凝集が強く、解れにくいので好ましくない。より好ましい範囲は0.6~2.3であり、さらに好ましい範囲は0.7~2.2である。
【0033】
本発明に係るカーボンナノチューブは、水蒸気吸着量をBET比表面積で除した値が0.002~0.03であるものが好ましい。水蒸気吸着量は比表面積に影響されるパラメーターであるため、水蒸気吸着量をBET比表面積で除した値の方が、よりカーボンナノチューブの親水性を比較しやすい。水蒸気吸着量をBET比表面積で除した値が0.002よりも小さいカーボンナノチューブは親水性に乏しく、水系溶媒に馴染みにくいので好ましくない。水蒸気吸着量をBET比表面積で除した値が0.03より大きいカーボンナノチューブはBETが低く、伝導性を付与しにくいので好ましくない。より好ましい範囲は0.0025~0.027であり、さらに好ましくは0.003~0.025である。
【0034】
本発明に係るカーボンナノチューブは、DBP吸収量を水蒸気吸着量で除した値が750未満であるものが好ましい。DBP吸収量を水蒸気吸着量で除した値が750未満であるカーボンナノチューブは、解れ易く、また水への馴染みが良いので、分散液を作製するのに好適である。より好ましい値は500未満であり、さらに好ましくは450未満である。
【0035】
本発明に係るカーボンナノチューブ分散液に用いるカーボンナノチューブは、X線回折におけるカーボンナノチューブ(002)面の結晶子サイズ(Lc(002))が30Å以上60Å以下であるものが好ましい。Lc(002)が30Å未満のカーボンナノチューブは、同じ経路の伝導性を確保するのに必要な結晶子の数が多くなるので好ましくない。Lc(002)が60Åを超えるカーボンナノチューブを工業的に作製するのは困難である。より好ましいLc(002)は33Å以上55Å以下である。
【0036】
本発明に係るカーボンナノチューブは、蛍光X線(XF)によって測定されるカーボン含有量が98.5mass%以上であるものが好ましい。カーボン含有量が98.5mass%未満のカーボンナノチューブは、含有する触媒や触媒用担体に由来する金属酸化物が、例えば二次電池の導電材として用いた場合に電解液中に溶出し、短絡の原因になり得るため好ましくない。より好ましいカーボン含有量は99.0mass%以上であり、さらに好ましくは99.5mass%以上である。
【0037】
本発明に係るカーボンナノチューブは、チューブ外径(D)の幾何平均径(MD)が5nm以上30nm以下であるものが好ましい。幾何平均径(MD)は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)などで確認することができる。チューブ外径が30nmを超えると、単位重量当たりの繊維本数が少なくなり、十分な伝導性を得ることできない。また、チューブ外径が5nm未満であると、カーボンナノチューブどうしが束(バンドル)を形成し易くなり、分散が困難になって、結果として特性が悪化する。より好ましい幾何平均径(MD)は6nm以上27nm以下であり、さらに好ましくは7nm以上25nm以下である。また、チューブ外径の分布の幾何標準偏差(σD)は、1.20~1.70が好ましい。
【0038】
本発明に係るカーボンナノチューブは、励起波長532nmのグリーンレーザーで測定したラマンスペクトルにおいて、炭素のDバンドのピーク強度PDに対するGバンドのピーク強度PGとの比PG/PDが0.8~2.0であるものが好ましい。より好ましい範囲は0.85~1.9であり、さらに好ましい範囲は0.9~1.8である。
【0039】
本発明に係るカーボンナノチューブは、分散し易いカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの易分散性は、例えばTEMで確認でき、バンドル状になっているカーボンナノチューブの割合が少なく、節やくびれ部分がカーボンナノチューブの繊維長方向に多く見られるものが好ましいものとして挙げられる。
【0040】
具体的には、0.1%分散液を試料台にのせて乾燥させ、TEMで2万倍にて撮影した画像を100nm四方の区画に区切り、該区画内のうちカーボンナノチューブが占める面積が10~80%である区画を300区画選択した際に、カーボンナノチューブの繊維径に対して90%以下のチューブ外径となるくびれ部分を1区画中に少なくとも1箇所存在する区画が40%以上存在するカーボンナノチューブが挙げられる。さらに好ましくは45%以上であり、さらに好ましいのは50%以上であり、最も好ましいのは55%以上である。
【0041】
節もしくはくびれ部分はカーボンナノチューブの生成時の成長方向が途中で変更されることによって作り出される結晶不連続部であり、小さな機械的エネルギーで容易に切断できる易破断部である。カーボンナノチューブを分散させるには単繊維化と短尺化が必要である。グラファイト網面の結晶性が高く、切れにくいカーボンナノチューブを分散させるためには、連続したチューブ壁面を物理的に破壊して切断する必要があり、チューブの分断に至るまでの間にカーボンナノチューブ全体の結晶構造が必要以上に破壊され、カーボンナノチューブの特徴である電気伝導性などの特性が低下してしまう恐れがある。切れやすい、結晶不連続部やくびれ部分などの易破断部が多いカーボンナノチューブを用いた場合には、易破断部が優先的に衝撃を吸収して切断されるために、分散完了までに必要な機械的エネルギーが小さく、切断部以外のグラファイト網面へのダメージは少ないので好ましい。毛玉状の凝集体を形成しているカーボンナノチューブは、例えばビーズミルなどで凝集体全体に物理的衝撃を受けた場合に、凝集体が抱える内部空隙によってダメージを緩和しつつ、複数個所でカーボンナノチューブが切れて短尺化されやすいため、容易に凝集体構造が崩れて分散し易いので好ましい。毛玉状ではなく、同方向にカーボンナノチューブが配向した凝集体、例えばカーボンナノチューブフォレストなどは、単繊維化が難しく、また、カーボンナノチューブの束(バンドル)に対して物理的衝撃を与えることになるので、効率的に分散できず、分散にいたるまでに受けるダメージが大きくなるので好ましくない。
【0042】
カーボンナノチューブのウォールの形状とチューブ外径は、透過型電子顕微鏡等で観察することができる。
図1にくびれ部分を有するカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を示す。カーボンナノチューブのウォール平行部分とは、透過型電子顕微鏡で観察した際にカーボンナノチューブの最外層ウォールが2本の平行な直線又は2本の平行な曲線と認識できる部分である。平行線の法線方向のウォールの外壁間の距離が平行部分のチューブ外径1である。カーボンナノチューブのウォールのくびれ部分とは、両端が平行部分に隣接し、平行部分に比べてウォールの距離が近づいており、平行部分のチューブ外径に対して90%以下のチューブ外径を持つ部分である。くびれ部分のうち外壁を構成するウォールのなかで、距離が最も近い箇所の距離がくびれ部分のチューブ外径2である。
【0043】
次に、本発明におけるカーボンナノチューブの製造方法について述べる。
【0044】
本発明におけるカーボンナノチューブは、Fe、Co、Ni等を含有する触媒用金属化合物粒子を用いた、飽和炭化水素を主として含む原料ガスの熱分解反応により製造することができる。
【0045】
飽和炭化水素とはメタンやエタン、プロパンなど、炭素-炭素間の多重結合がない炭化水素を指す。原料ガス中における飽和炭化水素は75体積%以上が好ましく、より好ましくは90体積%以上である。
【0046】
発明者らは、飽和炭化水素を原料ガスとして用いたとき、エチレンなどの不飽和炭化水素を原料ガスとして用いた場合に比べてカーボンナノチューブに結晶不連続部が多く導入されると考えている。カーボンナノチューブの合成では、反応過程で炭化水素ガスが還元され、エチレンやアセチレンなどの不飽和脂肪酸の形態を経て触媒金属微粒子に炭素が取り込まれると言われている。不飽和原料ガスを用いた場合には、触媒金属微粒子にスムーズに炭素が取り込まれるため、金属微粒子表面でのカーボンナノチューブ生成が滞ることがなく、グラファイト網面に欠損が少ない、すなわち結晶不連続部であるくびれ部分が少ないカーボンナノチューブが形成されやすく、飽和炭化水素を用いた場合には、熱分解温度や不飽和脂肪酸への転化を促進させる助触媒の量にもよるが、触媒金属微粒子に炭素が取り込まれる速度が一定ではなくなるため、結果として結晶不連続部であるくびれ部分が形成されやすくなると考えている。また、カーボンナノチューブ生成反応の初期において、各触媒微粒子で反応速度に差がでるために、カーボンナノチューブが形成され始める時の触媒微粒子の大きさに分布が現れ、結果としてチューブ外径に分布があるカーボンナノチューブが得られると考えられる。
【0047】
原料ガスは、水素やアルゴン、場合によっては水蒸気などの酸化性ガスなどと混合して用いてもよいが、原料ガスの濃度が70体積%以上であることが好ましい。高濃度の原料ガスを用いることによって、カーボンナノチューブ生成時に副産物として放出される水素を分離して、炭化水素ガスを後のカーボンナノチューブ生成に利用したり、水素を燃料電池などに利用したりすることが容易になる。より好ましい原料ガスの濃度は80体積%以上であり、さらに好ましくは90体積%であり、最も好ましいのは原料ガスを希釈せずにそのまま用いることである。
【0048】
また、本発明では、カーボンナノチューブを製造する工程において、原料ガスが熱分解される温度に到達する前に、触媒に対して悪影響のあるガスを触媒の周辺雰囲気から排除しておくことが好ましい。触媒に対して悪影響のあるガスとは例えば窒素、硫黄を含むものが挙げられる。炭化水素の熱分解時に窒素が存在すると、Feなどの金属が触媒となってアンモニアが発生し、触媒が失活する原因となり得る。投入した触媒の一部が失活すると、原料ガスの熱分解によるカーボンナノチューブの生成反応が残った触媒に集中し、結果として一つの触媒金属微粒子からのカーボンナノチューブ生成速度が上がり、結晶性が高くて直線性も高い、すなわち結晶不連続部であるくびれ部分が少ないカーボンナノチューブを生成してしまうので好ましくない。触媒に対して悪影響のあるガスを排除する方法としては、具体的には反応室に触媒を配置した後に真空脱気および/またはガス置換を行った後に昇温し、原料ガスの熱分解を行えばよい。置換するガスは触媒に対して悪影響がないものであれば限定しないが、作業の効率性の面から原料ガスが好ましい。
【0049】
触媒は、粉末であることが好ましい。粉末の形状や粒子径は、例えば回転炉に投入して炉を稼動させた時に流動する程度であれば、特に限定しない。
【0050】
カーボンナノチューブを生成するための触媒は、カーボンナノチューブを生成する核となる有効金属成分のほかに、原料ガスの分解に寄与する助触媒成分や、触媒金属を担持するための担体成分を含んでいてもよい。有効金属成分としては、Fe、Co及びNiが挙げられ、これらのうち1種以上を含む触媒であればよい。例えば、Fe、Co及びNiのうち1種以上と、助触媒成分のAlとMgとを含むものを用いることができ、これらの金属元素の酸化物等の金属化合物、金属担持物や金属化合物の担持物、又はそれらの物理混合物であることが好ましい。AlやMgの化合物はカーボンナノチューブの生成において、飽和炭化水素から不飽和炭化水素への転化や、不飽和炭化水素からの水素脱離などの原料ガス熱分解過程で助触媒的に働き、また、カーボンナノチューブ生成の核である有効金属成分の微粒子が焼結することを抑制する。また、カーボンナノチューブ生成後に残ったAlやMgの酸化物は親水性が高いため、水系の溶媒に分散させた場合に馴染みやすくなるという利点もある。触媒中のAlとMgの含有量の和については、1重量%以上であれば良いが、望ましくは3重量%~40重量%である。40重量%よりも多い場合には、助触媒の量が多くなりすぎてしまいカーボンナノチューブの生成効率が悪くなってしまう。
【0051】
本発明者らは、AlとMgとを含有する触媒を用いることによって、触媒中のAlやMgの化合物が助触媒的に働く効果と、原料ガスの熱分解に対するバッファー効果とが、カーボンナノチューブの生成速度を調整し、また、触媒中にカーボンナノチューブの合成に直接作用しないAlやMg等の金属が存在することでカーボンナノチューブの成長に対して直進性が阻害されるため、くびれ部分をカーボンナノチューブにより多く存在させることができると考えている。
【0052】
カーボンナノチューブを生成させる装置としては、流動床、固定床、落下式の反応器、二軸スクリュー方式、ロータリーキルンなどが用いられるが、原料ガスを導入することで、触媒を介して、カーボンナノチューブが生成されるものであれば、特に装置の構造及び原理に限定されず選択することができる。また、選択する装置により、バッチ式、連続式、バッチ連続などの方式も取りうるが、これらも特に限定されるものではない。触媒粉末がカーボンナノチューブを生成しながら流動することができる方式であれば、装置や触媒同士の接触によってカーボンナノチューブの生成の直進性を阻害し、屈曲を有するカーボンナノチューブが緩く毛玉状にまとまった状態で得られやすいため好ましい。
【0053】
カーボンナノチューブを生成させる温度も特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスが熱分解される、400℃~800℃の温度でカーボンナノチューブが生成される。
【0054】
カーボンナノチューブを生成させる触媒供給量は、例えば直径250mmの連続式ロータリーキルンの場合、0.05g/min~10g/minにて連続的に触媒を供給することでカーボンナノチューブが生成される。
【0055】
カーボンナンチューブを生成させるガス供給量は、例えば直径250mmの連続式ロータリーキルンの場合、5L/min~40L/minとすればよい。ガスの投入方法については多段で投入してもかまわない。
【0056】
カーボンナノチューブを生成させる条件として、使用触媒粉末に含まれる有効金属元素1gあたりのカーボンナノチューブの生成速度が、1.0g/min以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの生成速度は、反応温度、原料ガス流量など種々の条件を変更することによって制御することができる。より好ましくは0.95g/min以下であり、さらに好ましくは0.90g/min以下である。
【0057】
本発明者らは、カーボンナノチューブの生成速度をカーボンナノチューブが途切れない程度に遅くすることで、カーボンナノチューブの成長方向の変更がカーボンナノチューブの繊維軸方向に対して頻繁に起こるようになり、結晶が連続していない易破断部であるくびれ部分が多く存在するカーボンナノチューブを得ることができると考えている。グラフェンシートの末端はエッジ部分と呼ばれ、炭素-水素結合になっている。この部分は容易に水酸基などに変わるため、エッジ部分を多く持つ炭素は未処理の状態でも親水性が高い。本発明のカーボンナノチューブは結晶不連続部としてエッジ部分を多く有するために、未処理の状態でも親水性が高く、水系の溶媒に分散させやすいという特徴を持つ。
【0058】
用途に応じて、生成したカーボンナノチューブに対して、さらに親水性を向上させるために親水化処理を行っても構わないし、触媒を取り除く純化処理を行った後に親水化処理を行っても構わない。
【0059】
カーボンナノチューブを純化処理する方法としては、気相法によって該カーボンナノチューブから触媒由来の金属成分を除去することが好ましい。純化処理としては、硫酸などの酸にカーボンナノチューブを浸漬して金属成分を溶解させる方法が知られているが、触媒の一部はカーボンナノチューブ内に取り込まれているために完全に金属を除去することが難しいこと、処理後に水洗する工程において大量の水を使用することなどから好ましくない。気相法による純化処理としては、2000℃を超える不活性ガス中での高温熱処理、酸溶解、ハロゲンガス熱処理法などの方式を取りうるが、非酸化雰囲気中、黒鉛化までには至らない程度、例えば300℃以上1800℃未満の熱処理によって不純物の除去を行うことが望ましい。1800℃以上では、カーボンナノチューブを形成するグラファイト網面が発達し、剛直で太いカーボンナノチューブになってしまうので好ましくない。より好ましい熱処理温度は400℃以上1500℃以下であり、さらに好ましいのは500℃以上1200℃以下である。
【0060】
カーボンナノチューブに親水性を付与する方法としては、酸化性雰囲気中での加熱によって酸化することが好ましい。酸化性雰囲気としては、空気、酸素、水蒸気、オゾンなどを含有していれば特に限定しない。具体的には、管状炉、箱型マッフル炉、回転炉、ローラーハースキルン等を用いて300℃以上600℃以下の温度で、空気を用いて行えばよい。この熱処理によって、カーボンナノチューブに設けられた結晶不連続部分が選択的に酸化され、カーボンナノチューブの親水性および分散性を向上させることができる。より好ましい酸化温度は350℃から550℃である。
【0061】
チューブ径や繊維長が異なるカーボンナノチューブをそれぞれ親水化した後に混合してもよいし、親水化処理したカーボンナノチューブと、未処理のカーボンナノチューブを混合しても構わない。処理履歴の異なるカーボンナノチューブを混合することによって、例えば伝導性や溶媒への親和性などを調整することができる。
【0062】
<作用>
本発明に係るカーボンナノチューブは、親水性が高いために水系溶媒への馴染みがよく、短時間かつ簡便な手法で分散液を作製することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の具体的な実施の例を以下に示すが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
カーボンナノチューブの製造に関する条件の設定とカーボンナノチューブの評価は以下のように行った。
【0065】
(a)有効金属元素含有比率の算出
触媒粉末を走査型蛍光X線分析装置((株)リガク社製ZSX PrimusII)で測定し、触媒として実際に作用するFe,CoおよびNiの含有量を、触媒全体に含まれる金属元素全ての含有量で除した値を算出し、触媒中の有効金属元素の含有比率とした。
【0066】
(b)カーボンナノチューブ生成速度の算出
カーボンナノチューブ生成速度は、ガスサンプリングノズルを反応装置内に入れ、インラインでのガスクロマトグラフィーにより、カーボンナノチューブの純度が85%になるまでの水素ガス発生量を連続的に測定し、この水素ガス発生量を、投入した触媒中のNi、Co、およびFeの含有重量で除した値を平均化した。カーボンナノチューブの純度についてはガスクロマトグラフィーにより、水素ガス発生量とガス流量、触媒投入量から算出した。バッチ方式での反応では、カーボンナノチューブの純度が85%になる反応時間までの水素ガス発生量を測定し、連続方式では反応管の長軸方向へサンプリングノズルを移動させカーボンナノチューブの純度が85%になる位置での水素ガス発生量を測定した。ガス分析に用いたガスクロマトグラフィーはジーエルサイエンス(株)社製のAgilent490マイクロGCを用いた。
【0067】
(c)BET比表面積の測定
全自動比表面積計Macsorb model-1201((株)マウンテック製)を用いてBET比表面積を測定した。
【0068】
(d)DBP吸収量の測定
DBP吸収量は、JIS K6217-4に準拠して測定を行った。
【0069】
(e)水蒸気吸着量の測定
試料を120℃で真空乾燥させた後、BELSORP-aqua3(マイクロトラック・ベル(株))を用いて水蒸気吸着等温線を測定した。相対圧P/P0=0.3のときカーボンナノチューブへの単分子層吸着が完全に終了していると規定し、カーボンナノチューブの水蒸気吸着量とした。
【0070】
(f)カーボン含有量の測定
走査型蛍光X線分析装置((株)リガク社製ZSX PrimusII)で測定した。
【0071】
(g)カーボンナノチューブ粉末の評価用分散液の作製
カーボンナノチューブ粉末をイソプロピルアルコールに添加して周波数38kHz、出力120Wの超音波分散機で1時間分散させてカーボンナノチューブの0.1%分散液を作製した
【0072】
(g-1)カーボンナノチューブ粉末のチューブ外径の幾何平均径及びチューブ外径の分布の幾何標準偏差の測定
カーボンナノチューブ粉体におけるチューブ外径の幾何平均径及びチューブ外径の分布の幾何標準偏差は、前記カーボンナノチューブの0.1%分散液を試料台にのせて乾燥させ、透過型顕微鏡(日本電子(株)社製 JEM-1200EXII型)により、2万倍で撮影した画像をA像くん(旭化成エンジニアリング(株)社製)で500点の繊維径(チューブ外径(D))を解析し、幾何平均径(MD)と幾何標準偏差(σD)は、以下の式により求めた。
【0073】
【0074】
【0075】
(g-2)カーボンナノチューブ粉末の易破断箇所の存在割合の測定
カーボンナノチューブ粉末の易破断箇所の存在割合は、前記カーボンナノチューブの0.1%分散液を試料台にのせて乾燥させ、透過型顕微鏡(日本電子(株)社製 JEM-1200EXII型)により、2万倍にて撮影した画像の目視観察により算出した。前記画像を100nm四方の区画に区切り、100nm四方の区画にカーボンナノチューブの占める面積が10~80%である区画を300区画選択して、1区画中にくびれ部分が少なくとも1箇所存在する区画が300区画中に存在する割合をカーボンナノチューブ粉末の易破断箇所の存在割合とした。
【0076】
(h)結晶子サイズLc(002)の測定
X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス(株)社製NEW D8 ADVANCE)を用い、カーボンナノチューブの(002)面の結晶子サイズ(Lc(002))を測定した。
【0077】
(i)G/D比の測定
顕微ラマン分光装置innoRam(B&W Tek製)にて励起波長532nmのレーザーを用い、倍率100倍、積算回数10回で任意のカーボンナノチューブ凝集体10個に対して測定を行い、強度比の平均値を算出した。
【0078】
(j)粉体pHの測定
100mlの水に2.5gのカーボンナノチューブを投入し、マグネティックスターラーで撹拌しながら100℃で20分加熱し、冷却した後、蒸発によって減った分の水を足してから、室温におけるpHを測定した。
【0079】
(k)カーボンナノチューブ水分散液の測定用原液の作製
100ccのポリプロピレンねじ蓋付き瓶に、直径2mmのジルコニアビーズを150g入れ、試料であるカーボンナノチューブを2.5gとカルボキシメチルセルロース(CMC)((株)ダイセル製)を0.5g入れ、溶媒として水を47g入れた後、試験用分散機ペイントシェーカー((株)東洋精機社製)で1時間振盪させた後、1mmのメッシュを通してビーズを取り除いたものを測定用原液とした。
【0080】
(k-1)カーボンナノチューブ水分散液の分散性評価
前記測定用原液の分散度合いを確認するために、透過型顕微鏡による観察を行った。カーボンナノチューブを透過型顕微鏡(日本電子(株)社製 JEM-1200EXII型)で観察することで、微視的なカーボンナノチューブの分散度合いを確認した。
【0081】
(k-2)カーボンナノチューブ水分散液の分散安定性の評価
前記測定用原液を水で20倍に希釈し、スターラーで撹拌した分散液Aと、超音波分散機で10秒間分散させた分散液Bとの2水準に対し、動的光散乱粒子径(dA50、dB50)を動的光散乱式粒度分布測定装置FPAR1000(大塚電子(株)製)を用いて測定した後、(dB50/dA50)を水への馴染みやすさと規定し、評価した。ペイントシェーカーにおける分散は、乳化のようなものであり、希釈した際に水に馴染みが悪ければミセル状態の方が安定するので、カーボンナノチューブは凝集しようとする。超音波分散は、例えカーボンナノチューブが凝集しようとしても、分散状態を保たせることができる。よって、測定原液を希釈した後にスターラーで撹拌した分散液Aと、超音波分散機で分散させた分散液Bとの間に差があるもの、すなわち(dB50/dA50)が小さいカーボンナノチューブは、水中での分散安定性が悪い、つまり水への馴染みが悪いと捉える事ができる。
【0082】
(k-3)カーボンナノチューブ水分散液を用いた塗膜の評価
前記測定用原液を、東洋紡績(株)社製のコロナ処理を施した東洋紡エステルフィルムの表面に、テストコーター(RK Print Coat Instruments社製Kプリンティングプルーファー)にてバーコーターNo.4を用いて塗布し、乾燥させることで、カーボンナノチューブ水分散液塗布シートを得た。このシートの表面抵抗を4端子4探針法の塗膜抵抗測定機(三菱化学アナリテック(株)社製MCP-PD51型)で測定した。膜厚測定にはAnritsu Electric Co.Ltd製のELECTRONIC MICROMETERを用いた。これらの表面抵抗と膜厚の積により塗膜抵抗を算出した。
【0083】
以下の方法でカーボンナノチューブを合成した。
【0084】
[実施例1]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.53g/minになる条件で、温度625℃で3hr、CVD反応を行った後、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、400℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0085】
[実施例2]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.53g/minになる条件で、温度625℃で3hr、CVD反応を行った後、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、440℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0086】
[実施例3]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.53g/minになる条件で、温度625℃で3hr、CVD反応を行った後、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、480℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0087】
[実施例4]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.53g/minになる条件で、温度625℃で3hr、CVD反応を行った後、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、500℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0088】
[実施例5]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.53g/minになる条件で、温度625℃で3hr、CVD反応を行った後、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、520℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0089】
[実施例6]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.80g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、380℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0090】
[実施例7]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.80g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、400℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0091】
[実施例8]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.80g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、440℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0092】
[実施例9]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.80g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、480℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0093】
[実施例10]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.80g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、500℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0094】
[実施例11]
連続式ロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、0.2g/minにて連続投入を行い、原料ガスを純メタンとして、生成速度が0.24g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、400℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0095】
[実施例12]
連続式ロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、0.2g/minにて連続投入を行い、原料ガスを純メタンとして、生成速度が0.24g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、440℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0096】
[実施例13]
連続式ロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、0.2g/minにて連続投入を行い、原料ガスを純メタンとして、生成速度が0.24g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理し、480℃で6hr酸化処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0097】
[実施例14]
連続式ロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、0.2g/minにて連続投入を行い、原料ガスを純メタンとして、生成速度が0.24g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行うことによって、カーボンナノチューブを得た。
【0098】
[比較例1]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.53g/minになる条件で、温度625℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0099】
[比較例2]
バッチロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、原料ガスをLPGとして、生成速度が0.80g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0100】
[比較例3]
連続式ロータリーキルンにて、有効金属元素比率が71である金属酸化物粉末を触媒に用い、0.2g/minにて連続投入を行い、原料ガスを純メタンとして、生成速度が0.24g/minになる条件で、温度700℃で3hr、CVD反応を行う事で得たカーボンナノチューブを、ハロゲンガスにて1000℃熱処理することによって、カーボンナノチューブを得た。
【0101】
比較のために、他社のカーボンナノチューブを用意した。
【0102】
[比較例4]
CNano Technology Limited製のカーボンナノチューブ「FloTube9000」。
【0103】
[比較例5]
宇部興産(株)製のカーボンナノチューブ「AMC」。
【0104】
[比較例6]
CNano Technology Limited製のカーボンナノチューブ「FloTube9110」。
【0105】
[比較例7]
Nanocyl s.a. 製のカーボンナノチューブ「NC7000」。
【0106】
実施例1~14および比較例1~7について、分散試験および分散体と塗膜の評価を行った。カーボンナノチューブの特性も併せて結果を表1に示す。水蒸気吸着量が低い比較例1~3は、分散試験の結果が悪かった。DBP吸収量が高い比較例4は、分散液の状態が悪く、塗膜を作製できなかった。水蒸気吸着量が比較的低い比較例5は、分散試験の結果が悪く、塗膜に塗り斑が目立った。
【0107】
【0108】
図5に実施例12と比較例5のカーボンナノチューブ塗膜の光学顕微鏡写真を示す。比較例5の写真は、濃淡の差が大きく、凝集している部分と分散している部分との分散むらがあることが確認できる。表1では比較例5の塗膜抵抗が低い値を示しているが、これはカーボンナノチューブの繊維径が細いために重量あたりの本数が多く、分散が明らかにできていなくても本数の多さで導電経路を確保した結果だと推測される。
【0109】
また、DPB吸収量が高く、水蒸気吸着量が低い比較例6は、分散試験の結果が悪く、塗膜の作製はできたものの抵抗が明らかに高かった。DPB吸収量が高い比較例7は、分散試験の結果が悪く、また分散液の状態も悪かったため塗膜を作製できなかった。カーボン純度が95.5%と不純物である金属酸化物が多かったことも影響していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に係るカーボンナノチューブは、高電子伝導性、高成型体密度、適度な電極反応場、高機械的強度を有しながら、親水性が高いために水系の溶媒に簡便かつ短時間で分散させることができる。そのため、分散液を作製するときに必要なエネルギーを節約でき、また、高濃度の分散液を提供できる。
【符号の説明】
【0111】
1 平行部分のチューブ外径
2 くびれ部分のチューブ外径