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特許7193221研磨パッド及びその製造方法、並びに、研磨加工品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】研磨パッド及びその製造方法、並びに、研磨加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/22 20120101AFI20221213BHJP
   B24B 37/10 20120101ALI20221213BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20221213BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20221213BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221213BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20221213BHJP
   C08J 5/14 20060101ALI20221213BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B24B37/22
B24B37/10
B24B37/24 C
B32B3/30
B32B27/30 A
B32B27/36
C08J5/14 CEY
H01L21/304 621D
H01L21/304 622F
H01L21/304 622W
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2016011859
(22)【出願日】2016-01-25
(65)【公開番号】P2017131976
(43)【公開日】2017-08-03
【審査請求日】2019-01-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 恵介
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】田々井 正吾
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-061817(JP,A)
【文献】特開平11-170156(JP,A)
【文献】特開2004-042189(JP,A)
【文献】特開2007-245291(JP,A)
【文献】特開2011-067946(JP,A)
【文献】特開2006-075914(JP,A)
【文献】特開2011-104749(JP,A)
【文献】特表2014-515319(JP,A)
【文献】特開2003-136397(JP,A)
【文献】特開2000-301450(JP,A)
【文献】特開昭57-132967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
B32B 3/00 - 3/30
B32B 27/00 - 27/42
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に別体として配された凸部となる樹脂部(但し、繊維状物質と接着剤からなる構造物を含むものを除く)と、を備え、
前記凸部の表面は、被研磨物を研磨するための研磨面を有し、
前記凸部は、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、5~80個であり、
前記研磨面における研磨有効面積が、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、0.15~0.70cm2であり、
前記研磨面が、固定砥粒を実質的に含まないものであり、
前記樹脂部のショアD硬度が、60~95であり、
前記基材が、ポリエステル系フィルムを含
ドレスをして用いる研磨パッド。
【請求項2】
前記凸部が、ドット状を有する、
請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記ドット状の凸部の面積Aが、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、0.15~0.70cm2である、
請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記樹脂部が、ポリウレタンアクリレートを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記基材の前記樹脂部とは反対側に、接着層をさらに備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項6】
基材の上に硬化性組成物(但し、繊維状物質と接着剤とを含むものを除く)を付着させる付着工程と、
付着した前記硬化性組成物を硬化させて硬化層を得る硬化工程と、を有し、
前記硬化層は、単独で又は前記基材と共に凹凸パターンを構成し、
前記凹凸パターンの表面は、被研磨物を研磨するための研磨面を有し、
前記研磨面における研磨有効面積が、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、0.15~0.70cm2であり、
前記研磨面が、固定砥粒を実質的に含まないものであり、
前記硬化層により構成される樹脂部のショアD硬度が、60~95である、
研磨パッドの製造方法。
【請求項7】
砥粒の存在下、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、
研磨加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド及びその製造方法、並びに、研磨加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代パワー半導体素子材料として、ワイドバンドギャップ半導体である炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド、サファイア(Al23)及び窒化アルミニウム(AlN)などの材料が注目されている。例えば、炭化珪素(SiC)はSi半導体と比べてバンドギャップが3倍であり、絶縁破壊電界強度が約7倍である等優れた物性値を有しており、現在のシリコン半導体に比べ高温動作性に優れ、小型で省エネ効果も高いといった点で優れている。また、サファイアウエハについては、その化学的安定性、光学的特性(透明性)、機械的強度、熱的特性(熱伝導性良)等から、光学的要素を持った電子機器、例えば高性能オーバーヘッドプロジェクター用部品としての重要性が高まりつつある。これらの次世代パワーデバイスの本格的普及に向けて、基板の大口径化・量産化が進められ、それに伴い、基板加工技術の重要性も増している。そのような基板の加工プロセスでは、Siと同様に、まず、ウエハに用いる円柱状単結晶(インゴット)をスライスすることで円盤状に切り出す。次に、スライスした円盤状単結晶の表面を平坦化するが、まずは、その表面を大まかに平坦化するため、ラッピング定盤を用いてラッピング加工を行う。その後、円盤状単結晶の表面の平坦性を更に向上させ、かつ、表面の微細な傷を除去して鏡面化するために、ポリシング加工を行う。
【0003】
一般的なラッピング加工においては、ダイヤモンド砥粒を含むスラリーの存在下、金属系定盤を用いて研磨を行う。これにより、金属系定盤表面に遊離砥粒であるダイヤモンド砥粒が埋め込まれ、ラッピング加工を行うことができる。特に、Siに比べて遙かに硬質であるSiC等の高硬度材料用のラッピング加工としては、銅及び錫等の金属系定盤を用い、その定盤と遊離砥粒であるダイヤモンド砥粒とを組み合わせたラッピング加工(以下、「ダイヤモンドラッピング」ともいう。)が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ラッピング加工後の工程であるポリッシング工程においては、飽和共重合ポリエステル樹脂に、一次粒子径が3μm未満の研磨材粒子(固定砥粒)が分散された複数の研磨構造体が形成された研磨シートを用いて、遊離砥粒を用いずに研磨を行う方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-61961号公報
【文献】特開2009-72832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるような金属系定盤は重いため、取り扱い難く、また遊離砥粒であるダイヤモンド砥粒が埋め込まれる定盤表面の手入れ等、使用後の維持管理に労力を要するという問題点がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の研磨シートは、ガラス、セラミック、プラスチック、金属等の一般的な研磨加工に用いられるものである。このような一般的な研磨加工に用いられる研磨シートをSiC等の加工に採用すると、研磨レートが低く、実用的ではないという問題がある。特に、特許文献2に記載の研磨シートでは、研磨構造体表面に露出した研磨材粒子のみが固定砥粒として機能し、研磨構造体内に埋没している研磨材粒子は砥粒として作用しないため、研磨レートに更に改良の余地がある。
【0007】
また、SiCの他、サファイアも、ダイヤモンド、SiCに次ぐ修正モース硬度を有しており、薬品に対する耐性が高く、加工が極めて難しい。そのため、一般的なSi半導体ウエハ等の他、次世代パワー半導体素子材料として期待される材料、特に高い硬度を有する難加工材料の研磨加工において、取扱い性に優れ、かつ、研磨レートにも優れる研磨パッドが望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、取扱い性及び維持管理性に優れ、特に難削材の研磨において研磨レートに優れる、研磨パッド及びその製造方法、並びに、その研磨パッドを用いた研磨加工品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、所定の凹凸パターンを持つ研磨面を有する研磨パッドであれば、上記課題が解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
基材と、該基材上に別体として配された凸部となる樹脂部(但し、繊維状物質と接着剤からなる構造物を含むものを除く)と、を備え、
前記凸部の表面は、被研磨物を研磨するための研磨面を有し、
前記凸部は、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、5~80個であり、
前記研磨面における研磨有効面積が、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、0.15~0.70cm2であり、
前記研磨面が、固定砥粒を実質的に含まないものであり、
前記樹脂部のショアD硬度が、60~95であり、
前記基材が、ポリエステル系フィルムを含む
研磨パッド。
〔2〕
前記凸部が、ドット状を有する、
〔1〕に記載の研磨パッド。
〔3〕
前記ドット状の凸部の面積Aが、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、0.15~0.70cm2である、
〔2〕に記載の研磨パッド。
〔4〕
前記樹脂部が、ポリウレタンアクリレートを含む、
〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の研磨パッド。
〔5〕
前記基材の前記樹脂部とは反対側に、接着層をさらに備える、
〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の研磨パッド。
〔6〕
基材の上に硬化性組成物(但し、繊維状物質と接着剤とを含むものを除く)を付着させる付着工程と、
付着した前記硬化性組成物を硬化させて硬化層を得る硬化工程と、を有し、
前記硬化層は、単独で又は前記基材と共に凹凸パターンを構成し、
前記凹凸パターンの表面は、被研磨物を研磨するための研磨面を有し、
前記研磨面における研磨有効面積が、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、0.15~0.70cm2であり、
前記研磨面が、固定砥粒を実質的に含まないものであり、
前記硬化層により構成される樹脂部のショアD硬度が、60~95である、
研磨パッドの製造方法。
〔7〕
砥粒の存在下、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、
研磨加工品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、取扱い性及び維持管理性に優れ、特に難削材の研磨において、研磨レートに優れる研磨パッド及びその製造方法、並びに、その研磨パッドを用いた研磨加工品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の研磨パッドの一例を示す概略的な斜視図である。
図2】本実施形態の研磨パッドの別の一例を示す概略的な斜視図である。
図3】研磨有効面積の測定方法を示す概略図である。
図4】発色液を用いた研磨有効面積の測定方法を示す概略図である。
図5】発色液を用いた研磨有効面積の測定方法において発色液が転写された感圧紙4を示す上面図である。
図6】本実施形態の凹凸パターンの一例を示す概略図である。
図7】本実施形態の凹凸パターンの一例を示す断面図である。
図8】実施例1及び5の研磨パッドの研磨面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0014】
〔研磨パッド〕
本実施形態の研磨パッドは、基材と、該基材上に配された樹脂部とを備え、該樹脂部は、単独で又は上記基材と共に凹凸パターンを構成し、その凹凸パターンの表面は、被研磨物を研磨するための研磨面を有し、前記凹凸パターンは、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、5~80個の凸部または凹部を有し、前記研磨面における研磨有効面積が、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、0.15~0.7cm2であり、前記研磨面が、固定砥粒を実質的に含まないものである。
【0015】
図1に、本実施形態の研磨パッドの一例を示す概略的な斜視図を示す。図1に示されるように、この研磨パッド10は、基材12と、該基材12上に配された樹脂部11とを備え、該樹脂部11は、基材12と共に凹凸パターンを構成する。凹凸パターンは、基材12の表面上に樹脂部11による半円球状の複数のドットが配置されたパターン(ポジパターン)である。また、図2に、本実施形態の研磨パッドの別の一例を示す概略的な斜視図を示す。図2に示されるように、この研磨パッド20は、基材22と、該基材22上に配された樹脂部21とを備え、該樹脂部21は、基材22と共に凹凸パターンを構成する。この研磨パッド20においては、基材22の表面上にシート状の樹脂部21が配置され、その樹脂部21がドット状に打ち抜かれるようにして凹凸パターン(ネガパターン)を形成している。また、本実施形態の研磨パッドは、必要に応じて、接着層13,23を有していてもよい。
【0016】
本実施形態の研磨パッドは、基材と、該基材上に配された樹脂部とを有するため、金属系定盤と比べて軽く、所定回数の研磨終了後に使い捨てとできる点で、取扱い性及び維持管理性に優れる。また、この研磨パッドは、凹凸パターンを有し、その凹凸パターン表面の研磨面において上記数値範囲内の研磨有効面積を有することにより、研磨レートに優れ、金属系定盤に匹敵する研磨レートを発揮することができる。これは、(1)研磨時に被研磨物とその被研磨物に密着する凸部との間にダイヤモンド砥粒のような遊離砥粒を介在させることで、効果的に凸部及び遊離砥粒を被研磨物に作用させる(研磨する)ことができること、(2)凹部を設けることで、被研磨物と密着する面における、単位面積当たりの押圧力が増大すること、並びに(3)上記数値範囲内の研磨有効面積を有することにより、上記(1)と(2)のバランスを優れたものとしたためと考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。また、凹凸パターンが規則的である場合、より均質な研磨が可能となり、面品位に優れた研磨が達成され得る。
【0017】
〔基材〕
基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム;ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、エチレン-プロピレン共重合体フィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルムが挙げられる。基材としては上面に後述する樹脂を印刷可能なものであればよいが、耐薬品性・耐熱性・経済性などの観点からポリステル系フィルムが好ましい。
【0018】
〔樹脂部〕
樹脂部は、基材上に配され、単独で又は基材と共に凹凸パターンを構成する。基材と反対側の樹脂部の表面は、被研磨物を研磨するための研磨面となる。なお、本実施形態の研磨パッドにおいて、研磨面は固定砥粒を実質的に含まないものである。「固定砥粒を実質的に含まない」とは、樹脂部の表面である研磨面に砥粒が現れない状態であることをいう。研磨面が実質的に砥粒を含まないことにより、遊離砥粒がとどまる研磨面の面積を大きくすることが可能となる。
【0019】
凹凸パターンは、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、5~80個の凸部または凹部を有し、好ましくは15~75個であり、より好ましくは30~70個である。この単位面積当たりの凹凸パターンが5個以上であることにより、遊離砥粒を含むスラリーの供給・排出能力に優れ、研磨レートが向上する。凹凸パターンの単位面積当たりの個数を大きくするほど研磨レートの向上が見られるが、単位面積当たりの個数を大きくしすぎるのは隣接するパターンと接触しない様に成形することが技術的に難しく、また、単位面積当たりの個数が80個以上となると、凹凸パターン一つあたりの高さが低くなってしまい、研磨の際の耐久性が低下してしまうおそれがある。なお、凹凸パターンの単位面積当たりの個数については、所定面積、例えば4cm2(2cm四方)の凹凸パターンの個数を目視で確認し、単位面積当たりの個数に換算することで算出することができる。
【0020】
研磨面における研磨有効面積は、表面の単位面積(1cm2)当たり、0.15~0.7cm2であり、好ましくは0.2~0.65cm2であり、より好ましくは0.25~0.6cm2である。この単位面積当たりの研磨有効面積が0.15cm2以上であることにより、研磨に寄与し得る面積が増え、研磨レートがより向上する。単位面積当たりの研磨有効面積は大きい程好ましいが、前述の単位面積当たりの凹凸パターンの個数が少ないと、遊離砥粒を含むスラリーの供給・排出が不十分となってしまう。また、単位面積当たりの凹凸パターンの個数を大きくた場合については、前述の通り印刷パターンの成形が困難であるため、研磨有効面積は成形しやすい0.7cm2以下とするのが好ましい。
【0021】
ここで、「研磨面における研磨有効面積」は、単位面積(1cm2)当たりにおける、凹凸パターンのうち研磨に寄与する凸部の面積をいう。図3に研磨有効面積の測定方法を示す。まず、研磨パッド10の研磨面(樹脂部11の表面)と、研磨有効面積測定用の感圧紙4(富士フィルム製 4LW 微圧用 ツーシートタイプ)の平坦な表面とを直接接触させるように重ね合わせ、それらを1点に荷重がかからないように凹凸パターンに対して十分大きい面積を有するローラー等で加圧する。その際に、感圧紙4に接触した研磨面5の面積(発色面積)を測定し、これを凹凸パターンのうち研磨に寄与する凸部の面積とする。そして、感圧紙4の発色面積をマイクロスコープで撮影し2値化処理をすることで、単位面積(1cm2)当たりにおける、接触した研磨面5の面積(感圧紙4上に転写された面積6(感圧紙の発色部分))を算出し、単位面積(1cm2)当たりの研磨面における研磨有効面積とする。2値化処理は、一般的な2値化処理ソフトを用いて算出することができるが、例えば、「Pick Map Version2.4」を用いて閾値を220に設定することで算出することができる。
【0022】
接触した研磨面5の面積は、例えば感圧紙の発色液を用いて導き出すこともできる。図4に感圧紙の発色液を用いた場合の研磨有効面積の測定方法を示す。研磨パッド10と感圧紙4とを重ね合わせる前に、研磨パッド10の研磨面(樹脂部11の表面)に面積を測定するのに適量の感圧紙の発色液を手動塗布し、加圧した後に、研磨パッド10と感圧紙4とを引き離し、感圧紙4上に転写された面積6(感圧紙の発色部分)を測定することで、感圧紙4に接触した研磨面5の面積を導き出すことができる。図5は、ドット状の凸部を有するパターンの場合の転写された感圧紙4を示す上面図であり、転写された面積6が上記の接触した研磨面5の面積(すなわち研磨有効面積)と同じになる。
【0023】
凹凸パターンとしては、被研磨物に接触する部分(凸部)と、被研磨物に接触しない部分(凹部)とを有するパターンであれば特に限定されないが、例えば、図6(a)に示すような樹脂部11,21が基材21,22上に独立して形成されたポジパターン(ドット状の凸部を有するパターン);図6(b)に示すような樹脂部11,21が基材21,22上に連続して形成されたネガパターン(ドット状の凹部を有するパターン);ドーナツ状の凸部を有するパターン;略C型の凸部を有するパターン;同心円状に、被研磨物に接触する部分と被研磨物に接触しない部分とを有するパターン;格子状に、被研磨物に接触する部分と被研磨物に接触しない部分とを有するパターン;放射状に、被研磨物に接触する部分と被研磨物に接触しない部分とを有するパターン;螺旋状に、被研磨物に接触する部分と被研磨物に接触しない部分とを有するパターン;又はこれらを組み合わせて構成されたパターンが挙げられる。このなかでも、ドット状の凸部を有するパターン、又は、ドット状の凹部を有するパターンが好ましい。このような凹凸パターンを有することにより、研磨レートがより向上する傾向にある。なお、ドット状の凸部を有するパターンの場合のドットの立体形状は、特に制限されず、例えば半球状、略半球状、球帽状、略球帽状、球帯状、略球帯状、半楕円体状、略半楕円体状、柱状(円柱状、略円柱状、楕円柱状、略楕円柱状、多角柱状)、錐台状(円錐台状、略円錐台状、楕円錐台状、略楕円錐台状、多角錐台状)が挙げられる。上記のうち、錐台状は、基材側から研磨面側に向けて広がる錐台状であってもよく、研磨面側から基材側に向けて広がる錐台状であってもよい。これらの中では、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、半球状又は略半球状が好ましい。また、ドット状の凹部を有するパターンの場合の凹部における空間の立体形状も、ドット状の凸部を有するパターンの場合の立体形状と同様のものを例示できる。
【0024】
本実施形態の研磨パッドにおいて、被研磨物に接触する部分(凸部)と、被研磨物に接触しない部分(凹部)とが規則的なパターンを形成していることが好ましい。規則的なパターンを有することにより、均質な研磨を可能とし、面品位に優れた研磨を達成し得る。なお、「規則的なパターン」とは、単位となる小パターンを複数並べて得られるパターンをいう。具体的には、図6(a)に示される規則的なパターンは、複数の小パターンPから構成される。単位となる小パターンは1種であっても2種以上を併用してもよい。
【0025】
凹凸パターンの表面において、4cm2の平面面積を有する任意の正方形領域を選択した場合、その領域における単位面積(1cm2)当たりの研磨面における研磨有効面積(以下、「所定領域研磨有効面積」という。)は、0.05~0.6cm2であると好ましく、より好ましくは0.1~0.55cm2であり、更に好ましくは0.15~0.5cm2である。所定領域研磨有効面積が0.05cm2以上であることにより、研磨に寄与し得る面積が増え、研磨レートがより向上すると共に、研磨加工品の表面がより均質化される。また、所定領域研磨有効面積が0.6cm2以下であることによっても、研磨加工品の表面がより均質化されると共に、研磨レートがより向上する。この理由は、遊離砥粒を含むスラリーの供給・排出を可能とするためである。具体的には、本実施形態の研磨パッドにおいて、図5の領域S1及びS2に示すように、部分的に凸部が疎又は密(言い換えれば、凹部が密又は疎)である部分が存在し得る。このような場合であっても、例えば4cm2の領域S1及びS2における単位面積(1cm2)当たりの研磨有効面積(灰色部分)が所定の範囲内であることにより、研磨レートがより向上する傾向にある。
【0026】
凹凸パターンがドット状の凸部又は凹部を有するパターンである場合、凹凸パターンの個数は、ドット状の凸部又は凹部の数でカウントし、表面の単位面積(1cm2)当たり、好ましくは5~80個であり、より好ましくは15~75個であり、さらに好ましくは30~70個である。また、研磨有効面積は、ドット状の凸部の面積A、又は、ドット状の凹部以外の凸部の面積Bで算出し、表面の単位面積(1cm2)当たり、好ましくは0.15~0.7cm2であり、より好ましくは0.2~0.65cm2であり、さらに好ましくは0.25~0.6cm2である。ドット状の凸部の面積A、又は、ドット状の凹部以外の凸部の面積Bが上記範囲内であることにより、研磨レートがより向上する傾向にある。ここで、「ドット状の凸部の面積A」は、上記研磨有効面積の測定方法において感圧紙4に接触したドット状の凸部の単位面積当たりの研磨面5の面積をいう。また、「ドット状の凹部以外の凸部の面積B」は、上記研磨有効面積の測定方法において感圧紙4に接触した凸部の単位面積当たりの研磨面5の面積をいう。
【0027】
凹凸パターンがドット状の凸部又は凹部を有する場合、ドットの径(例えば、図6(b)において符号L1で表される直径)は、好ましくは0.1~3mmであり、より好ましくは0.5~2.5mmであり、さらに好ましくは1.0~2.0mmである。また、任意に選択した隣接するドット同士の最近接距離(例えば、図6(b)において符号L2で表されるドット同士の距離)は、好ましくは0.1~3mmであり、より好ましくは0.5~2.5mmであり、さらに好ましくは1.0~2.0mmである。ドットの径や隣接するドット同士の最近接距離が上記範囲内であることにより、比較的小さいドット(凸部又は凹部)が比較的高密度に配された凹凸パターンを得ることができるため、研磨レートがより向上する傾向にある。なお、ドットの平面形状が円形でない場合は、ドットの径は、ドットの重心と輪郭線を結んだ径の平均値を意味する。
【0028】
樹脂部を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、分子内にエーテル又はエステル結合を有するポリウレタン、ポリウレタンポリウレア、ポリウレタンアクリレート等のポリウレタン系樹脂;ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のビニル系樹脂;ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のポリサルホン系樹脂;アセチル化セルロース、ブチリル化セルロース等のアシル化セルロース系樹脂;ポリアミド系樹脂;及びポリスチレン系樹脂が挙げられる。このなかでも、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましく、ポリウレタンアクリレートがより好ましい。このような樹脂を用いることにより、研磨レートがより向上する傾向にある。なお、樹脂部を構成する樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
樹脂部のショアD硬度は、好ましくは60~95であり、より好ましくは70~92.5であり、さらに好ましくは80~90である。ショアD硬度が60以上であることにより、研磨レートがより向上する傾向にある。また、ショアD硬度が95以下であることにより、被研磨物との密着性がより向上する傾向にある。なお、ショアD硬度は、実施例に記載の方法により測定することができる。また、ショアD硬度は、例えば、用いる樹脂の種類の選択により、調整することができる。
【0030】
〔接着層〕
本実施形態の研磨パッドは、基材の樹脂部とは反対側に、研磨機の研磨定盤に研磨パッドを貼着するための接着層をさらに備えてもよい。接着層は、従来知られている研磨パッドに用いられている接着剤又は粘着剤を含むものであってもよい。接着層の材料としては、例えば、アクリル系接着剤、ニトリル系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、シリコーン系接着剤等の各種熱可塑性接着剤が挙げられる。接着層は、例えば両面テープであってもよい。
【0031】
〔アンカー層〕
本実施形態の研磨パッドは、基材と樹脂部との間にアンカー層を有していてもよい。アンカー層を有することにより、基材と樹脂部との密着性をより向上する傾向にある。アンカー層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂コート剤が挙げられる。
【0032】
〔研磨パッドの製造方法〕
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、基材の上に硬化性組成物を付着させる付着工程と、付着した前記硬化性組成物を硬化させて硬化層を得る硬化工程とを有し、前記硬化層は、単独で又は前記基材と共に凹凸パターンを構成し、前記凹凸パターンの表面は、被研磨物を研磨するための研磨面を有し、前記研磨面における研磨有効面積が、前記表面の単位面積(1cm2)当たり、0.05~0.60cm2であり、前記研磨面が、固定砥粒を実質的に含まないものである。
【0033】
〔付着工程〕
付着工程では、所望の凹凸パターンを形成するように、基材の上に硬化性組成物を付着させる。基材の上に硬化性組成物を付着させる方法としては、特に限定されないが、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。これらの中では、複雑な凹凸パターンの形成のしやすさの観点から、スクリーン印刷法が好ましい。
【0034】
(硬化性組成物)
硬化性組成物としては、特に限定されないが、例えば、光重合開始剤及び重合性化合物を含む光硬化性組成物、熱重合開始剤及び重合性化合物を含む熱硬化性組成物、熱硬化性樹脂、UV硬化樹脂、2液混合型の硬化樹脂を含む硬化性組成物等が挙げられる。また、硬化性組成物は、必要に応じて、重合性官能基を2以上有する架橋剤等を含んでもよい。
【0035】
重合性化合物としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0036】
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオチサントン系化合物が挙げられる。また、熱重合性開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2’-アゾビスブチロニトリルのようなアゾ化合物、過酸化ベンゾイル(BPO)などの過酸化物が挙げられる。
【0037】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレア樹脂、ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0038】
UV硬化樹脂としては、特に限定されないが、例えば、数平均分子量1000~10000程度のプレポリマーが良く、材料としてはアクリル(メタクリル)系エステルやそのウレタン変性物、チオコール系等が挙げられ、適宜用途に応じて反応性希釈剤や有機溶剤を用いることができる。また、2液混合型の硬化樹脂としては、特に限定されないが、例えば、異なる物性のプレポリマーを用いることができる。
【0039】
〔硬化工程〕
硬化工程は、付着した硬化性組成物を硬化させて硬化層を得る工程である。硬化方法としては、特に限定されないが、例えば、光硬化、熱硬化等が挙げられる。
【0040】
硬化層は、基材とは反対側の表面に凹凸パターンを有し、表面は、被研磨物を研磨するための研磨面を有する。研磨面における研磨有効面積は、表面の単位面積(1cm2)当たり、0.05~0.6cm2であり、好ましくは0.1~0.55cm2であり、より好ましくは0.15~0.5cm2である。研磨面における研磨有効面積が0.05cm2以上であることにより、研磨に寄与し得る面積が増えることにより、研磨レートがより向上する。また、研磨面における研磨有効面積が0.6cm2以下であることによっても、研磨レートがより向上する。この理由は、遊離砥粒を含むスラリーの供給・排出を可能とするためである。
【0041】
〔その他の工程〕
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、必要に応じて、その他の工程等を有してもよい。例えば、付着工程の後、硬化工程の前に硬化性組成物中の揮発成分の少なくとも一部を揮発除去する工程を有していてもよい。また、付着工程の後であって硬化工程の前、及び/又は、硬化工程の後に、所望の凹凸パターンを形成するために、硬化性組成物や硬化層の一部を除去する工程を有していてもよい。除去する方法としては、例えば、切削が挙げられる。
【0042】
〔研磨加工品の製造方法〕
本実施形態の研磨加工品の製造方法は、遊離砥粒の存在下、上記研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する方法であれば、特に限定されない。研磨工程は、1次ラッピング研磨(粗ラッピング)であってもよく、2次ラッピング(仕上げラッピング)であってもよく、ポリッシング研磨であってもよく、これらのうち複数の研磨を兼ねるものであってもよい。
【0043】
被研磨物としては、特に限定されないが、例えば、半導体デバイス、電子部品等の材料、特に、Si基板(シリコンウェハ)、SiC(炭化珪素)基板、GaAs(ガリウム砒素)基板、ガラス、ハードディスクやLCD(液晶ディスプレイ)用基板等の薄型基板(被研磨物)が挙げられる。このなかでも、本実施形態の研磨加工品の製造方法は、パワーデバイス、LEDなどに適用され得る材料、例えば、サファイア、SiC、GaN、及びダイヤモンドなど、研磨加工の困難な難加工材料の製造方法として好適に用いることができる。これらの中では、本実施形態の研磨パッドによる作用効果をより有効に活用できる観点から、半導体ウエハが好ましく、SiC基板、サファイア基板又はGaN基板が好ましい。その材質としては、SiC単結晶及びGaN単結晶等の難削材が好ましいが、サファイア、窒化珪素、窒化アルミニウムの単結晶などであってもよい。
【0044】
〔研磨工程〕
研磨工程は、遊離砥粒の存在下、上記研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する工程である。研磨方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0045】
研磨方法では、まず、研磨装置の所定位置に研磨パッドを装着する。この装着の際には、上述の接着層を介して、研磨パッドが研磨装置に固定されるよう装着される。そして、研磨定盤としての研磨パッドと対向するように配置された保持定盤に保持させた被研磨物を研磨面側へ押し付けると共に、外部からダイヤモンド砥粒を含む研磨スラリーを供給しながら、研磨パッド及び/又は保持定盤を回転させる。これにより、研磨パッドと被研磨物との間に供給された砥粒の作用で、被研磨物の加工面(被研磨面)に研磨加工を施す。
【0046】
研磨スラリーは、好ましくは、ダイヤモンド砥粒と、それを分散する分散媒とを含む。研磨スラリーにおけるダイヤモンド砥粒の含有割合は特に限定されないが、研磨加工をより有効に行うと共に、被研磨物における加工変質層が厚くなるのを抑制する観点から、研磨スラリーの全体量に対して0.01~1.0重量%であると好ましい。
【0047】
なお、研磨において用いる遊離砥粒は、ダイヤモンド砥粒に限定されず、例えば、シリカやアルミナなどであってもよい。また、遊離砥粒の平均粒径は0.5~20μmが好ましく、1~18μmがより好ましく、2~15μmが更に好ましく、5~13μmが特に好ましい。ダイヤモンド砥粒の平均粒径が上記範囲内にあることにより、研磨レートをより向上すると共に、ワーク表面におけるスクラッチの発生をより抑制することができる。
【0048】
分散媒としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられ、被研磨物の変質をより抑制する観点から、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、一般的に沸点110~300℃程度の有機溶媒が適する。有機溶媒の種類には、脂肪族及び芳香族、環状炭化水素やエステル、エーテル、アミン、アミド系、ケトン類等の市販の有機溶媒を樹脂や作業的性に応じて適宜選択できる。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、溶媒には、必要に応じて、その他の添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤としては、例えば極性化合物が挙げられ、具体的には、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド及びカルボン酸が挙げられる。さらに、消泡剤、分散剤、レべリング剤、粘性改良材として、各種シリコーン、無機微粉末を添加することができる。
【0049】
なお、研磨加工時に研磨パッドと被研磨物との間の摩擦に伴う温度上昇を抑制する観点から、砥粒を含まず、添加剤を含んでもよい溶媒を研磨パッドの研磨面に適宜供給してもよい。その溶媒及び添加剤の例としては上記のものが挙げられる。
【0050】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。例えば、樹脂部は、図7に概略的な断面図を示すように、シート状部分の上に研磨面を有する凸部が一体不可分に設けられたものであってもよい。図7の(a)は、その一例として、シート状部分の上に研磨面を有するドット状の凸部が一体不可分に設けられた樹脂部31を備える研磨パッド30を示す。また、樹脂部は、シート状部分の一部が切削され、それにより凹凸パターンが形成されたものであってもよい。図7の(b)は、その一例として、シート状部分の上側の一部がドット状に切削され、それによりドット状の凹部を形成する樹脂部41を備える研磨パッド40を示す。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
〔ショアD硬度〕
ショアD硬度の測定はJIS規格(JIS K7311)に準じて行った。測定に際しては、研磨パッドの下に金属板を敷いて、実際の研磨工程と同様の条件(研磨パッドを研磨装置の金属定盤に貼付した状態)で測定した。
【0053】
〔研磨有効面積及び所定領域研磨有効面積〕
研磨パッドの研磨面(樹脂部表面)に感圧紙の発色液を塗布し、発色液が塗布された研磨パッドの研磨面と感圧紙とを重ね合わせ、凹凸パターンに対して十分大きい面積を有するローラーで加圧した。その後、研磨パッドと感圧紙を引き離し、感圧紙上に転写された面積を測定した。感圧紙表面の単位面積(1cm2)当たりにおける、転写された研磨面の面積を研磨パッドの研磨有効面積とした。また、基板表面上で2cm四方(4cm2)の任意の正方形領域を選択し、その領域における凹凸パターン表面の単位面積(1cm2)当たりの研磨面における研磨有効面積を算出して、所定領域研磨有効面積を得た。
【0054】
〔凹凸パターンがドット状の凸部又はドット状の凹部を有する場合の面積A及びB〕
研磨有効面積の測定方法と同様にして、研磨パッドの研磨面が転写された感圧紙を用意した。このとき、感圧紙に転写されたパターンは凹凸パターンの凸部に相当し、研磨パッドの感圧紙への投影面積において、転写されていない部分が凹凸パターンの凹部に相当する。したがって、感圧紙への転写面積を測定することにより、ドット状の凸部の面積A、又は、前記ドット状の凹部以外の凸部の面積Bをそれぞれ求めた。
【0055】
〔研磨試験〕
研磨パッドを研磨装置の所定位置に両面テープを介して設置し、被研磨物としての2インチのサファイアCウエハに対して、下記条件にて研磨を施す研磨試験を行った。なお、研磨試験の際には、まず、下記ドレス条件に示す条件にて研磨パッドのドレス工程を行い、下記研磨条件に示す条件にて研磨を実施した。
(ドレス条件)
ドレス回転数 :70rpm
ドレス圧 :236gf/cm2
ドレス時間 :5min
(研磨条件)
定盤回転数 :80rpm
面圧力 :330gf/cm2
ルブリカント高粘度:V600
研磨時間 :30min
砥粒 :多結晶ダイヤモンド(砥粒径9μm)
【0056】
(研磨レート)
研磨レート(単位:μm/h)は、上記研磨前後の被研磨物の質量減少から求めた研磨量、被研磨物の研磨面積及び比重から、研磨により除去された厚さを算出し、時間当たりの除去された厚さとして評価した。なお、厚さは、加工前後の被研磨物の質量減少から求めた研磨量、被研磨物の研磨面積及び比重から算出した。なお、研磨試験は、3枚のサファイアCウエハに対して行い、その加重平均を研磨レートとした。
【0057】
〔実施例1〕
UV塗工剤(帝国インキ製造社製、製品名UV BOP)100重量部と、光硬化性モノマー(新中村化学工業社製、製品名TMM-360)20重量部と、光硬化性モノマー(新中村化学工業社製、製品名LMA)10重量部とを混合し、硬化性組成物を調製した。基材であるポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製、製品名コスモシャイン A4300 250μm)上に、スクリーン印刷にて、ドット状の凸部である半球状のドットが図6(a)に示す凹凸パターンで規則的に配列されるように硬化性組成物を塗布した。その後、UV装置(アイグラフィックス社製、製品名メタルハライドランプ 120W/cm)にてUV照射することで、硬化性組成物を硬化させ、樹脂部を形成した。最後に、基材の樹脂部とは反対側に、接着層として両面テープ(3M社製、製品名フィルム基材両面粘着テープ 442JS)を貼り付けて、実施例1の研磨パッドを得た。得られた研磨パッドにおいて、ドットの直径は1mm、隣接するドット同士の最近接距離は0.5mm、単位面積当たりの凹凸パターンは69.8個/cm2、研磨有効面積は0.38cm2であり、所定領域研磨有効面積は0.38cm2であった。
【0058】
〔実施例2〕
UV塗工剤として(帝国インキ製造社製、製品名UV BOP)100重量部に代えて、より柔らかい材料である(帝国インキ製造社製、製品名UV FIL)100重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により実施例2の研磨パッドを得た。得られた研磨パッドにおいて、ドットの直径は1mm、隣接するドット同士の最近接距離は0.5mm、単位面積当たりの凹凸パターンは69.8個/cm2、研磨有効面積は0.38cm2であり、所定領域研磨有効面積は0.38cm2であった。
【0059】
〔実施例3〕
ドットの直径を1.5mmとし、隣接するドット同士の最近接距離を0.5mmとした以外は、実施例1と同様の方法により実施例3の研磨パッドを得た。得られた研磨パッドにおいて、単位面積当たりの凹凸パターンは37個/cm2、研磨有効面積は0.27cm2であり、所定領域研磨有効面積は0.27cm2であった。
【0060】
〔実施例4〕
ドットの直径を1.0mmとし、隣接するドット同士の最近接距離を1.0mmとした以外は、実施例1と同様の方法により実施例4の研磨パッドを得た。得られた研磨パッドにおいて、単位面積当たりの凹凸パターンは37.2個/cm2、研磨有効面積は0.16cm2であり、所定領域研磨有効面積は0.16cm2であった。
【0061】
〔実施例5〕
図6(a)に示す凹凸パターンに代えて、ドット状の凹部であってその凹部における空間の形状が円柱状であるドットが図6(b)に示す凹凸パターンで規則的に配列されるように硬化性組成物を塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法により実施例5の研磨パッドを得た。得られた研磨パッドにおいて、ドットの直径は0.5mm、隣接するドット同士の最近接距離は1.0mm、単位面積当たりの凹凸パターンは65.2個/cm2、研磨有効面積は0.55cm2であり、所定領域研磨有効面積は0.55cm2であった。
【0062】
〔実施例6〕
ドットの直径を2.0mmとし、隣接するドット同士の最近接距離を1.0mmとした以外は、実施例5と同様の方法により実施例6の研磨パッドを得た。得られた研磨パッドにおいて、単位面積当たりの凹凸パターンは16.8個/cm2、研磨有効面積は0.48cm2であり、所定領域研磨有効面積は0.48cm2であった。
【0063】
〔比較例1〕
ダイヤモンド砥粒(トラストウエル社製、製品名ダイヤモンドパウダー TMD-S 8-16)252重量部をさらに含む硬化性組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により比較例1の研磨パッドを得た。
【0064】
〔比較例2〕
(1次含浸工程)
エステル系ウレタン樹脂(DIC社製、商品名「クリスボン7667」)45.7質量部と、架橋剤としてウレタンプレポリマー(DIC社製、商品名「バーノックDN950」)1.4質量部と、N,N-ジメチルホルムアミド52.9質量部とを混合し、樹脂溶液を調製した。得られた樹脂溶液に不織布Bを浸漬させ、マングルローラを用いて余分な樹脂溶液を絞り落とすことで、不織布Bに樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、18℃の水からなる凝固液中に不織布Bを浸漬することにより、1次含浸樹脂を凝固再生させて樹脂含浸不織布を得た。その後、樹脂含浸不織布を凝固液から取り出して乾燥させ、バフィングにより表面のスキン層が除去された樹脂含浸織布を得た。
【0065】
(浸漬工程)
次いで、N,N-ジメチルホルムアミドと純水とを65対35で混合した浸漬溶媒に、上記で得られた樹脂含浸不織布を浸漬した。その後、洗浄・乾燥を行い、浸漬工程後の樹脂含浸不織布を得た。
【0066】
(2次含浸工程)
さらに、ウレタンプレポリマー(三菱樹脂社製、商品名「ノバレタン UP121」、NCO当量440)31.15質量部と、硬化剤(DIC社製、商品名「パンデックスE」)7.85質量部と、N,N-ジメチルホルムアミド57.24質量部とを混合し、樹脂溶液を調製した。得られた樹脂溶液に、浸漬工程後の樹脂含浸不織布を浸漬した。その後、洗浄・乾燥を行い、比較例2の研磨パッドを得た。研磨パッド全体に対して、不織布含有量は33質量%であった。
【0067】
〔比較例3〕
ドットの直径を3mmとし、隣接するドット同士の最近接距離を5.5mmとした以外は、実施例1と同様の方法により比較例3の研磨パッドを得た。得られた研磨パッドにおいて、単位面積当たりの凹凸パターンは3.8個/cm2、研磨有効面積は0.10cm2であり、所定領域研磨有効面積は0.10cm2であった。
【0068】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の研磨パッドは、光学材料、半導体デバイス、ハードディスク用のガラス基板等のラッピングや研磨、特にサファイアやSiCなどのラッピングや研磨用の研磨パッドとして産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0070】
11,21,31…樹脂部、12,22,32…基材、13,23…接着層、4…感圧紙、5…研磨面、6…転写された発色液、10,20…研磨パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8