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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】静電フィルター構造体
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/08 20060101AFI20221213BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20221213BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20221213BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20221213BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221213BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B01D39/08 A
B01D39/16 A
B03C3/28
D04H1/435
B32B27/00 M
B32B27/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018014407
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019130471
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【弁理士】
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【識別番号】100175385
【氏名又は名称】葛西 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 英明
(72)【発明者】
【氏名】足立 将司
(72)【発明者】
【氏名】山岸 拓人
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6178291(JP,B2)
【文献】特開2017-131890(JP,A)
【文献】特開2006-075796(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104492(WO,A1)
【文献】特開昭51-038368(JP,A)
【文献】特開2016-005903(JP,A)
【文献】特開平08-173726(JP,A)
【文献】特表2019-512379(JP,A)
【文献】特開2014-218059(JP,A)
【文献】特開2005-251252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04、46/00-46/54
B03C 3/00-11/00
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物である室内の通気口に貼着して通過する気体をろ過することにより前記通気口から埃などが室内へ侵入するのを抑制するための静電フィルター構造体であって、
静電機能を有するシート状の静電フィルターと、
前記静電フィルターの一方面の少なくとも一部に形成された、前記対象物へ脱着自在に貼着するための粘着層とを備え、
前記粘着層は、無溶剤型粘着剤によって形成されてなり、
前記静電フィルターは、静電機能を備え、少なくともポリエステル繊維とモダクリル繊維とを含む(但し、ポリプロピレン繊維を含まない)不織布、織布、又は編み布で構成される、静電フィルター構造体。
【請求項2】
前記無溶剤型粘着剤は、ホットメルト粘着剤である、請求項1記載の静電フィルター構造体。
【請求項3】
前記ホットメルト粘着剤は、合成ゴム系ホットメルト粘着剤である、請求項2記載の静電フィルター構造体。
【請求項4】
前記合成ゴム系ホットメルト粘着剤は、合成ゴム成分として、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、これらブロック共重合体の水添物等のスチレン系エラストマー、ポリイソブチレン、イソブチレン-イソプレン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体の変性物、ポリブテン等のオレフィン系エラストマー、ポリクロロプレン、ニトリルゴムからなる群から選択される少なくとも1種以上を含む、請求項3記載の静電フィルター構造体。
【請求項5】
前記静電フィルターは、静電機能を備える不織布、織布、又は編み布で構成され、厚さが0.3~15.0mm、及び目付けが20~200g/mである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の静電フィルター構造体。
【請求項6】
前記静電フィルターは、静電機能を備える不織布、織布、又は編み布で構成され、厚さが1.0~2.0mm、及び目付けが20~80g/mである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の静電フィルター構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に貼着して通過する気体をろ過するためのフィルター構造体に関し、特に、静電機能を有するシート状の静電フィルターを用いた静電フィルター構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
通気口から埃などが室内へ侵入するのを抑制するため、従来、不織布からなる通気口用フィルターが用いられている。例えば特許文献1には、通気口の大きさに合わせて切断する箇所のミシン目を目視し易くするために、2種のみかけ密度の異なるPET繊維から形成した通気口用の不織布フィルターが開示されている。
【0003】
又、特許文献2には、不織布からなるフィルターの一方面に、主剤と硬化剤とを含む2液混合型ポリウレタン系粘着剤で粘着層を形成したフィルター構造体が記載されている。又、粘着層の形成方法として、不織布の一方面を加熱処理し、その面上に2液混合型ポリウレタン系粘着剤をローラーで塗布したのち、乾燥炉内を通過させて、塗布した粘着剤を固化させることも記載されている。このような構造のフィルター構造体は、粘着層により、通気口等の対象物へ簡便に貼り付けることができる。
【0004】
特許文献3には、フィルターの一方面に粘着層を形成したフィルター構造体を製造するための製造装置の一例が記載されている。
【0005】
図5は、特許文献3に記載された、従来のフィルター構造体を製造するための製造装置の一例を示す斜視図である。
【0006】
同図に示すように、この製造装置100は、離型シート101及び不織布シート107それぞれの供給手段、離型シート101に粘着剤を用いて文字103等を印刷するための印刷ロール102、印刷された文字103等を乾燥させる乾燥ゾーン104、離型シート101と不織布シート107とを積層させてフィルター構造体とするための、ゴムロール105と加熱可能なスチールロール106とからなる貼り合わせロール、及び、長尺のフィルター構造体を所定寸法のフィルター構造体115に断裁するための断裁装置114を含む。
【0007】
又、図5において、符号108は印刷ロール102のシャフト、109はシャフト108上に設けた突起、110は突起109の移動経路に相対する位置に配置した近接センサー、113は離型シート101上の文字103等と一定の位置関係を有する箇所に印刷される位置合わせマーク、112は位置合わせマーク113を印刷するためのプリンター、111は近接センサー110から出力される信号に基づいてプリンター112を動作させる制御装置である。位置合わせマーク113は、無色の文字103等が光電管センサーでは検知されないので、その代わりに文字103等の位置を確認するために用いられる。
【0008】
特許文献3の技術は、製造装置100により、離型シート101に粘着剤を用いて文字103等を印刷し、印刷された文字103等を乾燥させたのち、その上に不織布シート107を積層させて長尺のフィルター構造体を形成し、これを裁断して所定寸法のフィルター構造体115を得るというものである。
【0009】
ところで、気体中の微粒子を高効率で捕集して取り除くことができるエアフィルターとして、静電力(静電気力とも言う)を利用した静電フィルターと呼ばれるものが開発されている。近年では、粒子径が2.5μm以下のPM2.5と呼ばれる超微粒子が人体の呼吸器系器官に与える深刻な影響について懸念されている。静電フィルターは、静電力により超微粒子を繊維に引き寄せて効果的に超微粒子を除去できるので、使用が拡大している。
【0010】
このような静電フィルターとしては、例えば、ポリプロピレン不織布にコロナ放電処理などを行うことによって帯電加工を施したもの(特許文献4)、羊毛繊維を含む不織布に樹脂加工を施したものになめし工程で帯電処理を施したもの(特許文献5、特許文献6)、ポリプロピレン樹脂の表面がポリエチレン樹脂で被覆された芯鞘型複合繊維に対し印加電極を用いて直流高電界を発生させることにより繊維表面を分極荷電させたもの(特許文献7)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2015-120108号公報
【文献】特開2014-124597号公報
【文献】特許3703811号公報
【文献】特表2010-534559号公報
【文献】特開昭60-44015号公報
【文献】特開2001-269520号公報
【文献】特開2017-131890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般に、静電フィルターは、通気口用フィルターとして用いることにより、空気中の微粒子、特にPM2.5等の超微粒子が室内へ進入するのを抑制する効果が期待される。しかし、特許文献2、3の技術を適用して、静電フィルターに溶剤を含む粘着剤を塗布して粘着層を形成したところ、PM2.5のような超微粒子に対する捕集効率が、静電フィルターに粘着層を形成する前に比べて大きく低下するという現象が見出された。
【0013】
依って本発明は、静電フィルターへの粘着層形成時に、PM2.5のような超微粒子に対する捕集効率が低下するのを抑制することができる静電フィルター構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は鋭意研究の結果、静電フィルターに粘着層を形成する材料としてホットメルト等の無溶剤型粘着剤を用いると、PM2.5等の超微粒子に対する捕集効率が粘着層形成後に低下する現象を抑制できることを見出し、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、対象物である室内の通気口に貼着して通過する気体をろ過することにより通気口から埃などが室内へ侵入するのを抑制するための静電フィルター構造体であって、静電機能を有するシート状の静電フィルターと、静電フィルターの一方面の少なくとも一部に形成された、対象物へ脱着自在に貼着するための粘着層とを備え、粘着層は、無溶剤型粘着剤によって形成されてなり、静電フィルターは、静電機能を備え、少なくともポリエステル繊維とモダクリル繊維とを含む(但し、ポリプロピレン繊維を含まない)不織布、織布、又は編み布で構成されるものである。
【0016】
このように構成すると、静電フィルターの静電機能、すなわち、静電力によって微粒子を吸着する機能が損なわれず、溶剤系粘着剤を使用した場合に生じていた、PM2.5等の超微粒子に対する捕集効率の低下が抑制される。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、無溶剤型粘着剤が、ホットメルト粘着剤であるものである。
【0018】
このように構成すると、安価で取り扱いが容易になる。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の構成において、ホットメルト粘着剤が、合成ゴム系ホットメルト粘着剤であるものである。
【0020】
このように構成すると、通気口等の対象物へ貼り付けたときの保持力が良好になり、糊残り及び静電フィルターの静電力への影響が少なくなる。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明の構成において、合成ゴム系ホットメルト粘着剤が、合成ゴム成分として、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、これらブロック共重合体の水添物等のスチレン系エラストマー、ポリイソブチレン、イソブチレン-イソプレン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体の変性物、ポリブテン等のオレフィン系エラストマー、ポリクロロプレン、ニトリルゴムからなる群から選択される少なくとも1種以上を含むものである。
【0022】
このように構成すると、上に掲げた合成ゴム成分がエラストマーとして作用するから、粘着剤の凝集力が高くなり、優れた粘着力が発揮される。
【0023】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の構成において、静電フィルターが、静電機能を備える不織布、織布、又は編み布で構成され、厚さが0.3~15.0mm、及び目付けが20~200g/mである。
【0024】
このように構成すると、気体を確実にろ過しつつ通過させることが可能であると共に、実用的な強度を備える。厚さが0.3mm未満又は目付けが20g/m未満の場合は、実用的な強度が不足すると共に、十分な捕集機能を発揮しないおそれがある。厚さが15.0mmを超えるか、又は目付けが200g/mを超えた場合は、気体の流通抵抗が大きくなりすぎて、静電フィルター構造体の通気性を損なうおそれがある。
【0025】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の構成において、静電フィルターが、静電機能を備える不織布、織布、又は編み布で構成され、厚さが1.0~2.0mm、及び目付けが20~80g/mである。
【0026】
このように構成すると、通気口用の静電フィルター構造体として最適な形態になる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、溶剤系粘着剤を使用した場合に生じていた、静電フィルターのPM2.5に対する捕集効率の低下を抑制できるので、優れた捕集効果を奏する静電フィルター構造体を提供することができる。又、溶剤系粘着剤を使用する場合と比較して、乾燥手段を省略できるから、設備の簡素化、縮小化を図ることができ、製品コストの低減をもたらすことができる。
【0030】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、安価で取り扱いが容易な静電フィルター構造体を提供できる。
【0031】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加えて、通気口等の対象物へ貼り付けたときの保持力に優れ、糊残りが生じにくく、静電フィルターの静電力への影響が少ない静電フィルター構造体を提供することができる。
【0032】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明の効果に加えて、合成ゴム成分がエラストマーとして作用するため、粘着剤の凝集力、ひいては粘着力に優れた静電フィルター構造体を提供できる。
【0033】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、気体を確実にろ過しつつ通過させることが可能であると共に、実用的な強度を備える静電フィルター構造体を提供することができる。
【0034】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、通気口用の静電フィルター構造体として、最適な形態の製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】離型シートを備える本発明の実施の形態による静電フィルター構造体の一例を示すものであって、(A)は一部省略した平面図、(B)は(A)の一部を拡大した平面断面図である。
図2】本発明の実施の形態による静電フィルター構造体を製造するための製造装置の一例を示す概略図である。
図3】本発明の実施の形態による静電フィルター構造体の一例を示す正面図である。
図4】「JIS9908 エアフィルタの粉塵捕集率の測定方法」に規定される計数法に準拠した、本発明の実施の形態による静電フィルター構造体の粉塵捕集率を評価するための試験装置の概略構成を示す図である。
図5】特許文献3に記載された、従来のフィルター構造体を製造するための製造装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、離型シートを備える本発明の実施の形態による静電フィルター構造体の一例を示すものであって、(A)は一部省略した平面図、(B)は(A)の一部を拡大した平面断面図である。
【0038】
本発明の静電フィルター構造体Fは、対象物に貼着して通過する気体をろ過するためのものであり、静電機能を有するシート状の静電フィルターS1と、静電フィルターS1の一方面の少なくとも一部に形成された、対象物へ貼着するための粘着層Nとを備え、この粘着層Nを、無溶剤型粘着剤によって形成したところを特色とする。
【0039】
静電フィルターS1は、エレクトレットフィルターとも呼ばれ、繊維製のフィルターに静電気を帯電させたものである。「エレクトレット」とは、電気的に分極を生じさせた後でも半永久的に電気分極を保持し、外部に対して静電力を及ぼす性質を有する素材である。静電フィルターS1は、静電力によって粒子を捕捉することができるため、PM2.5等の超微粒子用のエアフィルターとして用いられている。
【0040】
本発明に使用する静電フィルターS1の材質としては、ポリプロピレン又はプロピレン主体の共重合体が用いられることが多い。又、難燃性付与などを目的として、上記の合成樹脂原料に、ステアリン酸アルミニウムなどの脂肪酸金属塩を適量添加したり、難燃性の繊維を混合したりすることもできる。
【0041】
又、本発明に使用する静電フィルターS1は、例えば静電機能を備える不織布、織布、又は編み布で構成され、この場合、厚さを0.3~15.0mm、及び目付けを20~200g/mの範囲とするのが好ましい。このように構成すると、粉塵を確実に捕集しつつ気体を通過させることが可能であると共に、実用的な強度を備える。厚さが0.3mm未満、又は、目付けが20g/m未満の場合は、実用的な強度が不足すると共に、十分な捕集機能を発揮しないおそれがある。厚さが15.0mmを超えるか、又は、目付けが200g/mを超えると、気体の流通抵抗が大きくなり、エアフィルターとしての実用性が損なわれるおそれがある。
【0042】
フィルターに静電気を帯電させる方法としては、エレクトロエレクトレット、熱エレクトレット、ラジオエレクトレット、メカノエレクトレット、フォトエレクトレット、マグネットエレクトレットなどが挙げられる。工業的に静電フィルターとして広く用いられている不織布の場合、主にエレクトロエレクトレット又は熱エレクトレットによる帯電方法が使用される。このような静電フィルターの公知例は、例えば上記特許文献4、5、6、及び7に記載されている。
【0043】
本発明では、静電フィルターS1に、無溶剤型粘着剤によって粘着層Nを形成する。無溶剤型粘着剤としては、ホットメルト粘着剤、又は、エマルジョン型粘着剤が挙げられる。
【0044】
本発明において使用されるホットメルト粘着剤としては、従来公知のホットメルト粘着剤が使用できる。具体的には、エチレン酢酸ビニル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系などのホットメルト粘着剤が挙げられる。これらの中でも、通気口等の対象物へ貼り付けたときの保持力、糊残りのし難さ、静電フィルターの静電力への影響の少なさ、などを考慮すると、合成ゴム系ホットメルト粘着剤を採用するのが好ましい。
【0045】
ホットメルト粘着剤として合成ゴム系ホットメルト粘着剤を使用する場合、これに含まれる合成ゴム成分としては、例えばスチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、及びこれらブロック共重合体の水添物等のスチレン系エラストマー、ポリイソブチレン、ブチルゴム(イソブチレン-イソプレン共重合体、及び該重合体の変性物)、ポリブテン等のオレフィン系エラストマー、ポリクロロプレン、ニトリルゴムなどが挙げられる。これらの合成ゴム成分は、エラストマーとして機能することにより、粘着剤の凝集力を向上させ、ひいては粘着力の向上をもたらすことができる。
【0046】
又、ホットメルト粘着剤には、下記に列挙する成分の1つ以上を含ませることができる。
・ロジン系樹脂、テルペン樹脂、(水添)石油樹脂、クマロン-インデン系樹脂、水素化芳香族コポリマー、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂などの粘着付与樹脂;
・フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、その他脂肪酸エステルパラフィン、エポキシ系高分子可塑剤、リン酸エステル、亜リン酸エステル類、アクリル系オリゴマー、ポリイソプレン、プロセスオイル、ナフテン系オイル、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオール化合物などの可塑剤;
・エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニルなどの他の重合体等
上記の成分は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらは粘着剤に対し粘着付与剤として作用し、静電フィルターに対する粘着剤の粘着性(密着性)を向上させる機能を有する。
【0047】
上記成分のほか、更にホットメルト粘着剤に含ませ得る他の成分として、例えば、石油系炭化水素などの鉱物油(合成オイル)類、植物油類、動物油類、パラフィン類、テルペノイド類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類、アルコール類、はちみつ、クロタミトン等のうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの成分はいずれも粘着剤に対し軟化剤として作用し、粘着剤の粘着力が低温時に低下するのを防止する機能を有している。
【0048】
又、上記の成分は、粘着剤の塗工適性を向上させる機能も有している。例えば、合成ゴム系ホットメルト粘着剤を構成するエラストマー成分の種類、分子量、含有量等によっては、粘着剤の塗工時に糸引き等を生じさせる場合がある。そのような場合に、粘着剤に軟化剤を添加することにより、糸引き等を好適に防止して、良好な塗工適性を発揮させることができる。更に、上記成分を粘着剤に含ませることで、本発明の静電フィルター構造体を、使用後に通気口等の対象物から引き剥がすときに、ホットメルト粘着剤の対象物に対する残渣、すなわち糊残りを抑制することができる。
【0049】
本発明に係る静電フィルター構造体を製造する方法は特に限定しないが、例えば、静電フィルターに、ホットメルト粘着剤を直接塗工する方法が挙げられる。但し、この方法に限定されるものではない。
【0050】
以下、図面を参照して、静電フィルター構造体Fを製造するための方法について説明する。
【0051】
図2は、本発明の実施の形態による静電フィルター構造体を製造するための製造装置の一例を示す概略図である。
【0052】
図2に示す製造装置Pは、ホットメルト粘着剤Mの供給手段、不織布等からなるシート状の静電フィルターS1の供給手段、及び、PETフィルム等からなる離型シートS2の供給手段が備えられると共に、ホットメルト粘着剤Mを貯留させつつ送り出すためのホットメルト供給ロール2及び補助ロール1、静電フィルターS1の一方の面にホットメルト粘着剤Mを塗工するための印刷ロール3及びバックアップロール4、静電フィルターS1と離型シートS2とを積層して貼り合わせるためのニップロール5及び6、離型シートS2の搬送速度を調節しつつ供給するための供給ロール10及び11、離型シートS2を搬送するための搬送ロール12、13及び14を有している。
【0053】
補助ロール1、ホットメルト供給ロール2、印刷ロール3及びバックアップロール4は隣接して配置されると共に、連動して回転するように構成される。ホットメルト供給ロール2と補助ロール1との突き合わせ部分の上部に、溶融状態のホットメルト粘着剤Mが貯留される。ホットメルト供給ロール2を回転させると、その表面に付着したホットメルト粘着剤Mが、これに接する印刷ロール3の表面へ移行する。ホットメルト粘着剤Mの移行量は、ホットメルト供給ロール2と補助ロール1との間隙寸法を調節することで制御することができる。
【0054】
印刷ロール3は、グラビアロールや凸版ロールなど、公知の印刷用ロールを使用することができる。ホットメルト供給ロール2からの移行によりホットメルト粘着剤Mを表面に付着させた印刷ロール3とバックアップロール4との間に静電フィルターS1を通過させることにより、静電フィルターS1の一方面に、所望の文字や図柄等をホットメルト粘着剤Mで印刷することができる。文字等が印刷された静電フィルターS1は、ニップロール5、6に供給される。
【0055】
PET等からなる離型シートS2は、供給ロール10及び11、搬送ロール12、13及び14によって、ニップロール5、6の位置まで搬送される。離型シートS2の搬送速度は、供給ロール10及び11の回転速度によって調節され、静電フィルターS1の搬送速度と一致するように制御される。
【0056】
ニップロール5及び6に供給される静電フィルターS1及び離型シートS2は、静電フィルターS1のホットメルト粘着剤Mが塗工された面と離型シートS2とを向かい合わせた状態で、両者をニップロール5及び6の間を通過させる。これにより、静電フィルターS1と離型シートS2とが積層されて貼り合わされた静電フィルター構造体Fを得ることができる。
【0057】
こうして製造される本発明に係る静電フィルター構造体Fは、図1に示すように、静電フィルターS1の一方面上に塗工されたホットメルト粘着剤Mにより、粘着層Nが形成される。又、塗工されたホットメルト粘着剤Mの一部が、不織布等からなる静電フィルターS1の表層内に浸入する。これにより、繊維間の隙間がホットメルト粘着剤Mで充填されたアンカー層Rが形成されるので、ホットメルト粘着剤Mからなる粘着層Nの、静電フィルターS1に対する結合強度を高めることができる。その結果、離型シートS2を剥離したときに、ホットメルト粘着剤Mが離型シートS2上に残存するおそれがなくなる。又、静電フィルター構造体Fを対象物に貼着して使用したのち、対象物から引き剥がしたときに、対象物上にホットメルト粘着剤Mが残留する糊残りも防止される。
【0058】
尚、本例では、静電フィルターS1の全面に粘着層を生成することはぜず、パターンコートにより、部分的にホットメルト粘着剤Mを塗布する。ホットメルト粘着剤Mの好ましい塗布量は、20~50g/m、より好ましくは25~35g/mである。又、ホットメルト粘着剤Mの好ましい塗布面積は、通常、フィルター全体の40~80%の範囲である。但し、上記の数値は、静電フィルター構造体Fの用途や大きさに応じ、適宜変更され得るものである。
【0059】
本例では、粘着剤に、溶剤を含まないホットメルト粘着剤Mを用いたので、図5に示す従来の製造装置100と比べて、印刷した文字等を乾燥させるための乾燥ゾーン104を省略することができる。又、ニップロール5、6の一方を加熱する必要もない。よって、設備の簡素化・縮小化が可能なので、製造コストの低減を図れる。
【0060】
こうして得られた長尺の静電フィルター構造体Fは、必要に応じ所定寸法に切断されて製品化され、離型シート付きフィルター製品として販売される。使用に際しては、作業現場において、離型シートS2を剥離し、不織布等からなる静電フィルターS1部分を、粘着層を使用して、対象物に貼着する。
【0061】
本発明の静電フィルター構造体Fは、例えば台所や厨房のレンジフード、エアコン、換気扇等の家庭用機器の他、工業用機器における通気個所におけるエアフィルター製品として広く使用することができる。
【0062】
図3は、本発明の実施の形態による静電フィルター構造体の一例を示す正面図である。
【0063】
同図に示すように、静電フィルター構造体Fの静電フィルターS1にホットメルト粘着剤Mを用いて形成する粘着層Nで、フィルターの交換時期を表示する文字L等を表記することができる。静電フィルター構造体Fの静電フィルターS1は、空気中の大きい粒子は繊維の網目で捕捉し、PM2.5等の超微粒子は静電力によって吸着する。但し、静電フィルターS1における粘着層Nを形成した部分は、空気を通過させない。そのため使用を継続すると、静電フィルターS1における空気が通過する部分は塵埃を吸着することによって着色されるのに対し、文字L等の部分はあまり変色しない。その結果、使用開始前には殆ど判別できなかった無色の文字L等が、使用時間の経過に伴い周囲が着色されることによって白抜き文字の状態となり、明瞭に読み取ることができるようになる。従って、文字L等によって表示される内容を、フィルター交換時期を示すものとしておけば、この文字Lが識別可能な状態になることによって、フィルター交換時期を使用者に表示することができる。
【0064】
上記の実施の形態において、静電フィルターS1の素材を不織布としたが、織布や編み布、又は、これらの組み合わせを使用することも可能である。
【0065】
更に、上記の実施の形態では、粘着層をホットメルト粘着剤で形成したが、これに代えて、エマルジョン型粘着剤で粘着層を形成することも可能である。
【実施例
【0066】
微粒子に対する捕集効率について、本発明に係る静電フィルター構造体Fと、溶剤系粘着剤で粘着層を形成した従来の静電フィルター構造体とを比較した。試験方法は「JIS9908 エアフィルタの粉塵捕集率の測定方法」に規定される計数法に準拠した。
【0067】
図4は、「JIS9908 エアフィルタの粉塵捕集率の測定方法」に規定される計数法に準拠した、本発明の実施の形態による静電フィルター構造体の粉塵捕集率を評価するための試験装置の概略構成を示す図である。
【0068】
同図に示す試験装置において、試験対象となるテストフィルタを装着し、試験風量を調節する。清浄用フィルタを通過させた空気と粉体発生装置で生成した粉体とを混合機に供して混合し、必要に応じて適宜希釈装置にて上流側の粉塵濃度を調整した上で試験粉体をテストフィルタの上流側に供給する。そして、テストフィルタの上流側の粉塵濃度C1及び下流側の粉塵濃度C2それぞれを、パーティクルカウンター及びコンピュータを用いて測定する。
【0069】
粘着剤として、本発明の実施例には、合成ゴム系ホットメルト粘着剤(東洋アドレ株式会社製トヨメルトP-907NAシリーズ)を使用し、比較例には、酢酸エチルを希釈溶剤としたウレタン系粘着剤を使用した。
【0070】
粘着剤の塗工方法は、本発明の実施例では、凸版ロールを用いて静電フィルターに直接塗工する方法を用いたものであり、静電フィルターにホットメルト粘着剤を塗工した後、離型シートを積層した。比較例では、グラビアロールを用いて離型シートに溶剤系粘着剤を塗工した後、その上に静電フィルターを積層することにより、溶剤系粘着剤を静電フィルターに転写させる方法を用いた。尚、試験の際には、上記の離型シートは剥離した。
【0071】
試験条件及び捕集率の算出方法は以下の通りである。
[測定条件]
・測定面積 0.0314m
・面風速 0.1m/s
[テストフィルタ]
・厚み 1.5mm
・粘着剤の塗布面積 フィルター全体の50%
[試験粉体]
・食塩(NaCl)粒子
[捕集率]
捕集率(η)は、テストフィルタの上流側及び下流側それぞれで測定した上流側粉塵濃度(C1)及び下流側粉塵濃度(C2)に基づき、測定対象の試験粉粒径ごとに、下記式により算出した。
【0072】
η=(1-C2/C1)×100[%]
試験結果を下記表1に示す。尚、表中「0.3~0.5」は「0.3以上0.5未満」を意味する。又「無加工」は、静電フィルターのみからなる参考例を示す。
【0073】
【表1】
表1の結果から、本発明の実施例に係る静電フィルター構造体は、比較例と比べて、全ての粒径範囲において、捕集効率に優れる。特に0.5μm未満の超微粒子に対する捕集効果が、著しく改善されていることが判る。
【0074】
従来の溶剤系粘着剤を用いた比較例において、粘着層形成後に静電フィルターのPM2.5に対する捕集効率が低下するメカニズムの詳細は不明である。1つの仮説として、従来の粘着剤は、例えば酢酸エチル等の溶剤で希釈して用いられるものであり、これを静電フィルターに塗布したときに、塗布時の流動によって粘着剤と静電フィルターとの界面、又は粘着剤内部で静電気が発生し、これが静電フィルターに帯電している電荷を打ち消すために、静電フィルター構造体のPM2.5に対する捕集効率が低下するのではないかと推測される。
【0075】
従って上記推測に基づくと、本発明によって静電フィルター構造体のPM2.5に対する捕集効率の低下が抑制される理由は、粘着剤層の形成に無溶剤型粘着剤を使用するので、これを静電フィルターに塗布したときの粘着剤の流動が少なく、又溶剤を含まないために静電フィルターとの界面や粘着剤内部で静電気が生じ難いためであると考えられる。
【0076】
又、不織布の材質として、ポリエステル繊維(PET繊維)とモダクリル繊維との組み合わせを用いたものは、より高い捕集率を示すことが理解される。
【0077】
以上の試験結果から、本発明によれば、従来よりも捕集率に優れた静電フィルター構造体を提供できることが実証されたことが判る。
【符号の説明】
【0078】
F…静電フィルター構造体
P…製造装置
M…ホットメルト粘着剤
N…粘着層
L…文字
S1…静電フィルター
S2…離型シート
1…補助ロール
2…ホットメルト供給ロール
3…印刷ロール
4…バックアップロール
5、6…ニップロール
10、11…供給ロール
12、13、14…搬送ロール
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1
図2
図3
図4
図5