(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/536 20210101AFI20221213BHJP
H01M 50/534 20210101ALI20221213BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20221213BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M50/536
H01M50/534
H01M4/64 A
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2018057699
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】小岩 永明
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-251048(JP,A)
【文献】特開2013-246903(JP,A)
【文献】特開2005-183359(JP,A)
【文献】特開2017-084725(JP,A)
【文献】特開2014-086312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/531-50/536
H01M 4/64-4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを備えた電極体と、非水電解質とが電池ケース内に収容された非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記負極は、銅材からなる負極集電板と、該負極集電板と電気的に接続されている負極板とを備えており、
前記負極板は、表面がクロメート処理されたクロメート被膜層形成銅箔を電極芯体とし、前記電極芯体に負極活物質を含む負極合剤層が形成されている合剤層形成部と、前記電極芯体に前記負極合剤層の形成されていないリード部とを有しており、
前記リード部には、前記クロメート被膜層の上に順に、酸化銅被膜層と、硫化系化合物やその分解生成物を含む有機被膜層とが設けられており、
前記負極集電板の前記銅材の表面に0.005μm以上0.04μm以下の第1の厚さの酸化銅被膜層を形成する酸化銅被膜形成工程と、
前記酸化銅被膜形成工程で形成した前記酸化銅被膜層の表面に0.01μm以上の第2の厚さで、かつ、前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さと前記負極集電板
の硫化銅被膜層の厚さとを足した厚さが0.07μm以下の硫化銅被膜層を形成する硫化銅被膜形成工程と、
前記硫化銅被膜層を介して前記負極集電板を前記負極板の前記リード部の一部に抵抗溶接によって接合する接合工程とを備える
非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記酸化銅被膜形成工程は、前記負極集電板の所定雰囲気下での加熱処理であり、
前記硫化銅被膜形成工程は、前記負極集電板の硫化水溶液への浸漬処理である
請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さは、0.03μmよりも厚い
請求項
1又は2に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項4】
正極と負極とを備えた電極体と、非水電解質とが電池ケース内に収容された非水電解質二次電池であって、
前記負極は、銅材からなる負極集電板と、該負極集電板と電気的に接続されている負極板とを備えており、
前記負極板は、表面がクロメート処理されたクロメート被膜層形成銅箔を電極芯体とし、前記電極芯体に負極活物質を含む負極合剤層が形成されている合剤層形成部と、前記電極芯体に前記負極合剤層の形成されていないリード部とを有しており、
前記リード部には、少なくとも、前記クロメート被膜層の上に順に、酸化銅被膜層と、硫化系化合物やその分解生成物を含む有機被膜層とが設けられており、
前記負極集電板は、少なくとも、前記銅材の表面から順に、0.005μm以上0.04μm以下の第1の厚さの酸化銅被膜層と0.01μm以上の第2の厚さで、かつ、前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さと前記負極集電板
の硫化銅被膜層の厚さとを足した厚さが0.07μm以下の硫化銅被膜層とを有しているとともに、前記負極板の前記リード部の一部に抵抗溶接によって接合されている
非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さは、0.03μmよりも厚い
請求項
4に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極に銅を用いる非水電解質二次電池の製造方法、及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の一つであるリチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であることから、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)等の駆動用電源として用いられている。リチウムイオン二次電池は、電極芯体の両面に電極合剤層を設けた正極板及び負極板をセパレータを介して捲回又は積層した電極体を有する。電極芯体には、二次電池電極用アルミニウム合金箔や銅箔が用いられ、電極板の端部にあって電極芯体からなるリード部には外部電極端子に接続される集電板が接続される。
【0003】
通常、リード部と集電板とは、電気的かつ機械的な接続が溶接等により確保されている。例えば、負極は、銅製の電極芯体におけるリード部と銅製の集電板とが表面処理を施された状態で溶接される。このように表面処理されたリード部と集電板とが溶接された非水電解質二次電池の一例が特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の非水電解質二次電池は、正極と負極とを備えた電極体と、非水電解質とが電池ケース内に収容されている。負極は、集電板(負極端子)と、該集電板と電気的に接続されている負極板(負極集電体)と、負極活物質を含む負極合剤層(負極活物質層)とを備えている。負極板は、表面がクロメート処理されたクロメート被膜層形成銅箔であり、かつ、負極合剤層が形成されている負極合剤層形成部と、負極合剤層が形成されていない負極合剤層非形成部とを有している。集電板は、負極合剤層非形成部の一部に抵抗溶接によって接合されている。負極合剤層非形成部の表面であって、少なくとも集電板と抵抗溶接された部分及び当該抵抗溶接された部分の周辺の一部は、酸化銅からなる酸化銅被膜層を備えている。酸化銅被膜層の平均厚みは3nm以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、酸化銅被膜層は、抵抗溶接に必要な層であるが、抵抗溶接に適切である厚さを超えて成長するとなると電池抵抗を増加させてしまう。よって、酸化銅被膜層を適正な厚さに維持する必要がある。この点、特許文献1に記載の技術は、負極板については、クロメート処理により防錆性の向上が図られているものの、集電板については成長した酸化銅被膜が電池抵抗の増加を招くおそれがある。
【0007】
また、特許文献1には、酸化銅被膜層の更に上層に有機被膜層を設ける負極板が記載されているが、酸化銅被膜の上層にある有機被膜層は集電板との溶接における親和性を低下させて負極板と集電板との間の溶接強度を低下させるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電池抵抗の増加を抑制するとともに、溶接強度を維持することのできる非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する非水電解質二次電池の製造方法は、正極と負極とを備えた電極体と、非水電解質とが電池ケース内に収容された非水電解質二次電池の製造方法であって、前記負極は、銅材からなる負極集電板と、該負極集電板と電気的に接続されている負極板とを備えており、前記負極板は、表面がクロメート処理されたクロメート被膜層形成銅箔を電極芯体とし、前記電極芯体に負極活物質を含む負極合剤層が形成されている合剤層形成部と、前記電極芯体に前記負極合剤層の形成されていないリード部とを有しており、前記リード部には、前記クロメート被膜層の上に順に、酸化銅被膜層と有機被膜層とが設けられており、前記負極集電板の前記銅材の表面に第1の厚さの酸化銅被膜層を形成する酸化銅被膜形成工程と、前記酸化銅被膜形成工程で形成した前記酸化銅被膜層の表面に第2の厚さの硫化銅被膜層を形成する硫化銅被膜形成工程と、前記硫化銅被膜層を介して前記負極集電板を前記負極板の前記リード部の一部に抵抗溶接によって接合する接合工程とを備える。
【0010】
上記課題を解決する非水電解質二次電池は、正極と負極とを備えた電極体と、非水電解質とが電池ケース内に収容された非水電解質二次電池であって、前記負極は、銅材からなる負極集電板と、該負極集電板と電気的に接続されている負極板とを備えており、前記負極板は、表面がクロメート処理されたクロメート被膜層形成銅箔を電極芯体とし、前記電極芯体に負極活物質を含む負極合剤層が形成されている合剤層形成部と、前記電極芯体に前記負極合剤層の形成されていないリード部とを有しており、前記リード部には、少なくとも、前記クロメート被膜層の上に順に、酸化銅被膜層と有機被膜層とが設けられており、前記負極集電板は、少なくとも、前記銅材の表面から順に、第1の厚さの酸化銅被膜層と第2の厚さの硫化銅被膜層とを有しているとともに、前記負極板の前記リード部の一部に抵抗溶接によって接合されている。
【0011】
このような方法又は構成によれば、負極集電板の酸化銅被膜層の成長が硫化銅被膜層によって抑制されるようになる。これにより、酸化銅被膜層の膜厚増大による電池抵抗の増加を抑制することができる。
【0012】
また、負極集電板の酸化銅被膜層の膜厚増大が硫化銅被膜層によって抑制されることにより、製造時、負極集電板を大気中に暴露しておくことが可能な時間が長くなるため非水電解質二次電池の製造にかかる手間やコストが低減されるようになる。
【0013】
また、硫化銅被膜層は、負極板の有機被膜層との溶接時の親和性が、酸化銅被膜層と比べて高い。よって、負極集電板に硫化銅被膜層が設けられていることによって、負極板と負極集電板との溶接における剥離強度(溶接強度)を維持することができる。
【0014】
好ましい方法として、前記酸化銅被膜形成工程は、前記負極集電板の所定雰囲気下での加熱処理であり、前記硫化銅被膜形成工程は、前記負極集電板の硫化水溶液への浸漬処理である。
【0015】
このような方法によれば、加熱処理による適切な厚さの酸化銅被膜層の形成と、硫化水溶液への浸漬処理による適切な厚さの硫化銅被膜層の形成とが行えるようになる。
好ましい方法として、前記酸化銅被膜形成工程では、前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さを0.005μm以上0.04μm以下とし、前記硫化銅被膜形成工程では、前記負極集電板の前記硫化銅被膜層の厚さを0.01μm以上、かつ、前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さと前記負極集電板の前記硫化銅被膜層の厚さとを足した厚さを0.07μm以下に形成する。
【0016】
好ましい構成として、前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さは、0.005μm以上、かつ、0.04μm以下であり、前記負極集電板の前記硫化銅被膜層の厚さは、0.01μm以上であり、前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さと、前記負極集電板の前記硫化銅被膜層の厚さとを足した厚さは、0.07μm以下である。
【0017】
このような方法又は構成によれば、酸化銅被膜層を抵抗溶接が可能な厚さにすることができるとともに、電池抵抗の増加を抑制しつつ、適切な溶接性を維持することができる。
好ましい方法として、前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さは、0.03μmよりも厚い。
【0018】
好ましい構成として、前記負極集電板の前記酸化銅被膜層の厚さは、0.03μmよりも厚い。
通常、酸化銅被膜層の厚さは0.03μmを超えると溶接性が低下し、電池抵抗が増加する。この点、このような方法又は構成によれば、硫化銅被膜層があることにより、酸化銅被膜層の厚さが0.03μmを超えても適切な溶接性が維持されるとともに、電池抵抗の増加が抑制される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電池抵抗の増加を抑制するとともに、溶接強度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】非水電解質二次電池の一実施形態について、その構造の概略図。
【
図2】同実施形態の極板群の断面構造を示す模式図。
【
図3】同実施形態において電極板のリード部及び集電板の層構造を示す断面図。
【
図4】同実施形態において被膜の厚さと、溶接性及び抵抗上昇率との関係を示す表。
【
図5】同実施形態において被膜の厚さと、溶接性及び抵抗上昇率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1~
図5に従って、非水電解質二次電池の製造方法、及び非水電解質二次電池を具体化した一実施形態を説明する。なお、本実施形態では、二次電池はリチウムイオン二次電池である。
【0022】
本実施形態の二次電池は、バスバーで複数が接続されることにより組電池を構成する。組電池は、電気自動車もしくはハイブリッド自動車に搭載され、電動モータ等に電力を供給する。二次電池は、外形が直方体形状の密閉式電池である。
【0023】
図1に示すように、二次電池10は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11と、電池ケース11を封止する蓋体12と、電池ケース11の内部に収容される電極体20と、電池ケース11内に注入された液体状の非水電解質27とを備える。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。二次電池10は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。また二次電池10は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる2つの外部端子13を備えている。本実施形態では、
図1において、左側の外部端子13が正極外部端子であり、右側の外部端子13が負極外部端子である。
【0024】
電極体20は、正極板21と負極板22とそれらの間に配置されたセパレータ23とが扁平に捲回されて形成されている。電極体20は、捲回される方向(捲回方向)の両端26で折り返されることにより多重に積層されている。電極体20は、捲回方向に直交する方向(捲き軸方向)の一端側に正極板21がはみ出た正極のリード部21Aと、同直交する方向の他端側に負極板22がはみ出た負極のリード部22Aとを有する。正極のリード部21A及び負極のリード部22Aはそれぞれその一部が圧縮されるとともに、それら正極のリード部21A及び負極のリード部22Aのうちの圧縮された部分21C,22Cにはそれぞれ外部端子13に接続される集電板14が溶接されている。
【0025】
セパレータ23は、正極板21及び負極板22の間に非水電解質27を保持するためのポリプロピレン製等の不織布である。また、セパレータ23としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、及び多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。
【0026】
(非水電解質)
非水電解質27は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0027】
(正極板)
図2に示すように、正極板21は、帯状の電極芯体としての正極基材211と、正極基材211の内周面211A及び外周面211Bに、それぞれの正極合剤層212,213とを備えている。正極基材211は、正極に適する金属箔が使用され、例えば、所定の幅を有し、厚さが15μmの帯状のアルミニウム箔である。また、正極基材211は、幅方向片側の縁部に沿って未塗工部211Mを有している。正極合剤層212,213は、未塗工部211Mを除いて、正極基材211の両面に保持されて、正極基材211に塗工された合剤層形成部を形成している。また正極基材211は、未塗工部211Mに上記正極のリード部21Aを有している。正極合剤層212,213には、正極活物質が含まれており、該正極活物質を含む正極合剤を正極基材211に塗工することによって形成されている。
【0028】
正極合剤層212,213には、正極活物質粒子、導電材及びバインダーが含まれている。正極活物質粒子には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることができる物質を使用することができる。例えばLi、Ni、Co、Mnを構成金属元素とする層状結晶構造のリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が挙げられる。また、LiNiO2(ニッケル酸リチウム)、LiCoO2(コバルト酸リチウム)、LiMn2O4(マンガン酸リチウム)、LiFePO4(リン酸鉄リチウム)等のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。ここで、LiMn2O4は、例えば、スピネル結晶構造を有している。また、LiNiO2或いはLiCoO2は層状の岩塩構造を有している。また、LiFePO4は、例えば、オリビン構造を有している。オリビン構造のLiFePO4には、例えば、ナノメートルオーダーの粒子がある。また、オリビン構造のLiFePO4は、さらにカーボン膜で被覆することができる。
【0029】
また、導電材としては、例えば、カーボン粉末、カーボンファイバー等のカーボン材料が例示される。そして、導電材は、このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末等のカーボン粉末を用いることができる。
【0030】
また、バインダーは、正極合剤層212,213に含まれる正極活物質粒子と導電材の各粒子を結着させたり、これらの粒子と正極基材211とを結着させたりする役割を担う。かかるバインダーとしては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。例えば、水性溶媒を用いた正極合剤組成物においては、セルロース系ポリマー(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等)、フッ素系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等)、ゴム類(酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等)等の水溶性または水分散性ポリマーを好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極合剤組成物においては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)等を好ましく採用することができる。
【0031】
正極合剤層212,213は、例えば、上述した正極活物質粒子と導電材を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた正極合剤を作製し、該正極合剤を正極基材211に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、正極合剤の溶媒としては、水性溶媒及び非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)が挙げられる。上記バインダーとして例示したポリマー材料は、バインダーとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもある。
【0032】
正極合剤全体に占める正極活物質の質量割合は、50wt%以上(典型的には50~95wt%)であることが好ましく、通常は70~95wt%(例えば75~90wt%)であることがより好ましい。また、正極合剤全体に占める導電材の割合は、例えば2~20wt%とすることができ、通常は2~15wt%とすることが好ましい。バインダーを使用する組成では、正極合剤全体に占めるバインダーの割合を例えば1~10wt%とすることができ、通常は2~5wt%とすることが好ましい。
【0033】
(負極板)
図2に示すように、負極板22は、帯状の電極芯体としての負極基材221と、負極基材221の内周面221A及び外周面221Bに負極合剤層222,223とを備えている。負極基材221には、負極に適する金属箔が好適に使用され、例えば、所定の幅を有し、厚さが10μmの帯状の銅箔が用いられる。また、負極基材221の幅方向片側には、縁部に沿って合剤層非形成部としての未塗工部221Mを有している。負極合剤層222,223は、未塗工部221Mを除いて、負極基材221の両面に保持されている。負極合剤層222,223には、負極活物質が含まれており、該負極活物質を含む負極合剤を負極基材221に塗工することによって形成されている。
【0034】
負極合剤層222,223には、負極活物質粒子、増粘剤、バインダー等が含まれている。負極活物質粒子としては、負極活物質として従来からリチウムイオン二次電池に用いられる材料の一種または二種以上を使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。具体的には、負極活物質は、例えば、天然黒鉛、非晶質の炭素材料でコートした天然黒鉛、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、又は、これらを組み合わせた炭素材料でもよい。
【0035】
また、バインダーには、正極合剤層212,213のバインダーとして例示したポリマー材料を用いることができる。例えば、バインダーは、ゴム類を含む水系ポリマー、及び、非水系ポリマーのうち、少なくとも一種類で構成されている。ゴム類を含む水系ポリマーとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)が例示される。ここでスチレンブタジエンゴムとは、スチレンと1,3‐ブタジエンを含む共重合体のことであり、その共重合様式は限定されない。さらに不飽和カルボン酸や不飽和ニトリル化合物を共重合させた変性SBRであってもよい。その他、水に分散または溶解するポリマーとしては、ポリアクリレート(アクリル酸エステル単独重合体または共重合体)、ポリウレタン、等が例示される。かかるポリマーは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
負極合剤層222,223は、例えば、負極活物質粒子とバインダーとを溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた負極合剤を作製し、負極基材221に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、負極合剤の溶媒としては、水性溶媒及び非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)が挙げられる。ポリマー材料は、バインダーとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0037】
(リード部)
図2に示すように、負極基材221は、負極合剤層222,223が形成されていない未塗工部221Mとを有している。また、負極基材221は、負極集電板として負極の集電板14Mと電気的に接続されており、負極のリード部22Aの圧縮された部分22Cに集電板14Mが接合される。本実施形態では、負極板22と負極の集電板14Mとから負極が構成される。
【0038】
図3を参照して、負極のリード部22Aと負極の集電板14Mとの接合について説明する。以下では、負極のリード部22Aや負極の集電板14M等を、単にリード部22Aや集電板14M等と記す。
【0039】
リード部22Aは、負極基材221から順に、少なくとも、クロメート被膜層224、酸化銅被膜層225、及び有機被膜層226が積層されている。一方、集電板14Mは、銅基材141から順に、少なくとも、酸化銅被膜層142及び硫化銅被膜層143が設けられている。そして、リード部22Aと集電板14Mとは、リード部22Aの有機被膜層226と、集電板14Mの硫化銅被膜層143とが向かい合わされて、その後、抵抗溶接される。
【0040】
まず、負極基材221は、帯状の銅箔が用いられており、該銅箔の表面にはクロメート処理されたクロメート被膜層224が形成されている、いわゆるクロメート被膜層形成銅箔である。負極基材221の表面に形成されたクロメート被膜層224は、負極基材221の防錆性を向上することができる。
【0041】
クロメート被膜層224は、公知のものでよく、例えばクロム酸、重クロム酸ナトリウム、重クロム酸カリウム等を材料として形成することができるものである。典型的には、クロメート被膜層形成後のクロムの析出形態はCr(OH)3とCr2O3が混在した状態であり、三価クロムの形態で析出している。また、クロム酸液はアルカリ性、酸性のどちらでもよい。例えば、クロメート被膜層224の平均厚さは、1nm以上1000nm未満がよく、1.1nm以上10nm以下が好ましく、2nm以上5nm以下がより好ましい。
【0042】
クロメート被膜層形成銅箔は、クロメート処理が施されていることによって、負極基材221の表面は、酸化クロムが混在しており、酸化クロムの導電性がよいため電流が流れ易い。そのため、負極基材221は導電性が良くなり接触抵抗が低くなる。そこで、本実施形態の二次電池10は、負極基材221における未塗工部221Mの表面に施されたクロメート被膜層224の更に表面、すなわち、圧縮された部分22Cにおける集電板14Mとの接合部分及びその周辺の一部に、酸化銅からなる酸化銅被膜層225を形成する。ただし、酸化銅被膜層225は、少なくとも未塗工部221M上のクロメート被膜層224の表面に形成されていればよく、負極合剤層222,223上のクロメート被膜層224の表面には、酸化銅被膜層225を形成してもよいし、形成しなくてもよい。なお、集電板14Mとリード部22Aとの抵抗溶接の際、溶接された箇所についてはクロメート被膜層224が失われることがある。
【0043】
また、酸化銅被膜層225の平均厚さは、3nm以上(典型的には、150nm以下)であり、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。酸化銅被膜層225の平均厚さを上記範囲よりも薄く形成すると、導電性が高くなるために、溶接の際の抵抗発熱が望めなく、好適に溶接ができないおそれがある。よって、上記範囲の平均厚みの酸化銅被膜層225を形成することによって、集電板14Mと負極基材221との接合部分及びその周辺の一部の接触抵抗をより好適に高めることができ、その結果、溶接部分及びその周辺の一部の溶接がし易くなる。なお、酸化銅被膜層225の平均厚みの測定方法は、X線光電子分光法(XPS)である。
【0044】
未塗工部221Mの表面に酸化銅被膜層225を形成する方法は、一般的に使用される表面処理方法を利用することができる。一例としては、コロナ放電によるプラズマ照射または紫外線(UV)照射等の物理的エネルギーを表面に照射する処理方法が挙げられる。このような表面処理を行うことによって、未塗工部221Mの集電板14Mとの接合部分及びその周辺の一部に酸化銅被膜層225を形成することができる。その結果、未塗工部221Mの集電板14Mとの接合部分及びその周辺の一部の接触抵抗を高めることができ、集電板14Mと負極基材221との溶接がし易くなる。
【0045】
また、未塗工部221Mの酸化銅被膜層225の更に上層に有機被膜層226を形成してもよい。有機被膜層226は、硫化系化合物やその分解生成物を含むものが挙げられる。具体的には、有機被膜層226を形成するものとして、LiCF3SO3,Li(CF3SO2)2N,LiC4F9SO3,Li(CF3SO2)3C等や、その分解生成物が挙げられる。
【0046】
また、有機被膜層226の平均厚みは、0.5nm以上3.0nm以下、好ましくは0.5nm以上2.0nm以下であるとよい。有機被膜層226の平均厚みの測定方法は、X線光電子分光法(XPS)である。なお、有機被膜層226の平均厚みが上記範囲内にある場合は、好ましくは、有機被膜層226を負極基材221及び集電板14Mの両方に形成するとよいが、有機被膜層226を負極基材221又は集電板14Mのどちらか一方に形成してもよい。
【0047】
(集電板)
図1に示すように、集電板14は、接続される正極板21又は負極板22の電極芯材と同じ種類の金属材から構成される。集電板14は、外部端子13と正極のリード部21Aとを電気的に接続する長い板状の金属板、及び外部端子13と負極のリード部22Aとを電気的に接続する長い板状の金属板である。集電板14の一方は、正極のリード部21Aに接続される正極の集電板14Pであり、他方は、負極のリード部22Aに接続される負極の集電板14Mである。よって、正極の集電板14Pは、正極基材211と同じアルミニウム合金から構成され、負極の集電板14Mは、負極基材221と同じ銅材から構成される。本実施形態では、正極板21と正極の集電板14Pから正極が構成されている。
【0048】
図3に示すように、集電板14Mは、銅板の表面には酸化銅被膜層142が形成されている。ただし、酸化銅被膜層142は、少なくとも未塗工部221M上の圧縮された部分22Cに対応する位置とその周辺に形成されていればよい。なお、集電板14Mとリード部22Aとの抵抗溶接の際、溶接された箇所については酸化銅被膜層142が失われることがある。
【0049】
また、酸化銅被膜層142の平均厚さは、酸化銅被膜層225の平均厚と同様であり、3nm以上(典型的には、150nm以下)であり、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。
【0050】
酸化銅被膜層142の平均厚さを上記範囲よりも厚く形成すると、導電性が低くなるために、溶接の際の抵抗発熱はするものの、電池抵抗が増加するおそれがある。よって、上記範囲の平均厚みの酸化銅被膜層142を形成することによって、集電板14Mと負極基材221との接合部分及びその周辺の一部の電池抵抗を増加させないようにすることができる。その結果、溶接部分及びその周辺の一部の溶接がし易くなる。なお、酸化銅被膜層142の平均厚みの測定方法は、X線光電子分光法(XPS)である。
【0051】
集電板14Mの表面に酸化銅被膜層142を形成する方法は、一般的に使用される表面処理方法を利用することができる(酸化銅被膜形成工程)。すなわち、一例としては、集電板14Mを所定雰囲気下において加熱する処理方法が挙げられる。なお、所定雰囲気は、大気でもよいし、酸化を促進するガスでもよい。このような表面処理を行うことによって、集電板14Mの未塗工部221Mとの接合部分及びその周辺の一部に酸化銅被膜層142を形成することができる。その結果、集電板14Mの未塗工部221Mとの接合部分及びその周辺の一部の接触抵抗を高めることができ、集電板14Mと負極基材221との溶接がし易くなる。
【0052】
なお、製造時において、酸化銅被膜層142は、集電板14Mが大気中に暴露されている時間の長さに応じて成長し、膜厚が増大する。そのため、集電板14Mは導電性が低下し接触抵抗が高くなって電池抵抗の増加を招く。そこで、本実施形態の二次電池10は、集電板14Mの圧縮された部分21Cにおける銅板の表面に酸化銅被膜層142の更に表面、すなわち、接合部分及びその周辺の一部に、硫化銅からなる硫化銅被膜層143を形成する。
【0053】
集電板14Mの表面に硫化銅被膜層143を形成する方法は、一般的に使用される浸硫処理による表面処理方法を利用することができる(硫化銅被膜形成工程)。一例として、浸硫処理は、処理槽内の溶融塩や硫化水溶液中に金属材を浸漬保持し、金属材を陽極、処理槽を陰極として電気分解を行い、電気化学反応(イオン反応)により金属材の表面に浸硫層を生成させる処理方法が挙げられる。また、一例として、浸硫処理は200~350℃で、例えばH2S(硫化水素)ガス等の浸硫性ガスを流しながら行う処理方法が挙げられる。このような表面処理を行うことによって、集電板14Mの未塗工部221Mとの接合部分及びその周辺の一部に硫化銅被膜層143を形成することができる。その結果、集電板14Mの未塗工部221Mとの接合部分及びその周辺の一部の接触抵抗を高めることができ、負極基材221と集電板14Mとの溶接がし易くなる。
【0054】
(溶接)
そして、本実施形態の二次電池10の製造方法における接合工程では、負極板22の圧縮された部分22Cに集電板14Mを溶接により接合する。この溶接では抵抗溶接を用いるとよい。接合工程では、未塗工部221Mの中間付近部分を積層方向に寄せ集めた圧縮された部分22Cを、集電板14Mの溶接部分14Cに溶接している。溶接では、溶接装置の2つの電極が、圧縮された部分22Cと集電板14Mとを挟むように配置される。そして、一方の電極を他方の電極に押し当てることによって、負極基材221における未塗工部221Mの圧縮された部分22Cと負極の集電板14Mの溶接部分14Cとが当接するようにして抵抗溶接をする。
【0055】
抵抗溶接は、被溶接材に電流を流すことによって発生する抵抗熱を利用して溶接するため、被溶接材の抵抗が高い方が溶接性がよい。クロメート被膜層224のみが形成された場合の未塗工部221Mの表面は、導電性がある酸化クロムが混在しており、クロメート被膜層224が未形成である負極基材221よりも電流が流れやすい。また、集電板14Mは異物除去のため、バレル研磨や脱脂処理が施され、表面が平滑であることが通常である。よって、集電板14Mと負極基材221との接触面積が大きく確保されて、接触抵抗が低くなり、抵抗発熱が望めない。
【0056】
クロメート被膜層224が形成された未塗工部221Mの圧縮された部分22Cの表面のうちの、少なくとも集電板14Mとの接合部分及びその周辺の一部に酸化銅被膜層225を形成することで、集電板14Mと負極基材221との接触抵抗を高めることができる。また、集電板14Mにも、未塗工部221Mとの接合部分及びその周辺の一部に酸化銅被膜層142を形成することで、集電板14Mと負極基材221との接触抵抗を高めることができる。その結果、抵抗溶接による溶接の際、投入電圧が小さくても負極の集電板14M及び負極基材221は十分に発熱するため、好適に溶接することができる。なお、典型的には当該抵抗溶接の際、クロメート被膜層224が失われる。
【0057】
(実施例と比較例)
以下、
図4及び
図5を参照して、具体的な実施例の一例と比較例の一例とについて説明する。リスト41は、実施例と比較例とを示している。リスト41において、第2の厚さとしての「硫化銅厚み(μm)」が硫化銅被膜層143の厚さであり、第1の厚さとしての「酸化銅厚み(μm)」が酸化銅被膜層142の厚さであり、「総厚み(μm)」が酸化銅被膜層142の厚さと硫化銅被膜層143の厚さとを足した厚さである。また、硫化銅厚みが「0μm」のときに実施例は無く、硫化銅厚みが「0.01μm(10nm)」のときには実施例22~25が、硫化銅厚みが「0.03μm(30nm)」のときには実施例32~35がある。また、硫化銅厚みが「0μm」のときには比較例11~17があり、硫化銅厚みが「0.01μm」のときには比較例21,26があり、硫化銅厚みが「0.03μm」のときには比較例31,36がある。
【0058】
以下の手順で、リード部22Aと集電板14Mとを溶接して二次電池10を作製した。
<実施例22>
(負極板22)
厚さが10μmの帯状の電解銅箔の表面にクロム系の三価クロム錯体を用いた平均厚さが2nmのクロメート被膜層224が施されている負極基材221と該負極基材221の一方の端部(未塗工部221M)を除いた部分に塗工された負極合剤層222,223とを備えた負極板22を用意した。次に、負極板22の負極基材221における未塗工部221Mにプラズマ照射を行うことで酸化銅被膜層225を形成して、実施例22に係る二次電池10の負極板22を用意した。なお、プラズマ照射には、春日電機(株)製の特殊高周波電源CTシリーズ:CT-0212を使用し、高周波電源に接続された電極間を搬送される電解銅箔の搬送速度は15m/min、印加電圧は14kVであり、このときの電力は0.5kWである。
【0059】
(負極の集電板14M)
厚みが1mmの銅によって構成された集電板14Mを用意した。集電板14Mには、酸化銅被膜形成工程で0.005μmの酸化銅被膜層142を形成し、その後、硫化銅被膜形成工程で0.01μmの硫化銅被膜層143を形成した。よって、総厚みは0.015μmである。そして、この集電板14Mを電極体20の中央部分に寄せ集めた未塗工部221Mである圧縮された部分22Cに沿うように、電極体20との溶接部分14Cを折り曲げ加工した。その後、集電板14Mの溶接部分14Cは厚みが0.6mmになるようにプレス加工した。そして、集電板14Mに異物除去のためバレル研磨及び脱脂処理を行って、実施例22に係る集電板14Mを作製した。
【0060】
(抵抗溶接)
負極板22(負極基材221)の圧縮された部分22Cに、集電板14Mの溶接部分14Cを当接するようにして以下の溶接電源および溶接条件で抵抗溶接をした。
【0061】
溶接電源:抵抗溶接機ナグシステム(株)、DDCウエルダーDNWS-5500-4M
溶接条件:投入電圧8V、時間6ms、加圧1.5kN
<実施例23~25>
負極の集電板14Mにおける、酸化銅被膜層142の厚みが実施例22と相違するだけであとは実施例22と同様に作成した。具体的には、酸化銅被膜形成工程で作成した酸化銅被膜層142の厚みが、実施例23では0.01μm、実施例24では0.03μm、実施例25では0.04μmである。よって、実施例23では総厚みは0.02μmであり、実施例24では総厚みは0.04μmであり、実施例25では総厚みは0.05μmである。その後、硫化銅被膜形成工程で0.01μmの硫化銅被膜層143を形成し、抵抗溶接を行った。
【0062】
<比較例21,26>
負極の集電板14Mにおける、酸化銅被膜層142の厚みが実施例22と相違するだけであとは実施例22と同様に作成した。具体的には、比較例21では、酸化銅被膜層142の厚みが0μm、つまり設けられず、比較例26では、酸化銅被膜形成工程で作成した酸化銅被膜層142の厚みが0.06μmである。よって、比較例21では総厚みは0.01μmであり、比較例26では総厚みは0.07μmである。その後、硫化銅被膜形成工程で0.01μmの硫化銅被膜層143を形成し、抵抗溶接を行った。
【0063】
<実施例32>
負極の集電板14Mにおける、硫化銅被膜層143の厚みが実施例22と相違するだけであとは実施例22と同様に作成した。具体的には、酸化銅被膜形成工程で0.005μmの酸化銅被膜層142を形成し、その後、硫化被膜形成工程で0.03μmの硫化銅被膜層143を作成し、抵抗溶接を行った。よって、総厚みは0.035μmである。
【0064】
<実施例33~35>
負極の集電板14Mにおける、酸化銅被膜層142の厚みが実施例32と相違するだけであとは実施例32と同様に作成した。具体的には、酸化銅被膜形成工程で作成した酸化銅被膜層142の厚みが、実施例33では0.01μm、実施例34では0.03μm、実施例35では0.04μmである。よって、実施例33では総厚みは0.04μmであり、実施例34では総厚みは0.06μmであり、実施例35では総厚みは0.07μmである。その後、硫化銅被膜形成工程で0.03μmの硫化銅被膜層143を形成し、抵抗溶接を行った。
【0065】
<比較例31,36>
負極の集電板14Mにおける、酸化銅被膜層142の厚みが実施例32と相違するだけであとは実施例32と同様に作成した。具体的には、比較例31では、酸化銅被膜層142の厚みが0μm、つまり設けられず、比較例36では、酸化銅被膜形成工程で作成した酸化銅被膜層142の厚みが0.06μmである。よって、比較例31では総厚みは0.03μmであり、比較例36では総厚みは0.09μmである。その後、硫化銅被膜形成工程で0.03μmの硫化銅被膜層143を形成し、抵抗溶接を行った。
【0066】
<比較例11~17>
負極の集電板14Mにおける、硫化銅被膜形成工程を行わない点、及び、酸化銅被膜層142の厚みが実施例22と同一又は相違することの他は実施例22と同様に作成した。具体的には、比較例11では、酸化銅被膜層142の厚みが0μm、つまり設けない。また、酸化銅被膜形成工程で作成した酸化銅被膜層142の厚みが、比較例12では0.005μm、比較例13では0.01μm、比較例14では0.03μm、比較例15では0.04μm、比較例16では0.05μm、比較例17では0.06μmである。よって、総厚みも、比較例12では0.005μm、比較例13では0.01μm、比較例14では0.03μm、比較例15では0.04μm、比較例16では0.05μm、比較例17では0.06μmである。その後、抵抗溶接を行った。
【0067】
[使用後の抵抗上昇率]
実施例22~25,32~35、及び比較例11~17,21,26,31,36において、それぞれの負極基材221と集電板14Mとの間の抵抗上昇率を測定した。抵抗上昇率は、二次電池10の充放電を所定の時間だけ行ったとき、使用前の電池抵抗に対する使用後の電池抵抗の割合を抵抗上昇率として測定する。
【0068】
測定は、二つの先端面積φ4mmの抵抗溶接用電極の間に幅30mmで60層に捲回した電極体20と負極の集電板14Mを挟み込む。そして、電極体20と負極の集電板14Mとの間の電気抵抗を測定した。
【0069】
リスト41には、二次電池10としての所定条件での使用後の抵抗上昇率を、硫化銅厚みが0μmの場合、0.01μmの場合、及び0.03μmの場合の、3つ場合のそれぞれについて示している。なお、いずれの場合も、酸化銅厚みが0.005μmのときを100%とする。
【0070】
[溶接性]
実施例22~25,32~35、及び比較例11~17,21,26,31,36において、それぞれの負極基材221と集電板14Mとの間の溶接強度を測定することで溶接性を判定した。引張試験機を用いて、該引張試験機に負極の集電板14Mと抵抗溶接された電極体20を固定し、負極の集電板14Mの先端をつかみ引張上げたときの破断ピーク強度を測定した。
【0071】
リスト41には、リード部22Aと集電板14Mとの間の溶接性が適切なものを「○」(丸印)、良好なものを「◎」(二重丸印)、適切ではないものを「×」(バツ印)で示す。
【0072】
(作用)
本実施形態の硫化銅被膜層143の作用について説明する。
抵抗溶接には酸化銅被膜層142が必要である。このことは、
図4のリスト41において、酸化銅厚み0μmである比較例11,21,31は、リスト41で「×」が付されていて溶接性が良好でないことより明らかである。つまり、溶接強度が低下する。
【0073】
また、抵抗溶接については、少ない電流、少ない時間に設定された溶接条件で溶接できることが好適である。この点、酸化銅被膜層142が厚くなると抵抗が高くなるため、上述のように設定される溶接条件では十分な発熱と溶融が行われなくなり、溶接性が低下する。これによって、溶接強度が低下する。
【0074】
例えば、比較例15~17,26,36は、酸化銅被膜層142を有するが、リスト41で「×」が付されるように溶接性が適切でない。なお、このとき、硫化銅厚み0μmである比較例15~17では、酸化銅厚み0.04μm以上であると溶接性が適切でない。一方、硫化銅厚み0.01μmであるとき、比較例26に示すように、酸化銅厚みが0.07μm以上であるとき溶接性が適切でない。また、硫化銅厚み0.03μmであるとき、比較例36に示すように、酸化銅厚みが0.09μm以上であるとき溶接性が適切でない。
【0075】
換言すると、硫化銅厚み0μmの比較例15,16に比べて、硫化銅厚み0.01μmであるとき、実施例22~25に示すように、酸化銅厚みが0.005μm以上0.05μm以下であっても溶接性が適切である。特に、酸化銅厚みが0.005μm以上0.04μm以下では好適である。さらに、比較例15~17と異なり、実施例24,25に示すように、酸化銅厚みが0.04μm以上0.05μm以下であっても溶接性が適切である。
【0076】
また、硫化銅厚み0μmの比較例15~17に比べて、硫化銅厚み0.03μmであるとき、実施例32~35に示すように、酸化銅厚みが0.005μm以上0.07μm以下であっても溶接性が適切である。特に、酸化銅厚みが0.005μm以上0.06μm以下では好適である。さらに、比較例15~17と異なり、実施例33~35に示すように、酸化銅厚みが0.04μm以上0.07μm以下であっても溶接性が適切である。
【0077】
つまり、集電板14Mに硫化銅被膜層143が設けられることで、酸化銅厚みが増しても溶接性が適切に維持されるようになる。酸化銅被膜層142は、酸化銅被膜形成工程で形成されるが、大気中に暴露されている時間によっても成長する。よって、溶接性が適切に維持されるようになる酸化銅厚みの範囲が広がることで集電板14Mの製造における作業の自由度の向上が図られるようになる。
【0078】
また、溶接性が適切であることに対応して、使用後の抵抗上昇率も抑えられるようになる。例えば、溶接性が適切でない比較例15~17は、リスト41で使用後の抵抗上昇率が120%,150%,160%であり、適切とされる抵抗上昇率である110%を超え、適切でない。また、溶接性が適切でない比較例26,36は、リスト41で使用後の抵抗上昇率が120%,120%であり、これも110%を超え、適切でない。
【0079】
換言すると、硫化銅厚み0μmの比較例15,16に比べて、硫化銅厚みが0.01μmであるとき、実施例24,25に示すように、使用後の抵抗上昇率が105%,108%であり適切である。また、硫化銅被膜層143のない比較例15~17に比べて、硫化銅厚みが0.03μmであるとき、実施例35に示すように、使用後の抵抗上昇率が108%であり適切である。
【0080】
図5に示すように、集電板14Mは、酸化銅被膜層142が厚くなると抵抗上昇率が高くなる。このとき、総厚み0.04μmの「印1」、同0.05μmの「印2」、同0.07μmの「印3」に示されるように、集電板14Mは、酸化銅被膜層142が同じ厚みであるとき、硫化銅被膜層143は厚くなっても抵抗を上昇させない。
図5に示す例では、硫化銅被膜層143は厚くなることに応じて、酸化銅被膜層142による抵抗上昇率を低下させている。
【0081】
硫化銅被膜層143は、酸化銅被膜層142の更に表面に形成されることから、酸化銅被膜層142の成長を抑制する。これにより、酸化銅被膜層142の厚みが、適切な溶接性を確保可能であり、かつ、使用後の抵抗上昇率が適切となる範囲である厚みに維持することのできる時間が長く確保されるようになり、製造における手間やコストの低減、自由度の向上が図られるようになる。
【0082】
また、硫化銅被膜層143は、浸硫処理で設けられるが、形成が比較的容易である。
また、硫化銅被膜層143は、リード部22Aの有機被膜層226との親和性が高い。親和性が高いことによって、抵抗溶接におけるリード部22Aと集電板14Mとの溶接性が高められて、剥離強度で測られる溶接強度が高く維持されるようになる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載するような効果が得られるようになる。
(1)集電板14Mの酸化銅被膜層142の成長が硫化銅被膜層143によって抑制されるようになる。これにより、酸化銅被膜層142の膜厚増大による電池抵抗の増加を抑制することができる。
【0084】
また、集電板14Mの酸化銅被膜層142の膜厚増大が硫化銅被膜層143によって抑制されることにより、製造時、集電板14Mを大気中に暴露しておくことが可能な時間が長くなるため二次電池10の製造にかかる手間やコストが低減されるようになる。
【0085】
また、硫化銅被膜層143は、負極板22の有機被膜層226との溶接時の親和性が、酸化銅被膜層142と比べて高い。よって、集電板14Mに硫化銅被膜層143が設けられていることによって、負極板22と集電板14Mとの溶接における剥離強度(溶接強度)を高く維持することができる。
【0086】
(2)コロナ放電による適切な厚さの酸化銅被膜層142の形成と、硫化水溶液等への浸漬処理による適切な厚さの硫化銅被膜層143の形成とが行えるようになる。
(3)酸化銅被膜層142を抵抗溶接が可能な厚さにすることができるとともに、電池抵抗の増加を抑制しつつ、適切な溶接性を維持することができる。
【0087】
(4)通常、酸化銅被膜層の厚さは0.03μmを超えると溶接性が低下し、電池抵抗が増加する。この点、硫化銅被膜層143があることにより、酸化銅被膜層142の厚さが0.03μmを超えても適切な溶接性が維持されるとともに、電池抵抗の増加が抑制される。
【0088】
(その他の実施形態)
なお上記実施形態は、以下の態様で実施することもできる。
・上記実施形態では、集電板14Mを所定雰囲気下において加熱処理することで酸化銅被膜層142を形成する場合について例示した。しかしこれに限らず、負極集電板の表面に酸化銅被膜層を形成する方法は、負極基材に酸化銅被膜層を形成する方法と同様であってもよい。すなわち、一例としては、コロナ放電によるプラズマ照射または紫外線(UV)照射等の物理的エネルギーを表面に照射する処理方法が挙げられる。
【0089】
・上記実施形態では、リード部22Aは、負極基材221から順に、少なくとも、クロメート被膜層224、酸化銅被膜層225、及び有機被膜層226が積層されている場合について例示した。しかしこれに限らず、クロメート被膜層、酸化銅被膜層、及び有機被膜層の各層の間や各層の上下に溶接性や使用後の抵抗上昇率に影響の小さい層等が設けられていてもよい。
【0090】
・上記実施形態では、集電板14Mは、銅基材141から順に、少なくとも、酸化銅被膜層142及び硫化銅被膜層143が積層されている場合について例示した。しかしこれに限らず、酸化銅被膜層、及び硫化銅被膜層の各層の間や各層の上下に溶接性や使用後の抵抗上昇率に影響の小さい層等が設けられていてもよい。
【0091】
・二次電池10は、電気自動車もしくはハイブリッド自動車に搭載されなくてもよい。例えば、二次電池10は、ガソリン自動車やディーゼル自動車等の車両に搭載されてもよい。また二次電池10は、鉄道、船舶、及び航空機等の移動体や、ロボットや、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10…二次電池、11…電池ケース、12…蓋体、13…外部端子、14…集電板、14C…溶接部分、14M,14P…集電板、20…電極体、21…正極板、21A…リード部、21C…部分、22…負極板、22A…リード部、22C…部分、23…セパレータ、26…端、27…非水電解質、41…リスト、141…銅基材、142…酸化銅被膜層、143…硫化銅被膜層、211…正極基材、211A…内周面、211B…外周面、211M…未塗工部、212,213…正極合剤層、221…負極基材、221A…内周面、221B…外周面、221M…未塗工部、222,223…負極合剤層、224…クロメート被膜層、225…酸化銅被膜層、226…有機被膜層。