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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20221213BHJP
【FI】
H02M7/487
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018077564
(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公開番号】P2019187151
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-06-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 功太郎
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】須田 勝巳
【審判官】山澤 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-153297(JP,A)
【文献】特開2016-082786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流回路の各相に応じて設けられたフルブリッジ構成の中性点クランプ方式の変換器と、
前記交流回路と前記変換器との間に接続され、前記変換器の交流電圧を変圧して前記交流回路に供給する変圧器と、
前記変換器の動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記変圧器は、前記交流回路の側でデルタ結線され、
前記制御装置は、中性点電位制御を行うために前記変圧器のデルタ結線内に還流する零相電流を積極的に供給するように前記変換器を制御する電力変換装置。
【請求項2】
前記変換器は、
中性点と、
前記中性点よりも高電位の第1直流端子と、
前記中性点よりも低電位の第2直流端子と、
を含み、
前記制御装置は、
前記第1直流端子と前記中性点との間の第1直流電圧と、前記中性点と前記第2直流端子との間の第2直流電圧と、の偏差にもとづいて、中性点の電位を制御するための中性点電位制御出力を生成し、
前記変換器に流れる交流線電流の方向にもとづいて、前記第1直流電圧のための第1直流電圧指令値および前記第2直流電圧のための第2直流電圧指令値を生成する請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記交流線電流が所定のしきい値電流よりも低下した場合には、零相電流指令値を強制的に設定し、前記零相電流指令値にもとづいて零相電圧指令値を生成する請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記零相電流指令値は、前記第1直流電圧および前記第2直流電圧の偏差が所定のしきい値電圧以上の場合に強制的に設定される請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記変換器の中性点クランプ方式は、ダイオードクランプ方式、または、T型クランプ方式のいずれかである請求項1~4のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電力を交流電力に変換し、あるいは、交流電力を直流電力に変換する電力変換装置では、高電圧化の試みがなされている。中性点クランプ形の電力変換装置は、3レベルの相電圧を出力することができる高電圧対応可能な電力変換装置の形式の1つである。
【0003】
中性点クランプ形の電力変換装置では、コンデンサによって直流電圧を高電位側と低電位側とに均等に分割し、高電位側直流電圧と低電位側直流電圧とを均等に保持する中性点電位制御が必要になる。
【0004】
中性点電位制御の方式にはさまざま提案されているが、中性点電位制御には、変換器に流れる電流を検出する必要があるため、交流側において無負荷や軽負荷となる状態では、中性点電位制御を安定に実行することが困難である。そのため、交流側に強制的に交流電流を供給して変換器に電流を流すことによって、中性点電位制御を安定化させる場合がある。しかしながら、交流側に供給する交流電流によって、電力系統等の交流回路に影響を及ぼす懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-113263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、安定して中性点電位制御することができる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る電力変換装置は、交流回路の各相に応じて設けられたフルブリッジ構成の中性点クランプ方式の変換器と、前記交流回路と前記変換器との間に接続され、前記変換器の交流電圧を変圧して前記交流回路に供給する変圧器と、前記変換器の動作を制御する制御装置と、を備える。前記変圧器は、前記交流回路の側でデルタ結線される。前記制御装置は、中性点電位制御を行うために前記変圧器のデルタ結線内に還流する零相電流を積極的に供給するように変換器を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態では、各相に応じてフルブリッジ構成の変換器を設けているので、一次側をΔ結線することができる変圧器を備えることができ、零相電流をΔ結線内に還流させることができるので、交流回路側に影響を与えることなく、安定して中性電位制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図2図1の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
図3図1の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
図4図1の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の電力変換装置10は、電力変換器20と、制御装置50と、を備える。電力変換装置10は、交流端子21u~21wを介して、交流回路に接続される。たとえば、交流回路は、三相または単相の50Hz若しくは60Hzの交流電源1や変圧器2を含む構成とすることができる。交流回路は、誘導電動機等の交流負荷や交流送電線等を含んでもよい。電力変換装置10は、直流端子21p,21nを介して、直流回路3に接続される。直流回路3は、たとえば直流送電線や蓄電池、太陽電池等を含む。直流回路3は、他の電力変換装置によって生成される直流電源等を含んでもよい。
【0012】
電力変換装置10は、交流電圧を直流電圧に変換し、あるいは直流電圧を交流電圧に変換する。電力変換装置10は、このような双方向の電力変換を行ってもよいし、一方向の電力変換を行ってもよい。
【0013】
電力変換器20は、交流端子21u~21wと、直流端子21p,21nと、を含む。交流端子21u~21wと直流端子21p,21nとの間には、交流回路の各相に対応して、変換器23u~23wが接続されている。交流端子21u~21wと変換器23u~23wとの間には、変圧器22u~22wがそれぞれ接続されている。変圧器22u~22wは、交流端子21u~21wの側でΔ(デルタ)結線されている。なお、本明細書では、変圧器22u~22wについて、交流回路に接続された巻線を一次巻線と呼び、変換器23u~23wに接続された巻線を二次巻線と呼ぶこととする。一次巻線の側を単に一次側、二次巻線の側を単に二次側とも呼ぶこととする。
【0014】
より具体的には、交流回路のU相に対応して、変圧器22uおよび変換器23uが設けられ、V相に対応して、変圧器22vおよび変換器23vが設けられ、W相に対応して、変圧器22wおよび変換器23wが設けられている。
【0015】
変換器23uは、交流端子24ua,24ubと、直流端子24up,24unと、中性点端子24uoと、を含む。交流端子24ua,24ubは、変圧器22uの二次巻線に接続されている。直流端子24up,24unは、電力変換器20の直流端子21p,21nに接続されている。直流端子24upと中性点端子24uoとの間にはコンデンサ25pが接続されている。中性点端子24uoと直流端子24unとの間には、コンデンサ25nが接続されている。
【0016】
変換器23vは、上述の変換器23uと同様に構成されており、交流端子24va,24vbによって、変圧器22vの二次巻線に接続され、直流端子24vp,24vnによって、電力変換器20の直流端子21p,21nに接続されている。
【0017】
変換器23wも、上述の変換器23u,23vと同様に構成されており、交流端子24wa,24wbによって、変圧器22wの二次巻線に接続され、直流端子24wp,24wnによって、電力変換器20の直流端子21p,21nに接続されている。
【0018】
すべての変換器23u~23wの直流側は、並列に接続されている。すなわち、直流端子24up,24vp,24wpは、電力変換器20の直流端子21pに接続されている。直流端子24un,24vn,24wnは、電力変換器20の直流端子21nに接続されている。中性点端子24uo,24vo,24woは、相互に接続されている。
【0019】
直流端子21pと中性点Oとの間の電圧をVPOとし、中性点Oと直流端子21nとの間の電圧をVONとする。なお、直流端子21pの電位は、直流端子21nの電位よりも高い値に設定されている。直流端子21pの電位は、中性点Oの電位から見て正であり、直流端子21nの電位は、中性点Oから見て負である。
【0020】
制御装置50は、直流電圧VPO,VON、各相電流iu~iw、および交流各相に応じた電圧vu~vwを入力して、変換器23u~23wを構成するスイッチング素子を駆動する駆動信号vgu~vgwを生成し、各変換器23u~23wに供給する。後に詳述するように、制御装置50は、入力した直流電圧VPO,VON、各相の電流iu~iw、および交流の電圧vu~vwにもとづいて、各種指令値を生成し、またあらかじめ設定された指令値にもとづいて駆動信号vgu~vgwを生成する。
【0021】
図2は、図1の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
図2には、変換器23uの簡略化された回路構成が示されている。この例では、ダイオードクランプ式の中性点クランプ回路が示されている。
【0022】
図2に示すように、変換器23uは、スイッチング素子31~38と、ダイオード39~42と、を含む。スイッチング素子31は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であり、ダイオードが逆並列に接続されている。
【0023】
スイッチング素子31,32は、接続ノードn1で直列に接続されている。スイッチング素子33,34は、接続ノードn2で直列に接続されている。スイッチング素子35,36は、接続ノードn3で直列に接続されている。スイッチング素子37,38は、接続ノードn4で直列に接続されている。スイッチング素子31,32、スイッチング素子33,34、スイッチング素子35,36およびスイッチング素子37,38それぞれの直列接続回路をアームと呼ぶ。
【0024】
スイッチング素子31,32によるアームは、スイッチング素子33,34によるアームと直列に接続されている。スイッチング素子31,32によるアームおよびスイッチング素子33,34によるアームの接続ノードは、交流端子24uaに接続されている。
【0025】
接続ノードn1,n2の間には、直列に接続されたダイオード39,40が接続されている。ダイオード39,40の直列接続回路の接続ノードは、中性点端子24uoに接続されている。
【0026】
スイッチング素子35,36によるアームは、スイッチング素子37,38によるアームと直列に接続されている。スイッチング素子35,36によるアームおよびスイッチング素子37,38によるアームの接続ノードは、交流端子24ubに接続されている。
【0027】
接続ノードn3,n4の間には、直列に接続されたダイオード41,42が接続されている。ダイオード41,42の直列接続回路の接続ノードは、中性点端子24uoに接続されている。
【0028】
スイッチング素子31~34の直列回路およびスイッチング素子35~38の直列回路は、直流端子24up,24unの間で並列に接続されている。スイッチング素子31,32によるアーム、スイッチング素子33,34によるアーム、スイッチング素子35,36によるアーム、およびスイッチング素子37,38によるアームは、交流端子24ua,24ubおよび直流端子24up,24unを有するフルブリッジ回路である。このフルブリッジ回路は、ダイオード39~42によって、中性点端子24uoの電位(中性点電位)にクランプされる。
【0029】
中性点電位に対する交流端子24ua,24ubのそれぞれの電位Vu(A),Vu(B)は、中性点電位制御のために変換器ごとに制御される電位であり、後に詳述する。
【0030】
中性点クランプ方式の変換器では、中性点の電圧に対する正負の直流電圧VPO,VONの偏差にもとづいて、零相電圧指令値を生成し、中性点電位を制御する。本実施形態の電力変換装置10では、変換器23u~23wと交流回路との間に変圧器22u~22wが接続されている。変圧器22u~22wの一次側は、Δ結線されている。
【0031】
交流回路側において無負荷や軽負荷の場合であっても、電力変換装置10は、指令値に応じた零相電圧を生成するので、Δ結線された一次側には零相電圧に応じた零相電流が流れる。変圧器22u~22wの一次側に零相電流を流すことによって、各変換器23u~23wには、電流が流れるので、安定して変換器動作を継続することができる。また、変圧器22u~22wの一次側に流れる零相電流はΔ結線内を還流するので、電力系統等の交流回路側には電流が流出しないようにすることができる。
【0032】
本実施形態の電力変換装置10では、零相電圧指令値の生成とは別に、交流の相ごとに中性点電位を制御する電圧指令値を生成する。
図3は、図1の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
図3には、U相の変換器23uに対して、中性点電位を制御する構成例が示されている。V相およびW相の変換器23v,23wに対しても、制御装置50は同じ構成を有しており、詳細な説明を省略する。
【0033】
図3に示すように、制御装置50は、加減算器51と、係数器52,59と、PI制御器53と、乗算器54,57と、符号器55,56と、加算器58,60と、を含む。制御装置50は、加減算器51、係数器52およびPI制御器53によって、中性点電位制御のための制御出力(中性点電位制御出力)を生成する。直流電圧VPO,VONの偏差を加減算器51および係数器52によって演算し、PI制御器53によって中性点電位制御出力を生成する。
【0034】
制御装置50は、乗算器54および符号器55,56によって、中性点電位制御の方向を設定する。符号器55,56は、入力された信号の符号が正の場合には、“+1”を出力し、入力された信号の符号が負の場合には、“-1”を出力する。乗算器54には、変換器23uから出力または変換器23uに入力する電流iuおよび符号器55の出力が入力される。符号器55には、U相の電圧指令値vu*が入力される。符号器56は、変換器23uの線電流iuおよびU相の電圧指令値vu*の符号を考慮して、中性点電位を制御する方向を決定する。
【0035】
乗算器57によって、中性点電位制御出力v0は、符号が付与されて、電圧指令値vu*に加算される。正側の電圧指令値Vu(A)*は、加算器58によって乗算器57の出力に加算されて生成される。負側の電圧指令値Vu(B)*は、係数器59によって反転された後に加算器60によって乗算器の出力に加算されて生成される。
【0036】
上述では、中性点クランプ方式の回路構成として、ダイオードクランプ方式の場合について説明したが、中性点電位制御を行う中性点クランプ方式の変換器であれば、他の回路方式にも適用することができる。たとえば、変換器のスイッチング素子の一部およびダイオードを双方向スイッチに置き換えて、変換器の構成をT型中性点クランプ方式等としてもよい。
【0037】
また、上述の例では、交流回路は、三相の場合について説明したが、交流回路の相数はこれに限定されず、四相以上であってもよい。
【0038】
本実施形態の電力変換装置10の効果について説明する。
本実施形態の電力変換装置10では、交流回路の各相に対応するフルブリッジ回路と、交流回路とフルブリッジ回路との間にΔ結線された変圧器を備えている。交流回路の側が無負荷や軽負荷状態であっても、制御装置50が零相電圧指令値を生成し、変圧器の一次側に零相電流を流すことによって、変換器の電流を継続して流すことができる。そのため、電力変換装置10は、無負荷や軽負荷の場合であっても、安定して中性点電位制御出力を行うことができる。
【0039】
変圧器の一次側は、Δ結線されているので、変換器によって出力された零相電流は、Δ結線内を還流して、交流回路側に流出することがない。そのため、電力変換装置10は、交流回路側に影響を与えることなく、安定して中性点電位制御を行うことができる。
【0040】
交流回路は、電力系統等の交流電源に限らず、電動機等の交流負荷であってもかまわない。本実施形態の電力変換装置10では、交流回路が交流負荷の場合に、交流負荷への電力供給を遮断する必要があるときでも、安定して中性点電位制御することができる。そのため、電力変換装置10を停止させずに動作を継続することができる。
【0041】
中性点電位制御の応答は、変換器から出力する直流電流または変換器に入力する直流電流に応じて変化することが知られている。中性点電位制御の応答は、以下の式(1)のように表される。
【0042】
中性点電位制御の応答∝直流中性点電流の変化量
=±(v0×変換器電流)/PN間直流電圧 (1)
ここで、v0は、中性点電位制御出力(図3)、変換器電流はiu~iwである。
【0043】
式(1)に示すように、直流の中性点電位の変化量は、各相に対応した変換器23u~23wの電流iu~iwの大きさにそれぞれ比例する。そのため、変圧器の一次側の零相電流を還流させるために各相に流す電流を適切な値に設定することによって、中性点電位の制御応答も向上させることができる。つまり、本実施形態の電力変換装置10では、各相に対応した中性点電位制御を実行することによって、安定して中性点電位制御を行うとともに、中性点電位制御の応答を速くすることができる。
【0044】
(変形例)
上述の実施形態では、変圧器の一次側に常時零相電流を流すことによって、交流回路側が無負荷や軽負荷の場合を含めて、安定して中性点電位制御を行う。一方で、常時零相電流を還流させることによって、変圧器や変換器には常時損失が発生し、変換器動作にともなうノイズ等が発生する。そこで、本変形例では、あらかじめ設定された条件を満たした場合に、電力変換装置10は、変圧器の一次側に零相電流を流すようにし、零相電流による安定化の必要がない場合には、零相電流を流さないようにする。
【0045】
図4は、図1の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
図4には、零相電流通電回路70が示されている。零相電流通電回路70は、たとえば制御装置50内に設けられる。
【0046】
図4に示すように、零相電流通電回路70は、比較器71,75と、加減算器72と、係数器73と、演算器74と、AND回路76,80と、オフディレイ回路77と、反転回路78と、ワンショット回路79と、を含む。零相電流通電回路70は、変換器の交流電流が所定の低下レベルを下回り、かつ、中性点電位を基準とした直流電圧VPO,VONの偏差が所定のアンバランスレベルを超過した場合に、変圧器の一次側に零相電流を通電するように、零相電流指令値を制御装置に供給する。
【0047】
以下では、各相の変換器23u~23wの電流iu~iwのうち、いずれか1つでも所定の低下レベルを下回ったことを検出する場合について説明するが、電流の検出条件についてはこれに限らず適切な任意の条件としてもよい。たとえば、電流iu~iwのそれぞれの実効値の平均値が所定の低下レベルを下回ったことを検出するようにしてもよいし、他の適切な条件であってもよい。
【0048】
直流電圧VPO,VONの偏差が所定のアンバランスレベルを超えた場合に、一定期間の零相電流を通電するように零相電流指令値を供給する。直流電圧VPO,VONのアンバランスが解消した場合には、零相電流を遮断する。
【0049】
比較器71には、あらかじめ設定された変換器電流低下レベルiT1が入力されている。比較器71は、変換器23uの電流iuを、変換器電流低下レベルiT1と比較する。比較器71は、電流iuが変換器電流低下レベルiT1よりも低下した場合に、AND回路80にHレベルの信号を供給する。
【0050】
直流電圧VPO,VONは、加減算器72および係数器73に入力されて、偏差(中性点電位からの電圧の算術平均)が演算される。係数器73の出力は、絶対値を演算する演算器74に入力され、比較器75によって直流電圧アンバランスレベルVUBと比較される。直流電圧VPO,VONの偏差の絶対値が直流電圧アンバランスレベルVUB以上の場合には、AND回路76にHレベルの信号を供給し得る状態となる。
【0051】
AND回路76の他方の入力には、AND回路76の出力に接続されたオフディレイ回路77の出力が反転回路78によって反転されて供給される。オフディレイ回路77は、あらかじめ設定されたオフディレイ時間を有している。オフディレイ回路77は、AND回路76の出力がLレベル(オフ)になっても、設定されているオフディレイ時間の経過後にLレベルとなる。つまり、AND回路76は、直流電圧VPO,VONの偏差が瞬時的にアンバランスレベルVUBを超過した場合に、AND回路76がHレベルを出力できるようにする。
【0052】
ワンショット回路79は、AND回路76の出力に接続されている。ワンショット回路79は、Hレベルの信号が入力されると、あらかじめ設定されたパルス幅のHレベルのワンショット信号をAND回路に供給する。
【0053】
零相電流通電回路70の動作について説明する。
零相電流通電回路70は、変換器が出力し、または変換器に入力される交流電流が変換器電流低下レベルiT1よりも低下した場合に、動作可能となる。
【0054】
零相電流通電回路70が動作可能の状態で、電力変換器20の直流電圧VPO,VONの偏差が、直流電圧アンバランスレベルVUB以上となったときに、ワンショット回路79によって設定されたパルス幅で決定される期間の零相電流が変圧器の一次側に供給される。
【0055】
本変形例では、変換器に流れる電流が低下したことを検出して、強制的に零相電流を変圧器に流すので、交流回路の側が無負荷等であっても、安定して中性点電位制御を行うことができる。
【0056】
また、本変形例では、変換器の電流の低下に加えて、直流電圧VPO,VONの偏差のアンバランスが大きい場合に、零相電流を流すので、中性点電位制御を積極的に行うべき状態のときに限ることができる。直流電圧VPO,VONの偏差のアンバランスが大きいと、変換器内のスイッチング素子に印加される電圧が過大となり、スイッチング素子が破損するおそれがある。したがって、直流電圧アンバランスレベルVUVを適切に設定することによって、変形例では、頻繁に零相電流を流して変換効率等を低下させることなく、スイッチング素子の破損等の事故を防止することができる。
【0057】
このように、本変形例では、所定の条件が満たされない場合には、変圧器に零相電流を流すことがないので、変換器の効率が低下することはない。
【0058】
中性点電位制御が必要なときに、零相電流を流すので、他の要因や、直流電圧がアンバランスになっていないときには、零相電流を流す必要がない。
【0059】
このように、本変形例では、交流側の電流の状況および直流側のアンバランスの状況に応じて、変圧器の零相電流の供給を行ったり、停止したりするので、負荷条件等に応じて最適な運転条件で動作することができる。
【0060】
以上説明した実施形態によれば、零相電圧の符号を正確に計算して、零相電圧の指令値を出力することができる電力変換装置を実現することができる。
【0061】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 交流電源、2 変圧器、3 直流回路、10 電力変換装置、20 電力変換器、22u~22w 変圧器、23u~23w 変換器、25p,25n コンデンサ、31~38 スイッチング素子、39~42 ダイオード、50 制御装置、51 加減算器、52,59 係数器、53 PI制御器、54,57 乗算器、55,56 符号器、58,60 加算器、70 零相電流通電回路、71,75 比較器、72 加減算器、73 係数器、74 演算器、76,80 AND回路、77 オフディレイ回路、78 反転回路、79 ワンショット回路
図1
図2
図3
図4