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特許7193261湿式排煙脱硫装置の制御方法、湿式排煙脱硫装置の制御装置、及びこの湿式排煙脱硫装置の制御装置を備えた遠隔監視システム
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  • 特許-湿式排煙脱硫装置の制御方法、湿式排煙脱硫装置の制御装置、及びこの湿式排煙脱硫装置の制御装置を備えた遠隔監視システム 図1
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  • 特許-湿式排煙脱硫装置の制御方法、湿式排煙脱硫装置の制御装置、及びこの湿式排煙脱硫装置の制御装置を備えた遠隔監視システム 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】湿式排煙脱硫装置の制御方法、湿式排煙脱硫装置の制御装置、及びこの湿式排煙脱硫装置の制御装置を備えた遠隔監視システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/50 20060101AFI20221213BHJP
   B01D 53/80 20060101ALI20221213BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20221213BHJP
   F23J 15/00 20060101ALI20221213BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20221213BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B01D53/50 245
B01D53/80 ZAB
B01D53/14 200
F23J15/00 B
G06N20/00
G05B13/02 L
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018133127
(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公開番号】P2020011163
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小久保 誠
(72)【発明者】
【氏名】須藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】金森 信弥
(72)【発明者】
【氏名】郡司 駿
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101303595(CN,A)
【文献】特開平05-317643(JP,A)
【文献】特開平04-290522(JP,A)
【文献】特開平03-267115(JP,A)
【文献】特開平07-116455(JP,A)
【文献】特開平05-007728(JP,A)
【文献】特開平06-319941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
B01D 53/14-53/18
F23J 13/00-99/00
B01J 10/00-12/02,14/00-19/32
G06N 3/00-3/12,7/08,10/00-10/80,20/00,99/00
G05B 1/00-7/04,11/00-13/04,17/00-17/02,21/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収塔と、
前記吸収塔内に吸収液を循環させるための少なくとも1つの循環ポンプと
を備え、
前記吸収塔内において、燃焼装置で発生した排ガスと前記吸収液とを気液接触させて脱硫を行う湿式排煙脱硫装置の制御方法であって、
前記燃焼装置の排ガスの流量を含む運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと、将来の吸収塔出口における二酸化硫黄濃度との関係について機械学習により第1学習モデルを構築するステップと、
前記第1学習モデルを用いて、第1時間における前記吸収液の循環流量と、前記第1時間よりも将来の時間である第2時間において前記吸収塔から流出する流出ガス中の二酸化硫黄濃度の予測値との間の第1関係テーブルを作成するステップと、
前記第1関係テーブルに基づいて、前記第2時間における前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度が予め設定された設定値以下となるような前記第1時間における前記吸収液の循環流量を決定するステップと、
前記第1時間において、前記決定された循環流量に基づいて前記少なくとも1つの循環ポンプの運転条件を調節するステップと
を含む湿式排煙脱硫装置の制御方法。
【請求項2】
前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データは、
任意の時間における前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度と、
前記第2時間から前記第1時間を差し引いた時間間隔だけ前記任意の時間よりも過去の時間における前記吸収液の循環流量と
を含む、請求項1に記載の湿式排煙脱硫装置の制御方法。
【請求項3】
湿式排煙脱硫装置は、前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度を測定するためのガス分析計をさらに備え、
前記第2時間において取得された前記ガス分析計による分析結果と、前記第2時間における前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度の前記予測値とを比較するステップをさらに含む、請求項1または2に記載の湿式排煙脱硫装置の制御方法。
【請求項4】
前記第1関係テーブルを作成後、前記分析結果と前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度の前記予測値との差に基づいて、前記燃焼装置の運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと、将来の吸収塔出口における二酸化硫黄濃度との関係について機械学習により前記第1学習モデルを再構築し、該再構築された第1学習モデルを用いて前記第1関係テーブルを作成するステップをさらに備える、請求項3に記載の湿式排煙脱硫装置の制御方法。
【請求項5】
前記湿式排煙脱硫装置は、前記吸収液に含まれる吸収剤のスラリーである吸収剤スラリーを前記吸収塔へ供給するための吸収剤スラリー供給部をさらに備え、
前記燃焼装置の排ガスの流量を含む運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと将来の吸収剤の濃度との関係について機械学習により第2学習モデルを構築するステップと、
前記第2学習モデルを用いて、第3時間における前記吸収塔への前記吸収剤スラリーの供給量と、前記第3時間よりも将来の時間である第4時間における前記吸収液中の前記吸収剤の濃度の予測値との間の第2関係テーブルを作成するステップと、
前記第2関係テーブルに基づいて、前記第4時間における前記吸収剤の濃度が予め設定された設定範囲内となるような前記第3時間における前記吸収剤スラリーの供給量を決定するステップと、
前記第3時間において、前記決定された吸収剤スラリーの供給量に基づいて前記吸収剤スラリー供給部を制御するステップと
をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の湿式排煙脱硫装置の制御方法。
【請求項6】
前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データは、
任意の時間における前記吸収剤の濃度と、
前記第4時間から前記第3時間を差し引いた時間間隔だけ前記任意の時間よりも過去の時間における前記吸収剤スラリーの供給量と
を含む、請求項5に記載の湿式排煙脱硫装置の制御方法。
【請求項7】
前記吸収剤の濃度は、マスバランス計算によるシミュレーションモデルを用いて算出される、請求項6に記載の湿式排煙脱硫装置の制御方法。
【請求項8】
前記第3時間から前記第4時間までの間隔は、前記第1時間から前記第2時間までの間隔よりも短い、請求項5~7のいずれか一項に記載の湿式排煙脱硫装置の制御方法。
【請求項9】
吸収塔と、
前記吸収塔内に吸収液を循環させるための少なくとも1つの循環ポンプと
を備え、
前記吸収塔内において、燃焼装置で発生した排ガスと前記吸収液とを気液接触させて脱硫を行う湿式排煙脱硫装置の制御装置であって、
前記燃焼装置の排ガスの流量を含む運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと、将来の吸収塔出口における二酸化硫黄濃度との関係について機械学習により学習モデルを構築する第1学習モデル構築部と、
前記学習モデルを用いて、第1時間における前記吸収液の循環流量と、前記第1時間よりも将来の時間である第2時間において前記吸収塔から流出する流出ガス中の二酸化硫黄濃度の予測値との間の第1関係テーブルを作成する第1関係テーブル作成部と、
前記第1関係テーブルに基づいて、前記第2時間における前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度が予め設定された設定値以下となるような前記第1時間における前記吸収液の循環流量を決定する循環流量決定部と、
前記第1時間において、前記決定された循環流量に基づいて前記少なくとも1つの循環ポンプの運転条件を調節する循環ポンプ調節部と
を含む湿式排煙脱硫装置の制御装置。
【請求項10】
前記湿式排煙脱硫装置は、前記吸収液に含まれる吸収剤のスラリーである吸収剤スラリーを前記吸収塔へ供給するための吸収剤スラリー供給部をさらに備え、
前記燃焼装置の排ガスの流量を含む運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと将来の吸収剤の濃度との関係について機械学習により第2学習モデルを構築する第2学習モデル構築部と、
前記第2学習モデルを用いて、第3時間における前記吸収塔への前記吸収剤スラリーの供給量と、前記第3時間よりも将来の時間である第4時間における前記吸収液中の前記吸収剤の濃度の予測値との間の第2関係テーブルを作成する第2関係テーブル作成部と
前記第2関係テーブルに基づいて、前記第4時間における前記吸収剤の濃度が予め設定された設定範囲内となるような前記第3時間における前記吸収剤スラリーの供給量を決定する吸収剤スラリー供給量決定部と、
前記第3時間において、前記決定された吸収剤スラリーの供給量に基づいて前記吸収剤スラリー供給部を制御する吸収剤スラリー供給制御部と
をさらに備える、請求項9に記載の湿式排煙脱硫装置の制御装置。
【請求項11】
請求項9または10に記載の湿式排煙脱硫装置の制御装置と、
前記湿式排煙脱硫装置の制御装置に電気的に接続された遠隔監視装置と
を備える遠隔監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、湿式排煙脱硫装置の制御方法、湿式排煙脱硫装置の制御装置、及びこの湿式排煙脱硫装置の制御装置を備えた遠隔監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
湿式排煙脱硫装置では、ボイラ等の燃焼装置で発生した排ガスを脱硫装置の吸収塔内に導入し、吸収塔を循環する吸収液と気液接触させる。気液接触の過程で、吸収液中の吸収剤(例えば、炭酸カルシウム)と排ガス中の二酸化硫黄(SO)とが反応することにより、排ガス中のSOは吸収液に吸収され、排ガスからSOが除去(排ガスが脱硫)される。一方、SOを吸収した吸収液は落下して、吸収塔下方の貯留タンク内に溜められる。貯留タンクには吸収剤が供給され、供給された吸収剤で吸収性能を回復した吸収液は循環ポンプによって吸収塔の上方に供給され、排ガスとの気液接触(SOの吸収)に供せられる。吸収液を循環させる循環ポンプは消費電力が大きいため、従来は、消費電力の抑制を目的として、吸収塔に流入する排ガスの流量と排ガス中のSO濃度等に基づいて必要となる吸収液の循環流量を計算し、循環ポンプの運転台数の制御が行われている。
【0003】
特許文献1の湿式排煙脱硫装置は、脱硫装置の運転モデルに基づいて脱硫装置の現在の脱硫性能を同定し、燃焼装置及び脱硫装置の運転データと燃焼装置の負荷要求信号とから、将来の運転データと吸収塔から流出する排ガス中の将来のSO濃度の予測値とを求め、将来のSO濃度の予測値に基づいて吸収液の循環流量を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2984933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の湿式排煙脱硫装置では、燃焼装置の負荷要求信号から線形回帰によって将来の運転データを予測し、この将来の運転データから将来のSO濃度を予測しているため予測性能が低いといった問題点があった。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、湿式排煙脱硫装置の吸収塔において吸収液を循環させるための循環ポンプの運転条件を適切に調節することができる湿式排煙脱硫装置の制御方法、湿式排煙脱硫装置の制御装置、及びこの湿式排煙脱硫装置の制御装置を備えた遠隔監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも1つの実施形態に係る湿式排煙脱硫装置の制御方法は、
吸収塔と、
前記吸収塔内に吸収液を循環させるための少なくとも1つの循環ポンプと
を備え、
前記吸収塔内において、燃焼装置で発生した排ガスと前記吸収液とを気液接触させて脱硫を行う湿式排煙脱硫装置の制御方法であって、
前記燃焼装置の排ガスの流量を含む運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと、将来の吸収塔出口における二酸化硫黄濃度との関係について機械学習により第1学習モデルを構築するステップと、
前記第1学習モデルを用いて、第1時間における前記吸収液の循環流量と、前記第1時間よりも将来の時間である第2時間において前記吸収塔から流出する流出ガス中の二酸化硫黄濃度の予測値との間の第1関係テーブルを作成するステップと、
前記第1関係テーブルに基づいて、前記第2時間における前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度が予め設定された設定値以下となるような前記第1時間における前記吸収液の循環流量を決定するステップと、
前記第1時間において、前記決定された循環流量に基づいて前記少なくとも1つの循環ポンプの運転条件を調節するステップと
を含む。
【0008】
上記(1)の方法によると、燃焼装置の運転データ及び湿式排煙脱硫装置の吸収液の循環流量を含む運転データから、第1時間における吸収液の循環流量と、第1時間よりも将来の時間である第2時間において吸収塔から流出する流出ガス中の二酸化硫黄濃度との間の第1関係テーブルを作成することにより、実際の運転データから将来の二酸化硫黄濃度を直接予測しているので、将来の二酸化硫黄濃度の予測性能を向上した第1関係テーブルを得ることができ、この第1関係テーブルに基づいて、第2時間における流出ガス中の二酸化硫黄濃度が予め設定された設定値以下となるような第1時間における吸収液の循環流量を決定して、第1時間において、決定された循環流量に基づいて少なくとも1つの循環ポンプの運転条件を調節するので、循環ポンプの運転条件を適切に調節することができる。
【0009】
また、上記(1)の方法によると、燃焼装置の運転データ及び湿式排煙脱硫装置の吸収液の循環流量を含む運転データと、将来の吸収塔出口における二酸化硫黄濃度との関係について機械学習により構築された第1学習モデルを用いて第1関係テーブルを作成するので、迅速に第1関係テーブルを作成することができる。
【0010】
(2)いくつかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データは、
任意の時間における前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度と、
前記第2時間から前記第1時間を差し引いた時間間隔だけ前記任意の時間よりも過去の時間における前記吸収液の循環流量と
を含む。
【0011】
上記(2)の方法によると、任意の時間における流出ガス中の二酸化硫黄濃度と、第2時間から第1時間を差し引いた時間間隔だけ任意の時間よりも過去の時間における吸収液の循環流量とを含む実際の運転データから将来の二酸化硫黄濃度を直接予測しているので、将来の二酸化硫黄濃度の予測性能を向上することができる。
【0012】
(3)いくつかの実施形態では、上記(1)または(2)の方法において、
湿式排煙脱硫装置は、前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度を測定するためのガス分析計をさらに備え、
前記第2時間において取得された前記ガス分析計による分析結果と、前記第2時間における前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度の前記予測値とを比較するステップをさらに含む。
【0013】
上記(3)の方法によると、ガス分析計による分析結果と二酸化硫黄濃度の予測値とが大きく乖離している場合には、プロセス中に何らかの異常が発生している可能性があるので、プロセス中の異常を早期に検出することができる。
【0014】
(4)いくつかの実施形態では、上記(3)の方法において、
前記第1関係テーブルを作成後、前記分析結果と前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度の前記予測値との差に基づいて、前記燃焼装置の運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと、将来の吸収塔出口における二酸化硫黄濃度との関係について機械学習により前記第1学習モデルを再構築し、該再構築された第1学習モデルを用いて前記第1関係テーブルを作成するステップをさらに備える。
【0015】
上記(4)の方法によると、ガス分析計による分析結果と流出ガス中の二酸化硫黄濃度の予測値との差が大きくなった場合には、燃焼装置の運転データ及び湿式排煙脱硫装置の吸収液の循環流量を含む運転データから機械学習により第1学習モデルを再構築し、再構築された第1学習モデルを用いて第1関係テーブルを作成し直すことにより、将来の二酸化硫黄濃度の予測性能をさらに向上した第1関係テーブルを得ることができる。
【0016】
(5)いくつかの実施形態では、上記(1)~(4)のいずれかの方法において、
前記湿式排煙脱硫装置は、前記吸収液に含まれる吸収剤のスラリーである吸収剤スラリーを前記吸収塔へ供給するための吸収剤スラリー供給部をさらに備え、
前記燃焼装置の排ガスの流量を含む運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと将来の吸収剤の濃度との関係について機械学習により第2学習モデルを構築するステップと、
前記第2学習モデルを用いて、第3時間における前記吸収塔への前記吸収剤スラリーの供給量と、前記第3時間よりも将来の時間である第4時間における前記吸収液中の前記吸収剤の濃度の予測値との間の第2関係テーブルを作成するステップと、
前記第2関係テーブルに基づいて、前記第4時間における前記吸収剤の濃度が予め設定された設定範囲内となるような前記第3時間における前記吸収剤スラリーの供給量を決定するステップと、
前記第3時間において、前記決定された吸収剤スラリーの供給量に基づいて前記吸収剤スラリー供給部を制御するステップと
をさらに備える。
【0017】
上記(5)の方法によると、燃焼装置の運転データ及び湿式排煙脱硫装置の吸収液の循環流量を含む運転データから、第3時間における吸収塔への吸収剤スラリーの供給量と、第3時間よりも将来の時間である第4時間における吸収液中の吸収剤の濃度との間の第2関係テーブルを作成することにより、実際の運転データから将来の吸収剤の濃度を直接予測しているので、将来の吸収剤の濃度の予測性能を向上した第2関係テーブルを得ることができ、この第2関係テーブルに基づいて、第4時間における吸収剤の濃度が予め設定された設定範囲内となるような第3時間における吸収剤スラリーの供給量を決定して、第3時間において、決定された吸収剤スラリーの供給量に基づいて吸収剤スラリー供給部を制御することにより、吸収剤の濃度の変動を抑制することができるので、吸収剤の過剰消費を抑えるとともに適切な循環流量で吸収液を循環することができる。
【0018】
また、上記(5)の方法によると、燃焼装置の運転データ及び湿式排煙脱硫装置の吸収液の循環流量を含む運転データと、将来の吸収剤の濃度との関係について機械学習により構築された第2学習モデルを用いて第2関係テーブルを作成するので、迅速に第2関係テーブルを作成することができる。
【0019】
(6)いくつかの実施形態では、上記(5)の方法において、
前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データは、
任意の時間における前記吸収剤の濃度と、
前記第4時間から前記第3時間を差し引いた時間間隔だけ前記任意の時間よりも過去の時間における前記吸収剤スラリーの供給量と
を含む。
【0020】
上記(6)の方法によると、任意の時間における吸収剤の濃度と、第4時間から第3時間を差し引いた時間間隔だけ任意の時間よりも過去の時間における吸収剤スラリーの供給量とを含む実際の運転データから将来の吸収剤の濃度を直接予測しているので、将来の吸収剤の濃度の予測性能を向上することができる。
【0021】
(7)いくつかの実施形態では、上記(6)の方法において、
前記吸収剤の濃度は、マスバランス計算によるシミュレーションモデルを用いて算出される。
【0022】
吸収剤の濃度を検出するためのセンサーは一般的に高価であるため、このようなセンサーを設けると湿式排煙脱硫装置のコストが上昇してしまう。しかし、上記(7)の方法によると、マスバランス計算によるシミュレーションモデルを用いて吸収剤の濃度を算出できるので、高価なセンサーが不要になり、湿式排煙脱硫装置のコストの上昇を抑制することができる。
【0023】
(8)いくつかの実施形態では、上記(5)~(7)のいずれかの方法において、
前記第3時間から前記第4時間までの間隔は、前記第1時間から前記第2時間までの間隔よりも短い。
【0024】
流出ガス中の二酸化硫黄濃度の変化は、吸収液循環流量増加、排ガスとの気液接触、二酸化硫黄濃度の低下という順序のように、複数のステップを経るのに対して、吸収剤の濃度の変化は、吸収剤スラリーの供給、吸収剤濃度の増加という順序のように、必要なステップ数が少ない。そのため、吸収剤の濃度の制御に比べて二酸化硫黄濃度の制御の遅れが大きい。しかし、上記(8)の方法によると、第3時間から第4時間までの時間を、第1時間から第2時間までの時間よりも短くすることで、制御遅れの影響を適切に考慮することができるので、将来の吸収剤の濃度の予測性能をさらに向上することができる。
【0025】
(9)本発明の少なくとも1つの実施形態に係る湿式排煙脱硫装置の制御装置は、
吸収塔と、
前記吸収塔内に吸収液を循環させるための少なくとも1つの循環ポンプと
を備え、
前記吸収塔内において、燃焼装置で発生した排ガスと前記吸収液とを気液接触させて脱硫を行う湿式排煙脱硫装置の制御装置であって、
前記燃焼装置の排ガスの流量を含む運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと、将来の吸収塔出口における二酸化硫黄濃度との関係について機械学習により学習モデルを構築する第1学習モデル構築部と、
前記学習モデルを用いて、第1時間における前記吸収液の循環流量と、前記第1時間よりも将来の時間である第2時間において前記吸収塔から流出する流出ガス中の二酸化硫黄濃度の予測値との間の第1関係テーブルを作成する第1関係テーブル作成部と、
前記第1関係テーブルに基づいて、前記第2時間における前記流出ガス中の二酸化硫黄濃度が予め設定された設定値以下となるような前記第1時間における前記吸収液の循環流量を決定する循環流量決定部と、
前記第1時間において、前記決定された循環流量に基づいて前記少なくとも1つの循環ポンプの運転条件を調節する循環ポンプ調節部と
を含む。
【0026】
上記(9)の構成によると、燃焼装置の運転データ及び湿式排煙脱硫装置の吸収液の循環流量を含む運転データから、第1時間における吸収液の循環流量と、第1時間よりも将来の時間である第2時間において吸収塔から流出する流出ガス中の二酸化硫黄濃度との間の第1関係テーブルを作成することにより、実際の運転データから将来の二酸化硫黄濃度を直接予測しているので、将来の二酸化硫黄濃度の予測性能を向上した第1関係テーブルを得ることができ、この第1関係テーブルに基づいて、第2時間における流出ガス中の二酸化硫黄濃度が予め設定された設定値以下となるような第1時間における吸収液の循環流量を決定して、第1時間において、決定された循環流量に基づいて少なくとも1つの循環ポンプの運転条件を調節するので、循環ポンプの運転条件を適切に調節することができる。
【0027】
(10)いくつかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記湿式排煙脱硫装置は、前記吸収液に含まれる吸収剤のスラリーである吸収剤スラリーを前記吸収塔へ供給するための吸収剤スラリー供給部をさらに備え、
前記燃焼装置の排ガスの流量を含む運転データ及び前記湿式排煙脱硫装置の前記吸収液の循環流量を含む運転データと将来の吸収剤の濃度との関係について機械学習により第2学習モデルを構築する第2学習モデル構築部と、
前記第2学習モデルを用いて、第3時間における前記吸収塔への前記吸収剤スラリーの供給量と、前記第3時間よりも将来の時間である第4時間における前記吸収液中の前記吸収剤の濃度の予測値との間の第2関係テーブルを作成する第2関係テーブル作成部と、
前記第2関係テーブルに基づいて、前記第4時間における前記吸収剤の濃度が予め設定された設定範囲内となるような前記第3時間における前記吸収剤スラリーの供給量を決定する吸収剤スラリー供給量決定部と、
前記第3時間において、前記決定された吸収剤スラリーの供給量に基づいて前記吸収剤スラリー供給部を制御する吸収剤スラリー供給制御部と
をさらに備える。
【0028】
上記(10)の構成によると、燃焼装置の運転データ及び湿式排煙脱硫装置の吸収液の循環流量を含む運転データから、第3時間における吸収塔への吸収剤スラリーの供給量と、第3時間よりも将来の時間である第4時間における吸収液中の吸収剤の濃度との間の第2関係テーブルを作成することにより、実際の運転データから将来の吸収剤の濃度を直接予測しているので、将来の吸収剤の濃度の予測性能を向上した第2関係テーブルを得ることができ、この第2関係テーブルに基づいて、第4時間における吸収剤の濃度が予め設定された設定範囲内となるような第3時間における吸収剤スラリーの供給量を決定して、第3時間において、決定された吸収剤スラリーの供給量に基づいて吸収剤スラリー供給部を制御することにより、吸収剤の濃度の変動を抑制することができるので、吸収剤の過剰消費を抑えるとともに適切な循環流量で吸収液を循環することができる。
【0029】
(11)本発明の少なくとも1つの実施形態に係る遠隔監視システムは、
上記(9)または(10)のいずれかの湿式排煙脱硫装置の制御装置と、
前記湿式排煙脱硫装置の制御装置に電気的に接続された遠隔監視装置と
を備える。
【0030】
上記(11)の構成によると、湿式排煙脱硫装置の制御状態を遠隔監視することができる。
【発明の効果】
【0031】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、燃焼装置の運転データ及び湿式排煙脱硫装置の吸収液の循環流量を含む運転データから、第1時間における吸収液の循環流量と、第1時間よりも将来の時間である第2時間において吸収塔から流出する流出ガス中の二酸化硫黄濃度との間の第1関係テーブルを作成することにより、実際の運転データから将来の二酸化硫黄濃度を直接予測しているので、将来の二酸化硫黄濃度の予測性能を向上した第1関係テーブルを得ることができ、この第1関係テーブルに基づいて、第2時間における流出ガス中の二酸化硫黄濃度が予め設定された設定値以下となるような第1時間における吸収液の循環流量を決定して、第1時間において、決定された循環流量に基づいて少なくとも1つの循環ポンプの運転条件を調節するので、循環ポンプの運転条件を適切に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本開示の一実施形態に係る湿式排煙脱硫装置の制御装置を含む湿式排煙脱硫装置の構成模式図である。
図2】本開示の一実施形態に係る遠隔監視システムの構成模式図である。
図3】本開示の一実施形態に係る湿式排煙脱硫装置の制御方法のフローチャートである。
図4】流出ガス中のSO濃度の予測値と、ガス分析計によるSO濃度の測定値と、SO濃度の予測値の真値とのそれぞれの推移を示すグラフである。
図5】本開示の一実施形態に係る湿式排煙脱硫装置の制御方法において作成される第1関係テーブルの一例を模式的に示す図である。
図6】本開示の一実施形態に係る湿式排煙脱硫装置の制御方法において作成される第2関係テーブルの一例を模式的に示す図である。
図7】本開示の一実施形態に係る湿式排煙脱硫装置の制御装置の変形例の構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0034】
図1に示されるように、湿式排煙脱硫装置10は、ボイラ等の燃焼装置1で発生した排ガスを脱硫するためのものである。湿式排煙脱硫装置10は、燃焼装置1と配管2を介して連通する吸収塔11と、吸収塔11内を循環する吸収液の循環用配管3に設けられた複数(例えば3つ)の循環ポンプ12a,12b,12cと、吸収液に含まれる吸収剤である炭酸カルシウム(CaCO)のスラリー(吸収剤スラリー)を吸収塔11内に供給するための吸収剤スラリー供給部13と、吸収液中の石膏を回収するための石膏回収部14とを備えている。吸収塔11には、後述する動作で脱硫された排ガスが吸収塔11から流出ガスとして流出するための流出配管16が設けられ、流出配管16には、流出ガス中のSO濃度を測定するためのガス分析計17が設けられている。
【0035】
吸収剤スラリー供給部13は、吸収剤スラリーを製造するための吸収剤スラリー製造設備21と、吸収剤スラリー製造設備21と吸収塔11とを連通する吸収剤スラリー供給用配管22と、吸収剤スラリー供給用配管22を流通する吸収剤スラリーの流量を制御するための吸収剤スラリー供給量制御弁23とを備えている。石膏回収部14は、石膏分離器25と、石膏分離器25と吸収塔11とを連通する石膏スラリー抜き出し用配管26と、石膏スラリー抜き出し用配管26に設けられた石膏スラリー抜き出し用ポンプ27とを備えている。
【0036】
湿式排煙脱硫装置10には、湿式排煙脱硫装置10の制御装置15が設けられている。制御装置15は、燃焼装置1及び湿式排煙脱硫装置10の各種運転データ(例えば、様々な部位における温度や圧力、各種流体の流量等)を取得するための種々の検出器を含む運転データ取得部20と電気的に接続された運転データ受信部30を備えている。運転データ取得部20には、ガス分析計17が含まれている。
【0037】
制御装置15は、運転データ受信部30に電気的に接続された第1学習モデル構築部38と、第1学習モデル構築部38に電気的に接続された第1関係テーブル作成部31と、第1関係テーブル作成部31に電気的に接続された循環流量決定部32と、循環流量決定部32に電気的に接続された循環ポンプ調節部33とを備えている。循環ポンプ調節部33は、循環ポンプ12a,12b,12cのそれぞれに電気的に接続されている。
【0038】
制御装置15はさらに、運転データ受信部30に電気的に接続された第2学習モデル構築部39と、第2学習モデル構築部39に電気的に接続された第2関係テーブル作成部35と、第2関係テーブル作成部35に電気的に接続された吸収剤スラリー供給量決定部36と、吸収剤スラリー供給量決定部36に電気的に接続された吸収剤スラリー供給制御部37とを備えている。吸収剤スラリー供給制御部37は、吸収剤スラリー供給量制御弁23に電気的に接続されている。
【0039】
図2には、湿式排煙脱硫装置10(図1参照)の制御状態を遠隔監視する遠隔監視システム40の構成を示している。遠隔監視システム40は、燃焼装置1(図1参照)及び湿式排煙脱硫装置10(図1参照)を構成する各機器の分散制御システム(DCS)41と、DCS41に電気的に接続されるとともに制御装置15を搭載したエッジサーバー42と、クラウド又はバーチャルプライベートネットワーク(VPN)を介してエッジサーバー42に電気的に接続されたデスクトップパソコンやタブレット型コンピュータ等のような遠隔監視装置43とを備えている。通常はエッジサーバー42から離れた場所に存在する遠隔監視装置43によって、湿式排煙脱硫装置10の制御状態を遠隔監視することができる。
【0040】
次に、燃焼装置1で発生した排ガスを湿式排煙脱硫装置10が脱硫する動作について説明する。
図1に示されるように、燃焼装置1で発生した排ガスは、配管2を流通して吸収塔11に流入し、吸収塔11内を上昇する。循環ポンプ12a~12cの少なくとも1台が稼働することによって吸収液が循環用配管3を流通して吸収塔11に流入し、吸収塔11内において吸収液が流下する。吸収塔11内で流下した吸収液は、吸収塔11内に溜まり、循環ポンプ12a~12cによって吸収塔11から流出し、循環用配管3を流通する。このようにして、吸収液は吸収塔11内を循環する。
【0041】
吸収塔11内では、上昇する排ガスと流下する吸収液とが気液接触する。排ガスに含まれるSOは、以下の反応式
SO+CaCO+2HO+1/2O→CaSO・2HO+CO
のように、吸収液中のCaCOと反応して、石膏(CaSO・2HO)が吸収液中に析出する。
【0042】
このようにして、排ガス中のSOの一部が吸収液中に石膏として除去されるので、すなわち排ガスが脱硫されるので、流出配管16を介して吸収塔11から流出する流出ガス中のSO濃度は、配管2を介して吸収塔11に流入する排ガス中のSO濃度よりも低くなっている。吸収塔11から流出した流出ガスは、流出配管16を流通して大気中に放出されるが、その途中でガス分析計17によってSO濃度が測定され、その測定結果が制御装置15の運転データ受信部30に伝送される。
【0043】
流出ガス中のSO濃度は、吸収液中のCaCO濃度に大きな変動がなければ、吸収塔11内を循環する吸収液の循環流量が増加するほど低下する傾向がある。後述する制御方法によって制御装置15が循環ポンプ12a~12cの稼働台数を制御することで循環流量を制御することにより、流出ガス中のSO濃度を制御すること、例えば予め設定された設定値以下となるように流出ガス中のSO濃度を制御することができる。
【0044】
吸収塔11内で吸収液中に析出した石膏は、石膏スラリーとして石膏スラリー抜き出し用ポンプ27によって吸収塔11から抜き出され、石膏スラリーは、石膏スラリー抜き出し用配管26を流通して石膏分離器25に流入する。石膏分離器25において石膏と水とが分離されて、石膏は回収され、水は、図示しない排水設備に送られる。
【0045】
吸収液中のCaCOは、SOと反応して石膏となるので、排ガスの脱硫が行われるに従い、吸収液中のCaCO濃度は低下する。後述する制御方法によって制御装置15は吸収剤スラリー供給量制御弁23の開度を制御し、吸収剤スラリー製造設備21で製造された吸収剤スラリーを、吸収剤スラリー供給用配管22を介して吸収塔11内に供給する。これにより、吸収液中のCaCO濃度が予め設定された設定範囲内となり、排ガスの脱硫中におけるCaCO濃度の大きな変動が抑制される。
【0046】
次に、制御装置15による湿式排煙脱硫装置10の制御方法について説明する。
図3に、制御装置15による湿式排煙脱硫装置10の制御方法の概略を示す。ステップS1において燃焼装置1及び湿式排煙脱硫装置10の各種運転データを収集した後、ステップS2において、各種運転データと、吸収塔11から流出する流出ガス中の将来のSO濃度との関係について機械学習により第1学習モデルを構築する。次に、ステップS3において、構築された第1学習モデルを用いて、後述する第1関係テーブルを作成する。続くステップS4において、第1関係テーブルに基づいて、流出ガス中のSO濃度が予め設定された設定値以下となる吸収液の循環流量を決定し、ステップS5において、決定された循環流量に基づいて循環ポンプ12a~12cの運転条件を調節する。これにより、予め設定された設定値以下となるように流出ガス中のSO濃度が制御される。
【0047】
また、ステップS1の後、ステップS2~S5とは別に、ステップS12において、各種運転データと、吸収液中の将来のCaCO濃度との関係について機械学習により第2学習モデルを構築する。次に、ステップS13において、構築された第2学習モデルを用いて、後述する第2関係テーブルを作成する。続くステップS14において、第2関係テーブルに基づいて、CaCO濃度が予め設定された設定範囲内となる吸収剤スラリーの供給量を決定し、ステップS15において、吸収剤スラリー供給部13を制御すること、すなわち吸収剤スラリー供給量制御弁23の開度を制御することにより、決定された供給量で吸収剤スラリーを吸収塔11内に供給する。これにより、吸収液中のCaCO濃度が予め設定された設定範囲内となり、排ガスの脱硫中におけるCaCO濃度の大きな変動が抑制される。
【0048】
次に、制御装置15による湿式排煙脱硫装置10の制御方法の各ステップについて詳細に説明する。
ステップS1では、図1に示されるように、燃焼装置1及び湿式排煙脱硫装置10の各種運転データを運転データ取得部20が取得した後、取得された各種運転データが制御装置15に伝送されて運転データ受信部30が受信することで、制御装置15が各種運転データを収集する。前述したように、運転データ取得部20はガス分析計17を含んでいるので、各種運転データは流出ガス中のSO濃度を含んでいる。
【0049】
ステップS2では、第1学習モデル構築部38は、制御装置15が収集した各種運転と、流出ガス中の将来のSO濃度との関係について機械学習により第1モデルを構築する。ステップS3では、構築された第1学習モデルを用いて、第1関係テーブル作成部31は、第1時間における吸収液の循環流量と、第1時間よりも将来の時間である第2時間において流出ガス中のSO濃度の予測値との相関である第1関係テーブルを作成する。機械学習により構築された第1学習モデルを用いて第1関係テーブルを作成するので、迅速に第1関係テーブルを作成することができる。
【0050】
第1関係テーブルにおいて、吸収液の循環流量と流出ガス中のSO濃度の予測値とは時間が異なり、吸収液の循環流量を現在の値とすると、流出ガス中のSO濃度の予測値は、例えば現在から数分後のSO濃度の予測値となる。このため、各種運転データには少なくとも、任意の時間における流出ガス中のSO濃度と、第2時間から第1時間を差し引いた時間間隔だけ任意の時間よりも過去の時間における吸収液の循環流量とが含まれている。任意の時間における流出ガス中のSO濃度と、第2時間から第1時間を差し引いた時間間隔だけ任意の時間よりも過去の時間における吸収液の循環流量とを含む実際の運転データから将来のSO濃度を直接予測しているので、将来のSO濃度の予測性能を向上することができる。尚、第1時間と第2時間との間隔が短いほど、将来のSO濃度の予測性能は向上する。このため、第1時間と第2時間との間隔は、吸収液の循環流量の変化に起因して流出ガス中のSO濃度が変化するまでに要する時間と、ガス分析計17がSO濃度を測定するのに要する時間との和とすることが好ましい。
【0051】
図4には、第1時間と第2時間との間隔を、吸収液の循環流量の変化に起因して流出ガス中のSO濃度が変化するまでに要する時間と、ガス分析計17がSO濃度を測定するのに要する時間との和とした場合における、SO濃度の予測値の推移(a)と、ガス分析計17によるSO濃度の測定値の推移(b)と、SO濃度の真値の推移(c)とを示している。それぞれのグラフにおいて、右側ほど過去の値であり、一番左側が最新値である。ガス分析計17によるSO濃度の測定値の最新値は第1時間における値であり、SO濃度の予測値の最新値は第2時間における値である。ガス分析計17によるSO濃度の測定値の最新値と、SO濃度の真値の最新値との間隔(i)が、ガス分析計17がSO濃度を測定するのに要する時間、すなわち計測遅れに相当し、SO濃度の真値の最新値と、SO濃度の予測値の最新値との間隔(ii)が、吸収液の循環流量の変化に起因して流出ガス中のSO濃度が変化するまでに要する時間に相当する。
【0052】
図5に、第1関係テーブルの一例を示す。この実施形態では第1関係テーブルは、横軸に流出ガス中のSO濃度の予測値をとるとともに縦軸に吸収液の循環流量をとったグラフとして表されているが、必ずしもこのような形態である必要はなく、マトリックスや数式等の形態であってもよい。ステップS4では、循環流量決定部32は、この第1関係テーブルに基づいて、将来における流出ガス中のSO濃度が予め設定された設定値SVとなる吸収液の循環流量Qを決定する。
【0053】
ステップS5では、図1に示されるように、循環ポンプ調節部33は、決定された循環流量Q以上になるように循環ポンプ12a~12cの稼働台数を決定し、決定された稼働台数の循環ポンプが稼働するようにする。例えば、3台の循環ポンプ12a~12cそれぞれの稼働時の供給量が同じ場合には、3段階の循環流量の調節が可能である。循環ポンプの台数を増やせば、より細かな循環流量の調節が可能となる。また、例えば、3台の循環ポンプ12a~12cそれぞれの稼働時の供給量が互いに異なる場合には、稼働させる循環ポンプの組み合わせによって最大6段階の循環流量の調節が可能である。さらに、例えば、3台の循環ポンプ12a~12cそれぞれが供給量を調節可能であれば、より細かな循環流量の調節が可能となる。
【0054】
尚、循環流量の調節は、循環ポンプの台数制御によって行うことに限定するものではない。供給量を調節可能な1台の循環ポンプを用いて、循環流量決定部32によって決定された循環流量となるように循環ポンプの供給量を調節するようにしてもよい。
【0055】
このように、吸収塔11内を循環する吸収液の循環流量を調節することにより、将来における流出ガス中のSO濃度が予め設定された設定値以下となるように制御することができるが、このためには、吸収液中のCaCO濃度に大きな変動がないことが必要である。このため、この実施形態では、前述したように、ステップS2~S5とは別に、ステップS12~S15によって、吸収液中のCaCO濃度が予め設定された設定範囲内となるように制御している。次に、ステップS12~S15それぞれを詳細に説明する。
【0056】
ステップS12では、第2学習モデル構築部39は、制御装置15が収集した各種運転データと、吸収塔11内の吸収液中の将来のCaCO濃度との関係について機械学習により第2学習モデルを構築する。ステップS13では、構築された第2学習モデルを用いて、第2関係テーブル作成部35は、第3時間における吸収塔11への吸収剤スラリーの供給量と、第3時間よりも将来の時間である第4時間におけるCaCO濃度の予測値との相関である第2関係テーブルを作成する。機械学習により構築された第2学習モデルを用いて第2関係テーブルを作成するので、迅速に第2関係テーブルを作成することができる。
【0057】
第2関係テーブルにおいて、吸収塔11への吸収剤スラリーの供給量とCaCO濃度の予測値とは時間が異なり、吸収剤スラリーの供給量を現在の値とすると、CaCO濃度の予測値は、例えば現在から数分後のCaCO濃度の予測値となる。このため、各種運転データには少なくとも、任意の時間におけるCaCO濃度と、第4時間から第3時間を差し引いた時間間隔だけ前記任意の時間よりも過去の時間における吸収剤スラリーの供給量とが含まれている。任意の時間におけるCaCO濃度と、第4時間から第3時間を差し引いた時間間隔だけ前記任意の時間よりも過去の時間における吸収剤スラリーの供給量とを含む実際の運転データから将来のCaCO濃度を直接予測しているので、将来のCaCO濃度の予測性能を向上することができる。
【0058】
この実施形態では、任意の時間におけるCaCO濃度は、マスバランス計算によるシミュレーションモデルを用いて算出された値を用いている。CaCO濃度を検出するためのセンサーは一般的に高価であるため、このようなセンサーを設けると湿式排煙脱硫装置10のコストが上昇してしまう。しかし、マスバランス計算によるシミュレーションモデルを用いてCaCO濃度を算出するようにすれば、高価なセンサーが不要になり、湿式排煙脱硫装置10のコストの上昇を抑制することができる。
【0059】
尚、第3時間と第4時間との間隔が短いほど、将来のCaCO濃度の予測性能は向上する。このため、第3時間と第4時間との間隔は、吸収剤スラリーの供給量の変化に起因してCaCO濃度が変化するまでに要する時間とすることが好ましい。吸収剤スラリーの供給量の予測値の推移及び真値の推移はそれぞれ、図4のSO濃度の予測値の推移(a)及び真値の推移(c)と同様の関係になる。この実施形態では、CaCO濃度はマスバランス計算によるシミュレーションモデルを用いて算出しているが、CaCO濃度をセンサーによって測定する場合には、吸収剤スラリーの供給量の予測値の推移とセンサーによる測定値の推移と真値の推移とはそれぞれ、図4のSO濃度の各種推移(a)~(c)と同様の関係になる。
【0060】
一般に、吸収塔11から流出する流出ガス中のSO濃度が変化するのに必要なステップ数は、CaCO濃度が変化するのに必要なステップ数に比べて多いため、CaCO濃度の制御に比べてSO濃度の制御の遅れが大きい。このため、第3時間から第4時間までの時間を、第1時間から第2時間までの時間よりも短くすることで、制御遅れの影響を適切に考慮することができるので、将来のCaCO濃度の予測性能をさらに向上することができる。
【0061】
図6に、第2関係テーブルの一例を示す。この実施形態では第2関係テーブルは、横軸にCaCO濃度の予測値をとるとともに縦軸に吸収剤スラリーの供給量をとったグラフとして表されているが、必ずしもこのような形態である必要はなく、マトリックスや数式等の形態であってもよい。ステップS14では、吸収剤スラリー供給量決定部36は、この第2関係テーブルに基づいて、将来におけるCaCO濃度が予め設定された設定範囲R内となる吸収剤スラリーの供給量Fを決定する。
【0062】
ステップS15では、図1に示されるように、吸収剤スラリー供給制御部37は、吸収剤スラリー供給用配管22を介して吸収塔11内に供給される吸収剤スラリーの供給量が、決定された吸収剤スラリーの供給量Fに近くなるように、吸収剤スラリー供給量制御弁23の開度を制御する。このように、吸収塔11への吸収剤スラリーの供給量を調節することにより、将来におけるCaCO濃度が予め設定された設定範囲内となるように制御することができる。
【0063】
このように、燃焼装置1の運転データ及び湿式排煙脱硫装置10の吸収液の循環流量を含む運転データから、第1時間における吸収液の循環流量と、第1時間よりも将来の時間である第2時間において吸収塔11から流出する流出ガス中のSO濃度との間の第1関係テーブルを作成することにより、実際の運転データから将来のSO濃度を直接予測しているので、将来のSO濃度の予測性能を向上した第1関係テーブルを得ることができ、この第1関係テーブルに基づいて、第2時間における流出ガス中のSO濃度が予め設定された設定値以下となるような第1時間における吸収液の循環流量を決定して、第1時間において、決定された循環流量に基づいて循環ポンプ12a~12cの運転条件を調節するので、循環ポンプ12a~12cの運転条件を適切に調節することができる。
【0064】
この実施形態では、ステップS12~S15によって吸収液中のCaCO濃度が予め設定された設定範囲内となるようにしているが、例えば、吸収液中のCaCO濃度をセンサーによって実測し、この実測値に基づいて吸収塔11への吸収剤スラリーの供給量を随時調節するようにしておけば、ステップS12~S15の各ステップを不要にすることができる。この場合、制御装置15は、第2学習モデル構築部39と第2関係テーブル作成部35と吸収剤スラリー供給量決定部36と吸収剤スラリー供給制御部37とを備えていなくてもよい。
【0065】
制御装置15は、図7に示されるように、運転データ受信部30及び第1関係テーブル作成部31のそれぞれと電気的に接続された比較部34を備え、比較部34は、第1関係テーブルを作成後、第2時間において取得されたガス分析計17による分析結果と第2時間における流出ガス中のSO濃度の予測値との差が、例えば予め設定した閾値以上となったら、各種運転データと流出ガス中の将来のSO濃度との関係について機械学習により第1学習モデルを再構築し、再構築された第1学習モデルを用いて第1関係テーブルを作成し直すようにしてもよい。これにより、将来のSO濃度の予測性能をさらに向上した第1関係テーブルを得ることができる。
【0066】
また、図7の構成において、第1関係テーブルを作成後、第2時間において取得されたガス分析計17による分析結果と第2時間における流出ガス中のSO濃度の予測値との差が閾値以上となる場合には、プロセス中に何らかの異常が発生している可能性がある。この場合、その可能性を知らせる警報等を、例えば遠隔監視装置43(図2参照)に表示することにより、プロセス中の異常を早期に検出することができる。
【0067】
この実施形態では、SOの吸収剤としてCaCOを用いているが、CaCOに限定するものではない。SOの吸収剤として、例えば水酸化マグネシウム(Mg(OH))等を用いることもできる。
【符号の説明】
【0068】
1 燃焼装置
2 配管
3 循環用配管
10 湿式排煙脱硫装置
11 吸収塔
12a 循環ポンプ
12b 循環ポンプ
12c 循環ポンプ
13 吸収剤スラリー供給部
14 石膏回収部
15 制御装置
16 流出配管
17 ガス分析計
21 吸収剤スラリー製造設備
22 吸収剤スラリー供給用配管
23 吸収剤スラリー供給量制御弁
25 石膏分離器
26 石膏スラリー抜き出し用配管
27 石膏スラリー抜き出し用ポンプ
30 運転データ受信部
31 第1関係テーブル作成部
32 循環流量決定部
33 循環ポンプ調節部
34 比較部
35 第2関係テーブル作成部
36 吸収剤スラリー供給量決定部
37 吸収剤スラリー供給制御部
38 第1学習モデル構築部
39 第2学習モデル構築部
40 遠隔監視システム
41 分散制御システム(DCS)
42 エッジサーバー
43 遠隔監視装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7