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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20221213BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20221213BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20221213BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20221213BHJP
【FI】
B60L15/20 J ZHV
B60K6/445
B60W10/08 900
B60W20/15
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018147519
(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公開番号】P2020025376
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 新始
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 基正
(72)【発明者】
【氏名】加藤 春哉
(72)【発明者】
【氏名】牟田 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】森崎 啓介
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-100055(JP,A)
【文献】特開2007-244070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータからの出力が要求される要求トルクと、振動を抑制するための制振トルクと、の和のトルクが前記モータから出力されるように前記モータを制御する制御装置と、
を備える電動車両であって、
前記制御装置は、前記モータの回転角速度と駆動輪の回転角速度との差に、前記電動車両の前後加速度の変動の周波数スペクトルにおいてピーク値となる第1周波数と前記モータの回転速度の変動の周波数スペクトルにおいてピーク値となる第2周波数とを用いて設定される制御ゲイン、を乗じて前記制振トルクを設定する、
電動車両。
【請求項2】
請求項記載の電動車両であって、
前記制御装置は、前記第1周波数と前記第2周波数とが一致しているときには、一致していないときに比して、前記制御ゲインを大きくする
電動車両。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動車両であって、
前記制御装置は、走行に要求される走行要求トルクに向けてトルク変化率で変化するように前記要求トルクを設定し、
前記制御装置は、前記第1周波数と前記第2周波数とが一致しないときには、一致しているときに比して、前記トルク変化率を小さくする
電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動車両としては、モータ(電動モータ)を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、モータの回転速度から所定の高周波の振動成分を抽出し、振動成分に応じて車両の振動を抑制するための制振トルク(制振制御トルク)を演算する。そして、走行に要求される要求トルクと、制振トルクと、の和のトルクが出力されるようにモータを制御する。これにより、車両の振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-56965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の電動車両では、車両の加速状態によっては、車両の各部位で共振が発生し、その共振が様々な伝達経路から車体に伝達し、車両の前後加速度が複雑な変動波形になってしまう。そのため、モータの回転速度に基づいて演算した制振トルクで車両の振動を抑制しようとしても、十分に振動を抑制できない場合がある。
【0005】
本発明の電動車両は、車両の振動をより抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動車両は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電動車両は、
モータと、
前記モータからの出力が要求される要求トルクと、前記車両の振動を抑制するための制振トルクと、の和のトルクが前記モータから出力されるように前記モータを制御する制御装置と、
を備える電動車両であって、
前記制御装置は、前記電動車両の前後加速度と、前記モータの回転速度と、を用いて前記制振トルクを設定する、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の電動車両では、電動車両の加速度と、モータの回転速度と、を用いて制振トルクを設定する。電動車両は、各部位の共振により様々な振動が生じる。発明者は、どの部位が共振するかに応じて、車両の前後加速度の変動が大きくなる場合や、モータの回転速度が大きくなる場合があることを見出した。本発明はこうした見識に基づくものであり、車両の加速度と、モータの回転速度と、を用いて制振トルクを設定することにより、モータの回転速度のみを用いて制振トルクを設定するものに比して、車両の振動をより抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の電動車両において、前記制御装置は、前記モータの回転角速度と駆動輪の回転角速度との差に制御ゲインを乗じて前記制振トルクを設定し、前記車両の前後加速度の変動の周波数スペクトルにおいてピーク値となる第1周波数と、前記モータの回転速度の変動の周波数スペクトルにおいてピーク値となる第2周波数と、を用いて前記制御ゲインを設定してもよい。こうすれば、車両の前後加速度の変動とモータの回転速度の変動とに基づいて適正に制御ゲインを設定することができ、ひいては適正に制振トルクを設定することができる。この場合において、前記制御装置は、前記第1周波数と前記第2周波数とが一致しているときには、前記制御ゲインを大きくしてもよい。ここで、「第1周波数と第2周波数とが一致する」とは、第1周波数と第2周波数とが同一であることと、第1周波数と第2周波数とが微差でほぼ同一とみなすことができることと、を含んでいる。車両の前後加速度は、車両の各部位の共振により影響を受けて変動する。モータの回転速度は、モータを含む駆動系の共振により影響を受けて変動する。第2周波数は、モータを含む駆動系の共振周波数であることから、第1周波数と第2周波数とが一致しているときには、一致していない場合に比して制御ゲインを大きくすることにより、制振トルクを大きくすることができる。これにより、車両の振動を抑制することができる。さらに、前記制御装置は、前記第1周波数と前記第2周波数とが一致していないときには、前記要求トルクの変化率を小さくしてもよい。第1周波数と第2周波数とが一致していないときには、モータを含む駆動系とは異なる部位の共振により車両の前後加速度の変動が生じており、制御ゲインを変更しても振動の抑制は小さいと考えられる。そのため、第1周波数と第2周波数とが一致していないときには、要求トルクの変化率を小さくすることにより、車両への加振力を小さくして、車両の振動を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の電動車両において、前記電動車両の車体と駆動輪とを連結するサスペンション機構を備えていてもよい。
【0011】
さらに、本発明の電動車両において、エンジンと、第1モータと、前記モータとしての第2モータと、3軸のうちの1軸がダンパを介して前記エンジンのクランクシャフトに接続されると共に3軸のうちの2軸が前記第1,第2モータの回転子に連結されるプラネタリギヤと、を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例のハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】サスペンション機構90の配置の概略を示す平面図である。
図3】サスペンション機構90が駆動輪38a,38bと車体Bとの間に取り付けられている様子を説明するための説明図である。
図4】HVECU70により実行される加速要求時処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図5】制振制御を実行している期間におけるトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示す説明図である。
図6】前後加速度Aの周波数スペクトルの一例を示す説明図である。
図7】制御ゲインkvを初期値としたときのモータMG2のトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示している。
図8】ステップS130で制御ゲインkvを初期値より大きくしたときのモータMG2のトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示している。
図9】トルク変化率dTm2を初期値としたときのモータMG2のトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示している。
図10】ステップS150でトルク変化率dTm2を初期値より小さくしたときのモータMG2のトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0014】
図1は、本発明の実施例のハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。図2は、サスペンション機構90の配置の概略を示す平面図である。図3は、サスペンション機構90が駆動輪38a,38bと車体Bとの間に取り付けられている様子を説明するための説明図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図1図3に示すように、エンジン22と、プラネタリギヤ30と、モータMG1,MG2と、インバータ41,42と、バッテリ50と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70と、サスペンション機構90と、を備える。
【0015】
エンジン22は、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力する内燃機関として構成されている。このエンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24によって運転制御されている。
【0016】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM,データを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。エンジンECU24には、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートから入力されている。エンジンECU24に入力される信号としては、例えば、エンジン22のクランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ23からのクランク角θcrや、スロットルバルブのポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサからのスロットル開度THなどを挙げることができる。エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。エンジンECU24から出力される信号としては、例えば、スロットルバルブのポジションを調節するスロットルモータへの駆動制御信号や、燃料噴射弁への駆動制御信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイルへの駆動制御信号などを挙げることができる。エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されており、HVECU70からの制御信号によってエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。エンジンECU24は、クランクポジションセンサ23からのクランク角θcrに基づいて、クランクシャフト26の回転数、即ち、エンジン22の回転数Neを演算している。
【0017】
プラネタリギヤ30は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されている。プラネタリギヤ30のサンギヤには、モータMG1の回転子が接続されている。プラネタリギヤ30のリングギヤには、駆動輪39a,39bに連結された車軸39c,39dにデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動軸36が接続されている。プラネタリギヤ30のキャリヤには、ダンパ28を介してエンジン22のクランクシャフト26が接続されている。
【0018】
モータMG1は、例えば同期発電電動機として構成されており、上述したように、回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されている。モータMG2は、例えば同期発電電動機として構成されており、回転子が図示しない減速ギヤを介して駆動軸36に接続されている。インバータ41,42は、電力ライン54を介してバッテリ50と接続されている。モータMG1,MG2は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40によって、インバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0019】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM,データを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。モータECU40に入力される信号としては、例えば、モータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2や、モータMG1,MG2の各相に流れる電流を検出する電流センサからの相電流などを挙げることができる。モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。モータECU40は、HVECU70と通信ポートを介して接続されており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の駆動状態に関するデータをHVECU70に出力する。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の回転角速度ωm1,ωm2やモータMG1,MG2の回転数(回転速度)Nm1,Nm2を演算している。モータECU40は、駆動輪38a,38bの角速度を駆動軸36(モータMG2の回転軸)に換算した値としての駆動輪角速度ωdwを演算している。なお、駆動輪角速度ωdwは、駆動輪39a,39bに車輪速センサを取り付けて、車輪速センサからの信号に基づいて演算することができる。
【0020】
バッテリ50は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、電力ライン54を介してインバータ41,42と接続されている。このバッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52によって管理されている。
【0021】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM,データを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。バッテリECU52に入力される信号としては、例えば、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの電池電圧VBや、バッテリ50の出力端子に取り付けられた電流センサ51bからの電池電流IB、バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度TBなどを挙げることができる。バッテリECU52は、HVECU70と通信ポートを介して接続されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータ
をHVECU70に出力する。バッテリECU52は、電流センサ51bからの電池電流IBの積算値に基づいて蓄電割合SOCを演算している。蓄電割合SOCは、バッテリ50の全容量に対するバッテリ50から放電可能な電力の容量の割合である。また、バッテリECU52は、蓄電割合SOCや電池温度TBに基づいてバッテリ50から充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutも演算している。
【0022】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM,データを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。HVECU70に入力される信号としては、例えば、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBPなどを挙げることができる。また、車速センサ88からの車速Vや車両の前後方向での加速度を検出する加速度センサ89からの前前後加速度Aなども挙げることもできる。HVECU70は、上述したように、エンジンECU24,モータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0023】
サスペンション機構90は、L字型のサスペンションアーム92a,92bを有するマクファーソンストラット式サスペンションとして構成されており、サスペンションアーム92a,92bの他に、上端が車体Bに取り付けられショックアブソーバを内蔵したサスペンション94a,94bと、車軸39c,39dを受けると共にサスペンション94a,94bの下部に取り付けられたナックル96a,96bと、サスペンションアーム92a,92bが取り付けられるサスペンションメンバ98と、を備えている。
【0024】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、ハイブリッド走行(HV走行)モードと電動走行(EV走行)モードとを含む複数の走行モードの何れかで走行する。ここで、HV走行モードは、エンジン22を運転しながら、エンジン22からの動力とモータMG1,MG2からの動力とを用いて走行するモードである。EV走行モードは、エンジン22を運転せずに、モータMG2からの動力によって走行するモードである。
【0025】
HV走行モードでは、HVECU70は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて走行に要求される(駆動軸36に要求される)要求トルクTd*を設定し、設定した要求トルクTd*に駆動軸36の回転数Nd(モータMG2の回転数Nm2)を乗じて走行に要求される(駆動軸36に要求される)走行要求パワーPd*を計算する。続いて、走行要求パワーPd*からバッテリ50の蓄電割合SOCに基づく充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じて車両に要求される要求パワーPe*を設定する。次に、要求パワーPe*がエンジン22から出力されるようにエンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*を設定する。目標回転数Ne*および目標トルクTe*は、エンジン22の運転ポイント(回転数,トルク)のうち騒音や振動等を加味して燃費が最適となる最適動作ラインを予め定めておき、要求パワーPe*に対応する最適動作ライン上の運転ポイント(回転数,トルク)を求めて設定する。次に、エンジン22が目標回転数Ne*で回転すると共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTd*が駆動軸36に出力されるようにモータMG1のトルク指令Tm1*とモータMG2のトルク指令Tm2*とを設定する。そして、エンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。エンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とに基づいてエンジン22が運転されるように、エンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行なう。モータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようにインバータ41,42のトランジスタのスイッチング制御を行なう。
【0026】
EV走行モードでは、HVECU70は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて要求トルクTd*を設定し、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共に入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTd*が駆動軸36に出力されるようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する。そして、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。モータECU40によるインバータ41,42の制御については上述した。
【0027】
実施例のハイブリッド自動車20では、アクセルペダル83が所定量以上踏み込まれたときなど車両の加速要求が大きいときには、HVECU70は、車両の振動を抑制する制振制御を実行する。制振制御では、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*、モータMG1のトルク指令Tm1*については、上述した走行モード(HV走行モードまたはEV走行モード)に基づいて設定する。そして、駆動輪角速度ωdwからモータMG2の角速度ωm2を減じた値に制御ゲインkvを乗じた値を、エンジン22とダンパ28とモータMG1,MG2とプラネタリギヤ30とを含む駆動系の共振に起因して発生する振動を抑制するために駆動軸36に要求される制振トルクTvに設定する。制御ゲインkvには、エンジン22とダンパ28とモータMG1,MG2とプラネタリギヤ30とを含む駆動系の共振に起因する振動の大きさを実験や解析などで予め求めておき、求めた振動の大きさに基づいて定めた値を初期値として設定している。次に、駆動軸36のトルクが要求トルクTd*へ向けてトルク変化率dTm2で変化するようにモータMG2の仮トルクTm2tmpを設定する。トルク変化率dTm2には、モータMG2から出力されるトルクが要求トルクTd*に向けて迅速に変化する値を初期値として設定している。そして、制振トルクTvと仮トルクTm2tmpとの和のトルクが駆動軸36に出力されるようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する。そして、エンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*をエンジンECU24に送信する(HV走行モード時のみ)と共に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。エンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とに基づいてエンジン22が運転されるように、エンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行なう(HV走行モード時のみ)。モータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようにインバータ41,42のトランジスタのスイッチング制御を行なう。制振制御は、車両の加速要求が小さくなったときに終了する。
【0028】
次に、実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に制振制御における制御ゲインkvとトルク変化率dTm2とを設定する際の動作について説明する。図4は、HVECU70により実行される設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。本ルーチンは、上述した制振制御が終了した後に実行される。
【0029】
本ルーチンが実行されると、HVECU70は、制振制御を実行している期間における前後加速度Aの変動のピーク値Peakおよびその周波数fpa,モータMG2の回転数Nm2の変動のピーク値における周波数fpnを抽出する処理を実行する(ステップS100)。周波数fpaは、制振制御を実行している期間における前後加速度Aの時間変化から前後加速度Aの変動の周波数スペクトルを導出し、周波数スペクトルにおいてピーク値となる周波数として設定される。図5は、制振制御を実行している期間におけるトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示す説明図である。図6は、前後加速度Aの周波数スペクトルの一例を示す説明図である。図中、周波数f1,f2は、予め共振が発生することが想定されている周波数である。実施例では、周波数f1を中心とする所定幅Wf1の周波数帯で最も大きいピーク値の周波数f1pと、周波数f2を中心とする所定幅Wf2(所定幅Wf1と同一でもよいし異なっていてもよい)の周波数帯で最も大きいピーク値の周波数f2pと、を抽出し、周波数f1p,f2pのうち大きいほうを周波数fpaとする。周波数fpnは、制振制御を実行している期間における回転数Nm2の時間変化から回転数Nm2の変動の周波数スペクトルを導出し、回転数Nm2の変動の周波数スペクトルにおいてピーク値となる周波数として設定される。
【0030】
こうして周波数fpa,fpnを抽出すると、次に、周波数fpaと周波数fpnとが一致しているか否かを判定する(ステップS110)。発明者は、車両が加速しているときには、駆動系の共振は、回転数Nm2の変動および前後加速度Aの変動に大きく影響を及ぼすことと、サスペンション機構90の共振は、回転数Nm2の変動には影響をほとんど及ぼさないが前後加速度Aの変動に大きく影響を及ぼすことと、を見出した。したがって、周波数fpnは、駆動系の共振周波数を示し、周波数fpaは、駆動系の共振およびサスペンション機構90の共振のうち何れか影響が大きいほうの共振周波数を示している。そのため、ステップS110の処理は、周波数fpaが駆動系の共振周波数であるか否か、即ち、前後加速度Aの大きな変動が駆動系の共振に起因して発生したものであるか否かを判定する処理となっている。
【0031】
ステップS110で周波数fpaと周波数fpnとが一致しているときには、前後加速度Aのピーク値Peakでの変動が駆動系の共振に起因して発生したものであると判断して、続いて、ピーク値Peakが閾値Perefを超えているか否かを判定する(ステップS120)。閾値Perefは、現在の制御ゲインkvを用いた制振制御で前後加速度Aの変動が十分に小さくなっているか否かを判定するための閾値である。ピーク値Peakが閾値Peref以下であるときには、現在の制御ゲインkvを用いた制振制御で前後加速度Aの変動が十分に小さくなっていると判断して、本ルーチンを終了する。これにより、次に制振制御が実行されたときには、現在の制御ゲインkvを用いた制振制御が実行されることになる。
【0032】
ステップS120でピーク値Peakが閾値Perefを超えているときには、現在の制御ゲインkvを用いた制振制御では前後加速度Aの変動を十分に小さくできないと判断して、現在の制御ゲインkv(現在kv)に予め定められている変化量dkvを加えたものを制御ゲインkvとして(ステップS130)、本ルーチンを終了する。こうして制御ゲインkvより大きくすると、次に制振制御が実行されたときに、モータMG2の駆動輪角速度ωdwからモータMG2の角速度ωm2を減じた値に制御ゲインkvを乗じた値である制振トルクTvがより大きな値となる。
【0033】
図7は、制御ゲインkvを初期値としたときのモータMG2のトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示している。図8は、ステップS130で制御ゲインkvを初期値より大きくしたときのモータMG2のトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示している。図7図8において縦軸,横軸のスケールは同一である。図7図8とを比較すると、図8のほうが前後加速度Aの変動が小さくなっていることがわかる。このように、制振トルクTvをより大きな値とすることにより、前後加速度Aの変動をより小さくすることができ、車両の振動をより抑制することができる。
【0034】
ステップS110で周波数fpaと周波数fpnとが一致していないときには、前後加速度Aのピーク値Peakでの変動が駆動系の共振に起因して発生したものではなくサスペンション機構90の共振に起因して発生したものであると判断して、続いて、ステップS120と同様の処理で、ピーク値Peakが閾値Perefを超えているか否かを判定する(ステップS140)。ステップS140でピーク値Peakが閾値Peref以下であるときには、前後加速度Aの変動が十分に抑制されていると判断して、本ルーチンを終了する。
【0035】
ステップS140でピーク値Peakが閾値Perefを超えているときには、現在の制御ゲインkvを用いた制振制御では前後加速度Aの変動を十分に小さくできていないと判断して、現在のトルク変化率dTm2(現在dTm2)から予め定められている所定変化率dTを減じたものをトルク変化率dTm2として(ステップS150)、本ルーチンを終了する。トルク変化率dTm2を小さくすることにより、モータMG2のトルク指令Tm2*をゆっくり変化させて、駆動軸36に出力されるトルクをゆっくり変化させる。ステップS150で現在dTm2から予め定められている所定変化率dTを減じたものをトルク変化率dTm2に設定する理由は、以下の通りである。今、前後加速度Aのピーク値Peakでの変動がサスペンション機構90の共振に起因して発生しているときを考えている。上述したように、サスペンション機構90の共振は、回転数Nm2の変動には影響をほとんど及ぼさないが前後加速度Aの変動に大きく影響を及ぼすことから、ステップS130と同様の処理で制御ゲインkvを変更しても、前後加速度Aの変動のピーク値を小さくできないと考えられる。実施例では、トルク変化率dTm2を小さくしてモータMG2のトルク指令Tm2*をゆっくりと変化させて、駆動軸36に出力されるトルクをゆっくり変化させることにより、車両への加振力を小さくして、車両の振動を抑制するのである。
【0036】
図9は、トルク変化率dTm2を初期値としたときのモータMG2のトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示している。図10は、ステップS150でトルク変化率dTm2を初期値より小さくしたときのモータMG2のトルク指令Tm2*と前後加速度Aの時間変化の一例を示している。図9図10において縦軸,横軸のスケールは同一である。図9図10とを比較すると、図9のほうが前後加速度Aの変動が小さくなっていることがわかる。このように、モータMG2のトルク指令Tm2をゆっくり変化させることにより、前後加速度Aの変動をより小さくすることができ、車両の振動をより抑制することができる。
【0037】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、車両の前後加速度Aと、モータMG2の回転数(回転速度)Nm2と、を用いて制振トルクTvを設定することにより、車両の振動をより抑制することができる。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、ステップS110で周波数fpaと周波数fpnとが一致しているか否かを判定したらステップS120,S140でピーク値Peakが閾値Perefを超えているか否かを判定している。しかしながら、ステップS110で周波数fpaと周波数fpnとが一致しているか否かを判定したら、ステップS120,S140を実行せずに、ステップS130,S150を実行してもよい。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、ステップS100で周波数f1を中心とする所定幅Wf1の周波数帯で最も大きいピーク値の周波数f1pと、周波数f2を中心とする所定幅Wf2の周波数帯で最も大きいピーク値の周波数f2pと、のうち大きいほうを周波数fpaとし、ステップS110で周波数fpaと周波数fpnとが一致しているか否かを判定している。しかしながら、ステップS100で前後加速度Aの周波数スペクトルの複数のピークのうち低周波数のノイズ領域を除いた複数のピーク値の周波数を周波数fpa(1),fpa(2),・・・fpa(n)(nは、ピークの個数と同一の自然数)とし、ステップS110で周波数fpa(1),fpa(2),・・・fpa(n)のそれぞれと周波数fpnとが一致しているか否か判定してもよい。この場合、周波数fpa(1),fpa(2),・・・fpa(n)のうちの全てが周波数fpnと一致しないときには、前後加速度Aの変動はサスペンション機構90の共振に起因すると判断して、ステップS150と同一の処理でトルク変化率dTm2を変更すればよい。また、周波数fpa(1),fpa(2),・・・fpa(n)のうちの1つが周波数fpnと一致するときには、前後加速度Aの変動は駆動系の共振およびサスペンション機構90の共振の双方に起因すると判断して、ステップS130と同一の処理で制御ゲインkvを変更すると共にステップS150と同一の処理でトルク変化率dTm2を変更すればよい。これにより、車両の振動をより抑制することができる。
【0040】
実施例のハイブリッド自動車20では、ステップS110で周波数fpaと周波数fpnとが一致していないときには、ステップ140,S150を実行している。しかしながら、ステップS110で周波数fpaと周波数fpnとが一致していないときには、ステップ140,S150を実行することなく、本ルーチンを終了してもよい。
【0041】
実施例のハイブリッド自動車20では、蓄電装置として、バッテリ50を用いるものとしたが、例えば、キャパシタなど、蓄電可能なものであれば如何なる蓄電装置を用いるものとしてもよい。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、駆動輪38a,38bに連結された駆動軸36にプラネタリギヤ30を介してエンジン22およびモータMG1を接続すると共に駆動軸36にモータMG2を接続する構成としている。しかしながら、駆動輪38a,38bに動力を出力可能なモータを備える構成であればよいから、駆動輪38a,38bに連結された駆動軸36に無段変速機(CVT)を介して発電可能なモータを接続すると共にモータの回転軸にクラッチを介してエンジン22を接続する構成としてもよいし、エンジン22を備えずに駆動輪38a,38bに動力を出力可能なモータを備える構成としてもよい。
【0043】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータMG2が「モータ」に相当し、モータECU40とHVECU70とが「制御装置」に相当する。
【0044】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0045】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、電動車両の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、23 クランクポジションセンサ、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 サスペンション機構、2a,92b サスペンションアーム、94a,94b サスペンション、96a,96b ナックル、98 サスペンションメンバ、MG1,MG2 モータ。
図1
図2
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図9
図10