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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】運搬システム及び運搬方法
(51)【国際特許分類】
   B63C 11/00 20060101AFI20221213BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20221213BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B63C11/00 C
B63B35/00 N
B63C11/48 D
B63B35/00 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018149605
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020023286
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】武井 俊哉
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特許第6354088(JP,B1)
【文献】特開昭54-061789(JP,A)
【文献】米国特許第04312287(US,A)
【文献】特開2017-066850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00
B63B 35/00
B63C 11/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を積み込んで水中を浮上沈降する容器と、
底面に開口部が設けられた船と
を備え、
前記容器は、前記開口部を通って前記船に収容され、前記開口部を通って前記船から離脱される運搬システムであって、
前記容器は、
水中で浮上を開始後に、前記船の直下において水面より所定距離の水深に達した後に前記開口部の位置を特定する特定手段と、
水中で前記容器の方角を調整する調整手段と、
前記調整手段の動作を制御する制御手段と
を備え、
前記制御手段は、前記特定手段が特定した前記開口部の位置に基づき、前記調整手段の動作を制御して、前記船の直下の前記容器が前記開口部を通過できるように前記容器の方角を調整する
運搬システム。
【請求項2】
前記容器は、
前記容器を基準とする前記船の相対位置を計測する計測手段と、
水中で水平方向に移動する移動手段と
を備え
前記制御手段は、前記移動手段の動作を制御し、
前記容器は、前記計測手段が計測した前記容器を基準とする前記船の相対位置に基づき、前記移動手段により前記船の直下に移動し、
前記制御手段は、前記特定手段が特定した前記開口部の位置に基づき、前記移動手段の動作を制御して、前記船の直下の前記容器が前記開口部を通過できるように前記容器の水平方向の位置を調整する
請求項1に記載の運搬システム。
【請求項3】
前記船は複数の区画に区切られた収容空間を有し、前記複数の区画の各々に前記容器を収容可能である
請求項1又は2に記載の運搬システム。
【請求項4】
船を用いて水底の対象物を運搬する運搬方法であって、
水中で前記対象物を積み込まれた容器が
水中浮上を開始し
前記船の直下において、水面より所定距離だけ浅い水深に達した後に前記船の底面に設けられた開口部の位置を特定し、
前記船の直下において、特定した位置の前記開口部を通過できるように自らの方角を調整し、
記開口部を通って前記船に収容される
運搬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象物を水中及び水上で運搬する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水中の所定位置と水上の所定位置の間で対象物を運搬しなければならない場合がある。例えば、レアメタルを含む鉱石を採掘する場合、水底の採掘現場で採掘した鉱石を荷揚港等の目的地まで運搬しなければならない。
【0003】
例えば、特許文献1には、海上に浮かぶ母船にアンビリカルケーブルにより連結され海底面に着底するランチャーと、該ランチャーより発進し、独自の推進動力装置、海中・底物体認識手段、作業手段を有する無索型ロボットとを有する海中・底作業ロボットシステムが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の海中・底作業ロボットシステムは、無索型ロボットが水底で鉱石等の対象物を採取した後、浮上することによって、水底から水上まで対象物を運搬することができる。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、水面上を浮遊する積荷を半潜水状態で積み降ろしするフロートオンフロートオフ船が記載されている。
【0006】
特許文献2に記載のフロートオンフロートオフ船は、鉱石等の対象物を収容した積荷が水面上を浮遊している場合、その積荷を積み込んで荷揚港等まで航行することによって、水上の或る位置から水上の目的地まで対象物を運搬することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭60-37392号公報
【文献】実開昭61-138795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の海中・底作業ロボットシステムによる場合、無索型ロボットは独自の推進動力装置、海中・底物体認識手段に加え、鉱石等の対象物を採取するための作業手段を有する必要があるため、無索型ロボットの総重量に対する運搬可能な対象物の重量をあまり大きくすることができない。従って、特許文献1に記載の海中・底作業ロボットシステムによる場合、大量の対象物を運搬するためには無索型ロボットが沈降と浮上を何回も繰り返す必要があり、長時間を要する。
【0009】
また、特許文献1に記載の海中・底作業ロボットシステムによる場合、水上まで浮上した無索型ロボットを、例えば荷揚港等の目的地までいかに運搬するか、という問題がある。例えば、押船又は曳船により無索型ロボットを目的地まで航行させることが考えられる。ただし、無索型ロボットは水上の航行に適する形状に設計されていないため、一般的に水上を高速航行できない。従って、無索型ロボットの航行には長時間を要する。
【0010】
また、水上に浮上してきた無索型ロボットを母船に積み込み、母船が自航して無索型ロボットを目的地まで運搬することが考えられる。無索型ロボットを母船に積み込む方法としては、例えば、クレーンにより無索型ロボットを水面から吊り上げて母船の船倉等に吊り下ろすことが考えられる。その場合、水上を浮遊している無索型ロボットにクレーンの吊り具を連結する必要があり、静穏度が低い外洋では、作業員が水上で事故に遭う危険が伴うとともに作業に長時間を要する。さらに、クレーンによって吊り上げが可能な重量には制限があるため、無索型ロボットの総重量を小さくする必要があり、運搬できる鉱石等の対象物の量も必然的に少なくなる。
【0011】
特許文献2に記載のフロートオンフロートオフ船による場合、積荷の積み降ろしの際に、船尾部分に固着されている動滑車を設けたシンカーを水底に沈めた後、シンカーの動滑車に掛け回された索体を巻き取ることで、船尾部分を水中に全没させる必要がある。水底の水深が深いほど、事前にシンカーを水底まで沈める作業と、船尾部分を水中に全没させる作業に長時間を要する。
【0012】
また、特許文献2に記載のフロートオンフロートオフ船による場合、船尾部分が水中に全没した状態のフロートオンフロートオフ船に、水上を浮遊する積荷をいかに積み込むか、という問題がある。例えば、浮遊する積荷を索で引き寄せてフロートオンフロートオフ船の荷台部分に積み込むことが考えられる。その場合、水上を浮遊している積荷に索を連結する必要があり、静穏度が低い外洋では、作業員が水上で事故に遭う危険が伴うとともに作業に長時間を要する。
【0013】
さらに、静穏度が低い外洋で積荷をフロートオンフロートオフ船に積み込む場合、積荷とフロートオンフロートオフ船の両方が水上で動揺しているため、積荷とフロートオンフロートオフ船がぶつかり合い、それらのいずれか又は両方が破損する危険がある。従って、積荷をフロートオンフロートオフ船に積み込む作業は慎重に行われる必要があり、長時間を要する。
【0014】
上述の事情に鑑み、本発明は、水中の所定位置と水上の所定位置との間で資機材等の対象物を迅速かつ安全に運搬する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するために、本発明は、対象物を積み込んで水中を浮上沈降する容器と、底面に開口部が設けられた船とを備え、前記容器は、前記開口部を通って前記船に収容され、前記開口部を通って前記船から離脱される運搬システムであって、前記容器は、水中で浮上を開始後に、前記船の直下において水面より所定距離の水深に達した後に前記開口部の位置を特定する特定手段と、水中で前記容器の方角を調整する調整手段と、前記調整手段の動作を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記特定手段が特定した前記開口部の位置に基づき、前記調整手段の動作を制御して、前記船の直下の前記容器が前記開口部を通過できるように前記容器の方角を調整する運搬システムを第1の態様として提案する。
【0017】
上記の第1の態様に係る運搬システムにおいて、前記容器は、前記容器を基準とする前記船の相対位置を計測する計測手段と、水中で水平方向に移動する移動手段とを備え、前記制御手段は、前記移動手段の動作を制御し、前記容器は、前記計測手段が計測した前記容器を基準とする前記船の相対位置に基づき、前記移動手段により前記船の直下に移動し、前記制御手段は、前記特定手段が特定した前記開口部の位置に基づき、前記移動手段の動作を制御して、前記船の直下の前記容器が前記開口部を通過できるように前記容器の水平方向の位置を調整する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0019】
上記の第1又は第2の態様に係る運搬システムにおいて、前記船は複数の区画に区切られた収容空間を有し、前記複数の区画の各々に前記容器を収容可能である、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0021】
また、本発明は、船を用いて水底の対象物を運搬する運搬方法であって、水中で前記対象物を積み込まれた容器が水中浮上を開始し前記船の直下において、水面より所定距離だけ浅い水深に達した後に前記船の底面に設けられた開口部の位置を特定し、前記船の直下において、特定した位置の前記開口部を通過できるように自らの方角を調整し、記開口部を通って前記船に収容される運搬方法を第4の態様として提案する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態に係る運搬システムを示した図。
図2】一実施形態に係る容器の外観を模式的に示した図。
図3】一実施形態に係る船の外観を模式的に示した図。
図4】一実施形態に係る運搬システムが対象物を運搬する様子を示した図。
図5】一実施形態に係る運搬システムが対象物を運搬する際の動作のフローを示した図。
図6】一実施形態に係る運搬システムが対象物を運搬する様子を示した図。
図7】一実施形態に係る運搬システムが対象物を運搬する際の動作のフローを示した図。
図8】一実施形態に係る船が容器を収容する様子を示した図。
図9】一実施形態に係る船が容器を収容する際の運搬システムの動作のフローを示した図。
図10】一変形例に係る船の平面図。
図11】一変形例に係る船の正面図。
図12】一変形例に係る運搬システムにおける船から巻き出される牽引ワイヤと容器11の位置関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施形態]
以下に本発明の一実施形態に係る運搬システム1及び運搬システム1により行われる運搬方法を説明する。図1は、運搬システム1を示した図である。運搬システム1は、対象物を積み込んで水中を浮上沈降する容器11と、底面に開口部が設けられた船12を備える。
【0025】
例えば、水底Gにおいて対象物(例えば採掘された鉱石)が積み込まれた容器11は、水底Gから浮上し、水面W上で待機している船12の底面に設けられた開口部Oを通って船12に収容される。容器11を収容した船12は港Pまで航行する。港Pでは、容器11に積み込まれた対象物が陸に荷揚げされる。
【0026】
また、例えば、港Pにおいて対象物(例えば基礎造築のための捨石)が積み込まれた容器11を収容した船12は、水上の目的位置まで航行する。容器11は、目的位置に到着した船12から開口部Oを通って離脱され、水底Gまで沈降する。水底Gでは、着底した容器11から対象物の取り出しが行われる。
【0027】
なお、上記の対象物の運搬経路は例示であって、様々な運搬経路があり得る。例えば、容器11が水底で積み込まれた対象物(土砂等)を水面まで運搬し、船12が容器11を収容して水上の別の場所まで運搬した後、船12から離脱された容器11が対象物を水底まで運搬してもよい。
【0028】
図2は、容器11の外観を模式的に示した図である。図2(A)は容器11の平面図、図2(B)は容器11の正面図、図2(C)は容器11の右側面図である。容器11は、外側容器112と内側容器111を備える。内側容器111は対象物を収容するコンテナである。外側容器112は内側容器111を収容し、水中を浮上沈降する装置である。
【0029】
内側容器111は開閉するフード1111を備えている。図2に例示のフード1111はシャッター式であるが、軸周りの開閉式等、フード1111の開閉の構造にはいずれの方式が採用されてもよい。
【0030】
外側容器112は、外側容器112が備える電動装置に電力を供給するバッテリ1121と、鉛直方向の推力を発生させるスラスタ1122と、水平方向の推力を発生させるスラスタ1123と、容器11が船12に収容される際に船12から下ろされる牽引ワイヤの誘導に用いられる先綱1124と、容器11の浮力調整を行う浮力調整機構1125と、容器11が水底Gに着底する際に水底Gに接し容器11本体を支持する脚1126を備えている。
【0031】
バッテリ1121は着脱可能であり、港Pにおいて交換される。スラスタ1122は、主に容器11の姿勢調整のために用いられる。スラスタ1123は、主に容器11の方角調整と水平方向の移動のために用いられる。先綱1124は、索体とその先端に取り付けられた浮体で構成される。
【0032】
浮力調整機構1125は、バラストタンクと気蓄器を備える。容器11が浮上する際には、気蓄器に収容されていた圧縮空気がバラストタンクに注入され、バラストタンクに収容されていた水が外部に排水されて、容器11の浮力が増加する。また、容器11が沈降する際には、バラストタンクに収容されていた空気が圧縮されて気蓄器に収容され、バラストタンクに外部から水が流れ込んで、容器11の浮力が減少する。
【0033】
なお、図2に例示の容器11は、スラスタ1122、スラスタ1123、先綱1124、脚1126を4個ずつ、また、浮力調整機構1125を2つ備えるが、これらの数は変更されてよい。
【0034】
容器11は、図2で図示を省略している構成部として、カメラ、ライト、水圧センサ、水中モデム、トランスデューサ、ソナー、DVL(Doppler Velocity Logs)、ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler)、制御ユニットを備えている。
【0035】
カメラは、容器11が水底Gに着底する前に下方を撮影する。この場合、カメラが撮影した画像は容器11の着底領域の決定に用いられる。制御ユニットはカメラが撮影した画像を認識して、水底G内の障害物がない平坦な最寄りの着底位置を特定し、特定した着底位置に着底するように、スラスタ1123の動作を制御して容器11の水平方向における位置と容器11の方角を調整する。
【0036】
また、カメラは、容器11が船12に収容される前に上方を撮影する。この場合、カメラが撮影した画像は船12の底面に設けられた開口部の位置の特定に用いられる。制御ユニットはカメラが撮影した画像を認識して船12の開口部の位置を特定し、特定した位置の開口部を容器11が通過できるように、スラスタ1123の動作を制御して容器11の水平方向における位置と容器11の方角を調整する。
【0037】
ライトはカメラが撮影を行う際、撮影方向に光を照らす。水圧センサは水圧を計測する。制御ユニットは、水圧センサにより計測された水圧に基づき容器11の水深を特定する。水中モデムは船12が備える水中モデムとの間で音波(本願において、音波は超音波を含む)によりデータ通信を行う。
【0038】
トランスデューサは、例えばUSBL(Ultra Short Base Line)方式の音響測位システムを構成する装置であり、容器11を基準とする船12の相対的な位置を計測するために用いられる。トランスデューサは呼出信号を送波し、その応答として船12が備えるトランスポンダから送波される応答信号を3以上の素子で受波して、受波した応答信号の位相差から、自装置を基準とする船12の位置を計測する。
【0039】
ソナーは、例えばアクティブ・ソナーであり、音波信号を送波し、その反射波から外部に存在する物までの距離や形状を測定する。DVLは、水底Gに対し音波信号を送波し、その反射波に含まれるドップラー周波数から容器11の対地速度を計測する。ADVPは、周囲の水に対し音波信号を送波し、水に含まれる浮遊懸濁物で反射した音波信号の反射波に含まれるドップラー周波数から容器11の周囲の水の流速を計測する。制御ユニットは容器11の他の構成部の動作を制御する。
【0040】
図3は、船12の外観を模式的に示した図である。図3(A)は船12の平面図、図3(B)は船12の正面図、図3(C)は容器11の右側面図である。船12は、まず、底面から上面(甲板)まで貫通した収容空間Sを備える。収容空間Sは、水底Gから浮上してくる容器11を収容するための空間であり、容器11は収容空間Sの底面側の開口部Oを通って収容空間Sに対し出入りする。
【0041】
また、船12は、容器11を収容空間Sに収容する際に容器11を引き上げるための牽引ワイヤの繰り出し及び巻き上げを行うウィンチ121と、牽引ワイヤにより水面Wのすぐ下まで引き上げられた容器11を水中で側方から挟み込んで保持するパッド122と、容器11を上下方向に移動する昇降アーム123を備える。船12は、パッド122を図3(A)のY方向及び-Y方向に移動する機構(図示略)と、昇降アーム123をZ方向及び-Z方向に移動する機構(図示略)を備えており、パッド122で容器11を挟み込んだ状態で昇降アーム123を上方に移動させて、容器11を収容空間S内の所定位置まで持ち上げる。
【0042】
なお、図3に例示の船12は、ウィンチ121、パッド122、昇降アーム123を4個ずつ備えるが、これらの数は変更されてよい。
【0043】
船12は、さらに、図3で図示を省略している構成部として、GNSS(Global Navigation Satellite System)ユニット、水中モデム、トランスポンダ、制御ユニットを備えている。
【0044】
水中モデムは上述した容器11が備える水中モデムとの間で音波によりデータ通信を行う。トランスポンダは、上述した容器11が備えるトランスデューサから送波されてくる呼出信号に応答して、応答信号を送波する。トランスポンダから送波された応答信号はトランスデューサにより受波され、容器11を基準とする船12の相対的な位置の計測に用いられる。制御ユニットは船12の他の構成部の動作を制御する。
【0045】
なお、以下の説明において、船12は自航機能を備えず、押船に押されて水面W上を航行するものとする。ただし、船12は曳船により曳かれて水面W上を航行してもよいし、船12がエンジン等を備え水面W上を自航してもよい。
【0046】
以下に、上述した構成の運搬システム1により行われる運搬方法を説明する。図4は、運搬システム1が港Pから水底G上の作業現場Hまで対象物を運搬する様子を示した図であり、図5はその際の運搬システム1の動作のフローを示した図である。まず、港Pにおいて、充電されたバッテリ1121(図示略)と、対象物(例えば捨石)が積み込まれた内側容器111が、船12に収容された状態の外側容器112に積み込まれる(ステップS101)。
【0047】
続いて、容器11を収容した状態の船12は、押船(図示略)に押されて水上の目的位置である作業現場Hの直上の位置まで航行する(ステップS102)。続いて、容器11が開口部Oを通って船12から離脱される(ステップS103)。ステップS103において、船12は容器11をパッド122(図示略)で挟み込んだ状態で昇降アーム123(図示略)を下降し、容器11の全体を水没させた後にパッド122を収容空間Sの外側に向かい移動することで、容器11を水中にリリースする。
【0048】
続いて、容器11は沈降を開始する(ステップS104)。その後、容器11は水底Gの水深より所定距離だけ浅い水深に達すると、カメラで下方を撮影し、水底G上の障害物のない平坦な着底位置を特定し、特定した着底位置へ着底できるように、自装置の水平方向の位置と方角を調整する(ステップS105)。その後、容器11は着底位置に着底する(ステップS106)。
【0049】
上記のように作業現場Hに到着した容器11から、作業現場Hに待機していた水中バックホウ等により対象物(例えばコンクリートブロック)が取り出される。容器11から取り出された対象物は、水中作業(例えば水底作業ステージの構築)に用いられる。
【0050】
図6は、運搬システム1が水底G上の作業現場Hから港Pまで対象物を運搬する様子を示した図であり、図7はその際の運搬システム1の動作のフローを示した図である。まず、作業現場Hにおいて、対象物(例えば採掘された鉱石)が積み込まれた状態の容器11と水面W上で待機する船12との間で水中モデムによる交信が行われる(ステップS201)。ステップS201において、容器11は船12に対し浮上許可の要求を送信し、船12はその要求に対する応答として浮上許可の通知を送信する。
【0051】
容器11は、船12から浮上許可の通知を受信すると、浮上を開始する(ステップS202)。続いて、容器11はトランスデューサにより呼出信号を送波し、その応答として船12のトランスポンダから送波される応答信号をトランスデューサにより受波し、容器11を基準とする船12の位置を計測する。そして、容器11は計測した船12の直下に移動する(ステップS203)。
【0052】
その後、容器11は水面Wより所定距離だけ深い水深に達すると、カメラで上方を撮影し、船12の開口部Oの位置を目標位置として特定し、特定した目標位置に近づくように水中で水平方向に移動するとともに、開口部Oを通過できるように、自装置の方角を調整する(ステップS204)。続いて、容器11は船12の開口部Oを通って収容空間S(図示略)に入り、船12による容器11の収容が行われる(ステップS205)。なお、ステップS205における運搬システム1の動作の詳細については後述する。
【0053】
続いて、容器11を収容した状態の船12は、押船(図示略)に押されて港Pまで航行する(ステップS206)。船12が港Pに到着すると、港Pにおいて、バッテリ1121(図示略)と、対象物(例えば鉱石)を収容している内側容器111が外側容器112から取り外され、陸揚げされる(ステップS207)。
【0054】
図8は、上述したステップS205において、船12が容器11を収容する様子を示した図であり、図9はその際の運搬システム1の動作のフローを示した図である。まず、容器11から放出された先綱1124の綱取りが行われる(ステップS301)。具体的には、船12の開口部Oの直下で、容器11から先綱1124の放出が行われ、放出された先綱1124の索体1124Aの先端に取り付けられた浮体1124Bが船12の収容空間S内の水面W上に浮かぶ。作業員は、水面W上に浮かぶ浮体1124Bを船12の上に回収する。
【0055】
続いて、ステップS301において綱取りされた先綱1124を用いて、船12のウィンチ121から巻き出された牽引ワイヤ1211の容器11への接続が行われる(ステップS302)。ステップS302において、まず、ステップS301において回収された浮体1124Bに取り付けられている索体1124Aがガイドリング(図示略)に通される。ガイドリングには、先端に連結器(図示略)の取り付けられた牽引ワイヤ1211が連結されている。ガイドリングは索体1124Aを伝って容器11に向かい落下し、牽引ワイヤ1211の先端に取り付けられた連結器を、容器11に設置されている連結器(図示略)へと導く。容器11に設置された連結器と、当該連結器に向かい落下してきた牽引ワイヤ1211の先端に取り付けられた連結器が結合し、牽引ワイヤ1211の容器11への接続が行われる。
【0056】
なお、容器11に設置された連結器と牽引ワイヤ1211の先端に取り付けられた連結器の結合の方式としては、例えば電磁力により仮結合した後、機械的なロックにより強固な結合を行う方式が採用可能であるが、他の方式が採用されてもよい。
【0057】
牽引ワイヤ1211の容器11への接続が完了すると、ウィンチ121による牽引ワイヤ1211の巻き上げによって、容器11の位置決めが行われる(ステップS303)。牽引ワイヤの巻き上げは、昇降アーム123が容器11に届く程度の深さに容器11が達した時点で停止する。これにより、容器11は船12の収容空間Sの直下で平面位置の位置決めが完了した状態となる。なお、ステップS303において、容器11の揺れを低減するために、巻き上げに先立ち浮力調整機構1125が備えるバラストタンク内への注水を行い、牽引ワイヤ1211にテンションをかけてもよい。
【0058】
続いて、昇降アーム123を容器11に届くまで降下させ、パッド122により容器11を挟み込む(ステップS302)。続いて、昇降アーム123を上昇させて容器11を持ち上げる(ステップS305)。これにより、船12による容器11の収容が完了する。
【0059】
なお、昇降アーム123を上昇させる際、パッド122の挟み込みの力のみでは容器11を十分に保持できない場合がある。そのような場合、例えば、昇降アーム123の下端部を収容空間Sの内側に向けて屈曲させる機構を設け、鉤状になった昇降アーム123の下端部により容器11を下方から支持する(図8参照)等、昇降アーム123が直接、容器11の重量を支える構成が採用されるとよい。
【0060】
また、ステップS303において、牽引ワイヤ1211にテンションをかけるためにバラストタンク内への注水が行われた場合、ステップS304における容器11の持ち上げに先立ち、容器11の重量を軽くするために、バラストタンクから排水を行ってもよい。
【0061】
上述のように、運搬システム1においては、水上よりも動揺の少ない水中において容器11が牽引ワイヤ1211の巻き上げにより位置決めされた後、パッド122により保持された状態で昇降アーム123により船12の収容空間Sまで持ち上げられる。そのため、船12が水上で動揺していても、船12による容器11の収容が迅速かつ安全に行われる。
【0062】
なお、図8及び図9を用いて上述した船12が容器11を収容する方法は一例であって、これに代えて他の様々な方法が採用され得る。例えば、容器11の持ち上げは、昇降アーム123の上昇力と、牽引ワイヤ1211の引張力とを併用する方法でもよい。
【0063】
例えば、船12の動揺が少なく水上の静穏度が十分確保できる場合は、昇降アーム123やパッド122を用いず、牽引ワイヤ1211の引張力だけで容器11を引き揚げることで、より迅速に船12に容器11を収容することができる。
【0064】
あるいは、容器11が水面W付近(昇降アーム123が容器11に届く程度の深さ)まで浮上し、船12直下で平面位置の位置決めが完了する場合は、牽引ワイヤ1211を使用せず、昇降アーム123とパッド122だけで容器11を持ち上げることで、より迅速に船12に容器11を収容することができる。
【0065】
上述した運搬システム1及び運搬システム1により行われる運搬方法によれば、水中の所定位置(例えば作業現場H)と水上の所定位置(例えば港P)との間で資機材等の対象物を迅速かつ安全に運搬することができる。
【0066】
[変形例]
上述の実施形態は様々に変形され得る。以下に、それらの変形の例を示す。なお、以下に示す2以上の変形例が適宜組み合わされてもよい。
【0067】
(1)上述の船12が有する収容空間Sは容器11を1つのみ収容可能である。これに代えて、船12が複数の区画に区切られた収容空間Sを有し、複数の区画の各々に容器11を収容可能としてもよい。図10は、複数の区画に区切られた収容空間Sを備える船12の例の平面図である。図10に記載の船12の収容空間Sは4つの区画に区切られており、各区画に応じて、ウィンチ121、パッド122、昇降アーム123といった容器11を収容するための構成部が設けられている。
【0068】
この変形例に係る船12は、同時に複数の容器11を収容して水面W上を航行することができる。そのため、例えば4つの区画の1つのみに容器11を収容して航行する等、運搬する対象物の量を変更することができる。また、船12のサイズに対する容器11の相対的な大きさを小さくできるため、容器11の大型化が困難な場合に好都合である。また、作業現場Hの複数の場所の各々に容器11を着底させて、それらの複数の場所で同時に対象物の出し入れを行うことで、作業効率を高めることができる場合がある。
【0069】
(2)上述の船12の収容空間Sの底面側の開口部Oを開閉する扉を設けてもよい。図11は、図10に示した変形例に係る船12に開口部Oを開閉する扉を設けた例の正面図である。図11に記載の船12の収容空間Sは4つの区画に区切られており、各区画の底面に開口部Oを開閉する扉をそれぞれ備え、容器11が浮上してくる際には扉を開き、容器11の収容空間Sへの収容が完了すると、扉を閉じる。
【0070】
(3)上述の容器11が備える内側容器111は、外側容器112から分離可能であり、港Pにおいてクレーンにより陸揚げされたり、水上で他の輸送船に積み替えたりされる。これに代えて、容器11は内側容器111と外側容器112の区別のない構造でもよい。この場合、港Pにおいて容器11に対する対象物の出し入れは、バックホウ等により行われることになる。
【0071】
(4)上述の容器11はカメラで撮影した画像に基づき、着底位置及び船12の開口部Oの位置の特定を行う。容器11が着底位置や開口部Oの位置を特定する方法が画像を用いる方法に限られない。例えば、レーザ光を用いた方法、ソナーを用いた方法等が採用されてもよい。
【0072】
(5)上述の運搬システム1は、容器11が自装置に対する船12の相対的な位置を計測する方法として、容器11に配置したトランスデューサと、船12に配置したトランスポンダを備える音響測位システムを備える。運搬システム1が、これとは異なる構成の音響測位システムを備えてもよい。例えば、運搬システム1が、容器11に配置されたトランスポンダと、船12に配置されたトランスデューサを備え、船12に配置されたトランスデューサが呼出信号を送波し、呼出信号に応答して容器11に配置されたトランスポンダから送波される応答信号を船12のトランスデューサが受波し、船12を基準とする容器11の相対的な位置を特定してもよい。この場合、容器11は船12から水中モデムにより容器11と船12の相対的な位置関係を示すデータを受信することで、自装置を基準とする船12の相対的な位置を特定することができる。
【0073】
また、例えば、運搬システム1が、水底G上の既知位置に配置されたトランスポンダと、容器11に配置されたトランスデューサを備え、容器11に配置されたトランスデューサが呼出信号を送波し、呼出信号に応答して水底G上の既知位置に配置されたトランスポンダから送波される応答信号を容器11に配置されたトランスデューサ受波し、容器11の絶対的な位置を特定してもよい。この場合、容器11は船12から水中モデムにより船12の絶対的な位置(GNSSユニットにより計測された位置)を示すデータを受信することで、自装置を基準とする船12の相対的な位置を特定することができる。
【0074】
また、容器11が、自装置に対する船12の相対的な位置を計測する計測手段(上述の運搬システム1におけるトランスデューサ等)を備えず、船12がソナー等により船12を基準とする容器11の相対的な位置を計測してもよい。この場合、容器11は船12から水中モデムにより容器11と船12の相対的な位置関係を示すデータを受信することで、自装置を基準とする船12の相対的な位置を特定することができる。
【0075】
(6)上述の運搬システム1においては、容器11が浮上し船12に収容される際、船12は移動しない。これに代えて、浮上してきた容器11の真上に開口部Oが位置するように、船12が移動してもよい。例えば、容器11が浮上許可の要求を船12に送信する際(図7、ステップS201)、自装置と船12の相対的な位置を示すデータを水中モデムにより送信し、船12が容器11の直上の位置へ移動してもよい。一般的に容器11よりも船12の方が水平方向の移動が速いため、船12が容器11の真上の位置から遠く離れている場合、船12が水平方向に移動することで、船12と容器11の水平面上における位置合わせが迅速に行われる。
【0076】
また、容器11が水中で待機している位置に船12が移動する場合、容器11は水平方向に移動する機能を備えなくてもよい。
【0077】
(7)上述した運搬システム1においては、容器11に配置された水中モデムと船12に配置された水中モデムにより容器11と船12が他の装置を介さずに通信可能であるものとした。これに代えて、容器11と船12が他の装置を介して通信を行ってもよい。例えば、水上に浮かぶ浮遊構造物と船12に電波によりデータ通信を行う通信装置を配置し、作業現場Hに水中モデムを配置し、浮遊構造物に配置されている通信装置と作業現場Hに配置されている水中モデムを通信ケーブルで接続する。この場合、容器11に配置されている水中モデムは、作業現場Hに配置されている水中モデムと、浮遊構造物に配置されている通信装置を介して、船12に配置されている通信装置との間でデータ通信を行うことができる。
【0078】
上記のように、水面Wと水底Gの間に通信ケーブルを配置すれば、水面Wと水底Gの距離が水中モデムにより通信可能な距離を超えるような場合であっても、容器11と船12の間のデータ通信が可能となる。
【0079】
(8)上述した運搬システム1においては、船12から巻き出される牽引ワイヤは図8に示される位置関係で容器11に接続され、容器11を引き上げる。船12から巻き出される牽引ワイヤと容器11の位置関係は図8に示されるものに限られない。
【0080】
図12は、船12から巻き出される牽引ワイヤと容器11の位置関係の他の例を示した図である。図12の例では、図8の例と同様に、ウィンチ121から巻き出されて、船12の高位置から容器11に向かい延びる牽引ワイヤ1211が容器11の左右方向における中央寄りの位置で容器11に接続される。これに加えて、図12の例では、ウィンチ121に加えて船12に設置されているウィンチ124から巻き出されて、船12の低位置から容器11に向かい延びる牽引ワイヤ1241が、容器11の左右方向における、巻き出し位置から遠い側の外縁付近の位置で容器11に接続される。
【0081】
牽引ワイヤ1211は牽引ワイヤ1241と比較し、鉛直方向に対し小さい角度で容器11に向かい延びている。従って、牽引ワイヤ1211が巻き上げられる際、牽引ワイヤ1211は、主として容器11を鉛直方向に引き上げる役割を果たす。一方、牽引ワイヤ1241は牽引ワイヤ1211と比較し、水平方向に対し小さい角度で容器11に向かい延びている。従って、牽引ワイヤ1241が巻き上げられる際、牽引ワイヤ1241は、主として容器11の左右方向における揺れを低減する役割を果たす。
【0082】
なお、図12の例では、2本の牽引ワイヤ1241は図3(A)におけるY方向において交差するように配置されるが、2本の牽引ワイヤ1241が図3(A)におけるX方向において交差するように配置されたり、図3(A)においてX字を描くように配置されたりしてもよい。このように、船12から巻き出される牽引ワイヤの配置や本数は様々に変更されてよい。
【符号の説明】
【0083】
1…運搬システム、11…容器、12…船、111…内側容器、112…外側容器、121・124…ウィンチ、122…パッド、123…昇降アーム、1111…フード、1121…バッテリ、1122…スラスタ、1123…スラスタ、1124…先綱、1125…浮力調整機構、1126…脚、1211・1241…牽引ワイヤ。
図1
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