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特許7193266変性ポリオレフィン樹脂、水性分散体、及びプライマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】変性ポリオレフィン樹脂、水性分散体、及びプライマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/00 20060101AFI20221213BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20221213BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20221213BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20221213BHJP
   C09D 151/06 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C08F255/00
C08L51/06
C09D5/00 D
C09D7/20
C09D151/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018152100
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020026487
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神埜 勝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 仁美
(72)【発明者】
【氏名】矢田 実
(72)【発明者】
【氏名】高本 直輔
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062182(WO,A1)
【文献】特開2016-190941(JP,A)
【文献】特開2009-074047(JP,A)
【文献】特開2011-046777(JP,A)
【文献】特開2005-163030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 255/00-255/10
C08L 51/00-51/10
C09D 5/00
C09D 123/00-123/36
C09D 151/00-151/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)を単量体群(B)で変性した変性物であり、
前記樹脂(A)はポリオレフィン樹脂又はそれを変性した樹脂であり、
前記単量体群(B)は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選択される、1種以上の単量体から構成され、
前記1種以上の単量体をそれぞれ単量体(1)~単量体(n)とし、前記単量体群(B)における単量体(n)の重量割合をWnとし、前記単量体(n)からのホモポリマーのガラス転移温度をTgn(K)とし、前記単量体(n)からのホモポリマーの水酸基価をXn(mgKOH/g)とし、ここで、nは1以上の整数とすると、
下記式(1)及び(2)から算出される単量体群(B)のガラス転移温度Tgが50℃以上80℃以下であり、
下記式(3)から算出される単量体群(B)の水酸基価Xが18mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、変性ポリオレフィン樹脂を含み、
分散媒が水である、水性分散体
【数1】
Tg(℃)=Tg’+273.15 (2)
【数2】
【請求項2】
前記変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が、10,000以上1,000,000以下である、請求項1に記載の水性分散体
【請求項3】
前記樹脂(A)が、カルボン酸により、及び/又は塩素によりポリオレフィン樹脂が変性されている樹脂である、請求項1又は2に記載の水性分散体
【請求項4】
前記樹脂(A)の、単量体群(B)に対する重量比率(樹脂(A)/単量体群(B))が、20/80以上95/5以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性分散体
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水性分散体を含む、プライマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリオレフィン樹脂、水性分散体、及びプライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の低減や製造コスト低減の観点から、自動車の外板部品の材料が、従来の鋼板からプラスチック基材へ置き換わりつつある。プラスチック製の外板部品上に形成された塗膜には、これまで鋼板製の外板上に形成された塗膜に求められていた塗膜性能がそのまま要求される。
【0003】
一方で、プラスチック基材は一般に非極性基材であり、表面自由エネルギーが小さく、更にプラスチック基材が結晶性を有する場合は、特に塗料が付着しにくい。これを解決するために、プラスチック基材との付着が良好な樹脂を含む組成物がプライマーとして用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、プロピレン系ランダム共重合体の変性物と、メタクリル酸エステル単量体とを乳化重合して得られる、水性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-091559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車の外板部品上の塗膜に求められる性能の1つに、高い耐水性が挙げられる。高圧洗車性を評価するための促進試験へ対応する必要があること、及び各季節における温度変化へ対応する必要があること等の理由から、塗膜には、常温の水への耐性だけでなく、温水への高い耐性が求められている。
一方で、環境負荷低減の観点から、溶剤系プライマーよりも水系プライマーが好ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献1などの、従来の(メタ)アクリル酸エステルにより変性された樹脂の水性分散体を使用して得られる塗膜は、外板上の塗膜に求められるような高水準の耐温水性を備えていなかった。
【0008】
したがって、水性分散体としてプラスチック基材上に塗布した場合にも、良好な付着性を有すると同時に高い耐温水性を有する塗膜が得られる、変性ポリオレフィン樹脂;水性分散体;及び、良好な付着性を有すると同時に高い耐温水性を有する塗膜が得られるプライマーが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討した。その結果、本発明者らは、ポリオレフィン樹脂又はそれを変性した樹脂を、ガラス転移温度が所定の温度以上である単量体群で変性した樹脂を用いることにより、高い耐温水性を有する塗膜が得られることを見出した。一方で、本発明者らは、かかるガラス転移温度が所定の温度を超えると、塗膜の基材に対する付着性が不良となることも見出した。本発明者らは、更に検討を進めた結果、意外にも、ガラス転移温度に加えて水酸基価を制御することにより、高い耐温水性及び基材に対する良好な付着性を実現できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明者らは、以下を提供する。
【0010】
[1] 樹脂(A)を単量体群(B)で変性した変性物であり、
前記樹脂(A)はポリオレフィン樹脂又はそれを変性した樹脂であり、
前記単量体群(B)は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選択される、1種以上の単量体から構成され、
前記1種以上の単量体をそれぞれ単量体(1)~単量体(n)とし、前記単量体群(B)における単量体(n)の重量割合をWnとし、前記単量体(n)からのホモポリマーのガラス転移温度をTgn(K)とし、前記単量体(n)からのホモポリマーの水酸基価をXn(mgKOH/g)とし、ここで、nは1以上の整数とすると、
下記式(1)及び(2)から算出される単量体群(B)のガラス転移温度Tgが50℃以上90℃以下であり、
下記式(3)から算出される単量体群(B)の水酸基価Xが17mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である、変性ポリオレフィン樹脂。
【数1】
Tg(℃)=Tg’+273.15 (2)
【数2】
[2] 重量平均分子量が、10,000以上1,000,000以下である、[1]に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[3] 前記樹脂(A)が、カルボン酸により、及び/又は塩素によりポリオレフィン樹脂が変性されている樹脂である、[1]又は[2]に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[4] 前記樹脂(A)の、単量体群(B)に対する重量比率(樹脂(A)/単量体群(B))が、20/80以上95/5以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂及び水を含む、水性分散体。
[6] [1]~[4]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂を含む、プライマー。
【0011】
また本発明は以下を提供する。
[7] 樹脂(A)を単量体群(B)で変性して変性ポリオレフィン樹脂を得ることを含む、変性ポリオレフィン樹脂の製造方法であって、
前記樹脂(A)はポリオレフィン樹脂又はそれを変性した樹脂であり、
前記単量体群(B)は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選択される、1種以上の単量体から構成され、
前記1種以上の単量体をそれぞれ単量体(1)~単量体(n)とし、前記単量体群(B)における単量体(n)の重量割合をWnとし、前記単量体(n)からのホモポリマーのガラス転移温度をTgn(K)とし、前記単量体(n)からのホモポリマーの水酸基価をXn(mgKOH/g)とし、ここで、nは1以上の整数とすると、
下記式(1)及び(2)から算出される単量体群(B)のガラス転移温度Tgが50℃以上90℃以下であり、
下記式(3)から算出される単量体群(B)の水酸基価Xが17mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である、変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【数3】
Tg(℃)=Tg’+273.15 (2)
【数4】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水性分散体としてプラスチック基材上に塗布した場合にも、良好な付着性を有すると同時に高い耐温水性を有する塗膜が得られる、変性ポリオレフィン樹脂;水性分散体;及び、良好な付着性を有すると同時に高い耐温水性を有する塗膜が得られるプライマーを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態により限定されない。
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸若しくはメタクリル酸、又はその両方を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステル、又はその両方を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又はその両方を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート若しくはメタクリレート、又はその両方を意味する。
本明細書において、「組成物」は、1種の成分のみから構成される物及び2種以上の成分を含む物を包含する。
本明細書において、「剤」は、1種の成分のみから構成される物及び2種以上の成分を含む物を包含する。
【0015】
[1.変性ポリオレフィン樹脂]
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、樹脂(A)を単量体群(B)で変性した変性物である。
【0016】
[1.1.樹脂(A)]
樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂又はそれを変性した樹脂である。
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂は、オレフィンの重合体(ポリオレフィン)を含む。ポリオレフィンとしては、重合触媒としてチーグラー・ナッタ触媒又はメタロセン触媒を用いて得られるポリオレフィンが好ましく;重合触媒としてチーグラー・ナッタ触媒又はメタロセン触媒を用いて得られる、ポリプロピレン、又はプロピレンとα-オレフィン(例、エチレン、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ヘプテン)との共重合体がより好ましく;重合触媒としてメタロセン触媒を用いて得られる、ポリプロピレン又はプロピレン系ランダム共重合体が更に好ましく;重合触媒としてメタロセン触媒を用いて得られる、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、又はエチレン-プロピレン-ブテン共重合体が更により好ましい。
【0017】
なお、メタロセン触媒を用いると、得られるポリオレフィンは、分子量分布が狭く、ランダム共重合性に優れ、組成分布が狭く、共重合しうるコモノマーの範囲が広いという特徴を有する。
【0018】
ここで、プロピレン系ランダム共重合体とは、プロピレン及びα-オレフィンをランダム共重合して得られるポリオレフィンをいい、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体が挙げられる。なお、ポリオレフィン樹脂を構成する(共)重合体は、1種単独であってもよく、複数の(共)重合体の組み合わせであってもよい。
【0019】
メタロセン触媒は、公知のものを使用しうる。例えば、下記成分(1)及び成分(2)、更に必要に応じて成分(3)を組み合わせて得られる触媒が挙げられる。中でも、メタロセン触媒は、下記成分(1)及び成分(2)、更に必要に応じて成分(3)を組み合わせて得られる触媒が好ましい。
成分(1):共役五員環配位子を少なくとも1つ有する周期律表4~6族の遷移金属化合物であるメタロセン錯体。
成分(2):イオン交換性層状ケイ酸塩。
成分(3):有機アルミニウム化合物。
【0020】
ポリオレフィン樹脂の構造は、通常の高分子化合物が取り得る、アイソタクチック構造、アタクチック構造、シンジオタクチック構造等のいずれであってもよい。これらの構造の中でも、ポリオレフィン基材への付着性、特に低温乾燥での付着性を考慮すると、メタロセン触媒を用いた場合にとり得る、アイソタクチック構造のポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0021】
ポリオレフィン樹脂の成分組成として、プロピレン構成単位含有率は、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。プロピレン成分が60重量%以上であると、ポリオレフィン基材に対する付着性(密着性、接着性)がより良好となり得る。
【0022】
なお、ポリオレフィン樹脂におけるプロピレン構成単位含有率は、原料におけるプロピレンの使用割合としうるが、NMR解析により算出してもよい。
【0023】
(ポリオレフィン樹脂を変性した樹脂)
樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂を変性して得られる樹脂であってもよい。変性の種類は特に限定されない。樹脂(A)が、ポリオレフィン樹脂を複数種の変性材料により変性して得られる樹脂である場合、複数種の変性材料による変性は、同時に行ってもよく、逐次に行ってもよい。
【0024】
変性は、好ましくはカルボン酸による変性及び/又は塩素による変性である。
【0025】
樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂をカルボン酸により変性して得られる、酸変性ポリオレフィン樹脂であってもよい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂の変性に用いうるカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、α,β-不飽和カルボン酸及びα,β-不飽和カルボン酸の誘導体(例、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸)が挙げられる。中でも、カルボン酸としては、α,β-不飽和カルボン酸の酸無水物又は(メタ)アクリル酸が好ましく、無水マレイン酸又は(メタ)アクリル酸がより好ましい。
【0027】
なお、本明細書において、用語「カルボン酸」は、酸無水物を包含し、「カルボン酸による変性」には、カルボン酸無水物による変性が含まれるものとする。
【0028】
ポリオレフィン樹脂をカルボン酸で変性する場合、カルボン酸による変性度(カルボン酸の含有率)は、好ましくは1.0重量%以上20重量%以下であり、より好ましくは1.5重量%以上15重量%以下であり、更に好ましくは2.5重量%以上10重量%以下である。
なお、カルボン酸による変性度(カルボン酸の含有率)は、公知の方法で測定することができる。例えば、アルカリ滴定法又はフーリエ変換赤外分光法によって求めることができる。
【0029】
ポリオレフィン樹脂をカルボン酸により変性する方法としては、公知の方法を使用しうる。例えば、ポリオレフィン樹脂を溶融し、変性するためのカルボン酸及びラジカル反応開始剤を添加して変性する方法が挙げられる。反応装置には特に限定がなく、例えば、押出機を用いて変性反応を行ってもよい。
【0030】
樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂を塩素により変性して得られる、塩素化ポリオレフィン樹脂であってもよい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂を塩素化する場合、塩素化されたポリオレフィン樹脂の塩素含有率は、10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。塩素含有率の上限は、40重量%以下が好ましく、35重量%以下がより好ましい。塩素含有率が前記範囲内に収まると、得られる変性ポリオレフィン樹脂が、ポリオレフィン基材への付着性に優れるものとなる。
塩素含有率が本範囲にあると、変性ポリオレフィン樹脂が、塩素原子同士の立体反発のため直鎖構造を示し易くなると推測される。そのため、変性ポリオレフィン樹脂が、基材への付着性に優れるものになると推測される。前記推測は、本発明を限定するものではない。
【0032】
なお、塩素含有率は、JIS-K7229に基づいて測定することができる。
【0033】
塩素による変性の方法としては、公知の方法を用いうる。例えば、ポリオレフィン樹脂をクロロホルム等の塩素系溶媒に溶解した後、塩素ガスを吹き込み、塩素を導入する方法が挙げられる。より詳細には、例えば、塩素による変性は、ポリオレフィン樹脂を、水、四塩化炭素、又はクロロホルム等の媒体に分散又は溶解し、触媒の存在下又は紫外線の照射下、加圧又は常圧下、50~140℃の温度範囲で塩素ガスを吹き込むことにより行いうる。
【0034】
塩素化の際に塩素系溶媒を使用した場合、塩素系溶媒は、通常、減圧留去され得、あるいは別の有機溶剤で置換されてもよい。
【0035】
樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂に対して、カルボン酸による変性及び塩素による変性を行って得られる樹脂であってもよい。以下、ポリオレフィン樹脂に対して、カルボン酸による変性及び塩素による変性を行って得られる樹脂を、酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂ともいう。
【0036】
樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂に対して、カルボン酸による変性をまず行い、次いで塩素による変性を行って得られる変性物であってもよいし、ポリオレフィン樹脂に対して、塩素による変性をまず行い、次いでカルボン酸による変性を行って得られる変性物であってもよい。
【0037】
酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を製造する方法としては、例えば、前記方法により得られる酸変性ポリオレフィン樹脂に対して、前記塩素による変性方法により変性を施す方法、又は前記方法により得られる塩素化ポリオレフィン樹脂に対して、前記カルボン酸による変性方法による変性を施す方法が挙げられる。
【0038】
樹脂(A)は、任意の添加剤を含む形態であってもよい。例えば、樹脂(A)は、安定剤を含む形態であってもよい。
【0039】
任意の安定剤としては、例えば、エポキシ化合物;ポリ塩化ビニル樹脂の安定剤として使用されている、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛等の金属石鹸類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート等の有機金属化合物類;ハイドロタルサイト化合物類が挙げられる。
【0040】
エポキシ化合物としては、特に限定されないが、樹脂(A)と相溶することができるエポキシ化合物が好ましい。例えば、エポキシ当量が100から500程度で、1分子あたり1個以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0041】
そのようなエポキシ化合物としては、例えば、天然の不飽和基を有する植物油を、過酢酸等の過酸でエポキシ化して得られるエポキシ化植物油(エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等);オレイン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の、不飽和脂肪酸をエポキシ化したエポキシ化脂肪酸エステル類;エポキシ化テトラヒドロフタレート等のエポキシ化脂環式化合物;ビスフェノールA又は多価アルコールとエピクロルヒドリンとを縮合して得られる、例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等のエーテル類;ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェノールポリエチレンオキサイドグリシジルエーテル等に代表される、モノエポキシ化合物類が挙げられる。
【0042】
安定剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0043】
樹脂(A)を任意の安定剤を含む形態として単量体群(B)により変性する場合、樹脂(A)に対する安定剤の重量比率は、1~20重量%(固形分換算)であることが好ましい。
【0044】
樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは10,000以上である。重量平均分子量が10,000以上であると、得られる変性ポリオレフィン樹脂を含む組成物の凝集力が十分であり、樹脂組成物が基材への付着性に優れるものとなりうる。また、その上限は、好ましくは150,000以下である。重量平均分子量が150,000以下であると、得られる変性ポリオレフィン樹脂に他の樹脂を配合して樹脂組成物とした場合に、変性ポリオレフィン樹脂と他の樹脂との相溶性が良好となり、樹脂組成物が基材への付着性に優れるものとなりうる。
【0045】
なお、樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めうる。
【0046】
[1.2.単量体群(B)]
単量体群(B)は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選択される、1種以上の単量体から構成される。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステルは、分子内に、(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個含み、好ましくは1個含む。
【0048】
(単量体群(B)のガラス転移温度)
単量体群(B)のガラス転移温度Tgは、通常50℃以上90℃以下であり、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上であり、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下である。
単量体群(B)のガラス転移温度Tgが、前記下限値以上であることにより、塗膜を温水に浸漬した後における、塗膜の基材への付着性(接着性、密着性)が良好となり、塗膜の耐温水性が向上しうる。その理由としては、単量体群(B)のガラス転移温度Tgが、温水の温度以上であると、塗膜を温水に浸漬した場合に、塗膜の軟化が抑制されて塗膜と基材との密着性が向上するためと考えられる。ただし、前記理由は本発明を限定するものではない。
【0049】
単量体群(B)のガラス転移温度Tgが、前記上限値以下であることにより、塗膜に適度な柔軟性が付与されて、塗膜の基材への付着性(接着性、密着性)が良好となる。
【0050】
ここで、単量体のガラス転移温度Tgは、下記式(1)及び(2)から算出される値である。下記式(1)はFOX式と呼ばれる。
【0051】
【数5】
【0052】
Tg(℃)=Tg’+273.15 (2)
【0053】
前記式(1)において、
Wnは、単量体群(B)を構成する単量体をそれぞれ単量体(1)~単量体(n)とした場合の、単量体群(B)における単量体(n)の重量割合を表し、
Tgnは、単量体(n)からのホモポリマーのガラス転移温度(K)を表す。
単量体群(B)を構成する単量体のそれぞれの重量割合の合計は、1とする。
【0054】
単量体(n)からのホモポリマーのガラス転移温度は、ポリマーハンドブック(Wiley-Interscience Publication、4th Edition, 1999)及び製品データに掲載されているTgを用いうる。
【0055】
実施例における単量体群(B)のガラス転移温度(℃)も、前記式(1)及び(2)により算出された値である。
【0056】
(単量体群(B)の水酸基価)
単量体群(B)の水酸基価Xは、通常17mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であり、好ましくは18mgKOH/g以上、より好ましくは19mgKOH/g以上であり、好ましくは45mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下である。
水酸基価Xが、前記範囲内に収まることにより、変性ポリオレフィン樹脂の含水媒体に対する分散性が良好となり、変性ポリオレフィン樹脂を、安定な水性分散体としうる。
【0057】
水酸基価Xが、前記下限値以上であることにより、変性ポリオレフィン樹脂をプライマーの成分として用いた場合に、上塗り塗料の基材への付着性(密着性)が向上する。
その理由としては、変性ポリオレフィン樹脂と上塗り塗料中の成分との間で、架橋反応などの相互作用が生じるためと考えられる。相互作用の例としては、上塗り塗料中に硬化剤として多用されるイソシアネート成分との架橋反応が挙げられる。ただし、前記理由は本発明を限定するものではない。
【0058】
水酸基価Xが、前記上限値以下であることにより、単量体群(B)のガラス転移温度を適度な温度として、塗膜の耐温水性を向上させうる。また、変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体の安定性が良好となる。
その理由としては、以下が考えられる。水酸基価Xが、前記上限値を超えると、変性ポリオレフィン樹脂を水性分散体とした場合に、分散粒子の表面に現れたヒドロキシ基が互いに相互作用して、分散粒子が互いに会合すると考えられる。したがって、水酸基価Xが前記上限値以下であると、分散粒子の会合が抑制されて、水性分散体の安定性が良好になると考えられる。ただし、前記理由は本発明を限定するものではない。
【0059】
ここで、水酸基価Xは、下記式(3)から算出される値である。
【0060】
【数6】
【0061】
前記式(3)において、
Wnは前記式(1)における定義と同様であり、
Xnは、単量体(n)からのホモポリマーの水酸基価(mgKOH/g)を表す。
【0062】
単量体(n)からのホモポリマーの水酸基価は、通常、単量体(n)における水酸基価の値と同値である。水酸基価は、通常、単量体1g中の水酸基量(mol)を、水酸化カリウムの重量に換算することで求められる。
【0063】
通常、単量体群(B)において、水酸基価の大きい単量体の含有率を大きくすることにより、水酸基価Xを大きくでき、水酸基価の大きい単量体の含有率を小さくすることにより水酸基価Xを小さくできる。
【0064】
実施例における、単量体群(B)の水酸基価も、前記式(3)により算出された値である。
【0065】
単量体群(B)を構成しうる、(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシシリル基、アミド基、スルファニル基などの官能基を有していてもよい。(メタ)アクリル酸エステルは、エステル基(-(C=O)-O-で表される基)及び炭素-炭素二重結合以外に、官能基を、1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。ここで、アミド基とは、アミドから窒素原子に結合した水素原子を1個除いた残りの原子団を意味する。
(メタ)アクリル酸エステルが、エステル基(-(C=O)-O-で表される基)及び炭素-炭素二重結合以外に、官能基を有することにより、塗膜の基材への付着性(密着性)を向上させうる。
【0066】
単量体群(B)は、エステル基及び炭素-炭素二重結合以外の官能基として、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。
【0067】
単量体群(B)を構成しうる、(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、及びネオペンチルグリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0068】
[1.3.樹脂(A)/単量体群(B)]
樹脂(A)の、単量体群(B)に対する重量比率(樹脂(A)/単量体群(B))は、好ましくは20/80以上、より好ましくは30/70以上であり、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下であり、更に好ましくは70/30以下であり、好ましくは20/80以上95/5以下であり、より好ましくは30/70以上90/10以下である。
樹脂(A)の単量体群(B)に対する重量比率が、上記範囲に収まることにより、塗膜の基材への付着性(密着性)が優れたものとなり、耐温水性が向上する。
【0069】
[1.4.変性方法]
樹脂(A)を、単量体群(B)で変性する方法としては、特に限定はなく、従前公知の方法を用いうる。例えば、変性方法として、下記の、溶液法、溶融法、及び乳化重合のいずれも採用しうる。
【0070】
(溶液法)
溶液法では、有機溶剤中に樹脂(A)を分散させ、樹脂(A)を単量体群(B)により変性する。
溶液法によれば、副反応が少なく、また均一なグラフト重合物を得ることができる。
具体的な操作を以下に例示する。まず、樹脂(A)を有機溶剤に溶解し、次いで反応開始剤(ラジカル発生剤)の存在下、樹脂(A)を単量体群(B)と共に加熱撹拌して変性ポリオレフィン樹脂を得る。
【0071】
溶液法において用いる有機溶剤の例としては、芳香族炭化水素溶剤(例、トルエン、キシレン)が挙げられる。溶液法における反応温度は、好ましくは60℃以上180℃以下である。
【0072】
(溶融法)
溶融法では、樹脂(A)を加熱溶融し、樹脂(A)を単量体群(B)により変性する。
溶融法によれば、操作が簡便であり、反応時間を他の方法と比較して短くしうる。
具体的な操作を以下に例示する。樹脂(A)及び反応開始剤(ラジカル発生剤)を加熱融解(加熱溶融)し、単量体群(B)と反応させて変性ポリオレフィン樹脂を得る。
【0073】
溶融法における加熱融解の温度は、通常樹脂(A)の融点以上であり、好ましくは樹脂(A)の融点以上300℃以下である。加熱融解は、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機などの従前公知の機器を用いうる。
【0074】
(乳化重合)
乳化重合によれば、変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量を容易に大きくでき、塗膜の基材への付着性(密着性)を効果的に向上させうる。
具体的な操作を以下に例示する。樹脂(A)の水性分散体、反応開始剤(ラジカル発生剤)、界面活性剤、及び助剤を混合して得られる組成物を調製し、単量体群(B)を添加して反応させ、変性ポリオレフィン樹脂を得る。
【0075】
樹脂(A)の水性分散体は、後述する変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体と、同様の調製方法、同様の界面活性剤、同様の助剤を用いて調製しうる。
【0076】
樹脂(A)を単量体群(B)により変性する際に用いられうる反応開始剤(ラジカル発生剤)としては、例えば、有機過酸化物を含む組成物、アゾニトリル類を含む組成物、及び過硫酸塩を含む組成物が挙げられる。
【0077】
有機過酸化物としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、及びクミルパーオキシオクトエートが挙げられる。
【0078】
アゾニトリル類としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、及び1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)が挙げられる。
【0079】
過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸カリウムが挙げられる。
【0080】
反応開始剤として、市販品を利用しうる。市販品としては、例えば、日本油脂社製「パーブチルO」が挙げられる。
【0081】
反応開始剤(ラジカル発生剤)として、ラジカル重合を行う温度に応じて、適切な半減期温度を有する物を適宜選択できる。また、反応開始剤として、反応媒体(例えば、有機溶媒、水)に対して適切な溶解性を有する物を適宜選択できる。
【0082】
[1.5.変性ポリオレフィン樹脂]
変性ポリオレフィン樹脂は、変性されたオレフィン重合体以外の物質を含んでいてもよい。
例えば、変性ポリオレフィン樹脂は、原料であるポリオレフィン樹脂を変性した際に生じ得る副生成物、樹脂(A)を単量体群(B)により変性した際に生じ得る副生成物、変性反応の際の未反応原料などを含んでいてもよい。
【0083】
変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは200,000以下である。
【0084】
変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が、前記下限値以上であることにより、変性ポリオレフィン樹脂の凝集力が十分なものとなり、樹脂が基材への付着性に優れるものとなりうる。
変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が、前記上限値以下であることにより、変性ポリオレフィン樹脂に他の樹脂を配合して樹脂組成物とした場合に、変性ポリオレフィン樹脂と他の樹脂との相溶性が良好となり、樹脂組成物が基材への付着性に優れる物となりうる。
【0085】
なお、変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めうる。
【0086】
[2.変性ポリオレフィン樹脂の用途]
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、金属及び/又は樹脂用の接着剤、プライマー、塗料用バインダー、インキ用バインダー等として用いられうる。中でも、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、プラスチック基材への付着性が良好であり、耐温水性に優れる塗膜を形成しうるプライマーを提供しうるので、自動車のプラスチック基材塗料用バインダー、自動車のプラスチック基材塗装用プライマーとして有用である。
【0087】
[3.樹脂組成物]
変性ポリオレフィン樹脂は、任意の溶媒(分散媒を含む)、任意の添加剤などの、他の成分を含む樹脂組成物の形態としうる。
【0088】
[3.1.水性分散体]
例えば、変性ポリオレフィン樹脂は、水を含む溶媒中に樹脂が分散している、水性分散体の形態としうる。
【0089】
(水性分散体が含みうる成分)
水性分散体は、変性ポリオレフィン樹脂及び水を含み、必要に応じて任意の成分を含む。任意の成分としては、例えば、有機溶剤、界面活性剤、助剤、及び架橋剤が挙げられる。任意の成分については、後で更に述べる。
【0090】
(水性分散体を得る方法)
変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体を得る方法としては、例えば、変性ポリオレフィン樹脂を、水を含む分散媒に分散させる方法、及び樹脂(A)を水性分散体の形態で単量体群(B)と乳化重合させて、変性ポリオレフィン樹脂を水性分散体として直接得る方法が挙げられる。
【0091】
樹脂(A)及び変性ポリオレフィン樹脂を水性分散体とする方法としては、従前公知の方法を用いることができ、例えば、強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、及びゲル乳化法が挙げられる。
【0092】
具体的には、例えば、樹脂(A)又は変性ポリオレフィン樹脂を有機溶剤中に分散させ、次いで界面活性剤、助剤、及び水を加えて水性分散体とする方法が挙げられ、更に具体的には、例えば、有機溶剤中に分散させた樹脂(A)又は変性ポリオレフィン樹脂に対し、水以外の成分(界面活性剤、助剤など)を添加して混合後、水を添加する方法が挙げられる。
【0093】
水以外の成分を添加し混合する際には、必要に応じて加熱(例えば50~200℃)してもよい。水を添加した後、必要に応じて、組成物の固形分を調整してもよい(例えば15~50wt%)。
【0094】
(界面活性剤)
水性分散体は、界面活性剤を含んでいてもよく、好ましくは界面活性剤を含む。
界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤が挙げられ、塗膜の耐水性を良好に保持しうるので、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0095】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンであり、特に好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。前記ノニオン界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0096】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、メチルタウリン塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、及びアルキルアミンオキシドが挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及びスルホコハク酸塩である。前記アニオン界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0097】
前記の界面活性剤の添加量は、樹脂(A)又は変性ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、0.1重量部~20重量部であることが好ましく、0.1重量部~10重量部であることがより好ましい。界面活性剤の添加量が、前記上限値以下であると、水性分散体から得られる塗膜の付着性(密着性)及び耐水性が向上し、また塗膜の可塑性を抑制し、界面活性剤のブリードを抑制して塗膜のブロッキングの発生を抑制しうる。
【0098】
界面活性剤として、前記のノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤に代えて、又は加えて、グリコールモノアルキルエーテル化合物を用いてもよい。前記化合物は、一分子中に疎水基と親水基とを併せ持つため、樹脂成分を容易に水中に分散又は乳化させることができ、得られる水性分散体が良好な保存安定性を保持しうる。
【0099】
グリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノデシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、及びプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルがより好ましい。
【0100】
グリコールモノアルキルエーテル化合物の分子量は、好ましくは200未満である。これにより、水性分散体の沸点の上昇を抑えることができるので、水性分散体又は水性分散体を含むプライマーなどから得られる塗膜を乾燥する工程において、乾燥時間を短く、また乾燥温度を低くしうる。
【0101】
グリコールモノアルキルエーテル化合物は、1種単独であってもよいし、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0102】
(助剤)
樹脂(A)が、カルボン酸により変性されている樹脂である場合は、塩基性物質を助剤として水性分散体に添加することが好ましい。これにより、樹脂成分におけるカルボキシ基が適度に中和され、樹脂成分が水中に分散しやすくなるために、水性分散体の保存安定性が良好なものとなりうる。
【0103】
塩基性物質としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、イソブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピペラジン類、ピロール、ピリジン、アルカリ金属化合物(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、アルカリ土類金属化合物(例、水酸化マグネシウム)が挙げられる。中でも、乳化及び分散化の容易さの観点から、モルホリン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが好ましい。
【0104】
塩基性物質の常圧時の沸点は、200℃以下であることが好ましい。これにより、例えば、水性分散体又は水性分散体を含むプライマーなどから得られる塗膜を乾燥する工程において、塩基性物質を低温で容易に除去することができ、低温で塗膜を乾燥させた場合の塗膜の耐水性、耐湿性、非極性樹脂成型品等の基材との付着性(接着性)などを良好なものとしうる。
【0105】
塩基性物質は、1種単独であってもよいし、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。
【0106】
水性分散体のpHは、好ましくは6以上であり、好ましくは12以下である。これにより、樹脂と水性分散体に配合されうる他成分との相溶性が良好となり、水性分散体から得られる塗膜の耐水性、耐湿性が向上する。また水性分散体の調製作業を容易に行いうる。
【0107】
水性分散体において、水中に分散、乳化した樹脂(A)又は変性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径は、0.3μm以下であることが好ましい。これにより、水性分散体の貯蔵安定性が良好となり、また樹脂と水性分散体に配合されうる他成分との相溶性が良好となる。また、水性分散体から得られる塗膜の特性(例えば、非極性樹脂成型品等の基材への付着性、耐溶剤性、耐水性、耐湿性、耐ブロッキング性)が良好となる。
【0108】
本明細書において、平均粒子径は、動的光散乱法を用いた粒度分布測定により測定でき、その際の測定機器としては、例えば、マルバーン社製「ゼータサイザー」を用いうる。
【0109】
水性分散体は、架橋剤を含んでいてもよい。ここで、架橋剤とは、変性ポリオレフィン樹脂、塩基性物質等に存在するヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基等の官能基と反応し、架橋構造を形成する化合物を意味する。
【0110】
架橋剤は、水溶性であってもよいし、又は何らかの方法で水に分散されている形態であってもよい。
【0111】
架橋剤としては、例えば、ブロックイソシアネート化合物、脂肪族又は芳香族のエポキシ化合物、アミン系化合物、及びアミノ樹脂が挙げられる。架橋剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の任意の比率の組み合わせであってもよい。架橋剤の添加時期は、特に限定されず、例えば、変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体に分散させる工程(水性化工程)の途中、又は水性化工程の後が挙げられる。
【0112】
[3.2.水性分散体の用途]
変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体は、プラスチック基材への付着性が良好であり、耐温水性に優れる塗膜を形成しうるので、例えば、自動車のプラスチック基材塗料用バインダー、自動車のプラスチック基材塗装用プライマーとして有用である。
【0113】
「4.変性ポリオレフィン樹脂の製造方法]
本実施形態に係る、変性ポリオレフィン樹脂の製造方法は、樹脂(A)を単量体群(B)で変性して変性ポリオレフィン樹脂を得ることを含む。
樹脂(A)及び単量体群(B)の例及び好ましい例は、前記[1.変性ポリオレフィン樹脂]の項で説明した例及び好ましい例と同様である。
樹脂(A)を単量体群(B)で変性する方法の例及び好ましい例については、前記[1.4.変性方法]で説明した例及び好ましい例と同様である。
【実施例
【0114】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。また、「部」は、特に断りがない限り、重量換算である。
【0115】
[重量平均分子量(Mw)]:
GPCにより、下記条件に従い測定した。
装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム:TSK-gel G-6000 H×L,G-5000 H×L,G-4000 H×L,G-3000 H×L,G-2000 H×L(東ソー社製)
溶離液:THF
流速:1mL/min
温度:ポンプオーブン、カラムオーブン40℃
注入量:100μL
標準物質:ポリスチレン EasiCal PS-1(Agilent Technology社製)
【0116】
[無水マレイン酸による変性度(%)]
アルカリ滴定法を用いて、JIS K 0070に準じた方法で測定を行った。
【0117】
[樹脂(A)の単量体群(B)に対する重量比率]
各成分の使用量より算出した。
【0118】
<試験片の作製>
超高剛性ポリプロピレン板の表面をイソプロピルアルコールで脱脂し、乾燥塗膜が10μm以上15μm以下となるよう変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体をスプレー塗装し、樹脂の融点+15℃で5分間プレヒートを行った。次に、該変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を含む1K水系ベースをスプレー塗装し10分静置後、2K水系クリアーを塗装した。その後、樹脂の融点+15℃で30分間の焼付け処理を行い、試験片を作製した。
この試験片を用いて以下の試験を行った。
【0119】
[耐温水性試験]:
試験片を60℃の恒温水槽に1ヶ月間浸漬した後、塗膜表面にセロハン粘着テープを密着させて180°方向に引き剥がし、引き剥がした後の塗膜の剥離を以下に示す基準で評価した。
A:塗膜の剥離がない。
B:剥離した塗膜の面積が1%より多く10%以下である。
C:剥離した塗膜の面積が10%より多く50%以下である。
D:剥離した塗膜の面積が50%より多い。
【0120】
[付着性試験]:
試験片の塗膜に1mm間隔で素地に達する線状の刻みを縦横に入れて、100個の区画(碁盤目)を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて180°方向に引き剥がした。セロハン粘着テープを密着させて引き剥がす操作を同一の100個の区画につき10回行い、付着性(接着性)を以下に示す基準で評価した。剥離した塗膜の区画が50個以下であれば、実用上問題はない。
A:塗膜の剥離がない。
B:剥離した塗膜の区画が1個以上10個以下である。
C:剥離した塗膜の区画が10個より多く50個以下である。
D:剥離した塗膜の区画が50個より多い。
【0121】
[耐ガソホール性試験]
試験片を、レギュラーガソリン/エタノール=9/1(v/v)に120分浸漬し、塗膜の状態を観察し、耐ガソホール性を以下に示す基準で評価した。塗膜表面に剥離が生じていなければ、実用上問題はない。
A:塗膜表面に変化がない。
B:塗膜表面にわずかに変化がみられるが剥離はみられない。
C:塗膜表面に変化がみられるが剥離は生じていない。
D:塗膜表面に剥離が生じている。
【0122】
[総合評価]
上記試験(耐温水性試験、付着性試験、耐ガソホール試験)それぞれにおいて、試験結果がA~Cの範囲内であれば、実用上問題は無い。一項目でも試験結果がDであれば、実用に適さない。
【0123】
[製造例1:樹脂(A)としての酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)の製造]:
メタロセン触媒を重合触媒として製造した、ポリオレフィン樹脂としてのプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン構成単位含有率:96重量%、エチレン構成単位含有率:4重量%)100部、及びカルボン酸(α,β-不飽和カルボン酸環状無水物)としての無水マレイン酸10部、反応開始剤(ラジカル発生剤)としてのジ-t-ブチルパーオキサイド2部を、均一に混合し、二軸押出機(L/D=60、直径=15mm、第1バレル~第14バレル)に供給した。
【0124】
滞留時間が10分、回転数200rpm、バレル温度が100℃(第1、2バレル)、200℃(第3~8バレル)、90℃(第9、10バレル)、110℃(第11~14バレル)の条件で反応を行った。その後、減圧処理を行って未反応の無水マレイン酸を除去し、無水マレイン酸で変性した酸変性ポリプロピレン樹脂を得た。
【0125】
該酸変性ポリプロピレン樹脂100部を、グラスライニングされた反応釜に投入した。クロロホルムを加え、2kgf/cmの圧力下、温度110℃で樹脂を十分に溶解した後、反応開始剤(ラジカル発生剤)としてのアゾビスイソブチロニトリル2部を加え、上記釜内圧力を2kgf/cmに制御しながら塩素ガスを吹き込み、塩素化を行った。
【0126】
反応終了後、安定剤としてエポキシ化合物(エポサイザーW-100EL、大日本インキ化学工業社製)を6部添加し、スクリューシャフト部に脱溶剤用吸引部を備えたベント付き押出機に供給し、脱溶剤し、固形化し、酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂としての、酸変性塩素化ポリプロピレン樹脂を得た。得られた酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が150,000であり、無水マレイン酸による変性度が10重量%であり、塩素含有率が35重量%であった。
【0127】
[製造例2:樹脂(A)としての塩素化ポリオレフィン樹脂(A-2)の製造]:
メタロセン触媒を重合触媒として製造した、ポリオレフィン樹脂としてのプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン構成単位含有率:80重量%、エチレン構成単位含有率:20重量%)100部を、グラスライニングされた反応釜に投入した。クロロホルムを加え、2kgf/cmの圧力下、温度110℃で樹脂を十分に溶解した後、ラジカル発生剤としてのアゾビスイソブチロニトリル4部を加え、上記釜内圧力を3kgf/cmに制御しながら塩素ガスを吹き込み、塩素化を行った。
【0128】
反応終了後、安定剤としてエポキシ化合物(エポサイザーW-100EL、大日本インキ化学工業社製)を6部添加し、スクリューシャフト部に脱溶剤用吸引部を備えたベント付き押出機に供給し、脱溶剤し、固形化し、塩素化ポリプロピレン樹脂(A-2)を得た。得られた塩素化ポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が10,000であり、塩素含有率が15重量%であった。
【0129】
[製造例3:樹脂(A)としての酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)の製造]:
メタロセン触媒を重合触媒として製造した、ポリオレフィン樹脂としてのプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン構成単位含有率:80重量%、エチレン構成単位含有率:20重量%)100部、及びカルボン酸(α,β-不飽和ポリカルボン酸環状無水物)としての無水マレイン酸5部、反応開始剤(ラジカル発生剤)としてのジ-t-ブチルパーオキサイド6部を、均一に混合し、二軸押出機(L/D=60、直径=15mm、第1バレル~第14バレル)に供給した。
【0130】
滞留時間が10分、回転数200rpm、バレル温度が100℃(第1、2バレル)、200℃(第3~8バレル)、90℃(第9、10バレル)、110℃(第11~14バレル)の条件で反応を行った。その後、減圧処理を行って未反応の無水マレイン酸を除去し、無水マレイン酸で変性した酸変性ポリプロピレン樹脂を得た。得られた酸変性ポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が10,000であり、無水マレイン酸による変性度が2重量%であった。
【0131】
[製造例4:樹脂(A)としてのポリオレフィン樹脂(A-4)の製造]:
メタロセン触媒を重合触媒として製造した、ポリオレフィン樹脂としてのプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン構成単位含有率:80重量%、エチレン構成単位含有率:20重量%)100部、及びラジカル発生剤としてのジ-t-ブチルパーオキサイド6部を、均一に混合し、二軸押出機(L/D=60、直径=15mm、第1バレル~第14バレル)に供給した。
【0132】
滞留時間が10分、回転数200rpm、バレル温度が100℃(第1、2バレル)、200℃(第3~8バレル)、90℃(第9、10バレル)、110℃(第11~14バレル)の条件で反応を行い、ポリオレフィン樹脂(A-4)を得た。得られたポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が10,000であった。
【0133】
製造例1~4で製造した(変性)ポリオレフィン樹脂の一覧を下記表1に記す。
【0134】
【表1】
【0135】
[実施例1:樹脂(C-1)の水性分散体の製造]
(酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)の(メタ)アクリル酸エステル変性)
樹脂(A)としての酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)100部を、トルエン50部に溶解し、エポキシ化合物(エポサイザーW-131、DIC社製)5部を加えた。これに、窒素雰囲気中、85℃で、パーオキシエステル系過酸化物(パーブチルO、日本油脂社製)5.5部を加えた。その後、表2に記載の成分B-1で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体(シクロヘキシルメタクリレート41.1部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.7部)を添加し、85℃にて6時間反応を行って変性ポリオレフィン樹脂(C-1)を得た。なお、変性ポリオレフィン樹脂(C-1)の重量平均分子量は200,000であった。
【0136】
(樹脂(C-1)の水性分散体の調製)
反応終了後の反応溶液100部に対し、プロピレングリコールモノメチルエーテル50部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-1)を得た。水性分散体組成物(D-1)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-1)に対して1重量%以下であった。
【0137】
[実施例2:樹脂(C-2)の水性分散体の製造]
(塩素化ポリオレフィン樹脂(A-2)の(メタ)アクリル酸エステル変性)
樹脂(A)としての塩素化ポリオレフィン樹脂(A-2)100部を、トルエン50部に溶解し、エポキシ化合物(エポサイザーW-131、DIC社製)5部を加えた。これに、窒素雰囲気中、85℃で、パーオキシエステル系過酸化物(パーブチルO、日本油脂社製)5.5部を加えた。その後、表2に記載の成分B-2で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体(メタクリル酸シクロヘキシル8.9部、アクリル酸2-メトキシエチル1.3部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.9部)を添加し、85℃にて6時間反応を行って変性ポリオレフィン樹脂(C-2)を得た。なお、変性ポリオレフィン樹脂(C-2)の重量平均分子量は20,000であった。
【0138】
(樹脂(C-2)の水性分散体の調製)
反応終了後の反応溶液100部に対し、プロピレングリコールモノメチルエーテル50部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-2)を得た。水性分散体組成物(D-2)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、水性分散体組成物(D-2)に対して1重量%以下であった。
【0139】
[実施例3:樹脂(C-3)の水性分散体の製造]
(酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)の水性分散体の調製)
樹脂(A)としての酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)100部とトルエン25部とを、90℃で30分間溶融・混練し、プロピレングリコールモノメチルエーテル75部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂の水性分散体(A-1a)を得た。水性分散体(A-1a)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、水性分散体(A-1a)に対して1重量%以下であった。
【0140】
(酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂の水性分散体(A-1a)の乳化重合)
酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂の水性分散体(A-1a)333部に、イオン交換水350部、ラウリル硫酸ナトリウム4.0g、過硫酸アンモニウム4.0部を添加し、窒素雰囲気下で70℃に加温後、表2に記載の組成B-3で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体(メタクリル酸シクロヘキシル129部、メタクリル酸n-ブチル96.0部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル9.7部)を約45分かけて添加し、70℃で6時間保持し、変性ポリオレフィン樹脂(C-3)の分散液を得た。(C-3)の分散液を冷却、脱イオン水を適量添加後ブローして、固形分約30%の変性ポリオレフィン樹脂(C-3)の水性分散体組成物(D-3)を得た。
変性ポリオレフィン樹脂(C-3)の重量平均分子量は、1,000,000であった。
【0141】
[実施例4:樹脂(C-4)の水性分散体の製造]
(ポリオレフィン樹脂(A-4)の(メタ)アクリル酸エステル変性)
ポリオレフィン樹脂(A-4)100部を、トルエン50部に溶解し、エポキシ化合物(エポサイザーW-131、DIC社製)5部を加えた。これに、窒素雰囲気中、85℃で、パーオキシエステル系過酸化物(パーブチルO、日本油脂社製)5.5部を加えた。その後、表2に記載の組成B-1で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体(シクロヘキシルメタクリレート41.1部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.7部)を添加し、85℃にて6時間反応を行って変性ポリオレフィン樹脂(C-4)を得た。なお、変性ポリオレフィン樹脂(C-4)の重量平均分子量は20,000であった。
【0142】
(変性ポリオレフィン樹脂(C-4)の水性分散体の調製)
反応終了後の反応溶液100部に対し、プロピレングリコールモノメチルエーテル50部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-4)を得た。水性分散体組成物(D-4)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-4)に対して1重量%以下であった。
【0143】
[実施例5:樹脂(C-5)の水性分散体の製造]
(酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)の(メタ)アクリル酸エステル変性)
酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)100部を、トルエン50部に溶解し、エポキシ化合物(エポサイザーW-131、DIC社製)5部を加えた。これに、窒素雰囲気中、85℃で、パーオキシエステル系過酸化物(パーブチルO、日本油脂社製)5.5部を加えた。その後、表2に記載の組成B-1で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体(シクロヘキシルメタクリレート41.1部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1.7部)を添加し、85℃にて6時間反応を行って変性ポリオレフィン樹脂(C-5)を得た。なお、変性ポリオレフィン樹脂(C-5)の重量平均分子量は10,000であった。
【0144】
(樹脂(C-5)の水性分散体の調製)
反応終了後の反応溶液100部に対し、プロピレングリコールモノメチルエーテル50部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-5)を得た。水性分散体組成物(D-5)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-5)に対して1重量%以下であった。
【0145】
[比較例1:樹脂(C-6)の水性分散体の製造]
変性ポリオレフィン樹脂(A-1)の(メタ)アクリル酸エステル変性
酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)100部を、トルエン50部に溶解し、エポキシ化合物(エポサイザーW-131、DIC社製)5部を加えた。これに、窒素雰囲気中、85℃で、パーオキシエステル系過酸化物(パーブチルO、日本油脂社製)5.5部を加えた。その後、表2に記載の組成B-4で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体(メタクリル酸n-ブチル21.4部、アクリル酸2-メトキシエチル21.4部)を添加し、85℃にて6時間反応を行って変性ポリオレフィン樹脂(C-6)を得た。なお、変性ポリオレフィン樹脂(C-6)の重量平均分子量は200,000であった。
【0146】
(樹脂(C-6)の水性分散体の調製)
反応終了後の反応溶液100部に対し、プロピレングリコールモノメチルエーテル50部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-6)を得た。水性分散体組成物(D-6)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-6)に対して1重量%以下であった。
【0147】
[比較例2:樹脂(C-7)の水性分散体の製造]
(酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)の(メタ)アクリル酸エステル変性)
酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)100部を、トルエン50部に溶解し、エポキシ化合物(エポサイザーW-131、DIC社製)5部を加えた。これに、窒素雰囲気中、85℃で、パーオキシエステル系過酸化物(パーブチルO、日本油脂社製)5.5部を加えた。その後、表2に記載の成分B-5で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体(メタクリル酸シクロヘキシル19.7部、メタクリル酸n-ブチル21.4部、アクリル酸2―ヒドロキシエチル1.7部)を添加し、85℃にて6時間反応を行って変性ポリオレフィン樹脂(C-7)を得た。なお、変性ポリオレフィン樹脂(C-7)の重量平均分子量は190,000であった。
【0148】
(樹脂(C-7)の水性分散体の調製)
反応終了後の反応溶液100部に対し、プロピレングリコールモノメチルエーテル50部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-7)を得た。水性分散体組成物(D-7)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-7)に対して1重量%以下であった。
【0149】
[比較例3:樹脂(C-8)の水性分散体の製造]
(酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)の(メタ)アクリル酸エステル変性)
酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)100部を、トルエン50部に溶解し、エポキシ化合物(エポサイザーW-131、DIC社製)5部を加えた。これに、窒素雰囲気中、85℃で、パーオキシエステル系過酸化物(パーブチルO、日本油脂社製)5.5部を加えた。その後、表2に記載の成分B-6で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体(メタクリル酸メチル41.1部、アクリル酸2―ヒドロキシエチル1.7部)を添加し、85℃にて6時間反応を行って変性ポリオレフィン樹脂(C-8)を得た。なお、変性ポリオレフィン樹脂(C-8)の重量平均分子量は200,000であった。
【0150】
(樹脂(C-8)の水性分散体の調製)
反応終了後の反応溶液100部に対し、プロピレングリコールモノメチルエーテル50部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-8)を得た。水性分散体組成物(D-8)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-8)に対して1重量%以下であった。
【0151】
[比較例4:樹脂(C-9)の水性分散体の製造]
(酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)の(メタ)アクリル酸エステル変性)
酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂(A-1)100部を、トルエン50部に溶解し、エポキシ化合物(エポサイザーW-131、DIC社製)5部を加えた。これに、窒素雰囲気中、85℃で、パーオキシエステル系過酸化物(パーブチルO、日本油脂社製)5.5部を加えた。その後、表2に記載の成分B-7で表される、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステル(メタクリル酸シクロヘキシル38.1部、アクリル酸2―ヒドロキシエチル4.7部)を添加し、85℃にて6時間反応を行って変性ポリオレフィン樹脂(C-9)を得た。なお、変性ポリオレフィン樹脂(C-9)の重量平均分子量は210,000であった。
【0152】
(樹脂(C-9)の水性分散体の調製)
反応終了後の反応溶液100部に対し、プロピレングリコールモノメチルエーテル50部及び2-アミノー2-メチルー1-プロパノール7部を添加した。90℃で撹拌下、90℃の脱イオン水300部を60分かけて添加し、トルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルの一部を、減圧下にて除去した。室温まで撹拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整して、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-9)を得た。水性分散体組成物(D-9)中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-9)に対して1重量%以下であった。変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体組成物(D-9)は、調製後1日で大きく増粘、固化したため、物性試験に供することができなかった。
【0153】
樹脂(A)を変性処理した際の、単量体群(B)としての(メタ)アクリル酸エステルの組成比を表2に記す。
【0154】
【表2】
【0155】
表2の略称を以下に記す。
MMA:メタクリル酸メチル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
nBMA:メタクリル酸n―ブチル
2MTA:アクリル酸2-メトキシエチル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
【0156】
調製した樹脂の水性分散体について、試験片を作製し、耐温水性試験、付着性試験、耐ガソホール性試験を行った。評価結果を併せて表3及び表4に記す。
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
以上の結果によれば、単量体群(B)のガラス転移温度Tgが50℃以上90℃以下であり、かつ水酸基価が17mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である、実施例1~5に係る変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体は、耐温水性、付着性、及び耐ガソホール性のいずれの評価も良好であることが分かる。
【0160】
一方、単量体群(B)のガラス転移温度Tgが、50℃未満である、比較例1、比較例2に係る変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体は、耐温水性、付着性、及び耐ガソホール性のいずれかの評価が不良であり、実用に適さない。
また、単量体群(B)のガラス転移温度Tgが、90℃を超える比較例3、比較例4に係る変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体は、付着性及び耐ガソホール性の評価が不良であり、実用に適さないか(比較例3)、又は安定性が不良であるため、耐温水性、付着性、及び耐ガソホール性を評価できず、実用に適さない(比較例4)。
【0161】
単量体群(B)の水酸基価が、17mgKOH/g未満である、比較例1に係る変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体は、耐温水性、付着性、及び耐ガソホール性のいずれの評価も不良であり、実用に適さない。
単量体群(B)の水酸基価が、50mgKOH/gを超える、比較例4に係る変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体は、安定性が不良であるため、耐温水性、付着性、及び耐ガソホール性を評価できず、実用に適さない。
【0162】
以上の結果は、本発明の変性ポリオレフィン樹脂を、水性分散体としてプラスチック基材上に塗布した場合に、良好な付着性を有すると同時に高い耐温水性を有する塗膜が得られることを示す。