(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】車両用灯具の制御装置、車両用灯具の制御方法、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/04 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B60Q1/04 E
(21)【出願番号】P 2018155740
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
(72)【発明者】
【氏名】北園 卓也
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001234(JP,A)
【文献】特開2015-031793(JP,A)
【文献】特開2013-235259(JP,A)
【文献】特開2015-056600(JP,A)
【文献】特開2008-304589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0377251(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源、前記光源から入射する光を変調する液晶素子、前記液晶素子によって形成される光の像を投影するレンズおよび温度センサを含み、車両前方にハイビームを照射するランプユニットと、
前記光源を制御する光源動作制御部、前記液晶素子を制御する液晶動作制御部および配光設定部と、を含む制御装置と、
車両前方の空間を撮影して画像を生成し、画像認識処理を行う撮像ユニットと、
を含む車両用前照灯システムであって、
前記液晶素子は、一面側にパターニングされた透明導電膜よりなる第1電極を備える第1基板、前記第1基板の一面側に対向して配置され前記第1基板側にパターニングされた透明導電膜よりなる第2電極を備える第2基板および前記第1基板と前記第2基板との間に配置される液晶層を備え、前記第1電極と前記第2電極が重なる領域を画素領域とする液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで対向配置される一対の偏光板と、を含み、
前記液晶素子は、前記光源から出射した光が入射して、入射光に変調を与えて配光パターンに対応する像を形成するものであり、
前記液晶動作制御部は、前記撮像ユニットによる画像認識結果に基づいて前記配光設定部によって設定された配光パターンに応じた像を形成するように前記液晶素子の動作を制御するものであり、
前記温度センサは、前記液晶パネル
の基板面上に設置されて前記液晶パネルの温度を検出するものであり、
前記制御装置は、
車両の始動後に前記温度センサにより検出される温度に基づいて前記液晶素子の温度が所定の基準温度よりも低温か否かを判定し、
前記液晶素子が前記基準温度よりも低温と判定された場合には、前記液晶動作制御部が前記液晶素子の前記画素領域を遮光状態に制御するとともに前記光源動作制御部が前記光源を点灯状態に制御することにより前記液晶素子を加温し、
前記液晶パネルが前記基準温度よりも低温でないと判定された場合には、所定間隔で前記液晶素子が前記基準温度よりも低温か否かの判定を繰り返して実施する、
車両用前照灯システム。
【請求項2】
前記一対の偏光板は、吸収軸が略直交した状態で配置されている、
請求項1に記載の車両用前照灯システム。
【請求項3】
前記液晶パネルは垂直配向型である、
請求項1または請求項2に記載の車両用前照灯システム。
【請求項4】
前記制御装置は、車両の始動後に前記液晶素子が前記基準温度よりも低温と判定された場合には、前記液晶動作制御部が前記液晶素子を電圧無印加状態に維持するように制御するとともに前記光源動作制御部が前記光源を点灯状態に制御することにより前記液晶素子を加温する、
請求項3に記載の車両用前照灯システム。
【請求項5】
前記光源がLEDであり、
前記液晶素子が前記基準温度よりも低温と判定された場合には、前記光源動作制御部が、前記LEDを当該LEDの定格電流値よりも大きい値の電流を流すように制御することにより前記液晶素子を加温する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用前照灯システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記液晶素子が前記基準温度よりも低温と判定され、前記光源動作制御部が前記光源を点灯状態に制御して前記液晶素子を加温する制御を行った際に、所定時間を経過した場合と、前記液晶素子が前記基準温度以上となった場合の何れかの場合に前記LEDの点灯状態を制御して前記加温を停止させる、
請求項5に記載の車両用前照灯システム。
【請求項7】
前記液晶素子にはナノ粒子が添加されている、
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の車両用前照灯システム。
【請求項8】
赤外光源をさらに有し、前記加温は前記光源及び前記赤外光源から放出される光によって行われる、
請求項7に記載の車両用前照灯システム。
【請求項9】
前記液晶素子において前記一対の偏光板が液晶パネルを挟んで対向配置され、
各前記偏光板は、前記液晶パネルと所定の間隙が設けられ、
前記赤外光源からの赤外光は、前記偏光板を介さず直接的に前記液晶パネルに照射される、
請求項8に記載の車両用前照灯システム。
【請求項10】
光源、前記光源から入射する光を変調する液晶素子、前記液晶素子によって形成される光の像を投影するレンズおよび温度センサを含み、車両前方にハイビームを照射するランプユニットと、
前記光源を制御する光源動作制御部、前記液晶素子を制御する液晶動作制御部および配光設定部と、を含む制御装置と、
車両前方の空間を撮影して画像を生成し、画像認識処理を行う撮像ユニットと、
を含む車両用前照灯システムであって、
前記液晶素子は、一面側にパターニングされた透明導電膜よりなる第1電極を備える第1基板、前記第1基板の一面側に対向して配置され前記第1基板側にパターニングされた透明導電膜よりなる第2電極を備える第2基板および前記第1基板と前記第2基板との間に配置される液晶層を備え、前記第1電極と前記第2電極が重なる領域を画素領域とする液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで対向配置される一対の偏光板と、を含み、
前記液晶素子は、前記光源から出射した光が入射して、入射光に変調を与えて配光パターンに対応する像を形成するものであり、
前記液晶動作制御部は、前記撮像ユニットによる画像認識結果に基づいて前記配光設定部によって設定された配光パターンに応じた像を形成するように前記液晶素子の動作を制御するものであり、
前記温度センサは、前記車両の冷却水の温度又は前記車両のエンジンオイルの温度を検出するものであり、
前記制御装置は、
前記温度センサにより検出される温度に基づいて前記液晶素子の温度が所定の基準温度よりも低温か否かを推定し、
車両の始動後に前記液晶素子が前記基準温度よりも低温と推定された場合には、車両が停止した状態で
、前記液晶動作制御部が前記液晶素子の前記画素領域を遮光状態に制御するとともに前記光源動作制御部が前記光源を点灯状態に制御することにより前記液晶素子を加温し、
前記液晶パネルが前記基準温度よりも低温でないと判定された場合には、所定間隔で前記液晶素子が前記基準温度よりも低温か否かの判定を繰り返して実施する、
車両用前照灯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子を用いて配光制御を行う車両用灯具システムの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶素子を用いて、車両前方へ照射される光の形状や照度などを制御する配光制御技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような配光制御では、例えば、光源から出射する光を液晶素子へ入射させて、液晶素子においてその光の透過状態を制御することにより配光パターンを形成し、これを車両前方へ投射することにより、いわゆるハイビームの照射範囲における光の照射状態が制御される。例えば、車両前方に存在する他の車両を検出し、それら車両の存在する領域においてはハイビームが減光ないし遮光されて、それ以外の領域においてはハイビームが照射されるというような配光制御が実現される。
【0003】
ところで、車両の使用される環境は種々であり、時には車両が極低温(例えば、マイナス数十℃)の環境下に置かれる場合もある。そして、このような極低温の環境下では、一般に液晶素子の応答性は著しく低下する。このため、例えば液晶素子としてノーマリーブラック型のものを用いていた場合には、車両の始動直後においてハイビームが照射されにくくなる場合がある。例えば、車両の始動直後に、運転者が瞬間的なハイビームの照射(いわゆるパッシング)を行おうとした場合に、液晶素子の応答が間に合わず、ハイビームがほとんど照射されないといった不都合が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、液晶素子を用いる車両用灯具システムにおいて、極低温の環境下でも確実に光照射を行うことを可能とする技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の車両用灯具システムは、(a)光源、前記光源から入射する光を変調する液晶素子、前記液晶素子によって形成される光の像を投影するレンズおよび温度
センサを含み、車両前方にハイビームを照射するランプユニットと、(b)前記光源を制御する光源動作制御部、前記液晶素子を制御する液晶動作制御部および配光設定部と、を含む制御装置と、(c)車両前方の空間を撮影して画像を生成し、画像認識処理を行う撮像ユニットと、を含む車両用前照灯システムであって、(d)前記液晶素子は、一面側にパターニングされた透明導電膜よりなる第1電極を備える第1基板、前記第1基板の一面側に対向して配置され前記第1基板側にパターニングされた透明導電膜よりなる第2電極を備える第2基板および前記第1基板と前記第2基板との間に配置される液晶層を備え、前記第1電極と前記第2電極が重なる領域を画素領域とする液晶パネルと、前記液晶パネルを挟んで対向配置される一対の偏光板と、を含み、(e)前記液晶素子は、前記光源から出射した光が入射して、入射光に変調を与えて配光パターンに対応する像を形成するものであり、(f)前記液晶動作制御部は、前記撮像ユニットによる画像認識結果に基づいて前記配光設定部によって設定された配光パターンに応じた像を形成するように前記液晶素子の動作を制御するものであり、(g)前記温度センサは、前記液晶パネルの基板面上に設置されて前記液晶パネルの温度を検出するものであり、(h)前記制御装置は、(h1)車両の始動後に前記温度センサにより検出される温度に基づいて前記液晶素子の温度が所定の基準温度よりも低温か否かを判定し、(h2)前記液晶素子が前記基準温度よりも低温と判定された場合には、前記液晶動作制御部が前記液晶素子の前記画素領域を遮光状態に制御するとともに前記光源動作制御部が前記光源を点灯状態に制御することにより前記液晶素子を加温し、(h3)前記液晶パネルが前記基準温度よりも低温でないと判定された場合には、所定間隔で前記液晶素子が前記基準温度よりも低温か否かの判定を繰り返して実施する、車両用前照灯システムである。
【0007】
上記構成によれば、液晶素子を用いる車両用灯具システムにおいて、極低温の環境下でも確実に光照射を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、ランプユニットの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、液晶パネルの構成例を示す模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、制御部による動作手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、ランプユニットの変形構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの全体構成を示す図である。図示の車両用灯具システムは、車両前方に対して、ハイビームの照射範囲内にて選択的な光照射を行うことが可能なものであり、制御部1、撮像ユニット2、ライトスイッチ3、冷却水温度センサ4、オイル温度センサ5、一対の前照灯6L、6Rを含んで構成されている。なお、いわゆるロービーム(すれ違いビーム)を照射するための構成については図示を省略する。
【0010】
制御部1は、車両用灯具システムの全体動作を制御するものである。この制御部1は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータシステムにおいて所定のプログラムを実行させることによって構成される。この制御部1は、プログラム実行により実現される機能ブロックとして、各前照灯6L、6Rに含まれる液晶素子の加温に関する制御を行う加温制御部11と、液晶素子の動作制御を行う液晶制御部12と、各前照灯6L、6Rに含まれる光源の動作制御を行う光源制御部13と、ハイビームの照射範囲内にて選択的な光照射を行う際の配光パターンを設定する配光設定部14を備える。
【0011】
撮像ユニット2は、カメラ21と画像処理部22を含んで構成されている。カメラ21は、車両の所定位置(例えば、フロントガラス内側の上方)に設置されており、車両前方の空間を撮影して画像を生成する。画像処理部22は、カメラ21によって生成された画像に対して所定の画像認識処理を行うことにより、車両前方に存在する先行車両、対向車両、歩行者、車線などを検出する。これらの検出された先行車両や対向車両等に応じて上記の配光設定部14により配光パターンが設定され、その配光パターンに応じた像を形成するように液晶制御部12によって液晶駆動部32の動作が制御される。なお、画像処理部22の機能の一部ないし全部が制御部1において実現されてもよい。
【0012】
ライトスイッチ3は、車両の運転席に備わっており、運転者がヘッドライトの点消灯を切り替えたりパッシングを行ったりするために用いられる。
【0013】
冷却水温度センサ4は、車両の冷却水の温度を検出する。オイル温度センサ5は、車両のエンジンオイルの温度を検出する。なお、これら各センサは、通常、車両に元々備わっているので、それらを用いることができる。
【0014】
一対の前照灯6L、6Rは、車両前部の左右にそれぞれ設置されている。各前照灯6L、6Rは、それぞれ、LED駆動部31、液晶駆動部32、前照灯温度センサ33、ランプユニット34を含んで構成されている。
【0015】
LED駆動部31は、光源制御部13から与えられる制御信号に基づいて、ランプユニット34に備わっている光源に含まれるLEDを駆動する。液晶駆動部32は、液晶制御部12から与えられる制御信号に基づいて、ランプユニット34に備わっている液晶素子を駆動する。
【0016】
なお、本実施形態では、制御部1の液晶制御部12と各前照灯6L、6Rの液晶駆動部32によって「液晶動作制御部」が構成されており、制御部1の光源制御部13と各前照灯6L、6RのLED駆動部31によって「光源動作制御部」が構成されている。
【0017】
前照灯温度センサ33は、各前照灯6L、6Rの筐体内における適宜の位置に設置されており、各前照灯6L、6Rの筐体内の温度、より好ましくはランプユニット34付近の温度を検出する。
【0018】
ランプユニット34は、LED駆動部31、液晶駆動部32の各々により駆動され、車両前方へ種々の配光パターンによる光を照射する。
【0019】
図2は、ランプユニットの構成例を示す図である。図示の例のランプユニット34は、光源40、集光レンズ41、液晶パネル42、一対の偏光板43、44、投影レンズ46を含んで構成されている。なお、液晶パネル42と一対の偏光板43、44を含んで液晶素子45が構成されている。
【0020】
光源40は、LED(半導体発光素子)を含んで構成されており、LED駆動部31によって駆動されて光を放出する。集光レンズ41は、光源40から放出される光を集光して液晶素子45へ入射させる。
【0021】
液晶素子45は、液晶駆動部32によって駆動されて、入射する光に変調を与えることにより種々の配光パターンに対応する像を形成する。この液晶素子45において、一対の偏光板43、44は、液晶パネル42を挟んで対向配置されている。各偏光板43、44と液晶パネル42との間は密着しておらず所定の間隙が設けられている。本実施形態では、一対の偏光板43、44は、各々の吸収軸を略直交させるように配置されている。各偏光板43、44としては、例えばワイヤーグリッド偏光板を用いることが好ましい。
【0022】
また、液晶パネル42としては、垂直配向型の液晶パネルが用いられている。すなわち、液晶素子45は、電圧無印加時において光透過率が極めて低い状態(実質的に遮光状態)となるノーマリーブラック型の液晶素子として構成されている。
【0023】
投影レンズ46は、液晶素子45によって形成される光の像を車両前方へ投影する。それにより、光の像に対応した配光パターンが車両前方に形成される。
【0024】
なお、
図2に示すように、前照灯温度センサ33は、液晶パネル42の近傍(例えば、基板面上)に設置されることが好ましい。それにより、液晶パネル42の温度をより確実に検出することができる。
【0025】
図3は、液晶パネルの構成例を示す模式的な断面図である。図示の液晶パネル42は、第1基板51、第2基板52、第1電極53、第2電極54および液晶層55を含んで構成されている。
【0026】
第1基板51および第2基板52は、それぞれ例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。図示のように、第1基板51と第2基板52は、所定の間隙(例えば4μm程度)を設けて貼り合わされている。
【0027】
第1電極53は、第1基板51の一面側に設けられている。同様に、第2電極54は、第2基板52の一面側に設けられている。第1電極53および第2電極54は、それぞれ例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。これら第1電極53と第2電極54との重なる領域の各々が画素領域(光変調領域)となり、それら画素領域ごとに個別に入射光に対して変調を与えることができる。
【0028】
なお、図示を省略するが、第1基板51と第2基板52の各々の一面側には、各電極を覆うようにして配向膜が設けられている。
【0029】
液晶層55は、第1基板51と第2基板52の間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負の液晶材料を用いて液晶層55が構成される。液晶材料の屈折率異方性Δnは、例えば0.09程度である。液晶層55に図示された太線は、液晶層55における液晶分子の配向方向を模式的に示したものである。本実施形態の液晶層55は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向が第1基板51および第2基板52の各基板面に対して略垂直(例えば89.9°など)となる垂直配向に設定されている。なお、液晶層55の動作モードは例示した垂直配向モードに限られず、TNモードやIPSモードなど種々の動作モードを用いることができる。
【0030】
図4は、制御部による動作手順を示すフローチャートである。ここでは、車両の始動後において環境温度が極低温である場合に、ランプユニット34の光源40から放出する光を利用して液晶素子45を加温してその温度を速やかに上昇させるための制御における動作手順が示されている。なお、処理に矛盾を生じない限りにおいて処理順序を入れ替えてもよく、図示の処理順序にのみ限定されない。また、車両が始動したことは、例えばイグニッションスイッチ等の動作状態に基づいて検出される。
【0031】
制御部1の加温制御部11は、液晶素子45の温度が一定基準を満たす低温と推定される状態であるか否かを判定する(ステップS11)。本実施形態では、各前照灯6L、6Rの前照灯温度センサ33により検出される温度に基づいて、例えばマイナス20℃以下である場合には低温と推定される状態であると判定される。なお、2つの前照灯温度センサ33により2つの温度が検出されるので、例えばいずれか低い温度を用いて判定を行ってもよいし、2つの温度の平均値を用いて判定を行ってもよい。
【0032】
さらに、冷却水温度センサ4やオイル温度センサ5により検出される温度に基づいて一定基準を満たす低温と推定される状態であるか否かを判定してもよい。この場合、液晶素子45の温度と冷却水やオイルの各温度との相関関係を予め実験などで求めておき、そのデータに基づいて液晶素子45の温度を推定すればよい。
【0033】
低温ではない場合には(ステップS11;NO)、ステップS11の判定が一定間隔で繰り返される。このため、車両の始動後、しばらく時間が経過した後に何らかの原因でランプユニット34の温度が低下した場合であっても、その時点で液晶素子45を温める動作を開始させることができる。この場合、車両が停車した状態であるときに動作を開始させるのが好ましい。
【0034】
低温である場合には(ステップS11;YES)、制御部1の加温制御部11から指示を受けた液晶制御部12は、液晶駆動部32に制御信号を与えることにより、液晶素子45を遮光状態に制御する(ステップS12)。なお、本実施形態の液晶素子45はノーマリーブラック型であるため、その状態(電圧無印加状態)を維持するように液晶駆動部32へ制御信号が与えられる。
【0035】
なお、液晶素子45がノーマリーホワイト型であった場合には、液晶素子45を遮光状態とする必要があるので、そのような駆動が行われるように制御部1の液晶制御部12から液晶駆動部32へ制御信号が与えられる。
【0036】
次に、制御部1の加温制御部11から指示を受けた光源制御部13は、各前照灯6L、6RのLED駆動部31に制御信号を与えることにより、各光源40を点灯状態に制御する(ステップS13)。ここでは、例えば各光源40のLEDに対してその定格電流値よりも大きい値の電流を流すようにしてもよい。このような状態でLEDを点灯させるのは非常に短い時間であり、また環境温度が極低温であるので、LEDに損傷を与えることはない。
【0037】
このとき、液晶素子45が遮光状態に制御されているので、各前照灯6L、6Rから外部へは光がほぼ漏れない。そして、各光源40から放出される光を利用して液晶素子45を加温してその温度を上昇させることで液晶素子45の応答性を高めることができる。例えば、光源40からの光が偏光板43、44に吸収され、各偏光板43、44の温度が上昇すると、その熱が液晶パネル42に伝搬し、液晶パネル42の温度も上昇する。それにより、加温を行うことができる。
【0038】
制御部1の加温制御部11は、各光源40を点灯状態に制御してから所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS14)。ここでは、予め定めた一定値の時間としてもよいし、前照灯温度センサ33により検出された温度の大小に応じて、温度が低いほど長く設定される時間であってもよい。
【0039】
所定時間は、例えば液晶素子45の温度がマイナス20℃より高くなるのに必要な時間を目安に設定されることが好ましく、例えば数十秒間~1分間程度に設定することができる。液晶素子45の諸条件や駆動電圧にも依存するが一般的にマイナス20℃以上となればオン時の応答時間が200ms程度となり、パッシング等の配光制御に対して十分に対応可能となるからである。
【0040】
所定時間が経過しない場合に(ステップS14;NO)、制御部1の加温制御部11は、液晶素子45の温度が所定温度以上になったか否かを判定する(ステップS15)。所定温度以上となっていない場合には(ステップS15;NO)、ステップS14に戻る。この処理を行うことで、仮に所定時間が経過していなくても液晶素子45が十分に加温された場合には光源40の点灯を停止させることで、必要以上に液晶素子45の温度が上昇することを回避できる。
【0041】
所定時間が経過した場合(ステップS14;YES)、または液晶素子45の温度が所定温度以上になった場合に(ステップS15;YES)、制御部1の加温制御部11から指示を受けた光源制御部13は、各前照灯6L、6RのLED駆動部31に制御信号を与えることにより、各光源40を消灯状態に制御する(ステップS16)。なお、ライトスイッチ3が操作され、ハイビームの照射が指示されている場合には、制御部1の光源制御部13は、消灯状態とせずに、各光源40をLEDの定格電流値以下で点灯させるように制御する。その後、ステップS11へ戻る。
【0042】
以上のような実施形態によれば、液晶素子を用いる車両用灯具システムにおいて、極低温の環境下においては光源40からの光を利用して液晶素子45が速やかに加温されて応答性が高まるので、極低温の環境下でも確実に光照射を行うことが可能となる。
【0043】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では液晶素子45を加温するために光源40を点灯状態に制御した際に、所定時間が経過した場合と、液晶素子45の温度が所定値以上となった場合の何れかにおいて光源40の点灯状態を停止させていたが、何れか一方のみの判定を行うようにしてもよい。すなわち、時間については判定することなく温度により光源40の点消灯を判定してもよいし、その逆に、温度については判定することなく時間により光源40の点消灯を判定してもよい。
【0044】
また、液晶素子にナノ粒子を添加することにより、液晶素子の加温の効率化を図ることも好ましい。この場合のランプユニット34aの構成例を
図5に示す。例えば、液晶素子45の液晶パネル42aの液晶層に、近赤外線吸収材料としてナノメートルサイズの金属粒子(例えば、金粒子)を添加しておく。あるいは、液晶パネル42aの配向膜ないしそれ以外の保護膜など、基板上に設けられる膜にナノメートルサイズの金属粒子を添加しておく。そして、上記した光源40による加熱を行う際に、併せて液晶パネル42aに対して光源35により近赤外線を照射させるようにする。図示のように、光源35からの近赤外線(例えば、波長約3μm以下)は各偏光板43、44を介さず直接的に液晶パネル42aへ照射させることが好ましい。この構成では、液晶パネル42a内の金属粒子により近赤外線が吸収されることにより液晶パネル42aの温度をさらに効率的に上昇させることができる。なお、光源40から可視光とともに近赤外線も十分に放出されている場合には、光源35を省略してもよい。
【0045】
なお、
図5の構成を採用する場合には、投影レンズ46、投影レンズ46側の偏光板44、あるいは図示しないランプユニット34aの筐体(アウターレンズ等)に赤外線吸収機能を持たせておくことが好ましい。それにより、外部から入射する太陽光等の赤外線による意図しない液晶パネル42aの加熱を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0046】
1:制御部、2:撮像ユニット、3:ライトスイッチ、4:冷却水温度センサ、5:オイル温度センサ、6L、6R:前照灯、11:加温制御部、12:液晶制御部、13:光源制御部、14:配光設定部、31:LED駆動部、32:液晶駆動部、33:前照灯温度センサ、34:ランプユニット、40:光源、41:集光レンズ、42:液晶パネル、43、44:偏光板、45:液晶素子、46:投影レンズ