(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】プリフォーム賦形方法及び複合材成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 53/40 20060101AFI20221213BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20221213BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20221213BHJP
B29C 70/48 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B29C53/40
C08J5/04
B32B5/26
B29C70/48
(21)【出願番号】P 2018173065
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】関根 尚之
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄太
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-191092(JP,A)
【文献】特開2006-069166(JP,A)
【文献】特開2010-150685(JP,A)
【文献】特開2009-166279(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0233474(US,A1)
【文献】特開2004-276393(JP,A)
【文献】特開2005-153680(JP,A)
【文献】特開2012-201002(JP,A)
【文献】In Manufacturing techniques for polymer matrix compites(PMCs)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板形状を有するウェブと湾曲した板状のフランジを連結した形状を有するプリフォームを製作するプリフォーム賦形方法において、
シート状の繊維を積層することによって複数の繊維層を有する繊維の積層体を製作するステップと、
積層後又は積層中に前記シート状の繊維を折曲げることによって前記プリフォームを製作するステップと、
を有し、
前記複数の繊維層のうちの少なくとも1つの繊維層を形成するために、それぞれ折曲げ後において目的とする長さ方向となるように、折曲げ前における繊維の長さ方向が決定された第1のシート状の繊維及び複数の第2のシート状の繊維であって、折曲げ後において前記ウェブを形成する前記第1のシート状の繊維及び折曲げ後において前記フランジを形成する前記複数の第2のシート状の繊維を配置し、かつ
折曲げ後において前記複数の第2のシート状の繊維の長さ方向を代表する方向が、前記第1のシート状の繊維の長さ方向を代表する方向に空間的に対応する方向となるように、それぞれ繊維の長さ方向が直線的に決定された前記複数の第2のシート状の繊維であって、繊維の長さ方向が互いに異なる方向となるように決定された前記複数の第2のシート状の繊維を前記少なくとも1つの繊維層を形成するために配置するプリフォーム賦形方法。
【請求項2】
折曲げ後において前記フランジを形成する前記複数の第2のシート状の繊維の長さ方向を代表する方向が前記ウェブと平行となるように、それぞれ繊維の長さ方向が直線的に決定された前記複数の第2のシート状の繊維であって、前記フランジの長さ方向に並べて配置される前記複数の第2のシート状の繊維を前記少なくとも1つの繊維層を形成するために配置する請求項1記載のプリフォーム賦形方法。
【請求項3】
折曲げ後において前記フランジを形成する前記複数の第2のシート状の繊維の長さ方向が曲線的となり、かつ前記複数の第2のシート状の繊維の長さ方向を代表する方向が互いに同一となるように、それぞれ繊維の長さ方向が直線的に決定された前記複数の第2のシート状の繊維であって、前記フランジの高さ方向に並べて配置される前記複数の第2のシート状の繊維を前記少なくとも1つの繊維層を形成するために配置する請求項1記載のプリフォーム賦形方法。
【請求項4】
前記シート状の繊維をバインダで仮留めしながら積層することによって前記繊維の積層体を製作する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプリフォーム賦形方法。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のプリフォーム賦形方法で製作された前記プリフォームに樹脂を含浸させて硬化することによって複合材を製作する複合材成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プリフォーム賦形方法及び複合材成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP: Glass fiber reinforced plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の樹脂を繊維で強化した複合材の成形方法の1つとしてRTM(Resin Transfer Molding)法が知られている。
【0003】
RTM法は、シート状の繊維を積層した後に熱硬化性樹脂を含浸させて加熱硬化する複合材の成形方法である。RTM法のうち、真空引きを行って繊維に樹脂を含浸させる方法は、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法と呼ばれ、金型を利用して樹脂を含浸させる方法は、マッチドダイ(matched-die)RTM法と呼ばれる。
【0004】
RTM法で複合材を成形する場合には、樹脂の含浸に先立ってドライプリフォームが製作される(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。ドライプリフォームはシート状の繊維の積層体を、成形後における複合材の形状に合わせて賦形したものである。ドライプリフォームの製作に用いられるテープ状の繊維基材はドライテープ材と呼ばれる。ドライテープ材を用いてドライプリフォームを製作する手法としては、平面状の積層治具上にドライテープ材を積層した後、ドライテープ材の積層体を金型に載置して加熱しながらプレスすることにより製品形状に賦形する手法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-150685号公報
【文献】特開2004-276393号公報
【文献】特開2006-069166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ドライテープ材の積層体をプレスすると、賦形後の形状に応じて繊維の配向が湾曲してしまい、繊維を設計上最適な配向に揃えることが困難となる場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、複合材用のドライプリフォームの賦形後において繊維の配向をより良好な配向にできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係るプリフォーム賦形方法は、平板形状を有するウェブと湾曲した板状のフランジを連結した形状を有するプリフォームを製作するものである。このプリフォーム賦形方法は、シート状の繊維を積層することによって複数の繊維層を有する繊維の積層体を製作するステップと、積層後又は積層中に前記シート状の繊維を折曲げることによって前記プリフォームを製作するステップとを有し、前記複数の繊維層のうちの少なくとも1つの繊維層を形成するために、それぞれ折曲げ後において目的とする長さ方向となるように、折曲げ前における繊維の長さ方向が決定された第1のシート状の繊維及び複数の第2のシート状の繊維であって、折曲げ後において前記ウェブを形成する前記第1のシート状の繊維及び折曲げ後において前記フランジを形成する前記複数の第2のシート状の繊維を配置し、かつ折曲げ後において前記複数の第2のシート状の繊維の長さ方向を代表する方向が、前記第1のシート状の繊維の長さ方向を代表する方向に空間的に対応する方向となるように、それぞれ繊維の長さ方向が直線的に決定された前記複数の第2のシート状の繊維であって、繊維の長さ方向が互いに異なる方向となるように決定された前記複数の第2のシート状の繊維を前記少なくとも1つの繊維層を形成するために配置するものである。
【0009】
また、本発明の実施形態に係る複合材成形方法は、上述したプリフォーム賦形方法で製作された前記プリフォームに樹脂を含浸させて硬化することによって複合材を製作するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォームの形状例を示す斜視図。
【
図2】(A)及び(B)は従来のプリフォーム賦形方法で
図1に示すプリフォームを製作する場合に生じる問題点を説明する図。
【
図3】(A)及び(B)は本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形方法を説明する図。
【
図4】(A)及び(B)は本発明の繊維の配向角を45度とする場合における繊維の配置例を示す図。
【
図5】熱可塑性バインダとして熱可塑性樹脂の微粒子を繊維に付着させたシート状の繊維の構造を示す斜視図。
【
図6】熱可塑性バインダとして熱可塑性の不織布を繊維に付着させたドライテープ材の構造を示す斜視図。
【
図7】
図1に示す賦形型を用いてシート状の繊維の積層体のバギングを伴ってプリフォームを製作する例を示す賦形型の横断面図。
【
図8】
図1に示す賦形型と上型で繊維の積層体を挟み込むことによってプリフォームを製作する例を示す賦形型及び上型の横断面図。
【
図9】VaRTM法により複合材を成形する方法を説明する図。
【
図10】マッチドダイRTM法により複合材を成形する方法を説明する図。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォームの別の形状例を示す斜視図。
【
図12】(A)及び(B)は本発明の第2の実施形態に係るプリフォーム賦形方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るプリフォーム賦形方法及び複合材成形方法について添付図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォームの形状例を示す斜視図である。
【0013】
図1に例示されるように曲面を含む複数の賦形面を有する剛体の賦形型1を用いて、折曲げた形状を有する板状のプリフォーム2を賦形することができる。プリフォーム2は、樹脂を繊維で強化したCFRPやGFRP等の繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics)の素材である。FRPは複合材とも呼ばれる。
【0014】
尚、未硬化の樹脂を含浸させる前における賦形後の複数のシート状の繊維の積層体は、樹脂を含浸させた後の賦形後の複数のシート状の繊維の積層体と区別するためにドライプリフォームと呼ばれる。また、ドライプリフォームを製作するための素材としてテープ状の繊維がドライテープ材という名称で市販されている。
【0015】
図1に示す例では、賦形型1の形状が、平板1A上に凸部1Bを形成した形状となっており、凸部1Bの形状は、横断面が矩形であるドーナツ形状を半径方向に切断した形状となっている。そして、賦形型1の凸部1Bの上面側における平面が第1の賦形面3を、凸部1Bの内側の側面側における凹んだ曲面が第2の賦形面4を、凸部1Bの外側の側面側における凸状の曲面が第3の賦形面5を、それぞれ形成している。
【0016】
このため、賦形型1を用いれば、平面状のウェブ6の同じ面に湾曲した内側のフランジ7と、湾曲した外側のフランジ8を形成した形状を有するプリフォーム2を製作することができる。より具体的には、山折りされる側から見て凸状の曲面9及び山折りされる側から見て凹んだ曲面10を平面11と連結した表面形状を有する板状で長尺構造を有するプリフォーム2を製作することができる。
【0017】
もちろん、ウェブ6と内側のフランジ7及び外側のフランジ8との連結部分にR面取りやC面取り等の面取りが形成されるように賦形型1の凸部1BにおけるエッジにR面取りやC面取り等の面取りを施すようにしてもよい。
【0018】
図1に例示される平板形状を有するウェブ6と湾曲した板状のフランジ7、8を連結した形状のように、少なくとも一方が曲面である第1の面と第2の面を連結した形状を有するプリフォーム2を製作する場合には、樹脂を含浸させる前のシート状の繊維を積層することによって複数の繊維層を有する繊維の積層体を製作するステップと、積層後又は積層中にシート状の繊維を折曲げることによって少なくとも一方が曲面である第1の面と第2の面を連結した形状を有するプリフォーム2を製作するステップを有するプリフォーム賦形方法で製作することができる。
【0019】
尚、シート状の繊維の折曲げを含む賦形ステップでは、折曲げ後に曲面を形成するシート状の繊維を広げながら折曲げるようにしても良い。具体例として、湾曲した板状のフランジ7、8を形成するシート状の繊維については、やや広げながら賦形させるようにしても良い。
【0020】
図2(A)及び(B)は従来のプリフォーム賦形方法で
図1に示すプリフォーム2を製作する場合に生じる問題点を説明する図である。
【0021】
図2(A)に示すように繊維の配向角が一定である平らなシート状の繊維20を積層し、
図2(B)に示すように折曲げることができる。この場合、平らなウェブ6を形成する部分20Aでは繊維の配向角が変化しないが、湾曲したフランジ7、8を形成する部分Bでは繊維が湾曲し、繊維の配向角が変化する。その結果、賦形後における繊維の配向角が目的とする配向角とはならず、複合材の強度及び剛性の低下に繋がる。
【0022】
そこで、シート状の繊維の折曲げ前における繊維の配向を、折曲げ後の繊維の配向が理想的な配向となるように決定することができる。この場合、互いに繊維の配向が異なる複数のシート状の繊維を組合せることによって共通の繊維層が形成されることになる。
【0023】
図3(A)及び(B)は本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形方法を説明する図である。
【0024】
図3(A)に示すようにプリフォーム2を構成する複数の繊維層のうちの少なくとも1つの繊維層を形成するために、折曲げ後において平らなウェブ6等の第1の面を形成する平坦な第1のシート状の繊維21及び折曲げ後において湾曲したフランジ7、8等の第2の面を形成する平坦な第2のシート状の繊維22を配置することができる。但し、第1のシート状の繊維21及び第2のシート状の繊維22の折曲げ前における繊維の長さ方向は、それぞれ折曲げ後において目的とする長さ方向となるように、互いに異なる方向に決定される。
【0025】
例えば、
図1に示すような平板形状を有するウェブ6と湾曲した板状のフランジ7、8を連結した形状を有するプリフォーム2を賦形する場合であれば、
図3(B)に示すように第1のシート状の繊維21で平板形状を有するウェブ6を形成する一方、各フランジ7、8の長さ方向に並べて隣接配置された複数の第2のシート状の繊維22で湾曲した各フランジ7、8を形成することができる。
【0026】
そして、
図3(B)に示すように折曲げ後において湾曲したフランジ7、8を形成する複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向を代表する方向、すなわち複数の第2のシート状の繊維22の配向が、平板形状を有するウェブ6を形成する第1のシート状の繊維21の配向に近づくように、
図3(A)に示すように、折曲げ前における平坦な複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向をそれぞれ直線的かつ互いに異なる方向となるように決定することができる。
【0027】
つまり、繊維1本1本の長さ方向はランダムな方向となっているが、繊維の長さ方向を代表する方向である繊維の配向を、折曲げ後における複数の第2のシート状の繊維22と、第1のシート状の繊維21との間でできるだけ近づけることができる。折曲げ後における複数の第2のシート状の繊維22の法線方向と、第1のシート状の繊維21の法線方向は異なるため、折曲げ後における複数の第2のシート状の繊維22と、第1のシート状の繊維21との間において繊維の配向を近づけることは、複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向を代表する方向を、第1のシート状の繊維21の長さ方向を代表する方向に空間的に対応する方向にすることに相当する。繊維の配向が一定である場合には、配向角として繊維の配向を表すことができる。
【0028】
より具体的には、平板形状を有するウェブ6を形成する第1のシート状の繊維21は、折曲げても繊維の配向角が変化しないため、折曲げ前の平坦な状態において一定とすることができる。一方、湾曲した各フランジ7、8を形成する第2のシート状の繊維21は、折曲げ後において繊維の配向角が変化する。そこで、折曲げ後において目的とする繊維の配向角が得られるように折曲げ前における繊維の配向角を決定することが望ましい。
【0029】
図3(A)及び(B)に例示されるようにウェブ6を形成する第1のシート状の繊維21の配向角が0度(L0)である場合には、折曲げ後において湾曲したフランジ7、8を形成する繊維の長さ方向が平坦なウェブ6と平行となるように、折曲げ前における繊維の長さ方向を決定することが適切となる。しかしながら、折曲げ前における平坦なシート状の繊維の理想的な長さ方向は曲線となり、シート状の繊維の製造コストの増加に繋がる。
【0030】
そこで、
図3(A)に示すように、湾曲した各フランジ7、8を形成するために、それぞれ繊維の長さ方向が直線的に決定された複数の第2のシート状の繊維22を配置することができる。そして、
図3(A)に示すように、折曲げ前における平坦な複数の第2のシート状の繊維22を、繊維の配向角を徐々に変化させながら配置することによって、
図3(B)に示すように、折曲げ後における複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向を代表する方向を、平板形状を有するウェブ6と平行となるようにすることができる。
【0031】
つまり、繊維の長さ方向が直線的である複数の第2のシート状の繊維22を隣接配置することによって繊維の長さ方向の曲線近似を行うことができる。これにより、
図3(B)に例示されるように、強度上適切な配向角を有する繊維で構成されたプリフォーム2を製作することが可能となる。
【0032】
典型的なプリフォーム2及び複合材を構成する複数の繊維層間では、繊維の配向角が変えられる。換言すれば、繊維の配向角が互いに異なる複数のシート状の繊維を積層することによって、繊維の配向角が互いに異なる複数の繊維層を有するプリフォーム2が製作される。繊維の配向角は標準化されており、配向角が0度、±45度及び90度であるシート状の繊維が積層用に多用される。
【0033】
図3(A)及び(B)はウェブ6を構成する繊維の配向角が0度である場合の例を示している。このため、繊維の配向角が同一又は異なるシート状の繊維が厚さ方向に積層されることになる。配向角が90度であるシート状の繊維は折曲げて曲面を形成しても繊維の長さ方向が殆ど変化しない。従って、必ずしも
図3(A)及び(B)に例示されるように湾曲した各フランジ7、8と平板形状を有するウェブ6を形成するために1つの繊維層を第1のシート状の繊維21と複数の第2のシート状の繊維22とに分割する必要がない。すなわち、繊維の配向角が90度である繊維層は1枚のシート状の繊維で構成することができる。
【0034】
これに対して配向角が45度であるシート状の繊維を折曲げて曲面を形成すると、繊維の長さ方向が曲線状となる。このため、折曲げ後における繊維の長さ方向ができるだけ直線に近づくように、複数のシート状の繊維を隣接配置することが好ましい。これは配向角が45度である繊維に限らず、他の配向角を有する繊維においても配向角に応じて起こり得る。
【0035】
図4(A)及び(B)は本発明の繊維の配向角を45度とする場合における繊維の配置例を示す図である。
【0036】
図4(A)及び(B)に示すようにウェブ6を構成する繊維の配向角が45度(L45)である場合には、湾曲した各フランジ7、8を構成する繊維の配向角ができるだけ45度に近くなるように、折曲げ前における繊維の配向角が直線的である複数の第2のシート状の繊維22を、互いに繊維の配向角を変えて配置することができる。ウェブ6を構成する繊維の配向角が45度である場合には、
図4(A)に示すように平面状に展開した状態における各フランジ7、8の高さ方向に、繊維の配向角が段階的に変化する複数の第2のシート状の繊維22を並べて隣接配置することが適切となる。
【0037】
より具体的には、折曲げ後において各フランジ7、8を形成する複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向が曲線的となり、かつ複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向を代表する方向が互いに同一となるように、折曲げ前においてそれぞれ繊維の長さ方向が直線的に決定された複数の第2のシート状の繊維22を並べて配置することが適切となる。尚、折曲げ後における複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向は曲線的となるため、例えば、繊維の両端を通る直線や繊維の中点における接線の向きが折曲げ後における複数の第2のシート状の繊維22間において同一となるように、折曲げ前における複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向をそれぞれ決定することができる。つまり、折曲げ後における複数の第2のシート状の繊維22の長さ方向を代表する方向を、繊維の両端を通る直線や繊維の中点における接線の向きとすることができる。
【0038】
図3(A)及び
図4(A)に例示されるような各繊維層を形成するためのシート状の繊維を積層方向に積層する際には、バインダで仮留めしながら積層することがシート状の繊維のずれの防止に繋がる。特に、配向角が異なるシート状の繊維を積層して複数の繊維層を形成する場合には、
図3(A)及び
図4(A)を参照して説明したように、同一の繊維層を形成するために隣接配置される複数のシート状の繊維間における境界の位置が、配向角が異なる繊維層間において異なる。
【0039】
このため、同一の繊維層を形成するために複数のシート状の繊維を隣接配置しても、バインダで積層方向に隣接するシート状の繊維に仮留めすることによって繊維の位置ずれや折曲げに必要の無い繊維の過剰な滑りを防止することができる。特に、上述したように配向角が90度である繊維層は1枚のシート状の繊維で構成することができるため、他の繊維層が複数のシート状の繊維に分割されていても、配向角が90度である繊維層に仮留めすることによって、繊維の位置ずれや過剰な滑りを防止することができる。
【0040】
バインダとしては、熱可塑性バインダ及び熱硬化性バインダが挙げられる。シート状、ネット状、不織布状又は粉末状の熱可塑性バインダを付着させたシート状の繊維や粉末状又は液状の熱硬化性バインダを付着させたシート状の繊維が製品化されている。
【0041】
図5は熱可塑性バインダとして熱可塑性樹脂の微粒子を繊維に付着させたシート状の繊維の構造を示す斜視図である。
【0042】
図5に示すようにシート状に束ねた繊維束30に熱可塑性バインダとして熱可塑性樹脂の微粒子31を塗したシート状の繊維32が製品化されている。
【0043】
図6は熱可塑性バインダとして熱可塑性の不織布を繊維に付着させたドライテープ材の構造を示す斜視図である。
【0044】
図6に示すようにシート状に束ねた繊維束30に熱可塑性バインダとして熱可塑性の不織布33を重ねたシート状の繊維34も製品化されている。
【0045】
このため、
図5及び
図6に例示されるような所望のバインダを付着させたシート状の繊維を仮留めしながら積層することができる。もちろん、仮留めしない場合には、バインダが付着されていないシート状の繊維を積層しても良い。
【0046】
また、バインダのスポット溶着を行うための加熱装置付きの繊維の自動積層装置が製品化されている。このため、バインダで仮留めしながらシート状の繊維を平板状の積層治具上に積層した後に、
図1に例示されるような賦形型1にシート状の繊維の積層体を載置して折曲げることによってプリフォーム2を製作すれば、仮留めを伴う繊維の積層を容易に自動化することが可能となる。また、繊維の仮留め及び積層を自動で行うか作業者が手作業で行うかに関わらず、繊維の積層後に繊維の折曲げを行うようにすれば、繊維の折曲げ回数が折曲げ線ごとに1回となるため、作業量の低減にも繋がる。
【0047】
図7は、
図1に示す賦形型1を用いてシート状の繊維の積層体のバギングを伴ってプリフォーム2を製作する例を示す賦形型1の横断面図である。
【0048】
繊維の積層体40のバギングを行う場合には、
図7に示すように賦形型1の凸部1Bの上に積層された繊維の積層体40をバギングフィルム41で覆い、バギングフィルム41の縁をシーラント42で賦形型1の平板1Aに貼付けることによって、繊維の積層体40を密閉することができる。
【0049】
次に、バギングフィルム41で密閉された領域を、真空装置43で減圧することができる。尚、真空装置43は真空ホースでバギングフィルム41と連結しても良いし、賦形型1と連結しても良い。真空装置43による真空引きを行うと、繊維の積層体40には、大気圧と、バギングフィルム41で密閉された領域内における圧力との差圧を負荷することができる。すなわち、繊維の積層体40をバギングフィルム41でバギングすることによって、繊維の積層体40を加圧することができる。これにより、賦形されたプリフォーム2を取得することができる。
【0050】
また、熱可塑性のバインダが付着した繊維の積層体40を用いてプリフォーム2の賦形を行う場合には、繊維の積層体40をバインダが溶融する温度まで加熱することが必要である。そこで、例えば、加熱装置44を賦形型1に内蔵し、熱可塑性のバインダを溶融するようにしてもよい。もちろん、バギング済みの繊維の積層体40を賦形型1とともにオーブン等の独立した加熱装置44に搬入するようにしてもよい。
【0051】
図8は
図1に示す賦形型1と上型50で繊維の積層体40を挟み込むことによってプリフォーム2を製作する例を示す賦形型1及び上型50の横断面図である。
【0052】
図8に示すように賦形後のプリフォーム2の形状にフィットする凹部を形成した上型50と、下型として機能する賦形型1で繊維の積層体40を挟み込んで加圧することができる。これにより、賦形されたプリフォーム2を取得することができる。
【0053】
賦形型1と上型50で繊維の積層体40を挟み込む場合においても、熱可塑性のバインダを用いてプリフォーム2の賦形を行う場合には、繊維の積層体40をバインダが溶融する温度まで加熱することが必要である。そこで、例えば、加熱装置44を賦形型1及び上型50の少なくとも一方に内蔵し、熱可塑性のバインダを溶融するようにしてもよい。もちろん、繊維の積層体40を賦形型1及び上型50とともにオーブン等の独立した加熱装置44に搬入するようにしてもよい。
【0054】
上述したプリフォーム賦形方法でプリフォーム2が製作されると、プリフォーム2に樹脂を含浸させて硬化することによって複合材を製作することができる。
【0055】
図9はVaRTM法により複合材を成形する方法を説明する図であり、
図10はマッチドダイRTM法により複合材を成形する方法を説明する図である。
【0056】
VaRTM法で複合材を成形する場合には、
図9に示すように複合材の成形用の下型60の上にプリフォーム2が載置される。下型60は、
図1に例示される賦形型1と共通にしても良いし、複合材成形専用の別の型としても良い。下型60と賦形型1を共通にする場合には、他の装置や設備についても共通にすることができる。
【0057】
そして、下型60に載置されたプリフォーム2がバギングフィルム61で覆われ、バギングフィルム61の縁がシーラント62で下型60に貼着される。そして、バギングフィルム61で密閉された領域が真空装置63によって減圧される。すなわち、真空装置63による真空引きによってプリフォーム2がバギングされる。
【0058】
一方、マッチドダイRTM法で複合材を成形する場合には、
図10に示すように複合材の成形用の下型60と上型64との間に形成される空間にプリフォーム2が配置される。そして、下型60と上型64との間に形成される空間の真空引きが真空装置63によって行われる。
【0059】
真空引きが完了すると、
図9に示すようにバギングフィルム61を用いてバギングする場合或いは
図10に示すように上型64を用いる場合のいずれにおいても、樹脂注入装置65から樹脂が注入される。すなわち、バギングフィルム61で覆われた領域又は下型60と上型64との間における領域に樹脂注入装置65から樹脂が注入される。これにより、プリフォーム2に樹脂を含浸させることができる。
【0060】
また、必要に応じて樹脂に流動性が得られるように樹脂注入装置65において樹脂が加熱される。また、樹脂が加熱された状態で注入される場合には、樹脂の温度が低下しないように、下型60に加熱装置を内蔵して樹脂を加熱するようにしても良い。下型60に加熱装置を内蔵する場合には、例えば、加熱蒸気、熱風又は熱水等の加熱流体を流す配管を下型60に内蔵することができる。或いは、電気式のヒーターを下型60に内蔵しても良い。また、
図10に示すように上型64を用いる場合には上型64に加熱装置を内蔵しても良い。
【0061】
次に、プリフォーム2に含浸させた樹脂の加熱硬化が行われる。具体的には、
図9又は
図10に示すように加熱装置66によって樹脂が硬化する温度まで加熱される。加熱装置66は、上述したように下型60や上型64に内蔵される加熱装置と共通にしても良いし、オーブン等の別の加熱装置としても良い。樹脂を硬化温度まで加熱すると、樹脂が硬化し、成形後における複合材を製作することができる。すなわち、
図1に例示されるようなウェブ6とフランジ7、8を有する複合材を成形することができる。
【0062】
尚、
図9及び
図10を参照して説明した例は、複合材を構成するマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合の例であるが、マトリックス樹脂を熱可塑性樹脂としても良い。マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材の公知の製法で複合材を製作することができる。
【0063】
また、複合材の組成に限らず、形状についても上述した例に限らず所望の形状を有するプリフォーム2及び複合材を製作対象とすることができる。
【0064】
図11は本発明の第1の実施形態に係るプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォームの別の形状例を示す斜視図である。
【0065】
図11に示すように、平面状のウェブ6の一方の面に湾曲した内側のフランジ7を形成する一方、他方の面に湾曲した外側のフランジ8を形成した形状を有するプリフォーム2を製作することもできる。換言すれば、横断面が概ねZ字型である湾曲した長尺構造を有するプリフォーム2を製作することもできる。このような形状を有するプリフォーム2も、山折りされる側から見て凸状の曲面9及び山折りされる側から見て凹んだ曲面10を平面11と連結した表面形状を有する。
【0066】
この場合、剛体の賦形型1の凸部1Bには、ウェブ6を賦形するための平面を形成する第1の賦形面3と、内側のフランジ7及び外側のフランジ8をそれぞれ賦形するための凸状の曲面を形成する第2の賦形面4及び第3の賦形面5を形成することができる。また、シート状の繊維を凸部1Bの上に折曲げながら載置できるように、第1の賦形面3、第2の賦形面4及び第3の賦形面5の各法線方向を、鉛直方向及び水平方向に対して傾けることができる。
【0067】
以上のようなプリフォーム賦形方法及び複合材成形方法は、折曲げられて曲面を形成するシート状の繊維の折曲げ前における配向角を、折曲げ後において理想的な配向角となるように決定するようにしたものである。
【0068】
(効果)
このため、プリフォーム賦形方法及び複合材成形方法によれば、
図1や
図11に例示されるような湾曲したフランジ7、8を有する複雑な3次元形状を有するプリフォーム2及び複合材であっても、繊維の配向角をより適切な配向角とすることができる。その結果、複合材の強度及び剛性を一層向上させることができる。
【0069】
(第2の実施形態)
図12(A)及び(B)は本発明の第2の実施形態に係るプリフォーム賦形方法を説明する図である。
【0070】
図12(A)及び(B)に示された第2の実施形態では、曲面を形成する第2のシート状の繊維22の長さ方向を曲線とすることによって1枚の第2のシート状の繊維22で1つの繊維層に含まれる各曲面を形成するようにした点が第1の実施形態と相違する。第2の実施形態における他の特徴については第1の実施形態における特徴と実質的に異ならないため第1のシート状の繊維21及び第2のシート状の繊維22の配置例と折曲げ後の形状のみ図示し、同一の構成要素については同符号を付して説明を省略する。
【0071】
図12(A)に示すように折曲げ後に曲面を形成する第2のシート状の繊維22の折曲げ前における長さ方向を、折曲げ後において理想的な長さ方向となるように曲線とすることができる。具体例として、
図12(B)に示すように繊維の配向角が0度である第1のシート状の繊維21で平板形状を有するウェブ6を形成する一方、第2のシート状の繊維22でそれぞれ湾曲したフランジ7、8を形成する場合であれば、折曲げ後において湾曲したフランジ7、8をそれぞれ形成する第2のシート状の繊維22の長さ方向を代表する方向が、平板形状を有するウェブ6と平行となるように、
図12(A)に示すように曲線的に繊維の長さ方向が決定された第2のシート状の繊維22を少なくとも1つの繊維層を形成するために配置することができる。
【0072】
もちろん、繊維の配向角が45度等のように繊維の配向角が他の配向角である場合においても、折曲げ前における繊維の長さ方向を代表する方向が曲線となっている第2のシート状の繊維22を配置することによって、第2のシート状の繊維22の折曲げ後における繊維の長さ方向を代表する方向を、より適切な方向にすることができる。
【0073】
このような第2の実施形態によれば、プリフォーム2及び複合材を構成する1つの繊維層に含まれる1つの曲面を1枚の第2のシート状の繊維22で形成することができる。このため、第2のシート状の繊維22の積層作業を飛躍的に低減することができる。
【0074】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0075】
1 賦形型
1A 平板
1B 凸部
2 プリフォーム
3、4、5 賦形面
6 ウェブ
7、8 フランジ
9、10 曲面
11 平面
20 シート状の繊維
20A、20B シート状の繊維の部分
21 第1のシート状の繊維
22 第2のシート状の繊維
30 繊維束
31 微粒子
32 ドライテープ材
33 不織布
34 ドライテープ材
40 繊維の積層体
41 バギングフィルム
42 シーラント
43 真空装置
44 加熱装置
50 上型
60 下型
61 バギングフィルム
62 シーラント
63 真空装置
64 上型
65 樹脂注入装置
66 加熱装置