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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20221213BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20221213BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221213BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221213BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20221213BHJP
   C09J 7/26 20180101ALI20221213BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20221213BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CES
C08J9/04 107
B32B5/18
B32B27/00 M
B32B27/32 Z
C09J7/24
C09J7/26
C09J7/38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018185919
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020055917
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 梨絵
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163612(WO,A1)
【文献】特開平10-219075(JP,A)
【文献】特許第5380864(JP,B2)
【文献】特開2012-224695(JP,A)
【文献】特開2014-189658(JP,A)
【文献】特開2008-056863(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170941(WO,A1)
【文献】特開2017-190375(JP,A)
【文献】特開2013-203984(JP,A)
【文献】特開平08-067757(JP,A)
【文献】特開2000-103893(JP,A)
【文献】特開平9-278991(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105694218(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08J9/00-9/42
C09J7/00-7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を架橋発泡してなる架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体であって、
前記ポリオレフィン系樹脂組成物が造核剤を含有し、
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はエチレン-酢酸ビニル共重合体のいずれか1種の含有量が、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量基準で65質量%以上であり、
前記ポリプロピレン樹脂が、ホモポリプロピレン、又はプロピレンとエチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体から選択される少なくとも1種以上であり、
前記架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体の厚みが0.3mm以上1.0mm未満の場合における全光線透過率が45%以上であり、かつ厚みが1.0mm以上2.0mm以下の場合における全光線透過率が30%以上である架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物がエラストマーを含有する請求項1に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項3】
発泡倍率が、1.3~40倍である請求項1又は2に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項4】
自動車内装材用である請求項1~のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体と、前記発泡体の少なくとも一方の面上に設けられる粘着材とを備える、粘着テープ。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体と、前記発泡体の少なくとも一方の面上に設けられる表面材とを備える積層体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を備える光表示部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂を架橋発泡してなる架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂を用いた発泡体は、柔軟性、緩衝性、シール性及び断熱性に優れるため様々な工業分野で使用されている。例えば、前記発泡体と粘着層とを積層した粘着テープが挙げられ、携帯電話やスマートフォン等のタッチパネルを搭載した機器に用いられている。このような用途の場合、発泡体の柔軟性を利用して機器内部の微小な凹凸に対して容易に密着させることができる。また、発泡体の柔軟性と密着性を利用して機器内部の部品を衝撃や水などの外的要因から保護することもできる。
一方、前記発泡体は内部に多数の気泡を有するため、気泡内の空気と発泡体を構成する樹脂との光の屈折率の差により発泡体を透明化することが困難である。したがって、ポリポリオレフィン系樹脂発泡体を基材とする粘着テープは、セロハンテープ等の透明基材を用いた粘着テープと異なり、テープ越しに貼り合わせ位置を確認することが難しく、電子機器等の製造効率を低下させていた。
【0003】
このような問題を解決する発泡体として、特許文献1には、独立気泡構造を有し、全光線透過率が15%以上であり、長さ方向(MD)や幅方向(TD)の収縮率、長さ方向(MD)の平均気泡径、厚さ、見かけ密度、及び25%圧縮硬さを特定の範囲に調整したポリオレフィン系樹脂発泡体が提案されている。また、特許文献2には、平均気泡径が1.2mm以上であることを特徴とするアクリル系樹脂発泡体が提案されている。引用文献1及び2においては主に平均気泡径を調整することにより発泡体の光透過率を向上させている。
更に特許文献3には、80%以上の全光線透過率を有する熱可塑性樹脂からなり、発泡倍率が5~100倍、平均気泡径が1~15mmであることを特徴とする断熱発泡体が提案されている。この特許文献3においては、メチルメタクリレート等の全光線透過率が高い樹脂を用いることにより発泡体の光透過率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-190375号公報
【文献】特開2013-203984号公報
【文献】特開平08-067757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリオレフィン系樹脂発泡体は、特許文献1のように平均気泡径を調整した場合であっても発泡体の厚みが0.3mmを超えると全光線透過率が20%未満となるため改善の余地がある。一方、特許文献2及び3のようにアクリル系樹脂発泡体を用いることにより光透過性の問題を解決する場合もあるが、アクリル系樹脂発泡体はポリオレフィン系樹脂発泡体のように電子線架橋された発泡体と比較して、機械的特性、柔軟性などの点で劣るという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の事情を鑑みてなされたものであって、優れた光透過性を有する架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、発泡倍率、樹脂成分、樹脂に配合される配合物を適宜調整することにより、光透過性が高い架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を要旨とする。
[1]ポリオレフィン系樹脂を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を架橋発泡してなる架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体であって、
前記架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体の厚みが0.3mm以上1.0mm未満の場合における全光線透過率が45%以上であり、かつ厚みが1.0mm以上2.0mm以下の場合における全光線透過率が30%以上である架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[2]前記ポリオレフィン系樹脂の含有量が、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量基準で65質量%以上である上記[1]に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[3]1種のポリオレフィン系樹脂の含有量が、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量基準で65質量%以上である上記[1]又は[2]に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[4]前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる1種以上である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[5]ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はエチレン-酢酸ビニル共重合体のいずれか1種の含有量が、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量基準で65質量%以上である上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[6]前記ポリオレフィン系樹脂組成物が造核剤を含有する、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[7]前記ポリオレフィン系樹脂組成物がエラストマーを含有する上記[1]~[6]のいずれかに1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[8]発泡倍率が、1.3~40倍である上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[9]自動車内装材用である上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。
[10]上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体と、前記発泡体の少なくとも一方の面上に設けられる粘着材とを備える、粘着テープ。
[11]上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体と、前記発泡体の少なくとも一方の面上に設けられる表面材とを備える積層体。
[12]上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を備える光表示部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた光透過性を有する架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体]
本発明の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体は、ポリオレフィン系樹脂を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を架橋発泡してなる架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体である。
本発明の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体は、その厚みが0.3mm以上1.0mm未満の場合における全光線透過率が45%以上であり、且つ厚みが1.0mm以上2.0mm以下の場合における全光線透過率が30%以上となるものである。全光線透過率を上記範囲内とすることで、厚さに応じた優れた光透過性を有する架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を提供できる。
【0010】
また、架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体では、ポリオレフィン系樹脂が主成分であることが好ましい。具体的には、ポリオレフィン系樹脂の含有量は、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量基準で、65質量%以上であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂を主成分として用いた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体においては、一般的に光透過性が低下する傾向にあるが、本発明においては、後述するように、発泡倍率、樹脂成分、樹脂に配合される配合物などを適宜調整することで、全光線透過率に優れる架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得ることができる。
【0011】
<全光線透過率>
本発明の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体(以下、「発泡体」ともいう。)は、厚みが0.3mm以上1.0mm未満の場合における全光線透過率が45%以上である。発泡体の厚みが0.3mm以上1.0mm未満の場合における全光線透過率が45%以上であると、発泡体が十分な光透過性を有するようになるため、自動車内装用の光表示部材や、スマートフォン等の電子機器に好適に用いることができる。この観点から、発泡体の厚みが0.3mm以上1.0mm未満の場合における全光線透過率は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。厚みが0.3mm以上1.0mm未満の場合における全光線透過率は、高ければ高いほどよいが、例えば95%以下である。
厚みが0.3mm以上1.0mm未満の場合における全光線透過率は、発泡倍率、樹脂成分、樹脂に配合される配合物等を適宜調整することにより前記範囲とすることができる。なお、全光線透過率は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0012】
本発明の発泡体は、厚みが1.0mm以上2.0mm以下の場合における全光線透過率が30%以上である。発泡体の厚みが1.0mm以上2.0mm以下の場合における全光線透過率が30%以上であると、十分な光透過性と衝撃吸収性とを兼ね備えるため、自動車内装用の光透過性部材やスマートフォン等の電子機器に好適に用いることができる。この観点から、発泡体の厚みが1.0mm以上2.0mm以下の場合における全光線透過率は、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは45%以上である。発泡体の厚みが1.0mm以上2.0mm以下の場合における全光線透過率は、高ければ高いほどよいが、例えば90%以下である。前記厚みが1.0mm以上2.0mm以下の場合における全光線透過率は、発泡倍率、樹脂成分、樹脂に配合される配合物等を適宜調整することにより前記範囲とすることができる。
【0013】
<架橋度(ゲル分率)>
本発明の発泡体の架橋度(ゲル分率)は、15~60質量%が好ましい。ゲル分率が前記下限値以上であると、発泡体において十分な架橋が形成されるため機械強度が高くなりやすい。また、架橋度がこれら上限値以下であると、発泡体の柔軟性等を確保しやすくなる。このような観点から、架橋度は、20~55質量%がより好ましく、25~50質量%が更に好ましい。なお、架橋度は後述する測定方法により測定することができる。
【0014】
<発泡倍率>
発泡体の発泡倍率は、1.3~40倍が好ましく、1.5~12倍がより好ましく、1.8~9倍が更に好ましく、2.0~7倍がより更に好ましい。発泡倍率が前記下限値以上であると光透過性を向上させつつ、発泡体が適度に発泡されることで柔軟性、衝撃吸収性が良好となる。また、発泡倍率が高くなると光透過性も向上する傾向にあるが、機械強度を確保するためにも前記上限値以下とすることが好ましい。本発明においては発泡倍率を調整しつつ、後述する樹脂の種類、造核剤等を適宜選択することにより全光線透過率を向上させることができる。
【0015】
<見掛け密度>
本発明において、発泡体の見掛け密度は0.05~0.60g/cmであることが好ましい。発泡体の見掛け密度が上記範囲内であると、光透過性を向上させつつ、一定の柔軟性及び機械強度が付与され、衝撃吸収性なども良好となる。これら観点から、見掛け密度は0.10~0.50g/cmがより好ましく、0.15~0.40g/cmがさらに好ましい。
【0016】
<厚み>
本発明の発泡体の厚みは、0.3~2.0mmであり、0.3~1.5mmがより好ましい。発泡体の厚みが前記下限値以上であると機械強度を維持しつつ光透過性を向上させることができる。一方、前記上限値以下であると、光透過性を維持しつつスマートフォン等の小型電子機器に使用可能になる。
【0017】
<25%圧縮強度>
発泡体の25%圧縮強度は、30~200kPaが好ましい。25%圧縮強度が前記上限値以下であると、発泡体の柔軟性が向上し、例えば粘着テープにした際に被着体への追従性が良好になる。一方、25%圧縮強度が前記下限値以上であると、機械強度、衝撃吸収性などが良好となる。これらの観点から、発泡体の25%圧縮強度は、30~150kPaがより好ましい。
なお、25%圧縮強度は、JIS K6767に準拠した測定方法で測定した値である。
【0018】
<ポリオレフィン系樹脂>
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる1種以上が好ましい。これら樹脂は、いずれか1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の発泡体はポリオレフィン系樹脂を主成分であることが好ましく、具体的にポリオレフィン系樹脂の含有量は、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量基準で、65質量%以上であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂の含有量が65質量%以上となることで、発泡体の機械強度、柔軟性などを確保しやすくなる。また、後述するように、1種のポリオレフィン系樹脂を主成分樹脂にしやすくなる。これら観点から、ポリオレフィン系樹脂の含有量は、発泡体樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量基準で、好ましくは70~100質量%であり、より好ましくは75~100質量%である。なお、以下では、ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量基準を単に「樹脂成分全量基準」という。
【0019】
≪ポリエチレン樹脂≫
ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(0.93g/cm以下、LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(0.930g/cmより大きく0.942g/cm未満、MDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(0.942g/cm以上、HDPE)が挙げられる。また、低密度ポリエチレン樹脂の好適な具体例としては、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)が挙げられる。
【0020】
これらの中では、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂がより好ましい。これらの樹脂を使用することで、発泡体の圧縮強度変化率を低くしやすくなる。
なお、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の密度は、好ましくは0.90g/cm以上であり、より好ましくは0.91g/cm以上0.93g/cm以下である。また、高密度ポリエチレン樹脂の密度は、好ましくは0.98g/cm以下であり、より好ましくは0.95g/cm以上0.97g/cm以下である。高密度ポリエチレン樹脂や直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の密度をこれら範囲内とすることで、発泡体の柔軟性を損なうことなく、圧縮強度等を低くしやすくなる。
【0021】
ポリエチレン樹脂は、エチレンのホモポリマーでもよいが、エチレンを主成分(全モノマーの好ましくは75質量%以上、より好ましくは90質量%以上)とした、エチレンと少量のα-オレフィンの共重合体等でもよい。α-オレフィンとしては、好ましくは炭素数3~12、より好ましくは炭素数4~10のものが挙げられ、具体的には、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる。なお、共重合体において、これらのα-オレフィンは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ポリエチレン樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
≪ポリプロピレン樹脂≫
ポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレンでもよいし、プロピレンを主成分(全モノマーの好ましくは75質量%以上、より好ましくは90質量%以上)とした、プロピレンと少量のエチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
プロピレンと、エチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体としては、ブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)、ランダムブロック共重合体等が挙げられる。
プロピレン以外のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等の炭素数4~10程度のα-オレフィン等が挙げられるが、これらの中でも、成形性及び耐熱性の観点から、エチレンが好ましい。なお、共重合体において、これらのα-オレフィンは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ポリプロピレン樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明においては、チーグラー・ナッタ化合物、メタロセン化合物、酸化クロム化合物等の重合触媒で重合されたポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はこれらの混合物のいずれを用いてもよい。メタロセン化合物の重合触媒により得られた、ポリエチレン樹脂、特に直鎖状低密度ポリエチレンを用いることにより、柔軟性が高く、高い衝撃吸収性を有する発泡体を得やすくなる。
【0024】
≪エチレン-酢酸ビニル共重合体≫
ポリオレフィン系樹脂として使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体は、例えば、エチレン由来の構成単位を50質量%以上含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体が挙げられる。エチレン-酢酸ビニル共重合体はポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂との相溶性が高いため、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂から選ばれる1種以上とを併用することにより発泡体の光透過性が向上する。
エチレン-酢酸ビニル共重合体の密度は、好ましくは0.92g/cm以上、より好ましくは0.93g/cm以上、更に好ましくは0.94g/cm以上であり、そして、好ましくは0.97g/cm以下、より好ましくは0.96g/cm以下である。エチレン-酢酸ビニル共重合体の密度をこれら範囲内とすることで、発泡体の柔軟性を損なうことなく、圧縮強度等を低くしやすくなる。
【0025】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂組成物は、上記したポリオレフィン樹脂のうちいずれか1種を主成分樹脂として使用することが好ましい。ここで、主成分樹脂とは、ポリオレフィン樹脂のうちいずれか1種の樹脂が樹脂成分全量基準で65質量%以上含有されることを意味し、したがって、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、又はエチレン-酢酸ビニル共重合体のいずれか1種を65質量%以上含有することが好ましい。
一般的に、樹脂は、2種以上をブレンドすると、その樹脂同士は完全に混合せずに、混合に起因して曇りが生じるが、本発明では、特定の1種の樹脂(すなわち、単一樹脂成分)を主成分樹脂として使用することで、ブレンドに起因した曇りが生じにくくなり発泡体の光透過性が高められる。
【0026】
主成分樹脂とする樹脂は、上記した樹脂の中でも、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂のいずれかが好ましく、ポリプロピレン樹脂がより好ましい。発泡体は、主成分樹脂をポリプロピレン樹脂とすることで、耐熱性に優れ、自動車内装材用に好適に使用できる。
より具体的に説明すると、ポリプロピレン樹脂を主成分樹脂として使用する場合には、そのポリプロピレン樹脂を、樹脂成分全量基準で65質量%以上含有させるとよく、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、最も好ましくは100質量%含有させる。
また、好ましくはポリプロピレン樹脂のうちでも特定の1種の樹脂を、樹脂成分全量基準で65質量%以上含有させる。例えば、ブロックポリプロピレンを65質量%以上としたり、ランダムポリプロピレンを65質量%以上としたりするとよく、この場合も、これら特定の1種の樹脂は、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、最も好ましくは100質量%含有させる。
【0027】
同様に、ポリエチレン樹脂を主成分樹脂として使用する場合には、そのポリエチレン樹脂を、樹脂成分全量基準で65質量%以上含有させるとよく、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上含有させる。
また、好ましくはポリエチレン樹脂のうちでも特定の1種の樹脂を、樹脂成分全量基準で65質量%以上含有させる。例えば、LDPEを65質量%以上としたりするとよく、この場合も、これら特定の1種の樹脂は、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。
【0028】
また、ポリプロピレン樹脂を主成分樹脂として使用する場合、ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン樹脂を単独使用してもよいが、ポリプロピレン樹脂に加えて、ポリエチレン樹脂及びエチレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を併用してもよい。ポリプロピレン樹脂を単独使用すると、他のポリオレフィン樹脂と相溶させる必要がなくなるので、樹脂同士の混合に起因する透明性の低下が防止される。また、ポリプロピレン樹脂と、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びポリエチレン樹脂から選ばれる少なくとも1種とを併用することにより相溶性が良好となり、透明性が良好に維持される。さらに、架橋度や発泡倍率を調整しやすくなるため、発泡体の全光線透過率を調整しやすくなる。
この場合、樹脂成分全量基準で、ポリプロピレン樹脂の含有量が65~95質量%であり、ポリエチレン樹脂及びエチレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種が5~35質量%であることが好ましい。また、前者が75~95質量%、後者が5~25質量%がより好ましく、前者が85~95質量%、後者が5~15質量%がさらに好ましい。
また、併用する樹脂は、ポリエチレン樹脂又はエチレン-酢酸ビニル共重合体のいずれかであることが好ましいが、エチレン-酢酸ビニル共重合体であることがより好ましい。
また、ポリプロピレン樹脂を主成分樹脂として使用する場合、後述するようにエラストマーをさらに使用してもよい。この場合のエラストマーの含有量は後述するとおりである。
【0029】
一方で、ポリエチレン樹脂を主成分樹脂として使用する場合も、ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン樹脂に加えて、ポリプロピレン樹脂及びエチレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を併用してもよいが、ポリエチレン樹脂を単独使用することが好ましい。ただし、ポリエチレン樹脂を単独使用する場合には、後述するエラストマーをさらに使用することが好ましく、その際のエラストマーの含有量は後述するとおりである。
【0030】
発泡体を構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂のみで構成されてもよいが、ポリオレフィン系樹脂とエラストマーとが混合されたものであってもよい。ポリオレフィン系樹脂組成物がエラストマーを含むことで、ポリオレフィン系樹脂の結晶化度を下げることができ、発泡体の全光線透過率が向上する。すなわち、本発明では、エラストマーは、いわゆる透明化剤としての機能を果たすものを使用するとよい。
また、エラストマーを使用することで、発泡体の柔軟性や衝撃吸収性を向上させることができる。
【0031】
エラストマーとしては、ポリオレフィン系樹脂と相溶性が良いエラストマーが使用され、具体的には、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、スチレンゴム等が挙げられる。
また、エラストマーとしては、熱可塑性エラストマーも挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
エラストマーは、上記成分を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。発泡体の全光線透過率を上記範囲内に調整しやすくする観点から、スチレンゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましく、中でもスチレンゴム、スチレン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0032】
スチレンゴムとしては、スチレンと共役ジエン化合物のランダム共重合体などの各種重合体が挙げられ、その水素添加物であってもよい。具体的には、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、又はその水素添加物(HSBR)などが挙げられる。
【0033】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ブレンド型、動的架橋型が挙げられ、より具体的には、ハードセグメントにポリプロピレンやポリエチレン等の熱可塑性結晶性ポリオレフィンを使用し、ソフトセグメントに完全加硫又は部分加硫したゴムを使用した熱可塑性エラストマーが挙げられる。ソフトセグメント成分は、プチルゴム、ハロブチルゴム、EPDM、EPM、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、NBR、天然ゴム等が挙げられ、好ましくはEPDMを使用する。
また、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ブロックコポリマータイプも挙げられる。ブロックコポリマータイプとしては、結晶性ブロックと、ソフトセグメントブロックとを有するものが挙げられ、より具体的には、結晶性オレフィンブロック-エチレン・ブチレン共重合体-結晶性オレフィンブロックコポリマー(CEBC)が例示される。CEBCにおいて、結晶性オレフィンブロックは、結晶性エチレンブロックであることが好ましく、そのようなCEBCの市販品としては、JSR株式会社製の「DYNARON 6200P」等が挙げられる。
【0034】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレンの重合体又は共重合体ブロックと、共役ジエン化合物の重合体又は共重合体ブロックとを有するブロックコポリマーなどが挙げられる。共役ジエン化合物としては、イソプレン、ブタジエンなどが挙げられる。
本発明に用いるスチレン系熱可塑性エラストマーは、水素添加していても、していなくてもよい。水素添加する場合、水素添加は公知の方法で行うことができる。
【0035】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、通常ブロック共重合体であり、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン/ブチレン-結晶性オレフィンブロック共重合体(SEBC)などが挙げられる。
上記したスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、ブロック共重合体が好ましく、中でもSEBCがより好ましい。このようなエラストマーをポリオレフィン系樹脂と併用し、更に発泡倍率を調整することにより発泡体の光透過性を向上させることが可能になる。
【0036】
なお、スチレン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、商品名「DYNARON 1320P」(スチレン含有量10質量%)、株式会社JSR製、商品名「DYNARON 8600P」(スチレン含有量15質量%)、商品名「DYNARON 4600P」(スチレン含有量20質量%)などが挙げられる。
【0037】
本発明において、樹脂成分としてポリオレフィン系樹脂とエラストマーとを併用する場合、エラストマーの含有量は、樹脂成分量基準で、5~30質量%が好ましく、8~22質量%がより好ましい。エラストマーの含有量がこれら範囲内であれば、発泡体の機械強度を維持しつつ、発泡体の光透過性をより向上できる。
【0038】
<造核剤>
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は造核剤を含有することが好ましい。本発明に用いる造核剤としては、結晶核生成過程の進行速度を向上させる効果があるものであれば特に制限はない。ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂に造核剤を添加することにより、生じる結晶の大きさを小さくすることができるため発泡体の透明性が向上する。
本発明において用いる造核剤としては、結晶核生成過程の進行速度を向上させる効果があるものとして、重合体の分子鎖の吸着過程を経て分子鎖配向を助長する効果のある物質が挙げられる。
より具体的には、高融点ポリマー、有機カルボン酸若しくはその金属塩、脂肪族アルコール族、ジベンジリデンソルビトール若しくはその誘導体、ロジン酸部分金属塩、アミド化合物、無機微粒子、有機リン酸化合物若しくはその金属塩、イミド類、キナクリドン類、キノン類、芳香族スルホン酸塩若しくはその金属塩、糖類、及びこれらの混合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
高融点ポリマーとしては、ポリ3-メチルペンテン-1、ポリ3-メチルブテン-1等のポリオレフィン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリビニルシクロペンタン等のポリビニルシクロアルカン、シンジオタクチックポリスチレン、及びポリアルケニルシラン等が挙げられる。
有機カルボン酸及びその金属塩としては、安息香酸、p-t-ブチル安息香酸、アジピン酸、チオフェネカルボン酸、ピロールカルボン酸、安息香酸アルミニウム塩、p-t-ブチル安息香酸アルミニウム塩、アジピン酸ナトリウム、チオフェネカルボン酸ナトリウム、及びピロールカルボン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0040】
ジベンジリデンソルビトール及びその誘導体としては、ジベンジリデンソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-2,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-4-エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ビス(o-4-クロロベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4-ジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。ジベンジリデンソルビトール及びその誘導体の市販品としては、新日本理化株式会社製のゲルオールMDやゲルオールMD-R(商品名)等が挙げられる。
ロジン酸部分金属塩としては、荒川化学工業株式会社製のパインクリスタルKM1600、パインクリスタルKM1500、パインクリスタルKM1300(商品名)等が挙げられる。
アミド化合物としては、アジピン酸ジアニリド、及びスペリン酸ジアニリド等が挙げられる。
【0041】
無機微粒子としては、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、グラファィト、アルミニウム粉末、アルミナ、シリカ、ケイ藻土、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉末、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、硫化モリブデンなどが挙げられる。
【0042】
有機リン酸金属塩としては、下記一般式(1)で示される有機リン酸金属塩が臭いの発生が少なく好ましい。
【0043】
【化1】
【0044】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ水素原子、炭素数1~12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム及び亜鉛から選ばれる1種を示す。Mがアルカリ金属のときmは0を、nは1をそれぞれ示し、Mがアルカリ土類金属又は亜鉛のときnは1又は2を示し、nが1のときmは1を、nが2のときmは0を示し、Mがアルミニウムのときmは1を、nは2をそれぞれ示す。)
有機リン酸金属塩の市販品としては、アデカスタブNA-11やアデカスタブNA-21(株式会社ADEKA)が挙げられる。
【0045】
造核剤の中では、オレフィン系への相溶性と透明性の観点から糖類系が好ましい。糖類系としては、ソルビトール系、ノニトール系、キシリトール系等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を造核剤として使用することがより好ましい。
【0046】
本発明において造核剤を用いる場合、ポリオレフィン系樹脂組成物中の造核剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.5~10質量部が好ましく、1.5~8質量部がより好ましく、2~7質量部がより更に好ましい。造核剤の含有量が前記下限値以上であると発泡体の透明性が向上する。一方、造核剤の含有量が前記上限値以下であると製造コストを抑えつつ発泡体の透明性を向上させることができる。
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、造核剤及びエラストマーの両方を有してもよいが、いずれか一方を有することが好ましい。いずれか一方を有することで、効果的に光透過性を向上させることができる。
【0047】
<発泡剤>
本発明の発泡体は、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂、及び発泡剤などを含むポリオレフィン系樹脂組成物を発泡することで得られる。発泡剤としては、熱分解型発泡剤が好ましい。
熱分解型発泡剤としては、有機発泡剤、無機発泡剤が使用可能である。有機発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸金属塩(アゾジカルボン酸バリウム等)、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、ヒドラゾジカルボンアミド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、トルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体、トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物等が挙げられる。
無機発泡剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、無水クエン酸モノソーダ等が挙げられる。
これらの中では、微細な気泡を得る観点、及び経済性、安全面の観点から、アゾ化合物が好ましく、アゾジカルボンアミドがより好ましい。
熱分解型発泡剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
ポリオレフィン系樹脂組成物における発泡剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、2~25質量部がより好ましく、2~20質量部がさらに好ましい。発泡剤の配合量を1質量部以上にすることで、発泡性シートは適度に発泡され、適度な柔軟性と衝撃吸収性を発泡体に付与することが可能になる。また、発泡剤の配合量を30質量部以下にすることで、発泡体が必要以上に発泡することが防止され、発泡体の機械強度等を良好にすることができる。
【0049】
<添加剤>
ポリオレフィン系樹脂組成物は、架橋助剤、分解温度調整剤、及び酸化防止剤等の成分を含んでいてもよい。
架橋助剤としては、多官能モノマーを使用することができる。架橋助剤をポリオレフィン系樹脂に添加することによって、後述する工程(2)において照射する電離性放射線量を低減して、電離性放射線の照射に伴う樹脂分子の切断、劣化を防止する。
架橋助剤としては具体的には、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアヌレート等の1分子中に3個の官能基を持つ化合物や、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の1分子中に2個の官能基を持つ化合物、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、エチルビニルベンゼン、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。
これらの架橋助剤は、単独で又は2以上を組み合わせて使用する。
【0050】
架橋助剤の添加量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.5~10質量部が好ましく、1.0~8質量部がより好ましく、1.5~5質量部が更に好ましい。該添加量を0.5質量部以上とすることにより発泡体が所望する架橋度を安定して得ることが可能となり、10質量部以下とすることにより発泡体の架橋度の制御が容易となる。
【0051】
ポリオレフィン系樹脂組成物には、分解温度調整剤が配合されていてもよい。分解温度調整剤は、熱分解型発泡剤の分解温度を低くしたり、分解速度を速めたり調節するものとして配合されるものであり、具体的な化合物としては、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、尿素等が挙げられる。分解温度調整剤は、発泡体の表面状態等を調整するために、例えばポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.01~5質量部配合される。
【0052】
ポリオレフィン系樹脂組成物には、酸化防止剤が配合されていてもよい。酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネート等のイオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、例えばポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.01~5質量部配合される。
ポリオレフィン系樹脂組成物には、これら以外にも、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、充填材等の発泡体に一般的に使用する添加剤が配合されてもよい。
【0053】
[発泡体の製造方法]
本発明の発泡体の製造方法に特に制限はないが、少なくとも樹脂及び熱分解型発泡剤を含むポリオレフィン系樹脂組成物からなる発泡性シートを加熱して熱分解型発泡剤を発泡させることで製造できる。その製造方法は、より具体的には、以下の工程(1)~(3)を含むことが好ましい。
工程(1):少なくとも樹脂及び熱分解型発泡剤を含むポリオレフィン系樹脂組成物からなる発泡性シートを成形する工程
工程(2):発泡性シートに電離性放射線を照射して発泡性シートを架橋させる工程
工程(3):架橋させた発泡性シートを加熱し、熱分解型発泡剤を発泡させて、発泡体を得る工程
【0054】
工程(1)において、発泡性シートを成形する方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂及び添加剤を押出機に供給して溶融混練し、押出機からポリオレフィン系樹脂組成物をシート状に押出すことによって成形すればよい。また、発泡体は、ポリオレフィン系樹脂組成物をプレス等することにより成形してよい。
発泡性シートの成形温度(すなわち、押出し時の温度、又はプレス時の温度)は、50℃以上250℃以下が好ましく、80℃以上180℃以下がより好ましい。
【0055】
工程(2)においてポリオレフィン系樹脂組成物を架橋する方法としては、発泡性シートに電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する方法を用いる。上記電離放射線の照射量は、得られる発泡体の架橋度が上記した所望の範囲となるように調整すればよいが、1~12Mradであることが好ましく、1.5~8Mradであることがより好ましい。
【0056】
工程(3)において、ポリオレフィン系樹脂組成物を加熱し熱分解型発泡剤を発泡させるときの加熱温度は、熱分解型発泡剤の発泡温度以上であればよいが、好ましくは200~300℃、より好ましくは220~280℃である。
【0057】
また、本製造方法において、発泡体は、MD又はTDのいずれか一方又は両方に延伸させてもよい。発泡体の延伸は、発泡性シートを発泡させて発泡体を得た後に行ってもよいし、発泡性シートを発泡させつつ行ってもよい。なお、発泡性シートを発泡させて発泡体を得た後、発泡体を延伸する場合には、発泡体を冷却することなく発泡時の溶融状態を維持したまま続けて発泡体を延伸してもよく、発泡体を冷却した後、再度、発泡体を加熱して溶融又は軟化状態とした上で発泡体を延伸してもよい。発泡体は延伸することで薄厚にしやすくなる。また、延伸時に発泡体は、例えば100~280℃、好ましくは150~260℃に加熱すればよい。本発明では、発泡体を延伸することで、発泡体の気泡径がMD又はTDの一方又は両方に沿って大きくなり、光透過性が高くなりやすくなる。
【0058】
ただし、本製造方法は、上記に限定されずに、上記以外の方法により、発泡体を得てもよい。例えば、電離性放射線を照射する代わりに、ポリオレフィン系樹脂組成物に予め有機過酸化物を配合しておき、発泡性シートを加熱して有機過酸化物を分解させる方法等により架橋を行ってもよい。
また、本発明の発泡体の製造においては、得られた発泡体をスライスすることにより所望の厚みを有する発泡体としてもよい。
【0059】
[発泡体の使用方法]
本発明の発泡体は、各種電子機器、自動車内装材などに好適に用いることができ、自動車内装材に使用することがより好ましい。電子機器としては、スマートフォン等の携帯電話、ゲーム機器、電子手帳、タブレット端末、ノート型パーソナルコンピューターなどが挙げられる。
発泡体は、各種電子機器の内部において、例えばシール材や衝撃吸収材として使用できる。本発明の発泡体は、光透過性に優れるため、発泡体シート越しに貼り合わせ位置などを確認することができるので、各種電子部品などに高い位置精度で貼り合わせることが可能になる。
また、本発明の発泡体は、光表示部材として好適に使用できる。光表示部材は、発泡体の一方の面(すなわち、背面)側に発光ダイオード(LED)等の光源を配置させると共に、光源から発泡体に向けて光を照射することにより発泡体を光が透過し、発泡体の他方の面(すなわち、前面)側にその光源からの光により、各種の情報を表示させるものである。
【0060】
また、発泡体は、他の部材が積層され積層体としてもよい。具体的には、本発明の発泡体と、発泡体の少なくとも一方の面に設けられた表面材とを有する積層体とすることが好ましい。このような積層体は、電子機器、自動車内装のいずれでも使用可能であるが、自動車内装用に使用されることが好ましい。
また、積層体は、光表示部材として使用することが好ましい。光表示部材においては、発泡体の背面側から発光ダイオード(LED)等の光源を用いて光を照射することにより発泡体及び表面材を光が透過し、表面材上に各種の情報(車速など)を表示させることが可能になる。また、表面材に幾何学模様の凹凸などを施しておくと、透過した光が幾何学模様状に浮かび上がるため、自動車内装の意匠性を向上させることが可能になる。
【0061】
表面材は、自動車内装材では表皮材とも呼ばれるものである。表面材は、具体的には、ポリ塩化ビニルシート、ポリ塩化ビニルとABS樹脂との混合樹脂、熱可塑性エラストマーシートなどで例示される樹脂シート、天然繊維や人造繊維を用いた織物、編物、不織布、人工皮革や合成皮革等のレザー等が挙げられる。表面材には、上記したように適宜幾何学模様の凹凸などを施してもよい。これら中では、樹脂シートが好ましく、樹脂シートは光透過性を有することがより好ましい。光透過性を有する樹脂シートを使用することで、上記した光源からの光により、表面材上に各種の情報を表示させることができる。また、積層体全体に、光透過性を付与することが可能になる。
【0062】
表面材の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1~5mm、好ましくは0.2~2mmである。表面材の厚みをこれら範囲内とすることで、表面材の機械強度などを良好にしつつ、高い光透過性なども確保できる。
表面材を貼り合わせる方法としては、例えば、押出ラミネート法、接着剤を塗布した後貼り合わせる接着ラミネート法、熱ラミネート法(熱融着法)、ホットメルト法、高周波ウェルダー法等が挙げられるが、如何なる方法でも両者が接着されればよい。
また、自動車内装材に使用される場合には、発泡体、及び発泡体を有する上記積層体は、所望の形状に適宜成形されてもよい。成形方法としては、真空成形、圧縮成形、スタンピング成形等が挙げられる。
【0063】
[粘着テープ]
本発明の粘着テープは、本発明に係る発泡体を基材として用い、発泡体の一方の面又は両面に粘着材を設けたものである。粘着テープの厚さは、通常0.5~2.0mm程度である。
粘着テープを構成する粘着材の厚さは、50~200μmが好ましく、80~150μmがより好ましい。粘着テープを構成する粘着材の厚さが50~200μmであると、粘着テープの厚さを薄くすることができ、光透過性が向上する。
【0064】
粘着材は、少なくとも粘着剤層を備えるものであればよく、発泡体の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層単体であってもよいし、発泡体の少なくとも一方の面に貼付された両面粘着シートであってもよいが、光透過性などの観点から粘着剤層単体であることが好ましい。なお、両面粘着シートは、基材と、基材の両面に設けられた粘着剤層とを備えるものである。両面粘着シートは、一方の粘着剤層を樹脂発泡体シートに接着させるとともに、他方の粘着剤層を他の部材に接着させるために使用する。
【0065】
粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に制限はなく、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また、粘着材の上には、更に離型紙等の剥離シートが貼り合わされてもよい。
本発明の発泡体を用いた粘着テープは、電子機器本体内に内装される衝撃吸収材、シール材等として用いることができる。また、粘着テープの粘着剤層により発泡体を上記した表面材に貼り合わせてもよい。
【実施例
【0066】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0067】
[測定方法]
本明細書における各物性の測定方法は、次の通りである。
<見掛け密度>
発泡体の見掛け密度は、JIS K7222:2005に準拠して測定した。
<発泡倍率>
発泡倍率は、発泡前の発泡性シートの密度を、発泡後の発泡体の密度(見掛け密度)で除することで算出した。
【0068】
<架橋度(ゲル分率)>
発泡体シートから約100mgの試験片を採取し、試験片の重量A(mg)を精秤した。次に、この試験片を120℃のキシレン30cm3中に浸漬して24時間放置した後、200メッシュの金網で濾過して金網上の不溶解分を採取、真空乾燥し、不溶解分の重量B(mg)を精秤した。得られた値から、下記式により架橋度(質量%)を算出した。
架橋度(質量%)=(B/A)×100
【0069】
<全光線透過率>
発泡体の全光線透過率は、表1に記載の厚みに調整した発泡体についてASTM D1003に準拠して、ヘーズメーターを用いて測定した。
【0070】
<視認性評価>
視認性評価については、以下のとおり行った。
まず、表皮材として、ABS樹脂入りのポリ塩化ビニルシート(厚み0.6mm)を用意した。このポリ塩化ビニルシートの表面に文字「abc」を1文字の大きさが12フォントになるように記載した。
次いで、実施例及び比較例で製造した架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体と前記表皮材との2層積層物を160℃に保持されたプレス成型金型(深さ10mm、金型8mm、凹部の曲率半径5mm)に入れ、0.2kg/cm2の圧力で25秒プレスして成型品を得た。
この成型品の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体側から表皮材側に向けてLED点灯し、1m離れた場所より文字を視認することができるかどうか判定した。文字を視認できた場合を「A」、視認できなかった場合を「B」とした。結果を表1に示す。
【0071】
<使用原料>
実施例及び比較例で用いた材料は以下のとおりである。
〔ポリオレフィン系樹脂〕
PP:住友化学株式会社製「ノーブレン AD571」(密度:0.900g/cm
LLDPE:東ソー株式会社「ニポロン-Z ZF231B」(密度:0.917g/cm
LDPE:宇部丸善ポリエチレン株式会社「UBEポリエチレン F522N」(密度:0.922g/cm
EVA(1):東ソー株式会社「ウルトラセン 636」(密度:0.941g/cm
EVA(2):東ソー株式会社「ウルトラセン 710」(密度:0.949g/cm
【0072】
〔エラストマー〕
HSBR:JSR株式会社「DYNARON 1320P」
SEBC:JSR株式会社「DYNARON 4600P」
【0073】
造核剤:糖類系、東京インキ株式会社「NAT-95」
発泡剤:栄和化成株式会社「AC#R」(アゾジカルボンアミド)
架橋助剤:共栄社化学「ライトエステル1.9-ND」(1,9-ノナンジオールジメタクリレート)
酸化防止剤:BASFジャパン「イルガノックス1010」
分解温度調整剤(1):堺化学工業 酸化亜鉛
分解温度調整剤(2):堺化学工業「SZ-2000」ステアリン酸亜鉛
【0074】
実施例1
ポリプロピレン樹脂(PP)80質量部と、ポリエチレン樹脂(LLDPE)19質量部と、造核剤2質量部と、発泡剤8質量部と、架橋助剤3質量部と、酸化防止剤0.8質量部とを溶融混練後、プレスすることにより厚さ0.3mmの発泡性シートを得た。得られた発泡性シートの両面に加速電圧500keVにて電子線を3Mrad照射させて、発泡性シートを架橋させた。次に架橋した発泡性シートを250℃に加熱することによって発泡させて、見かけ密度0.09g/cm、厚さ1.0mmの発泡体シートを得た。
得られた発泡体の評価結果を表1に示す。
【0075】
実施例2~17、比較例1~6
ポリオレフィン系樹脂組成物の配合を表1に示すように変更すると共に、表1の架橋度になるように電子線照射量を調整したこと以外は実施例1と同様に実施した。得られた発泡体の評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
上記の結果より明らかなように、本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体は、厚みが0.3mm~2.0mmの場合において優れた光透過性を有することが分かる。