(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】光源システム、光学回折素子製造方法、および測距システム、ならびに光学回折素子
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20221213BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20221213BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G01B11/00 H
G01C3/06 110A
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2018203709
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018050773
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 勝治
【審査官】神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209237(JP,A)
【文献】特開2008-171960(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090807(WO,A1)
【文献】特開2016-001236(JP,A)
【文献】米国特許第05537252(US,A)
【文献】特開2008-299084(JP,A)
【文献】特開2005-103991(JP,A)
【文献】特開2007-128579(JP,A)
【文献】特開2017-151093(JP,A)
【文献】特開2019-164325(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199323(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0219701(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/00- 3/32
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G02B 5/18
G02B 5/32
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を発する光源と、
一方の面に形成され、前記光源からの光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、前記一方の面に対向する他方の面における、前記光源からの光の入射方向から見て前記開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、前記回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部とを含む光学回折素子と
を備える
光源システム。
【請求項2】
前記光源と前記光学回折素子との間に配置され、前記光源からの光を平行光となるように補正する補正レンズ、
をさらに備えた
請求項1に記載の光源システム。
【請求項3】
前記0次光補正部は、UV硬化樹脂によって形成されている
請求項1に記載の光源システム。
【請求項4】
前記所定パターンは、円孔状、線状、およびランダム状のうち、いずれか1つである
請求項1に記載の光源システム。
【請求項5】
前記UV硬化樹脂は、前記回折格子部を通過したUV光が照射されることにより硬化されている
請求項3に記載の光源システム。
【請求項6】
前記光学回折素子は、前記回折格子部と前記0次光補正部との間に配置された基板を含む
請求項1に記載の光源システム。
【請求項7】
基板の一方の面に、遮光部材を所定のパターンで形成する工程と、
前記基板における前記一方の面に対向する他方の面に、
ND(Neutral Density)または黒色となるように着色された液体のUV硬化樹脂を接触させる工程と、
前記基板に、前記一方の面側からUV光を照射する工程と、
前記基板における前記他方の面を洗浄する工程と
を含む
光学回折素子製造方法。
【請求項8】
前記UV光を照射する工程は、
前記他方の面に接触させた前記液体のUV硬化樹脂を硬化させる工程、を含む
請求項7に記載の光学回折素子製造方法。
【請求項9】
光を発する光源と、
一方の面に形成され、前記光源からの光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、前記一方の面に対向する他方の面における、前記光源からの光の入射方向から見て前記開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、前記回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部とを含む光学回折素子と、
前記光学回折素子から射出され、被写体に照射された前記回折光の反射光を撮像して画像データを生成する撮像部と、
前記画像データに基づいて、前記被写体までの距離を算出する距離算出部と
を備える
測距システム。
【請求項10】
基板と、
前記基板の一方の面に形成され、光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、
前記一方の面に対向する前記基板の他方の面における、光の入射方向から見て前記開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、前記回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部と
を含む
光学回折素子
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光源システム、光学回折素子製造方法、および測距システム、ならびに光学回折素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ付き移動体端末装置や銀行などの電子決済処理などで、なりすましや詐欺を防止するために、測距機能を用いて顔認証等の生体認証を行う固体撮像装置、および生体認証装置が普及するようになっている。このような装置において、小型化、薄型化、および高性能化を図る手法としては、コリメート光とされた赤外光を光学回折素子(DOE)に照射し、光学回折素子によって回折光を生成し、その回折光に基づいて、測距および生体認証を行う方法が一般的である。例えば、回折光を被写体に照射して被写体からの反射光を撮像し、画像データに変換後、反射光を解析することによって測距を行い、生体認証を行う方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-190394号公報
【文献】特開2015-115527号公報
【文献】特開2015-132546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の装置において、光学回折素子によって回折光を生成する際には、0次光と多次光とが発生するが、0次光と多次光とでは光の強度が異なるため、反射光を撮像したときに0次光成分が正確に解析できずに測距および生体認証の精度が低下し得る。
【0005】
0次光の強度を低減することが可能となる光源システム、および測距システム、ならびに光学回折素子を提供することが望ましい。また、0次光の強度を低減させる光学回折素子を製造することが可能な光学回折素子製造方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施の形態に係る光源システムは、光を発する光源と、一方の面に形成され、光源からの光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、一方の面に対向する他方の面における、光源からの光の入射方向から見て開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部とを含む光学回折素子とを備える。
【0007】
本開示の一実施の形態に係る光学回折素子製造方法は、基板の一方の面に、遮光部材を所定のパターンで形成する工程と、基板における一方の面に対向する他方の面に、NDまたは黒色となるように着色された液体のUV硬化樹脂を接触させる工程と、基板に、一方の面側からUV光を照射する工程と、基板における他方の面を洗浄する工程とを含む。
【0008】
本開示の一実施の形態に係る測距システムは、光を発する光源と、一方の面に形成され、光源からの光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、一方の面に対向する他方の面における、光源からの光の入射方向から見て開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部とを含む光学回折素子と、光学回折素子から射出され、被写体に照射された回折光の反射光を撮像して画像データを生成する撮像部と、画像データに基づいて、被写体までの距離を算出する距離算出部とを備える。
【0009】
本開示の一実施の形態に係る光学回折素子は、基板と、基板の一方の面に形成され、光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、一方の面に対向する基板の他方の面における、光の入射方向から見て開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部とを含む。
【0010】
本開示の一実施の形態に係る光源システム、測距システム、または光学回折素子では、回折格子部によって回折光が生成される。0次光補正部によって、回折格子部で発生した0次光が低減する。
本開示の一実施の形態に係る光学回折素子製造方法では、0次光を低減可能な光学回折素子が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の比較例に係る光源システムおよび測距システムの一構成例を概略的に示す構成図である。
【
図2】第1の比較例に係る測距システムにおいて測定される光強度の一例を概略的に示す説明図である。
【
図3】第2の比較例に係る光源システムおよび測距システムの一構成例を概略的に示す構成図である。
【
図4】本開示の第1の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムの一構成例を概略的に示す構成図である。
【
図5】第1の実施の形態に係る光学回折素子の一構成例を概略的に示す断面図および平面図である。
【
図6】第1の実施の形態に係る光学回折素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【
図7】第1の実施の形態の第1の変形例に係る光学回折素子の一構成例を概略的に示す断面図および平面図である。
【
図8】第1の実施の形態の第2の変形例に係る光学回折素子の一構成例を概略的に示す断面図および平面図である。
【
図9】第2の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムの一構成例を概略的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
1.0 比較例(
図1~
図3)
1.1 第1の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムの構成および動作(
図4~
図5)
1.2 第1の実施の形態に係る光学回折素子製造方法(
図6)
1.3 第1の実施の形態に係る光学回折素子の変形例(
図7~
図8)
1.4 効果
2.第2の実施の形態(
図9)
3.その他の実施の形態
【0013】
<1.第1の実施の形態>
本開示の技術は、例えば、CCD(Charged Coupled Devices)センサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどのCSP(Chip Size Package)固体撮像素子と、被写体の距離を測るための回折光を照射する光源システムとを備える測距システムに関する。本開示の光源システムおよび測距システムは、例えば、デジタルビデオカメラおよびデジタルスチルカメラなどのデジタルカメラや、監視カメラ、車載カメラなどの画像入力カメラ、スキャナ装置、ファクシミリ装置、テレビジョン電話装置、およびカメラ付き移動体端末装置などの電子情報機器に適用可能である。また、本開示の光源システムおよび測距システムは、生体認証装置や検査装置に適用可能である。
【0014】
[1.0 比較例]
特許文献2(特開2015-115527号公報)、および特許文献3(特開2015-132546号公報)には、一般的な測距を行うための実施例が開示されているが、前述の0次光成分による光の強度の問題を解決する技術は記載されていない。特許文献1(特開2013-190394号公報)に記載の技術では、固体撮像装置を2台有し、0次光成分による光の強度の回避は可能であるが、固体撮像装置を2つ有することにより高価になるという問題がある。また、特許文献1に記載の技術では、ランダムパターンの光を照射するために、反射光を2台の固体撮像装置で撮像後、画像データから距離を測定するには解析に時間がかかり、生体認証に必要な即時性が失われる問題がある。
【0015】
特許文献1には、計測対象物に照射されるパターン光に回折光学素子で生ずる0次光が含まれなくなるようにパターン照明装置を配置することで、0次光による測距の性能低下を回避する技術が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、測距のためにランダムパターンを撮像する2つのカメラ(ステレオカメラ)が必要となり、高価であることが問題であった。また、特許文献1の
図8で説明されているように、ランダムパターンであっても、0次光が発生し、それを回避するために0次光の位置をステレオカメラのカメラ間の距離を変えることで対策している。
【0016】
特許文献2に記載の技術は、1つのカメラでカラー信号の取得と測距とを実現する固体撮像装置の一例であるが、0次光による測距の性能低下を回避する手段は記載されていない。このため、回折光学素子による0次光による測距の性能低下は避けられない。
【0017】
特許文献3に記載の技術は、回折光学素子からの出射光を、非点収差レンズによって異なる2方向の光に変化させて、測距の精度を上げようとするものであり、回折光学素子とともに非点収差レンズが必要であることで、高価になる。また、特許文献3にも、0次光の対策は記載されていない。
【0018】
図1は、第1の比較例に係る光源システムおよび測距システムの一構成例を概略的に示している。
図2は、第1の比較例に係る測距システムにおいて測定される光強度の一例を概略的に示している。
【0019】
第1の比較例に係る測距システムは、光源1と光学回折素子200とを含む光源システムと、撮像カメラ3とを備えている。
【0020】
光源1は、例えば赤外光を含むコリメート光を光学回折素子200に照射する。光学回折素子200には、回折光Ldを生成する所定のパターンが形成されている。光学回折素子200は、光源1から射出された光から回折光Ldを生成する。光学回折素子2から射出された回折光Ldは、被写体10に照射される。被写体10に照射された反射光を撮像カメラ3で撮像する。撮像カメラ3は例えば固体撮像装置を有している。撮像カメラ3は回折光Ldの撮像データを保存、解析する。撮像カメラ3内で回折光Ldを解析することで、被写体10までの距離や被写体10の凹凸などを測定することが一般的である。
【0021】
しかしながら、光学回折素子200からは回折光Ldだけでなく、光学回折素子200によって回折されない光(0次光L0)も射出され、被写体10に照射される。このため、撮像カメラ3によって得られる撮像イメージには、
図2に模式的に示す通り、回折光Ldと0次光L0とが含まれている。一般に、0次光L0の光強度は回折光Ldの光強度に比べて大きい。このため、例えば、撮像カメラ3において、電子シャッタ、メカニカルシャッタ、または絞りなどによって、0次光L0以外の回折光Ldが最適に撮像データとなるように露出調整された場合、
図2に模式的に示す通り、0次光L0の光強度が強く、飽和してしまう問題があった。
【0022】
図1の第1の比較例に係る測距システムにおける測距の解析手法としては、
図2に示したように、被写体10に照射された回折光Ldの反射光の円の重心を求めることにより、被写体10までの距離を算出する方法がある。その際、距離の算出時には0次光L0の反射光成分を使わないようにする手法がとられている。ただし、0次光L0を使わないと測距の分解能が悪くなるのは明らかである。また、撮像カメラ3において、電子シャッタ、メカニカルシャッタ、または絞りなどで、0次光L0が最適に撮像データとなるように露出調整された場合は、0次光L0以外の回折光Ldの強度が小さくなり、距離の算出が難しくなることは明らかである。
【0023】
図3は、第2の比較例に係る光源システムおよび測距システムの一例を概略的に示している。
【0024】
第2の比較例に係る光源システムは、
図1の
第1の比較例に係る測距システムに対して、0次光対策のために0次光補正素子5を備えている。0次光補正素子5は、光学回折素子200とは別体として設けられている。0次光補正素子5は、光学回折素子200からの0次光L0を低減するために、光学回折素子200の0次光L0を低減するパターン(光学回折素子200に形成された所定のパターンとは逆のパターン)を有している。しかしながら、この手法では光学回折素子200と0次光補正素子5とが別体として設けられているため、互いに形成されたパターン同士の位置合わせが困難であり、歩留りが低くなってしまう問題がある。
【0025】
[1.1 第1の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムの構成および動作]
図4は、本開示の第1の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムの一構成例を概略的に示している。
図5は、第1の実施の形態に係る光学回折素子2の断面構成例および平面構成例を概略的に示している。なお、以下では、上記比較例に係る光源システムおよび測距システムの構成要素と略同じ部分については、同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0026】
第1の実施の形態に係る測距システムは、
図4に示したように、光源1と光学回折素子2とを含む光源システムと、撮像カメラ3と、距離算出部31と、形状認識部32と、生体認証部33とを備えている。
【0027】
撮像カメラ3は、光学回折素子2から射出され、被写体10に照射された回折光Ldの反射光を撮像して画像データを生成する。距離算出部31は、画像データに基づいて、被写体10までの距離を算出する。形状認識部32は、距離算出部31によって算出された距離データに基づいて、被写体10の顔などの凹凸を判別し、被写体10の形状認識を行う。生体認証部33は、形状認識部32による認識結果に基づいて、顔認証等の生体認証を行う。
【0028】
光学回折素子2は、
図5に示したように、ガラス基板20と、回折格子部6と、0次光補正部24とを含む。ガラス基板20は、回折格子部6と0次光補正部24との間に配置されている。
【0029】
回折格子部6は、ガラス基板20の一方の面21に形成されている。回折格子部6は、光源1からの光が入射する所定パターンの開口と、光を遮光する遮光部材としての遮光部25とを有し、入射した光に基づいて回折光Ldを生成する。
図5の例では、所定パターンは円孔状であり、回折格子部6は、開口として円形孔23を有している。
【0030】
0次光補正部24は、一方の面21に対向するガラス基板20の他方の面22に形成されている。0次光補正部24は、後述する
図6に示すように、例えばUV硬化樹脂41によって形成されている。0次光補正部24は、回折格子部6で発生した0次光L0を低減するために、ND(Neutral Density)パターンまたは黒パターンで形成されている。これにより、光学回折素子2は、比較例における光学回折素子200(
図1)と比べて、0次光L0を調整する機能を有している。0次光補正部24は、光源1からの光の入射方向から見て回折格子部6の開口(円形孔23)に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成されている。0次光補正部24の大きさは、0次光L0を低減するために、回折格子部6の開口と略同じか回折格子部6の開口よりも大きいことが好ましい。また、0次光補正部24の形状も、0次光L0を低減するために、回折格子部6の開口と略同じであることが好ましい。ただし、0次光補正部24の大きさが回折格子部6の開口よりも小さくても、0次光L0を低減する効果は得られる。このため、0次光補正部24の大きさは、回折格子部6の開口よりも小さくともよい。また、0次光補正部24の形状が、回折格子部6の開口と多少異なっていても0次光L0を低減する効果は得られる。このため、0次光補正部24の形状は、回折格子部6の開口とは多少異なっていてもよい。
【0031】
図5においてTOPVIEWは光源1側の面、BottomViewは被写体10側の面を示す。光学回折素子2には、光源1からの、例えば赤外光を含むコリメート光がTOPViewから入射する。光学回折素子2は、回折格子部6によって生成された回折光LdをBottomView側から被写体10に射出する。光学回折素子2が
図5の構成の場合、回折格子部6が開口として円形孔23を有しているため、被写体10には、円形状の回折光Ldが照射される。一方、回折格子部6において生じた0次光L0は、NDパターンまたは黒パターンからなる0次光補正部24によって、光強度が低減するように調整される。
【0032】
[1.2 第1の実施の形態に係る光学回折素子製造方法]
図6は、光学回折素子2の製造方法の一例を示している。
【0033】
まず、
図6の(A)に示したように、ガラス基板20の一方の面21に、例えば黒色の遮光部材を所定のパターンで塗布することによって形成する。これにより、ガラス基板20の一方の面21に、回折格子部6となる遮光部25と開口(円形孔23)とを形成する。
【0034】
次に、ガラス基板20の他方の面22に0次光補正部24を形成するが、0次光補正部24のパターンは、一方の面21に形成された開口に対向する位置に正確に形成することが好ましい。そこで、次に、
図6の(B)に示したように、ガラス基板20における一方の面21に対向する他方の面22に、液体のUV硬化樹脂41を接触させる。液体のUV硬化樹脂41は、NDまたは黒色となるように着色されている。
【0035】
次に、
図6の(C)に示したように、ガラス基板20に、一方の面21側からUV光を照射することによって、他方の面22に接触させた液体のUV硬化樹脂41を硬化させる。UV硬化樹脂41は、一方の面21に形成された開口を透過したUV光(回折格子部6で発生する0次光L0に相当する)によって硬化する。これにより、他方の面22において、一方の面21に形成された開口に対応する領域に、NDパターンまたは黒パターンの0次光補正部24が形成される。この際、他方の面22において、一方の面21に形成された開口に対応する領域以外の領域に、UV硬化樹脂41が半固着されて残る可能性がある。
【0036】
そこで、最後に、
図6の(D),(E)に示したように、ガラス基板20における他方の面22を液体のUV硬化樹脂41から離し、他方の面22を洗浄する。これにより、半固着されて残ったUV硬化樹脂41は除去される。
【0037】
(光学回折素子製造方法の変形例)
以上で説明した製造方法において、0次光補正部24を形成する際に、UV硬化樹脂41に代えて、熱硬化樹脂とのハイブリッド硬化樹脂を用いてもよい。
【0038】
また、以上で説明した製造方法において、UV硬化樹脂41で仮固定した後、洗浄し、熱硬化樹脂を用いて本固定をすることによって、0次光補正部24を形成してもよい。また、UV硬化樹脂41で仮固定した後、熱硬化樹脂を用いて本固定をし、その後、洗浄を行うことによって、0次光補正部24を形成してもよい。
【0039】
[1.3 第1の実施の形態に係る光学回折素子の変形例]
図7は、第1の実施の形態の第1の変形例に係る光学回折素子2Aの断面構成例および平面構成例を概略的に示している。
図8は、第1の実施の形態の第2の変形例に係る光学回折素子2Bの断面構成例および平面構成例を概略的に示している。
【0040】
図5には、回折格子部6が所定パターンの開口として円形孔23を有する構成例を示したが、この所定パターンは、円孔状のパターンに限らず、例えば、線状のパターン、またはランダム状のパターンであってもよい。
【0041】
例えば、
図7に示した第1の変形例に係る光学回折素子2Aのように、一方の面21に形成された回折格子部6Aが、所定パターンの開口として線孔23Aを有する構成であってもよい。この場合、他方の面22には線孔23Aに対応する線状のパターンからなる0次光補正部24Aを形成する。
【0042】
また例えば、
図8に示した第2の変形例に係る光学回折素子2Bのように、一方の面21に形成された回折格子部6
Bが、所定パターンの開口としてランダム孔23Bを有する構成であってもよい。この場合、他方の面22にはランダム孔23Bに対応するランダムパターンの0次光補正部24Bを形成する。
【0043】
[1.4 効果]
以上説明したように、第1の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムによれば、0次光補正部を有する光学回折素子を備えるようにしたので、回折格子部で発生した0次光L0の強度を低減することが可能となる。これにより、0次光L0の強度を有効に調整することによって、高精度の測距が可能となる。これにより、例えば、高精度の生体認証を行うことが可能となる。
【0044】
なお、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。以降の他の実施の形態の効果についても同様である。
【0045】
<2.第2の実施の形態>
次に、本開示の第2の実施の形態に係る光源システム、および測距システムについて説明する。なお、以下では、上記第1の実施の形態に係る光源システム、および測距システムの構成要素と略同じ部分については、同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0046】
図9は、第2の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムの一構成例を概略的に示している。
【0047】
第2の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムは、第1の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムに対して、補正レンズ4をさらに備えた構成とされている。補正レンズ4は、光源1と光学回折素子2との間に配置され、光源1からの光を平行光となるように補正する。
【0048】
一般的に測距および生体認証を行う際には、赤外光を用いる。光学回折素子2には、コリメート光とされた赤外光を照射することが好ましい。光源1から精度の良いコリメート光を射出するためには、光源1と光学回折素子2との間に、ある程度の距離が必要となることが一般的に知られている。光源1と光学回折素子2との間に補正レンズ4を配置することによって、光源1と光学回折素子2との間の距離を小さくすることができる。
【0049】
その他の構成、動作および効果は、上記第1の実施の形態に係る光源システムおよび測距システムと略同様であってもよい。
【0050】
<3.その他の実施の形態>
本開示による技術は、上記各実施の形態の説明に限定されず種々の変形実施が可能である。
【0051】
上記各実施の形態では、距離算出部31によって算出された距離データを生体認証に用いる場合を例に説明したが、生体認証以外の用途に距離データを用いてもよい。
【0052】
また、例えば、本技術は以下のような構成を取ることもできる。
以下の構成の本技術によれば、0次光の強度を低減することが可能となる。また、0次光の強度を低減させる光学回折素子を製造することが可能となる。
【0053】
(1)
光を発する光源と、
一方の面に形成され、前記光源からの光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、前記一方の面に対向する他方の面における、前記光源からの光の入射方向から見て前記開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、前記回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部とを含む光学回折素子と
を備える
光源システム。
(2)
前記光源と前記光学回折素子との間に配置され、前記光源からの光を平行光となるように補正する補正レンズ、
をさらに備えた
上記(1)に記載の光源システム。
(3)
前記0次光補正部は、UV硬化樹脂によって形成されている
上記(1)または(2)に記載の光源システム。
(4)
前記所定パターンは、円孔状、線状、およびランダム状のうち、いずれか1つである
上記(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の光源システム。
(5)
前記UV硬化樹脂は、前記回折格子部を通過したUV光が照射されることにより硬化されている
上記(3)に記載の光源システム。
(6)
前記光学回折素子は、前記回折格子部と前記0次光補正部との間に配置された基板を含む
上記(1)ないし(5)のいずれか1つに記載の光源システム。
(7)
基板の一方の面に、遮光部材を所定のパターンで形成する工程と、
前記基板における前記一方の面に対向する他方の面に、液体のUV硬化樹脂を接触させる工程と、
前記基板に、前記一方の面側からUV光を照射する工程と、
前記基板における前記他方の面を洗浄する工程と
を含む
光学回折素子製造方法。
(8)
前記UV光を照射する工程は、
前記他方の面に接触させた前記液体のUV硬化樹脂を硬化させる工程、を含む
上記(7)に記載の光学回折素子製造方法。
(9)
光を発する光源と、
一方の面に形成され、前記光源からの光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、前記一方の面に対向する他方の面における、前記光源からの光の入射方向から見て前記開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、前記回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部とを含む光学回折素子と、
前記光学回折素子から射出され、被写体に照射された前記回折光の反射光を撮像して画像データを生成する撮像部と、
前記画像データに基づいて、前記被写体までの距離を算出する距離算出部と
を備える
測距システム。
(10)
基板と、
前記基板の一方の面に形成され、光が入射する所定パターンの開口を有し、入射した光に基づいて回折光を生成する回折格子部と、
前記一方の面に対向する前記基板の他方の面における、光の入射方向から見て前記開口に対応する領域の少なくとも一部の領域に形成され、前記回折格子部で発生した0次光を低減する0次光補正部と
を含む
光学回折素子。
【符号の説明】
【0054】
1…光源、2,2A,2B…光学回折素子、3…撮像カメラ、4…補正レンズ、5…0次光補正素子、6,6A,6B…回折格子部、10…被写体、20…ガラス基板、21…一方の面、22…他方の面、23…円形孔(開口)、23A…線孔(開口)、23B…ランダム孔(開口)、24…0次光補正部(円形パターン)、24A…0次光補正部(線状パターン)、24B…0次光補正部(ランダムパターン)、25…遮光部(遮光部材)、31…距離算出部、32…形状認識部、33…生体認証部、41…UV硬化樹脂、200…光学回折素子(比較例)、L0…0次光、Ld…回折光。