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7193315リチウムマンガン複合酸化物、リチウム二次電池及びリチウムマンガン複合酸化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】リチウムマンガン複合酸化物、リチウム二次電池及びリチウムマンガン複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20221213BHJP
   H01M 4/36 20060101ALN20221213BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/36 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018218634
(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2020087638
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】山本 邦光
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237579(JP,A)
【文献】特開2015-088459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の電極活物質に用いられるリチウムマンガン複合酸化物であって、
空間群Fm-3mに帰属可能な岩塩型構造と空間群Fd-3mに帰属可能なスピネル型構造とを含み前記スピネル型構造が5質量%以上35質量%以下の範囲で含まれる、リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項2】
下記(1)~(2)のうち1以上の特徴を有する、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
(1)前記スピネル型構造を20質量%以下の範囲で含む。
(2)前記スピネル型構造を10質量%以上の範囲で含む。
【請求項3】
基本組成式Li2MnO3のモル数M2と基本組成式LiMnO2のモル数M1とのモル比M2/M1が10/90を超え60/40未満の範囲である、請求項1又は2に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項4】
基本組成式Li(2+2x)/(2+x)Mn(2/(2+x))-yy2(但し、0.1<x<0.6、MはTi、Al及びFeのうちいずれか1以上であり、0≦y≦0.2)で表される、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウム二次電池。
【請求項6】
リチウム二次電池の電極活物質に用いられるリチウムマンガン複合酸化物の製造方法であって、
800℃以上1100℃以下、6時間以上15時間以下の範囲で焼成することにより得られた基本組成式Li2MnO3のモル数M2と基本組成式LiMnO2のモル数M1とのモル比M2/M1が10/90を超え60/40未満の範囲となるよう原料を配合し、20時間以上40時間以下の範囲で混合粉砕することにより、岩塩型構造とスピネル型構造とを含み前記スピネル型構造が5質量%以上35質量%以下の範囲で含まれるよう調整する調整工程、
を含むリチウムマンガン複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記調整工程では、基本組成式Li(2+2x)/(2+x)Mn(2/(2+x))-yy2(但し、0.1<x<0.6、MはTi、Al及びFeのうちいずれか1以上であり、0≦y≦0.2)となるよう原料を配合する、請求項6に記載のリチウムマンガン複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム二次電池及びリチウムマンガン複合酸化物の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、X線回折測定を行った際に空間群Fm-3m(岩塩型構造)に帰属される材料は、結晶構造中にリチウムイオンの通り道を持たないために正極材料として使用できないとされてきた。しかし、近年、リチウムを過剰に含む正極材料、例えば、遷移金属イオンのモル量(MTM)に対するリチウムイオンのモル量(MLi)の比をMLi/MTM>1.0とすることで、岩塩型の結晶構造の中をリチウムイオンが移動することが第一原理計算で示された(例えば非特許文献1など参照)。
【0003】
このような岩塩型構造を有する複合酸化物としては、例えば、岩塩型構造を有するリチウムモリブデン複合酸化物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この複合酸化物は、準安定相である岩塩型構造を有することにより、放電容量や放電容量の維持率が良好であるとしている。また、岩塩型構造を有するリチウムモリブデン鉄複合酸化物を活物質として含むリチウム二次電池が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この複合酸化物は、リチウムイオン電池の高容量化を図ることができるとしている。また、複合酸化物としては、岩塩型構造を有するLi1.3Nb0.3Me0.42(MeはFe,Mn及びV)及びLi1.2Ti0.4Mn0.42を電極に用いた場合について提案されている(例えば、非特許文献1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-202954号公報
【文献】特開2017-33928号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】AdvancedEnergyMaterials,4,1400478(2014)
【文献】NatureCommunications,7,13814(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した文献では、岩塩型構造を有する複合酸化物をリチウム二次電池の活物質に用いることが検討されており、放電容量や容量維持率などが良好であるとされているが、まだ十分でなく、更なる改良が望まれていた。即ち、放電容量や耐久性をより高めることができる新規な複合酸化物が望まれていた。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、放電容量や耐久性をより高めることができるリチウムマンガン複合酸化物、リチウム二次電池及びリチウムマンガン複合酸化物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、リチウムマンガン複合酸化物において、岩塩型構造を有し、更に所定範囲のスピネル型構造を含むものとすると、放電容量や耐久性をより高めることができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本明細書で開示するリチウムマンガン複合酸化物は、
リチウム二次電池の電極活物質に用いられるリチウムマンガン複合酸化物であって、
岩塩型構造とスピネル型構造とを含み前記スピネル型構造が5質量%以上35質量%以下の範囲で含まれるものである。
【0010】
本明細書で開示するリチウム二次電池は、
上述したリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0011】
本明細書で開示するリチウムマンガン複合酸化物の製造方法は、
リチウム二次電池の電極活物質に用いられるリチウムマンガン複合酸化物の製造方法であって、
800℃以上1100℃以下、6時間以上15時間以下の範囲で焼成することにより得られた基本組成式Li2MnO3のモル数M2と基本組成式LiMnO2のモル数M1とのモル比M2/M1が10/90を超え60/40未満の範囲となるよう原料を配合し、20時間以上40時間以下の範囲で混合粉砕することにより、岩塩型構造とスピネル型構造とを含み前記スピネル型構造が5質量%以上35質量%以下の範囲で含まれるよう調整する調整工程、
を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示では、放電容量や耐久性をより高めることができるリチウムマンガン複合酸化物、リチウム二次電池及びリチウムマンガン複合酸化物の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。一般的に、正極材料中に含まれるリチウムイオンのモル量が電池の最大容量となることから、原理的には、リチウム過剰組成で正極材料を作製し、過剰に含まれるリチウムを可逆的かつ繰り返し出し入れすることが正極材料の高容量化には重要である。空間群Fm-3m(岩塩型)のX線回折ピークを示し、リチウム過剰組成からなる酸化物は、遷移金属イオンだけでなく酸素の酸化還元反応を示すことが知られているものの、そのメカニズムは未だ不明であり、安定して充放電動作させることができていなかった。本開示では、スピネル型構造を複合化させることによって、岩塩型構造に帰属される正極材料が高容量を維持したまま安定に充放電動作することが可能となるものと推察される。この理由は、例えば、スピネル型構造は岩塩型構造よりも酸素欠陥組成を取りやすい性質があり、それが酸素の酸化還元反応を安定化すると考えられる。そして、スピネル型構造が5質量%以上では十分な複合化効果を得ることができ、35質量%以下では充放電活性な岩塩型構造の割合を確保することができ、放電容量がより大きくなるものと推察される。ここで、スピネル型構造の含有量は、X線回折測定結果により、空間群Fm-3m(岩塩型構造)とFd-3m(スピネル型構造)の2成分系の構造モデルに対してリートベルト解析を行い算出されたものとする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】リチウム二次電池20の構成の一例を示す模式図。
図2】実験例1の複合酸化物のX線回折測定結果。
図3】実験例1の複合酸化物を電極に用いたセルの充放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(リチウムマンガン複合酸化物)
本開示のリチウムマンガン複合酸化物は、リチウム二次電池の電極活物質に用いられるものである。このリチウムマンガン複合酸化物は、岩塩型構造とスピネル型構造とを含みスピネル型構造が5質量%以上35質量%以下の範囲で含まれるものである。スピネル構造をこの範囲で含むことによって、岩塩型構造に帰属される複合酸化物が高容量を維持したまま安定に充放電動作することが可能となる。このリチウムマンガン複合酸化物は、スピネル型構造を25質量%以下の範囲で含むことが好ましく、20質量%以下の範囲で含むことがより好ましい。また、リチウムマンガン複合酸化物は、スピネル型構造を10質量%以上の範囲で含むことが好ましく、12質量%以上で含むことがより好ましい。ここで、スピネル型構造の含有量は、X線回折測定結果により、空間群Fm-3m(岩塩型構造)とFd-3m(スピネル型構造)の2成分系の構造モデルに対してリートベルト解析を行い算出するものとする。
【0015】
本開示のリチウムマンガン複合酸化物において、基本組成式Li2MnO3のモル数M2と基本組成式LiMnO2のモル数M1とのモル比M2/M1が10/90を超え60/40未満の範囲であることが好ましい。M2/M1がこの範囲では、放電容量をより向上することができる。このモル比M2/M1は、20/80以上であることが好ましく、30/70以上であるものとしてもよい。また、モル比M2/M1は、50/50以下の範囲が好ましく、45/55以下の範囲としてもよい。
【0016】
また、同様に、リチウムマンガン複合酸化物は、基本組成式Li(2+2x)/(2+x)Mn(2/(2+x))-yy2で表したときに、0.1<x<0.6であることが好ましい。xがこの範囲では、放電容量をより向上することができる。また、xは0.2以上であることが好ましく、0.3以上であるものとしてもよい。更にxは0.5以下であることが好ましく、0.45以下であるものとしてもよい。また、基本組成式において、MはTi、Al及びFeのうちいずれか1以上であるものとしてもよい。MをMnと置換することによって、容量維持率をより高めることができる。Mは、これらのうちTiであることが好ましい。このMは、上記基本組成式において、0≦y≦0.2であることが好ましい。yがこの範囲では、放電容量をより向上することができる。このMは、y≦0.1であることがより好ましい。
【0017】
(リチウムマンガン複合酸化物の製造方法)
本開示の製造方法は、リチウム二次電池の電極活物質に用いられる上述したリチウムマンガン複合酸化物の製造方法である。この製造方法は、例えば、複合酸化物の構造を調整する調整工程を含むものとしてもよい。また、この調整工程は。原料作製処理と混合粉砕処理とを含むものとしてもよい。この製造方法では、層状構造を有する複数種のリチウムマンガン酸化物を混合粉砕して岩塩型構造へ移行させる際に、原料の焼成温度や焼成時間、混合粉砕時間などを適宜調整することにより、スピネル型構造を所定の含有量の範囲で岩塩型構造の中に残存させる処理を行うものとしてもよい。この調整工程では、リチウムマンガン複合酸化物において、岩塩型構造とスピネル型構造とを含みスピネル型構造が5質量%以上35質量%以下の範囲で含まれるよう調整する。この製造方法において、スピネル構造の含有量や原料の配合比など、上記リチウムマンガン複合酸化物で説明した範囲を適宜採用することができる。
【0018】
原料作製処理では、複数種のリチウムマンガン酸化物を焼成条件を調整しつつ作製する。この処理では、原料のリチウムマンガン酸化物として、Li2MnO3とLiMnO2とを作製する。この処理では、800℃以上1100℃以下、6時間以上15時間以下の範囲で焼成することにより原料のLi2MnO3を得る。Li2MnO3の層状構造の強度に応じてリチウムマンガン複合酸化物に含有するスピネル型構造を調節することができる。Li2MnO3は、例えば、水酸化リチウムと二酸化マンガンとを原料として作製することができる。なお、LiMnO2は、Li2MnO3とMnOとを等モルで配合し、不活性雰囲気中(例えばAr中)、900℃以上1100℃以下の範囲、6時間以上24時間以下の範囲で焼成することにより得ることができる。
【0019】
混合粉砕処理では、上記作製したリチウムマンガン酸化物を所定比率で配合し、粉砕条件を調整しつつ混合粉砕する。この処理では、Li2MnO3のモル数M2とLiMnO2のモル数M1とのモル比M2/M1が10/90を超え60/40未満の範囲となるよう原料を配合する。混合粉砕処理では、基本組成式Li(2+2x)/(2+x)Mn(2/(2+x))-yy2(但し、0.2<x<0.6、MはTi、Al及びFeのうちいずれか1以上であり、0≦y≦0.2)となるよう原料を配合するものとしてもよい。また、この処理では、20時間以上40時間以下の範囲で混合粉砕するものとしてもよい。混合粉砕は、例えば、ボールミルや遊星ボールミルなどで行うことができ、特に遊星ボールミルで行うことが好ましい。遊星ボールミルにおいて、その回転数は、原料を収容する容積に応じて適宜設定すればよいが、例えば、400rpm以上1000rpm以下の範囲が好ましく、500rpm以上800rpm以下の範囲がより好ましく、550rpm以上650rpm以下の範囲がより好ましい。このような調整工程を行うことにより、上述したリチウムマンガン複合酸化物を作製することができる。
【0020】
(リチウム二次電池)
本開示のリチウム二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備えている。このリチウム二次電池は、上述したリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として有する。
【0021】
正極は、正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に含まれる導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。正極に含まれる結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0022】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0023】
イオン伝導媒体は、リチウムを含む支持塩と、非水系の溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。
【0024】
支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。
【0025】
本開示のリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0026】
本開示のリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、こうしたリチウム二次電池を複数直列に接続して電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本実施形態のリチウム二次電池20の一例を示す模式図である。このリチウム二次電池20は、集電体21に正極合材22を形成した正極シート23と、集電体24の表面に負極合材25を形成した負極シート26と、正極シート23と負極シート26との間に設けられたセパレータ28と、正極シート23と負極シート26との間を満たす非水系電解液29と、を備えている。このリチウム二次電池20では、正極シート23と負極シート26との間にセパレータ28を挟み、これらを捲回して円筒ケース32に挿入し、正極シート23に接続された正極端子34と負極シート26に接続された負極端子36とを配設して形成されている。正極合材22には、スピネル型構造が5質量%以上35質量%以下の範囲で含まれる岩塩型構造のリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として含んでいる。
【0027】
以上詳述した本実施形態のリチウムマンガン複合酸化物及びその製造方法、リチウム二次電池では、放電容量や耐久性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、スピネル型構造を複合化させることによって、岩塩型構造に帰属される正極材料が高容量を維持したまま安定に充放電動作することが可能となるものと推察される。スピネル型構造は、岩塩型構造よりも酸素欠陥組成を取りやすい性質があり、それが酸素の酸化還元反応を安定化すると考えられる。そして、スピネル型構造が5質量%以上では十分な複合化効果を得ることができ、35質量%以下では充放電活性な岩塩型構造の割合を確保することができ、放電容量がより大きくなるものと推察される。
【0028】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0029】
以下には、本開示のリチウムマンガン複合酸化物及びリチウム二次電池を具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例3~8が比較例に相当し、実験例1、2、9~13が実施例に相当する。
【0030】
(合成原料の作製)
水酸化リチウムと二酸化マンガンを2対1のモル比で混合し、アルゴン中1000℃で12時間焼成することによりLi2MnO3を合成した。得られたLi2MnO3とMnOを1対1のモル比で混合し、アルゴン中1000℃で12時間焼成することによりLiMnO2を合成した。
【0031】
(実験例1)
上記方法で作製したLi2MnO3とLiMnO2とを用い、Li2MnO3のモル数M2とLiMnO2のモル数M1とのモル比M2/M1が30/70となるように調整し、且つこれらの酸化物の合計質量が20gとなるように秤量した。この秤量物を直径10mmのジルコニアボールが500g入った内容積500mLのジルコニア製ポットに投入した。このポットを遊星型ボールミル(FRITSCH社製pulverisette6)にセットし、公転回転数500rpmで30時間処理を行った。このようにしてLi1.13Mn0.872(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.3、y=0)を作製した。得られたものを実験例1のリチウムマンガン複合酸化物とした。
【0032】
(実験例2)
実験例1においてLi2MnO3を900℃で12時間焼成することにより合成し、遊星型ボールミルで公転回転数600rpmで25時間処理を行うことでLi1.13Mn0.872(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.3、y=0)を作製した。
【0033】
(実験例3)
実験例1においてLi2MnO3を850℃で8時間焼成することにより合成し、遊星型ボールミルで公転回転数600rpmで50時間処理を行うことでLi1.13Mn0.872(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.3、y=0)を作製した。
【0034】
(実験例4)
実験例1においてLi2MnO3を1000℃で12時間焼成することにより合成し、遊星型ボールミルで公転回転数500rpmで15時間処理を行うことでLi1.13Mn0.872(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.3、y=0)を作製した。
【0035】
(実験例5)
実験例3と同じ条件でLi2MnO3の合成および遊星型ボールミル処理を行い、Li1.09Mn0.912(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のxx=0.2、y=0)を作製した。
【0036】
(実験例6)
実験例3と同じ条件でLi2MnO3の合成および遊星型ボールミル処理を行い、Li1.20Mn0.802(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.5、y=0)を作製した。
【0037】
(実験例7)
実験例3と同じ条件でLi2MnO3の合成および遊星型ボールミル処理を行い、Li1.05Mn0.952(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.1、y=0)を作製した。
【0038】
(実験例8)
実験例3と同じ条件でLi2MnO3の合成および遊星型ボールミル処理を行い、Li1.23Mn0.772(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.6、y=0)を作製した。
【0039】
(実験例9)
実験例1と同じ条件でLi2MnO3の合成および遊星型ボールミル処理を行い、Li1.09Mn0.912(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.2、y=0)を作製した。
【0040】
(実験例10)
実験例1と同じ条件でLi2MnO3の合成および遊星型ボールミル処理を行い、Li1.20Mn0.802(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のx=0.5、y=0)を作製した。
【0041】
(実験例11)
実験例1と同じ条件でLi2MnO3を合成した。水酸化リチウムと二酸化チタンとを2対1のモル比で混合し、アルゴン中1000℃で12時間焼成することでLi2TiO3を合成した。Li2MnO3、LiMnO2、Li2TiO3を用い、Li2MnO3、LiMnO2、Li2TiO3のモル比が20/70/10となるように調整し、かつこれらの酸化物の合計質量が20gとなるように秤量した。実験例1と同じ条件で遊星型ボールミル処理を行うことでLi1.13Mn0.78Ti0.092(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のM=Ti、x=0.3、y=0.09)を作製した。
【0042】
(実験例12)
水酸化リチウムと水酸化アルミニウムとを1対1のモル比で混合し、空気中750℃で12時間焼成することでLiAlO2を合成した。Li2MnO3、LiMnO2、LiAlO2を用い、Li2MnO3、LiMnO2、LiAlO2のモル比が30/60/10となるように調整し、かつこれらの酸化物の合計質量が20gとなるように秤量した。実験例1と同じ条件で遊星型ボールミル処理を行うことでLi1.13Mn0.78Al0.092(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のM=Al、x=0.3、y=0.09)を作製した。
【0043】
(実験例13)
水酸化リチウムとオキシ水酸化鉄を1対1のモル比で混合し、空気中750℃で12時間焼成することでLiFeO2を合成した。Li2MnO3、LiMnO2、LiFeO2を用い、Li2MnO3、LiMnO2、LiFeO2のモル比が30/60/10となるように調整し、かつこれらの酸化物の合計質量が20gとなるように秤量した。実験例1と同じ条件で遊星型ボールミル処理を行うことでLi1.13Mn0.78Fe0.092(Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2で表記した際のM=Fe、x=0.3、y=0.09)を作製した。
【0044】
(X線回折測定)
試料の粉末X線回折測定を行った。測定は放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用したX線回折装置(リガク社製UltimaIV)を用いて行った。印加電圧を50kV、電流40mAに設定して測定を行った。また、測定は5°/分の走査速度で2θが10°~100°の角度範囲で記録した。図2は、実験例1のリチウムマンガン複合酸化物のX線回折測定結果である。図2に示すように、実験例1では、空間群Fm-3m(岩塩型構造)とFd-3m(スピネル型構造)とを含むことがわかった。この測定結果から、岩塩型構造とスピネル型構造との2成分系の構造モデルに対してGSASソフトウェアを用いてリートベルト解析を行い、岩塩型構造とスピネル型構造の割合を算出した。その結果、スピネル型構造の割合は12質量%であった。同様に、実験例2~13についても、スピネル相が含まれるものに対して、その含有量を算出した。
【0045】
(二極式評価セルの作製)
得られた試料を正極活物質とし、合材割合を活物質85質量%、導電材としてカーボンブラック10質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデン5質量%とした。分散材としてN-メチル-2-ピロリドンを適量添加、分散することでスラリー状合材とした。このスラリー状合材を15μm厚のアルミニウム箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後塗布シートをロールプレスに通して高密度化させた。上記手法で作製した正極を2.05cm2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚さ300μm)を対極として、両電極の間に非水系電解液を含浸させたポリエチレン製セパレータを挟んで二極式評価セルを作製した。非水系電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30/40/30で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。
【0046】
(充放電試験)
上記二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.05Cレート、5.0V~1.0Vの範囲で充放電試験を行った。図3は、実験例1のリチウムマンガン複合酸化物を用いた二極式評価セルの初期充放電曲線である。初期放電容量Qiは258mAh/gであった。この充放電サイクルを5サイクル行い、5サイクル後の放電容量Qcに対し、容量維持率を、Qc/Qi×100という式で計算した。
【0047】
(結果と考察)
実験例1~13の組成、スピネル相の含有量(質量%)、放電容量(mAh/g)、容量維持率(%)をまとめて表1に示した。表1の実験例1~4に示すように、x=0.3の試料において、Fd-3m(スピネル型)に帰属可能なX線回折ピークが、空間群Fm-3m(岩塩型)のX線回折ピークに対して存在割合が5質量%以上35質量%以下の範囲、より好ましくは、10質量%以上20質量%以下の範囲において容量維持率が向上することがわかった。また、実験例3、5~8に示すように、基本組成式Li(2+2x)/(2+x)Mn[2/(2+x)]-yy2において、0.1<x<0.6の範囲、より好ましくは0.2≦x≦0.5の範囲で放電容量が増加することがわかった。即ち、基本組成式Li2MnO3のモル数M2と基本組成式LiMnO2のモル数M1とのモル比M2/M1が10/90を超え60/40未満の範囲、より好ましくは20/80以上50/50以下の範囲で放電容量が増加することがわかった。更に、実験例5、6、9、10に示すように、x=0.2,0.5の試料においても、スピネル型構造の複合化によって容量維持率が向上する効果が表れていることが分かった。そして、実験例11~13に示すように、M=Ti,Al,Feの少なくとも一つを更に複合化させることにより、容量維持率がさらに向上することがわかった。このMの添加量は、上記基本組成式において、0≦y≦0.2の範囲、より好ましくはy≦0.1の範囲で上記効果が得られると推察された。
【0048】
【表1】
【0049】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本明細書で開示したリチウムマンガン複合酸化物、リチウム二次電池及びリチウムマンガン複合酸化物の製造方法は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
20 リチウム二次電池、21 集電体、22 正極合材、23 正極シート、24 集電体、25 負極合材、26 負極シート、28 セパレータ、29 非水系電解液、32 円筒ケース、34 正極端子、36 負極端子。
図1
図2
図3