(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】遮水壁の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 19/06 20060101AFI20221213BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20221213BHJP
C09K 17/18 20060101ALI20221213BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20221213BHJP
C09K 17/42 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
E02D19/06
E02D3/12 102
C09K17/18 P
C09K17/02 P
C09K17/42 P
(21)【出願番号】P 2018227650
(22)【出願日】2018-12-04
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 正俊
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-257131(JP,A)
【文献】特開2009-299319(JP,A)
【文献】特開平10-194726(JP,A)
【文献】特開2000-063114(JP,A)
【文献】特開2012-101153(JP,A)
【文献】特開2016-176198(JP,A)
【文献】特開昭56-135588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 19/06
E02D 3/12
C09K 17/18
C09K 17/02
C09K 17/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤にベントナイトを供給して攪拌する遮水壁の構築方法であり、
交換性陽イオンを有するベントナイトの液体
であるスラリーと共に、吸水性材料を前記地盤に供給する
ものとし、
前記交換性陽イオンを有するベントナイトの液体が、アルカリ金属型ベントナイトの液体であり、当該アルカリ金属型ベントナイトの液体の濃度が、1~20W/V%であり、
前記吸水性材料が高分子ポリマーであり、前記アルカリ金属型ベントナイトの液体1L当たりの前記高分子ポリマーの供給量が、0.0001~0.01kgであり、
前記地盤1m
3
当たりの前記アルカリ金属型ベントナイトの液体の注入量は、10~400Lである、
ことを特徴とする遮水壁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遮水壁の構築方法としては、例えば、特許文献1が開示するものが存在する。同文献が開示する方法は、Ca型ベントナイト等の泥水を地中に供給して混合し、更にCa型ベントナイト等をNa型ベントナイト等に改質するイオン交換剤の液体を地中に供給して混合するものである。つまり、同文献は、Ca型ベントナイト等及びイオン交換剤を液体で供給するとするものである。
【0003】
しかしながら、同方法によると、地中に注入する水分が多く、遮水壁が柔らかくなってしまうと思われる。また、遮水壁の構築においては、従来から一般的にNa型ベントナイトが使用されており、Na型ベントナイトを使用することができる遮水壁の構築方法も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする主たる課題は、十分な強度を有し、かつNa型ベントナイトも使用することができる遮水壁の構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
地盤にベントナイトを供給して攪拌する遮水壁の構築方法であり、
交換性陽イオンを有するベントナイトの液体であるスラリーと共に、吸水性材料を前記地盤に供給するものとし、
前記交換性陽イオンを有するベントナイトの液体が、アルカリ金属型ベントナイトの液体であり、当該アルカリ金属型ベントナイトの液体の濃度が、1~20W/V%であり、
前記吸水性材料が高分子ポリマーであり、前記アルカリ金属型ベントナイトの液体1L当たりの前記高分子ポリマーの供給量が、0.0001~0.01kgであり、
前記地盤1m
3
当たりの前記アルカリ金属型ベントナイトの液体の注入量は、10~400Lである、
ことを特徴とする遮水壁の構築方法。
【0007】
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、十分な強度を有し、かつNa型ベントナイトも使用することができる遮水壁の構築方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0011】
本形態の遮水壁の構築方法は、地盤にベントナイトを供給して攪拌するものである。また、当該ベントナイトは、層間陽イオンとして交換性陽イオンを有するベントナイトの液体として供給(注入)する。さらに、地盤には、このベントナイトの他に、吸水性材料も供給する。
【0012】
本形態においてベントナイトとは、モンモリロナイトを主成分とする粘土を意味する。また、層間陽イオンとは、モンモリロナイトの層間に存在するイオンを意味する。層間陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオンやリチウムイオン等の1価の陽イオンや、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等の2価又は3価以上の陽イオンなどが存在する。以下では、各種ベントナイトについて、層間陽イオンとしてナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンが多く含まれる場合を「Na型ベントナイト」又は「アルカリ金属型ベントナイト」と言う。また、層間陽イオンとしてカルシウムイオンやマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンが多く含まれる場合を「Ca型ベントナイト」又は「アルカリ土類金属型ベントナイト」と言う。
【0013】
地盤に供給する交換性陽イオンを有するベントナイトとしては、Na型ベントナイトもCa型ベントナイトも使用することができる。ただし、従来からの実績の点でNa型ベントナイトを使用するのが好ましい。
【0014】
Na型ベントナイトは、膨潤性や、増粘性に優れる。したがって、遮水壁を構築するのに適する。しかしながら、Na型ベントナイトを泥水(液体)にする場合においては、高濃度化するのに困難を伴い、地盤に対する水分の注入量が多くなる。そこで、吸水性材料を併用することで、流動性の問題を解決するのが本形態の特徴の1つである。この点、Ca型ベントナイトを使用することで泥水を高濃度にしたとしても、その後に地盤を攪拌することで当該地盤が液状化現象に類似の状態となってしまい、柔らかくなってしまう。したがって、本形態のように、泥水の濃度にこだわらず、吸水性または増粘性の材料を併用して後から流動性を小さくする方法によるのが好ましい。
【0015】
なお、吸水性材料とは、材料の素材そのものが水分を吸収する材料のみを意味するものではない。例えば、セルロース系の高分子ポリマーのように、材料自体が水を包み込み、もって水分が吸収された状態になる材料をも含む。この場合、吸水性材料というよりは、増粘性の材料と言った方がより適する可能性もあるが、本明細書においては、この後者の材料も吸水性材料に含めるものとする。
【0016】
Na型ベントナイトを使用する場合、当該Na型ベントナイトの濃度は、1~20W/V%であるのが好ましく、3~15W/V%であるのがより好ましく、5~10W/V%であるのが特に好ましい。濃度が1W/V%を下回ると、ベントナイトの液体の造壁性(例えば、地盤が崩れるのを防ぐ性能。)が不十分となるおそれがある。他方、濃度が20W/V%を上回るものとするには、作液が困難になるおそれがある。
【0017】
Na型ベントナイトの液体の濃度は、スラリー(泥水)作液用水1m3当たりにおけるベントナイトの質量(kg)を意味する(外割)。したがって、例えば、1~20W/V%であれば、10~200kg/m3を意味する。
【0018】
地盤(1m3)当たりのNa型ベントナイトの液体(濃度1~20W/V%)の注入量は、好ましくは10~400L、より好ましくは20~300L、特に好ましくは50~200Lである。注入量が10Lを下回ると、遮水壁の遮水性が劣るおそれがある。他方、注入量が400Lを上回ると、排泥量が多くなるおそれがある。
【0019】
吸水性材料としては、例えば、ポリカルボン酸系やセルロース系等の高分子ポリマー、セピオライト、パーライト、木節粘土等の鉱物系材料、ペーパースラッジ焼成物、古紙破砕物、古紙せん断物等のパルプ系材料等を使用することができる。ただし、吸水性材料としては、高分子ポリマーを使用するのが好ましく、ポリアクリル酸アミド系の高分子ポリマーを使用するのがより好ましい。ベントナイトには自己修復性があるが、高分子ポリマーはベントナイトの自己修復性に影響を与えるおそれがない。また、高分子ポリマーは微生物に分解されるが、長期的には遮水壁が圧密化されるため、遮水性能に劣ることはない。
【0020】
吸水性材料は、液体であっても、粉体であってもよい。また、吸水性材料は、地盤にNa型ベントナイトと同時に供給しても、Na型ベントナイトと別に供給してもよい。
【0021】
一方、Ca型ベントナイトは、膨潤性や、増粘性に劣る。したがって、遮水壁を構築するには不向きである。そこで、Ca型ベントナイトを使用する場合においては、イオン交換剤を併用するのが好ましい。この点、モンモリロナイトの層間陽イオンは、他の陽イオンとイオン交換するのが容易であり、交換性陽イオンである。そこで、イオン交換剤を使用してCa型ベントナイトをNa型ベントナイトに改質(イオン交換)するというものである。
【0022】
なお、Ca型ベントナイトをイオン交換(改質)して得たNa型ベントナイトは、改質Na型ベントナイト又は活性化Na型ベントナイトなどとも言われる。また、炭酸ナトリウムを使用してイオン交換した場合の反応式は、次のとおりである。
Be-Ca + Na2CO3 → Be-Na + CaCO3
【0023】
イオン交換剤としては、Ca型ベントナイトをNa型ベントナイトに改質(イオン交換)することができる薬剤一般を使用することができる。具体的には、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、過炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、珪酸ナトリウム等からなるイオン交換剤や、リン酸系のイオン交換剤、シリカ系のイオン交換剤などの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンとカルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンとをイオン交換し、析出したアルカリ土類金属イオンを不溶化又はキレート化して沈降させるイオン交換剤を使用するのが好ましい。このようなイオン交換剤としては、例えば、硫酸系塩、リン酸系塩、ケイ酸系塩、エチレンジアミン塩、カルボン酸系塩等のイオン交換剤を使用するのが好ましく、炭酸ナトリウムを使用するのがより好ましい。
【0024】
イオン交換剤の投入量は、Ca型ベントナイト(1kg)に対して、好ましくは0.01~0.2kg、より好ましくは0.02~0.15kg、特に好ましくは0.03~0.1kgである。投入量が0.01kgを下回ると、Ca型ベントナイトを十分に改質することができないおそれがある。他方、投入量が0.2kgを上回ると、イオン交換剤の余剰となるおそれがある。
【0025】
イオン交換剤は、Ca型ベントナイトと別々に地盤に供給しても、混合したうえで地盤に供給してもよい。
【0026】
(その他)
本形態の工法は、例えば、特開2005-16295号公報に開示されるような「移動可能なベースマシンと地盤を溝掘削するカッターとを備えたチェーンカッター方式掘削装置」を用いて遮水壁を構築する場合(等厚式)や、特開2006-291703号公報に開示されるような「単軸又は多軸の掘削軸を備えた掘削装置」を用いて遮水壁を構築する場合(柱列式)、バケットが備わるバックホー用いて遮水壁を構築する場合などに適用することができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の実施例について説明する。
本試験においては、まず、砂(A)にCa型ベントナイト泥水とイオン交換剤の液体を10:1の比率で2ショット又は1.5ショットでの混合を想定した方法で添加して混合した(第一混合)。ベントナイト泥水としては、高濃度(50%)のCa型ベントナイトの液体(泥水)を使用した。次に、第1混合後の砂にポリマー溶液を添加して混合した(第2混合)。第1混合後及び第2混合後のテーブルフロー値、並びに透水係数を表1に示した。
【0028】
なお、2ショット又は1.5ショットでの混合を想定した方法とは、2個のカップに一定比率の量のCa型ベントナイト泥水とソーダ灰の液体をそれぞれ入れ、カップを倒立させて素早く両液を混合(ソーダ灰の液体の入ったカップにCa型ベントナイト泥水を入れ、すぐにCa型ベントナイト泥水のカップに混合液を戻す。)し、その後、すぐに砂に添加する方法を意味する。
【0029】
また、透水係数に関しては、以下の基準が存在する。
環境現場条件:1×10-8m/sec以下
土木現場条件:1×10-6m/sec以下
【0030】
さらに、テーブルフロー値は、流動性の指標であり、掘削時に相当するのが第一混合であり、造成時に相当するのが第二混合である。例えば、造成時のテーブルフロー値が130以下であれば、ほぼ流動化せず、また規定のベントナイト量が添加された状態であれば、環境現場用としての遮水性に問題のない硬さになる。
【0031】
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、遮水壁の構築方法として利用可能である。