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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】リグニン系染料分散剤及び染料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/50 20220101AFI20221213BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20221213BHJP
   C09B 1/14 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C09K23/50
C09B67/20 L
C09B1/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019002843
(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公開番号】P2020110760
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂輝
(72)【発明者】
【氏名】相見 光
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-091564(JP,A)
【文献】特開平10-212422(JP,A)
【文献】特開2000-281926(JP,A)
【文献】特開2002-146028(JP,A)
【文献】特開平10-130524(JP,A)
【文献】特開2016-108392(JP,A)
【文献】特開昭57-130994(JP,A)
【文献】特公昭50-003273(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第102604120(CN,A)
【文献】米国特許第02680113(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 23/50
C09B 67/20
C09B 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフト黒液又はクラフトリグニンのアルカリ溶液を50~90℃に加温して空気又は酸素を吹き込み、さらに昇温して固形分100質量部に対し0.5~10%の過酸化水素を添加し反応し、得られる反応物をスルホメチル化して、
下記一般式(1)で示される部分構造(1)、下記一般式(2)で示される部分構造(2)、下記一般式(3)で示される部分構造(3)、及び下記一般式(4)で示される部分構造(4)からなる群から選択される少なくとも1種の部分構造を有するリグニン成分を得ることを含む
前記リグニン成分を有効成分とするリグニン系染料分散剤の製造方法
【化1】
(前記一般式(1)~(4)中、Rは、H、又はCHを示す。Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)
【請求項2】
前記リグニン成分が、下記式(5)で示される部分構造(5)をさらに有する、請求項1に記載の方法
【化2】
(前記一般式(5)中、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)
【請求項3】
前記リグニン成分の重量平均分子量3,000~30,000である、請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
前記リグニン成分が還元性糖類をさらに有し、
前記還元性糖類の含有量が、5.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法
【請求項5】
クラフト黒液又はクラフトリグニンのアルカリ溶液を50~90℃に加温し、30~150分間空気又は酸素を吹き込み、その後さらに昇温し、固形分100質量部に対し0.5~10%の過酸化酸素を添加して、得られる反応物をスルホメチル化し、下記一般式(1)で示される部分構造(1)、下記一般式(2)で示される部分構造(2)、下記一般式(3)で示される部分構造(3)、及び下記一般式(4)で示される部分構造(4)からなる群から選択される少なくとも1種の部分構造を有するリグニン成分を得ること、及び
前記リグニン成分を少なくとも染料を含む材料へ添加することを含む、染料組成物の製造方法。
【化2】
(前記一般式(1)~(4)中、Rは、H、又はCH を示す。Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン系染料分散剤及び染料組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、所定の部分構造を有するリグニン成分を含む、リグニン系染料分散剤及びそれを含有する染料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、樹木中に存在する天然高分子成分であり、木材を原料として使用する製紙産業で、大規模かつ商業的に発生している。例えば、クラフトパルプ廃液からはクラフトリグニンが得られ、亜硫酸パルプ廃液からはリグニンスルホン酸が得られる。クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、クラフトリグニンを亜硫酸塩とホルムアルデヒドによりスルホメチル化したもの、リグニンスルホン酸又はその塩を部分的に脱スルホン化したもの、或いはリグニンスルホン酸又はその塩を限外濾過処理によって精製したものは、分散剤として染料、水硬性組成物(例えば、セメント、石膏)、無機及び有機顔料、石炭-水スラリー、農薬、窯業、油田掘削用泥水など広範囲な工業分野で多用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、スルホン基量及びカルボキシル基量、並びに分子量が制御された変性リグニンスルホン酸塩の染料分散剤としての用途が開示されている。また、特許文献2には、所定範囲の分子量分布を有するリグニンスルホン酸とアクリル系又はビニル系モノマーとのグラフト共重合体の、セメント分散剤としての用途が開示されている。さらに、特許文献3には、油田掘削用泥水分散安定剤として、アクリル酸とリグニンスルホン酸塩とのグラフト共重合体が開示されている。そして、特許文献4には、リグニンスルホン酸塩とポリアルキレンオキシド鎖を有する水溶性単量体との反応物からなるリグニン誘導体が開示されている。特許文献5には、スルホン化リグニンの染料分散剤としての用途が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-146028号公報
【文献】特開平01-145358号公報
【文献】米国特許第4,322,301号公報
【文献】特許第5769930号公報
【文献】特開昭60-252661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前術の従来のリグニン系分散剤では、染色布にリグニンが残留して染色布を着色汚染してしまう場合がある。また、ポリエステル繊維等の染色において、高温染色用の染料用分散剤として使用した場合、分散性が充分でないために、均一に染色されなく、高温での分散安定性に改善の余地がある。
【0006】
本発明の課題は、布への汚染性が低く、高温での染料の分散性に優れるリグニン系染料分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、所定の部分構造を有するリグニン成分を含む、染料分散剤を用いると、布への汚染性が低く、高温下で染料に対して高い分散性を示す染料組成物となり、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕~〔5〕を提供する。
〔1〕下記一般式(1)で示される部分構造(1)、下記一般式(2)で示される部分構造(2)、下記一般式(3)で示される部分構造(3)、及び下記一般式(4)で示される部分構造(4)からなる群から選択される少なくとも1種の部分構造を有するリグニン成分を含む、リグニン系染料分散剤。
【化1】
(前記一般式(1)~(4)中、Rは、H、又はCHを示す。Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)
〔2〕前記リグニン成分が、下記一般式(5)で示される部分構造(5)をさらに有する、上記〔1〕に記載のリグニン系染料分散剤。
【化2】
(前記一般式(5)中、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)
〔3〕前記リグニン成分が、クラフトリグニン由来物である、上記〔1〕又は〔2〕に記載のリグニン系染料分散剤。
〔4〕前記リグニン成分が還元性糖類をさらに有し、前記還元性糖類の含有量が、5.0質量%以下である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のリグニン系染料分散剤。
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のリグニン系染料分散剤を含有する染料組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリグニン系染料分散剤は、従来のリグニン由来の染料分散剤に比べて、高温下において高い染料分散性能を発揮し得る。また、本発明のリグニン系染料分散剤は、布への汚染性が低く、高温染着を経る場合にも良好な分散性を発揮し得るので、従来のリグニン系染料分散剤よりも高い染着性を発揮し得る。即ち、本発明のリグニン系染料分散剤は、布への汚染性が低く、高温での染料の分散性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、「AA~BB」との表記は、AA以上BB以下を意味する。
【0010】
[1.リグニン系染料分散剤]
本発明のリグニン系染料分散剤は、下記一般式(1)~(4)からなる群から選択される少なくとも1種の部分構造を有するリグニン成分を含む、リグニン系染料分散剤である。リグニン成分が下記部分構造を有すると、布への汚染性が低く、高温での染料分散性が良好なリグニン系染料分散剤とし得る。
なお、一般式(1)~(4)の部分構造の存在確認は、IR分析を用いて下記の通り行い得る。先ず、測定対象成分をIR分析し、カルボン酸アニオン由来の1650cm-1付近のピークの有無を確認する。次に、測定対象成分を酸性にする。そして、酸性にした測定対象成分をIR分析し、カルボン酸由来の1700cm-1付近のピークの有無を確認する。カルボン酸アニオン由来の1650cm-1付近のピークとカルボン酸由来の1700cm-1付近のピークをともに確認できた場合、一般式(1)~(4)の部分構造が存在するといえる。
【0011】
【化3】
(一般式(1)~(4)中、Rは、H、又はCHを示す。Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)
【0012】
上記一般式(1)~(4)からなる群から選択される少なくとも1種の部分構造を有するリグニン成分は、例えば、クラフト黒液又はクラフトリグニンのアルカリ溶液を酸化処理することにより得られる。なお、上記部分構造の生成についての詳細は、The Chemistry of Delignification,Holzforschung,36(1982)、pp55-64に記載されている。
【0013】
酸化処理としては、例えば、空気、酸素、過酸化水素、オゾン酸化が挙げられる。中でも、過酸化水素、空気又は酸素と過酸化水素の組み合わせが好ましい。
酸化処理は、通常、溶液中で行う。溶媒は、例えば、水や低級アルコール、それらの混合溶媒が挙げられる。中でも、取扱いの観点から、水が好ましい。水溶液を用いて酸化処理を行う場合、pHは9~14程度のアルカリ性水溶液であることが好ましい。
【0014】
酸化処理の反応条件は、目的とする一般式(1)~(4)の部分構造の存在割合に応じて適宜調整し得る。例えば、空気又は酸素と過酸化水素の組み合わせで酸化処理を行う場合、反応条件としては以下の条件を挙げることができる。
【0015】
まず、50~90℃程度、好ましくは60~80℃程度に加温した溶液に、空気又は酸素を吹き込む。空気又は酸素の吹き込み量は、60~120mL/min程度、好ましくは75~105mL/min程度とする。また、空気又は酸素を吹き込む時間は、30~150分程度、好ましくは60~120分程度とする。
次いで、70~120℃程度、好ましくは80~100℃程度に昇温した後、溶液に過酸化水素を加える。過酸化水素の使用量は、固形分100質量部に対して、0.5~10質量部程度、好ましくは0.8~5質量部程度とする。また、過酸化水素を加えた後の反応時間は、30~150分程度、好ましくは60~120分程度とする。
なお、一連の反応において、溶液中の固形分の濃度は、15~30質量%程度が好ましい。
【0016】
[スルホメチル化リグニン]
リグニン系染料分散剤の原料としてクラフトリグニンを用い、酸化処理後にスルホメチル化反応を行うと、リグニン成分は、下記一般式(5)で示される部分構造(5)をさらに有する。本明細書中、リグニン系染料分散剤の原料としてクラフトリグニンを用い、酸化処理後にスルホメチル化反応を行ったリグニン成分を、「スルホメチル化リグニン」と称する。
【0017】
【化4】
(前記一般式(5)中、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)
【0018】
クラフトリグニンのスルホメチル化反応では一般的にリグニンのC-Cユニットに対して、下記一般式(6)の位置にスルホン酸基が導入される。なお、一般式(6)は、リグニンの部分構造であるC-Cユニットを示す。左側の矢印の反応では、α位にスルホン酸基が導入される反応であり、一般にスルホン化と呼ばれる。また、右側の矢印の反応では、α位以外に芳香核の5位にホルムアルデヒドを介してスルホン酸基が導入される。
本発明のリグニン系染料分散剤において、リグニン成分は、右側の矢印の反応で得られる部分構造をさらに有することが好ましい(即ち、部分構造(5))。
【0019】
【化5】
(一般式(6)中、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す。)
【0020】
スルホメチル化リグニンは、-SOM(但し、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)で表されるスルホン酸(塩)基のS含量が、1.0~6.0質量%であることが好ましい。
-SOM(但し、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)で表されるスルホン酸(塩)基のS含量とは、リグニン系染料分散剤の固形物含量に対する-SOM(但し、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)に含有される硫黄原子の含量をいう。具体的には、下記数式(7)より算出する値である。
【0021】
【数1】
(数式(7)中、S含量はいずれもリグニン系染料分散剤の固形物量に対するS含量を示す。)
【0022】
数式(7)中、全S含量は、リグニン系染料分散剤に含まれるすべてのS含量であり、ICP発光分光分析法により定量し得る。また、無機態S含量は、イオンクロマト法により定量したSO含量、S含量及びSO含量の合計量として算出し得る。但し、無機態S含量は、酸化物の含量そのものを基に算出するのではなく、酸化物中のSの含量を基に算出する。
【0023】
[スルホメチル化リグニンの製造]
スルホメチル化リグニンは、公知の方法で製造すればよい。例えば、リグニン成分を酸化処理後後に亜硫酸塩及びアルデヒド類と反応させることによって製造し得る。
【0024】
リグニン成分をスルホメチル化する方法の一例が、米国特許第2,680,113号に開示されている。この方法ではリグニン成分のスルホ化メチル処理は、通常、50~200℃の温度範囲で行われ、好ましくは80~170℃の温度範囲で行われ、さらに好ましくは100~160℃の温度範囲で行われる。
添加する亜硫酸塩の量は、リグニン成分の固形分100質量%に対して1~50質量%が好ましい。亜硫酸塩の添加量が前記範囲でないと、リグニンの親水性が低く、布の汚染性が低くなる場合がある。一方、過剰に亜硫酸塩が添加された場合、リグニンの純度が低下するため、良好な染料分散性が得られない場合がある。
アルデヒド類としてはホルムアルデヒドが好ましく、添加するアルデヒドの量は、リグニン成分の固形分100質量%に対して0.25~12.5質量%が好ましい。ホルムアルデヒドが前記範囲でないとスルホン酸基がリグニンに導入されない場合がある。また、pHは8以上が好ましい。
【0025】
[メトキシル基]
一般にリグニン成分の構造中には芳香核に結合したメトキシル基が存在する。そのため、メトキシル基含量は、リグニン成分含量の指標となる。
通常のリグニン(酸化処理を経ない)は、その固形分あたりのメトキシル基含量が、通常、3.0~20.0質量%である。これに対して、上記一般式(1)~(4)の部分構造を有するリグニン系染料分散剤は、その固形分あたりのメトキシル基含量が、通常、2.0質量%以上であり、好ましくは4.0質量%以上であり、より好ましくは6.0質量%以上である。上限は、通常、20.0質量%以下であり、好ましくは19.5質量%以下であり、より好ましくは19.2質量%以下である。メトキシル基含量が2.0質量%以上であると、高温での染料分散性が良好となる。
なお、本明細書中、メトキシル基含量は、Viebock及びSchwappach法によるメトキシル基の定量法(「リグニン化学研究法」、P.336~340、平成6年、ユニ出版(株)発行、参照)によって測定した値である。
【0026】
[還元性糖類]
本発明のリグニン系染料分散剤は、還元性糖類を含んでもよい。還元性糖とは、還元性を示す糖をいい、塩基性溶液中でアルデヒド基又はケトン基を生じる糖をいう。還元性糖としては、例えば、ラムノース、ラクトース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、マルトース、グルコース、マンノース、フルクトース等の単糖;キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖等のオリゴ糖;アラビノース、スクロースの転化糖等の二糖;多糖が挙げられる。
【0027】
還元性糖類の含有量は、リグニン系染料分散剤100質量%に対して、5.0質量%以下が好ましい。還元性糖類の含有量が5.0質量%以下であると、染料組成物を乾燥する際に染料が凝集することを抑制し得る。
なお、還元性糖類の含有量は、Somogyi-Schaffer法によって測定した測定値をグルコース量に換算することで算出し得る。
【0028】
[無機塩]
リグニン系染料分散剤は、通常、無機塩を含有する。無機塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫化ナトリウムが挙げられる。リグニン系染料分散剤の固形分に対する無機塩の含量は、通常、1~25質量%である。
【0029】
リグニン系染料分散剤のCa含量(固形分に対するカルシウム原子含量)は、通常、0.06質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以下である。下限は、通常、0.001質量%以上であり、好ましくは0.005質量%以上である。
リグニン系染料分散剤のNa含量(固形分に対するナトリウム原子含量)は、通常、25質量%以下である。下限は、通常、1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。
リグニン系染料分散剤のMg含量(固形分に対するマグネシウム原子含量)は、通常、0.300質量%以下であり、好ましくは0.2000質量%以下である。下限は、通常、0.001質量%以上であり、好ましくは0.002質量%以上である。
【0030】
リグニン系染料分散剤の無機塩含量、Ca含量、Na含量及びMg含量は、以下のようにして算出し得る。無機塩類については、まず、試料を10%塩酸溶液とし、100℃で15分間処理する。各金属イオン(Ca2+、Na、Mg2+)に関しては、誘導結合プラズマ(ICP)法により定量し、定量結果をそれぞれ、Ca含量、Na含量及びMg含量(質量%)に換算して算出し得る。硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオンに関してはイオンクロマト法により定量する。
【0031】
[重量平均分子量]
リグニン系染料分散剤の重量平均分子量は、3,000~30,000が好ましく、3,000~20,000がより好ましい。重量平均分子量が上記範囲であると、高温での染料分散性が良好となる。
リグニン系染料分散剤の量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される。より詳細には、リグニン系染料分散剤の重量平均分子量は、プルラン換算する公知の方法にて、下記のGPCの測定条件で測定した値である。
【0032】
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液;四ホウ酸Na1.0%、イソプロピルアルコール0.3%の水溶液
溶離液流速;1.00ml/min
カラム温度;50℃
測定サンプル濃度;0.2質量%
標準物質;プルラン(昭和電工製)
検出器;UV検出器(280nm)(東ソー製)
検量線;プルラン基準
【0033】
[原料]
本発明のリグニン系染料分散剤の原料は、クラフトリグニン、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、リグニンスルホン酸、硫酸リグニン等が挙げられる。これらの中でも、クラフトリグニンが好ましい。即ち、リグニン系染料分散剤は、クラフトリグニンの由来物が好ましい。
【0034】
リグニン系染料分散剤の原料は、通常、還元性糖類を含む。還元性糖類は、一般的に、木質バイオマスをクラフト蒸解する過程で残留する。リグニン系染料分散剤の原料は、通常、20.0質量%以下の含有量で還元性糖類を含む。
【0035】
[クラフトリグニン]
リグニン系染料分散剤の原料として、クラフトリグニン(Kraft Lignin)を用いることができる。クラフトリグニンは、別名としてチオリグニン(ThioLignin)、サルフェートリグニン(Sulphate Lignin)とも呼ばれる。クラフトリグニンとしては、調製したものを使用してもよく、市販品を用いてもよい。調製したものとしては、クラフト黒液のUF処理液、クラフトリグニンのアルカリ溶液や、クラフトリグニンのアルカリ溶液をスプレードライして粉末化した粉末化クラフトリグニン、クラフトリグニンのアルカリ溶液を酸で沈殿させた酸沈殿クラフトリグニンを用いることができる。
【0036】
クラフトリグニンのアルカリ溶液は、例えば、特開2000-336589号公報に記載されているような公知の方法により得られる。しかしながら、クラフトリグニンのアルカリ溶液は、これらの方法で得られたものに限定されない。
【0037】
クラフトリグニンのアルカリ溶液を酸で沈殿させた酸沈殿クラフトリグニンとしては、例えば、国際公開第2006/038863号公報、国際公開第2006/031175号公報、国際公開第2012/005677号公報に記載されている方法により得られる粉末状の酸沈殿クラフトリグニンが挙げられる。しかしながら、酸沈殿クラフトリグニンは、これらの方法で得られたものに限定されない。
【0038】
クラフトリグニンの重量平均分子量は、3,000~30,000が好ましく、3,000~20,000がより好ましい。重量平均分子量が上記範囲である場合、高温での染料分散性が良好となるリグニン系染料分散剤を調製し得るリグニン成分とし得る。クラフトリグニンの重量平均分子量は、上述のリグニン成分の重量平均分子量の測定方法と同様に測定し得る。
【0039】
[2.染料組成物]
本発明の染料組成物は、上記のリグニン系染料分散剤を含有する。また、リグニン系染料分散剤と併用する染料としては、例えば、C.I.Disperse Red17などのアゾ系分散染料、C.I.Disperse Red60などのアントラキノン系分散染料等の、溶媒に分散させて用いられる分散染料が挙げられる。
被染色材料は特に限定されず、布、紙のいずれでもよい。但し、高温染着工程(例えば、100℃以上、110℃以上、120℃以上)を経て得る材料が好ましく、合成繊維(例えば、ポリエステル、アセテート、ナイロン)がより好ましい。高温染着工程際の温度条件も特に限定されないが、リグニン系染料分散剤の染料への添加量は、染料溶液中の染料の重量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。上限は、100質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【実施例
【0040】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限されるものではなく、前・後記述の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、実施例中、特に断りの無い限り、「%」は「質量%」を示し、「部」は「重量部」を示す。また、物性値の測定は、上記した方法による。
【0041】
<クラフトリグニンの分離>
公知の方法により、クラフトリグニンを分離した。すなわち、針葉樹(N材)クラフト蒸解黒液に二酸化炭素を通気して、黒液のpHを10にまで下げた後、1次濾過を実施した。1次濾過物を水中に再分散した後、硫酸を用いてpHを2まで下げて、2次濾過を実施した。その後、2次濾過物を水洗し、乾燥してN材クラフトリグニンを得た。
【0042】
<製造例1>
N材クラフトリグニンを固形分20%となるようNaOHでpH10に溶解して溶液を調製した。調製した溶液500部を70℃で攪拌しつつ、空気を60ml/minで90min吹込み、その後30%過酸化水素3.33部を加え、90℃で1時間酸化処理を行い、酸化処理液(N-1)を得た。
還流冷却器を付属した1Lオートクレーブに、酸化処理液(N-1)500部、亜硫酸ナトリウム10部、及び37%ホルムアルデヒド溶液7部を仕込み、140℃で120分スルホメチル化反応を行った。室温まで冷却した後、リグニン系染料分散剤としてN材クラフトリグニンのスルホメチル化物(A-1)を得た。
【0043】
<製造例2>
還流冷却器を付属した1Lオートクレーブに、酸化処理液(N-1)500部、亜硫酸ナトリウム20部、及び37%ホルムアルデヒド溶液14部を仕込み、140℃で120分スルホメチル化反応を行った。室温まで冷却した後、リグニン系染料分散剤としてN材クラフトリグニンのスルホメチル化物(A-2)を得た。
【0044】
<製造例3>
N材クラフト蒸解黒液(pH11)(固形分20%)500部を、70℃で攪拌しつつ、酸素を60ml/minで90min吹込み、その後30%過酸化水素13.33部を加え、90℃で1時間酸化処理を行い、酸化処理液(N-2)を得た。
還流冷却器を付属した1Lオートクレーブに、酸化処理液(N-2)500部、亜硫酸ナトリウム5部、及び37%ホルムアルデヒド溶液3.5部を仕込み、140℃で120分スルホメチル化反応を行った。室温まで冷却後、リグニン系染料分散剤としてN材クラフト蒸解黒液のスルホメチル化物(A-3)を得た。
【0045】
<製造例4>
還流冷却器を付属した1Lオートクレーブに、酸化処理液(N-2)500部、亜硫酸ナトリウム20部、及び37%ホルムアルデヒド溶液14部を仕込み、140℃で120分スルホメチル化反応を行った。室温まで冷却後、リグニン系染料分散剤としてN材クラフト蒸解黒液のスルホメチル化物(A-4)を得た。
【0046】
<製造例5~8>
上記製造例1~4において、それぞれ酸化処理を行わずにスルホメチル化を行い、スルホメチル化物(A-5)~(A-8)を得た。
製造例1~4で得られた各リグニン成分の組成の一部を表1に示す。一般式(1)~(4)で表される部分構造の存在確認は、IR分析により行った。より詳細には、まずサンプルをIR分析し、カルボン酸アニオン由来の1650cm-1付近のピークの有無を確認した。次いで、サンプルを酸性化した。そして、酸性化したサンプルをIR分析し、カルボン酸由来の1700cm-1付近のピークの有無を確認した。1650cm-1付近のピークは、芳香核のピークが重なる領域である。そのため、酸性化により1650cm-1付近のピークが1700cm-1付近にシフトすることで、部分構造の存在を確認し得る。
なお、表1中、「%」は、各実施例で得られたリグニン系染料分散剤の固形分に対する質量%を表す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表2から、製造例1~4のリグニン成分は、酸性化したサンプルをIR分析したところ、カルボン酸由来の1700cm-1付近のピークを確認できた。そのため、製造例1~4のリグニン成分は、一般式(1)~(4)で表される部分構造を有することがわかる。一方、製造例5~8のリグニン成分は、酸性化したサンプルをIR分析したところ、カルボン酸由来の1700cm-1付近のピークを確認できなかった。そのため、製造例5~8のリグニン成分は、一般式(1)~(4)で表される部分構造を有しないことがわかる。
【0050】
<実施例1~6、比較例1~4>
製造例1~4の一般式(1)~(4)で表される部分構造を有するリグニン系染料分散剤(実施例1~6)、及び製造例5~8の一般式(1)~(4)で表される部分構造を有しないリグニン系染料分散剤(比較例1~4)について、それぞれ評価した。なお、表3に示す染料の高温分散性及び布への汚染性の評価方法を下記に記す。
【0051】
<分散染料液の調製>
C.I.Disperse Red60に対して実施例及び比較例のリグニン系染料分散剤を固形分添加率40%となるように混合し、水を加えて固形分35%の分散染料液を調製した。この分散染料液に対してビーズミル(粒径1mmのガラスビーズを使用)により破砕して、下記評価に用いる分散染料液を調製した。
【0052】
<分散染料液の高温分散性>
調製した分散染料液を計量し、染料として0.24%となるよう純水で希釈し、染色液250ml(pH5.0)を調製した。10gのポリエステル布を115℃に昇温した分散剤溶液により、10分間染色機で染色した。染色後の布を軽く水洗し、目視で下記の通り5段階評価した。評価ポイントが高い方が良好な分散性を有していると評価し得る。
結果を表2に示す。
【0053】
(評価ポイント)
5:均一に染色されている
4:均一性がやや悪い
3:黒色の点が見える
2:黒色の点が多い
1:黒色の点がかなり多い
【0054】
<染料分散剤の布汚染性>
実施例及び比較例のリグニン系染料分散剤を0.24%となるよう純水で希釈し、分散剤溶液250ml(pH5.0)を調製した。10gのポリエステル布を130℃に昇温した分散剤溶液により、60分間染色機を用いて染色した。染色後の布を軽く水洗し、アイロンで乾燥して布の白色度を測定した。白色度が高い方が、汚染性が低く良好な性能を有していると評価し得る。
結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示すように、本発明のリグニン系染料分散剤は染料の高温分散性が高く、白色度が高いため布への汚染性が低いことが分かる。