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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20221213BHJP
   H01L 31/068 20120101ALI20221213BHJP
【FI】
H01L31/04 264
H01L31/06 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019058444
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020161599
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルワン ダムリン
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/115076(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135430(WO,A1)
【文献】特開2006-261621(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103824653(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p+層とn+層とを有するシリコン基板に、p+側電極とn+側電極とが形成された太陽電池の製造方法であって、
(1)表面にp+層とn+層とを有し、前記p+層の表面に開口部を有するパッシベーション膜が積層され、且つ、前記n+層の表面にパッシベーション膜が積層されていないか、又は、開口部を有するパッシベーション膜が積層されたシリコン基板を用意する準備工程と、
(2)p+側電極を形成する領域に形成された第1の開口部に、Si含有量とアルミニウム粉末含有量との合計に対するSi含有量が0wt%以上19.9wt%以下のアルミニウム粉末を含有する第1のアルミニウムペーストを塗布し、且つ、前記第1の開口部から離間されて、前記n+層が露出した領域、又は、前記パッシベーション膜からn+層が露出した第2の開口部に、前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有する第2のアルミニウムペーストを塗布する塗布工程と、
(3)前記塗布工程の後に、前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点以上であり、且つ、前記第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点未満の焼成温度で焼成する焼成工程と、
を備えることを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程は、焼成温度が577℃以上900℃以下であり、前記第1のアルミニウムペーストが焼成されて前記p+層に拡散層を形成する工程である、請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末は、Si含有量とアルミニウム粉末含有量との合計に対するSi含有量が前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも多い、請求項1又は2に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程において、前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の、Si含有量とアルミニウム粉末含有量との合計に対するSi含有量が0wt%以上17.0wt%以下であり、且つ、前記第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の、Si含有量とアルミニウム粉末含有量との合計に対するSi含有量が17.0wt%を超え、35.0wt%未満である、請求項1~3のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池の製造方法に関し、特にパッシベーション膜を備える太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、結晶シリコン系太陽電池には、シリコン基板の表側(受光面側)に銀電極を備え、且つ、裏側にアルミニウム電極を備えたタイプと、裏面に銀電極及びアルミニウム電極を離間して備えたタイプ(バックコンタクト型太陽電池)とが存在する。
【0003】
上述の太陽電池においては、シリコン基板の銀電極が設けられた領域近傍にはn+層が形成され、且つ、アルミニウム電極が設けられた領域近傍にはp+層が形成され、pn接合を形成して太陽電池からの電流が取り出される。
【0004】
更に、近年では、シリコン基板表面における電子と正孔との再結合を抑制するために、太陽電池にSiNやSiOより構成されるパッシベーション膜を設けることが一般的である。例えば、特許文献1には、パッシベーション膜を備えるシリコン基板の表面に銀電極を備え、裏面にアルミニウム電極を備える太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-533864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の太陽電池では、銀ペーストを用いているため、太陽電池の製造の際に銀の融点である961.8℃から、1000℃程度までの温度で焼成する必要がある。そのため、高温焼成に伴う環境負荷が高く、また1000℃程度の高温に耐えられる設備が必要となるという問題がある。太陽電池の製造には、銀の融点よりも低い焼成温度で電極が形成されることが望まれており、900℃以下の低い焼成温度でも電極が形成できることが期待される。
【0007】
従って、900℃以下の低い焼成温度でも電極の形成が可能な太陽電池の製造方法の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、900℃以下の低い焼成温度でも電極の形成が可能な太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、銀ペーストを用いずに、アルミニウムペーストによって電極を形成する方法を種々検討し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の太陽電池の製造方法に関する。
1.p+層とn+層とを有するシリコン基板に、p+側電極とn+側電極とが形成された太陽電池の製造方法であって、
(1)表面にp+層とn+層とを有し、前記p+層の表面に開口部を有するパッシベーション膜が積層され、且つ、前記n+層の表面にパッシベーション膜が積層されていないか、又は、開口部を有するパッシベーション膜が積層されたシリコン基板を用意する準備工程と、
(2)p+側電極を形成する領域に形成された第1の開口部にSi含有量が0wt%以上19.9wt%以下のアルミニウム粉末を含有する第1のアルミニウムペーストを塗布し、且つ、前記第1の開口部から離間されて、前記n+層が露出した領域、又は、前記パッシベーション膜からn+層が露出した第2の開口部に、前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有する第2のアルミニウムペーストを塗布する塗布工程と、
(3)前記塗布工程の後に、前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点以上であり、且つ、前記第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点未満の焼成温度で焼成する焼成工程と、
を備えることを特徴とする太陽電池の製造方法。
2.前記焼成工程は、焼成温度が577℃以上900℃以下であり、前記第1のアルミニウムペーストが焼成されて前記p+層に拡散層を形成する工程である、項1に記載の太陽電池の製造方法。
3.前記第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末は、Si含有量が前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも多い、項1又は2に記載の太陽電池の製造方法。
4.前記塗布工程において、前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量が0wt%以上17.0wt%以下であり、且つ、前記第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量が17.0wt%を超え、35.0wt%未満である、項1~3のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の太陽電池の製造方法は、900℃以下の低い焼成温度でも電極の形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】フロントタイプの太陽電池の製造方法における各工程の状態を示す模式図である。
図2】バックコンタクトタイプの太陽電池の製造方法における各工程の状態を示す模式図である。
図3】Al-Si系平衡状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の太陽電池の製造方法は、p+層とn+層とを有するシリコン基板に、p+側電極とn+側電極とが形成された太陽電池の製造方法であって、
(1)表面にp+層とn+層とを有し、前記p+層の表面に開口部を有するパッシベーション膜が積層され、且つ、前記n+層の表面にパッシベーション膜が積層されていないか、又は、開口部を有するパッシベーション膜が積層されたシリコン基板を用意する準備工程と、
(2)p+側電極を形成する領域に形成された第1の開口部にSi含有量が0wt%以上19.9wt%以下のアルミニウム粉末を含有する第1のアルミニウムペーストを塗布し、且つ、前記第1の開口部から離間されて、前記n+層が露出した領域、又は、前記パッシベーション膜からn+層が露出した第2の開口部に、前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有する第2のアルミニウムペーストを塗布する塗布工程と、
(3)前記塗布工程の後に、前記第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点以上であり、且つ、前記第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点未満の焼成温度で焼成する焼成工程とを備える製造方法である。
【0014】
本発明の太陽電池の製造方法は、(1)準備工程により特定のシリコン基板を用意し、(2)塗布工程により第1の開口部にSi含有量が0wt%以上19.9wt%以下のアルミニウム粉末を含有する第1のアルミニウムペーストを塗布し、且つ、n+層が露出した領域、又は、第2の開口部に、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有する第2のアルミニウムペーストを塗布し、(3)焼成工程により第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点以上であり、且つ、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点未満の焼成温度で焼成するので、第1のアルミニウムペーストが第1の開口部で溶融してp+側電極を形成することができると共に、n+層が露出した領域、又は、パッシベーション膜からn+層が露出した第2の開口部に形成された第2のアルミニウムペーストの溶融が抑制されて、n+側電極を形成することができる。特に、本発明の製造方法では、(2)塗布工程においてSi含有量が0wt%以上19.9wt%以下のアルミニウム粉末を含有する第1のアルミニウムペーストを用いているので、(3)焼成工程により900℃以下の焼成温度で電極の形成が可能となる。
【0015】
以下、本発明の太陽電池の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
(1)準備工程
準備工程は、表面にp+層とn+層とを有し、前記p+層の表面に開口部を有するパッシベーション膜が積層され、且つ、前記n+層の表面にパッシベーション膜が積層されていないか、又は、開口部を有するパッシベーション膜が積層されたシリコン基板を用意する工程である。
【0017】
シリコン基板は、シリコンを主成分とする半導体基板であることが好ましい。また、シリコン基板は、n型のシリコン基板及びp型のシリコン基板のいずれであてもよく、太陽電池の所望の用途や仕様に応じ、適宜選択すればよい。
【0018】
シリコン基板は、具体的には、シリコン基板表面にp+層とn+層とを有するシリコン基板が用いられ、シリコン基板の一方の面にp+層を備え、もう一方の面にn+層を備えるシリコン基板(フロントタイプ)であってよいし、シリコン基板の一方の面にp+層及びn+層を両方有するシリコン基板(バックコンタクトタイプ)であってもよい。これらの中でも、バックコンタクトタイプのシリコン基板を用いると、シリコン基板のp+層及びn+層を両方とも有する面とは反対側の面に受光を妨げる電極を設けずに済むため、当該反対側の面を受光面とすることで、太陽電池の発電効率がより一層向上する。
【0019】
シリコン基板には、予め切断面のダメージ層の除去とテクスチャを形成する目的で、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては特に限定されず、アルカリ液等によるウエットエッチング、加熱して表面に酸化膜を形成する表面処理、硝酸に浸漬させることにより表面を酸化する表面処理、オゾン水に浸漬させることにより表面を酸化する表面処理等が挙げられる。
【0020】
シリコン基板の厚みは特に限定はされず、100~250μmが好ましく、150~200μmがより好ましい。
【0021】
シリコン基板上にp+層を形成する方法は特に限定されず、例えば、イオン注入等の公知の方法により形成することができる。具体的には、B(ホウ素)を原料として、プラズマを発生させイオン化した後イオンビームとして半導体基板上へ照射する方法を挙げることができる。p+層の厚みは特に限定されず、0.1~2μmが好ましく、0.3~1μmがより好ましい。
【0022】
シリコン基板上にn+層を形成する方法は特に限定されず、例えば、イオン注入等の公知の方法により形成することができる。具体的には、PH(ホスフィン)を原料として、プラズマを発生させイオン化した後イオンビームとして半導体基板上へ照射する方法を挙げることができる。n+層の厚みは特に限定されず、0.1~2μmが好ましく、0.3~1μmがより好ましい。
【0023】
準備工程において、シリコン基板は、p+層の表面に開口部を有するパッシベーション膜が積層され、且つ、n+層の表面にパッシベーション膜が積層されていないか、又は、開口部を有するパッシベーション膜が積層されている。パッシベーション膜が積層されていることにより、シリコン基板表面における電子と正孔との再結合が抑制される。
【0024】
n+層の表面に、開口部を有するパッシベーション膜が積層されている場合、パッシベーション膜にはp+層及びn+層のそれぞれに対応する箇所に開口部が形成される。当該開口部に電極を設けることで、pn接合が形成されて太陽電池からの電流が取り出される。n+層の表面にパッシベーション膜が積層されていなくてもよく、この場合もn+層の表面に電極を設けることで、pn接合が形成されて太陽電池からの電流を取り出すことができる。
【0025】
パッシベーション膜としては、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO)、酸化アルミニウム膜、アモルファスシリコン膜、及び、微結晶シリコン膜からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。パッシベーション膜の形成方法は特に限定されず、例えば、プラズマCVD法、半導体用常圧CVD法、ALD法(原子層堆積法)等の各種の化学気相法やスパッタリング法により形成することができる。中でも、トリメチルアルミニウムを原料としてALD法によって酸化アルミニウムからなるパッシベーション膜を形成する方法が好ましい。
【0026】
パッシベーション膜の厚みは特に限定されず、5~200nmが好ましく、10~50nmがより好ましい。パッシベーション膜の厚みが上記範囲であることにより、パッシベーション効果がより一層向上し、且つ、パッシベーション膜をより一層除去し易くなる。
【0027】
パッシベーション膜に開口部を形成する方法は特に限定されず、レーザー照射等により開口部を設ける、いわゆるLCO(Laser contact opening)による方法が挙げられる。表面にp+層とn+層とを有し、且つ、p+層及びn+層のそれぞれの表面に開口部を有するパッシベーション膜が積層されたシリコン基板を用いることで、当該開口部に電極を形成すると、pn接合が形成されて、太陽電池セルとしてのシリコン基板から電流を取り出すことができる。
【0028】
上記パッシベーション膜の表面には、更に、反射防止膜が形成されていることが好ましい。反射防止膜を形成する方法としては特に限定されず、例えば、プラズマCVD法によってシランガス及びアンモニアガス雰囲気下で、パッシベーション膜表面に窒化ケイ素膜を形成する方法が挙げられる。
【0029】
(2)塗布工程
塗布工程は、p+側電極を形成する領域に形成された第1の開口部にSi含有量が0wt%以上19.9wt%以下のアルミニウム粉末を含有する第1のアルミニウムペーストを塗布し、且つ、第1の開口から離間されて、n+層が露出した領域、又は、パッシベーション膜からn+層が露出した第2の開口部に、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有する第2のアルミニウムペーストを塗布する工程である。
【0030】
図3に、Al-Si系平衡状態図を示す。図3に示す様に、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量が0wt%以上12.2wt%以下の範囲(亜共晶)であると、融点が577℃以上660℃以下であり、Si含有量が増す毎に融点が下がる。また、Si含有量が12.2wt%以上(過共晶)19.9wt%以下であると、融点が577℃以上686℃以下の範囲の温度となり、Si含有量が増す毎に融点が上がる。すなわち、上記場合の第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点は577℃以上686℃以下である。このため、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末は、銀の融点である961.8℃以下の焼成温度で溶融するのはもちろん、577℃以上900℃以下の範囲の焼成温度でも溶融し、更に、577℃以上686℃以下の範囲の焼成温度でも溶融する。第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量は、12.2wt%以上(過共晶)17.0wt%以下がより好ましい。第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量が上記範囲であると、融点が577℃以上660℃以下の範囲の温度となり、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末が、アルミニウムの融点以下の温度で溶融する。
【0031】
これに対し、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末は、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有する。第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有するアルミニウムペーストを第2のアルミニウムペーストとして選択することで、後述する焼成工程において、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点以上であり、且つ、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点未満の焼成温度で焼成すると、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末が溶融してp+側電極が形成され、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の溶融が抑制されてn+側電極が形成される。
【0032】
第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末は、Si含有量が第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも多いことが好ましい。当該構成とすることにより、第1のアルミニウムペーストと第2のアルミニウムペーストとの融点の差を大きくすることができ、後述する焼成工程により第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末をより一層十分に溶融させることができ、且つ、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の溶融がより一層抑制される。
【0033】
第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量は、17.0wt%を超え、35.0wt%未満が好ましく、20.0wt%以上35.0wt%未満がより好ましい。第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量が上記範囲であることにより、第1のアルミニウムペーストと第2のアルミニウムペーストとの融点の差を大きくすることができ、後述する焼成工程により第1のアルミニウムペーストをより一層十分に溶融させることができ、且つ、第2のアルミニウムペーストの溶融がより一層抑制される。
【0034】
塗布工程では、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量が12.2wt%以上17.0wt%以下であり、且つ、前記第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量が17.0wt%を超え、35.0wt%未満であることが好ましい。当該構成とすることにより、第1のアルミニウムペーストと第2のアルミニウムペーストとの融点の差を大きくすることができ、後述する焼成工程により第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末をより一層十分に溶融させることができ、且つ、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の溶融がより一層抑制される。
【0035】
第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末のSi含有量を、35.0wt%未満とした場合、図3から、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点は、577℃以上878℃未満となる。上記範囲において、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有するアルミニウムペーストを、第2のアルミニウムペーストとして選択すればよい。
【0036】
第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末と、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末との組み合わせの例を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に例示する様に、例えば、第1のアルミニウムペーストのアルミニウム粉末中のSi含有量が0wt%である場合には、Si含有量18.2wt%(融点661℃)以上、35wt%(融点878℃未満)の範囲のアルミニウム粉末を第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末として用いることができる。
【0039】
(3)焼成工程
焼成工程は、塗布工程の後に、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点以上であり、且つ、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点未満の焼成温度で焼成する工程である。
【0040】
焼成温度は、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末が溶融する一方で、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末が溶融しない温度である。
【0041】
焼成温度は、例えば、表1において、第1のアルミニウムペーストがSi含有量が0wt%であるアルミニウム粉末を含有し、第2のアルミニウムペーストがSi含有量が18.2wt%であるアルミニウム粉末を含有する場合には、660℃以上661℃未満とすればよい。また、第1のアルミニウムペーストがSi含有量が2wt%であるアルミニウム粉末を含有し、第2のアルミニウムペーストがSi含有量が17.1wt%であるアルミニウム粉末を含有する場合には、焼成温度を645℃以上647℃未満とすればよい。
【0042】
焼成温度は、また、表1において、第1のアルミニウムペーストがSi含有量が2wt%であるアルミニウム粉末を含有し、第2のアルミニウムペーストがSi含有量が35wt%未満であるアルミニウム粉末を含有する場合には、645℃以上878℃未満とすればよいが、焼成温度の上限を660℃とすることができる。
【0043】
焼成工程は、焼成温度が577℃以上900℃以下であり、第1のアルミニウムペーストが焼成されてp+層に拡散層を形成する工程であることが好ましい。577℃以上900℃以下の焼成温度で焼成することにより、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末が溶融し、シリコン基板のp+層側にp++型の拡散層が形成される。これにより、p+層側にアルミニウム電極であるp+側電極を形成することができる。一方、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末は溶融が抑制されるため、n+層側には拡散層が形成されず、n+層と接触するアルミニウム電極を別途形成することができる。このため、焼成温度が577℃以上900℃以下であることにより、900℃以下の焼成温度で、拡散層が形成されたp+層側のアルミニウム電極と、n+層と接触するアルミニウム電極とを、1度の焼成工程により形成することが可能となる。また、いずれのアルミニウム電極の形成も、900℃以下の焼成温度で可能であるため、焼成工程に伴う環境負荷が従来の銀電極を形成する場合よりも低く、900℃を超える様な高温に耐えられる設備が必ずしも必要でない。焼成工程は、焼成温度が577℃以上878℃未満であることがより好ましく、577℃以上660℃以下であることが更に好ましい。878℃未満、又は、660℃以下で焼成されることにより、焼成工程に伴う環境負荷が従来の銀電極を形成する場合よりも遥かに低く、878℃以上、又は、660℃を超える様な高温に耐えられる設備が必ずしも必要でない。
【0044】
焼成工程における焼成時間は特に限定されず、0.25~15分が好ましく、0.5~2分がより好ましい。焼成時間を上記範囲とすることにより、p+側電極及びn+側電極を十分に形成することができ、且つ、エネルギー効率にも優れる。
【0045】
焼成工程における設備は特に限定されず、従来公知の設備を用いることができる。このような設備としては、電気炉等が挙げられる。
【0046】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づき説明する。
【0047】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る太陽電池の製造方法の第1実施形態を示す図である。図1(A)~図1(D)は、フロントタイプの太陽電池の製造方法における各工程の状態を示す模式図である。
【0048】
(1)準備工程
図1(A)では、シリコン基板3の表面に、p+層2とn+層5とが積層されており、且つ、p+層2及びn+層5のそれぞれの表面にパッシベーション膜1及び6が積層されている。なお、図1(A)では、シリコン基板3のn+層5側には、トンネル酸化膜4が形成されている。
【0049】
次いで、図1(B)に示すように、p+層2及びn+層5のそれぞれの表面において、パッシベーション膜1及び6に、開口部7及び8が形成される。
【0050】
第1実施形態の本発明の太陽電池の製造方法では、準備工程により、図1(B)に示すように、表面にp+層2とn+層5とを有し、且つ、p+層2及びn+層5のそれぞれの表面に開口部7及び8を有するパッシベーション膜1及び6が積層されたシリコン基板3が用意される。
【0051】
(2)塗布工程
図1(C)では、図1(B)におけるp+側電極を形成する領域に形成された第1の開口部7に、第1のアルミニウムペースト9が塗布されている。また、図1(C)では、第1の開口部7から離間されて、パッシベーション膜6からn+層が露出した第2の開口部8に第2のアルミニウムペースト10が塗布されている。
【0052】
第1実施形態の本発明の太陽電池の製造方法では、塗布工程により、図1(C)に示すように、p+側電極を形成する領域に形成された第1の開口部7にSi含有量が0wt%以上19.9wt%以下のアルミニウム粉末を含有する第1のアルミニウムペースト9が塗布され、且つ、第1の開口部7から離間されて、パッシベーション膜からn+層が露出した第2の開口部に、第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末よりも融点が高いアルミニウム粉末を含有する第2のアルミニウムペーストが塗布される。
【0053】
(3)焼成工程
図1(D)では、図1(C)における開口部7に塗布された第1のアルミニウムペースト9が焼成されて溶融し、シリコン基板のp+層側にp++型の拡散層が形成されており、これにより、p+層側にアルミニウム電極であるp+側電極が形成されている。また、図1(D)では、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末は溶融が抑制されるため、n+層中には拡散層が形成されておらず、n+層5と接触するアルミニウム電極が形成されている。なお、図1(D)では、第1のアルミニウムペースト9とp++型の拡散層12との間に、溶融したアルミニウム粉末11が存在する。
【0054】
第1実施形態の本発明の太陽電池の製造方法では、焼成工程により第1のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点以上であり、且つ、第2のアルミニウムペースト中のアルミニウム粉末の融点未満の焼成温度で焼成することにより、シリコン基板の主面側(受光面側)に、p+層側に拡散層(p++層)を有し、且つ、p+層と接触するアルミニウム電極(p+側電極)と、基板裏面側にn+層と接触するアルミニウム電極(n+側電極)とを備える太陽電池が製造される。
【0055】
(第2実施形態)
図2は、本発明に係る太陽電池の製造方法の第2実施形態を示す図である。図2(A)~図2(D)は、バックコンタクトタイプの太陽電池の製造方法における各工程の状態を示す模式図である。
【0056】
図1では、シリコン基板3の主面側(受光面側)にp+層2と接触するアルミニウム電極(p+側電極)が形成され、シリコン基板3の裏面側にn+層5と接触するアルミニウム電極(n+側電極)が形成される構成を示したが、本実施形態では、シリコン基板3の裏面側に、p+層2と接触するアルミニウム電極(p+側電極)、及び、n+層5と接触するアルミニウム電極(n+側電極)が形成されている点が第1実施形態と異なる。
【0057】
(1)準備工程
図2(A)では、シリコン基板3の面のうち、裏面側(受光面とは反対側)の表面に、p+層2及びn+層5が積層されており、且つ、p+層2及びn+層5の表面にパッシベーション膜6が積層されている。なお、図2(A)では、シリコン基板3のp+層2及びn+層5が積層される側には、トンネル酸化膜4が形成されている。
【0058】
次いで、図2(B)に示すように、p+層2及びn+層5のそれぞれの表面において、互いに離間された位置で、パッシベーション膜6に開口部7及び8が形成される。
【0059】
第2実施形態の本発明の太陽電池の製造方法では、準備工程により、図2(B)に示すように、表面にp+層2とn+層5とを有し、且つ、p+層2及びn+層5のそれぞれの表面に開口部7及び8を有するパッシベーション膜6が積層されたシリコン基板3が用意される。
【0060】
(2)塗布工程、及び、(3)焼成工程は、第1実施形態と同じであり、本実施形態のその他の構成は、第1実施形態とほぼ同じである。このため、本実施形態が第1実施形態と共通する要素には共通符号を付して説明を割愛する。本実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0061】
1,6…パッシベーション膜
2…p+層
3…シリコン基板
4…トンネル酸化膜
5…n+層
6…パッシベーション膜
7…第1の開口部
8…第2の開口部
9…第1のアルミニウムペースト
10…第2のアルミニウムペースト
11…溶融したアルミニウム粉末
12…p++型の拡散層
図1
図2
図3