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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】軸ずれ推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20221213BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20221213BHJP
【FI】
G01S7/40 126
G01S13/931
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019092107
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020187022
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-139690(JP,A)
【文献】国際公開第2007/015288(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/056441(WO,A1)
【文献】特開2012-202703(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125981(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/051603(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載されたレーダ装置の軸ずれ角度を推定する軸ずれ推定装置(4)であって、
前記レーダ装置により検出された反射点のそれぞれについて、少なくとも前記レーダ装置と前記反射点との相対速度と、前記反射点についての方位角であってレーダビームの中心軸に沿った方向であるビーム方向を基準として求められた水平角度及び垂直角度の少なくとも一方である前記方位角と、を含む反射点情報を繰り返し取得するように構成された取得部(S10)と、
前記移動体の速度を取得し、前記移動体の速度に基づいて前記反射点の中から静止物であると推定される静止反射点を抽出するように構成された抽出部(S20)と、
前記レーダ装置による検出範囲を水平方向及び垂直方向の少なくとも一方において複数に分割した分割範囲毎に、予め定められた条件が満たされるように、前記分割範囲に含まれる前記静止反射点を選択するように構成された選択部(S25、S110、S120)と
前記選択部により選択された前記静止反射点を用いて前記軸ずれ角度を求めるように構成された軸ずれ算出部(S30)と、
を備え
前記選択部(S120)は、
前記静止反射点における前記レーダ装置による検出誤差を推定するように構成された誤差推定部(S320)と、
前記静止反射点が前記軸ずれ算出部に用いられる選択確率を、前記検出誤差が大きいほど小さくなる数値として算出するように構成された確率算出部(S330)と、
前記分割範囲内に含まれる前記静止反射点の数が前記選択確率に従って選択されることを前記条件として、前記条件が満たされるように前記分割範囲内に含まれる前記静止反射点を選択するように構成された選択実行部(S340)と、
を備えるように構成された
軸ずれ推定装置。
【請求項2】
請求項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記検出誤差は前記分割範囲毎に予め定められており、
前記誤差推定部は、前記検出誤差に基づいて、前記分割範囲内に含まれる前記静止反射点における前記検出誤差を推定するように構成された
軸ずれ推定装置。
【請求項3】
請求項又は請求項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記確率算出部は、前記選択確率と前記検出誤差との対応を表す対応情報であって、前記選択確率を前記検出誤差が大きいほど小さくなる数値として前記検出誤差と対応づけた前記対応情報を取得し、前記対応情報に基づいて前記選択確率を特定するように構成された
軸ずれ推定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記選択部(S110)は、前記分割範囲内に含まれる前記静止反射点の数が予め定められた上限数以下であることを前記条件として、前記条件が満たされるように、前記分割範囲内に含まれる前記静止反射点を選択するように構成された
軸ずれ推定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記軸ずれ算出部は、前記移動体の速度の誤差と前記軸ずれ角度とを未知パラメータとして、前記未知パラメータと、前記取得部にて取得された前記反射点についての前記方位角と、前記反射点についての前記相対速度を前記移動体の速度で割った値との間に成立する関係式を用いて、前記未知パラメータを推定するように構成された
軸ずれ推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体の方位や相対速度を検出するレーダ装置の軸ずれ角度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダ装置では、何らかの原因で設置状態が変化することでレーダビームの中心軸がずれる所謂軸ずれが生じると、検出誤差が大きくなり、物体の位置等を誤検出するおそれがある。このような軸ずれを検出する技術の一つとして、特許文献1には、車載レーダ装置において、静止物の観測相対速度が方位角に依存することを利用して軸ずれ角を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許3733863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーダ装置では、方位角の検出精度が高い方位と低い方位とが生じ得る。発明者の詳細な検討の結果、特許文献1に記載の従来装置では、仮にレーダ装置の検出精度が低い方位に偏って物体が存在するような場合には軸ずれ角の推定精度が低下する、という課題が見出された。
【0005】
本開示の1つの局面は、軸ずれ角の推定精度の低下を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、移動体に搭載されたレーダ装置の軸ずれ角度を推定する軸ずれ推定装置(4)であって、取得部(S10)と、抽出部(S20)と、選択部(S25、S110、S120)と軸ずれ算出部(S30)と、を備える。取得部は、レーダ装置により検出された反射点のそれぞれについて、反射点情報を繰り返し取得するように構成される。反射点情報は、少なくともレーダ装置と反射点との相対速度と、反射点についての方位角であってレーダビームの中心軸に沿った方向であるビーム方向を基準として求められた水平角度及び垂直角度の少なくとも一方である方位角と、を含む。抽出部は、移動体の速度を取得し、移動体の速度に基づいて反射点の中から静止物であると推定される静止反射点を抽出するように構成される。選択部は、レーダ装置による検出範囲を水平方向及び垂直方向の少なくとも一方において複数に分割した分割範囲毎に、予め定められた条件が満たされるように、分割範囲に含まれる静止反射点を選択するように構成される。軸ずれ算出部は、選択部により選択された静止反射点を用いて軸ずれ角度を求めるように構成される。
【0007】
その結果、条件を満たす静止反射点が選択されるので、条件を適宜定めることにより、選択される静止反射点の数を低減することができる。そして、選択された静止反射点を用いて軸ずれ角度を求めるので、選択された静止反射点の数が低減される場合には、検出誤差の影響が抑制されるので、軸ずれ角の推定精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両制御システムの構成を示すブロック図。
図2】レーダ波の水平方向における照射範囲を説明する説明図。
図3】レーダ波の垂直方向における照射範囲を説明する説明図。
図4】反射点の方位角を説明する説明図。
図5】軸ずれ推定処理のフローチャート。
図6】軸ずれ角度を推定する原理を説明する説明図。
図7】静止反射点が検出精度の低いある特定の方位角に偏っている様子を説明する説明図。
図8】選択処理のフローチャート。
図9】偏り抑制処理のフローチャート。
図10】偏り抑制処理を説明する説明図。
図11】誤差抑制処理のフローチャート。
図12】誤差抑制処理を説明する説明図。
図13】確率算出処理のフローチャート。
図14】選択確率と検出誤差との対応付けの例を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。なお、以下でいう「垂直」とは、厳密な意味での「垂直」に限るものではなく、同様の効果を奏するのであれば厳密に「垂直」でなくてもよい。以下でいう「水平」、「一致」についても同様である。
【0010】
[1.構成]
図1に示す車両制御システム1は、車両に搭載されるシステムである。車両制御システム1は、レーダ装置2と、車載センサ群3と、信号処理部4と、支援実行部5とを備える。以下では、車両制御システム1を搭載する車両を自車ともいう。また、車両の車幅方向を水平方向、車両の車高方向を垂直方向ともいう。
【0011】
レーダ装置2は、図2及び図3に示すように、車両VHの前側に搭載される。レーダ装置2は、車両VH前方の水平方向における所定角度範囲Ra内及び車両VH前方の垂直方向における所定角度範囲Rb内に、レーダ波を照射する。レーダ装置2は、照射したレーダ波の反射波を受信することで、レーダ波を反射した反射点に関する反射点情報を生成する。
【0012】
なお、レーダ装置2は、レーダ波としてミリ波帯の電磁波を使用するいわゆるミリ波レーダであってもよいし、レーダ波としてレーザー光を用いるレーザレーダ、レーダ波として音波を用いるソナーであってもよい。いずれにしても、レーダ波を送受信するアンテナ部は、水平方向及び垂直方向のいずれについても反射波の到来方向を検出できるように構成されている。本実施形態では、アンテナ部は、水平方向及び垂直方向に並ぶアレイアンテナを備える。
【0013】
レーダ装置2は、照射するレーダビームの中心軸CA方向に沿った方向であるビーム方向が、自車の前後方向即ち進行方向と一致するように取り付けられ、自車の前方に存在する各種物標を検出するために用いられる。レーダ装置2が生成する反射点情報には、レーダ装置2と反射点との相対速度、及び反射点の方位角、が少なくとも含まれる。
【0014】
反射点の方位角とは、図4に示すように、レーダビームの中心軸に沿った方向であるビーム方向を基準として求められた反射点が存在する水平方向の角度(以下、水平角度)Hor及び垂直方向の角度(以下、垂直角度)Verの少なくとも一方である。本実施形態では、垂直角度Ver及び水平角度Horの両方が反射点の方位角を表す情報として反射点情報に含まれる。但し、図4は、レーダ装置2に、垂直方向における軸ずれ、即ち垂直面であるx-z平面内における軸ずれが生じている様子を示している。以下では、垂直方向における軸ずれ角度をαvと表す。軸ずれとは、レーダ装置2のビーム方向と自車の進行方向とにずれが生じている状態をいう。軸ずれ角度とは、そのずれの大きさを示す角度をいう。
【0015】
本実施形態では、レーダ装置2は、公知のFMCW方式を採用しており、上り変調区間のレーダ波と下り変調区間のレーダ波を予め設定された変調周期で交互に送信し、反射したレーダ波を受信する。FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略である。これにより、レーダ装置2は、変調周期毎に、上述のように反射点との相対速度と、反射点の方位角である水平角度Hor及び垂直角度Verと、を反射点情報として検出する。なお、レーダ装置2は、反射点までの距離と、受信したレーダ波の受信電力と、を更に反射点情報として検出し得る。
【0016】
車載センサ群3は、車両VHの状態等を検出するために車両VHに搭載された各種センサである。ここでは、車載センサ群3を構成するセンサとして、車輪の回転に基づいて車速を検出する車速センサが少なくとも含まれている。
【0017】
信号処理部4は、CPU41と、ROM43、RAM44、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、メモリ42)と、を有するマイクロコンピュータ(以下、マイコン)を中心に構成される。信号処理部4の各種機能は、CPU41が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ42が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。なお、信号処理部4を構成するマイコンの数は1つでも複数でもよい。また、信号処理部4が有する各種機能を実現する手法はソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の要素について、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現してもよい。例えば、上記機能がハードウェアである電子回路によって実現される場合、その電子回路は多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路、あるいはこれらの組合せによって実現してもよい。
【0018】
信号処理部4が実行する処理には、物標認識処理及び軸ずれ推定処理が少なくとも含まれている。
このうち、物標認識処理は、レーダ装置2から得られる反射点情報や車載センサ群3から得られる各種情報に基づいて、自車が走行する車線や、自車と同一車線を走行する先行車両、その他の車両や障害物等を検出する公知のものである。この物標認識処理での処理結果は、支援実行部5等に提供される。
【0019】
一方、軸ずれ推定処理は、車両VHの進行方向に対するレーダ装置2のビーム方向の軸ずれ角度を検出するものであり、その詳細については後述する。なお、この軸ずれ推定処理を実行する信号処理部4が、軸ずれ推定装置に相当する。
【0020】
支援実行部5は、信号処理部4が実行する物標認識処理での処理結果に基づき、各種車載機器を制御して、所定の運転支援を実行する。制御対象となる車載機器には、各種画像を表示するモニタ、警報音や案内音声を出力する音響機器が含まれる他、自車の内燃機関、パワートレイン機構、ブレーキ機構等を制御する制御装置が含まれていてもよい。
【0021】
軸ずれ通知装置51は、車室内に設置された音声出力装置であり、車両VHの乗員に対して、警告音を出力する。なお、支援実行部5が備える音響機器等が軸ずれ通知装置51として用いられてもよい。
【0022】
搭載角調整装置52は、モータと、レーダ装置2に取り付けられた歯車とを備える。搭載角調整装置52は、信号処理部4から出力される駆動信号に従ってモータを回転させる。これにより、モータの回転力が歯車に伝達され、水平方向に沿った軸及び垂直方向に沿った軸を中心にレーダ装置2を回転させることができる。
【0023】
[2.処理]
[2-1.軸ずれ推定処理]
次に、信号処理部4が実行する軸ずれ推定処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。本処理は、イグニションスイッチがオンである間、レーダ波を送受信する測定サイクル毎に起動する。なお、以下では、垂直方向における軸ずれ角度αvを推定する例を説明する。
【0024】
信号処理部4は、本処理が起動すると、S10にて、レーダ装置2から反射点情報を取得する。以下では、反射点情報から特定される反射点を、取得反射点という。
信号処理部4は、S15では、車載センサ群3から自車速Cmを取得する。
【0025】
信号処理部4は、S20では、取得反射点のうち、静止物によってレーダ波が反射された反射点である静止反射点を抽出する。具体的には、S10にて取得した自車速Cmを用い、反射点情報に含まれる相対速度をq、予め設定された下限の速度閾値をε1、上限の速度閾値をε2として、(1)式を満たす取得反射点を静止反射点として抽出する。即ち、相対速度qに対する自車速Cmの比が、ε1~ε2といった予め定められた速度閾値範囲内となる取得反射点が静止反射点となる。
【0026】
【数1】
静止反射点からレーダ装置2に向かう方向とビーム方向とが一致している場合は、その自車速Cmと反射点の相対速度qは同じ大きさとなり、かつ相対速度qの向きは自車速Cmとは反対であるため、q/Cm=-1となる。このように、q/Cm=-1となる反射点は静止反射点であると考えられる。
【0027】
但し、車載センサ群3から取得される自車速Cmは、車輪のスリップ等によって実際の車速とは必ずしも一致しない。また、レーダ装置2にて検出される相対速度qにも誤差が含まれる。このため、静止反射点であったとしても、必ずしもq/Cm=-1になるとは限らない場合がある。下限の速度閾値ε1及び上限の速度閾値ε2は、これらの影響を考慮して適宜設定されたものが用いられる。
【0028】
信号処理部4は、S25では、選択処理を実行する。選択処理では、後述する図10図12に示すように、レーダ装置2による検出範囲を水平方向及び垂直方向のそれぞれにおいて複数に分割した方位範囲である分割範囲毎に、予め定められた条件が満たされるように、該分割範囲に含まれる静止反射点を選択する。選択処理の詳細については、後述する。本選択処理によって選択された静止反射点の個数(以下、選択数)をKとする。また、以下でいう選択静止点とは、本選択処理によって選択された静止反射点をいう。
【0029】
信号処理部4は、S30では、S25にて選択されたK個の選択静止点を用いて、垂直方向における軸ずれ角度αvを推定する。例えば、信号処理部4は、垂直方向における軸ずれ角度αvを、(2)式を用いて推定する。
【0030】
【数2】
ここで、θverは、レーダ装置2に軸ずれが無いときの垂直角度Verの測定値であり、θverはレーダ装置2による垂直角度Verの測定値である。qvは選択静止点の相対速度qのx-z平面における大きさであり、Cmvは自車速Cmのx-z平面における大きさである。Avは車両VHにおける速度の誤差のx-z平面における大きさである。
【0031】
(2)式に基づいて、選択静止点それぞれについて、軸ずれ角度αvと車両VHの速度の誤差Aとを未知パラメータとした方程式が得られる。つまり、K個の連立方程式が得られる。この連立方程式を解くことで、αv及びAvが求められる。連立方程式の具体的な解法としては例えば最小自乗法等を用いることができる。但し、本開示はこれに限定されるものではない。
【0032】
ここで、図6は、例えば、横軸を垂直角度Ver、縦軸をqv/Cmvとしたときの、静止反射点が存在する範囲を示すグラフである。図6が示す座標系にそれぞれの静止反射点についての垂直方向の方位角とqv/Cmvとを投影してプロットした場合、レーダ装置2に軸ずれが無くビーム方向と進行方向とが一致していれば、静止反射点は半円100上にプロットされる。
【0033】
一方、レーダ装置2に軸ずれがある場合、静止反射点は、軸ずれが無い場合の半円100を軸ずれ角度αvぶん横軸方向に水平移動させた半円101上にプロットされる。(2)式の連立方程式を解くことは、全てのK個の静止反射点が半円101上にプロットされるような、最適なαv及びAvを求めることに相当する。
【0034】
なお、信号処理部4は、水平方向における軸ずれ角度αhを、(3)式を用いて同様に推定することが可能である。水平方向における軸ずれとは、水平面であるx-y平面内における軸ずれをいう。
【0035】
【数3】
ここで、θhorは、レーダ装置2に軸ずれが無いときの水平角度Horの測定値であり、θ’horはレーダ装置2による水平角度Horの測定値である。qhは相対速度qのx-y平面における大きさであり、Cmhは自車速Cmのx-y平面における大きさである。Ahは車両VHの速度の誤差のx-y平面における大きさである。
【0036】
なお、レーダ装置2では、方位角の検出精度は方位に依存する。一般には、方位角の検出精度はビーム方向から離れるほど低下する。つまり、垂直角度Ver及び水平角度Horのいずれにおいても、検出値の絶対値が0よりも大きくなるにつれて検出精度は低下する。このため、例えば、図7に示すように、静止反射点が検出精度の低いある特定の方位角に偏っている場合、これら全ての静止反射点に基づいて軸ずれ角度αvを推定すると、推定精度が低下するおそれが有る。
【0037】
そこで、信号処理部4は、S25-S30では、上述の選択処理を実行することによって、全ての静止反射点のうち所定の条件を満たす静止反射点即ち選択静止点を抽出し、抽出した選択静止点に基づいて軸ずれ角度αvを推定している。
【0038】
信号処理部4は、S35では、S35で推定された軸ずれ角度αvの推定信頼度を特定する。推定信頼度とは、S30で推定された軸ずれ角度αvの信頼の度合いを示す数値である。本実施形態では、S30にて軸ずれ角度αvを推定するために用いられた選択静止点の数である選択数Kを推定信頼度として特定する。
【0039】
信号処理部4は、S40では、S30にて推定された軸ずれ角度αvが信頼できる値であるか否かを判断する。上述のように、軸ずれ角度αvは、K個の静止反射点を用いて推定される。信号処理部4は、選択数Kが予め定められた信頼閾値以上である場合に、推定された軸ずれ角度αvが信頼できる値であると判断する。
【0040】
信号処理部4は、選択数Kが信頼閾値未満である場合に、信頼できないと判断して処理をS45へ移行し、選択数Kが信頼閾値以上である場合に、信頼できると判断して処理をS55へ移行する。
【0041】
信号処理部4は、S45では、レーダ装置2の指向性を変更するか否かを判断する。上述のように、レーダ装置2は、反射波をアレイアンテナで受信するように構成されている。信号処理部4は、S30にて推定された軸ずれ角度αvがアレイアンテナによる指向性の調整可能範囲内である場合に、アレイアンテナによる指向性を変更すると判断する。信号処理部4は、指向性を変更する場合は、処理をS50に移行させ、指向性を変更しない場合は本軸ずれ推定処理を終了する。
【0042】
信号処理部4は、S50では、アレイアンテナの指向性が予め定められた調整角度ぶん変更されるように処理を行う。そして、本軸ずれ推定処理を終了する。
信号処理部4は、S55では、S30にて推定された軸ずれ角度αvが、搭載角調整装置52によって調整可能であるか否かを判断する。信号処理部4は、該軸ずれ角度αvが予め設定された調整可能範囲内である場合に軸ずれ調整が可能であると判断する。信号処理部4は、軸ずれ調整が可能である場合に処理をS65へ移行させ、軸ずれ調整が可能でない場合には処理をS60へ移行させる。
【0043】
信号処理部4は、S60では、レーダ装置2の中心軸CAがずれていることを示すダイアグ情報(以下、軸すれダイアグ)を信号処理部4の外部の装置に出力する。信号処理部4は、例えば、軸ずれ通知装置51に軸ずれダイアグを出力し、軸ずれ通知装置51は軸ずれダイアグに従って警告音を出力するように構成されてもよい。そして、信号処理部4は、本軸ずれ推定処理を終了する。
【0044】
信号処理部4は、S65では、搭載角調整装置52によって、垂直方向において、軸ずれ角度αvぶん車両VHの前後方向に沿った軸を中心にレーダ装置2を回転させて、レーダ装置2の中心軸CAが車両VHの進行方向と一致するようにレーダ搭載角を調整する。
【0045】
信号処理部4は、続くS70では、S10にて取得された反射点の方位角を、軸ずれ角度αvぶん補正した方位角を算出する。なお、信号処理部4は、補正後の方位角に基づいて、上述の物標認識処理を実行する。信号処理部4は、以上で軸ずれ調整処理を終了する。
【0046】
[2-2.選択処理]
次に、信号処理部4が、軸ずれ推定処理のS25で実行する選択処理について、図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0047】
信号処理部4は、S100では、分割範囲の情報(以下、分割情報)を取得する。分割範囲とは、図10、12に示すように、レーダ装置2から所定距離離れたy-z平面(以下、投影面Sともいう)におけるレーダ波の所定の照射範囲を、垂直方向においてV個に分割し且つ水平方向においてH個に分割した、分割後のそれぞれの範囲である。本実施形態では、分割範囲は正方形状である。ここでいう垂直方向とはz方向であり、水平方向とはy方向である。V、Hは、予め定められた1以上の整数であり、メモリ42に予め記憶されている。本実施形態では、V、Hを2以上の整数として説明する。
【0048】
投影面Sにおけるそれぞれの分割範囲の四隅の方位角は、垂直角度及び水平角度を用いて表される。以下でいう計測点とは、投影面S上におけるそれぞれの分割範囲の四隅の位置をいうものとする。図12では、計測点の位置は白い丸印で示されている。
それぞれの計測点については、予め実験やシミュレーション等によって、それぞれの計測点におけるレーダ装置2による検出誤差が計測されている。それぞれの分割範囲と、分割範囲におけるそれぞれの計測点の方位角と、それぞれの計測点における検出誤差とが、互いに対応づけられて分割情報としてメモリ42に予め記憶されている。つまり、反射点情報における静止反射点の方位角と分割情報とに基づいて、それぞれの静止反射点がどの分割範囲内に含まれるかが特定可能である。
【0049】
信号処理部4は、S110では、偏り抑制処理を実行する。信号処理部4は、偏り抑制処理によって、1つの分割範囲内に含まれる静止反射点の数が予め定められた上限数以下であることを条件として、該条件が満たされるように、それぞれの分割範囲内に含まれる静止反射点を選択する。偏り抑制処理の詳細については後述する。
【0050】
信号処理部4は、S120では、誤差抑制処理を実行する。信号処理部4は、誤差抑制処理によって、1つの分割範囲内に含まれる静止反射点が後述する選択確率に従って選択されることを条件として、該条件が満たされるように、それぞれの分割範囲内に含まれる静止反射点を選択する。誤差抑制処理の詳細については後述する。以上で、信号処理部4は、選択処理を終了する。
【0051】
このように、本実施形態では、信号処理部4は、S110による偏り抑制処理で選択された静止反射点のうちから、更に、S120にて誤差抑制処理で選択確率に従って静止反射点を選択する。つまり、偏り抑制処理にて上限数以下となるように選択された静止反射点が、更に、誤差抑制処理によって選択確率に従って選択される。このように偏り抑制処理及び誤差抑制処理によって選択されたK個の静止反射点が、上述の選択静止点に相当する。
【0052】
[2-3.偏り抑制処理]
次に、信号処理部4が、選択処理のS110で実行する偏り抑制処理について、図9のフローチャート、及び図10に基づいて説明する。
【0053】
信号処理部4は、S210では、上限数を取得する。上限数とは、1つの分割範囲内に含まれる静止反射点の数の上限を表す、予め定められた数である。より具体的には、上限数は、1つの分割範囲内において、軸ずれ角度の推定に用いられる静止反射点の数の上限を表す。上限数は分割範囲毎に予め定められている。具体的には、上限数は、1以上の整数であり、メモリ42に予め記憶されている。なお、本実施形態では、各分割範囲に同じ値の上限数が設定されている。
【0054】
信号処理部4は、S220-S250では、反射点情報、分割情報、及び上限数に基づいて、分割範囲のそれぞれにおいて、分割範囲内の静止反射点から上限数以下の静止反射点を選択する。
つまり、信号処理部4は、S220では、1つの分割範囲において、該分割範囲内で検出された静止反射点の数が該分割範囲に対して設定された上限数よりも大きいか否かを判断する。1つの分割範囲とは、複数の分割範囲のうちS220-S250による処理が実行されていない分割範囲である。
ここで、信号処理部4は、分割範囲内で検出された静止反射点の数が上限数よりも大きい場合に処理をS230へ移行させる。一方、信号処理部4は、分割範囲内で検出された静止反射点の数が上限数以下である場合に処理をS240へ移行させる。
【0055】
信号処理部4は、S230では、図10に示すように、1つの分割範囲内で検出された全ての静止反射点のうちから上限数個の静止反射点を選択し、処理をS250へ移行させる。
【0056】
信号処理部4は、1つの分割範囲内で上限数個の静止反射点を選択する際、該分割範囲内で検出された全ての静止反射点のうちから上限数個の任意の静止反射点を選択して良い。なお、本実施形態では、信号処理部4は、反射点情報に含まれる反射点までの距離Rに基づいて、レーダ装置2から近い順に上限数個の静止反射点を選択する。図10では、上限数が6に設定された例が示されている。
【0057】
信号処理部4は、S240では、1つの分割範囲内で検出された全ての静止反射点を選択し、処理をS250へ移行させる。
なお、S230、S240では、信号処理部4は、分割範囲毎に、該分割範囲の分割情報と、該分割範囲内において選択した静止反射点の反射点情報と、を対応づけてメモリ42に記憶する。
【0058】
信号処理部4は、S250では、V×H個の全ての分割範囲についてS220-S240に示すように静止反射点の選択を完了したか否かを判断する。ここで、信号処理部4は、全ての分割範囲について静止反射点の選択が完了していないと判断した場合は、処理をS220へ移行させてS220-S250の処理を繰り返す。一方、信号処理部4は、全ての分割範囲について静止反射点の選択が完了したと判断した場合は、本偏り抑制処理を終了する。
【0059】
[2-4.誤差抑制処理]
次に、信号処理部4が、選択処理のS120で実行する誤差抑制処理について、図11のフローチャート及び図12に基づいて説明する。なお、以下でいう静止反射点とは、本実施形態では選択処理のS110にて選択された静止反射点をいう。
【0060】
信号処理部4は、S310では、反射点情報に基づいて、静止反射点の方位角を取得する。
信号処理部4は、S320では、静止反射点においての、レーダ装置2による方位角の検出誤差を推定する。上述のように、分割範囲毎にそれぞれの計測点においてレーダ装置2による検出誤差が予め計測されている。検出誤差の単位は、例えば±何度といったように、方位角と同じ単位で表される。
【0061】
計測点の位置を表す方位角と検出誤差とは、互いに対応づけられて、上述の分割情報としてメモリ42に記憶されている。そこで、本実施形態では、信号処理部4は、分割情報に基づいて、静止反射点を含む分割範囲の計測点を特定する。そして、信号処理部4は、該分割範囲の四隅の計測点(即ち、静止反射点の近傍の四つの計測点)における検出誤差を取得してこれらの平均値を算出し、該平均値を静止反射点の検出誤差として用いる。
【0062】
信号処理部4は、S330では、確率算出処理を実行する。信号処理部4は、確率算出処理によって、選択確率を算出する。選択確率とは、1つの分割範囲内において該分割範囲内に含まれる静止反射点が選択される確率を表している。ここでいう選択確率は、1以下の数値であって、レーダ装置2による検出誤差が大きいほど小さくなる値である。確率算出処理の詳細は後述する。
【0063】
信号処理部4は、S340では、S330にて算出された選択確率に基づいて、静止反射点が選択されるか否かを判断する。ここで、本実施形態では、信号処理部4は、0より大きく1以下の範囲で乱数を生成し、生成した乱数が選択確率以下である場合に選択と判断し、生成した乱数が選択確率よりも大きい場合に非選択と判断する。信号処理部4は、選択と判断した場合に処理をS350へ移行させ、非選択と判断した場合に処理をS360へ移行させる。
【0064】
本実施形態では、信号処理部4は、S350では、選択と判断された静止反射点を選択静止点としてメモリ42に記憶し、処理をS370へ移行させる。
信号処理部4は、S360では、非選択と判断された静止反射点を選択静止点としてメモリ42に記憶しないで、処理をS370へ移行させる。
【0065】
信号処理部4は、S370では、S310-S360の処理を全ての静止反射点について実行したか否かを判断する。ここで、信号処理部4は、全ての静止反射点について該処理を実行していないと判断した場合に、処理をS310へ移行させ、S310-S370の処理を繰り返す。一方、信号処理部4は、全ての静止反射点について該処理を実行したと判断した場合に、本誤差抑制処理を終了する。
【0066】
[2-4.確率算出処理]
次に、信号処理部4が、誤差抑制処理のS330で実行する確率算出処理について、図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0067】
信号処理部4は、S410では、対応情報を取得する。対応情報とは、選択確率と検出誤差との対応を表す情報である。対応情報では、選択確率を0以上1以下の数値であって検出誤差が大きいほど小さくなる数値として、該選択確率と検出誤差とが対応づけられている。
対応情報では、例えば図14に示すように、検出誤差が予め定められた第1の検出誤差G1未満である場合に選択確率が1であり、検出誤差が予め定められた第2の検出誤差G2以上である場合に選択確率が0であるように、対応づけられてもよい。そして、検出誤差が第1の検出誤差G1以上であり第2の検出誤差G2未満である場合に、選択確率が1から0まで次第に減少するように対応づけられてもよい。
【0068】
但し、本開示では、対応情報はこれに限定されるものではなく、任意に設定され得る。本実施形態では、対応情報はテーブル形式の情報であり、対応情報はメモリ42に予め記憶されている。但し、対応情報は、式によって表されていてもよい。
【0069】
信号処理部4は、S420では、対応情報に基づいて、静止反射点の検出誤差に対応する選択確率を特定し、選択確率をメモリ42に記憶して本確率算出処理を終了する。
[3.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0070】
(3a)信号処理部4は、S25では、分割範囲毎に、予め定められた条件が満たされるように、分割範囲に含まれる静止反射点を選択するように構成される。信号処理部4は、S30では、S25により選択された静止反射点を用いて軸ずれ角度を求めるように構成される。
【0071】
レーダ装置2では、方位角の検出精度が高い方位と低い方位とが生じ得る。一般に、中心軸CAに近いほど方位角の検出精度が高く、中心軸CAから離れるに応じて方位角の検出精度は低下する。レーダ装置2によって検出される物標は、必ずしもレーダ装置2の中心軸CA付近の方位で検出されるわけではなく、該中心軸CAから離れた方位において偏って検出される場合も有り得る。
【0072】
つまり、レーダ装置2による方位角の検出誤差や検出される物標の分布の偏り等により、レーダ装置2による方位に対する検出誤差の影響で、軸ずれ角度の推定精度が低下するおそれがある。特に、中心軸CAから離れた方位に偏って物標が検出される場合、中心軸CAから離れた方位に偏って軸ずれ角度の推定に用いられる反射点が数多く検出されるので、軸ずれ角度の推定精度がより低下するおそれがある。
【0073】
本開示では、信号処理部4は、予め定められた条件が満たされる場合に分割範囲毎に軸ずれ角度の推定に用いられる静止反射点を選択するので、該条件を適宜設定することによって、分割範囲内の静止反射点の数を低減することができる。つまり、該条件を適宜設定することによって、レーダ装置2の方位角の検出特性に応じて、軸ずれ角度の推定に用いられる静止反射点の数を低減することができる。
【0074】
この結果、レーダ装置2による方位に対する検出誤差の影響が抑制されるので、軸ずれ角度の推定精度の低下を抑制することができる。
(3b)信号処理部4は、S110では、分割範囲内に含まれる静止反射点の数が上限数以下であるという条件が満たされるように、分割範囲内に含まれる静止反射点を選択するように構成されてもよい。この結果、分割範囲毎に、軸ずれ角度の推定に用いられる静止反射点の数を上限数以下に低減することができる。そして、(1a)と同様の効果を得ることができる。
【0075】
なお、上限数は分割範囲毎に同一の値であってもよい。この結果、簡易な構成で(1a)と同様の効果を得ることができる。
(3c)信号処理部4は、S320では、静止反射点におけるレーダ装置2による検出誤差を推定するように構成されてもよい。信号処理部4は、S330では、静止反射点が軸ずれ角度の推定に用いられる選択確率を、0以上1以下の数値であってレーダ装置2による検出誤差が大きいほど小さくなる数値として算出するように構成されてもよい。信号処理部4は、S340では、分割範囲内に含まれる静止反射点の数が選択確率に従って選択されるという条件が満たされるように、分割範囲内に含まれる静止反射点を選択するように構成されてもよい。
【0076】
この結果、方位範囲毎に、軸ずれ角度の推定に用いられる静止反射点の数を検出誤差が大きいほど低減することができる。そして、(1a)と同様の効果を得ることができる。
(3d)検出誤差は分割範囲毎に予め定められており、メモリ42に記憶されている。信号処理部4は、S320では、該検出誤差に基づいて、分割範囲内に含まれる静止反射点における検出誤差を推定するように構成されてもよい。この結果、分割範囲毎に推定された検出誤差に基づいて選択確率が算出されるので、算出される選択確率にレーダ装置2による検出誤差の方位依存性を反映させることができる。そして、(1a)と同様の効果を得ることができる。
【0077】
なお、それぞれの分割範囲における四隅の位置である計測点での検出誤差が分割範囲毎に予め定められていてもよい。信号処理部4は、S320では、静止反射点が属する(即ち、含まれる)分割範囲の四隅の計測点の検出誤差に基づいて該静止反射点の検出誤差を推定するように構成されてもよい。各計測点の検出誤差は、実験等により予め設定されていてもよい。この結果、算出される選択確率にレーダ装置2による検出誤差の方位依存性をより正確に反映させることができる。
【0078】
(3e)信号処理部4は、S330では、対応情報に基づいて選択確率を特定するように構成されてもよい。対応情報は、選択確率と検出誤差との対応を表す対応情報であって、選択確率を0以上1以下の数値であって検出誤差が大きいほど小さくなる数値として検出誤差と対応づけた情報である。この結果、レーダ装置2の特定に応じた選択確率を特定することができる。
【0079】
(3f)信号処理部4は、S30では、移動体の速度の誤差Aと軸ずれ角度αvとを未知パラメータとして、該未知パラメータを推定するように構成されてもよい。具体的には、信号処理部4は、S10にて取得された反射点情報に基づいて、未知パラメータと、方位角と、反射点についての相対速度を移動体の速度で割った値であるq/Cmとの間に成立する関係式を用いて、未知パラメータを推定するように構成されてもよい。この結果、算術的に、即ち連立方程式を解くことによって、軸ずれ角度を推定することができる。
【0080】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0081】
(4a)上記実施形態では、信号処理部4は、S25の選択処理において偏り処理及び誤差抑制処理の両方をこの順に実行するように構成されていたが、本開示はこれに限定されるものではない。信号処理部4は、選択処理において、誤差抑制処理を実行し、その後で更に、偏り抑制処理を実行してもよい。この場合、偏り抑制処理でいう静止反射点とは、誤差抑制処理によって選択された静止反射点をいう。
【0082】
また、信号処理部4は、選択処理において、偏り処理及び誤差抑制処理の少なくとも一方を実行するように構成されていてもよい。この場合、信号処理部4は、図8においてS110及びS120のうちの一方が削除されるように構成されてもよい。
【0083】
(4b)上記実施形態では、信号処理部4は、S30にて垂直方向の軸ずれ角度αvを推定するように構成されていたが、本開示はこれに限定されるものではない。信号処理部4は、S30にて、垂直方向の軸ずれ角度αv及び水平方向の軸ずれ角度αhのいずれか一方を推定するように構成されてもよい。
【0084】
(4c)信号処理部4は、S230にて上限数個の静止反射点を選択する際、分割範囲内で検出された全ての静止反射点のうちから、反射強度が大きい順に、上限数個の静止反射点を選択するように構成されてもよい。
【0085】
(4d)上記実施形態では、信号処理部4は、全ての分割範囲に同一の上限数を設定していたが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、上限数は、各分割範囲において同じ上限数であってもよいし、異なる上限数であってもよい。また、上限数は動的に設定されてもよい。例えば、軸ずれ推定処理において、そのサイクルの検出物標の数(即ち、静止観測点の数)をNとし、分割範囲の数をM(即ち、M=V×H)とし、係数をkとする。信号処理部4は、1つの分割範囲あたりの平均物標数であるN/Mに基づいて、k×(N/M)以上の値を上限数として設定してもよい。
また、レーダ装置2ではビーム方向に近いほど検出精度が高いと考えられる。このため、例えば、ビーム方向に近い分割範囲における上限数が、ビーム方向に遠い分割範囲における上限数よりも大きい数値に設定されてもよい。つまり、上限数は、レーダ装置2によるレーダビームの照射範囲において広角側になるにつれて減少するように設定されてもよい。
【0086】
これらの場合、各分割範囲を示す方位角又は座標と、該方位角又は座標によって表される分割範囲における上限数とが対応づけられた情報が、メモリ42に予め記憶されていればよい。
(4e)上記実施形態では、分割範囲は投影面Sにおいて正方形状であったが、本開示はこれに限定されるものではない。分割範囲は、投影面Sにおけるレーダ波の照射範囲を格子状に分割した、分割後の範囲であればよい。例えば、分割範囲は、投影面Sにおいて、長方形状であってもよい。また、分割範囲は、投影面Sにおいて、例えば、三角形や六角形等といった多角形状であってもよいし、円や楕円等といった任意の形状であってもよい。
【0087】
(4f)上記実施形態では、信号処理部4は、静止反射点を含む分割範囲の四隅の計測点における検出誤差の平均値を該静止反射点の検出誤差として用いたが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、単なる平均値ではなく、静止反射点から四隅の計測点までの距離に応じて重み付けを行った平均値によって、該静止反射点の検出誤差が算出されてもよい。
【0088】
(4g)レーダ装置2が備えるアンテナ部は、指向性を調整可能なアレイアンテナでなくてもよい。アンテナ部が指向性を調整可能でない場合、信号処理部4は、S45、S50を省略し、S40で否定判断された場合に軸ずれ推定処理を終了するように構成されてもよい。
【0089】
(4h)信号処理部4は、レーダ装置2の指向性を変更した場合に、軸ずれダイアグを出力するように構成されてもよい。この場合、信号処理部4は、S50の実行後に、S60と同様に軸ずれダイアグを出力するように構成されてもよい。また、信号処理部4は、軸ずれダイアグを出力しないように構成されてもよい。この場合、信号処理部4は、S60を削除するように構成されてもよい。
【0090】
(4i)上記実施形態では、信号処理部4は、水平角度及び垂直角度の両方を反射点の方位角として含む反射点情報を生成したが、本開示はこれに限定されるものではない。信号処理部4は水平角度のみを含む反射点情報を生成してもよいし、垂直角度のみを含む反射点情報を生成してもよい。
【0091】
(4j)上記実施形態では、レーダ装置2がレーダ波を車両VHの前方に向けて送信する形態を示したが、レーダ波の送信方向は車両VHの前方に限定されるものではない。例えば、レーダ装置2は、車両VHの前方、右前方、左前方、後方、右後方、左後方、右側方及び左側方の少なくとも一方に向けてレーダ波を送信するように構成されてもよい。
【0092】
(4k)上記実施形態では、レーダ装置2がFMCW方式を採用している例を示したが、レーダ装置2のレーダ方式は、FMCWに限定されるものではなく、例えば、2周波CW、FCM又はパルスを採用するように構成されてもよい。FCMは、Fast-Chirp Modulationの略である。
(4l)上記実施形態では、信号処理部4が軸ずれ調整処理を実行する例を示したが、レーダ装置2が軸ずれ調整処理を実行するように構成されてもよい。
【0093】
(4m)本開示に記載の信号処理部4及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の信号処理部4及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の信号処理部4及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組合せにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。信号処理部4に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0094】
(4n)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0095】
(4o)上述した信号処理部4、レーダ装置2、車両制御システム1の他、信号処理部4を機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、軸ずれ推定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【0096】
なお、上記実施形態において、信号処理部4が軸ずれ推定装置に相当する。また、S10が取得部としての処理に相当し、S20が抽出部としての処理に相当し、S25、S110、S120が選択部としての処理に相当し、S30が軸ずれ算出部としての処理に相当する。S320が誤差推定部としての処理に相当し、S330が確率算出部としての処理に相当し、S340が選択実行部としての処理に相当する。また、車両VHが移動体に相当する。
【符号の説明】
【0097】
1 車両制御システム、2 レーダ装置、4 信号処理部、41 CPU、42 メモリ、43 ROM、44 RAM。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14