(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2793 20220101AFI20221213BHJP
H02K 1/2798 20220101ALI20221213BHJP
【FI】
H02K1/2793
H02K1/2798
(21)【出願番号】P 2019121979
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正文
(72)【発明者】
【氏名】藤井 功隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 重善
(72)【発明者】
【氏名】星野 正宏
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142434(JP,A)
【文献】特開2002-233120(JP,A)
【文献】特開平08-214478(JP,A)
【文献】特開2017-121118(JP,A)
【文献】特開2011-130598(JP,A)
【文献】特開2008-236835(JP,A)
【文献】特開2008-211890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に巻き線軸を有すると共に、突極数がm個の巻き線用鉄心部が周方向に分布配置された固定子と、回転軸を備える回転子とを有し、前記固定子と前記回転子の間に回転軸方向にギャップを有するアキシャルギャップ式の回転電機であって、
前記巻き線用鉄心部は、前記回転子とのエアギャップ対向面に同心円弧的で軸方向に1個以上の固定子歯を有し、
前記回転子は、前記固定子歯と対向する部分
がアキシャル方向の磁束とラジアル方向に分流する磁束とを有する永久磁石からなると共に
、エアギャップを介して、前記固定子歯と対向する部分に前記固定子歯と対応する同心円的で軸方向に1個以上の永久磁石歯を有し、
前記固定子歯と前記永久磁石歯とが互いに凹と凸がかみ合うように配置されて回転自在に対向したことを特徴とする回転電機。但しmは2以上の整数。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記永久磁石は、保持力が2000エールステッド以下の磁石材料で構成したことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機において、
前記永久磁石は、アルニコ磁石、鉄クロームコバルト磁石あるいはボンド磁石のいずれかで構成され、前記回転軸に直接固着されていることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
軸方向に巻き線軸を有すると共に、突極数がm個の巻き線用鉄心部が周方向に分布配置された固定子と、回転軸を備える回転子とを有し、前記固定子と前記回転子の間に回転軸方向にギャップを有し、
前記巻き線用鉄心部は、前記回転子とのエアギャップ対向面に同心円弧的で軸方向に1個以上の固定子歯を有し、
前記回転子は、前記固定子歯と対向する部分
がアキシャル方向の磁束とラジアル方向に分流する磁束とを有する永久磁石からなると共に
、エアギャップを介して、前記固定子歯と対向する部分に前記固定子歯と対応する同心円的で軸方向に1個以上の永久磁石歯を有し、
前記固定子歯と前記永久磁石歯とが互いに凹と凸がかみ合うように配置されて回転自在に対向した回転電機の製造方法であって、
前記永久磁石は、前記永久磁石歯に対応する同心円弧的で軸方向に凹凸を有した磁性体ヨークが前記永久磁石歯と噛み合うように対向して、ラジアル方向とアキシャル方向のパーミアンスのバランスを考慮した着磁とすることを特徴とする回転電機の製造方法。但しmは2以上の整数。
【請求項5】
軸方向に巻き線軸を有すると共に、突極数がm個の巻き線用鉄心部が周方向に分布配置された固定子と、回転軸を備える回転子とを有し、前記固定子と前記回転子の間に回転軸方向にギャップを有し、
前記巻き線用鉄心部は、前記回転子とのエアギャップ対向面に同心円弧的で軸方向に1個以上の固定子歯を有し、
前記回転子は、前記固定子歯と対向する部分
がアキシャル方向の磁束とラジアル方向に分流する磁束とを有する永久磁石からなると共に
、エアギャップを介して、前記固定子歯と対向する部分に前記固定子歯と対応する同心円的で軸方向に1個以上の永久磁石歯を有し、
前記固定子歯と前記永久磁石歯とが互いに凹と凸がかみ合うように配置されて回転自在に対向した回転電機の製造方法であって、
前記永久磁石は、前記永久磁石歯に対応した同心円弧的で軸方向に凹凸を有した磁性体ヨークが、前記永久磁石の製造過程で前記永久磁石歯と噛み合うように対向成形して、異方性化磁場配向したことを特徴とする回転電機の製造方法。但しmは2以上の整数。
【請求項6】
軸方向に巻き線軸を有すると共に、突極数がm個の巻き線用鉄心部が周方向に分布配置された固定子と、回転軸を備える回転子とを有し、前記固定子と前記回転子の間に回転軸方向にギャップを有し、
前記巻き線用鉄心部は、前記回転子とのエアギャップ対向面に同心円弧的で軸方向に1個以上の固定子歯を有し、
前記回転子は、前記固定子歯と対向する部分
がアキシャル方向の磁束とラジアル方向に分流する磁束とを有する永久磁石からなると共に
、エアギャップを介して、前記固定子歯と対向する部分に前記固定子歯と対応する同心円的で軸方向に1個以上の永久磁石歯を有し、
前記固定子歯と前記永久磁石歯とが互いに凹と凸がかみ合うように配置されて回転自在に対向した回転電機の製造方法であって、
前記永久磁石の磁化方向が、軸方向に単極磁化であり、
前記回転電機を組み立て後に、軸方向に、外部から着磁することを特徴とする回転電機の製造方法。但しmは2以上の整数。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機や発電機として用いられるアキシャルギャップ式回転電機及びこのアキシャルギャップ式回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、市場より軽薄短小化の要求が強く、また最近は地球温暖化対策として、省エネルギー化や高効率化の要求も増加してきている。更に、低振動化、低騒音化、そして安価であることも強く要求される。その中で、回転軸方向にエアギャップを有するアキシャルギャップ式回転電機は扁平で薄型に構成するのに有利な構造であり、回転子を円盤状にすれば慣性も小さくできるので、一定速度運転にも、可変速度運転にも適した回転電機であることから、近年注目された回転電機の形態である。
【0003】
しかし、ラジアルギャップ式回転電機に比べると、エアギャップが小さく出来にくい等から高トルク化、高効率化の観点から問題を有したものでもあった。
【0004】
ここで、回転電機はラジアルギャップ式とアキシャルギャップ式に大別される。従来の一般的なラジアルギャップ式の回転電機において、回転子に永久磁石を用いるブラシレスDCモータ(以下BLDCモータ)や同期発電機、あるいは回転子に永久磁石を用いないで磁性体の歯を有したスイッチドレラクタンスモータ(以下「SRモータ」という)は、固定子鉄心を珪素鋼鈑で積層して構成しており、低コストと組立効率を重視する場合は巻き線に集中巻き方式を採用する。その理由は、分布巻き方式ではトルク発生に寄与しないコイルエンド部が大きくなることから銅損が増大し、効率が低下するためであり、また、集中巻きの場合は巻き線がシンプルであることから、スロットへの直接巻き込が可能となり、巻き線が安価となるためである。
【0005】
そして回転機の高効率化を追求したものとして固定子と回転子のエアギャップ部の対向面積を増大する手段による以下の先行技術である特許文献1が知られている。特許文献1に記載された回転電機は、前述したSRモータをラジアルギャップ式に構成し、高トルク化を図った例が開示されているが、回転軸方向にエアギャップが直線的展開でなく、凹凸がかみ合うようにして、回転電機を構成している。このため実質的なエアギャップの対向面積が増大して、回転電機の高効率化及び高トルク化を図ることができる。
【0006】
一方、軸方向にエアギャップを有するアキシャルギャップ式の回転電機で、エアギャップに同心的な凹凸を設けて、組み立てを容易にしたものとして、特許文献2に記載された回転電機が知られている。特許文献2に記載された回転電機は安価で、高トルクを得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2010/116921号
【文献】特開2013-150543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した特許文献1に記載された回転電機はエアギャップが直線でないので、固定子と回転子を別々に完成させて固定子に回転子を挿入して組み立てることはできないものである。そのため巻き線作業を含めてその組み立て完成には通常の軸方向に直線のエアギャップ式の回転電機と比較して時間を要し、製造コストの高いものとなる。またSRモータは永久磁石を使用するBLDCモータと比較すると、回転子界磁を固定子の巻き線電流で作るため、BLDCモータより電流を多く消費し、その分、力率が悪くなり、またトルクが電流の自乗に比例して、電流に比例するBLDCモータと比較して制御がしづらい回転電機となってしまう。
【0009】
また、特許文献2に記載されているように、永久磁石を使用するものは、回転子を構成する要素として、回転軸と共に、回転子鉄心、永久磁石及びバックヨークの3部品を必要とし、コストが高くなるという問題を有していた。
【0010】
さらに、
図9は従来の回転電機アキシャルギャップ式の回転電機に用いられる回転子を示した図であるが、
図9に示すように、従来の回転子は、同心円弧状の歯が形成された磁性体歯部25が磁性体より構成され、永久磁石26、バックヨーク27を備えているので、磁化手段を考慮すると磁性体より構成される同心磁性体歯部25が不可欠となることから、その構成が複雑となり高価な回転電機となっていた。これは、磁性体歯部25を用いない場合、磁束が凹凸ギャップでラジアル方向に通過しないため磁性体歯部25が不可欠となっている。
【0011】
さらに、
図10に示すように、従来技術の単極性磁石回転子で両側に固定子を設けた構成では、磁性体歯部25が2個必要であり、更に回転軸7の材料は非磁性体であることが必要であることから、その分高価となっていた。
【0012】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、エアギャップが凹凸噛み合い構成のアキシャルギャップ式の回転電機で永久磁石を使用するBLDCモータであるが、その回転子は、基本的には、回転軸以外では、永久磁石のみで構成すると共に組立時間の短縮を図り、従来の回転電機と比較して、大幅に、安価とすることができるアキシャルギャップ式の回転電機及び回転電機の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る回転電機は、軸方向に巻き線軸を有すると共に、突極数がm個の巻き線用鉄心部が周方向に分布配置された固定子と、回転軸を備える回転子とを有し、前記固定子と前記回転子の間に回転軸方向にギャップを有するアキシャルギャップ式の回転電機であって、前記巻き線用鉄心部は、前記回転子とのエアギャップ対向面に同心円弧的で軸方向に1個以上の固定子歯を有し、前記回転子は、前記固定子歯と対向する部分がアキシャル方向の磁束とラジアル方向に分流する磁束とを有する永久磁石からなると共に、エアギャップを介して、前記固定子歯と対向する部分に前記固定子歯と対応する同心円的で軸方向に1個以上の永久磁石歯を有し、前記固定子歯と前記永久磁石歯とが互いに凹と凸がかみ合うように配置されて回転自在に対向したことを特徴とする。但しmは2以上の整数。
【0014】
また、本発明に係る回転電機において、前記永久磁石は、保持力が2000エールステッド以下の磁石材料で構成すると好適である。
【0015】
また、本発明に係る回転電機において、前記永久磁石は、アルニコ磁石、鉄クロームコバルト磁石あるいはボンド磁石のいずれかで構成され、前記回転軸に直接固着されていると好適である。
【0016】
また、本発明に係る回転電機の製造方法は、軸方向に巻き線軸を有すると共に、突極数がm個の巻き線用鉄心部が周方向に分布配置された固定子と、回転軸を備える回転子とを有し、前記固定子と前記回転子の間に回転軸方向にギャップを有し、前記巻き線用鉄心部は、前記回転子とのエアギャップ対向面に同心円弧的で軸方向に1個以上の固定子歯を有
し、前記回転子は、前記固定子歯と対向する部分がアキシャル方向の磁束とラジアル方向に分流する磁束とを有する永久磁石からなると共に、エアギャップを介して、前記固定子歯と対向する部分に前記固定子歯と対応する同心円的で軸方向に1個以上の永久磁石歯を有し、前記固定子歯と前記永久磁石歯とが互いに凹と凸がかみ合うように配置されて回転自在に対向した回転電機の製造方法であって、前記永久磁石は、前記永久磁石歯に対応する同心円弧的で軸方向に凹凸を有した磁性体ヨークが前記永久磁石歯と噛み合うように対向して、ラジアル方向とアキシャル方向のパーミアンスのバランスを考慮した着磁とすることを特徴とする。但しmは2以上の整数。
【0017】
また、本発明に係る回転電機の他の製造方法は、軸方向に巻き線軸を有すると共に、突極数がm個の巻き線用鉄心部が周方向に分布配置された固定子と、回転軸を備える回転子とを有し、前記固定子と前記回転子の間に回転軸方向にギャップを有し、前記巻き線用鉄心部は、前記回転子とのエアギャップ対向面に同心円弧的で軸方向に1個以上の固定子歯を有し、前記回転子は、前記固定子歯と対向する部分がアキシャル方向の磁束とラジアル方向に分流する磁束とを有する永久磁石からなると共に、エアギャップを介して、前記固定子歯と対向する部分に前記固定子歯と対応する同心円的で軸方向に1個以上の永久磁石歯を有し、前記固定子歯と前記永久磁石歯とが互いに凹と凸がかみ合うように配置されて回転自在に対向した回転電機の製造方法であって、前記永久磁石は、前記永久磁石歯に対応した同心円弧的で軸方向に凹凸を有した磁性体ヨークが、前記永久磁石の製造過程で前記永久磁石歯と噛み合うように対向成形して、異方性化磁場配向したことを特徴とする。但しmは2以上の整数。
【0018】
また、本発明に係る回転電機の他の製造方法は、軸方向に巻き線軸を有すると共に、突極数がm個の巻き線用鉄心部が周方向に分布配置された固定子と、回転軸を備える回転子とを有し、前記固定子と前記回転子の間に回転軸方向にギャップを有し、前記巻き線用鉄心部は、前記回転子とのエアギャップ対向面に同心円弧的で軸方向に1個以上の固定子歯を有し、前記回転子は、前記固定子歯と対向する部分がアキシャル方向の磁束とラジアル方向に分流する磁束とを有する永久磁石からなると共に、エアギャップを介して、前記固定子歯と対向する部分に前記固定子歯と対応する同心円的で軸方向に1個以上の永久磁石歯を有し、前記固定子歯と前記永久磁石歯とが互いに凹と凸がかみ合うように配置されて回転自在に対向した回転電機の製造方法であって、前記永久磁石の磁化方向が、軸方向に単極磁化であり、前記回転電機を組み立て後に、軸方向に、外部から着磁することを特徴とする。但しmは2以上の整数。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るアキシャルギャップ式の回転電機及びこの回転電機の製造方法によれば、固定子歯と永久磁石歯の間のエアギャップ対向面がかみ合い対向のため対向面積が増大しエアギャップ部パーミアンスの大きな高効率の回転電機が実現することができる。
【0020】
また、本発明に係るアキシャルギャップ式の回転電機及びこの回転電機の製造方法によれば、固定子歯と永久磁石歯が同心円弧状にかみ合っているため、回転子に磁性体の回転子歯が不要となることから安価で製造可能となり、回転子は回転軸を固定子の軸受けに挿入して簡単に組み立て出来るので、製造コストを低減して高効率な回転電機が実現することができる。また固定子と回転子間に凹凸部のラジアル方向エアギャップを介して磁束の磁路ができるので、固定子と回転子の間のアキシャル方向吸引力も大幅に低減でき、軸受けへのストレスの少ない、長寿命の回転電機とすることができる。
【0021】
また、本発明に係るアキシャルギャップ式の回転電機及びこの回転電機の製造方法によれば、回転子の両側に固定子を配置又は、固定子の両側に回転子を配置することで小型で高効率な回転電機とすることができる。
【0022】
また、本発明に係るアキシャルギャップ式の回転電機及びこの回転電機の製造方法によれば、回転子の永久磁石に直接凹凸を設けるため、従来のような磁性体の歯部が不要であり、保持力の小さな永久磁石を使用すればバックヨークも不要となりより安価な回転電機を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る回転電機の回転軸を含んだ断面図
【
図3】本発明の実施形態に係る回転電機の回転子用の永久磁石を磁化する原理図
【
図4】本発明の実施形態に係る回転電機の単極性磁石を用いた回転子で両側に固定子を設けた図
【
図5】本発明の実施形態に係る他の回転電機の回転子の図
【
図6】本発明の実施形態に係る他の回転電機の変形例である両面ギャップ構成を示す図
【
図7】本発明の実施形態に係る回転電機の仮想磁路法による磁束の流れの図
【
図8】本発明の実施形態に係る回転電機の分解斜視図
【
図10】従来技術の単極性磁石回転子で両側に固定子を設けた図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の回転軸を含んだ断面図であり、
図2は、
図1の回転子を軸方向から見た図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る回転電機の回転子用の永久磁石を磁化する原理図であり、
図4は、本発明の実施形態に係る回転電機の単極性磁石を用いた回転子で両側に固定子を設けた図であり、
図5は、本発明の実施形態に係る他の回転電機の回転子の図であり、
図6は、本発明の実施形態に係る他の回転電機の変形例である両面ギャップ構成を示す図であり、
図7は、本発明の実施形態に係る回転電機の仮想磁路法による磁束の流れの図であり、
図8は、本発明の実施形態に係る回転電機の分解斜視図である。
【0026】
図1、
図2を参照して本発明の実施形態に係る回転電機の一例を説明する。なお、
図1において軸中心線から下半図は、省略して記載している。固定子1は磁性体より構成され、m個の軸方向に突き出た突極を有する巻き線用鉄心部1-1を持ち、その先端部には同心円弧状で軸方向に3個の歯を有した固定子歯2が形成されている。固定子歯2の歯数は3に限定せず任意に変更可能である。コイル3は、固定子1のm個の軸方向に突き出た巻き線用鉄心部1-1に、固定子歯2より軸方向で左側に配備されている。
【0027】
回転子4は永久磁石よりなる部材であり、永久磁石鍔6等で回転軸7に固着されて、軸受け8で回転可能に支持されている。回転子4の軸方向で固定子1と対向する部分は永久磁石歯5が形成され、該永久磁石歯5は、同心円弧状で軸方向に3個の歯を有し、同じく同心円弧的に設けられた固定子歯2とかみ合うようにしてエアギャップを保って対向している。
【0028】
図2は4極磁化の例であり、永久磁石歯5は垂直部と水平部の4か所に設けられ、周方向に、順にN、S,N,Sの4極に磁化されている。この場合、
図1や
図8は3相機として示せば、典型的な例としては、m=6として、周方向に6個の巻き線用鉄心部1-1、1-2、1-3、1-4、1-5及び1-6を設けて、順次U,V,W、U,V,W相に巻き線すればよい。
【0029】
ブラケット22は、固定子1に固定されて、固定子1と共に軸受け8で回転軸7を支持する。本実施形態における回転電機はこの様な構成でアキシャルギャップ式回転電機を形成している。尚、
図1及び
図2では回転子4は1個の永久磁石で構成する図で示したが、図示は省略するが、例えば、
図2で永久磁石からなる回転子4を永久磁石歯5が設けてない部分、即ち垂直と水平線間の45°線で4分割して、前述のN、S、N、Sの略扇形の4部を磁性体円盤に接着あるいは締結して回転軸7に固着してもよい。即ち、固定子1の固定子歯2と回転子4の永久磁石歯5が凹凸噛み合いであればよい。
【0030】
このような構成にすれば次のような長所を有した回転電機が実現する。即ち固定子歯2と永久磁石歯5間のエアギャップ対向面がかみ合い対向となっているため対向面積が増大する。この結果、エアギャップ部パーミアンスを大きくできるので高効率な回転電機となる。これは、磁束を通す起磁力はその大部分がエアギャップで消費されるが本実施形態に係る回転電機によれば、エアギャップ部におけるパーミアンスが大きくできるのでこの部分での起磁力の消費が少なくて済むためである。
【0031】
また、本実施形態に係る回転電機は、アキシャルギャップ式回転電機で、固定子1の固定子歯2と回転子4の永久磁石歯5が同心円弧状のかみ合いのため、回転子4は軸を固定子の軸受けに挿入して簡単に組み立て出来るので、安価で高効率な回転電機が実現する。このような構成によれば、所謂立体エアギャップ式アキシャルギャップBLDCモータが実現する。この場合、エアギャップ部の磁束は、アキシャル方向の他に凹凸噛み合う部はラジアル方向に磁束が通過することが必要である。このための手段は後述する。
【0032】
一般にアキシャルギャップモータはラジアルギャップモータと比較して、アキシャル方向の磁気吸引力が大きく、軸受けにストレスを与える欠点があるが、本実施形態に係る回転電機の構成では、ラジアル方向に磁束が分流するので、この欠点であるアキシャル方向の磁気吸引力が大幅に改善される。
【0033】
この場合、かみ合う歯形は図示した矩形に限定されず、三角形や円弧曲線でもよく、平面対向よりその対向面性が増大してしかも周方向に回転可能な形状であればよい。この場合、固定子1や固定子歯2の製作は珪素鋼鈑の積層式ではかなり困難であるが、圧粉によれば容易に製作できる。また固定子1のm個の軸方向に突き出た巻き線用鉄心部1-1は3相機では簡単な構造では6極が多い。実用的には2相では2極、4極、8極、12極、3相では3極、6極、9極、12極、18極、5相では5極、10極に適したものである。一般的には固定子極数mは2以上の正の整数であればよい。回転子極数は
図1~
図2の例では、前述したように、m=6を想定して、4極で示してある。
【0034】
図3は本発明の回転子用磁石を磁化する原理図の一例であり、
図1~
図2、
図5、
図6等に記載した各回転電機の実施例に適応可能である。
図3に記載されているように、着磁ヨーク9は磁性体であり、同心円弧的に凹凸が設けられた歯12-1を有している。永久磁石10は本実施形態に係る回転電機に用いられる永久磁石であり、永久磁石歯5と同様の凹凸が同心円弧的に設けられた歯部11を有している。そして、着磁ヨーク9に永久磁石10の歯部11をかみ合わせて永久磁石10を挿入した場合、永久磁石10と歯12-1の先端との間に適切な大きさのエアギャップ12ができるよう配置される。
【0035】
着磁ヨーク9の外周には着磁コイル13が巻回されており、短時間で大電流を流して、永久磁石10を磁化する。しかし、永久磁石10を磁化する磁束は、パーミアンスの大きい部分を通過することで、永久磁石が磁化されるため、エアギャップ12が無いと、永久磁石10の歯部11は磁化されない。しかし、着磁ヨーク9と永久磁石10との間にエアギャップ12が設けてあれば、エアギャップ12の磁気抵抗が大きくなり、
図3の点線矢印線に示すように歯部11にも、磁束Φ
1、Φ
5以外の磁束Φ
2~Φ
4及び磁束Φ
6~Φ
7が通過して、磁化されることになる。即ち、適宜エアギャップ等を設けて、着磁時のラジアル方向とアキシャル方向のパーミアンスのバランスを考慮した着磁をすることを特徴としたものである。永久磁石10の保持力が小さなアルニコ磁石や鉄ニッケルコバルト磁石等を用いた場合には、磁化が更に容易となる。さらに、エアギャップ12に銅等の反磁性体を挿入すれば、その効果は更に増す。
【0036】
このような着磁方法によれば、歯部11を通過する磁束は、アキシャル方向(Φ1、Φ3Φ5及びΦ7)の他に歯部11と歯12-1の噛み合う部分のラジアル方向(Φ2、Φ4及びΦ6)にも磁束が通過するため、永久磁石10を通過する磁束の総量が増加することで、高トルク化が実現する。
【0037】
図3は着磁の手段として述べたが、永久磁石10を製造する過程で、異方性に磁場配向する場合にも応用可能である。例えば、
図3のエアギャップ12を非磁性体や銅などの反磁性体で構成し、着磁コイル13に電流を流し、着磁ヨーク9を金型と兼用することで永久磁石10を磁石粉末や流体から成形すればよい。またインジェション方式やコンプレッション方式の樹脂成型磁石所謂ボンド磁石を用いても構わない。即ち、永久磁石10の歯部11にラジアル方向の磁場配向が施されていれば、歯部11のラジアル方向にも磁化されて、本実施形態に係る回転電機の機能が発揮されることになる。また本実施形態に係る回転電機に用いられる永久磁石には保持力が2000エールステッド以下のアルニコ鋳造磁石や鉄クロームコバルト磁石が適している。特に鉄クロームコバルト磁石を用いた場合には、永久磁石10の歯部11を冷間鍛造で製作可能であり、堅牢かつ安価となる。また回転軸7との固着は接着の他に圧入も可能となる。
【0038】
なお、永久磁石の着磁は、永久磁石10に着磁ヨーク9を嵌め合わせて着磁する場合に限らず、所謂アッセイ着磁を行っても構わない。詳述すると、回転子4に使用する永久磁石の磁化方向が、軸方向に、例えば、ハイブリッド型ステッピングモータのように、単極磁化の場合は、例えば、永久磁石は、保持力が2000エールステッド以下の磁石材料で構成して、永久磁石は未着磁状態で、回転電機を組み立て後に、軸方向に、外部から着磁すれば、前述の固定子1と回転子4の永久磁石歯5はエアギャップを介して凹凸噛み合いとなっているため、対向部面積とギャップ長とから定まるパーミアンスに従い、磁化の磁力線がエアギャップのアキシャル方向の他にラジアル方向にも通り、永久磁石歯5はアキシャル方向とラジアル方向に磁化される。
【0039】
図4は本実施形態に係る回転電機の変形例を示すものであり、単極性磁石回転子で両側に固定子を設けた図である。
図1と同様な固定子1とコイル3を永久磁石回転子14の両側に設け、永久磁石回転子14の固定子1との対向する面それぞれに固定子歯を形成して、固定子1と永久磁石回転子14に凹凸をダブルギャップ式で設けたアキシャルギャップ回転電機である。この場合、ハイブリッド形ステッピングモータの回転子の如く、単極磁化回転子も本構成で可能である。即ち永久磁石回転子14は軸方向に、例えば左サイドがN、右サイドがS極性に磁化する。この場合、回転子単体で磁化しないで、モータを組み立て後に、軸方向に磁化すれば、そしてラジアル方向とアキシャル方向のエアギャップを適切な値に選び、ギャップパーミアンスを調整することで自動的に、ラジアル方向にも磁化されることになる。なお、本実施形態に係る回転電機は、
図1に記載した回転電機と同様に回転軸7、軸受け8を有しており、永久磁石回転子14の両サイドに配置された固定子1,1を軸方向に連絡する単極磁化回転子のバックヨーク兼ハウジング15を備えている。この場合、本実施形態に係る回転電機を示す
図4は、
図10に示される従来技術の進歩した構成に当るが、
図10に示される回転電機が、永久磁石28の他に、2個の磁性体歯25を必要とし、更に回転軸7の材質は、永久磁石28の磁気短絡を防止するために、非磁性体であることが必要であった。これに対し、本実施形態に係る回転電機の構成によれば、
図4に示される回転軸7の材質は非磁性体である必要はない。これにより材料選択の自由度が広がると共に、コスト低減を図ることが可能となる。
【0040】
図5は本実施形態に係る他の回転電機の変形例を示すものであり、前述した回転子とは、構造の異なる回転子を示した図である。前述した回転電機では、
図2において、回転子4について、4極を一体磁石で構成した場合について説明を行ったが、
図5に示すように、永久磁石17をNSNSに磁化した4個の分割体として、バックヨーク16で固着し、当該バックヨーク16を回転軸7に固定するように構成しても構わない。さらに、
図5に記載されているように、バックヨーク16を有した構成としても構わない。
【0041】
図6は本実施形態に係る回転電機の他の変形例を説明するものであり、両面ギャップ構成を構成した回転電機の断面図であり、
図4と対比して、共通の固定子20とそのコイル部21を、両サイドに凹凸エアギャップを設けて、
図2あるいは
図5に記載された回転子を両側に配置したものである。この場合、m個の巻き線用鉄心部20はm個に分離しているので、非磁性体例えば樹脂等で注型したりして一体的に合体構成する。
【0042】
図7(a)は本実施形態に係る回転電機の永久磁石からなる回転子4-1からの鎖交磁束の流れを仮想磁路法により示す図である。アキシャル方向に直進する磁束Φ
1、Φ
3及びΦ
5の他に、凹凸部のラジアル方向エアギャップも通過する磁束Φ
2及びΦ
4が加わることが分かる。このラジアル方向エアギャップを通過する磁束Φ
2及びΦ
4は、
図3に示した本実施形態に係る回転電機に用いる永久磁石の着磁方法によって着磁された効果によるものである。
【0043】
これに対して、
図7(b)に示すように、本実施形態に係る回転電機の製造方法を用いない従来の凹凸エアギャップのアキシャルギャップ式回転電機では、永久磁石からなる回転子4-1からの鎖交磁束の流れは同様に仮想磁路法で
図7(b)に示すように、アキシャル方向に直進する磁束Φ
1、Φ
3及びΦ
5のみとなり、鎖交磁束は
図7(a)に示した場合より、減少するので、トルクも減少することになる。
【0044】
次に、本実施形態に係る回転電機に使用する永久磁石の望ましい保持力値を示す。
Hm≒(B/μ0)・(Lg/Lm) (1)
本実施形態に係る回転電機の場合、磁気回路方程式から(1)式が成立する。ここで、Hm:,永久磁石の磁界強度「A/m」、Lm:有効磁石厚さ「m」、B:エアギャップ磁束密度「T」、μ0:エアギャップの透磁率「H/m」,Lg:エアギャップ長「m」とする。
【0045】
固定子の歯の磁束密度とエアギャップ磁束密度Bは同じとなり、固定子歯は圧粉鉄心等で構成した場合は飽和磁束密度は2「T」程度であり、コストパフォーマンスを考慮して、(Lg/Lm)≒1/10 に磁気回路設計すれば、(1)式から、Hm≒0.016×107≒2000「Oe」となる。
【0046】
図8は、本実施形態に係る回転電機の分解斜視図であり、各部品を示す符号は、上述した回転電機と同様の符号を付している。回転子4は、永久磁石のみで構成しており、固定子1は、1-1~1-6を有するm=6個の巻き線用鉄心部で構成した場合について示したものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によるアキシャルギャップ式回転電機は電動機または発電機に活用でき、安価で堅牢で軽薄短小、高トルク化、高効率化に適した、きわめて実用的なものである。従って工業的に大きな貢献が期待される。
【符号の説明】
【0048】
1 固定子
1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6、20 巻き線用鉄心部
2、 固定子歯
5、11、 永久磁石歯
6、 永久磁石歯鍔
3、13、21、 コイル
4、4-1、14 永久磁石回転子
7、 回転軸
8、 軸受け
22、 ブラケット
15、16 バックヨーク
9、 着磁ヨーク
12、 エアギャップ
25、 磁性体歯部