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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20221213BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20221213BHJP
   B23K 10/02 20060101ALI20221213BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20221213BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20221213BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/032 Z
B23K10/02 501Z
B23K26/21 Z
B23K26/342
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019122250
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021007960
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183815(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194113(WO,A1)
【文献】特開2015-033717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 9/032
B23K 10/02
B23K 26/21
B23K 26/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを互いに隣接させて溶着ビード層を形成し、該形成された溶着ビード層に次層の溶着ビード層を繰り返し積層して造形する積層造形物の製造方法であって、
次層の溶着ビード層を造形する際に、前層の溶着ビード層における隣接する溶着ビードの境界部における隙間の幅及び深さを推定し、推定した隙間の幅及び深さに基づいて、溶け込み深さが深い高溶融溶着ビードを形成する要溶融位置を特定する溶融位置特定工程と、
次層の溶着ビード層を造形する際に、前層の溶着ビード層の前記境界部を挟んだ両側に溶着ビードを形成して開先部を造形する開先部造形工程と、
前記開先部に、前記高溶融溶着ビードを形成する高溶融溶着ビード形成工程と、
含み、
前記溶融位置特定工程で特定した要溶融位置に対して、前記開先部造形工程及び前記高溶融溶着ビード形成工程を行う、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記高溶融溶着ビード形成工程において、溶着ビードの形成箇所へレーザを照射し、前記溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードとする、請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記高溶融溶着ビード形成工程において、溶着ビードの形成箇所へプラズマ溶接を実施し、前記溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードとする、請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記高溶融溶着ビード形成工程において、高い電流値でアークを生じさせて溶着ビードを形成することにより、前記溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードとする、請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
前記高溶融溶着ビード形成工程において、トーチをウィービングさせてアークを繰り返し照射して溶着ビードを形成することにより、前記溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードとする、請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項6】
前記積層造形物の形状データを用いて、前記溶着ビードの積層手順及び形状の軌道計画を作成する軌道計画作成工程をさらに含み、
前記開先部造形工程において、前記軌道計画を補正して溶着ビードを形成することにより、次層の溶着ビード層を構成する溶着ビード間に前記開先部となる隙間をあける、請求項1~のいずれか一項に記載の積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
溶着ビードを形成する技術に関して、特許文献1には、アーク溶接の溶接開先隙間を検出し、検出した開先隙間に応じた振幅を選択してウィービングを行う制御方法が記載されている。また、特許文献2には、視覚センサで検出される開先底部のギャップ幅の増加に応じて、平均溶接電流を階段状に減少させ、同時に、溶接速度を減少させるとともにウィービング幅を増加させることが記載されている。さらに、特許文献3には、アーク溶接の下流でエネルギービームを照射するシステムにおいて、溶接パッドル及び溶接パッドルによって形成される溶接ビードの少なくとも一方の表面における孔隙率を検出し、検出される孔隙率に応答してエネルギービームの動作を変更することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-72480号公報
【文献】特許第4500489号公報
【文献】特開2014-531325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の溶着ビードを並べた溶着ビード層の上に、さらに溶着ビード層を積層して積層造形物を造形する場合、各溶着ビード層における隣接する溶着ビード同士の狭隘な境界部に未溶着部が生じるおそれがある。その結果、完成した積層造形物にブローホールやクラック等の溶接欠陥が生じ、所望の機械的強度が得られないことがある。
【0006】
この隣接する溶着ビードの境界部における未溶着部の発生のおそれは、特許文献1,2のように、アーク溶接の溶接開先隙間や開先底部のギャップ幅を検出してウィービングを制御したり、エネルギービームの動作を変更するだけでは、確実になくすことが困難である。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、隣接する溶着ビード同士の境界部における未溶着部の発生を抑えて高品質な積層造形物を得ることができる積層造形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを互いに隣接させて溶着ビード層を形成し、該形成された溶着ビード層に次層の溶着ビード層を繰り返し積層して造形する積層造形物の製造方法であって、
次層の溶着ビード層を造形する際に、前層の溶着ビード層における隣接する溶着ビードの境界部を挟んだ両側に溶着ビードを形成して開先部を造形する開先部造形工程と、
前記開先部に、溶け込み深さが深い高溶融溶着ビードを形成する高溶融溶着ビード形成工程と、を含む、積層造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、隣接する溶着ビード同士の境界部における未溶着部の発生を抑えて高品質な積層造形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】積層造形物の製造に用いる製造システムの構成図である。
図2A】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図2B】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図3A】本発明の積層造形物の製造方法における溶融位置判定工程を説明する製造途中の積層造形物の概略平面図である。
図3B】本発明の積層造形物の製造方法における開先部造形工程を説明する製造途中の積層造形物の概略平面図である。
図3C】本発明の積層造形物の製造方法における高溶融溶着ビード形成工程を説明する製造途中の積層造形物の概略平面図である。
図3D】本発明の積層造形物の製造方法における溶着ビードの形成工程を説明する製造途中の積層造形物の概略平面図である。
図4A図3AにおけるA1-A1での概略断面図である。
図4B図3BにおけるA2-A2での概略断面図である。
図4C図3CにおけるA3-A3での概略断面図である。
図4D図3DにおけるA4-A4での概略断面図である。
図5】本発明の積層造形物の製造方法における高溶融溶着ビード形成工程を説明する製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図6】他の高溶融溶着ビード形成工程を説明する製造途中の積層造形物の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物の製造に用いる製造システムの構成図である。
本構成の積層造形物の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0012】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17が設けられた溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。この溶接ロボット19の先端軸には、トーチ17とともに、レーザ照射器23及び検出センサ25が設けられている。
【0013】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0014】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0015】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート51上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。
【0016】
レーザ照射器23は、レーザ発振器から発振されたレーザを集光光学系で集光させて照射するもので、レーザとしては、例えば、COレーザやYAGレーザが用いられる。検出センサ25は、造形途中の積層造形物Wの形状を計測するセンサである。この検出センサ25としては、例えば、照射したレーザ光の反射光を高さデータとして取得するレーザセンサが用いられる。
【0017】
コントローラ13は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0018】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層造形物の形状データ(CADデータ等)を入力又は作成し、軌道演算部33と協働して、積層造形物の造形手順を表す溶着ビードBの積層モデルを生成する。つまり、形状データを複数の層に分割して、各層の形状を表す層形状データを生成する。そして、生成された積層モデルの層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を決定する。CAD/CAM部31は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡等のデータに基づいて、トーチ17を移動させて溶着ビードを形成する溶接ロボット19及び電源装置15の駆動プログラムを生成する。生成された駆動プログラム等の各種データは記憶部35に記憶される。
【0019】
制御部37は、記憶部35に記憶された駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19や電源装置15等を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ13からの指令により、軌道演算部33で生成されたトーチ17の軌道軌跡に沿ってトーチ17を移動させるとともに、溶加材Mをアークで溶融させて、ベースプレート51上に溶着ビードBを形成する。
【0020】
なお、ベースプレート51は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。なお、ベースプレート51は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0021】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0022】
上記構成の積層造形物の製造システム100では、制御部37に、造形する積層造形物Wの形状データ(CADデータ等)を入力すると、制御部37は、入力された形状データに基づいて、積層造形物Wの造形手順を表す溶着ビードBの積層モデルを生成する。
【0023】
この積層モデルは、入力された形状データから、その形状、材質、入熱量等の諸条件に基づいて、効率よく積層できるように、適宜なアルゴリズムに基づいて解析的に求められる。これにより、溶着ビードBの積層手順及び形状等の計画である軌道計画を求め、この軌道計画に基づいて、トーチ17の軌道(移動軌跡)を求める。そして、CAD/CAM部31は、求めたトーチ17の軌道、溶着ビードBの軌道計画に基づいて、駆動プログラムを生成する。
【0024】
制御部37は、駆動プログラムに従って、図2Aに示すように、トーチ17の先端から突出する溶加材MをアークAcによって溶融させてベースプレート51上に線状の溶着ビードBを形成する。そして、ベースプレート51上に複数の溶着ビードBを互いに隣接させて形成して第1層目の溶着ビード層53を造形する。
【0025】
次いで、制御部37は、図2Bに示すように、第1層目の溶着ビード層53の上に、複数の溶着ビードBを互いに隣接させて形成し、次層である第2層目の溶着ビード層53を積層させる。そして、この溶着ビード層53の積層を繰り返すことで、積層造形物Wを造形する。
【0026】
ところで、溶着ビードBを互いに隣接させて溶着ビード層53を造形する場合、各溶着ビード層53における隣接する溶着ビードB同士の狭隘な境界部に未溶着部が生じるおそれがある。その結果、完成した積層造形物Wにブローホールやクラック等の溶接欠陥が生じ、所望の機械的強度が得られないことがある。
【0027】
本実施形態では、隣接する溶着ビードB同士の狭隘な境界部における未溶着部の発生を抑えつつ積層造形物Wを製造する。以下、本実施形態に係る積層造形物Wの製造方法について詳述する。
【0028】
図3A図3Dは、積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略平面図である。図4A図4Dは、積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の幅方向に沿う概略断面図である。図5は、高溶融溶着ビード形成工程を説明する製造途中の積層造形物の溶接方向に沿う概略断面図である。
【0029】
(溶融位置特定工程)
図3A及び図4Aに示すように、ベースプレート51上に第1層目の溶着ビード層53を造形したら、この第1層目の溶着ビード層53に対して、検出センサ25からの検出データに基づいて、隣接する溶着ビードBの境界部55における隙間の幅及び深さを推定する。例えば、制御部37は、レーザセンサからなる検出センサ25からの高さデータを用いて光切断法によって境界部55の幅及び深さを推定する。
【0030】
制御部37は、境界部55における推定した隙間の幅及び深さが予め設定された閾値を越えているか否かを判定する。なお、判定に用いる閾値は、隣接する溶着ビードBの境界部55における隙間の幅及び深さが大きいために未溶着部が生じるおそれがある値であり、予め設定されて記憶部35に記憶されている。そして、制御部37は、隣接する溶着ビードBの境界部55における隙間の幅及び深さが予め設定された閾値を越えていると判定すると、その位置である要溶融位置Pを特定する。
【0031】
(開先部造形工程)
要溶融位置Pを特定したら、制御部37は、積層造形物Wの形状データを用いて作成した軌道計画を補正する。そして、制御部37は、補正した軌道計画に基づいて、第1層目の溶着ビード層53の上部に溶着ビードBを形成する。
【0032】
これにより、図3B及び図4Bに示すように、第1層目の溶着ビード層53における隣接する溶着ビードBの要溶融位置Pを有する境界部55を挟んだ両側に、補正した軌道計画に基づく溶着ビードBを形成し、この境界部55の上部に、第2層目の溶着ビード層53を構成する溶着ビードBによって開先部57を造形する。
【0033】
この開先部57を造形するための補正した軌道計画によって形成する溶着ビードBは、例えば、作成した軌道計画における溶着ビードBよりも幅が狭くされたもので、さらに、互いに軌道(移動軌跡)が離間する方向へずらされて形成される。なお、開先部57を造形する場合、溶着ビードBを、幅を変えずに軌道(移動軌跡)を互いに離間する方向へずらして開先部57を造形してもよい。
【0034】
(高溶融溶着ビード形成工程)
開先部57を造形したら、図3C及び図4Cに示すように、開先部57に高溶融溶着ビードBHを形成する。この高溶融溶着ビードBHは、通常の溶着ビードBよりも下地に対して溶け込み深さが深い溶着ビードである。
【0035】
この高溶融溶着ビードBHを形成するには、図5に示すように、開先部57へレーザ照射器23によってレーザLを照射し、このレーザLの照射箇所にトーチ17の先端から突出する溶加材MをアークAcによって溶融させる。すると、この開先部57では、エネルギー密度が低いアークAcによる溶着ビードの形成箇所にエネルギー密度が高いレーザLが予め照射されることで、溶着ビードの形成箇所への入熱量が補われる。つまり、開先部57内の境界部55がレーザLによって溶融され、さらに、その溶融部分にアークACによって溶着ビードが埋め込まれ、これにより、下地への溶け込み深さが深い高溶融溶着ビードBHが形成される。そして、この高溶融溶着ビードBHを開先部57に形成することで、前層である第1層目の溶着ビード層53における隣接する溶着ビードBの境界部55では、溶け込み深さが深い高溶融溶着ビードBHによって再溶融される。これにより、境界部55における隙間が除去される。なお、開先部57に対しては、トーチ17によって形成した溶着ビードBにレーザLを照射してもよい。このようにすると、開先部57に形成された溶着ビードBがレーザLによって境界部55に押し込まれ、これにより、下地への溶け込み深さが深い高溶融溶着ビードBHが形成される。
【0036】
図3D及び図4Dに示すように、第1層目の溶着ビード層53において、要溶融位置Pの特定がない境界部55の上部には、軌道計画に基づいた溶着ビードBを形成する。これにより、第1層目の溶着ビード層53の上部に、高溶融溶着ビードBHを含む溶着ビードBによって造形された第2層目の溶着ビード層53が積層される。
【0037】
なお、開先部57を造形して高溶融溶着ビードBHを形成する場合、高溶融溶着ビードBHを新たな溶着ビードの要素として積層造形物Wを造形するための軌道計画に追加する。
【0038】
以上、説明したように、上記の製造方法によれば、前層の溶着ビード層53における隣接する溶着ビードBの境界部55に溶け込み深さが深い高溶融溶着ビードBHを形成する。これにより、溶着ビードBの境界部55を高溶融溶着ビードBHで再度溶融させて未溶着をなくすことができ、ブローホールやクラック等の溶接欠陥がなく、所望の機械的強度が得られた高品質な積層造形物Wを製造することができる。
【0039】
また、前層の溶着ビード層53における隣接する溶着ビードBの境界部55を挟んだ両側に溶着ビードBを形成して開先部57を造形しておくので、高溶融溶着ビードBHを形成する際に生じる溶融金属を堰き止めて周囲への広がりや流れ出しを抑えることができる。これにより、前層の溶着ビード層53の溶着ビードBの境界部55に高溶融溶着ビードBHを円滑に形成することができる。
【0040】
しかも、境界部55における隙間の幅及び深さに基づいて高溶融溶着ビードBHの形成が必要な要溶融位置Pを特定し、この要溶融位置Pに開先部57を造形して高溶融溶着ビードBHを形成する。これにより、高溶融溶着ビードBHの形成を必要最小限に抑えることができ、高い製造効率で高品質な積層造形物Wを製造することができる。
【0041】
また、高溶融溶着ビード形成工程では、溶着ビードの形成箇所へレーザLを照射し、溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードBHとするので、溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードBHを容易に形成することができる。
【0042】
また、溶着ビードBの積層手順及び形状の軌道計画を補正して開先部57を形成するので、開先部57を形成するための溶着ビードBの軌道計画を改めて作成する手間を不要にできる。これにより、高品質な積層造形物Wを効率よく製造することができる。
【0043】
なお、上記の例では、レーザLを照射して溶着ビードの溶け込み深さを深くして高溶融溶着ビードBHを形成したが、高溶融溶着ビードBHの形成の仕方としては、レーザLの併用に限らず、例えばプラズマ溶接を利用してもよい。プラズマ溶接であれば、アークがノズルや冷却ガスによって収束されるので深い溶け込みを実現しやすい。
【0044】
例えば、トーチ17で照射するアークAcを高い電流値で生じさせることにより、開先部57に集中的にアークAcを照射させて溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードBHを形成してもよい。
【0045】
また、図6に示すように、開先部57において、トーチ17を溶接方向に沿ってウィービング(図6中矢印X方向へ往復移動)させることにより、アークAcを繰り返し照射して溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードBHを形成してもよい。
【0046】
なお、隣接する溶着ビードBの境界部55の形状を検出する検出センサとしては、送信探触子から伝搬させた超音波を受信探触子で受信して回析波を検出する超音波センサ等の各種公知のセンサが使用可能である。例えば、超音波センサを用いた場合、制御部37は、超音波センサからの回析波を用いてTOF(Time of Flight)法によって境界部55の形状を推定する。
【0047】
また、上記の例では、前層の溶着ビード層53の要溶融位置Pを有する溶着ビードBの境界部55に全長にわたって高溶融溶着ビードBHを形成したが、高溶融溶着ビードBHは、要溶融位置P及びその周辺だけに形成してもよい。
【0048】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0049】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを互いに隣接させて溶着ビード層を形成し、該形成された溶着ビード層に次層の溶着ビード層を繰り返し積層して造形する積層造形物の製造方法であって、
次層の溶着ビード層を造形する際に、前層の溶着ビード層における隣接する溶着ビードの境界部を挟んだ両側に溶着ビードを形成して開先部を造形する開先部造形工程と、
前記開先部に、溶け込み深さが深い高溶融溶着ビードを形成する高溶融溶着ビード形成工程と、を含む、積層造形物の製造方法。
上記(1)の構成の積層造形物の製造方法によれば、前層の溶着ビード層における隣接する溶着ビードの境界部に溶け込み深さが深い高溶融溶着ビードを形成する。これにより、溶着ビードの境界部を高溶融溶着ビードで再度溶融させて未溶着をなくすことができ、ブローホールやクラック等の溶接欠陥がなく、所望の機械的強度が得られた高品質な積層造形物を製造することができる。
また、前層の溶着ビード層における隣接する溶着ビードの境界部を挟んだ両側に溶着ビードを形成して開先部を造形しておくので、高溶融溶着ビードを形成する際に生じる溶融金属を堰き止めて周囲への広がりや流れ出しを抑えることができる。これにより、前層の溶着ビード層の溶着ビードの境界部に高溶融溶着ビードを円滑に形成することができる。
【0050】
(2) 次層の溶着ビード層を造形する際に、前層の溶着ビード層の前記境界部における隙間の幅及び深さを推定し、推定した隙間の幅及び深さに基づいて、前記高溶融溶着ビードを形成する要溶融位置を特定する溶融位置特定工程を含み、
前記溶融位置特定工程で特定した要溶融位置に対して、前記開先部造形工程及び前記高溶融溶着ビード形成工程を行う、(1)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(2)の構成の積層造形物の製造方法によれば、境界部における隙間の幅及び深さに基づいて高溶融溶着ビードの形成が必要な要溶融位置を特定し、この要溶融位置に開先部を造形して高溶融溶着ビードを形成する。これにより、高溶融溶着ビードの形成を必要最小限に抑えることができ、高い製造効率で高品質な積層造形物を製造することができる。
【0051】
(3) 前記高溶融溶着ビード形成工程において、溶着ビードの形成箇所へレーザを照射し、前記溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードとする、(1)または(2)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(3)の構成の積層造形物の製造方法によれば、溶着ビードの形成箇所へレーザを照射して溶着ビードを形成することにより、溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードを容易に形成することができる。
【0052】
(4) 前記高溶融溶着ビード形成工程において、溶着ビードの形成箇所へプラズマ溶接を実施し、前記溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードとする、(1)または(2)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(4)の構成の積層造形物の製造方法によれば、アークがノズルや冷却ガスによって収束されるので、深い溶け込みを実現しやすくなる。
【0053】
(5) 前記高溶融溶着ビード形成工程において、高い電流値でアークを生じさせて溶着ビードを形成することにより、前記溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードとする、(1)または(2)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(5)の構成の積層造形物の製造方法によれば、高い電流値でアークを溶着ビードの形成箇所へ集中的に照射させることにより、溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードを容易に形成することができる。
【0054】
(6) 前記高溶融溶着ビード形成工程において、トーチをウィービングさせてアークを繰り返し照射して溶着ビードを形成することにより、前記溶着ビードを溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードとする、(1)または(2)に記載の積層造形物の製造方法。
上記(6)の構成の積層造形物の製造方法によれば、トーチをウィービングさせてアークを繰り返し照射することにより、溶け込み深さの深い高溶融溶着ビードを容易に形成することができる。
【0055】
(7) 前記積層造形物の形状データを用いて、前記溶着ビードの積層手順及び形状の軌道計画を作成する軌道計画作成工程をさらに含み、
前記開先部造形工程において、前記軌道計画を補正して溶着ビードを形成することにより、次層の溶着ビード層を構成する溶着ビード間に前記開先部となる隙間をあける、(1)~(6)のいずれか一つに記載の積層造形物の製造方法。
上記(7)の構成の積層造形物の製造方法によれば、次層の溶着ビード層を造形する際に、軌道計画を補正して溶着ビードの幅寸法を小さくしたり、溶着ビードを形成するトーチの移動経路をずらすことにより、溶着ビード間に隙間をあける。これにより、前層の溶着ビード層における隣接する溶着ビードの境界部の上部に、隙間をあけて形成された次層の溶着ビードによって開先部を形成することができる。このように、溶着ビードの積層手順及び形状の軌道計画を補正して開先部を形成するので、開先部を形成するための溶着ビードの軌道計画を改めて作成する手間を不要にできる。これにより、高品質な積層造形物を効率よく製造することができる。
【符号の説明】
【0056】
53 溶着ビード層
55 境界部
57 開先部
Ac アーク
B 溶着ビード
BH 高溶融溶着ビード
P 要溶融位置
L レーザ
M 溶加材
W 積層造形物
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6